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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

サポート要件

平成28(ネ)10010  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 平成28年12月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(第4部)は、サポート要件違反として無効とした原審を維持しました。
 以上のとおり,Crの濃度変動があるか否か不明であるだけではなく,さらに, その濃度変動の程度も何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲット は,当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということは できないから,Crの濃度変動の有無及びその程度を何ら特定しない球形の合金相 (B)を含む特許請求の範囲請求項2に記載された本件発明2は,発明の詳細な 説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また,このような球形 の合金相(B)を含むターゲットが,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって,本件発明2に係る請求項2の記載は,サポート要件を満たしている とはいえないから,本件発明2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべき ものと認められる。

◆判決本文

関連事件です。こちらでは、請求項4はサポート要件を満たしていると判断されています。

◆平成27(行ケ)10261

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平成28(行ケ)10042  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月30日  知的財産高等裁判所

 特36条のサポート要件に係る審決の判断は,結論において誤りはないと判断しました(知財高裁第4部)。
 3 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと 解される。
(2) 特許請求の範囲の記載
本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりである。すなわ ち,本願発明は,潤滑油基油と粘度指数向上剤を含み,「100℃における動粘度 が4〜12mm2/sであり,粘度指数が140〜300である」潤滑油組成物であ って,当該潤滑油基油は,「尿素アダクト値が2.5質量%以下,40℃における 動粘度が18mm2/s以下,粘度指数が125以上,且つ,90%留出温度から5 %留出温度を減じた値が70℃以下である潤滑油基油成分」(本発明に係る潤滑油 基油成分)を,「基油全量基準で10質量%〜100質量%」含有することが特定 されたものである。
(3) 発明の詳細な説明の記載
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には,前記1(2)のとおり,本願発明は,従来 の潤滑油が,実用性能(150℃HTHS粘度)を維持しながら,さらに省燃費性\n(40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度の低減)と低温粘度特性 (CCS粘度やMRV粘度の低減)とを両立するという点で,いまだ改善の余地が あったという事情に鑑みて,省燃費性,低蒸発性と低温粘度に優れ,ポリ−α−オ レフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,1 50℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性,NOACKにおける 低蒸発性と−35℃以下における低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油 の40℃及び100℃における動粘度並びに100℃におけるHTHS粘度を低減 し,粘度指数を向上し,−35℃におけるCCS粘度,(−40℃におけるMRV 粘度)を著しく改善できる潤滑油組成物を提供することを目的とし,特許請求の範 囲の請求項1に記載の構成を採用することにより,省燃費性と低蒸発性及び低温粘\n度特性に優れており,ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や 低粘度鉱油系基油を用いずとも,150℃におけるHTHS粘度を維持しながら, 省燃費性とNOACK蒸発量及び−35℃以下における低温粘度とを両立させるこ とができ,特に潤滑油の40℃及び100℃の動粘度と100℃におけるHTHS 粘度を低減し,−35℃におけるCCS粘度,(−40℃におけるMRV粘度)を 著しく改善することができるという効果を奏するものであることが記載されている。 イ また,【0021】ないし【0026】には,「本発明に係る潤滑油基油成 分」の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から5%留出 温度を減じた値は,本願発明に係る潤滑油組成物の低温粘度特性,省燃費性,低蒸 発性,粘度−温度特性などと密接な関係があることが記載されていることから, 「本発明に係る潤滑油基油成分」と「その他の潤滑油基油成分」を混合した「潤滑 油基油」全体の尿素アダクト値,40℃動粘度,粘度指数及び90%留出温度から 5%留出温度を減じた値などの物性値も,同様に,本願発明に係る潤滑油組成物の 低温粘度特性,省燃費性,低蒸発性,粘度−温度特性などの物性と密接な関係があ ることが理解できる。
ウ 前記アによれば,本願発明の課題に関連する潤滑油組成物の物性は,150 ℃HTHS粘度,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOA CK蒸発量,−35℃CCS粘度,−40℃におけるMRV粘度及び粘度指数であ るところ,本願明細書には,150℃HTHS粘度が2.55〜2.65の範囲内 となるように調製した実施例1ないし6及び比較例1ないし3の各潤滑油組成物に ついて,40℃動粘度(mm2/s),100℃動粘度(mm2/s),粘度指数, 100℃HTHS粘度(mPa・s),150℃HTHS粘度(mPa・s),N OACK蒸発量(1h,250℃),−35℃CCS粘度(mPa・s),−40 ℃MRV粘度(mPa・s)を測定した結果が示されている(【0117】,【表\n3】)。 そして,【0122】には,実施例1ないし6は,比較例1ないし3に比べて, 40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度及びCCS粘度が低く,低 温粘度及び粘度温度特性が良好であったこと,実施例1ないし6の上記評価結果に 基づき,本願発明の潤滑油組成物が,省燃費性と低温粘度に優れ,ポリ−α−オレ フィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも,15 0℃における高温高せん断粘度を維持しながら,省燃費性と−35℃以下における 低温粘度とを両立させることができ,特に潤滑油の40℃及び100℃における動 粘度を低減し,粘度指数を向上し,−35℃におけるCCS粘度を著しく改善でき る潤滑油組成物であることが分かることが記載されているから,上記記載から,実 施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるものであるのに対し,比較例1な いし3は,本願発明の課題を解決できないものであることが理解できる。 エ また,実施例と比較例は全て,潤滑油としての実用性能を表\す150℃HT HS粘度が「2.60〜2.61」となるように調製されたものである(【011 7】,【表3】)。そこで,実施例1〜6と比較例1〜3において,150℃HT\nHS粘度以外の物性値をみると,1)本願明細書には,潤滑油組成物のNOACK蒸 発量は,好ましくは8質量%以上,さらに好ましくは18質量%以上であり,好ま しくは30質量%以下,特に好ましくは22質量%以下であり,18〜20質量% とすることで,蒸発損失の防止と低温特性,さらには省燃費性能をバランスよく達\n成することができることが記載されているところ(【0114】),NOACK蒸 発量は,実施例1ないし6では「10.8〜19.4」の範囲に,比較例1ないし 3では「12.2〜14.0」の範囲にあり,2)本願明細書には,潤滑油組成物の 100℃動粘度は,4〜12mm2/sであることが必要であり,特に好ましくは, 6mm2/s以上,8mm2/s以下であることが記載されているところ(【010 6】),100℃動粘度は,実施例1ないし6では「7.2〜9.0」の範囲に, 比較例1ないし3では「8.6〜8.9」の範囲にあって,これらの物性値におい て,両者の数値範囲は重なることが分かる。 他方,3)本願明細書には,潤滑油組成物の40℃動粘度は,4〜50mm2/sで あることが好ましく,特に好ましくは25mm2/s以上,30mm2/s以下であ ることが記載されているところ(【0109】),40℃動粘度は,実施例1ない し6では「25.6〜37.3」の範囲に,比較例1ないし3では「38.9〜4 0.4」の範囲にあり,4)本願明細書には,潤滑油組成物の粘度指数は,140〜 300の範囲であることが必要であり,最も好ましくは250〜300であること が記載されているところ(【0107】),粘度指数は,実施例1ないし6では 「224〜269」の範囲に,比較例1ないし3では「209〜211」の範囲に あり,5)本願明細書には,潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は,6. 0mPa・s以下であることが好ましく,最も好ましくは4.5mPa・s以下で あり,3.0mPa・s以上であることが好ましく,最も好ましくは4.2mPa ・s以上であることが記載されているところ(【0110】),100℃HTHS 粘度は,実施例1ないし6では「4.29〜5.26」の範囲に,比較例1ないし 3では「5.35〜5.49」の範囲にあり,6)本願明細書には,−35℃CCS 粘度に関し,「例えば,本発明の潤滑油組成物によれば,−35℃におけるCCS 粘度を4500mPa・s以下とすることができる。」と記載されているところ (【0115】),−35℃CCS粘度は,実施例1ないし6では「1800〜4 000」の範囲に,比較例1ないし3では「4850〜7700」の範囲にあり, 7)本願明細書には,−40℃MRV粘度に関し,「本発明の潤滑油組成物によれば, −40℃におけるMRV粘度を10000mPa・s以下とすることができる。」 と記載されているところ(【0115】),実施例1ないし6では「3700〜9 300」の範囲に,比較例1ないし3では「12500〜28000」の範囲にあ り,これらの物性値において,実施例1ないし6の数値の方が,比較例1ないし3 の数値よりも優れていることが分かる。 そうすると,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決でき るものであるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないもの であるところ,本願発明の課題を解決することができるというためには,150℃ HTHS粘度が2.60〜2.61程度となるように潤滑油組成物を調製した場合 に,40℃動粘度,100℃動粘度,100℃HTHS粘度,NOACK蒸発量, −35℃CCS粘度,(−40℃におけるMRV粘度)及び粘度指数の数値を総合 的に検討した結果,比較例1ないし3で代表される従来の技術水準を超えて,実施\n例1ないし6と同程度に優れたものとなることが必要であることを理解できる。 オ さらに,【表3】をみると,実施例1ないし6及び比較例1ないし3は,い\nずれも粘度指数向上剤を含有するものであり,「100℃動粘度が4〜12mm2/ s,粘度指数が140〜300」という本願発明の発明特定事項を満たすものであ るが,前記ウのとおり,実施例1ないし6は,本願発明の課題を解決できるもので あるのに対し,比較例1ないし3は,本願発明の課題を解決できないものであると されていることから,実施例1ないし6と比較例1ないし3の各潤滑油組成物の物 性の違いは,主として,含有する「潤滑油基油」の物性の違いによるものであるこ とが理解できる。 そして,【表1】ないし【表\3】によれば,本願発明の特許請求の範囲に含まれ る実施例1ないし5の「潤滑油基油」は,「本発明に係る潤滑油基油成分」である 基油1又は2を100質量%含有する潤滑油基油(実施例1,2,4),あるいは, 基油1又は2を70質量%と比較例2,3で用いた基油4を30質量%含有する潤 滑油基油(実施例3,5)であることから,「潤滑油基油」が「本発明に係る潤滑 油基油成分」を70〜100重量%含むものについて,「本発明に係る潤滑油基油 成分」と同じかそれに近い物性を有し,本願発明の課題を解決できることを理解す ることができる。
(4) 本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
前記(3)によれば,本願明細書の記載に接した当業者は,「本発明に係る潤滑油基 油成分」を70質量%〜100質量%程度多量に含む,「本発明に係る潤滑油基油 成分」と同じかそれに近い物性の「潤滑油基油」を使用し,粘度指数向上剤を添加 して,100℃における動粘度を4〜12mm2/sとし,粘度指数を140〜30 0とした潤滑油組成物は,本願発明の課題を解決できるものと認識できる。 他方,本願発明は,「本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分として は,特に制限されない」ものであるところ(【0051】),一般に,複数の潤滑 油基油成分を混合して潤滑油基油とする場合,少量の潤滑油基油成分の物性から, 潤滑油基油全体の物性を予測することは困難であるという技術常識に照らすと,本\n願明細書の【0050】や【0054】の記載から,直ちに当業者において,「本 発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲 に記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数値範囲の下限 値により近いような「潤滑油基油」であっても,その含有割合が70質量%〜10 0質量%程度と多い「潤滑油基油」と,本願発明の課題との関連において同等な物 性を有すると認識することができるということはできない。しかるに,本願明細書 には,この点について,合理的な説明は何ら記載されていない。 (5) 本願発明のサポート要件適合性
本願発明は,前記(2)のとおり,「本発明に係る潤滑油基油成分」を,「基油全量 基準で10質量%〜100質量%」含有することが特定されたものであるが,前記 (4)のとおり,当業者において,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,「本発 明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に 記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数値範囲の下限値 により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できると認識 するということはできない。 また,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特 許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%〜100質量%」という数 値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解 決できることを示す,本願の出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠はな い。 したがって,本願発明の特許請求の範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明の記 載により,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものという ことはできず,サポート要件を充足しないといわざるを得ない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成28(行ケ)10043

◆平成28(行ケ)10057

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平成28(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月28日  知的財産高等裁判所(2部)

 無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
 前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バ\nンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき, 【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に依存す\n る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでな\nく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技\n量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化\nもするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して, 3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化 された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示\n的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功\nする作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明 の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリ\nンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キッ\nトは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張\n可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単な\nやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテム\nを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。 これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独 自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸\n及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技\n量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功\n裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように 構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムを\nブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア) 〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技 量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造と\nしたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1 4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【001\n9】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82 を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造\nとしたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及\nびベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望まし\nい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対 象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6 6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構\n造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが (ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のもので\nあると理解できる。 そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の 「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/ ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側 の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ, 前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持 するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列 に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」 の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認め\nられる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量 に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を 簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。 したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正 発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより, 無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技 量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発 明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範 囲を実質的に変更するものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自 に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人 の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\\なア イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容 易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」こと\nのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て\n技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料\nを含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\\築することは個人の技量と才能に\n依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ リエーションについて記載されているものではない。 そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび 向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張\n的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることに\nより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事 項であるとは認められない。

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平成27(行ケ)10226  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月24日  知的財産高等裁判所

 発明未完成、明確性違反、実施可能性違反として拒絶された出願について、審決取消訴訟が提起されました。知財高裁(第1部)は、実施可能要件違反として審決を維持しました。
 ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ\nろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明 細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか\nらすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における 比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的 なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004−2514985)公報(乙 2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝 固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお\nり,しかも,上記近赤外線(780nm〜2500nm)は,本願発明にいう入射光の 範囲(360nm〜3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過 しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が 本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。\nそうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実 験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる ことまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男 性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋 基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消 失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及\nび弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治 療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光 が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ\nて,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消 失したものであることまでを立証するものとはいえない。 したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願 明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載\nたものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究 室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告 の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな 期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少 ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても, 例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠 く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4 人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい る」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴 り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報 告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を 行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって, 原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。 (5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に 明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張\nする取消事由3(特許法36条4項15)〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は\n理由がない。

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平成26(行ケ)10155  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年10月19日  知的財産高等裁判所(第2部)

 サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。裁判所は原告のした実験については言及しませんでした。
 上記の実施例と比較例によれば,食塩濃度9.0w/w%の場合には,窒素濃度 が本件発明1の範囲に含まれる1.94〜2.15w/v%の範囲であれば,本件 発明1の範囲から外れるものに比べて,塩味が向上すること,また,苦みはカリウ ム濃度が上限の3.7w/w%であっても苦み3に抑えられることが理解できる。 しかしながら,本件発明1の窒素濃度の範囲内で,窒素濃度がより高くなると, 塩味が強くなる,苦みが抑えられるという傾向があるとは認められない。 また,窒素/カリウムの重量比のみが本件発明1の範囲から外れる例は記載され ていないから,窒素/カリウムの重量比が官能評価に与える影響を,直ちに理解す\nることはできない。
・・・
e 以上によれば,本件発明1に関し,本件明細書の実施例・比較例か ら,課題を解決できることが認識できることが直接示されているのは,食塩濃度が 9.0w/w%の場合のみである。
・・・
以上によれば,本件発明1のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油 について,本件出願日当時の技術常識及び本件明細書の記載から,本件発明1の課 題が解決できることを当業者は認識することはできず,サポート要件を満たしてい るとはいえない。
・・・
ア 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に「本発明の減塩醤油類の食塩 濃度は・・・7〜9w/w%であることが好ましく」(【0009】)と記載され,具 体的には,実施例において,数値範囲を満たす減塩醤油が,塩味が強く感じられ, 味が良好であって苦みも低減されることが記載されているから,サポート要件違反 はない旨主張する。 しかしながら,本件発明のうち,当該発明の課題を解決できることを具体的に示 しているのは,上記(1)エのとおり,食塩濃度が9w/w%の場合のみである。食塩 濃度が7w/w%まで低下した場合の塩味や苦みを推認するための技術的な根拠が, 本件明細書に記載されておらず,また,どの程度になるかということについての技 術常識もない以上,【0009】の「7〜9w/w%であることが好ましく」という 一般的な記載のみをもって,食塩濃度の全範囲において発明の課題を解決できるこ とについての技術的な裏付けある記載があると認めることはできない。

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平成25(ワ)3167等  特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年8月31日  東京地方裁判所

公知技術と同一であるので新規性なし、さらにサポート要件違反もあるとして、被侵害と判断されました。訂正の再抗弁も否定されました。
 これを本件についてみると,原告の主張によれば,本件発明の構成要件C\n及びDの「上部,下部,左(右)側部」とは「上部,下部又は左(右)側 部」を意味するのであり,左右側面部の裏面において一過性の粘着剤が塗布 される位置を,当該分離して使用するものの上部,下部又は左(右)側部の 内側のいずれか及び上部,下部又は左(右)側部の外側に該当する部分のい ずれかであればよいというのである。 これに対し,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄には,一過性の粘着剤 を塗布する部分の具体例として,分離して使用するもの4と中央面部1の上 部境界,下部境界,左側部(右側部)境界の各境界の内側近傍と外側近傍に 接着剤を塗布したものしか記載されていない。そのため,特許請求の範囲に 記載された発明は,発明の詳細な説明及び図面に記載されたものより広い。 しかるに,このように,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄を超えて, 一過性の粘着剤が塗布される位置を原告の上記主張のとおりでよいとすると, このうちどの部分に粘着剤を塗布すれば「葉書,チケット,クーポン券等の 分離して使用するものを広告等の印刷物より切り取る必要がなく,かつその 周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いていて 紛失させることなく,しかも手間がかからず葉書,チケット,クーポン券等 の分離して使用するものを利用することが出来る印刷物を提供すること」 (本件明細書等の段落【0006】)という本件発明の課題を解決すること ができ,また「印刷物に付いている葉書,チケット,クーポン券等を切り取 ろうとする意思を持たずに,印刷物を開くと自動的に手にすることにな る。」(同段落【0012】)の作用効果を奏することになるのか,必ずし も明らかとはいえない(乙B11及び乙B12も参照)。 したがって,当業者において,本件発明の課題解決手段や,発明を理解す るための技術的事項が,発明の詳細な説明に記載されているものとはいい難 い。
(3) 以上によれば,本件発明は特許法36条6項1号に規定するサポート要件 を充たしていないから,本件特許は同法123条1項4号により特許無効審 判により無効にされるべきものである。
・・・・
以上によれば,乙B1文献には引用発明1'が記載されており,このうち 「情報記録体」の具体例として「レスポンス用葉書」が記載されているに等 しく,引用発明1'は本件訂正発明の構成要件A\ないしI\の全てを備えて\nいるから,引用発明1’は本件訂正発明と同一である。なお,この点に関し て原告は,引用発明1'と本件訂正発明はさらに相違点があると主張するが (相違点1−1及び1−2),前記2(4)の争点(3)ア(無効理由1)におい て説示したところに照らし,いずれも採用することができない。 そうすると,本件訂正発明は引用発明1'と同一であって,なお新規性を 欠くものであるから,本件訂正に係る原告の再抗弁は,前記(1)で説示した 3)の要件を充たしていないというほかない。

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平成27(行ケ)10245  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年8月24日  知的財産高等裁判所

 新規事項違反なし、サポート要件違反なしとした審決が取り消されました。
 当初明細書等の記載には,前記1(1)のとおり,便器と便座との間隙を形成する手 段としては便座昇降装置が記載されているが,他の手段は,何の記載も示唆もない。 すなわち,補正前発明は,便器と便座との間隙を形成する手段として,便座昇降 装置のみをその技術的要素として特定するものである。 そうすると,便座と便器との間に間隙を設けるための手段として便座昇降装置以 外の手段を導入することは,新たな技術的事項を追加することにほかならず,しか も,上記のとおり,その手段は当初明細書等には記載されていないのであるから, 本件補正は,新規事項を追加するものと認められる。
(3) 被告の主張について
1) 被告は,当初明細書等に接した当業者にとって,便器と便座との間に拭き取 りアームを移動させるための間隙さえ形成されていればよく,その手段が当初明細 書等に例示されたもの限られないということは,自明の事項であると主張する。 しかしながら,便器と便座との間の間隙を形成する手段が自明な事項というには, その手段が明細書に記載されているに等しいと認められるものでなければならず, 単に,他にも手段があり得るという程度では足りない。上記のとおり,当初明細書 等には,便座昇降装置以外の手段については何らの記載も示唆もないのであり,他 の手段が,当業者であれば一義的に導けるほど明らかであるとする根拠も見当たら ない。
2) また,被告は,公開特許公報には,便座昇降装置以外の手段で便器と便座と の間に間隙を設ける技術が開示されているから,当初明細書等に便座昇降装置以外 の手段で便器と便座との間に間隙を設けることは,当初明細書等に実質的に記載さ れていると主張する。 しかしながら,上記の自明な事項の解釈からいって,他に公知技術があるからと いって当該公知技術が明細書に実質的に記載されていることになるものでないこと は,明らかである。のみならず,上記公報に記載された技術は,容器6と座部3と の間に介護者が手を入れられる隙間を設けることを開示しているだけであり,便器 と便座との間に機械的な拭き取りアームが通過する間隙を設けることとは,全く技 術的意義を異にしている。
3) 被告の上記各主張は,いずれも採用することはできない。
・・・
3 取消事由2(サポート要件充足の有無に対する判断の誤り)について
上記2に説示のとおり,当初明細書等には,便座昇降装置により便座が上昇され た際に生じる便器と便座との間の間隙以外の間隙を設ける手段の記載はないところ, 本件発明に係る本件補正後の明細書及び図面(以下「本件明細書」という。甲4。) は,当初明細書等の発明の詳細な説明及び図面と同旨であり,本件明細書にも,便 座昇降装置により便座が上昇された際に生じる便器と便座との間の間隙以外の間隙 を設ける手段の記載はない。そして,本件発明15のような機械式拭き取り装置の 設置を前提として,便器と便座との間の間隙をどのように形成するかに関して何ら かの技術常識があるとは認められない。 そうすると,便器と便座との間の間隙を形成するに際して,便座昇降装置を用い るものに限定されない本件発明15は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載した ものではなく,サポート要件を充足しないものである。したがって,本件発明15 の発明特定事項を全て含む本件発明23,本件発明25ないし本件発明29,及び 本件発明30(15)もまた,サポート要件を充足しないものである。 以上から,審決のサポート要件充足の有無に対する判断には,誤りがある。

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平成27(行ケ)10052  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月31日  知的財産高等裁判所

 医薬品の効果について、客観的な裏付けとなる記載を伴わない場合には、36条違反の拒絶理由が存在すると判断されました。
 一般に本願発明のような医薬用途発明においては,一定の予防又は治療すべき状\n態に対して,特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで,その作用効果に ついて何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず,そのような技術常識もない場合に は,当業者において,実際に有用性を有するか,すなわち,課題を解決できるかど うかを予測することは困難である。\nそうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R−A−Xの化合物が, 「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」と\nいう医薬用途において使用できること,すなわちヒト又は動物の生体内におけるB 型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを当業者が理解できるように記載され ているとはいえない。 したがって,本願発明は,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により 当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,特許法 36条6項1号の規定を満たさない。
(4) 特許法36条4項1号(実施可能要件)について
発明の詳細な説明の記載は,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の 属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載したものであること」を要する(特許法36条4項1号)。\n前記(3)で判示したところによれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R− A−Xの化合物を「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療す\nるための医薬」として使用できることが,当業者が理解できるように記載されてい るとはいえない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をする ことができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(5) 原告の主張について
ア 審決の判断手法の誤りについて
原告は,審決が,審判請求書添付の試験結果及び基礎出願の試験結果について, これらの各試験結果の記載が,本願の出願当初の明細書等の開示範囲を超えたもの であるか,又は本願発明の効果の範囲内での補充にすぎないものであるかの判断を 行うべきであり,当該判断を怠って,実施可能要件及びサポート要件に規定する要\n件を満たさないと判断した審決には,判断手法に誤りがあると主張する。 しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のため に,出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとして も,前記(3)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R−A−Xの化合 物を,B型肝炎ウィルスの感染を予防又は治療するために用いるという用途が記載\nされているのみで,当該用途における化合物の有用性について客観的な裏付けとな る記載が全くないのであり,このような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結 果や基礎出願の試験結果を考慮することは,前記(3)アで述べた特許制度の趣旨か ら許されないというべきである。 そうすると,原告が,審判手続において,審判請求書添付の試験結果及び基礎出 願の試験結果を参酌すべき旨を主張していたことからすれば(甲11,13),審 決において,同主張を明示的に排斥することが相当であったとはいえるとしても, 出願後に提出された薬理試験結果である審判請求書添付の試験結果や,基礎出願の 試験結果は,本願明細書に記載された本願発明の効果の範囲内で試験結果を補充す るものということはできないから(その上,後記イのとおり,これらの試験結果を 考慮したとしても,式R−A−Xの化合物のB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治\n療に対する有用性を裏付けるものとは認められない。),これらの資料を考慮しな いで,サポート要件及び実施可能要件を満たさないとの判断をした審決の判断手法\nが違法であるということはできない。また,その点が審決の判断を左右するものと は認められないから,審決の取消事由には当たらない。 なお,原告は,本願明細書の記載は,本願の出願人による実証に基づいて導き出 されたものである旨をも主張している。しかし,仮にそうであったとしても,その ことは上記判断を左右するものではないし,そもそも,後記イのとおり,本訴にお いても,本願発明の「式R−A−X」に当たる化合物のB型肝炎ウィルスの感染の 予防又は治療に対する有用性を裏付ける客観的資料は何ら提出されていないことか\nらすれば,同主張を認めることはできない。

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平成25(ワ)3357  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 平成27年12月25日  東京地方裁判所

 サポート要件違反の無効理由ありとして、特許権侵害が否定されました。訂正による解消も認められませんでした。
 特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。\n(2) これを本件についてみると,本件明細書等においては,「ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は,このようなターゲットを提供する。すなわち,このようなターゲットでは,球形の合金相(B)は,中心部と外周部にかけて顕著な不均一性を有している。・・・球形の合金相(B)の存在は,本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり,本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている。」(段落【0015】),「球形の合金相(B)の存在による漏洩磁束を高めるメカニズムは,必ずしも明確ではないが,・・・球形の合金相(B)には,少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し,このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在すると考えられる。」(段落【0016】),「第二に,球形の合金相(B)中のCr濃度の高い領域は,析出物として磁壁の移動を妨げていると考えられる。その結果,ターゲットの透磁率が低くなり漏洩磁束が増す。・・・Cr濃度の高い領域の存在が漏洩磁束に影響を与えている可能\性が考えられる。」(段落【0017】),「合金相(B)が球形であると,・・・周囲の金属粉(Co粉,Pt粉など)との拡散が進みにくく,組成不均一な相(B),すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる。」(段落【0018】)と記載され,少なくとも「球形の合金相(B)」中のCr濃度の高い領域の存在が漏洩磁束を高める効果に影響を与えていることが記載されていること,実施例においても,第1の実施例につき,「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高く(白っぽく)なっている。EPMAの測定結果から球形の合金相では,Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された。一方,同図において,球形の合金相の領域では,SiとOについては黒くなっており,この合金相中に殆ど存在していないことが分かる。」(段落【0035】。第2,第3の実施例に関する段落【0043】及び【0051】の記載も同旨〔前記1(1)ウにおける摘記は省略〕)と,第4の実施例につき,「球形の合金相の部分において CoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高くなっていることが確認された。」(段落【0059】。第5ないし第9の実施例に関する段落【0067】,【0075】,【0083】,【0091】及び【0099】の記載も同旨〔前記1(1)ウにおける摘記は省略〕)としており,いずれの実施例においても,上記「球形の合金相(B)」の部分においてCoとCrの濃度が高くなり,Crは周辺部から中心部に向かってより濃度が高くなっているとの態様でしか,漏洩磁束を高める作用効果を奏することが記載されていないことからすれば,当業者において,前記1(2)記載の本件各発明の課題解決手段や,発明を理解するための技術的事項が,発明の詳細な説明に記載されているものとは言い難い。 したがって,本件特許には,サポート要件(特許法36条6項1号)違反の無効理由があるものと認めるのが相当である。
・・・
また,原告は,本件訂正によりサポート要件違反の無効理由が解消する旨も主張する。 しかし,前記6で検討したところから明らかなとおり,本件各訂正発明は,いずれもサポート要件違反の無効理由を解消するものとは認められない。 すなわち,原告は,本件明細書等には「相(A)」の中に「球形の合金相(B)」を含有させることにより,Crの濃度の高い領域と低い領域を作り出すことで,均一な組織と比べて,漏洩磁束を高めることが記載されていると主張するところ,なるほど本件明細書等の段落【0015】ないし【0017】には,漏洩磁束を高めるメカニズムに関する記載はあるものの,本件訂正に係るCr,Coの濃度分布に濃淡があるだけで,スパッタリングターゲットにおいて漏洩磁束を高める理由として記載された,「格子歪み」(段落【0016】)を生じさせ,「磁壁の移動を妨げ・・・母相である強磁性相内の磁気的相互作用を遮断する」(段落【0017】)ことができるものとは認め難く,前記のとおり,本件明細書等の実施例においては,一定の態様でしか効果を奏することが示されていないから,本件各訂正発明においても,依然としてサポート要件違反の無効理由が存するというべきである。

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