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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

相違点認定

令和1(行ケ)10150  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年9月15日  知的財産高等裁判所

 新規性・進歩性違反については、一致点と相違点の認定を誤っているとして取り消しました。その他の記載要件(実施可能要件・サポート要件)については無効理由無しについても判断しています。\n

 イ 本件審決は,引用発明1を前記第2の3(2)アのとおり,低純度酸素の生成に 関し,「高純度酸素が側塔から抜き取られる位置よりも15〜25平衡段高い位置で 側塔から液体として抜き出され,液体ポンプを通過することにより高い圧力に圧送 され,主熱交換器を通過することによって気化され」るものと認定した。 原告は,上記認定を争い,引用発明1は,低純度酸素を専ら液体として抜き出す ものではないと主張し,その根拠として記載Aを指摘する。
ウ 記載Aは,「Either or both of the lower purity oxygen and the higher purity oxygen may be withdrawn from side column 11 as liquid or vapor for recovery.」というものである(甲1の1。5欄8行〜10行)。引用例1の他の箇所 (例えば,5欄11行〜22行,23行〜32行,33行〜39行)において, “recover”の用語が最終的な製品を得ることという意味で用いられていることから すると,記載A文末の“recovery”も最終製品の回収のことを意味し,他方で文中の “withdrawn”は,中間的な生成物の抜き出しのことを意味するものと解される(4 欄40行の“withdrawn”,5欄43行の“withdrawal”も同様である。)。そうすると,記載Aは,前記ア gのとおり,低純度酸素及び高純度酸素のいずれか又は両方は, 回収のために,液体又は気化ガスとして側塔11から抜き出されてもよいと訳すの が相当である。 そうだとすると,記載Aからは,引用発明1が低純度酸素を専ら液体として抜き 出すもので,気体としての抜き出しは排除されている,と理解するのは困難である。 しかも,引用例1の全体をみると,引用発明1が解決しようとする課題は,低純 度酸素及び高純度酸素の両方を高回収率で効果的に精製することができる極低温精 留システムを提供することであり ,課題を解決する手段は,空気成分の 沸点の差,すなわち低沸点の成分は気化ガス相に濃縮する傾向があり,高沸点の成 分は液相に濃縮する傾向があることを利用したものである(同 と認められ,図 1に示されたのは,あくまで,好ましい実施形態にすぎない 。図1の説明 においては,低純度酸素を液体として抜き出し,それにより大量の高純度酸素を得 られるとしても,それは,最も好ましい実施形態を示したものであって,引用例1 に側塔11から低純度酸素を気体として抜き出すことが記載されていないとはいえ ない。
エ また,証拠(甲2,3の1,4,7の1,8)によれば,本件発明1の出願当 時,空気分離装置又は方法において,高純度酸素と区別して低純度酸素を回収する ことができ,その際に,精留塔から,低純度酸素を気体として抜き出す方法も液体 として抜き出す方法もあることは,技術常識であったと認められる。上記認定の技 術常識に照らしても,引用例1には,低純度酸素を液体として抜き出すことのみな らず,気体として抜き出すことが記載されているに等しいというべきである。
オ そうすると,本件審決が,引用発明1を,低純度酸素を専ら液体として抜き 出すものと認定し,これを一致点とせずに相違点1と認定したことは,誤りといわ ざるを得ない。 本件審決は,その余の相違点及び本件発明2〜4と引用発明1との相違点につい て判断せず,原告被告ともにこれを主張立証していないから,これらの点に係る新 規性及び進歩性については,再度の審判により審理判断が尽くされるべきである。
・・・
事案に鑑み,取消事由3についても判断する。
(1) 実施可能要件適合性\n
ア 本件各発明に係る「空気分離方法」のための「空気分離装置」は,2種以上の 純度の酸素を取り出すものであり,そのうち1種を低純度のガス酸素で取り出すこ とによって,低圧精留塔内の主凝縮器に必要な酸素の純度を低減でき,その結果, 空気圧縮機の吐出圧の低減を図り,該圧縮機の消費動力を低減し,「空気分離装置」 の稼動コストを従来よりも小さくすることができるものである。 イ 本件各発明において用いられる装置は,「空気圧縮機」,「吸着器」,「主熱 交換器」,「高圧精留塔」,「低圧精留塔」,「低圧精留塔」内に設けられた「主凝 縮器」,「昇圧圧縮機」,「液酸ポンプ」,「空気凝縮器容器」及び「空気凝縮器容 器」内に設けられた「空気凝縮器」を主として備える「空気分離装置」であり,それ ぞれの意味するところは,図面をもって具体的に示されている(【0023】,図 1)。
工程についても,1)「低圧精留塔」内で精留分離された液体酸素が,「空気凝縮器 容器」内に供給され,「空気凝縮器容器」内で気化したガス酸素(低純度酸素)が, 供給ライン(ガス酸素供給ライン)により「主熱交換器」に送られて常温に戻された 後,必要に応じて空気が混合されて酸素富化燃焼用酸素として外部(酸素富化炉) に供給されること(【0027】〜【0029】),2)「空気凝縮器容器」内の液体 酸素は,供給ラインにより「液酸ポンプ」に送られて必要圧に昇圧された後,「主熱 交換器」で蒸発及び昇温されることによりガス酸素(高純度酸素)となり,酸化用酸 素として外部(酸化炉)に供給されること(【0030】),3)「空気凝縮器容器」 内の液体酸素(高純度酸素)の抜き出し量は,例えば10%〜80%の間とするこ と(【0059】,【表3〜5】),以上のことが,具体的に示されている。\nそして,以上のような「空気分離装置」によれば,必要とされる高純度酸素が全体 の酸素の一部である場合に,必要とされる高純度酸素の純度を確保しつつ,「低圧 精留塔」の「主凝縮器」から取り出す液体酸素の純度を低減し,低減分の酸素の沸点 を下げることが可能となり,また,「低圧精留塔」内で液体酸素とガス窒素との間で\n行われる熱交換の温度差を大きくすることにより,「高圧精留塔」内の必要圧力を 下げることができ,これにより,「空気圧縮機」の吐圧力を低減し,ひいては該圧縮 機の消費動力の低減が可能となるので,「空気分離装置」の稼動コストを従来より\nも抑えることができるとして,効果及びその機序の説明もされている(【0018】, 【0035】,【0036】)。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記ア,イのことがその具体的な実施 の形態も含めて記載されており,当業者は,これをみれば,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件各発明を実施することができる。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。\n

◆判決本文

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令和1(行ケ)10155 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が維持されました。ただ、知財高裁は、引用文献に記載の発明について誤りがあるが、結論は妥当としました。

 「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」 とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのよ うなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0 058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超え て,それを限定する記載はない。 他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2 種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように, 別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶\n着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」 との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28 の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図 6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予\n定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を 果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても\n区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。 そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当す るものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
・・・
本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されてお り,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では, そのような特定のない点。 イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイ ン,またはその塩,エステルもしくはN−アシル体を収容し,区画室28に微量金 属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「ア\nセチルシステイン」は,システインのN−アシル体であるから,相違点1−1及び 相違点1−2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括
以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸 液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する 取消事由1は理由がない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10168  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年8月12日  知的財産高等裁判所

 クレームに基づかない主張として、相違点の認定に誤りはなしとして、拒絶審決が維持されました。

 本願の請求項1は,「前記切削切断部は,この根菜類の表面から切削対象\n部位を削り出す切削手段,及び根菜類の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切 断するための切断手段の根菜類切削切断装置」としており,「切削手段」は,「根菜 類の表面から切削対象部位を削り出す」ものであり,「切断手段」は,「根菜類の切\n削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」である。このような請 求項1の文言によると,「切削対象部位」は,切削手段により根菜類の表面から削り\n出されるものであるとともに,切断手段により二片,又は多片の形状に切断される ものであることは理解できるが,「切断手段」が,切削手段によって切り出された後 の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断することまでが記載されているとい うことはできない。
また,上記請求項1の記載によると,本願発明の「切断手段」は,「根菜類の切削 対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」であるから,先に根菜類 の表面から切削対象部位を削り出し,その後,その切削対象部位を切断するものは\nもとより,先に根菜類の切削対象部位に縦溝を入れ,その後,「切削手段」によって, 根菜類の表面から切削対象部位が削り出され,根菜類の切削対象部位が二片,又は\n多片の形状に切断される状態になるものについても,請求項1の文言上,「根菜類の 切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するためのもの」ということができる。 原告は,本願発明において,根菜類から「切削手段」によって削り出す前の「根 菜類の切削対象部位」に対しては,縦溝を入れることは可能であっても,物を断ち\n切ること,切り離すことを意味する「切断」を行うことはできないと主張するが, 原告の上記主張は,上記で判断したとおり採用することはできない。
イ また,本願明細書を見ると,段落【0048】には,実施例1として, 切削手段1Aで切削切断片KSを形成し,切削手段1Aで切削切断片KSを形成す る直前に,その部分を切断手段1aで切削切断片KS1,KS2,KS3となるよ うに切断するが,工程的には切削と切断が順次,又は略同時に行われることが示さ れているものの,切断工程の切断手段1aが先で,切断線を備えた人参に,切削工 程の切削手段1Aが切断すると他の例もあり得ることも示されており,さらに,段 落【0052】は,実施例1の根菜類切削切断装置Nにおいて,切削片KS(切削 対象部位)が切断手段1aで完全でない切断がされた後に(「根菜類の表面から分離\nしていない状態で」を意味すると解される。)切削手段1Aで切削されて切削切断片 KS1,KS2,KS3となることが記載されているから,本願発明においては, 「切削対象部位」である切削片KSは,「切削手段」による切削の後に又は略同時に 「切断手段」により切断される態様のみならず,根菜類から切断手段により完全で ない切断がされた後に切削手段により切り取られる態様のものも含まれているとい える。
ウ そうすると,本願発明において,「切削手段」による切削と「切断部分」 による切断の前後関係は特定されておらず,前後関係がいずれであっても本願発明 に含まれるということができる。 なお,原告は,本願明細書の【図16】の(a),(b),(d)は,先に切削部分 から切削され,その後切断部分により切断される態様を示していることを指摘する が,本願明細書の段落【0047】によると,【図16】の(a),(b),(d)は一実施例を示したものにすぎないと認められるから,上記判断を左右するものではな い。
エ 以上によると,本願発明の「根菜類の切削対象部位」は,先に根菜類の 表面から切削手段によって削り出された後のものに限定されるものではなく,先に\n切断手段によって切断された後に,切削手段によって根菜類の表面から切削される\nものも含まれているといえるから,切断部分が切断するのは,根菜類の表面(外周)\nである場合も含まれることになる。 したがって,甲1発明の「ごぼう60の外周」は,本願発明の切断手段によって 切断される「根菜類の切削対象部位」に相当しないとの原告の主張を採用すること はできない。
(3) 原告は,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明の「切削手段」によ って根菜類の表面から削り出された「切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断\nするための」「切断手段」に相当しない旨主張する。 まず,本願発明は,先に根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り\n出し,その後,その切削対象部位を切断手段によって二片又は多片に切断するもの に限られることはなく,先に切削対象部位を切断手段によって完全でない切断がさ れ,その後,根菜類の表面から切削手段によって切削対象部位を削り出すものも含\nまれることは,前記(2)のとおりである。 また,甲1発明において,「2つ割り刃11」は,ごぼう60の外周に縦溝を入れ, その後,「ささがき刃10」がごぼうの外周の表面をささがきし,その結果,2つ割\nりになるささがきを生成するものであることは,前記2のとおりである。 そうすると,甲1発明の「2つ割り刃11」は,本願発明における「切断手段」 に相当すると認められるから,この点に相違点があるとは認められない。

◆判決本文

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令和1(行ケ)10077  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年6月11日  知的財産高等裁判所(1部)

 進歩性判断における相違点の認定については、「まとまりのある構成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない」と判断されました。ただ、結論に影響なしとして取り消しはされませんでした。なお、一事不再理の「同一証拠」についても言及しています。\n

 もっとも,発明の進歩性の判断に際し,本件発明と対比すべき主引用発明は, 当業者が,出願時の技術水準に基づいて本件発明を容易に発明をすることができた かどうかを判断する基礎となるべき具体的な技術的思想でなければならない。そし て,本件発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり,主引用発 明に副引用発明を適用することにより本件発明を容易に発明をすることができたか どうかを判断する場合には,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野 の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用\n発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用 を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断する\nこととなる。 このような進歩性の判断構造からすれば,本件発明と主引用発明との間の相違点\nを認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構\n成を単位として認定するのが相当であり,かかる観点を考慮することなく,相違点 をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは, 進歩性の判断を誤らせる結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。
ウ 前記アのとおり,本件発明1と引用発明の一致点及び相違点が本件審決の認 定したとおりのものであることについては,当事者間に争いがない。 しかし,前記イで述べたところに照らせば,本件審決が認定した相違点のうち, 少なくとも相違点4ないし6に係る構成は,グラブバケット自体の水中での抵抗を\n減少させて降下時間を短縮し,グラブバケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ 場合でも該グラブバケットの内圧上昇に起因する変形,破損を引き起こすことがな いようにするという技術的課題の解決に向けられたまとまりのある構成であるから,\n本件において,相違点4ないし6は,本来,次のとおりに認定すべきものであった。
(相違点A)
本件発明1においては,シェルカバーの一部に形成された空気抜き孔に取り付け られた「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」が,「シェルを左右に広げたまま水中を降下 する際には上方に開いて水が上方に抜け」るとともに,「シェルが掴み物を所定容 量以上に掴んだ場合にも,内圧の上昇に伴って上方に開」き,「グラブバケットの水 中での移動時には,外圧によって閉じられる」ものであるのに対し,引用発明にお いては,掩蓋の一部に形成された空気抜きのための開口に取り付けられた「開閉式 の逆止弁」が,「シエルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて空 気が上方に抜けるとともに,バケットを海上に引き上げる場合に閉じられる」が, 「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開」 くか否かは明らかでない点。
エ 本件発明1と引用発明との相違点は,本来,前記ウのとおりに認定すべきも のであった。しかしながら,この点を措き,本件審決の認定したところ及び当事者 の主張に従い,相違点6の判断の当否として検討してみても,後記(3)のとおり,本 件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
・・・
 3 特許法167条又は信義則の違反をいう被告の主張について
(1) 被告は,本件無効審判における事実及び証拠は,別件無効審判のそれと実質 的に同一であるから,本件無効審判の請求は,特許法167条の規定に違反し,「紛 争の蒸し返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請に反し,許されない旨主張す るので,事案に鑑み,以下,判断する。
(2) 別件無効審判の経緯は,前記第2の1(2)認定のとおりであり,本件特許につ いて,平成22年12月14日付け別件無効審判の請求以来,約7年4月間の長期 間にわたり,4回の審決と3回の判決,1回の決定がされたことが認められる。 現行特許法が,同一の請求人についても,同法167条の場合を除いて,何回で も,かつ,時期的制限もなく(同法123条3項),無効審判を請求することのでき る制度を採用していることについては,特許権の安定や紛争の一回的解決の見地か ら再検討の余地があるが,特許法167条は,「特許無効審判‥の審決が確定したと きは,当事者‥は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求すること ができない。」と規定している。そして,同条の趣旨は,(1)同一争点による紛争の蒸 し返しを許さないことにより無効審判請求等の濫用を防止すること,(2)権利者の被 る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(3)紛争の一回的な解決を図る こと等にあると解され,無効審判請求において,「同一の事実」とは,同一の無効理 由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実 質的に同一の証拠を指すものと解される。 ところで,無効理由として進歩性の欠如が主張される場合において,特許発明が 出願時における公知技術から容易に想到できたというためには,(1)当該特許発明と, 引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比して,当該特許発明と 主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,(2)当業者が主引用発明に他の公 知技術又は周知技術とを組み合わせることによって,主引用発明と相違点に係る他 の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが当業者において容易に想到で\nきたことを示す必要がある。そうすると,主引用発明が異なれば,特許発明との一 致点及び相違点の認定が異なり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容 も異なってくるから,無効理由としても異なることになる。 したがって,進歩性の欠如という無効理由について,主引用発明が異なるときは, 「同一の事実」に当たらないことになる。
(3) これを本件についてみると,別件無効審判において,主引用発明とされたの は,甲8及び甲9に記載された各発明であり,本件の主引用例(甲7)は,別件無効 審判では提出されていない。主引用例から認定される発明(主引用発明)が別件無 効審判で主張された主引用発明と異ならなければ,無効理由としても同一と評価で きるが,本件審決は,別件無効審判のそれとは異なる発明(掩蓋に逆止弁が取り付 けられた構成を含むもの)を甲7の記載から認定している。浚渫用グラブバケット\nにおいて逆止弁に技術的意義があることは明らかであるから,本件無効審判の主引 用発明が別件無効審判のそれと異ならないということはできない。 したがって,現行法下の無効審判請求及び審決取消訴訟においても,「紛争の蒸し 返し防止」及び「紛争の一回的な解決」の要請を満たすような主張立証がされるべ きことは,被告の主張するとおりであるものの,本件においては,理由がない。

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