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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

実施可能要件

平成27(行ケ)10017  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年11月24日  知的財産高等裁判所

 審決は36条違反(実施可能要件、サポート要件)としましたが、知財高裁はこの判断については取り消しました。ただ、審決が進歩性なしとした判断については維持され、結局審決は維持されました。
 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成において,各分\n離ディスク間に精度よく間隔を形成する方法が,発明の詳細な説明に,当業者が実 施可能な程度に記載されていない,とする。\nイ しかしながら,複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する 場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々 な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例 えば,従来,・・・が開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含 まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの 程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固 定手段により適宜調整可能なことである。\nしたがって,審決の特許法36条4項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ これに対して,被告は,本願発明において,間隔保持部材を設けること なしに,はんだ付け又は溶接するだけで,遠心分離機の分離ディスクとして回転す る場合でも回転に関して動的に安定したものとすること,及び,適切に遠心分離を 行うために必要な薄い流動空間を正確に形成できることまでは,明細書の記載から 明らかではなく,技術常識でもない,と主張する。しかしながら,本願発明のよう な遠心分離機において,間隔保持部材を設けることが必須であるといった技術的知 見の存在を裏付けるに足る適切な証拠は提出されていない。 ・・・ ア 審決は,本願発明のうち,間隔保持部材を有さない構成が発明の詳細な\n説明に記載されていない,とする。 イ 確かに,発明の詳細な説明中,実施例においては,間隔保持部材を有さ ない構成は挙げられておらず,かかる構\成が含まれることは明示されてはいない。 しかしながら,本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材によ る摩耗などに起因するディスク強度の問題や(【0003】),これを回避するためね じ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディ\nスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題(【0004】)を解消す るために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を\n採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連し ないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはで\nきない。 よって,審決の特許法36条6項1号に関する判断には,誤りがある。 ウ 被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多く の薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置するこ とが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を 正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。 しかしながら,被告の摘示する特表平11−506385号公報(甲2)には,\n間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離\nディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れ ないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。

◆判決本文

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平成26(行ケ)10238  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年8月5日  知的財産高等裁判所

 薬剤投与に用いる活性発泡体について、実施可能要件違反であるとした審決が取り消されました。
 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発 明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること ができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。\n特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実 施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の 技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条 4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当 業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されて\nいない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許 法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。 そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする 行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施 をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用 できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及 び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載が なくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業 者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記 の実施可能要件を満たすということができる。\n さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物 について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることが できるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することが できることを要するというべきである。 これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとお りの活性発泡体であるから,本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可 能であるというためには,本願明細書及び図面の記載並びに本願出願当時の\n技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることができ, かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるとい うべきである。
(2) 活性発泡体を作ることができるかについて
まず,当業者において,本願明細書の記載に基づいて,本願発明に係る活 性発泡体を作ることができるかどうかを検討する。 前記1によれば,
・・・・
これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種 のゴム又は合成樹脂と,各種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニ ウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造方法に従って,本 願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シ\nートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物 及び/又はゲルマニウム化合物を含有」する活性発泡体を製造することがで きるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例えば,敷きマットのよ うな,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことが できる形態とすることもできるというべきである。
(3) 活性発泡体を使用できるかについて
次に,当業者において,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に 基づいて,本願発明に係る活性発泡体を使用できるかどうかについては,活 性発泡体を前記(2)のとおりの形態とすることができる以上,当該活性発泡 体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと自体 は当然にできると考えられることから,かかる用い方にどのような技術上の 意義があるのかについて検討する。
ア 本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として,「血行を促 進し,体質改善や,癌等の病気の治癒を促進することができる活性発泡体 を提供すること」との記載がある([0007])。しかしながら,これ らの効果については「そのメカニズムは解明されていない」とあり([0 009]),その作用機序に関しても,ジルコニウム化合物及びゲルマニ ウム化合物によって活性発泡体外へ発生させた特定波長の赤外線と人体の 波長とが共振する結果,人間の自然の治癒力が増進される旨の記載はある ([0010])ものの,これも本願明細書自体が認めるとおり,推測の 域を出るものではない。
イ そして,本願明細書では,<試験1>として,被験者1名が活性発泡体 を敷いた椅子の上に30分間静止状態で座った後の血流量,血液量,血流 速度及び体圧を,活性発泡体を敷いていない椅子の上に30分間静止状態 で座った後のそれらと比較した結果を踏まえ,「本活性発泡体を使用すれ ば,血行がよくなり,体圧が下がることが分かる。」と結論付けている ([0035]ないし[0040])。 しかしながら,この試験は,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接 触させて用いる」態様で行われた試験ではあるものの,この試験において 用いられた活性発泡体がどのようなものであるのか(特に,ジルコニウム 化合物及びゲルマニウム化合物のどちらを,あるいはその両方を,どの程 度含有するのか)については,本願明細書に記載がなく定かではない。ま た,本願出願当時の当業者の技術常識に照らしても,被験者は50代の女 性1名のみであるから,その試験結果を人体一般に妥当する客観的なもの として評価することが可能であるともいい難いし,試験条件の詳細も明ら\nかではないから,この試験における血流量や体圧の計測結果から導かれる とされる「本活性発泡体を使用すれば,血行がよくなり,体圧が下がる」 との効果が,活性発泡体を使用したことによるものであるのか,それ以外 の要因に基づくものであるのかどうかについても,直ちに検証することは できない。 そうすると,<試験1>の結果のみから,活性発泡体を「人体に直接又 は間接的に接触させて用いる」ことに,人体の血行を促進することが期待 できるという技術上の意義があるというのには疑問がある。とはいえ,例 えば,<試験1>に係る諸条件の説明や,他の試験結果の存否及びその内 容次第では,本願発明に係る活性発泡体の使用に,かかる技術上の意義が あることが裏付けられたということのできる余地もあるというべきである。
ウ また,本願明細書は,<試験2>に基づき,「活性発泡体は,ガン細胞 のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する作用を促進 する。」とする([0051])。 しかしながら,<試験2>は,前立腺癌細胞を培養した培養皿を上下か ら活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したも のとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様とはおよそ 異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常識を踏まえ ても,かかる試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は間接的に接触 させて用いる」ことに,癌細胞の弱体化を期待できるという技術上の意義 があるということはできない。
エ さらに,本願明細書には,本願発明の効果や産業上の利用可能性に関し\nて,「本活性発泡体は,薬剤投与の際に,人体に直接又は間接的に接触さ せて用いれば,その薬剤の効果を上げることができる。また,大量に使え ば副作用のある薬剤であっても,本活性発泡体を併用すれば少量ですむの で,副作用を抑えることができる。」との記載がある([0024], [0061])。そして,これらの効果に関して,<試験3>に基づき, 「活性発泡体とHDACIとを同時に用いることにより,活性発泡体は, HDACIのヒト前立腺癌細胞の増殖抑制効果を促進することができる。 原理的には,この方法は全ての癌に有効な治療法と考えられる。」とする ([0059])。 しかるに,<試験3>についても,前立腺癌細胞を培養したマイクロプ レートにSB(酪酸ナトリウム)を添加し,プレートを活性発泡体で上下 から挟んだものと,活性発泡体を用いずに前立腺癌細胞を培養し,SBを 添加したものとの比較を行ったというものであり,活性発泡体を,「人体 に直接又は間接的に接触させて用いる」場合として想定されるような態様 とはおよそ異なる態様で用いているから,本願出願当時の当業者の技術常 識を踏まえても,これらの試験結果から,活性発泡体を「人体に直接又は 間接的に接触させて用いる」ことに,薬剤の効果を増強させることが期待 できるという技術上の意義があるということはできない。
(4) 審決の判断について
以上を踏まえて,審決の判断の適否を検討する。 審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識でき るような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定 の要件を満たしていないと結論付けている。 しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その 文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求 項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的な いし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡 体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性\n発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」こと に,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なく とも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術\n常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきであ る。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血 行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余 地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。 よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記\nのような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たし ていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消し を免れない。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10250  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成27年4月28日  知的財産高等裁判所

 実施可能要件を満たしていない範囲について、サポート要件違反が成立すると判断されました。
 一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから(甲9。訳文1頁),甲8及び甲10のような熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件明細書には具体的な指摘がされていない。\nまた,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている(甲13の段落【0018】)。そして,甲29の実施例5のように,約1.04倍程度の延伸が可能であるとしても,45.6ppm/°Cの熱膨張係数を3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\nさらに,4,4’−ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3〜7ppm/°Cという低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件明細書にも何ら具体的な指摘がない。\n被告は,この点について,ポリイミドフィルムについて最終的に得られる熱膨張係数は,延伸倍率に大きく影響されるほかに,延伸に際しての,溶媒含量,温度条件,延伸速度等多くの条件に影響され,またフィルムの厚さにも影響されることが甲9に記載されているから,ODA/BPDAの2成分系について,甲8のデータのみに基づいて,本件発明9の熱膨張係数の数値範囲を実現することができないと断定することはできない旨主張する。しかし,本件明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず,被告は,本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能\であることについて何ら具体的な主張立証をしない。 したがって,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても,4,4’−ODA/BPDAの2成分系フィルムについては,本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。\n
・・・・
しかし,前記2(5)のとおり,少なくともODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては,当業者が,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき,これを実施することができない。そ うすると,上記2成分系のポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によっては,当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず,サポート要件を充足しないというべきである。\n

◆判決本文

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