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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

職務発明

令和2(ネ)10048  職務発明対価等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 競馬ゲーム発明のうち、出願しなかった部分について、ノウハウに基づく報奨金(特35条)を求めました。知財高裁は1審と同じく否定しました。

 当裁判所も,原審と同様に,本件ノウハウに係る控訴人の被控訴人に対する 対価請求権が存するということはできないと判断する。 その理由は,次のとおりである。
(1) 本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されてい るものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施すること によって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に 基づく相当の対価を請求することはできないと解される。 そこで,以下,控訴人が主張する内容に基づき,本件ノウハウが特許性を 有する発明といえるか否かについて検討する。
(2) 原審及び当審における控訴人の主張によれば,控訴人が主張する本件ノ ウハウの特徴は,次のとおり理解することができる。
ア 完全確率抽選方式の下で,何らの工夫もせずに予想ゲームと馬主ゲーム\nとを組み合わせた競馬ゲームを設計すると,馬主ゲームにおいて購入する 馬の能力値によって馬ごとのメダル獲得の期待値に不公平が生じるため,\nプレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入するようになり,馬主ゲームの\nゲーム性が損なわれてしまう。他方で,各馬の能力値を同一にすることに\nよってこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損\nなわれてしまう。このように,上記のような競馬ゲームの設計においては, 馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さを解消して 公平性を確保しつつ,現実の競馬同様のゲーム性を持たせる工夫をする必 要があるという課題があった。
イ 本件ノウハウは,上記の課題を解決するために,1)プレイヤー馬につい て,能力値とは別に,一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と\n呼ばれる指標を導入した上で,2)馬主ゲームにおいて,レースに出走する ために消費する活力値(以下「消費活力値」という。)とレース結果に応じ て増加する活力値(以下「増加活力値」という。)の期待値とを等しくする ことにより,馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さ が生じないようにするものである。 また,消費活力値及び増加活力値の算出においては,3)同じレースに複 数のプレイヤー馬が出走する場合もあるところ,プレイヤー馬の能力値が\n当初は未確定であることから,各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値 及び能力値について,一旦暫定値を用いて計算し,必要に応じて数値を再\n調整する計算方法が採られている。 さらに,4)活力値は,メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり, プレイヤーに認識されない形で増減され,次回以降の競馬ゲームに影響を 与えるように導入されており,これにより,ゲーム性が醸成されている。 (以下,上記1)ないし4)の点を,順に「特徴1)」などという。) (3) 以下,控訴人が主張する本件ノウハウが特許性を有する発明といえるか 否かにつき,特徴1)ないし4)を基に検討する。
ア 特徴1)について
(ア) 予想ゲームのみの競馬ゲームを設計する場合であれば,各馬の能\力 値を定めた上で,能力値に応じた適切なオッズを定めることにより,公\n平性及びゲーム性を確保することができるといえるが,これにゲーム内 容が全く異なる馬主ゲームを組み合わせて新たな競馬ゲームを設計し ようとするのであれば,能力値とは別の指標を導入する必要が生じるこ\nとは,いわば必然のことであるといえる。
(イ) また,上記(2)アによれば,完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬\n主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合,馬主ゲームで購 入する馬の能力値に差があることが原因となって馬ごとのメダル獲得\nの期待値に不公平さが生じることにより,馬主ゲームのゲーム性が損な わる事態が生じ得るが,他方で,馬の能力値の差をなくすことによって\nこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損なわ\nれてしまうというのであるから,これらの問題を解決するためには,能\n力値を調整するのみでは足りず,能力値とは別の指標を導入する必要が\nあることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,特徴1)における活力値の導入は,完全確率抽選方式 の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計す\nる場合において,必然的に必要となる指標を導入したものにすぎないと いうべきである。
・・・・
オ 小括
以上検討したところによれば,本件ノウハウにおける活力値の導入につ いては,必然的に導入すべき指標を用いたものにすぎないというべきであ る上,活力値を用いた期待値の算出等についても,課題解決のために当然 に採られ得る手段であるか,又は通常よく採られる方法を超えるものでは ないというべきである。
(4) なお,控訴人は,本件ノウハウにおいては,ペイアウト率90%のメイン ゲームと同100%のサブゲームとが組み合わされ,ゲームセンターと顧客 との間の利害のバランスがとられている点が画期的であるとも主張する。 しかしながら,ペイアウト率をいくらに設定するかという問題は,それ自 体としては,技術の問題ではなく,取極めの問題にすぎないから,控訴人主 張の点は,本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。
(5) 以上検討したところによれば,本件ノウハウは,特許性を有する発明であ るとは認められず,これを実施することによって被控訴人に独占の利益が生 じたということはできないから,本件ノウハウが控訴人によって職務発明と して開発され,被告製品2において実施されたものであったとしても,控訴 人は,被控訴人に対し,本件ノウハウにつき,特許法35条3項に基づく相 当の対価を請求することはできない。

◆判決本文

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