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争点別に注目判決を整理したもの

商標の使用

平成29(ワ)11462  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和2年7月29日  東京地方裁判所

 スニーカーの側面に付与されている「X」について商標権侵害が認められました。販売時における38条2項損害について、約460万円が認められました。商標的使用も論点となっています。

◆イ号および本件商標


 原告各商標と被告各標章の外観を比較すると,上記のとおり,それぞれ1)英 文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯からなり,2)帯状線の輪郭が鋸歯状であるという点において共通しており,被告 各標章の外観は,原告各商標の外観と,その識別力の強い部分において共通する特 徴を有しているといえる。 他方で,被告各標章は,3)右上から左下に伸びる帯が左上から右下に伸びる帯の 上に重なっており,4)各帯の輪郭線に沿って,その内側にステッチがそれぞれ2本 施されているとの点で原告各商標とは異なる特徴を有しているが,同色の帯の重な りであって,ステッチも輪郭線の近くに施されているものであるから,いずれも一 見して目立つ特徴であるとまではいえない。また,被告各標章の色彩についても, 商品識別力の強い点とはいえない。 被告は,その他に別紙4被告が主張する原告各商標と被告各標章の外観相違点の とおり,原告各商標と被告各標章との間に,中心点から右下及び左下に伸びる部分 の長さの比,2つの帯のなす角度,帯の端部の形状,帯の太さ等において,相違点 があると主張するが,いずれも,上記1),2)の共通点を前提にすれば,需要者に対 して原告各商標と異なる印象を与えるようなものであるとまではいえない。 これらの争点について,被告は,靴という商品の性質や,被告商品の価格帯・販 売場所からすれば,需要者はそのデザインを細部まで入念に検討する等として,「X」 型十字の標章の細部に相違点がある場合には外観上類似性がないと判断されるべきと主張するが,上記に説示した内容に照らせば,この主張は採用することができな\nい。 したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とその外観において類似する というべきである。
イ 前記(2)及び(3)のとおり,原告各商標と被告各標章は,いずれも特定の称 呼・観念が生じるものではなく,これらが著しく相違するとは認められない。 また,本件証拠上,原告各商標と被告各標章につき,上記の外観の類似性にかか わらず,商品の出所を誤認混同するおそれがないとするような取引の実情等がある とも認められない。被告商品の価格帯・販売場所などの被告の指摘する前記事情に ついて,商品の出所の誤認混同の有無を判断する上で考慮すべき取引の実情として 検討しても,本件について,上記判断を左右するとはいえない。
ウ したがって,被告各標章は,いずれも,原告各商標とそれぞれ類似するとい うべきである。
2 争点2(非商標的使用(商標法26条1項6号)該当性)について
(1) 被告各標章は,別紙2被告標章目録のとおりであり,前記第2の2(3)イで 示したとおり,いずれも靴の甲の側面において,側方から見て概ね中央の位置に付 されている。 上記の位置は,靴の外観において特に目立つ部分ということができ,証拠(乙1, 2,4,5,6,7,12)によれば,靴において,当該部分に商標を付すことは 一般的に行われていることが認められる。また,証拠(甲26,27)及び弁論の 全趣旨によれば,被告商品を製造したミュニック社においては,スニーカー様の靴 の側面の中央の位置に傾いた「X」型十字を表\\示した平面図状の標章について国際 商標登録をしていたことも認められる。 そうすると,上記の位置に目立つ大きさで付されている被告各標章については, 商品識別機能を果たすものとして使用されていると認めるのが相当である。
(2) 被告は,被告商品においては,被告各標章の他にも,ミュニック社が商標登 録した別の標章の一部が,商品そのもの,包装箱及びタグに記されており,被告各 標章は単なるデザインとして使用されているにすぎない等と主張するが,他の登録 商標が付されていることによって,当然に被告各標章が商品識別機能を有しないということはできない上,証拠(乙13)によっても,被告商品に付されている他の\n登録商標(乙14)は,その位置や大きさからして被告各標章よりも際だって目立 つものであるとは認められず,そうであれば,被告商品に付されている他の登録商 標の使用は,被告各標章が商品識別機能を果たすものとして使用されている旨の前記判断を左右するものではなく,被告の上記主張は採用することができない。また,\nミュニック社商品において,被告各標章を使用していないスニーカーがあること (乙15,16)によっても,被告商品に付された被告各標章に出所識別機能がないということはできない。\n被告は,ミュニック社以外の靴について,「X」型十字が単なるデザインとして付されているものがあると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他の靴に付さ\nれていると指摘する「X」型十字は,その形状や位置において,被告各標章とは大きく異なるものであり,この点の指摘も上記(1)の結論を左右するものとはいえない。
(3) 以上によれば,被告商品に付された被告各標章が,需要者が何人かの業務に 係る商品である認識することができる態様により使用されていない商標(商 標法26条1項6号)に該当するとはいえない。
3 商標権侵害の有無についてのまとめ
以上によれば,被告商品は原告各商標権の指定商品に含まれるところ,被告各標 章はいずれも原告各商標とそれぞれ類似し,被告各標章の使用について商標法26 条1項6号によって原告各商標権の効力が及ばないとはいえないから,被告が,被 告各標章を付した被告商品を輸入し,販売することは,原告各商標権を侵害するも のとみなされる(商標法37条1項1号)。
4 争点3(原告の損害)について
(1) 商標法38条2項の適用の有無について
被告は,原告は対象期間のうち,少なくとも平成27年10月25日までの期間 については,原告各商標を使用したスニーカーを販売していなかったとして,同期 間の損害については,商標法38条2項は適用されないと主張する。 しかしながら,証拠(甲183)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,対象期間 を通じて,英文字の「X」型十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯状線からなり,帯状線の輪郭が鋸歯状であるという特徴を持つ,原\n告各商標と同一又は類似する標章を甲の側面部分に付したスニーカーを販売してい たものと認められる。 このように対象期間において原告が被告商品と競合する商品を販売していたこと からすれば,原告には,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益 が得られたであろうという事情が存在すると認められ,対象期間中の原告の損害額 の算定については商標法38条2項の適用があるというべきである。
(2) 被告が侵害の行為により受けた利益について
ア 利益の意義
被告商品の輸入販売について,商標法38条2項所定の侵害行為により被告が受 けた利益の額は,被告商品の売上高から,被告において被告商品を輸入販売するこ とによりその輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利 益の額である。
イ 事実認定
前記の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の輸入販売状 況及び売上高,経費等について,以下の事実が認められる。
(ア) 被告商品を含むミュニック社商品の輸入及び販売
被告は,遅くとも平成26年2月3日以降,被告商品を含むミュニック社商品を, ベルネダ社から輸入し,靴流通問屋や百貨店等に卸売していた(乙19,25,2 6)。 被告における対象期間中のミュニック社商品全体の販売額は,総額●(省略)● 円であった(乙20,21)。
(イ) 被告によるミュニック社商品の費用に関する管理
被告は,平成26年11月1日にミュニック社商品のみを扱うミュニック事業部 を設立し,同日以降はミュニック事業部において輸入販売の管理を行っていた。被 告は,ミュニック社商品について,同事業部の設立の前後を通じて商品別又は品番 別の経費の管理はしていなかった(乙19)。
(ウ) 被告商品の販売数量
被告商品については,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,被告各標章のうち「標章番号」欄記載の番号の標章が付された「商品名」,「品番」欄記載の商品名,品番を有するスニーカーを,それぞれ同別紙記載の数量輸入していた(弁論の全趣\n旨)。 また,平成29年4月7日時点の被告商品の在庫は別紙3被告商品販売一覧表の「在庫数量(4/7)」欄の記載のとおりであり(合計●(省略)●足),この在庫\nとは別に,被告は,同年9月ころに,輸入した被告商品のうち同別紙の「2017 /9/15返品」との記載の下に記載された数量(合計●(省略)●足)を仕入先 に返品した。 そうすると,対象期間中の被告商品の販売数は,輸入数量から上記の在庫数量及 び返品数量を控除した同別紙の「販売数量」欄記載の数量(その合計は●(省略) ●足)である(弁論の全趣旨)。
(エ) 被告商品の販売価格
被告商品それぞれの消費者への販売価格については,別紙3被告商品販売一覧表の「上代」価格のとおりである(被告商品の消費者への販売価格が1万5000円\nないし2万1000円程度であったとの当事者間に争いのない事実,弁論の全趣旨)。 そして,被告は,被告商品を靴流通卸問屋や百貨店に,上記の「上代」価格に別 紙3被告商品販売一覧表の「掛率」欄記載の割合を乗じた「販売価格」欄記載の価格で販売していた(乙19,25,26,弁論の全趣旨)。\n
(オ) 被告商品の仕入額
被告商品の1個当たりの仕入価格は別紙3被告商品販売一覧表の「輸入平均単価」欄に記載の金額であり,前記(ウ)の被告商品の販売数に対応する仕入額は同別紙の 「仕入額」欄記載のとおりとなり,合計額は●(省略)●円である(弁論の全趣旨)。 (カ) 諸掛(外注費)について 被告は,対象期間中に,ミュニック社商品の輸入販売に関して,被告での会計処 理において「諸掛(外注費)」の勘定科目において,「加工料」,「運賃」,「付属代」, 「関税」と「雑費」に分類した費用を次のとおり支出し,その合計は●(省略)● 円である(乙19,53,93,弁論の全趣旨)。
a 加工料について
加工料に分類された費用は●(省略)●円であり,これは主に輸入したミュニッ ク社商品を販売するための納品,入出庫,梱包等の作業のために被告が支払った費 用である(乙53,79,93,弁論の全趣旨)。このうち,商品値引き費用につい ては,ミュニック社商品を百貨店が値引販売した際に,被告が値引額を負担したも のである(乙19,弁論の全趣旨)。
b 運賃について
運賃に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは主に輸入の際の 運送費,海上運賃,航空運賃等として被告が支払った費用である(乙53,81〜 85,93,弁論の全趣旨)。 また,このうちTQ使用料については,革製品の輸入の際にその数量に応じて必 要となるものである(乙85,弁論の全趣旨)。
c 付属代について
付属代に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社 商品の販売に当たって被告が付していたタグや袋等の購入費用である(乙53,8 0,93,弁論の全趣旨)。
d 関税について
関税に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これはミュニック社商 品の輸入の際に支払った関税である(乙53,81〜83,86,87,93,弁 論の全趣旨)。
e 雑費について
雑費に分類された費用の合計額は●(省略)●円であり,これは,主にミュニッ ク社商品の輸入手続を依頼した業者に支払った通関料や手数料(取扱料)等の費用, 前記c及びdに計上されなかったTQ使用料や袋代,ミュニック社商品に付した輸 入保険料である(乙53,81,86〜88,93,弁論の全趣旨)。
(キ) 広告費について
被告は,対象期間中に,「広告費」の勘定科目において,ミュニック社商品の宣伝 のためのダイレクトメール作成費用,展示会や百貨店での催事に要した費用として 合計●(省略)●円を支出した(乙19,22〜24,54,63〜72,94, 弁論の全趣旨)。このうち,被告商品の写真のみを大きく扱ったダイレクトメールが 作成されていたことがある(乙22)。
(ク) 運賃について
被告は,対象期間中に,ミュニック社商品に関し,「運賃」の勘定科目において, 運送費,倉庫における入庫・梱包等に係る倉庫費用・出荷作業料,検品検査代その 他の国内での運送及び保管の費用として●(省略)●円の出費をした(乙19,5 5,89〜92,95,弁論の全趣旨)。
(ケ) 販売手数料について
被告は,対象期間中に,「販売手数料」の勘定科目において,ミュニック社商品の 販売に関して販売業務及び営業業務を委託した業務委託費用として,合計●(省略) ●円を支出した(乙56,96,弁論の全趣旨)。また,被告はミュニック社商品の 販売活動等に関してAとの間で業務委託契約を締結していた(乙27,弁論の全趣 旨)。
(コ) 荷造包装費について
被告は,対象期間中に,「荷造包装費」の勘定科目において,段ボール代,梱包テ ープ等のミュニック社商品の梱包資材費用として●(省略)●円の上記支出をした (乙57,97,弁論の全趣旨)。
(サ) 保険料について
被告は,対象期間中に,「保険料」の勘定科目において,ミュニック社商品の販売 に関して,火災保険料,損害保険料及び輸入保険料(ただし前記(カ)eで計上されな かったもの)として合計●(省略)●円を支出し,また,海外出張の際の傷害保険 料として●(省略)●円を支出した(乙19,58,98,弁論の全趣旨)。 このうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された合計●(省略) ●円については,毎回の保険料が定額でなく,補助元帳上,摘要欄に対象となる商 品数が記載されているものがある(乙58)。
(シ) 旅費交通費について
被告は,対象期間中に,「旅費交通費」の勘定科目において,ミュニック社商品の 営業等に要した交通費,国内出張費及び海外出張費として合計●(省略)●円を支 出した(乙59,99,弁論の全趣旨)。
(ス) 見本費について
被告は,対象期間中に,「見本費」の勘定科目において,ミュニック社商品販売の ためのサンプル購入費用や,スニーカーに関する書籍の購入費用として合計●(省 略)●円を支出した(乙60,100,弁論の全趣旨)。
(セ) 雑損失について
被告は,対象期間中に,「雑損失」の勘定科目において,為替予約を解約した際に発生した費用として,「為替予\約解約損」●(省略)●円を計上している(乙61,弁論の全趣旨)。
(ソ) 特別損失について
被告は,対象期間中に,「特別損失」の勘定科目において,ミュニック社商品を販 売していた恵比寿三越伊勢丹に支払った費用(広告費用,撤退費用,撤退違約金, B氏特別退職金)合計●(省略)●円を「恵比寿店舗撤退違約金」,「恵比寿店舗費 用等」,「恵比寿店舗撤退費用」及び「特別退職金」として計上している(乙32, 弁論の全趣旨)。
ウ 事実認定の補足
(ア) 輸入数量について,原告は,被告から,被告各標章が付された商品のインボ イスとして,被告商品の品番についてマスキングをした上で開示を受けたものの, 開示資料に裏付けられる前記イ(ウ)認定の数量以外にも,被告商品の輸入数量がある 旨を主張するが,原告が被告商品に関するインボイス等を対象として行った文書提 出命令の申立ては,後記5のとおり必要性がなく,その他,原告の主張を認めるに足りる証拠はない。\nまた,被告標章19を付した商品については,原告がその商品の商品名及び品番 として特定する「MASSANA」及び「862015」と,被告標章3の2を付 した商品の商品名及び品番とが同一であり,外観も,被告標章3の2を付した商品 とソールの色を除いて類似していると認められる(甲11,198,弁論の全趣旨)踏まえると,被告標章3の2を付した商品の輸入に関して被告から原告に開\n示され,それに沿うものとして認められる前記イ(ウ)の数量とは別に,輸入された事 実やその数量はないと考えることが自然であって,これを認めるに足りる証拠はな い。
(イ) 前記イ(カ)ないし(ソ)認定の費用を超えて,ミュニック社商品に関する費用を 認めるに足りる証拠はない。
エ 検討
前記イの認定事実を基に,限界利益の額を検討する。
(ア) 被告商品の売上高
前記イ(ウ)及び(エ)によれば,対象期間における被告商品の売上高は,別紙3被告 商品販売一覧表の「売上高」欄のとおりであり,合計●(省略)●円である。
(イ) 売上高から控除すべき経費
a 売上高から控除すべき経費として,まず,被告商品の仕入額があり,前記イ (オ)のとおり,●(省略)●円である。
b その他,売上高から控除すべき経費としては,前記イ(カ)の外注費,前記イ (キ)の広告費,前記イ(ク)の運賃,前記イ(コ)の荷造包装費及び前記イ(サ)の保険料 (傷害保険料を除く。)のうち,それぞれ被告商品に係る部分が,前記認定した各費 用の性質上,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となったものとして, 該当すると認められる。そして,前記イ(イ)のとおり,被告は,ミュニック社商品の 経費について商品別又は品番別に管理しておらず,上記各費用の被告商品に係る部 分を直接的に示す資料はないことから,ミュニック社商品の販売総額に占める被告 商品の割合,被告商品の輸入数量に占める販売数量の割合などを考慮して,被告商 品に係る費用の額を算出するのが相当であり,これは,次のとおり,合計●(省略) ●円であると認められる。
(a) 外注費については,対象期間中の被告におけるミュニック社商品全体の販売 総額●(省略)●円に占める被告商品の販売総額●(省略)●円の割合(以下,こ の割合を「被告商品の販売総額の割合」ともいう。)が約●(省略)●%であること, 被告商品の輸入数量●(省略)●足のうち対象期間中に販売された数量●(省略) ●足の占める割合が約●(省略)●%である踏まえ,被告商品に係る費用の 額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略)●円と認められる。
(b) 広告費については,上記の被告商品の販売総額の割合が約●(省略)●%で あることに加え,ミュニック社商品の広告宣伝活動の中で,被告商品が取り上げら れた程度や被告商品の広告宣伝のみに要した額を確定し得る証拠はない考慮 し,被告商品に係る費用の額は,全体の●(省略)●円の15%に当たる●(省略) ●円と認められる。
(c) 運賃については,前記(a)において考慮したものと同様の事情のほか,輸入 に要した費用の場合と比較して,国内の運送保管費の場合には,販売されなかった 商品に係る費用の占める割合が少ないと考えられることも考慮し,被告商品に係る 費用の額は,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(d) 荷造包装費については,前記(c)において考慮したものと同様の事情を考慮 し,全体の●(省略)●円の20%に当たる●(省略)●円と認められる。
(e) 保険料のうち,火災保険料,損害保険料,輸入保険料として支出された● (省略)●円については,前記イ(サ)において認定した,毎回の保険料が定額でない ことや対象となる商品数の記載が帳簿に示されていることなどの事情を踏まえれば, 輸入販売数量によって変動するものとして控除すべき経費と考えられ,被告商品に 係る費用の額は,前記(a)において考慮したものと同様の事情を考慮し,上記金額の 15%に当たる●(省略)●円と認められる。
c その他の費用については,次のとおり,被告商品の輸入販売に直接関連して 追加的に必要となった経費とはいえず,売上高から控除すべき経費には当たらない。
(a) 前記イ(ケ)の販売手数料は,百貨店のミュニック社商品の売り場へのミュニ ック社商品販売員派遣に関する人件費や交通費といった費用(乙78,弁論の全趣 旨),ミュニック社商品の販売活動等に関する業務委託先への報酬額(乙27,弁論 の全趣旨)であるが,これらの費用と被告商品の販売との関連性などは明らかでは なく,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。
(b) 前記イ(サ)の保険料のうち,前記b(e)でその一部を控除すべき経費と認めた 火災保険料等を除くもの,すなわち傷害保険料は,海外出張費に付随する費用であ り,後記(c)のとおり,海外出張費は控除すべき経費に該当しないことからすれば, 同様に控除すべき経費には該当しないものというべきである。 (c) 前記イ(シ)の旅費交通費のうち,交通費及び国内出張費は,その支出と被告 商品の販売との関連性について具体的な主張立証はなく,控除すべき経費には該当 しない。海外出張費については,被告が提出する出張報告書等(乙28)によって も,これらの海外出張が特に被告商品の輸入販売のために必要となった認め るに足りず,被告商品の輸入販売に直接関連して追加的に必要となった経費とはい えない。
(d) 前記イ(ス)の見本費については,サンプル商品や書籍の購入が被告商品に関 するものであることの具体的な主張立証はなく,被告商品の輸入販売に直接関連す る経費とはいえない。
(e) 前記イ(セ)の雑損失は,為替予約を解約した際に発生した費用であり,その性質からしても,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえない。\n
(f) 前記イ(ソ)の特別損失のうち,恵比寿三越伊勢丹に支払った撤退違約金,撤 退費用,営業担当者の特別退職金については,販売不振からミュニック社商品の恵 比寿三越伊勢丹での販売を終了したことによって発生したものにすぎないし,恵比 寿店舗費用等についてはこの発生原因や被告商品との関連性について具体的な裏付 けはないのであって,いずれも,被告商品の輸入販売に直接関連する経費とはいえ ない。
(ウ) 限界利益の額
以上によれば,対象期間における被告商品の輸入販売により,被告が受けた限界 利益の額は,前記(ア)の被告商品の売上高●(省略)●円から,前記(イ)aの被告商 品の仕入額●(省略)●円及び同bのその他の控除すべき経費●(省略)●円を控 除した583万0211円である。
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価\n格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。
(ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。 原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。
(イ) 競合品の存在について
被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,被告商品の他にも市場に多数存在していると主張するが,証拠(乙1)によれば,被告が他のスニー\nカーに付されていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商標とは大きく異なるものであり,その他,原告各商標と同一又は類似の標章が付さ\nれた原告又は被告以外によるスニーカーの存在とそのシェアについての具体的な主 張立証はないから,この点も損害額の推定を覆滅すべき事情には当たらない。
(ウ) 被告の営業努力,ブランド力の差等について
被告は,被告商品を販売するための営業努力,原告と被告とのブランド力の差, 原告各商標の訴求力の程度等からすれば,原告各商標の被告商品の売上げへの寄与 率は著しく低いとも主張するが,被告が作成した展示会の資料においてもミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされており,被告が前 記(2)イ(キ)のように被告が広告宣伝活動を行った考慮しても,対象期間中に おける日本においてのブランドの知名度の程度を裏付ける証拠はなく,他方で,証 拠(甲170〜176,180〜182)及び弁論の全趣旨によれば,原告各商標 に関する販売,広告宣伝状況については,平成14年頃から原告各商標と同一又は 類似の標章が付されたスニーカーが原告が許諾した業者によって販売されており, 有名歌手がこれを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,上記の被告の主張する各点をもって,推定覆滅事情に当た るとは認められない。
ウ 前記ア及びイで検討した事情によれば,被告商品の輸入販売による原告の損 害については,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情が認められ,その覆滅割 合は2割と認めるのが相当である。
(4) 損害額についてのまとめ 以上によれば,被告商品の輸入販売による原告各商標権侵害について,商標法3 8条2項に基づく原告の損害額は,被告の限界利益である583万0211円の8 割に相当する466万4168円であると認められる。

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令和1(ネ)10069    商標権  民事訴訟 令和2年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 質問用紙の表紙上部の「MMPI−1 性格検査」、ソフトのパッケージの表\紙の「MMPI−1性格検査」、診断結果書左上の「MMPI−1自動診断システム」との表記が商標「MMPI」の侵害となるかが争われました。指定役務は「第44類 心理検査」です。 知財高裁は、「商26条により効力が及ばない」と判断した原審判断を維持しました。

 (ア) 被告各標章は,「MMPI−1」の部分と「性格検査」,「回答用 紙」又は「自動診断システム」の部分とを結合した標章である。 平成29年4月1日当時において,需要者の間で,「MMPI」の表\n示は,ハサウェイとマッキンレーが開発した心理検査である「Minnesota Multiphasic Personality Inventory」(ミネソタ多面的人格目録)(本\n件心理検査)又はその略称を表すものであることが広く認識されていた\nこと(前記(2)ア),ハイフン記号と数字を組み合わせてバージョンを示 すことが一般的に行われていること(甲4,87,乙5)を踏まえると, 被告標章1(「MMPI−1 性格検査」)に接した需要者は,被告標 章1は,「MMPI−1」という名称の「性格検査」を示したものと理 解し,被告標章1における「−1」のハイフン記号及び数字部分は,「M MPI」のバージョンを,「MMPI」の文字部分は,ハサウェイとマ ッキンレーが開発した本件心理検査を示したものと認識するものと認め られる。また,被告標章3又は被告標章5に接した需要者は,上記と同 様に,被告標章3又は被告標章5は,「MMPI−1」という名称の「性 格検査」を示したものと理解し,「MMPI」の文字部分は,ハサウェ イとマッキンレーが開発した本件心理検査を示したものと認識するもの と認められる。 次に,被告標章2(「MMPI−1 回答用紙」)に接した需要者は, 被告標章2における「MMPI」の文字部分は,ハサウェイとマッキン レーが開発した本件心理検査を示したものと認識し,被告標章2は,本 件心理検査に用いられる「回答用紙」であることを示したものと理解す るものと認められる。 さらに,被告標章4(「MMPI−1自動診断システム」)に接した 需要者は,被告標章4における「MMPI」の文字部分は,ハサウェイ とマッキンレーが開発した本件心理検査を示したものと認識し,被告標 章4は,本件心理検査の診断結果を作成する自動診断システムであるこ とを示したものと理解するものと認められる。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告各標章に接した需要者は,被告各標章にお ける「MMPI」の文字部分をハサウェイとマッキンレーが開発した本 件心理検査を示したものと認識するものと認められるから,「MMPI」 の文字部分は,心理検査の内容を示したものと認められる。 そして,法26条1項3号の役務の「質」には役務の「内容」が含ま れるから,被告各標章における「MMPI」の文字部分は,本件商標の 指定役務である「心理検査」の質を示したものと認められる。 次に,前記ア認定の被告各商品及び被告広告における被告各標章の表\n示態様によれば,被告各標章における「MMPI」の文字部分は,いず れも,その文字の大きさ,フォント及び表示位置等に顕著な特徴がある\nとはいえず,取引上一般に用いられている方法で表示したものと認めら\nれるから,本件商標の指定役務「心理検査」の質を「普通に用いられる 方法」で表示したものと認められる。\n
ウ まとめ
以上によれば,「MMPI」の文字部分を含む被告各標章は,本件商標 の指定役務「心理検査」の「質」又は当該指定役務に類似する商品の「品 質」を「普通に用いられる方法」で表示する商標に該当するものと認めら\nれるから,法26条1項3号に該当する。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)38481

関連事件です。

◆平成29(ワ)22922

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