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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

サポート要件

平成23(行ケ)10339 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月13日 知的財産高等裁判所

 審決の認定には誤りがあるが、結論に影響しないとして、サポート要件違反でないとした審決が維持されました。
 ウ 本件明細書の上記アの記載によれば,食塩の過多な摂取は高血圧症等に悪影響を及ぼすことから,減塩醤油を始めとする減塩された液体調味料の使用が望まれているが,例えば,食塩含有量が9w/w%以下と定められている減塩醤油は食塩含有量が低いので,これを使用した場合,いわゆる塩味が十分感じられず,味がもの足りないと感じる人が多く,その使用量は増加していないという問題があったという背景技術の下,食塩含有量が低いにもかかわらず塩味のある液体調味料を提供するという目的で,食塩含有量を9質量%以下にしても塩味を感じさせる手段について検討した結果,食塩9質量%以下とし,かつカリウムを0.5〜4.2質量%とした系で,特定の風味改善成分を含有させることによって,塩味がより強く感じられ,味の良好な液体調味料が得られることを見いだし,その発明を特許出願したものであると認められる。したがって,本件特許発明1は,食塩含有量が低いにもかかわらず塩味のある減塩醤油を提供するという目的で,塩味がより強く感じられ,味の良好な液体調味料が得られるというものであるから,食塩を9質量%以下に低下させた場合であっても,通常の醤油に近い塩味を感じる減塩醤油を提供することが解決しようとする課題の1つとするものである。しかしながら,上記イで述べたように,塩化カリウムを食塩の塩味を代替する成分として使用した場合に苦味に代表\される不快な味を有することは,本件特許の出願時における当業者の技術常識であったのであるから,当業者であれば,カリウムを食塩の塩味の代替成分として使用する本件特許発明1においても,カリウムによる苦味等の不快な味を低減するという課題が存在することを認識するものと認められる。本件明細書の発明の詳細な説明に,「カリウムは塩味があり,かつ異味が少ない点から塩化カリウムであることが好ましい」(【0012】),「この結果,種々の風味改良剤の添加により,塩味が増強し,カリウムの苦味が抑制され,好ましい風味となった」(【0044】)と記載されており,また,実施例に記載の2点識別試験法では,塩味と苦味の両者について官能評価していることからも,本件特許発明1の減塩醤油では,通常の醤油に近い塩味を感じさせる点と,カリウムの配合による苦味等の不快な味を低減する点が,共に解決すべき課題であると理解できる。したがって,本件特許発明1の課題を,「少なくとも,食塩濃度が低いにもかかわらず塩味のある減塩醤油を得ること」(審決8頁19行〜20行)とした本件審決の認定は,カリウムの配合による苦味等の不快な味を低減するとの課題を看過した点に誤りがあるというべきである。\n エ しかしながら,本件特許発明1は,上記2つの課題をいずれも解決していると認められるから,この誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。その理由は,以下のとおりである。・・・
(イ) 苦味に代表される不快な味について
実施例に記載の,「醤油としての風味の好ましさ」の判断基準は,「5:……味の調和に優れている」,「4:……味の調和がとれている」,「3:……味の調和がとれている」,「2:味の調和に若干欠ける」,「1:味の調和に欠け,苦味や異味を感じる」とあるので(【0040】),苦味に代表される不快な味についても,「醤油としての風味の好ましさ」として5段階で評価を行ったと認められる。そして,この評価が3〜5の場合に,試験品は苦味に代表\される不快な味を呈さず,本件特許発明1の課題が解決されているものと評価することができる。
(ウ) 上記を前提に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載について検討する。a 本件明細書の表1・・・この結果より,食塩を8.11質量%,コハク酸をコハク酸二ナトリウム0.05質量%の遊離コハク酸換算量を含有する減塩醤油では,カリウムが0.78ないし3.91質量%の場合に,本件特許発明1の課題が解決できるものと理解できる。b 乙3の表2の試験品D〜Iは,食塩含有量が7.04質量%(表\中のナトリウム含有量の数値より換算)である対照品2)の減塩醤油に,塩化カリウムを1.63,3.56又は7.65質量%添加し(カリウム含有量は1.01,2.02,4.16質量%と変化),それぞれの場合において,コハク酸二ナトリウムを添加しないか,0.10質量%(遊離のコハク酸換算で0.07質量%)を添加したものである。その結果,減塩醤油中にコハク酸二ナトリウムを0.10質量%添加した場合に,総合評価が3又は4であったことが示されている。この結果より,食塩を7.04質量%,コハク酸をコハク酸二ナトリウム0.10質量%(遊離のコハク酸換算で0.07質量%)含有する減塩醤油では,カリウムが1.01ないし4.16質量%の場合に,本件特許発明1の課題が解決できるものと理解できる。
・・・
 上記試験品は,いずれも食塩含有量がほぼ等しく,また,カリウム含有量が等しい減塩醤油であることから,これらの総合評価の結果を総合すると,コハク酸をコハク酸二ナトリウム0.005〜1.30質量%の遊離コハク酸換算量(遊離のコハク酸換算で0.0036〜0.93質量%)の場合に,本件発明の課題が解決できるものと理解できる。d 前記aのとおり,食塩の含有量8.11質量%では,カリウムが0.78〜3.91質量%と,特許請求の範囲において特定される範囲のほぼ全域で本件発明の課題が解決でき,また,食塩の含有量が特許請求の範囲で特定される範囲の下限付近とした場合にも,乙3に示される試験結果より,コハク酸を配合することによって,本件特許発明1の課題が解決できるということができる。一方,食塩の含有量を8.11質量%よりも増加させた場合には,塩味が増加するので,塩味についての問題が生じるとは考えられず,また,カリウムの含有量は増やさないので,苦味に代表される不快な味についての問題も生じることはない。したがって,本件特許発明1の食塩及びカリウムの含有量の範囲において,その課題が解決できるものと認められる。一方,コハク酸については,前記cで述べたように,コハク酸をコハク酸二ナトリウム0.005〜1.30質量%の遊離コハク酸換算量(遊離のコハク酸換算で0.0036〜0.93質量%)の場合に,本件特許発明1の課題が解決できるということができる。ここに示された値は,下限値は本件特許発明1の範囲内であるし,上限値も本件特許発明1が限定する上限に近いことから,本件特許発明1は,コハク酸含有量の全ての範囲において,減塩醤油の塩味についての課題を解決できるものと認められる。以上に述べたとおりであるから,本件特許発明1は,その全ての範囲において,減塩醤油についての本件特許発明1が有する課題を解決できるものと認められる。\n

◆判決本文

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平成23(行ケ)10234 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年11月07日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反(36条6項1号)とした審決が取り消されました。
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(2) したがって,本件においても,サポート要件に係る判断の前提として本件発明の課題について認定する必要があり,その上で,本件発明の特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載を対比し,本件発明として特許請求の範囲に記載された発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,当該発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の当該課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の当該課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討する必要があるというべきである。
・・・
したがって,本件明細書は,本件発明に当たり,理論上,燐光を発する有機金属化合物を発光材料として発光層に使用することにより,有機発光デバイスの発光効率を改善することができるにもかかわらず,極めて多数にわたる有機金属化合物のうち当該発光材料として発光層に使用できるものが,ごく限られた特定のものしか知られていないという本件出願日当時の当時の技術水準(前記2(7))を前提としているものと認められる。 ・・・
そして,本件明細書には,本件発明の課題が必ずしも明確に記載されていないが,本件明細書は,上記技術水準を前提として,本件発明について,本件出願日当時に知られていた有機金属化合物とは異なるものを発光層に使用した有機発光デバイスに関するものとして説明しているものであるから,本件発明の課題は,「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であると認めるのが相当である。・・・
4 本件発明のサポート要件の充足について
・・・
 したがって,当業者は,以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,そこに記載の発明が電気エネルギー(電圧)を印加した場合に燐光を発するものであって,アノード,カソード及び発光層を含み,式L2MXで表される有機イリジウム錯体を発光層に含む燐光有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表\\示装置という本件発明が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと理解することができる。
(4) 以上に加えて,本件発明の課題は,前記(1)に説示のとおり,「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記(2)に説示のとおり,本件出願日前に燐光を発することが知られていなかった特定の有機イリジウム錯体が,その製造方法及び本件発明の他の構成とともに具体的に記載されているばかりか,前記(3)に説示のとおり,当該有機イリジウム錯体を有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発することが,その作用機序とともに具体的に記載されているといえる。したがって,本件発明として特許請求の範囲に記載された発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるというべきであって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号にいう「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」ということができる。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明ではBTIrという特定のイリジウム錯体の効果のみが確認されており,式L2MXで表される有機イリジウム錯体全体の効果が確認されていない旨を主張する。しかしながら,前記(3)に説示のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,BTIrを発光層に含めた有機発光デバイスに加えて,式L2MXで表される様々な有機イリジウム錯体の製造方法や,これらの有機イリジウム錯体による燐光の発光スペクトルが示されているばかりか,有機イリジウム錯体を採用することによって燐光が発生する作用機序も記載があるのであって,BTIrという特定のイリジウム錯体の効果のみを確認したものではない。よって,被告の上記主張は,これを採用できない。
イ 被告は,本件明細書には式L2MXで表される有機イリジウム錯体が発光しない場合がある旨の記載がある(【0114】)から,これと類似したものを用いれば全く発光しなくなると当業者が認識する旨を主張する。しかしながら,前記1(4)ケに記載のとおり,本件明細書の【0114】は,特定の2種類のX配位子を用いた場合に理由不明のクエンチが生じるために非常に弱い発光を与えるか,または発光を全く示さない旨を記載しているにとどまり,特定の作用機序によって全く発光しなくなる旨を記載しているわけではないから,この記載から直ちに,当業者が当該2種類のX配位子に類似したものを用いれば全く発光しなくなると認識するとまではいえない。

◆判決本文
こちらは関連事件です。

◆平成23(行ケ)10235

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平成24(行ケ)10076 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月29日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反ではないとして、拒絶審決を取り消しました。
 発明の詳細な説明には,「これらの単環ヒンダードフェノール化合物は水溶性であり,そして多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤よりも揮発性である。多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤はそのより高い分子量により,水溶性が一層低く,しかも揮発性が低い。」(段落【0008】)と記載されているが,この記載は,単環フェノールがメチレン架橋化多環フェノールよりも,より揮発性であり,より水溶性であり,油溶解性が低いという当業者の技術常識に沿った記載である。また,発明の詳細な説明には,「低揮発性成分は,潤滑剤の使用期間中に蒸発により失われないのでより効果的な酸化防止剤である。それゆえにそれら(判決注:酸化防止剤組成物のこと)は潤滑剤中に留まり,潤滑剤を…酸化の悪影響から保護する。」(段落【0022】)と記載されているところ,酸化防止作用を示す成分が揮発することによって減少すれば,組成物の酸化防止能も減少するので,組成物中の揮発性の成分の量を減らすことにより組成物の酸化防止能\が向上することも,当業者の技術常識に沿った記載である。このように,発明の詳細な説明には,非常に低レベルのOTBP,DTBP及びTTBPの単環ヒンダードフェノール化合物を含有することによって,従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも向上した油溶解性を有する組成物を得ることができ,また,低い揮発性を有し,その結果,向上した酸化安定性を有する組成物を得ることができる点が記載されているということができるから,発明の詳細な説明の記載から,本願発明の構成を採用することにより本願発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。したがって,発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているということができるから,請求項1に係る発明は発明の詳細に記載されているということができる。これとは異なるサポート要件に関する審決の判断には誤りがある。
3 被告の主張に対する個別的判断
(1) 被告は,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物は,ごく少量であるところ,もともとごく少量しか含まれていない単環化合物の量をさらに低減したからといって,従来のものと比較して,向上した油- 11 -溶解性及び低い揮発性について,有意な差異をもたらし得る程の効果を奏するとまでは認識できないし,本願発明の組成物は,潤滑剤等の組成物に添加されてその機能を発揮するものなので,組成物に添加されることにより希釈された状態では,単環化合物の含有量の減少による影響もさらに薄まると解されるなどと主張する。被告の主張は,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物(DTBP,OTBP及びTTBP)がごく少量であることを前提とするものである。しかし,発明の詳細な説明には,「従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤は,DTBPおよびOTBPの混合物をホルムアルデヒド源と,反応溶媒中で,そしてアルキル化触媒の存在下で反応させることにより調製される。・・・これら酸化防止剤の調製物中の混入物には,以下に示す単環フェノール化合物:DTBP,TTBPが含まれる。」旨の記載があり(段落【0005】【0007】),また,「OTBPおよびDTBPは,製造後の生成物中に残る多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤の出発材料である。TTBPは一般に,多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤を調製するために使用されるOTBPおよびDTBP中に混入物として見いだされる。・・・」(段落【0008】)との記載があるところ,これらの記載からすると,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤は,TTBPを不純物として含有するDTBP及びOTBPをその製造原料として使用するものなので,その調製物には一定量以上の未反応のDTBP及びOTBPや不純物のTTBPを含んでいるものと認められる。そうすると,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤が不純物として含む単環化合物(DTBP,OTBP及びTTBP)がごく少量であるとまではいえないというべきであって,従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤に不純物として含まれる単環化合物はごく少量であることを前提とする被告の主張は採用することはできない。\n
(2) 被告は,発明の詳細な説明には,向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性という課題を達成し得ることの技術的裏付けが記載されておらず,また,向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性の課題を達成し得ることが技術常識により当然に予- 12 -想できるとする技術的根拠も記載されていないと主張する。しかし,技術常識を参酌して発明の詳細な説明の記載をみた当業者が,本願発明の構成を採用することにより,向上した酸化安定性という本願発明の課題が解決できると認識できることは前記のとおりである。また,発明の詳細な説明には,生物蓄積性についての課題が解決できることを示す記載はない。しかし,発明の詳細な説明の記載から,本願発明についての複数の課題を把握することができる場合,当該発明におけるその課題の重要性を問わず,発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ,サポート要件を満たさないとするのは相当でない。\n
(3) 被告は,本件出願時の技術常識を考慮すると,010ppm のトリ-tert-ブチルフェノールの混入物を含むDTBP単量体,すなわち本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから,該DTBP単量体の具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて,本願発明の組成物を具体的に製造できるとは到底いえないとか,本願発明の組成物の具体的な製造を確認した例は記載されておらず,これらが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていないのであるから,「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明」であるということはできないと主張する。しかし,発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識からは本願発明に係る組成物を製造することはできないというのであれば,これは特許法36条4項1号(実施可能\要件)の問題として扱うべきものである。審決は,本件出願が特許法36条6項1号(サポート要件)に規定する要件を満たしていないことを根拠に拒絶の査定を維持し,請求不成立との結論を出したものであるから,被告の上記主張は,審決の判断を是認するものとしては採用することができない。なお,被告は本願発明の具体的な製造を確認した例の記載はないと主張するが,サポート要件が充足されるには,具体的な製造の確認例が発明の詳細な説明に記載されていることまでの必要はない。

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平成24(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月11日 知的財産高等裁判所

 サポート要件違反とした審決が取り消されました。
 すなわち,本願明細書には,本願発明の課題は,選ばれた新規種類の好ましい発泡剤を用いてポリウレタン硬質発泡材料を製造するための方法を記載すること等であり,特定の発泡剤,すなわち,HFC−365mfcと一定の他の発泡剤との混合物を用いてポリウレタン硬質フォームを製造するための方法により製造されたポリウレタン硬質フォームは,約15度を下回る温度において,熱伝導率が低く,熱遮断能を有するという効果を有することが判明したこと,この方法で用いる発泡剤組成物は,成分a)HFC−365mfcと成分b)低沸点の脂肪族炭化水素等とを含むものであるが,有利な組合せの一つとして,本願発明で用いる発泡剤組成物である,成分a)HFC−365mfc及び成分b)HFC−245faの組合せがあることが記載されているといえる。また,本願明細書には,本願発明で用いる発泡剤組成物を用いてポリウレタン硬質フォームを製造したことを示す実施例は記載されていないものの,成分a)HFC−365mfcと組み合わせる成分b)として,HFC−152a(例1a),HFC−32(例1b),及びHFC−152aとCO2(例1c)を用いてポリウレタン硬質フォームを製造したことが,具体的に開示されているといえる。そうすると,本願発明で用いる発泡剤の成分b)であるHFC−245faは,上記のとおり,ひとまとまりの一定の発泡剤のひとつとして記載されている上,本願明細書の実施例で使用された成分b)であるHFC−152aやHFC−32と同様に低沸点であり,技術的観点からすると化学構造及び理化学的性質が類似するといえることも併せ考慮すると,実施例1a)〜c)と同様にHFC−245faを使用することによりポリウレタン硬質フォームを製造する方法が開示されていると解するのが相当である。以上のとおり,本願発明の課題及び課題解決手段,並びに,その効果が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと認めるべきである。

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平成22(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月22日 知的財産高等裁判所 

 記載不備違反、進歩性違反なしとした審決が維持されました。裁判所が実施可能要件およびサポート要件についての一般論を述べています。
 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能\要件を満たすということができる。これを本件発明についてみると,本件発明は,いずれも物の発明であるが,その特許請求の範囲(前記第2の2)に記載のとおり,本件各化合物(ピペラジン−N−カルボジチオ酸(本件化合物1)若しくはピペラジン−N,N′−ビスカルボジチオ酸(本件化合物2)のいずれか一方若しくはこれらの混合物又はこれらの塩)が飛灰中の重金属を固定化できるということをその技術思想としている。したがって,本件発明が実施可能であるというためには,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明を構\成する本件各化合物を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が本件各化合物を製造することができる必要があるというべきである。
・・・・
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(2) 本件明細書のサポート要件の充足性についてこれを本件発明についてみると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件出願日当時,そこに記載の本件各化合物の製造方法が当業者に周知の技術であったことは,前記1(3)に認定のとおりである。また,前記1(2)エ(エ)に認定のとおり,本件明細書には,BF灰に,水と本件化合物2の塩を0.4ないし0.8重量%加え,混練したものから重金属の溶出が抑制されていることが記載されている(重金属固定化能試験)。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各化合物が飛灰中の重金属の固定化処理剤として使用できる旨の記載があるといえる。そして,前記1(2)ウに認定のとおり,本件発明の目的は,飛灰中に含まれる重金属を安定性の高いキレート剤を用いることにより簡便に固定化できる方法を提供することであり,上記のとおり,重金属固定化能試験に関する発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。
・・・・
 特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。

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平成22(行ケ)10402 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月26日 知的財産高等裁判所

 新規事項、且つ、サポート要件違反ありとした審決が維持されました。
 原告は,「1,2−ジヒドロキノン」や「1,4−ジヒドロキノン」などの「ヒドロキノン」は容易に酸化されて「1,2−ベンゾキノン(オルソベンゾキノン)」や「1,4−ベンゾキノン(パラベンゾキノン)」などの「ベンゾキノン」に変化し,「ベンゾキノン」が還元されると「ヒドロキノン」に変化するという関係に鑑みれば,「ヒドロキノン」,すなわち「1,2−ジヒドロキノン」や「1,4−ジヒドロキノン」はキノン類に属することは明らかであるとも主張する。しかし,特許法17条の2第3項の「明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができるというべきところ,当初明細書等の全ての記載を総合しても,本願補正発明の抗菌,抗ウイルス及び抗真菌組成物において,酸化能\力を有する試剤である過酸化水素やアズレンキノン等のキノンが,さらに酸化を受けた後に組成物中でその作用を発揮するということはできないので,当初明細書等に,酸化を受けて酸化能力を有する試剤に変換される物質を酸化能\力を有する試剤に含めることが記載されているということはできない。
・・・
 本願の当初明細書には,「抗菌,抗ウィルス,及び抗真菌組成物に用いられる(A)は,触媒機能を有する金属イオン化合物で,一般式は,M+aX−bで,Mは,ニッケル(Ni),コバルト(Co),・・・クロム(Cr),・・・鉄(Fe),銅(Cu),チタン(Ti),・・・白金(Pt),バラジウム(Pd),…からなる群から選択された金属元素・・・である・・・」(段落【0005】)と記載されているものの,M+aX−bで表\される成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用する組成物については,発明の詳細な説明に具体的データの記載がなく,また,本願の組成物が脂肪酸やDNAを分解するメカニズムを説明する記載もなく,脂肪酸やDNAの分解において組成物中の各成分が果たす役割を実証する記載もない。他方,本件補正後の請求項1の記載によって特定される3つの成分を組み合わせることにより,脂肪酸やDNAが分解でき,その結果,バクテリア,ウイルス及び真菌類を破壊,殺菌できることについて,具体例をもって示さなくとも当業者が理解できると認めるに足りる技術常識はない。そうすると,本願の組成物の成分(A)のMとして「銅」以外の金属を使用するものが,脂肪酸やDNAを分解でき,バクテリア等を破壊,殺菌するという課題を解決できるということはできないので,本願における発明の詳細な説明は,本件補正の請求項1の記載によって特定される成分(A)のMの全ての範囲において所期の効果が得られると当業者において認識できる程度に記載されているということができない。したがって,本件補正後の請求項1(本願補正発明)の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」(サポート要件充足)ということはできない。

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