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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

審判手続

平成31(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月11日  知的財産高等裁判所

 Googleが被告の審決取消訴訟です。知財高裁(3部)は、進歩性なしとした審決を取り消しました。なお、無効審判における利害関係も争点でした。請求人適格ありとの判断は審決と同じです。

 平成26年法律第36号による特許法の改正により,特許無効審判は「利害 関係人」のみが請求できるものとされ(123条2項),代わりに,「何人も」 申立てをすることができる(113条柱書)特許異議の申\\立制度が導入された ことにより,現在においては,特許無効審判を請求できるのは,特許を無効に することについて私的な利害関係を有するもののみに限定されたものと解さざ るを得ない。 しかしながら,特許権侵害を理由に民事責任や刑事責任を追及されるおそれ のある関係にある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を 有し,特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。
・・・
被告は,インターネット上のサービスの提供を行う会 社であって,原告と一定の競業関係にあるといえるから,過去又は将来の行為 を理由に,本件特許権侵害に係る民事上又は刑事上の責任を追及されるおそれ のある関係にある者に当たるということができる。更に言えば,被告は,原告 が提起した本件特許権の侵害を理由とする不当利得返還請求訴訟(別件特許権 侵害訴訟)において,グーグル合同会社と共同して被疑侵害品を開発した旨主 張されている(乙1)のであるから,原告から本件特許権の侵害を問題にされ るおそれがあることは明らかである。 以上によれば,本件審判の請求人(被告)は,本件特許権を無効にすること について利害関係を有するものと認められる。
・・・・
前記アのとおり,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」と は,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」\nを受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が, 同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定 の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能\\を有するもの と解される。 一方,前記イのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件発明1の 「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を果たすも\nのではないから,これに相当するものとはいえない。 そうすると,本件審決が,「ランク」を「少なくとも単独の受信者の識 別子」と呼ぶことは任意であるとして,両者が実質的に同一であることを 前提に,当業者が相違点1−3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得\nると判断したことは,その前提を誤るものといえる。 そして,演奏者から受け取った信号と伴奏とを組み合わせたパフォーマ ンスを,サーバにアクセスしている聴衆に同報通信する構成により,「ウ\nェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」を実現した引 用発明1において,「少なくとも単独の受信者の識別子」を,演奏者に入 力させる構成を採用する動機付けとなる記載は,甲1には見当たらず,ま\nた,かかる構成を採用することが,「ウェブ/チャット型サービスによる\nグループ対話式音楽演奏」における周知技術であるとも認められない。 したがって,相違点1−3に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に\n想到できたものであるとは認められない。
エ これに対し被告は,甲1には,ランクが高い演奏者が,参加する演奏グ ループを特定するために,どの演奏グループに参加するかの情報を HumSever に対して送信した後に演奏を開始することが,実質的に開示され ており,かかる情報は演奏グループを特定するものであって,演奏グルー プには少なくとも1人の聴衆が含まれるから,同情報は本件発明1の「少 なくとも単独の受信者の識別子」に相当するものであり,相違点1−3は 甲1に開示されている,あるいは,少なくとも実質的な相違点ではない旨 主張する。 しかしながら,前記ウのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件 発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を\n果たすものではなく,これに相当するものとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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平成30(行ケ)10178  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年10月24日  知的財産高等裁判所

 インターネット上のブログの証拠能力が争われました。アーカイブのウェイバックマシンに保存された資料の公知日の認定が争われました。公知日の認定に誤りなしとして、無効とした審決を維持しました。\n

 前記アの記載によれば,甲1は,2017年(平成29年)9月 1 日に インターネットで検索して表示された「ドラコレ旅日記 GREE のアプリ 「ドラゴンコレクション」を楽しむ管理人の日記」と題する「FC2ブロ グ」のコピーであること,同ブログは,広告欄の「スポンサーサイト」, ブログ本文の「11/25 更新情報」,「最新コメント」,「関連記事」等の 各項目で構成されていること,「11/25 更新情報」の項目の右横には「20 11.11.25 23:18 Cat:旅日記」(画像3)との表示があること,同項目欄\nに掲載された記事(本件更新情報)には,「「友情のきずな」キャンペー ンを開催中です。」,「期間:11/25(金)14:00〜11/29(火)14:00」と の記載があること(画像4)が認められる。 上記記載から,本件更新情報は,「11/25 更新情報」の項目の右横に表\n示された「2011.11.25 23:18」(2011年11月25日23時18分) に更新され,保存されたことが認められる。 したがって,本件更新情報は,本件出願前(出願日平成25年9月27 日)の平成23年(2011年)11月25日,電気通信回線を通じて公 衆に利用可能となったものと認められる。\nそうすると,本件決定が本件更新情報に基づいて認定した引用発明1は, 本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当す\nるものと認められる。
ウ 原告の主張について
原告は,(1)甲1の「スポンサーサイト」の項目欄の直下には,本件出願 後の平成29年(2017年)7月21日に制作発表されたゲーム「みん\nなでにゃんこ大戦争」(甲20)の画像が表示されているから,本件更新\n情報が公衆に利用可能となったのは,早くても同日である,(2)甲1におい ては,少なくとも,ゲーム「みんなでにゃんこ大戦争」の画像が表示され\nた部分,「最新コメント」の項目欄の各コメント部分,「関連記事」の項 目欄の「【バトルイベント】神獣の魂【予告】(2011/12/09)」及び「エ レボスの坑道結果報告(2011/12/06)」の部分は,平成23年11月25 日より後に書き換えられたものであるから,本件更新情報についても,同 日より後に書き換えられた可能性を否定できない旨主張する。\nしかしながら,上記(1)の点については,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄には,「みんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」の画像の下に「上\n記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。」,「新し\nい記事を書く事で広告が消せます。」と表示されていること,「FC2ブ\nログ」の仕様等を定めた「FC2ブログマニュアル」(甲10)には,「ロ グの有効期間」の項目に,「(1か月新規投稿がない場合は,記事部にス ポンサー広告が表示されます。)」との記載があること,平成30年5月\n2日及び平成31年3月13日に甲1の URL を検索した際,本件更新情報 の記載がある一方で,スポンサーサイトの項目欄に表示された画像は,「み\nんなでにゃんこ大戦争 新機能登場!」とは異なる画像が表\示されたこと (甲11ないし13,乙1)に照らすと,甲1の「スポンサーサイト」の 項目欄に表示される広告は,甲1の URL を検索した時点で1か月以上ブロ グの更新がされていない場合に,FC2ブログの運営者であるFC2が契 約しているスポンサー広告が表示されるものであって,ブログの記載内容,\n更新日時とは関係しないことが認められる。 また,上記(2)の点については,甲1を構成する「11/25 更新情報」の項 目欄とは異なる他の項目欄に掲載された情報が平成23年11月25日よ り後に更新された事実があるからといって本件更新情報が同日より後に書 き換えられた可能性があることを基礎付けることはできない。\nしたがって,原告の上記主張は理由がない。

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平成30(行ケ)10117  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月12日  知的財産高等裁判所(1部)

 拒絶審決が取り消されました。理由は、明確性、サポート要件違反ではないというものです。なお、第1回の拒絶理由通知に対してクレームを追加する補正をしたのに、そのクレームには新たな拒絶理由通知がなされなかった点も争いましたが、こちらは理由なしと判断されました。

 原告は,拒絶査定不服審判事件において,本件拒絶理由通知を受けたことか ら,新たに請求項19ないし47を追加する本件補正をしたところ,審判合議体が, 本件補正で追加した請求項について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決に おいて判断しなかったことが,特許法47条に実質的に違反する旨主張する。 しかし,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又 は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生す るという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるもので\nはない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許\n出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定 又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし, 他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは 予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の\n分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ) 第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。 そうすると,審判合議体は,拒絶査定不服審判において,一の請求項について拒 絶理由があると判断すれば,それのみで請求不成立審決をすることができ,その余 の補正で追加された請求項について判断しなくても,違法ではないというべきであ る。 なお,特許出願人は,請求項の数を増加する補正をする際には,手続補正書を提 出する際に手数料を納付しなければならない(特許法施行規則11条4項)。そし て,拒絶査定不服審判請求後において請求項の数を増加する補正の場合,手続補正 書の提出によって,審査の続審である審判手続が,その増加した請求項について潜 在的に係属するといえる。そうすると,その際に納付すべき手数料を,出願審査の 請求に当たり必要な手数料及び審判の請求に当たり必要な手数料とすることは,不 合理なものといえず,また,手数料の納付時期を,手続補正書の提出時点とする同 規則の規定は,立法政策の問題というべきである。 本件において,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件 及びサポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知(甲11)をし,本件 補正により補正された同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しな いとして,本件審決をしたものである。審判合議体が,本件補正で追加した請求項 について,新たに拒絶理由通知をせず,また本件審決について判断しなかったこと をもって,審判手続に違法があるということはできない。
(2) 原告は,審判合議体が本件拒絶査定における理由の一部についてしか判断し ていないこと,審判官が専門とする技術分野が本願発明の技術分野とは異なること などから,本件は実質的に審理されたものということはできず,審理不尽の違法が あると主張する。 しかし,審判合議体は,特許請求の範囲【請求項1】の記載は明確性要件及びサ ポート要件に適合しないなどとする本件拒絶理由通知をし,本件補正により補正さ れた同請求項の記載も,明確性要件及びサポート要件に適合しないとして,本件審 決をしたものである。審判合議体は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定に挙げ られた全ての理由について判断することが求められているものではない。また,本 件審決をした審判官につき除斥又は忌避事由があったことを窺わせる証拠はない。 その他,審判合議体が本件を実質的に審理しなかったことを認めるに足りる証拠も ない。 したがって,本件につき審理不尽の違法がある旨の原告の主張は採用できない。
・・・
以上によれば,特定事項Aは,「脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当 該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を 「指標」として使用する方法」と解釈するのが合理的であって,特定事項Aを,こ のように解釈することは,その余の特定事項の解釈とも整合するものということが できる。
キ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂 を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記 載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得る のか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質 含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別する ことはできない旨主張する。 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素 をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標と\nして」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成があ\nりふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確 であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第 三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明 の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断する ものである。そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素 をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願 発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。 したがって,被告の上記主張は採用できない。
・・・・
本件審決は,サポート要件について,「ω−6の増加が緩やかおよび/また はω−3の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」と の技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願 発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。 そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該 発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載 や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
(2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは, 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載 により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明 の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明 の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきも のである。 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課 題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆が なくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特 定事項EないしHのうち特定事項G「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との技術的 事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって, サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
(3) 加えて,以下のとおり,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の中 止が緩やかであり,かつω−6の用量が,40グラム以下であり」との特定事項G の技術的事項は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 すなわち,まず,本願明細書【0042】には,「長鎖ω−3脂肪酸または免疫 抑制性の植物性化学物質/栄養素の習慣的で多量の供給が宿主に対して突然行われ なくなるか,またはω−6脂肪酸が突然増加すると,全身性の炎症応答(毛細血管 漏出,発熱,頻脈,呼吸促迫),多臓器不全(消化器,肺,肝臓,腎臓,心臓)お よび関節の結合組織損傷を含む重篤な結果を伴うサイトカインストームの応答が生 じることがある。」と記載され,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3の 中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも,様々な疾患が生じ得るこ とが記載されている。このように,「ω−6の増加が緩やかおよび/またはω−3 の中止が緩やかであ」る投与方法に関する技術的事項は,本願明細書【0042】 に記載されている。
また,本願明細書には,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜30 歳及び31〜50歳の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以 下とすること(実施例3【表9】),多量のシーフード摂取者であって上記と同年\n齢の男性に投与する脂質組成物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実 施例3【表11】),及び,医学的適応として肥満を有する者に投与する脂質組成\n物のω−6脂肪酸の用量を40g以下とすること(実施例6【表13】)が,それ\nぞれ記載されている。このように,「ω−6の用量が,40グラム以下であ」る投 与方法に関する技術的事項は,本願明細書の実施例3【表9】【表\11】及び実施 例6【表13】のそれぞれ一部の対象に対するものとして記載されている。\nさらに,上記のとおり,本願明細書【0042】には,「ω−6の増加が緩やか および/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法を採らない場合だけでも, 様々な疾患が生じ得ることが記載されており,これは,「ω−6の増加が緩やかお よび/またはω−3の中止が緩やかであ」る投与方法が,特定の対象に限らず,一 般的に好ましい旨開示するものというべきである。そうすると, このような投与方 法と,実施例3【表9】【表\11】及び実施例6【表13】のそれぞれ一部に記載\nされた「ω−6の用量が,40グラム以下であ」るという投与方法を組み合わせた 投与方法,すなわち,例えば,菜食主義者又は特定の非菜食主義者であって19〜 30歳及び31〜50歳の男性に,40g以下の用量のω−6脂肪酸を投与し,そ の際,ω−6脂肪酸を緩やかに増加させ及び/又はω−3脂肪酸を穏やかに中止す るという,脂質含有組成物の投与方法に関する技術的事項は,本願明細書に記載さ れているということができる。
(4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤 りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断 枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由 がある。

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平成30(行ケ)10034  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月20日  知的財産高等裁判所

 サポート要件違反として無効とした審決が維持されました。また、「第2予告により,上記無効理由に関しては,実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。よって,新規性及び進歩性との関係では,第2予\告の後更に審決の予告をすべき場合には当たらない」として、審決の予\告も不要と判断しました。

2 取消事由1(手続違背)について
(1) 審判長は,特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合,審判の請求に 理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは,審決の予告を当事\n者等にしなければならない(特許法164条の2第1項)。上記「経済産業省令で 定めるとき」として,特許法施行規則50条の6の2が規定されている。同条3号 は,同条1号又は2号に掲げる審決の予告をした後であって事件が審決をするのに\n熟した場合にあっては,「当該審決の予告をしたときまでに当事者…が申\し立てた 理由又は特許法153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理 由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)に\nよって,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき」は,審決の予告をしなけ\nればならない旨規定する。 この規定によれば,先に行われた審決の予告までに当事者が申\し立てた理由のう ち,当該予告において判断が留保され又は有効と判断された理由につき特許を無効\nにすべきものと判断する場合のように,「当該理由により審判の請求を理由がある とする審決の予告をしていない」場合は,実質的に訂正の機会が与えられなかった\nものであり,再度の審決の予告をしなければならない。他方,そうでない場合,す\nなわち,先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にす\nべきものと判断する場合のように,実質的に訂正の機会が与えられていた場合は,審判長は,更に審決の予告をする必要はないものと解される。審決予\告の制度は, 特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求につき,それに 起因する特許庁と裁判所との間の事件の往復による審理の遅延ひいては審決の確定 の遅延を解消する一方で,特許無効審判の審判合議体が審決において示した特許の 有効性の判断を踏まえた訂正の機会を得られるという利点を確保するために,審決 取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止することと併せて設けられたものであると ころ,上記の解釈は,この制度趣旨にかなうものである。
(2)第1予告及び第2予\告の内容等
ア 第1予告\n
第1予告で示された認定判断のうち,サポート要件に係る部分は,以下のとおり\nである。
(ア) 本件特許に係る発明の課題
「補償膜において,広い視野範囲にわたり,例えば輝度の増大といった光学的性 質を改善すること」,及び「補償膜を構成する重合性液晶組成物を製造するにあた\nり,配向,及び重合に高温を要しないものとすること」である。
(イ) 判断
a 「補償膜において,広い視野範囲にわたり,例えば輝度の増大といった光学 的性質を改善する」という課題は,「ホメオトロピック配向または傾斜したホメオ トロピック配向を有する補償膜」とすることにより解決されるものである。
b 当時の請求項1記載の発明は,「補償膜において,広い視野範囲にわたり, 例えば輝度の増大といった光学的性質を改善する」という課題を解決するものであ る。 また,当該発明の発明特定事項は全文訂正明細書に記載されている。 したがって,当該発明は,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できる ことを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
c 当時の請求項4〜14記載の発明についても同様である。
d したがって,当時の請求項1,4〜14記載の発明は,発明の詳細な説明に 記載されたものではないとはいえない。
イ 第2予告\n
第1予告を受け,原告は,平成28年2月8日付け訂正請求を行った。第2予\告 は,これを受けて行われた。
(ア) サポート要件について
a 当時の請求項1,4〜14及び25〜32の解決しようとする課題
上記ア(ア)に同じ。
b 当該課題を解決するための手段
「重合性メソゲン物質の混合物の重合あるいは共重合によって得られる少なくと\nも1つのアニソトロピックポリマー層がホメオトロピックまたは傾斜したホメオト\nロピック分子配向を有する補償膜,および該補償膜を備えた液晶表示デバイスの提\n供」をするものである。
c 判断
(a) 当時の請求項1記載の発明の「式 I」の定義を満たすメソゲンの全てが\n「ホメオトロピック又は傾斜したホメオトロピック分子配向を有する補償膜」を好 適に作製できる範囲にあるとは認められない。 当該発明の「式 I」を満たすメソゲンの中には,置換基における炭素数が1つ違\nうだけでも,その液晶としての物性が大きく異なる場合が存在しており,メソゲン\nの分子量や立体構造や極性基の有無などによっても,その液晶としての物性が大き\nく異なることも当業者の技術常識であるから,当時の全文訂正明細書の例1A〜例 2において試験された化合物(1)〜(6)以外のメソゲンの全てが「ホメオトロピックま\nたは傾斜したホメオトロピック分子配向を有する補償膜」を好適に作製できる範囲 にあるとは認められない。
(b) 当時の請求項4〜14及び25〜32記載の発明についても同様である。
(c)したがって,当時の請求項1,4〜14及び25〜32記載の発明は,発明 の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ) 新規性及び進歩性について
a 引用発明の認定
第2予告において認定された甲1記載の発明(以下「甲1の2発明」,「甲1の\n3発明」という。)は,以下のとおりである。
(a) 甲1の2発明
偏光板と液晶セルの間に光学補償板として使用できる光学異方フィルムを配置す る液晶表示素子であって,前記光学異方フィルムは,下記の式(I)の化合物25 重量部,
下記の式(m)の化合物25重量部,
下記の式(a)の化合物50重量部
からなる重合性液晶組成物99重量部と光重合開始材1重量部から成る重合性液晶組成物を光重合させて得られた,ホモジニアス配向の光学異方フィルムである, 前記液晶表示素子(判決注:上記式(I),(m)及び(a)は,別紙2「引用発 明」記載1のものと同一である。)。
(b) 甲1の3発明
重合性液晶組成物を光重合させて得られた,光学補償板として使用することがで きるホメオトロピック配向の光学異方フィルムであって,下記の式(a)の化合物 50重量部, 及び下記の式(d)の化合物50重量部 からなる重合性液晶組成物100重量部と光重合開始剤1重量部からなる重合性 液晶組成物を,2枚のガラス基板の間に挟持させ,ホメオトロピック配向している ことを確認した後,紫外線を照射して光重合させて得られた,前記光学異方フィル ム(判決注:上記式(a)及び(d)は,別紙2「引用発明」記載2のものと同一 である。)。
b 当時の請求項14記載の発明について
当時の請求項14記載の発明は,甲1の2発明であるから,特許法29条1項3 号に該当する。
(ウ) 第2予告を受け,原告は,本件訂正請求を行った。\n
(3) サポート要件について
ア 本件審決と第2予告は,いずれもサポート要件につき,特許請求の範囲の記\n載は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件訂正発明の課題を解決できると 認識できる範囲のものであるとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当 業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるとも認められないとして,サポート要件に適合しないと判断したもので ある。
イ 本件訂正発明の解決しようとする課題
(ア) 本件審決が認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は,前記第2の 3(2)アのとおりである。また,第2予告が認定した本件訂正発明の解決しようとす\nる課題は,前記(2)イ(ア)aのとおりである。
(イ) 本件審決と第2予告がそれぞれ認定した本件訂正発明の解決しようとする課題は,表\現こそ異なるものの,実質的には同じ内容を意味するものと理解される。
ウ 以上によれば,サポート要件との関係では,サポート要件違反により審判の 請求を理由があるとする第2予告の後,原告には実質的に訂正の機会が与えられた\nものといえるから,更に審決の予告をすべき場合には当たらない。\n
(4) 新規性及び進歩性について
ア 本件審決及び第2予告において判断の対象とされた新規性・進歩性の判断に\n当たり対比される主引用例は,いずれも甲1(引用例)であり,同一である。
イ 引用発明の認定
(ア) 本件審決の認定した引用発明1A及び1Bは,前記第2の3(3)のとおりで ある。また,第2予告が認定した甲1の2発明及び甲1の3発明は,前記(2)イ(イ) aのとおりである。
(イ) 引用発明1Bと甲1の3発明とを対比すると,本件審決の認定と第2予告\nの認定は同一である。他方,引用発明1Aと甲1の2発明については,本件審決で は式(N−a)の化合物を含むのに対し,第2予告ではこれを含まない点その他の\n点で,液晶表示素子に係る混合物を構\成する重合性液晶組成物の一部が相違する。 しかし,甲1を主引用例として認定された引用発明に基づき,新規性又は進歩性 が欠如するとの無効理由により審判の請求を理由があるとする第2予告により,上\n記無効理由に関しては,実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。 よって,新規性及び進歩性との関係では,第2予告の後更に審決の予\告をすべき 場合には当たらない。
(5) まとめ
以上のとおり,本件審決は,第2予告をしたときまでに当事者が申\し立てた理由 で,当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしたものを判断の\n対象としたものであり,「当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予\n告をしていないとき」に該当しないから,第2予告の後更に審決の予\告をしなけれ ばならない場合には当たらない。 したがって,再度の審決の予告をしないまま審決をしたことにつき,本件審決に\n違法はない。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,本件審決が認定した本件訂正発明の課題は第2予告で認定されたも\nのと異なるなどと主張する。 しかし,本件訂正明細書においては,液晶表示デバイスの補償膜に係る従来技術\n及びそれが抱える欠点等につき前記1(1)ア(イ)のとおり説明し,これを受ける形で, 「本発明の課題の一つは」などとして,前記1(1)ア(ウ)のとおり,解決しようとす る課題及び本件訂正発明がこの課題を解決できる旨が記載されている。本件審決は, これを踏まえ,本件訂正発明の課題を認定したものと理解される。 他方,第2予告においても,これらと同旨の記載が当時の全文訂正明細書にある\nことを根拠に,発明の課題の認定が行われている。 このことと,第2予告の認定において,「補償膜において,・・・光学的性質を改善\nすること」と「補償膜を構成する・・・高温を要しないものとすること」とは「及び」\nにより接続されていることを踏まえると,本件審決と第2予告とがそれぞれ認定した発明の課題が異なるものということはできない。\nなお,原告は,課題の認定につき,第1予告では,第2予\告と同様の認定がされ ながらサポート要件を満たすものとして通知されていたために,それ以降サポート 要件についての議論はさほどされなかったなどといった経緯から,第2予告のサポ\nート要件違反の理由につき,本件審決において変化する理由は推測できないなどと 指摘する。
しかし,上記のとおり,本件審決と第2予告とで認定した発明の課題が異なると\nはいえない上,特許法施行規則50条の6の2第3号に基づく審決の予告と理解さ\nれる第2予告においてサポート要件違反とする理由が明確に示され,原告もこれに\n対する反論を現に行っていること(甲68−1)に鑑みると,第1予告の内容がど\nうであれ,第1予告から第2予\告,その後の本件審決へと至る経緯を考慮しても, 本件審決に先立ち,第3の審決の予告を行って原告に主張立証や訂正の機会を与え\nなければならないとはいえない。
イ 原告は,本件審決が第2予告で指摘していない式Iの例をサポート要件違反\nの根拠とし,また,審尋における質問に対する回答によって一旦解消した問題を不 意打ち的に蒸し返して判断したなどと主張する。 しかし,本件審決が括弧書で示した化合物は,実施例記載の具体的な化合物(1)〜 (6)以外のメソゲンが本件訂正発明の課題を解決しないことを説明するための例示に\nすぎず,その記載の有無が結論に影響を及ぼすものではない。その意味で,これら が第2予告において示されていなかったとしても,再度の審決の予\告を行い訂正の 機会を与える必要性を裏付けるものとはいえない。 また,原告主張に係る審尋における審判合議体の質問で例示された化合物に関し ては,「その「重合性基(P)」がアクリレート基であるとした場合に,その「P −Sp−」の選択肢として,例えば「CH2CHCOO−O−(CH2)m−」や 「CH2CHOO−OCOO−(CH2)m−」のような化学構造のものまでもが本\n件第2訂正発明1の範囲に含まれてしまいます。」とされている。他方,本件審決 で例示されたものは,「Pがプロペニルエーテル基又はエポキシ基であり,Spが −O−CH2−C≡CH2−O−であり,Xが−O−である場合のメソゲン物質」(本件訂正発明1)や「Pがプロペニルエーテル基であり,Spが−O−CH2−C≡C−CH2−O−CH2−O−COO−CH2−CO−S−であり,Xが−O−である場合のメソ\ゲン物質」(本件訂正発明4,5,7,8,10〜14,25〜34),「Pがプロペニルエーテル基であり,Spが−O−CH2−O−であり, Xが−O−である場合のメソゲン物質」(本件訂正発明6)であり,第2予\告で例 示された化合物と一致しない。そうである以上,上記「解決済み」との原告の主張 は,その前提を欠く。
ウ 原告は,本件訂正発明に係る好適なホメオトロピック配向の効果の有無を認 定することがないまま審決に至った点で,本件審決には審理不尽があるなどと主張する。
しかし,本件審決は,本件訂正発明のうち進歩性を欠くとしたものについては, いずれもその判断において,発明の効果につき「当業者が予測し得る範囲内のもの\nである。」旨の判断を示している。そうである以上,本件審決に至る審理において 本件訂正発明の効果に関する検討が行われていないとはいえない。
エ 原告は,第2予告における引用発明が本件審決において別の発明にすり替わ\nっており,その変更の理由も述べられていないことと併せ,本件審決には手続違背 があるなどと主張する。 しかし,本件審決における引用発明1Aと第2予告における甲1の2発明とで相\n違があるとしても,実質的に見て,第2予告により原告には訂正の機会が与えられ\nたものといえることは,前記のとおりである。
オ 原告は,本件訂正発明14につき,第2予告では新規性欠如との理由が示さ\nれていたのに対し,本件審決では新規性及び進歩性欠如の理由が示されており,無 効理由が実質上も形式上も一致していないなどと主張する。 しかし,第2予告においても,その当時の訂正発明14につき新規性欠如及び進\n歩性欠如がいずれも無効理由として主張され,判断の対象とされていた(甲66)。 このこと及び第2予告後に請求項14の訂正を含む本件訂正請求が行われたことに\n鑑みると,審判合議体が審決に当たり新規性についてのみならず進歩性についても 判断を示す必要があると考えたとしても,再度更に審決の予告をして原告に訂正の\n機会を与える必要があるとはいえない。
・・・・
3 取消事由2(サポート要件違反の判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲 の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもので ある。そして,サポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うものと解される。
・・・・
ア 前記のとおり,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには, 明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において 認識できるように記載しなければならない。そして,本件訂正発明におけるメソゲ\nン化合物a,a1,a2を定義する式 I ないし I’は,請求項によってその具体的 内容を多少異にするものの,いずれも当該式を構成する重合性基P,スペーサー基\nSp,結合基X,メソゲン基MG,末端基Rといった基本骨格部分において非常に\n多くの化合物を含む表現である上,これらに結合する置換基の選択肢も考慮すれば,\nその組合せによって膨大な数の化合物を表現し得るものとなっている。\nこのような場合に,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合する ためには,発明の詳細な説明は,上記式が示す範囲と得られる効果との関係の技術 的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該式が示す範囲内で あれば,所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示 して記載することを要するものと解するのが相当である。換言すれば,発明の詳細 な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開 示せず,特許出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載され た発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる とはいえない場合,サポート要件に適合するとはいえない。
イ 前記のとおり,本件訂正発明におけるメソゲン化合物a,a1,a2を定義\nする式 I ないしI’は,その組合せによって膨大な数の化合物を表現し得るものと\nなっている。 他方,本件訂正発明の実施例である例1A〜例3においてメソゲン化合物として\n用いられている化合物(1)〜(8)は,いずれも式 I において,重合性基Pがアクリレー ト基(CH2=CHCOO−),Sp(スペーサー基)が炭素数3又は6個の直鎖 状アルキレン基,Xが−O−,nが1という,化学構造が類似するごく限られた化\n合物に限られる。 例えば,重合性基Pがメタクリレート基であるモノマーを含むと安定な配向を得 にくくなる場合が生じてくることが知られている(乙4)。また,例えばスペーサ ー基Spを構成する(その一部の置換えも含む。)アルキレン基として炭素数が1\nの場合と20の場合とでは化合物の特性が大きく異なることが予測されることなど配合するメソ\ゲン化合物の化学構造がその配向性や配向膜の特性に影響することは,\n現に引用例において様々な構造の化合物につき検討されていることからもうかがわ\nれるように,本件優先日当時における当業者の認識であったと考えられる。そうす ると,本件訂正明細書の発明の詳細な説明における他の記載を参酌しても,補償膜 の調製に用いる混合物につき,上記具体例として示された化合物とは構造が異なる\n化合物を成分とする混合物に係る本件訂正発明の範囲にまで拡張ないし一般化した 場合,すなわち本件訂正発明に係る式 I で表される広範な重合性メソ\ゲン化合物の いずれかを含む混合物とした場合に,これによって,前記認定に係る本件訂正発明 の課題を解決するような補償膜として好適なフィルムが得られるとはいえない。 したがって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容からは, 本件特許の特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発 明であり,本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。そのように認識できる範囲のものというべき本件特許出願時の技術常識 を認めるに足りる証拠もない。
ウ 本件訂正発明の解決しようとする課題のうち,「高融点を示し配向および重 合に高温を要するという欠点を有していない」点について,本件訂正明細書の発明 の詳細な説明には,「低融点,好ましくは100℃またはそれ以下,特に60℃ま たはそれ以下の融点を有する重合性混合物を使用すると好ましく,これにより低温 で混合物の液晶相において硬化を行うことができる。…60℃以下の硬化温度は特 に好ましい。」との記載がある。加えて,実施例(例1A)には,基板に塗布し, 50℃で溶剤を蒸発させることによってホメオトロピック配向膜を得られることが 示されている。もっとも,「高温を要するという欠点」を回避し得る融点を具体的 に特定する記載はない。
他方,本件訂正明細書で液晶の配向に高温を要する例として掲げたJP05−1 42531(乙1)の【化2】で表される化合物について,引用例には,「108〜211℃という非常に高い温度範囲でネマチック相を示し,実際にこの化合物を\n含有する重合性組成物を液晶状態で重合して作製した光学異方フィルム(カラー偏 光板)は外観も不均一であり,むらが生じる欠点があった。」と記載されている。 また,本件訂正明細書で同様に「高融点を有し,従って配向および重合に高温を要」 するものとして例示された Heynderickx, Broer 等の刊行物(乙2)に記載されて いる‘Scheme 1’の化合物については,引用例にも,「一般式(R−2)において, R5がメチル基の化合物80重量部及びR5が水素原子の化合物20重量部から成 る液晶組成物は,80〜121℃と室温よりかなり高い温度範囲でネマチック層を 示し,また予期しない熱重合に起因してこのような重合性液晶組成物を用いて作製される光学異方フィルムのメソ\ゲンの配向が不均一となるという欠点があった。」 と記載されている。ところが,これらの化合物はいずれも,本件訂正発明に係る式 I で定義される広範な化合物に含まれるのであって,本件訂正明細書の内部でいわ ば記載内容に矛盾を生じている。
そうすると,本件訂正発明に係る式 I で定義されるメソゲン化合物を含む混合物\nは,その全てが本件訂正発明の課題を解決し得る「高融点を示し配向および重合に 高温を要するという欠点を有していない」ものとはいえない。その点からも,本件 訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容からは,本件特許の特許請求 の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であり,本件訂正 発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえず,また,その ように認識できる範囲のものというべき本件特許出願時の技術常識を認めるに足り る証拠もない。

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平成30(行ケ)10099  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月6日  知的財産高等裁判所

 一次判決の拘束力について「新証拠に基づく判断は拘束されない」と争いましたが、知財高裁は、新たな証拠による新たな主張をするこは、取消判決の拘束力に反するとして、これを認めませんでした。争点は、発明者は誰か?という点です。一次判決では請求項1,3の発明者は、本件被告であると判断されていました。一次判決と本件で原告被告が入れ替わってますのでややこしいです。
 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確 定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい て更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法 の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ り,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出 されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取 消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがっ て,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ 判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り 返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべ きではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。 このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文の よって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従って された再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定 した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決 の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
2 これを本件についてみると,上記第2,1(3)及び(4)並びに2において認定 したとおり,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告で あると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及 び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は, 一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告 であると認めることはできないものと判断した。 したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次 審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は, 当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないという べきである。
3 原告の主張について
(1) 原告は,平成4年最高裁判決は,「拘束力は,判決主文が導き出されるの に必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているから,一次判決の 拘束力が及ぶのは,一次判決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消 すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事 実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事 実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないところ,新たな証拠によれば本件 発明1及び3の発明者は原告であると認定されるべきであるから,これに反 する本件審決の判断は誤りであると主張する。 しかし,平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要 な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者として は,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがっ て,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに 基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって 許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度 の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には 裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違 法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。 そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象と なっていた冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123 条1項6号),すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものである にもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し, 本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次 判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の 主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次 判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が 許されないことは明らかである。
(2)ア もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定 の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消さ れるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する 余地がある。 そして,原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述 (一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者 尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に 該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立 証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由 がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみ ても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
イ すなわち,一次判決は,本件各発明の発明者を認定判断するに当たり, 被告が主張した,1)平成22年10月5日までに,燃焼室クリーナーの流 量調整等の問題を解決するために,ノズル管を加熱・冷却してその管内に ゲート構造を形成するとの着想を得て,これを具体化した甲33に係るノズル(一次判決における甲26ノズル)を製作しその噴出量のテストを行\nった,2)その後,同月28日ころには,本件各発明を完成させ,同年11 月3日ころには,本件各発明を実施することに用いるゲート構造を備えたノズルを製作するための機器を完成させた,との各事実につき,一次審決\nに係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問の録音 反訳書(甲48。一次判決における甲37)を,その認定の基礎としてい ることが認められる(甲8・29頁)。
この点に関し,原告は,被告との打合せの際,「…誰もやってない時に プライヤーで潰して針金入れたやつ見せたじゃないですか。」との原告の 発言に対し,被告が「…プライヤーで潰した針金?」,「…あれが,これ と何が違うんですか。」,「…あれ持って行った時にはすでに僕は…」と 発言したこと(甲60・40頁)を根拠として,被告は原告が甲33に係るノズルを作製したことを認めていたのであるから,上記の審判手続にお ける被告の陳述は虚偽であると主張する。しかし,被告は,上記のやりと りの直後に「あれ持って行った時にはすでに僕はもうつくってあったじゃ ないですか。」と発言している上に,原告がその発言中で指摘する対象物 を示した時期などを特定するに足りる事情も見当たらないことからすると, 原告が指摘するやりとりをもって,被告が甲33に係るノズルの作製者は 原告であると認めていたと断ずることはできない。
また,原告は,Aとの打合せの際,「そのゲートのそれをやるという, アイディア。そしてあと,熱で刺した,ここに差したのを,熱でやるとい うアイディア。全部,私じゃん」との原告の発言に対し,Aは「ええ。」と発言したこと(甲61の2・2頁)を根拠として,Aは原告が本件各発 明を着想したことを認めていたと主張する。確かに,前後の文脈を踏まえ ると,原告の当該発言部分はノズルのゲートに関する事柄であることがう かがわれる。しかし,当該発言部分で触れられている技術的事項は,それ 自体抽象的である上に,本件各発明が備える構成のごく一部にすぎないから,上記のやりとりから直ちに,Aにおいて,原告が本件各発明の着想者\nであることを認めたとまで認定することは困難である。このほか原告が指摘する種々の証拠を考慮しても,上記の審判手続における被告の陳述が虚偽であると断ずることはできない。
ウ 次に,原告は,一次判決が事実認定の基礎としたA及び被告の陳述書(甲 76,77。一次判決における甲62,63)について論難するが,いず れも私文書である当該各陳述書に記載された内容が虚偽であると主張する にとどまるものであって,これらが偽造又は変造されたものであることを 認めるに足りる証拠はない。 また,原告は,甲55が黒塗りされていたことを指摘して,被告及びA が提出した書類について虚偽報告や変造が常態となっていたとも主張する が,一次判決において判断の基礎とされた証拠が偽造又は変造されたもの であることを具体的に指摘するものであるとはいい難い(そもそも,甲5 5は一次判決において判断の基礎とされたものではない。)。
(3) さらに,原告は,一部の証拠について,一次判決に係る訴訟手続において 提出できなかった事情など,種々の主張をするが,いずれも上記1及び2の判断を左右するに足りないというべきである。

◆判決本文

一次判決はこちらです。

◆平成27(行ケ)10230

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平成30(行ケ)10138  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成31年2月6日  知的財産高等裁判所

 オーガスタ ナショナルインコーポレイテッドが、商標「コナミスポーツクラブマスターズ」に対して、4条1項15号違反を主張した事件ですが、知財高裁は、無効理由なしと判断した審決を維持しました。経緯がややこしいです。第1次取消訴訟では、無効理由なしとした審決について、「職権証拠調べをしたにも関わらず意見陳述の機会を与えなかった」として取り消されています。
 再開された審判手続において,原告はその請求に係る役務を,”ゴルフ用ビデオの制作等”と一部を取り下げました。これは、商標法においても指定商品役務毎に無効主張ができますが、15号違反の場合、包括概念の一部についてのみ無効理由がある場合があるから、このような無効対象役務を特定する必要があるのでしょうね。
 本件商標は,「コナミスポーツクラブマスターズ」の片仮名15文字を標準文字で表して成る文字商標であって,外観的には,同一の大きさ・書体の文字により,全体が等間隔で一行にまとまりよく配置されており,一連一体のものとして構\成されていることが明らかである。そして,前記のとおり,我が国においては,「コナミスポーツクラブ」は 被告子会社が運営するスポーツクラブの名称として周知であるということが できる一方で,「マスターズ」は原告主催のゴルフ・トーナメントの略称の みならず,熟練者ないし中高年を含む一定年齢以上の年齢層を対象とした各 種スポーツ競技ないし競技大会をも指す語として,スポーツ愛好者等の間に 広く知られており,現にゴルフはもちろん,ゴルフ以外の競技においても, 大会名において「マスターズ」の語が広く使用されている事実が認められる ことからすると,本件商標を目にした者が直ちに「マスターズ」の部分のみ に着目して原告主催のゴルフ・トーナメントを連想するということはできず, むしろ,語頭の「コナミスポーツクラブ」の部分に着目して「コナミスポー ツクラブが関連する何らかのマスターズ競技ないしその競技大会」と理解す ると考える方が合理的である。したがって,外観(文字構成),称呼及び観\n念に照らしても,本件商標と引用商標の類似性の程度はそれほど高いとはい えない。
また,「マスターズ・トーナメント」という大会それ自体は世界的に周知・ 著名なゴルフ競技会であるとしても,元々「masters」が「名人,達 人」を意味する「master」の複数形にすぎず,原告の造語でないこと は原告自身も認めているところであるし,ゴルフというスポーツの技を競い 合う競技会の名称に,技術に長けた人を表す「名人,達人」の語を用いるこ\nとは,語義に忠実な用法であって,特に奇抜性があるとか斬新であるという こともできないから,当該表示や当該表\示を選択したことについて独創性が あるともいえない。
さらに,商品・役務間の関連性や取引者・需要者の共通性という点につい ても,本件商標の指定役務のうち無効請求役務は,いずれもゴルフに関連す る役務であるから,その限りにおいて,原告の役務との間で関連性や需要者の共通性が認められるというべきであるが,他方で,原告はその主催する「マ スターズ・トーナメント」がよく知られているという以外には,特に日本国 内でゴルフ競技会を開催しておらず,また,日本国内でゴルフ関連事業(商 品の販売や役務の提供)がよく知られているとも認められない。すなわち, 原告提出の証拠(甲56〜76など)によれば,原告は,一応,日本国内に おいても,ライセンス等により引用商標を表示したゴルフ用品の販売を行っ\nていることや,「マスターズ・トーナメント」の開催時期に合わせてグッズ や関連商品の販売を行っていることが認められるが,その売上高や広告宣伝 等(事業規模)の詳細は不明であって,この程度の立証では,引用商標が「マ スターズ・トーナメント」以外に原告の提供する商品それ自体の出所識別を 表示するものとしても我が国で周知著名であると認めるには足りない。\n以上のことからすると,本件において,役務の関連性や需要者の共通性は それほど重視すべき事情であるとはいえない。また,原告は経営多角化の可 能性についても言及するが,何ら具体性のある主張立証はなされておらず,\nこの点についても特にみるべき事情があるとはいえない。
(3) 以上によれば,引用商標が原告主催のゴルフ・トーナメントの略称として も周知著名であることや,引用商標と本件商標との間に「ゴルフ」という共 通項があることを踏まえても,本件商標を指定役務(無効請求役務)に使用 したとき,当該役務が,原告の業務に係る役務であるとか,原告との間にい わゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商\n品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務である(4) 原告の主張について 原告は,本件商標について法4条1項15号該当性を認めなかった本件審 決の認定判断は誤っているとして種々主張するが,その主張は要するに,「マ スターズ」の語に原告主催の「マスターズ・トーナメント」以外の意味が認 められないことや,「コナミスポーツクラブ」の周知性が認められないこと を前提とするものであって,その前提自体が採用できないものであることは, 既に説示したとおりである。 また,原告は,本件審決が本件商標と引用商標の類似性の程度が低いと認 定した点や,「マスターズ」及び「Masters」の独創性が高いとはい えないと認定した点についても誤りであると主張するが,その主張が採用で きないことも既に説示したとおりである。

◆判決本文

第1次取消訴訟はこちらです。

◆平成28(行ケ)10083
関連事件(対象が第5712040号)です。

◆平成30(行ケ)10154

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