知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

技術的範囲

令和1(ネ)10081  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について、知財高裁(4部)も技術的範囲に属しないと判断しました。

 以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書 の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座\n標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力 手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表\示され,利 用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるよう\nに構成されていることを要するものと解される。\n
イ これに対し控訴人は,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,命令の「対\n象」や「内容」のいずれかを,小さな絵で表現したものが,「実行される\n命令結果を利用者が理解できるという動作・作用を目的・目標として構成\nされている画像データ」であって,「画面上のどの座標位置・範囲に表示\nするかという表示位置・範囲に関する情報」を含むものである旨主張する。\n しかしながら,本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載中には, 「操作メニュー情報」が「実行される命令結果を利用者が理解できるとい う動作・作用を目的・目標として構成されている画像データ」であること\nの根拠となる記載は存在せず,控訴人の上記主張は,特許請求の範囲の記 載に基づかないものであるから,採用することができない。
 (3) 被告製品における「操作メニュー情報」(構成要件B)の具備の有無につ\nいて
控訴人は,1)被告製品の本件ホームアプリにおける「上ページ一部表示」\n及び「下ページ一部表示」は,その内容や表\示位置からすれば,これを見た 利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる から,利用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から, 所望の命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当た り,「操作メニュー情報」に該当する,2)被告製品における「左上領域」(別 紙参考図の図1記載の左側の赤色の点線枠内),「右上領域」(同図1記載 の右側の赤色の点線枠内),「左下領域」(同図2記載の左側の赤色の点線 枠内,同図3のB記載の左側の画像)及び「右下領域」(同図2記載の右側 の赤色の点線枠内,同図3のB記載の右側の画像)は,「操作メニュー情報」 に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,被告製品の構成エ(ウ),(エ),オ(ウ)及び(エ)及び 別紙「乙2の2の説明図」によれば,被告製品においては,1)利用者が, 移動させたいショートカットアイコンをロングタッチし,ドラッグ操作を することにより当該ショートカットアイコンを移動させ,ロングタッチし た位置と当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパ ネル上の位置が約110ピクセル離れた場合に,その際のページ画面が縮 小表示されるとともに,そのページ画面のページ番号に応じて,当該ペー\nジが上端ページであれば1つ下のページの一部の画像である「下ページ一 部表示」のみが,下端ページであれば1つ上のページの一部の画像である\n「上ページ一部表示」のみが,それ以外のページであればこれらがいずれ\nもIGZO液晶ディスプレイに表示される「縮小モード」となること,2) 「縮小モード」の状態で,「上ページ一部表示」が表\示されているとき, 利用者が当該ショートカットアイコンをドラッグしている指等及びマウス カーソルの先端の座標位置を「左上領域」又は「右上領域」のいずれかの\n範囲に入れたときは,上ページスクロール1又は上ページスクロール2を 生じさせる命令が実行され,また,「縮小モード」の状態で,「下ページ 一部表示」が表\示されているとき,利用者が当該ショートカットアイコン をドラッグしている指等及びマウスカーソルの先端の座標位置を「左下領\n域」又は「右下領域」のいずれかの範囲に入れたときは,下ページスクロ ール1又は下ページスクロール2を生じさせる命令が実行されることが認 められる。
イ しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\ 示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」 の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表\示される長方形状 上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を\n表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表\示自体 から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているも\nのと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のペ ージの一部を表示した画像である「上ページ一部表\示」又は「下ページ一 部表示」を見て,「上ページ一部表\示」又は「下ページ一部表示」までド\nラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることがで きるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたと しても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表\示」の表示\n自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経 験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎ ないものといえる。 したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表\示」 は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解でき\nるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,\n構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。\n
ウ 次に,前記アの認定事実によれば,被告製品における「左上領域」,「右 上領域」,「左下領域」及び「右下領域」は,いずれも,被告製品の出力 手段であるIGZO液晶表示ディスプレイの画面上の特定の座標位置で囲\nまれた領域であり,その領域は,画面上に画像データとして表示されてい\nるものではなく,利用者が画面上で認識できるものではない。 したがって,被告製品における「左上領域」,「右上領域」,「左下領 域」及び「右下領域」は,出力手段に表示され,利用者が「実行される命\n令結果」を理解できるように構成されている「画像データ」であるものと\n認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当し\nない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)8302

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ワ)2210 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月11日  東京地方裁判所

 東京地裁(46部)は、コンピュータ関連発明について、技術的範囲に属すると判断しました。なお、被告は無効理由を主張しましたが、該当しないと判断しています。

 本件発明1−1の特許請求の範囲の記載をみると,本件発明1−1は, 「患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1 取得部と」(構成要件1−1A),「前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否\nかを判定する第1判定部と」(構成要件1−1B)を有するものであり,第1判定部において第1判定をする。また,「前記第1判定部で一致すると\n判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情 報を前記端末装置から取得する第2取得部と」(構成要件1−1D),「前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらか\nじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判 定部と」(構成要件1−1E)を有するものであり,第2判定部において第2判定をする。\n
ここで,第1判定と第2判定の関係について,特許請求の範囲には,「前 記第1判定部で一致すると判定された場合に」(構成要件1−1D),第1医師等識別情報が取得されて第2判定がされることが記載されている。こ\nのことから,第1判定で一致すると判定されることが,第2判定がされる ことの前提であることが記載されているといえる。もっとも,第1判定と 第2判定との時間的な接着性の有無等についての記載はない。 そこで,本件明細書1をみると,本件明細書1には,実施の形態1ない し4が記載されている。実施の形態1では,第1判定や,第1判定で一致 するとの判定がされて患者の医療情報を出力することについての実施の 形態(構成要件1−1Aないし1−1C)が記載されているが,第1判定で一致するとの判定がされた直後に第2判定がされるとか,第1判定は,\n第2判定がされる都度にされるものであるなど,第1判定と第2判定の時 間的関係やその機会についての記載はない。そして,実施の形態1では, 患者が,患者の手に巻いており識別情報を含むリストバンドのバーコード を端末装置の撮像部で撮像することによって第1判定がされる(段落【0 045】)。そして,第1判定で一致するとの判定がされた場合には,「患者 用画面」が生成,表示され(段落【0047】ないし【0050】),患者用画面には検査の予\定や患者への注意事項が表示されるなどし(【004\n3】【図7】,患者はその画面を確認することで患者に対して行われる医療 行為等を知ることができ(段落【0019】),その患者用画面に対し,患 者が,例えば,検査ボタンをタッチすると検査名欄や検査説明欄が表示された検査表\示画面が生成,表示されることが記載されている(段落【00\n51】等)。また,第1判定で一致するとの判定がされて患者用画面が表示(ステップS21)されると検査ボタンや手術ボタンの入力を受け付ける\nようになり,その入力がされた場合には対応する画面の表示処理がされるが,入力がされなかったり,上記対応する画面の表\示処理がされたりした後には,患者用画面の表示に戻ることが記載されている(段落【0065】ないし【0068】,【図12】)。\n
実施の形態2は,看護師が患者の医療情報を確認するための看護師専用 画面を表示部に表\示する実施の形態であり,主に構成要件1−1Dないし1−1Fに対応する実施の形態が記載され,特に説明する構\成等以外は実施の形態1と同じであることが記載されている(段落【0088】)。そこ では,患者用画面が表示部に表\示された後,看護師が,自身のリストバン ドに記載されたバーコードを撮像部で撮像し,第2判定がされることが記 載されている(段落【0091】)。また,第2判定が一致した場合には医 療スタッフ用画面が表示されるところ,医療スタッフ用画面である看護師専用画面,バイタル画面等の表\示後に終了処理(ステップS120)がされると,患者用画面の処理(ステップS23)に移ることが記載されてい る(段落【0122】【図26】【図12】)。そこには,上記の他に,第1 判定と第2判定との関係についての記載はない。 また,実施の形態3は主に第1判定に関係する記載であり(ただし,請 求項2に関する形態),実施の形態4は,第2判定に関係する記載である が,それらの記載も含めて,本件明細書1に,第1判定と第2判定との時 間的接着性についての記載はない。 本件明細書1における背景技術や発明が解決しようとする課題の記載 によれば,医療情報を医療用サーバから取得し,取得した医療情報に基づ いてピクトグラムを表示する端末装置という従来技術ではセキュリティを確保することが難しかったところ,本件発明1−1は,セキュリティを\n従来技術より向上させることができるというものである(段落【0003】 ないし【0006】)。本件明細書1には,本件発明1−1について,上記 のとおり,従来技術よりセキュリティを向上させることが記載されている が,その記載のほかには従来技術と比較した優れた効果についての記載は ない。
以上の特許請求の範囲の記載や本件明細書1の記載に照らせば,第2判 定は,第1判定で一致すると判定された場合にされるものである。しかし, 本件明細書1には,実施の形態として,患者がその手に巻いているリスト バンドのバーコードを端末装置の撮像部で撮像することによって第1判 定がされ,一致すると判定された場合に患者用画面が表示され,それに対して患者が一定の操作をする形態が記載されている。そして,患者用画面\nの表示後に,医療スタッフがそのリストバンドのバーコードを撮像部で撮像することで第2判定がされ,そこで一致すると判定されると医療スタッ\nフ用画面が表示されるが,その終了処理後は,患者の医療情報を表\示する 患者用画面の表示に戻ることも記載されている。これらに照らすと,本件発明1−1において,第2判定がされるのは,第1判定で一致すると判定\nされた場合ではあるが,第1判定で一致するとされた後に患者による一定 の操作がされ,その後に第2判定がされることや,第1判定で一致すると 判定されて第2判定がされて第2判定で一致するとされて看護師等が必 要とする医療情報を含む表示画面が出力された後に,第1判定で一致すると判定された後と同じ,患者の医療情報を表\示する患者用画面に戻り,その状態から再び第2判定がされることがあり得ることが記載されている といい得る。
以上によれば,本件発明1−1において,第2判定がされるのは第1判 定で一致すると判定された場合であるが,第1判定がされるのは第2判定 がされる直前に限られるとか,第2判定がされる前にその都度第1判定が されるとは限られないと解するのが相当である。このように解したとして も,第1判定がされてそこで一致すると判定されない限り第2判定はされ ず,第2判定において一致すると判定されない限り看護師等が必要とする 医療情報を含む表示画面が表\示されることはないから,本件明細書1に記 載されたセキュリティの向上という効果を奏するといえる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)21448  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年7月9日  東京地方裁判所

 被告製品は構成要件を有していない、さらに、進歩性違反の無効理由ありとの判断されました。同時期に継続していた審取の判断については「証拠が異なる」として、審理再開の 必要なしと判断されました。

イ 本件発明の技術思想(課題解決手段)について
前記(1)によれば,本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に\n関し,輸送する際に幅を狭くする必要があったところ,従来技術において は,円弧状歯車片同士の端部が当接されず,その隙間から内部の転動体が こぼれ落ちてしまうため,標準的なベアリングを使用することができない という課題が生じていたので,これを解決するため,構成要件Eに係る構\ 成を採用し,円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成し,もって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると\n共に,転動体がこぼれ落ちなくなり回転を安定させることができ,標準的 なベアリングを使用して装置を安価に構成することができるようにした\nという技術的思想であるものと認められる。すなわち,本件発明において, 円弧状ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付 ベアリングを構成するという技術的意義を有しているものというべきで\nあり,このことは,前記のとおり,課題解決手段の欄(段落【0011】) において,「円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリン グを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ\n落ちない構造になっている。かかる構\成によって,分割して幅方向の寸法 を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安 定させることができる。」と記載されていることからも根拠付けられるも のである。
ウ 構成要件Eへの被告製品の充足性について\n
しかして,構成要件Eには,円弧状ベアリング片が「それぞれの両端部\nを各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」との文言が記載され\nているところ,「接続」とは「つなぐこと。つながること。続けること。続 くこと。」を意味するものである(広辞苑第7版)。そうすると,その文言 の一般的意義,上記の本件発明の技術的思想(本件発明において,円弧状 ベアリング片は,それぞれ両端部を隙間なく接続して環状の歯車付ベアリ ングを構成するという技術的意義を有しているものであること)に照らせ\nば,環状の歯車付ベアリングを構成するために隙間なく接続する部品,す\nなわち,つなぐ部品が円弧状ベアリング片であって初めて,円弧状ベアリ ング片が「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構\n成する」といえるものであると解するのが相当である。そうすると,環状 の歯車付ベアリングを構成した際に,円弧状ベアリング片の両端部に隙間\nが有るならば,「接続」とは評価し難いものというべきである。 しかるに,前記アによれば,被告製品においては,環状の歯車付ベアリ ングは,2つある分割フレーム14に設けられた内外輪部ケースそれぞ れの両端部及び回転リング部材51−3,51−4それぞれの両端部を 隙間なく接続して構成するものであって,分割内輪部23や分割外輪部\n24それぞれの両端部を隙間なく接続するものでも,つなぐものでもな く,円弧状ベアリング片である円弧状部材36,37それぞれの両端部 には,客観的に隙間があるから,被告製品の円弧状部材36,37は 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成す\nる」ものであるとはいえず,被告製品は,構成要件Eを充足しないもの\nというほかない。
・・・
以上によれば,本件特許は当業者が乙2発明に基づいて容易に発明するこ とができたもの(特許法29条2項)であるから,特許無効審判により無効 にされるべきもの(同法123条1項2号)である。 なお,本件特許については,知的財産高等裁判所令和2年(行ケ)第10 102号事件同2年3月24日判決(裁判所ホームページ)が,特許無効審 判請求の不成立審決に対する取消請求を棄却しているところ,原告は,これ を理由として,口頭弁論再開の申立てをしているが,同判決は,乙2発明を\n主引用発明とし,乙20発明を副引用発明として適用することに基づく進歩 性の欠如については判断しておらず,上記判断は同判決と矛盾するものでは ないから,再開の必要性は認められない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> 裁判手続
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)35157  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月24日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。 損害額の算定について、2件の特許侵害があり、102条2項による額はいずれかの特許の侵害による損害額であると判断されました。

 しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特 許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく 請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10 2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅 延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる 場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許 権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。 そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原 告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等 の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を 下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や 損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を, 原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。 そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について 検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア 前記前提条件(4)(5)のとおり ,被告LEDは被告製品に搭載されて販 売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能\をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとしてもLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事\n実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告 製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような 被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい うことは困難というべきである。 そして,前記前提条件(4)のとおり被告製品の販売による利益額は、被 告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円 であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製 品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円 (≒●(省略)●円×〔1−0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算 すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米 ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格 の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお, 証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし 900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの 単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。\n以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相 当である。
イ これに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利 益額は100円を下回らない旨主張する。 しかしながら,前記前提条件(4)によれば 被告製品の販売による利益額 は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)● 円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円 (≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる 利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約 ●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって, 上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に 照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用 できない。
ウ 以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の 額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損 害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
・・・
(3) 推定覆滅事由について
ア 証拠(甲68〜77,183〜186)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 自社の商品を,主に靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売 し,その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であり,原告が, 対象期間中に原告各商標と同一ないし類似する商標を付したスニーカー(甲183) を販売した際の売上げは一足当たり3000円程度であったと認められる。 他方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は主に百貨店等の 店頭で販売されたものであり,別紙3被告商品販売一覧表記載のとおり,その小売\n価格は1万5000円から2万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価 格は●(省略)●円から●(省略)●円であったと認められる。 被告商品の販売による一足平均の限界利益は前記(2)エ(ウ)で認定した583万0 211円を,前記(2)イ(ウ)で認定した販売数量である●(省略)●足で除した● (省略)●円であり,原告が販売した競合品の一足当たりの限界利益を裏付ける証 拠はないが,上記の原告が販売した競合品の価格自体や,被告商品における一足当 たりの売上額が原告による競合品よりも大幅に高かったことからすれば,販売され た商品一足当たりの限界利益についても,被告商品の方が原告の商品よりも大きか ったものと推認される。 このような販売態様や販売価格の違い及び一足当たりの限界利益の違いは,被告 の限界利益額の一部について,商標法38条2項の推定を覆滅すべき事情として考 慮すべきである。
イ 他方で,被告が主張するその他の事情については,以下のとおり,いずれも 商標法38条2項の推定覆滅事情として考慮すべき事情とはいえない。 (ア) 原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことについて 被告は,原告が販売していた商品の多くには,原告各商標と同一又は類似の標章 が付されておらず,被告商品の販売によって,原告の売上げが減少したという関係 にないと主張する。
原告は,原告各商標と同一又は類似する標章を使用したスニーカーを販売してお り,被告による被告商品の輸入販売行為がなかったならば利益が得られたであろう という事情が原告に認められることは前記(1)のとおりであり,原告が上記のスニー カー以外に原告各商標と類似する標章が付されていない靴を販売していたとの事情 は,損害額の推定を覆滅すべき事情に当たるとも認められない。

◆判決本文

◆イ号および本件商標

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ネ)10016  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年5月27日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁(4部)は、侵害しないとした1審判決を変更して、約2000万円の損害賠償を認めました。原審は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の液滴」を噴射するものではなく,クレームの「液体を微粒子に噴射する」を充足するものと認められないと判断していました。

(イ) これに対し被控訴人は,1)イ号製品においては,供給口(5)から 供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A ')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で 下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ, 空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23 の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面 に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,\n高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,2) 構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,\n「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾 斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。\n しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記1)について
乙23の鑑定書には,1)液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾 斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重 とで傾斜面に沿って流れること,2)気体が傾斜面に平行に流れる場合, 気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,3)液体には,高速の気 流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴 の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該 傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の 一般原理である旨の記載がある。 しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設 置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって, イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方 向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高 速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域 (7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記 (ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力 が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。 したがって,被控訴人の上記1)の主張は理由がない。
b 上記2)について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子 径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒\n子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難\nしく,調整がずれると微粒子の粒子径は20〜30μm以上に急激に 大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について 「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー\nの衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」 (【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この 構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1〜5μmの微粒子\nとして噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本 発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して, 粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0 072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微 粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を 「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。 さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部 で極めて目詰まりしやすい欠点があります。・・・にもかかわらず,内部 混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは, 安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混 合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混 合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射\nできる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10 μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能\nです。・・・それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や, 極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平 滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行〜7頁2 行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極 めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との\n記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面 を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして 微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴\n霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」 の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述 べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子\nを意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお りである。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成27(ワ)12965

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)22010 実用新案権侵害差止等請求事件  実用新案権  民事訴訟 令和2年2月5日  東京地方裁判所

 実用新案登録に基づいて、損害賠償請求が認められました。争点は、技術的範囲、間接侵害、無効(冒認)、先使用権と多いです。無審査登録の実案なので、訂正したあと評価書請求をして警告後の権利行使です。

 ア 構成要件Dは,取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐により取出し筒から引き出した命綱の周囲を緊縛して,取出し筒の開口部を密閉する」というも\nのであり,それによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損な わないという作用効果を奏するものであるところ(前記1(1)ア(イ)),上記の「緊 縛」については,「きつくしばること」という一般的な字義(乙1)のとおり,口 紐により命綱の周囲をきつく縛ることを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は,「緊縛」は,口紐を取出し筒の先端部に巻き付け,その両端を絡ま せてつなぎ合わせることを意味すると解すべきであるとし,その理由として,1) 「縛る」に「ひもや縄などを巻き付けて結び,離れたり,動いたりしないようにす る」という字義があり,「結ぶ」に「ひも・帯などの両端をからませてつなぎ合わ せる」という字義があること,2)本件明細書の図4に,口紐を筒部先端部に巻き付 け,その両端を絡ませてきつく縛り,筒部の開口部を密閉する態様の実施例が示さ れていることなどを主張する。 しかしながら,被告が主張するような態様によらなくとも,筒部の開口部を密閉 することによって,取出し筒から空気が漏れるのを防止し,冷却効率を損なわない という作用効果を奏することは可能であると考えられるところ,上記1)については, 「緊縛」の一般的な字義を離れて,その意味を過度に限定するものであり,上記2) についても,実施例にすぎず,本件明細書の考案の詳細な説明において,口紐を筒 部先端部に巻き付け,その両端を絡ませてきつく縛る態様のものでなければならな いとする説明もみられないことなどに照らせば,いずれの主張も採用することはで きず,「緊縛」がそのような態様のものに限定されると認めることはできない。
(2) 被告製品
これを被告製品についてみると,前記第2の2(6)のとおり,被告製品は,ランヤ ード取出し筒の筒部先端近傍に口紐を設け,「口紐をランヤード取出し筒から引き 出したランヤードの周囲に巡らせ,コードストッパーを用いて筒部先端部分を収縮 させることにより,ランヤードを固定して,ランヤード取出し筒の開口部を密閉す る」という構成(構\成d)を有するところ,コードストッパーを用いるものであっ たとしても,口紐により命綱の周囲をきつく縛ることにより,筒部の開口部を密閉 するものである認められるから,構成要件Dを充足する。したがって,被告製品は,文言上,本件考案の技術的範囲に属する。\n 3 争点3(被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い る物か)について
前記第2の2(6)イ認定のとおり,被告製品3及び6は,服本体のみで販売されて いる製品であり,ファン等を取り付け又は収納することによって,本件考案の技術 的範囲に属する被告製品と同様の構成を備えるものとなると認められるから,被告製品と同様に,構\成要件Dを充足する。
そして,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を着用できるようにするために 空調服の背中部分にランヤード取出し筒を設けたものであり,そのような構成を有しない通常の空調服と比べて販売単価が高いものであること,具体的には,前記1\n(1)カ(イ)認定のとおり,被告各製品の販売単価とこれらに対応するものとして被告 が販売している通常の空調服の販売単価を対比すると,被告製品1及び4は約1 5%,被告製品2及び5は約23%,被告製品3及び6は約48%割高であること, 同(ウ)認定のとおり,被告の空調服のカタログに,「ウェアのみ」の製品は「洗い 替え用やファン・バッテリーなどをお持ちの方向けのウェアのみです。」と記載さ れ,被告製品3及び6は「フルハーネス安全帯着用者専用空調服です。背中部分か らランヤードを取り出すことができます。もちろん空気は逃がしません。・・・」など と記載されていることなどからすると,被告製品3及び6は,ハーネス型安全帯を 着用するために販売されている製品であると認めるのが相当であり,ハーネス型安 全帯を全く利用しない使用形態は,経済的,商業的,実用的な用途として想定され ていないというべきであるから,本件登録実用新案に係る物品である被告製品の製 造のみに用いるものと認めるのが相当である。 したがって,被告製品3及び6は本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ用い る物(実用新案法28条1号)に当たる。
・・・
5 争点5(被告は先使用による通常実施権を有するか,又はセフト社の先使用 による通常実施権を援用することができるか)について
(1) 被告各製品の製造等に関し,被告らが先使用による通常実施権を有するとい うためには,被告らにおいて考案の実施である「事業の準備」(実用新案法26条, 特許法79条)をしていたこと,すなわち,その考案につき,いまだ事業の実施の 段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意 図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを要するものと解される(特許法79条に関する最高裁昭和61年(オ)第454号同年10月3日\n第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
(2) これを本件についてみると,本件出願日までの被告らにおけるフルハーネス 対応空調服の開発状況等は前記1(1)エ認定のとおりである。すなわち,1)被告ら代 表者は,平成27年3月3日頃,背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐様のものなどを用いて縛る構\成を有する空調服に係る着想を得て,その構成を手書きで図示した乙11図面を作成し,同月4日,そのデータをゼハロスに送信して,試作品の作成を依頼したこと,2)ゼハロスは,同月31日までに, 背中部分に先端が開口した筒状の出口を設け,その先端部分を紐及びコードストッ パーを用いて縛る構成を有しており,被告各製品と同様の構\成を有する本件試作品 を作成したこと,3)被告らは,同年4月7日,被告において購入したハーネス型安 全帯を用いて本件試着品の試着をしたことが認められる。 しかしながら,フルハーネス対応空調服の構成に係る手書き図面が作成され,その試作品を作成して,社内でその試着をしたからといって,被告らにおいて,即時\n実施が可能な状況にあったかは必ずしも明らかとはいえないところ,前記第2の2(5)認定のとおり,被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのは平成28年5 月であり,本件試作品が作成され,試着された平成27年3月及び同年4月から1 年以上を要したことにも照らせば,本件出願日の時点では,少なくとも,本件考案 の実施に当たる被告各製品の事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識さ れる態様,程度に表明されていたということはできないというべきである。\n
(3) 被告は,1)被告ら代表者は,平成27年3月4日,本件考案の構\成が記載さ れた乙11図面のデータをゼハロスに送信し,試作品の作成を依頼しているところ, フルハーネス対応空調服が顧客のニーズ等を背景として作れば売れる製品であった こと,その開発又は販売の障害となるような事情は存在しなかったこと,被告らの 社内体制として,被告ら代表者の意思決定が重要な意味を持っていたことなどに照らせば,被告ら代表\者の上記の行為は,フルハーネス対応空調服の事業化を決定する旨の被告らの意思表示であるということができること,2)ゼハロスは,被告ら代 表者の上記の依頼を受け,他社に委託するなどして,平成27年3月31日までに,本件試作品を作成しているところ,被告らが,莫大な時間,労力,資金を投下して,\n既存の空調服を研究,開発し,商品化してきたこと,本件考案は,既存の空調服に 筒を取り付けるだけで完成するシンプルな構成であることなどに照らすと,被告らは,本件試作品の作成によって,フルハーネス対応空調服に係る事業活動のほとん\nどを完了しており,被告らによる即時実施の意図が客観的に表明されていること,3)被告ら代表者は,平成27年3月26日の空調服の会において,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供する旨発言しており,被告らが同空調服\nを販売する意思を有していたことが示されていること,4)被告らは,平成27年4 月7日,本件試作品の試着を行い,被告ら代表者においてフルハーネス対応空調服は完成したと強い手応えを感じ,同空調服の販売の意思はより強固なものになった\nから,遅くともその時点で,被告らによる販売の意思は確定的なものとなったこと などを主張する。
しかしながら,上記1)について,乙11図面は,手書きの比較的簡略な図面であ り,そのデータを他社に送信して試作品の作成を依頼したというだけで,即時実施 が可能な状況にあったといえないことは明らかである。被告ら代表\者の意思決定が 重要であったというのは被告らの内部的な事情にすぎないことにも照らせば,ゼハ ロスへの乙11図面の送信等をもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施 の意図が客観的に認識される態様,程度に表明されたということはできない。また,上記2),4)について,本件考案は既存の空調服の背中部分の構成を変更するにとどまるものであり,被告らは既存の空調服の研究,開発実績を有していると\n認められたとしても,試作品が一度作成され,社内でその試着がされただけでは, 製品化に耐えるものであるか未だ明らでなく,試着の結果を踏まえて設計の見直し 等の作業が必要になるであろうことは十分に考えられるところである。被告らが被告各製品の製造,販売等を開始したのはその後1年以上が経過した平成28年5月\nであったことなどにも照らせば,本件試作品が作成されたことや試着されたことを もって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態 様,程度に表明されたということはできない。さらに,上記3)について,被告が指摘する空調服の会における被告ら代表者の発言は,必要があればフルハーネス対応空調服のアイディアを提供するというもので\nあり,これをもって,被告各製品の実施に係る被告らの即時実施の意図が客観的に 認識される態様,程度に表明されたということはできない。
(4) 以上によれば,本件出願日である平成27年5月11日当時,本件考案の実 施に当たる事業に係る被告らの即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度に 表明されていたと認めることはできないから,被告らにおいて,その「事業の準備」をしていたということはできない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)28189  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月17日  東京地方裁判所

 少し前の事件です。漏れていたのでアップします。「略1/2」という限定事項について、中間片の幅の平均比率が1/2の90%〜100%の範囲内にあるものが全80枚のうち3枚の割合なので、技術的範囲に属しないと判断されました。無効理由も主張されてましたが、これについては判断されませんでした。

 上記記載によれば,本件発明等の課題は,1)包装体の大きさを従来と同様 に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供する\nこと,2)包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提 供することにあり,本件発明等の効果は,3)従来と比較して第2の折片の面 積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積 層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉 厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することが できるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては, 上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得るために第2の折片を設けてい るが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするた めには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくするこ\nとが必要となるものと解される。
すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規 定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さ を第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとし ても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなって しまい,上記1)の課題を解決して上記3)の効果を得ることができなくなる一 方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の 中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになって しまい,上記2)の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発 明等の上記課題1)及び2)を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片 の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけるこ とが望ましいものと認められる。
エ 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2\nの中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にい\nう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能\nな限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきで あり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分 の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しな いと解するのが相当である。
 オ これに対し,原告は,本件発明等は,容易に伸縮する素材を用いることを 前提とし,第2の中間片及び第1の折片の幅に誤差が生じた場合にも,第2 の折片によりその誤差を吸収して,積層体が所望とする幅寸法になるように 調整することに主眼があるのであって,本件発明等における「略1/2」の 語は,1/2を超える場合は含まないが,1/2より短いものは広く許容す る意味と解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書等には,第2の中間片が第1の中間片の幅の1/2よ り小さい幅となったときに第2の折片がその誤差を吸収することにより積 層体の幅寸法を維持することが本件発明等の課題である旨の記載は存在し ない。むしろ,前記判示のとおり,本件明細書等には,積層体の幅を従来と 同様とした上で,第2の折片を設けることにより「第2の折片の面積分だけ 従来と比較して大きいサイズのシート状物」(段落【0011】)を形成す ることが本件発明等の課題である旨が記載されているのであって,その課題 解決のためには,前記のとおり,第2の中間片の幅を,可能な限り第1の中\n間片の1/2を超えない範囲でこれに近づけることが望ましいものという べきである。
・・・
3 相違点1の認定の誤りについて
(1) 前記2(1)の甲6の記載事項(図2ないし4を含む。)を総合すれば,甲 6には,本件審決が認定するとおり,甲6(審判甲1)発明が記載されてい ることが認められる。そして,本件訂正発明と甲6(審判甲1)発明を対比すると,本件訂正発明の第2の折片の幅と甲6(審判甲1)発明における「腰折ウェットテシュ ー11f,12f」(第2の折片に相当)の幅について,本件訂正発明は, 「上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整する とともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の 幅より短い幅となる」のに対し,甲6(審判甲1)発明は,「腰折ウェット テシュー11,12の展開長の略五分の一の長さ,又は腰折ウェットテシュ ー11,12の幅方向の中心線Yを越えず且つこれに接近した長さ」である 点で相違すること(本件審決認定の相違点1)が認められる。したがって,本件審決における相違点1の認定に誤りはない。
(2) これに対し原告は,1)特許法施行規則24条の2は,特許発明の技術上の 意義ある部分は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他」 により特定される旨規定していることからすると,発明は,解決課題(目的 あるいは作用・効果)と解決手段(構成)とで特定しなければならない,2) 本件訂正発明と甲6に記載された発明の相違点を捉えるには,第2の折片と 他の片との関係性をシート全体の折構造で把握する必要があるなどとして,\n本件審決における甲6(審判甲1)発明の認定は適切ではなく,本件審決認 定の相違点1は,原告主張の相違点1(前記第3の1(1))のとおり認定すべ きである旨主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許出願の願書に添 付した特許請求の範囲の記載に基づいてすべきものであるところ,原告主張 の相違点1は,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明特定 事項以外の事項(本件明細書記載の「背景技術」,「発明が解決しようとす る課題」等)をも含めて本件訂正発明の要旨を認定することを前提として, 本件訂正発明と甲6に記載された発明とを対比するものであるから,その前 提において,採用することができない。また,特許法施行規則24条の2は, 特許法36条4項1号の経済産業省令の定めるところによる記載は,発明が 解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分 野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必 要な事項によりしなければならない旨規定し,明細書の発明の詳細な説明の 記載要件を定めた規定であるから,原告主張の相違点1が適切であることの 根拠となるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
4 相違点1の判断の誤りについて
(1) 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第 1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに, 上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い 幅となる第2の折片」にいう「調整」の意義について ア 本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記 第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとと もに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅 より短い幅となる第2の折片とを有するように折り畳まれ」との記載から, 本件訂正発明の「第2の折片」は,「第1の中間片の幅の1/2未満で, かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」であって,「第1の中間片から積 層方向上側に折り返され」,「第2の折片」によって「第1の中間片の幅 が所望とする積層体の幅寸法となるように調整」することができることを 理解できる。 一方で,本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「上記第1 の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とす る積層体の幅寸法となるように調整する」にいう「調整」について,具体 的な調整方法等について規定した記載はない。
イ 次に,本件明細書には,「調整」に関し,「調整」の語について定義し た記載はなく,「図1に示すように,シート状物10は,所望とする積層 体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片11と,積層方向下側 に折られ,第1の中間片11の略1/2の幅に第1の中間片11に隣接し て形成された第2の中間片12と,第2の中間片12から積層方向下側に 折り返され第2の中間片12と略同じ幅に形成された第1の折片13と, 第1の中間片11から積層方向上側に折り返され第1の中間片11の幅が 所望とする積層体の幅寸法となるように調整する第2の折片14とから構\n成されている。」(【0014】)との記載がある。また,本件明細書に は,「第2の折片」に関し,「第2の折片14は,第1の中間片11と隣 接し,シート状物10の長さ方向に平行な長辺10a,10bと,第3の 折れ線17と短辺10cとによって囲まれる部分である。シート状物10 の長辺10a,10bの第2の折片14の長さにあたる部分,つまり第3 の折れ線17と短辺10cとの距離Dは,D<Cの関係を有する。つまり, 距離Dは,距離Aの半分より小さい値である。」(【0020】),「以 上のように構成されたシート状物積層体1は,従来の積層構\造においては ない第2の折片14を有することで,従来と変わらない積層体の幅として も,第2の折片14の面積分だけ従来よりもサイズの大きいシート状物1 0を積層させることができる。具体的には,シート状物10は,従来使用 されるシート状物の大きさと比較して,第2の折片14の面積分,つまり 上述のD<Cの関係を有する範囲内で大きさを変更することができ,約2 5%まで大きいサイズのシート状物を使用することができる。」(【00 26】)との記載がある。
ウ 以上の本件訂正発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載及び図 1によれば,本件訂正発明の「上記第1の中間片から積層方向上側に折り 返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調 整する」にいう「調整」とは,シート状物の第1の中間片の幅が所望とす る積層体の幅寸法となるように,「第2の折片」の幅を「第1の中間片の 幅の1/2未満で,かつ,上記第1の折片の幅より短い幅」となるように 設定することを意味するものと解される。
・・・
被告製品2)については,上記アの審理経過に照らし,信用性が高いと認め られる甲25及び乙A39に基づいて検討することが相当であるところ,原 告が被告製品2)(YRC24/3FM13:59)について測定した結果(甲25:別紙6 −2)によれば,同製品の各シート状物の第1の中間片の幅の2分の1に対 する第2の中間片の幅の比率(以下,単に「第2の中間片の比率」というこ とがある。)が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3 枚にすぎず,その平均値(「平均値(1,80枚目除く)」欄のもの。以下 同じ。)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが被告製品2)(YRC24/3FM16:40)について測定した結果(乙A39:別紙6−4)によれば,第2の中間片の比率が90%〜100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目の シート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまるもの と認められる。
上記の被告製品2)全体における第1の中間片の幅の2分の1に対する第2の中間片の幅の平均比率,その比率が90%〜100%の範囲内にあるものの割合及びその分布等に照らすと,被告製品2)の第2の中間片が構成要件C「第1の中間片の略1/2の幅」との要件を充足するとは認められない。\n

◆判決本文

対応する審決取消訴訟はこちらです。こちらは、無効審決が維持されています。

◆令和1(行ケ)10088

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和2(ネ)10023  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 モバイル送金・決済サービスについて特許権侵害を主張しましたが、知財高裁(2部)は、1審(東地40部)と同様に、技術的範囲に属しないと判断しました。被控訴人(1審被告)はLINE PAYです。イ号システム、本件特許については1審判決に詳しく説明されています。

 「(1) 構成要件A等の「ホワイトカード」及び「使用限度額」の意義\nア 前記1(1)のとおり,本件明細書等では,段落【0002】〜【000 5】において本件発明の課題が説明されているところ,同課題は,クレジットカー ドについてのものであり,プリペイドカードサービスやデビットカードサービスに ついてのものではない。そして,段落【0006】において,「以上の課題を解決 するために,本発明は,・・・ホワイトカード使用限度額引き上げシステムを提供 する。」と記載され,さらに,段落【0007】〜【0009】において,上記課 題を解決するための具体的構成が記載されている。これらの記載に,「ホワイト\nカード」の用語は,クレジットカードに関して使用された場合は,「カード会社が 個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味するものと認めら れること(乙6,7)を併せ考慮すると,段落【0006】〜【0009】の「ホ ワイトカード」は,段落【0002】〜【0005】に記載されたカードであるク レジットカードを意味するものと認められる。 一方で,本件明細書等には「ホワイトカード」がプリペイドカードやデビット カードを含む旨の記載は存在しないから,本件明細書等の「ホワイトカード」には, プリペイドカードやデビットカードは含まれないものと解される。
イ 前記1(1)のとおり,本件明細書等には,段落【0002】〜【000 5】で,従来技術として,クレジットカードについて,ユーザの支払能力などに応\nじて所定期間内で使用可能な金額である「使用限度額」が契約時にある程度固定さ\nれ,使用限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続が必 要となるという課題があること,先行技術であるクレジットカード管理システムに 関する発明の乙8発明は,ユーザの利用実績により使用限度額を変更できるという ものであるが,同発明によっても,ユーザが他者から送金を受けた場合に使用限度 額を変更することはできないという課題があることが記載され,段落【0006】 で,上記の課題を解決するために,本件発明は,ユーザが他者から送金を受けたこ とにより使用限度額を引き上げることができるシステムを提供することが記載され ており,これらの記載からすると,本件発明における「使用限度額」は,従来技術 における「使用限度額」と同様に,クレジットカードの使用限度額を意味するが, ユーザに対する入金があると所定の手続を経ずに引き上げられるものであると解す るのが相当である。 したがって,本件発明における「使用限度額」は,ユーザが所定期間内に使用 することのできる金額の上限額を意味し,その額は,ユーザとの契約時には,その 支払能力(信用力)に応じて設定され,「ある程度固定される」ものであるが,そ\nの後,ユーザに対する入金があった場合,所定の手続を経ずに引き上げられるもの であると認められる。
ウ 以上のとおり,本件発明における「ホワイトカード」はクレジット カードを意味し,「使用限度額」は,「契約時に設定され,契約時には,ある程度固 定される,所定期間内で使用可能な金額」を意味するものというべきである。\n
(2) 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件発明の課題について「使用限度額に関しては契約時に ある程度固定されるため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるい は煩雑な手続きが必要となる」という従来技術の課題(段落【0003】)は乙8 発明により解決済みであり,本件発明の課題は,他者からの送金の受金等による ユーザの所持金の増加を速やかに使用限度額に反映させることにある(段落【00 05】)と主張する。 しかし,本件明細書等の段落【0003】と段落【0005】の記載によると, 乙8公報に記載された従来技術は,「予め定められた使用限度額内での利用実績に\n応じて算出変更」することにより使用限度額を変更することを可能にするものであ\nるが,それでは「他者からの送金を受金することなどでユーザの所持金が当該クレ ジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても,カード会社に逐一連絡など して所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映され」ないという課題を解 決し得ないことから,本件発明は,本件特許請求の範囲に規定された構成を採用す\nることにより,入金を受け付けた旨の情報に基づいて,所定の手続(煩雑な手続) を経ることなく,ホワイトカードの使用限度額を引き上げることを可能としたもの\nと認められる。
このように,乙8発明は,「使用限度額に関しては契約時にある程度固定される ため,限度額の引上げなどの変更がなかなかできない,あるいは煩雑な手続きが必 要となる」という従来技術の課題のうちの一部を「クレジットカードの使用限度額 を利用実績に応じて算出変更する技術」によって解決したにすぎず,本件発明は, 乙8発明により解決できなかった従来技術の「他者からの送金を受金することなど でユーザの所持金が当該クレジットカード契約時の平均所得以上に増えたとしても, カード会社に逐一連絡などして所定の手続きを経なければそれが使用限度額に反映 されることは無い」という課題を解決したものであるから,控訴人の上記主張は理 由がない。

◆判決本文

原審はこちらです

◆平成30(ワ)13927

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)31428  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月30日  東京地方裁判所

 JR東海に対する侵害事件です。原告は「座席管理システム」(3995133号)の均等侵害を主張しましたが、第1要件、第2要件を満たさないとして、否定されました。

 (3)ア  第1要件にいう特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請 求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する\n特徴的部分であり,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明 の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲 の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部\n分が何であるかを確定することによって認定される(知的財産高等裁判所平 成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)。
ここで,本件明細書をみると,従来の技術においては,券情報と発券情報 の2つの情報をそれぞれ端末機に対して伝送していたため情報量が2倍に なり通信回線の負担が2倍になっていた。本件発明は,このような従来の技 術と異なり,「ホストコンピュータ」において,券情報と発券情報という2つ の情報に基づいて1つの座席表示情報を作成するものであり,それによって,\n端末機へ伝送される情報量が半減されて通信回線の負担が軽減されるとい う効果を奏するものである(【0002】〜【0007】,【0020】)。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らせば,本件発明に おいて,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であ\nる本質的部分は,「ホストコンピュータ」が券情報と発券情報との2つの情 報に基づいて1つの「座席表示情報」を作成する作成手段を有し,そのよう\nにして作成された「座席表示情報」が「ホストコンピュータ」から端末機に\n伝送される点にあるといえる。 被告システムにおいては,券情報と発券情報との2つの情報に基づいて1 つの情報が作成されるサーバーはなく,したがって,それらの2つの情報に 基づいて作成された1つの情報を端末機に伝送するサーバーもない。そうす ると,本件発明の本質的部分において,本件発明の構成と被告システムの構\ 成は異なる。したがって,被告システムが均等侵害の第1要件を充足するこ とはない。
また,被告システムは,端末機に対して券情報と発券情報という2つの情 報に基づいて作成された1つの情報が伝送されるものではないから,券情報 と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回線の負 担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するものではない。したがって, 本件発明と同一の作用効果を奏するものではなく,第2要件を満たさない。
イ 原告は,第1要件について,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成\nと被告システムの構成の異なる部分は,サーバーと通信回線の個数に関する\n相違であって,本件発明の本質的部分に関係するものとはいえない旨主張す る。
しかし,上記アのとおり,券情報と発券情報とに基づく情報が作成され, そのようにして作成された情報が伝送されるサーバーがあることは,均等侵 害の第1要件にいう本件発明の本質的部分であるといえ,被告システムは, その本質的部分において,本件発明と異なる。
また,原告は,本件発明の作用効果は,車掌が携帯する端末機に表示され\nる各指定座席の利用状況(自動改札通過情報及び発売実績情報の有無)を車 掌が目視で確認できるようにして,車内改札を本来空席であるはずの座席に 座っている乗客に対して従来のように切符の提示を求めるだけで足りるよ うにしたものであり,これにより車内改札の省略化を図るというものであり, 被告システムの作用効果と同じである旨主張する。
しかし,前記3(1)のとおり,本件明細書の記載に照らせば,従来技術と比較した本件発明の効果は,券情報と発券情報がそれぞれ端末機に伝送されるシステムに比べて通信回 線の負担と端末機の記憶容量及び処理速度を半減するところにある。したが って,被告システムが本件発明と同じ作用効果を有するとはいえない。 (4)上記(3)のとおり,被告システムは,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要 件を充足せず,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明\nの技術的範囲に属するものであるということはできない。

◆判決本文

本件特許の訂正審判についての審決取消訴訟事件です。

◆平成28(行ケ)10069

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> 第2要件(置換可能性)
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ネ)10085  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審で差し止めが認められていました。被告が控訴しましたが知財高裁(4部)を控訴棄却されました。サポート要件については原審でも具備していると判断されています。

 争点2−1(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)
 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Hに対応する「シ\nフト機能」に係る構\成について,「いったんスルー注文」及び「決済トレー ル注文」と組み合わせた,複数の新規注文の全て及び複数の決済注文の全て がそれぞれ1回ずつ約定した場合に複数の新規注文の全て及び複数の決済注 文の全てに対応する個数の新たな複数の新規注文及び新たな複数の決済注文 を発注させることしか記載されておらず,構成要件Hに含まれる「シフト機\n能」を「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」に組み合わせたも\nの以外の構成のものについては記載されていないことからすれば,構\成要件 Hは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,特許 法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合する とはいえない旨主張する。
ア そこで検討するに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に は,構成要件Hの「前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記\n複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたこ とを検知すると,前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知 の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりも さらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成す る」との記載において,「注文情報生成手段」が生成する「所定価格だけ 高い売り注文価格の情報」を含む「売り注文情報」の個数を規定する記載 はないから,当該「売り注文情報」は,複数の場合に限らず,一つの場合 も含むものと理解できる。
イ(ア) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,1)「シフト機能」につ\nいて,「金融商品取引管理装置1や金融商品取引管理システム1Aにお いて,既に発注した新規注文と決済注文をそれぞれ約定させたのち,「シ フト機能」による処理を併用した取引を行うことも可能\である。この「シ フト機能」による注文は,上述した,「いったんスルー注文」や「決済\nトレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば後述する「リピートイ フダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)等に基づいて,新 規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文 や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異 なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様 の注文形態である。」こと(【0078】),2)「シフト機能」は,「相\n場価格の変動により,元の第一注文価格や元の第二注文価格よりも相場 価格の変動方向側に新たな第一注文価格の第一注文情報や新たな第二注 文価格の第二注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行う ことができる」(【0018】)という効果を奏すること,3)「発明の 実施の形態3」は,「この実施の形態3の金融商品取引管理システムに おいては,「いったんスルー注文」と「決済トレール注文」とを,「ら くトラ」による注文と組み合わせ,さらに「シフト機能」を行わせる状\n態を示す。」(【0138】)ものであるが,「上記の「シフト機能」\nは,上記発明の実施の形態1や,発明の実施の形態2の構成において適\n用することもできる。」こと(【0151】)及び「上記各実施の形態 は本発明の例示であり,本発明が上記各実施の形態のみに限定されるこ とを意味するものではないことは,いうまでもない。」こと(【016 4】)の記載がある。
上記1)の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少な\nくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される 際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフ トさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シ フトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一 方のみの構成又は双方の構\成が含まれること,先に発注済の一つの注文 の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価\n格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。\nまた,上記1)ないし3)の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を\n反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いった んスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例え ば・・・「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」 等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各\n種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。 ウ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,図35に示す「実施の形態 3」(【0144】ないし【0148】)として,シフト機能に決済\nトレール注文を組み合わせたトラップリピートイフダン注文で行われ, 決済注文S5,S4が約定した後に,元の買い注文と同じ注文価格の 買い注文B5,B4及び元の売り注文S5,S4と同じ注文価格の売 り注文S5,S4が再度生成されるが,この時点ではシフトは発生せ ず,通常のリピートイフダン注文が繰り返され,その後相場価格が変 動して,S1ないしS3の売り注文価格がトレールし,S1ないしS 3が最も高い注文価格の売り注文として同時に約定すると,再度生成 された売り注文S5,S4は約定していないにも関わらずこれをキャ ンセルして,S1ないしS5のシフトが実行されることが記載されて いる。上記記載は,構成要件Hに含まれる,「シフト機能\」に「いっ たんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成の一\nつであることが認められる。
また,シフト機能に決済トレール注文を組み合わせない場合には,\n図35において,S2及びS3の売り注文価格がトレールしないため, それぞれの注文情報が生成された時点における価格のとおり,それぞ れ別々に約定し,その場合,実施の形態3の取引例でS5,S4が約 定した段階ではシフトが生じていないのと同様に,S3,S2が約定 した段階ではシフトが生じず,その後に最も高い売り注文価格の売り 注文であるところのS1が約定した段階でシフトが生じることになる ことを理解できる。 そうすると,複数の売り注文情報のうち最も高い売り注文価格の売 り注文が約定すると,それよりも所定価格だけ高い売り注文価格の情 報を含む売り注文情報を生成するという構成要件Hに係る構\成は,本 件明細書の上記記載から認識できるから,本件明細書の発明の詳細な 説明に記載されているということができる。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)24174

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)4851  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和2年5月28日  大阪地方裁判所

 一部のイ号は、記載不備の拒絶に対する補正が均等の第5要件を満たさないとされましたが、一部のイ号は間接侵害が認定されました。

 本件拒絶理由通知記載の拒絶理由は明確性要件違反であり,具体的には,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記載につき,「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」こと,「「第2油路」が具体的に想定できない」こと及び「「流量調整弁」が具体的に想定できない」ことが挙げられている。換言すれば,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載となっていることによって新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由は指摘されていないことから,本件第2補正は,こうした無効理由を回避するためにされたものではない。また,明確性要件違反の指摘においても,スイングクランプ,リンククランプいずれのタイプのクランプ装置をも含むと解し得る記載であるが故に不明確とされているわけでもない。 もっとも,上記拒絶理由のうち「本願発明が如何なるクランプ装置を意図しているのか,その外縁が明確に特定できない」とは,より具体的には,油圧シリンダの具体的な規定がなく,その油室の数が不明であり,そのために,第1油路,第2油路及び流量調整弁の機能ないし役割が不明であるといった問題点を指摘するものである。これは,当業者にとって,クランプ装置のタイプを含む装置の前提的な構\成の不明確さを指摘する趣旨のものと理解されると思われる。
(オ) 原告は,本件第2補正の際に提出した意見書(乙2の2)で,請求項1 に係る補正につき,本件拒絶理由通知での審査官の指摘に対して,「補正後の請求項 1では,「前記出力ロッドを退入側に駆動するクランプ用の油圧シリンダ」と規定し ております。…補正後の請求項1に係る本願発明において,「第1油路」及び「第2 油路」や,両流路の接続部にある「流量調整弁」が,何のために在って何をしてい るのかという点については明確であると思料いたします。よって,ご指摘の記載不 備は解消し得たものと思料致します。」との補足説明をしている。
(カ) 以上の事情を踏まえて本件第1補正から本件第2補正に至る経緯を見る と,客観的,外形的には,原告は,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1の記 載によれば,その構成はスイングクランプとリンククランプいずれのタイプのクラ\nンプ装置も含むものであることを認識しながら,本件拒絶理由通知を受けて行った 本件第2補正により,敢えて補正後の特許請求の範囲にリンククランプのタイプの クランプ装置を含むものとして記載しなかった旨を表示したものと理解される。\nそうである以上,本件においては,本件第2補正においてリンククランプのタイ プのクランプ装置が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特 段の事情が存する。 したがって,被告製品群4〜6は,本件発明との関係で,均等の第5要件を充足 しない。この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
ウ 原告の予備的主張について\n
原告は,予備的主張として,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載\nの「クランプ用の油圧シリンダ」は「アンクランプ用の油圧シリンダ」(本件第2補 正後の特許請求の範囲請求項3)を含まないとの理解を前提として,本件第2補正 後の特許請求の範囲請求項3は補正前の特許請求の範囲に含まれないものを手続補 正により追加したものであり,請求項3については意識的に除外されたものとはい えないなどと主張する。 しかし,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1記載のクランプ装置は,「クラ ンプ本体に進退可能に装着された出力ロッド」及び「出力ロッドを駆動するクラン\nプ用の油圧シリンダ」等を備えることは記載されているものの,「出力ロッド」が退 入側・進出側いずれに駆動することによってワークをクランプするものであるかを うかがわせる記載はない(なお,この時点での請求項2〜4にも,クランプのタイ プに関係する記載はない。)。このことと,従来技術としてはスイングクランプ及び リンククランプの両タイプが挙げられていることに鑑みれば,本件特許に係る明細 書においては出願当初よりリンククランプのタイプのクランプ装置も除外されてい ないといえることを併せ考えると,本件第1補正後の特許請求の範囲請求項1は, スイングクランプのみならずリンククランプのタイプのクランプ装置をも含むもの と理解される。本件第2補正後の特許請求の範囲請求項1において「クランプ用の 油圧シリンダ」とし,請求項3において「アンクランプ用の油圧シリンダ」とされ たのは,本件拒絶理由通知を受けた対応として,クランプ装置の構成をより具体的\nに特定したことに伴うものと理解することができるから,本件第2補正の前後で 「クランプ用の油圧シリンダ」を異なる意味に解することはなお合理的である。 したがって,原告の予備的主張はその前提を欠くから,これを採用することはで\nきない。
エ 小括
以上より,均等侵害として,被告製品群4及び6は本件発明1の技術的範囲 に属するとはいえず,また,被告製品群5は本件発明3の技術的範囲に属するとは いえない。そうである以上,被告らによる被告製品群4〜6の製造,販売等は,本 件特許権を侵害するものとはいえない。 したがって,被告製品群4〜6に係る原告の被告らに対する製造等の差止請求, 廃棄請求及び損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(被告製品群7及び8の製造,販売等に係る間接侵害の成否)につい て
(1) 前記(第2の2(4)オ)のとおり,被告製品群7及び8は,被告製品群1〜 3のクランプに取り付けて使用される場合にクランプ装置の生産に用いるものであ る。また,特許法101条2号の趣旨によれば,「発明による課題の解決に不可欠なも の」とは,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決 されるような部品等,換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として, 当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特 有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が,これに該当するものと解される。\n本件発明において,作動油の流量の微調整を容易かつ確実に可能とすることなど\nの課題を解決する直接的な手段となるものは,相対移動可能な弁体部を有する弁部\n材をその構成に含む「流量調整弁」である。このため,「流量調整弁」は,本件発明\nが新たに開示する特徴的技術手段における特徴的な部品等ということができる。被 告製品群7及び8(スピードコントロールバルブ)は,この「流量調整弁」に相当 するものであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101 条2号)に該当する。
これに対し,被告らは,被告製品群1及び3が本件発明1の構成要件1K及び1Xを 充足せず,被告製品群2が本件発明3の構成要件3K及び3Xを充足しないことから, 被告製品群7及び8は本件発明の課題の解決に不可欠なものではないと主張する。 しかし,前記1のとおり,被告製品群1〜3は本件発明の上記各構成要件を充足す\nる。そうである以上,この点に関する被告らの主張はその前提を欠き,採用できな い。
(2) 被告らが,本件発明が特許発明であることを知っていたことについては,当 事者間に争いがない。 また,被告らは,被告製品群7を被告製品群1及び3の,被告製品群8を被告製 品群2のアクセサリとしてそれぞれ製造,販売していること(甲6,10,11, 乙9,10)に鑑みると,被告製品群7及び8が本件発明の実施品である被告製品 群1〜3に用いられることを知っていたことが認められる。 なお,被告製品群7及び8は,スイングクランプのほか,リンククランプ,リフ トシリンダ,ワークサポートにも使用可能なものである(甲6,10,乙4,5,\n9,10)。
しかし,特許法101条2号の趣旨に鑑みれば,発明に係る特許権の侵害品「の 生産に用いる物…がその発明の実施に用いられること」とは,当該部品等の性質, その客観的利用状況,提供方法等に照らし,当該部品等を購入等する者のうち例外 的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現 に存在し,部品等の生産,譲渡等をする者において,そのことを認識,認容してい ることを要し,またそれで足りると解される。 本件においては,後記6のとおり,被告製品群7及び8に属する製品がスイング クランプと組み合わせて販売される割合が大きいことに鑑みると,これを購入等す る者のうち例外的とはいえない範囲の者が被告製品群7及び8を特許権侵害に利用 する蓋然性が高い状況が現に存在するとともに,被告らはそのことを認識,認容し ていたものといえる。そうである以上,上記事情は本件における間接侵害の成立を 妨げるものではない。 これに対し,被告らは,被告製品群7が本件発明1の実施に,被告製品群8が本 件発明3の実施にそれぞれ用いられることを認識していないなどと主張する。しか し,被告らは,当然に被告製品群1〜3の構成を認識していると考えられるところ,\n被告製品群1〜3が本件特許権侵害を構成する以上,被告製品群7及び8について\nも,本件発明の実施に用いられるものであることを知っていたといえる。この点に 関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括
以上より,被告らが被告製品群7及び8を製造,販売する行為は,本件特許権 の間接侵害(特許法101条2号)を構成する。\n

◆判決本文

関連の審決取消事件です。

◆平成29(行ケ)10076

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> 明確性
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第5要件(禁反言)
 >> 間接侵害
 >> 主観的要件
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10059    特許権  民事訴訟 令和2年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は、文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害を否定しました。知財高裁(3部)も同様の判断です。ただ、本質的部分について、引用発明と対比して判断しています。

「ア 均等侵害が成立するための第1要件にいう本質的部分とは,当該特許発 明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成\nする特徴的部分であり,このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備 えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと解される。 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特 許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲 の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何\nであるかを確定することによって認定されるべきである。 ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているとこ ろが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明細書に記載され\nていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。\n
イ 本件特許出願の審査において,特許庁は,本件各発明は,平成15年 8 月 22日に公開された特開2003−234608号公報(甲30。以下「引用文献 1」という。)等の文献に基づき,当業者が容易に発明し得た旨の拒絶理由通知書 を送付した(乙6)ことから,引用文献1に記載された技術について検討する。
・・・
まず,引用発明1と比較して,本件発明1の本質的部分を検討する。
(ア) 本件発明1の内容は,前記1(2)で判示したとおりであり,その技術 的思想を構成する部分は,仮固定用ホルダの構\成を,可撓性樹脂で成形し,前記給 電用筒状部の外壁面に沿って下方に延びる複数のメインアーム部と,同メインアー ム部に対して下端部にて繋がったサブアーム部とを有し,同サブアーム部の下端部 は,同サブアーム部が外側に拡がるための支点となり,同サブアーム部の上端部は 前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,かつ同係止爪 は上端に向かって肉厚が増加しているものとし,同構成を採用することにより,ア\nンテナ挿入時には,メインアーム部及びサブアーム部の両部材が内側に動くため, より小さい挿入力で取付孔への挿入が可能となり,また,抜け方向に荷重が加わっ\nたときは,車体パネルの内側面に係止爪の上端が当接し,サブアーム部が外側に拡 がるため,抜け力を増大させることができ,仮固定用ホルダの挿入力は小さいまま で,抜け力を大きくすることを可能としたことである。\n一方,本件特許の出願前に公開された引用文献1に記載された引用発明1の内容 は,前記イ(イ)で判示したとおり,固定板付き基板ブラケット9の構成を,円筒状\n突出部の外周面に沿って下方に伸びる複数の側板4を有し,側板4にコ字状の切溝 4eを設け,切溝4eに囲まれた矩形状のバネ片4aの上端が側板4から外側に向 かって離れるものとしたものであり,このうち,側板4は本件発明1のメインアー ム部に,バネ片4aは本件発明1のサブアーム部にそれぞれ相当するものであり, アンテナの挿入時には,側板4及びバネ片4aが内側に撓み,抜け方向に荷重が加 わったときは,ルーフパネル20にバネ片4aの上端部が当接し,バネ片4aが外 側に撓んで仮止めすることになると認められる。
(イ) そこで,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分を検討すると,引用発明1は,抜け方向に荷重が加わった\nときに,サブアーム部に相当するバネ片4a全体が撓むため,十分な抜け力を確保\nできなかったことから,本件発明1は,仮固定用ホルダを可撓性樹脂で成形し,サ ブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとするこ とにより,抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部の下端部を回転の支点 として,サブアーム部が外側に拡がるようにし,同下端部でサブアーム部の回転を 受け止めることにより,抜け力を増加させたものと認められる。そして,本件発明 1が,サブアーム部の上端部は上端に向かって肉厚が増加する係止爪からなるもの としたのは,上記のとおりサブアーム部の強度を増すためであると認められる。 以上からすると,本件発明1のうち,引用発明1に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分とは,可撓性樹脂で成形されたサブアーム部の上端部は上端\nに向かって肉厚が増加する係止爪からなるものとし,これにより,抜け方向に荷重 が加わったときに,サブアーム部は,下端部を支点として回転するように外側に拡 がり,下端部において,サブアーム部の上記回転を受け止めて,抜けを防止すると いう部分であると認められる。そして,この部分が本件発明1の本質的部分に当た ることになる。
(ウ) 控訴人は,本件発明6の本質的部分は,「アンテナに抜け方向の荷重 が加わった際に,下端部を支点とした外向きの回転力がサブアーム部に発生するこ とにより,サブアーム部が内側に向かって変位することが防止されるため,サブ アーム部に設けられた係止爪が車体パネルから外れて抜けてしまう(すっぽ抜ける) ことがない」という構成にあると主張する。\nしかし,控訴人が主張する上記の構成は,引用発明1にも見られるから,同構\成 が本件発明1や本件発明6の本質的部分ということはできない。
エ 次に,被控訴人製品が,前記ウで認定した本件発明1の本質的部分を共 通に備えているかについて検討する。 被控訴人製品においては,サブアーム部は,可撓性樹脂で成形されており,車体 パネルに係止するための爪部を備えるが,同爪部は,サブアーム部の中間付近に位 置している(乙1,2,13)ため,その上部のサブアーム部であるフック部が, 抜け方向に荷重が加わったときに,サブアーム部がその下端部を支点として外側に 拡がることを阻止し,そのため,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として 外側に拡がることはなく,したがって,同下端部で,サブアーム部の回転を受け止 めることによって抜け力を増大させるものではない。 そうすると,被控訴人製品は,本件発明1の本質的部分を備えているとは認めら れない。
オ 控訴人は,被控訴人製品において,抜け方向の荷重が加わると,サブ アーム部の下端部を支点とした外向きの回転力が発生することにより,サブアーム 部に設けられた爪部が内向きに変位して車体パネルから外れるという事象が防止さ れているから,被控訴人製品は,本件発明6の本質的部分を備えていると主張する。 しかし,前記エのとおり,被控訴人製品においては,抜け方向の荷重が加わり, サブアーム部が外側に拡がろうとしても,同動きはフック部によって阻止されるた め,サブアーム部は,その下端部を回転の支点として外側に拡がることはないから, 被控訴人製品は,本件発明1や本件発明6の本質的部分を備えておらず,控訴人の 上記主張は理由がない。
カ したがって,本件発明1と被控訴人製品との前記の相違点は,本件発明 の本質的部分ではないということはできないから,被控訴人製品は,均等の第1要 件を充足しない。」

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成30(ワ)13400

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ネ)10015    特許権  民事訴訟 令和2年6月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁は、明細書の開示を参酌して「大豆胚軸発酵物」とは,大豆胚軸自体の発酵物をいい,大豆胚軸抽出物の発酵物を含まないと判断した1審判決を維持しました。

このように本件明細書には,「発酵原料」として「大豆胚軸」を使用 した場合の発酵処理及び実施例の記載はあるが,一方で,「発酵原料」 として「大豆胚軸抽出物」を使用した場合の発酵処理及び実施例に関す る記載はない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,本件明細書には,「本発明」(「大 豆胚軸発酵物」)の発酵原料として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」 とを明確に区別した上で,発酵原料として使用される「大豆胚軸」は, 「含有されているダイゼイン類が失われていないことを限度として,大 豆の産地や加工の有無について制限され」ず,「脱脂処理や脱タンパク 処理に供したもの」も使用することができ,発酵原料にイソフラボンを\n別途添加しておくことにより,得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール 含量をより高めることが可能となることを開示し,他方で,コストが高\nく,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる「大 豆胚軸抽出物」は,「本発明」(「大豆胚軸発酵物」)の発酵原料に適 さないことの開示があることが認められる。
ウ 検討
以上の本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書 の記載を前提に検討するに,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)に は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」(構成要件1−C)を定義した記載\nはなく,その発酵原料となる「大豆胚軸」を特定の成分のものに限定する 記載もないが,一方で,本件明細書では,「大豆胚軸発酵物」の発酵原料 として「大豆胚軸抽出物」と「大豆胚軸」とを明確に区別した上で,コス トが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる 「大豆胚軸抽出物」は,発酵原料に適さないことの開示があることに照ら すと,かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発酵物は,本件発明1 の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと解するのが相当である。 もっとも,本件明細書には,発酵原料に適さない「大豆胚軸抽出物」の 成分やイソフラボン含量等についての開示はないことは,前記イ(イ)aの とおりである。 しかるところ,大豆胚軸からイソフラボンを含有する成分の抽出処理は,\n一般に,水,アルコール(エタノール等)又は含水アルコールなどの溶媒 を用いた抽出によって行われるが,大豆胚軸から高濃度のイソフラボンを\n含有する「大豆胚軸抽出物」を得るには,このような抽出処理に加え,合 成吸着樹脂を用いた濃縮操作等の精製処理が必要であることは,本件特許 の優先日当時の技術常識であったことが認められる(例えば,甲43の【0 011】,【0012】,甲46の【0002】ないし【0005】,甲 49の【0013】ないし【0015】)。 そして,高濃度のイソフラボンを含有する「大豆胚軸抽出物」は,コス\nトが高く,エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素が必要になる ことは自明であるから, かかる「大豆胚軸抽出物」を発酵原料とする発 酵物は,本件発明1の「大豆胚軸発酵物」に該当しないものと認めるのが 相当である。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)35663

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10063  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年6月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁でも本質的要件(第1要件)が欠落しているので、均等侵害は否定されました。

 当裁判所も,電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の 電子メールアドレスに分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従 って,電子メールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従 って電子メールの送信制御を行うとの構成は,本件発明1における本質的部分に該当し,同様に,複数の送信先が設定された電子メールから電子メール\nアドレス単位で個別メールを生成することは,本件発明2における本質的部 分に該当するところ,被告装置はドメインごとに分割するものであるため, かかる構成を有さず,均等の第1要件を充足しないと判断する。その理由は,後記(2)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判 断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の3及び6(原判決72 頁20行目から74頁25行目まで,77頁25行目から78頁13行目) 記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 控訴人は,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が, 個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決 をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位 でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を 個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定 及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制御を行うこ とが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分であると主張する。\nしかし,本件明細書等1には,「特許文献1に記載の技術においては, 送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断 することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メール に対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされるこ\nととなる。」(段落【0004】),「本発明は上述の問題点に鑑みなさ れたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電\n子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落 【0005】)と記載されている。 「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味するこ とは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は, 誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば,その他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消し\nされることとなることを課題として認識し,その課題に鑑みて,電子メ ールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく 電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とするものと解さ れる。
このように,本件明細書等1には,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされてしま\nうという従来技術である特許文献1の課題に対し,電子メールアドレス に応じた電子メールの送出制御を行うことによって課題を解決しようと することが記載されているのであるから,そのために必須の構成である電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割\nする構成が,本件発明1の本質的部分に含まれないとはいえない。
イ 控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術では,本来保留される必要の ない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留さ れてしまうことであって,それに比べれば,ドメインに応じた送出制御 を行った場合であっても,少なくとも一部の電子メールアドレスに対す る電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じ た電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出さ せる」効果を得ることができる旨主張する。 しかし,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが\n保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】(1))とは, 本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレ ス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するの が自然である。 また,前記アのとおり,「効率よく電子メールを送出させる」ことは, 電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされ るものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制 御によれば,保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送 信は全てなされるのであるから,本件発明の効果も同様と解すべきであ って,保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電 子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることで は足りないというべきである。
ウ 控訴人は,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載 された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定 し,当該課題から直接的に本質的部分を認定することは,均等侵害の成 否の場面において,文言侵害が否定されることを理由に,均等侵害の成 立が直ちに否定され,均等侵害がその機能を果たさない結果となることから,かかる結果が著しく妥当性を欠く旨主張する。\nしかし,本質的部分の認定は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基 づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許 発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術 的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(大合議判決)。よって,本件明細書等1の記載に基\nづいて,本件発明1が,従来技術である特許文献1のどのような点を課 題として把握し,どのような解決手段を提示し,どのような効果をもた らすものなのかを把握することは,当然なされるべきことであるから, 控訴人の主張は理由がない。
エ 被告装置は,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレ スごとに分割するという,本件発明1の本質的部分に含まれる構成を有していないから,均等の第1要件を充足しない。\n

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)44181

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)24598  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月26日  東京地方裁判所

 技術的範囲に属しない、サポート要件違反の無効理由ありとして、権利行使できないと判断されました。

原告による測定結果
株式会社東洋環境分析センターが,平成30年2月,原告の依頼によ り,宮崎県食品開発センターが保有するPT−Rを用いて,前記イの記載 に従って,同じロットナンバーの被告製品2について,3回測定した結果 によれば,被告製品2(1ロット)の見掛けタッピング比容積は,いずれ も2.4cm3/g(2.45cm3/g,2.46cm3/g,2.46cm3/g)で あった(甲20の1,20の2)。
オ 被告による測定結果
株式会社住化分析センターが,平成30年2月,被告の依頼により, PT−Xを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナ ンバーが異なる5つの被告製品についてそれぞれ1回ずつ測定した結果 によれば,被告製品2(製造時期の異なる5ロット)の見掛けタッピン グ比容積は2.2〜2.3cm3/g(2つの製品について2.2cm3/g, 3つの製品について2.3cm3/g)であった(乙11)。 被告が,平成30年10月頃,宮崎食品開発センターが保有するPT −Rを用いて,前記イの記載に従って,製造時期が異なりロットナンバ ーが異なる5つの被告製品2について,それぞれ3回ずつ測定した結果 によれば,その見掛けタッピング比容積は2.2〜2.3cm3/g(3つ の製品について3回とも2.3cm3/g,1つの製品について2.2cm3/ g,2.2cm3/g,2.3cm3/g),1つの製品について,2.2cm3/ g,2.3cm3/g,2.3cm3/g)であった(乙34)。
(2)本件明細書の特許請求の範囲には見掛けタッピング比容積の測定方法は記 載されていないが,発明の詳細な説明には,前記(1)イのとおり,実施例・比 較例における見掛けタッピング比容積はPT−Rを用いて測定された値であ る旨の記載がある。
原告は,PT−Rを用いて測定した結果(前記(1)エ)によれば,被告製品 2の見掛けタッピング比容積は2.4cm3/gであるから,構成要件1F及び2Fをいずれも充足すると主張する。\nて測定した結果によれば,製造時期の異なる5ロットの被告製品2につき, いずれも見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gに達していなかった。その 実験の信用性が否定されることを裏付ける客観的な証拠はない。上記のとお り,5ロットという複数の被告製品2について,それぞれ3回ずつ検査した 結果,いずれも見かけタッピング比容積が構成要件1F・2Fの下限である2.4cm3/gに達していなかったというのであるから,被告製品2は構成要定対象,測定方法による測定結果に照らして,原告の同エの測定結果によっ\nて被告製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm3/gであることを認める に足りない。
・・・
本件発明1及び2は,前記のとおり,2.5N塩酸,15分,沸騰温 度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度) をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分 解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解さ\nれた後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者 が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプの レベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉 末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題 となるといえる(なお,本件加水分解条件は,レベルオフ重合度を求め るものとして,当該酸濃度温度条件では比較的短時間といえる時間の加 水分解を定めたものであることがうかがえる。)。
ここで,優先日当時,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合 度について,天然セルロースとそれを加水分解して生成されたセルロー ス粉末とが同じレベルオフ重合度となることを直接的に述べた文献があ ったことを認めるに足りる証拠はない。他方,本件明細書においてレベ ルオフ重合度の説明において現に引用されている文献であり,種々の対 象について本件加水分解条件を含む条件で加水分解をした上で本件加水 分解条件(2.5N塩酸,沸騰温度,15分)を提唱したBATTIS TA論文は,(1)木材パプルについて,温和な加水分解条件での加水分解 を経た後に2.5N塩酸,沸騰という過酷な条件で加水分解した重合度 と,温和な加水分解条件での加水分解を経ずに2.5N塩酸,沸騰温度 という条件で加水分解した重合度を実際に測定して,前者の値が後者の 値より低かったこと,(2)セルロースを加水分解した際には結晶化がされ るという他の複数の研究者による研究成果を紹介した上で,上記(1)等の 実験結果は温和な加水分解は重量減少を伴わない結晶化を誘導すること を示しているようであること,(3)温和な加水分解や過酷な加水分解で起 こるメカニズムを提唱した上で,温和な加水分解を経た後に過酷な加水 分解がされた場合には結晶化された短いセルロース鎖の残渣が保持され るため,温和な加水分解を経ずに過酷な加水分解がされた場合よりもレ ベルオフ重合度が低下すると予想されることなどを述べていた。なお,セルロースの加水分解において再結晶化が起こることは他の文献でも紹\n発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,前記 のとおり,原料パルプを4N塩酸,40°C,48時間という条件,3N 塩酸,40°C,40時間という条件,3N塩酸,40°C,24時間とい う条件などで加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で 加水分解したものといえる。 前記のとおり,本件では本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が問 題となるところ,本件加水分解条件を提唱し,本件明細書でも引用してい るBATTISTA論文は,上記のとおり,他の複数の研究者による研究 成果を紹介した上で,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度について は,温和な加水分解を経た場合にはその過程を経ていないものに比べて, 値が低下することが予想されると述べていた。その内容とは異なり,本件加水分解条件で測定されるレベルオフ重合度について,天然セルロースと,\nそれを温和な条件で加水分解して生成されたセルロース粉末とが同じレ ベルオフ重合度であるという技術常識があったことを認めるに足りる証 拠はない。 に述べられるレベルオフ重合度は本件加水分解 条件により測定されたものではないし,同文献の著者は,優先日頃におい ても,著者が考える「レベルオフ」するためには本件加水分解条件の時間 では足りないと考えられていた旨述べる(同 )。 また,本件明細書に記載された実施例のセルロース粉末は,原料パル プを加水分解した後,攪拌,噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温 度180〜220°C、出口温度50〜70°C)して得られたものであ る。当該セルロース粉末の本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度 の明示的な記載が明細書にない以上は,上記加水分解,攪拌,噴霧乾燥 の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条件下でのレ ベルオフ重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識がある 場合に,当該セルロース粉末のレベルオフ重合度が本件明細書に記載さ れているに等しいといえる。上記の加水分解,攪拌や噴霧乾燥を経たセ ルロース粉末の本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度が原料パルプ のそれとの関係でどのような値になるかについての技術常識を認めるに 足りる証拠はない。 これらを考慮すれば,優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセ ルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じである と認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例 は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪 拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日 当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオ フ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末につ いて,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することが できたとも認められない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,セルロース粉末 について,本件加水分解条件の下でのレベルオフ重合度の記載があるの に等しいとは認められない。 カ 原告は,非晶質領域が分解されて結晶領域のみが残った状態に達したと きの重合度であるレベルオフ重合度は,途中に原料パルプから本件セルロ ース粉末という加水分解過程を経ると否とに関わらず同じ値となるのであ り,当業者であれば,原料パルプとそこから温和な加水分解によって得ら れる本件セルロース粉末のレベルオフ重合度は等しくなると当然に理解す ることができる旨主張し,また,BATTISTA論文における上記実験 結果における温和な加水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプ からセルロース粉末を生成する温和な加水分解の条件と同じものではない ことを指摘する。
しかし,本件においては具体的な本件加水分解条件による加水分解がさ れたセルロースの重合度(平均重合度)が問題となる。本件加水分解条件 を提唱し,発明の詳細な説明でも引用されるBATTISTA論文が,本 件加水分解条件によるレベルオフ重合度について前記のように述べていた ところ,優先日当時,そこに記載されているのと異なる内容の技術常識が あったことを認めるに足りる証拠はない。また,BATTISTA論文 は,セルロースを加水分解した際には結晶化がされるという他の複数の研 究者による研究成果を紹介した上で,前記の予想をしているのであり,そこに記載されているのと異なる技術常識があったことを認めるに足りる証\n拠がない本件で,BATTISTA論文においてされた実験での温和な加 水分解の条件が,本件の実施例における原料パルプから粉末セルロースを 作成する加水分解の条件と全く同じものではないことは上記の結論を直ち に左右するものではない。
なお,原告は,実験をした結果,原料パルプを本件加水分解条件で加水 分解したときの平均重合度と,当該原料パルプを実施例2と同じ加水分解 条件で加水分解して得たセルロース粉末を本件加水分解条件で加水分解し たときの平均重合度は実質的に同じであったとして,平成30年8月頃に 測定された結果を記載した平成31年3月20日付け報告書(甲56の 1)を提出し,また,上記でセルロース粉末を得る際の写真やセルロース 粉末を得た際に80°Cの熱風を当てる工程を含む24時間の乾燥処理をし たことなどが記載された同年4月9日付け報告書(甲57)を提出する。 しかし,本件では,優先日当時,本件明細書に記載された加水分解,攪 拌,噴霧乾燥の工程を経た当該セルロース粉末について,本件加水分解条 件下での重合度が原料パルプのそれと同じであるという技術常識の存否が 問題となるところ,上記時点の上記実験結果によって同技術常識を認める ことはできない。
キ 以上によれば,本件差分要件は,粉末セルロースについての平均重合度 と本件加水分解条件下でのレベルオフ重合度の差に関するものであるとこ ろ,明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,粉末セルロースの 本件加水分解条件でのレベルオフ重合度についての明示的な記載はなく, また,優先日当時の技術常識によっても,それが記載されているに等しい とはいえない。したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求 の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。
そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された 本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえ\nない。 以上によれば,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明の記載により当業 者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないから,特 許法36条6項1号に違反する。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10082  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属しないとした1審判決が維持されました。争点は「フリップフロップ現象発生用軸体」の用語の解釈です。

 控訴人は,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」について,「フリップフロップ現象を発生させる軸体を意味する。」との原判決の判断には誤りがあると主張する。\nしかし,本件発明1における構成要件E及びFの「フリップフロップ現象発生用軸体」は,その文言からフリップフロップ現象を発生させる軸体を意味することは\n明らかである。また,本件明細書を見ても,本件発明1はクーランド液が「フリッ プフロップ現象発生用軸体」を通過することによってフリップフロップ現象を発生 させるなどして,その課題を解決するものである(本件明細書の【0006】, 【0007】,【0041】〜【0045】)から,「フリップフロップ現象発生 用軸体」がフリップフロップ現象を発生させる軸体であることは明らかである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 控訴人は,本件明細書の【0037】は,電子回路の用語を参考に記載 しているだけであるのに,原判決は,本件発明1が「フリップフロップ現象」を解 決原理としていると誤解していると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】の記載が,電子回路の用語に基づく参考記載 にすぎないと認めることができないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の2(1)イ(カ)bの通りである。
(1) また,上記アのとおり,本件発明1は,「フリップフ ロップ現象」を解決原理としているものである。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 「フリップフロップ現象」の意味について
ア 控訴人は,本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】 の記載によると,フリップフロップ現象とは,「フリップフロップ現象発生用軸体 を通過することにより当該現象の結果として『クーラント液等』が『乱流となり無 数の微小な渦を発生』した状態」を指すことを基本としていると主張する。 しかし,本件明細書の【0037】に,「フリップフロップ現象(フリップフロ ップ現象とは,流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)」と 記載されている上,本件各発明と共通する技術分野において,本件特許出願前に 「フリップフロップ現象」の語が,おおむね,流体の流れの周期的な振動ないし方 向変換を意味するものとして使用されていること(原判決の「事実及び理由」の第 4の2(1)イ(ウ))からすると,本件発明1におけるフリップフロップ現象は,基本 的には,(1)「流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象」を意味 すると解釈することができ,(2)「クーラント液等」が「乱流となり無数の微小な渦 を発生」した状態を指す語としての使用は,上記(1)の意味におけるフリップフロッ プ現象の発生を前提とした,派生的な使用と位置づけられるべきである。控訴人が 指摘する本件明細書の【0011】,【0043】及び【0007】の記載は,こ の判断を左右するものではない。
イ 控訴人は,本件特許の出願当時の当業者の理解について主張する。 まず,乙14〜20は,いずれも公開特許公報であるが,これらの特許において は,A及びBのほか,C(乙16),D(乙17),E(乙18,20),F(乙 19)も共同発明者とされていることが認められるから,単に,A及びBの2名の 研究者,発明者がフリップフロップ現象を「流体の流れの周期的な振動ないし方向 転換を意味するもの」として使用しているとは認められない。 また,控訴人は,本件発明1の構成要件Dの記載によると,当業者は,本件明細書の【0037】の括弧内の記載の流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向\n変換して流れること)が生じないことを理解すると主張する。 しかし,本件発明1の構成において,ひし形凸部がフリップフロップ現象発生用軸体の軸心に対してどのような傾きをもって設置されているかは特定されておらず,\n上記軸心に対してひし形凸部が傾きを持っていて非対称となっているかは明らかで はないから,当業者が,本件明細書の記載や,「フリップフロップ現象」の語につ いての当業者の一般的な理解に反して,本件明細書の【0037】の括弧内記載の 流れ(流体の流れる方向が周期的に交互に方向変換して流れる現象)が生じないこ とを理解すると認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)11147

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)4815 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年1月20日  大阪地方裁判所

 大阪地裁26部で、102条2項により13億を越える損害賠償(代理人費用含む)が認められました。9割覆滅されています。

 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者 が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,こ れと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,そ の立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が 生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,そ の利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規 定である。このような趣旨に鑑みると,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為 がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存在する場合には,同項の 適用が認められると解すべきであるとともに,同項所定の侵害行為により侵害者が 受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当 であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解される。
(イ) 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告による本件特許権 侵害行為の期間(平成20年〜平成28年)において,スクリュ圧縮機に相当する 圧縮機ユニット又はスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに相当するコンデンシン グユニットである原告各製品を製造し,プラント業者等に販売していたことが認め られる。 他方,証拠(乙39,78,81,82,85,93,99,110)及び弁論 の全趣旨によれば,被告は,平成20年〜平成28年にかけて,油冷式スクリュ圧 縮機である被告製品2−2及び2−3が組み込まれたスクリュ式ガス圧縮システム であるNewTonシステムを使用した冷凍・冷蔵プラントである被告製プラントを販 売した一方,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3を,国内においては別 個独立に販売することはなかったこと(なお,国外向けには,被告のグループ会社 に単体又は単独で販売し,当該グループ会社がシステムを完成させて顧客に販売す ることはあった。)が認められる。 このように,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2−2 及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売する という形で本件特許権侵害行為を行っているから,本件特許権侵害行為における侵 害品は,上記NewTonシステムとするのが相当である。 そして,NewTonシステムと原告各製品が組み込まれたシステムとは,上記のと おり,冷凍・冷蔵プラントの需要者を需要者とする点で共通する以上,NewTonシ ステムと原告各製品の需要者も,その面では共通する部分があるといえる。 したがって,本件においては,原告に,被告による本件特許権侵害行為がなかっ たならば利益が得られたであろうという事情が存在するといえることから,特許法 102条2項の適用が認められる。
(ウ) これに対し,被告は,原告各製品がスクリュ圧縮機等であるのに対し,被告 が販売するのは被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムを使用し た被告製プラントであることを指摘して,特許法102条2項の適用は認められな いと主張する。 しかし,被告指摘に係る事情は,要するに特許権者である原告と侵害者である被 告との間の業務態様の相違(ひいては市場の非同一性)を指摘するものであるとこ ろ,このような事情を考慮しても,原告各製品と被告製品2−2及び2−3とは, 上記(ア)のような形で市場においてなお競合関係にあると見るのが相当であるから, 特許法102条2項の適用を否定すべき事情とはいえない。被告指摘に係る当該事 情は,同項に基づく損害額の推定を覆滅する事情として考慮すれば足りる。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額
(ア) 侵害者がその侵害の行為により受けた「利益の額」(特許法102条2項)は, 侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりそ の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であ り,その主張立証責任は特許権者側にあると解される。 前記アのとおり,本件における侵害品は被告製品2−2及び2−3が組み込まれ たNewTonシステムであるから,本件特許権侵害行為により被告が受けた「利益の 額」は,その売上高から,被告においてNewTonシステムの製造販売に直接関連して 追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額を算定するのが相当である。 これに対し,被告は,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であること, 原告自身が侵害品を圧縮機として特定していること,NewTonシステムから圧縮機だ けを分離可能であることなどを指摘して,本件の侵害品は,NewTonシステムではな く,圧縮機本体を中核とする被告製品2−2及び2−3であると主張する。 しかし,前記アのとおり,本件の侵害品はNewTonシステムとすることが相当であ り,このことは,本件発明が油冷式スクリュ圧縮機に関する発明であることなどに より左右されない。NewTonシステムから圧縮機を物理的に分離可能であるとしても,\n前記アのとおり,被告においては基本的にこれを別個独立に販売しておらず,この 部分の譲渡による利益を直接的に観念し得ない以上,同様であり,被告製品2−2 及び2−3がNewTonシステムの一部分であることは,損害額の推定を覆滅する事情 として考慮すれば足りる。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(イ) NewTonシステムの販売台数
証拠(乙85,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,被告が販売した NewTonシステムの販売台数は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜 「NewTonシステムの利益額算定表(6)」の「NewTon台数」欄に各記載のとおりであ ることが認められる。
b これに対し,被告は,被告が販売したNewTonシステムのうち,本件特許権の 存続期間中に受注し,存続期間満了後に製造を終えて納入したものについては,本 件特許権の存続期間中に,存続期間満了後に行われた適法な譲渡についての申出が\n行われたにすぎないから,本件特許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にすべ きではないと主張する。 しかし,被告は,本件特許権の存続期間中に「譲渡の申出」を行った上で受注し\nており,この時点で顧客との間の請負契約が成立している以上,製造及び納入の完 了が本件特許権の存続期間満了後であったとしても,これによる原告の損害は,な お本件特許権の存続期間中の侵害行為である「譲渡の申出」と相当因果関係にある\n損害というべきである。そうすると,これに係る「譲渡」による販売分も,本件特 許権侵害行為による損害賠償の算定の基礎にするのが相当である。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) NewTonシステム1台ごとの売上額
a NewTonシステムは,前記ア(イ)のとおり,基本的に冷凍・冷蔵プラントとは 別個独立のものとして販売されていないものの,証拠(乙39,92,110)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの「定価」を設定し,そのNewTonシステムを使用した被告製プラ ントを販売するに当たって,当該「定価」を見積書に記載するなどして顧客に対し 見積りを示した上で,被告製プラントを販売していることが認められる。 そうすると,NewTonシステム1台ごとの売上額を算定するに当たり,当該「定 価」に依拠することには合理性がある。
他方,証拠(甲23,乙100,119)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売に当たり,「出精値引」などと して,冷凍・冷蔵プラントを構成する部品価格の合計額から値引きして販売する例\nがあったことが認められる。もっとも,全ての取引において値引きが行われたこと を認めるに足りる事情はなく,また,プラントを構成するいずれの部品が値引き対\n象とされたかも不明であるから,上記売上額の算定に当たり値引き分を考慮するこ とは合理的でない。 以上を踏まえると,証拠(乙39)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステ ム1台ごとの売上額は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTon システムの利益額算定表(4)」の「定価(単価)」欄に各記載のとおりであると認め られる。 これに対し,被告は,NewTonシステム1台ごとの売上額は,その実質的な販売 価格に相当する●(省略)●により算定すべきであると主張する。 しかし,証拠(乙39,92,93)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシス テムの●(省略)●は,被告の製造部門が販売部門に販売処理手続を行う際の設定 される価格にすぎず,被告は,この●(省略)●を上回る価格を「定価」として設 定した上で,NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売していることが認 められる。すなわち,●(省略)●「定価」においてこれが反映されているものと 理解される。そうすると,顧客に対する関係では,●(省略)●は実質的な販売価 格とはいえない。 したがって,NewTonシステム1台ごとの売上額の算定に当たりその●(省略) ●を基礎とすることは合理性を欠き,相当でない。この点に関する被告の主張は採 用できない。
b 593番代替機及び6048番転用機について
証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利益額算 定表(5)」の対象となっている593番代替機は,106番機の代替機として,顧客 に無償で譲渡されたことが認められる。そうすると,106番機と593番代替機 の販売は一連の取引によるものといえる。このような経緯を踏まえると,106番 機と593番代替機の販売については,106番機1台分の売上額●(省略)●円 をもって2台合計の売上額として算定するのが相当である。 また,証拠(乙99)及び弁論の全趣旨によれば,別紙「NewTonシステムの利 益額算定表(6)」の対象となっている6048番転用機は,同一の顧客に対して61 8番機2台と共に合計3台として納品されたこと,この取引におけるNewTonシステ ムの代金は2台分の代金とされたことが認められる。このような経緯を踏まえると, 2台分の売上額である●(省略)●円(●(省略)●円×2)をもってこれら3台合 計の売上額として算定するのが相当である。 以上に反する原告の主張は採用できない。
(エ) NewTonシステム1台ごとの経費
a 前記(ア)のとおり,控除すべき経費は,侵害品の製造販売に直接関連して追加 的に必要となったものをいい,例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運 送費等がこれに当たる。これに対し,例えば,管理部門の人件費や交通・通信費等 は,通常,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たら ない。
b 控除すべき経費
(a) 製造原価
証拠(乙39,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,NewTonシステム1 台ごとの製造原価は,別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)」〜「NewTonシ ステムの利益額算定表(4)」の「製造原価(単価)」欄に各記載のとおりであること が認められる。
(b) その余の経費
被告は,上記製造原価のほかに,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの製造工場に係る間接人件費並びに販売費及び一般管理費を控除 すべき旨を指摘する。 まず,間接人件費についてみると,間接人件費は,正に管理部門の人件費である ところ,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムの製品の製造 販売に直接関連して,間接人件費に相当する費用が追加的に発生したと見るべき事 情は見当たらない。そうすると,被告製品2−2及び2−3が組み込まれた NewTonシステムの製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず, 控除すべき経費に当たらない。 次に,販売費及び一般管理費についてみると,証拠(乙75,84,109)及 び弁論の全趣旨によれば,上記(a)の製造原価には,社内加工費及び艤装作業費が含 まれていることが認められるところ,これを除くと,証拠(乙78,101)及び 弁論の全趣旨によっても,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシス テムの製品の製造販売に直接関連して,販売費又は一般管理費に相当する費用が追 加的に発生したと見るべき事情は見当たらない。そうすると,被告指摘に係る販売 費及び一般管理費は,被告製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステム の製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用とはいえず,控除すべ き経費に当たらない。 したがって,被告の上記指摘は当たらない。
(c) 被告の主張について
そもそも被告は,最小二乗法を用いて限界利益率を算定するのが管理会計学上確 立した方法であるとして,本件特許権侵害行為により被告が受けた利益の額を算定 するに当たっても,最小二乗法を用いるのが合理的であると主張する。 しかし,前記(ア)のとおり,特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受 けた利益の額として算定すべき額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者におい て侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要とな った経費を控除した限界利益の額であり,被告主張に係る管理会計学上の限界利益 の額とは必ずしも一致しない。また,算定の目的を異にする以上,侵害者が受けた 「利益の額」(特許法102条2項)の算定に当たり,管理会計学上の限界利益の 額の算定方法である最小二乗法を用いないとしても,不合理であることにはならな い。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
・・・
ウ 推定の覆滅について
(ア) 基礎となる事情
a NewTonシステム及び被告製品2−2及び2−3等について
(a) NewTonシステムの特徴及び販売促進活動
NewTonシステムは,平成19年にNewTon3000が商品化され,平成20年以降, 被告製プラントに使用される形で販売されており(甲8の3,乙45),基本的に, 冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとしては販売されていない。被告製品2− 2及び2−3のみならず,被告製品2は,いずれもNewTonシステム専用の圧縮機で あり(甲3),NewTonシステムを使用した被告製プラントを購入する際には,必然 的に購入することになるところ,これらも,NewTonシステムと同様に,基本的に別 個独立のものとして販売されていない。また,NewTon3000は,IPMモーターを 搭載することなどにより,従来式に比べて20%の省エネを実現するとされ,発売 開始当初は年間200台,10年後には年間800台の販売を目標にしていた(乙 45,116)。 被告は,その後もNewTonシステムの開発を継続し,平成24年にはチルド専用の NewTonC,フリーザー専用のNewTonF等のシリーズ展開が行われ,平成28年ま でに累計●(省略)●台以上を販売した。さらに,被告は,平成28年7月,省エ ネ性を保ちつつ,冷媒充填量の削減,メンテナンス性の向上及び小型・軽量化を達 成したフリーザー専用の機種として,F-300,F-600等の販売を開始した(甲8の3, 乙45)。
NewTonシステムは,被告自ら開発したIPMモーターを搭載することなどによっ て,より高度な経済性と省エネルギー性を実現する点,令和2年に全廃されるフロ ン冷媒対策として,自然冷媒であるアンモニアで二酸化炭素を冷却するという間接 冷却方式を採用するとともに,アンモニアを機械室に閉じ込める構造によりその安\n全な利用を可能とし,さらに,漏洩センサー等を装備するなどしてアンモニアが漏\n洩しても素早い対応が取れるようにしている点,コンパクトなユニット設計を採用 することで導入を容易としている点,遠方監視システム及び保全診断システムなど 24時間365日のサポート体制を設けている点等に特徴があるとされ,これらの 点が強調された形で販売促進活動が行われていた(甲8の3,乙38,45)。 なお,NewTonシステムや被告製品2−2及び2−3の宣伝広告物には,本件明細 書記載の本件発明の作用効果に直接言及し,又はこれを具体的にうかがわせる記載 は見られない(甲3,8の3,乙38,66の1)。
(b) NewTonシステムを導入した業者によるNewTonシステムについての評価 被告は,その作成に係る「Customer’s Point of View」と題する記事において, NewTonシステムを導入した顧客の導入の動機,導入後の成果等を紹介していると ころ,これには,以下のような記載がある。
・・・
(b) 原告各製品の取扱業者による販売促進活動
・・・・
(イ) 検討
a 前記認定のとおり,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告 製品2−2及び2−3を独立して販売しておらず,また,これらを組み込んだ NewTonシステムについても同様であり,被告製品2−2及び2−3を組み込んだ NewTonシステムを使用した被告製プラントを販売している。他方,原告は,スク リュ圧縮機又はこれに凝縮器を付加した原告各製品を販売しているにとどまり,プ ラントという単位でみると,「セットメーカ」などといわれる別の業者が需要者に 対して提案するパッケージに組み込まれて販売されるという関係にある。このよう に両者の業務形態が大幅に異なることは,本件の侵害品であるNewTonシステムへ の需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。この ため,仮に被告製品2−2ないし2−3を組み込んだNewTonシステムが販売され なかったとしても,原告各製品のいずれかが被告製品2−2又は2−3に直接代替 されることは考え難い。他方,そのような場合に,被告製品2−2及び2−3の譲 渡数量に対応する需要の全部又は一部が原告各製品の組み込まれたシステムを使用 したプラントに向かうことはあり得ることから,その場合は,結果的に,上記需要 が原告各製品に向かったことになる。もっとも,原告は,プラントを構成する圧縮\n機を販売するにとどまり,プラント全体の構成及び価格の決定や需要者に対する販\n売促進活動において及ぼし得る影響力には限りがあると思われる。 以下では,このような観点も踏まえて,推定覆滅の有無及び程度を検討する。
b 被告製品2−2及び2−3は,本件発明の技術的範囲に属するものである以 上,基本的には本件発明の作用効果を奏すると考えられるところ,被告製品2−2 及び2−3において,本件発明の作用効果を奏していないという事情はうかがわれ ない。この点,被告は,被告製品2−2及び2−3が本件発明の作用効果を奏する ものではない旨主張するが,採用できない。 もっとも,本件発明の作用効果は,スラスト軸受の負荷容量を大きくすること, バランスピストンの受圧面積を大きくすること,逆スラスト荷重状態の発生をなく すことなど,単純かつコンパクトな構造で,振動,騒音を低減させることができる\nというものであり,技術的にはさておき,本件発明の実施品ないしこれを組み込ん だシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしも いえない。このことは,被告製品2−2及び2−3につき,被告がその販売促進活 動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと,NewTonシステム に対する外部的な評価においても,本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見 当たらず,これを示唆するものもないこと,特許権者である原告自身も,スクリュ 圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付 けられる。そうすると,本件発明の作用効果それ自体には,それほど強い顧客吸引 力はないと見るのが相当である。
また,弁論の全趣旨によれば,NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力 の中核を成す部分であり,被告製品2−2及び2−3は,NewTonシステムを稼働 させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで,NewTonシステムの 顧客吸引力を検討すると,被告は,NewTonシステムの販売促進活動において,省 エネ,安全性,サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。し かも,被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は,表彰の受賞理由とされ,\nまた,その導入の動機となり,現にその実績も上がっているとされるなど,第三者 からも積極的に評価されていることがうかがわれる(なお,原告は,省エネや安全 性が本件発明の作用効果であるとも主張するけれども,NewTonシステムにおける 省エネや安全性はIPMモーターや間接冷却方式を採用するなどしたことによるも のであり,本件発明の作用効果とは無関係と見られることから,この点に関する原 告の主張は採用できない。)。
c 被告製品2−2及び2−3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占め る割合は,被告製品2−2及び2−3の技術的・商業的価値を直接的に反映したも のではないが,これを推し測る一事情とはなるところ,被告製品2−2及び2−3 がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても,NewTonシ ステムの製造原価における被告製品2−2又は2−3の製造原価の割合は,●(省 略)●にとどまる。
d NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの 販売実績は,アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリ ュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると,原告及び 被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることか ら,NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりであ る●(省略)●。また,被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込ま れる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと,原告の製造に係る 製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると,被 告が非侵害品を販売していたり,販売することが容易であったりすれば,仮に被告 製品2−2及び2−3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとして も,需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使 用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。 そして,被告は,被告製品2−2及び2−3以外にも,本件発明を侵害しない NewTonシステム専用品として,被告製品2−1を製造しており,これによって被 告製品2−2及び2−3に代替することが考えられる。なお,原告は,被告製品2 −1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれ ども,現に納入実績がある以上,需要者の需要を満たすものである限り,被告製品 2−1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。\nまた,被告は,本件特許権侵害行為当時,被告製品2以外にはNewTonシステム 専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの,弁論の全趣旨によれば, NewTonシステムにおいて,本件特許権の侵害を回避するために,例えば油ポンプ を加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく,また,コス ト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると,被告製プラントを 欲する需要者の要望に対し,既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し, 本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には, 本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2− 1しかなく,また,上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ,推 定を覆滅すべき事情としては,この点も考慮するのが合理的である。この点につき, 原告は,競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張 するが,上記のとおり,これを採用することはできない。
e 被告は,被告のNewTon事業の限界利益率が,原告の圧縮機事業の限界利益 率を上回ることを前提に,特許法102条2項により算定された利益の額が,特許 権者である原告がその実施能力に基づき得られたであろう利益の額を上回る場合は,\nその限度で覆滅されると主張する。 しかし,仮に被告のNewTon事業の限界利益率が原告の圧縮機事業の限界利益率 を上回るとしても,それをもって原告の圧縮機事業の実施能力が被告のNewTon事 業の実施能力に劣ることを意味するものではないから,被告の上記主張は,その前\n提を欠く。 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
f 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告製品2−2及び2 −3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった 場合に,これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮 機,更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく, むしろ,そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると,本件では,9 割の限度で,特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である。 この点に関する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。
エ 以上によれば,原告の逸失利益の額は,別紙「損害額算定表(裁判所認定)」\nの(3)欄のとおり,合計12億5428万1900円であると認められる。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)27238  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年2月28日  東京地方裁判所

 特許を侵害するとして約1800万円の損害賠償が認められました。判決文が200頁を越えてます。論点は技術的範囲の属否、無効の抗弁と多岐に渡ります。平成27年11月以降で1つあたりのライセンス料が1.5倍となっているのは、特許3についても侵害となったためです。

 本件では,本件LED又はその製造方法が特許発明の技術的範囲に属するということだけでなく,白色LEDはそれのみで販売の対象となるものであり,原告は白色LEDの製造,販売を行っていることなどから,特許法102条3項の金額の算定に当たって,まず,上記の平均的な価格の24個分の価格に,主として本件特許権1の侵害が問題 となる平成27年10月までの期間については5パーセントを乗じ,本件特許 権1に加えて本件特許権3(登録日平成27年10月23日)の侵害も問題と なる平成27年11月以降の期間(なお,本件発明2と本件訂正後発明3の内 容に照らし,損害の算定に当たり本件特許権2(登録日平成28年12月16 日)の侵害については特に期間を分けて考慮することをしない。)については 8パーセントを乗じると,それぞれ,10.80円及び17.28円となる(2 16円×5パーセント=10.80円 216円×8パーセント=17.28 円)。
そして,本件で特許権の侵害となるのは本件LEDを使用した被告製品の販 売であること,本件LEDはデジタルハイビジョンテレビである被告製品にと り不可欠のものであり,その機能,性能\において重要な役割を果たしていると いえること,原告の白色LEDの市場におけるシェア,原告が主張するライセ ンスについての方針,その他本件に現れた諸事情を考慮し,本件において,被 告製品1及び2を通じ,特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額 は,被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,平成27年10月までの期 間については,20円をもって相当であると認め,平成27年11月以降の期 間については,30円をもって相当であると認める。
以上のとおり,本件において,原告が実施に対し受けるべき実施料として被 告製品1台当たり,20円又は30円とするのが相当であるところ,これらは, それぞれ,被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.08 7パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3 万4129円≒0.00087)。これらに基づき,特許法102条3項に基づ く損害額は,以下のとおり,1645万6641円とするのが相当と認める。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 102条3項
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

令和1(ネ)10042  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和2年2月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明の侵害事件です。会計ソフトについて非侵害と判断された1審判断が維持されました。均等侵害も第1要件を満たしていないとして否定されました。 該当特許の公報は以下です。

◆公報
該当特許は無効審判もありますが、2020年1月に、特許は有効と判断されています(無効2018-800140)。

3 争点2(均等論)について
控訴人は,仮に本件発明の構成要件Hは「社会保障給付」が「財源措置(C\n2)」に含まれる構成であると解した場合には,被告製品においては,「社会\n保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれておらず,「純経常費用(C1)」 に含まれている点で本件発明と相違することとなるが,被告製品は,均等の第 1要件ないし第3要件を充足するから,本件発明の特許請求の範囲に記載され た構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する旨主張するので,\n以下において判断する。
(1) 前記2(2)認定のとおり,被告製品は,少なくとも構成要件B3及びHを\n充足するものと認められないから,被告製品は,構成要件Hの構\成以外に, 構成要件B3の構\成を備えていない点においても本件発明と相違するものと 認められる。 しかるところ,控訴人の主張は,被告製品に構成要件B3の構\成について も相違部分が存在し,被告製品と本件発明は構成要件B3及びHにおいて相\n違することを前提とするものではないから,その前提において理由がない。
(2)ア 次に,被告製品の第1要件の充足性について,念のため判断する。 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記1(2)認定の本件 明細書の開示事項を総合すれば,本件発明は,国民が将来負担すべき負債 や将来利用可能な資源を明確にして,政策レベルの意思決定を支援するこ\nとができる「財務諸表を作成する会計処理のためのコンピュータシステム」\nを提供することを課題とし,この課題を解決するために「純資産の変動計 算書」(「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」) を新たに設定し,当該年度の政策決定による資産変動を明確にできるよう にしたことに技術的意義があり,具体的には,構成要件B1ないしIの構\ 成を採用し,純資産変動額や将来償還すべき負担の増減額を「処分・蓄積 勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」に表示し,当該年\n度の政策決定による資金変動を明確にすることができるようにしたことに より,国民の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,そ\nの財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一 目で知ることができ,政策決定者は純資産変動額を勘案して政策を遂行す ることができるという効果を奏するようにしたこと(【0002】,【0 005】,【0007】ないし【0010】,【0021】,図1)に技 術的意義があるものと認められる。
そして,本件発明の上記技術的意義に鑑みると,本件発明の本質的部分 は,「資金収支計算書勘定記憶手段及び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)\n及び損益勘定作成・記録手段」から,国家の政策レベルの意思決定を記録 ・会計処理するために,「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定) (C1〜C4)」を作成・記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記 録手段を備え(構成要件B3),損益外純資産変動計算書勘定作成・記録\n手段の記録は,その期における損益外の純資産増加(C3,C4)と純資 産減少(C1,C2)の2つで構成され,損益勘定(行政コスト計算書勘\n定)の収支尻(貸借差額)である「純経常費用(B7)」が処分・蓄積勘 定(損益外純資産変動計算書勘定)の「純経常費用(C1)」に振替えら れ(構成要件F),「処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」\nの貸方と借方の差額(収支尻)が,「当期純資産変動額(C5)」という 形で,最終的には「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)」の「純資産(国民\n持分)(B4)」の部に振り替えられて,「閉鎖残高勘定(貸借対照表勘\n定)」の借方(左側)と貸方(右側)がバランスし(構成要件G),「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)」の借方側(勘定の左側) の「財源措置(C2)」は,具体的には社会保障給付やインフラ資産を整 備した際の資本的支出のような損益外で財源を費消する取引を指し(構成\n要件H),処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)の貸方側(勘 定の右側)の「資産形成充当財源(C4)」は,財源措置として支出がさ れた場合,財源は費消されるが,その一部分は,インフラ資産のように将 来にわたって利用可能な資産形成に充当されるため,その支出の時点で政\n府の純資産(国民持分)が何らかの資源が現金以外の形で会計主体として の政府の内部に残っていると考えることができ,将来世代も利用可能な資\n産が当期どれだけ増加したかを示している(構成要件I)という構\成を採 用することにより,当該年度の政策決定による資金変動を明確にし,国民 の資産が当期の予算措置で増えるのか又は減るのか,また,その財源の内\n訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのかを一目で知るこ とができ,政策レベルの意思決定を支援することができるようにしたこと にあるものと認めるのが相当である。
しかるところ,被告製品においては,「資金収支計算書勘定記憶手段及 び閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定)及び損益勘定作成・記録手段」から「処\n分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)(C1〜C4)」を作成・ 記録する損益外純資産変動計算書勘定作成・記録手段を備えておらず,ま た,「社会保障給付」が「財源措置(C2)」に含まれていないため,構\n成要件B3及びHを充足せず,当該年度の政策決定による資金変動を明確 にし,財源の内訳から将来の国民負担がどの程度増えるのか又は減るのか を一目で知ることができるようにして政策レベルの意思決定を支援するこ とができるようにするという本件発明の効果を奏するものと認めることは できない。 したがって,被告製品は, 本件発明の本質的部分を備えているものと認 めることはできず,被告製品の相違部分は,本件発明の本質的部分でない ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件発 明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n
イ(ア) これに対し控訴人は,本件明細書の記載によれば,本件発明の本質 的部分(課題解決原理)は,(1)(C)の処分・蓄積勘定(純資産変動計 算書勘定)が損益外の純資産増加(C3,C4)(貸方)と純資産減少 (C1,C2)(借方)の2つで構成され(構\成要件F),期末にその 貸方と借方の差額(収支尻)が当期純資産変動額(C5)という形で閉 鎖残高勘定(貸借対照表勘定)の純資産(国民持分)(B4)の部に振\nり替えられる(構成要件G)ことで,国民が将来負担すべき負債を明確\nにするという点,(2)(C)の処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書 勘定)の貸方側において,将来世代も利用可能な資産が当期どれだけ増\n加したかを示している(財源が固定資産などに転化したもの,すなわち 税収等の財源が使用されて減少したが,将来世代が利用可能な資産の形\nで増加したと解釈できるものを計上する)資産形成充当財源(C4)の 金額が,将来利用可能な資源を明確にする(構\成要件I)という点,(3) 処分・蓄積勘定(損益外純資産変動計算書勘定)と資金勘定(資金収支 計算書勘定),閉鎖残高勘定(貸借対照表勘定),損益勘定(行政コス\nト計算書勘定)との「勘定連絡(勘定科目間の金額の連動)」がプログ ラムに設定されていることが,政策レベルの意思決定と将来の国民の負 担をコンピュータ・シミュレーションする会計処理を可能にするという\n点にあり,被告製品は,本件発明の本質的部分を備えている旨主張する。 しかしながら,本件発明の本質的部分は前記アのとおり認めるのが相 当であり,また,上記(3)の点については,本件発明は,請求項2に係る 発明とは異なり,「コンピュータ・シミュレーション」を行うことを発 明特定事項とするものではないから,本件発明の本質的部分であるとい うことはできない。 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(イ) また,控訴人は,「財源措置」とは,将来利用可能な資源の増加を\n伴うか否かにかかわらず,「当期に費消する資源の金額」を意味するも のであり,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」を包括する 上位概念であるから,この意味で「純経常費用(C1)」と「財源措置 (C2)」は同質的であり,個別の政府活動が「行政レベルの業務執行 上の意思決定」と「国家の政策レベルの意思決定」のいずれに分類され たとしても,処分・蓄積勘定(純資産変動計算書勘定)の借方の金額, すなわち,「当期に費消する資源の金額」には変化はないから,本件発 明の課題解決原理として不可欠の重要部分である処分・蓄積勘定の収支 尻(貸借差額),すなわち「当期純資産変動額」に影響を及ぼすもので はないことからすると,被告製品の構成要件Hに係る相違部分(被告製\n品においては,「社会保障給付」が,「財源措置(C2)」に含まれて おらず,「純経常費用(C1)」に含まれている点)は,本件発明の本 質的部分とは無関係な些細な相違にすぎない旨主張する。 しかしながら,本件明細書には,(1)処分・蓄積勘定(損益外純資産変 動計算書勘定)の借方の「純経常費用(C1)」は,「損益勘定(行政 コスト計算書勘定)」の収支尻である「純経常費用」が振り替えられて 計上されるところ(【0026】,【0035】,図1),「損益勘定 (行政コスト計算書勘定)」は,主として行政レベルの業務執行上の意 思決定を対象とするもので,行政コスト(損益)計算区分に計上される 行政コスト(計上損益)は少なければ少ないほど効率的な行政運営であ ることを意味するものであること(【0036】),(2)処分・蓄積勘定 (損益外純資産変動計算書勘定)の借方の「財源措置(C2)」は,社 会保障給付やインフラ資産を整備した際の資本的支出のような,「損益 外で財源を費消する取引」を指し(【0027】),「財源の使途」(損 益外財源の減少)に属する勘定科目群は,主として国家の政策レベルの 意思決定の対象として,現役世代によって構成される内閣及び国会が,\n予算編成上,どこにどれだけの資源を配分すべきかを意思決定するもの\nであり(【0037】,図2),社会保障給付は,上記勘定科目群の「移 転支出への財源措置」に計上される非交換性の支出(対価なき移転支出) であること(【0040】)の開示があることに照らすと,本件発明に おいては,「純経常費用(C1)」と「財源措置(C2)」は同質的な ものであるとはいえず,「財源措置(C2)」に含まれる社会保障給付 にいくら財源を配分するのかは国家の政策レベルの意思決定の対象であ るといえるから,控訴人の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成30(ワ)10130

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明

▲ go to TOP

令和1(ネ)10046  特許権侵害行為差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、侵害を認めた1審判断を維持しました。なお、判決文がテキストデータになっていないため、OCR処理しましたが、誤字についてはご了承ください。

 当審における補充主張に対する判断
控訴人は,本件明細書等の記載によれば,本件各発明の効果は, ドラ イパビットの翼部の屈曲部l乙ネジの翼係合部の屈曲部が接触することに よるものであるとし,これを前提に,被告製品は本件各発明の効果を奏 しないと主張する。 本件明細書等の段落【0003), 【0004】, 【0008】, 【図1】の記載からは,従来技術においては,食い付き部分を有する ネジを含む従来のネジにおいて,翼係合部とドライパピットの翼部と の引っ掛かりが悪いことやドライパピットがネジに対して傾いた状態 であることにより更ネジを回転させようとするとき,カムアウト現象 が生じ易いという課題が存するところ,本件各発明の「側壁面」の構\n成を採用すると,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネ ジに対してドライパピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した 側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので, 前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛か りがよくなるため, ドライバピットがカムアウトしにくくなり,上記 課題が解決されることが理解できる。 そして「食い込む」とは「他の領域へ入りこんで侵す。侵入す る。」 (乙10 1) ことであるから,本件明細書等の段落【0008】 の「翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面 が食い込むJとは,回転力を加えることにより, ドライパピットの翼部 とネジの翼係合部が接触する箇所において, ドライパピットの翼部の側 面がネジの翼係合部の側壁面を確実に把握し,引っ掛かりがよくなるこ とを意味するものと解され,本件各発明の効果を奏するために, ドライ パピットの翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することが必須で あるということはできない。また,控訴人の指摘する本件明細書等の段 落【0014], 【0017]及び【0022]にも, ドライバピット の翼部とネジの翼係合部の屈曲部同士が接触することの記載はない。 控訴人は,本件意見書2の図A,B等は, ドライパピットの翼部の屈 曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触することを裏付けると主張するが, 本件明細書等の上記記載に照らせば,本件意見書2の各図は上記判断を 左右するものではない。
(イ) 控訴人の主張によっても,専用ピットの翼部の先端が被告製品の 「先端部内側面Jに点状に接触するというのであるから,被告製品に おいても, ドライパピットに回転力を加えた際に当該接触した箇所で 食い込みが生じ,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなり, ドライ パビットがカムアウトしにくくなるという効果を奏すると解され,被 告製品において本件各発明の効果を奏しないということはできない。
本件特許に係る無効理由の有無(争点2) について
(1) 本件特許に係る無効理由の有無(争点2) についての判断は,次のとお り補正し,後記のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほか は,原判決第4の・・・記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決56頁24行目「動機」を「動機付け」と改める。
イ原判決57頁19行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし,前記判示のとおり,ネジ及びドライパピットの食い付き部分は 周知技術であり,出願当初の明細書等の実施例に当該周知技術について記 載がされていないとしても,それは本件各発明が当該周知技術を備えるこ とを排除する趣旨であるとは解し得ない。そうすると,本件各発明の技術 的範囲に当該周知技術の構成を備えたネジが含まれるとしても,構\成要件 1D及び2Aの「ネジの中心側から外方に向かつて延びる平面状の基端側 部分」との発明特定事項を追加する本件手続補正が新規事項の追加となる ものではない。 また,本件明細書等の段落【0003], 【0004】, 【0008], 【図1】の記載からは,本件各発明の「側壁面」の構成を備えることによ\nり,対応する形状の翼部を有するピットを用いれば,ネジに対してドライ パピットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状 に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確 実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため, ドライパピ ットがカムアウトしにくくなるという本件各発明の効果が得られることが 理解でき(本判決第3の2(3)ウ(7)参照。), 「食い付き部分」の有無は 本件各発明の課題の解決に影響する構成とはいえない。したがって,控訴\n人主張の点は,サポート要件適合性を否定するものではないというべきで ある」
(2) 当審における補充主張に対する判断
ア 乙13考案及び乙5-8公報に開示された周知技術による進歩性の欠如 (争点2- 1) について
控訴人は,食い付き部分に関し,屈曲した二平面とR面を相互に代替す ることは当業者の技術常識であると主張するo しかし,食い付き部分と本 件各発明の「側壁面」は,目的も機能も異なり,食い付き部分の構\成に関 する技術常識を側壁面に適用することはできなし、から,控訴人の主張は採 用できない。
イ 乙13考案並びに乙12考案及び乙5〜8公報に開示された周知技術に よる進歩性の欠知(争点2-2) について
控訴人は,乙12考案の効果は本件各発明の「食い込む」ことにより 「カムアウトがしにくくなる」効果と実質的に同質の効果であるから, 乙13考案と乙12考案とは,実質的な目的・課題及び作用・機能にお\nいて共通し,両者を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし, 乙12考案の「切込溝3Jは錆びついたピスを容易に抜くために設けた ものであるのに対し,乙13考案の「円弧E-Fからなる溝」は, ドラ イパーのねじ込み力を完全に受け止めるために設けられたものであって, これらの考案の課題は全く異なることは,上記引用に係る補正された原 判決第4の5に説示したとおりであり,乙13考案に乙12考案を組み 合わせる動機付けがあるということはできない。
ウ補正要件違反又はサポート要件違反の有無について(争点2-3) につ いて
控訴人は,本件各発明の「屈曲」について,翼部の屈曲した側面に,対 応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むことが可能な「屈曲J, すなわち, ドライパピットの翼部の屈曲部に,対応する形状に屈曲したネ ジの翼係合部の屈曲部が深く内部に入り込むほど接触することを要すると 限定解釈しないとすると,本件各発明の課題である「ドライパピットがカ ムアウトしにくい(回動部から外れにくい)ネジおよびドライパピットを 提供するJ (【0004】)を解決し得ると当業者が認識し得ないものを 特許請求の範囲に含むことになると主張する。しかし, ドライパビットが カムアウトしにくい(回動部から外れにくし、)ネジとの課題を解決するに つき, ドライパピットの翼部の屈曲部にネジの翼係合部の屈曲部が接触す る(食い込む)ことが必須であるといえないのは前記2(1)イ及び(2)に説 示したとおりでありこれを前提とする控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文


1審はこちらです。

◆平成28(ワ)14753
 被告は,本件意見書1における,「引用文献2〜4」のネジと本件各発 明のネジ穴とは構成が異なる旨の記載は,本件各発明の特許請求の範囲か\nら,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の部分)を有する構成を意\n識的に除外する趣旨であって,食い付き部分を有する構成が本件各発明の\n技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理に照らして許されな いと主張する。
イ しかし,本件意見書1には,以下の内容の記載がある。
(ア) 本件手続補正は,請求項1について「引用文献2〜4記載の発明との 相違が明確になるように締付側側壁面(10)の形状をより細かく限定 した」ものであり,請求項2について「引用文献2〜4記載の発明との 相違が明確になるようにネジの翼係合部(2)の緩め側側壁面(9)の 形状をより細かく限定したもの」である。(乙10の2頁)
(イ) 「引用文献2」(乙6)記載の発明は,「本来の意味においては,各 翼係合部は屈曲部を有していない。具体的には,引用文献2記載の発明 の場合,各翼係合部の両側壁面は,それぞれ全体が1つの平面状をなし ており,全く屈曲されていない」点で本件各発明と異なる。 引用文献2記載の発明において「強いて回動部の中心部の円弧面状の 部分を翼係合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本願発 明のような優れた作用効果を全く果たさない。(乙10の4頁)
(ウ) 「引用文献3」(乙7),「同4」(乙8)記載の発明においても, 「本来の意味においては,各翼係合部は屈曲部を有していない。具体的 には,引用文献3,4記載の発明の場合,本来の意味での各翼係合部の 両側壁面は,軸方向から見ると扇形の両辺(直線状部)をなす平面状の 部分のみである」点で本件各発明と異なる。 引用文献3,4記載の発明における「ネジの中央部分において翼係合 部の基端側部分間をつなぐR部分は,円弧面状をなす部分であって,ネ ジへのドライバビットの食い付きをよくするために設けられる所謂食い 付き部を構成する部分」であって,「前記R部分(食い付き部分)は,\nネジの締め付けおよび緩め動作自体には直接関係のない部分」にすぎな い。 「引用文献3,4」記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係 合部の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても,これらの部分は,平 面状ではなく,円弧面状の部分であり,かつネジの中心側から外方に向 かって延びていない」ので,本件各発明とは構成が異なる。\n 引用文献3,4記載の発明において,「強いて前記R部分を翼係合部 の側壁面の基端側の部分と解釈したとしても」,本件各発明の作用効果 は生じない。(乙10の5頁)
 ウ 本件意見書1の上記記載によれば,原告は同意見書において,「引用文 献2〜4」記載の発明に係る構成と本件各発明に係る構\成が異なることを 説明するとともに,仮に同各文献の構成が対応する本件各発明の構\成に相 当するとしても,同各文献記載の発明が本件各発明の効果を奏しないとい うことを説明しているにすぎないのであって,上記記載をもって,本件各 発明の特許請求の範囲から,ネジ穴の中心部に食い付き部分(円弧面状の 部分)を有する構成を意識的に除外しているということはできない。\n

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 賠償額認定
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)12609  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月9日  東京地方裁判所

 原告は、ヤマハです。技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されました。被告は本件アプリを設計変更して、本件新アプリに変更しましたが、本件アプリについては引き続き差止請求が認められました。

 被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音 された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の 関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件 発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対 象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適 宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の 解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た旨主張する。\n
しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり, 本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と 「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽 出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前 記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求\nの言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信 手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明であり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と\n同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能\な関連情報を提供できるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設定できる事項であるということはできない。\nまた,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解 決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下, 単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2 発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の 課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,採用することができない。\n
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して 当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙 4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展 示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線 等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し, 展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場面や発明の基本的な構\成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と 同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり, 様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端 末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2 技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。 しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技 術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音 響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用 する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記のとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機\n付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加えたとしても,本件発明1の構成に到達しない。\n前記第2の2(2)ア(ウ)認定の特許請求の範囲,前記(1)認定の本件明細書1の発明 の詳細な説明,図面,弁論の全趣旨に照らすと,本件発明1は,概要,以下のとお りのものであると認められる。
ア 本件発明1は,端末装置の利用者に情報を提供する技術に関する(【0001】)。
イ 従来から,美術館や博物館等の展示施設において利用者を案内する各種の技 術が提案されていたが,各展示物の識別符号が電波や赤外線で発信装置から送信さ れるものであったため,電波や赤外線を利用した無線通信のための専用の通信機器 を設置する必要があった。本件発明1は,そのような問題を踏まえてされたもので あり,無線通信のための専用の通信機器を必要とせずに多様な情報を利用者に提供 することを目的とする(【0002】,【0004】)。
ウ 本件発明1は,(1)案内音声である再生対象音を表す音響信号と当該案内音声である再生対象音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音さ\nれた音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,(2)情報抽出手 段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,(3)情報要求に含まれる 識別情報に対応するとともに案内音声である再生対象音に関連する複数の関連情報 のいずれかを受信する受信手段,(4)受信手段が受信した関連情報を出力する出力手 段としてコンピュータを機能させることにより,赤外線や電波を利用した無線通信に専用される通信機器を必要とせずに,案内音声である再生対象音の識別情報に対\n応する関連情報を利用者に提供することを可能とする(【0005】)。
エ 以上に加えて,本件発明1は,前記送信手段が,当該端末装置にて指定され た言語を示す言語情報を含む情報要求を送信し,前記受信手段が,情報要求の識別 情報に対応するとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の 言語情報で指定された言語に対応する関連情報を受信するという構成を採用するこ\nとにより,相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち情報要求の言語情報で指 定された言語に対応する関連情報を受信することができ,使用言語が相違する多様 な利用者が理解可能な関連情報を提供できるという効果を奏するものである(【0\n006】等)。
2 本件アプリの広告等について
証拠(甲6,7)によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告作成の「Sound Insight(サウンドインサイト)」と題す る本件アプリを用いたシステムに関する広告(甲6。以下「本件広告」という。) には,次のとおり記載されていた。
ア (1)「映像・音声にのせて,情報配信」,(2)「動画・音楽などの音に人間には 聞こえない音波信号(音波ID)を埋め込み,テレビ・サイネージ・スピーカー等 から再生し,スマートフォンアプリで音波信号(音波ID)を受信する事により, 紐づいた情報をスマートフォン上に自動表示」,(3)(音波信号に紐づく情報を表示\nする手順の一つとして)「映像・音声に重畳した音波信号を発する」
イ (1)「音で情報を配信」,(2)「『Sound Insight』は,人には聞 こえない音波信号(音波ID)を使い,映像や音に合わせてアプリを連動できます。 利用者が信号音を意識することなくスマートフォン上に情報を表示します。」\n
ウ 「多言語で配信可能 日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロシ ア語など多言語で情報配信できます。」
エ (使用例の一つとして)「バスの車内案内では 多国語で停留所情報や地域 の情報を案内できます。」
(2) 本件アプリのダウンロード用のウェブサイト(甲7。「本件ダウンロードサ イト」という。)には,次のとおり記載されていた。 「『サウンドインサイト』は,空港,駅,電車,バスなどの様々な場所に設置さ れた各種スピーカーから送信された音波を,専用アプリをインストールしたスマー トフォンで受信することで,関連する情報を自動で表示させることのできるサービ\nスです。・・・『サウンドインサイト』の活用により,・・・外国人観光客へ空港・駅などのアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する『言語支援用途』・・・などで活 用いただくことができます。」
3 争点1(本件アプリは本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1−1(本件アプリは構成要件1Bを充足するか)について\n
ア 構成要件1Bに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ア)のとおり,本件アプリは,スピーカー等の放音装置か ら,識別情報であるIDコードを表す音響IDを含む音響が放音されると,これを\n収音し,当該音響IDからIDコードを検出するものとしてスマートフォンを機能\nさせるものであるところ,前記2(1)のとおり,本件広告には,「映像・音声にのせ て」,「動画・音楽などの音」に埋め込んで,「映像・音声に重畳」させて音響I Dを放音することが記載されているほか,使用例の一つとして,バスの車内案内で は多言語で停留所情報等を提供することができることが記載されていること,同(2) のとおり,本件ダウンロードサイトには,本件アプリは,空港,駅,電車,バス等 に設置された放音装置から送信された音波を,スマートフォンで受信することで, 関連する情報を自動で表示させることのできるサービスを提供するものであること\nが記載されていることなどからすると,被告から音響IDの提供を受けた顧客にお いて,案内音声を識別するものとしてIDコードを使用し,これを案内音声ととも に放音装置から放音することは,本件アプリにつき想定されていた使用形態の一つ であるというべきである。そうすると,本件アプリは「案内音声と当該案内音声を 識別するIDコードを含む音響IDとを含有する音響を収音し,当該音響からID コードを抽出する情報抽出手段」(構成1b)を備えていると認めるのが相当であ\nる。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1bを備えていることを否認し,その理由として,\n(1)被告サービスにおいて,被告は,放音される音響やIDコードの識別対象を決定 しておらず,これらを選択,決定しているのは顧客であって,いずれも「案内音声」 に限られるものではないこと,(2)本件アプリの利用場面の中で,最も多くの需要が 見込まれているのは商品説明の場合であるが,商品説明において,放音装置から音 声が発せられることは必須ではなく,かえって,音声が放音されるとスマートフォ ンに表示される情報を理解する妨げになることを主張する。\nしかしながら,被告の上記(1)の主張は,構成要件1B所定の音響が放音されない\n場合があることを指摘するにとどまるものであり,前記(ア)のとおり,本件広告に おいても,案内音声を収音する使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ, そのような使用形態を想定したものとなっていたというべきであるから,前記認定 を覆すに足りないというべきである。 また,被告の上記(2)の主張について,本件アプリにつき最も多くの需要が見込ま れていたのが商品説明の場面であったとしても,被告において,そのような使用形 態に特化したものとして本件アプリを広告宣伝していたものでもなく,前記認定を 覆すに足りない。
イ 構成要件1Bに係るあてはめ\n
以上の認定を踏まえて検討すると,構成1bの「案内音声」は,本件発明1の\n「案内音声である再生対象音を表す音響信号」に対応し,構\成1bの「案内音声を 識別するIDコードを含む音響ID」は,本件発明1の「案内音声である再生対象 音の識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号」に対応する。 そして,本件発明1は,コンピュータを所定の手段として機能させるプログラム\nに係る発明であり,構成要件1Bは,放音された所定の音響を収音した収音信号か\nら識別情報を抽出する情報抽出手段を規定するものであるから,構成要件1B所定\nの音響が放音された場合に,これを収音し,識別信号を抽出する手段としてコンピ ュータを機能させるプログラムであれば,これと異なる用途でコンピュータを機能\ させ得るとしても,又は音響が放音されない場面があるとしても,同構成要件を充\n足すると解すべきところ,本件アプリは,同所定の音響を収音し,当該音響からI Dコードを抽出するものとしてスマートフォンを機能させるものであるから,放音\nされる音響やIDコードの識別対象を選択しているのが顧客であり,音響が放音さ れない使用方法が選択され得るとしても,構成要件1Bを充足する。\n
(2)争点1−2(本件アプリは構成要件1Dを充足するか)について\n
ア 構成要件1Dの「関連情報」の言語の解釈\n
(ア) 構成要件1Dは,「関連情報」について,「前記案内音声である再生対象音\nの発音内容を表す関連情報であって,前記情報要求に含まれる識別情報に対応する\nとともに相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報 で指定された言語に対応する関連情報」と規定しているから,「関連情報」の言語 は,相異なる言語に対応するものの中から情報要求の言語情報で指定された言語に 対応するものと解すべきである。
(イ) 被告は,「関連情報」は,第1言語で発音される案内音声の発音内容を第1 言語で表した文字列であると解すべきであるとし,その理由として,原告が本件訂\n正審判請求1の際に訂正事項が明細書の記載事項の範囲内であることを示す根拠と して本件明細書1の【0041】を挙げていたことを指摘するが,構成要件1Dは\n上記のとおりのものであるから,「関連情報」が案内音声の言語と同一のものであ ると解するのは文言上無理がある。また,同段落には,第2言語に翻訳することな く,第1言語の指定文字列のまま関連情報Qとする実施例が開示されているが,こ れは第1実施形態の変形例の一つ(態様1)にすぎず,原告が本件訂正審判請求1 の際に同段落を指摘したからといって,当該実施例の態様に限定して「関連情報」 の言語について解釈するのは相当でない。
イ 構成要件1Dに対応する本件アプリの構\成に係る事実認定
(ア) 前記第2の2(5)ア(ウ)及び同イのとおり,本件アプリは,管理サーバから, リクエスト情報に含まれるIDコード及びアプリ使用言語の情報に対応する情報の 所在を示すものとして送信されるアクセス先URLを受信するものとしてスマート フォンを機能させるものであり,管理サーバには,1個のIDコードに対応させて,\n6個までのアプリ使用言語に対応するURLを記憶することができるところ,前記 2(1)のとおり,本件広告には,日本語のほか,英語,中国語,台湾語,韓国語,ロ シア語など多言語で情報配信できることが記載されており,使用例の一つとして, バスの車内案内では多言語で停留所情報等を提供することができることが記載され ていること,同(2)のとおり,本件ダウンロードサイトには,外国人観光客に対して, 空港・駅等のアナウンスに関連する情報を多言語で情報提供する用途に用いること ができることが記載されていることなどからすると,顧客において,リクエスト情 報に含まれるIDコードに対応する案内音声の発音内容を表す情報について,当該\n案内音声とは異なる言語に対応する複数の情報を管理サーバに記憶させ,リクエス ト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報をスマートフォンに送信するよう にすることは,本件アプリにつき想定されていた使用態様の一つであるというべき である。そうすると,本件アプリは,「前記案内音声の発音内容を表す関連情報で\nあって,前記リクエスト情報に含まれるIDコードに対応するとともに,6個まで のアプリ使用言語に対応する複数の情報のうち,前記リクエスト情報のアプリ使用 言語に対応する情報を受信する受信手段」(構成1d)を備えていると認めるのが\n相当である。
(イ) 被告は,本件アプリが構成1dを備えていることを否認し,その理由として,\n
(1)被告サービスにおいて,被告は,本件スマートフォンが受信する情報を決定して おらず,これを選択,決定しているのは顧客であって,構成要件1D所定のものに\n限られないこと,(2)被告は,本件アプリに係る実証実験において,本件アプリを用 いて「案内音声である再生対象音の発音内容」を関連情報として出力したことはな く,外国語に翻訳した内容を関連情報として出力したこともないこと,(3)被告は, 今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語の関連情報\nを提供することを禁ずる旨の約束をする意思があることを主張する。 しかしながら,被告の上記(1)の主張は,本件スマートフォンの受信する情報が構\n成要件1D所定の情報ではない場合があることを指摘するにとどまるものであり, 前記(ア)のとおり,本件広告及び本件ダウンロードサイトにおいても,案内音声の 発音内容を表し,リクエスト情報に含まれるアプリ使用言語に対応する情報を受信\nする使用形態を回避させるような記述はなく,むしろ,そのような使用形態を想定 したものとなっていたというべきであるから,被告の実証実験では同構成要件所定\nの情報を受信しなかったこと(上記(2)),被告が今後も同構成要件所定の使用態様\nで本件アプリを使用しないことを約束する意思を有していること(上記(3))を併せ 考慮しても,前記認定を覆すに足りないというべきである。
ウ 構成要件1Dに係るあてはめ\n
構成要件1Bにおいて規定するとおりにコンピュータを機能\させるものであれば, 同構成要件を充足するとの前記(1)イにおける検討と同様に,構成要件1D所定の情\n報を受信する手段としてコンピュータを機能させるプログラムであれば,受信する\n情報が同構成要件所定のものではない場面があるとしても,同構\成要件を充足する と解すべきところ,本件アプリは,構成1dを備えており,スマートフォンを「前\n記案内音声の発音内容を表す関連情報であって,前記リクエスト情報に含まれるI\nDコードに対応するとともに,6個までのアプリ使用言語に対応する複数の情報の うち,前記リクエスト情報のアプリ使用言語に対応する情報を受信する受信手段」 として機能させるものであるから,本件スマートフォンが受信する情報を選択して\nいるのが顧客であるとしても,構成要件1Dを充足する。\n
4 争点4(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい て
(1) 争点4−1(本件発明1は乙2公報により進歩性を欠くか)について
・・・
(イ) 乙2発明1
前記(ア)によれば,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり(【000 1】),テレビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サ ーバを介して当該場面に関連する情報を取得することを容易にした携帯端末装置等 を提供することを目的とするものであって(【0005】等),本件発明1に対応 する構成として,次の各構\成を有すると認められる。
「携帯端末装置を,
放送中のテレビ番組の放送音声と重畳して放音される,当該番組の場面を識別す る音声信号である音響IDを収音し,前記音響IDからIDコードにデコードする 情報抽出手段,
携帯端末装置に記憶されたIDコードをID解決サーバに送信する送信手段,
前記IDコード及び前記ID解決サーバが当該IDコードを受信した時刻に基づ いて当該ID解決サーバによりID/URL対応テーブルにおいて検索された対応 するURLを受信し,放送されたテレビ番組の場面に関連する情報を当該URLで 指示されるコンテンツサーバから受信する受信手段,及び,
前記受信手段が受信した情報を携帯端末装置上で表示する出力手段として機能\させるプログラム。」
(ウ) 乙2発明1と本件発明1の対比
乙2発明1と本件発明1を対比すると,これらは,次のaの点で一致し,少なく とも,次のbの点で相違すると認められる。
a 一致点
「コンピュータを,再生対象音を表す音響信号と識別情報を含む変調信号とを含有する音響信号に応じて放音された音響を収音した収音信号から識別情報を抽出する情報抽出手段,前記情報抽出手段が抽出した識別情報を含む情報要求を送信する送信手段,\n前記情報要求に含まれる識別情報に対応する関連情報を受信する受信手段,および, 前記受信手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラム。」\n
b 相違点
(a) 相違点1−1(構成要件1B)\n
本件発明1では,「案内音声・・・を表す音響信号」と「当該案内音声である再生対\n象音の識別情報」が放音されるのに対し,乙2発明1では,「放送中のテレビ番組 の放送音声」と「当該番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号である音 響ID」が放音される点
(b) 相違点1−2(構成要件1C)\n
本件発明1では,端末装置からサーバに送信される「情報要求」に含まれる情報 は,「識別情報」と「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」であるの に対し,乙2発明1では,携帯端末装置からID解決サーバに送信される情報は 「IDコード」のみであり,「端末装置にて指定された言語を示す言語情報」は含 まれない点
(c) 相違点1−3(構成要件1D(1))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「案内音声である再生対 象音の発音内容を表す」のに対し,乙2発明1では,「放送されたテレビ番組の場\n面」に関連する内容を表す点\n
(d) 相違点1−4(構成要件1D(2))
本件発明1では,端末装置が受信する「関連情報」は,「相異なる言語に対応す る複数の関連情報のうち,前記情報要求の言語情報で指定された言語に対応する関 連情報」であるのに対し,乙2発明1では,携帯端末装置がこれに対応する情報を 受信しない点
(エ) 相違点に関する被告の主張について
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
被告は,乙2発明1の「IDコード」は,番組と同時に,番組の放送音声という 「再生対象音」も識別しているから,「再生対象音の識別情報」が放音される点で は本件発明1と相違しない旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「この音響IDは,放送中の番組に対応するものであ り,放送音声に重畳されて放音される。」(【0014】)と記載されており,I D/URL対応テーブルを示す図4においても,受信時間帯に対応する番組の「シ ーン」が特定されていること(【0025】)などからすると,乙2発明1の「ID コード」は,放送中の番組に対応し,当該番組の場面を識別する音声信号であって, 番組の放送音声を識別するものではないから,本件発明1の「再生対象音の識別情 報」に対応する構成を有するものとは認められない。\n
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
被告は,乙2発明1では,ユーザがボタンスイッチを押した時刻は「端末装置に て指定された・・・情報」に該当するから,「端末装置にて指定された・・・情報」が「言 語を示す言語情報」であるか「ボタンスイッチの操作タイミングを示す情報」であ るかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「番組を視聴しているユーザ6は,番組を視聴し興味 ある場面が映し出されると,スマートフォン2を操作する(たとえばボタンを押下 する)。このときの操作により,スマートフォン2は記憶していたIDコードをI D解決サーバ4に送信する。」(【0014】)と記載されていることなどからする と,乙2発明1において,携帯端末装置から送信される情報はIDコードのみであ り,ID解決サーバは当該IDコード及び受信時刻で対応するURLを検索するも のであるから,本件発明1の「端末装置にて指定された・・・情報」に対応する構成を\n有するとは認められないというべきである。
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
被告は,乙2発明1で,携帯端末装置が受信する情報は,番組の特定の場面に対 応する放送音声に関連するものであるから,端末装置が受信する「関連情報」が 「再生対象音」である点では本件発明1と相違しない旨主張する。 しかしながら,乙2公報に「この対応するURLは,ユーザ6がスマートフォン 2を操作したときに放送されていた(テレビ1の画面に映し出されていた,または 音声で再生されていた)場面に関連する情報を提供するインターネットサイトのU RLである。」(【0014】)と記載されていることなどからすると,乙2発明1 において,携帯端末装置が受信する情報は,放送されたテレビ番組の場面に関連す るものであり,放送音声に関連する情報であるとは認められない。
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
被告は,乙2発明1では,番組中の相異なる場面に対応する「複数の関連情報」 が存在し,そのうち選ばれた情報を受信しているから,「関連情報」が対応してい るのが「言語」であるか「場面」であるかの点でのみ本件発明1と相違する旨主張 する。 しかしながら,乙2発明1において,携帯端末装置が受信する放送中の番組の場 面に関する情報は「相異なる言語に対応する」ものでもないから,ID解決サーバ に番組内の相異なる場面に対応する情報が複数記憶されていたとしても,これを構\n成要件1Dの「相異なる言語に対応する複数の関連情報」との構成に対応するもの\nと認めることはできない。
イ 乙4発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙4発明の概要 前記(ア)によれば,乙4公報には,概要,次のとおりの内容の乙4発明が開示さ れていると認められる。 すなわち,乙4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館 や博物館等の展示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり(【000 1】),(1)電波によって情報を伝達する従来技術によると,対象物以外のガイド音 声を受信して利用者に誤った情報を提供するおそれがあったこと(【0005】) を踏まえ,展示物に固有のIDを赤外線等の無線通信波によって発信するID発信 機を展示物ごとに一定の間隔で設置し,利用者が携帯する携帯受信器が発信域に入 ると上記IDを受信し,展示物の音声ガイドが自動的に再生される構成を採用する\nことにより,情報提供するIDの受信範囲を限定することが容易になり,隣接する 対象展示物との混信を回避した音声ガイドシステムを可能とするという作用効果を\n奏するものであり(【0008】ないし【0010】,【0014】),また,(2) そのシステムを複数の言語に対応させようとすると,多数のチャンネルの割当てが 必要となり,その選択操作を利用者が行う必要があったこと(【0007】)を踏 まえ,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信器に蓄積し,その中から 再生する言語を選択するという構成を採用することにより,多くの外国人利用者に\nも携帯受信器を操作することなくガイド音声を提供することができるという作用効 果を奏するものである(【0012】,【0020】)。
ウ 乙5発明の内容等に係る事実認定
・・・
(イ) 乙5発明の概要 前記(ア)によれば,乙5公報には,概要,次のとおりの内容の乙5発明が開示さ れていると認められる。 すなわち,乙5発明は,公共の場所等に掲載された文書等の掲載物を様々な言語 に翻訳して提供する情報提供装置等に関するものであり(【0001】),文書の 内容を様々な言語で利用者に正しく提供することを主たる課題とし(【000 6】),2次元コードと複数の言語に対応する言語コードをその内容として含むコ ード画像をユーザ端末装置によって読み取り,ユーザにおいて所望の言語を選択す るなどして,インターネットを介して,文書等の掲載物の翻訳ファイルにアクセス というものである(【0015】,【0025】,【0035】,【0038】)。
エ 容易想到性についての判断
被告は,(1)乙2公報は,音響IDとインターネットを用いて,放音装置から放音 された音響IDによって識別される識別対象の情報に対し,これと関連する任意の 関連情報をサーバから端末装置に供給できる乙2技術を開示しているところ,本件 発明1も乙2技術を採用するものであり,相違点1−1ないし同1−4は,識別対 象,複数の関連情報の選択条件,関連情報の内容に係る相違にすぎず,当業者が適 宜設定できるものである旨主張するとともに,(2)当業者は,乙2技術を乙4課題の 解決に応用して,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成を容易に想\n到し得た旨主張する。 しかしながら,まず,被告の上記(1)の主張については,前記1(2)認定のとおり, 本件発明1は,コンピュータを,(i)放音される「案内音声である再生対象音」と 「当該案内音声である再生対象音の識別情報」を含む音響を収音して識別情報を抽 出する情報抽出手段,(ii)サーバに対し,抽出した識別情報とともに「端末装置に て指定された言語を示す言語情報」を含む情報要求を送信する送信手段,(iii)「前 記案内音声である再生対象音の発音内容を表」し,情報要求に含まれる識別情報に\n対応するとともに「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求 の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信する受信手段,(iV)受信 手段が受信した関連情報を出力する出力手段として機能させるプログラムの発明で\nあり,乙2公報等に音響IDとインターネットを利用するという点で本件発明1と 同様の構成を有する情報提供技術が開示されていたとしても,その手順や方法を具\n体的に特定し,使用言語が相違する多様な利用者が理解可能な関連情報を提供でき\nるという効果を奏するものとした点において技術的意義が認められるものであるか ら,相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成が当業者において適宜設\n定できる事項であるということはできない。 また,被告の上記(2)の主張については,前記イのとおり,乙4公報に,発明が解 決しようとする課題の一つとして,システムを複数の言語に対応させること(以下, 単に「乙4発明の課題」という。)が記載されているものの,以下のとおり,乙2 発明1を乙4発明の課題に組み合わせる動機付けは認められず,仮に,乙4発明の 課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなどして乙2発明1の構\成に変更を加え たとしても相違点1−1ないし同1−4に係る本件発明1の構成に到達しないから,\n採用することができない。
(ア) 乙2発明1を乙4発明の課題を組み合わせる動機付け
a 前記のとおり,乙2発明1は,放送中のテレビ番組に関連した情報を提供す る情報提供システムに用いられる携帯端末装置に関するものであり,放送中のテレ ビ番組の場面を識別する音声信号である音響IDを用い,ID解決サーバを介して 当該場面に関連する情報を取得するものであるのに対し,前記イ(イ)のとおり,乙 4発明は,利用者が携帯する携帯型音声再生受信器を用いた美術館や博物館等の展 示物に係る音声ガイドサービスに関するものであり,展示物に固有のIDを赤外線 等の無線通信波によって発信し,携帯受信器が発信域に入ると上記IDを受信し, 展示物の音声ガイドが自動的に再生されるものであり,サーバに接続してインター ネットを介して情報を取得する構成を有しないから,両発明は,想定される使用場\n面や発明の基本的な構成が異なっており,乙2発明1を乙4発明の課題に組み合わ\nせる動機付けは認められない。
b 被告は,(1)乙4発明は,放音装置を利用した情報提供技術という乙2技術と 同じ技術分野に属するものであること,(2)乙2技術は汎用性の高い技術であり, 様々な放音装置を含むシステムに利用されていたこと(乙11ないし13),(3)端 末装置とサーバとの通信システムを利用する情報提供技術は周知のものであったこ と(乙2,5,6,8,11ないし13等)などによれば,当業者において,乙2 技術を乙4課題の解決に応用する動機付けがある旨主張する。 しかしながら,乙2発明1と乙4発明がいずれも放音装置を利用した情報提供技 術であるという限りで技術分野に共通性が認められ,また,本件優先日1当時,音 響IDとインターネットを利用し,又は端末装置とサーバとの通信システムを利用 する情報提供技術が乙2公報以外の公開特許公報に開示されていたとしても,いず れも乙4発明とは想定される使用場面や発明の基本的な構成が異なることは前記の\nとおりであり,乙4発明の課題の解決のみを取り上げて乙2発明1を適用する動機 付けがあると認めるに足りない。
(イ) 乙2発明1に対する乙4発明等の適用
また,以下のとおり,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照するなど\nして乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,本件発明1の構\成に到達しない。
a 相違点1−1(構成要件1B)\n
(a) 前記のとおり,乙4発明は,展示物ごとに設置されたID発信機から赤外線 等の無線通信波によって展示物に固有のIDが発信されるものであり,「案内音声 ・・・を表す音響信号」を放音するものではなく,「当該案内音声である再生対象音の\n識別情報」を含む音響信号を放音するものでもないから,乙4発明の構成を参照し\nて乙2発明1の構成に変更を加えたとしても,相違点1−1に係る本件発明1の構\ 成に到達しない。
(b) 被告は,乙4発明の音声ガイドは「案内音声」に相当するから,「案内音声」 を識別する構成を採用することは容易であった旨主張するが,上記のとおり,乙4\n発明のIDは展示物を識別するものであり,当該展示物に係る音声ガイドを識別す るものではないから,乙4発明は「案内音声」を識別する構成を開示するものでは\nない。
b 相違点1−2(構成要件1C)\n
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取 得するという構成を有しないものであり,端末装置からサーバに「識別情報」と\n「当該端末装置にて指定された言語を示す言語情報」が送信されることはないから, 乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加 えることによって,相違点1−2に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
c 相違点1−3(構成要件1D(1))
前記のとおり,乙4発明は,サーバに接続してインターネットを介して情報を取 得するという構成を有しておらず,IDによって識別される展示物のガイド音声を\n再生するものであって,端末装置が「案内音声である再生対象音の発音内容を表す」\n情報を受信することはないから,乙4発明の課題を踏まえ,乙4発明の構成を参照\nして乙2発明1の構成に変更を加えることによって,相違点1−3に係る本件発明\n1の構成に到達することはない。\n
d 相違点1−4(構成要件1D(2))
前記のとおり,乙4発明は,多言語に翻訳された音声ガイドのデータを携帯受信 器に蓄積し,その中から再生する言語を選択することによって,IDによって識別 される展示物のガイド音声を所定の言語で再生するという構成を有するものの,サ\nーバに接続してインターネットを介して情報を取得するという構成を有していない\nから,端末装置が「相異なる言語に対応する複数の関連情報のうち,前記情報要求 の言語情報で指定された言語に対応する関連情報」を受信することはなく,乙4発 明の構成を参照して乙2発明1の構\成に変更を加えることによって,相違点1−4 に係る本件発明1の構成に到達することはない。\n
・・・
5 争点6(差止めの必要性は認められるか)について
被告は,本件アプリについて差止めの必要性は認められないとし,その理由とし て,(1)本件口頭弁論終結時点において,本件アプリに係るサービスは実用化されて いなかったこと,(2)被告は,平成30年5月以降,本件アプリの配信を中止し,多 言語で情報配信を行う機能を取り除いた本件新アプリを配信しており,本件訴訟の\n結果によって本件アプリに係る事業を再開するか否かを決定する予定であること,\n(3)被告は,今後,顧客に対し,案内音声である再生対象音の発音内容を表す他国語\nの関連情報を提供することを禁ずる旨の約束や,案内音声である第1言語の再生対 象音が表す発音内容を第2言語で表\現した情報を提供することを禁ずる旨の約束を する意思があることを主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,本件アプリは,本件発明1の技術的範囲に属 し,本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから, 前記第2の2(4)のとおり,被告は,少なくとも,平成29年5月頃から平成30年 6月頃まで,本件アプリを作成し,譲渡等及び譲渡等の申出をし,平成28年6月\nから平成29年3月までの間に3回にわたり本件アプリを使用することによって本 件特許権1を侵害していたものである。 これらに加えて,被告が本件訴訟において本件アプリが本件発明1の技術的範囲 に属することを否認して争い,本件特許1について特許無効審判により無効にされ るべきであると主張していること,弁論の全趣旨によれば,被告は,現在も,ウェ ブサイトに本件アプリの説明や広告を掲載していると認められ,被告が本件アプリ の作成等を再開することが物理的に不可能な状況にあるとは認められないことなど\nも考慮すると,被告は,今後,本件特許権1を侵害するおそれがあるものというべ きであるから,原告が被告に対し,その侵害の予防のため,本件アプリの作成等の\n差止を求める必要性は認められるものというべきである。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 技術的範囲
 >> 104条の3
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成28(ワ)10759  特許権に基づく製造販売禁止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  東京地方裁判所(40部)

 石けんの特許権侵害について、1社あたり2億円を越える損害賠償が認められました。102条1項の販売不可事情は否定されました。

(3) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
前記(1)の譲渡数量に前記(2)の単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下 のとおりとなる。
ア 被告日本生化学について
原告長寿乃里
21万3457個×1225円=2億6148万4825円
原告イング
23万9658個×993円=2億3798万0394円
イ 被告ブレーンコスモスについて
原告長寿乃里
17万0132個×1225円=2億0841万1700円
原告イング
19万1015個×993円=1億8967万7895円
ウ 被告ビーシーリンクについて
原告長寿乃里
135個×1225円=16万5375円
原告イング
152個×993円=15万0936円
(4) 特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」の 有無
ア 競合品の存在
証拠(甲8,乙24)によれば,シラスが配合された洗顔料が原告製品 及び被告製品のほかに8銘柄が存在したことが認められるが,販売数が多 いものでも,株式会社メディカルドーズの「お茶!入ったよ〜わっぜ!! 火山灰石けん」が平成22年9月から平成27年12月までに2万754 8個を販売したにとどまり,他の銘柄は,販売数が約1000個から38 00個程度にとどまるか,販売数が明らかではないから,これらの洗顔料 の存在が,「販売することができないとする事情」に当たるということは できない。
イ 原告製品の販売経過
被告日本生化学は,被告製品を販売していない月でも原告製品の販売が 落ちている月があることから,原告製品の販売は被告製品の販売に影響を 受けていなかったと主張するが,原告製品についてそのような販売経過と なった原因としては様々なものが考えられるのであり,上記の販売経過が 直ちに「販売することができないとする事情」に当たるとはいえない。
ウ 薬機法上の区分及び本件発明1の作用効果
被告日本生化学は,原告製品及び被告製品について,薬機法上の区分が 異なること及び宣伝広告の内容から,本件発明1の作用効果は原告製品及 び被告製品の販売に寄与していないと主張する。 しかし,消費者が薬機法上の区分を意識して商品を選択するとは考え難 く,前記判示のとおり,原告製品と被告製品はいずれもシラスが配合され た石けんという同種の商品であり,かつ,被告製品は本件発明1の作用効 果を奏するのであるから,両者は市場で競合する製品であるということが できる。 また,被告ブレーンコスモスは,被告製品の説明において,原告製品は 発売以来700万個以上が売れた大ヒット商品であると紹介するととも に,被告製品には,人工皮膚成分「リピジュア」が配合され,原告製品と 同じ価格だが,内容量が多いという2点が異なることを挙げて,被告製品 の宣伝をしていたことが認められ(甲14),このような宣伝内容によっ て,原告製品ではなく被告製品を購入した消費者も相当数いるものと考え られる。 そうすると,被告日本生化学が主張する上記事情は,「販売することが できないとする事情」に当たるとはいえない。
エ 販売ルートの違いについて
被告ブレーンコスモスらは,原告らは消費者に直接販売する小売である のに対し,被告ブレーンコスモスは販売数のうち95%は企業に対する卸 売りであり,販売ルートが異なるから,競合しないと主張する。 しかし,原告製品及び被告製品はいずれも最終的には一般消費者によっ て購入され,使用される石けんであり,被告製品が一般消費者に販売され る段階では原告製品と競合すると認められるところ,被告製品が存在しな ければ,被告ブレーンコスモスが他の企業に被告製品を卸売りすることも なく,ひいては被告製品が一般消費者に販売されることもないのであるか ら,被告ブレーンコスモスが卸売りを主たる取引形態とするからといって, 原告製品と被告製品が市場において競合することは左右されず,「販売す ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
オ 東日本大震災の義援金に充てる旨のアテンションシールについて
被告ブレーンコスモスらは,売上げの一部を東日本大震災の義援金に充 てる旨記載されたアテンションシールを被告製品に貼っていた期間(平成\n23年4月1日から同年9月30日まで)の販売数がそうでない期間の販 売数を上回っており,同シールが被告製品の売上げに寄与した旨主張する。 しかし,平成23年4月1日から同年9月30日まで被告製品に上記シ ールが貼られていたことを認めるに足りる証拠はない上,仮に同シールが\n貼付されていたとしても,平成23年1月から同年9月までの被告製品\n(100gのもの)の販売数は毎月概ね1万個程度で推移しており(丙1, 21),販売数の増加が同シールによるものとは認め難く,被告ブレーン コスモスらの主張はその前提を欠き,採用できない。
カ 海外市場における競合
被告ブレーンコスモスらは,被告ビーシーリンクは専ら海外に被告製品 を販売しているところ,原告製品と被告製品は海外市場において競合しな いと主張する。 しかし,証拠(甲76,77,84〜87,108〜112,丙25〜 28)によれば,被告ビーシーリンクは,平成25年2月から11月にか けて,米国,中国,シンガポール,ラトビアに被告製品を販売していたこ と,原告長寿乃里は,自ら又は株式会社フェローシップ等を介して,以下 のとおり海外に原告商品を出荷したことが認められる。
・・・
以上の事実関係に照らせば,原告製品と被告製品は,少なくとも米国及 び中国の海外市場において競合していたことが認められるから,被告ビー シーリンクが専ら海外において被告製品を販売していることは,「販売す ることができないとする事情」に当たるとはいえない。
キ 以上のとおり,被告らが主張する事情は,いずれも「販売することがで きないとする事情」に当たらないから,特許法102条1項に基づく損害 額の推定は覆滅されない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条1項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)8302  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年11月14日  東京地方裁判所

 CS関連発明について、特許侵害事件です。原告(会社)の本人訴訟です。東京地裁47部は、構成要件Fを充足しないと判断しました。

 前記(1)の記載によると,次のとおり認められる。
ア 本件各発明以前にも,コンピュータシステムにおけるシステム利用者の 入力行為を支援する従来技術としては,マウスを右クリックすることによ り,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンド のメニューが表示される「コンテキストメニュー」や,画面上でマウスポ\nインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマ ウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所で マウスの左ボタンを離すマウス操作である「ドラッグ&ドロップ」などが あった。しかして,「コンテキストメニュー」には,マウスの左クリックを 行うまではメニューが画面に表示され続け,また,利用者が間違って右ク\nリックを押してしまった場合には,利用者の意に反して画面上に表示され\nてしまうので不便であるなどの課題があり,また,「ドラッグ&ドロップ」 には,継続的な動作,例えば,移動させる位置を決めないで徐々に画面を スクロールさせていくような動作に適用させるのが難しいという課題が あったところである(段落【0001】〜【0005】)。
イ 本件各発明は,このような課題を解決するため,入力手段における命令 ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの 位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報 を出力手段に表示させ,入力手段における命令ボタンが利用者によって離\nされると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表\示を終了させ ることにより,普段は画面上に操作メニュー情報を表示させずに,利用者\nにとって必要な場合に簡便に表示させることを可能\にするという構成を\n採用したものといえる(段落【0022】,【0023】,【0051】)。そ して,スムーズな画面操作を可能とするため,操作メニュー情報が表\示さ れている状態において,これをポインタで指定した場合,すなわち,実行 される命令結果を利用者が理解できるように出力手段に表示した画像デ\nータである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲にポインタの座標 位置が入った場合に,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に 実行される命令」として特定された,例えば,出力手段に表示される画面\n(ビュー)をスクロールさせるような命令など,コンピュータシステムに 対する命令が実行され,操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポ インタの座標位置が入らなくなるまで当該実行を継続するという構成を\n採用したものといえる(段落【0009】,【0012】,【0013】,【0 016】,【0023】,【0051】)。
ウ 以上のような,本件各特許請求の範囲の記載文言及び本件明細書の各記 載によれば,本件各発明は,コンピュータシステムにおけるシステム利用 者の入力行為を支援するため,「コンテキストメニュー」や「ドラッグ&ド ロップ」における,操作メニュー情報が利用者に意に反して表示されるこ\nとに関わる課題や,移動先を決めないで画面をスクロールさせるような継 続的な動作に関わる課題を解決すべく,操作メニュー情報については,普 段は画面上に表示させずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表\示させ るという構成を採用し,その上で,物理的に操作メニュー情報が占める座\n標位置の範囲にポインタの座標位置が入っているときに,コンピュータシ ステムに対する命令が実行されるようにして,スムーズな画面操作が可能\nとなるという構成を採用したものといえる。このような構\成を採用した以 上,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」とは,利用者にと\nって,その表示,非表\示を明確に認識できることが前提となっており,物 理的に操作メニュー情報が占める座標位置の範囲が明確になっている必 要があることは明らかである。 そうすると,構成要件B,E,F及びGの「操作メニュー情報」につい\nては,利用者にとっての,視覚的な見地からの,命令内容の表示や実行の\n簡便性を実現する構成を意味するものであるものといえ,そのような見地\nに照らし,同「操作メニュー情報」とは,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データである必要があるものと解するのが相当 である。
そして,構成要件Fの,(1)「操作メニュー情報がポインタにより指定さ れる」と「操作メニュー情報に関連付いている命令」を「実行」する,及 び(2)「操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行 を継続する」との文言については,画像データである操作メニュー情報の 座標位置が利用者に視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示さ\nれた画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポイ ンタの座標位置が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情 報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当 該実行が継続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないこ とを意味し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニ ューに関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当である。
(3) 「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)の充足性\n
ア 以上を前提に,まず,「操作メニュー情報」(構成要件B,E,F,G)\nの充足性につき検討するに,被告製品の構成のエ(イ)ないし(エ)及び\nオ(イ)ないし(エ)のとおり,本件ホームアプリにおける上ページ一部 表示及び下ページ一部表\示(以下「上ページ一部表示等」という。)は,画\n像データであり,その内容や表示位置からすれば,これを見た利用者は上\nページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえるから,利 用者が,その表示の有無を視覚的に認識でき,その表\示内容から,所望の 命令を実行した結果についても理解できるような,画像データに当たるも のというべきであって,「操作メニュー情報」を充足するものと認められる。 イ これに対し,被告は,上ページ一部表示等は,単にホーム画面が縮小表\ 示されることによって当該ホーム画面の隣のホーム画面が見えているに すぎず,実行される命令を表す文字も,矢印表\示等何らかの操作ができる ことを示す絵や記号も表示されておらず,表\示自体から上ページ又は下ペ ージにスクロールするといった実行される命令結果を理解できる画像で はない旨を主張する。 しかし,被告製品の構成エ(イ)及びオ(イ)のとおり,上ページ一部\n表示等が表\示されるのは,利用者が移動させたいショートカットアイコン をロングタッチして,ドラッグ操作をして同アイコンを移動させる等して, 縮小モードになった状態であることからすれば,同アイコンを移動したい 利用者が,1つ上のページ又は1つ下のページの一部を表示した画像であ\nる上ページ一部表示等を見て,上ぺージ又は下ページが存在することのみ\nならず,上ページ一部表示等までドラッグすれば,上ページ又は下ページ\nに画面をスクロールさせることができるものと理解することも可能とい\nうべきである。 以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。
ウ 他方,原告は,上ページ一部表示等のみならず,「左上領域」「右上領域」\n又は「左下領域」「右下領域」(以下「左上領域等」という。)も「操作メニ ュー情報」に該当する旨を主張する。 しかし,左上領域等は,被告製品の構成エ(ウ)及びオ(ウ)のとおり,\n特定の座標位置で囲まれた領域にすぎず,利用者が,その表示の有無を視\n覚的に認識でき,その表示内容から,所望の命令を実行した結果について\nも理解できるような,画像データに当たるものとは認められない。前記ア の説示に照らしても,左上領域等が,「操作メニュー情報」に当たるとは認 められず,同説示のとおり,「操作メニュー情報」に該当するのは,上ペー ジ一部表示等に限られるというべきである。\n以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 「操作メニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報 に関連付いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポイン タにより指定されなくなるまで当該実行を継続する」(構成要件F)の充足性\n ア 被告製品においては,被告製品の構成のエ(ウ)(エ)及びオ(ウ)(エ)\nのとおり,左上領域等の占める座標位置の範囲に,原告が「ポインタの座 標位置」に当たると主張(前記第2の3(2)[原告の主張]イ)する「当該 ショートカットアイコンをドラッグしている指等のタッチパネル上の位 置」又は「当該ショートカットアイコンをドラッグしているマウスカーソ\nルの先端の位置」の座標位置(以下「指等及びマウスカーソルの先端の座\n標位置」という。)が入った場合に「上ページスクロール1」,「上ページス クロール2」,「下ページスクロール1」,「下ページスクロール2」を生じ させる命令(以下,併せて「ページスクロール命令」という。)が実行され, 左上領域等の占める座標位置の範囲に指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が入らなくなるまでページスクロール命令が継続され,入らなく なった場合には当該実行が継続されないことが認められる。
しかし,前記(3)のとおり,被告製品において,「操作メニュー情報」に 該当するのは上ページ一部表示等であるところ,証拠(甲19,乙11〜\n13)によれば,上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲と左上領域\n等の占める座標位置の範囲とは必ずしも一致せず,上ページ一部表示等は,\n左上領域等と一部重なる座標位置に表示されているにすぎないことが認\nめられる。このため,(1)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,\n指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていても,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲外であればページスクロール命令が実 行されず,また,(2)上ページ一部表示等が占める座標位置の範囲に,指等\n及びマウスカーソルの先端の座標位置が入っていなくとも,その位置が左\n上領域等の占める座標位置の範囲内であればページスクロール命令が実 行・継続されることとなる。 このような被告製品の動作状況から検討すると,ページスクロール命令 の実行や継続は,指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が,利用者が\nその範囲を視覚的に認識することができない,左上領域等の占める座標位 置の範囲に入っているかどうかによるものであり,これが肯定されれば, 指等及びマウスカーソルの先端の座標位置が上ページ一部表\示等の占め る座標位置の範囲に入っていなくても,ページスクロール命令が実行され 継続されるものである一方,上記が否定されれば,指等及びマウスカーソ\nルの先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入\nっていても,ページスクロール命令は実行され継続されないこととなるも のである。 すなわち,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の座標\n位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占める座\n標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実行・継続 されているにすぎないものである。これに照らせば,ページスクロール命 令については,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲 において実行・継続されるものであって,上ページ一部表示等の範囲にお\nいて実行・継続されるものではないのであるから,上ページ一部表示等に,\nページスクロール命令が関連付いているとまでは認めるに足りないとい うほかない。 したがって,上記のとおりの被告製品の構成は,構\成要件Fの「操作メ ニュー情報がポインタにより指定される」と「操作メニュー情報に関連付 いている命令」を「実行」する,及び「操作メニュー情報がポインタによ り指定されなくなるまで当該実行を継続する」という文言(構成要件F)\nを充足するとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) まず,原告は,上ページ一部表示等のみならず左上領域等も「操作\nメニュー情報」に相当する旨主張するが,前記(3)に説示したとおり,左 上領域等は,「操作メニュー情報」には当たるとはいえない。
(イ) また,原告は,上ページスクロール1が生じるのは,処理手段が上ペ ージスクロール1を行うプログラムを実行していることを意味するとこ ろ,同プログラムは上ページ一部表示が表\示されていないと実行されな いから,上ページ一部表示と同プログラムとは関連付いている旨主張す\nる。 しかし,前記説示のとおり,本件発明の構成要件F(「関連付いている」)\nについては,画像データである操作メニュー情報の座標位置が利用者に 視覚的に認識できることを前提に,(1)画面上に表示された画像データで\nある操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,ポインタの座標位置 が入った場合に,特定の命令を実行し,(2)操作メニュー情報が占める座 標位置の範囲に,ポインタの座標位置が入らなくなるまで当該実行が継 続され,入らなくなった場合には,当該実行が継続されないことを意味 し,かかる動作状況を満たす命令であることをもって,「操作メニューに 関連付いている命令」に当たるものと解するのが相当であるところであ る。しかして,被告製品においては,指等及びマウスカーソルの先端の\n座標位置が,偶々,上ページ一部表示等と左上領域等が重なる部分の占\nめる座標位置の範囲に入った場合に限って,ページスクロール命令が実 行されているにすぎないものであって,ページスクロール命令について は,飽くまで利用者が視覚的に認識できない左上領域等の範囲において 実行・継続されるものであり,上ページ一部表示等の範囲において実行・\n継続されるものではないというのである。 以上によれば,原告の上記指摘をもって,直ちに,上ページ一部表示\nと上記プログラムとが関連付いており,上ページ一部表示等の有無とペ\nージスクロール命令の実行の可否が関連付いているとまで認めることは できず,他に,両者の関連付けを推認させるに足りる事情も見当たらな い。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は,構成要件Fの「操作メニュー情報がポインタにより指定さ\nれなくなるまで当該実行を継続する」には,「終了」といった記載はない から,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった際に当該 実行が終了することまで求めてはおらず,実行がいつ終了するかは同構\n成要件とは関係がない旨を主張する。 しかし,上記(2)ウで述べたとおり「操作メニュー情報がポインタによ り指定されなくなるまで当該実行を継続する」とは,操作メニュー情報 がポインタにより指定されている場合に当該実行が継続されることのみ ならず,操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなった場合に は当該実行が継続されなくなることまで意味するものと解すべきところ, 前記アで述べたとおり,被告製品において,指等及びマウスカーソルの\n先端の座標位置が上ページ一部表示等の占める座標位置の範囲に入って\nいない場合であっても,左上領域等の占める座標位置に入っていればペ ージスクロール命令の実行が継続されるものである以上,被告製品は上 記の構成要件を充足しないというべきである。なお,原告の主張する「実\n行」の「終了」が何を意味するか必ずしも判然としないが,仮に,上記 構成要件の解釈として,操作メニュー情報がポインタにより指定されて\nいる場合に当該実行を継続することのみを意味し,操作メニュー情報が ポインタにより指定されなくなった場合に当該実行が継続されないこと までは含んでいないとする旨を主張する趣旨であるとしても,そもそも そのような解釈は,本件各特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載 に照らし,上記構成要件の解釈として失当と言わざるを得ない。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> コンピュータ関連発明
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成29(ワ)31544  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年8月30日  東京地方裁判所

 東京地裁40部は、技術的範囲に属すると判断し、102条2項に基づく損害賠償を認めました。

 上記グラフにおけるZn(青線)とPk(赤線)の線形性にほぼ差異はない 上,ZnとXcの差(Zn−Xc)のZnの値に対する比率((Zn−Xc)/Z n)は,Brix値が0%のとき約4.98%,10%のとき約3.82%, 20%のとき約2.75%,30%のとき約1.62%,40%のとき約1. 46%,50%のとき約0.99%であって,ZnとXcの値の差は全体的に かなり小さく,Zn≒Xcと評価しるものであって,そうすると,式(B)は, 重心であるZnの平均値を出しているにすぎないというべきである。 また,式(B)の分子の式(Zn+(Zn−Xc))については,(1)Xc値> Zn値の場合,(2)Xc値=Zn値の場合,(3)Zn値>Xc値の場合があり得るが, (2)の場合にはPkの値は重心位置と一致する上,上記計測結果のような(1)の 場合又は(3)の場合に,式(B)により算出されるPkの値(被告の主張によれ ば臨界角点)が理論上の臨界角点により近似することの合理的な説明はなさ れておらず,そのことを示す的確な証拠もない。そうすると,式(B)が臨 界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認めることはできず,む しろ,前記のとおり,ZnとXcの値の差は全体的にかなり小さく,Zn≒X cと評価し得るものであることを踏まえると,式(B)は重心であるZnの平 均値を出しているものというべきであり,さらに,被告製品において式(B) に基づき複数の試行を行っていることも,同製品が構成要件Eを充足すると\nの結論を左右しない。
ウ 式(C)について
本件発明における式(2)は,「Pc=Pc’+C」というものであると ころ,本件明細書等の段落【0035】〜【0038】,段落【0040】, 【0041】によれば,定数Cは,重心位置Pc’に加算して臨界角点Pc (=Pc’+C)を求めるための定数であり,屈折率が既知である試料を用 いた実験により予め決定された値であると認められる。そして,本件発明は,\nこのように式(1)と式(2)を組み合わせることにより,臨界角点を直接 求めるよりも,同点をより正確に求めることができるとの効果を奏するもの であると認められる。 他方,被告製品の用いている式(C)は,「ΔPc=PCT20−PC0」とい うものであるところ,被告製品説明書,証拠(甲7,8,乙1,9)及び弁 論の全趣旨によれば,PCT20は,式(A)により得られたZn値を式(B) により調整したPk値(前記判示のとおり,重心であるZnの平均値)を,2 0°Cの環境下での値に換算した値であるから,この値は,上記手順により調 整された光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置 のアドレス値(甲7・10頁における「ゼロセット後 10%測定」欄の「Bary T20」の値(30.146))であり,PC0は,20°Cの環境下で濃度0%の 水を用いて計測した重心位置のアドレス値(同頁における「水基準書き込み 後 水」欄の「CAL OffSet」の値(18.54758))であること,また, 水の屈折率は既知であるところ,被告製品の理論上の臨界角点のアドレス値 は18.50000であることが認められる。 そして,甲7によれば,被告製品は,(1)上記PCT20の値(上記「Bary T20」 の値)を入力し,(2)「Bary T20」の値から「CAL OffSet」(水書き込みアド レス値)を差し引いた値を計算する,(3)上記(2)の値をBrix値に換算し, 「Saccharin T20」(Brix値)を算出する,(4)ゼロセットオフセット値を 読み込む,(5)「Saccharin T20」(Brix値)から「ゼロセットオフ値」を 差し引き,その結果を「Brix Value」(Brix値)として算出する,(6)「Brix Value」(Brix値)を「Final Rfact」(屈折率)に換算するという順序 でプログラムが実行されているものと認められる。 上記のプログラム実行過程のうち(2)の計算式は,試料の重心位置のアドレ ス値である「Bary T20」(PCT20)の値から水の重心位置のアドレス値であ る「CAL OffSet」(PC0)の値を差し引くものであり,試料の重心位置のア ドレス値の原点を水の重心位置のアドレス値に改めるとの意味を有するも のであるところ,このPC0値(18.54758)は理論値(水の理論上の 臨界角点のアドレス値である18.50000)との差(0.04758) を含む値であるということができる。そうすると,上記(2)の計算式は,試料 の重心位置のアドレス値から水の重心位置のアドレス値を直接差し引くも のであるが,実質的には,PCT20及びPC0の双方から水の臨界角点の理論 値(18.50000)を控除していったん同理論値を原点とする試料の重 心位置と水の重心位置の各アドレス値を算出し,さらに前者から上記差の値 (0.04758)を調整しているに等しく,試料の重心位置のアドレス値 に,屈折率が既知である水を用いた実験により予め決定された定数(−0.\n04758)を加算する計算をしているのと同義であるということができる。 したがって,式(C)は,式(2)を充足する。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,式(1)と式(A)が形式的に異なっているから,被告製品は構\n
成要件Eを文言充足しないと主張する。 しかし,式(1)は,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲 線)の重心位置Pc’を求めるものであって,式(A)と技術的思想を同じ くするものであり,かつ,式(A)は式(1)に変形し得るものであって, 当業者であれば,式(A)と式(1)が実質的に同一の式であると認識し得 るというべきである。 そうすると,式(1)の技術的範囲は式(A)を包含するものと認めるの が相当である。
イ 被告は,被告製品におけるZnは13回算出され,更にPkを5回算出して 臨界角点Pcを算出しているのに対し,本件発明は,重心位置Pc’を1回 算出し,これに定数Cを加えてPcを算出しているのであるから,技術的思 想が異なると主張する。 しかし,Znが重心位置を求める式であると認められるのは前記のとおり であり,これを13回にわたり求めて,平均値を算出するといった手法は当 業者が容易に採用し得る技術常識に属するものと解される。また,前記のと おり,式(B)が臨界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認め ることはできず,むしろ,重心であるZnの平均値を出しているものという べきであることは前記判示のとおりであるから,本件発明と被告製品の技術 的思想が異なるということもできないというべきである。
ウ 被告は,PC0はΔPcを算出するための基準数値にすぎないから定数Cに 対応する概念ではなく,ΔPcも本件発明の式(2)のPcに対応する概念 ではなく,フェーズが異なるなどと主張する。 しかし,ΔPcを算出する式(PCT20−PC0)が有する意義は前記のとお りであって,被告製品においても試料の重心位置につき差分を調整すること で臨界角点を求めている点で本件発明と変わりがないから,式(C)が式(2) と実質的に異なるということはできない。
エ 被告は,本件発明における式(2)に関し,Pc’は特定の装置における 測定値ベースの臨界角点であり,定数Cは当該装置毎の個体差を較正する値 にすぎないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,式(1)により得られるPc’は光量分布曲線の 一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置であるから,臨界角点と は異なるものであって,本件発明がこれに定数Cを加えることで臨界角点を 求めるものであることは,前記判示のとおりである。
(4) 以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,また,被告製品が構\成要件 A〜D及びFを充足することは前記前提事実(3)ウのとおりであるから,被告 製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
・・・
(1)特許法102条2項に基づく損害額について
ア 被告は,(1)平成28年9月9日から平成30年2月9日までの間に被告製 品を137個販売し,(2)その売上総額は204万4164円であり,(3)被告 製品1個当たりの製造原価は1万0249円であるが,(4)特許法102条2 項所定の被告の利益額を算出するに当たっては,(3)に加えて配送費合計16 00円を控除すべきと主張するところ,(1),(3)及び(4)については,当事者間 に争いがなく,証拠(乙10〜12)によれば,(2)の事実を認めることがで きる。 そうすると,原告の損害額は,特許法102条2項に基づき,63万84 51円(=204万4164円−(137個×1万0249円+1600円)) と推定される。被告がこれを超える利益を得たことを認めるに足りる証拠は ない。
イ 被告は,寄与率を考慮すべきと主張する。しかし,本件発明は,屈折率を 測定するための臨界角点の算定という,屈折計の本質的ないし根幹的技術に 関するものであって,その可分的な一部に関するものではないから,本件で 寄与率を考慮すべきとは認められない。被告主張の諸事情は,この結論を左 右しない。
(2) 弁護士・弁理士費用について
本件事案の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵 害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として6万円を認めるの が相当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 賠償額認定
 >> 102条2項
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成30(ワ)13400  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和元年9月11日  東京地方裁判所

 文言侵害不成立および、第1要件満たさないとして均等侵害が否定されました。

 原告は,本件発明1のうち,挿入力の増加の防止のための構成がその本\n質的部分であるとした上で,被告製品は少なくともその課題の解決原理を 利用しているのであるから,被告製品のサブアーム部にフック部が付属し ているかどうかにかかわらず,同製品は本件発明1の本質的部分を備えて いると主張する。 しかし,本件発明1は,特に車載用等のアンテナの仮固定用ホルダにつ いて,従来例の仮固定用ホルダでは抜け力が弱いという問題があり,他方, 抜け力を強くするために係止爪の引っ掛かり量を多くすると,挿入力が強 くなり作業性が悪化することから,挿入力は弱いままで,抜け力を強くす るという課題を解決するためのものであると認められる(本件明細書等の 段落【0009】,【0013】〜【0015】)。そうすると,本件発 明1の本質的部分は,挿入力は弱いままで,抜け力を強くするための構成\nにあり,従来技術との対比でいうと,特に抜け力の強化のための構成が重\n要であるというべきである。 そして,本件発明1は,上記課題の解決のため,(1)メインアーム部と, メインアーム部の下端部で繋がったサブアーム部を有し,(2)当該下端部が サブアーム部の撓みの支点となり,(3)サブアーム部の上端部を,上端に向 かって肉厚が増加する係止爪からなるものとすることなどにより,取付孔 への挿入性の向上を図るとともに,アンテナ上方向(抜け方向)に荷重が 加わったときは,係止爪が外側に撓んで拡がることにより抜け力の増大を 可能にするものであると認められる(特許請求の範囲,本件明細書等の段\n落【0017】,【0029】,【0032】,【0033】,【003 6】,【0037】)。
ウ 他方,被告製品においては,サブアーム部の爪部の上部にフック部が設 けられ,当該フック部と車体のルーフ孔の距離が0.3mmであると認め られるから(乙13),抜け方向に荷重が加わった際に,フック部は0. 3mm程度以上は撓むことなくすぐに車体のルーフの内側面に当たり,爪 部がそれ以上に外側に撓ることは抑制されるものと認められる。 そして,被告製品における抜け力に関し,被告が実施した実験結果(乙 5)によれば,本件発明1の実施品の抜け力は186Nであるのに対し, 被告製品の抜け力は,215.8N,227N,271N,295Nであ り,最小でも約30N,最大で約110Nの差が生じたことが認められる。 また,被告が実施した,被告製品のコの字型部材(サンプル(1))と,被告 製品のコの字型部材を加工してフック部を除いたもの(サンプル(2))を用 いた実験結果(乙14)によれば,前者の抜け力の平均値は227.60N,後者の抜け力の平均値は73.51N(いずれも10回実施)であり, フック部を備えたコの字型部材の方が,抜け力において約150N大きい ことが認められる。 前記のとおり,被告製品の爪部は外側への撓みが抑制されていると認め られるところ,これに上記の各実験結果を併せて考慮すると,被告製品は, 本件発明1の実施品に匹敵する抜け力を備えているということができ,そ の抜け力の大きさは,同製品がフック部を備えることに起因しているもの と考えるのが自然であり,少なくとも爪部の外部への撓みによるものでは ないということができる。
なお,原告は,乙14実験はサンプル(2)のフック部のカット加工の際に メインアーム部とサブアーム部の接続部の耐久性が損なわれた可能性が\nあるとして,乙14実験の信用性を争うが,サンプル(2)はフック部を爪部 からカットするものであり,上記接続部の耐久性が損なわれたことをうか がわせる事情は見当たらない。前記判示のとおり,乙14実験はサンプル (1)と(2)のそれぞれについて10回ずつ実験を行っているところ,数値にば らつきはあるものの,サンプル(1)は200N以上であり,サンプル(2)は概 ね60〜100程度であり,全体的に100N以上の差が生じていること に照らすと,その差が誤差や実験方法の不適切さに由来するものとはいう ことはできない。
エ 前記判示のとおり,抜け力の増大という課題を解決するための構成は本\n件発明1の本質的部分ということができるところ,本件発明1はこの課題 をアンテナ上方向(抜け方向)に荷重が加わったときに係止爪が外側に撓 んで拡がることにより解決しているのに対し,被告製品は爪部に加えてフ ック部を備えることにより抜け力を保持しているものと認められ,そうす ると,被告製品は本件発明1と異なる構成により上記課題を解決している\nということができる。
そうすると,本件発明1と被告製品はその課題解決のための特徴的な構\n成において相違し,本件発明1と被告製品との相違点は,この課題解決に 必要な構成に関するものであるから,同相違点は本件発明1の本質的部分\nに関するものであるということができる。
オ したがって,本件発明1と被告製品の相違点は,本件発明1の本質的部 分に関するものではないということはできないので,被告製品は第1要件 を充足しない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 用語解釈
 >> 均等
 >> 第1要件(本質的要件)
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP

平成31(ネ)10014  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和元年10月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 少し前のですが、欠落していたのでアップします。薬品特許のクレームが作用的(?)に記載されている場合に、クレーム限定、またはサポート要件・実施可能要件違反が主張されました。知財高裁は、1審と同様に、技術的範囲に属する、無効理由無しと判断しました。

 上記(1)の認定事実によれば,本件発明1は,PCSK9とLDLRタンパク 質の結合を中和し,参照抗体1と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこ れを使用した医薬組成物を,本件発明2は,PCSK9とLDLRタンパク質の結 合を中和し,参照抗体2と競合する,単離されたモノクローナル抗体及びこれを使 用した医薬組成物を,それぞれ提供するものである。そして,本件各発明の課題は, かかる新規の抗体を提供し,これを使用した医薬組成物を作製することをもって, PCSK9とLDLRとの結合を中和し,LDLRの量を増加させることにより, 対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を奏し,高コレステロール血症 などの上昇したコレステロールレベルが関連する疾患を治療し,又は予防し,疾患\nのリスクを低減することにあると理解することができる。 本件各明細書には,本件各明細書の記載に従って作製された免疫化マウスを使用 してハイブリドーマを作製し,スクリーニングによってPCSK9に結合する抗体 を産生する2441の安定なハイブリドーマが確立され,そのうちの合計39抗体 について,エピトープビニングを行い,21B12と競合するが,31H4と競合 しないもの(ビン1)が19個含まれ,そのうち15個は,中和抗体であること, また,31H4と競合するが,21B12と競合しないもの(ビン3)が10個含 まれ,そのうち7個は,中和抗体であることが,それぞれ確認されたことが開示さ れている。また,本件各明細書には,21B12と31H4は,PCSK9とLD LRのEGFaドメインとの結合を極めて良好に遮断することも開示されている。 21B12は参照抗体1に含まれ,31H4は参照抗体2に含まれるから,21 B12と競合する抗体は参照抗体1と競合する抗体であり,31H4と競合する抗 体は参照抗体2と競合する抗体であることが理解できる。そうすると,本件各明細 書に接した当業者は,上記エピトープビニングアッセイの結果確認された,15個 の本件発明1の具体的抗体,7個の本件発明2の具体的抗体が得られることに加え て,上記2441の安定なハイブリドーマから得られる残りの抗体についても,同 様のエピトープビニングアッセイを行えば,参照抗体1又は2と競合する中和抗体 を得られ,それが対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を有すると認 識できると認められる。 さらに,本件各明細書には,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免 疫化マウスの作製,免疫化マウスを使用したハイブリドーマの作製,21B12や 31H4と競合する,PCSK9−LDLRとの結合を強く遮断する抗体を同定す るためのスクリーニング及びエピトープビニングアッセイの方法が記載され,当業 者は,これらの記載に基づき,一連の手順を最初から繰り返し行うことによって, 本件各明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,参照抗 体1又は2と競合する中和抗体を得ることができることを認識できるものと認めら れる。
以上によれば,当業者は,本件各明細書の記載から,PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和し,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル 抗体を得ることができるため,新規の抗体である本件発明1−1及び2−1のモノ クローナル抗体が提供され,これを使用した本件発明1−2及び2−2の医薬組成 物によって,高コレステロール血症などの上昇したコレステロールレベルが関連す る疾患を治療し,又は予防し,疾患のリスクを低減するとの課題を解決できること\nを認識できるものと認められる。よって,本件各発明は,いずれもサポート要件に 適合するものと認められる。
(3) 控訴人の主張について
控訴人は,本件各発明は,「参照抗体と競合する」というパラメータ要件と,「結 合中和することができる」という解決すべき課題(所望の効果)のみによって特定 される抗体及びこれを使用した医薬組成物の発明であるところ,競合することのみ により課題を解決できるとはいえないから,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,本件各明細書の記載から,「結合中和することができる」ことと,「参照 抗体と競合する」こととが,課題と解決手段の関係であるということはできないし, 参照抗体と競合するとの構成要件が,パラメータ要件であるということもできない。\nそして,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特 定されていくことは技術常識であり,特定の結合特性を有する抗体を得るために, その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認め\nられない(甲34,35)。 前記のとおり,本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和し, 本件各参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体を提供するもので,参 照抗体と「競合」する単離されたモノクローナル抗体であること及びPCSK9と LDLR間の相互作用(結合)を遮断(「中和」)することができるものであること を構成要件としているのであるから,控訴人の主張は採用できない。\n
・・・
控訴人は,本件各発明は,抗体の構造を特定することなく,機能\的にのみ定義さ れており,極めて広範な抗体を含むところ,当業者が,実施例抗体以外の,構造が\n特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには,膨大な 時間と労力を要し,過度の試行錯誤を要するのであるから,本件各発明は実施可能\n要件を満たさない旨主張する。 しかし,明細書の発明の詳細な説明の記載について,当業者がその実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとの要件に適合することが求\nめられるのは,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をできる程 度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰\nし,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになる からである。
本件各発明は,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ, PCSK9との結合に関して,参照抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗 体についての技術的思想であり,機能的にのみ定義されているとはいえない。そし\nて,発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和す ることができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離 されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度 の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発\n明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができ ることまで記載されている必要はない。 また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない 抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認 識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に\n記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。\nそして,前記(1)のとおり,当業者は,本件各明細書の記載に従って,本件各明細 書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件各特許の特許請求の範 囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであ るから,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得 る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって,控訴人の主張は採用できない

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成29(ワ)16468

関連カテゴリー
 >> 記載要件
 >> サポート要件
 >> 実施可能要件
 >> 技術的範囲
 >> 文言侵害
 >> 限定解釈
 >> 104条の3
 >> ピックアップ対象

▲ go to TOP