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2024.02. 5
◆判決本文
1審における推定覆滅の事情は以下です
◆平成30(ワ)1130
b そこで,被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張
する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当
である。
(a) 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の
印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品
と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ
タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,
原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明
は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1(9)で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技
術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域
をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独
立印刷領域の面積が0.15mm2〜30mm2」,かつ,「白色の有機顔料…着色
剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着\n性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図る
ことにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措
定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製
品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45〜49)についても,その実
験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって
直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえな
い。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67〜70)及び弁論の
全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の
技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記\n載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当
ではないというべきである。
(b) 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておら
ず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度
等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきで
あり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大き
く変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして
も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な
証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替
えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧
製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従
前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた
可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売\nに貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(c) また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いら
れる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオ
ニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品
の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売\nする被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngi
neeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)
●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品(1)が販売
できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●
(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競
合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら
が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレード
の再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨
によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性
能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の\n価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートである\nことをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告
らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレー
ドの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認
めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレー
ド及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売
上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるの
は相当ではない。
(d)さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったと
しても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益
率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省
略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じ
く●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品
のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法10
2条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えるこ
ととなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の
●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製
品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と
同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単
価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量より
も大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相\n当であるともいえない。
(e)以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,
原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由とし
て考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である。
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◆判決本文
なお、本件については、控訴審判決はなさそうですが、対応する審決取消訴訟にて、請求項6は不可能・非実際的理由がなくても、PBPクレームだから自動的に明確性違反だとはならないと判断されてします(内面精度との技術的関係が不明として明確性違反と判断されています)。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に
いう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能\である
か、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁
判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号700頁)。
もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許
請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・
プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造され
た物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判\n決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表\して
いるのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法に
より製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を
読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者が
その範囲において独占権を有するのかについて予測可能\性を奪う結果となり、
第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願
時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表\
しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義
的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不
可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解さ\nれる。
・・・
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、1)電着物等を
加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着
物等と細線材の間に隙間を形成する方法、2)液中に浸して又は液をかける
ことにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、
3)一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細
線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引す
るか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、4)熱
又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、
これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても
一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記
3)の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の
内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上
記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在し
たとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電
鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。\n
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