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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

相違点認定

平成30(行ケ)10131等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月22日  知的財産高等裁判所

 無効と判断された請求項についての判断が、相違点の認定の誤りがあるとして、取り消されました。

 以上によれば,本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は次のとお りであると認められる。
(ア) 対比
a 前記ア(イ)のとおり,本件発明1の「相互作用マスタ」は,「一の医 薬品」及び「他の一の医薬品」が販売名(商品名)か一般名かこれを 特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することがで きるコードのレベルの概念で統一して格納され,1)A薬品から見たB 薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報と,2)B薬品か ら見たA薬品の相互作用が発生する組み合わせについての情報とは, データとして個々別々のものとして格納され,また,1)A薬品から見 たB薬品に関する相互作用が発生する組み合わせについての情報と, 3)A薬品から見たC薬品の相互作用が発生する組み合わせについての 情報とも,データとして個々別々のものとして格納されるものである。 これに対し,前記イ(ア)のとおり,引用発明3の相手テーブル部の一般 名コード,薬効分類コード,BOXコードの各欄には,必ずしもすべ てにコードが格納されているとは限らない。
したがって,引用発明3の「医薬品相互作用チェックテーブル10 5」と,本件発明1の「相互作用マスタ」とは,「一の医薬品から見 た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互 作用をチェックするためのマスタ」である点で共通するが,本件発明 1が「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医 薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一 の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BO Xコードかの少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み 合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コー ド,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて, 相互作用が発生する組み合わせを格納する」点で相違する。
b 本件発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と, 「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合 致の有無を判断するものであるのに対し,前記第2の3ウ(ア)及び上 記イ(イ)によれば,引用発明3は,1)医薬品相互作用チェックテーブル 105において,「自己テーブル部」に,「自己医薬品」に係る「一 般名コード」,「薬効分類コード」,「BOXコード」が存在するか をそれぞれ検索し,2)いずれかのコードが存在していれば,処方医薬 品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」 に記憶し,3)「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手 テーブル部」に,「相手医薬品」に係る「一般名コード」,「薬効分 類コード」,「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し,4)い ずれかのコードが存在していれば,「自己医薬品」と「相手医薬品」 とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。 そうすると,引用発明3の「検索処理」と本件発明1の「相互 作用チェック処理」とは,いずれも,「入力された新規処方データ の各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手 医薬品の組み合わせについて,相互作用をチェックするためのマ スタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する 点で共通するものの,引用発明3の「検索処理」は,自己医薬品 と相手医薬品と間で,一般名コード,薬効分類コード,BOXコ ードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み 合わせであると判断するものであり,自己医薬品と相手医薬品と の組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと の,医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとはいえない から,本件発明1の「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと 相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否か を判断することにより,相互作用チェック処理を実行する」「相 互作用チェック処理」とは相違する。
(イ) 一致点及び相違点
以上によれば,本件発明1と引用発明3は,次の一致点において一致 し,前記第2の3(2)ウ(ウ)記載の相違点4−1のほか次の相違点におい て相違することが認められる。
a 一致点
「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個 別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手 段と, 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品 とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて,上記マスタに 基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と, 前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェ ックするための処理の結果を,表示する表\\示手段と, を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置」
b 相違点
〔相違点4−8〕
相互作用をチェックするためのマスタが,本件発明1では,「一の 医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見 た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する 組み合わせを格納する」のに対し,引用発明3では,「一の医薬品か ら見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードか の少なくともいずれかについて,相互作用が発生する組み合わせを格 納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分 類コード,BOXコードかの少なくともいずれかについて,相互作用 が発生する組み合わせを格納する」点。
〔相違点4−9〕
相互作用をチェックするための処理が,本件発明1では,自己医薬 品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の 組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し,引用発明3では, 「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」, 「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」,「自己医薬品 に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して,いず れかのコードが存在していれば,処方医薬品相互作用チェックテーブ ルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し,一時記憶テーブル1 10に記憶したデータの「相手テーブル部」に,「相手医薬品の一般 名コードが存在するか」,「相手医薬品の属する薬効分類コードが存 在するか」,「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」 をそれぞれ検索して,いずれかのコードが存在していれば,「自己医 薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在する と判断するものである点。
エ 以上のとおりであるから,審決は,本件発明1と引用発明3の相違点の 認定に際し,相違点4−8,4−9を看過したものであり,相違点の認定 の誤りがあるというべきである。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10145 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年7月18日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。取消理由は、相違点についての判断誤りです。

 前記(ア)及び(イ)によれば,甲1ないし3,5に接した当業者は, 過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には,有効 塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があ ることを認識し,この課題を解決するとともに,使用する薬剤の濃度を 実質的に低下せしめることを目的として,甲1発明における有効塩素剤 を,トリハロメタンを生成せず,有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナト リウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤であ る甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるもの と認められるから,甲1及び甲2,3,5に基づいて,冷却用海水路の 海水中に「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同 時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」 構成(相違点1に係る本件発明1の構\\成)を容易に想到することができ たものと認められる。
イ これに対し被告らは,1)甲1記載の有効塩素発生剤は,過酸化水素との 酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合物であるから,甲1発 明における有効塩素発生剤を,過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生 しない二酸化塩素に置換する動機付けはない,2)二酸化塩素は,不安定か つ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合 わせた場合,両者が反応して消費され,共存できないと考えられており, また,両者の反応により二酸化塩素は,海生生物の付着防止効果が劣る亜 塩素酸イオンとなるので,二酸化塩素を単独で使用した方が,二酸化塩素 と過酸化水素を併用するよりも海生生物の付着防止効果は高いことから すると,当業者においては,過酸化水素に二酸化塩素を組み合わせること についての動機付けがなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,甲1には,過酸化水素と有効塩 素発生剤との組み合わせについて,「特に有効塩素との組み合わせの場合 には,次式に示す酸化−還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生し て相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。H2O2+ClO−→H2 O+C1−+OI」(前記(2)ア(ウ))との記載があるが,一重項酸素の発生 により「相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。」と推論している に過ぎず,一重項酸素による付着抑制効果の有無及びその程度を実証的な データ等により確認したものではない。 また,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸 化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒド ラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同 様の抑制効果が得られたことの記載があり(前記(2)ア(オ)),過酸化水素 とヒドラジンとの併用によって一重項酸素が発生することは想定できな いことに照らすと,二酸化塩素が過酸化水素との併用により一重項酸素を 発生しないとしても,そのことから直ちに甲1発明における有効塩素発生 剤を二酸化塩素に置換する動機付けを否定することはできない。
次に,上記2)の点については,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い 化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合わせた場合にお いて,両者が反応して消費され,およそ共存できないと考えられていたこ とを具体的に裏付ける証拠はない。もっとも,甲3には,「二酸化塩素は, 極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵,輸送は非常に困難である が,このように二酸化塩素発生器を用いた場合には,現場での二酸化塩素 の製造が可能であり,取り扱いが非常に簡単である。」(【0018】)\nとの記載があるが,この記載から,海水中で,二酸化塩素と過酸化水素を 併用した場合,両者が反応して消費され,およそ共存できないと読み取る ことはできない。また,本件明細書の【0010】には,「二酸化塩素と 過酸化水素との併用は,塩素剤と過酸化水素との併用と同様に酸化還元反 応により両薬剤が消費され,水系において安定に共存できないという技術 常識が存在していたためと考えられる。」,「実際に本発明者らが試験した ところによると,…当業者であれば,次亜塩素酸ナトリウムより酸化還元 電位が高い二酸化塩素は過酸化水素と安定に共存できるはずがないと考 えるのが自然である。」,【0012】には,「…その結果,これまで共存が 不可能と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素剤と準安定的\nに共存できることを意外にも見出し…」との記載があるが,当業者は,本 件優先日前に本件出願後に公開された本件明細書の記載に接することが できないのみならず,酸化還元電位については,「一方の系の標準酸化還 元電位が,他方の系のそれより高い(正である)場合,前者の方がより強 い酸化剤となり,前者が還元され,後者が酸化される方向に進みうる。」 こと,「酸化還元電位によって予言できるのは反応方向であり,反応速度\nではない」ことは,技術常識であること(「化学大辞典3」縮刷版904 頁・共立出版2003年)に照らすと,酸化還元電位から反応速度まで予\n測できるものとはいえないから,本件明細書の上記記載をもって,海水中 で,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,両者が反応して消費され, およそ共存できないということはできない。

◆判決本文

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