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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

サポート要件

◆平成19(行ケ)10367 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月16日 知的財産高等裁判所

 請求項1についてサポート要件違反の無効については、無効であるとした審決を維持し、請求項2−5に対する進歩性違反の無効については、引用例の認定誤りを理由に、取消しました。
  「以上によれば,詳細な説明は,本件特許発明1において,光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し,コーティングした後,乾燥させ,固化させる温度を「80℃以下」と規定していることと,これにより得られる効果との関係の技術的意義について,具体例を欠くものであり,また,具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に記載されているということもできない。したがって,本件特許発明1は,詳細な説明に記載されたものであるということができないものというべきである。・・・
 被告の主張(その1)は,要するに,甲1公報の「・・・過酸化水素水・・・を添加し,80℃で1時間加熱することにより,透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た」(段落【0052】)との記載において,「アモルファス型過酸化チタンゾル」は「加熱前のペルオキソ\ポリチタン酸」と同義であるから,原告らは本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」と対比すべき対象を誤っているというものである。しかし,甲1公報の「・・・過酸化水素水・・・を添加し,80℃で1時間加熱することにより,・・・ペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。」(段落【0052】)との記載に照らし,「80℃で1時間加熱」を行う前の段階において「ペルオキソ\ポリチタン酸」が生成したことが,同公報に開示されているとは認められない。また,本件特許明細書(甲4)及び甲1公報(甲1)の記載に照らし,被膜形成のバインダーとして使用されているのは,本件特許発明1では「アモルファス型過酸化チタンゾル」,甲第1発明では「ペルオキソポリチタン酸液」であることが認められるから,本件特許発明1と甲第1発明との対比においては,本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」と甲1公報の「(加熱後の)ペルオキソ\ポリチタン酸液」とを対比すべきものである。審決における相違点1の認定も,上記対応関係を前提とするものである。」

◆平成19(行ケ)10367 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年10月16日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10213 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

  クレームにおける「1〜6時間の期間に亘り熱処理」との記載がサポート要件違反(36条6項1号)であるとした拒絶審決が取り消されました
  「そして,上記のような当業者の技術常識を踏まえると,本願明細書には熱処理の時間を具体的に限定する必要がない発明が開示されているということができるのであり,本願発明2において熱処理の時間を「1〜6時間」と限定したのは,本来,具体的に限定する必要がない熱処理の時間について,一般的に採用されるであろうと考えられる範囲に限定して特許を受けようとしたものと解するべきであるし,前記の公知技術の状況からすると,当業者においてもそのような技術的意義を有するものとして理解するであろうと推認されるから,本願明細書の実施例において熱処理の時間が記載されていないことを理由として,本願発明2がサポート要件を満たさないとすることはできない。」

◆平成19(行ケ)10213 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成20(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

  サポート要検討を満たしていないとして無効とした審決について、「ゼリー」の用語を詳細な説明を参酌して解釈して、無効とはいえないと判断しました。
 「ところで,明細書で用いる技術用語は,学術用語を用いるべきもの(特許法施行規則24条には「願書に添附すべき明細書は,様式第29により作成しなければならない。」とされ,その様式第29の備考〔7〕には,「技術用語は,学術用語を用いる。」とされている)であるから,学術用語どおりに解釈すべきである。しかし,上記甲2の記載のみが学術用語としての定義であると断定することはできないのみならず,「ゼリー」に関しては一般の用語法の影響を受けてか,上記甲2の定義とは異なる言葉の用い方が本件特許出願前から一般的になされているところからすれば,本件の場合においては上記甲2(化学大辞典)に記載された意味のみから特許請求の範囲の記載を解釈するのは適切とはいえず,本件発明1にいう「ゼリー」が「流動性を失ったかたまり状の弾性体」をいうのか「粘液状」のものをいうのかについては,特許請求の範囲の記載のみからはその意味が一義的に明確に理解することができないというべきである。そうすると,本件発明1の「ゼリー」の意味については,本件明細書(甲74)の発明の詳細な説明の記載をも参酌してその意味を判断する必要があると解される(最判平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。・・・以上の検討によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1の「ゼリー」とは,「流動性を失い,弾性的な固まりとなった状態」をいうのではなく,粘性を有し流動性を失っていない物質,すなわち「粘液」と解するのが相当である。」

◆平成20(行ケ)10066 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月29日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10401 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月10日 知的財産高等裁判所

  サポート要件違反を理由として無効とした審決が維持されました。裁判所は、パラメータ発明に関する大合議判決◆平成17年(行ケ)第10042号を引用し、サポート要件を具備していることは出願人側に立証責任があると述べました。

  「そうすると,本件発明1がサポート要件を満たすというためには,本件発明1の物品の溶剤清浄化方法による清浄化機能が従来の溶剤であるフロンを使用したものとおおむね同等か,それ以上のものであること,及び,アルミニウム存在下において安定していることが,発明の詳細な説明に記載されている必要があるというべきである(なお,原告は「フロン代替物としてのオゾン層破壊防止効果」が本件発明の効果であるかのように主張するが,上記に説示したところに照らし,採用することはできない。)。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載されている例1〜11のうち,例1〜9は,上記(4)のエのとおり,使用されているフッ素化エーテルが本件発明1のフッ素化エーテルの構成を備えていないものであり,また,例10,11は,これに使用されているフッ素化エーテルが本件発明1のフッ素化エーテルの構\成を備えているものであるとしても,上記(4)のカのとおり,清浄化試験及びアルミニウム存在下における安定性試験の結果がいずれも記載されていないのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1の実施例に相当する例の記載を欠いたものといわざるを得ない。そして,本件明細書の他の記載において,本件発明1が上記の作用効果を奏することについて具体的に触れた部分はない。この点に関して,原告は,例10及び11に先立って記載されている例1〜4(塩素原子を含むフッ素化エーテル)や例5〜9(低沸点のフッ素化エーテル)には,「具体的に回路板から融剤残渣を清浄化し,イオン系融剤残渣の除去割合を測定した例が記載されて」おり,例10及び11はいずれも,これら例1〜9に具体的に記載されているものと同様の効果(回路板からの融剤残渣の清浄化,イオン系融剤残渣の除去割合)が得られる「特定の低沸点のフッ素化エーテルに該当する化合物」の代表的な例としての「テトラフルオロエチルエチルエーテル」を記載したものであると主張するが,本件明細書中に原告主張のように理解する根拠となるような記載は認められず,そうであれば,当業者が明細書の記載を理解する上において,本件発明1のフッ素化エーテルの構\成を備えていないフッ素化エーテルを使用した場合の作用効果についての記載が,本件発明1のフッ素化エーテルの構成を備えたフッ素化エーテルを使用した場合についても当然に及ぶものと認識するようなことは,期待すべくもないといわざるを得ない。このことは,異議時訂正の経過を参酌してもなお同様である。したがって,原告の主張を採用することはできず,本件発明1に係る物品清浄化方法は,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,その課題を解決することができると認識できる範囲に含まれているということはできないというべきであり,本件発明1がサポート要件を満たしているということはできない。(6) 本件発明2〜9は本件発明1を直接又は間接に引用するものであり,本件発明1に係る溶剤組成物を必須の構成要件とするものであるから,本件発明1と同様の理由により,サポート要件を満たしているということはできない。」

◆平成19(行ケ)10401 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月10日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10307 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月08日 知的財産高等裁判所

  「Cu 0.3〜0.7重量%,Ni 0.04〜0.1重量%,残部Snからなる,金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上したことを特徴とする無鉛はんだ合金。」という請求項が記載要件を満たしているのかが争われました。裁判所は、無効とはいえないとした審決を取り消しました。
 「特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号が規定するいわゆるサポート要件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
・・・・・
甲9実験報告書には,上記a(a)iiのとおり,・・・記載がある。しかしながら,B甲9実験報告書は,本件出願の日(平成11年3月15日)から7年以上が経過した平成18年6月6日付けで作成されたものであり,しかも,上記aの各記載によれば,上記見解は,「同月の時点で最もその分野に明るく,その能力を有するB」が,「同月当時に存在した学術データを基に,当時の知見から考え得るすべてのメカニズムを検討して得た」,「最大限でき得る限りの」,「先見性」を有する「私見」ないし「個人的見解」であり,しかも,上記見解は,「議論」であり,「まだよく分かっていないので,これから調べる必要がある」,「今後の学術研究によりさらに詳しく解明されることが期待される」などというものにすぎず,・・・、甲9実験報告書に上記見解を示した記載があるからといって,本件出願当時ないしは本件出願に係る優先日(平成10年3月26日,同年10月28日)当時,「CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるため,NiはSn−Cu金属間化合物の発生を抑制する作用をする」ことが当業者の技術常識であったものとは到底認められず,その他,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
イ 上記アにおいて検討したところによれば,本件「発明の詳細な説明」が,当業者において,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより,本件構成A及びBの機能\ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであり,かつ,本件出願(優先日)当時の技術常識を参酌しても,当業者において,そのように認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであるといわざるを得ない。したがって,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認めることはできない。」

◆平成19(行ケ)10307 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年09月08日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10403 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明(?)について、「〜手段」の記載がサポート要件違反(36条6項1号)、不明瞭(同2号)、29−2違反が争われましたが、裁判所は、36条6項1号、2号については、審決の判断は誤りであると認定し、一部の審決を取り消しました。  
  「本件請求項1の記載のうち「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言の解釈につき当事者間に争いがあるので,まずこの点について検討する。ア 本件請求項1の記載を全体として捉えると,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「所定の種類の機器が接続されると,その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の汎用周辺機器インタフェースに着脱されるものであって,前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に「前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し,前記所定の種類の機器である旨の信号を返信」するなどして,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」を備えるものである。したがって,「自動起動スクリプト」は,「所定の種類の機器」を用いる場合にはその機器に記憶され,コンピュータによって起動されるものであり,同様に,本件請求項1の「着脱式デバイス」を用いる場合には,着脱式デバイスに記憶され,コンピュータによって起動されるものである。そして,本件請求項1の「着脱式デバイス」は,「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能\な記憶装置を備え」るものであり,「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する」と記載されていることに照らせば,「自動起動スクリプト」は着脱式デバイスの主な記憶装置であるROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されるものである。イ ところで,一般に「手段」とは,「目的を達するための具体的なやり方」を意味するものである(広辞苑第6版)ところ,本件請求項1における「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」との記載が,「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」,「前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能\な記憶装置へのアクセスを受ける手段」とともに併記されたものであることからすれば,上記「記憶する手段」が,「ROM又は読み書き可能な記憶装置に前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するのか,それとも本件特許発明1全体の目的を達するための構\成要素の一つを意味するのか,いずれに解することも可能であって,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合に当たる。ウそこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解釈につき検討する(なお,被告は,特許法36条6項1号該当性の判断をするに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌すべきではないと主張するが,最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決〔民集45巻3号123頁〕も判示するように,特許を受けようとする発明の要旨を認定するのに特許請求の範囲の記載のみではその技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合には,発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されると解する。・・・以上の記載によれば,本件特許発明1は,USBメモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に,煩雑な手動操作を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させることを課題とするものであり,かかる課題の解決手段として,自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し,コンピュータからの問い合わせに対してCD−ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによって,コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを起動させるという構\成を備えたものであることが認められる。そして,かかる解決手段を実現するためには,自動起動スクリプトは,着脱式デバイスがコンピュータに接続されたときにコンピュータから読み出すことが可能な状態でデバイスの記憶装置内に記憶されていることが必要であり,かつ,それで足りる。そうすると,ROM等の記憶装置が,その製造時に自動起動スクリプトを記憶するものであっても,上記解決手段を実現するのに何ら差し支えなく,また,ROM等の記憶装置の製造後に自動起動スクリプトを記憶させなければならないとすることは,上記解決手段の実現にとって特段の意味を有しないものである。(ウ) したがって,本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に,前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言は,「ROM又は読み書き可能\な記憶装置に自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するものと解すべきではなく,本件特許発明1の目的を達するための構成要素の一つとして「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能\な記憶装置に記憶されている状態であること」を意味するものと解釈すべきである。」

◆平成19(行ケ)10403 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年07月23日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10308 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年06月12日 知的財産高等裁判所

  サポート要件違反(36条5項)とした審決が維持されました。
  「一方,本件明細書においては,当該被覆硬質部材の皮膜につきIa値を2.3以上とすることで,発明の課題を解決し発明の目的を達成することができることが,上記実施例の記載があることを除き,見当たらない。 (3) ところで,旧36条5項は,「第3項4号の特許請求の範囲の記載は,次の 各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定している(なお,平成6年法律第116号による改正により,同号は,同一文言のまま特許法36条6項1号として規定され,現在に至っている。以下「明細書のサポート要件」という。)。・・・そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日判決参照)。以下,上記の観点に立って,本件について検討する。
 (4) 本件発明1の課題は,上記(1)及び(2)のとおり,(Ti,Al)N膜については皮膜の結晶配向性について検討されたことはなく,皮膜と基体との密着性に問題があるところ,硬質部材上にTiとTi以外の周期律表4a,5a,6a族,Alの中から選ばれる2元系,ないし3元系の炭化物,窒化物,炭窒化物を被覆させる場合において,皮膜の結晶配向性を最適にすることにより皮膜と基体との密着性を向上させて耐摩耗性,耐欠損性に優れた被覆硬質部材の提供を目的とするところにあると認められ,当該被覆硬質部材の皮膜につきIa値を2.3以上とすることが同目的を達成するために有効であることが客観的に開示される必要があるというべきである。この点,本件発明の場合,これまで知られていなかった被覆硬質部材の皮膜におけるX線回折パターンにおけるI(200)とI(111)面の強度比に着目し,その比率であるIa=I(200)/I(111)と皮膜の強度・剥離特性の間に相関があることを見い出したものであり,その結果として,Ia値が2.3以上の皮膜が良い性能\を持つとしたものであるが,何ゆえ,そのような値であると皮膜の特性が良くなるのかにつき,因果関係,メカニズムは一切記載されておらず,またそれが当業者にとって明らかなものといえるような証拠も見当たらない。また,「Ia値が2.3以上」といえば,その数値が(200)面と(111)面の比をいうだけのものであるから,上限なく高い値の比が想定でき,かつ,その比の値に制限があるとする特段の事情も存在しないことから,当該Ia値の数値としては,2.3を大きく超える高い数値をも含み得るものであって,実際にも,原告作成の実験結果報告書(乙18)によれば,Ia値が10を超える値の被覆も存在することが示されている。これに対し,本件明細書では,Ia値について,本件発明の実施例として開示されたIa値は,上記(1)オの【表1】における本発明例7ないし10の2.3から3.1までという非常に限られた範囲の4例だけであり,これらの実施例をもって,上限の定まらないIa値2.3以上の全範囲にわたって,本件発明の課題を解決し目的を達成できることを裏付けているとは到底いうことができない。・・・(6) もっとも,原告は,通常,本件発明のような場合,実施例の数としては数例が一般的であり,それらにより発明の目的,課題解決の方向が示されておれば,実施例以外の箇所ではIa値の条件を満たされていることで十分当業者が理解できると考えられると主張する。確かに,数例の実施例によってもサポート要件違反とされない事例も存在するであろうが,そのような事例は,明細書の特許請求の範囲に記載された発明によって課題解決若しくは目的達成等が可能\となる因果関係又はメカニズムが,明細書に開示されているか又は当業者にとって明らかであるなどの場合といえる。ところが,本件発明1の場合,上記のとおり,本件明細書には,何ゆえIa値が2.3以上であると皮膜の特性が良くなるのかにつき,因果関係,メカニズムは一切記載されておらず,また,それが当業者にとって明らかなものといえるような証拠も見当たらないものであるから,原告の上記主張は採用することはできない。」

◆平成19(行ケ)10308 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年06月12日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10308 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年06月12日 知的財産高等裁判所

 特許法36条の記載要件についての判断です。36条違反とした審決を維持しました。
 「そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日判決参照)。以下,上記の観点に立って,本件について検討する。(4) 本件発明1の課題は,上記(1)及び(2)のとおり,(Ti,Al)N膜については皮膜の結晶配向性について検討されたことはなく,皮膜と基体との密着性に問題があるところ,硬質部材上にTiとTi以外の周期律表4a,5a,6a族,Alの中から選ばれる2元系,ないし3元系の炭化物,窒化物,炭窒化物を被覆させる場合において,皮膜の結晶配向性を最適にすることにより皮膜と基体との密着性を向上させて耐摩耗性,耐欠損性に優れた被覆硬質部材の提供を目的とするところにあると認められ,当該被覆硬質部材の皮膜につきIa値を2.3以上とすることが同目的を達成するために有効であることが客観的に開示される必要があるというべきである。この点,本件発明の場合,これまで知られていなかった被覆硬質部材の皮膜におけるX線回折パターンにおけるI(200)とI(111)面の強度比に着目し,その比率であるIa=I(200)/I(111)と皮膜の強度・剥離特性の間に相関があることを見い出したものであり,その結果として,Ia値が2.3以上の皮膜が良い性能\を持つとしたものであるが,何ゆえ,そのような値であると皮膜の特性が良くなるのかにつき,因果関係,メカニズムは一切記載されておらず,またそれが当業者にとって明らかなものといえるような証拠も見当たらない。また,「Ia値が2.3以上」といえば,その数値が(200)面と(111)面の比をいうだけのものであるから,上限なく高い値の比が想定でき,かつ,その比の値に制限があるとする特段の事情も存在しないことから,当該Ia値の数値としては,2.3を大きく超える高い数値をも含み得るものであって,実際にも,原告作成の実験結果報告書(乙18)によれば,Ia値が10を超える値の被覆も存在することが示されている。これに対し,本件明細書では,Ia値について,本件発明の実施例として開示されたIa値は,上記(1)オの【表1】における本発明例7ないし10の2.3から3.1までという非常に限られた範囲の4例だけであり,これらの実施例をもって,上限の定まらないIa値2.3以上の全範囲にわたって,本件発明の課題を解決し目的を達成できることを裏付けているとは到底いうことができない。(5) 以上述べたところに照らせば,本件明細書に接する当業者において,本件発明1に記載される構成を採択することによって皮膜と基体との密着性を向上させて耐摩耗性,耐欠損性に優れた被覆硬質部材を提供するとの課題を解決できると認識することは,本件出願時の技術常識を参酌しても,不可能\というべきであり,本件明細書における本件発明1に関する記載が,明細書のサポート要件に適合するということはできない。そうすると,本件発明1の特許請求の範囲の記載を引用して構成される本件発明2についても,本件発明1と同様にサポート要件に適合していないと解すべきことになる。(6) もっとも,原告は,通常,本件発明のような場合,実施例の数としては数例が一般的であり,それらにより発明の目的,課題解決の方向が示されておれば,実施例以外の箇所ではIa値の条件を満たされていることで十分当業者が理解できると考えられると主張する。確かに,数例の実施例によってもサポート要件違反とされない事例も存在するであろうが,そのような事例は,明細書の特許請求の範囲に記載された発明によって課題解決若しくは目的達成等が可能\となる因果関係又はメカニズムが,明細書に開示されているか又は当業者にとって明らかであるなどの場合といえる。ところが,本件発明1の場合,上記のとおり,本件明細書には,何ゆえIa値が2.3以上であると皮膜の特性が良くなるのかにつき,因果関係,メカニズムは一切記載されておらず,また,それが当業者にとって明らかなものといえるような証拠も見当たらないものであるから,原告の上記主張は採用することはできない。」

◆平成19(行ケ)10308 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年06月12日 知的財産高等裁判所

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◆平成19(行ケ)10236 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月29日 知的財産高等裁判所

  サポート要件違反とした審決が維持されました。
  「ところで,小腸は,初部約25センチメートルを十二指腸といい,その余の部分のうちの前半5分の2が空腸で後半5分の3が回腸であるから,カプセルの小腸内の通過速度が一定だとすると,小腸通過時間の30%にあたる時間では,カプセルはまだ空腸の中にある。これは,上記のとおり絶食患者を前提とした最短の時間で通過することを仮定した場合である。この位置で,既にコーティングの崩壊後15分が経過して,カプセルも崩壊し,カプセルの内容物は既に放出されていると考えられ,これより遠位の回腸においてカプセルの内容物が放出されるとは考えられない。そうすると,原告の主張する本願明細書の実施例2においても,本願発明の「前記酸が,回腸内において放出される」ものに該当するとはいえない。ウ以上の検討によれば,実施例2は本願発明の実施例ということはできず,また本願明細書(甲4)のそのほかの部分にもこれが記載されているとはいえないから,審決が本願発明は明細書の発明の詳細な説明に記載した発明ということはできないとした認定に誤りはない。」

◆平成19(行ケ)10236 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成20年02月29日 知的財産高等裁判所

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