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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

裁判手続

令和2(ワ)3247等  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償を求めましたが、被告は提訴自体が不法行為は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、反訴請求しました。裁判所は被告の主張を認め、50万円の損害賠償を認めました。

 (1) 前提事実,争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 ア 被告は,原告退職後の平成22年9月から漏水探査等を目的とする事業を行 うようになったところ,平成23年頃実施の門川町上水道漏水調査委託業務の入札 に参加し,これを落札した。これについて,原告は,その後,門川町に対し,被告の 指名競争入札参加申請書及び被告が納品した漏水調査結果報告書等を求めて公文書\n公開請求を行った(甲15,16)。
イ 被告は,平成26年10月1日,原告から,平成23年4月26日付け「情 報窃盗に関する記述」と題する部分及び平成25年9月26日付け「情報窃盗及び 機密保持違反に関する刑事告訴に至る記述」と題する部分からなる書面(乙7)を 受領した。同書面のうち,前者の部分には,被告が,原告が「業務を通じ考案した 「エアー加圧工法」を実用新案特許出願中 平成2年6月 その工法さえも盗み出 した」との旨や,書類(結果報告書及び作業計画書等)の無断使用による著作権侵 害,原告の固定客や取引先の横取り等による原告の被害額が推定1500万円以上 に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載されている。後者の部分には,前者の 部分と同趣旨の記載のほか,「虚偽申請による不当なる資格取得」との記載があり,\n原告の被害額が推定3000万円以上に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載 されている。
ウ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,平成27年4月1日付け「質問書」 (乙9)を送付した。同書面には,同協会発行の有資格者認定名簿における被告の 記載に関する質問等が記載されている。
エ 原告は,同月6日,被告に対し,「「漏水調査技術者認定証等」に関する件」 と題する書面(乙8の1)を送付した。同書面には,被告につき,「不正に全国漏 水調査協会の民間資格者として,再登録を行っています。」,「貴殿が行った行為 は,「業務上横領」や「詐欺」に匹敵する許し難い行為だと思います。」,「まず貴\n殿が,「弊社の技術」を盗む目的を持って入社し弊社が長年の研究や試行錯誤の上 で開発した「エア加圧工法」と言う独自工法を盗み」などと記載されていると共に, 「期日までに,何らかのご連絡,若しくは,「漏水調査技術者証の返還」が,無き 場合は,「刑事告訴」及び「法的手段」を取りますので,ご了承下さい。」とも記載 されている。
オ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,同年5月6日付け「勧告書」(甲3 2,乙10)を送付した。同書面は,上記「質問書」に対する回答が得られていな いとして送付されたものであり,ここには,有資格者の調査技師の欄に被告が記載 されているが,その記載内容は虚偽である旨の指摘等が記載されている。また,同 書面(乙10)の余白には,「この書面を提出した事で,彼は責任を取り自から会 長職を辞職した!!」との原告代表者の手書きによる記載がある。\n
カ 原告は,同年6月11日,被告に対し,同日付け「通知書」(甲29,乙11 の1)を送付した。同書面には,「その盗んだ技術の中身には,長年研究開発した 「エア加圧工法」が含まれており,弊社が開発した技術を無断で利用して,平然と 営業利益を上げています。」などとして,原告の損害金総額1億円の支払を求める 旨等が記載されている。 これに対し,被告は,同年9月14日,原告に対し,同日付け「回答書」(甲9, 31,乙12の1)を送付した(同月15日に原告に到達。乙12の2)。同書面に は,「調査内容の「エア加圧工法」は他社企業でも行われている工法で,特許侵害 等の法を犯す工法ではありません」などと記載されていると共に,1億円の支払請 求については,内容が事実に反していることなどから応じられない旨が記載されて いる。
キ 被告は,平成31年2月7日頃,原告から,平成30年2月7日付け「最後 通告書」(乙13の1。なお,同書面の作成日付は,書面全体の記載の趣旨から, 「平成31年」の誤記と思われる。)を受領した(乙13の2)。同書面には,「貴 殿は,…私文書偽造詐欺行為を平然と行って置きながら,…全国漏水調査協会に私\n文書偽造の行為にあたる事を長年繰り返し申請をして,不正に漏水調査士の資格を\n取得しています。」,「弊社の「報告書書式や漏水調査カルテ書式等」を退職時に 何らかの形で持ち出しましたね。」,「「工具は持ち出して居ない」とは思います が,どの様な方法でエアを注入していますか?」,「漏水調査工法のエア加圧工法 は,弊社が開発したものです。…弊社は,昨年5月11日付で,エア加圧工法で, 「特許権」を取得しています。このままだと仕事を失う事になりますよ。速やかに, なんらかの行動を起して下さい。」,「弊社が取得した「エア加圧工法」は,…何人 たりとも勝手に利用して,使用が出来ないのです。それを犯して使用する場合は, 「知的財産権の侵害行為」となり,そこには,処罰の対象になります。…独自の工 法を考えださない限りは,特許権侵害行為になり,この仕事は,出来ません。」な どと記載されていると共に,改めて,総額1億円の技術使用料の支払を求める旨等 が記載されている。 なお,同書面には,被告の使用する工法が原告の「特許権」の侵害にあたると原 告が考える理由等に関する記載はない。
ク 原告は,本件の証拠として提出した令和2年8月22日付け「上申書(5)認否 事項についての反論」(甲21)において,「裁判を提訴するまで,被告の行って居 る工法につては,知る由は無かった。」としている。
ケ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,本訴の提起後である令和2年9月1 1日付けで,同協会の漏水調査技術資格認定者名簿における被告の記載に関して質 問をし,同月28日付けで回答を得たものの,これを不十分として,同年10月1\n日付け「公開質問書」(甲32)を送付して再度質問をし,同月16日付けで回答 を得た。
(2) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として 正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴 訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもので ある上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知 り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当 である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・ 民集42巻1号1頁参照)。 前記(1)認定のとおり,原告は,被告が原告を退職して独立開業した後,本訴の提 起に至るまでの間,被告が門川町の業務を落札したことを契機に,被告の事業活動 を問題視するようになり,被告の使用する工法が原告の「エア加圧工法」を無断で 使用するものであるなどとして,刑事告訴の可能性にも言及するなどしつつ,被告\nに対して直接非難する趣旨を含む書面を送付した。他方で,原告は,漏水調査協会 に対しても,有資格者名簿に被告が記載されていることにつき,質問の形式を取り ながら,これを問題視していることをうかがわせる内容の書面を送付した(しかも, 原告は,本訴提起後も改めてこのような行為に及んでいる。)。さらに,本件特許 権の設定登録後には,「エア加圧工法」につき特許権を取得したとの前提ではある ものの,被告の行為は特許権侵害にあたるとして,技術使用料の支払を重ねて求め たものである。 こうした経過を経て本件の本訴が提起されたことを踏まえると,本訴の提起も, 被告がその事業上実施する工法を原告が問題視して行った一連の行動の一環として 行われたものと理解される。
他方,原告と被告との一連のやり取りにおいて,原告は,被告から「特許侵害等 の法を犯す工法ではありません」などと反論されたこともあるにもかかわらず,被 告の使用する工法等が原告の特許権を侵害するものと考える理由に言及したことは なく,また,被告が使用する漏水探査方法の具体的内容やこれに使用する装置につ いて質問等をしたのも,平成30年2月7日付け「最後通告書」におけるものが初 めてである。加えて,本件における原告の主張立証活動,就中,原告自身が「裁判 を提訴するまで,被告の行って居る工法につては,知る由は無かった。」とし,実 際,被告が主張する被告装置の構成等を前提として主張立証を行っていることに鑑\nみると,原告は,本訴の提起に先立ち,被告の使用する漏水探査方法やこれに使用 する装置に関する調査等を自ら積極的には必ずしも行っていなかったことがうかが われる。 このような本訴の提起に至る経緯や訴訟の経過等に加え,前記のとおり,被告装 置につき本件各発明の技術的範囲に属さないことに照らすと,原告は,本訴で主張 する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることにつき,少なく とも通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,被告による事業展開を妨げる ことすなわち営業を妨害することを目的として,敢えて本訴を提起したものと見る のが相当である。 そうすると,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くものと認められるから,被告に対する不法行為を構成する。これに反す\nる原告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所

 漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n 

 前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び 2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載 は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組 合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当 初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化 係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12 33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定 の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】, 【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243 db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123 3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対 する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO −1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは 何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234 yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載 されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と 「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように, 表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb 及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた 構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機 付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認 められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時 までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足 りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図 面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球 温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に, HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1 233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特 定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化 合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを 導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず, 特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく, 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法 123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は, 被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対 し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO −1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立 証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267 4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被 告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると, 当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。 以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証 命令申立ては,これを却下することとする。\n

◆判決本文

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

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令和1(ワ)23033  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年5月21日  東京地方裁判所

 商標権侵害の損害論の審理に入ってから約半年が経過後の被告側の限界利益算出のための調査の申し出は、時期に後れた攻撃防御として却下されました。\n

 (a) 以上に対し,被告は,1)前記(1)イの売上高には,被告が楽天に 支払うべき楽天市場の出店手数料及び広告料が含まれているから, 限界利益を算定する上では,上記の売上高から上記出店手数料や広 告料を差し引くべきである旨を主張し,2)上記1)の主張に関連して, 平成18年8月11日から令和元年8月27日までの間の売上高に 関して被告が楽天に支払った月ごと又は年ごとの金額を調査の趣旨 とする令和2年2月28日付けの調査嘱託を申し立て(以下「本件\n調査嘱託の申立て」という。),さらに,3)楽天市場に出店する際の 月額固定費,売上げに応じた変動費等が支払われており,これらを 差し引くべきであるとの主張を記載した令和3年3月11日付け準 備書面(以下「本件被告準備書面」という。)及び同日作成の書証 (「楽天市場への出店方法の流れと費用,体験談から見るメリッ ト・デメリットを解説」と題するウェブページをプリントアウトし たもの。以下「本件被告書証」という。)を提出した。 これに対し,原告は,前記第2の4(5)(原告の主張)ウのとお り,上記2)及び3)は時機に後れた防御方法に当たるから,民事訴訟 法157条1項により却下されるべきであるとの意見を述べた。
(b) そこで検討すると,本件の審理が以下の経過をたどったことは, 当裁判所に顕著である。
i 本件の訴状は令和元年9月19日に被告に送達された。
ii 本件は,令和元年10月30日の第1回口頭弁論期日の後, 弁論準備手続に付され,令和2年8月28日の第7回弁論準備 手続期日まで,主として,被告による原告各商標権侵害の成否 (いわゆる侵害論)についての争点整理が行われた。
iii 原告は,令和2年8月28日,平成18年8月11日から令 和元年8月27日までの間における本件被告販売商品1−1及 び1−2の売上高等に関する楽天に対する調査嘱託を申し立て\nたところ,同年10月29日,楽天は,上記調査嘱託の回答書 (甲35)を提出した。
なお,上記提出に先立つ同月5日の第8回弁論準備手続期日 において,被告は,調査嘱託の回答があったときには,次回期 日までに,調査嘱託の回答を踏まえて,主張立証の方針につい て検討する旨を陳述した。
iV 被告は,令和2年12月14日の第9回弁論準備手続期日に おいて,前記iiiの回答書(甲35)に関し,月ごとの売上高等 を調査事項とする調査嘱託を申し立てる意向を示すとともに,\n損害論に関する事実調査を尽くす旨を陳述した。 そして,被告は,同月21日,楽天に対する上記調査嘱託を 申し立て,楽天は,令和3年1月21日,同調査嘱託に対する\n回答書(甲36)を提出した。
V 被告は,令和3年1月28日の第10回弁論準備手続期日に おいて,同年3月1日までに,損害論についての認否反論を尽 くす旨を陳述した。
Vi 被告は,前記(a)2)のとおり,令和3年2月28日付けで本件 調査嘱託の申立てをした。これに対し,原告は,本件調査嘱託\nの申立ては,必要性がなく,かつ不適法であるとの意見を記載\nした同年3月5日付け意見書を提出した。
Vii 被告は,前記(a)1)の主張を記載した本件被告準備書面を提出 し,令和3年3月11日の第11回弁論準備手続期日において 同準備書面を陳述した。 また,被告は,前記(a)3)の主張を記載した準備書面(同月1 1日付け)を提出するとともに,本件被告書証を乙第1号証と して提出した。
(c) 本件では,訴状において,商標法38条2項により推定される逸 失利益の額に関する主張が記載されていたから,被告においても, 限界利益の算定に当たって控除すべき経費の項目及び額が争点とな り得ることについては,同訴状送達日である令和元年9月19日の 時点で認識することができたといえる。 そして,前記(b)iiのとおり,本件の審理において,侵害論の争 点整理は令和2年8月28日までにおおむね終了し,同日からは損 害の発生及び額(いわゆる損害論)に関する争点整理に進み,その 後の4回の弁論準備手続期日の中で,被告には,前記iV及びVのと おり,損害論に関する事実調査及び主張立証を尽くす機会が与えら れたというべきである。
以上のような審理経過に加え,被告が楽天に支払った手数料の額 に関する情報は,通常,被告において管理されていてしかるべきも のであって,仮にその情報が被告の元に存在しなかったとしても, そのような事情はさほど期間を要せずとも把握することが可能な性\n質のものであることを考慮すれば,被告は,遅くとも令和2年12 月21日付けの調査嘱託を申し立てた時点において,それと同時に\n本件調査嘱託の申立てをすることが十\分に可能であったというべき\nであるし,そのころ,本件被告準備書面及び本件被告書証を提出す ることも十分に可能\であったというべきである。しかるに,訴状が 送達された日から約1年3か月が経過し,損害論の審理に入ってか らも約半年が経過して,損害論について主張立証を尽くす旨を陳述 した第10回弁論準備手続期日の後,その期限である同年3月1日 の直前になって,本件調査嘱託の申立てがされ,同期限後に作成さ\nれた本件被告準備書面及び本件被告書証が提出されたものであるか ら,これらはいずれも時機に後れた防御方法の提出であり,かつ, このことについて被告に重大な過失があると認めざるを得ない。 そして,本件調査嘱託の申立てを採用すれば,楽天から回答を受\nけるのに相当期間を要した後,その回答を踏まえた主張立証がされ ることとなるから,訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らか である。
また,本件被告準備書面を陳述させ,本件被告書証を取り調べる と,これらに対する原告の反論の機会を設ける必要があるほか,損 害論に関する被告の主張の整理に相応の期間を要することとなり, 訴訟の完結を遅延させることとなるのは明らかである。
(d) 以上のとおり,本件調査嘱託の申立て,本件被告準備書面及び本\n件被告書証は,いずれも,被告が重大な過失により時機に後れて提 出した防御の方法に該当し,かつ,訴訟の完結を遅延させることと なるものと認められる。よって,本件調査嘱託の申立て,本件被告\n準備書面及び本件被告書証の提出は,いずれも時機に後れた防御方 法として,却下する(民事訴訟法157条1項)。

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平成30(ワ)5041  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。民訴法3条の9の特別の事情があると認めるとして,訴えは却下されました。

   被告の主たる事務所は日本国内にあることから,本件各請求に係る訴えのい ずれについても,日本の裁判所が管轄権を有する(民訴法3条の2第3項)。 もっとも,その場合でも,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所 在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間 の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があ ると認めるときは,裁判所は,その訴えの全部又は一部を却下することができる (同法3条の9)。そこで,本件各請求に係る訴えにおいて,それぞれ,上記「特 別の事情」があると認められるかについて,以下検討する。
(ア) 前記イ(ア)のとおり,請求1−1は,別件米国訴訟と同一の訴訟物に関するも のである。 また,本件において,本件各装置が本件米国特許に係る発明の実施品であること, 本件各装置が参加人から SKC 等に販売されたこと及び原告が本件各装置を使用し て本件各製品を製造したことについては,当事者間に争いはない。本件での主要な 争点は,本件許諾契約により参加人が許諾された本件実施権の範囲,すなわち,参 加人の販売先に関する制限の存否といった本件許諾契約の解釈である。他方,別件 米国訴訟においても,その経過(前記イ(イ))から,消尽及び黙示のライセンスの抗 弁は主要な争点として位置付けられ,本件許諾契約の解釈につき,日本法の専門家 の各意見書及び関係者の供述書並びにそれを踏まえた主張の提出,陪審公判での証 人尋問といった形で,原告等と被告とが主張立証を重ね,陪審及び加州裁判所の判 断の対象となっている。その意味で,本件と別件米国訴訟とは,争点を共通にする ものといえる。 しかも,別件米国訴訟の提起は平成22年7月であり,本件の訴え提起までの約 8年間,こうした主張立証が行われ,その結果として,別件評決及び加州裁判所の 別件米国判決に至ったものである。なお,この間,原告が日本において請求1−1 に係る訴えのような訴訟を提起することを妨げる具体的事情があったことはうかが われない。
これらの事情を総合的に考慮すると,別件米国訴訟につき加州裁判所の別件米国 判決がされるまでは,原告は,日本において請求1−1に係る訴えのような訴訟を 提起する考えはなく,別件米国判決を受けたことを契機に,その結論を覆すべく請 求1−1に係る訴えを提起したものと理解される(別件米国判決の基礎となった証 拠方法の重大な瑕疵等を度々指摘する原告の主張からも,原告のこのような意図が うかがわれる。)。他方,請求1−1に係る本件の訴えに応訴すべきものとした場 合,被告は,時期を異にして別件米国訴訟と共通する主張立証活動を重ねて強いら れることとなるのみならず,別件米国判決の結論を本件において覆そうとする以上, 原告は別件米国訴訟では行わなかった主張立証を追加的に行う蓋然性が高いと見ら れるところ,これに対する対応を強いられることで,被告にとっては,更なる応訴 の負担を新たに生じる蓋然性も高いといえる。 そうすると,本件許諾契約はいずれも日本法人である被告と参加人との間で締結 されたものであり,関連する証拠も,多くは日本語で作成されていること又は日本 語を解する者である蓋然性が高く,その所在も多くは日本国内にあると見られるこ とを考慮しても,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び裁判 をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民訴法3条の9)があると認め られる。
(イ) これに対し,原告は,日本の裁判所で審理をすることが必要かつ適切である こと,別件米国訴訟の重複・蒸し返しに当たらないこと,別件米国判決は日本にお いて承認されないことなどを指摘して,特別の事情があるとはいえない旨主張する。 しかし,請求1−1に係る訴えに関する限り,日本の裁判所で審理をすることが 必要かつ適切であるとは必ずしもいえないこと,別件米国訴訟の蒸し返しに当たる と見られることは,上記のとおりである。別件関連訴訟が係属しているといっても, 請求1−1に係る訴えとは当事者及び訴訟物を異にする別の事件である以上,その 主張立証の負担をもって本件における主張立証の負担を無視ないし軽視し得ること にはならない。
また,別件米国判決が日本において承認されないとする根拠として,原告は,別 件米国判決が重大な瑕疵のある証拠に依拠するものであることを指摘する。しかし, そのような誤りは本来的には米国の訴訟手続を通じて是正されるべきものであると ころ,かえって,別件米国判決は,CAFC においても承認され,確定している。こ のことと,再審事由(民訴法338条)に該当するような具体的な事情もないこと に鑑みると,日本法に照らしても,原告の上記指摘は別件評決及び別件米国判決の 依拠する証拠評価に対する不満をいうにすぎず,これをもって外国の確定判決の効 力が認められる要件である「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は 善良の風俗に反しないこと」(民訴法118条3号)を欠くとはいえない。 さらに,原告は,別件米国判決が承認された場合に,別件関連訴訟につき参加人 の被告に対する損害賠償請求等の判決が確定すると両者に矛盾が生じることなどを 指摘して,その点からも別件米国判決は承認されるべきものではないとする。しか し,別件関連訴訟が原告の主張するとおりに帰結するか否かは,請求1−1に係る 訴えの提起の時点では不明というほかない。この点を措くとしても,別件関連訴訟 は,本件とも別件米国訴訟とも当事者及び訴訟物を異にするものであるから,その 判決の効力は原告と被告との関係に及ぶものではない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。
(ウ) 以上のとおり,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情があると認められるから,こ れに係る訴えを却下することとする。

◆判決本文

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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