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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

記載要件

平成26(行ケ)10052  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月20日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反ありとした審決が維持されました。 
 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 イ 本願発明の課題について検討すると,前記イのとおり,洗濯用・クリーニング用製品におけるより効率的で効果的な芳香の送出,特に布地への長持ちする芳香の付与についての改良が,引き続き急務となっているところ(【0003】),いまだに有効成分,特に香料成分の遅延放出をもたらす化合物が必要とされており(【0006】),かつ,清々しい香りを特徴とする香料成分,すなわちアルデヒド類やケトン類の香料成分について は,揮発性も非常に高く,布地のような処理しようとする表面上での残留性は低いことから,その必要性がより深刻であった(【0007】)。そこで,本願発明は,このような香料成分の遅延放出をもたらし,布地における清々しい香りの残留性を改良するという課題を解決することを目的として,アミン化合物と活性アルデヒド又はケトンとの,イミン化合物のような特定の反応生成物が香料のような有効成分の遅延放出をもたらすことを見いだした(【0008】,【0009】),というのである。\nそして,前記第2の2のとおり,本願請求項1には,上記反応生成物に関し,「第一及び/又は第二アミン化合物と,香料ケトン,香料アルデヒド,及びそれらの混合物から選ばれる有効成分との間の反応生成物」と特定され,さらに上記アミン化合物についてその種類が列挙されて特定され,かつ,上記アミン化合物のうち,その臭気度が,ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低いものに限定されている(前記)。他方,香料ケトン及び香料アルデヒドの種類については何ら特定されていない。 一般に,化合物の分解速度は,化合物が置かれた温度,湿度等の環境条件のみならず,化合物自体の構造や電子状態等に複合的に依存して,化合物ごとに,分解を受ける部位や分解の機序に応じて異なるものであるから,通常,当業者といえども,実際に実験をしない限り予\測し得るものではない。このことは,本願請求項1の反応生成物からの香料成分の放出についても同様であると解され,本願請求項1のアミン化合物が様々なものを包含するものである以上,一定の環境下であっても,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されるイミン化合物につき,その一般式においてR,R’,及びR’’がどのような基であるかに応じてC=N結合が分解を受けて香料成分を放出する速度はそれぞれ異なるし,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されるβアミノケトン化合物 についても,その一般式においてR,R’,及びR’’がどのような基であるかに応じてCH−NH結合が分解を受けて香料成分を放出する速度はそれぞれ異なるものと解される。 しかし,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,前記エのとおり,本願発明によるとされる布地柔軟化組成物等の具体的な配合例の記載はあるものの,成分の記載があるにとどまり,これらの組成物等の香料成分の遅延放出の程度や香りの残留性の程度等,本願発明の課題の解決に必要な程度に望ましい香料成分の遅延放出をもたらすことや,布地における清々しい香りの残留性を改良できることを示す具体的な記載はされていない。 また,前記ウのとおり,本願明細書【0125】ないし【0130】には,香料成分の基となるイミン等の生成過程,及び,それが分解して芳香物質を生成するまでの反応の一般的な説明は記載されている。しかし,上記の一般的な説明のほかには,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,本願請求項1の発明特定事項である列挙された特定のアミン化合物で,かつ,その臭気度が,ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低いものにつき,任意の香料ケトン又は香料アルデヒドと反応させて得たイミン化合物又はβアミノケトン化合物であれば,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香りの残留性を改良するという本願発明の上記課題を解決できることについては何ら理論的な説明はされていない。 以上によれば,当業者といえども,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願請求項1において規定された反応生成物の全てが,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香りの残留性を改良するという本願発明の課題を解決できるものであると認識することはできないものというべきである。

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平成25(行ケ)10271  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年11月10日  知的財産高等裁判所

 「アルコールの軽やか風味」という用語が不明瞭として、36条に違反すると判断されました。審決は明瞭性違反はないと判断していました。
被告は,1)「アルコールの軽やか風味を生かしたまま,アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えて風味を向上させる」(本件明細書【0007】)とは,「アルコールの軽やか風味」,すなわち,単物質であるアルコールの単一の風味を希釈等により損なうことなく,苦味やバーニング感という不快な感覚のみを特異的に抑えて,その結果として,アルコール飲料全体の風味を向上させることを意味するものといえ,その内容は,明瞭である,2)当業者も,「アルコールの軽やか風味を生かす」ことは,すなわち,「苦味やバーニング感などの不快な感覚を抑制又は除去してアルコール本来の風味を生かす」ことを意味するものと,容易に理解できるはずである旨主張する。 b しかしながら,前記(ア)のとおり,アルコールは,甘味,苦味,酸味,その混合,「灼く(やく)ような味」など複数の風味を有するところ,本件明細書においては,シュクラロースの添加がアルコールの苦味及びバーニング感を抑えることは確認されているものの,アルコールの有する複数の風味のうちそれら2つの風味のみを特異的に抑えることまでは確認されておらず,しかも,「アルコールの軽やか風味を生かしたまま」であるか否かは明らかにされていない。 また,前記アのとおり,本件明細書は,「アルコールの軽やか風味」を,アルコールに起因する「苦味」及び「バーニング感」と併存するものとして位置付けているものと認められるところ,本件明細書上,これらの関係は不明であり,したがっ て,「苦味」及び「バーニング感」の抑制によって,「アルコールの軽やか風味を生かす」という効果がもたらされるか否かも,不明といわざるを得ない。被告は,「苦味」及び「バーニング感」を抑制することが「アルコールの軽やか風味」の向上であるかのような主張をするが,これは,本件明細書の客観的記載に反する解釈である。 以上によれば,被告の前記主張は,採用できない。
エ 小括
以上によれば,「アルコールの軽やか風味」という用語の意味は,不明瞭といわざるを得ない。そして,前述のとおり,当業者は,本件発明の実施に当たり,「軽やか風味」については「生かしたまま」,すなわち,減殺することなく,アルコール飲料全体の風味を向上させられるか,という点を確認する必要があるところ,「軽やか風味」の意味が不明瞭である以上,上記確認は不可能であるから,本件特許の発明の詳細な説明は,「アルコールの軽やか風味」という用語に関し,実施可能\性を欠くというべきである。 したがって,「アルコールの軽やか風味」の意味するところは明瞭といえる旨の本件審決の判断は,誤りである。
2 取消事由2(シュクラロースの添加量及び試行錯誤に係る実施可能要件違反〔平成6年改正前特許法36条4項違反〕並びに一般化に係るサポート要件違反〔同条5項1号違反〕に関する判断の誤り)について
 前記1において前述したとおり,「アルコールの軽やか風味」という用語の意味が不明瞭であることから,当業者において,「アルコールの軽やか風味を生かしたまま,アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えて,アルコール飲料の風味を向上する」ために必要なシュクラロースの添加量を決めることは不可能といわざるを得ない。\nしたがって,本件明細書は,添加量に関して実施可能性を欠くものといえるから,\n当業者は,本件明細書の記載に基づき,多種多様なアルコール飲料についてシュクラロースの添加量を決めることができるという本件審決の判断は,誤りである。

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平成26(行ケ)10018  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月16日  知的財産高等裁判所

 コンピュータにおける処理について、クレームの”記憶装置”には、揮発性のRAMは含まないとして、審決を取り消しました。 
 審決は,本願発明の「記憶装置」は,その記憶するデータ内容や記憶構造を限定しない「記憶装置」と捉えることができることから,引用発明の「主記憶装置」に相当するとして一致点を認定した。しかし,前記1(2)及び(3)ウで判示したとおり,本願発明の「記憶装置」は,システム内に含まれ,ファイル・システムを含む記憶装置であるところ(請求項1),本願明細書の発明の詳細な説明に照らして,その技術的意義を理解すると,ハード・ディスク等の不揮発性の大容量記憶手段であり,少なくとも揮発性のRAMはこれに含まれないものと解される。これに対し,引用発明の「主記憶装置」は,「オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムをプログラム格納手段から読み出して一時的に記憶する揮発性の主記憶装置」(【請求項1】)で,【発明の実施の形態】の図1の「RAM103」(【0037】)に相当するものであって,「RAM103はCPU101がプログラムを実行するとき,必要なデータを一時的に記憶させる作業領域として使用される揮発性の記憶装置であり,例えばDRAMからなる。」(【0038】)と記載されており,ファイル・システムによって,プログラム等のファイルをフォルダやディレクトリを作成することにより管理したり,ファイルの移動や削除等の操作方法を定めたりすることは記載されていない。そうすると,本願発明の「記憶装置」と,引用発明の「主記憶装置」は相違するものであるから,両者を一致するとした審決の認定は誤りである。そして,引用発明が,「プログラム起動時,起動時間を短縮できる演算装置および演算装置を利用した電子回路装置を提供することを目的」(【0015】)とし,前回終了時に,主記憶装置に記憶されているデータを不揮発性記憶装置に待避させ,演算装置の再起動時に,当該データを主記憶装置に転送することによって,前回の電源オフ時のオペレーティング・システム及びアプリケーション・プログラムの実行状態を再現するものであることからすれば,引用発明における演算装置の再起動時の不揮発性装置からのデータの転送先は,必ず主記憶装置でなければならず,引用発明における揮発性の「主記憶装置」をファイル・システムを含む不揮発性の記憶装置に置き換えることには阻害要因があるというべきである。したがって,審決には,「記憶装置」に関して,本願発明は「ファイル・システム」が含まれる不揮発性の記憶装置であるのに対し,引用発明は,揮発性の「主記憶装置」であるという相違点を看過した誤りがあり,同相違点の看過は,容易想到性の判断の結論を左右するものである。
(3) 被告の主張について
被告は,請求項1を引用する請求項5には,揮発性か不揮発性か限定されていない「固形メモリ装置」(solid state memory),すなわち,RAMのように揮発性だが高速な固形メモリ装置,及び,メモリカードのように不揮発性だが低速の固形メモリ装置の双方が含まれることが記載されているから,本願発明の「記憶装置」にはあらゆる記憶装置が含まれる旨主張する。しかし,そもそも本願明細書には,「固形メモリ装置」について,「RAMのように揮発性だが高速な固形メモリ装置」が含まれるとの記載はないから,被告の主張は理由がない。

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平成24(ワ)15612  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成26年10月9日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟です。開示不十分として、特104条3により権利行使不能と判断されました。
 証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ここで本発明において「介在物」とは,鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等,更には,鋳造時の凝固過程以降,すなわち凝固後の冷却過程,熱間圧延後,溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり,本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。」(段落【0009】),介在物のうち晶出物及び析出物について,「時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが,時効処理温度は300〜650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく,650℃を越えるとNi−Si粒子は粗大化し,更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい,強度及び電気伝導性が向上しないためである。300〜650℃の範囲で時効処理する際,時効処理時間は,1〜10時間であれば十分な強度,電気伝導性が得られる。」(段落【0019】)との記載があることが認められ,これによれば,時効処理温度及び時間につき,粗大な晶出物及び析出物の個数を低減させる方法についての一定の開示があるということができる。\nしかしながら,溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等については,本件明細書の発明の詳細な説明に,直径4μm以上の介在物個数を低減させる方法の開示は全くない。
(3) そして,本件明細書の記載内容及び弁論の全趣旨からすれば,原告が本件特許出願時において直径4μm以上の全ての介在物個数を0個/mm2とするCu−Ni−Si系合金部材を製造することができたと認めるに足りず,技術的な説明がなくても,当業者が出願時の技術常識に基づいてその物を製造できたと認めることもできない。 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく,かつ,実施例のない部 分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないものといわざるを得ない。
(4) したがって,本件発明は,特許請求の範囲で,粗大な介在物が存在しないものも含めて特定しながら,明細書の発明の詳細の説明では,粗大な介在物の個数が最小で25個/mm2である発明例を記載するのみで0個/mm2の発明例を記載せず,かつ,全ての粗大な介在物の個数を低減する方法について記載されていないことなどからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明の少なくとも一部につき,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。\n3 以上のとおりであって,被告製品のうち亜鉛の含有量が1.5%以下のものは本件発明の技術的範囲に属するが,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,特許法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない。そうすると,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。

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平成25(行ケ)10321  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月11日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反でないとした審決が維持されました。
 特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。\nイ 前記(1)の本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来技術において,(ア) 改修用下枠が既設下枠に載置された状態で既設下枠に固定されるので,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題と,(イ) 改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載され,その案内レールを基準として固定されているから改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題(課題)があったため,これらの問題(課題)を,1)既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去する(構成1),2)既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設けるとともに,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し,取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取付ける(構成2)ことにより解決したものであり,構\成1及び2を採ることにより,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,広い開口面積を確保でき,構成2とすることにより,既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用いることで,形状,寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできるという効果(本件効果)を奏するものであると認められる。\nそして,本件発明の「改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持」(請求項1ないし3)する,又は「改修用下枠の室内寄りが,取付け補助部材で支持され」(請求項4ないし6)る具体的な構成として,取付け補助部材106の上壁部10\n9において改修用下枠69の室内側脚部分91及び支持壁89とを支持する場合における構成1及び2の具体的な構\成(実施形態)は,本件明細書の段落【0070】(ただし,構成2のうち,取付け補助部材を既設下枠の室内側端部に連なる背後壁の立面にビスで固着する構\成部分については,【0100】)に記載されている。 ウ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範囲に記載された本件発明の課題とその解決手段その他当業者が本件発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。

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平成25(行ケ)10236  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年9月24日  知的財産高等裁判所

 36条違反とした審決が取り消されました。
 前記本件審決は,a及びbの各記載部分においては,本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従い,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。」と記載しているものの,これに続く部分では何らの根拠も示さないまま,請求項及び明細書の記載について,本件訂正を認めているにもかかわらず,本件発明1の発明特定事項から,「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え」る点を除外し,本件発明1を「活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と言い換え,その後は,hの記載部分に至るまで一貫して,本件発明1が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であることを前提に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるか否か,すなわち,実施可能\要件を充たすものであるか否かを判断している。
以上によれば,本件審決は,本件発明1の要旨を,その発明特定事項から「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点を除外した構成,すなわち,「活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と認定し,これを前提に本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充たすものであるか否かを判断しているといえる。 一方,本件発明1の要旨は,前記イ求項1の記載,すなわち,その発明特定事項に基づいて,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子」であると認められるから,本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1について実施可能要件を充たすものであるか否かを判断するに際し,本件発明1の要旨の認定を誤ったものというべきである。 ところで,本件審決は,前記のとおり,形式的には,本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従って記載した上で,その「特徴的構成」が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構\成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であるとして,当該構成について,実施可能\要件を判断している。 前記イ認定のとおり,本件発明1は,LED素子の発光波長は,その活性層のInGaNのInの組成比を大きくするか又は活性層にドープする不純物の種類を変えることにより,紫外領域から赤色まで変化させることが可能であるが,LED素子には発光波長が長くなるに従って発光出力が大きく低下するという問題があり,また,不純物がドープされたInGaN活性層には,In含有量が増えると結晶性が悪くなり発光出力が大きく低下するという問題があったことから,本件発明1は,上記課題を解決し,窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させることにより,窒化物半導体で全ての可視領域の波長での発光が実現することを目的とし,その解決手段として本件訂正後の請求項1記載のとおりの構\成を採用し,熱膨張係数の小さいクラッド層で熱膨張係数の大きい活性層を挟むことで,両クラッド層と活性層の界面に引っ張り応力を発生させ,かつ,活性層を量子井戸構造とすることで,引っ張り応力を活性層に弾性的に作用させ,これにより活性層のバンドギャップエネルギーを本来のそれより小さくして活性層の発光波長を長波長化し,しかも,Inを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して,熱膨張係数の小さいInを含む窒化物半導体又はGaNよりなる第1のクラッド層を備えることで,この第1のクラッド層が新たなバッファ層として作用することにより,活性層が弾性的に変形して結晶性が良くなり発光出力が格段に向上するという効果を奏するものである。\nそして,本件明細書の段落【0037】の「窒化物半導体において,AlNの熱膨張係数は4.2×10−6/Kであり,GaNの膨張係数は5.59×10−6/Kであることが知られている。InNに関しては,完全な結晶が得られていないため熱膨張係数は不明であるが,仮にInNの熱膨張係数がいちばん大きいと仮定すると,熱膨張係数の順序はInN>GaN>AlNとなる。」との記載によれば,熱膨張係数の順序は,InGaN>AlGaNとなること,段落【0039】及び【0040】の記載によれば,InGaNを主とする活性層をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟んだ構造を有する従来の窒化物半導体発光素子では,Alを含むクラッド層が結晶の性質上非常に硬い性質を有しており,薄い膜厚のInGaN活性層のみではAlGaNクラッド層との界面から生じる格子不整合と,熱膨張係数差から生じる歪をInGaN活性層で弾性的に緩和できないことから,活性層の厚さを薄くするに従って,InGaN活性層,AlGaNクラッド層にクラックが生じるという傾向があったが,本件発明1では,InとGaとを含む活性層6に接する層として,新たに第1のn型クラッド層5を形成し,この第1のn型クラッド層5が,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層として作用し,活性層を薄くしても活性層6,第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察され,活性層の膜厚が薄い状態においても活性層の結晶性が良くなるので,発光出力が増大するとされていることからすれば,本件発明1が「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点は,その発明の特徴を構\成するものであるというべきであり,これを「特徴的構成」から除外する点においても,本件審決の上記認定は誤りであるといわざるを得ない。\n

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平成25(行ケ)10172 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月26日 知的財産高等裁判所

 訂正後の発明が明確性違反として、特許庁の判断を取り消しました。特許庁は無効理由無しと判断していました。
 審決が引用した文献である甲10(審判甲10,「スクラロースの味覚特性と他の高甘味度甘味料との比較」日本食品化学学会誌,Vol.2(2),1995,110−114頁),甲26(審判乙15,「新版 官能検査ハンドブック」,398−403頁),甲27(審判乙16,「新甘味料アスパルテームについて」,精糖技術研究会誌第26号,7−17頁)には,閾値の測定法として極限法が記載されていることからみて,「極限法」は,閾値の測定方法として広く一般的に用いられているものと認められ,また,被告が提出した実験報告書である甲25においても極限法が用いられている。しかし,甲51(「新版 官能検査ハンドブック」,395−423頁)及び甲52(「工業における官能\検査ハンドブック」, 333−343頁)には,閾値の測定法として,実験者あるいは被験者自身が刺激を一定のステップで徐々に変化させ,その1ステップごとに被験者の判断を求め,判断の切り替わる点を決定する「極限法」以外にも,実験者あるいは被験者自身が,刺激を任意に変化させながら,被験者に対し特定の感覚を与える刺激の値を探し出し決定する「調整法」や,一組の変化刺激を用意しておき,確率的に1つずつ提示し,それに対し被験者に予め定められた判断範疇のいずれかで反応してもらう「恒常刺激法」等が記載されており,閾値の測定法としては,極限法だけでなく,調整法,恒常刺激法等の複数の一般的な方法が存在していることが認められる。また,甲53(「甘味,酸味,塩から味,苦味刺激閾値の測定」,J. Brew. Soc.Japan, Vol.79,No.9,656−658頁)においては,「刺激閾値の測定法には,Aらの順位法による刺激テスト,調整法,極限法,1対比較法などが報告されているが,本実験ではPfaffmann らの1点識別法により行った。」と記載されていることから,甘味の閾値の測定に当たり極限法以外の方法を採用することもあることが理解できる。そうしてみると,甘味閾値は,他の方法ではなく極限法により測定するものであることが自明であるという技術常識が存在していたとまではいえず,訂正明細書における甘味閾値の測定方法が極限法であると当業者が確定的に認識するとはいえない。一方,甘味閾値の測定法は,人間の感覚によって甘味を判定する方法であって,判定のばらつきを統計処理し感覚を数量化して客観的に表現する官能\検査の一種であり,適切な多数の被験者を用いることにより,主観的な判断や個人による差を極力抑えるものではあるが,一般に,官能検査とは,被験者の習熟度,測定法,データの解析法等により数値が異なるものであり,相互の数値の比較は困難であることが多いものと解される。そこで,スクラロース水溶液におけるスクラロースの甘味閾値が記載されている甲10及び甲54をみると,甲10では,初めにスクラロース溶液の薄い方から濃い方へ(上昇系列)試験した可知の刺激価と,次に濃い方から薄い方へ(下降系列)試験した不可知の刺激価の平均値より算出する極限法により評価した数値は,0.0006±0.00014%であったことが記載され,甲54(「PROGRESS INSWEETENERS」,131−132頁)では,41人の被験者の集団を使用して「上昇濃度系列の極限法」に従い評価したスクラロースの甘味閾値は,0.00038%w/v と記載され,同じ極限法を用いて測定したスクラロース水溶液の甘味閾値として,甲10と甲54とでは約1.6倍異なる数値を記載している。また,甲10と甲54は,水にスクラロースを添加したスクラロース水溶液において甘味閾値を測定したものであるが,本件明細書の段落【0013】に記載するように,飲料中のスクラロースの甘味閾値は,苦味などの他の味覚や製品の保存あるいは使用温度などの条件により変動するものであるから,各種飲料における甘味閾値を正確に測定することは,単なるスクラロース水溶液に比べて,より困難であると認められる。しかも,甘味閾値の測定は,人間の感覚による官能検査であるから,測定方法の違いが甘味閾値に影響する可能\性が否定できないことは,上記のとおりである。そうすると,当業者は,同一の測定方法を用いた極限法によるスクラロース水溶液の甘味閾値であっても,2つの文献で約1.6倍異なる数値が記載されている上,訂正発明における各種飲料における甘味閾値の測定は,スクラロース水溶液に比べてより困難であるから,測定方法が異なれば,甘味閾値はより大きく変動する蓋然性が高いとの認識のもとに訂正明細書の記載を読むと解するのが相当である。したがって,甘味閾値の測定方法が訂正明細書に記載されていなくとも,極限法で測定したと当業者が認識するほど,極限法が甘味の閾値の測定方法として一般的であるとまではいえず,また,極限法は人の感覚による官能検査であるから,測定方法等により閾値が異なる蓋然性が高いことを考慮するならば,特許請求の範囲に記載されたスクラロース量の範囲である0.0012〜0.003重量%は,上下限値が2.5倍であって,甘味閾値の変動範囲(ばらつき)は無視できないほど大きく,「甘味の閾値以下の量」すなわち「甘味を呈さない量」とは,0.0012〜0.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから,結局,「甘味を呈さない量」とは,特許法36条6項2号の明確性の要件を満たさないものといえる。\n(2) 被告は,「甘味閾値は,一般的で確立した試験方法である極限法によって測定できるものであり,他にもよく知られた試験方法が存在するからといって甘味閾値が不明確になるものではない。極限法でも恒常刺激法でも,試験の原理上,同等の結果が得られることは明白である。測定には,常に誤差が伴い,各条件に応じて適した測定方法が異なるという常識があるが,だからといってこれによって測定される物理量の値が不明確などということもない。したがって,訂正発明は,不明確ではない。」旨主張する。そこで検討するに,被告による試験結果である甲25には,訂正明細書の実施例4を追試した際のコーヒーにおけるスクラロースの甘味閾値は0.00169%と記載されており,この値は,訂正発明の「0.0012〜0.003重量%」の範囲内の数値であるが,渋味のマスキング効果を確認したスクラロースの添加量は0.0016%であり,甘味の閾値と非常に接近している。そうすると,上記のように「0.0012〜0.003重量%」の範囲に甘味閾値が存在する場合には,特に正確に甘味閾値を測定する必要があり,誰が測定しても「甘味を呈さない量」であるか否かが正確に判別できるものでなければならない。しかし,甘味閾値の測定は人の感覚による官能検査である以上,被告が主張するように,測定方法等が異なっても同等の結果が得られることは明白であるとする客観的根拠は存在せず,測定方法の違い等の種々の要因により,甘味閾値は異なる蓋然性が高く,被験者の人数や習熟度等に注意を払ったとしても,当業者が測定した場合に,「甘味を呈さない量」であるか否かの判断が常に同じとなるとはいえない。したがって,被告の主張は採用できない。\n

◆判決本文

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平成25(行ケ)10117 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年03月10日 知的財産高等裁判所

 明確性要件及び実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 ア 本願発明は,一般式(1)における各原子の組成比が,不定比となる場合を含むものであり,その組成比は変数y,z,u,wを用いて特定されているが,これらの各変数が相互にどのように連関するかは特定されていない。しかし,無機化合物において,格子欠陥等のため,その組成比が不定比となる(自然数でない)ものが存在することは,技術常識であって(甲21),このことは,無機化合物からなる蛍光体についても同様である(乙1,2)。そして,無機化合物は,定常状態では,その全体の電荷バランスが中性であり,無機化合物を構成する各原子の原子価と組成比との積の総和が,実質的にゼロとなっていることは,技術常識である(乙2【0015】,【0016】)。このような技術常識を踏まえると,組成比が不定比となる場合には,各原子の原子価が自然数とはならないことは明らかである。また,不定比を具体的な状況に応じて確定するのは困難である上,一定の数値をとるかどうかも不明である。そうすると,一般式(1)における各原子の組成比が不定比となる場合を含む本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するかを特定することは,相当程度困難である。本願明細書(甲1)の段落【0039】,【0040】,【0047】,【0049】,【0059】によると,実施例1,5,7(表\\2)で,実際に不定比組成である蛍光体が合成されている。これらの蛍光体は不定比組成であり,各原子の原子価は自然数ではなく,その具体的な数値は不明であるが,蛍光体の電荷バランスが中性となるように組成比が選択され,化学量論的に成立したものとなっていると解される。以上によれば,本願発明においては,上記の各変数が相互にどのように連関するか特定されていないとしても,一般式(1)における各原子の組成比は,一般式(1)に示される各原子の組成範囲内において,蛍光体の電荷バランスが中性となるように選択され,化学量論的に成立したものとなると認められるから,審決が認定するように,一般式(1)における各原子の組成比が化学量論的に成立するためには,上記の各変数が連関することが必要であるとはいえない。また,一般式(1)が,いかなる化合物を意味するのか不明であるともいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10118

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