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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

審判手続

令和4(行ケ)10080 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年7月26日  知的財産高等裁判所

審決取消を求めた理由の一つが手続き違背です。裁判所は、理由無しと判断しました。

1 取消事由1(手続違背)について
(1) 原告は、本件審決では、審査過程とは実質的に異なる論理によって進歩 性の判断を行っており、その上で審判請求人に意見を述べる機会を与える ことなく審決をしているから、本件審決は、特許法159条2項の規定に違 反する違法なものである旨を主張する。
(2) 前記第2の1のとおり、本件拒絶理由通知には、本願は新規性欠如(拒絶 理由1)及び進歩性欠如(拒絶理由2)により拒絶すべきものとし、1)本願 の請求項1ないし8の発明につき、引用文献1に記載された発明であるか、 その記載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、2)本願の請求 項1ないし4の発明につき、引用文献2に記載された発明であるか、その記 載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、3)本願の請求項1な いし4の発明につき、引用文献3に記載された発明であるか、その記載に基 づき当業者が容易に発明をすることができた、4)本願の請求項1、2、4の 発明につき、引用文献4に記載された発明であるか、その記載に基づき当業 者が容易に発明をすることができた、5)本願の請求項1、5の発明につき、 引用文献5に記載された発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に 発明をすることができた、6)本願の請求項1ないし4の発明につき、引用文 献6に記載された発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に発明を することができた、7)本願の請求項3の発明につき、引用文献4に記載され た発明に引用文献1ないし3、6に記載された周知の構成を適用すること\nにより容易に発明をすることができた、8)本願の請求項4の発明につき、引 用文献1ないし6に記載された発明に周知の構成を適用することは設計的\n事項に過ぎないから容易に発明をすることができた、9)本願の請求項5の 発明につき、引用文献2ないし4、6に記載された発明に引用文献1、5に 記載された周知の構成を適用することにより容易に発明をすることができ\nた、10)本願の請求項6ないし8の発明につき、引用文献2に記載された発明 に引用文献1に記載された発明の構成を採用することにより容易に発明を\nすることができた、11)本願の請求項8の発明につき、引用文献1、2に記載 された発明に周知の構成を適用することは設計的事項に過ぎないから容易\nに発明をすることができた、との理由が示され、引用文献1のほか、引用文 献2ないし6及びそれらに記載された発明の内容が示されている。 これに対し原告は、第1次補正を行うとともに本件意見書を提出している ところ、原告は、本件意見書において、引用文献1ないし6に開示された内 容を踏まえても、いずれも第1次補正後の本願発明に係る内容については記 載も示唆もされていないと主張した。
その上で、本件拒絶査定には、本件拒絶理由通知に記載した理由1(新規 性欠如)、同2(進歩性欠如)により本件出願を拒絶すべきものとし、備考 として、1)本願の請求項1ないし3の発明につき、引用文献1に記載された 発明であるか、その記載に基づき当業者が容易に発明をすることができた、 2)本願の請求項1ないし3の発明につき、引用文献2、1の記載に基づき当 業者が容易に発明をすることができた、3)本願の請求項3の発明につき、引 用文献1、2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたとし、 本件拒絶査定を構成するものではないが、現在存在している拒絶理由として、\n請求項5の発明につき引用文献1に記載された発明に基づく新規性、進歩性 欠如、請求項4、5の発明につき、引用文献1、7に基づく進歩性欠如、請 求項4、5の発明につき、引用文献2、1、7に基づく進歩性欠如、請求項 5の発明につき明確性要件違反がある旨が記載されている。 これらによれば、本件拒絶査定は、本件拒絶理由通知に記載した新規性欠 如(理由1)及び進歩性欠如(同2)の各理由により本件出願を拒絶すべき としたものであり、本願発明は引用文献1に記載された発明であるか、その 記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたとする本件拒絶理由 通知記載の新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を維持するものである。 本件審決が示した新たな刊行物等(甲5ないし7)も、同審決において、 「加飾とは、クッション性等の機能性を付与したものも含むものであるこ\nとは技術常識である。このことは、・・・ の各資料からも確認できる。」 (9頁30行目ないし10頁2行目)とし、その「各資料」として甲5ない し7が示されているところから明らかなとおり、本件出願当時において、加 飾加工分野の当業者であれば当然知っている技術常識の裏付けとして示さ れたものであって、引用文献1から主引用発明を認定する場合における、本 件拒絶理由通知及び本件拒絶査定の拒絶理由の内容を変更するものではな い。 したがって、これらは特許法159条2項に規定する査定の理由と異なる 拒絶の理由を発見した場合に当たるものではないから、拒絶査定不服審判 の手続において、審判請求人である原告に意見を述べる機会を与えること が必要とされるものではない。 よって、本件審判に手続違背はなく、審判の手続に誤りはない。
(3) 原告の主張に対する判断
ア 原告は、本件拒絶理由通知と本件拒絶査定とでは主引用発明としている 引用文献が同一ではなく、新規性及び進歩性についての判断も異なると主 張する。 しかし、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定には、引用文献1による新 規性欠如及び進歩性欠如の理由が示されており、本件審決においても、引 用文献1による新規性欠如と進歩性欠如の判断理由が示されているから、 本件審決が、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定と異なる理由でされたと いうことはない。また、原告が本件拒絶査定で新たに引用されたとする引 用文献(甲14)は、前記第2の1(3)のとおり、本件出願当時の周知技術 を示す文献として引用されたものであり、本件拒絶査定において拒絶理由 を構成するものとされているものではない。\n したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、6個若しくは2個の引用発明から最も適した一つの引用発明を 選択するという認定手順を行わない進歩性の判断手法は、後知恵の判断に よる進歩性の否定につながると主張する。 しかし、進歩性判断に当たり複数の論理付けが可能な場合にそれぞれの\n論理付けを行うことについて問題があるものとは認めらないほか、前記 (2)のとおり、審決の判断には法に定める手続の違背もない。また、いわゆ る後知恵の問題とは、主引用発明から出発して当業者が発明に容易に想到 し得る論理付けができるか否かの判断を行う際には、請求項に係る発明の 知識を得た上で行うことから、当業者が請求項に係る発明に容易に想到し 得たかのように見えてしまう問題をいうところ、主引用例が一つであるか 否かの問題と、いわゆる後知恵の問題とは直接には関係がない。加えて、 本件審決の判断は、本願補正発明が新規性を欠如する旨も含むものである から、進歩性の判断手法に関する原告の主張は、直ちに審決の取消事由と なり得るものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件出願に対する進歩性の判断手法への対応によって本来対応 に注力すべき新規性及び進歩性の論点が曖昧かつ分散され、その結果とし て出願人である原告が不利益を受けた旨を主張する。 しかし、前記第2の1(1)及び(3)のとおり、本件拒絶理由通知及び本件 拒絶査定では複数の主引用例に基づいた拒絶の理由に対し、主引用例ごと に各発明の技術内容が記載されるとともに、引用文献1による新規性及び 進歩性を欠如する旨の理由が示されているから、原告の主張はそもそもそ の前提を欠くばかりか、原告は、これらを踏まえて本件意見書及び審判請 求書において反論しているのであるから、本来対応に注力すべき新規性及 び進歩性の論点が曖昧かつ分散されて、その結果として原告が不利益を受 けたとの事実は認められないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は、審判請求書で指摘したように、本件拒絶査定においては相違点 の認定と評価に関して重大な誤りがあったとする。 しかし、原告の上記に係る「6.原査定における相違点の認定と評価に 関する誤り」(甲20の13頁以下)の主張は、もっぱら引用文献2に記 載された発明を主引用発明とした場合の進歩性の判断における相違点の認 定と評価についての主張であり、審決の理由付けは、引用文献1を主引用 例としたものであって、引用文献2を主引用例としたものではないから、 本件拒絶査定につき原告の主張するところは、審決の結論に影響を与える ものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、審決は、本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定では引用されなか った引用刊行物(甲5ないし7)を更に引用して、本件拒絶理由通知及び 本件拒絶査定と異なる理由によって新規性及び進歩性の判断を行ったと 主張する。 しかし、これらの引用刊行物(甲5ないし7)は、前記(2)のとおり、本 願補正発明の「加飾」について技術用語の意味を明らかにすることで、本 件出願時の当業者の技術常識によれば、引用発明の「成形品の製造方法」 が、本願補正発明の「凸部加飾加工方法」に該当すると理解することを示 す資料として提示された文献であって、審決は、本件拒絶理由通知及び本 件拒絶査定と異なる理由によって本願補正発明の新規性及び進歩性の判断 を行ったものではない。

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令和4(行ケ)10010 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年4月6日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとの審決がなされました。知財高裁も結論は同様です。なお、審判では基礎出願2に基づく優先権は認められていましたが、知財高裁はこれを否定しました。

6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について
(1) 優先権について
ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか 否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリ ソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソ\ーム蓄積症の患者のし かるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識 となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年9月においても、そ のような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、16、17、55、 56、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、リソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物 であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識 及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の薬学的組成物につい ても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという 点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0005】には、「髄腔内(IT)注射または脳脊髄 液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上 衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散 を妨げた」、「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する脳に\nおける適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考 えていた」との記載があり、【0009】には、「リソソ\ーム蓄積症のための補充酵 素が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導 入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。\nまた、甲17の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患に ついて髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題 がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙6(「Drug transport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透 は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数\n的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い\n薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて\nいた。その更に翌年である平成24年に発行された乙13(「CNS Penetration of Intrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implications for Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al. PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソ\ームタン パク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達 され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着するこ とを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CN S送達のための組成物として特定の組成物の組成等が開示された場合であっても、 当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難で あることが技術常識であったものと認められる。 このことは、甲17に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適して いる」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、この ような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例 えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのよう な組成物の能力を指す。」(前記5(5)ナ)として、「標的送達部位(例えば、CSF または脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能\n力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されてい ることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0085】には、「いくつかの実施形態では、本発明 による髄腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その\n結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内送達は、肝臓、心臓および腎臓の ような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・\nる。」との記載があり、標的組織への送達について、【0132】には、「本発明の意 外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充 酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳\nの種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、 本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注 射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば 腰部領域に治療薬(例えば、補充酵素)を効果的に送達する。さらに、本発明の方 法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例\nえば、補充酵素)を送達する。」との記載があり、【0133】においては、実施形 態により、「治療用タンパク質(例えば、補充酵素)」が、対象の「中枢神経系」に 送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織のうちの1つ以 上」に送達され、また、「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末 梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0134】以下で特に「脳標的 組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1ではI T投与が、実施例3ではICV投与及びIP(腹腔内)投与が、実施例5、実施例 10及び実施例13ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容 に照らしても、CNSへの酵素の送達においては、ICV投与とIT投与とは、そ れぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織への酵素の送達に関する実験やその 結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投 与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データと IT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22 年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲17に記載されて いた発明であると認められるためには、甲17に、本件発明1の組成物が実質的に 記載されていたものと認められるのみならず、甲17に、本件発明1の組成物によ る送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認 められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲17の記載を見るに、まず、「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))に は、本件発明1の組成物に含まれる組成物の記載があるといえるが、当該組成物が どのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、「発明 の詳細な説明」(同(5))を見ても、組成物の構成やその使用方法に関する一般的な\n記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体 的な記載はない。
(イ) 甲17の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリ ソソ\ーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載され ていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であ り、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がな い。
(ウ) 甲17の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しI T−脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、 酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を 奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。)。
(エ) 甲17の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして 調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0. 005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤\nが髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用 の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲17の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソ\ーム酵素の ニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソ\ーム酵素が認められた ことが示されているが、どのような組成物が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲17には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的な ものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送 達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の組成物による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲17には、本件発明1が記載されているものとは認められ ず、本件発明2〜8及び12についてこれと異なって解すべき事情も認められない から、本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。 基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とI T投与において、組成物はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、その ためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性 があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治 療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに 他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。 被告の主張は、甲16及び17の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしな がら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて
ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用 例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り 消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲61、62)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ甲5〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。)により容易想到である旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明ないし甲4発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明ないし甲4発明と本件発明の相違点について、 甲5及び7〜10を適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、 優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成\nについての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲 2発明ないし甲4発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想 到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの 判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とした上で、 前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の 主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用 例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高 濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟にお いて、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明ないし甲4発明と\nの間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明 (製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外 の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当 事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、 16、17、乙14、24。なお、訳文として甲6の2・3、乙36)及び弁論の 全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日 に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能\なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパ ク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び 2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と\n同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(C NS)病因を有する疾患の処置に係るリソソ\ーム酵素に関する補充酵素である酵素 を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容 は、かなりの部分甲16及び17と重なり合うものである。そのような甲6の性質 や、甲16及び17と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形では あるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮する と、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について 攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤) の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)については そもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビ ヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲 外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続にお いて審理判断されていた甲2発明ないし甲4発明との対比における無効原因の存否 の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによ って容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではな く、違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月1 0日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されない とする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由 があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由 がない。そこで、以下、甲2発明ないし甲4発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る取消事由5〜7について、検討する。

◆判決本文

当事者が同じ関連事件です。

◆令和4(行ケ)10022

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