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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

職務発明

平成21(ワ)9793 特許を受ける権利確認請求事件 特許権 民事訴訟平成22年11月29日 東京地方裁判所

 職務発明および黙示の譲渡も否定されました。
 上記のとおり,乙1の4発明は,本件発明1〜8のすべての構成要件を開示している。そして,本件発明9〜16は,それぞれ本件発明1〜8に対応し,それぞれのねじに対応する形状を備えたドライバビットに関する発明であるから,乙1の4発明が本件発明1〜8を開示していることにより,本件発明9〜16の構\成要件についても開示していると認めるのが相当である。(3) そして,乙1の4発明に関しては,・・・このような甲5発明との対比からすると,本件発明の内容を開示する乙1の4発明は,具体的な設計図や金型のパンチ仕様図が作成されて,製品が特定され,実施が可能な状態となった平成15年3月の時点において,発明として既に完成していたと認めるのが相当である。・・以上によると,乙1の4発明には,本件発明の内容が開示されており,本件発明は,被告が原告に再入社する以前である平成15年3月の段階で,既に発明として完成していたというべきであるから,本件発明は,被告が原告に再入社した後にその職務としてした発明とはいえず,職務発明に該当しないと言わざるをえない。そして,その他,本件発明が職務発明に該当すると認めるに足りる証拠はない。・・・以上のような経緯にかんがみれば,上記(ア)の被告の言動から,原告においては,「CRドライブ」が新たな発明の実施品であって,その発明は原告に帰属すべきものであるとの認識が生じていたとは認められるものの,他方,上記(イ)のとおり,被告においては,原告への再入社前に完成し,再入社後も自ら保有すると認識していた本件発明の特許を受ける権利について,これを原告に譲渡する意思を有していたと認めることはできず,原告,被告の間においては,本件発明がいずれに帰属すべきかについて,認識の差があったものということができる。加えて,原告においても,他のねじの発明(甲5)については,早期に特許出願等の対応を行ったのに対し,本件発明については,平成18年8月27日の時点において,特許出願について何ら言及しなかったこと等からすると,(ア)の認定事実から,同日の時点で,本件発明の特許を受ける権利を被告から原告に譲渡する旨の黙示の譲渡契約が成立していたことを推認することはできないと言わざるをえない。

◆判決本文

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平成20(ネ)10082 職務発明対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年08月19日 知的財産高等裁判所

 職務発明の報奨金について、1審は請求棄却でしたが、知財高裁は512万円の請求を認めました。
 使用者が被用者から譲り受けた特許発明の実施につき,実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる必要があるところ,その存否については,i)特許権者が当該特許につき有償実施許諾を求める者には,すべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,又は特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,ii)当該特許の実施許諾を得ていない競業他社が一定割合で存在する場合でも,当該競業他社が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,iii)包括ライセンス契約又は包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,iv)特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別の時期に,他の代替技術も実施しているか等の一切の事情を考慮して判断すべきである。ところで,当該特許発明の価値が非常に低く,これを使用する者が全く想定し得ない場合や,代替技術が非常に多数あるため,市場全体からみて当該特許の存在が無視できるような特段の事情がある場合を除き,単に開放的ライセンスポリシーが採られており,当該特許発明と同等の代替技術が存在するというだけでは,程度の差はともかく,依然として当該特許発明を譲り受けた使用者に「超過利益」はあるというべきである。また,ある市場において,当該特許発明のほか,代替技術となり得る複数の技術が存在する場合,技術の優劣等の格別の事情が認められなければ,原則として同市場に占める当該特許発明の割合に応じた「超過利益」が認められるというべきである。ちなみに,当該要証事実の性質等によっては,当該特許発明と代替技術との優劣を的確に判断することは,技術内容や市場原理等に対する理解の難しさもあって,困難を極める認定問題であり,安易に立証責任の所在を定めて,悉無律によって決することは,不公正な結果を招来しやすくし,妥当ではない。なお,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指して行動するものであって,各企業が,当該特許発明を自社実施するか,一部又は全部を他社に実施許諾するかは,利益最大化のための手段として,最良の選択か否かの問題にすぎない。そうであれば,自社実施の場合であっても,それによる利益の一定部分は「超過利益」に該当するものと解すべきである。

◆判決本文

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平成18(ワ)23550 職務発明譲渡対価等請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年06月23日 東京地方裁判所

 職務発明に基づく報奨金として約6300万円が認められました。
 以上のとおり,本件発明自体は,原告の研究開発によりなされたものと認められるが,これにより被告が前記2の利益を得ることができたのは,日本967号発明にハーフトーン型位相シフトマスクが含まれ得るかのように特許請求の範囲を補正し,かつ,日本967号発明にハーフトーン型位相シフ136トマスクが含まれることを前提にライセンス交渉が行われたことによるところが大きいものと認められる。そして,前記⑵のとおり,このような補正を行い,かつ,ハーフトーン型位相シフトマスクが含まれるものとしてライセンス交渉において積極的に活用したのは,被告の貢献によるところであるのに対し,他方で,これらの点における原告の貢献は,そのような補正及び活用の基礎となる本件発明をしたという限度にとどまるものと認められる。これに加えて,前記⑵のとおり,原告が行った本件当初発明は問題点を包含しており,これを解消するに当たっての被告内部における問題点の指摘や,被告内部において進められていた位相シフトマスクに関する研究成果の蓄積を無視することはできないこと,結局は,本件当初発明に係る請求項は,補正により削除されるに至っていること,原告が行った発明には,ハーフトーン型位相シフトマスクは含まれていないこと等の本件発明が特許を取得するに至る経緯及び日本967号発明の本来の技術的範囲等その他の一切の事情を考慮すれば,本件発明により受けるべき利益の額及び本件発明がされるについて,被告が貢献した程度は,96%とするのが相当である。

◆判決本文

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平成18(ワ)27879 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年07月08日 東京地方裁判所

職務発明の報奨金として228万円が認められました。
 「ところで,被告は,本件発明を自己実施しながら,他社との包括クロスライセンス契約に基づいて本件発明の実施許諾もしているので,本件発明により被告が受けるべき利益の額を算定するに当たっては,被告が包括クロスライセンス契約において本件発明により得た利益の額と被告が本件発明を自己実施したことにより受けるべき利益の額とに分けて検討することとする。・・・
(2) 包括クロスライセンス契約により得た利益の額の算定方法
ア 複数の特許発明等がライセンス契約の対象とされている場合,当該発明を実施許諾したことにより得た利益の額を算定するに当たっては,当該発明が当該ライセンス契約に寄与した程度(寄与度)を考慮すべきである。当事者双方が多数の特許発明等の実施を相互に許諾し合う包括クロスライセンス契約は,相互に無償で実施を許諾する特許発明等とそれが均衡しないときに支払われる実施料の額が総体として相互に均衡すると考えて締結されるものと解されるから,当事者の一方が自己の保有する特許発明等の実施を相手方に許諾することによって得た利益は,相手方が自己の特許発明等を実施することにより,本来,相手方から支払を受けるべきであった実施料の額と相手方から現実に支払われた実施料の額との合計額を基準として算定することも合理的な算定方法の一つであると解される。そして,包括クロスライセンス契約の締結交渉においては,多数の特許発明等のすべてについて,逐一,その技術的価値,実施の有無などを相互に評価し合うことは不可能又は著しく困難であることから,相互に一定件数の相手方が実施している可能\性が高い特許や技術的意義が高い基本特許を相手方に提示し,それらの提示特許に相手方の製品が抵触するかどうか,当該特許の有効性及び実施品の売上高等について協議することにより,提示特許のうち相手方製品との抵触性及び有効性が確認された代表特許と対象製品の売上高を比較考慮すること,互いに保有する特許の件数,出願中の特許の件数も比較考慮することにより,包括クロスライセンス契約におけるバランス調整金の有無などの条件が決定されるのが通常であり,代表\特許は包括クロスライセンス契約に多大な貢献をしているといえる。しかし,代表特許や提示特許でなくとも,包括クロスライセンス契約の対象に含まれ,かつ,その契約締結時に相手方によって実施されていたことが立証された特許については,当該包括クロスライセンス契約に寄与しているものといえるから,その実施許諾により得た利益の額を考慮すべきであり,また,このような相手方実施特許が当該包括クロスライセンス契約に寄与した程度(寄与度)は,その特許発明の技術内容,相手方の実施割合,代替技術の存在及びその実施割合等を総合的に考慮して決するのが相当であると解される。・・・上記(ア)eの認定のとおり,被告はほとんどすべての競合他社との間で包括クロスライセンス契約の一種であるライセンスバック契約を締結していること,ライセンスバック契約の有償部分の実施料率の定めは,被告と各相手方との特許力の差異を反映して契約の相手方ごとに異なる数字となっていることに照らすならば,各相手方とのライセンス契約における各相手方の個別の特許力を具体的に考慮検討することは,その審理に著しい負担を要し,極めて困難であるといわざるを得ない。一方,ライセンスバック契約の無償部分においては,被告が相手方に許諾した特許等と被告が相手方から許諾を受けた特許等が均衡しているものと考えられるが,個々の特許の特許力を具体的に考慮検討することは,同様に,極めて困難であるといわざるを得ない。そこで,本件においては,いくつかの相手方との間における実施料率の平均値をもって有償部分の標準的実施料率とし,無償部分については,個々の特許の特許力を考慮せずに,保有特許数の総和が特許力を示すものとして,算定の基礎とすることも許されるものと解される。以上の諸点に加えて,本件発明を対象とする被告の包括クロスライセンス契約は別件訴訟において判断の基礎とされた被告の包括クロスライセンス契約と重複していることを勘案すると,被告が包括クロスライセンス契約において本件発明により得た利益の額は,別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決が採用した算定方法と同様に,被告の全ライセンシーによる本件発明の実施品の譲渡価格に,本件発明の実施料率(「標準包括ライセンス料率」×本件発明の寄与度)を乗じて算定するのが相当である。」

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平成18(ワ)7529 特許権 民事訴訟 平成21年01月27日 大阪地方裁判所

 職務発明に基づく報奨金について、2253万円が認定されました。
「ところで,使用者等が,その時々の経済情勢,市場動向,競業者の動向等,経営状況の変化に対応していかなる経営方針をもって臨むかは,基本的に経営者としての使用者等の経営判断に委ねられた事項である。使用者等がある職務発明を実施するか否かについても,その発明が使用者等の業務の範囲内において従業者が職務として行った職務発明である以上,このような経営判断の一環として決定し得る事項であるから,当該発明を実施するか否か,実施するとしてどの程度の規模で実施するか,将来的にその規模を拡大していくか縮小していくかは,基本的に使用者等がその時々の具体的状況に応じて,その裁量により決定していくべきものである。したがって,使用者等がある職務発明の実施を抑制するような方針をとり,結果として,当該発明の独占的実施による利益あるいは実施料収入が減少したとしても,それが使用者等において,もっぱら発明者である従業者等に対する相当の対価の支払を免れることを目的としたものであるなど,経営判断としての合理性を欠くことが明らかであるといった特段の事情が認められない限り,「相当の対価」の額の算定に際しては,上記方針を採用した結果として実際に使用者等が当該発明の独占的実施によって得た利益あるいは実際に第三者から受けた実施料収入を基礎として算定すべきであって,販売抑制がなかった場合を想定し,かかる場合における当該発明の独占的実施によって得る利益あるいは第三者からの実施料収入を仮に想定して,これを基礎に相当の対価の額を算定するのは相当でない。これを本件についてみると,被告が平成16年9月ころ販売政策を変更し,HMS商品からレディメイド商品へと販売の力点を移し,以後HMS商品の新商品の発売を中止したことは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,被告は平成20年2月をもってHMS商品の販売を打ち切ったことが認められる。このような被告の販売政策の変更は,基本的には被告の経営判断に委ねられた事項であるから,被告の上記販売抑制策が,原告に対する相当の対価の支払を免れることを目的としたものであるなど,経営判断としての合理性を欠くことが明らかであるといった特段の事情が認められない限り,相当の対価の額はHMS商品の現実の売上高をもとに算定すべきであり,原告が主張するような算定手法,すなわち,被告によるHMS商品の販売抑制がなかったと仮定して,販売抑制以前の売上高を基礎にあるべき売上高を想定してこれに基づいて相当対価の額を算定するという手法は採用すべきではない。」

◆判決本文

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平成21(ネ)10017 特許を受ける権利の確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年02月24日 知的財産高等裁判所 

 控訴人退職後に被控訴人でした特許出願についての、特許を受ける権利の帰属確認訴訟です。控訴人は特許を受ける権利を放棄していないこと、被控訴人は背信的悪意者であるとして、受ける権利は控訴人にあると認定されました。
 「Fは,Aから本件発明について開示を受けてそのまま特許出願しかつ製品化することは,控訴人の秘密を取得して被控訴人がそれを営業に用いることになると認識していたというべきであり,さらに,本件発明はAが控訴人の従業員としてなしたものであることからすると,通常は,控訴人に承継されているであろうことも認識していたというべきである。このように,被控訴人の特許出願は,控訴人において職務発明としてされた控訴人の秘密である本件発明を取得して,そのことを知りながらそのまま出願したものと評価することができるから,被控訴人は「背信的悪意者」に当たるというべきであり,被控訴人が先に特許出願したからといって,それをもって控訴人に対抗することができるとするのは,信義誠実の原則に反して許されず,控訴人は,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができるというべきである。」

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平成20(ワ)14681 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年01月29日 東京地方裁判所

 超過売上高があったとは認められないとして、特許法35条に基づく報奨金請求が棄却されました。
 上記(1)〜(4)に検討したところによれば,本件サービスは,本件発明を必須の構成とするものではない上,文字認識方法として本件発明は従来技術に比して格別技術的な優位性を有するものではなく,遅くとも本件サービス実施時,認識率において他の製品に比して格別顕著な差を有していたものではないこと,他方,文字認識に係る代替技術は,市場に多く存在していたことが認められるというのであるから,被告と競合する他者は,いつでも,文字認識部分について,本件発明と技術的に同等以上の代替技術を使用して,本件発明を使用することなく,本件サービスと同様のサービスを行うことができたものというべきである。そうすると,被告が,本件発明を排他的に実施していたことによって,すなわち,他者に対する禁止権の効果として,超過売上高を得たという関係を認めることはできない。・・・(ア) 原告は,本件発明はすべて原告が独自に考案したものである旨を主張するが,それが採用できないことは前記(2)において説示したとおりである。(イ) 原告は,本件発明を使用した文字認識の学習処理及び識別処理が高速である旨を主張する。しかしながら,学習処理時間は,既に完成したプログラムを運用する本件サービスにおいて格別の効果を有するとは認め難い。また,本件サービスの開始された平成9年当時,本件発明の文字認識の識別処理時間が,オペレータの待ち時間の有無又はその程度につき,他の技術と比して有意な差があったことを認めるに足りる証拠はない。(ウ) 原告は,すべてのカテゴリーに対する類似度情報を返す本件発明は,誤認識をより高い確率ではじき出すことが可能となるなどと主張するが,すべてのカテゴリーに対して類似度情報を返すことにより原告主張の効果が生じると認めるに足りる証拠はなく,採用することができない。(エ) 原告は,本件発明が大量カテゴリーの識別問題に係る分野に応用できる旨を主張するが,被告がそのような発明を実施していることを認めるに足りる証拠はない。(オ) 原告は,本件発明の認識率は高い旨を主張するが,その主張を採用することができないことは,上記(3),(4)に説示したところから明らかである。・・・(ア) 原告は,本件サービスはOCRを利用することによって初めて成り立つ旨を主張する。しかしながら,被告はいずれにしても職務発明である本件発明を実施できるのであって,その実施による効率化は,本件権利の譲渡を受けて実施する場合と法定通常実施権に基づき実施する場合とで何らの差異を見いだすことができない。原告の上記主張は,本件発明を実施していない場合と本件発明を実施している場合との対比を述べるのみであり,本件発明の譲渡を受けて実施する場合と法定通常実施権に基づき実施する場合においていかなる差異が生じるかを述べているものではない。原告の主張は,前提を誤るものであって,採用することができない。(イ) 原告は,本件サービスは,本件発明を除けば従来技術の単なる組合せにすぎない旨を主張するが,仮にそうであるとしても,本件発明についてもまた代替技術が存する以上,本件サービスの性質が本件発明の排他的実施による利益を基礎付けるものではない。原告の主張は,採用することができない。エ「排他的実施」について原告の主張の趣旨は,必ずしも明らかではないが,いずれにしても,本件サービス実施時に本件発明と同等以上の代替技術が存していた以上,競合他者はその技術を使用して市場に参入すればよく,被告が本件発明を排他的に実施していたことによって超過売上高を得たという関係を認めることができないことは,上記(5)のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。

◆判決本文

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平成19(ワ)31700 職務発明対価請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年12月25日 東京地方裁判所

 共同発明者と認定されて35条に基づく対価が認められました。また、対価についても超過売上高の4割と認定されました。
 そして,上記i)ないしiii)に係る各実験を実際に行い,その実験データを作成したのは,Bであるが,平成2年5月当時,Bは,被告に入社後約2年1か月を経過した時点で,それまでに臨床検査用試薬の開発経験がなかったのに対し,原告は,昭和47年から臨床検査用試薬の開発に従事し,その当時まで約17年間にわたる臨床検査用試薬の開発経験があり,その間に酸化還元反応,界面活性剤等に関する多くの職務発明を行い,被告の特許権の取得に関与するなど,ビリルビン測定試薬を含む臨床検査用試薬について豊富な知識・経験を有していたこと(前記1(1)ア(ア)d,甲9ないし24,26,35,43,44,弁論の全趣旨)によれば,Bは,原告の指示ないし示唆を受けながら上記各実験を行い,その実験結果等の分析評価についても原告が主導的な役割を担っていたものと推認することができる。b これに対し証人Bの供述及び陳述書(乙3,23)中には,Bは,バナジン酸又は三価のマンガンをビリルビンの酸化剤として使用するときに間接ビリルビンの反応抑制剤として添加する添加物のスクリーニング実験を行った際に,原告から,具体的な添加物を挙げて実験を行うよう指示を受けたことはなく,自己の判断で添加物を選択して実験を行った,Bが塩酸ヒドラジンが間接ビリルビンの酸化反応を抑制できることを原告に報告したところ,原告から塩酸ヒドラジンはロケットなどに使う引火性のある物質なので印象がよくないと言われたので,塩酸ヒドラジンと同等の抑制効果が得られる添加物を探すうちに,還元剤として一般に使われている塩酸ヒドロキシルアミンについて実験していなかったことに気付き,平成2年5月17日に実験してみたところ,塩酸ヒドラジンと同等の数値が得られた旨の部分がある。しかし,仮にBが述べるように実験された個々の添加物の選択がBの判断で行われたとしても,本件証拠上,Bが,どの添加物であれば,間接ビリルビンを保護し,あるいは間接ビリルビンの酸化反応を抑制する効果があるかについて,具体的な着想を持って実験を行っていたものとは認められないし,新たなビリルビン測定試薬の開発責任者である原告が,Bから報告を受けた実験データについて分析評価を行わずに,すべてBに試薬の研究開発を委ねていたものとは考え難い。もっとも,被告が主張するように,原告作成の平成2年5月の月報の表紙(乙24の1)には,還元剤である塩酸ヒドロキシルアミンについて何ら言及されておらず,バナジン酸の予\定処方についても,「塩酸ヒドラジン」が挙げられているにとどまるものであるが,原告作成の月報の表紙部分はその月に行った実験,研究成果等の進行状況の概要を記載するもので,原告が行った指示等を具体的に記載することまで予\定されているものではなく,また,B作成の月報用報告書についても原告の指導の下に作成された可能性を否定できるものではないから,原告が間接ビリルビンの反応抑制剤として「ヒドロキシルアミン類」を選択することに関与していなかったと断定することはできない。したがって,証人Bの上記供述及び陳述書の記載部分によって上記推認を妨げるものではない。(ウ) 以上によれば,原告は,本件発明の特徴的部分ii)の着想・具体化に関与したことが認められる。(4) 小括以上のとおり,本件発明の特徴的部分i)についてはBが着想し,具体化したものであって,原告がこれに関与したものとはいえないが,本件発明の特徴的部分ii)については原告がその着想・具体化に際し,主導的な役割を担っていたものと認められるから,原告及びBは,いずれも,本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担した者であって,本件発明の共同発明者であると認められる。・・・・・ところで,特許法旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」は,使用者等が「受けた利益」そのものではなく,「受けるべき利益」であるから,使用者等が職務発明についての特許を受ける権利を承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されるところ,使用者等は,特許を受ける権利を承継せずに,従業者等が特許を受けた場合であっても,その特許権について特許法35条1項に基づく無償の通常実施権を有することに照らすと,「発明により使用者等が受けるべき利益」には,このような法定通常実施権を行使し得ることにより受けられる利益は含まず,使用者等が従業者等から特許を受ける権利を承継し,当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって受けることが客観的に見込まれる利益(独占の利益)をいうものと解される。そして,「発明により使用者等が受けるべき利益」を考慮するに当たっては,発明の実施又は実施許諾による使用者等の利益の有無やその額など,特許を受ける権利の承継後の事情についても,その承継の時点において客観的に見込まれる利益の額を認定する資料とすることができると解するのが相当である。前記1(1)の前提事実と弁論の全趣旨によれば,被告が製造販売する本件試薬は,本件発明の方法の使用にのみ用いる物(専用品)であること,このように被告は,本件発明の方法の使用にのみ用いられる物の製造販売を自ら行い,その製造販売について国内及び国外を問わず第三者に許諾したことはないことが認められる。ところで,特許が方法の発明についてされている場合において,業として,その方法の使用にのみ用いる物の生産,譲渡若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為は,特許権の侵害とみなす行為(特許法101条4号)に該当し,特許権者は,当該物の製造販売を行う者に対して差止請求をすることができること(特許法100条1項)にかんがみれば,特許権者は,特許発明の方法の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に独占する地位を有しているものと解される。そして,特許権者から当該物の製造販売について許諾を受けた者が当該物の製造販売を行うことができるのと同様に,特許法35条1項に基づく通常実施権を有する者も,自ら当該物の製造販売を行うことができるものと解するのが相当である。そうすると,本件発明の使用にのみ用いる本件試薬の売上げを基にして,「発明により使用者等が受けるべき利益」を算定するに当たっては,被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に独占し,第三者による製造販売を排除したことにより得られたものと認められる本件試薬の売上高,すなわち,特許法35条1項に基づく通常実施権を有することにより販売し得たと認められる売上高を上回る売上高(超過売上高)に係る分について,第三者に本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を許諾した場合に得られる実施料を算定するのが相当であると解される。具体的には,本件試薬の売上高のうち,その排他的,独占的な販売に基づく超過売上高に係る分はいくらであるか,その超過売上高に係る分を第三者に許諾した場合に得られる想定実施料(超過売上高に係る分に想定実施料率を乗じた額)はいくらであるかを認定し,本件試薬の販売による独占の利益を算定するのが相当である。・・・・諸般の事情を考慮すると,被告の本件試薬の売上高のうち,被告が本件発明の使用にのみ用いる物の製造販売を事実上排他的に独占し,第三者による製造販売を排除したことにより得られたものと認められる超過売上高に係る分が占める割合は,40%と認めるのが相当である。」\n

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