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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

記載要件

平成25(行ケ)10063 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月28日 知的財産高等裁判所

 36条6項2号違反(明確性)とした拒絶審決が取り消されました。
 本件審決は,本願発明1において,実測炉壁間距離の平準化変位線を求めるために行う「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載は明確であるとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合せず,同条項に規定する要件を満たしていない旨判断し,被告も同旨の主張をする。しかし,「均す」という言葉自体は「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」と,「平準」という言葉自体も「物価の均一をはかって,でこぼこのないようにすること。」と一般に理解されており(岩波書店「広辞苑第6版」。甲12),また,いずれの言葉も多数の特許請求の範囲の記載で使用されている技術用語であること(甲13〜23)は当事者間に争いがないことを考慮すれば,本願発明1における「平準化変位線」について,当業者は,実測炉壁間距離変位線に基づいて「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位」を「たいらにする。高低やでこぼこのないようにする。」ことによって求めるものであると認識し,かつ,本願発明1が,こうして求めた平準化変位線と実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和をコークス製造毎に求め,上記面積の総和の変化に基づいて,炉壁状態の変遷を診断するものであることを理解することができるから,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確である。したがって,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。
(2) 被告は,この点について,本願明細書の段落【0003】にあるように,炉壁の様々な劣化状態を詳細に観察することやその状態を特定する手段がなかったというこの分野における従来の状況を踏まえれば,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」際の均し方の方法や基本的な指標等を何ら特定することなく,単に「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位を均す」と記載しただけでは,本件出願当時の技術常識を考慮しても,具体的にどのような方法,指標・指針・考え方に基づいて行われるのかが明らかではなく,技術的に十分に特定されているということはできない旨主張する。しかし,本願発明1の「カーボン付着や欠損による炉壁表\面の変位を均す」との記載の技術内容自体は明確であり,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができることは,前記のとおりである。そして,「カーボン付着や欠損による炉壁表面の変位を均す」ための具体的な方法,指標・指針・考え方を発明特定事項としていないからといって,本願発明1が不明確となるものではない。発明の解決課題及びその解決手段,その他当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項(特許法施行規則24条の2)は,特許法36条4項の実施可能\要件の適合性において考慮されるべきものであって,発明の明確性要件の問題ではないと解される。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10061 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年11月12日 知的財産高等裁判所

 切り餅事件とは別の特許です。こちらは無効理由無しとした審決が維持されました。
 相対的に強度が低い部分(切り込みが存在する部分)は,一定程度の圧力がかかると,変形して伸びやすいともいえる。切餅の内部空間の圧力は,切り込みが存在する部分に限らず,全方向,例えば上下方向にもかかるから,切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がることになる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(上下の焼板状部が平行に近い対称な状態で持ち上がる場合もあるが,非平行な片持ち状態に持ち上がる場合も多い。)に自動的に膨化変形する。このような膨化変形によれば,切餅の内部空間の体積は大きくなり,その分だけ圧力が高くなるのを抑えられること,また,それにより,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのも抑えられることは明らかであるから,上記のように膨化変形することでも,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できることは,当業者にとって明らかといえる。 ウ 以上によれば,本件発明における「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」について,以下のとおり認めることができる。側周表面に所定の切り込みを設けた切餅をオーブントースターで焼くと,切餅の内部が軟化するとともに,切餅の内部に含まれる水分が蒸発して水蒸気となる等により,切餅の内部空間の圧力が高くなり,膨化するが,その圧力によって切り込みが存在する部分が変形して伸びることにより,切り込みの上側が下側に対して持ち上がる。その持ち上がりにより,最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い。以下同じ。)に自動的に膨化変形する。切餅の側周表\面に所定の切り込みを設けたことにより,膨化による噴出力(噴出圧)を小さくすることができるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを抑制できるが,上記のように膨化変形することでも,膨化による噴出力(噴出圧)が大きくなるのを抑えられるため,上記切り込みを設けない場合と比べて,焼き網へ垂れ落ちるほどの噴き出しを一定程度抑制できる。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10062

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平成25(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年10月30日 知的財産高等裁判所

特36条は争点になっていませんが裁判所は下記を付言しています。
この程度の誇張が不適切というのはなぜなんでしょう?
付言
本願明細書には,従来技術の一つとして,引用文献が挙げられており(甲1 1の【0005】),図2は,その従来技術のエレベータ用ロープ13を示す ものである(同【0013】)との記載があり,そこには別紙Cの図2のとお り,ロープ被覆が相当厚く,またその断面形状はいびつに変形しており,到底 円とはいいがたい形状のものが記載されている。しかし,実際の引用文献に示 された図1は,別紙BのFIG.1のとおりであり,そこに描かれたロープ被 覆は薄く,その断面の形状は円である。本願明細書の【0013】には「明確- 32 - のため,ポリウレタン層15の厚さおよびロープ断面の変形をやや誇張して示 している。」との記載があるが,本願明細書における従来技術の記載は,「や や誇張」にとどまるものではなく,著しく不正確であり,特許法36条4項2 号の趣旨に照らしても,明細書としては不適切な記載である。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10300 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月17日 知的財産高等裁判所

 サポート要件に違反する(36条6項1号)、新規性なし(29条1項3号)とした審決が、取り消されました。
 審決は,1)引用発明のポリウレタンは,ショア硬度が10より低いものであるから,技術常識から,本願発明1におけるポリウレタンの性質である「94未満のショアA硬度」の要件(構成e)と重複一致し,また,2)引用発明のポリウレタンは,ショア硬度が十分に低い(つまり,軟らかい)ことから,本願発明1の構\成c及び構成dを満たす蓋然性が高いと解され,相違点1は実質的な相違点ではないと判断する。しかし,以下のとおり,審決の実質的な相違点でないとした判断には誤りがある。ポリウレタンには,「ショア10Aから90D」までの硬度(硬さ)があるとされている(乙1)。他方,前記のとおり,引用発明のポリウレタンは,「シヨア硬度が10より低い」と記載されているが,同記載における「シヨア硬度」が「ショアA硬度」を指すか否か,「シヨア硬度10」がどの程度の硬度であるか明確でない。したがって,引用発明のポリウレタンが「シヨア硬度が10より低い」と記載されていることのみから,本願発明1におけるポリウレタンの性質である「94未満のショアA硬度」の要件と重複一致し,また,本願発明1の構\成c及びdを満たす蓋然性が高く,相違点1は実質的な相違点でないと判断したことには,誤りがあるというべきである。
(4) 小括
以上のとおり,引用発明のポリウレタンが,本願発明1の構成eと一致し,また,構\成c及び構成dを満たす蓋然性が高く,相違点1が実質的な相違点でないとした審決の判断には,十\分な根拠がなく,是認することができない。
3 記載要件不備についての判断の誤り(取消事由2)について
本願発明1の構成要件を再載すると,次のとおりである。
「a 第1級脂肪族イソシアネート架橋を有し,\nb また,少なくとも25重量%の第1級ポリイソシアネート架橋を有しており,\nc かつ1.0×108パスカル以下の曲げ弾性率, d 1.0×108パスカル以下の貯蔵弾性率, e および94未満のショアA硬度を呈する f ポリウレタンであって, g さらにそのポリウレタンは, h 2以下のホフマン引掻硬度試験結果, i および1ΔE以内のカラーシフト(熱老化試験ASTM D2244−79に準拠)のj いずれか一方または両方の性質を呈するか,または呈しない k ポリウレタン。」
しかるに,審決は,以下のとおり判断する。すなわち,特許請求の範囲の記載において,本願発明1におけるポリウレタンは,「構成gないし構\成k」の部分に係る「要件a及び/又は要件b」,あるいは,「要件c」を満たすことが必要であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,「要件a及び要件b」を満足する具体例,並びに「要件a」を満足する具体例の記載はあるが,「要件bのみ」及び19「要件c」を満足する具体例の記載がなく,当業者が,本願明細書の記載に基づいて,「要件bのみ」及び「要件c」を満足するポリウレタンがその発明の課題を解決できると認識できるとは認められないから,特許法36条6項1号を充足しないと判断した。しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。本願発明1に係る特許請求の範囲の記載は,「構成aないし構\成f」と「構成gないし構\成k」からなる。このうち「構成gないし構\成k」の部分は,「2以下のホフマン引掻硬度試験結果,および1ΔE以内のカラーシフト(熱老化試験ASTM D2244−79に準拠)のいずれか一方または両方の性質を呈するか,または呈しない」と記載されており,その記載振りからも明らかなように,同記載部分は,発明の専有権の範囲を限定する何らの文言を含むものではないので,格別の意味を有するものではない。「構成gないし構\成k」の部分は,限定的な意味を有するものではないことから,本願発明1の技術的範囲は,「構成aないし構\成f」の記載によって限定される範囲であると合理的に解釈される。そして,本願明細書の段落【0049】【0050】【0059】ないし【0061】並びに表3,表\5及び表6には,本願発明1の構\成aないし構成fを充足する実施例1,13及び14が記載されていると理解される。以上のとおりであるから,本願発明1については,本願明細書の発明の詳細な説明において,「構\成gないし構成k」の部分に係る「要件bのみ」及び「要件c」を満足する具体例を記載開示しなかったことが,少なくとも,特許法36条6項1号の規定に反すると評価することはできない。したがって,「要件bのみ」及び「要件c」を満足する具体例の記載がないことを理由として,特許法36条6項1号の要件を充足しないとした審決の判断には,誤りがある。\n

◆判決本文

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平成24(行ケ)10178 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年07月23日 知的財産高等裁判所

 36条違反(実施可能要件)とした審決が維持されました。\n
 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明がかかる要件を満たすかにつき検討するに,まず,本願発明の優先日当時の技術常識は上記3のとおりである。しかるに,本願発明におけるサファイア基板の上部表面は,「光を散乱または回折するための突出部及び/または陥凹部が含まれるように」「粗面にされ,突出部及び/または陥凹部はLEDによって生じる光の前記第1の層における波長より大きいか,あるいは,その程度の大きさ」というものであるところ,本願明細書に記載の上記突出部又は陥凹部の形成方法(【0018】〜【0020】),及び公知の可視光線に相当する電磁波の波長(下界が360〜400nm,上界が760〜830nm)に照らすと,本願発明におけるサファイア基板の上部表\面は,突出部又は陥凹部が不規則に存在し,かつ,研磨により表面粗さが1nm程度の極めて平滑な状態にされたサファイア基板に比して極めて高い表\面粗さを有することになる。そうすると,半導体の技術分野における上記の技術常識に照らせば,本願発明におけるサファイア基板の上部表面にエピタキシャル成長により半導体材料の第1の層を堆積しようとしても,サファイア基板の不規則な凹凸を結晶核生成の元とした島状結晶の形成や不規則な凹凸の斜面による異種結晶粒の生成が著しく増大するために,半導体材料の結晶を一定の方位関係をもって成長(エピタキシャル成長)させることは技術常識からは困難と理解される。しかるに,上記2に認定のとおり,本願発明の発明の詳細な説明には,実質的には,『サファイア基板の上部表\面上に陥凹部又は突出部を被うように半導体材料の層をエピタキシャル成長させる。』との記載があるだけであり,半導体材料の層をエピタキシャル成長させる際の手順及び条件を示した具体的な説明が記載されていない。したがって,本願発明の優先日当時の技術常識に照らして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から本願発明を実施し(本願発明のLEDの生産),本願発明にいう「改善されたLED」を得ることは,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさないというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。\n

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平成24(行ケ)10332 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年07月16日 知的財産高等裁判所

 36条違反(サポート要件)とした審決が取り消されました。
 この点,審決は,本願発明について「第1側面における第1スリットの開口部と,第2側面における第2スリットの開口部との間のみが,アーク放電領域となることを特定するものではない」と判断した。構成eは,一見すると,第1側面における第1スリットの開口部と,第2側面における第2スリットの開口部との間がアーク放電領域となれば,そこに包含されることになり,アーク放電領域に限定がないといえなくもない。すなわち,構\成eには,他の領域もアーク放電領域となっていながら,これに加えて当該領域がアーク放電領域となる場合と,当該領域のみがアーク放電領域となる場合両方が含まれていると解される余地がないではないが,一般的には当該領域がアーク放電領域になった場合に同時に他の領域でアーク放電が起きることは考えにくい。また,他の領域がアーク放電領域になった場合には当該領域はアーク放電領域とならないから,発明の詳細な説明に照らすと,「【0015】スリット部分から容易に電子が多量に電離用気体に向けて供給されることになり,容易に安定したアーク放電を得ること」により,アーク放電が安定して継続したアーク放電を得るとともに,発光点をスリットの端点からの発光とすることで,ごく微少な点光源を得るという課題を解決することにならない。したがって,構成eはアーク放電領域を限定したものというべきである。また,なるほど,被告の指摘するとおり,本願発明の請求項1はスリットの幅や長さ等を数値によって特定していない。しかしながら,「スリット」という用語自体に「細長い切れ目」という意味が存在するし,技術的思想として,第1側面における第1スリットの開口部と,第2側面における第2スリットの開口部との間でアーク放電が安定的に得ることが,本願明細書の発明な詳細な説明に記載されているから,本願発明におけるスリットは,そのような目的を実現できるだけの幅や長さに自ずと限定されるものと解すべきである。すなわち,請求項1における「スリット」とは,基本的には,グロー放電を生起させるために設けられていて,ひいては,そのグロー放電によって放出された電子が供給されて,アーク放電電極となる幅や長さを有するスリットと解すべきであって,このことは当業者が出願時の技術常識に照らして実施可能\である。したがって,本願発明が上記争いある技術的事項を含むもの,すなわち,その技術的事項にまで及んでいるものであるとする被告の主張は採用できない。
(3) 他方,本願発明の詳細な発明には,発明が解決しようとする課題の記載等から,本願発明は,発光スペクトルの範囲が幅広いアーク放電を用いて,プラズマ中のラジカル量の測定ができるようにマイクロアークを発生させる電極を得ることを目的としていることがわかるととともに,第1スリットが形成された陰極と,第1スリットに対応する位置にスペーサスリットと第2スリットがそれぞれ形成されたスペーサと陽極に電圧を印加すると,電離した陽イオンがこのスリットを形成する側壁に衝突して,側壁から電子が放出され,その放出された電子が気体原子と衝突して陽イオンを生成し,その陽イオンが,再度,スリットの側壁に衝突して電子を放出させるという過程が繰り返されて,グロー放電に至り,その後電流を増加させると,スリットの開放付近における,陰極10の側面141a,141bと,陽極20の側面201aと201bとの間でアーク放電が開始されることが記載されているといえる。前述のとおり,特許請求の範囲の請求項1に記載された本願発明は,陰極と陽極とスペーサにスリットを設け,陰極のスリットの開口部と陽極のスリットの開口部との間がアーク放電領域となるアーク放電電極であるところ,発明の詳細な説明にも,同様に陰極に第1スリットを設け,陽極に第2スリットを設け,スペーサにスペーサスリットを設けたアーク電極について記載されており,この第1スリットの開口部と第2スリットの開口部との間がアーク放電領域となることが記載されているから,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されている。さらに,陰極のスリットの開口部と陽極のスリットの開口部との間がアーク放電領域となるアーク放電電極という本願発明においては,マイクロアークを発生させることが発明の詳細な説明からわかることから,本願発明の課題を解決するものであるといえる。すなわち,本願発明の詳細な説明には「アーク放電による微少な点光源を得るため,グロー放電を生起することができ,生起したグロー放電によって生成された電子を供給するためのスリットを設け,前記スリットの開口部の近傍にアーク放電領域を形成したアーク放電」に関する技術的思想の開示はあるものの,争いある「各スリットがグロー放電を生起するために設けられていて,ひいては,そのグロー放電によって放出された電子が供給されて,アーク放電と結びつくことについて何ら特定されないスリットを有するアーク放電電極」との技術的事項までを,本願発明が含むものとは認められない。したがって,これに関する記載が発明の詳細な説明になされていなくとも,サポート要件違反があるということにはならず,請求項1に記載された本願発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとして,本願明細書の記載は特許法36条6項1号の要件を充足するものであるといえる。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月27日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反について、知財高裁大合議部判決(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決)の判断基準を用いて、サポート要件違反とした審決が維持されました。
 (1) 法36条6項は,「第三項四号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。法36条6項1号が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり(前記知財大合議判決参照),この点に関する原告の主張は,採用することができない。
(2) そこで,上記の観点に立って,以下,本件について検討する。
ア 前記第2の2のとおり,本願発明は,「(a)n−ブチルアクリレートを50重量部以上,カルボキシル基を持つビニルモノマー及び/又は窒素含有ビニルモノマーの一種以上を1〜5重量部,水酸基含有ビニルモノマー0.01〜5重量部を必須成分として調製されるアクリル共重合体100重量部と,(b)粘着付与樹脂10〜40重量部からなる粘着剤組成物を架橋した」という組成であり,かつ,周波数1Hzにて測定されるtanδのピークが5℃以下にあり,50℃での貯蔵弾性率G’が7.0×104〜9.0×104(Pa),130℃でのtanδが0.6〜0.8であるという粘弾特性を満たす粘着剤を基材の少なくとも片面に設けてなる粘着テープとして記載されている。他方,前記1のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,発明の実施の態様として,炭素数1〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(請求項1のn−ブチルアクリレート),高極性ビニルモノマー(請求項1のカルボキシル基を持つビニルモノマー及び窒素含有ビニルモノマー)及び架橋剤と反応する官能基を有するビニルモノマー(請求項1の水酸基含有ビニルモノマー)の配合量が請求項1に記載された範囲外では粘着特性の点で劣ることが記載(【0016】【0017】)され,また,カルボキシル基を持つビニルモノマー,窒素含有ビニルモノマー,水酸基含有ビニルモノマー及び粘着付与樹脂や架橋剤の具体例(【0012】〜【0020】)が列挙されるとともに,【表\1】には,実施例1ないし4及び比較例1及び2として,請求項1に記載された粘弾特性を満たす粘着剤及び満たさない粘着剤の具体的組成が記載されている。また,前記1のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明(【0021】)には,発明の実施の形態として,「tanδのピークが5℃を超える場合は,低温性が悪化する。50℃での貯蔵弾性率G’が6×104(Pa)以下では,再剥離性が悪化し,2×105(Pa)を超える場合は耐反撥性,定荷重性が悪化する。また130℃でのtanδが1を超える場合は,再剥離性が低下する。」と,粘弾特性の各パラメータの値が請求項1に記載された範囲を外れる場合には,再剥離性,耐反発性,定荷重性等の粘着特性が悪化する傾向にあることが記載されている。さらに,実施例1ないし4及び比較例1及び2には,tanδのピークが−7℃以下で,50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδが請求項1に記載された範囲(実施例1ないし4)であれば,再剥離性やエーテル系ウレタンフォームあるいはステンレス等に対する接着力において,優れた粘着特性が発揮されるのに対して,tanδのピーク(−7℃)が請求項1に記載された数値の範囲内であっても,50℃での貯蔵弾性率G’(5×104(Pa))及び130℃でのtanδ(1.05)が請求項1に記載された数値範囲を外れると,再剥離性が劣り(比較例1),また,tanδのピーク(0℃)及び130℃でのtanδ(0.6)が請求項1に記載された数値の範囲内であっても,50℃での貯蔵弾性率G’(15×104(Pa))が請求項1に記載された数値の範囲を外れると,定荷重性が劣ること(比較例2)が記載されている。そして,甲17(「粘着技術ハンドブック」196頁,平成9年3月31日,日刊工業新聞社発行)によれば,tanδのピークが5℃以下であることは,一般の粘着剤が備える粘弾特性であると認められるから,これら実施例及び比較例のデータは,発明の実施の形態として粘着特性の傾向が定性的に記載された粘弾特性の範囲の中でも,特に請求項1に記載された50℃での貯蔵弾性率G’及び130℃でのtanδの範囲の粘着剤は,優れた粘着特性を有すること及び請求項1に記載された粘弾特性を外れると,発明の実施の形態(【0021】)に記載されたとおり,粘着特性が劣るものとなることを示すものであるといえる。
イ しかしながら,実施例1ないし4は,いずれも,n−ブチルアクリレート(表1のBA)を90重量部程度有し,任意モノマーとして酢酸ビニル(同VAc),カルボキシル基を持つビニルモノマーとしてアクリル酸(同AA),窒素含有ビニルモノマーとしてNビニルピロリドン(同NVP),水酸基含有ビニルモノマーとしてヒドロキシエチルアクリレート(同HEA),粘着付与樹脂としてロジンエステル系樹脂A−100(荒川化学社製)及び重合ロジンエステル系樹脂D−135(荒川化学社製)を用いたものであって,請求項1に記載された組成の中のごく一部のものにすぎない。\n

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平成24(行ケ)10365 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年06月06日 知的財産高等裁判所

 実施可能性違反およびサポート要件違反を主張しましたが、無効理由無しと判断した審決が維持されました。
 なお,仮に原告の主張の趣旨が,本件各具体例の個々の構成について本件明細書の発明の詳細な説明に記載がないことのみを問題とするのではなく,請求項2及び3の記載が本件各具体例の構\成を全て備えた特定の発明を含むものであることを前提として,発明の詳細な説明には当該発明の記載がない上,本件具体例6の構成(「完全には溶着されていないものの部分的に又は工程進行的に溶着されつつある状態」で切除するもの(「溶着ヘッドが素線を台座とで挟んで密着した位置にあるときに,溶着機による溶着部分の中心部を台座の下側から切除するもの」))を有する当該発明においては本件各発明の課題を解決することができないことを理由に,本件各発明はサポート要件に違反する旨を主張するものであるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。\n・・・・
ところで,本件明細書の上記各段落が示す実施例は,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,溶着機6による溶着の動作が終了した後に,ノズル4の先端に形成した切除手段7が下動し,台座に固定された開かれた素線群1の溶着部の中心部分を台座の上側から切除する構成のものであるのに対し,本件具体例6は,ブラシ単体の孔を形成するために,台座に固定された開かれた素線群に対する溶着機による溶着動作の進行中に台座の下側から切除の動作を開始し,溶着部分の中心部を台座の下側から切除する構\成のものであり,本件明細書には,本件具体例6の構成に関する記載はないのみならず,本件各発明において台座の下側から切除することができることを明示した記載もない。しかしながら,回転ブラシに回転軸を挿入するためのブラシ単体の孔を形成するために,開かれた素線群を台座に固定した状態でその素線群の中央部分を切除する場合における切除の方向は,通常は,台座の上側から下側に向けて切除するか,台座の下側から上側に向けて切除するかのいずれかであるから,本件明細書に接した当業者であれば,本件各発明の「切除する第4の工程」(請求項2)及び「切除する切除手段」(請求項3)における切除の方向は,本件明細書の実施例の構\成のほかに,台座の下側から上側に向けて切除する構成をも含むことを容易に理解するものといえる。加えて,当業者であれば,ブラシ単体の孔を形成するために溶着された部分を切除する切除手段として先端が円形又は円筒状の切除刃,治具等を用いることができ,この切除手段を挿通孔を介して上下にスライドすることでブラシ単体の孔を形成することができることを容易に理解するものといえるから,本件各発明において,本件具体例6のような台座の下側から切除する切除手段を設けることには格別の困難はないものと認められる。そして,前記のとおり,本件各発明において溶着による固化がされた状態で切除が行われるのはブラシ単体の孔を均一の形状に保つ必要があることからすると,本件明細書に接した当業者であれば,開かれた素線群の中央部分を溶着する工程を開始し,溶着による固化がある程度の範囲で進行し,切除後に中心部分に形成される孔(本件審決にいう「環状部」)が維持される程度に固化している段階であれば,当該固化している部分を切除することができることを理解し,固化の進行状況,切除手段の動作速度,切除手段を構\成する部材の強度等を考慮し,切除のタイミングを適宜設定することにより,切除により形成される孔を一定の形状(均一の形状)に保つように当該固化している部分を切除することに格別の困難はないものと認識するものと認められる(原告が指摘するように溶着機の振動構造と切除刃との接触による切除刃の摩耗等が生じ得るとしても,それは切除刃の寿命等の問題であって,切除刃の部材の強度を高めること等によって対処し得るものであり,当該固化している部分を切除すること自体ができなくなるものではない。)。以上によれば,本件明細書に接した当業者は,請求項2及び3の記載に含まれる本件具体例6の構\成を有する上記発明においても,従来のブラシ単体の製造方法のようにブラシ単体の厚みを均一とするのに熟練を要することなく,均一な厚さのブラシ単体の量産化を可能とし,しかも素線の重なりを少なくしたブラシ単体を高速度で効率良く製造することができるという本件各発明の課題を解決できると認識できるものと認められるから,原告の上記主張は,理由がない。\n

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平成24(行ケ)10321 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月16日 知的財産高等裁判所 

 実施可能性を満たしていないとした審決が取り消されました。\n
 このとおり,訂正明細書では,吸湿による中間膜の白化の原因となるアルカリ(土類)金属塩の「粒子径」を一定値以下に保つことや(段落【0024】,【0042】),この「粒子径」をTOF−SIMS(Time of flight secondary ion mass spectrometry,飛行時間型二次イオン質量分析装置)の二次イオン像イメージングで計測することが記載されているだけで,測定条件等の詳細は開示されていない。しかしながら,A大学理工学部物質生命理工学科教授B作成の意見書(甲1)によれば,TOF−SIMSは,超真空下に試料を置き,この試料に対してガリウムイオン等の一次イオンのパルス化されたビームを照射し,一次イオンが試料表面の原子等と衝突した結果,試料表\面から空間に向けて発生,放出される二次イオン(試料表面の原子によるイオン)を質量分析計にかけ,二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間に応じて,二次イオンの質量を測定した上で,一次イオンビームの被照射位置の情報に照らして二次イオンの質量分布(質量スペクトル)を画像処理し,地図状の画像データを得る装置であると認められるところ,0.1μm(原告主張によると,本件優先日当時でも0.2μm)の面的解像度を有しているものであって,本件発明の「粒子径」の上限3μmに比して十\分に細かな分析ができるものである。そして,訂正明細書の段落【0093】には,炭素数6ないし10のカルボン酸等のマグネシウム塩は,中間膜中で電離せず塩の形で存在し,かつ凝集することなく膜表面に高濃度で分布していることが記載されている。そうすると,訂正明細書に接した当業者において,TOF−SIMSを用いて中間膜表\面のアルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさを測定すること,より具体的には二次イオン像のイメージングにより粒子の最大径を測定することが可能であったことは明らかである。\n
(2)
審決は,TOF−SIMSでアルカリ(土類)金属塩ばかりでなくアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを実施可能要件違反の根拠の1つとするが,まず,前記のとおり,訂正明細書の段落【0093】では,例えばアルカリ土類金属塩の1種であるマグネシウム塩が中間膜中で電離せず塩の形で存在することが示されているから,本件発明において,アルカリ(土類)金属塩が相当程度(相当割合)電離してイオンを生成することが予\定されているものではない。そして,原告のグローバルテクニカルセンターのC作成の実験成績証明書(甲64)によれば,中間膜表面の赤外線分光法測定で,本件発明の技術的範囲に属する中間膜(実験例3)では,遊離している酢酸(イオン)に特有の吸収スペクトルが確認されなかったから,添加された酢酸マグネシウムの電離(解離)の度合いはごく低水準であったものと認めることができる(なお,添加された酢酸マグネシウムの量が多かったとしても,解離する酢酸マグネシウムの絶対量が少なくなるわけではないから,検出すべき吸収スペクトルの観点では問題がない。)。そして,上記Cが作成した別の実験成績証明書(甲28)によれば,中間膜をFE−TEM(電界放射型透過電子顕微鏡)で撮影した写真でみられる凝集物の像とEDS(エネルギー分散型X線分析)で撮影した写真でみられるマグネシウム,酸素の像とが位置的に符合するから,酢酸マグネシウムは中間膜表\面で凝集していることが認められる。これらのとおり,本件発明の中間膜,とりわけその表面では,ポリビニルアセタール樹脂を製造するときに中和工程に用いる薬剤あるいは接着力調整剤に起因する残留アルカリ(土類)金属塩の大部分が電離せず塩の形で残っており,電離してアルカリ(土類)金属イオンとなる割合はごく小さい。そうすると,TOF−SIMSの二次イオン像のイメージングの分析において,アルカリ(土類)金属イオンの存在を考慮外としても差し支えないというべきである。したがって,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していること,ないしその可能\性があることを根拠に,当業者において本件発明を実施可能でないとはいえない。\n
この点,被告は,本件発明の中間膜の含水率がナトリウム等の含有率に比して十分大きいことから,アルカリ(土類)金属塩は溶解,電離(解離)してイオンの形で高濃度に存在し得ると主張する。しかしながら,本件発明のような合わせガラス用中間膜は,吸湿による白化の問題を解決するために,耐湿性を確保することが課題とされており(段落【0003】〜【0019】),含水率を小さくすることが予\定されている。本件発明の中間膜も,その水分の含有率(含水率)は,ナトリウムやカリウムの含有率よりは相当大きいが,0.5重量%以下にすぎないのであって,ごく微量のものと評価することができる。したがって,製造時の含水率で考えれば,中間膜中の水分がアルカリ(土類)金属塩の電離に与える影響は必ずしも大きいものとはいえない。また,上記Cが作成した実験成績証明書(甲82)では,酢酸マグネシウムを添加した中間膜と酢酸マグネシウムを添加していない中間膜とで,電気伝導度に差がみられないことが示されているが,この実験結果は,中間膜中のアルカリ(土類)金属塩が電離する割合がごく小さいことを裏付けるものである。なお,アルカリ(土類)金属イオンがTOF−SIMSの二次イオンイメージング画像上の連続した領域にまたがるように存在するときに,この連続した領域分の大きさの輝点として検出されることが原理的にあり得るとしても,本件発明の中間膜のアルカリ(土類)金属塩の含有率程度の含有率でも,本件発明で特定される「3μm」との最大径の基準に比して,上記イオンが有意な大きさを占める輝点の像を実際に示すことを認めるに足りる証拠はない。アルカリ(土類)金属塩とそのイオンとが,2次イオンイメージング画像の連続した領域にわたって接続して存在し,両者があたかも1つの粒子のようにみえる可能性に関しても,実際にかかる事態が生じ,凝集物の大きさが相当の規模において過大に大きくみえる事態が生ずる蓋然性(なお,小さな輝点が塩粒子の周囲に付着してみえる程度であれば,粒子の最大径の測定に影響を与えない。)があることを証拠上認めることができない。結局,TOF−SIMSがアルカリ(土類)金属イオンをも検出していることを根拠に,本件発明に実施可能\要件違反があるとした審決の判断は誤りである。
(3)審決は,輝点として検出される二次イオンとサンプル中の金属量とが一般には比例せず,中間膜のTOF−SIMSによる粒子径の測定には定量性がないことを実施可能要件違反の根拠の1つとするが(17,18頁),本件発明の特許請求の範囲上,アルカリ(土類)金属(塩)の量(金属量)が特定事項となっているわけではなく,アルカリ(土類)金属塩の粒子の大きさが特定されているにすぎないから,上記の定量性をもって本件発明に係る実施可能\要件違反の裏付けとすることはできない。
(4)審決は,閾値の設定により測定値が変化すること等を根拠に,本件発明には実施可能要件違反があると判断するが,前記甲第1号証の資料1や,甲第35ないし第43,第76号証によれば,TOF−SIMSを用いた測定は,一般にバックグラウンド(1次イオンビームを照射しないときに検出される値)が低く,絶対感度がごく高いため,通常,2次イオンビームの測定結果(カウント数)を輝点と評価するかに関する設定値である閾値をゼロにして測定することは,当業者に広く行われている取扱いであると認められる(技術常識。審決も19頁でこの旨認定する。)。そして,本件発明の中間膜のTOF−SIMSを用いた測定では,かかる通常の取扱いと異なる取扱いを採用する理由は存しない。そうすると,訂正明細書にTOF−SIMSの閾値に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないとすることはできず,閾値を変化させたときに2次イオンのイメージング画像が異なり得る可能\性をもって実施可能要件違反があるということはできない。なお,TOF−SIMSの2次イオンの検出には,2次イオンの個数をカウントする上限である飽和点があるところ,TOF−SIMSでは試料の損傷を抑えるために,単位時間当たりに照射する1次イオンビームの強度を大きくしないのが通常であるから,かような飽和点は問題となりにくい(乙4)。仮に飽和点が問題となるとしても,当業者であれば,可能\な限り飽和点に近いが,飽和点を超えない積算回数を採用して試験を実施することが容易であり,かつかような手法で試験することが当業者に一般的である(甲79)。したがって,訂正明細書にTOF−SIMSの1次イオンビームの照射回数ないし積算回数に関する記載がないからといって,当業者が本件発明を実施することができないものではない。また,被告のPVB研究開発グループのD作成に係る実験報告書(甲18)は,2次イオンイメージングのドット(輝点)の大きさが1μmと大きすぎ,積算回数等に係る発明の実施の困難性の論拠として採用し難い。結局,「ポリマーのTOF−SIMS分析では閾値をゼロにすることが当業者の技術常識であるとしても,合わせガラス用中間膜中のアルカリ(土類)金属塩の粒子径の測定において,閾値をゼロとすることが当業者にとって技術常識であるとすることはできない。」との審決の認定,判断は誤りであり,測定条件の詳細が訂正明細書に明示的に記載されていないことを根拠に,本件発明に実施可能要件違反があるとした審決の判断は誤りである。\n

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平成24(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、サポート要件違反ありとして取り消されました。
 被告は,本件明細書には液体調味料に対するACE阻害ペプチドの配合量について,「血圧降下作用及び風味の点から液体調味料中0.5〜20%,更に1〜10%,特に2〜5%が好ましい。」との具体的な数値の記載があり(【0030】),これがACE阻害ペプチドを配合した場合に風味変化が改善されることを確認した結果に基づくものであると主張する。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,前記1オに記載のとおり,本件発明1ないし5及び9に利用可能なACE阻害ペプチドは,乳,穀物又は魚肉等の食品原料由来のものであり,かつ,その種類も多岐にわたるところ,これらの多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドの風味が共通し,かつ,加熱処理によって同等の風味変化を生じ,あるいは生じないという技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。しかも,ACE阻害ペプチドの配合量の数値に関する上記記載も,概括的なものであるから,仮にこれがACE阻害ペプチドを配合した場合の風味変化の改善を確認した結果に基づくものであるとしても,上記多種類の原料に由来するACE阻害ペプチドのいずれについて風味がどの程度改善されたのかを明らかにするものとは到底いえない。したがって,上記配合量の数値の記載があるからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを液体調味料に混合して加熱処理した場合に,風味変化の改善という本件発明の課題を解決できると認識することはできず,サポート要件を満たすことになるものではない。\n
・・・・
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。

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平成24(行ケ)10200 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月27日 知的財産高等裁判所

 実施可能要件違反とした審決が取り消されました。\n
 審決は,1)本願明細書の発明の詳細な説明(段落【0031】)に記載された「表面が黒く処理された」金属は,例えば,顔料の素材のように導電性を持たないものを含むところ,そのような物質では,「電磁波遮断機能\を効率的に具現することができる」との効果を発揮することができない,2)本願明細書の発明の詳細な説明には,「表面が黒く処理された」金属を金属粉末として樹脂に添加した後も,「黒色の金属」という物理的性質を保持するための具体的手段が開示されていないとして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十\分に記載されたものではなく,特許法36条4項1号に違反すると判断する。しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。すなわち,上記のとおり,本願発明は,特許請求の範囲において,「前記金属粉末は,黒色の金属である」とし,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。そして,上記のとおり,金属粉末として黒色のものが存在することは,技術常識というべきであり,当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるか理解することができるものと認められる。そうすると,「金属粉末の表\面が黒く処理された」金属について実施可能要件を満たすか否かにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「黒色の金属」については,特許法36条4項1号に違反しないものと認められる。
イ 被告の主張についてこれに対し,被告は,1)鉄やコバルト,ニッケル,クロム等の白い光沢を持つ金属の金属粉末は,外光遮断機能を具現化することができない,2)本願明細書の発明11の詳細な説明に記載された「金属粉末の表面が黒く処理された」金属について,「12〜20μm」よりはるかに小さな微粒子とした場合にも,依然として電磁波遮断機能\及び外光遮断機能を備えた「黒色の金属」として存在し得るのかが明らかでなく,その表\面処理の方法も明らかでないと主張する。しかし,上記のとおり,本願発明は,樹脂に添加される金属粉末が,黒色の金属粉末であるとするものにすぎず,金属の種類(鉄など)を特定するものではない。また,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。したがって,被告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採用することができない。\n

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平成24(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年02月20日 知的財産高等裁判所

 知財高裁は、鋼板の成分および鋼板の全伸びに関してサポート要件を満たしているとした審決を取り消しました。
 審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すれば,特許請求の範囲に記載された発明が,Si,Mn,P,S,Al及びNの含有量について特定がないとしても,発明の詳細な説明に記載された発明であって,発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができると認識し得ると判断する。
しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。
ア 本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりであるところ,鋼板の成分について,「C:0.005〜0.040%を含有」すること以外,何ら特定していないから,C以外の様々な成分を様々な組合せ・含有量で含有する鋼を包含するものといえる。また,本件訂正発明は,鋼板の用途を「容器用」とするものであるが,これにより具体的にどのような成分及び組成範囲を有する鋼板であるのか,一義的に定まるともいえない(本件訂正発明に係る「容器」には,飲料缶,食品缶のほか,各種の容器が包含されるものと解され,ブリキ製品はこのような容器の一例にすぎないから,ブリキ製品についての標準的な規格であるASTM規格によって,成分及び組成範囲が一義的に定まるともいえない。)。したがって,本件訂正発明に係る容器用鋼板は,C:0.005〜0.040%を含有し,容器に用いられるものである限り,各種の成分及び組成範囲を有する鋼板を包含するものと解される。
イ 他方,訂正明細書の発明の詳細な説明には,上記のとおり,1)素材の薄手化に伴う缶強度の低下を補うため,鋼板自体を高強度化することが必要であるが,Si,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加は好ましくないこと(段落【0002】),2)焼鈍時には目的の板厚より厚い鋼板を通板し,その後再冷延(2CR)を施し,目的とする板厚を得る方法は,缶強度を確保する観点で,極薄材の適用による強度低下分を加工硬化により補うので都合のよい製造法であること(段落【0003】),3)本件訂正発明では,鋼板の強度は,Si,Mn,Pなどの添加によらず,主として2CRによる加工硬化を想定していること(段落【0019】)が記載されている。また,訂正明細書の発明の詳細な説明には,具体的な鋼板の成分として,C:0.005〜0.040%のほか,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.01〜0.5%,P:0.002〜0.04%,S:0.002〜0.04%,Al:0.010〜0.100%,N:0.0005〜0.0060%を含有するものが開示され(段落【0010】,【0011】),6種の鋼(表1のaないしf)を用いて,所定の製造方法(段落【0009】,【0017】,【0018】,【0024】)により鋼板を製造したところ,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,鋼板のフランジ成形性が良好なものが複数あったことが記載されている(表\2)。以上のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,添加が好ましくないSi,Mn,P,Nb,Tiなどの元素の添加によらず,主として2CRによる加工硬化により高強度化を達成することを前提として,C:0.005〜0.040%,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.01〜0.5%,P:0.002〜0.04%,S:0.002〜0.04%,Al:0.010〜0.100%,N:0.0005〜0.0060%を含有する(残部はFe及び不可避的不純物である)鋼を用いて,所定の製造方法により鋼板を製造すること,製造された鋼板が,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有するものであることが開示されていると認められる。ウ 以上によれば,本件訂正発明に係る特許請求の範囲に記載された鋼板は,上記アのとおり,C:0.005〜0.040%を含有し,容器に用いられるものである限り,各種の成分及び組成範囲を有する鋼板を包含するものであるのに対し,訂正明細書の発明の詳細な説明には,上記イ以外の成分及び組成範囲を有する鋼(例えば,上記の鋼に,更にCr,Cu,Ni等を添加したものなど)を用いて製造された鋼板が,「JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下」及び「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」を満たし,良好なフランジ成形性を有することについては,何ら開示されていない。のみならず,そもそも,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予\測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば,同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常であると解される。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の組成についてみると,含有する成分として,C:0.005〜0.040%のほか,Si:0.001〜0.1%,Mn:0.01〜0.5%,P:0.002〜0.04%,S:0.002〜0.04%,Al:0.010〜0.100%,N:0.0005〜0.0060%と特定しているところ,上記以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,上記の所定の製造方法により製造された鋼板が,良好なフランジ成形性を有するものであるとは,当業者が認識することはできないというべきであり,また,そのように認識することができると認めるに足りる証拠もない。そうすると,鋼の組成について,「C:0.005〜0.040%を含有」することを特定するのみで,C以外の成分について何ら特定していない本件訂正発明は,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになるから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
・・・・
オ 以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の成分に関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。
(2) 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り2)−鋼板の全伸び)について
審決は,本件訂正発明において,高延性は全伸びだけで評価されるものではなく,全伸びの下限を厳密に限定する必要もないから,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関し,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合すると判断する。しかし,審決の上記判断には,以下のとおり,誤りがある。
ア 本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりであるところ,全伸びについて,「15%以下」と特定するものであり,その下限値を特定しないものである。他方,上記のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,「鋼板の全伸びは本発明鋼では15%以下に限定する。これは,原板の全伸びがこれ以上であれば本発明によらなくともフランジ成形性の良好な鋼板が製造可能なためである。」(段落【0013】)との記載があるところ,かかる記載は,鋼板の全伸びが15%以下であっても,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たすことにより,フランジ成形性が良好となることを意味するものと解される。しかし,一般に,鋼板の延性が低いほど加工性が劣ることは,当業者にとって自明の事項であるから,全伸びが相当程度小さい場合には,フランジ成形性は相当程度劣るものと解されるところ,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」との要件は,加工硬化の程度が小さく,フランジ成形性があまり劣化しないということを意味するものにすぎず,上記要件を満たしたとしても,それによりフランジ成形性が向上するものとは解されない。また,「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」との要件は,引張強度と0.2%耐力の差が大きいほど,弾性変形の限界を超えて塑性変形する量が大きくなることを意味するものと解されるが,その量は全伸びを超えることはないから,全伸びが小さい場合には,塑性変形する量も相当程度小さいものになると解され,上記要件を満たしたとしても,フランジ成形性が相当程度劣ることに変わりはない。さらに,訂正明細書の発明の詳細な説明には,鋼板の全伸びが10%以上で,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たし,フランジ成形性が良好である実施例(表\1,2)が開示されているが,鋼板の全伸びが10%未満で,上記の各要件を満たし,フランジ成形性が良好である実施例は開示されていない。そうすると,鋼板の全伸びが10%未満でも,上記の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好となるか否かは,発明の詳細な説明の記載からは不明であり,本件特許出願時の技術常識を考慮しても,当業者がそのようなことを理解できるともいえない。以上によれば,訂正明細書の発明の詳細な説明には,鋼板の全伸びが10%未満でも,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好となることが開示されているとはいえないところ,本件訂正発明は,鋼板の全伸びについて,「15%以下」と特定するのみで,その下限値を特定せず,10%未満である場合をも包含するものであるから,発明の詳細な説明に開示されたものとはいえない。
イ これに対し,被告は,本件訂正発明において,鋼板の全伸びが15%以下であっても,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」及び「引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上」の各要件の数値が充足されていれば,フランジ成形性は良好となると主張する。しかし,上記のとおり,鋼板の全伸びが相当程度小さい場合においても,上記の各要件を満たすことによりフランジ成形性が良好になるとはいえず,そのような発明が,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されていると解することもできないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。
ウ 以上のとおり,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,鋼板の全伸びに関しても,特許法36条6項1号(サポート要件)に適合しない。

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平成24(行ケ)10071 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成25年02月12日 知的財産高等裁判所

 実施可能性要件を満たしていないと判断されました。出願人は、MITです。
 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十\分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。

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平成24(行ケ)10052 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月31日 知的財産高等裁判所

 開示要件を満たしていないとした審決が維持されました。
 本件発明2の特許請求の範囲において,昇温結晶化温度が128度以上,かつ,結晶化熱量が20mJ/mg以上という数値範囲は,いずれもシート層,すなわち,容器成形前の状態における物性値を規定したものと認められる。これに対し,本件明細書においては,上記1で認定したとおり,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は,いずれも容器成形後の容器切り出し片を対象として測定されたものであり,明細書において,特許請求の範囲に記載された容器成形前のシート層に関する記載は認められない。このように,本件明細書には,昇温結晶化温度及び結晶化熱量について,特許請求の範囲に記載された「シート層」の数値範囲を満たすことによって課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がなく,これとは異なる測定対象に係る数値しか記載されていないところ,本件明細書の比較例2(上記1の【表\2】)には,容器成形後の容器切り出し片について,昇温結晶化温度が127度,結晶化熱量が19mJ/mgの場合であっても容器側面の光沢がないと記載されている,すなわち,特許請求の範囲で構成する数値範囲から,容器成形によって,昇温結晶化温度が1 度,結晶化熱量が1mJ/mg外れただけでも課題が解決できないことになるのであるから,本件発明2が本件明細書に記載されている,あるいは,本件発明2の「光沢」黒色系容器が本件明細書に実施可能に記載されているというためには,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値について,容器成形前のシート層と容器成形後の容器切り出し片との間で,当業者が通常採用する条件であればこれらの物性値が不変であるか,当業者が通常なし得る操作によりこれらの物性値の変化を正確に制御し得るか,あるいは,これらの物性値が変化しないような成形方法や条件が本件明細書に記載される必要があるというべきである。そこで検討するに,PETを主成分とするシートから容器を成形するには,本件明細書の段落【0013】にも記載されるように,一般的に熱成形法が用いられるところ,原告提出に係る実験結果報告書には,成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値が全く変化しないものもある(甲37の1及び3,38の2及び4。ただし,この報告書では成形条件は明らかにされていない。)。これに対し,原告提出に係る実験結果報告書であっても,成形前後で結晶化熱量が1mJ/mg低下するもの(甲37の2及び4)や,昇温結晶化温度が1度上昇し,結晶化熱量も2mJ/mg上昇するもの(甲38の1及び3)もあるし,被告提出に係る実験結果報告書(甲14,15,20,22)には,成形前後で,昇温結晶化温度が5度以上低下,結晶化熱量も5mJ/mg以上低下するものが複数記載されている。これらの記載を総合すると,成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値がほとんど変化しない場合もあれば,成形後に大きく低下する場合もあると認めるのが相当であり,当業者が通常採用する成形条件の下において,これらの物性値が不変であるとは認められない。これに加えて,加熱時間が長くなるほどこれらの物性値がより大きく低下することを示す実験結果報告書の記載(甲65,68)や,容器深さが深くなるほどこれらの物性値がより大きく低下する傾向を示す実験結果報告書の記載(甲22)に照らすと,成形温度のみならず,成形時間や延伸の程度によっても,上記の物性値は変化するものと認められるのであって,当業者であっても,それらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることは容易ではないと認められる。さらに,上記の物性値が変化しないような成形方法や条件について,本件明細書には記載も示唆も認めない。以上のとおりであるから,本件発明2は,技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明によりサポートされているとは認められず,特許法36条6項1号の要件を満たさない。
 また,本件明細書に,成形条件による上記の物性値の制御について記載や示唆がないことからすると,当業者といえども,本件発明2に係る光沢黒色系の包装用容器を製造することは容易ではないというべきであるから,本件発明2は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項の要件を満たさない。3 原告は,熱成形の際に,成形時間を短時間に設定すること,あるいは,シートの温度を約70〜100度とすることは技術常識であり,そうであれば,成形前後において,昇温結晶化温度及び結晶化熱量は同等である旨主張する。しかしながら,原告主張の技術常識を認めるに足りるに的確な証拠はなく,また,原告の知財チーム作成に係る甲68の実験結果報告書において,加熱時間4秒間で,シート表面温度が98度の場合に,結晶化熱量が2mJ/mg上昇する旨の実験結果の記載があることに照らすと,原告主張の成形条件が採用されているからといって,昇温結晶化温度及び結晶化熱量が不変であるとまでは認められない。\n原告は,昇温結晶化温度及び結晶化熱量が成形により低下するとすれば,低下が予想される分だけ昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値が大きい多層シートを用いて容器を形成すればよく,本件発明2はサポート要件と実施可能\要件を充足する旨主張する。このような原告の主張は,当業者がこれらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることができることを前提とするものというべきところ,当業者であっても,そのような予\測や制御が容易でないことは,上記2で説示したとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。

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平成24(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年01月31日 知的財産高等裁判所

 開示不十分とした審決が取り消されました。
 確かに,前記2(2)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体として使用できる具体的な物質が,内部量子効率を含む各特性を含めて記載されているところ,本件明細書に開示されている緑色蛍光体の内部量子効率は80%以上であるが,赤色蛍光体の内部量子効率は80%未満であり,したがって,本件明細書には,内部量子効率が80%以上の緑色蛍光体については記載されているが,内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていないというほかない。しかしながら,前記1(8)のとおり,本件明細書には,赤色蛍光体及び緑色蛍光体の製造方法について,その原料,反応促進剤の有無,焼成条件(温度,時間)なども含めて具体的に記載されているのみならず,赤色蛍光体の製造方法については,本件出願時には製造条件が未だ最適化されていないため,内部量子効率が低いものしか得られていないが,製造条件の最適化により改善されることまで記載されているものである。そうすると,研究段階においても,赤色蛍光体について60ないし70%の内部量子効率が実現されているのであるから,今後,製造条件が十分最適化されることにより,内部量子効率が高いものを得ることができることが記載されている以上,当業者は,今後,製造条件が十\分最適化されることにより,内部量子効率が80%以上の高い赤色蛍光体が得られると理解するものというべきである。
イ 証拠(甲5,12〜17)によれば,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化として,結晶中の不純物を除去すること,結晶格子の欠陥を減らすこと,結晶粒径を制御すること,発光中心となる付活剤の濃度を最適化すること等により,蛍光体の効率を低下させる要因を除去することは,本件出願時において当業者に周知の事項であったと認められる。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に内部量子効率が80%未満の赤色蛍光体が記載されているにすぎなかったとしても,当業者は,蛍光体の製造方法において,製造条件の最適化を行うことにより,赤色蛍光体についても,その内部量子効率が80%以上のものを容易に製造することができるものと解される。実際,証拠(甲18)によれば,本件出願後ではあるが,平成18年3月22日,内部量子効率が86ないし87%のCaAlSiN3:Euの赤色蛍光体が製造された旨が発表されたことが認められる。
 ウ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するものというべきである。 

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