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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

動機付け

平成24(行ケ)10414 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月17日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が、甲1発明には動機付けが含有されているとして、取り消されました。
 上記下線部分,すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予\\定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1〜8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落【0010】,【0024】,【0026】,【0030】,【0031】,【0035】にその構\\成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを含有するものというべきである。かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004−133065号公報〔甲3〕,特開平3−55272号公報〔甲16〕)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。(4) 別の角度からみるに,返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信用葉書に受取人の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所など),預金残高,借入金額などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前において周知の技術であったと認められる(特開2000−177277号公報〔甲17〕,特開平2−108073号公報のマイクロフィルム〔甲19〕)。したがって,隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等に送付ないし交付される郵便物や書面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカードと葉書は共通する一面を有しているといえるから,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる。いずれにせよ,この判断と異なり,甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉書」を採用することは想到容易でないとし,甲1発明との間の相違点2,3に係る訂正発明1の構\\成は容易想到ではないとした審決の判断は誤りであり,これを前提とした訂正発明1,2についての容易想到性判断は誤りである。
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。

◆判決本文


◆関連事件です。平成24(行ケ)10413

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平成24(行ケ)10101 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月05日 知的財産高等裁判所 

 進歩性違反なしとした審決が維持されました。
 引用発明及び本件発明は,いずれも石灰等を使用した建築物等の被覆材料に関するものである点で技術分野を同一にしている。イ しかしながら,引用発明は,前記2(2)に説示のとおり,セメント又は石灰結合性建築物被覆材料の疎水性を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の添加ができず,また,添加によって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるという課題を解決するものであり,前記2(1)ウに記載のとおり,施工現場で加工することが想定されているものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することにより一定した品質のものが得られず,また,着色漆喰塗膜に色むらが生じるという課題を解決するものであって,引用発明と本件発明とでは,解決すべき課題を大きく異にしているといえる。ウ また,引用発明は,前記2(1)ウ及び(2)に説示のとおり,石灰及び水等に加えて,「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料を混合する方法であって,引用例1に当該他の添加物質として列記されている顔料(酸化チタン等),プラスチック及び着色料等は,いずれもあくまでも石灰及び水等に対して「場合により」添加されるというものであるにすぎない。したがって,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載がなく,この点を示唆する記載も見当たらないというほかない。また,引用例1の実施例〔例1〕は,前記2(1)カに記載のとおり,石灰及び水等のほかに,白色顔料(二酸化チタン金紅石)及び結合剤(再分散可能なポリビニルアセテート−コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート)等を含有するが,着色料(着色顔料)を含有していないものであって,本件発明1の方法から着色顔料を除いた全ての物質を配合する方法であるといえる。しかしながら,上記のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載も示唆もないから,上記実施例〔例1〕は,石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が記載されているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それに加えて,更に着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない。
エ 引用例2は,「酸化チタン〜物性と応用技術」と題する文献の抜粋であって,そこには,酸化チタン工業の歴史,酸化チタンが白色顔料として建物内外壁や建造物等の塗装等に用いられてきたこと,白色塗料としての酸化チタン顔料等と灰色塗料としてのカーボンブラックとを混合した場合の着色力及び隠蔽力を測定した結果等が記載されている。加えて,甲17は,「処理顔料」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平9−183919号)であり,甲18は,「着色顔料組成物及びその製造方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平5−59297号)であって,そこには,酸化チタンを他の無機の着色顔料等と混合して製造される顔料についての記載がある。甲19は,「塗料のおはなし」と題する文献(昭和61年2月24日刊行)であって,そこには,白色チタンとカーボンブラックとを混合して灰色の塗料を製造することなどが記載されている。甲20は,「これだけは知っておきたい 塗装工事の知識」と題する文献(昭和57年4月5日刊行)であって,そこには,二酸化チタンと無機の着色顔料を配合した顔料についての記載がある。以上によれば,白色顔料である酸化チタンに着色顔料を含有させることで着色塗料を製造することは,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと 認められる。他方,甲5は,「土壁・左官の仕事と技術」と題する文献(平成13年2月20日刊行)の抜粋であって,そこには,セメント又は漆喰に着色のために着色顔料を使用することが記載されている。また,甲10は,「無機質仕上げ材組成物及びそれを用いた工法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開平7−196355号)であり,甲11は,「壁材及びその施工方法」という名称の発明に係る公開特許公報(特開2000−96799号)であるが,そこには,着色顔料等により着色された漆喰についての記載がある。以上に加えて,漆喰及び着色顔料がいずれも古くから使用されていること(甲6,13参照)を併せ考えると,漆喰に着色顔料を配合することで着色をすることも,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認められる。しかしながら,引用例1には,前記ウに説示のとおり,石灰及び水等に加えて白色顔料及び着色顔料等の全てを組み合わせて混合する方法についての記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見当たらないばかりか,上記の各周知技術は,それぞれ,塗料又は漆喰の調色のために白色顔料を配合し又は漆喰に着色顔料を配合するというものであって,このようにして着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではない。
オ さらに,引用発明は,前記イに説示のとおり,施工現場で実施することが想 定されているものであって,建築物被覆材料が良好な加工性性質及び撥水性性質を 備えるという作用効果を有するものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示 のとおり,漆喰組成物を均一かつ安定に着色し,塗膜を形成した際に,色飛び又は 色飛びによる白色化や色むらが有意に抑制され(着色漆喰塗膜の色飛び抑制),重 ね塗りをした場合にも色差のほとんどない着色漆喰塗膜が形成できるという作用効 果を有するものであるから,本件発明の作用効果は,引用発明の作用効果とは異質 のものであって,引用発明から当業者が直ちに予測可能\なものとはいえない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成24(行ケ)10100

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平成23(行ケ)10443 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が「論理付けに欠ける」として取り消されました。
 ウ 上記記載によれば,甲2には,1)解決課題として,電線挿通孔dへの電線の挿通によって防水栓本体が外径変化,すなわち,径方向の外側に膨らみ,径方向の外側に位置するシール部位(b−e間)の密着性が低下すること,2)解決手段として,電線挿通孔dおよびシール部位の間に環状溝を介在させること,3)作用効果として,環状溝の内部空間によって防水栓本体の変形を吸収し,防水シール効果の低下を抑制すること,が開示されていると認められる。ところで,甲2の解決課題は,電線が挿通される電線挿通孔dと,テーパー面e及び嵌合壁bの間のシール部位とが,径方向の内外において対向していることから生じるものであって,両者が径方向に対向していない場合には,そもそも,電線の挿通によって防水栓本体の外径が変化しても,その影響はシール部位には及ばないから,同様の問題が生じないものである。そうすると,甲2から,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」が周知の事項と認められるとしても,それは,パッキン及び電線の密着部位と,パッキン及びハウジングの密着部位とが,径方向において対向している構造においては当てはまるものであるが,両者が径方向に対向していない構\造においては当てはまらないものである。
エ そこで,引用発明におけるパッキン及び電線の密着部位とパッキン及びハウジングの密着部位についてみると,審決が引用発明認定の根拠とした甲1の実施例の構造(甲1の図面参照)では,両者が径方向において対向しておらず,軸方向にずれていることが分かる。したがって,引用発明においては,電線の挿通による防水栓本体の外径変化の影響がシール部位に及ばない構\造となっており,審決が認定した「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないこと」との周知の事項が当てはまらないものである。また,引用発明において,第2のシール部の配設位置を後側に変更すると,参考図(別紙参照)の構成となるが,この構\成においては,リブ部は,第2のシール部の外周近傍から前方に向かって環状に突出しており,第1のシール部は,第2のシール部の中心近傍から前方に向かって延在している。そうすると,内側の第1のシール部と,外側のリブ部とは,径方向において対向するが,第1のシール部及びリブ部の間には環状のコネクタハウジングが介在することになる。したがって,この構成では,電線の挿通による影響が第2のシール部位に直接的には及ばないから,径方向の歪み(変形)の伝達を抑制するという点で,実質的に甲2と同様の構\成を備えることとなる。この場合,第1のシール部の外径に変化が生じても,環状のコネクタハウジングによってその変形が第2のシール部には伝達されず,リブ部の防水シール効果の低下が生じないことは明らかである。すなわち,仮想構成1を採用した段階で,甲2の解決手段のみならず,甲2の作用効果も同時に達成されることになる。そうすると,更にそこから仮想構\成2のように変更すること,すなわち,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更することについては,もはや動機づけが存在しないというべきである。ところが,審決は,「コネクタ用防水栓においてパッキン及び電線の密着とパッキン及びハウジングの密着が互いの影響を及ぼすことが望ましくないことは,例えば,実公昭58−29576号(判決注:甲2)(特に1ページ左欄34行〜右欄4行参照。)に記載されているように周知の事項である……」(9頁15行〜18行)と述べるにとどまり,当該周知の事項が甲2とは異なりパッキン及びハウジングの密着部位とが径方向に対向していない構造の引用発明においても該当することの根拠を全く示しておらず,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更すること,すなわち,仮想構\成2を適用することの論理づけを欠くものというほかない。

◆判決本文

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平成24(行ケ)10073 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月14日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。
 上記(2)エの記載からすると,液晶表示装置において,「基板表\面の凹凸」により液晶ディレクターの傾斜方角がばらつき,これにより,ディスクリネーションが発生することは周知の課題であると認められるところ,上記「基板表面の凹凸」として,薄膜トランジスタに起因する凹凸が含まれることは,当業者にとって自明である。これを引用発明についてみると,前記(1)イ(イ)のとおり,引用発明の層間絶縁膜は,「薄膜トランジスタに起因する凹凸を緩和するように,その表面が平坦化される平坦化絶縁膜」に相当するものではないから,薄膜トランジスタに起因する凹凸が生じていることは明らかであり(なお,被告も,引用発明の層間絶縁膜が本件発明1にいう「平坦化」したものでないことを争っていない。),引用発明においても,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生するという課題を有しているものと認められる。そして,上記(2)オ及びカの記載からすると,一般の液晶表示装置技術において,薄膜トランジスタの段差に起因する凹凸を平坦化するために薄膜トランジスタを平坦化絶縁膜で覆うことは,液晶の配向性をより高めるものとなることが認められるから,画素電極が層間絶縁膜上に形成された平坦化絶縁膜上に形成されている上記周知の構\成においても,液晶の配光性が高まっているものと認められる。そうすると,引用発明において,薄膜トランジスタに起因する凹凸により負の誘電率異方性を有する液晶の配向がばらつき,それによってディスクリネーションが発生することを防止するために,液晶の配向性をより高めるための上記周知の構成を採用することには動機付けがあるといえる。
 (イ) また,薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,引用発明のように直接接続するか,上記周知の構成のように層間絶縁膜に開けられた開口を介して接続するかは,当業者が適宜選択し得る設計事項である。しかも,引用発明は,層間絶縁膜の厚さを少なくとも1μm以上にすることにより,表\示電極が薄膜トランジスタとその電極ラインから十分に離され,液晶の配向がこれらの電界の影響を受けて乱れることがなくなり,表\示電極エッジ及び配向制御窓により,配向制御が効果的に行われるという効果が得られるものであるから,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造として,上記周知の構成を採用すれば,電極ラインのうちゲートラインと表\示電極とが,層間絶縁膜の膜厚分だけさらに離されることとなる。したがって,引用発明については,上記のような引用発明の効果をより得るために,引用発明における薄膜トランジスタの半導体層とソース電極及びドレイン電極の接続構\造としても,上記周知の構成を採用することの動機付けもあるということができる。\n

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平成24(行ケ)10023 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月10日 知的財産高等裁判所

 相違点1の容易想到性について、進歩性なしとした審決が維持されました。原告代理人は、元知財高裁所長の塚原弁護士です。
ア カッター及び切断片の形状について
(ア) 前記2のとおり,引用発明は,マンホールの蓋体周囲の舗装面を整備したり,蓋体を新たなものと交換するような場合に用いられるマンホール補修部の構造に関するものであり,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修が行える汎用性に富むマンホール補修部の構\造を提供するという目的に沿ったものであって,そのために,i)円形カッターを用いて,マンホール蓋体の中心を中心として,受枠の周囲を円形に切断して舗装を切断する工程と,ii)切断された舗装を蓋体の受枠ごとクレーンなどを用いて吊り上げ撤去する工程と,iii)マンホール上壁に接触させるように新たな受枠を再設置する工程と,iv)新たな受枠と舗装を受枠ごと撤去して形成される円形開口部との間に,路盤材として早強無収縮性モルタルを装填し,さらに,水溶性の常温硬化型アスファルト混合材料よりなる表層材を受枠の上面側と面一状となるように装填する材料充填工程とを備えるマンホール蓋枠取替え工法である。このように,引用発明は,マンホール蓋枠取替え工法であり,上記i)ii)の工程で,マンホール周囲の舗装を切断し,切断された舗装を受枠とともに一体に取り出せるものであって,切断片の取り出し除去作業を行うものである。ところで,一般に,この種の工事作業において,作業性の向上を図り,作業を容易にしようとすることは,安全性の確保や工費節減,工期短縮などと同様に,またそれらを達成するために,設計者や工事作業者,工事監督者を含む当業者において,当然に考えることであるから,引用発明のマンホール蓋枠取替え工法において,それぞれの工程の作業を容易にしようとする課題が存在しているということができる。また,引用発明の目的は,低廉な施工コストで短時間のうちに確実な補修を行うことであるところ(前記2(1)エ),作業を容易にしようとすることは,そのような目的に沿うものということができる。また,引用例1においても,直線切りカッターに代えて円切りカッターを採用することが記載されているように(前記2(1)ウ),関連する技術分野に置換可能な公知又は周知の技術手段があるときは,当業者であれば,その技術手段の転用を試みるものである。よって,路面の切断作業をする際に,カッターを公知又は周知の異なる種類のものに変更しようとすることも,当業者であれば容易に着想することができるものということができる。(イ) 前記(2)のとおり,引用例2に記載された路面用カッターは,マンホールの蓋の周囲に切り込みを入れることにも使用されるものであるところ,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易となる。また,引用例2には,切断部が垂直の場合は,切断面の接合性が悪く,補修部分が沈下又は陥没しやすいという問題点があること(前記(2)ア(イ)),断面円弧状のカッターを使用することにより,切断部が断面円弧状,切断面が球面状を呈するために,垂直切断面とは異なり,切断面の接合性が極めて良く新規に施工した部分が沈下したり陥没したり等の不都合な現象を防止することができること(前記(2)ア(オ))が記載されている。
(ウ) 上記(ア)(イ)によれば,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を行うに際し,作業を容易にするという課題が示唆されているということができる。そして,上記課題を解決するため,引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用し,当該カッターの切断刃を360°旋回させて切り込みを入れることにより,切り取った切断片が疑似扁平お椀形となり,取り出し除去作業が容易になるほか,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消することができる。すなわち,引用例2に記載されている新規施工部分が沈下や陥没を生じないという効果は,引用発明において,切断部が垂直であることなどによって生じる新規施工部分の沈下や陥没の問題を解消する等の課題を解決するものである。以上のことを踏まえると,引用発明において,切断片の取り出し除去作業を容易にし,切断部が垂直であることによる問題を解決する等の目的で,カッターとして引用例2に記載された回転円弧状又は球面状のカッターを採用する動機付けがあるということができる。

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

◆判決本文

◆関連事件はこちらです。平成22年(ワ)第40331号

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平成24(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年10月17日 知的財産高等裁判所

   知財高裁は、無効理由無しとした審決を取り消しました。関連する侵害訴訟で104条の3で権利公使不能と判断されています。\n
 前記(イ)ないし(オ)を総合すれば,交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集,記録すること,車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて,車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は,本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集,記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。そして,訂正発明1,2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が,訂正明細書の段落【0030】,【0034】,【0050】,図2,3等の記載によれば,訂正発明1,2にあっても,例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから,装置の機能の面に着目すれば,訂正発明1,2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構\成は,上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集,記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。加えて,上記周知技術と甲3発明とは,属する技術分野が共通し,前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから,本件優先日当時,かかる適用を行うことにより,当業者が訂正発明1,2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集,記録する構\成に想到することは容易であるということができる。さらに,甲第4号証にも,車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から,運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し,かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集,記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア)),上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば,上記の結論に至ることが可能\である。
エ 以上によれば,甲3発明に,「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録,設定する甲1発明と,「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明1の相違点に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録,設定する構\成)に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。オ そして,審決がした甲3発明と訂正発明1の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明1は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明1に関して理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。
・・・
イ そうすると,甲第2号証には,自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において,コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて,前方間隔,警告閾値や,自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。ここで,甲2発明は,車両の挙動に関する情報を収集,記録する装置に関するもので,甲3発明と技術分野が共通する。そして,コンピュータ装置に処理を実行させて,着脱可能\なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し,変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し,その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば,甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する,車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】〜【0007】)とは不可分のものではなく,甲第1ないし3号証に接した当業者であれば,「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予\め設定された基準値を基に自動判定し,また走行距離を用途別(私用,公用,通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に,甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。 ウ したがって,甲3発明に甲1発明,甲2発明と甲第4,第5,第6号証の1ないし6記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより,本件優先日当時,当業者において,審決が認定した甲3発明と訂正発明2の相違点に係る構成に容易に想到することができたというべきであり,これに反する審決の判断は誤りである。そして,審決がした甲3発明と訂正発明2の一致点の認定については当事者双方は特段の主張をしていないから,結局,訂正発明2は進歩性を欠くものというべきである。原告が主張する無効理由4は訂正発明2に関しても理由があり,これに反する審決の判断は誤りである。なお,無効理由4には甲第2号証が引用例として明示的に挙げられていないが,審決は,原告が審判請求で証拠として挙げたのに応じて,甲第2号証も引用例として取り上げており(20,21頁),本件訴訟で,当事者双方ともにこの審決判断を前提にして,審決の判断の誤りの有無を主張しているので,上記のように甲第2号証も引用例(副引用例)に加えて訂正発明2の上記相違点に係る判断に至ることができるというべきである。\n

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平成23(行ケ)10398 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月19日 知的財産高等裁判所

 進歩無しとした審決が、動機づけ無しとして取り消されました。
 本願発明は,「この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」ものであるから,「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。他方,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替えて,エジェクターより接触反応器の構\造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。そうすると,引用発明において,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。イ また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプレーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明におけるスプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には,本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない。他に,水処理装置において,エジェクターと噴霧装置とを併用することについて,記載や示唆があるとは認められない。
ウ したがって,一般に,被処理水にガスを供給することについて,被処理水を供給する管路に「ガスが供給されるエジェクター」を設けることが,本件出願前周知の事項であったとしても,引用発明において,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することは,当業者にとって容易であるとはいえない。そして,本願発明は,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することによって,エジェクターでオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解するものであり,それによって,オゾンが被処理水に効率よく溶解され,汚染水処理装置の処理能力が向上するという顕著な効果を奏するものである。
エ よって,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明及び本件出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易になし得るとした本件審決 の判断は,誤りである。

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平成23(行ケ)10301 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月26日 知的財産高等裁判所

 動機づけがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明1は,前記のとおり,創傷部周囲の皮膚に応力を加えることなく創傷部を塞ぐ創傷部癒合装置に係る発明であり,本件補正発明と同一の技術分野に属するものであって,創傷部に向かって上皮及び皮下組織の移動を促進するに十分な領域にわたって連続して負荷を加えることにより,創傷部の膿を排出させるという従来技術を前提として,創傷部の空気を吸引することにより創傷部が負圧となり,創傷部から流れ出る液のキャニスターへの排出が促進されることなどを目的とするものである。これに対し,引用発明2は,外傷を負った哺乳類の皮膚の治療に用いる多層創傷ドレッシングについて,創傷部に殺菌性の環境を与え,創傷表\面を湿潤状態に保つ一方で,創傷滲出物を速やかに吸収するほか,創傷の治癒を極力邪魔しないようにし,かつ,引き剥がすのが容易で,その際,皮膚に傷を残すことがないようにすることを目的とするものであり,そのために,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するものである。引用発明2は,上記目的,すなわち,体内の創傷治癒因子あるいは創傷接触層に含まれる高分子成分の通過を防止しながら,創傷からの液体滲出物を中間吸収層に迅速に除去し,また,組織細胞が中に入り込むのを防止するために,孔径の大きさを設定したものであって,本件補正発明や引用発明1のように,創傷部から体液を積極的に真空吸引して真空キャニスターに収集するとともに,創傷部に負圧による修復作用をもたらすため,創傷部に連続的な負圧を加えることを前提として孔径の大きさを設定したものではない。そうすると,引用発明1には,多孔性パッドの外側表面部の孔群について,同発明とは目的及び機序が異なる引用発明2の孔径を適用することに関し,そもそも動機付けが存在しないものというほかない。\n

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平成23(行ケ)10320 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月27日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、動機づけ無し、阻害要因有りとして、取り消されました。
 審決は,相違点1に関して,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであると認定,判断する。しかし,審決の上記認定,判断には,誤りがある。・・・そもそも,引用発明は,上記のとおり,分岐先アドレスを出力することで,出力される実行情報の量を抑制することを目的とするものであるから,引用発明において,この目的を達成することが可能なアドレス計算部の出力する分岐先アドレスを用いるのに代えて,実行する命令のアドレス全てを出力するとの構\成に至る動機付けがない。むしろ,引用文献1の上記記載によれば,引用発明は,内蔵キャッシュがヒットしている場合,命令の実行状況がマイクロプロセッサのアドレスバスやデータバスに出力されない構成である上,常にマイクロプロセッサの実行情報をプロセッサの外部に出力することは,バスの競合が発生し,マイクロプロセッサの性能\の低下を招くとの認識を前提としており,引用発明において,実行する命令のアドレス全てを出力するように構成することには,阻害事由があるといえる(なお,本願発明は,命令ポインタレジスタから出力され,CPUによって実行されるアドレス(命令ポインタ)のうち,命令トレースに必要な不連続アドレス(分岐先アドレス)のみを,アドレスの不連続を示す制御信号を用いて抽出するものである。これに対し,引用発明においては,命令実行部がアドレス計算部を備え,分岐先アドレスを計算して出力するが,分岐が発生しない場合には,命令プリフェッチ部10において,次サイクルにおいて実行する命令のアドレスが計算され,命令キャッシュ内にある命令が読み出されるものであって,アドレス計算部から出力されるのは,不連続な分岐先アドレスのみであり,CPUによって実行される命令のアドレス全てを出力するものではないから,引用発明におけるアドレス計算部は,本願発明における命令ポインタレジスタに対応するものともいえない。)。これに対し,審決は,本願発明において,制御信号によって不連続であることが通知されたアドレス以外は,命令トレースコントローラで何ら使用されることなく,捨てられるだけであり,全ての命令ポインタを命令トレースコントローラに送ることによって格別の効果を生ずるものではないとして,相違点1は格別のものではないと認定,判断するが,不連続でないアドレスが利用されないからといって,引用発明から本願発明を容易に想到できたとはいえない。以上によれば,引用発明において,本願発明のように,メモリにアクセスするアドレスを含む命令ポインタを,全て命令トレースコントローラに送っておき,不連続なアドレスを示す制御信号により命令トレースコントローラによって選択するようにすることは当業者が容易になし得たことであるとの審決の認定,判断には,誤りがある。\n

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平成23(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。得異な効果も発明の構成に基づくものではないとして採用されませんでした。
 原告は,相違点3及び4は,相互に密接に関連しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものであるから,これを分断して判断したことは,進歩性判断の誤った手法によるものであると主張する。相違点3は,本願発明の走査方法が点順次走査であることに関し,相違点4は,点順次走査を前提とした上で,標本化定理を尊重した検出周波数の選定に関するものであることから,両者は,点順次走査という点で一定の関連性を有するものである。しかしながら,標本化定理は,本来,画像の復元性の保証という観点から走査方法の如何を問わず考慮されるべき基本的事項であって,走査方法とは技術的観点が異なるから,相違点3及び4を別々に判断したとしても,誤りがあるとはいえない。また,本件審決は,相違点4の判断において,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断したのであるから,原告の上記主張には理由がない。
 イ 原告は,本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであると主張する。本願発明は,本願明細書に記載されたとおり,「リアルタイム表\示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することを目的とし,その目的を達成するために,本願発明の構成を採用し,特定したものである。しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能\にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定することについても,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表\す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られることについても,何ら特定されてはいない。本願発明は,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」という発明特定事項を有するものの,上記発明特定事項だけからでは,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明が特定されているとはいえない。そうすると,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。

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平成23(行ケ)10374 審決取消請求事件  特許権 行政訴訟 平成24年08月09日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
 引用発明と甲2文献記載の発明の技術分野,技術内容を対比,検討すると,両発明は,いずれも,風力発電で発生した電力が配電網(電力系統1)に供給される場合に,マイクロコンピュータ(制御装置7)が,周波数変換器(インバータ)を制御することにより,配電網(電力系統1)の電圧の変動を制御しようとするものである。また,電圧調整用のパラメータとして,引用発明ではマイクロコンピュータに力率が入力され,甲2文献記載の発明では制御装置7に無効電力値が入力されており,無効電力が制御の対象とされている。したがって,引用発明と甲2文献記載の発明とは,解決課題において共通する。
(ウ) 他方,審決が認定した常套手段2は,「電力系統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設ける」というものであり,その具体的な制御方法等は,何ら開示がない。また,甲4文献に記載されている不感帯域は,系統母線電圧と無効電力について,目標値V0 ・Q0 の周囲に予め決められた不感帯域を設定し,負荷時タップ切換変圧器LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リアクトルSRの制御を行うことにより,系統母線電圧と無効電力を上記不感帯域に収めるものである(段落【0007】【0009】)。したがって,甲4文献記載の事項がいかに技術常識であったとしても,当業者が,甲4文献記載の事項を適用することにより,本願発明における引用発明との相違点2に係る構\成,すなわち「(マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,インバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,インバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,「目標位相角を導出し,インバータを制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップ」と,前記マイクロコントローラが前記インバータを制御するステップと,を有し,前記インバータを制御するステップは,)前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバータを制御するサブステップと,前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバータ(18)を制御するサブステップと,を含む」との構成に,容易に想到すると解することはできない。
 この点につき,被告は,本訴において新たに,特開平3−122705号公報(乙2)及び特開平10−191570号公報(乙3)を提出する。そして,乙2には,電圧調整器を線路上に設けた系統に設置する静止形無効電力補償装置において,制御目標電圧と交流系統電圧の偏差信号に不感帯を設けることが,乙3には,発電設備と系統電源とを連系し,電圧変動基準により無効電力の制御を行う系統連系システムにおいて,検出した電圧変動量から電圧変動基準を演算して出力する関数回路において,電圧変動が一定値以内では感知しない不感帯を設けることが,それぞれ記載されており,乙2及び乙3には,「ある値(X)が下方参照値と上方参照値との間に含まれる場合は対応する信号(Y)の大きさが一定に保たれるように制御するサブステップと,前記ある値(X)が前記上方参照値を上回る場合には,前記ある値(X)のさらなる増大に応じて前記対応する信号(Y)が大きくなるように,又は前記ある値(X)が前記下方参照値を下回る場合には,前記ある値(X)の減少に応じて前記対応する信号(Y)が小さくなるように制御するサブステップを有する」不感帯を設ける制御が記載されている。しかし,上記の不感帯における制御に関する審理,判断が一切されていない,審判手続の審理経緯に照らすならば,本訴訟に至って,上記証拠(乙2,乙3)を考慮に入れた上で,相違点2に係る構成の容易想到性の有無の判断をすることは,相当とはいえない。\n

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平成23(行ケ)10297 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年07月11日 知的財産高等裁判所 

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 以上の記載に照らせば,本件出願時の技術常識として,シアノアクリレートやポリウレタン等の水反応型接着剤が知られており,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途のみならず,卓球ボール,ソフトテニスボール,ゴルフボールなどの球技用ボールの接着用途も含めて,一般的に用いられる,すなわち,汎用性を有するものと認められる。そうすると,引用発明2において,水反応型接着剤の一つである「反応型ホットメルト樹脂」が,IDカードやICカードの接着用途に特化されたものであるとはいえず,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能\な汎用性を有するものというべきである。甲3,4についても同様であり,甲3,4の水反応型接着剤が,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途に特化されたものであるとはいえず,それ自体は,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能な汎用性を有するものというべきである。このような水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼\りボールの接着用途として,水反応型接着剤を適用することは,単なる設計的事項にすぎず,動機づけを否定することができない。そうである以上,引用発明2,周知技術及び自明な事項1〜3を引用発明1に適用することに格別の困難性は認められない。原告は,審決が加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣ると認定したことは誤りであると主張する。しかし,特開昭63−189486号公報(乙6)には,感圧型接着剤は硬化に時間がかかり,強固に接着できないことが記載されている(1頁左下欄下から2行〜右下欄8行)。また,特開昭62−91576号公報(乙7)には,感圧型接着剤は,被接着面が湿気を帯びているときには粘着性が十分発揮されず,接着を試みても必要な接着強度を得ることが不可能\なものであることが,記載されている(1頁左下欄下から3行〜右下欄4行)。これらの記載に照らせば,感圧接着剤の接着強度が弱いことは,本件出願時の技術常識であるものと認められる。また他方で,上記水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼りボールの接着用途として水反応型接着剤を適用することは設計的事項であるから,仮に加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るか否かは別として,水反応型接着剤を選択することを困難にするものではない。いずれにしても,原告の主張をもって審決の判断を誤りとすることはできない。\n

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平成23(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月06日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が取り消されました。
,甲第2号証には,「水産加工廃棄物等の被処理物(A)を走行散布ホッパー(10)により第2図示の如く発酵槽(1)の略全長に亘り堆積する。・・・これらフォーク(6)・・・(6)の先端爪部(6c)・・・(6c)により被処理物(A)をその全体に亘り攪拌する。」(5頁15行〜6頁7行)と記載されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。また,甲第3号証にも,従来の撹拌機につき「第1図に示す攪拌機は,・・・堆積された畜糞を撹拌しつつ一方に向かつて搬送するものである。」(2頁4行〜9行)と記載され,被処理物を撹拌しながら他方に向かって送り出すことが開示されているのみで,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。他方,前記のとおり,引用発明が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にあり(甲1の2頁左下欄10〜16行),引用発明の撹拌機も,下記第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。【引用刊行物(甲1)の第1図】したがって,引用発明においては,撹拌機の構\成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。そうすると,引用発明の発酵処理装置の構\成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲第2,第3号証から認められる周知技術に係る撹拌機の構\成に改め,同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構\成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない。したがって,これと異なる「引用発明において採用する撹拌方式に替え,上記周知の撹拌方式を採用することで本件発明1における発明特定事項に想到することは,当業者であれば容易になしうるところである。」との審決の判断(8頁)は誤りである。

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平成23(行ケ)10208 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年05月31日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、引用文献には開示または示唆がないとして、取り消されました。
これに対し,被告は,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する必然性はない,引用発明がウェットトラップを利用しないものとはいえないなどと主張する。しかし,被告の主張は採用できない。すなわち,引用例において,インクが未乾燥の状態でガイドローラと接触するとの記載はない。仮に,被印刷体を移送するローラが乾燥していないインクを有する印刷面に接触する技術が周知であったとしても,そのことから直ちに,引用例においてウェットトラップ印刷法を採用すること,同印刷法を採用した場合に生じ得る解決課題及び解決方法が記載,示唆されていると解することはできない。また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であったとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法を採用する動機付けは生じない。

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平成23(行ケ)10181 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月11日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。
 この点について,原告らは,本願発明は,ヒートポンプのエネルギー発生の観点では効率が悪いとされる部分沸き上げ方式をあえて採用したものであり,全部沸き上げ方式を採用する引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得るものではない,引用発明2に引用発明1を組み合わせたとしても,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて低温の(高温ではない)湯の量を制御することはできない,蓄熱運転終了時に貯湯タンクの上方に貯湯される湯と下方に存在する湯との間に温度差が生じるようにして沸き上げ,かつ,上方に貯湯される高温の湯の量が,太陽熱集熱器で得られる集熱熱量に応じて変化するように蓄熱運転の制御を行うことは,引用例1及び2には全く示唆されていない,仮に,深夜時間帯に部分沸き上げ方式を採用することが公知であるとしても,部分沸き上げ方式が構造的に不可能\な引用発明2に,全部沸き上げ方式を採用している引用発明1を組み合わせる動機付けを認めることはできないなどと主張する。しかしながら,部分沸き上げ方式が本件出願前の技術常識であり,仮に引用発明1が同方式とは異なる沸き上げ方式を採用するものであったとしても,当該技術常識を採用すること自体は,設計的事項にすぎないことは,先に述べたとおりである。
 また,引用発明1の「ヒートポンプ」と,引用発明2の「電気ヒータ」とは,「貯湯式給湯装置」において「太陽熱集熱器」とともに給湯用水を加熱し,沸き上げるとともに,「制御手段」により制御される「加熱手段」という同一の技術分野に属するものである。そして,相違点2は,給湯用必要熱量から太陽熱集熱器で得られる集熱熱量を減じた「必要沸き上げ熱量」に応じてヒートポンプユニットを蓄熱運転する「制御手段」の有無に係る相違点であるから,必要とされる熱量を蓄えるための制御方法については,全部沸き上げ方式であるか,あるいは部分沸き上げ方式であるかを問わず,いずれにおいても適用可能であることは明らかである。しかも,引用例2には,太陽熱と電気ヒータとを併用して貯湯する装置において,可能\な限り太陽熱を利用することにより,電気料金を必要とする電気ヒータの利用を抑制するという技術思想が開示されている以上,当業者が引用発明1に引用発明2を適用する動機付けも認められるものというべきである。

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平成22(ワ)30777 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成24年03月29日 東京地方裁判所

 実験する条件について動機づけがあるので進歩性なしとして、非侵害と認定されました。
 乙7には,「WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討」した結果の報告である旨の記載があるが(前記(1)ア(ア)),遠心分離処理条件の検討がされた旨の記載はない。乙7記載の方法を更に簡便とするため,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることといえる。そして,乙7及び乙9は,ELISA法に用いてPrPScを検出する試料の調製法に係る文献である点で,その技術分野を共通にするところ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,000回転とする一方で,脳の場合には15,000回転とされていること(前記イ(ア)d)に照らすならば,乙7及び乙9に接した当業者であれば,乙7記載の方法において,「脳」(脳組織)から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件に代えて,乙9記載の「毎分1万5000回転」の遠心分離処理条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することを容易に想到し得たものと認められる。
 (イ) これに対し原告は,界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するところ,乙7及び乙9を検討すると,超遠心分離の適用が原則であること,乙7では,Zwittergentとサーコシルの組合せよりも,トリトンX−100とサーコシルの組合せの方が良好であったことなどからすると,Zwittergentを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する動機付けが存在しないから,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を組み合わせることは容易想到とはいえない旨主張する。しかしながら,前記(ア)で述べたように,乙7記載の方法において,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることであり,しかも,乙9には「脳」(脳組織)から試料を調製する場合の遠心分離の回転数について15,000回転と記載されていることからすると,乙7記載の方法に,乙9記載の遠心分離条件を適用する動機付けが存在するものといえること,乙7には,「脳」から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件を変更することに問題があることを積極的に示唆する記載はなく,上記の適用について阻害事由もないこと照らすならば,原告の上記主張は,採用することができない。

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 >> 104条の3

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平成23(行ケ)10214 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月07日 知的財産高等裁判所

 周知技術から容易想到でないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記3のとおり,周知例1ないし3には,従来のサーマルプリンタにおいては,印刷媒体の温度によって印字濃度が影響を受けるという問題点があったことから,印刷媒体の温度に応じてサーマルヘッドへの印加エネルギーを制御するという技術が開示されているところ,引用発明のサーマルプリンタにあっても,印刷濃度が印刷媒体の温度の影響を受けるという問題を有することは,当業者に自明であるということができるから,引用発明において,この問題を解決するため,印刷媒体の温度を検知し,検知した媒体温度に基づいて,プリントヘッド要素に入力するエネルギーを補正すること自体は,当業者が容易に想到し得ることといわなければならない。しかしながら,本願発明は,周囲温度と,プリントヘッド素子に以前に提供されたエネルギと,プリントヘッド素子が印刷する予定の印刷媒体の温度とに基づいて,プリントヘッド素子の温度を予\測するステップを有するものであるが,周知例1ないし3には,印刷媒体の温度に基づいて,サーマルヘッド(本願発明の「プリントヘッド要素」に相当する。)への印加エネルギー(同様に「入力エネルギ」に相当する。)を補正することは記載されているといっても,この補正は印刷媒体の温度に基づいて補正されるべきエネルギーを計算するものであって,プリントヘッド要素の現在の温度を予測するのに際して印刷媒体の温度を考慮することは何ら記載も示唆もされていない。周知例1ないし3においては,印刷媒体の温度の影響を考慮して入力エネルギーを補正することによって,より適正な印刷ができるようにするとの目的を達成しているのであるから,周知例1ないし3は,プリントヘッド要素の温度を予\\測するために用いる要件として,印刷媒体の温度を選択することの契機となり得るものではない。また,引用例には,周囲温度及びプリントヘッド要素に以前に提供されたエネルギーに基づいてプリントヘッド要素の現在の温度を予測するという引用発明を上位概念化して捉えることを着想させるような記載はないから,引用例にはプリントヘッド要素の温度を予\測することが開示又は示唆されていると解釈した上で,印刷媒体の温度もプリントヘッド要素の温度に影響を及ぼす要素として周知であるとの事情を考慮することにより,プリントヘッド要素の現在の温度を予測する要件として,印刷媒体の温度を採用することが容易であるということもできない。したがって,引用発明に周知例1ないし3記載の周知の技術事項を適用しても,当業者が相違点に係る本願発明の構\\成を容易に想到することができたとはいえない。
(2) また,被告は,印刷媒体の温度に基づく補正において,単純に補正前のエネルギーに加算するのではなく,計算効率の観点から等式の形が大きく変更されないように,周囲温度とプリントヘッド要素に以前から提供されたエネルギーとに基づいて予測されるプリントヘッド要素の現在の温度Taに加算するように拡張した等式E=G(d)+S(d)Ta’を用いて,プリントヘッド要素に供給する入力エネルギーを計算することも,当業者が適宜設計し得ることであると主張する。しかしながら,印刷媒体の温度に基づいてプリントヘッド要素への入力エネルギーを補正するに当たり,印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することは,周知例1ないし3に開示されていないし,入力エネルギーの計算効率を向上するために印刷媒体の温度を考慮してプリントヘッド要素の温度を修正することが技術常識であるとすべき根拠も見当たらないから,プリントヘッド要素の温度を修正して入力エネルギーを計算することが,当業者が適宜設計し得るものであるということはできない。\n

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平成23(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年03月05日 知的財産高等裁判所

 技術的思想に反するもので本件発明の構成に改める発想が生じるはずがないとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 前記のとおり,引用発明のガスケット(6)に設けられた突条部17の役割は,その弾性力(反発力)で,可動側板(可動形側板4)を歯車端面側に押し付けることにあり,突条部17と可動側板の間に作動液(高圧流体)が侵入して,液圧でガスケットをケーシング(1)に押し付ける(押し上げる)こと等は想定されていないが,本願発明のガスケット又は可動側板に設けられる「凹欠」は,可動側板の溝の底部の隅(隅部)の「Rをとっている部位」すなわち曲面状の部位(部分)にまで達するように,例えば溝状の部分を設け,この部分に作動液が侵入できるようにして,ガスケットが作動液によって低圧側の溝壁に押し付けられたときでも,作動液の液圧で,ガスケットをケーシングに向かって押し付け,また可動側板を歯車端面に向かって押し付けて,可動側板の圧力バランス及び歯車端面に対する封止機能(シール)を確保できるようにするものである。そうすると,本願発明のガスケットの「Rをとっている部位」や「凹欠」が果たす機能\と引用発明のガスケットの突状部17等が果たす機能は異なり,引用発明のガスケットでは,可動側板(可動形側板4)の溝底隅部でガスケットと可動側板との間に作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることが想定されていない。したがって,引用発明ではガスケットと可動側板(可動形側板4)との間の隙間10が可動側板の溝底隅の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶことが予\定されていない。また,刊行物1の8頁6ないし13行には,「前記隙間10内に導入された高圧流体の圧力によって,前記ガスケット6の帯状部16がボディ7の端壁7bの内面7cに押し付けられ固定されるので,高圧領域Hと低圧領域Lとの圧力差によってガスケット6が低圧領域側へはみだすという不都合も有効に防止されるものであり,該ガスケット6の耐久性を向上させることができる。」との記載があるから,引用発明のガスケット(6)と可動側板(可動形側板4)の構成には,作動液の液圧でガスケットの低圧側の側面を可動側板の溝の側面(内側面)に押し付け密着させて固定することで,ガスケットのそれ以上の低圧側へのはみ出しを有効に防止するという機能\があるということができる。ここで,ガスケットがかかる機能を発揮するためには,可動側板の溝の側面と底面が成す隅部に向かってガスケットが密着するように押し付けられるのが好ましく,上記溝の底面から離れるように,すなわち上記隅部付近でガスケットが可動側板から離れるように押し上げられると,ガスケットが上記溝の低圧側側面を超えてはみ出すおそれが生じるし,また,上記隅部付近でガスケットが可動側板を歯車端面に向かって押し付ける力を得る必要があるとはいえない。 そうすると,引用発明のガスケットと可動側板の構\成を,可動側板の溝の低圧側側面と底面が成す曲面状の隅部にまで作動液が侵入して可動側板の圧力バランスをとることができるよう,ガスケットと可動側板との間の隙間10が上記の曲面状の部位(Rをとっている部位)にまで及ぶように改めることは,突条部17の機能を害し,またガスケットの低圧側へのはみ出しを防止するという技術的思想に反するものであるから,上記構\成に改める発想が生じるはずはなく,当然のことながら当業者には容易に想到できる事柄ということはできない。
・・・
 また,本願発明のガスケットに相当する乙第3号証のリップシール(24)は,本願発明の可動側板に相当するサイドプレート(12)ではなく,反対側のカバー(14)に装着され,リップシールとサイドプレートの間に設けられたバックアップ(17)を介してサイドプレートを押し付けるもので,本願発明のガスケット及び可動側板と構成が相当異なるから,乙第3号証に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構\成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。乙第4号証の図2,4からも,ガスケットに設けられた凹部の範囲及び形状は必ずしも明確でなく,その余の明細書中の記載でもガスケットに設けられた凹部の技術的意義が明らかでないから,上記図等に記載された技術的事項を根拠に,本願発明のガスケット等の構成が当業者が容易に行い得る設計変更(設計的事項)の範疇に属するということはできない。\n

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平成23(行ケ)10193 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月27日 知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。
 甲2公報〜甲4公報に開示された上記の技術事項に照らすと,椅子の背もたれ等に施療子が設けられ,制御回路がスイッチ操作等の入力に基づいて施療子を移動させる機能を備えたマッサージ機の技術分野において,施療子を移動させる際に突出量が大きいと,使用者の身体に対する危険がある,あるいは,駆動装置に大きな負荷がかかるなどといった問題の存在は,当業者にとって広く知られた周知の課題であったと認められ,そのような課題を解決するために,施療子の突出量を最小にして,あるいは突出量が小さくなるよう調整して移動させることも,周知の技術事項であったと認められる。このような課題は,施療子を人体に沿って移動させることにより一般的に生じるものであって,甲2公報〜甲4公報に開示されたマッサージ機のように施療子を背もたれ等に設けた場合に特有の課題ではない。そして,甲1発明のマッサージ機は,施療子が脚支持台ごと脚部に沿って移動する構\成を備えているが,全体としてみると椅子式マッサージ機であって,甲2公報〜甲4公報に記載された椅子式マッサージ機とは同一の技術分野に属するものであり,施療子を設けた場所は異なるとしても,施療子が身体に沿って移動するという点においては技術的に共通するものであるから,当業者が,脚部用の移動する施療子を設けた甲1発明に接した場合に,施療子の移動に関する上記の一般的な課題を認識し,これを解決するために周知の技術事項を甲1発明に適用して,スイッチ操作等の入力に応じて制御回路が(脚支持台ごと)施療子を移動させる際に,突出量を最小とする,すなわち非突出状態とすることや,突出量を適宜小さく調整することは,甲1公報自体に示唆等がなくとも,適宜なし得ることというべきである。

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平成23(行ケ)10142 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 進歩なしとした審決が、動機づけなしとして取り消されました。
 引用発明は,セラミック製の調理容器で調理を行うときは,芋等が内部加熱され水分が蒸発するとともに風味が著しく損なわれるという従来の問題点に鑑み,フェライト材(マイクロ波を吸収して発熱し,赤外線を放射する。)とセラミック材(マイクロ波を透過する。)とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,フェライト材におけるマイクロ波の吸収に起因した外部加熱と,セラミック材におけるマイクロ波の透過に起因した誘電加熱とを併用するものである。引用刊行物2には,調理品等の味覚が損なわない新たな解凍技術として開発された発明であること,解凍又は加熱するときにその組成の違う物資が混在しているなかでマイクロ波を直接,照射すると解凍又は加熱すべき素材は全体が均一な温度による解凍又は加熱が困難であり,解凍又は加熱後の温度むらの原因は油脂部分等にマイクロ波が集中的に吸収されるなどして,全体に均一な温度の解凍又は加熱ができないこと,そこで,磁性体シートにおけるキュリー温度相当の外部加熱のみによって素材を加熱するため,磁性体シートを透過したマイクロ波をアルミ箔等の遮断層で反射することによって,素材にマイクロ波が直接当たらないように遮断することが記載され,さらに,段落【0013】には,磁性体シートは,マイクロ波の吸収による発熱の機能\を担うのであってマイクロ波の遮断までも担うものではないこと,マイクロ波の遮断機能を担うのはアルミ箔等であることが示されている。
以上によれば,引用発明は,調理品等の味覚が損なわれるのを防止するためフェライト材とセラミック材とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,マイクロ波の外部加熱と赤外線の誘電加熱とを併用加熱することによって,課題を解決するものであるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,素材に対し,均一な温度による解凍又は加熱を実現するため,マイクロ波を対象物に直接照射させないようにアルミ箔などで遮断して,外部加熱のみによって素材を加熱するものである。
すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない。したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。

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平成23(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月31日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、取り消されました。周知技術について、「当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく」と言及されました。

 被告は,「製造工程において素材あるいは製品を分割して,個々の製品を製造する場合に,分割前の素材に,素材の機能に影響を与えない箇所に記号等を表\示しておき,製品となった後に,その記号等を利用して分割前の場所に起因する不良解析を行う」ことは,周知の技術であり,当業者が決定する設計的事項である旨を主張する。しかし,被告の主張は,失当である。当該発明が,発明の進歩性を有しないこと(すなわち,容易に発明をすることができたこと)を立証するに当たっては,公平かつ客観的な立証を担保する観点から,次のような論証が求められる。すなわち,当該発明と,これに最も近似する公知発明(主引用発明)とを対比した上,当該発明の引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させ,次いで,主たる引用発明から出発して,これに他の公知技術(副引用発明)を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構\成に至ることが容易であるとの立証を尽くしたといえるか否かによって,判断をすることが実務上行われている。この場合に,主引用発明及び副引用発明の技術内容は,引用文献の記載を基礎として,客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されないものといえる。そのような評価は,当該発明の容易想到性の有無を判断する最終過程において,総合的な価値判断をする際に,はじめて許容される余地があるというべきである。
ところで,当業者の技術常識ないし周知技術についても,主張,立証をすることなく当然の前提とされるものではなく,裁判手続(審査,審判手続も含む。)において,証明されることにより,初めて判断の基礎とされる。他方,当業者の技術常識ないし周知技術は,必ずしも,常に特定の引用文献に記載されているわけではないため,立証に困難を伴う場合は,少なくない。しかし,当業者の技術常識ないし周知技術の主張,立証に当たっては,そのような困難な実情が存在するからといって,i)当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく,また,ii)特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが,当然に許容されるわけではなく,さらに,iii)主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構\造を省略して,容易であるとの結論を導くことが,当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。上記観点に照らすならば,被告の主張は,次の理由から採用することはできない。 すなわち,前記のとおり,引用発明は,その解決課題を「基板と,集積回路を形成し,該基板の1つの領域に取り付けられるチップと,該チップを該基板の1つの面に位置する外部電気接続領域に接続する電気接続手段と,封止容器と,をそれぞれに含む複数の半導体パッケージの製作の効率化」とする発明にすぎず,引用発明には,配線基板上にマトリクス状に搭載した複数の半導体チップを一括して樹脂封止した後,この配線基板を分割することによって複数の樹脂封止型半導体装置を製造する,樹脂封止型半導体装置の製造方法において,配線基板の上面に複数の半導体チップを搭載する工程を前提として,これを樹脂封止する工程に先立って,上記配線基板の下面のパッド及び配線を除く領域にアドレス情報パターンを形成するとの構成を採用することにより,上記アドレス情報パターンをカメラ,顕微鏡,目視等で認識することができ,個々の樹脂封止型半導体装置が元の配線基板のどの位置にあったかを配線基板の分割後においても容易に識別できること,依頼メーカの標準仕様(既存)の金型を使用する場合にも適用することができるため,樹脂封止型半導体装置の製造コストを低減することができることという本願発明の解決課題及びその解決手段についての開示ないし示唆は,存在しない。
したがって,被告の主張に係る「製造工程において素材あるいは製品を分割して,個々の製品を製造する場合に,分割前の素材に,素材の機能に影響を与えない箇所に記号等を表\示しておき,製品となった後に,その記号等を利用して分割前の場所に起因する不良解析を行う」との技術が,周知技術又は当業者の技術常識であるか否かにかかわらず,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であるとはいえない。のみならず,被告の主張に係る「製造工程において素材あるいは製品を分割して,個々の製品を製造する場合に,分割前の素材に,素材の機能に影響を与えない箇所に記号等を表\示しておき,製品となった後に,その記号等を利用して分割前の場所に起因する不良解析を行う」との技術が,周知例1ないし3の具体的な記載内容を超えて,技術内容を抽象化ないし上位概念化することなく,当然に周知技術又は当業者の技術常識であると認定することもできない。さらに,周知例1ないし3には,本願発明の相違点2に係る構成を採用することによる解決課題及び解決手段に係る事項についての記載も示唆もない。そうである以上,引用発明を起点として,周知技術を適用することによって本願発明に至ることが容易であると解することはできない。\n

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平成23(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月16日 知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が、論理付けが不充分として取り消されました。
 ・・・かかる原告の主張は,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切なく,被着体保護用途が想定されない引用発明2を材料自体の性質,製造可能性の観点から検討しただけでは,引用発明1Aとの組合せの論理付けがなされていないというものと解される。そこで検討するに,審決は,「プラスチックフィルム等を用いる包装材において,新たな機能\を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加するのは当業者の技術常識といえ,逆に,従来複数の層により達成されていた機能\を例えば一層で達成できるならば,従来の複数の層に代えて新たな一層を採用し,製造の工程や手間やコストの削減を図ることも,当業者の技術常識といえる。すなわち,二層の機能を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることは当業者が当然に試みることである。」(28頁1行〜8行)と当業者の技術常識を認定している。しかし,積層体の発明は,各層の材質,積層順序,膜厚,層間状態等に発明の技術思想があり,個々の層の材質や膜厚自体が公知であることは,積層体の発明に進歩性がないことを意味するものとはいえず,個々の具体的積層体構造に基づく検討が不可欠であり,一般論としても,新たな機能\を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加すること自体は容易想到といえるとしても,従来複数の層により達成されていた機能\をより少ない数の層で達成しようとする場合,複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討しなければ,いずれかの層を省略できるとはいえないから,二層の機能\を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることが直ちに容易想到であるとはいえない。目的の面からも,例えば材質の変更等の具体的比較を行わなければ,層の数の減少が製造の工程や手間やコストの削減を達成するかどうかも明らかではない。引用発明2は,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する発明であって,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1Aとは技術分野ないし用途が異なるものである。当業者は,発明が解決しようとする課題に関連する技術分野の技術を自らの知識とすることができる者であるから,気泡シートの分野における当業者は,引用発明1Aが「粘着剤層32」を有していることから「粘着剤」に関する技術も自らの知識とすることができ,「粘着剤」の材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できるとしても,引用発明1Aを構\成しているのは「粘着剤層32」であるから,当業者は,気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32に関する知識を獲得できると考えるのが相当であり,両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち,「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構\造を,気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構\造とすること)まで,当業者の通常の創作能力の発揮ということはできないというべきである。(3) したがって,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7〜25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは容易想到でなく,そうすると,引用発明1Aに引用発明2を適用することは容易想到であるとはいえない。

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