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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

裁判手続

令和4(ネ)10070  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明についての特許権侵害事件です。1審の東京地裁40部は、無効理由ありとして、権利行使不能と判断しました。控訴人は、請求項17に基づく侵害主張、および訂正の再抗弁を追加しました。知財高裁は、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして判断自体はおこないましたが、最終的には無効として、控訴棄却しました。

事案に鑑み、争点7(乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の当否)について、まず判断する。
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)イ のとおり、乙22文献を主引用例とする進歩性欠如の無効の抗弁に対する訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求めるが、この防御方法の提出が訴訟の完結を遅延させるものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討する。
(2) 無効理由の解消の有無等について
事案に鑑み、仮に、本件訂正が適法であり、本件訂正により本件訂正発明と乙22発明との間に当事者の主張に係る相違点が全て生じるとした場合、乙22発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるかをまず検討する。
ア 本件訂正発明1
相違点22−6ないし相違点22−8の容易想到性
相違点22−6ないし相違点22−8は、前記第2の4(1)イ aのと おり、本件訂正発明1において、1)閲覧者がWebブラウザに対して閲 覧指示を行った段階においては、Webブラウザは閲覧指示に対応する HTMLをサーバに要求するだけであること(相違点22−6)、2)サー バはWebブラウザからの要求に従い、画像表示に必要な演算を実行す\nる、HTMLに記述されたJavaScriptをWebブラウザに送信すること (相違点22−7)、3)WebブラウザがHTMLに記述されたJavaScr iptを受信する前に表示領域内に表\示する分割画像を特定する演算を行 わないこと(相違点22−8)というものであるのに対し、乙22発明 は、地図データの要求をサーバに送信するまでの間に、ディスプレイに 表示する地図データ(メッシュ地図)を特定する演算を行っているとい\nうものである。 Webブラウザを用いた表示では、閲覧者がWebブラウザに対して\n閲覧指示を行うと、Webブラウザが閲覧指示に対応するHTMLをサ ーバに要求し、サーバが要求に対応するHTMLをWebブラウザに送 信し、Webブラウザが受信したHTMLに基づいて表示を行うという\n表示ステップを経るというようなプログラム上の取決めがあることは顕\n著な事実であるところ、このようなHTMLを用いるWebブラウザの 処理におけるプログラム上の取決めがある以上、閲覧者がWebブラウ ザに対して閲覧指示を行った段階では、Webブラウザは閲覧指示に対 応するHTMLをサーバに要求するだけであり、WebブラウザがHT MLを受信する前の段階では、Webブラウザによって当該HTMLに 基づくいかなる処理も実行されることがないことは、上記取決めから生 じる当然の帰結にすぎない。 そして、JavaScriptは、HTMLに直接記述されるか、あるいはHT MLによって読み出される外部ファイルに記述されるかのいずれでもよ いものであることは、本件特許出願時の技術常識と認められるから(甲 46、48、49)、当業者は適宜それを使い分ければよく、Webブラ ウザにおいてJavaScriptを用いたときにJavaScriptがHTMLに直接記述されることは当業者の自然な選択の一つにすぎず、その選択をした場 合、WebブラウザがHTMLを受信する前に当該HTMLに直接記述 されたJavaScriptを実行しないことはいうまでもない。 そうすると、Webブラウザを採用して動的表示をJavaScriptを用い\nて実行しようとするならば、当業者が適宜になす自然な選択の結果、ほ ぼ必然的に相違点22−6ないし相違点22−8に係る本件訂正発明1 の構成をとることになるのであって、当該構\成についてとりたてて創意 を発揮する余地はない。そうであるところ、前記2(1)のとおり、本件特 許出願当時において、Webクライアントによる動的表示を行う処理を\nWebブラウザでJavaScriptを用いて行うことは周知慣用技術であり、 そして、この周知慣用技術を適用すればそれに起因して相違点22−6 ないし22−8の本件訂正発明1の構成となるというのであれば、上記\n相違点に係る本件訂正発明1の構成は容易に想到し得るものというほか\nない。
・・・
時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて\n
被控訴人は、前記第2の4(2)ア のとおり、被告地図表示方法の本件\n発明17の充足性に関する主張は、時機に後れた攻撃防御方法であると してその却下を求めるが、この攻撃方法の提出が訴訟の完結を遅延させ るものとまでは認められないから、却下することはせずに、以下、検討 する。
相違点22−17−1の容易想到性について
a 本件訂正発明17は、本件訂正発明1について、1)同じ内容の画像 データを2)複数の倍率で有すること、3)各倍率の画像を構成する分割\n画像の画素数は表示倍率に関わらず一定であること、4)分割画像の分 割数は倍率が低い画像ほど少なく、倍率が高い画像ほど多いこととの 限定を付したものであるところ、乙22発明は、上記のような構成を\n有するとは特定されていない。
b 乙10文献には別紙9のとおりの記載がある。これによると、乙10技術として、次のような技術が記載されているものと認められる。 クライアントから要求される画像の指定、表示範囲の指定の変化に\n関わらず、高速かつ一定時間内に高精細画像を表示するためのデータ\n構造を備える高精細画像表\示装置を提供することを目的とするもので あって(【0006】)、 サーバに格納される画像データのデータ構造が、複数段階の解像度\nの画像を有するものであり(【0024】ないし【0026】、【図2】)、 それぞれ解像度の画像はそれぞれpピクセル×pピクセルのブロッ クに分割されて保持され、個々のブロックを単位としてアクセスされ るものであって、個々のブロックを構成する画素数は解像度に関わら\nず同じであり(【0028】、【0029】、【図3】)、 ブロックの分割数は解像度が少ない画像ほど少なく、解像度が高い 画像ほぼ多い状態であり(【図3】)、 クライアント側の表示装置において表\示される表示枠に関連する各\nブロックの画像データを、サーバからクライアントに伝送して表示す\nる技術(【0031】、【0032】)。
c 本件訂正発明1が乙22発明により容易に想到できるものであるこ とは、前記アにおいて判示したとおりであるところ、乙10技術は、 相違点22−17−1の構成に係る分割画像の格納形態を開示するも\nのであり、本件訂正発明17と乙10技術は、分野を同一とするもの であって表示領域より大きい画像データを領域分割し、表\示装置に対 応する分割画像を送信して表示することにより表\示を高速化するとい う機能も共通するものであるから、乙22発明の分割画像の格納形態\nとして、乙10文献記載の分割画像の格納形態を採用して、相違点2 2−17−1に係る本件訂正発明17の構成とすることは容易に想到\nできる。
控訴人らの主張について
控訴人らは、前記第2の4(1)イ e(g)のとおり、乙10技術は、個々 の分割画像(ブロック)を送信しているわけでもないし、同じ画像を複 数の倍率でかつ倍率ごとにそれぞれ複数の領域で分割してサーバから送 信しているわけではないから、乙22発明に乙10技術を適用して本件 訂正発明17の構成とすることは容易に想到できない旨主張するが、乙\n10技術の分割画像の送信手法と分割画像の格納形態とは、特に必須に 結合しているわけではなく、それぞれ独立した技術事項であるから、乙 10技術の送信手法までを乙22発明に適用する必要はなく、乙10の 分割画像の格納形態のみを採用することに阻害要因も見当たらない。 したがって、上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和1(ワ)21901

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令和3(ワ)10032    特許権  民事訴訟 令和5年6月15日  大阪地方裁判所

 特許権侵害訴訟にて、均等の第2、4要件を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。また原告の請求項2にかかる発明についての侵害主張については、時期に後れた主張であるので却下されました。

そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該\n一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき は、均等侵害が成立し得るものと解される。 これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用\nすることは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、 構成要件の一部を他の構\成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区\n別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨\n主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発 明の本質的な構成部分は構\成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、 構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は 満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で 接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の 「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲 13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製\n品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構\造である場 合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試 験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、\n非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい\nうものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の 「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証 拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設 けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続 時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原 告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、 原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構\n成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件 が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。 被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発\n明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張\nする。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特\n許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
・・・・
(イ) 乙1発明の構成\n
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争\nいがなく(別紙「均等侵害の成否等」の「第4要件」欄)、乙1公報の段落【0008】 【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び γの構成を有するものと認められる。\nまた、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる\nことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され 本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は 第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される 旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で 構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属\n電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。 以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構\成」欄 記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成\n
被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな\nく、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁\n判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。\n
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。\nそこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。 「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ (広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5 と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22\nにおいて挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線 5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ うに形成されてもいない。 したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製 品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告 製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ\nり、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。\n
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流 ヒューズに関するものである。」
・・・・
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1 の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面 が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断 部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」\n(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3 として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して いた。」(【0004】) 「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装 型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの 内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この 外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に\nよって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという 作用効果が得られるものである。」(【0007】) 「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極 とを一体の金属で構成したもので、この構\成によれば、ヒューズエレメント部と 外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、 このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部 電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一 部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調 整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態 1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で 構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お\nよび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】) 「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の\n金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す\nる必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が 得られるものである。」(【0036】) 【図4】 【図5】
b 容易推考性
(a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を 配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって 溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同\n【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体 の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と\nを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を 奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13 がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記 載されている(同【0035】【図4】【図5】)。 以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の\n向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の 金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流\nヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー\nズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断\n性能がおろそかにされている問題(同【0002】〜【0004】)や、電極をケース内 に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必 要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低 コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1 発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端 に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤 を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間 に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す\nることを可能としたこと(同【0028】〜【0030】)に加え、連続工程で製作組立 を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部 21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易 になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同\n【0020】【0027】)。 そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発\n明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも 生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後\nに本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶 断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して いるといえる。 したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
(b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発 明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空 間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること\nはその構成上不可能\であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発 明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。 しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削 は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ\nメント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙 3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一 体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部 の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙 3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は ない。 したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害 する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成\nされる構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外\n部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構\成とすることは、 当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均 等の第4要件を満たさない。
・・・
2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発 明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく 各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当 であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、 同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の\n協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範 囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その 後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上 の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付 けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。 このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技 術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を 終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本 件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成\n要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追 加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。

◆判決本文

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平成29(ネ)10043  特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件  特許権  民事訴訟 平成30年1月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

かなり前の事件ですが、漏れていたのでアップします。コンピュータ関連発明について、被告製品には構成要件C「格納手段」がないとして、非侵害と判断されました。間接侵害も否定されました。
問題の請求項は以下です。
A ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,
B 該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,
C 双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,
D 該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,
E 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,
F 該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,
・・・
J 該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,
K 該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と
L を備えた,システム。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ\nル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば, 充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素\nとして規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから, 被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被 告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,\n
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。 すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動 作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ\nレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納 デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・「を備えた,システム」(構\成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに 番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。\nそして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】) として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を 独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可 能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ\nカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に 結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その 上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度 な機能が不可能\になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的 を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高\n度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件\n発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能\をユーザに 提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ\nル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。\nこれに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件 発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,\n控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵 されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は, 「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ\nーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ\nットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」 に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ\nビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ\nイス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機 器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な\n光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00 80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,\n本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との\n記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー\nドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり 得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログまたはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり\n得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバイス(例えば,記録可能\なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格\n納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49において用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバイス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載 によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格 納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,\nDVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘 の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2) 控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は, 単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする\nと,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能\nであった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム\nがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許\n法101条2号所定の間接侵害に当たらない。これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な\n主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主 張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。

◆判決本文

原審はこちら

◆平成28(ワ)37954

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令和5(ネ)10009  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審は「本件発明の技術的範囲に属さない」と判断しましたが、知財高裁は、そもそも別事件(東京地判令和2年(ワ)第15464号)と重複するとして、訴えを却下しました。

1 本件訴えの適法性(本案前の抗弁)について
(1) 後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合に は、後訴の請求又は後訴における主張は、信義則に照らして許されないものと解す るのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小 法廷判決・民集30巻8号799頁、最高裁昭49年(オ)第163号、164号 同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事120号299頁参照)。
(2) 令和2年事件について(乙1、2)
ア 令和2年事件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV39、SHV40、 SHV41、SHV42及びSHV43。以下併せて「前訴被告製品」という。) の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売が、本件特許権を侵 害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請 求をした事案である。 令和2年事件においては、前訴被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1、 3及び4の各発明の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には前訴被告製 品にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション (以下「前訴アプリ」という。)における「操作メニュー情報」の有無が争点とな った(令和2年事件における争点1−3)。 この争点について、控訴人は、「・・・できるように」という言葉は、目標・目 的・基準等を示すものであるから、「操作メニュー情報」は実行される命令の内容 の全部を利用者において理解することができるものである必要はなく、実行される 命令の内容を利用者が理解できることを目標・目的としている程度の表現があれば\n足りるなどとして、前訴被告製品における前訴アプリによるページ一部表示(本件\nにおける「一部表示画像」に相当する。)が「操作メニュー情報」に当たると主張\nした。
イ 令和2年事件の第一審である東京地方裁判所は、前訴被告製品における前訴 アプリの動作について、「1)利用者が前訴アプリの画面上に表示されたアイコン画\n面に指で触れて一定時間待つ操作(ロングタッチ)をすると、当該アイコンを移動 できる状態に遷移し、2)当該アイコンが指に追随して移動し、アイコンが指に追随 して右又は左に移動した距離が一定距離を超えると、縮小モードとなって、表示中\nの当該ページの画面が90%の大きさに縮小され、画面の左端又は右端に隣接する ページの画面の一部(ページ一部表示)が表\示され、3)更に当該アイコンをその方 向に移動させると、移動方向に隣接するページの画面がスクロールされて表示され\nる」ものであると認定し、ページ一部表示である直方形部分を見た利用者は、それ\nがどのような命令を実行する表示であるのかを理解することができないから、前訴\n被告製品のページ一部表示の画像は、本件発明1及び3の構\成要件Bの「操作メニ ュー情報」を有するとは認められないと判断した(乙2。東京地裁令和2年(ワ) 第15464号同3年7月14日判決)。そして、上記判断は、控訴審である知財 高裁令和4年2月8日判決(乙1)においても維持され、同判決は、上訴されるこ となく確定している(弁論の全趣旨)。
(3) 本件について
ア 本件は、控訴人が、スマートフォン(型番SHV44、SHV45及びSH V46。被告製品)の被控訴人シャープによる製造、被控訴人KDDIによる販売 が、本件特許権を侵害すると主張して、被控訴人らに対し、特許権侵害の不法行為 に基づく損害賠償請求をした事案である。 本件においては、被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3の各発 明(本件発明)の技術的範囲に含まれるかが問題となり、具体的には被告製品にイ ンストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーション(本件ホ ームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無が争点となった。 本件における争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)についての 控訴人の主張は、原判決別紙「技術的範囲に関する当事者の主張」及び前記第2の 3に記載するとおりである。
イ 被告製品における本件ホームアプリの動作は、概要次のとおりである(前提 事実(6)ウ)。
「1)利用者が本件ホームアプリの画面上に表示されたショートカットアイコンを\n長押しすると、当該ショートカットアイコンはタッチパネル上の指等の動きに追随 して移動できる状態になり、2)当該ショートカットアイコンの移動距離が一定距離 になった場合に、縮小モードとなって、表示中の中央ページ画面が縮小表\示され、 画面の左端又は右端に隣接するページの画面の一部(一部表示画像)が表\示され、 3)更に当該ショートカットアイコンを一部表示画像の範囲に入れると、隣のページ\nの画面が表示される。」\nなお、原判決は、一部表示画像を見た利用者は、それが左右のページの一部を表\ 示していることを理解できるとはいえず、仮に理解できたとしても、当該画像の領 域までショートカットアイコンをドラッグすることによって対応するページにスク ロールするという命令が表示されていると理解できるように構\成されているとはい えないから、被告製品の一部表示画像は「操作メニュー情報」に当たらず、被告製\n品が本件発明の構成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」を有するとは認め\nられないと判断した。
(4) 令和2年事件と本件の比較
令和2年事件と本件は、当事者を同一とし、侵害されたとされる特許権が同一で あり、その特許請求の範囲の請求項1及び3の各発明の技術的範囲への被疑侵害品 の属否が問題となっている点も共通する。 本件の対象製品である被告製品は、令和2年事件の対象製品である前訴被告製品 と同一シリーズの製品であって、前訴被告製品よりも後に発売されたものと推認さ れるものの、前訴被告製品から大きな仕様変更がされたことはうかがえず、特に、 問題とされているアプリケーションは同一(いずれもAQUOS Home)であ って、そのバージョンが異なる可能性はあるとしても、大きな仕様変更がされたこ\nともうかがえず、また、問題となる動作(前記(2)イ及び(3)イ)は同一又は少なく とも実質的に同一である。 そして、令和2年事件と本件における争点は、対象製品(前訴被告製品又は被告 製品)にインストールされた「AQUOS Home」と呼ばれるアプリケーショ ン(前訴アプリ又は本件ホームアプリ)における「操作メニュー情報」の有無であ るから、争点も同一又は少なくとも実質的に同一であり、そればかりか、当該争点 についての控訴人の主張も実質的に同一である。 そうすると、本件における控訴人の主張は、対象製品に「操作メニュー情報」が 存在しないことを理由として、控訴人の被控訴人らに対する本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償請求に理由がないとの判断が確定した令和2年事件における 控訴人の主張の蒸し返しにすぎないというほかない。控訴人は、令和2年事件判決 が、「操作メニュー情報」が存在しないと判断した根拠となる前訴被告製品の構成\n(前訴アプリの動作)と、被告製品の構成(本件ホームアプリの動作)が実質的に\n同一であり、そのために、被告製品が、前訴被告製品におけるものと同一の理由に より、本件特許権を侵害しないものであることを十分認識しながら、本件訴えを提\n起したものと推認されるのであって、本件において控訴人の請求を審理することは、 被控訴人らの令和2年事件判決の確定による紛争解決に対する合理的な期待を著し く損なうものであり、訴訟上の正義に反するといわざるを得ない。
(5) 控訴人の主張に対する判断
この点、控訴人は、令和2年事件における対象製品である前訴被告製品の構成\na1 と、本件訴訟における被告製品の構成 a1、a1’、a1”が異なり、また、構成 a3、 a3’、a3”、p1〜p3 が追加されているから、新たな判断が必要であると主張する。 しかしながら、控訴人の主張する被告製品の構成 a1、a1’、a1”及び p1〜p3 は 「一部表示画像」に関するものではなく、構\成 a3、a3’、a3”は、「一部表示画像」\nの画面上の領域(座標)をより具体的に特定したにすぎないものであって、前記 (2)イの前訴アプリの動作を変更するものではないから、控訴人の主張する構成は、\nいずれも、「一部表示画像」が構\成要件B、E、F、Gの「操作メニュー情報」に 該当するかを検討するに当たり、その判断に影響を与え得るものとはいえない。 また、上記控訴人の主張する構成の差異が、前訴被告製品の前訴アプリと被告製\n品の本件ホームアプリにおける実質的な差異であると認めるに足りる証拠はない上、 仮に、当該構成部分において、前訴被告製品の前訴アプリと被告製品の本件ホーム\nアプリに差異があるものと認められたとしても、その差異は、被告製品の本件ホー ムアプリにおける「操作メニュー情報」の有無に係る判断を左右するものとはいえ ず、さらに、控訴人が、控訴審において追加した構成も、上記判断を左右するもの\nではない。 したがって、上記控訴人の主張は採用できない。
(6) 小括
したがって、控訴人が本件において本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償 請求をし、これに係る主張をすることは、令和2年事件における紛争の蒸し返しに すぎないというべきであり、同事件の当事者である控訴人と被控訴人らとの間で、 控訴人の請求について審理をすることは、訴訟上の信義則に反し、許されない。

◆判決本文
原審は令和4年(ワ)第11889号ですが、アップされていません。

上記別事件はこちらです。

◆令和2年(ワ)第15464号

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令和4(ネ)10093 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年5月10日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

後発薬品の販売者が、販売の承認申請に必要として、不存在確認訴訟の訴えの利益があるのかが争われました。1審は訴えの利益無し、知財高裁も同様です。

なお、仮に二課長通知等に基づく運用によれば、本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされないことが控訴人にとって問題であるとしても、そのことは、厚生労働大臣が医薬品医療機器等法14条3項に基づく原告医薬品の製造販売についての控訴人の承認申請を認めるかどうかという控訴人と厚生労働大臣(国)との間の公法上の紛争であって、そもそも控訴人と被控訴人らとの私人間の法律上の紛争であるということはできないし、かかる公法上の紛争については承認申\請に対して不作為の違法確認の訴えの提起や厚生労働大臣等に対する不服申立て等の法的手段によって救済を求めるべきであるから、控訴人の有する権利又は法律的地位の危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。\n
(5) 控訴人は、当審において、1)パテントリンケージのシステムが発動するということ自体が、控訴人において、特許権の侵害の有無という法律的地位が問題になっている状況にあることを意味し、現に、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在」している状況にあり、このような状況自体が現在の法的紛争であり、また、パテントリンケージは、あくまでも先発医薬品メーカの特許権が有効で、かつ、後発医薬品がその技術的範囲に含まれることを前提とする制度であり、被控訴人らに対し、裁判所による侵害の有無の判断(確認判決)さえ示されたならば、「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という、控訴人の法律的地位に対する危険は除去されるのであるから、確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に該当する、2)控訴人は承認申請のため原告医薬品を製造しており、承認後に行う製造行為も事実行為としては同じであって、さらに、控訴人は、原告医薬品が承認され薬価収載さえされれば、すぐに原告医薬品の製造販売を行う意思を有しており、他方、被控訴人らは、現状において権利行使をする意思がないとは述べているが、実際に権利行使を行い得る状況にあり、また、確認の利益は客観的な状況によって判断されるべきであって、被控訴人らの主観によって左右されるべきではないから、侵害の有無を判断すべき客観的な状況が存在する以上、本件における確認の利益は認められるべきである、3)二課長通知に基づく実務がTPP11協定(第18・53条2項)に根拠を有するものとして許容されるためには、特許抵触の有無に疑義がある本件のような確認訴訟が提起された場合については、確認の利益を認めて裁判所が実体的な判断を示すことが必要であるなどとして、本件においては確認の利益が認められるべきである旨主張する。
しかしながら、1)については、前記(4)のとおり、控訴人が主張する「医薬品として原告医薬品が厚生労働省から承認されない」という「控訴人の有する権利又は法律的地位」の「危険又は不安」とは、控訴人と厚生労働大臣との間で問題となる事柄であり、控訴人と被控訴人らとの間の「請求権の存否に係る法律上の紛争」に係るものではないし、また、かかる危険又は不安を除去するため控訴人と被控訴人らとの間で本件訴訟において確認判決を得ることが必要かつ適切であると解することもできない。
2)については、前記(4)で述べた事情を考慮すると、控訴人と被控訴人らとの間の本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の存否について、現に当事者間に紛争が存在し、控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存しているとは認められないから、本件差止請求権及び本件損害賠償請求権の不存在確認請求に係る本件各訴えについて確認の利益があると認められないと判断したものであって、被控訴人らの主観のみによってこのような結論を導いているわけではない。
3)については、TPP11協定の第18・53条2項は、医薬品の販売承認に当たって、特許抵触の有無に疑義があるとして本件のような特許権侵害に係る確認訴訟が提起された場合に、裁判所が確認の利益を認めて実体的な判断を示さなければならない旨を規定するものではない。したがって、控訴人の上記主張は理由がない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆令和3年(ワ)13905

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令和3(行ケ)10094 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和5年1月26日  知的財産高等裁判所

無効理由無し(サポート要件)とした審決が取り消されました。なお、別訴と結論が異なる点については付言で、鑑定書等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたので問題ないと説明されています。

これらの開示事項を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、 31H4抗体と競合するものであり、かつ、PCSK9とLDLRタン パク質の結合を中和する抗体として、31H4抗体とアミノ酸配列が異 なる互いにアミノ酸配列の同一性が高いグループの抗体が開示されてい ることが認められる。
ア 以上を前提に検討すると、前記 において説示したとおり、サポート要 件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載 とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記 載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示 唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決で きると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ ると解するのが相当であるところ、前記1 において示したとおり、本件 発明は、LDLRタンパク質の量を増加させることにより、対象中のLD Lの量を低下させ、対象中の血清コレステロールの低下をもたらす効果を 奏し、また、この効果により、高コレステロール血症などの上昇したコレ ステロールレベルが関連する疾患を治療し、又は予防し、疾患のリスクを\n低減すること、そのために、LDLRタンパク質と結合することにより、 対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるP CSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医 薬組成物を提供することを課題とするものであり、PCSK9とLDLR タンパク質との結合を強く遮断する中和抗体である参照抗体と競合する抗 体は、PCSK9への参照抗体の結合を妨げ、又は阻害する単離されたモ ノクローナル抗体であることを明らかにするものであると理解される。
そして、前記 によれば、本件発明における「中和」とは、タンパク質 結合部位を直接封鎖してPCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作 用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節する以外に、間接的な手段(リ ガンド中の構造的又はエネルギー変化等)を通じてLDLRタンパク質に\n対するPCSK9の結合能を変化させる態様を含むものであるが、前記1\nのとおり、参照抗体自体が、結晶構造上、LDLRのEGFaドメイン\n(PCSK9の触媒ドメインに結合するものであり、その領域内に存在す るPCSK9残基のいずれかと相互作用し、又は遮断する抗体は、PCS K9とLDLRとの間の相互作用を阻害する抗体として有用であり得る とされるもの)の位置と部分的に重複する位置でPCSK9とLDLRタ ンパク質の結合を立体的に妨害し、その結合を強く遮断する中和抗体であ ると認められることを踏まえると、本件発明における「PCSK9との結 合に関して、31H4抗体と競合する」との発明特定事項も、31H4抗 体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、L DLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構\n造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置でPCSK9に 結合して)、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮 断し、低下させ、又は調節することを明らかにする点に技術的意義がある ものというべきであり、逆に言えば、参照抗体と競合する抗体は、このよ うな位置で結合するからこそ、中和が可能になるということもできる。こ\nの点は、被告自身が、前記第3の3 ウにおいて、本件明細書の発明の詳 細な説明によれば、当業者は、出願時の技術常識に照らし、参照抗体との 競合によってPCSK9上の複数の結合面のうち特定の領域内の特定の 位置(LDLRのEGFaドメインと結合する部位と重複する位置(又は 同様の位置))に結合する抗体は、PCSK9とLRLRタンパク質の結合 を中和することができると理解するものであり、発明の技術的範囲の全体 にわたって発明の課題を解決できると認識することができたといえる旨 主張していることからも裏付けられるところである。
また、前記1 において認定した甲1文献の開示事項によれば、家族性 高コレステロール血症は、血漿中のLDLコレステロールレベルの上昇に 起因するものであるところ、PCSK9は、細胞表面に存在するLDLR\nタンパク質の存在量を低下させるものであるため、PCSK9が治療のた めの魅力的な標的であり、血漿中のPCSK9に結合し、そのLDLRタ ンパク質との結合を阻害する抗体等が効果的な阻害剤となり得ることが 既に示されていたものと認められるのであるから、このような観点から見 ても、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、 31H4抗体と同様のメカニズムにより、上記のようなLDLRタンパク 質との結合を阻害する抗体、すなわち結合中和抗体としての機能的特性を\n有することを特定した点にあるということもできる。そもそも本件発明の 課題は、前記1 イにおいて認定したとおり、LDLRタンパク質と結合 することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの 量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗 体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解 決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すこと はできないから、このような観点からも、上記のとおり、本件発明の技術 的意義は、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同様の メカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定\nした点にあるというべきである。
イ さらに検討すると、前記 イ のとおり、本件明細書の発明の詳細な説 明には、エピトープビニングを行った結果、31H4抗体と同一性が高い とはいえないアミノ酸配列を有するグループの抗体が31H4抗体と競 合するものとして同定されたことが開示されている。本件明細書には、上 記競合する抗体として同定された抗体の中で中和活性を有すると記載さ れる抗体がPCSK9上へ結合する位置についての具体的な記載はなさ れておらず、31H4抗体とアミノ酸配列が異なるグループの抗体につい ては、エピトープビニングのようなアッセイで競合すると評価されたこと をもって、抗体がPCSK9上に結合する位置が明らかになるといった技 術常識は認められない以上、PCSK9上で結合する位置が明らかとはい えない。
また、本件発明の「PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する」 との性質を有する抗体には、上記本件明細書の発明の詳細な説明に具体的 に記載される数グループの抗体以外に非常に多種、多様な抗体が包含され ることは自明であり、また、前記2 イのとおり、このような抗体には、 被告が主張するように、31H4抗体がPCSK9と結合するPCSK9 上の部位と重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻 害する(例えば、低下させる)抗体にとどまらず、参照抗体とPCSK9 との結合を立体的に妨害する態様でPCSK9に結合し、様々な程度で参 照抗体のPCSK9への特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下 させる)抗体をも包含するものである。そうすると、その中には、例えば、 31H4抗体がPCSK9と結合する部位と異なり、かつ、結晶構造上、\n抗体がLDLRのEGFaドメインの位置とも異なる部位に結合し、31 H4抗体に軽微な立体的障害をもたらして、31H4抗体のPCSK9へ の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)もの等も含ま れ得るところ、このような抗体がPCSK9に結合する部位は、抗体が結 晶構造上、LDLRのEGFaドメインの位置と重複する位置ではないの\nであるから、LDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖して、PCSK9 とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は 調節するものとはいえない。
なお、本件明細書には「例示された抗原結合タンパク質と同じエピトー プと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質及び断片は、類似の機能的\n特性を示すと予想される。」(【0269】)との記載があるが、上記のとお\nり、「PCSK9との結合に関して31H4抗体と競合する」とは、31H 4抗体と同じ位置でPCSK9と結合することを特定するものではない から、31H4抗体と競合する抗体であれば、31H4抗体と同じエピト ープと競合し、又は結合する抗原結合タンパク質(抗体)であるとはいえ ず、このような抗体全般が31H4抗体と類似の機能的特性を示すことを\n裏付けるメカニズムにつき特段の説明が見当たらない以上、本件発明の 「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する抗体」が31H 4抗体と「類似の機能的特性を示す」ということはできない。\n前述のとおり、本件発明の技術的意義は、31H4抗体と競合する抗体 であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDL Rタンパク質との結合を中和する抗体としての特性を有することを特定 する点にあるというべきところ、前記のとおり、31H4抗体と競合する 抗体であれば、LDLRのEGFaドメインと相互作用する部位(本件明 細書の記載からは、EGFaドメインの5オングストローム以内に存在す るPCSK9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相 互作用界面の特異的コアPCSK9アミノ酸残基(コア残基)、EGFaド メインの5オングストロームから8オングストロームに存在するPCS K9残基として定義されるLDLRのEGFaドメインとの相互作用界 面の境界PCSK9アミノ酸残基と理解され得る。)に結合してPCSK 9とLDLRタンパク質の結合部位を直接封鎖するとはいえず、他には、 31H4抗体と競合する抗体であれば、どのようなものであっても、PC SK9とLDLRのEGFaドメイン(及び/又はLDLR一般)との間 の相互作用(結合)を阻害する抗体となるメカニズムについての開示がな い以上、当業者において、31H4抗体と競合する抗体が結合中和抗体で あるとの理解に至ることは困難というほかない。
ウ 以上のとおり、「PCSK9との結合に関して、31H4抗体と競合する 抗体」であれば、31H4抗体と同様に、LDLRタンパク質の結合部位 を直接封鎖して(具体的には、抗体が結晶構造上、LDLRのEGFaド\nメインの位置と重複する位置でPCSK9に結合して)、PCSK9とL DLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節 するものであるとはいえないから、「PCSK9との結合に関して、31H 4抗体と競合する抗体」であれば、結合中和抗体としての機能的特性を有\nすると認めることもできない。なお、前記 アのとおり、本件発明におけ る「中和」とは、PCSK9とLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖す るものに限らず、間接的な手段(リガンド中の構造的又はエネルギー変化\n等)を通じてLDLRタンパク質に対するPCSK9の結合能を変化させ\nる態様を含むものではあるが、「PCSK9との結合に関して、31H4抗 体と競合する抗体」であれば、上記間接的な手段を通じてLDLRタンパ ク質に対するPCSK9の結合能を変化させる抗体となることが、本件出\n願時の技術常識であったとはいえないし、本件明細書の発明の詳細な説明 に開示されていたということもできない。
エ こうした点は、前記1 においてその信頼性を認定した【A】博士の実 証実験の結果及び同実証実験を踏まえた【B】博士の供述書 からも裏付 けられる。すなわち、この実証実験は、リジェネロンの63の抗体につい て参照抗体との競合及び結合中和性を実験したものであるが、競合に関し て50%の閾値を用いた結果、34の抗体が参照抗体と競合するが、うち 28の抗体(80%よりも多く)は結合中和性を有しないことが確認され ており(別紙3の資料B1及び前記1 ア b)、参照抗体と競合する抗体 であれば結合中和性を有するものとはいえないことが具体的な実験結果 として示されている。さらに、この実験結果に加え、「本件特許によれば、 31H4抗体の結合部位はhPCSK9上のLDLRの結合部位と部分 的にしか重複しないから・・別の抗体の結合部位は、LDLRの結合部位 と重複することなく31H4結合部位と重複し得るのであり、このように して、別の抗体は、hPCSK9−LDLRの結合部位と重複することな く31H4結合部位と重複し得」る(前記1 ア b)として、【B】博士 が、「31H4抗体と競合する抗体・・・の全てが結合を中和する効果を有 するだろうというのは確実に誤りである。」旨の意見を述べているところ である(前記1 ア c)。
オ 被告は、前記第3の3 ウにおいて、31H4抗体(参照抗体)と競合 するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が 仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から 文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由 とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、31H4抗体と 競合する抗体であれば、31H4抗体と同様のメカニズムにより、PCS K9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有す\nることを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、 31H4抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとする と、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事 例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗 体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分な どといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求 の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、 相当でない。)。なお、被告が主張するように、本件発明1の特許請求の範 囲は、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する抗体のうち、「P CSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体のみ を対象としたものであると解したとしても、前示のとおり、本件発明のP CSK9との競合に関して、参照抗体と競合するとの発明特定事項は、被 告が主張するような、参照抗体が結合する位置と同一又は重複する位置に 結合する抗体にとどまるものではなく、PCSK9とLDLRタンパク質 の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体をも含 むものであるから、このような抗体についても結合中和抗体であることが サポートされる必要があるところ、参照抗体が結合する位置と同一又は重 複する位置に結合する抗体の場合とは異なり、PCSK9とLDLRタン パク質の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体 が結合を中和するメカニズムについては本件明細書には何らの記載はな く、また、ビニングによる実験結果(前記 イ )に基づく結合中和抗体 は、いずれも結合中和に係るメカニズムが開示されている、参照抗体が結 合する位置と同一又は重複する位置に結合する抗体である可能性が高く、\nその点を措くとしても、少なくともこれらが立体的に妨害する抗体である ことを示唆する記載はない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明 には、参照抗体と競合する抗体のうちPCSK9とLDLRタンパク質と の結合に立体的妨害が生じる位置に結合する様式で競合する抗体が結合 中和活性を有することについて何らの開示がないというほかなく、この点 からも、本件発明はサポート要件を満たさない。
また、前記第2の3 のとおり、本件審決は、本件明細書には、本件明 細書記載の免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウ スの作製及び選択、選択された免疫化マウスを使用したハイブリドーマの 作製、本件明細書記載のPCSK9とLDLRとの結合相互作用を強く遮 断する抗体を同定するためのスクリーニング及びエピトープビニングア ッセイを最初から繰り返し行うことによって、十分に高い確率で本件発明\nの抗体をいくつも繰り返し同定することが具体的に示される旨判断する が、【F】(【F】)教授(【F】教授という。)の第2鑑定書(甲230)に 「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、 候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能であ\nる」と記載されているように、本件明細書に記載された抗体の作製過程を 経たとしても、免疫化されたマウスの中でPCSK9上のどのような位置 に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものであって、抗体の 抗原タンパク質への結合を立体的に妨害する態様で抗原タンパク質に結 合する抗体を製造する方法が本件出願時における技術常識であったとも いえないことからすると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関す る記載をもって、本件発明に含まれる多様な抗体が本件明細書の発明の詳 細な説明に記載されていたとはいえない。
カ そして、本件発明1のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に係る発明 である本件発明5も、上記同様の理由から、サポート要件を満たすもので はない。
以上によれば、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合するも のと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち前記第3の3 イ の「EGFaミミック抗体」に係る点 は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告 の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまで もなく、上記のとおり、本件発明1及び5は、いずれもサポート要件に適合 するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えること とする。)。
以下、念のために付言する。
ア 本件発明を巡る国際的状況について、原告は、欧州では、異議申立抗告\n審において、令和2年に、本件発明と実質的に同じ対応欧州特許について、 進歩性欠如により無効であると判断されており、また、米国では、合衆国 連邦巡回区控訴裁判所において、令和3年2月11日に、本件発明より限 定された対応米国特許につき、実施可能要件違反により無効であると判断\nされており、現在、我が国は、本件特許の有効性が裁判所により維持され ている世界で唯一の国である旨主張し、他方、被告は、上記連邦巡回区控 訴裁判所の判断につき、連邦最高裁判所は、令和4年11月4日に、裁量 上告受理申立てを認めたので、上記判断が覆される可能\性が極めて高い旨 主張するが、もとより、他国における判断が本件判断に直ちに影響を与え るものではないことは明らかである(なお、米国については、仮に、連邦 巡回区控訴裁判所の無効判断が覆されたとしても、対応米国特許は、参照 抗体との「競合」を発明特定事項とするものではないと認められるから(例 えば、米国特許8829165特許の請求項1は、「PCSK9に結合する とき、次の残基:配列番号3のS153、I154、P155、R194、 D238、A239、I369、S372、D374、C375、T37 7、C378、F379、V380、又はS381の少なくとも1つに結 合し、PCSK9がLDLRに結合するのを阻害する、単離されたモノク ローナル抗体」との発明特定事項である(甲19)。)、いずれにしても本件 発明に係る判断に直接関係しない。)。
イ 本件発明に係る別件審決取消訴訟においては、前記第2の1 のとおり、 サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、 これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、31H4抗体と競合する抗体は、 31H4抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し31H4抗体と 同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるもの\nと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や\n【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等(甲18、230)による構\n造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証(甲4の1及び2)等の 新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、 この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論 と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

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令和4(ネ)10078  不当利得返還請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

任天堂に2画面表示ゲーム器に対する特許侵害訴訟の控訴審判決です。1審の東京地裁40部は、特許発明は公知技術から進歩性無し、第2次訂正は新規事項、第3次訂正は訂正目的違反(減縮・明瞭化のいずれでもない)ので、訂正要件満たさず、権利行使不能と判断しました。\n控訴審において、控訴人(1審原告)は訂正の再抗弁をしました。知財高裁(4部)は、「本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加える」として、訂正の再抗弁について、判断がなされています。

ア 時機に後れた攻撃防御方法に当たるかについて
控訴人は、第4次訂正に係る訂正の再抗弁は、特許庁による令和4年4 月21日付けの審決の予告を受けてした第4次訂正請求に係るものであ\nって、本件特許に係る特許権侵害訴訟における手続においても当然に主張 できるものと考えるようである(同主張によって第3次訂正に係る訂正の 再抗弁が取下げ擬制されたとも主張している。)が、特許権侵害訴訟におい て無効の抗弁とその対抗主張ともいうべき訂正の再抗弁は、特許権の侵害 に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決するため、 特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことなく主張することが できるものとされたにすぎず、特許無効審判とは別の手続である民事訴訟 手続内でのものであるから、審理の経過に鑑みて、審理を不当に遅延させ るものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下 されるべきである。
そこで、原審における審理経過についてみると、控訴人は、原審におい て、第1回弁論準備手続期日(令和元年11月18日)における本件特許 が新規性及び進歩性を欠く旨の無効の抗弁の主張(被告第1準備書面)を 受けて、第3回弁論準備手続期日(令和2年7月27日)までに、第2次 訂正に係る訂正の再抗弁に係る原告第2準備書面を提出したが、本件無効 審判の手続における訂正請求に合わせて、第3次訂正に係る訂正の再抗弁 を記載した令和3年3月3日付け原告第5準備書面及び同年5月27日 付け原告第6準備書面を提出した(これらの準備書面は、第4回弁論準備 手続期日(令和3年12月16日)において、訂正書面を含めて陳述され た。)。原判決は、第2次訂正及び第3次訂正に係る訂正の再抗弁はいずれ も訂正要件を充足せず、本件特許は特許無効審判により無効とすべきもの と判断したところ、控訴人は、控訴理由書で、第4次訂正に係る訂正の再 抗弁の主張を追加したものである。 こうした原審での審理経過に鑑みると、第4次訂正は、時機に後れて提 出された攻撃防御方法に当たり、その提出が後れたことについて控訴人に は重過失があるから、本来であれば却下は免れないが、被控訴人から第4 次訂正については訂正要件を充足しないこと等を含め、第4次訂正に係る 訂正の再抗弁についての反論がされており、この限度では訴訟の完結を遅 延させることになるとまではいえないため、以下、判断を加えることとす る。

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