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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

要旨認定

令和1(行ケ)10153  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月11日  知的財産高等裁判所

用語「臀部の頂上部よりも上側」とはいかなる位置かが争われました。裁判所は、拒絶審決を維持しました。

 1) 以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本願 明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,「下方窄ま\nり」の状態の設定の開始位置(起点)を規定したものであることの開示 はあるが,その用語の意義や技術的意義について述べた記載はない。 しかるところ,「頂上」の用語は,一般に,「いただき,てっぺん」 などを意味すること(広辞苑(第七版)),ヒップサイズの寸法は,人 体を側方から見て臀部が最も後方に突き出している位置(最も高い位置)\nをメジャーで測定するのが一般的であることに鑑みると,本願発明1の 「臀部の頂上部よりも上側」にいう「臀\部の頂上部」の用語は,臀部が\n最も後方に突き出している位置(最も高い位置)を意味するものと理解 することができ,身頃の展開状態(展開平面図)においては,その位置 は,「臀部における点」として観念できるものと解される。\n
そうすると,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,臀\部が最 も後方に突き出している位置(最も高い位置)よりも,上方であれば, それが多少の上方であっても,「臀部の頂上部よりも上側」に含まれる\nものと解される。
イ これに対し原告は,本願明細書の記載(【0010】,【0013】等) によれば,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域の\n開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀\部の頂上部 よりも上側」に設定(相違点1に係る本願発明1の構成)し,この設定に\nより,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接するこ\nとになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向き\nのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち\n上げる作用を果たすので,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りを ヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の下 部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように 深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本願明細書の【0010】及び【0 013】の記載は,「下方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒッ\nプ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包み込むことができるので, ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾ラインのずり上がりを確実に 防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部\nに相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒ ップ裾ラインを出すことことができるという効果を奏する旨を開示するも のであるが,本願明細書には,この効果が「下方窄まり」の状態の設定の 開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」としたことによるもので\nあることについての記載はない。
また,前記ア認定のとおり,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂\n上部よりも上側」の具体的な位置を示した記載はないし,「下方窄まり」 の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とするこ\nとの技術的意義について述べた記載もない。ましてや,「下方窄まり」の 状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすること\nによって,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接す\nることになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上\n向きのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に\n持ち上げる作用を果たすことについては,記載も示唆もない。 したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので あるから,採用することができない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月22日  知的財産高等裁判所(3部)

 無効審判の審理で訂正し、無効理由無しとされましたが、これについては、審決取消訴訟(前訴)で取り消されました。再開した審理で、訂正がなされ、無効理由無しと判断されました。知財高裁は審決を維持しました。争点は新規性・進歩性、サポート要件です。概要は、先行公報に記載された事項については前訴の拘束力化あり、また阻害要因ありと判断されました。

   本件訂正発明1と甲1発明の相違点の認定の誤りについて
 ア 甲1の【0016】には,「図1にホットプレスにより作製したターゲッ トの断面組織写真を示す。これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質 に分布しているのが観察され,・・・以上の結果より,このターゲット組織は SiO2がCo−Cr−Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。」との記載があるから,甲1の図1の黒い点はSiO2と 認められる。そして,甲1の図1によれば,SiO2の黒い点は粒子状をな しており,いずれも半径2µmの仮想円よりも小さいと認められる。したが って,甲1の図1のSiO2粒子はいずれも,SiO2粒子内の任意の点を 中心に形成した半径2µmの全ての仮想円よりも小さいと認められ,形状2 の粒子の存在を確認することはできないから,本件訂正発明1が必ず形状 2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否かが 一見して明らかではないと認められる。
前訴判決は,審決を取り消す前提として,甲1発明の図1の全ての粒子 は形状1であると認定しており(甲30,61頁),この点について拘束力 が生じているものと認められ,この点からしても,本件訂正発明1が必ず 形状2を含むのに対し,甲1発明においては,形状2の粒子を含むのか否 かが一見して明らかではないということができる。 そうすると,本件訂正発明1が形状2の粒子を含むのに対し甲1発明に おいて形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでないとの本件審 決の相違点(相違点2)の認定に誤りはないものと認められる。 イ(ア) この点につき,原告は,甲3に記載された再現実験は,甲1の実施 例1の再現実験であり,甲3で確認される非磁性材料粒子の組織は,甲 1の実施例1の組織と同じであるとして,甲3の断面組織写真である図 6の画面右下には形状2の粒子が存在するから(甲47),本件訂正発明 1と同じく,甲1発明にも形状2の粒子が存在するということができ, 形状2の粒子を含むのか否かが一見して明らかでない点をもって,本件 訂正発明1と甲1発明の相違点ということはできないと主張する。
(イ) 前記2(2)アのとおり,メカニカルアロイングは,高エネルギー型ボ ールミルを用いて,異種粉末混合物と硬質ボールを密閉容器に挿入し, 機械的エネルギーを与えて,金属,セラミックス,ポリマー中に金属や, セラミックスなどを超微細分散化,混合化,合金化,アモルファス化さ せる手法で,セラミックス粒子を金属マトリクス内に微細に分散させる ことを可能とするものであり,このようなメカニカルアロイングの仕組\nみに照らすと,メカニカルアロイングにおいては,ボールミルのボール の衝突により異種粉末混合物にどのような力が加えられるかにより,生 成物の組織が異なってくるものと認められる。また,甲52に「一般に 粉末のミリング時には衝撃,剪断,摩擦,圧縮あるいはそれらの混合し たきわめて多様な力が作用するがメカニカルアロイングにおいて最も重 要なものはミリング媒体の硬質球の衝突における衝撃力とされている。 衝撃圧縮により粉末粒子は鍛造変形を受け加工硬化し,破砕され薄片化 する。・・・薄片化および新生金属面の形成に加え,新生面の冷間圧接およ びたたみ込みが重なるいわゆる Kneading 効果により,次第に微細に混 じり合い,ついには光学顕微鏡程度では成分の見分けがつかないほどに なってしまう。」(前記2(1)オ)との記載があることからすると,メカニ カルアロイングにおいて最も重要なものはミリング媒体の硬質球の衝突 における衝撃力であると認められる。そうすると,ボールミルのボール の材質や大きさ,ボールミルの回転速度等の条件が異なれば,メカニカ ルアロイングによって得られる粉末の物性は異なり,そのような粉末か ら得られるスパッタリングターゲットの研磨面で観察される組織の形態 も異なると認められる。 そうであるとすれば,少なくともボールミルのボールの材質や大きさ, ボールミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件が明らかにされな ければ,どのような組織の生成物ができるかが明らかにならないものと いうべきである。 そこで本件についてみると,甲1には,甲1発明のスパッタリングタ ーゲットを製造する際の,ボールミルのボールの材質や大きさ,ボール ミルの回転速度等のメカニカルアロイング条件についての記載はなく, 甲3のメカニカルアロイングの条件が,甲1発明のスパッタリングター ゲットを製造する際のメカニカルアロイングの条件と同じであったとい う根拠はない。そうすると,甲3に記載されたスパッタリングターゲッ トが形状2の粒子を含んでいたとしても,このことのみから,甲1発明 のスパッタリングターゲットも形状2の粒子を含むということはできな い。そして,その他に,甲1発明のスパッタリングターゲットが形状2 の粒子を含むことを認めるに足りる証拠はない。
・・・
(2) 本件訂正発明1〜6の進歩性についての判断の誤りについて
ア 本件訂正発明1と甲1発明の相違点2,本件訂正発明2と甲1発明の相 違点2’の容易想到性について検討する。 甲1発明は,ハードディスク用の酸化物分散型 Co 系合金スパッタリン グターゲット及びその製造方法に関する発明であり(【0001】【産業上 の利用分野】),発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ない Co 系合 金磁性膜をスパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングタ ーゲット及びその製造方法を提供することにある(【0009】【発明が解 決しようとする課題】)。そして,発明者らは,Co 系合金磁性膜の結晶粒界 に非磁性相を均質に分散させれば,保磁力の向上とノイズの低減が改善さ れた Co 系合金磁性膜が得られることから,そのような磁性膜を得るため には,使用されるスパッタリングターゲットの結晶組織が合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相であればよいことに着目し,セラミ ックス相として酸化物が均質に分散した Co 系合金磁性膜を製造する方法 について研究し,甲1記載の発明を発明した(【0010】【課題を解決す るための手段】)。そして,甲1には,急冷凝固法で作製した Co 系合金粉末 と酸化物とをメカニカルアロイングすると,酸化物が Co 系合金粉末中に 均質に分散した組織を有する複合合金粉末が得られ,この粉末をモールド に入れてホットプレスすると非常に均質な酸化物分散型 Co 系合金ターゲ ットが製造できる(【0013】(課題を解決するための手段))と記載され ており,甲1発明のスパッタリングターゲットは,アトマイズ粉末とSi O2粉末を混合した後メカニカルアロイングを行い,その後のホットプレ スにより製造されたものであり,SiO2が Co−Cr−Ta 合金中に分散した 微細混合相からなる組織を有する(【0015】,【0016】(実施例1))。 他方,メカニカルアロイングについては,本件特許の優先日当時,前記 2(2)記載の技術常識が存在したと認められ,当業者は,甲1発明のスパッ タリングターゲットを製造する際も,原料粉末粒子が圧縮,圧延により扁 平化する段階(第一段階),ニーディングが繰り返され,ラメラ組織が発達 する段階(第二段階),結晶粒が微細化され,酸化物などの分散粒子を含む 場合は,酸化物粒子が取り込まれ,均一微細分散が達成される段階(第三 段階)の三段階で,メカニカルアロイングが進行すること自体は理解して いたものと解される。
そして,メカニカルアロイングが上記第一ないし第三の段階を踏んで進 行することからすると,メカニカルアロイングが途中の段階,例えば,第 二段階では,ラメラ組織が発達し,形状2の粒子も存在するものと考えら れ,甲49(実験成績報告書「甲3の混合過程で形状2の非磁性材料粒子 が存在すること(1)」)及び甲50(実験成績報告書「甲3の混合過程で 形状2の非磁性材料粒子が存在すること(2)」)も,メカニカルアロイン グの途中の段階においては,形状2の粒子が存在することを示している。 しかし,甲1には,形状2のSiO2粒子について,記載も示唆もされて いない。むしろ,本件特許の優先日当時のメカニカルアロイングについて の前記技術常識(前記2(2))に照らすと,メカニカルアロイングは,セラ ミックス粒子等を金属マトリクス内に微細に分散させるための技術であ り,第二段階は進行の過程にとどまり,均一微細分散が達成される第三段 階に至ってメカニカルアロイングが完了すると認識されていたものと推 認されるところであり,前記2(1)の技術文献の記載に照らして,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることが想定されていたとは 認められない。メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階までで終 了することについて,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,その他に, これを示唆するものは認められない。むしろ,甲1には,合金相とセラミ ックス相が均質に分散した微細混合相である結晶組織を得ることが,課題 を解決するための手段として書かれており,セラミックス相が均質に分散 した微細混合相を得るためには,均一微細分散が達成される第三段階まで メカニカルアロイングを進めることが必要であるから,甲1は,メカニカ ルアロイングをその途中の第二段階で止めることを阻害するものと認め られる。
そうすると,当業者は,メカニカルアロイングについて前記2(2)記載の 技術常識を有していたものではあるが,甲1発明のスパッタリングターゲ ットを製造する際に,メカニカルアロイングを第二段階等の途中の段階ま でで終了することにより,SiO2粒子の形状を形状2(形状2’)の粒子 を含むようにすることを動機付けられることはなかったというべきであ る。 したがって,相違点2及び相違点2’に係る事項は,当業者が容易に想 到し得たものとは認められない。

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令和1(行ケ)10161  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年10月21日  知的財産高等裁判所

 本件発明の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。

 本件審決は,相違点の認定において,本件補正発明が,「ダンパを囲繞す る空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」点と,「想定される入力方向に 対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」る点とを分けて認定して\nいる。 しかし,本件補正発明は物の発明であること及び前記1で認定した本件明細書の 記載からすると,本件補正発明の,「想定される入力方向に対して機能する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜す\nるように上記剪断部が設置され」との構成は,「端部の連結部を介して一連に設けられ」,「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」二つの\n剪断部の形状について,いずれの剪断部も,想定される方向からの入力に対して機 能し,想定される入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状であることを特定したものと解するのが相当であるから,本件補正発明の,「二つの剪断部\nが,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ」との構成,弾塑性履歴型ダンパが「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置され」,「上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部 が設置され」との構成及び「ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連である」との構\成は,いずれも,ダンパの形状を特定するものである。そして,これらの形状の構成は相互に関連して,ダンパが振動エネルギーを吸収する機序に影響を与えるものであるから,上記の各構\成を別個の相違点として,それぞれ独立に容易想到性の判断をするのは相当ではないというべきである。これに反する 被告の主張は理由がない。
(2) 相違点4’の容易想到性について
ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用発明1は,水平 方向の全方向からの震動エネルギを,X)成分とY成分に分担して極低降伏点鋼製パ ネルが塑性変形して吸収する制震パネルダンパであること,従来は,水平方向の全 方向からの震動エネルギを吸収するために,極低降伏点鋼製パネルの向きが直角と なるように二つのダンパをL字状やT字状に並べて配置していたところ,そのよう なダンパの配置方法では,それぞれのパネル毎に一対のエンドプレートを設置する ため,取り付けのためのスペースが大きくなり,また,取り付けのための手間がか かるという課題があり,同課題を解決するために,引用発明1−2は,ダンパの形 状を,平面視した場合に断面が中空の矩形になる四角柱状とし,これを一対のエン ドプレートの間に設置する構成にしたもの,引用発明1−1は,ダンパの形状を,平面視した場合に断面が互いに直交する十\字状としたものであり,それぞれこれを一対のエンドプレートの間に設置する構成にしたものであることが認められる。一方,本件補正発明の特許請求の範囲の「想定される入力方向に対して機能\する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって」,「上記想定される入力方向に対し, 二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され」との記載及 び前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件補正発明は,振動エネルギー の入力方向を想定し,特定の入力方向からの振動に対応するダンパであること,本 件補正発明の従来技術であるダンパは,剪断部を一つしか有していないために,地 震の際にいずれの方向から水平力の入力があるかは予測困難であるのに,一方向からの水平力に対してしか機能\せず,また,想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要であるという課題があったこと, 本件補正発明は,剪断部を二つ設け,これらを端部で連結させたことにより大きな 振動エネルギーを吸収できるようにし,また,向きの異なる二つの剪断部を想定さ れる入力方向に対し面内方向に傾斜するように設置できる形状とすることにより, 入力の許容範囲及び許容角度が広くなり,据付誤差を吸収することができるように したことが認められる。 このように,引用発明1は,水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収する ためのダンパであるのに対し,本件補正発明は,振動エネルギーの入力方向を想定 し,その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギ ーを吸収するためのダンパであり,両発明の技術的思想は大きく異なる。これに反 する被告の主張は理由がない。 そして,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,上記のような技術的思想に基づくものであるから,引用発明1−2との実質的な相違点であり,それが設計事項\nにすぎないということはできない。
イ(ア) 前記2(2)で認定した引用文献2の記載からすると,引用文献2には, 本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3(1)イ)が記載されているが,引用発 明2の略L字状に配置された二つの剪断パネル型ダンパー90の各パネル部は,端 部で連結されていないことが認められる。 引用発明1−2においては,各側面のパネルはすべて端部で隣接するパネルと連 結されているが,引用発明1−2のこの構成に代えて,引用発明1−2に,二つの剪断パネル型ダンパー90のパネル部を,端部を連結することなく,略L字状に配\n置するという引用発明2の上記構成を適用して,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネルを端部で連結する構\成とすることの動機付けは認められない。
(イ) 前記2(3),(4)で認定した引用文献3,4の記載によると,塑性変形す る部材を用いて震動を吸収するダンパー部材において,塑性変形する部材の降伏強 度を調整するなどの目的で,穴又はスリットを設けることは,周知技術であること が認められるが,引用発明1−2にこの周知技術を適用したとしても,ダンパを囲 繞する空間と一連とはなるが,ダンパの断面形状をL字状とするなど2枚のパネル を端部で連結する構成となるものではない。
(ウ) その他,相違点4’に係る本件補正発明の構成を引用発明1−2に基づいて容易に想到することができたというべき事情は認められない。\n
(エ) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明 1−2に基づいて本件補正発明を容易に発明することができたとは認められない。
(オ) なお,本件審決は,引用文献1には,断面が十字状や中空の矩形の形状の引用発明1のほか,断面が円状のダンパも記載されていることから,引用文献1\nにおける極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については,異なる方 向成分の震動を分担して塑性変形により吸収する機能が維持される範囲で,自由度がある,引用文献1は,断面が略L字状となるダンパを排除していないと判断する。\nしかし,本件補正発明を引用発明1−2に基づいて容易に発明することができた ということができないことは,既に判示したとおりであって,引用文献1において, 極低降伏点鋼パネルの数や配置及び交点の接合形態については自由度があり,また, 断面が略L字状となるダンパを排除していないとしても,そのことから直ちに本件 補正発明を発明する動機付けがあるということができないことは明らかである。

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令和1(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月15日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n

 イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に 関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で 側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送 され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。 原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所 (例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において, “recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の “withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4 欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は, 回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの が相当である。 そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き 出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。 しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純 度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精 留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の 沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成 分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図 1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明 においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得 られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1 に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当 時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体 として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技 術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き 出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ ざるを得ない。 本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新 規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の 純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果, 空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」 の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。 イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱 交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝 縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容 器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図 1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器 容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が, 供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された 後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉) に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体 酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱 交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸 素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」 内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体 の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧 精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点 を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を 下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮 機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】, 【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施 の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件各発明を実施することができる。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n

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令和1(行ケ)10091  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月10日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。争点の1つが引用文献の認定です。裁判所は、引用文献から発明を抽出する点について、「発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足りる」と判断しました。

ア 原告は,審決が事項1)(ボルトの本数)及び事項2)(三角部材)を構成\nに含めずに引用発明を認定したことは誤りである旨主張するので,検討す る。
(ア) 引用発明の認定に際しては,ひとまとまりの技術的思想を構成する要\n素のうち,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない 限度で認定すれば足り,特段の事情がない限り,本件補正発明の発明特 定事項との対応関係を離れて,引用発明を必要以上に限定して認定する 必要はないと解される。 審決の認定した引用発明は,「操作コントロールとバランス感覚を養 う上で支援となる自転車を提供すること」及び「走行練習の期間を短縮 させる自転車を提供すること」という考案の課題(引用文献1の【00 03】)に照らし,「接続部品を車体上の接続部の収納空間内から取り 外し,前記ペダルユニットを車体上から分離させる」こと(同【000 7】)及び「ペダルユニットが枢設されている接続部品を車体上の接続 部の収納空間内に固設する」こと(同【0008】)に対応する構成を\n含めて「走行練習用の自転車」の構成要素を特定したものであるから,\n課題を解決するために必須の構成を,ひとまとまりの技術的思想として\n把握できるように特定したものということができる。
(イ) 事項1)(ボルトの本数)を捨象したことについて
a ボルトの本数について,引用文献1の実施例を示した【図1】【図 2】【0006】では2本とされているものの,【実用新案登録請求 の範囲】においてボルトの本数は特定されていない上に,【考案の詳 細な説明】においても,実施例においてボルトを2本としたことの理 由やその作用効果,自転車の機能との関係等についての記載や示唆は\nみられない。そうすると,引用発明において,ボルトの本数(それが 2本であること)は,発明の本質的要素には当たらないというべきで あるから,事項1)を欠くことによって,引用文献1に開示された考案 の技術的思想を把握できなくなるものではない。 したがって,引用文献1において,ボルトの本数には特段の技術的 意義はないと解するのが当業者の通常の理解であると考えられるから, 「ひとまとまりの技術的事項」としての引用発明を認定するに当たっ て,ボルトの本数に関する事項1)を捨象することは妨げられないとい える。
b なお,本件補正発明は,ボルトの本数を,発明特定事項として何ら 限定するものでないから,引用発明の認定に当たって事項1)を捨象し ても,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限 度で認定しているといえ,この点からしても,原告の主張は失当であ る。 また,原告の主張中には,本件補正発明の意義の中には,組立てを 容易にすることが含まれているとする部分があり,この主張は,本件 補正発明は,組立てを容易にするという観点から,ボルトの本数(1 本)を本質的な要素とするという趣旨であると考えられないでもない。 しかしながら,本件補正発明の請求項の範囲には,ボルトの本数は含 まれていないし,本件明細書を検討しても,ボルトの本数が1本であ ることが,本件補正発明の本質的要素であることが記載されていると 理解することはできないから,上記のような理解は成り立たない。
(ウ) 事項2)(三角部材)を捨象したことについて
a 引用文献1の【図1】〜【図3】には三角部材らしき図示がなされ ているものの,考案の詳細な説明では言及がないし,同種の形状を有 する自転車車体において三角部材が必須の部材であるとの技術常識が あるとも認めがたい。そうすると,引用文献1に接した当業者が三角 部材に特段の技術的意義があると理解することは想定し難いから,ひ とまとまりの技術的事項としての引用発明を認定するに当たって事項 2)を捨象することは妨げられない。
b 他方,本件補正発明は,三角部材に相当する部材を備えることを発 明の構成要素とするものではなく(本件明細書において発明の一実施\n形態として【0018】で言及され,本願図1ないし3に図示されて いるにとどまる。),それを除外することを構成要素とするものでも\nない。したがって,引用発明の認定に当たって事項2)を捨象しても, 本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認 定しているといえ,この点からしても原告の主張は失当である。
(エ) 以上によれば,事項1)及び2)を捨象した審決の引用発明の認定は,引 用文献1に開示された考案の有するひとまとまりの技術的思想につき, 本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定 したものということができる。かかる認定が,引用文献1に記載された 技術内容から必須の一部構成を捨象したとも,不当に抽象化・一般化・\n上位概念化したともいえない。 したがって,引用発明の認定に誤りがあるとの原告の主張は採用する ことができない。

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令和1(行ケ)10155 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。ただ、知財高裁は、引用文献に記載の発明について誤りがあるが、結論は妥当としました。

 「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」 とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのよ うなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0 058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超え て,それを限定する記載はない。 他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2 種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように, 別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶\n着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」 との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28 の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図 6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予\n定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を 果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても\n区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。 そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当す るものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
・・・
本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されてお り,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では, そのような特定のない点。 イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイ ン,またはその塩,エステルもしくはN−アシル体を収容し,区画室28に微量金 属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「ア\nセチルシステイン」は,システインのN−アシル体であるから,相違点1−1及び 相違点1−2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸 液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する 取消事由1は理由がない。

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令和1(行ケ)10116  審決(拒絶)取消 令和2年5月20日判決 審決取消(2部) 特許権 (回転ドラム型磁気分離装置) 新規性,進歩性,相違点の判断

 相違点の認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。

 本件補正発明では,第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を 形成するのに対し,引用発明は,上記のような流路を形成しているか否かが不明な 点
ウ これに対し,被告は,引用文献1においては,タンク17の底部が底部 材に相当し,マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形 成されるとして,相違点3は存在しないと主張する。
(ア) しかし,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,「・・・前記使 用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流 れ,・・・前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第 1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き 取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿 って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装 置。」というものであり,同記載からすると,第2の回転ドラムから第1の回転ドラ ムに向かうクーラント液は,第 1 の回転ドラム下部に第 1 の回転ドラムと底部材と の間に形成された流路を流れるものであって,スクレパーによって掻き取られた磁 性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。そして,このことは, 本件明細書に,「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する 底部材30に連結されており,掻き取られた不要物(磁性体)は第1の回転ドラム 13へと誘導される。」(段落【0041】),「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材に連結されていれば足りるので,第2の回転ド ラム21側から第1の回転ドラム13に向かって下降するよう傾斜していても良 い。」(段落【0053】),「図7に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,第2の回転ドラム21の外筒29に当接するスクレパー27が,第 2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13側へ傾斜するよう設けられてい る。」(段落【0054】),「これにより,スクレパー27で書き取られた第2の回転ドラム21に付着した不要物が,傾斜に沿って第1の回転ドラム13側へと流れに 乗って移動しやすく,第1の回転ドラム13により確実に回収することが可能とな\nる。」(段落【0055】)と記載されていることからも,裏付けられているというこ とができる。 したがって,本件補正発明の特許請求の範囲の「流路を形成する」とは,第2の 回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液の流路を形成するものと解 すべきである。
(イ) 引用文献1には,マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当) とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)か らマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていな い(甲1)から,相違点3’は存在し,被告の上記主張は理由がない。

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平成31(行ケ)10019等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年3月25日  知的財産高等裁判所(2部)

 サポート要件・実施可能要件、さらに進歩性について無効主張をしましたが、理由無しとした審決が維持されました。

 1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士 であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で 観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲 8,乙39,40,42)。 イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47〜50)からすると,本件優 先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧 に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結 果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グル タミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の 研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するよ うな技術常識があったと認めるには足りない。 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバ クテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出 の技術常識の存在を認めることはできない。 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸 透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧 調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載から すると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるも のではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上 記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図 だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張す る技術常識の存在を認めることはできない。 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) 甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)
前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタ ミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。
・・・
甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタ ミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその 排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧 が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20% が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質 の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の 結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタイン など多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとし つつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による 排出であるとの結論を導いている。 Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察された リジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸 送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出につ いてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって 提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果 を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることから すると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考 え難いところである。
以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を 受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて 認識すると認めることはできないというべきである。

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令和1(行ケ)10093  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所

 異議申し立てがなされて、訂正されました。審決は異議理由を認めて特許を取り消しましたが、知財高裁は異議決定を取り消しました。争点は引用文献の認定誤りです。\n

本件発明1と引用発明との対比について
本件決定は,前記第2の3(2)イのとおり,本件発明1と引用発明の一致点 及び相違点を認定するところ,甲1に記載された発明として,引用発明’を 認定するのが相当であることについては,前記(3)のとおりである。 ここで,引用発明’の「経編地」は,一定の伸縮性を有することが明らか であるから,本件発明1の「伸縮性経編地」に相当し,引用発明’の「非弾 性糸10からなる,ジャカード運動により振りが入れられている組織」は, 本件発明1の「ジャカード編成組織」に相当するものといえる。また,引用 発明’の「弾性糸12からなる組織」は,全ての編目位置においてループを 形成している点で,本件発明1の「弾性糸のみで構成されて全ての編目位置\nにおいてループが形成されている支持組織」と共通する。 したがって,本件発明1と引用発明’の一致点及び相違点は,以下のとお りであると認められる。
・・・
(5) 相違点の容易想到性の判断について 前記(4)のとおり,本件発明1は,「非弾性糸が全ての編目位置でループを形 成する組織を含まない」のに対し,引用発明’は,「全ての編目位置において ループを形成している非弾性糸11からなる,ジャカード編からなる経編で 編まれる組織」を含むものである。 この点に関し,本件決定は,甲1の図10に相違点に係る本件発明1の構\n成が開示されている旨の認定を前提にして,かかる構成を引用発明の構\成と 置換することは容易である旨判断した。そこで,この点について検討する。
ア 図10の組織図の意義
(ア) 甲1には,(1)図7〜図9は,「本発明で用いるサテン調トリコット組 織の表側の代表\的な組織図」であり,1繰り返し単位中にジャカード運 動により,図7は3つのコースに3針の振りを,図8は1つのコースに 3針の振りを,図9は1つのコースに1針の振りを入れたものを,それ ぞれ示すものであること(【0064】,【0066】,【0068】,【00 69】),(2)図10は,「本発明で用いるメッシュ調トリコット組織の表側\nの代表的な組織図の一例」であって,メッシュ調トリコット組織は,サ\nテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積当たりの 糸の密度が小さいことから,図7〜図9よりも緊迫力が弱いこと(【00 70】,【0072】),(3)甲7〜図10のような態様により,表側に現れ\nる地編トリコット組織をコントロールすることによって,比較的緊迫力 の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分とを,所定部分にパターン状に設 けることができること(【0073】),(4)弾性糸の編み込み態様と,図7 〜図10のような地編トリコット組織による緊迫力の強弱の態様とを組 み合わせることにより,種々の強さの緊迫力を有する部分を,1つの経 編トリコット生地上に実現できること(【0097】),(5)図28の下着の 表側に現れる地編組織は,図7で説明した様なサテン調トリコット組織\n(133a,133c),図9で説明した様なサテン調トリコット組織(1 33b,133d),図10で示した様なメッシュ調トリコット組織(1 31a)などから構成され,133cの部分が最も緊迫力が強く,13\n1aの部分が最も緊迫力が弱くなること(【0151】,【0152】)が 記載されている。 そして,これらの記載によれば,図7〜図10に示された組織図は, いずれも,本発明で用いるサテン調又はメッシュ調トリコット組織の表\n側の組織を示したものであることを理解でき,また,これらの図では, いずれも全てのウェールに糸が供給されていることが示されているので, 2枚1組の「ジャカード筬」を2枚とも用いて編成されたものであるこ とを理解できる。
以上によれば,甲1の図10には,次の事項(以下「甲1に記載され た事項’」という。)が記載されていると認められる。 「図7〜図9に示されるサテン調トリコット組織と同様,2枚1組の ジャカード筬を2枚とも用いて編成される,ループが形成されていない 編目位置が存在するメッシュ調トリコット組織の表側の組織。」\n
(イ) これに対し被告は,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織と して,地編の表側と裏側の両方の組織を図示したものである旨主張し,\nその根拠として,(1)甲1の図9が表側の組織の調整によって緊迫度を下\nげた限界であること,(2)甲1に記載された様々な実施態様に示される経 編地は,特開平6−166934号に例示される2枚のジャカード筬と 1枚の地筬を具備した経編機で編成されるものであるところ,図10の 組織の編成には,2枚1組のジャカード筬を2枚とも必要とするから, 「ジャカード編からなる地編」として,それ以外の「裏側の組織」を編 成することができないことを挙げる。
まず,上記(1)の点について,図9に示したサテン調トリコット組織に おいては,1繰り返し単位中,1針の振りしか入っていないコースがX 7の1箇所存在するが(【0069】),当業者であれば,1針の振りしか 入っていないコースを2箇所以上にすることにより,更に緊迫力が低下 することを理解できるから,図9が表側の組織の調整によって緊迫度を\n下げた限界であるとは解されない。 そして,甲1に,「メッシュ調トリコット組織は,図10からも明らか な様にサテン調トリコット組織に比べて,空間部分が大きく,単位面積 あたりの糸の密度が小さく,従って,上述した図7〜図9のサテン調ト リコット組織に比べて,緊迫力が弱くなる。」(【0072】)との記載が あることに照らすと,図10は,地編の表側の組織の緊迫力の強弱を変\nえる方法として,図7〜図9のように,ガイドの振りの大きさ及びガイ ドの振りが入った割合を調整することとは別の方法として,空間部分の 大きさ及び単位面積当たりの糸の密度を調整することを示したものであ ると理解できる。
次に,上記(2)の点について,甲1の「ジャカード編からなる地編」と は,ジャカード筬と地筬とを備えるジャカード制御装置を有する経編機 を用いて編まれるものであるが,ジャカード筬のみを用いて編んだもの に限定されるものではなく,表側はジャカード筬を用いて編み,裏側は\n地筬を用いて編んだものも含まれることを理解できることについては, 前記(3)ウ(ウ)のとおりである。
そして,甲1には,「本発明で用いる経編生地は,実際にはジャカード 制御装置を有する経編機(例えば特開平6−166934号など参照) などを用いて,これらの経編機に地編用の非弾性糸と挿入糸用及び/又 は編み込み用の弾性糸とを供給して同時に編まれるのであるが,理解を 容易にするために,地編の部分をまず説明する。」(【0034】)との記 載があるが,上記記載をもって,甲1の各実施形態に示される経編地が 2枚のジャカード筬と1枚の地筬のみを具備した経編機で編成されるも のであることを記載したものとは解されない。むしろ,上記特開平6− 166934号は,具体的な装置としてRSJ4/1を挙げているとこ ろ,同装置は,2枚1組でフルゲージを構成するジャカード筬のほかに,\n3枚の地筬を備えるものであるから(甲10),かかる事実に照らしても, 被告の主張するような解釈を採ることはできないというべきである。 以上によれば,被告の上記主張を採用することはできない。
イ 引用発明’と甲1に記載された事項’との組合せについて
前記アのとおり,甲1の図10は,メッシュ調トリコット組織の表側の\n組織のみを示すものであって,表側と裏側の両方の組織を示すものではな\nいと理解できる。 そうすると,仮に,引用発明’に甲1に記載された事項’を適用しても, 引用発明’の「非弾性糸10からなる組織」が,甲1に記載された事項’ の「ループが形成されていない編目位置が存在するメッシュ調トリコット 組織」と置換されるだけであって,引用発明’の「全ての編目位置におい てループを形成している非弾性糸11からなる組織」は残ることとなるか ら,相違点’に係る本件発明1の構成(「非弾性糸が全ての編目位置でルー\nプを形成する組織を含まない」構成)に至るものではない。\nそして,そのほかに,甲1には,「全ての編目位置においてループを形成 している非弾性糸11」を含まないようにすることについて,これを示す 記載も,これを示唆する記載も存在しない。 したがって,当業者が,甲1に記載された発明に基づき,相違点’に係 る本件発明1の構成を容易に想到することができたものとは認められない。\n

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平成30(行ケ)10175  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月4日  知的財産高等裁判所

 漏れていましたので、追加します。引用例の認定誤りがあり、相違点の認定に誤りありと判断されました。ただ、相違点の評価については、容易相当として、進歩性無しとした審決は維持されました。

 被告らは,引用例1に記載された東レポートという発明の構成の内容を理解する\nために,東レポートの添付文書である引用例2を参照することは許容され,本件審 決が引用例1と引用例2の2つから甲9発明を認定したことに,誤りはないと主張 する。 しかし,「刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)の認定に当たり,特 定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定 することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性と進歩 性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許され\nないというべきである。 よって,東レポートを用いた耐圧性能に関する実験結果を記載した論文である引\n用例1と,これと作成者も作成年月日も異なる,東レポートの仕様や使用条件を記 載した添付文書である引用例2の記載から,甲9発明を認定することはできない。 そして,引用例1には,東レポートの具体的な構成についての記載はなく,東レポ\nートの具体的な構成が本件出願の優先日時点において技術常識であったとまでは認\nめられないから,甲9発明が,引用例1に実質的に開示されているということもで きない。

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平成30(行ケ)10174  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。理由は一致点を相違点と認定した引用発明の認定誤りです。

 原告は,本件審決が認定した本件発明2と甲5発明との相違点Aのうち, 甲5には,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに 近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成が開示されており,こ\nの構成に係る部分は相違点ではなく,一致点であるから,本件審決の上記認\n定は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 前記(1)の甲5の記載事項によれば,甲5には,「前面,裏面,側面,上 面及び底面を有し,上面が前面に向けて傾けられており,縦シール部分は 前面に設けられ,横シール部分が上面に設けられて裏面側に倒され,厚紙 の成形による折り込み片が上面上に折り畳まれている,厚紙の折り畳み式 包装容器」(甲5発明)が記載されていることが認められる。 また,甲5の「図1〜図4に示された包装容器1は,それ自体公知のよう に底と側壁と上壁領域とを有する被覆2からなる。包装容器は,上面が傾 けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器の形態で示されている。この 包装容器は,上面の領域に開口領域3を有している。」(5頁4行〜8行, 訳文5頁10行〜13行)との記載から,甲5の図1及び図4記載の包装 容器1は,「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」である ことを理解できる。 そして,甲5の図1及び図4(別紙甲5図面参照)から,図4において左 右の三角形の折り込み片の頂点の上側に描かれている2個の小さな三角形 (別紙3−1の図4の拡大図参照)は,「横シール部分」を示したものと 認められる。
もっとも,甲5の図4には,2個の小さな三角形の間には「横シール部 分」は図示されていないが,一方で,(1)図4記載の包装容器1は,「上面が 傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であること,(2)本件優先 日当時(本件優先日平成12年7月31日),紙製包装容器において,横線 シールを横方向に横断的に設け,横線シールをする際に対向するシール領 域同士が同じ長さとなるような構造とすることは,技術常識であったこと\n(前記(2)イ),(3)甲5の記載によれば,甲5の包装容器は,「蓋要素によ り再閉鎖可能な開口を備え,該開口は,最初の充填後に初めて開放する前\nには,前記開口を取り囲む前記被覆材料と少なくとも接続された実質的に 平たい封印要素によって閉鎖されている包装容器」に関する考案(実用新 案登録請求の範囲の請求項1ないし14)であり,「横シール部分」は,請 求項1ないし14の考案特定事項とされていないから,図4において「横 シール部分」の図示が省略されたとしても不自然ではないことに照らすな らば,甲5の図4の2個の小さな三角形の間の下側には,横方向に横断的 に設けられた「横シール部分」が存在するが,その描写が省略されていると 理解できる。
加えて,甲5発明のように片流れ屋根形状(「前面」の高さが「裏面」の 高さよりも低い形状のもの)であって,「横シール部分」が横方向に横断的 に形成されている場合には,横線シールをする際に形成される折り込み片 (フラップ)において対向するシールが同じ長さとなるので(例えば,別紙 3−2の展開図中の「横線シール位置」との記載の直下の青色の点の両側 のシール部分(「30」及び「30」の記載に対応する部分)参照),設計 上,必ず「横シール部分」は後方寄り(「裏面」に近い位置)に位置するこ とになるものと認められることに照らすと,甲5には,甲5発明において 相違点Aに係る本件発明2の構成のうち,「頂部に設けられた横線シール\nは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に 倒され」る構成を備えていることが開示されているものと認められる。\nしたがって,相違点Aのうち,上記構成は,相違点ではなく,一致点であ\nるから,本件審決の相違点Aの認定には誤りがある。
イ これに対し被告は,別紙4のとおり,「横線シール」が前方寄りに位置す る「片流れ屋根形状」の容器の例が多数存在することからすると,「片流れ 屋根形状」であれば,設計上,必ず横線シールが後方寄りに位置することに なるものとはいえないから,甲5において,甲5発明の「横シール部分」が 「前面」よりも「裏面」に近い側に位置していることの開示があるものとは いえない旨主張する。
そこで検討するに,前記ア認定のとおり,甲5の図4記載の包装容器1 は「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であることに 照らすと,甲5発明の上面(「頂部」)の形状は,本件優先日当時の折り畳 み式包装容器の一般的な形状のものと理解するのが自然である。 しかるところ,別紙4の説明資料1の展開図により紙製包装容器を製造 するには,折り目線に沿って折り畳むに際して,水色の部分を内側に折り 込む工程がさらに必要となるものであり,甲5の記載を全体としてみても, 甲5記載の包装容器1において,このような展開図をあえて選択する必要 性は認められない。また,本件優先日当時,説明資料1に係る紙製包装容器 の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠はない。 同様に,説明資料2の展開図により紙製包装容器を製造するには,折り 目線に沿って折り畳むに際して,折目線に沿って折り畳むに際して,紫色 の部分を外側に折り込む工程がさらに必要となるものであって,甲5の記 載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1において,このような展開 図をあえて選択する必要性は認められない。また,本件優先日当時,説明資 料2に係る紙製包装容器の形態が公知であったものと認めるに足りる証拠 はない。
次に,説明資料3ないし5の展開図は,通常の長方形の形状の展開図と 比べ,複雑な形状の展開図である上,説明資料3ないし5の展開図により 紙製包装容器を製造するには,側面パネル上の三角形で示される折り込み 片を液体充填物が漏れないように接着するための工程がさらに必要となる ものであり,甲5の記載を全体としてみても,甲5記載の包装容器1にお いて,このような展開図をあえて選択する必要性は認められない。また,本 件優先日当時,説明資料3ないし5に係る紙製包装容器の形態が公知であ ったものと認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(4) 相違点Aの容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,相違点Aについて,(1)甲5発明の上面の横シール部分は,裏面 側に倒されているものの,前面よりも裏面側に位置するものではないし,甲 5の記載においても,展開図等で上面の横シール部分が裏面側に近い側に位 置することを示唆する記載はなく,しかも,「折り込み片」を上面に折り畳む ものであり,容器の裏面側の2隅を補強することについての記載もない,(2) 本件発明2は,片流れ屋根形状の頂部から「頂部成形による折り込み片が側 面パネル上に斜めに折り込まれ」るだけではなく,「頂部に設けられた横線シ ールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側 に倒され」という構成を合わせて備えることにより,裏面パネル側に倒され\nた「横線シール」を,容器頂部の背面側の2隅若しくはその近傍に対して近接 させて補強するものであり,単に,甲5発明において横線シールを側面側に 折り込むことのみで,本件発明2の構成に到達できるというものではないな\nどとして,本件発明2の相違点Aに係る構成は,当業者が容易に想到するこ\nとができたものではない旨判断した。 しかしながら,前記(3)認定のとおり,甲5には,甲5発明において,相違 点Aのうち,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネル に近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成を備えていることが\n開示されているものと認められるから,上記構成に係る部分は,相違点では\nなく,一致点であるから,本件審決の上記判断には,その前提において誤りが ある。

◆判決本文

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