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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

著作権その他

令和3(ワ)24148  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月24日  東京地方裁判所

 著作権侵害として、発信者情報の特定のための裁判費用も含めて242万円の損害賠償が認められました。引用であるとの主張は否定されました。

被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法 32条 1項)に当たる旨を主張する。しかし、証拠(甲 7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約 30 枚〜60 枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を 1 行〜数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URL のみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1 個〜数個張り付けたり、1 行〜数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行〜二十\数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用 して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではあ る。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約 30 枚〜60 枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおい て最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要 約等とが相まって、4分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略 を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最\n後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。 以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利 用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるもの であり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。 したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法 32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 争点(2)(時事の事件の報道の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事における本件各動画の利用は、社会において有用で 公衆の関心事となりそうな新しい事業を計画している一般企業家が存在す る事実及びその事業計画に対する投資家の判断・評価という近時の出来事 を公衆に伝達することを主目的とするものであり、時事の事件の報道(法 41 条)に当たる旨を主張する。 しかし、そもそも、本件各動画は、その内容に鑑みると、一般企業家が 投資家に対して事業計画のプレゼンテーションを行い、質疑応答等を経て、 最終的に投資家が出資の可否を決定するプロセス等をエンタテインメント として視聴に供する企画として制作されたものというべきであって、それ 自体、「時事の事件」すなわち現時又は近時に生起した出来事を内容とする ものではない。本件各記事は、前記認定のとおり、このような本件各動画 の内容全体の概略を把握し得るものであると共に、これを視聴した被告の 概括的な感想をブログで披歴したものに過ぎず、その投稿をもって「報道」 ということもできない。 したがって、本件各記事は、そもそも「時事の事件の報道」とは認めら れないから、適法な「時事の事件の報道のための利用」(法 41 条)とはい えない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 争点(3)(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極 的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を 享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使する ことは権利の濫用に当たる旨を主張する。 しかし、証拠(甲 29)及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切 り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを 通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネ ルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配 すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリ エイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の 全趣旨によれば、被告は、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受 けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、 被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当 たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を基礎付けるに 足りる事情はない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャ プチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 映像からキャプチャした写真の使用料
NHK エンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素 材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料に より定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合も ある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は 5000 円(ライセンス期間 3 年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、 「国内撮影」の場合、1 カットあたり 2 万円とされている(甲 12)。 なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表して\nいるが(乙 12)、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用 に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照 対象とすることは相当でない。
(イ) 映像の使用料
・・・・
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告へ の収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その 他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本 件各動画の利用許諾の実績はない(弁論の全趣旨)。そこで、原告が本件各 動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料 に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。 被告による本件各動画の使用態様は、本件各動画をキャプチャした本件 静止画を本件各記事に掲載したというものである。そうすると、その使用 料相当額の算定に当たっては、映像からキャプチャした写真の使用料を定 める NHK エンタープライズの規定(上記ア(ア))を参照するのが相当とも 思われる。もっとも、当該規定がこのような場合の一般的な水準を定めた ものとみるべき具体的な事情はない。また、本件各記事は、いずれも、相 秒以上の部分について 500 円(いずれも 1 秒当たりの単価)である(甲 21)。
・・・
当数の静止画を時系列に並べて掲載すると共に、各静止画に補足説明を付 すなどして、閲覧者が本件各動画の内容全体を概略把握し得るように構成\nされたものである。このような使用態様に鑑みると、本件静止画の使用は、 映像(動画)としての使用ではないものの、これに準ずるものと見るのが むしろ実態に即したものといえる。
そうである以上、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金 銭の額に相当する額(法 114 条 3 項)の算定に当たっては、映像の使用料 に係る各規定(上記ア(イ))を主に参照しつつ、上記各規定を定める主体の 業務や対象となる映像等の性質及び内容等並びに本件各動画ないし原告チ ャンネルの性質及び内容等をも考慮するのが相当である。加えて、著作権 侵害をした者に対して事後的に定められるべき、使用に対し受けるべき額 は、通常の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを踏まえると、 原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額 (法 114 条 3 項)は、合計 200 万円とするのが相当である。
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべ き金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前 提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3 万円)のうち本件各記事にお いて静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受 けるべき金銭の額である旨を主張する。 もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場にお ける評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、 その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格が その上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張 は、そもそもその前提を欠く。 したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告 の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。本件においては、前提事実(5)のとおり、原告は、弁護士費用を含め発信者情報開示手続に係る費用として 167 万 440円を要したが、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮すると、このうち20万円をもって被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。

◆判決本文

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令和4(ネ)10033  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年11月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 著作権侵害に関する発信者情報開示請求事件です。1審は、ツイート時のログイン時のIPアドレスに加えてそれ以外のツイート時のIPアドレスも、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断しました。これに対して、知財高裁は、「本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由有り」と、変更しました。

法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の 侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密\nに配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通 信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求す ることができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の\n権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1 049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照) に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示 の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙した ものと解される。以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2) 認定事実
前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれ ば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を 利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用 して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利 用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、 本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用し て、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア) 被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴 人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和\n2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1 にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン 時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全て の開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされ た。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立\nてをし、同月25日、起訴命令が発せられた。 また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者 とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)\nをし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報 の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示 を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。 その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てを\nし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ) 被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、 原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、 アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更を した。
(ウ) 被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申\n立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。 また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求め る申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。\n
(エ) 原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月2 0日、原判決を言い渡した。 その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ) 控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1に ついて、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12 日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分5 0秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、ア カウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和 2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年 12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年1 2月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3) 本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について ア 省令5号及び8号の意義について (ア) 1)前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アド レス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したもの であること、2)前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使 の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、 発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘 密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にと って有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえ ない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このこと は、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様 であること、3)省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮する と、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の 送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に 使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために 必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた 電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑み ると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令 5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその 送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相 当である。
(イ) これに対し、被控訴人は、1)ツイッターにおいては、そのセキュリ ティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高 い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログイ ンをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、 法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュ リティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投 稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求 められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のI Pアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に 該当する、2)本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないこと は、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し 違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」し なければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反す るから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13 条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的 に開示すべきである、3)令和4年10月1日に施行される規則において は、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿 そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から\n閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象 の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求め ておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開 示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令にお いても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同 一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないと いうべきである旨主張する。
しかしながら、1)及び2)については、法4条1項の委任を受けた省令 1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定 に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で 説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に 関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を 特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当で あり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、 「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又 はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解する のが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であ れば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当 該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。 そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害 者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示すること が相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考え られ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報 であっても同様である。
また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、 被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利が あると解することもできない。 次に、3)については、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」につ いて規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定め る識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号 その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する 侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報 の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定 しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、 侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵 害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっ ているとまでいうことはできない。

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令和4(ネ)10019  発信者情報開示請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年10月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審は、同一性保持権侵害と判断しましたが、知財高裁(2部)は「引用」に該当し、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断しました。リツイート最高裁判決(最判令和2年7月21日)とは結論、逆ですが、あの事件はリツートの元自体の侵害があったので、その意味では、事案が異なります。

イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当 たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、1)公正 な慣行に合致し、2)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ るものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア) 本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件 被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆ るーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と の文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙 1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、 本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、 本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみ ると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているも\nの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複 数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)\nがあり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)と ともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タ イムライン表示目録記載1のとおり表\示されるなどしており、上記4枚の画像デー タは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じ\nて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1\n−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。\n
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2 枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1で あり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認めら れるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の 2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要で あり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されている\nということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴 人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を 検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重\nね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用され\nているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを 操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者を して、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃 さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿 画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3\nでは本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表\示方法は、 2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較 するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜で かつ客観性を担保することができるものであるということができる。 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作 成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、 本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がさ れているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、 前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるの が相当である。
(ウ) 証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)に よると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラ スト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、1)問題とな るイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又 は比較に必要な部分において示すことや、2)2枚のイラストを重ね合わせて示すこ とは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、 本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ 客観性を担保することができる手法であるということができる。 上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1− 1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、 本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な 慣行に合致しているということができる。
(エ) そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引 用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権 利侵害の明白性」は認められない。
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、1)本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿 画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを 重ね合わせたものであり、また、2)ツイッターのタイムライン上に表示された本件\nツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成の イラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変\n又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、1)については、著作物がイラストであって重ね合わせて用い ることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できること に加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを 得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、2)についてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・ 2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッタ\nーの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるもの\nであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、 どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツ\nイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表\ 示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧 したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリック すると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変\n主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみ\nとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」 に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保 持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。

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1審はこちら。

◆令和2年(ワ)24492号

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令和4(ワ)12062 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 令和4年11月17日 東京地方裁判所

 ファスト映画の配信について総額5億円の損害賠償が認められました。計算は、ライセンス相当額(著作権法114条3項)です。賠償額を含めて被告は原告の主張を全て認めてます。原告は13名であり、合計するとちょうど5億円というのは偶然なのでしょうね。

弁論の全趣旨によれば、YouTubeの利用者がYouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2)YouTubeにおける本件各映画作品の各レンタル価格(HD画質のもの)は、1作品当たり400〜500円程度であり、400円を下らないこと、うち30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2時間の本件各映画作品を10〜15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が700万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法114条3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数1回当たり200円とするのが相当である。

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令和4(ネ)10011  商号使用差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年9月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 会社名を示すロゴについて著作物性無しと判断されました。原審の最後に問題の標章があります。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学\n術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そ して、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構\成される標章 は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用され るものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべ きものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮し て、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認 識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかける\nか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構\成するこ とが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているもので あるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が 発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するも\nのとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得ると\nしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識 別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体\nが、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視\nし得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならない というべきである。
・・・
商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた\n顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能と\nいう実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美 的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作 権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。
ア 控訴人は、Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた 美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したい\nと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人 標章には個性があり著作物性があると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人 の主張〕ア)。 しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業 に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどし て「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらに そのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「AN\nOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴 人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」 の読みである「アノワ」とし、ドメイン名を「ANOWA」を含む「AN OWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって、Bが控訴人標章を模倣したと認めることはできず、控訴人 の上記主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
イ 控訴人は、不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるか ら、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護す べきであると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕イ)。 しかし、Tシャツの柄が不正競争防止法による保護の対象となる場合が あるとしても、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するもの\nであるから、著作権法によって当然にデザインの全てが保護されるべきで あるとはいえないし、標章は、Tシャツのデザインと性質を異にするもの であるから、控訴人の上記主張に基づいて、控訴人標章が著作権法により 保護されるということはできない。
ウ 控訴人は、控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタ イプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号 と一致するアルファベットを強調していること、文字は誰でも使用できる ものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはな りえないとする合理的理由はないことを主張する(前記第3の2(1)〔控訴 人の主張〕ウ)。 しかし、控訴人標章は、標章としての機能を発揮させるためにどのよう\nに構成することが適切かという実用目的のために工夫がされているもの\nであり、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されて いるものとは認められないから、美術その他の範囲に属する著作物には該 当しないものというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはでき ない。
エ 控訴人は、控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、 ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法 の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきであると主 張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕エ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、ポス ターと等価値であるとはいえないから、控訴人の上記主張は、採用するこ とができない。
オ 控訴人は、控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあ ることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣して\nも著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)である が故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなけれ ば著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定 義に反すると主張する(前記第3の2(1)〔控訴人の主張〕オ)。 しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商\n標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品 制作の図又は絵や漫画とは性質を異にするから、控訴人の上記主張は、採 用することができない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆令和2(ワ)19840

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令和3(受)1112 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件 令和4年10月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 知的財産高等裁判所

 音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は「後者は公衆への演奏、前者は公衆への演奏ではない」と判断しました。最高裁は、「生徒の演奏は演奏権侵害にはならない」と、知財高裁の判断を維持しました。

2 本件は、被上告人らが、上告人を被告として、上告人の被上告人らに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求める事案である。本件においては、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるか否かが争われている。
3 所論は、生徒は被上告人らとの上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており、被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに、被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
4 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。 そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。 なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

◆判決本文
控訴審はこちら

◆令和2年(ネ)第10022号
1審はこちら

◆平成29(ワ)20502等

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令和3(ワ)30051  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和4年9月28日  東京地方裁判所

 放送局における番組中のナレーションが原告ブログに依拠しているかについて、著作物性を立証していないとして、著作者人格権による損害賠償請求が棄却されました。興味深いのは、被告が、既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章をウェブサイトにて掲載している点です。

原告は、被告によって、原告文章を無断転載して制作した本件番組が放送 されたことにより、原告の名誉が毀損される可能性が生じて、原告の平穏な\n日常を阻害され、原告が、これに対応するために金銭的及び時間的な負担を 負い、精神的苦痛を被り、人格権が侵害されたとして、不法行為に基づく損 害賠償を請求するものと理解することができる。そこで、この理解を前提に、 被告による本件番組の放送が原告の「権利又は法律上保護される利益を侵害 した」(民法709条)といえるか否かについて検討する。
前記前提事実(2)及び(3)のとおり、被告が原告文章に依拠して本件ナレー ション等を作成した結果、本件ナレーション等は、原告文章と類似しており、 原告文章中の「以下省略」といった比較的特徴のある表現についてもほぼ同\nじ内容となっている。そして、被告が、本件番組において本件ナレーション 等を流すことについて、原告から事前の了解を得ていたことや、本件番組を 放送するに当たり、原告文章が掲載されている原告ウェブサイトを参照した 旨を表示したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の上記行\n為は、公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない。
また、原告が主張するように、原告ウェブサイト中の文章は、分かりやす く面白いものとなるように配慮され、独自性を有していると評価し得ること や、被告が放送法で定められた公共の放送事業者であることからすると、本 件番組を視聴した者が、原告文章を見たとき、被告が無断転載をするはずが ないと考えて、むしろ原告ウェブサイトの方が無断転載をしていると疑う可 能性を否定することはできない。しかし、前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件番組が放送された4日後には、本件番組に係るウェブサイトにおいて、本件ナレーション等が既存の文章をほぼ転載したものであることを謝罪する旨の文章を掲載しており、こ れは、上記のような誤解が生じることを防止し得る措置であるといえる。そ して、本件全証拠によっても、実際に、上記のような誤解が広まったとは認 められない。しかも、名誉毀損が成立するためには、人の社会的評価を低下 させる事実を摘示することが必要であるところ、将棋の対局マナーについて 述べた本件ナレーション等において、原告の社会的評価を低下させる事実が 摘示されたとは認められない。そうすると、原告の主張する名誉毀損の可能\n性については、いまだ抽象的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また、原告の主張に係る平穏に日常生活を送る利益について、上記のとお り、原告の懸念する誤解が実際に広まったとは認められず、原告の名誉が毀 損される可能性も抽象的なものに留まることに照らせば、被告に対する損害\n賠償請求を可能とする程度に、原告の平穏な日常生活が害されたということ\nはできず、不法行為の成立要件である「権利又は法律上保護される利益」の 「侵害」を認めることはできないというべきである。 なお、被告が原告文章と類似する本件ナレーション等を含む本件番組を放 送したことが原告の権利を侵害するかは、本来、原告文章に著作物性が認め られ、原告文章に係る原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたと認めら れるかという観点から検討すべきであるということができる。しかし、原告 は、本件訴訟において、著作権及び著作者人格権が侵害されたことを主張し ないとしていることから、その要件についての具体的な主張立証がされてい ないため、著作権侵害及び著作者人格権侵害の事実を認めることはできない。 (2) 以上によれば、本件番組の放送により、原告の人格権が侵害されたとは認 められず、また、原告文章に係る原告のそのほかの権利が侵害されたと認め

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令和1(ワ)16040  映画上映禁止及び損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  東京地方裁判所

 インタビュー形式の映画「主戦場」について、著作権侵害(人格権を含む)に基づいて差止などを求めました。パブリシティの権利の侵害、修士卒論と聞いて了承したが商業映画だったとか、修正主義者のように紹介されたなどの事情もあるようです。裁判所は、原告の請求を認めませんでした。

原告らは,被告Fは,政治プロパガンダ映画である本件映画1を制作し, これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにも関わらず, あたかも真摯な学術研究目的であるかのように装うなど前記第2の4(14)(原 告らの主張)のとおり欺罔行為を行い,原告らをその旨誤信させて原告らに\n取材に応じるという役務を提供させたと主張する(争点7)関係)。また,原 告らは,本件各許諾について,被告Fは,原告らに対する取材映像を利用し て商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが,原告らに対しては, これを秘し,上智大学大学院の修士課程の一環である卒業制作のための真摯 な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため,原告らはそ\nの旨誤信して,本件各書面を作成したものであり,本件各書面による本件各 許諾は,詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない旨主張する(争点1)−2 関係)。
以下,原告ら主張の被告Fの欺罔行為の有無について,検討する。\n
(2)ア 原告らは,大学院生である被告Fから,卒業制作として大学院に提出す るドキュメンタリー映画の製作に協力してほしいと頼まれたことや,製作 された映画が商用映画になるとは説明を受けていなかったことから,取材 に協力し,また,本件各映像の利用について本件各許諾をした旨の供述等 をする(原告C,原告D,原告E,甲6,7,35〜38,41)。
イ 被告Fが,原告らに対して取材に協力するよう求めた際の説明の内容等 は,原告Eについて前記1(2)ア,原告Cについて同(3)ア,原告Dについて 同(4)ア,原告Bについて同(5)ア,原告Aについて同(6)アのとおりである。 被告Fは上記の際,上智大学大学院の学生であることを述べて,「歴史 問題の国際化」についてドキュメンタリーを作成していてそのために取 材をさせてほしいことを述べた。また,その際,それが学術研究である こと,卒業プロジェクトであることを述べたりもしたこともあった。
(3) ここで,被告Fは,前記依頼の当時,実際に上智大学大学院の学生であっ て,修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を作成す ることとし,その映画ではこの問題において重要な役割を果たしていると考 えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し(前記\n1(1)),この問題において重要な役割を果たしていると考える原告らへの取 材を行い,その際の映像である本件各映像を用いて,本件卒業制作映画を完 成して,これを修士論文に代わるものとして上智大学大学院に提出した(同 (7))。そして,被告Fは,本件卒業制作映画に,音楽,アニメーション,字 幕等を追加し,一部を訂正するなど,軽微な編集を加えて鑑賞性を高めて本 件映画1としたものであり,本件映画1は,本件卒業制作映画と,内容,構\n成において同じであって(前同),本件各書面にいう被告Fが製作する「歴 史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」(前記第2の2(2)イ)に該 当する。
被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭に応募すること を視野に入れてはいたが(この点は後記(4)で検討する。),上記のとおり, 本件各映像を利用して被告Fが製作した映画である本件卒業制作映画は,実 際に修士論文に代わるものとして大学院に提出されたのであり,本件映画1 も本件卒業制作映画と内容,構成において同じものである。したがって,被\n告Fが,原告らに取材を依頼したり本件各書面の作成を求めたりした際に, 上智大学大学院の学生として行うものであり,学術研究として作成されるも のであることを述べるなどしたこと自体は,被告Fが虚偽を述べたとはいえ ない。
(4) 被告Fは,当初から良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募するこ とも視野に入れていた。もっとも,原告らに取材をした時点では,具体的な 映画の配給が決まっていたわけではなく,その後,本件映画1を応募したも ののその上映を断った映画祭もあった(前記1(1),(7))。被告Fは,原告E及び原告Dに対しては,同原告らが,被告Fの開設するユーチューブチャンネルの登録者など欧米の視聴者や研究者,学術世論に対して意見を発信できる場所を提供したいなどとして取材を申し込んでおり(同(2)ア,(4)ア),本件映像が大学への提出以外にも使用されることがあることを述べていた。そして,被告Fは,原告E,原告B及び原告Aとの間では「被告F又はその指定する者が,日本国内外において,映画を配給,上映,展示若しくは公共に送信し,又は,映画の複製物を販売,貸与することができる」旨が記載されている書面を,原告C及び原告Dとの間では「映画の公開前に,同原告らに確認を求める」旨が記載されている書面を交わした(本件各書面)(前記第2の2(2)イ,前記1(2)〜(6))。
原告らが署名押印した本件各書面は,文言上,被告Fが製作する映画につ いて,「配給」,「上映」,「販売」されることがあることや,「公開」さ れることがあることを前提とするものである。原告C書面及び原告D書面は, 原告Cが当初被告Fが示した承諾書案への署名を留保したり,原告Dが過去 にメディアから特定の観点だけを切り取られたりしたことなどを述べて被告 Fと合意書案の修正についてのやりとりをした上で,原告C及び原告Dが署 名押印したものであり,映画が公開される場合における被告Fの義務等が具 体的に定められているものである。本件各書面の上映や公開が,商用として の上映,公開を含まないことをうかがわせる記載はない。 そして,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各書面へ\nの署名押印を求めるに当たって,本件各映像を利用して製作する映画が一般 に,場合によっては商用として,公開される可能性が排除されると述べたこ\nとは認められないし,被告Fがその可能性を秘匿したと認められる状況も認\nめられない。
また,その後,被告Fは,本件各映像を利用して製作した本件映画1が映 画祭で上映されたり,日本国内で上映されたりすることについて,自ら事前 に原告らに知らせていた。すなわち,被告Fは,平成30年9月30日には, 本件各映像を利用して製作した本件映画1が釜山国際映画祭において上映さ れる予定であること,将来日本と韓国で更に上映される可能\性があることを 各原告に対して告知し,平成31年2月28日には,本件映画1が日本国内 において上映される予定であることを,各原告に対し事前に告知した(前記\n1(8))。そして,上記の告知に対して,いずれの原告らからも一般に又は商 用として公開されることについて許諾をしていないなどとの抗議がされるこ とはなかった。むしろ,原告D及び原告Bは被告Fに対し祝意を表し,原告\nDは試写会に参加し(同ウ,エ),原告Aは,ツイッターに本件映画1の日 本国内における公開等を宣伝する好意的な投稿をしたほか,試写会に参加し て毎日新聞社の取材に感想を述べるなどした(同オ)。その後,原告らは, 本件映画1の上映中止を求めるようになったが,それは,本件映画1が日本 国内において上映されるようになり,原告らがそれぞれ本件映画1を鑑賞し その内容を認識した後,又は,その内容を認識してから少し経過した後であ る平成31年4月から令和元年5月頃からである(同(8),(9))。
以上のとおり,被告Fは,原告らに取材を依頼した際,製作した映画を映 画祭に応募することも考えていたが,具体的な映画の配給についての話はな かったところ,原告らとの間でも,取材の結果を一般に公開する話が出たこ ともあった。また,原告らと被告Fとの間の本件各書面には,製作した映画 の配給,上映や公開についても記載されていた。本件各書面に記載された映 画の上映や公開が商用での公開を含まないことをうかがわせる記載もない。 被告Fが,取材の依頼の際や本件各書面への署名押印の依頼に当たり,商用 を含む公開の可能性を排除したり,その可能\性を秘していたりしたとは認め られない。また,被告Fは,映画祭や日本国内での本件映画1の上映に先立 ち,その上映を原告らに告知し,原告らもそれに抗議をすることはなかった。 これらによれば, 被告Fが,製作した映画が原告らに対する取材の時点 から一般に,場合によっては商用として公開されることがあることを秘して いたということはできず,被告Fが原告ら主張の欺罔行為を行ったとは認め\nられない。原告らは,本件各映像を利用して製作される映画が一般に,場合 によっては商用として公開される可能性をも認識した上で,被告Fに対し本\n件各許諾をしたものと認められる。
(5) 以上によれば,被告Fが,原告らに対して取材を申し込み,また,本件各\n書面への署名押印を求めるに当たって,原告らが主張する欺罔行為によって\n原告らを欺罔したとは認めるに足りず,本件各許諾をするに当たって原告ら\nに錯誤があったとも認めるに足りない。 したがって,本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であ\nるか(争点1)−3),及び,被告Fが,原告らを欺罔して取材に応じるとい\nう役務の提供をさせたか(争点7))について,原告らの主張には理由がない。

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令和4(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和4年6月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 違法ダウンロードサイト「漫画村」に広告を出していた広告代理会社に対して、1審では、1100万円の損害賠償が認められました。知財高裁も同様の判断をしました。

ア 争点1−1(本件行為の幇助行為該当性等)について
・・・
a 控訴人らは、本件行為が本件ウェブサイトの運営者側に対して著作権侵害行 為自体を直接誘発し、又は促進するものではないから幇助行為には当たらないと主 張するが、訂正して引用した原判決の第3の1(2)アのとおり、広告料収入をほとん ど唯一の資金源とするという本件ウェブサイトの実態を踏まえると、本件行為は、 本件ウェブサイトの運営者において、原告漫画のうち既にアップロードしたものの 掲載を継続するとともに、さらにアップロードする対象を追加することを直接誘発 し、また促進するものというのが相当であるから、控訴人らの上記主張は採用する ことができない。 上記に関し、控訴人らは、幇助の適用範囲が広がりすぎて不当であるとも主張す るが、本件ウェブサイトの上記実態を無視して一般論として幇助の範囲が拡大され ることを前提とした主張にすぎず、また、客観的に幇助行為に該当することから直 ちに幇助行為について不法行為責任を問われるものでもないから、控訴人らの上記 主張も前記認定判断を左右するものではない。
b 控訴人らは、本件行為が既にアップロードされていたものについて、公衆送 信権の侵害行為を助長する行為とはいえないと主張するが、訂正して引用した原判 決の第3の1(2)アのとおり、上記主張も採用することができない。また、本件行為 を幇助行為とみることは本件ウェブサイトの運営自体を公衆送信権侵害行為と捉え ることである旨をいう控訴人らの主張や、平成13年最判で認められた幇助の解釈 と整合しないとの控訴人らの主張も、本件において判断の前提とすべき事情の理解 を誤るものであって採用できない。
c 控訴人らは、控訴人らが支払っていた広告料が本件ウェブサイトの運営者の 広告料収入のわずかな割合しか占めるものでなかったと主張するが、同主張の前提 となる割合を証拠上直ちに認めるに足りるかという点をおくとしても、前記のよう に広告料収入がほとんど唯一の資金源であったという本件ウェブサイトの実態に加 え、当該実態に照らすと、最終的に本件ウェブサイトの運営者に支払われる広告料 の金額の多寡にかかわらず広告を本件ウェブサイトに提供するとの行為自体が同運 営者による著作権侵害行為を助長するものであったというべきこと(なお、甲7及 び弁論の全趣旨によると、ウェブサイトの運営者に支払われていた広告料は、掲載 した広告の数等、広告の量によって単純に定められるものではなく、広告として掲 載された商品の広告を見た利用者が商品を購入したことが支払額に影響するなど、 広告の提供の程度と広告料の支払額は直接的に対応するものではなかったことがう かがわれる。また、広告主が拠出した広告料から広告代理店が差し引く手数料等の 額が多くなればなるほど、ウェブサイトの運営者に支払われる広告料が少なくなっ ていたことも容易に推測される。)のほか、後記イで認定判断する控訴人らの主観 的態様に照らしても、控訴人らが主張する前記の事情は、共同不法行為者間の求償 に係る問題にすぎず、被控訴人に対する不法行為責任がないことを基礎づける事情 にはならないというべきである。
・・・
イ 争点1−3(控訴人らの故意又は過失の有無)について
・・・
「(ア) まず、1)平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源と なっていることが大きな問題とされ、広告配信会社の多くにおいても一定の方法で 広告を出したサイトに違法な情報が掲載されていないかを調べるなどの手段を講じ ていたことや、官民共同の取組として、海賊版サイトを削除するという対策を継続 的に行うほか、周辺対策として広告出稿抑止にも重点的に取り組んでいくことが確 認されていたことが指摘できる。そのような状況において、2)本件ウェブサイトに ついては、平成29年4月までの時点で、登録不要で完全無料で漫画が読めるとさ れるサイトであり、検索バナーが必要な程度に大量の漫画が掲載されていることが 一見して分かる状態にあったもので、ツイッター上でも、違法性を指摘するツイー トが複数されていたところであった。また、3)本件ウェブサイトについては、遅く とも平成29年5月10日時点において、日本の著作物について、著作権が保護さ れないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となってい た。 控訴人エムエムラボは、「MEDIADII」を利用して本件ウェブサイトに広告 の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、運\n用チームにおいて、それらを含む情報に基づいて登録の可否を審査して承諾し、手 動で広告の配信設定をしたものであるところ、前記1)〜3)の事情を踏まえると、遅 くとも平成29年5月までの時点で、控訴人らにおいては、本件ウェブサイトに掲 載された多数の漫画が著作権者の許諾を得ることなく掲載されているものであるこ とや、そのように違法に掲載した漫画を無料で閲覧させるという本件ウェブサイト が広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、それゆえ控訴人らが本件 ウェブサイトに広告を提供し広告料を支払うことは本件ウェブサイトの運営者によ る著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを、容易に推測することができた というべきである。
そうすると、控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの 運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義 務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MED IADII」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIA DII」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応 すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為 を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。 上記に関し、控訴人らが平成29年5月時点で上記の注意義務を怠り、その後、 安易に本件行為を継続的に遂行していたことは、控訴人グローバルネットが海賊サ イト対策の取組を推進していたJIAAの会員であり、また、「MEDIADII」 の利用規約によると本件ウェブサイトが第三者の著作権を侵害するものである場合 にはその利用に係る契約を解除し得る旨が定められていたにもかかわらず、その後、 同年10月31日に控訴人らの取引先に係る違法サイト「はるか夢の址」の運営者 の逮捕が報道されたり、本件ウェブサイトの違法性が社会的により大きく取り上げ られ、平成30年2月2日には取引先から本件ウェブサイトが海賊版サイトである と記載した上での問合せを受けたといった事情があった中でも、控訴人らにおいて、 本件ウェブサイトへの「MEDIADII」を利用した広告の提供等の当否について 検討したことが一切うかがわれず、かえって、取引先に対し、「漫画村」という名 称を明記しつつ、同年3月2日には本件ウェブサイトへの広告の掲載が可能である\nと回答したり、同月23日には広告の効果がいいという根拠の一つとして本件ウェ ブサイトの保有を挙げたりしていたもので、ようやく同年4月13日に本件ウェブ サイトを名指ししてブロッキングを行うという方針を政府が表明して以降に初めて\n本件ウェブサイトへの配信停止の検討を開始したといった事情によっても裏付けら れているというべきである。」

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令和3(ワ)23928  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年4月15日  東京地方裁判所

 写真がトリミングされてSNSに投稿されたことが、同一性保持権および氏名表示権侵害として、約24万円の損害賠償が認められました。複製・公衆送信権侵害などは争われていません。

 前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」(著作権法10条1項8号)に該当するから、原告は、原告写真1及 び2に係る同一性保持権を有するところ、前記前提事実(3)のとおり、被告は、 原告写真1の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真1を、 原告写真2の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真2を、 それぞれ作成したものである。 したがって、被告は、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害 したと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、イ ンスタグラムの仕様に合わせて正方形にトリミングしたものであり、原告写 真1及び2の創作性及び特徴を害したものではないし、「やむを得ないと認 められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当すると主張する。 そこで検討するに、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行す る様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を 配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮\n影されたものであり、これらの点について創作性を認めることができる。そ して、被告写真1及び2は、上記のような原告写真1及び2の上下左右をト リミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取っ たものである。そうすると、被告が被告写真1及び2を作成したことにより、 原告写真1及び2について、その著作者である原告の意に反し、上記のとお り創作性の認められる表現部分に実質的な改変が加えられたことは明らかで\nあって、これが原告写真1及び2の創作性及び特徴を害さないものというこ とはできない。 また、本件全証拠によっても、被告が被告のインスタグラム上のアカウン トにおいて掲載するために原告写真1及び2をトリミングすることについて、 正当な理由を基礎付ける事実は認められないから、被告による上記改変が 「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
・・・
前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著 作物」に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る氏名表示権を有す\nるところ、被告は、前記前提事実(3)のとおり、原告写真1及び2をそれぞれ トリミングして被告写真1及び2を作成した上、前記前提事実(4)のとおり、 被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく\n被告写真1の掲載を含む本件投稿1をし、また、被告のインスタグラム上の アカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1及び2の掲\n載を含む本件投稿2及び3をしたものである。 したがって、被告は、原告写真1及びに2に係る原告の氏名表示権を侵害\nしたと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2には原告に著作権があることを 示す原告のウォーターマークの表示はなく、被告がこれを削除したものでは\nないし、被告写真1に記載された「B以下省略」は被告のアカウント名でも 本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解 されるとはいえないと主張する。 しかし、氏名表示権とは、「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際\nし、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表\示し ないこととする権利」(著作権法19条1項)をいうところ、前記前提事実
(4)のとおり、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3において、 原告の氏名は表示されていなかったものであり、原告写真1及び2に原告の\n氏名が記載されていなかったからといって、原告が、原告写真1及び2を公 衆に提示するに際し、自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有して\nいたということはできず、本件全証拠によっても、そのような意思を有して いたとは認められない。

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令和3(ネ)10074  債務不存在確認請求控訴事件  著作権 民事訴訟 令和4年4月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトBitTorrentによる動画のダウンロードについて訴訟です。損害賠償請求不存在確認訴訟です。知財高裁は、1審とほぼ同額の損害賠償を認めました。ファイル共有ソフトによるダウンロードは、分散しているデータをまとめた完全なファイルのダウンロードが完了すると、その後は、シーダー(ダウンロードさせる者)の責任(共同侵害)も課せられます。\n

 イ 一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)は、同一審原告らが 本件著作物をアップロードしたことの立証に欠けると主張するが、訂正の上引用し た原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(4)のとおり、一審被告 は、BitTorrentを利用して本件著作物をアップロード及びダウンロード している者のIPアドレスを特定し、プロバイダから、上記IPアドレスに対応す る契約者の氏名及び住所の開示を受けていることが認められ、証拠(乙13の2・ 3・6・7)によると、プロバイダの回答書にIPアドレス並びに一審原告X2、 一審原告X4、一審原告X3、A、一審原告X7、一審原告X9の氏名及び住所の 記載があり、これら一審原告らの氏名及び住所の開示を受ける過程において、IP アドレスの混同がないことが認められる。なお、Aとの記載が、一審原告X8の行 為に係るものであることについては当事者間に争いがない。また、一審原告X1の 氏名及び住所が記載された株式会社TOKAIコミュニケーションズからの通知書 (乙13の1)には、IPアドレスの記載はないものの、「添付ファイル「接続記録 リスト」 No.49〜58」との記載があり、同記載は、一審被告作成の「調査結果一覧 (株式会社TOKAIコミュニケーションズ)」と題する書面(乙11の1)の49 〜58行目に対応するものと推認され、乙11の1の記載からIPアドレスの特定 ができることから、IPアドレスの混同がないことが認められる。そうすると、前 記(1)のとおり立証がされていないと認められる一審原告X5及び一審原告X11 を除き、一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)について、本件著 作物をアップロードしたことについての立証がされていると認めるのが相当である。
(2) 争点1−2(共同不法行為性)について
ア 本件で、一審原告X1らは、本件各ファイルを、BitTorrentを利 用して送信可能な状態におくことで、一審被告の著作権を侵害した。ところで、訂\n正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(3)のとお り、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割さ れたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになるところ、後掲の証拠 によると、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピア は短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源 の役割を担うものとされるが、一審原告X1らは、常にBitTorrentを利 用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていた と考えられること(甲12、15、21)、あるトラッカーが、特定の時点で把握し ているリーチャーとシーダーの数は0〜5件程度と、特定時点における特定のファ イルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされてい るものではないこと(乙2〜4、8〜10)、BitTorrentを利用したアッ プロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイル の容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8. 8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平 均0〜17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅 く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアか らピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲 5、6、乙2〜4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、Bit Torrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の 発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1〜3の一つ(以 下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorren tのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能\化していた相当程度 の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1 らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBi tTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏\nまえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告\nX1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停 止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があ ると認めるのも不合理とはいえない。
そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイ ルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1〜 3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1 〜3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたというこ とができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、\n同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名\n不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。 なお、控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告X1らが送信可能化した始\n期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当であ る旨主張するが、原判決は、当該期間のダウンロード数をもってひとまとめの損害 が生じたと認定したものではなく、1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で、 当該期間にダウンロードされた本件各ファイルの数を推定して、推定したダウンロ ード数に応じた損害額を算定しているのであって、この手法は相当である。
イ 控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告らがBitTorrentの 仕組みを十分認識・理解していたと認定したことについて事実誤認であると主張す\nるところ、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判 断」の1(2)のとおり、控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを利用して ファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していること\nについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたもの と認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があ\nると認めるのが相当である。 そうすると、控訴人(一審原告)らが、本件著作物の送信可能化に関し、不法行\n為責任を負うとした原判決の判断は相当である。
(3) 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
ア 一審被告は、本件各ファイルが最初にBitTorrentにアップロード されて以降の権利侵害の全てについて、一審原告らが責任を負う旨主張するが、一 審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者 との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorre ntを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrent の利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないの は明らかである。また、本件各ファイルの送信可能化による損害は、1ダウンロー\nドごとに発生すると考えられるところ、一審原告らがBitTorrentの利用 をしていない時期におけるダウンロードについてまで、一審原告らの行為と因果関 係があるなどということはできない。そうすると、一審原告らは、BitTorr entを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前及びBitTorren tの利用を終了した後については、本件著作物の権利侵害について責任を負わない というべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 一審原告X1らによる本件各ファイルのアップロードの終期について、別紙 「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日(プロバイダからの意見照会を受けた日)\nと認定できるのは、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁 判所の判断」2(3)記載のとおりである。これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、 20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたこ とで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、Bit\nTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自 然な点はない。
ウ 一審原告らは、BitTorrentの利用者が、ファイルのアップロード を24時間継続することはまずないことや、シーダーやピアが数百以上散在してい ることなどを踏まえ、本件の損害額については、例えば原判決の認定する額の10 0分の1などとして算定すべきと主張する。しかしながら、前記(1)及び(2)に判示 したとおり、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイル をダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件 各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任 を負うと認めることが相当である。また、BitTorrentの仕組みに照らす と、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除するか、BitTorren tの利用を停止するまでの間は、一審原告X1らの端末にダウンロード済みの本件 各ファイルが送信可能な状態にあったのであるから、一審原告X1らが本件各ファ\nイルのダウンロードキャッシュを削除したこと又はBitTorrentの利用を 停止したことが認められる時点までは、一審原告X1らの不法行為は継続していた と認めるのが相当であり、本件では、一審原告X1らが、別紙「損害額一覧表」の\n「終期」欄記載の日よりも前の特定の日に、本件各ファイルのダウンロードキャッ シュを削除したことを認めるに足りる証拠はない一方で、一審原告X1らが、同別 紙の「終期」に記載の日より後はBitTorrentの利用をしていないことが 認められるから、同日までの間は、一審原告X1らは、本件各ファイルの送信可能\n化による不法行為を継続していたと推認することが相当である。 ところで、一審原告らは、正確なダウンロード数についての立証がない旨指摘す るが、正確なダウンロード数は不明であるものの、一審原告X1らが本件各ファイ ルを送信可能化していた期間におけるダウンロード数は、令和元年10月1日から\n令和3年5月18日までの間にダウンロードされた数から、別紙「損害額一覧表」\nの「5)期間中のダウンロード数」のとおりに推計することができるから、本件にお いては、当該ダウンロード数の限度で立証されているというべきである。

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◆令和2(ワ)1573

◆別紙1

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令和2(ワ)11834  損害賠償等請求事件  著作権  民事訴訟 令和4年1月27日  大阪地方裁判所

 漏れていたのでアップします。原告のイラストをテレビに自作イラストとして投稿して、放映された事件で、著作権侵害として、34万円の損害賠償が認められました。著作権侵害の場合、特許などと異なり、故意・過失が侵害認定要件となっていますが、「検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易」と判断されています。  原告は,平成28年6月19日,自ら作成した本件イラストを原告筆名の名義で 開設する SNS「ツイッター」のアカウント(以下「原告アカウント」という。) により投稿してこれを公表した。\nまた,原告は,同年10月頃,イラスト集(以下「本件イラスト集」という。) を出版したが,本件イラスト集には掲載されたイラストの著作者名として原告筆名 が表示され,また,本件イラストもこれに掲載されている。\nさらに,本件イラストは,令和元年9月10日以降,「コンビニプリント」と称 するサービスにより,全国のコンビニエンスストアでその複製物を購入し得るよう になっているところ,そのサービス提供に当たり,原告筆名が著作者名として表示\nされている。(以上につき甲5〜8,当裁判所に顕著な事実)
・・・
前提事実(第2の2(2))によれば,原告は,本件イラストの著作者とし て,その著作権及び著作者人格権を有する者と認められる。 にもかかわらず,被告が,本件応募行為等に際し,本件データを原告に無断で 複製していまじんに提供し,また,いまじんに対し本件イラストの著作者が「X 2」である旨を伝えたことにより,本件番組の放送に際してはその旨の表示がさ\nれ,原告の実名又は原告筆名は著作者として表示されなかった。\n
イ 被告の故意又は過失の有無(争点1)
被告は,本件イラストの著作者ではなく,また,その主張を前提としても, SNS を通じて知り合っただけの人物から同人の作品としてデータの提供を受けた にとどまる。 本件応募フォーム,とりわけ本件注意書の記載内容(前記1(1))に鑑みれば, 本件番組がオリジナル作品の制作者本人による応募を前提とするものであること は容易に理解される。また,この趣旨を踏まえれば,仮に制作者本人以外の者が 応募する場合であっても,応募者が制作者本人の承諾等を得た上で応募すべきこ とが求められることも,やはり容易に理解し得る。さらに,日テレ及びその系列 局で本件番組が放送されること及び放送日時等も踏まえれば,本件番組が多くの 視聴者により視聴されることも容易に予想される。\n他方,昨今のインターネットをめぐる状況を踏まえると,SNS その他ウェブサ イト等を通じて,他人が作成したイラスト等の画像データを入手することは事実 上容易であり,また,検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制 作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易である。
以上のような事情を踏まえれば,被告は,本件応募行為等に際し,本件イラス トに係る他人の著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう,インターネ ット上の画像検索等の客観性を有する適切な方法により,その著作者ないし著作 権者を確認すべき注意義務を負っていたことが認められる。にもかかわらず,被 告は,その主張を前提としても,単に被告に本件データを提供した人物(P3) に本件イラストが同人の作品であることなどを直接電話等で確認したにとどま る。そうである以上,被告には,本件イラストに係る著作権(複製権)及び著作 者人格権(氏名表示権)の各侵害行為について,少なくとも過失が認められる\n(なお,原告は,複製権侵害につき,明示的には被告の故意を主張するにとどま るが,その主張全体の趣旨から,過失の主張も包むものと理解される。)。これ に反する被告の主張は採用できない。

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令和3(ワ)1333    著作権 令和3年12月21日  東京地方裁判所

 東京地裁47部は、漫画閲覧サイトにおける公衆送信について、被告らの行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は,約1%として、1000万円の損害を認めました。 0.1を乗じているのは、印税(10%)です。

 前記認定のとおり,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及 び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画 2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は46 2円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ, 原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫 画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相 当である。 ところで,本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告 漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売 日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無 料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべ きである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲 載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること, 原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブ サイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関 して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた 一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減 少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。 これらの事情に鑑みると,本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆 送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害 額は,1000万円(≒109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが 相当である。

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令和3(ネ)10008  謝罪広告等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年12月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 芸能人が、私立大学に裏口入学をしたこと等を内容とする記事のネット配信、車内広告などが名誉毀損およびパブリシティ権の侵害であるとしてする出版社を訴えました。1審は440万の損害賠償を認めました。知財高裁はこの判断を維持しました。

当裁判所は,原審裁判所と同じく,一審被告の主張に係る違法性阻却事由は 認められないと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1) 民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に関 する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実 であることが証明されたときは,右行為には違法性がなく,不法行為は成立 しないものと解するのが相当であり,もし,右事実が真実であることが証明 されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の 理由があるときには,右行為には故意もしくは過失がなく,結局,不法行為 は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和41年6月23日第 一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。 この点について一審被告は,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口 入学させた」という事実が真実であり,又は真実であると信じるにつき相当 の理由があること,当該事実の摘示が公共の利害に関する事実に係ること, 当該事実の摘示が専ら公益を図る目的でされたことを主張して,名誉毀損に よる不法行為責任を否定する。 以下,検討する。
(2)事実の公共性及び目的の公益性について
この点に関して,一審原告は,単に一審原告が著名人であるという理由だ けで「公共性」を満たすことには全くならないから,本件各記事は,そもそ も公共の利害に関する事実には当たらず,公益を図る目的がないことも明ら かである旨主張する。 しかしながら,一審原告は,もともとは「B」の一員として世に出たが, 本件各証拠によれば,本件各記事等の掲載の時点までには,テレビ番組の司 会者を務めたり,雑誌等のインタビュー記事や自らの著書等において政治や 社会に関する発言を公にしたりしていることが認められるから,一審原告の 経歴や人柄にかかわる事実は,一定程度,不特定多数人が関心を寄せてしか るべき公共の利害に関する事実に当たるというべきである。また,そのよう な人物につき,社会一般では非難の対象となる裏口入学という事実が存在し ていたのであれば,それを広く報道することは,経歴に関する不正を正そう とする行為と認められるから,一定程度,公益を図る目的に出たものという べきである。 したがって,本件各記事等の掲載は,公共の利害に関する事実に係るもの であり,専ら公益を図る目的でされたものと認められる。 もっとも,一審原告が現実に公職に就いたことはない上に,公職への応募 や立候補を企図していることをうかがわせる証拠もないのであるから,公共 の利害に関する程度はさして高いものではない。また,大学への裏口入学と いう事実が仮にあったとしても,未成年の当時のことである上に,一審原告 の現在の活動に対する評価は学歴によって左右される性質のものでもないか ら,公益にかかわる程度は高いものではないというべきである。
(3) 真実性又は真実と信ずるについての相当の理由の存否について
本件各記事等に記載された内容は,本件経営コンサルタントから聴き取っ た内容として編集スタッフがまとめた乙17録取書に依存しているものであ る。しかるに,本件経営コンサルタントについてはその特定は必ずしも十分\nであるとはいえず,また,後述のとおり,乙17録取書に同人の供述内容が 正確に録取されていることの担保はなく,乙17録取書の内容の真実性を基 礎付けるに足りる証拠は乏しく,かえって,乙17録取書の内容には客観的 事実及び証拠に矛盾する点が多い上に,一般的な経験則に照らして不自然な 内容も多い。これらの点に照らすと,乙17録取書の内容に依存している本 件各記事等の内容,特に,「一審原告の父親が,一審原告を日大に裏口入学 させた」という事実が真実であることの証明があったとはいえない。 また,乙17録取書に依存した内容の本件各記事等を公にすることによる 影響(一審原告の社会的評価の低下等)の大きさに比して,実際に一審被告 において行った取材の期間・経過やその内容等は前記1のとおりであって, 後述のとおり,編集スタッフにおいて,本件経営コンサルタントの陳述につ き十分な検討や裏付け取材を行ったとはいえない。そうすると,一審被告に\nおいて,本件各記事等の内容を真実と信じるについての相当な理由があった (以下,このことを「相当性」という。)とは認められない。 以下,当審における一審原告の主張も踏まえて,詳述する。
・・・
オ 小括
上記イないしエに説示したことを考慮すると,一審被告は本件経営コン サルタントの供述(乙17録取書)と矛盾せず積極的にその信用性を基礎 付けるには足りない取材結果のみを積み重ね,それに基づいて本件経営コ ンサルタントの供述が信用できるものと軽信したものといわざるを得ない から,編集スタッフが得た取材結果等は本件各記事等の内容の真実性を裏 付けるものではなく,また,真実と信じるについて相当の理由があると認 めることもできないというべきである。なお,このことは,真実性の証明 の対象事実として,一審被告が主張する事実(すなわち,亡父が本件経営 コンサルタントを通じて裏口入学のための手段を尽くした結果として一審 原告を日芸演劇学科に入学させたという事実)を前提としても,その内容 に照らし,左右されるものではない。

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◆平成30(ワ)26219

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令和2(ワ)1573  債務不存在確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年8月27日  東京地方裁判所

 ファイル共有ソフトの使用者に対して、公衆送信権侵害が認められました。\n

ア 以上のとおり,原告X1,原告X2及び原告X3は本件ファイル1を, 原 告X4,原告X6,原告X7及び原告X8は本件ファイル2を,原告X9及 び原告X10は本件ファイル3を,それぞれ,BitTorrentを通じ てダウンロードしたものと認められる(以下,ダウンロードを行ったと認め られる上記各原告を「原告X1ら」という。)。 そして,前記前提事実2(3)のとおり,BitTorrentは,リーチャ ーが,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所 持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチャーと共有するために アップロード可能な状態に置く仕組みとなっていることに照らすと,原告X\n1らは,ダウンロードしたファイルを同時にアップロード可能な状態に置い\nたものと認められる。
イ 前記前提事実のとおり,BitTorrentは,特定のファイルをピー スに細分化し,これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で 相互に共有及び授受することを通じ,分割された全てのファイル(ピース) をダウンロードし,完全なファイルに復元して,当該ファイルを取得するこ とを可能にする仕組みであるということができる。\n これを本件に即していうと,原告X1らが個々の送受信によりダウンロー ドし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイル\nの一部(ピース)であったとしても,BitTorrentに参加する他の ユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全なファイ ルを取得し,また,自己がアップロード可能な状態に置いた動画ファイルの\n一部(ピース)と,他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余\nのピースとが相まって,原告X1ら以外のユーザーが完全なファイルをダウ ンロードすることにより取得することを可能にしたものということができ\nる。そして,原告X1らは,BitTorrentを利用するに際し,その 仕組みを当然認識・理解して,これを利用したものと認めるのが相当である。
以上によれば,原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,す なわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインタ ーネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネット\nワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能\nになることを十分に理解した上で,これを利用し,他のユーザーと共同して,\n本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。\n したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為に より,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。\nウ(ア) これに対し,原告らは,アップロード可能な状態に置いたファイルが全\n体のごく一部であり,個々のピースは著作物として価値があるものではな いから,原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張するが,上記イで 判示したとおり,原告X1らによる行為は,他のユーザーと共同して本件 著作物を送信可能化したものと評価できるから,原告らの主張は採用する\nことができない。
(イ) 原告らは,ファイルを送信する側は,自らがファイルをアップロード可 能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘するが,原\n告X1らは,BitTorrentを利用するに当たって,前記前提事実 (3)イ記載のような手続を踏み,各種ファイルやソフトウェアを入手して\nいる以上,BitTorrentの基本的な仕組みを理解していると推認 されるのであって,とりわけ,BitTorrentにおいて,ユーザー がダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能\nな状態に置かれることは,その特徴的な点であるから,これを利用した原 告X1らがこの点を認識していなかったとは考え難い。
(ウ) 原告らは,送信可能化権侵害の主張に関し,ユーザー間における本件著\n作物に係るファイルの一部(ピース)の授受を中継した可能性やダウンロ\nードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止した可能性が\nあり,原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することはで\nきないと主張する。 しかし,BitTorrentにおいて,ユーザーがダウンロードした ファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれるこ\nとは,前記判示のとおりであり,原告X1らがこれを中継したにすぎない ということはできず,また,本件各ファイルのダウンロードの開始直後に ダウンロードが停止したことをうかがわせる証拠もない。
(エ) 原告らは,シーダーとして本件著作物の動画ファイルの配布を行ったも のではなく,原告X6や原告X10の共有比に照らしても,被告の主張す るダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したということはできな いので,民法719条1項前段を適用する前提を欠くと主張する。 しかしながら,そもそも,民法719条1項前段は,個々の行為者が結 果の一部しか惹起していない場合であっても,個々の行為を全体としてみ た場合に一つの加害行為が存在していると評価される場合に,個々の行為 者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定であるから,仮に個々 の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく,結果に対\nする寄与が少なかったとしても,そのことは,原告X1らの共同不法行為 責任を否定する事情にはならないというべきである。
エ 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告X1らが本件各フ ァイルをアップロード可能な状態に置いた行為は,本件著作物に係る被告の\n送信可能化権を侵害することになる。\n
2 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
(1) 被告は,本件著作物の侵害は,本件各ファイルの最初のアップロード以降継 続しており,社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることな どを理由として,原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害 も含め,令和2年4月2日当時のダウンロード回数について,原告らは賠償義 務を負う旨主張する。しかしながら,民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても,自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な\n状態に置く前に他の参加者が行い,既に損害が発生しているダウンロード行為 についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから,被告の上記主張は 採用することはできない。
また,被告は,BitTorrentにアップロードされたファイルは,サ ーバからの削除という概念がないため,永遠に違法なダウンロードが可能であ\nるとして,現在に至るまで損害は拡大している旨主張する。 しかし,前記前提事実(3)ウのとおり,BitTorrentは,ソフトウェ\nアを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorren t上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアッ プロードされることはないものと認められる。 そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイ ルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続している と解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生 じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損\n害に当たるというべきである。他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削 除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信がで きなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダ ウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。
(2) アップロードの始期について
ア 以上を前提に検討するに,証拠(甲6)によれば,原告X6については, 遅くとも平成30年6月4日までには本件ファイル2をアップロード可能\nな状態に置いていたことが認められる。
イ 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X7,原告X8,原告X 9及び原告X10については,BitTorrentを通じて本件各ファイ ルのダウンロードを開始した時期は明らかではないものの,証拠(乙11)に よれば,遅くとも,それぞれ次の各年月日において本件各ファイルをアップ ロード可能な状態に置いていたことが認められる。\n
(ア) 原告X1 平成30年6月12日
(イ) 原告X2 平成30年6月4日
(ウ) 原告X3 平成30年6月2日
(エ) 原告X4 平成30年6月4日
(オ) 原告X7 平成30年6月12日
(カ) 原告X8 平成30年6月13日
(キ) 原告X9 平成30年6月2日
(ク) 原告X10 平成30年6月9日
(3) アップロードの終期について
ア 乙14及び弁論の全趣旨によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害 額一覧表」の「終期」欄記載の各年月日に原告ら代理人に相談をしたことが\n認められるところ,同原告らは既にプロバイダ各社からの意見照会を受け, 著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があることを認識していた上,上\n記相談の際に,原告ら代理人からBitTorrentの利用を直ちに停止 すべき旨の助言を受けたものと推認することができるから,同原告らは,そ れぞれ,遅くとも同日にはBitTorrentの利用を停止し,もって, 本件各ファイルにつきアップロード可能な状態を終了したものと認めるの\nが相当である。
イ これに対し,原告らは,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点で, 直感的にBitTorrentの利用を停止した旨主張するが,プロバイダ 各社から意見照会を受けたからといって,直ちにBitTorrentの利 用停止という行動に及ぶとは限らず,実際のところ,原告X6は,平成30 年10月19日に受領したものの,少なくとも同年11月頃までBitTo rrentソフトウェアを端末にインストールしていたことがうかがわれ\nる(甲6)。そうすると,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点でB itTorrentの利用を停止したと認めることはできない。
ウ 以上によれば,原告X1らは,それぞれ,別紙「損害額一覧表」の「期間」\n欄記載の期間中に他のユーザーが本件各ファイルをダウンロードしたこと により生じた損害の限度で,賠償義務を負うことになる。
(4) ダウンロード数
ア 本件全証拠によっても,上記各期間中に本件各ファイルがダウンロードさ れた正確な回数は明らかではない。他方で,証拠(乙2〜4,8〜10)に よれば,令和元年10月1日から令和3年5月18日までの595日間にお いて,本件ファイル1については501,本件ファイル2については232, 本件ファイル3については910,それぞれダウンロード数が増加している ことが認められるところ,各原告につき,同期間の本件各ファイルのダウン ロード数の増加率に,前記(2)・(3)において認定したダウンロードの始期か ら終期までの日数(別紙「損害額一覧表」の「日数」欄記載のとおり)を乗\nじる方法によりダウンロード数を算定するのが相当である。この計算方法に基づき算定されたダウンロード数は,別紙「損害額一覧表」の「期間中のダウンロード数」欄記載のとおりである。\n
なお,原告らは,乙2〜4記載のコンプリート数(ダウンロード数)と甲 10記載のコンプリート数が大幅に異なることを根拠に,乙2〜4記載のコ ンプリート数に依拠することは相当ではないと主張するが,コンプリート数 が一致しないのは,参照するトラッカーサーバーが異なることが原因である と考えられ,上記乙2〜4のコンプリート数に特に不自然・不合理な点はな い以上,上記各証拠に記載されたコンプリート数に基づいてダウンロード数 を計算することが相当である。
(5) 基礎とすべき販売価格
ア 原告X1らが本件各ファイルをBitTorrentにアップロード可 能な状態に置いたことにより,BitTorrentのユーザーにおいて,\n本件著作物を購入することなく,無料でダウンロードすることが可能となっ\nたことが認められる。これにより,被告は,本件各ファイルが1回ダウンロ ードされるごとに,本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売す る機会を失ったということができるから,本件著作物ダウンロード及びスト リーミング形式の販売価格(通常版980円,HD版1270円)を基礎に 損害を算定するのが相当である。
そして,被告は,DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロー ド・ストリーミング販売を行っているところ,被告の売上げは上記の販売価 格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨),本件各ファイルが1回 ダウンロードされる都度,被告は,通常版につき372円(=980×0. 38),HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったも のということができる。
イ 本件ファイル3は通常版の動画ファイルのピースであるのに対し,本件フ ァイル1及び2はHD版の動画ファイルのピースであることが認められる ので(弁論の全趣旨),別紙「損害額一覧表」の「価格」欄記載のとおり,\n原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X6,原告X7及び原告X 8については482円,原告X9及び原告X10については372円を基礎 として,損害額を計算することが相当である。
ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件 著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や,BitTo rrentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指 摘も,前記認定を左右するものということはできない。 (6) 以上によれば,原告X1らが被告に対して負うべき損害賠償の額は,それぞ れ,別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄記載のとおりとなる(なお,同別紙\n「5)期間中のダウンロード数」は計算結果を小数第2位まで表示したものであ\nり,「損害額」欄は小数第1位で切り捨てたものである。)。
3 争点2−2(減免責の可否)について
原告らは,原告らにおいて複製物を作成しようという意思が希薄であり,客観 的にも本件著作物の流通に軽微な寄与をしたにすぎないことや,原告らとユーザ ーとの間の主観的・経済的な結び付きが存在しないことからすれば,関連共同性 は微弱であるとして,損害額につき大幅な減免責が認められるべきである旨主張 するが,原告らの指摘するような事情をもって,前記認定の損害額を減免責すべ き事情に当たるということはできない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10046  著作者人格権等侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月22日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 一審原告から懲戒請求を受けた弁護士である一審被告Yが自らのブログ上に懲戒請求の内容とともに一審原告の主張に対する反論を掲載しました。これらが著作権侵害なのか、また権利濫用なのかが争われました。1審は被告のブログ掲載の削除を認めました。知財高裁は、これを取り消しました。

本件懲戒請求書は,一審原告が,弁護士会に対し,一審被告Yに対する 懲戒請求をすること,及び懲戒請求に理由があること等を示すために,本 件懲戒請求の趣旨・理由等を記載したものであって,利用者に鑑賞しても らうことを意図して創作されたものではないから,それによって財産的利 益を得ることを目的とするものとは認められず,その表現も,懲戒請求の\n内容を事務的に伝えるものにすぎないから,全体として,著作物であるこ とを基礎づける創作性があることは否定できないとしても,独創性の高い 表現による高度の創作性を備えるものではない。\n
イ 一審原告自身の行動及びその影響
本件産経記事は,一審原告による本件懲戒請求の後,産経新聞のニュー スサイトに掲載されたものであって,本件懲戒請求書の「懲戒請求の理由」 の第3段落全体(4行)を,その用語や文末を若干変えるなどした上で, かぎ括弧付きで引用していることに加え,証拠(甲2,乙2,6)及び弁 論の全趣旨を総合すれば,一審原告は,産経新聞社に対し,一審被告Yの 氏名に関する情報を含め,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を自 ら提供したものと推認される。 そうすると,一審原告は,産経新聞社に対し,本件懲戒請求書又はその 内容に関する情報を提供し,それに基づいて,本件懲戒請求書の一部を引 用した本件産経記事が産経新聞のニュースサイトに掲載され,その結果, 後記(2)のとおり,一審被告Yが,ブログにより,本件懲戒請求書に記載さ れた懲戒請求の理由及び本件産経記事の内容に対して反論しなければな らない状況を自ら生じさせたものということができる。
ウ 保護されるべき一審原告の利益
前記2のとおり,本件懲戒請求書は公表されたものとは認められないか\nら,一審原告は,本件懲戒請求書に関して,公衆送信権により保護される べき利益として,公衆送信されないことに対する財産的利益を有しており, 公表権により保護されるべき利益として,公表\されないことに対する人格 的利益を有していたものと認められる。 しかし,本件懲戒請求書の性質・内容(前記ア)を考慮すると,一審原 告が本件懲戒請求書に関して有する財産的利益及び人格的利益は,もとも とそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動及びその影響 (前記イ)を考慮すると,保護されるべき一審原告の上記利益は,一審原 告自身の自発的な行動により,少なくとも産経新聞のニュースサイトに本 件産経記事が掲載された時以降は,相当程度減少していたものと認めるの が相当である。
(2) 一審被告Yによる本件記事1と本件リンクの目的について 前記第2の2(前提事実)によれば,本件記事1の目的は,本件産経記事 により,一審被告Yに対する本件懲戒請求の事実が報道され,一審被告Yに 対する批判的な論評がされたことから,一審被告Yが,自らの信用・名誉を 回復するため,本件懲戒請求の理由及びそれを踏まえた本件産経記事の報道 内容に対して反論することにあったものと認められる。 ところで,弁護士に対する懲戒請求は,最終的に弁護士会が懲戒処分をす ることが確定するか否かを問わず,懲戒請求がされたという事実が第三者に 知られるだけで請求を受けた弁護士の業務上又は社会上の信用や名誉を低下 させるものと認められるから,懲戒請求が弁護士会によって審理・判断され る前に懲戒請求の事実が第三者に公表された場合には,最終的に懲戒をしな\nい旨の決定が確定した場合に,そのときになってその事実を公にするだけで は,懲戒請求を受けた弁護士の信用や名誉を回復することが困難であること は容易に推認されるところである。したがって,弁護士が懲戒請求を受け, それが新聞報道等によって弁護士の実名で公表された場合には,懲戒請求に\n対する反論を公にし,懲戒請求に理由のないことを示すなどの手段により, 弁護士としての信用や名誉の低下を防ぐ機会を与えられることが必要である と解すべきである。
本件においては,前記(1)イのとおり,一審原告が一審被告Yに対する懲戒 請求をしたことに加え,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情 報を自ら産経新聞社に提供したため,一審被告Yに対して本件懲戒請求がさ れたことが報道され,広く公衆の知るところになったのであるから,一審被 告Yが,公衆によるアクセスが可能なブログに反論文である本件記事1を掲\n載し,本件懲戒請求に理由のないことを示し,弁護士としての信用や名誉の 低下を防ぐ手段を講じることは当然に必要であったというべきである。した がって,本件記事1を作成,公表し,本件リンクを張ることについて,その\n目的は正当であったものと認められる。
(3) 本件リンクによる引用の態様の相当性について
ア 上記(1)及び(2)のとおり,一審被告Yは,本件リンクにより,本件懲戒請 求書の全文(ただし,本件懲戒請求書のうち,一審原告の住所の「丁目」 以下及び電話番号が墨塗りされているもの。)を本件記事1に引用したも のであるが,本件においては,一審原告が自ら産経新聞社に本件懲戒請求 書又はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲 載されたため,一審被告Yは,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐ ために,ブログに反論文である本件記事1を掲載し,懲戒請求に理由のな いことを示すことが必要となった。 確かに,本件懲戒請求書は未公表の著作物であり,本件産経記事には本\n件懲戒請求書の一部が引用されていたものの,その全体が公開されていた ものではないが,懲戒請求書の理由の欄には,その全体にわたって,懲戒 請求を正当とする理由の主張が記載されていたから(甲2),一審被告Yと しては,本件記事1において本件懲戒請求書の要旨を摘示して反論しただ けでは,自分に都合のよい部分のみを摘示したのではないかという疑念を 抱かれるおそれもあったため,その疑念を払拭し,本件懲戒請求の全ての 点について理由がないことを示す必要があり,そのためには,本件懲戒請 求書の全部を引用して開示し,一審被告Yによる要旨の摘示が恣意的でな いことを確認することができるようにする必要があったものと認められ る。 また,一審被告Yは,本件記事1に本件懲戒請求書自体を直接掲載する のではなく,本件懲戒請求書のPDFファイルに本件リンクを張ることに よって本件懲戒請求書を引用しており,本件懲戒請求書が,本件記事1を 見る者全ての目に直ちに触れるものでなく,本件懲戒請求書の全文を確認 することを望む者が本件懲戒請求書を閲覧できるように工夫しており,本 件懲戒請求書が必要な限りで開示されるような方策をとっているという ことができる。 さらに,本件記事 1 は,本件懲戒請求書とは明確に区別されており,本 件懲戒請求に理由のないことを詳細に論じるものであって,その反論の前 提として本件懲戒請求書が引用されていることは明らかであり,仮に主従 関係を考えるとすれば,本件記事1が主であり,本件懲戒請求書はその前 提として従たる位置づけを有するにとどまる。 そして,前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する, 公衆送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべ\nき人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自らの行動により,相当程度減少していたから,本件懲戒請求書の全部が 引用されることにより一審原告の被る不利益も相当程度減少していたと 認められるばかりか,一審原告は,自らの行為により,本件懲戒請求書又 はその内容を産経新聞社に提供し,本件産経記事の産経新聞のニュースサ イトへの掲載を招来したものであり,一審原告の上記行為は,本件懲戒請 求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にするという点に おいて,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関して非常に大きな 影響を与えるものであったと認められる。 イ 以上の点を考慮するならば,一審被告Yが,本件リンクを張ることによ って本件懲戒請求書の全文を引用したことは,一審原告が自ら産経新聞社 に本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を提供して本件産経記事が産 経新聞のニュースサイトに掲載されたことなどの本件事案における個別的 な事情のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法とし て相当なものであったと認められる。
(4) 権利濫用の成否
前記(1)のとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して有する,公衆送信権 により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき人格的利益\nは,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告自身の行動によ り,相当程度減少していたこと,前記(2)のとおり,本件記事1を作成,公表\nし,本件リンクを張ることについて,その目的は正当であったこと,前記(3) のとおり,本件リンクによる引用の態様は,本件事案における個別的な事情 のもとにおいては,本件懲戒請求に対する反論を公にする方法として相当な ものであったことを総合考慮すると,一審原告の一審被告Yに対する公衆送 信権及び公表権に基づく権利行使は,権利濫用に当たり,許されないものと\n認めるのが相当である。
(5)当事者の主張に対する判断
ア 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,一審原告が本件懲戒請求書又はその内容に関する情報 を産経新聞社に提供し,本件懲戒請求書の一部が本件産経記事に引用さ れたとしても,一審原告の公表権を保護すべき必要性が全くなくなった\nわけではなく,他方,一審被告Yは,本件懲戒請求書の要旨又はその一 部を引用することにより一審原告の懲戒請求に対して反論することが可 能であり,本件懲戒請求書の全部を引用する必要がなかったにもかかわ\nらず,これを全部引用して公表したのであるから,一審原告の一審被告\nYに対する公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,前記(1)ウのとおり,一審原告が本件懲戒請求書に関して公衆 送信権により保護されるべき財産的利益,公表権により保護されるべき\n人格的利益は,もともとそれほど大きなものとはいえない上,一審原告 自身の行動により相当程度減少していたものと認められる。他方,前記 (3)のとおり,一審被告Yは,一審原告が産経新聞社に本件懲戒請求書又 はその内容を提供し,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が掲載 されたため,弁護士としての信用及び名誉の低下を防ぐために,本件懲 戒請求書の全文を引用して開示した上で反論する必要があったものであ るから,それらを比較衡量すれば,後者の必要性が前者の必要性をはる かに凌駕するというべきであるから,たとえ一審原告の公表権を保護す\nべき必要性が全くなくなったわけではないとしても,一審原告の一審被 告Yに対する公表権の行使は権利濫用に該当するというべきである。\nしたがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞 社に提供するという一審原告の行為と,本件リンクを張るという一審被 告Yの行為とは,行為の性質やそれによって閲覧可能となる範囲・程度\nが異なり,本件懲戒請求書の内容が拡散する規模は,本件リンクを張る 行為の方が,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に 提供する行為よりも圧倒的に大きいから,一審原告による公衆送信権及 び公表権の行使は権利濫用に当たらないと主張する。\n しかし,本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提 供するという一審原告の行為は,産経新聞又はそのニュースサイトによ って本件懲戒請求に関する情報が報道されることを意図してされたもの と容易に推認され,実際,産経新聞のニュースサイトに本件産経記事が 掲載されたものであり,産経新聞が大手の一般紙であって,法律に興味 を有する者に限らず広く公衆がその新聞又はニュースサイトを閲読する ものであることからすると,一審原告の上記行為は,一審被告Yに対す る本件懲戒請求があったこと及び本件懲戒請求書の内容を世間に公にす るという点において,一審被告Yの弁護士としての信用及び名誉に関し て非常に大きな影響を与えるものであったと認められるから,本件懲戒 請求書の内容が拡散する規模において,本件リンクを張る行為の方が, 本件懲戒請求書又はその内容に関する情報を産経新聞社に提供するとい う一審原告の行為よりも大きいということはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和2(ワ)4481等

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令和3(ワ)15819  発信者情報開示請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年12月10日  東京地方裁判所

 ログインに関する本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断されました。

前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ る。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには,事前にアカウントを 登録した上,ユーザー名,パスワード等を入力し,当該アカウントにログイ ンすることが必要である。そのため,アカウントの使用者は,ツイッターの 仕組み上,当該アカウントにログインした者とされている。
イ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和3年 3月15日から同年5月7日まで)においても,本件各アカウントは,いず れも,昼夜を問わず頻繁にログインされるなど,継続的に使用されている。 (甲2ないし6,12)。
「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
上記認定事実によれば,ツイッターの上記仕組み及び本件各アカウントの使 用状況を踏まえると,本件各アカウントにログインした者が本件各投稿をする ことによって,下記2において説示するとおり,原告の権利を侵害したものと 認めるのが相当であり,これを覆すに足りる的確な証拠はない。そうすると, ログインに関する本件発信者情報は,上記侵害の行為をした発信者を特定する 情報であるといえるから,「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと いえる。 これに対し,被告は,本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の 情報にすぎず,本件各投稿を行った本件発信者の情報そのものではないことか らすると,本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない旨 主張する。 しかしながら,本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であ るといえることは,上記において説示したとおりであり,被告の主張は,その 前提を欠く。のみならず,プロバイダ責任制限法4条の趣旨は,特定電気通信 による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバ シー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通\n信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し て発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の 特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年\n(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676 頁参照)。そうすると,アカウントにログインした者が,権利の侵害に係る情 報を送信したものと認められる場合には,侵害情報の送信時点ではなく,アカ ウントにログインした時点における発信者情報であっても,「権利の侵害に係 る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。

◆判決本文

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令和3(ワ)3208  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年11月9日  大阪地方裁判所

 プログラムの著作権侵害として、10億円を超える損害額が認定され、一部として6000万円の損害賠償が認められました。原告プログラムはAUTOCADです。

(1) 著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害について
ア 証拠(甲1,2,4〜9,18,乙2,3[各枝番を含む。])及び弁論の全 趣旨によれば,原告製品は,オンラインストア等で顧客に対し販売されていること, 原告製品には,永久ライセンス版と,使用期間を1か月,1年,3年に制限したサ ブスクリプション版が存在するところ,これらの動作種別は,ライセンス認証時に 原告から送付される認証コードの種別により決せられることが認められるが,被告 は,前記認定のとおり,本件海賊版製品の落札者に対し,本件海賊版製品と共に, ライセンス認証を回避する不正なプログラム,及びインターネットに接続せずにイ ンストールをすること等を指示するマニュアル等を添付して,落札者をして前記ラ イセンス認証システムを無効化させ,これによって,落札者は,使用期間の制限な く本件海賊版製品を使用することが可能になったことが認められる。\nこれらの事実関係に照らすと,原告製品の永久ライセンス版の定価をもって,原 告が原告製品の著作権の行使につき受けるべき価額であると認めるのが相当である。
イ これに対し,被告は,原告製品の定価をもって著作権法114条3項の使用 料相当額とすることは,最低限の賠償額を保障した同3項の趣旨及び文理に反する 旨を主張する。しかし,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使 用期間制限の有無や期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用 することが可能となるのであり,これによって,原告は,被告販売行為がなければ\n得られたであろう永久ライセンス版の定価の額に相当する額を得られなかったこと になるし,被告販売行為の態様は,本件海賊版製品をライセンス認証を回避しつつ インストールすることができるよう販売するという悪質なものであり,その違法性 は高く,市場への影響も大きい。 被告は,原告製品の定価と原告製品の使用料相当額として受けるべき金銭の額と は別である旨を主張するが,原告製品のようなアプリケーションプログラムの販売 価格は,その本質において著作物の使用許諾に対する対価というべきであるから, 前述のとおり,原告製品の定価をもって,著作権法114条3項が定める著作権の 行使につき受けるべき金銭の額と見ることができるのであり,被告の主張は理由が ない。
また,被告は,原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトと\nの相性の問題等があるため,本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあ り得ないことから,原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とする のは相当でないこと,あるいは,原告製品の期間契約には,1か月,1年及び3年 の各期間設定があるところ,契約期間が長くなれば割安になることから,原告製品 のうち永久ライセンス版が設定されていないものについて1年ライセンス版の価格 を使用許諾料の基準とするのは相当でないことを主張する。しかし,前述したとお り,被告販売行為により,落札者は,もともとの原告製品の使用期間制限の有無や 期間にかかわらず,使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能とな\nるのであり,その時点で原告には原告製品の永久ライセンス版の定価相当額の損害 が発生したというべきであって,その後,動作環境等により本件海賊版製品を使用 できなくなる可能性があることやもともとの原告製品には期間制限があることなど\nの事情は,損害額の算定には影響しないと解するのが相当である。
ウ 証拠(甲2の1〜2の18)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品の永久ラ イセンス版の定価は,別紙2−1「原告損害一覧表1」及び同2−2「原告損害一\n覧表2」の各「原告製品価格」欄記載の価格をくだらないことが認められ,被告販\n売行為による原告の損害は,同各「原告損害」欄記載の合計10億5509万67 50円をくだらない。
(2) 弁護士費用相当の損害について
被告販売行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告が主張する弁護士費用1 億0550万円をもって相当と認める。

◆判決本文

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