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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

サポート要件

令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

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令和1(行ケ)10106  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明についての無効審判の取消訴訟です。知財高裁も審決同様、無効理由無しと判断しました。無効理由としては進歩性、実施可能要件、サポート要件と全て争点とされています。\n

 原告は,本件発明1において,代入用スクリプトと自ノード変数データと が,同一のノードデータに含まれるのに対し,甲1発明ではそうではないこ とが相違点に当たるとした場合であっても,甲1発明において,直系上位ノ ードに含まれている代入用スクリプトを,直系上位ノードではなく,自ノー ドに含ませることとすることは,当業者の技術常識ないし周知技術に基づく 設計事項であるから,当業者は,相違点2及び相違点3に係る構成を容易に\n想到することができると主張する。 しかし,前記2において判示したとおり,甲1には,本件発明1の構成要\n件Fの代入用スクリプトに相当する事項自体が開示されていないから,原告 が主張するように,単に代入用スクリプトを自ノードに含むか含まないかと いう点のみが相違点となるのではない。
そして,甲1には,ノードデータに当該ノードデータに含まれる変数デー タである自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデー タに含まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行っ て,前記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプトが含まれるよう にする方法について記載も示唆もない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,当業者が,甲1発 明において,「スクリプトは「当該ノードデータに含まれる変数データであ る自ノード変数データと,当該ノードの直系上位ノードのノードデータに含 まれる変数データである上位ノード変数データを利用した演算を行って,前 記自ノード変数データの値を求める代入用スクリプト」を含む」という相違 点2に係る本件発明1の構成及び「前記代入用スクリプトの実行により,前\n記自ノード変数データの値を更新する」という相違点3に係る本件発明1の 構成を容易に想到することができたとはいえない。\n
同様に,当業者が,甲1発明において,本件発明1の発明特定事項を全て 含む本件発明14について,前記相違点2に係る本件発明14の構成及び前\n記相違点3に係る本件発明14の構成を容易に想到することができたとはい\nえない。

◆判決本文

侵害訴訟はこちらです。 1審、2審とも技術的範囲に属しないと判断しています。

◆平成31(ネ)10034

◆平成29(ワ)31706

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