熱可塑性樹脂組成物について、構成要件1B「・・・分子量700以上・・」について、第1要件充足せずとして、均等侵害が否定されました。
ア 本件各発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物と、当該
組成物からなる樹脂成形品ならびに樹脂成形品の具体的な一例である偏光
子保護フィルム、樹脂成形品の製造方法に関する発明である(【0001】)。
アクリル樹脂の透明度の低下を防止するためにUVAを添加する方法が
公知であったが、成形時の発泡やUVAのブリードアウト、UVAの蒸散に
よる紫外線吸収能の低下との問題につき、従来技術として、アクリル樹脂に\n組み合わせるUVAとして、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化
合物およびベンゾフェノン系化合物が用いられていた(【0003】、【00
05】、【0006】)。しかし、これらの従来技術として例示されたアクリル
樹脂(【0006】記載の特許文献)には、いずれも分子量が700以上のU
VAは開示されていなかった。
イ 本件各発明は、従来技術の化合物には、主鎖に環構造を有するアクリル樹\n脂との相溶性に課題があり、高温成形時の発泡やブリードアウトの発生の抑
制が不十分であったことから、これらの課題を克服するため(【0007】、\n【0008】)、樹脂組成物を構成要件1B記載の構\成とし、その製造方法を
構成要件6B記載の構\成とし(【0009】、【0010】)、これにより11
0゜C)以上という高いTgに基づく優れた耐熱性や高温成形時における発泡
及びブリードアウトの抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少との効果を
奏することとなった(【0015】)。
ウ したがって、本件各発明の本質的部分は、ヒドロキシフェニルトリアジン
骨格を有する、分子量が700以上のUVAが、主鎖に環構造を有する熱可\n塑性アクリル樹脂と相溶性を有することを見出したことにより、110゜C)以
上という高い優れた耐熱性や高温成形時における発泡及びブリードアウト
の抑制、UVAの蒸散による問題発生の減少という効果を有する樹脂組成物
を提供することを可能にした点にあると認められる。\n
エ 数値をもって技術的範囲を限定し(数値限定発明)、その数値に設定する
ことに意義がある発明は、その数値の範囲内の技術に限定することで、その
発明に対して特許が付与されたと考えられるから、特段の事情のない限り、
その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解す
べきである。
上記検討によれば、分子量を「700以上」とすることには技術的意義が
あるといえるうえ、本件において、上記特段の事情は何らうかがえない。
オ そうすると、被告UVAの分子量が「700以上」ではないとの相違点は、
本件各発明の本質的部分に係る差異であるというべきであるから、被告製品
及び被告方法について、均等の第1要件が成立すると認めることはできず、
均等侵害は成立しない。
カ 原告は、本件各発明におけるUVAの分子量である「700」に厳格な技
術的意義はなく、本件各発明の本質的部分は、分子量が十分に大きいという\n上位概念であると主張する。
しかし、このような上位概念化は、前述の数値限定発明の技術的意義に関
する考え方と相容れず権利範囲を不当に拡大するものである。また、本件証
拠上、本件各発明におけるUVAの分子量が十分に大きいということが当業\n者にとって自明であるとも認められないし、分子量が十分に大きいことと、\n被告UVAの分子量との比較における本件各発明の数値の臨界的意義との
関係は何ら明らかにされていない。
◆判決本文
ゴルフシャフトの数値限定発明(バラメータ)について、サポート要件違反とした審決が維持されました。
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体
にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計
重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に
関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、
シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置
するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦
0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファー
やスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)
を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフ
トは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損して
しまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得
られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における
各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。\nしかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5
との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であるこ
とを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重
量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切
に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバ\nイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点につ
いては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本
件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小
さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日
当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイア
ス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他
の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0°
の構成(構\成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイア
ス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件
出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1
を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート
層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかに
ついて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス
層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課
題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、
構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計\n重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当
時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるという
ことはできない。
◆判決本文