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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

発明該当性

平成24(行ケ)10400 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年08月28日 知的財産高等裁判所 

 人間の筋力増強方法について、成立性、進歩性違反などを主張して無効請求をしましたが、無効理由無しとした審決が維持されました。
 上記の各記載によれば,本件発明は,推測されるべき機序及び効果が示されており,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして示されているといえる。また,本件発明は,緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用するものであって,生理反応は自然法則に基くものであるから,発明全体として自然法則を利用しているというべきである。したがって,本件発明が,具体性・客観性を有しないこと,及び自然法則の利用がないことを理由として,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとする原告の主張は,採用の限りでない。(2) 原告は,本件発明は,「筋肉増強」という新たな効果の発見にすぎず,特許法2条1項の「発明」に該当しないとも主張する。しかし,この点の原告の主張も,採用の限りでない。原告の主張は,要するに,本件特許の出願前に,筋肉を加圧するトレーニング運動療法に関連した文献(甲44文献)が存在した点を指摘するにすぎないのであって,同主張に係る事実によっては,本件発明が特許法2条1項所定の「発明」に該当しない根拠とはなり得ない。本件発明は,前記のメカニズムにより,目的筋肉を増強できるとの着想に基づき,特許請求の範囲の請求項1に記載した構成を採用したことによって,一定の効果を得る方法を開示するものであるから,単なる自然法則の発見ではない。この点に係る原告の主張は採用できない。3 取消事由2(本件発明の,特許法1条及び29条1項柱書所定の「産業の発達に寄与する」,「産業上利用することができる」との要件充足性を肯定した判断の誤り)に対して
(1) 産業上利用可能性について
本件発明は,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み,さらにトレーニング期間を短縮できる筋力トレーニング方法を提供するというものであって,本件発明は,いわゆるフィットネス,スポーツジム等の筋力トレーニングに関連する産業において利用できる技術を開示しているといえる。そして,本件明細書中には,本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないことを考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する理由はない。
(2) 医療行為方法について
原告は,被告が本件発明を背景にして医療行為を行っている等と縷々主張する。本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており(甲17,29等),被告やその関係者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝していたこと(甲63,67,68等)が認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが可能\であったとしても,本件発明が「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月19日 知的財産高等裁判所

 発明未完成とした審決が取り消されました。
審決が特許法29条1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に当たらない根拠とする事柄のうちガラススライドの大きさに関しては,本件訂正後の請求項1,8の特許請求の範囲に「溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20°Cで24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,」との各記載や請求項21の特許請求の範囲に上記結晶の数がゼロであるとの記載があるほか,訂正明細書(甲16)の段落【0009】に「溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20°Cで24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に,観察可能な結晶の数が10個以下,好ましくはゼロである。」との記載があるのみで,その大きさを明示する記載は存しない。しかしながら,構\成要件1F(2)の結晶化阻害試験は,フィプロニル等の殺虫活性物質(a)と結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c),有機共溶媒(d)から成る組成物を用いた治療・予防薬が,「動物の体の一部に投与するだけで体全体に拡散し,乾燥し,しかも結晶化現象が起きない」ことや,「乾燥後に毛皮の外観に影響を与え」ず,「特に結晶が残らず,毛皮がべとつかないよう」にすること(訂正明細書の段落【0004】)ができるように,上記(a)ないし(c)の各所定量の混合物である溶液Aを面上に少量滴下して所定時間放置(静置)しても,肉眼でも観察できるような大きな結晶が生じないか,又は10個以下の結晶が生じるにすぎないか否かを確認する趣旨のものである。そうすると,上記結晶化阻害試験の目的ないし技術的性格にかんがみれば,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許発明の範囲中に「ガラススライド」の大きさを明示した記載がなくても,当業者が適宜「ガラススライド」の大きさを選択して試験を実施し得ることは明らかである。
この点,審決は「ガラススライド」といえばまずは顕微鏡観察用の標準サイズのスライドガラスを想起するとし(66頁),被告は,上記結晶化阻害試験では「ガラススライド」の大きさが特定されていないから,適切な大きさの「ガラススライド」を選択するために試行錯誤を要し,当業者が「ガラススライド」の大きさを選択するのが容易でないなどと主張するが,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲には,顕微鏡で溶液(試料)を観察することは記載されていないから,上記結晶化阻害試験における「ガラススライド」をいわゆる顕微鏡観察用のスライドガラスと同一視する必要はないし,この種の試験を実施する当業者であれば,溶液の粘度や分量に応じて,適切な大きさを有する「ガラススライド」を適宜選択し得るとして差し支えない。仮に試験を実施する者が見込みを誤り,溶液が「ガラススライド」からはみ出す可能性があるとしても,上記結晶化阻害試験がさほど高度の手法を要求するものではないことに照らせば,上記のような見通しの悪い試験者が試験を繰り返す可能\性や,試験の失敗に備えて予備試験をすることがあり得ることは,前記結論を左右するものではない。\n
(2)また,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲でも,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験系内の相対湿度(RH)の範囲や,空気の流れ(風)の有無,強弱についての規定がないが,当業者であれば,上記結晶化阻害試験に関する記載から,近代的設備を備える実験室(研究室)で,標準的な試験環境の範疇を超えない限りで,格別相対湿度を指定しなくてもよいと認識できることが明らかである。そして,一定の温度環境下で試験を実施するのであれば,当業者は通常恒温装置(恒温槽)を使用するところ,被告自身が提出する試験報告書(甲4〜6)によっても,この種の試験を実施する平均的な技量を有する当業者であれば,必要以上の換気による影響を避ける必要があること,又は試料に直接装置による循環風が当たらないようにする必要があることを容易に理解し得ることが明らかである。そうすると,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,逆さにしたビーカーで試料を覆って無風状態にしたり,恒温装置内に密閉容器であるデシケータを入れ,デシケータ内部に湿度を一定に保つ薬剤とともに試料を放置したりする程度の事柄は,当業者が技術常識に基づいて採用するものにすぎず,かような具体的な試験手法まで記載されていなくても,当業者が前記結晶化阻害試験を実施できないものではない。
・・・
(3)結局,訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,当業者は構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の目的,技術的性格に従って,1)ガラススライドの大きさ,2)温度・湿度の調節及びこれに伴う空気の流れの制御方法,3)相対湿度を適宜選択することができ,試験条件いかんで試験結果が一定しないわけではないから,訂正発明1ないし34が未完成の発明であるとはいえない。したがって,甲第5,第6号証の試験結果を根拠に,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験結果が一定しないなどとして,訂正発明1ないし34が未完成の発明であり,特許法29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」に当たらないとした審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由1は理由がある。
2 取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について
前記1で認定したとおり,当業者は,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や特許請求の範囲の記載及び技術常識に基づいて,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験を実施し,殺虫活性物質(a),結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c)から成る溶液Aのうちから上記構成要件を充足するものを選別することができるから,訂正発明1ないし34に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を実施可能\な程度に明確かつ十分なものである。したがって,これに反する審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。\n

◆判決本文

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平成24(行ケ)10043 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月06日 知的財産高等裁判所

 カレンダーの発明について発明の成立性を否定した審決が維持されました。
 本願発明は,1)提示情報を偉人情報とし,2)提示態様を特定の提示項目及び特定の配置とし,3)それを表紙及びカレンダー部によりなるカレンダーに定着させ,これによって,4)毎日見るという特性を有するカレンダーとする,という具体的手段により,ユーザに偉人に関する知識を自然に習得させる,という課題を解決するものである,と認められる。以下,上記1)〜4)について,それぞれ検討する。
1)提示情報を偉人情報とすること本願発明は,社会人として身に付けるべき知識又は学業に役立つ教養として,偉人に関する知識が必要であるとの認識の下,提示すべき情報として偉人情報を採用17した。しかしながら,提示する情報が,社会人として身に付けるべき知識,学業に役立つ教養であるか否かという判断は,自然法則とは無関係な人間の主観に基づく選択にすぎず,その結果として偉人情報を採用することについても,たとえ採用に至る過程で何らかの労力を伴ったとしても,単なる人為的な取決めにすぎない。
2)提示態様を特定の提示項目及び特定の配置とすること本願発明において,偉人カレンダーの表紙は,本願明細書(甲24)の【図1】に例示されているように,西暦年度と,見出しと,1月から12月までのカレンダーに使用する偉人表\示欄とを有し,それぞれの偉人表示欄は,偉人図又は写真と,当該偉人図又は写真の「近傍」に設けられ,当該偉人の読み方を併記した偉人名記載欄と,読み方を示した当該偉人の偉人伝要約欄とを有する。しかしながら,表\紙において偉人情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,また,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,「偉人図又は写真」の近傍に「偉人名記載欄」を配置すれば,これらの情報の関連の視認性(見やすさ,分かりやすさ)が高まるといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,本願発明のカレンダー部は,本願明細書の【図2】に例示されているように,(a)カレンダー部の「上部」に,当該偉人の読み方を併記した名記載欄と偉人図又は写真,当該偉人に縁のある写真又は絵図表示欄,偉人の出身地を示した地図,偉人の生存期間記載欄を設け,(b)カレンダー部の「中央部」に,代表的な業績を読み方とともに記載した偉人伝要約欄,偉人の生涯,業績,エピソ\ードを読み方とともに記載した偉人伝概説欄を設け,(c)カレンダー部の「下部」に,年度欄,月表示欄,曜日欄,日付欄を設けたものである。18しかしながら,カレンダー部において上記(a)〜(c)の情報を提示する際,提示すべき事項としてどのような情報を選択するかは,発明者の主観に基づく単なる人為的な取決めにすぎず,その結果として特定された提示項目の集合についても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。また,偉人情報に関する特定の事項と,カレンダー情報とを「上部」,「中央部」及び「下部」の3段組で配置すれば,情報を外観上整理して提示でき,その結果として,見やすさ,分かりやすさといった一定の効果が認められるものの,そのような提示形態自体は,何ら自然法則を利用した具体的手段を伴うものではなく,情報の単なる提示の域を超えるものではない。したがって,そのような提示形態を上記(a)〜(c)の情報の配置に用いたとしても,情報の単なる提示の域を超えるものではない。
3)表紙及びカレンダー部よりなるカレンダーに定着させること本願発明は,「偉人カレンダー」とされていることから,カレンダーという物品を特定していると認められるが,その構\成については,表紙とカレンダー部とを有することが漠然と特定されているにすぎない。そして,本願明細書の発明が解決しようとする課題(【0006】),課題を解決するための手段(【0007】,【0008】)及び発明の効果(【0009】)の記載によれば,本願発明は,カレンダーを用いて偉人情報を提示するという点に創作性がある発明として出願されたものと認められ,表\紙及びカレンダー部のそれぞれは,偉人情報を提示するための紙面を提供するにすぎず,それ以上の情報提示の具体的手段を特定するものではない。そうすると,本願発明は,「表紙及びカレンダー部よりなるカレンダー」と特定することにより物品を形式的には特定しているものの,実質的には,偉人情報とカレンダー情報とが併記された複数枚の紙面,すなわち,情報を提示するための単なる紙媒体と何ら異なるものではない。そうすると,「表\紙及びカレンダー部とを有するカレンダー」といった,物品の漠然とした特定をもって,本願発明が自然法則を利用したものであると評価することはできない。
4)毎日見るという特性を有するカレンダーとすること本願発明は,偉人情報の提示媒体として「毎日見るという特性を有するカレンダー」を用いること,すなわち,偉人情報を特定の提示形態で提示することによって,偉人に関する知識を自然に習得させるという効果を奏するものである。偉人に関する知識を自然に習得させるために,毎日見るというカレンダーの特性に着目した点については,一定の創作性が認められるとしても,それは,専ら,人間の習慣(人間は日常生活において日にちや曜日を確認すること),及びカレンダーの利用態様(カレンダーは見やすい場所に設置されること)に基づくものにすぎず,自然法則に基づくものではない。また,偉人カレンダーを情報を提示する媒体とすることにより,ユーザに偉人に関する知識を自然に習得させるという効果は,人間の心理現象である認識及び記憶に基づく効果にすぎず,自然法則を利用したものであると評価することはできない。(イ) 以上に検討したとおり,本願発明は,その課題,課題を解決するための具体的手段として特定された構成,効果等の技術的意義を検討しても,自然法則を利用した技術的思想が,課題解決の主要な手段として提示されていると評価することができないから,特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができない。
(3) 原告の主張について
ア 登録されたカレンダーの発明及び考案が過去に多数存在するとの主張につき原告は,刊行物1(甲22)の発明が発明として特許されていること,甲2〜19の登録例等を挙げて,本願発明について,発明であることを否定することは,極めて不公平であり,審査の整合性,統一性がないと主張する。しかしながら,出願に係る発明についての特許要件の判断は,出願ごとに各別になされるものであるから,ほかにカレンダーに係る発明,考案の登録例が存在することは,本願発明の特許要件の判断を左右するものではなく,原告の主張は理由がない。
イ 審査基準によれば本願発明は発明に該当するとの主張につき原告は,審査基準の「第II部 第1章産業上利用することができる発明」(甲21)の判断については,「発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは,その発明は,自然法則を利用したものとなる」(2頁)と記載されているが,審決は,審査基準の上記記載と齟齬する判断手法を採用した誤りがあると主張する。しかしながら,審査基準は,特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であって,法規範ではないから,当裁判所の判断を拘束するものではなく,原告の上記主張は,主張自体失当である。なお,仮に上記審査基準によっても,本願発明が全体として自然法則を利用していると判断することができないことは,上記(2)に説示したところから明らかである。
ウ 本願発明は情報の単なる提示ではないとの主張につき原告は,本願発明は,偉人情報等の集合,情報等の配置(手段・方法)に特徴があり,審査基準が情報の単なる提示に当たらないとするケースに該当すると主張する。しかしながら,審査基準に基づく主張が失当であることは上記イのとおりである。また,仮に上記審査基準によっても,本願発明の特定する提示形態は,情報の単なる提示の域を超えるものでないことは,上記(2)に説示したとおりである。
(4) 以上のとおり,本願発明は特許法2条1項に規定された「発明」に該当するということができないから,本願発明について,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当せず,同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。したがって,取消事由1は理由がない。

◆判決本文

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