一致点・相違点の認定に誤りがあるものの、動機付けなしとの審決が維持されました。
カ 甲8発明と本件発明1との相違点として本件審決が認定したもの(前記
第2の4(2)ア(イ))のうち、甲8相違点2は、前記エの説示によれば、甲8
発明と本件発明1との相違点となるとは認められない。
また、甲8相違点3は、甲8発明における台車用安全カバー及び本件発
明1における保護部材の用途を特定する物としての手押部材の違いを述
べるものであって、甲8発明における台車用安全カバーと本件発明1にお
ける保護部材との相違点とはいえない。したがって、甲8発明と本件発明
1との相違点は、甲8相違点1及び取付位置に係る相違点のみであると認
められる。
キ 前記第2の2(3)のとおり、1)本件発明2は、本件発明1の構成要件1A\nないし1Fを全て含み、2)本件発明3は、本件発明1の構成要件のうち、\n1Eを「前記保護部は、円板状である。」(構成要件2E)に変更したもの\nであり、3)本件発明4ないし7は、本件発明1の構成要件1Aないし1F\nを全て含むか、又は本件発明3の構成要件1Aないし1D、2E及び1F\nを全て含むものである。
そうすると、本件発明2ないし7は、いずれも、甲8発明との関係で、
甲8相違点1及び取付位置に係る相違点があると認めることができる。
ク 以上のとおり、甲8発明と本件各発明との一致点及び相違点に係る本件
審決の判断には相当でない部分があるものの、これによって直ちに本件審
決の判断が違法となることはなく、甲8相違点1を前提に、当業者が、本
件優先日の技術水準に基づいて、これらの相違点に対応する本件各発明を
容易に想到することができたかどうかを判断すべきである。
(3) 容易想到性について
前記(1)のとおりである甲8発明の内容によれば、甲8発明の台車用安全カ
バーは、その本体、すなわち甲8発明の全体が保護部を構成しており、作業\n者の手挟み事故を防止するとともに、手押部材の掌握部、すなわち台車のコ
字状のハンドルのグリップ部の位置を使用者に認識させる作用をもつもので
あるといえる。このことは、甲8商品2と同一の構成の商品を含む甲8商品\n1に係るパンフレット(甲8の2)に、「台車に取り付けることで、作業員の
手挟み事故を防止!掌握部もわかりやすくなり、安全指導がしやすくなりま
す」との記載があることからも裏付けられる。
このように、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部
分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に
取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事
故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)
にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車
等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点
で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に
接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けが
あったとは認められない。
したがって、引用発明である甲8発明に基づいて、甲8相違点1に係る本
件各発明の構成が容易に想到できたとは認められず、甲8発明を前提とする\n進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあるとは認められない。
(4) 前記第3の1〔原告の主張〕について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕(1)のとおり、甲8発明の台車用安
全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部\n分に対してのみ取り付け可能な製品ではないから、本件審決における甲8\n発明の認定は誤りであると主張する。
この点、長岡産業代表取締役である甲の陳述書(甲53)には、甲8商\n品2は、甲8商品1とともに、カーブ部分に装着することに特化した形状
(特に孔の形状)となっておらず、曲がっていない直線の棒にも装着可能\nなものであった旨の陳述がある。
しかし、甲8商品2の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒
に装着することが可能であるとしても、甲8商品2のパンフレット(甲8\nの3)及び甲8商品2と同一の構成の商品が含まれる甲8商品1のパンフ\nレット(甲8の2)の各記載及び掲載された写真からすれば、甲8商品2、
すなわち甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分
に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に
掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものである
と認められる。
上記各パンフレットに掲載された、各商品が台車のハンドルに装着され
た状態の写真は、いずれもコ字状のハンドルのカーブ部分に装着されたも
のを撮影したものであって、直線の部分に装着した写真ではないと認めら
れる。また、甲8の2には、「ハンドルのカーブ部分に挟み込み、テープを
はがして包むだけ!」と表記されているのであって、カーブ部分に挟み込\nむことが単なる使用の一例にすぎない旨の記載はされていない。
以上のとおり、甲8発明に関する本件審決の認定に誤りがあるとは認め
られない。
◆判決本文
進歩性無しとした審決が維持されました。争点は、相違点の認定誤り、動機付け、阻害要因です。
(1) 原告は、引用例2及び引用例3に開示されたイメージファイバを介して照
明光を導く周知の方法はイメージファイバを振動させないものであるのに対
して、引用発明はイメージガイド2の接眼側の端部を振動させるものである
から、イメージファイバの前提構成が異なるものであって、引用発明に上記\nの周知の手法を適用する動機付けがあるとはいえない旨主張する。
(2) しかし、引用例2及び引用例3によれば、集光レンズを介して入射した光
源からの光をイメージファイバにより伝送することは、本件審決が認定する
とおり周知の手法であると認められるところ、引用例3の【0008】、及
び特開2000−121460号公報(乙2)の【0018】、【001
9】、【0029】の記載によれば、内視鏡の技術分野において挿入部を細
径化することは周知の課題であると認められるから、その課題は引用発明に
も内在していると認められる。
そして、本件審決の認定する周知の手法は、引用発明にも内在する上記の
課題の解決手段となるものであるから、引用発明にこれを適用する動機付け
はあるというべきである。
(3) 原告は、さらに、照明光を被観察物体に導くイメージガイド2の接眼側の
端部を振動させると、被観察物体の撮像にどのような影響を与えるのかが不
明であることを考慮すれば、上記周知の方法を引用発明に採用することには
阻害要因がある旨主張する。
しかし、イメージファイバを振動させる技術と、光源からの光をイメージ
ファイバにより伝送する技術とを同時に採用できないとする技術的根拠は見
当たらず、上記(2)のとおり周知の課題を解決する手段である周知の方法を
採用することは、当業者であれば容易に着想して試みるものと認められる。
(4) したがって、引用発明に引用例2及び引用例3の周知の手法を適用するこ
とによって、相違点1及び相違点2に係る構成は容易に想到し得るとした本\n件審決に誤りは認められず、原告主張の取消事由2は理由がない。
◆判決本文