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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

著作権その他

令和4(ワ)7920 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月25日  東京地方裁判所

 動画タイトルに被告Aの氏名を用いたYouTube動画が、被告AのGoogleへの申し立てで削除されました。原告は、著作権侵害ではないのに、著作権侵害申\し立てフォームで申し立てを行い、かつ原告への通知をしなかったとして、損害賠償を求めました。裁判所は、顧客吸引力等を利用するパブリシティ権侵害であることは明確として、請求を棄却しました。

他方、作成した動画をユーチューブに投稿し、これを公開して広くその内容 を伝える行為は、投稿者が行う表現活動や事業活動に関わり得るものであって、\nその動画が削除されることで表現活動や事業活動が制限され、投稿者の法律上\n保護される利益が害される場合があるといえる。ユーチューブの利用について は、上記の規約があり、また、グーグルには著作権侵害についての前記のポリ シーがあるところ、権利侵害の通知を行う者が著作権侵害がないにもかかわら ず侵害がされているという情報をグーグルに通知して、それによってグーグル が動画を削除した場合、権利侵害がないにもかかわらず動画を削除されるに至 った者は、本来動画を削除される理由がなくそれが削除され法律上保護される 利益を害されたといえる場合があるといえる。これらによれば、グーグルに対 して権利侵害の通知を行うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保 護される利益を害する違法な行為となる場合があるといえる。
本件通知は、著作権侵害を通知するためのフォームであり、フォームで用意 されていた文言である「私は侵害された著作権の所有者、または当該所有者の 正式な代理人です。」「私は、申し立てが行われたコンテンツの使用が、著作権\nの所有者、代理人、法律によって許可されていないことを確信しています。」と いう記載があり、また、フォームで用意された「著作権者名」、「著作権対象物 のタイトル」についてもそれぞれ記載している。
もっとも、「権利を侵害された作品についての説明」について「その他」とし た上で、「公演の種類」を「氏名」とし、「著作権対象物のタイトル」を「A(ひ らがな併記)」としている。そして、「補足情報」として、権利侵害の内容とし て「パブリシティ権侵害」と明記した上で、「顧客吸引力、宣伝、広告収益目的 のためにタイトルに無断で氏名を使用し、経済的利益を害している。」と記載 している。これらの記載のうち「著作権対象物のタイトル」が人の氏名そのも のであることは明らかであり、「公演の種類」が「氏名」であることや「補足情 報」の記載内容から、これらの記載は、「著作権者名」とされる、Aの氏名その ものを、対象動画のタイトルに用いることで、同人のパブリシティ権を侵害し たと通知していると理解できるものである。
被告Aは、著作権侵害の通知のフォームを利用して本件通知をしたところ、 そのフォームでは、「著作権者名」や「著作権対象物のタイトル」に記入する欄 があり、また、通知をする者が著作権者やその代理人であることなどを表明す\nる定型の文言があるため、上記各欄の記載やその定型の文言が本件通知に含ま れることとなっている。しかし、「著作権対象物のタイトル」や「補足情報」の 上記のような記載からすれば、被告Aは、ユーチューブにおいてパブリシティ 権侵害の通知をする専用のフォームがあったとは認められない状況において、 本件動画のタイトルに被告Aの氏名を用いたことがパブリシティ権侵害である ことを通知する意図で、本件通知をグーグルに送付したと認められる。
本件で、原告は、本件通知は本件動画が通知者の著作権を侵害されている旨 の通知をするものであり、通知者である被告Aには、著作権侵害の有無を事前 に確認する義務があったにもかかわらず、被告Aは、これを怠って原告が著作 権を侵害している旨の虚偽の通知をしたことを請求の原因として主張する。 しかし、ユーチューブにおいてパブリシティ権侵害の通知をするフォームが あったとは認められない状況において、前記 のとおり、被告Aは、本件動画 のタイトルに被告Aの氏名を用いたことが被告Aの顧客吸引力等を利用する パブリシティ権侵害であることを通知する意図で、その旨の記載をするなどし て、本件通知をグーグルに送付したと認められる。そして、本件通知は、著作 権侵害の通知をするフォームを利用したことに伴う記載はあるが、著作権対象 物のタイトルとして氏名のみが記載され、その補足情報の記載が上記のような ものであることからすると、通知者が自らの氏名が対象動画のタイトルに利用 されていることによるパブリシティ権侵害があると通知するものであると理 解できるものである。
前記のとおり、ユーチューブにおいて、グーグルに対し権利侵害の通知を行 うことは、その内容や態様により、投稿者の法律上保護される利益を害する違 法な行為となる場合があるといえる。原告は、本件の請求の原因を上記のとお り主張して被告Aが著作権侵害の有無を調査すべき義務があったと主張する ところ、本件通知の内容や態様が上記のようなものであったことに照らせば、 通知者である被告Aに原告が主張するような著作権侵害の有無を事前に確認 する義務があったとは認められず、同義務違反により原告の法律上保護された 利益が侵害されたことを理由とする原告の請求には理由がない。 なお、グーグルは、本件通知に基づき本件動画を再生できないようにしたが、 被告Aに原告が主張する義務があったとはいえず、被告Aに原告が主張する義 務違反行為があったとは認められないから、同事実は、上記判断を左右するも のではない。

◆判決本文

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令和4(ワ)9660 債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年8月31日  大阪地方裁判所

ファイル共有ソフト「BitTorrent」の使用で被告動画が拡散したとして、20万円を超える賠償請求がなされました。原告は3万円を超える賠償債務は存在しないとする確認訴訟を提起しました。裁判所は3万7675円を超えては存在しないと判断しました。\n

(1) 被告は、ビットトレントを通じてアップロード等をすることは社会的にも 実質的にも密接な関連をもつ一体行為に参加するものであるなどとして、原告は、 本件ファイルが最初にビットトレントにアップロードされて以降の全ての権利侵害 についての責任を負う旨を主張し、仮に、原告がビットトレントを通じて自ら本件 ファイルを他のユーザーに送信することができた期間に限り不法行為が継続してい たと解されるとしても、原告は、遅くとも令和3年10月25日に本件ファイルを アップロードし、早くとも令和4年4月8日以降に本件ファイルにつきアップロー ド可能な状態を終了した旨を主張する。\nしかし、共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するためには、少なくと も行為者各自の行為が客観的に関連して共同していることを要する(最三小判昭和 43年4月23日民集22巻4号964頁参照)から、原告が自らビットトレント を通じて本件ファイルのデータのダウンロードを開始する前や、ダウンロードした 本件ファイルを削除したりビットトレントのクライアントソフトを削除するなどし\nてビットトレントを通じた本件ファイルのデータの送信ができなくなった後に発生 した本件著作権の侵害については、他の行為者の行為との客観的な関連共同性のあ る行為が存在せず、共同不法行為責任を負うと解すべき理由がない。すなわち、本 件において、原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告が ビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態に\nある場合に限られるというべきである。
証拠(甲1、2の1、2の2、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3 年当時、自宅の私用パソコンを、平日は2時間から3時間程度、休日前及び休日は\n3時間から5時間程度、インターネットに接続してネット情報の閲覧等(いわゆる ネットサーフィン)をするが、常時接続はせず、使用時以外はシャットダウンする という使用態様であったところ、同年10月25日、ビットトレントのネットワー ク及びビットトレントを利用するためのクライアントソフト「μTORRENT」\nを使用して、約3時間かけて本件ファイルのダウンロードを完了させた後、原告の パソコンからトレントファイルを削除し、翌日、本件ファイルを視聴したが、途中\nで原告のパソコンから本件ファイルを削除したこと、令和4年4月6日、原告が原\n告プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書の送付を受け、その頃、原 告のパソコンからビットトレントのクライアントソ\フト自体を削除したことが認め られる。以上の事実及び前提事実(3)記載のビットトレントの仕組みに照らすと、 原告がビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあ\nったというためには、少なくとも、原告が原告のパソコンをインターネットに接続\nしてビットトレントのクライアントソフトを起動した状態で、ビットトレントを通\nじて本件ファイルをダウンロードしているか又はダウンロードを完了した本件ファ イルを原告のパソコンの送信可能\な領域に蔵置していることが必要と考えられる。 そうであるところ、原告が、原告のパソコンをインターネットに接続してビットト\nレントを通じて本件ファイルをダウンロードしていたのは約3時間に限られ、ダウ ンロード完了後の原告のパソコンのインターネットへの接続状況やビットトレント\nのクライアントファイルの起動状況は不明であり、その翌日、原告のパソコンに保\n存した本件ファイルを視聴したものの(このときのインターネットへの接続状態や ビットトレントのクライアントファイルの起動状況が不明であることは同様であ る。)、途中で原告のパソコンから本件ファイルを削除したのであるから、原告が\nビットトレントを通じて本件ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあったと\n認められるのは、本件ファイルをダウンロードしていた3時間に限られるというべ きである(なお、本件ファイルをパソコンから削除しても、キャッシュのデータ等\nが残存する可能性がないとはいえないが、そもそも原告のパソ\コンの送信可能な領\n域に本件ファイルのキャッシュのデータ等が自動的に保存されるものかは不明であ る上、原告が敢えてデータをパソコンに残存させる必要性は乏しく、その後、原告\nの端末から本件ファイルに係るデータがビットトレントを通じてアップロードされ た事実もうかがえないことから、原告は本件ファイルに係るデータをパソコンから\n全部削除したものと認められる。)。
したがって、原告が、本件著作物に係る著作権侵害について賠償責任を負う範囲 は、令和3年10月25日の3時間に発生した侵害行為による損害に限られるもの というべきであり、被告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 以上を踏まえて本件著作物に係る著作権侵害による損害額について検討す るに、前提事実(2)並びに証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作 物の「HD版ダウンロード及びHD版ストリーミング無制限」のダウンロード価格 (販売価格)は1450円であること、本件著作物の利益率は38%であること、 ビットトレントを通じた本件ファイルのダウンロード回数は、令和3年10月25 日時点で1206回、同月26日時点で1753回であり、同月25日の前記ダウ ンロード回数は547回であることが認められる。そうすると、原告が本件の共同 不法行為により負うべき損害の範囲は、3万7675円(≒547 回×1450 円×38% ÷24×3。1円未満四捨五入)となる。
(3) 原告は、被告が、令和3年10月25日から令和4年4月8日までの間、 原告による共同不法行為が継続していたことを前提として178万9097円の損 害賠償額を主張することは損害拡大防止義務違反がある、不誠実な対応であるなど 述べて、過失相殺及び権利濫用の主張をするが、かかる被告の主張は採用すること ができないことは前記(1)のとおりであって、原告の前記主張はその前提を欠く。 また、原告は、原告が、積極的に複製物を作成しようとする意思は希薄で、他者 のダウンロード行為による金銭的な利益を得てもいないことを指摘して、損害額に ついて減免責されるべきである旨を主張するが、原告が指摘する事情をもって、前 記認定の損害額を減免責すべき事情に当たるとはいえない。
(4) 以上から、原告の被告に対する本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害 賠償債務は3万7675円を超えて存在しないものと認められる。

◆判決本文

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令和3(ワ)20472  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年5月18日  東京地方裁判所

 写真の著作物について、許諾料460万円には、プロジェクト期間終了後の使用を含んでいないと判断されました。460万という高額の契約なのに、契約書無しでした。

・・上記小冊子に本件各写真を掲載することを許可した。なお、当該許可に当たり、原告と被告会社との間で契約書は作成され被告らは、本件各写真の高額な許諾料に鑑みれば、原告が被告会社に対し本件各写真の利用を許諾する契約(以下「本件契約」という。)には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意(以下「本件合意」という。)が含まれていたと主張する。
そこで検討するに、原告が被告会社との間で本件契約を締結するに当たり、 契約書を作成しなかったことは、当事者間に争いがない。そして、原告は、 本件合意があったことを否定しているところ、本件契約に関して、原告と被 告会社間のやり取りなど本件合意がうかがわれるような書面等は存在せず、 被告らの主張を前提としても、上記合意がされた経緯、時期、場所その他の 事情は、具体的には明らかにされていない。のみならず、証拠(甲17、1 8)及び弁論の全趣旨によれば、別の会社に対して本件写真1の利用を許諾 した際は、これに関する契約書が作成されているところ、当該契約書におけ る本件写真1の許諾料は、本件契約における許諾料と同等のものであるのに、 実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかったことが認めら れる。 これらの事情の下においては、本件合意があったことを裏付けるに的確な 証拠はなく、本件契約と同種の別件契約の内容に照らしても、本件合意があ ったものと認めるのは相当ではない。したがって、被告らの主張は、採用す ることができない。
これに対し、被告らは、写真家等のクリエイターにとっても、実績紹介と して写真等が使用されることにはメリットがあることなどから、広告デザイ ン業界においては、このような実績紹介として写真等を使用する場合には、 クリエイターに利用許諾を求めない慣行が存在する旨主張する。 そこで検討するに、証拠(甲11、12、34ないし38)及び弁論の全 趣旨によれば、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入 れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本 件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したものと認められるところ、 同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネッ ト上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至ったことが認められ る。そして、証拠(乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、実績紹介での利 用につき、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用す ることは許容されず、また、ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたり ダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起する フォトエージェンシーが存在することが認められる。 これらの事情を踏まえると、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置な く本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエ イターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできない。 したがって、被告らの主張は、採用することができない。

◆判決本文

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令和3(ワ)11118  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月26日  東京地方裁判所

ゲーム内のキャラクターを性玩具に見立てた内容等の記載された同人誌を頒布したことなどが、原告らの名誉を毀損すると共に、原告らのパブリシティ権、肖像権及び名誉感情を侵害するかが争われました。裁判所は、合わせて440万円の損害賠償およびマスクの廃棄などを認めました。

本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会に おいて販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異な り、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のよ うな卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、 本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。 しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解され るイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」 として 3 つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイ ッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すイ ンターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジッ ト表記に表\記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわ れる。
このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と 読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌 の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本 件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。 しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本 件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必 ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌 の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件 ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるとい う判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合 理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記\nに原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されているこ とは、このような理解を強めるものといえる。 この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクター に対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見る のが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーと して本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、 原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。 このことは、本件店舗描写に関しても同様である。
(3) 小括
以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれ ば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジ ット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同 人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損する ものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害 の成否(争点 1-2)について
原告Aは、被告が本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した行為及び 本件同人誌に本件マスクの写真を掲載した行為につき、原告Aのパブリシティ 権侵害を主張する。肖像等を無断で使用する行為については,1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商 品等に付し,3)肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有す る顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害する ものとして,不法行為法上違法となる(最高裁判所平成 24 年 2 月 2 日第一小 法廷判決・民集 66 巻 2 号 89 頁参照)。
本件の場合、そもそも、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であると しても、そのことから直ちに同原告の肖像等に顧客吸引力があることにはなら ないところ、この点について、同原告は何ら具体的な主張立証をしない。 この点を措くとしても、本件マスクは、原告Aの写真を顔面に着用できるよ うに山型に湾曲させただけの粗雑な作りのものにすぎない。そのため、本件マ スクやこれを撮影した写真は、同原告の肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる 印象を与えるものであり、同原告の肖像それ自体を独立して鑑賞の対象とする 目的で作成されたものとはいい難い。また、本件同人誌における本件マスクの 写真は全 頁程度のうちの 8 頁目にのみ掲載されている(甲 5)。しかも、同 頁の本件マスクの写真は、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ――\―\nッ!」との宣伝文句と共に、「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿 すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作ら れるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載と共に掲載され ており、これらは、本件同人誌の本編である漫画の内容と直接的には無関係に、 主に原告Aを揶揄する文脈で掲載されているものと理解される。これを踏まえ ると、本件即売会での本件同人誌の頒布にあたり被告が本件マスクを着用して いた点についても、同様に原告Aを揶揄する趣旨で行われたものと理解するの が相当である。
また、本件 3 コマ漫画における原告Aの氏名は、その素材となった別作品の 宣伝用画像(甲 148)の構図に擬して作成した最終コマに表\示されたものであ り、著作者として表示されたものとは理解し得ないと共に、当該コマの上部に\n小さく配置されているに過ぎないこともあって、原告Aの氏名の顧客吸引力の 利用を目的としたものとはいい難い。 そうすると、本件マスクの写真の掲載及び本件即売会での本件同人誌頒布時 における着用並びに本件 3 コマ漫画の氏名の記載は、上記1)〜3)のいずれにも 当たらず、その他専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる 場合に当たるとは認めるに足りない。 したがって、これらの行為は原告Aのパブリシティ権を侵害する違法なもの とはいえない。この点に関する原告Aの主張は採用できない。
3 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情 の侵害の成否(争点 1-3)について
(1) 肖像権侵害の成否
人はみだりに自己の容貌,姿態を撮影されないことについて法律上保護さ れるべき人格的利益を有するところ,ある者の容貌,姿態をその承諾なく撮 影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位, 撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮 影の必要性等を総合的に考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会 生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられる (最高裁平成 17 年 11 月 日第一小法廷判決・民集 59 巻 9 号 2428 頁参照)。 撮影された写真が雑誌等に掲載されるなどして公開された場合も,同様の判 断枠組みが妥当すると考えられる。 前記 2 のとおり、本件マスクは、原告Aの写真を粗雑な方法で加工したも のであり、原告Aの肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる印象を与えるもの ではある。しかし、本件同人誌では本件マスクが原告Aの「リアルマスク」 と紹介されていること、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であるこ と等の事情に照らすと、被告が本件マスクの写真が掲載された本件同人誌を 本件マスクを着用しながら頒布した行為は、原告Aの写真を無断で公開した 場合と同様に理解することができる。また、本件同人誌の内容、とりわけ本 件マスクの紹介の仕方等に照らすと、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で 本件マスクを作成し、これを着用の上、その写真を掲載した本件同人誌を頒 布したといえる。
以上のような写真の使用目的及び使用態様等に照らすと、本件マスクに係 る被告の各行為は、自己の容貌等の写真をみだりに公開されないことについ ての原告Aの人格的利益を侵害し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を 超えるものというべきであり、不法行為法上違法と認めるのが相当である。 これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 名誉感情の侵害
前記のとおり、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、 これを着用の上、本件即売会にて本件同人誌を頒布した。加えて、本件同人 誌には、原告Aと同定される男性イラストに係る本件男性イラスト描写が掲 載されている(前提事実(3))。また、本件店舗描写についても、本件同人誌の 他の記載と合わせると、「(省略)」などの記載は原告Aを指すことが明確に理 解される。このような被告の行為は、原告Aに対する社会通念上許される限度を超える 侮辱行為であり、原告Aの人格的利益(名誉感情)を侵害する違法なものとし て、不法行為に当たるとするのが相当である。これに反する被告の主張は採用 できない。
4 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否(争点 2)について
(1) 本件店舗に関する投稿について
被告は、別紙 4 投稿目録(4)のとおり、原告会社の運営する本件店舗を「キ ャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレ ー」が違法風俗店として摘発され、セクキャバ「キャバカレー」経営者であ る「(省略)」が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像を、実在す るニュース映像風の画像のように表現して投稿した(前提事実(2)ア)。 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の上記各投稿は、 原告会社の経営する本件店舗が「違法風俗店」として捜査機関により摘発さ れ、原告Aと同定される者が風営法違反の疑いで逮捕されたという事実を摘 示したものと理解される。これにより、上記各投稿は、これを閲覧した者に おいて、原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕さ\nれたという印象を与えるものであって、原告らの社会的評価をいずれも低下 させるものといえる。 したがって、被告の上記各投稿は、原告らそれぞれの名誉を毀損するもの であり、原告らに対する不法行為に当たると認められる。これに反する被告 の主張は採用できない。
・・・
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等による原告Aの名誉毀損並 びに本件マスクを着用して本件同人誌を頒布等した行為による同原告の肖像 に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも同原告に対する不法行為 を構成するものと認められる。また、被告のツイッターにおける本件店舗に\n関する投稿による原告Aの名誉毀損並びに同原告の顔写真等の投稿による同 原告の肖像に係る人格的利益及び名誉感情の侵害は、いずれも原告Aに対す る不法行為を構成するものと認められる。\n他方、本件同人誌の頒布等による原告Aのパブリシティ権の侵害及び被告 のツイッターにおける被差別部落に関する投稿による同原告の名誉権の侵害 は認められない。
(2) 原告会社の請求について
以上のとおり、被告による本件同人誌の頒布等及び被告のツイッターにお ける本件店舗に係る投稿による原告会社の名誉毀損は、いずれも原告会社に 対する不法行為を構成するものと認められる。\n他方、被告のツイッターにおける本件キャラクターの人権等に言及する投 稿、本件キャラクターに関する卑猥な投稿及び被差別部落に関する投稿につ いては、いずれも原告会社の名誉を毀損するものとはいえず、原告会社に対 する不法行為を構成するものとは認められない。\n

◆判決本文

こちちに争点となった表記があります。\n

◆判決本文

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令和4(ネ)10125 損害賠償金請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ウェブページのフライパンの説明画像についての損害賠償請求事件です。1審は著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。原告は、残りの約15万円の支払いを求めて控訴しましたが、控訴棄却です。関連事件がたくさんあります。

(1) 控訴人は、前記第2の4のとおり、1)本件各画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、2)第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
(2) 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又はウェブページごとに複製又は送信可能\化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像2)中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像3)中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表\現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。n
(3) 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申\請を要するものと定めていること(甲26)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲27)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲28)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲29)が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
(4) さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どのような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
(5) 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記(1)1)の主張を採用することはできず、同2)に主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断
控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁判所平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小法廷判決参照)。控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。n

◆判決本文
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◆令和3(ワ)28410


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令和4(ネ)10104  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 発信者情報開示請求事件です。スクリーンショットを添付したツイートについて、原審・知財高裁いずれも、著32条の引用にあたると判断しました。

控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイート をした場合には、引用リツイートによる場合とは異なり、引用元に引 用の事実が通知されないため、ツイートを引用された者は自分が知ら ないところで議論がされてしまい、また、ブロックした人物からツイ ートを引用されてしまうことがある旨主張する。 しかしながら、ツイッターにおける上記の通知機能は、ユーザーの\n利便性を高めるための付加的な機能にすぎないというべきである。ま\nた、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターにおける ブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログイン\nした状態においてのみ、ツイートの閲覧を制限するなどの効果をもた らすものにすぎず、例えば、ブロック対象者がツイッターにログイン せずに、又はブロックされた者とは異なるアカウントでアクセスした 場合には、ブロックした者が公開しているツイートを閲覧することが なお可能である。さらに、ツイッターにおいては、投稿されたツイー\nトがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然 に予定されており、ツイートを投稿した者も、自らのツイートが批評\nされることや、その過程においてツイートが引用されることを当然に 想定しているものといえる。
以上の事情を考慮すると、他のツイートのスクリーンショットを添 付したツイートがされた場合に上記の通知機能やブロック機能\が働か なくなるからといって、控訴人の著作者としての権利が、引用リツイ ートの場合と比較して殊更に害されるものということはできない。そ うすると、控訴人が指摘する上記の各事情をもって、本件ツイートに おいて原告ツイートが引用されたことにつき、公正な慣行に合致しな いものであるということはできない。

◆判決本文

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◆令和4(ワ)14375

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令和4(ネ)10060  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年4月13日  知的財産高等裁判所

元ツイートをスクリーンショットで引用するやり方について、原審では著作権侵害と判断されましたが、知財高裁は正当な引用と判断しました。

 しかし、そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。 他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能\を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表\示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。
(イ)これに対し、被控訴人は、引用ツイートによるべきことは、ツイッターの利用者において常識である旨を主張するが、当該主張を裏付けるに足りる証拠はない(なお、前記のとおり、本件規約の内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではないことからすると、ツイッターのユーザーにおいて本件規約の前記の定めを認識しているというべきことから直ちに、引用ツイートによるべきことがユーザーの共通の理解として前記公正な慣行の内容となるということもできない。)。また、被控訴人は、スクリーンショットの添付という方法による場合、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなり、著作権者のコントロールが及ばなくなるという不都合がある旨を主張するが、そのような不都合があることから直ちに上記方法が一律に前記公正な慣行に当たらないとまでみることは、相当でないというべきである。
(ウ)その上で、訂正して引用した原判決の第4の2(1)アで認定判断した原告投稿1の内容、同(2)アで認定した本件投稿1の内容や原告投稿1との関係等によると、本件投稿1は、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている人物(「A」なる人物)を訴えている者であることを前提として、更に多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われたもので、それに当たり、批判に関係する原告投稿1のスクリーンショットが添付されたものであると認める余地があるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿1の範囲は、相当な範囲内にあるということができる。また、訂正して引用した原判決の第4の2(1)イ〜エで認定判断した原告投稿2〜4の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件投稿2〜4の内容や原告投稿2〜4との関係等によると、本件投稿2〜4は、本件投稿者2を含むツイッターのユーザーを高圧的な表現で罵倒する原告投稿2、他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、これらに対する批評の目的で行われたものと認められ、それに当たり、批評の対象とする原稿投稿2〜4のスクリーンショットが添付されたものであるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区別されており、また、それらの引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿2〜4の範囲は、それぞれ相当な範囲内にあるということができる。以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能\性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。」\n

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◆令和3(ワ)15819

令和4(ネ)10044も同趣旨です。

◆令和4(ネ)10044

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令和4(ワ)2237 発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月30日  東京地方裁判所

 著作権侵害に基づく発信者情報開示請求が棄却されました。著作権法41条の「時事の報道」に該当するというものです。

1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
(1) 本件投稿1について
ア 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイ ト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式 ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると\nいう判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたも のであり、本件写真は、上記にいう著作権侵害幇助の判決(以下「別件訴訟 判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのもの であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的 で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の 事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主 題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作 権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたると いう判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著 作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないもので あるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、 前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を 与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事 の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」 に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することが できない。
また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、 規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本 件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目 的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において 説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となっ た著作物であることからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、\n原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の 主張は、採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。
(2) 本件投稿2について
ア 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト 発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公 式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたもので あり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却判決(以下「別件 最高裁判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そ のものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目 的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時 事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件 の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、 著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。\nそして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題 性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目 的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘 導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地は ないと主張する。しかしながら、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨に よっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入 を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められるこ とが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユー ザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。そ の他に、上記 イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写 真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に 影響を与える別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物であ ることを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張\nは、上記判断を左右するものとはいえない。 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条に より適法であるものと認められる。

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令和4(ワ)15136  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年2月28日  東京地方裁判所

 発信者情報開示事件です。原告がインスタグラムに限定公開した動画が、投稿者により公開されてしまい、発信者情報の開示を求めました。原告の動画は、「原告の夫である歯医者」が麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってるというものでした。被告であるGoogleは、医療現場の実態を報道するもので、著41条に該当すると反論しましたが、認められませんでした。

 被告は、本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者 の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿すること は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとして ニュース性があるから、「時事の事件」を構成するものである旨主張する。\nしかしながら、前記前提事実、証拠(甲6及び10)及び弁論の全趣旨によ れば、本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、「麻 酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロ ップが付されるにとどまり、いつの出来事であるかどうか一切明らかではなく、 しかも、本件投稿画像は、Googleマップという地図アプリにおいて、本 件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表\示されるものにす ぎないものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿画像で表示された出来事は、これが生じた\n時期すら明らかではなく、地図アプリにおいて本件歯科医院の上にカーソルを\n動かし、クリックした場合に限り表示されるにすぎないことが認められる。\nそうすると、本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」 とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう「報\n道」というに足りないものと認めるが相当である。
これに対し、被告は、本件投稿画像で表示された出来事が医療現場の実態や、\n医療事故につながりかねない様子をとらえたものである旨主張するものの、一 般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「麻酔待ちの間 にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップの内容 及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療 現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認 めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース 性を認めることもできない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くもの であり、いずれも採用することができない。

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令和4(ネ)10049  不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

アニメ作品の音響データの元となるセッションデータについて、退職時の合意書に基づき、引き渡し義務があるのかが争われました。

しかしながら、証拠(乙14、15、22、24、25、31、32、 原審証人B)及び弁論の全趣旨によると、1)被告音源データは、爆発音だ けでも約2000種類のものを含み、一審被告取締役Bが音響効果業務で 使用するハードディスクでは作業の効率化のため被告音源データの一部 を厳選して保存しているが、そのハードディスクに保管されている被告音 源データのデータ量でも約194ギガバイト、ファイル数3万1000個 超となるなど、膨大な数の音源データで構成されていると認められ、この\nように多種多様な音で構成されていることからみて、個々の音源の中には\n個性的な特徴を有するものが多数含まれるとうかがわれること、2)被告音 源データは、生音(人の手で音を作り出して収録した音)、シンセサイザー で合成した音等の効果音、環境音等からなるものであるが、シンセサイザ ーで制作される音については優に100を超える設定項目を設定しなけ ればならないこと、生音で制作される音については制作の際の個人差が想 定されること、屋外で録音した音については音の録音をするに適した場所、 環境、時間帯等を探し出して選択し、録音した部分から不要となる部分を 省く編集をしなければならないこと、同種の方法で制作された音同士を、 あるいは、異種の方法で制作された音同士を掛け合わせて融合するなどし て複雑な混成をさせていること、以上のことからして、単に発生している 音を録音するという機械的作業により制作され音が保存されているでは なく、その制作に当たって創造性を発揮させる余地が十分にある音が保存\nされていること、3)上記のような単純とはいい難い作業に基づいて制作さ れるほか、アナログ機材で様々な融合や設定をしてできた音であるのにそ の設定等が不明で、現在どのようにして制作するかも分からない再現不能\nな音源も多いことから、偶然に同一の音が再現される可能性は低く、世上\n耳にすることのある、ありふれた音そのものとは構成が異なること、4)被 告音源データのうち、少なくとも半分は上記のような制作過程によって一 審被告が制作したものであること、5)1音源の長さは、数秒程度のものあ れば、1分以上に及ぶものもあって、制作作業の過程で思想又は感情の表\n現を込め得る程度の長さのものも含むことが認められる。
以上によれば、被告音源データの中の個々の音のみであっても、幅のあ る表現の中から選択され、その表\現に個性の発露を認め得る音も決して少 なくないものと認められ、そのようにして制作された音には創作性を認め る余地があるといえ、一律に効果音の著作物性を否定できるものではない し、著作物性のある音がごくわずかであるともいい得ない。 そして、一審原告は、一審被告在職中に被告音源データを用いて音響効 果業務を行っていたのであるから、被告音源データに含まれる音と同一の 音あるいは類似の音を制作した場合には、明らかに依拠性が認められ、あ るいは容易に依拠性を認め得るのであるから、被告音源データに含まれる いずれかの音と同一の音を利用し、あるいは類似の音を制作して利用した 場合でも、一審被告の被告音源データについて一審原告による少なくとも 複製権又は翻案権の侵害が成立する可能性は否定できないといえる。\n
・・・
4 第1事件反訴に係る本件セッションデータの引渡請求について
一審原告は、一審被告から、本件再委託業務の再委託を受けて同業務 を履行したところ(前提事実(4)イ及びエ)、一審被告は、本件セッション データは本件合意書第14条の「成果物」に該当するとして、本件合意 に基づき一審原告に対して本件セッションデータの一審被告への引渡し を求めている。
(1) 本件合意の内容
本件合意書第14条は、一審原告に対し、一審被告から受託した業 務の「成果物」を特に区分けなく顧客及び一審被告に納入すべき義務 を定めるから(別紙「本件合意書(抜粋)」参照。以下本件合意書の条 項につき同じ。)、一審被告に納入すべき「成果物」は、顧客に納入す べきものと同じものと理解される。また、同第9条は、一審原告が一 審被告から音響効果業務を受託した場合の「成果物」の所有権及び音 源の著作権が一審被告に帰属することを定め、同第8条2項は、再委 託業務の対価には音響効果制作の過程で発生するいわゆる中間生成物 のものも含めて著作権譲渡の対価が含まれると定めるから、一審原告 が「成果物」を一審被告に納入すると、一審原告は、当該「成果物」 の所有権及び音源の著作権を失うものと理解される。
(2) プロツールスセッションデータについて
「プロツールス」は、音編集ソフトであり、作品の映像に合わせて\n音源データを編集して放映用の音源データを制作する手法が用いられ ており、一審原告もプロツールスを用いて一審被告から再委託を受け た業務を行った(前提事実(2)ア)。 証拠(甲12、乙15、22、34、原審証人B)によると、1)「プ ロツールスセッションデータ」とは、音響効果業務の作業の際にプロ ツールスが作成する「セッション」というファイルの中に記録された 音源データを含む各種データのことであり、効果音等が記録された放 映用の音源データや、台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データと は別のファイルであること、2)音響効果業務の作業に当たっては、ま ず、映像に合うような音源データを選択し、セッションデータの中に これら音源データをコピーして取り込み、それら音源データの一又は 複数をそのままに、あるいはピッチを変えるなどして、作品の映像と 音との間のタイミング等を調整しながら各音源データを組み込んでい くこと、3)そのため、セッションデータの中には放映用の音源データ の制作に利用した音源データの全てが保存されていること、4)顧客に 納入される台詞、音楽等が含まれる放映用の音声データは、放映用の 音源データを調整しながら、放映用の音源データと台詞、音楽等の音 声データとをダビングしたミックスデータとして納入されること、5) セッションデータには音響効果業務を行う事業者のノウハウが詰まっ ているため、第三者や競業者にその内容が開示されることはないし、 顧客にもセッションデータが納入されることはなく、効果音等のみを 必要とする顧客からの要望については、セッションデータから音源デ ータをまとめて一つのファイルとして出力されるデータが納入される ことが認められる。
(3) 西田弁護士の発言
前記1(3)ウ(本判決第3の2(3)において補正されている。)のとおり、 Aらも立ち会っていた本件面談において、西田弁護士は、一審原告か ら本件再委託業務に関する質問があった際に、一審原告が一審被告に 対して渡さなければいけないものは、「一本化」しているものでよく、 「パーツは渡さなくていい」旨の回答をしており、これは、「一本化」 とは素材となる音源データをまとめあげた放映用の音源データのこと を指し、「パーツ」とは、上記音源データの制作に要した素材となる音 源データのことを指すと理解できるから、結局、本件セッションデー タの引渡しを不要であると回答したものと認められる。 これに対して、西田弁護士は、「パーツで渡さなくてよいと答えてい ます・・・X氏が自身で購入した音源一つ一つを、・・・渡さなくてよ い(権利譲渡しなくてよい)という意味合いです。」、「一本化して渡し てほしい・・・というのは、プロツールスのセッションデータとして 一本化して渡してほしいという意味です」旨を陳述するが(乙28)、 上記のとおりセッションデータはもともと一つであるし、前記(2)のと おり、セッションデータを引き渡せば個々の音源データも引き渡され ることになるから、関係証拠と整合しない陳述であり、採用すること はできない。
(4) 報酬の支払
本件合意書第8条1項は、同第6条2項の音響効果業務の再委託業 務について、一審原告に対する報酬の支払を「成果物」の納品月の末 締め当該締日の3か月後の月の5日限りとして、一審原告の先履行と 定めているところ、一審原告は、本件再委託業務に係る各作品に係る、 台詞、音楽等の音声データとを音源データとをダビングしたミックス データを顧客に納品しており(甲8、弁論の全趣旨)、これに対し、一 審被告は、前提事実(4)エのとおり、本件セッションデータの引渡しを 求めることなく、本件再委託業務に係る報酬を全額支払っている。本 件セッションデータの引渡しは、令和元年12月24日受理の第1事 件反訴状の一審原告に対する送達によって初めて求められた(弁論の 全趣旨、顕著な事実)。
(5) 本件セッションデータの引渡義務
前記(2)のセッションデータの性質を前提とする限り、セッションデ ータそれ自体は放映に用いる音源データではなく、顧客に納品される ものではない。そして、本件合意は一審原告が一審被告を退職した後 の法律関係を規律するものであるところ、前記(1)の本件合意の内容や 本件合意書第14条の「成果物」の解釈を前提とした場合、本件セッ ションデータも同「成果物」に含まれるとすると、一審原告は、本件 再委託業務の履行に際して利用した素材である各音源データについて、 たとえそれが自らの負担において新たに取得したものであっても、そ の権利一切を喪失することになり、その後自らこれらを利用すること ができなくなって業務遂行が困難となり、極めて不合理な結論に至る し、一般的な取引慣行にもそぐわないことになる。また、本件面談時 や本件再委託業務の履行過程における一審被告の言動も、本件セッシ ョンデータが本件合意書14条の「成果物」には該当しないことを前 提とするものと理解するのが自然かつ相当である。
以上によれば、本件合意書を合理的に理解しようとする限り、本件 合意によって本件セッションデータの引渡義務を根拠付けることはで きないというべきである。なお、一審被告は、一審原告が一審被告を退職する前に担当したものも含めて、過去に音響効果業務を受注して制作した作品のセッショ ンデータを保存、管理しているが(乙22、原審証人B)、それは自ら が制作したセッションデータを自らが保有していることを意味するに すぎない。一審原告は独立した事業者の立場においてセッションデー タを制作する者であってそのセッションデータを保有する者であるか ら、一審被告が過去に制作した作品のセッションデータを保存、管理 していることは、一審被告に対する一審原告の本件セッションデータ の引渡義務を何ら基礎付けない。

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令和4(ネ)10103 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和5年3月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

著作者人格権の侵害として、5.5万円の損害賠償が認められました。なお控訴人は、1審では、著作者人格権の侵害を主張していませんでした。

(3) 原告文章2について
ア 原告文章2は、将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであるところ、 その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19〜24、27、 弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認めることはできない。 もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしまし ょう。」という部分については、控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがち な誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が「雑用」を率先して行うに当たって の心構えを示したものといい得る表\現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、し かし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べ ることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるも のといえる。この点、本件番組の制作時に参考にした書籍やウェブサイトである被 控訴人が当審において提出した証拠(乙15〜37。以下「当審提出証拠」という。) のうち駒の準備や片付けについて記載されたもの(乙20〜24、27)にも、類 似の表現は見受けられない。したがって、上記部分は、特徴的な言い回しとして、\n控訴人の個性が表現として現れた創作性のあるものということができ、著作物性を\n有するというべきである。これに対し、原告文章2のうちその他の部分における表\n現は、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているもの\nとは認められない。
そして、本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」 と変更する点を除くと一言一句そのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章2のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\nイ 被控訴人は、「雑用は喜んで!」という表現は、一般社会においても一般的\nに用いられるありふれたものであるなどと主張するが、駒の準備や片付けは上位者 が行うという将棋のルールを踏まえると、それらは将棋の対局において「雑用」と はいえないものである。そのようなものについて、あえて「雑用は喜んで!」との 表現を用いた上で、かつ、逆説的に説明するという特徴的な言い回しをしたという\n点に、控訴人の個性が現れているということができる。前記アの認定判断に反する 被控訴人の主張は採用できない。
・・・
原告文章5は、将棋の「待った」について説明するものであるところ、その 記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって(乙19、21、24、2 6、31〜32、34〜37、弁論の全趣旨)、当該内容自体から創作性を認める ことはできない。 もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」など と思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、将棋を指 す者が抱き得る感情を分かりやすく簡潔に表現することで、将棋の初心者にも印象\nに残りやすい形で伝えるものといえる。この点、当審提出証拠のうち「待った」に ついて記載されたもの(乙19、21、24、26、32、34〜37)の中に、 類似の表現はほとんど見受けられず、唯一、「仮に駒から手を離した瞬間に「あ、\n間違っている」と気づいたとしても」という類似の表現が用いられているもの(乙\n32)はあるが、原告文章5は、控訴人自身の経験に基づき、感嘆符等の記号を用 いるほか、「あっ、間違えた!」という語と「ちょっと待てよ・・・」という語を 続けてたたみかけることで、将棋を指す者が抱き得る感情とルール又はマナーとし ての将棋の「待った」をより生き生きと分かりやすく、かつ、印象深く表現するも\nのといえる。したがって、上記部分は、控訴人の個性が表現として現れた創作性の\nあるものということができ、著作物性を有するというべきである。これに対し、原 告文章5のうちその他の部分における表現は、ありふれたものといえ、控訴人の何\nらかの個性が表現として現れているものとは認められない。\nそして、本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、正に 上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほ ぼそのままの形で使用されている。 したがって、被控訴人は、原告文章5のうち創作性のある部分について、控訴人 の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本\n件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権) 及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。\n

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令和3(ワ)13720 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和5年1月20日  東京地方裁判所

出版権に基づく著作権侵害を主張しましたが、裁判所は、「相違部分には、被告の思想又は感情を創作的に表現した部分が含まれる」として、原作のまま複製には該当しないと判断しました。\n

1 争点1(被告表紙等が原告表\紙を「原作のまま…複製」(著作権法80条1項 1号)したものであるか)について (1) 前記前提事実(2)イのとおり、原告は、Bとの間で、本件出版契約を締結し、 原告漫画について、紙媒体出版物(オンデマンド出版を含む。)として複製 し、頒布することなどを内容とする「出版権」の設定を受けることを合意し たところ、この合意内容によれば、原告は、原告漫画を目的とする出版権と して、「頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方 法により文書又は図画として複製する権利」(著作権法80条1項1号)を 取得したものと認められる。 そして、上記出版権は、著作物を「原作のまま…複製する権利」であるこ とからすると、出版権の目的である著作物を有形的に再製する行為には及ぶ が、上記著作物のうち創作的表現とは認められない部分と同一性のあるもの\nを作成する行為には及ばないし、翻案、すなわち、上記著作物の表現上の本\n質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加え\nて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が\n上記著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物\nを創作する行為(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第1 小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)にも及ばないと解される。 (2) 証拠(甲4、5)によれば、被告が作成した被告表紙等は、少なくとも以\n下の部分において、原告表紙と相違すると認められる(以下、これらの相違\n部分を「本件相違部分」という。)。
ア 原告人物1の髪は目及び耳にかかる程度の長さで描かれているのに対し、 被告人物1の後髪は肩にかかり、横髪は耳を隠し、前髪は頬にかかるほど の長さで描かれている部分
イ 原告人物1の右耳は飾りが付いていないように描かれているのに対し、 被告人物1の右耳はピアスのように見える飾りが付いているように描かれ ている部分
ウ 原告人物2の髪は自然に流れるようにウェーブした状態に描かれている のに対し、被告人物2の髪は、複数の束となっており、束ごとに髪先が直 線的に切りそろえられた状態に描かれている部分
エ 原告人物2の瞳は略楕円形で、眉毛は細い線のように描かれているのに 対し、被告人物2の瞳は略円形で、眉毛は太く描かれている部分
オ 原告人物2は口をほとんど開けていないように描かれているのに対し、 被告人物2は、口を開き、歯が覗くように描かれている部分 カ 原告人物1及び2は学生服及びワイシャツを着ているように描かれてい るのに対し、被告人物1及び2は学生服及びワイシャツとは異なる服を着 ているように描かれている部分
(3) 前記前提事実(1)イ及び(3)並びに前記(2)の認定事実によれば、二次創作同 人誌を発行していた被告は、自らの知識や経験に基づき、被告漫画のストー リーや登場人物の設定等を念頭に置きつつ、被告漫画の表紙及び中表\紙とし てふさわしいものとなるように考えながら、原告表紙との本件相違部分を含\nむ被告表紙等を作成したということができる。そして、本件相違部分は、人\n物の髪型、目及び衣服といった当該人物の外見を特徴付ける部分に関する表\n現であり、別紙対比表からも明らかなとおり、被告表\紙等における被告人物 1及び2の外見の描写のうち本件相違部分が占める割合は小さくない。さら に、本件相違部分に係る表現がありふれたものであることを認めるに足りる\n証拠はない。したがって、本件相違部分には、被告の思想又は感情を創作的 に表現した部分が含まれると認めるのが相当である。\n
そうすると、原告表紙と被告表\紙等との共通部分に創作的表現が認められ\nない場合には、被告表紙等は、原告表\紙のうち創作的表現とは認められない\n部分と同一性があるにすぎず、被告は、創作的表現を含む本件相違部分を備\nえた、原告表紙とは別の新たな著作物である被告表\紙等を創作したといえる。 また、上記共通部分に創作的表現が認められる場合には、被告は、新たに創\n作的表現を含む本件相違部分を加えることにより、原告表\紙の表現上の本質\n的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である被告表紙等を創作し\nたものであるから、原告表紙を翻案したものといえる。\n
以上によれば、被告表紙等は、いずれにしても、原告表\紙を「原作のまま …複製」(著作権法80条1項1号)したものとは認められないから、被告 が被告表紙等を作成したことにより原告漫画に係る原告の出版権が侵害され\nたとは認められない。

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令和4(ネ)10083  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年12月26日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

本文、ユーザー名のほかアイコンまでをリツートした行為について、引用と認められると判断されました。 ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。\n
イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表\現するものであるなどと主張する。しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表\現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。\nしかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能\を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能\であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能\性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。

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令和3(ワ)21224  損害賠償金請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月21日  東京地方裁判所

ウェブページのフライパンの説明画像について、著作権侵害を認め、5万円の賠償を認めました。

本件において、原告が、本件各画像を含め、自己が著作権を有する著作 物を第三者に有償で利用許諾していたと認めるに足りる証拠はないから、 実際の利用許諾例に準じて使用料相当額を算定することはできない。 イ この点、原告は、新聞社や写真提供会社が提供する画像レンタルサービ スにおける使用料を根拠として、本件各画像の1ページ当たりの使用料相 当額は6万6666円を下らず、これに本件各画像が掲載されたウェブペ ージのページ数を乗じて使用料相当額を算定すべきであると主張する。 (ア) まず、ページ数を単純に乗ずることの当否について検討すると、原告 商品は、特長、材質、製造方法、メーカーなどが同一である複数のフラ イパンの一群からなる商品であるところ(甲12)、被告ストアにおける 本件各画像の利用態様も、複数の商品販売ページにわたって、原告商品 が等しく備える特長等を紹介する本件画像1)ないし7)の各画像の複製物 を共通して複製及び送信可能化し、本件商品画像については、当該ペー\nジで販売している商品に相当する画像1点を複製及び送信可能化したと\nいうものであることが認められる(前提事実(2)ア、イ、甲2)。このよ うな利用態様にかんがみれば、特に、全てのページにわたって原告商品 に共通する特長等を紹介する同一の画像7点については、異なる態様で 複数回利用された場合と同視することはできず、本件において、単純に ページ数(すなわち販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当 額を算定することが相当であるとはいえない。
そこで、更に検討すると、本件各画像は、商品群からなる原告商品の ネット通販用広告画像、すなわち販売促進資料として作成されたものと 認められることから(甲12)、原告商品の販売と無関係に本件各画像を 使用することは通常考え難く、仮に原告が第三者に本件各画像の利用を 許諾するとすれば、原告も主張するとおり、原告商品の日本国内の正規 代理店として、原告商品の再販売契約をするに当たり、その販売促進資 料として本件各画像全体を利用許諾するような場合が想定される。そし て、同一のオンラインショッピングモール上に出店しているとしても、 オンラインストア名が異なれば、商品の販売経路を複数有することにな るから、販売促進資料としての画像の利用許諾契約に当たっても、原告 商品を取り扱うオンラインストア数の多寡を考慮するのが合理的といえ る。アフロ社が提供している画像レンタルサービスにおいて、同一サイ トである限り、使用箇所を問わず同じ使用料が設定されている(甲7の 「ウェブ広告・ホームページ」欄の注記)ことも、オンラインストア数 に応じて使用料相当額を算定する方法の合理性を裏付けるものである。 以上のとおり、原告商品が一つの商品群からなるものであること、被 告ストアにおける本件各画像の実際の利用態様及び想定される本件各画 像の利用許諾の態様にかんがみれば、本件各画像の使用料相当額を算定 するに当たっては、本件各画像の複製物が掲載されたページ数(すなわ ち販売している商品の種類の数)ではなく、オンラインストア数を基準 とすべきであって、本件においては、被告ストアが一つであることから、 被告ストア全体にわたって本件各画像を1回利用したものとして算定す るのが相当というべきである。
(イ) 次に、本件各画像の具体的な使用料相当額について検討する。
a 原告が指摘する新聞社の画像レンタルサービスにおいて、具体的に どのような写真や画像が提供されているのかを認めるに足りる証拠は ない。しかし、新聞社が提供する写真は、いわゆる報道写真にみられ るように、ある事件や事象の一瞬を捉えているなど、構図やシャッタ\nーチャンス等に高度な工夫を凝らした創作性の高いものや、他の手段 では入手が困難な希少性の高いものである可能性があると考えられる。\nまた、アフロ社が提供する画像レンタルサービスについては、上記 のような報道写真とは異なる性格の画像も提供されていることがうか がわれるものの(甲7)、やはり、実際にどのような写真や画像が提供 されているのかは、本件証拠上認めるに足りない。
b その一方で、被告が指摘するシャッターストック社やピクスタ社の 画像レンタルサービスについてみると、証拠からうかがわれる具体的 な画像の内容(乙3、4)のほか、ピクスタ社では6200万点以上 の写真、イラストなどの素材について、料金が1か月間に利用できる 画像の点数に基づいて設定されていたり、未利用画像数を翌月以降に 繰り越せるといった条件で提供されていたりすること(乙2、4)に かんがみれば、これらのサービスにおいて低額な使用料で提供されて いるのは、汎用性のあるウェブサイト用の素材である可能性が高い。\n もっとも、商業的利用の可否など、その余の使用条件については、 本件証拠上判然としない。
c これに対し、前提事実(2)ア及び前記(ア)のとおり、本件各画像は、 商品販売ページを見た顧客の購買意欲を高めるように、原告商品を用 いて調理している様子を撮影した写真や特長等を述べた文言、画像な どを配置した原告商品に特化した販売促進目的の画像であって、報道 写真とも、シャッターストック社やピクスタ社が提供する汎用性のあ るウェブサイト用の素材とも、性格及び目的が大きく異なる。また、 前記(ア)において説示したとおり、原告が第三者に本件各画像を利用許 諾することが想定されるのは、原告商品の正規代理店として、原告商 品の再販売契約に当たって販売促進資料として利用されるような場合 であるから、専ら写真、画像等の利用許諾に伴う使用料をもって収益 を上げるというビジネスモデルに基づき設定された使用料の水準が妥 当するともいい難い。これらの事情に照らせば、原告及び被告の双方 がそれぞれ指摘する画像レンタルサービスにおいて規定されている使 用料の水準が本件においてそのまま妥当するとはいえない。
その一方で、前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の再販売契 約に伴う販売促進資料との位置付けで利用許諾されることが想定でき るから、本件各画像の使用料のみによって本件各画像の取得費用を回 収したり、原告商品の再販売によって得られる利益を超えたりするよ うな高額な使用料が設定されるとは考え難い。
このほか、本件各画像は、報道写真のように高度の創作性を有して おり代替可能性が小さいとまではいえないものの、原告商品に特化し\nた販売促進資料として工夫して作成されたものであり(前記(ア))、相 応に創作性を有する著作物であること(前記1)、被告ストアにおける 販売商品数は11点であり、本件各画像の利用期間が約3か月間であ ったこと(前記(1))、本件各画像の利用に当たっての将来の使用料額 を定める場面ではなく、原告の許諾を何ら得ることなく本件各画像を 利用した被告に対する損害賠償を請求する場面での金額の算定である ことなどを総合考慮すると、本件各画像の使用料相当額は合計5万円 と認められる。
ウ 当事者の主張について
(ア) 原告は、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たり、いつも社に 本件各画像のデザイン制作料等として約700万円を支払ったことを考 慮すべきであると主張する。 しかし、原告がいつも社に委託したのは、ウェブサイト関連業務及び 検索エンジン最適化サービスであり、本件各画像の制作業務はその一部 を構成するにすぎないと認められるところ(甲12)、本件各画像のデザ\nイン制作のみに要した費用を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、本件各画像の使用料相当額の算定に当たって、原告が主 張する金額を考慮することはできない。

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令和4(ネ)265等  損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月14日  大阪高等裁判所

 共謀して、「YouTube」に投稿した動画を著作権侵害と通知して動画削除させた行為が、共同不法行為に当たるかが争われました。1審は、原告に約7万円支払えと、認定しました。被告が控訴し、原告も附帯控訴をしました。大阪高裁は、被控訴人(1審被告)に対して、約26万円の支払いを命じました。本件編み方動画については著作物性がないという判断は、共通ですが、損害賠償額が変わりました。1審は停止期間中の広告収入のみを認めたようです。

前記(2)のとおり、本件侵害通知は、いずれも法的根拠に基づかないもの であるが、前記(2)で述べたところに加え、上記(3)認定の各事実からすると、 以下に詳述するとおり、控訴人Bは、前記注意義務を怠った過失があるとい えるばかりか、著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるの であって、これにより、本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の 法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知 を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したもの として不法行為を構成するというべきである。
イ すなわち、控訴人Bの提出した本件侵害通知の記載内容をみるに、本件侵 害通知1は、前記(2)アのとおり、被控訴人メランジ動画につき「編み目(ス ティッチ)の著作権侵害」があるというものであって、編み目の著作物性を いう点において、その通知内容自体から著作権侵害が認められないことが明 らかなものである。
また、本件侵害通知2は、前記(2)イのとおり、被控訴人トリニティ動画の 「動画全体」につき「著作権、翻訳権の侵害」があるというものであって、 控訴人Bは、被控訴人トリニティ動画の口頭説明部分が控訴人動画1)〜3)の 口頭説明部分の著作権を侵害すると考えて本件侵害通知2を提出した旨陳述 しており(乙10、控訴人B本人)、本件訴訟においては、その旨主張する ようであるが(これ自体が法的に失当であることは前記(2)イのとおりであ る。)、被控訴人トリニティ動画が控訴人動画のうちいずれの動画のいかなる 部分の著作権を侵害したかにつき、明確かつ具体的な主張をしているもので はないこと、控訴人Bの陳述も、要は、被控訴人動画において控訴人動画に おける編み目の作り方が同じであることを中心に著作権侵害があった旨を述 べるものであること、本件侵害通知2が本件侵害通知1と同日にされている ことに加え、前記(3)の各事実にも照らすと、むしろ控訴人Bは、本件侵害通 知2においても本件侵害通知1と同様、本来、著作権侵害が認められない被 控訴人トリニティ動画が編み目の著作権を侵害したことを根拠として、著作 権侵害通知をYouTubeに提出したものと認めるのが相当である(この ことは、控訴人Bの陳述(乙10)によれば、被控訴人トリニティ動画の2 5分47秒間のうち、著作権侵害に該当する部分は3分43秒間にすぎない にもかかわらず、控訴人Bが、削除依頼ウェブフォーム(甲18)において、 タイムスタンプで該当箇所を特定することもなく、被控訴人トリニティ動画 の「動画全体」が著作権侵害部分に該当するとして本件侵害通知2を行って いることからも裏付けられる。)。したがって、本件侵害通知2も、その内 容において著作権侵害が認められないことが明らかなものというべきである。
ウ しかし、そもそも編み物の編み目に著作物性が認められないことは前記(2) アで説示したとおりであるし、前記(3)アによれば、控訴人Bは、むしろ動画 の著作物性の有無の判断には困難が伴うことをかねてから認識していたこと が認められる。また、著作権侵害が肯認されるには依拠性が必要であるが、 前記(3)エによれば、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たって依拠性を 検討した様子は全くうかがえない。 そればかりか、控訴人Bが本件侵害通知を提出するに当たり、著作権侵害 の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由\nを端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑さ せることに終始するものであるし((3)エ)、本件訴訟を提起された後におい てすら、控訴人らは著作権侵害を理由に裁判手続をとろうとしていないこと、 その他前記(3)で認定した本件侵害通知提出前後の状況をも考慮すると、控訴 人Bは、本件侵害通知を提出するに当たり、編み目の著作物性が肯定される には困難を伴うことを十分認識していたと認められるにもかかわらず、控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控\n訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人B の著作権を侵害するとの独自の見解を有し、この見解が法的に成り立つか否 かを検討することなく、すなわち、控訴人Bが著作権者等であることはもと より、著作権侵害通知の内容が正確であることについて検討することなく、 必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相 当である。
エ なお、控訴人らは、専門家であるJ弁理士及びK弁護士にも相談した上で、 本件侵害通知を行った旨主張するが、控訴人らが本件侵害通知当時に上記専 門家に著作権侵害に関する相談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠 はなく、また、仮に何らかの相談をしていたとしても、前記の本件侵害通知 の内容及び本件訴訟における応訴の内容に照らし、真摯な相談がされたもの ともおよそ考えられないから 、これによって控訴人Bが本件侵害通知を提出 するに当たって必要な検討をしたとは認められない。
オ そして、控訴人Bは、被控訴人に対する以外にも、本件侵害通知に相前後 して、他の複数のチャンネル開設者に対し、その投稿した編み物動画やアプ リケーション上での編み物作品の販売に対し、動画のコメント欄等に抗議を 書き込んだり、被控訴人に対すると同様に、編み目を含む編み方の模倣を理 由に一斉に複数の著作権侵害通知を提出したりすること((3)イ、ウ、オ)によ って、これらの者が、控訴人Bが動画で紹介している編み方と同じ編み方を 動画で投稿することを事実上抑止しようとしていたことがうかがわれる。 さらに、弁護士への依頼や著作権侵害警告に対する異議申立てを考えるようなチャンネル開設者に対しては、控訴人Bに加担する控訴人D又は控訴人\nB自身において、「一度痛い目見ないといけない」「詐欺で警察にも行けるお話」などと強迫的ともいえるメッセージを送信したり、独自の見解を一方\n的に押し付けるようなコメントを公表したりして((3)イ、オ、カ)、裁判手続 で著作権侵害の有無を明らかにするより、示談するよう強く求めていたこと も認められ、以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通 知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の 動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
カ 以上によれば、控訴人Bは、本件侵害通知をYouTubeに提出するに 当たって、単に自らが著作権者であることや、著作権侵害通知の内容が正確 であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件 侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえる ばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえ できるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控 訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵 害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害し たものとして不法行為を構成するというべきである
・・・
ア 前記2(1)アで説示したとおり、YouTubeは、インターネットを介 して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表\現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表\現の自由という人格的利益に関わるものであるといえ、控訴人Bによる違法な本件侵害通知により被控訴人動画が一方的に削除された ことにより、被控訴人はその人格的利益を侵害されたものと認められる。
イ そして、その削除期間が、令和2年2月6日から同年8月29日までの2 06日間に及ぶこと、被控訴人トリニティ動画の動画時間が25分47秒間、 被控訴人メランジ動画の動画時間が19分24秒間であって、テロップ挿入 や音声等の編集作業にも相応の労力、時間を要して作成されたものであるこ とがうかがわれること(甲56〜58)、被控訴人動画が投稿されたAのチ ャンネルには少なくとも1000人を超える登録者がいたことに加え、被控 訴人が、削除当日に、控訴人Bに対し、控訴人Bのどの動画の著作権を侵害 したことになるのか教えてほしい旨問い合わせたのに対して、控訴人Bは、 これに対する回答をしないばかりか(前記2(3)エ)、同年6月頃、Cのチャ ンネルにおいて、被控訴人に向け、本件侵害通知のことを取り上げて「2度 あることは3度ある、3度目は命取りです」などとのコメントを記載して、 控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネ ル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被 控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせ ず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認 められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかの ような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載し ていること(甲13、14、20、69〜77)など、本件に現れた一切の 事情を考慮すると、被控訴人が上記の人格的利益の侵害により受けた精神的 苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
ウ なお、被控訴人は、前記第3の5(被控訴人の主張)(2)イ、ウに記載す る、本件侵害通知による被控訴人チャンネル全体の収益性の低下及び視聴者 に対する信頼毀損による視聴数低下について、慰謝料算定に当たっての根拠 としても主張するが、被控訴人は、上記各事情によって被控訴人チャンネル の収益性の低下による経済的損害が生じたことをいうものであって、その損 害賠償の可否は、そのような経済的損害の発生が認められるか否かの立証に 係るものであり、損害の発生が不明な場合に前記イで認定したところを超え て慰謝料として損害賠償を認めることはできないというべきである。したが って、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 広告収益に関する経済的損害について
ア 被控訴人動画の広告収益の低下
被控訴人動画がYouTubeにおいて削除されていた期間は、前記のと おり令和2年2月6日から同年8月29日までの206日間であるところ、 証拠(甲31、32)によれば、被控訴人メランジ動画(投稿日は同年2月 3日)についての広告収益は、同年2月3日から同月6日までの4日間で合 計1463円(1日当たり365.75円)であったこと、被控訴人トリニ ティ動画(投稿日は令和元年8月1日)についての広告収益は、令和元年1 1月6日から令和2年2月6日までの93日間で合計1766円(1日当た り18.98円)であったことが認められる。
被控訴人トリニティ動画の削除により被控訴人が失った広告収益は、上記 のとおり1日当たり18.98円として算出するのが相当と認めるが、被控 訴人メランジ動画の上記収益単価は、投稿直後の4日間の広告収益に基づく ものである。広告収益は動画の視聴数等によって変動し得るところ、一般的 に、新たに投稿された動画の方が視聴者の耳目を集めやすく、投稿直後は視 聴数が多く、その後時間が経過するにつれて逓減する傾向があること自体は 否定し難いこと、編み物の編み方に関する動画の視聴は、季節柄、夏場には 視聴数が低くなる傾向がうかがわれ、通年で一定しているとはいい難いこと (甲83の1〜5)からすると、被控訴人メランジ動画の広告収益は、削除 後の当初30日間は1日当たり350円、その後は、被控訴人トリニティ動 画との対比を考慮して、1日当たり20円として被控訴人の損害を算定する のが相当と認める。
そうすると、本件侵害通知による被控訴人動画の削除により被控訴人が被 った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98 円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日−30日〕)。端数 切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、被控訴人動画の削 除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。\n
イ 被控訴人チャンネル全体の収益性の低下等 被控訴人は、被控訴人動画が本件侵害通知によって削除されたことは、被 控訴人チャンネルのステータスに影響を与え、被控訴人チャンネルの動画が 視聴者の画面に表示されにくくなったり、広告単価が低下したりするなどの不利益を生じさせ、被控訴人チャンネル全体の収益性を低下させている旨主\n張し、また、被控訴人チャンネルに対する視聴者の信頼が著しく低下し、視 聴数が減少して収益性が低下した旨主張する。
しかし、「YouTubeヘルプ」(甲8)において、著作権侵害の「警 告を複数回受けると収益化に影響を及ぼすおそれがあります。」との記載が されているものの、どのような場合にいかなる仕組みによって収益化に影響 を及ぼすかについては必ずしも明確になっているとは認められない。また、 被控訴人が影響を受けたとする被控訴人チャンネル全体の収益について、本 件侵害通知がされる前後、さらに被控訴人動画の復元後といった各時点の収 益が具体的にいかなるものであったかを認めるに足りる証拠は何ら提出され ておらず、被控訴人から数値を示すなどした具体的主張もされていない。Y ouTubeにおいては、各動画の収益に関する分析情報は期間を区切って 画面上に表示させることが可能\である(甲31、32、83の1〜5)から、 本件侵害通知がされる前後、被控訴人動画の復元後といった各時点で動画の 視聴数、収益等にいかなる変動があるかを立証することは容易であると認め られるにもかかわらず、被控訴人動画ないしチャンネルについてそうした立 証が全くされていないことに照らすと、本件侵害通知による被控訴人動画の 削除により被控訴人のチャンネル全体の収益性が低下するなどして被控訴人 が経済的損害を被ったとは認めるに至らないというべきである。

◆判決本文

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令和4(ネ)10024  映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。1審は、原告の請求棄却、知財高裁も同じ判断です。

ア 控訴人らは、同一性保持権侵害の被侵害利益は、著作者の名誉感情であ るとし、被控訴人Yが、慰安婦問題というデリケートな問題を扱った本件 利用映像等5の一部を切り出し、音声を削除し、ナレーションを加えるこ とは、控訴人X2が客観的証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない かのような印象を与えかねないし、また、本件利用映像等6は、控訴人X 2が著作者である本件外部映像等6のうち、日本における人種差別につい てことさらに騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されてい て、控訴人X2が、日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判し ているかのような印象を与えかねないから、いずれも通常の著作者であれ ば名誉感情を害されるものであり、控訴人X2の同一性保持権を侵害する 旨主張する。
イ しかしながら、仮に同一性保持権侵害の被侵害利益に著作者の名誉感情 が含まれるとしても、それによっておよそ一切の改変が著作者の名誉感情 を侵害し、同一性保持権の侵害となると解すべき根拠はなく、著作物の性 質や利用行為の態様等を考慮して、同一性保持権侵害の有無を考慮すべき である。
本件利用映像等5、6は、ユーチューブ上の映像である本件外部映像等 5、6の一部である。ユーチューブ上の映像は、無料でいつでもだれでも 閲覧することができ、どの映像を見るかはもとより、映像の全部を見るの か一部を見るのか、映像のどの部分を見るのかを、閲覧者が自由に選択し て見ることができるという性質を有する。 本件利用映像等5、6は、本件利用映像等2、3の後、本件利用映像等 4が3秒間表示された後に表\示されるものであるところ、本件利用映像等 2、3には、左上部に「YouTube」という表示があり、「X2´」という著作 者名が表示されており、被控訴人Yは、本件利用映像等5に先立って、イ\nンターネット上の投稿でビデオを見つけた旨のナレーションを入れてお り、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、 控訴人X2の氏名、本件外部映像等5、6の題名、ユーチューブに投稿され た動画であることの記載があるから、本件映画1を見る者にとって、本件 外部映像等5、6がユーチューブ上の映像の一部であることは明らかであ り、著作者名や題名から本件外部映像等5、6を検索することは容易に可 能である(乙38)。\n
本件利用映像等5、6は、被控訴人Yが慰安婦問題に関心を有するよう になったきっかけとなった動画を作成した人物であり、本件映画1中のイ ンタビューの対象ともなっている控訴人X2がどのような人物であるかを 紹介することを目的とするものであり、控訴人X2の主張を誤って伝えるも のであるとは認められない。 その他、原判決第3の9(1)イないしエ(原判決68頁19行目から70 頁14行目まで)、同(2)イないしエ(原判決70頁23行目から72頁9行 目まで)に記載された事情も考慮すると、被控訴人らが本件利用映像等5、 6を利用して本件映画1を製作、上映することは、控訴人X2の名誉感情を 害するとは認められず、本件利用映像等5、6の作成は、いずれも「やむ を得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、控訴人X 2の著作者人格権を侵害するものとは認められない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和1(ワ)16040

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