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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

要旨認定

平成24(行ケ)10082 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が、本件発明の認定誤りを理由に取り消されました。
 審決は,前記第2,3(5)のとおり,本件発明と甲1発明との相違点3として,本件発明では,「流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され(る)」のに対して,甲1発明は,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点を認定している。本件発明の「外部に排出」の意義について検討する。本件発明に係る特許請求の範囲には,「前記反射部材支持部の空間から気体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され,」と記載されている。同構\成中の「流体排出手段」とは,気体を「反射部材支持部の空間」の外部へ排出するための手段を指す。そうすると,本件発明の「前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され」とは,「流体排出経路を通過した気体が,反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味し,「外部に排出」とは,「反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味することは,特許請求の範囲の文言上明らかであって,それ以外の格別の限定はない。本件明細書の記載にも,同様に,「外部に排出」とは,反射部材支持部の空間の外部へ排出されることが示されている。他方,甲1発明においても,鏡面12を有する金属円板と鏡ケース13とにより形成された密閉空間内から,当該空間内に接続された流体管14とは別体の流体管により圧力水が排出されている。本件発明と甲1発明とは,いずれも「外部に排出」されており,相違点3に係る相違はない。したがって,「本件発明は,『流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され』るのに対して,甲1発明において,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点」を相違点とした審決の認定は,誤りがある。この点,被告は,「外部」との語は,本件訂正に係るものであり,甲1発明では圧力水が循環するのに対して,本件発明では気体が循環することなく排出される点において相違するものであるから,「外部に排出」の意義について,密閉空間に属するか否かにおける相違点があるにもかかわらず,この点を前提とすることなく,単に,「反射部材支持部の空間外」を全て「外部」であると解釈することは誤りであると主張する。しかし,被告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,採用の限りでない。以上のとおりであり,本件発明の「『外部に排出』という記載が特定する技術的事項は,密閉構造とされた空間を取り巻く周囲の空間に排出されることであるといえる」との解釈を前提として,この点を甲1発明との相違点3とした審決の認定は誤りである。そして,審決は相違点3が容易想到でないとして結論を導くものであるから,審決は,相違点3から本件発明の進歩性を肯定する限りにおいて誤りがあるというべきである。\n

◆判決本文

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平成24(行ケ)10038 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
 審決の認定,すなわち,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図11】に示すような構\成であると解するのが自然である」との認定に誤りがあるかどうかを検討する。「書庫」について,本件訂正発明1では,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」と特定されているのみである。この点,1)特許請求の範囲の記載として,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する異なる複数の棚領域」(及びこれに対応するコンテナ)とするのであれば(これでも特定は不十分かもしれないが),審決が認定するような構\成を導くことも可能であろうが,本件訂正発明1の上記記載では,そのようにはなっておらず,構\成の特定方法が十分ではないと解する余地がある。他方,2)「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」という構成の内容が必ずしも明確でないので,発明の詳細な説明を参酌することができるところ,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理装置に係る発明であり,この方式は,「例えば,A4版の図書を収容するコンテナ,B5版の図書を収容するコンテナ及びA5版以下の図書を収容するコンテナのように,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものである。」(甲32【0009】)とあるので,図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有するコンテナ(及びこれに対応する棚領域)の構\成であると解する余地もある。そこで検討するに,原告の主張は,基本的に1)の立場によるものであり,例えば,参考資料の図1(及び図2のコンテナを含む。)に記載されている書庫のように,図書の寸法別に分類された,幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫であれば(具体的には,棚領域がA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば),図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」より棚領域の「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長い書庫であっても,本件訂正発明1の「書庫」の特定事項を満たしているというのである。しかし,この主張は,やや理屈が勝った議論であって,収容(収納)効率の向上という観点からは,実際に図2のコンテナを含む図1のような書庫が使用されるものとは考えにくい。これに対し,被告の主張は,基本的に2)の立場によるものであり,審決も,実際の図書の保管管理状況を念頭において判断しているように思われる。しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈に関しては,上記1)か2)かという点で明確でないところがあり,また,発明の詳細な説明においても,明確に「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する」と規定されていないことに照らして判断すると,審決の上記認定が,本件訂正発明1の「書庫」の構成として,参考資料の図1に記載されているような書庫は本件訂正発明1の「書庫」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。イ 「コンテナ」の構成について「コンテナ」について,本件訂正発明1では,「この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」と特定されているのみである。そうすると,上記アの説示に照らして,参考資料の図2に記載されているようなコンテナ,すなわち,複数の同じサイズの図書を収容するコンテナであれば,例えば,コンテナがA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば,図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」よりコンテナの「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長いコンテナであっても,本件訂正発明1の「コンテナ」の特定事項を満たしているといえる。したがって,「参考資料の図2のような構\成ではな」いとの審決の認定が,参考資料の図2に記載されているようなコンテナは,本件訂正発明1の「コンテナ」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。
・・・
エ 以上のとおり,審決の認定には正確性を欠くところがあるが,審決は,相違点1の容易想到性判断において,後記2(1)ウのとおり述べるにとどまり,「書庫」の構成に関して,図書の幅及び高さと棚領域との大小関係については何ら言及していない。そこで,原告主張の審決の認定の誤りが取消事由にどこまで影響を与えるかについては,次項以下で,実質的な検討を進める。
・・・
イ 被告は,周知技術の属する倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することはできず,自動倉庫の分野において,幅及び高さが異なる棚領域を設けることが周知であったとしても,それは,そこに収容する物品の寸法に対応したものではなく,棚領域が「荷物の寸法別に分類された」構成は開示されていないという点で,本件訂正発明1とは異なると主張する。しかし,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,また,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。そして,この収容容器(コンテナ)が収容される棚領域は,当然のことながら,収容物の大きさ(寸法)に対応したものになる(なお,原告が当該構\成を端的に示した文献の存在を主張立証していない,との被告の非難は当たらない。)。したがって,倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することができないとの被告の主張は理由がない。そして,本件の場合,図書は,その幅及び高さが複数種類に限定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予\測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである。被告は,本件訂正発明1が採用したフリーロケーション方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上すると主張するが,このような効果は,収容物の大きさに応じた収納容器を用いることで収容効率が向上するという効果から当業者が予測し得る程度のものであり,それ以上に格別なものとはいえない。\n

◆判決本文

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平成24(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性判断における発明の要旨認定について、詳細な説明を参酌すべきと主張しましたが、認められませんでした。
 原告は,本件発明の「画像演出パターン」は,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するものであるのに対し,引用発明の「図柄表示パターン」は,単に数字,文字又は文章を用いてゲームのガイダンスや賞球数等の各種数値を表\示するものであり,両者は表示内容や表\示目的及び作用効果が明確に異なるから,引用発明の「図柄表示パターン」が本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,本件発明にいう「画像演出パターン」が,ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表\示装置に表示するものであるとの記載はない。また,本件明細書においても,「画像演出パターン」が,上記のような表\示をするものであるとの定義はされていない。さらに,「人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示する」という作用効果は,特許請求の範囲に記載されたいずれの構成からも導き出せるものでもない。原告の主張は,単に実施例(【0046】【0048】)の作用効果を主張しているにすぎず,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。そして,「画像演出パターン」との用語が,文字や文章を用いた画像表\示を排除したものであるとは認められないから,引用発明の「図柄表示パターン」が,本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決に誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
イ 原告は,特許法70条2項の趣旨に基づいて,本件発明の「画像演出パターン」の内容及び意義を本件明細書の記載に基づいて解釈すると,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈されるべきである旨主張する。しかしながら,特許法70条2項は,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,特許請求の範囲に記載された用語については,明細書や図面の記載を考慮して解釈するという規定であって,特許発明の特許要件たる進歩性の有無を審理し判断する前提として,当該特許発明に係る特許請求の範囲に記載された発明の要旨を認定する場面に適用されるべき規定ではない。原告が挙げた前掲知財高裁判決も,同様に特許発明の技術的範囲の解釈について判示したものであり,特許発明の要旨認定について判示したものではない。なお,特許発明の要旨の認定については,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件発明の特許請求の範囲に記載された「画像演出パターン」との用語が,それ自体では意味が全く不明で,本件明細書の対応する記載に置き換えなければ当該発明が特定できないというものではないし,その他,本件発明の特許請求の範囲の記載に照らしても,上記特段の事情があるものとは認められない。したがって,原告の主張は失当であり,本件発明の「画像演出パターン」について,原告が主張するように,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈すべき理由はない。

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平成23(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所

 APPLEが、めずらしく審取まで争っています。裁判所は進歩性なしとした審決を取り消しました。
 上記のとおり,本件審決が周知技術の認定に当たって例示した甲2〜甲4は,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものではない。また,甲5は,円環状に配置された部分以外に表\示されないアイコンがあり,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ことが記載されているとはいえない。したがって,本件審決が証拠として引用した甲2〜甲5からは,「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示する」ことが周知技術であると認定することはできず,本件審判において,ほかに上記事項を周知技術と認めることができる証拠はない。被告は,甲3〜甲5の記載を引用し,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示させることにより,図形が回転移動されてスクリーンに順次表\示され1回転すると元に戻るようにして,ユーザが図形を選択できるようにすることは,周知技術であると主張するが,甲3の【0044】の記載は「装置が回転すると,メニューが画面内を移動する」のであって,メニューが回転するものではないし,【0048】の記載は「ドラム状のメニュー」の回転であって,「平面内で回転する」ものではなく,甲4及び甲5も「複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」ものでないことは上記のとおりである。
 (6) 以上検討したところによれば,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表\示すること」が周知技術であるとした本件審決の認定は誤りであり,取消事由2は理由がある。上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スクリーンに表\示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明においては,スクリーンに表\示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大きさの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。そして,仮に,「複数の図形の一部を表\示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表\現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。したがって,「上記周知技術に基づいて,引用発明の仮想的な環をスクリーンを含む平面内で回転させるように構成し,前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれるようにして本願補正発明のように構\成することは当業者が容易になし得ることである」(7頁14行〜17行)とした本件審決の判断は,仮に,本件審決の認定した周知技術と同様の先行技術が存在するとしても,誤りである。

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平成23(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月25日 知的財産高等裁判所

 引用文献は本願の作用を想定した装置ではないとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。
 上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件特許発明1は,特に,シザー組立体を相互に連結しかつシザー組立体の端部を捕獲するソケットを有する非圧縮性のマウントの形態の構\造用装置に関するものであり,また,支持面の上方にキャノピーカバーを支持することができ,展開状態において4個の直立した支持部材のみによって支持され,支持部材の下端部各々がプレート状部材により支持面と係合する構成を有していること,隣接した支持部材の間に延びる端縁シザー組立体が横方向の力をしばしば受けるが,シザー組立体が相互にかつ隅の支持部材と連結されている場合,締め付けられれば,シザーの作用を阻止し,横方向にたわむときに剪断力をうけるため,連結ボルトが過大な横方向のたわみにより曲り,又は破断し得ること,そのため,本発明の目的は,「トラス組立体のシザー要素のための連結装置であって,シザー構\成要素を自由に枢動させると共に,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止するように非圧縮性の連結装置を提供すること」や,「構造体を構\成する要素を相互に連結するための新規の有用なマウントを設け,そしてさらに複雑な構造体に統合することができる最小限の異なる部品を有する連結装置を使用することにより,折畳み可能\なキャノピー構造体を簡単にすること」,「構\造上の結合性または強度を有意に損なうことなく重量がより軽い隅の支持部材およびシザーバーを使用することができるキャノピーのための折畳み可能でありかつ展開可能\な骨組構造体を提供すること」であること,端縁シザー組立体を直立支持部材に留めるために,支持部材に配置された複数個の新規のマウントは,隔置された向き合う側壁部分によりソ\ケットが形成され,それにより端縁シザー組立体の外側端部を向き合う側壁部分の間に締り嵌め係合するようにソケットのそれぞれ内に捕獲することができ,マウントの平行な側壁部は,平面状の接触面に沿って外側端部に作用し,シザー組立体自体の横方向のたわみ及びねじりによるたわみを阻止する作用をすることが認められる。すなわち,本件特許発明1は,支持部材の下端部が支持面である地面に係合され,上端付近(支持面の上方)にキャノピーカバー等が配置される骨組構\造体であることから,風力等によりシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じ得るという課題を有するものであり,マウント(連結装置)の「平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されて」いる構成は,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有するものであり,連結部分の構\造を改良・強化することにより,課題を解決する手段であるといえる。一方,上記ア(イ) 認定の事実によれば,甲1には,引用発明の「優点」として,「任意に移位可能で定位できる」,「風に吹き倒されるおそれがない」ことが記載され,伸縮支柱(2)下端が一つの底台片(21)に溶接固定されること,第12図には底台片(21)に孔があることが記載されている。そうすると,引用発明は,止め孔を通じて支持面に定位され,風圧等による横方向の力の影響を受けやすい構\造体の上部に屋根等が配置される(第1図ないし第6図)ことから,風圧等によるシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形をも考慮して,構造体の補強を指向するものと一応認められる。しかし,引用発明の上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体(本件特許発明1のマウントに相当すると認められる。)は,端縁シザー組立体の外側端部がソ\ケットを有し,上記バー軸体が当該ソケット内に受け入れられるものとなっており,かつ,ソ\ケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されていない構成であるところ,甲1には,かかる構\成が,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有すること及びそのために連結部分の構造を改良・強化するものであること(本件特許発明1の課題と解決)については,記載も示唆もされていないというべきである。
また,上記ア(ウ) 認定の事実によれば,甲5,甲7及び甲9には,ソケットの平行な側壁部分が上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されている構\成が示されておらず(この点は,被告も特に争っていない。),また,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような力に対する考慮も示唆されていない。また,甲4及び甲8には上記構成と同様の構\成が示されているが,以下のとおり,本件特許発明1や引用発明において想定される,シザー要素の上記の変形を生じさせるような力の作用を考慮した連結装置を開示するものとはいえない。すなわち,甲4記載の折畳み式ベンチは,交錯状に集交した脚管の端部の連結器具として軸受け盤の軸受けは平行な向き合った側壁部分を有し,その下端部が相互に連結されているが(第4図),携行収蔵に至便,組立て作製も容易なように,脚の下端が接地面(支持面)に固定される構成は有さず,脚の上下端に脚管が連結されて骨格を構\成してベンチに作用する力を支持し,傾倒破損を防止する効果を有するものといえる。
また,甲8記載の折り畳み式腰掛けは,その脚部が,筒体の下部で筒体の内部に上下に摺動可能に嵌挿された脚部保持体を有し,脚部保持体は,平行な向き合った側壁部分の下端部が相互に連結されているが(第7図),より一層軽量且つ小型に構\成され,簡便に携帯可能なようにしたものである。そうすると,上記ベンチ及び上記腰掛けは,上記の構\成,目的及び用途からして,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような態様の力が作用することは想定しがたいものであって,甲4及び甲8に,そのような作用を想定した連結装置が開示ないし示唆されているとは認められない。以上によれば,甲1には,本件特許発明1のマウントに相当する上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体の構成により,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止する作用を有することは格別記載も示唆もされていないから,甲1に接した当業者が,かかる変形を阻止するために,さらに,上記軸体の構\成を,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることに容易に想到するとは言い難い。また,仮に,甲1の記載から,引用発明における上記軸体の構\成を変更することの示唆を得たとしても,上記のとおり,甲4,甲5,甲7ないし甲9は,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成は示されていないか,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を考慮したものではないから,これらに記載された技術を引用発明に適用することが容易とはいえない。したがって,甲4,甲5,甲7ないし甲9には,骨組み構造のたわみやねじりに対する強度を向上するための枢軸構\造として「ソケットの平行な側壁部分の一端を水平な壁部で相互に連結」された構\造は開示されていないとして,引用発明において,連結装置を,側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成に置換して,相違点1に係る本件特許発明1の構\成とすることは困難である旨の原告らの主張には理由がある。 これに対し,被告は,i)折り畳み可能な骨組構\造体の技術分野における通常の知識を有する当業者にとって,折り畳み可能な椅子の骨組構\造体に関する技術知識を有していたと合理的に判断でき,その技術知識に基づけば,甲4及び甲8記載の水平な壁部での連結構造を引用発明に適用するのは極めて容易である,ii)「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,たわみを阻止するという作用効果を発揮させる上で特段の意味を持つとはいえず,引用発明において,強度の向上を図るため当業者により適宜採用される設計事項にすぎない旨主張する。しかし,上記i)の主張につき,甲4及び甲8には,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構\成が記載されているとしても,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止する作用を考慮したものではないから,当業者が,甲4及び甲8記載の技術知識を有していたとしても,それを引用発明に適用することを容易に想到し得たとは認められない。また,上記ii)の主張につき,本件特許発明1において,連結装置に関する「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,平行な側壁部分を連結してこれを補強するものであることは当業者にとって明らかであるから,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止するという課題の解決手段であり,発明の特徴点といえる。甲1,甲4,甲5,甲7ないし甲9において,構\造体の強度の向上を図るとの課題は示唆されるとしても,かかる一般的な課題から,シザー要素の上記の変形を阻止するとの課題が当然に発想され得ることを裏付ける証拠はないから,連結装置に関して上記構成を採用することを,当業者が適宜採用する設計事項と認めることはできない。よって,被告の主張は失当である。したがって,本件特許発明1と引用発明との相違点1に関する審決の容易想到性の判断には誤りがある。\n

◆判決本文

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平成23(行ケ)10396 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として取り消されました。
 ところで,乙第2号証の図1,2,4には静翼の内側シュラウド(12)の半径方向内側にハニカムシール(16,17)を設け,これと対向する動翼の端部にシールフィン(22,32)を設けてシール構造を成す構\成が図示されているが,これは静翼と動翼やディスク(5)とが成す空間(18,19)から流路に向かって同空間内の冷却用空気が流れ出すのを防止するためのものであり(段落【0001】),他方,乙第6号証(特許第2640783号公報)の第1図にも同様に静翼の端部に摩減性表面(55)を設け,これと対向する動翼の端部に刃形シール(24,32)を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,これは上記と反対に作動流体(ガス)が流路(13)からシール空洞(64,66)に漏れ出すのを防止するためのものである(6頁12欄32〜37行)。これらのとおり,軸流タービンの動翼プラットフォーム付近(静翼内側バンド周辺)に設けられたシール構\造には,物理的にはほぼ同様の構成であるにもかかわらず,流出を阻害すべき流れの方向が正反対で,機能\が大きく異なるものが存在するから,シール構造(装置)の構\成のみから直ちにその機能を認識することは当業者にとっても必ずしも容易でないというべきである。しかるに,引用文献1の図3には,静翼の内側バンドよりさらに半径方向内側に,上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設け,これと対向する動翼(ベーン,バケット)に上流・下流方向で合わせて4箇所の突出部を設けてシール構\造を成す構成が図示されているが,かかるシール構\造が,流路からホイール(33)と静翼が成す空間へ主流が漏洩する流れを減少させるために設けられたとは図面からは必ずしも断定できず,他の目的(機能)を果たすために設けられた可能\性を排斥できない。そうすると,当業者の技術常識を踏まえて考えたとしても,審決がした引用文献1記載発明の認定のうち,「前記突出部Bが,前記突出部Aと共に前記1つのロータホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する,前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成している」との点は,引用文献1の記載に基づくものではなく,誤りがあるといわざるを得ない。したがって,上記認定を受けた,補正発明と引用文献1記載発明の一致点及び相違点に係る審決の認定にも誤りがある。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10253 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月13日 知的財産高等裁判所

 本件発明の要旨認定が異なるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。。裁判所は、用語「りん光」を詳細な説明を参酌して認定しました。
 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。この点,被告は,段落【0014】の記載(同ア)を根拠に,段落【0016】の記載は定義ではない旨主張する。しかし,段落【0014】の「実施態様」とは,「本発明の実施態様は当該図面に関して説明される。」と記載されることから,図面に記載された態様を意味するにすぎず,段落【0016】の「リン光」の説明までも実施態様であって説明的な例であると述べる趣旨とは解されず,被告の上記主張は失当である。

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平成23(行ケ)10258 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所 

 無効理由有りとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、取り消されました。
 審決は,甲4及び甲5から,「幅広の不織布として,伸びる(伸縮する)と共に合成樹脂繊維からなるものを使用するとき,伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものをフィルター部材として伸ばして使用する」との事項が示されていると認定,判断する。しかし,当裁判所は,以下のとおり,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することが記載又は示唆されておらず,したがって,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構成に到達することはないと判断するものである。・・・以上によれば,甲4及び甲5には,「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものを」使用することは,記載又は示唆されているものではないから,甲1発明に甲4及び甲5に記載の技術を適用しても,本件訂正発明の相違点に係る構\成に到達することはない。

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◆関連事件です。平成24年(行ケ)第10128号判決本文

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平成23(行ケ)10201 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、「進歩性判断の基礎となる先行技術の認定が誤っている」として取り消されました。
 以上のとおり,甲1文献には,単一モード・ファイバーに多重モード・ファイバー増幅器を適用する光学増幅器において,単一モード・ファイバーと多重モード・ファイバー増幅器との間に,ファイバーモードを整合するためのインターフェース光学部品が設置され,多重モード・ファイバー増幅器に,入力信号を入力する入力信号源とポンプ光を入力するポンプ源が接続されていること,高品質の導波路及び適切なモード整合光学部品を使用して,多重モード・ファイバー増幅器の入力ポートにその基本モードの信号を入力し,多重モード・ファイバー増幅器によって増幅されたこの基本モードの信号エネルギーを,当該多重モード・ファイバー増幅器の全体を通して,その出力ポートまで保存することが開示されており,本件特許の優先日当時の当業者の技術水準によれば,その当時,インターフェース光学部品の構成や,基本モードの入射・保存のための方法などを含め,上記光学増幅器の構\成は,当業者が理解可能な程度に明らかになっていたといえる。したがって,甲1文献には,本件発明と対比可能\な程度に技術事項が開示されており,甲1文献に記載された発明は,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」に該当するというべきである。

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平成23(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年08月08日 知的財産高等裁判所

 本件発明の事実認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができると判断した。イ しかしながら,そもそも,特許請求の範囲には,「2つの半導体スイッチ」と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明にも,2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており,それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載はない。したがって,本願発明は,保護回路が2つの半導体スイッチを有しているのであって,保護回路が2つ以上の半導体スイッチを有していることを前提とする解釈1は,保護回路が2つのみの半導体スイッチを有していることを前提とする解釈2と別個に判断する必要がなく,あえて解釈1に基づく判断をした本件審決の認定判断は,その点において,誤りである。
 ウ 仮に,本願発明について,保護回路が半導体スイッチを2つ以上有していると解釈したとしても,その場合の相違点3の判断については,以下のとおり,誤りがある。(ア) 本願発明は,前記1のとおり,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に誘導される逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負荷が極めて迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロード・ダンプ電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。すなわち,本願発明の「過電圧保護」は,発電機として動作するのに必要な励磁回路の電流を遮断することによって,発電機の出力電圧を下げる作用を奏するものと解すべきである。これに対し,引用発明は,前記2のとおり,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものである。(イ) 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができたと判断した。そして,被告は,引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的であって,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的としておらず,過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処することが技術常識であると主張する。しかしながら,引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にしても発電電圧が発生するため,一方向にのみ電流を流す構\成では高速回転時や低負荷時に発電電圧が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものであるから,被告の上記主張は理由がない。そして,仮に引用発明に被告のいう技術常識を適用し,界磁巻線(又は半導体スイッチ)に並列にダイオードを接続して,界磁巻線に発生する過電圧を急速に低減させて,界磁巻線に流れる電流を遮断するように構成しても,永久磁石によって生じる磁界により発電機出力が発生するから,発電機の出力電圧の過電圧を低減させることはできず,本願発明にいう「過電圧保護」にはならない。エ よって,解釈1に基づく本件審決の判断は,誤りである。
(2) 解釈2に基づく判断について
ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとし,解釈2の場合の相違点3(本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチを有し,第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオードが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点)は,容易に想到することができると判断した。そして,被告は,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続することで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2個として周知技術(乙1〜3)のように第1,2のダイオードから構\成されるフィードバック回路とすることは当業者が容易に考えられたことである旨主張する。イ しかしながら,引用発明の「4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回路」を「2つの半導体スイッチを有する回路」に変更すると,増磁電流と減磁電流を流すために用いられるH型ブリッジ回路とした引用発明の基本構成が変更され,減磁電流を流すことができなくなり,引用発明の課題を解決することができなくなるから,仮に被告主張の周知技術があったとしても,このような変更には阻害要因がある。そして,4つのスイッチング素子を用いる引用発明に対して,スイッチング素子の数を変更することなく周知例2に記載された周知技術を適用すると,4つのスイッチング素子に4つのダイオードが逆方向に並列接続される構\成になり,解釈2に係る本願発明(保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しているもの)の構成とならないことは明らかである。\n

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平成23(行ケ)10266 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月28日 知的財産高等裁判所

進歩性なしとした審決が本件発明の認定誤りを理由に、取り消されました。
 上記によれば,本願発明は,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信されるとともに,カウントダウンタイムアウトタイマーにより,第1のメッセージが到達しない場合に,待ち状態を中断して無制限に待ち状態となることが防止されるのであって,第2のメッセージの送信の可否は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって決定されるものではない。すなわち,本願発明は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって,第2のメッセージが第1のメッセージと衝突を起こすことがなくなるまで即時の送信が許可されないようにされているものではない。
 他方,引用例の上記記載によれば,引用発明は,ファクシミリ信号をファクシミリ装置から受信して,応答信号を前記ファクシミリ装置に送出する送信規制制御手段を備え,送信規制制御手段は,ファクシミリ信号が再送される場合,ファクシミリ信号が再送されるまでの待機時間から伝送装置の処理遅延時間,ディジタル回線の伝送遅延時間及び応答信号の信号長を除いた値の所定の時間期間である場合にだけ,応答信号をファクシミリ装置に送信し,所定の時間期間後にファクシミリ信号が送信される場合には,ファクシミリ信号の送信後に再び送出許可を与えることにより,伝送装置の処理遅延やディジタル回線の伝送遅延があっても,ファクシミリ信号と応答信号とを衝突させないようにしたものと認められる。また,引用例においては,第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信が禁止されるものと認められるものの,第1のメッセージが到達しない場合の待ち状態の解消のための本願発明の構成については,記載も示唆もない。以上によれば,ある時間期間において信号の送信を制限するに当たり,該時間期間において起動し満了するタイマーを設定し,該タイマーの動作中には信号の送信を制限し,該タイマー満了後に信号の伝送を許可する手段を用いることが,当該技術分野において常套手段であり,引用発明において第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信を禁止することに替えて,上記常套手段を適用したとしても,本願発明のように,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信され,カウントダウン衝突タイマーが満了し,第1のメッセージが繰り返される場合に,カウントダウンタイムアウトタイマーをタイムアウト期間に設定し,それにより,予\期されている繰り返しメッセージが到達しない場合に,無制限に待ち状態となることを防止することについて,容易に想到することができたとはいえない。

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平成23(行ケ)10228 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月13日 知的財産高等裁判所

 CS関連発明について、引用文献に認定誤りを理由に、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 すなわち,上記(2)で検討したとおり,引用発明2において,音声出力手段による文章の読み上げが進む間,ディスプレイ手段の画面には,データ入力可能位置指標によって読み上げ位置が示されるだけで,データ入力可能\位置を指示するカーソルが別に表\示されるとは認められず,また,文章中の表記の誤りが検知され,操作者による停止指示があった時は,文章の読み上げが停止されるとともに,上記データ入力可能\位置指標は,少し戻されて停止され,その位置がデータ入力可能位置として示されるだけで,音声出力手段による文章の読み上げ位置を示すカーソ\ルが別に表示されるとは認められない。そうすると,引用発明2において,「入力可能\位置指標」は,「文書読み上げにおいて,読み上げ位置を指示し(本願発明の「音声カーソル」に相当する。)」ているとしても,文書読み上げにおいて,データ入力可能\位置を指示しているとは認められず,また,「両者は読み上げ中は同じ位置で連動させる連動手段を有し」,「停止指示がなされると所定の距離だけ離間して両カーソルが位置する」とも認められないから,審決における引用発明2の上記の認定には,誤りがある。そして,引用刊行物2の技術と同様,引用発明2は,単一のカーソ\ルを備え,このカーソルの機能\を,本願発明における「音声カーソル」としての機能\と「テキストカーソル」としての機能\とに選択的に切り替えるものである。
5 相違点に係る構成の容易想到性の判断について
 上記2で検討したとおり,引用発明1において,音響的に再生されている言語の強調表示(本願発明の「音声カーソ\ル」に相当。)とは別に,表示画面上の検出誤りがある言語にカーソ\ルが配置及び表示され,この言語を操作者が訂正できるとは認められず,また,引用発明1は「音声カーソ\ルと同じ位置で連動するテキストカーソル,あるいはテキストカーソ\ルと同じ位置で連動する音声カーソルを有して」いるとも認められない。そして,上記3及び4で検討したとおり,引用刊行物2の技術及び引用発明2は,いずれも,単一のカーソ\ルを備えるものであるから,テキストの編集に際してテキストカーソルを表\示することが本件優先日における周知技術であるとしても,音響的に再生されている言語の強調表示とは別に,表\示画面上の検出誤りがある言語にカーソルが配置及び表\示されない引用発明1と,単一のカーソルを備え,このカーソ\ルの機能を,本願発明における「音声カーソ\ル」としての機能と「テキストカーソ\ル」としての機能とに選択的に切り替える,引用刊行物2の技術及び引用発明2とからは,「表\示手段に表示される前記認識テキスト情報の誤ったワードにテキストカーソ\ルを配置及び表示し,ユーザにより入力された編集情報に従って前記誤ったワードを編集する」ようにし,「前記テキストカーソ\ルと前記音声カーソルとを同じ位置又は所定の距離だけ離間した位置に配置するため,前記表\示されたテキストカーソルを前記表\示された音声カーソルに,あるいは前記表\示された音声カーソルを前記表\示されたテキストカーソルに連動させる」本願発明の構\成とすることを,当業者が容易に想到し得たとは認められない。

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平成23(行ケ)10208 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月31日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献には開示または示唆がないとして、取り消されました。
これに対し,被告は,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する必然性はない,引用発明がウェットトラップを利用しないものとはいえないなどと主張する。しかし,被告の主張は採用できない。すなわち,引用例において,インクが未乾燥の状態でガイドローラと接触するとの記載はない。仮に,被印刷体を移送するローラが乾燥していないインクを有する印刷面に接触する技術が周知であったとしても,そのことから直ちに,引用例においてウェットトラップ印刷法を採用すること,同印刷法を採用した場合に生じ得る解決課題及び解決方法が記載,示唆されていると解することはできない。また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であったとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない。

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平成23(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 そうすると,引用刊行物の図1の面発光レーザアレイ100は,上記の各素子列の単位からなるものであり,また,上記のとおり,図8の面発光レーザアレイ400は,図1の面発光レーザアレイ100の面発光レーザ素子をジグザグ配置したものであるから,図8の面発光レーザアレイ400は,素子列401,405,409,・・・437からなっているということができ,各素子列は,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。そして,メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる図8の記載からは,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図8の記載から,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。引用刊行物の図9におけるメサ間(発光スポット)の間隔についてみるに,図1の面発光レーザアレイ100は,上記の素子列の単位からなるものであり,これに引用刊行物の段落【0111】の記載を合わせると,図9の面発光レーザアレイ400Aも同様の素子列の単位からなると認めることができる。そうすると,図9の面発光レーザアレイ400Aの各素子列も,主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる。メサ間(発光スポット)の間隔は,格子列間隔のことを意味するものであるから,各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる引用刊行物の図9の記載から,「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図9の記載からも,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。

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平成23(行ケ)10336 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月26日 知的財産高等裁判所

 本件発明を詳細な説明を参酌して判断し、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 まず,本願発明に係る「多重スイッチルータ」の意義について検討する。本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,多重スイッチルータに関して,i)「前記ケーシングの各面に設けられた複数の入出力用信号伝達素子を・・・該ケーシング内の前記入出力インターフェースに接続し,」,ii)「前記入出力用信号伝達素子による他のコンピュータからの信号の取り込み,吐き出しを信号選択及びバイパス機能を有する」,iii)「前記ケーシングの各面に配設されたコードレス型の複数の入出力用信号伝達素子間にバイパスを形成できるように(する)」ことが記載されているが,多重スイッチルータの意義は,必ずしも一義的に明確ではない部分がある。そこで,本願明細書の記載を併せて参照することとする。本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,多数のコンピュータをクラスタ接続して集合型超コンピュータを構成するに当たり,コードにより各コンピュータ間を接続するとコンピュータの集合体積が大きくなること,膨大な量のコードを収納するスペースが必要となること,各コンピュータの結合作業が煩雑となることなどの問題があったことから,これらの問題を解決するべく,集合型コンピュータを構\成する各コンピュータの入出力インターフェース等のコンピュータ構成要素を多面形状のケーシングに内蔵し,入出力インターフェースに結合されたコードレス型の信号伝達素子をケーシングの各面に配設し,さらに,他のコンピュータからの信号の取り込み及び吐き出しを「信号選択」及び「バイパス機能\」を有する多重スイッチルータを通じて行うようにしたものであることが認められる。そして,本願明細書の段落【0007】,【0014】,【0015】,【0016】によれば,i)上記「信号選択」機能とは,他のコンピュータからのデータのうち自コンピュータが取り込むべきデータを選択的に取り込むために信号を選択する機能\と,形成されたバイパスを含む信号伝送経路を選択するために信号を選択する機能とを総称したものであり,ii)上記「バイパス機能」とは,入出力用端子間に,入出力インターフェースに取り込まれることなくデータを伝送するためのバイパスを形成するものと認められる。さらに,本願明細書の段落【0015】によれば,「周波数,時間,符号を使ってデータ伝送経路の選択を行う」ことの例示として,各ポートに設定された周波数帯域に応じて互いに分離できるようにされた複数の信号が伝送される例が示されており,これらの記載は,いずれも「多重スイッチルータ」が周波数等を用いた弁別により互いに分離できる状態で複数の信号を伝送することを前提としたものと解される。そうすると,本願発明における「多重スイッチルータ」は,i)データの導通と遮断を行う開閉ゲートとして作動し,ポートごとの周波数帯域を所定の値に設定することによってポートを閉じてデータの取り込みや吐き出しを阻止し,ii)各コンピュータが周波数,時間,符号を使ってデータの伝送経路を選択する際,特別の信号伝送経路制御装置を用意することなく,ポート間にバイパスを形成し,iii))バイパスが形成された場合には,当該コンピュータの入出力インターフェースに取り込まずにポートからポートへとデータを伝送する機能を有するものであること,また,「多重」とは,互いに分離できるように複数の信号を物理的に1つの伝送路により伝送することを意味するものといえる。以上によれば,本願発明に係る「多重スイッチルータ」とは,データの導通や遮断を行うスイッチとして作動し,かつ,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されるルータを意味するものであって,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されないルータはこれに含まれないものと解される。\n

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平成23(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月07日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決について、前提が誤っているとして取り消されました。
上記(イ),(エ),(オ)には,甲2に示される化合物,すなわち上記(ウ)に記載される化合物が,血中コレステロールを低下させる,高コレステロール血症の治療剤として有用であり,上記(キ)には製剤化され,経口投与されることも記載されている。 上記(オ)には,甲2に示される化合物について,まず塩の製造方法が記載され,塩形態の使用は,酸またはラクトン形態の使用に等しいことが記載され,続けて,適当な塩がいかなるものか説明され,さらに酸の製造方法に関しても説明されている。そしてCI−981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている。
4 そうすると,審決が判断の前提としたように,CI−981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI−981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである。 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI−981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。

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平成23(行ケ)10186 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が、前提事実の認定に誤りありとして取り消されました。
 審決は,本件発明と甲4発明との間の相違点3は容易想到でないと判断した(60頁)。しかしながら,この判断は誤りであり,その理由は次のとおりである。なお,以下の判断の前提事実として,無効理由5,6で主張された公用物件についても触れるが,無効理由2を裏付ける補強事実として認定するものである。
 (1) ・・・・・この点,審決は,「・・・公用物件1は『本件に係る出願の実際の出願日前に製造された』ものといえるが,『2010年1月15日〜2010年3月11日の間において大気暴露試験を行』ったものであることは明らかであり,その大気暴\露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における『Δσ』の値であるといえるためには,『Δσ』の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが,請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には『Δσ』の値が変化するものではないとの説明もないし,一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。」として,公用物件1に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないとした(62頁4行〜23行)。しかし,硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,熱,紫外線,化学薬品,応力の影響により,性質,機能,特性の低下が起こる可能\性があり(甲27,33,47,71,105,弁論の全趣旨),また,公用物件1の保管方法が推奨されている千鳥積み等ではなく敷物として利用されていたり,物置内に放置されていたりしたものであったとしても,森定興商株式会社大阪支店の屋内の資材置場又はB宅内の物置において保管されていたものであって,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3−1・2),暴露試験時において公用物件1−1・4・8〜12がJIS規格に定められた性能\(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。そうすると,平成22年1月15日〜同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である。
(2) また,証拠(甲10の3−1)によれば,公用物件2は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであると推認することができる。この点,被告は,原告らにおける公用物件2の再現実験の条件(甲39)は,本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を示すものではないと主張する。しかし,本件出願前から使用されていた押出機を使用していることや,従来技術と考えられる水による冷却を行っていること(甲109)などからすると,再現実験は概ね本件出願日前に存在した公用物件2の製造条件を守って行われたと認めるのが相当である。そうすると,本件出願時において,構成BのΔσ の値を満たす硬質塩化ビニル樹脂管(黒色の顔料としてカーボンブラックが使用されたもの)は存在していたと認めるのが相当である。加えて,公用物件2の再現実験が本件出願前の製造条件等を完全に再現したものではないとしても,証拠(甲10の3−1)によれば,少なくともカーボンブラックを黒色顔料として添加した硬質塩化ビニル樹脂管で本件発明の構成Bを満たすものが本件出願時に存在したことは推認することができる。\n

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平成23(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 当業者であれば、作用効果についても想到したであろうとして、進歩性違反無しとした審決が、取り消されました。
 本件各発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,本件各発明は,糖尿病治療に当たって,薬剤の単独の使用には,十分な効果が得られず,あるいは副作用の発現などの課題があった一方で,インスリン感受性増強剤でありほとんど副作用がないピオグリタゾンを,消化酵素を阻害して,澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα−グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース,ボグリボース又はミグリトール)と組み合わせた医薬については知られていなかったことから,ピオグリタゾンとそれ以外の作用機序を有するα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせることで,薬物の長期投与においても副作用が少なく,かつ,多くの糖尿病患者に効果的な糖尿病予\防・治療薬とすることをその技術的思想とするものであるといえる。
・・・・
 前記(1)エに認定のとおり,当業者は,引用例3の図3からピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩とアカルボース,ボグリボース及びミグリトールをから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤の併用投与という構成及びそこから血糖値の降下という作用効果が発現することと認識するものと認められるが,ここで発現する作用効果についてみると,前記(1)ウに認定のとおり,作用機序が異なる薬剤を併用する場合,通常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,併用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々に発揮されると考えられる。しかも,前記1(3)アないしオに記載のとおり,引用例1は,SU剤による二次的無効に対処するためにピオグリタゾン等の作用機序の異なる経口剤の併用について言及し,引用例2は,個々の患者の病態に即したより有用な治療としてのピオグリタゾンやα−グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース等の薬剤の併用投与について言及し,引用例3は,α−グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとSU剤との併用による血糖値の低下という成果を紹介するほか,図3の説明に引き続いて個々の病態に応じたきめ細かい治療の必要性に言及し,引用例4は,糖尿病患者の空腹時血糖量に応じたα−グルコシダーゼ阻害剤及びそれとは作用機序を異にする薬剤(インスリン感受性増強剤を含む。)との単独投与や併用投与の組合せについて説明しており,さらに,乙17(甲22)は,インスリン感受性増強剤であるトログリタゾンの単独投与群とSU剤又はビグアナイド剤との併用投与群で血糖調節について同じ改善率があったことを記載していることからすると,本件優先権主張日当時の当業者は,これらの作用機序が異なる糖尿病治療薬の併用投与により,いわゆる相乗的効果の発生を予測することはできないものの,少なくともいわゆる相加的効果が得られるであろうことまでは当然に想定するものと認めることができる。\n

◆判決本文

◆関連事件です。平成24(行ケ)10147等

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平成23(行ケ)10165 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月12日 知的財産高等裁判所

 一致点の認定は誤りであるが、結論に影響がないとして、進歩性なしとした審決が維持されました。
 (1) 審決は,訂正発明1の「接着成分」の技術上の意義について,「基板上に着弾したスペーサ粒子分散液が乾燥する過程において接着力を発揮し,スペーサ粒子をより強固に基板に固着させる役割を有するもの」(訂正明細書の段落【0029】)であり,引用発明1の「粘接着性付与剤」は,粘接着性を向上させるためのものであって,この粘接着性がスペーサ粒子を基板に固着させることであることは明らかであるから,引用発明1の「粘接着付与剤」は,訂正発明1の「接着成分」に相当するとし,一致点と認定した。しかし,接着剤の技術分野において,「接着成分」と「粘接着性付与剤」は区別して用いられる概念と認められる(高分子学会編「高分子辞典」昭和51年11月20日4版発行〔甲23〕,特開2004−359769号公報〔甲27〕の段落【0035),特開2003−48929号公報〔甲28〕の段落【0063】,特開2000−239327号公報〔甲29〕の段落【0020】)。また,訂正明細書においても,「接着成分」に関する記載(段落【0029】)のほかに,一種の補助成分と解される「接着助剤」に関する記載(段落【0051】)があり,「接着成分」と「接着助剤」とを区別していることが認められる。さらに,甲1においても,スペーサ粒子の表面に設けられる「接着層」に関する記載(段落【0054】)のほかに,一種の補助成分と解される「粘接着性付与剤」に関する記載(段落【0084】)があり,「接着層」と「粘接着性付与剤」とを区別していることが認められる。そうすると,引用発明1の「粘接着付与剤」が訂正発明1の「接着成分」に相当するとし,両者が「前記スペーサ粒子分散液は,スペーサ粒子,接着成分及び溶剤からなるもの」である点で一致するとした審決の認定は誤りである。
 (2) しかし,甲1には,上記のとおり,スペーサ粒子は表面に「接着層」が設けられていても良いこと(段落【0054】),スペーサ粒子分散液には必要に応じて粘接着性を向上させるための「粘接着付与剤」を添加されていても良いこと(段落【0084】)が記載されており,これらの記載からみて,甲1においても,スペーサ粒子の基板に対する接着性の向上が意図されていることは明らかといえる。そして,特開2003−279999号公報(甲7)の段落【0039】,特開2004−37855号公報(甲9)の段落【0056】,特開2004−144849号公報(甲10)の段落【0048】,2004−170537号公報(甲11)の段落【0043】等の記載によれば,スペーサ粒子分散液に接着性を付与するために「接着成分」を配合することは周知技術といえるから,甲1に記載のスペーサ粒子分散液において,スペーサ粒子の基板に対する接着性を向上するために,「接着成分」を配合することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎないというべきである。したがって,引用発明1の「粘接着性付与剤」が訂正発明1の「接着成分」に相当するとした審決の認定自体は誤りであるものの,訂正発明1は引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到することができたとした審決の結論に影響を及ぼすものではない。\n

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平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n

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平成23(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。最後に差し戻し後の審判における認定手法について、付言がなされています。
 以上の記載によれば,甲1(甲6−2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6−2)において,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。
・・・
5 付言
 当裁判所は,審決には,上記2ないし4において判断した他,次の点に問題があると解する。すなわち,一般に,審決が,「本件訂正発明が甲1に記載された発明に基づいて容易に想到することができたか否か」を審理の対象とする場合,i)引用例(甲1)から,引用発明(甲1に記載された発明)の内容の認定をし,ii)本件訂正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で,iii)これらに基づいて,本件訂正発明の相違点に係る構成について,他の先行技術等を適用することによって,本件訂正発明1に到達することが容易であったか否か等を判断することが不可欠である。特に,本件においては,引用例の記載事項のいかなる部分を取捨・選択して,引用発明(甲1に記載された発明)を認定するかの過程は,引用発明として認定した結果が,本件訂正発明と引用発明との相違点の有無,技術的内容を大きく左右するという意味において,極めて重要といえる。しかし,本件において,審決では,引用発明の内容についての認定をすることなく(甲1の記載を掲げるのみである。),また本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定をすることなく(相違点が何であるか,相違点が1個に限るのか複数あるのか等),甲1の文献の記載のみを掲げて,本件訂正発明1の容易想到性の有無の判断をしている。当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあるとして,審決を取り消すべきものと判断したが,差し戻した後に再開される審判過程において,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言する。

◆判決本文

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平成23(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月06日 知的財産高等裁判所

 引用発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
 上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。
(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。\n

◆判決本文

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平成21(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月27日 知的財産高等裁判所

 プロダクトバイプロセス特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。主文の前に「当裁判所は特許法180条の2の規定に基づき特許庁長官の意見を聴いた上,次のとおり判決する」と記載されています。
 特許無効審判請求における発明の要旨の認定方法
(ア) 本件訴訟において審理の対象とされているのは,特許庁が平成21年8月25日付けでなした本件審決の当否であり,一方,本件審決がその審理の対象としているのは,原告が平成20年3月27日でなした本件特許についての特許無効審判請求である。ところで,上記特許無効審判請求は,特許法123条に基づく請求であるが,その第1項本文は「特許が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において,2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と定め,また,その対象となる特許権については特許法66条が,その第1項において「特許権は,設定の登録により発生する」とし,その第3項において「前項の登録があったときは,次に掲げる事項を特許公報に掲載しなければならない。」とした上,特許権者の氏名・発明者の氏名・願書に添付した明細書及び特許請求の範囲・図面等が特許公報の記載対象となるとしている。そうすると,特許権の設定登録後になされる手続である特許無効審判請求において,特許庁がその審理の対象として把握すべき請求項の具体的内容(発明の要旨)は,特許公報に記載された請求項(特許請求の範囲)によりなされるべきものであり,そこには「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されている(特許法36条5項)ほか,「特許を受けようとする発明が明確である」(明確性要件,36条6項2号)とともにその「記載が簡潔である」(36条6項3号)必要があることになる。特許法における上記の規定,特に,特許公報の公示機能を考慮すると,無効審判事由の有無の前提となる発明の要旨の認定においては,特許請求の範囲の記載の全てが基準になるのが原則であるというべきである。
したがって,本件のように「物の発明」に係る「特許請求の範囲」にその物の製造方法が記載されている場合,当該発明の要旨の認定は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構\造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合の発明の要旨の認定は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。
ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもあるが,前述の観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになる。
そして,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。この場合,特許無効審判手続を主宰する審判官としては,発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構\造又は特性により特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在すると認めることができたときは真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うが,全証拠によるも上記事情があると認めるに足りないときは,これを上記にいう不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。
(イ) そこで,以上の見地に立って本件についてみると,証拠(甲1,6)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の優先日(平成12年〔2000年〕10月5日)当時,本件訂正発明1に開示されているプラバスタチンナトリウム自体は,当業者にとって公知の物質であり,また,プラバスタチンラクトン及びエピプラバは,プラバスタチンナトリウムに含まれる不純物であることが認められる。したがって,特許請求の範囲請求項1の記載における「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,不純物であるプラバスタチンラクトン及びエピプラバが公知の物質であるプラバスタチンナトリウムに含まれる量を数値限定したにすぎないものであるから,その記載自体によって物質的に特定されていると認められる。そうすると,特許請求の範囲請求項1に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」という「物」は,その当該物の特定のために,その製造方法を記載する必要がないものである。したがって,本件訂正前発明1は物の発明に係る特許請求の範囲の記載中に発明の対象となる物の製造方法が付加して記載されているものの,当該発明の対象となる物を,製造方法によることなく,その構\造や特性により直接的に特定することが出願時において不可能,困難であるとの事情が存在するとは認められないから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定は,特許公報に記載された特許請求の範囲に基づいてその記載どおりに行われるべきであり,その内容は,以下のとおりのものとなる。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウム単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」そして,特許請求の範囲はその後の本件訂正により変更されているので,検討の前提となる請求項1(本件訂正発明1)の内容は,次のとおりのものである。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウムを単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」\n

◆判決本文

◆関連の侵害訴訟です。平成22(ネ)10043平成24年01月27日知財高裁

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平成23(行ケ)10140 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成23年12月19日 知的財産高等裁判所

 一致点の認定が誤りであるとして、進歩性なしとして審決を取り消しました。
 本願明細書(乙4)には前記(1)アのとおりの記載があり,段落【0003】,【0004】,【0006】等の記載からすれば,本願発明1の「高温炉」においては,超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解するように,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱されるものと認められる。一方,引用発明(乙1)は,審決が認定するとおり,「前記霧をベクターガスにより,導管を通じてチャンバー内のプレートの誘電体表面へ運び,前記チャンバーでは,誘電体表\面を約380℃から430℃の温度へ上昇させたプレートに霧が接近するにつれて溶媒が蒸発し,マグネシウムの有機金属化合物を熱分解させてプレートの表面に多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせる」ものであって,プレートは加熱されているものの,チャンバー自体が加熱されるものではない。また,引用発明の明細書(乙1)及び図面において,チャンバー自体が加熱されることや,霧がチャンバーの壁に接触して分解されることは記載されていない。また,前記のとおり,本願発明1の「高温炉」は,超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸気(又は溶剤)に分解させるために,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱されるものであり,一方,前記のとおり,引用発明(乙1)の「チャンバー」は,それ自体が加熱されるものではない。そうすると,それ自体が加熱されていない引用発明(乙1)の「チャンバー」は,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱される本願発明1の「高温炉」に相当するとはいえない。したがって,引用発明(乙1)の「チャンバー」につき,本願発明1の「高温炉」に相当するとした審決の一致点の認定は誤りというほかなく,本件出願に関する全証拠を検討しても,本願発明1の特徴点である「超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁面に接触して分解すること」は記載されていないから,上記一致点の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすおそれがあるというべきである。\n

◆判決本文

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