商標「田中箸店」、指定商品8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」が識別力無し(3条1項6号違反)とした審決が維持されました。
(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解について
ア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標である
ところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年
9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西\n日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙
1)、2)「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が
4位であること、3)「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3)
によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されて
いる世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認
められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。
イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食\n事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、
「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみ
せ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そ
うすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の\n意味を有するものと理解される。
各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗
名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、4
2)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有)
府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」
(乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙1
3)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。
ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う
店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸\n店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を\n有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する
「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する\n標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品
(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」
が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の
獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において
判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。
エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱わ
れるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品
の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討\nするプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。
また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」
に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する
旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。
◆判決本文
2024.03. 8
商標「Tibet Tiger」が識別力なしとした審決が維持されました。3条2項の適用にについても否定されました。指定商品は
第27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」です。
原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必
ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと
して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される
旨主張する。しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南\n西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3)、「Tiger」の文字
は「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な
英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白
一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほ\nどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件
審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地
名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット
トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では
ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示する\nものではない旨主張するので、以下検討する。
ア 証拠(甲15〜17、乙5〜16)によれば、ウェブサイト上では、本
願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ
ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、
じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット
民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている
じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの
一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること
が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6〜9、18〜21、23、2
4、乙23、25〜52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ
グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Ti\nger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた
ん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた
ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び
販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tib\net〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe
tan Tiger(Rug)」、「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ
ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること
も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」
の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状
のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す
る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある
いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとど\nまるというべきである。
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上
の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定
証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。
そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6〜9)
からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお
いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」、「チベ
タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に
掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し
て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること
は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。
しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる
場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原
告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
◆判決本文
立体商標について、3条2項を主張しましたが、知財高裁はこれを否定しました。
商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する
商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用
した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力
又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう
な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得した
かどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、
当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣
伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要
者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上
で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを
判断するのが相当である。
・・・
ア 本願商標の立体的形状の構成は前記第2の1(1)及び前記1(2)アのとおり
であり、その形状は、ラベルプリンター用テープカートリッジとしての商
品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであると認\nめられる。
しかも、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッ
ジにおいても、印字用テープをロール状にして収納する部分や、印字用テ
ープの巻取りや送り出しをするための輪状の部分を有し、ケースの覆いが
透明又は半透明となっている製品が複数存在し(前記1(2)ウ)、本願商標の
形状と、原告以外の者が取り扱うラベルプリンター用テープカートリッジ
の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要素が共通しており、本願\n商標の形状の斬新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の商品が存在
すると認められる。
イ 「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターは平成4年から販売さ
れており(前記(2)ア)、同時期に「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンター用テープカートリッジである本件商品も販売が開始されたもの
と推認される。本件商品の形状が販売当初において現在と異なるものであ
ったと認めるに足りる証拠はなく、本件商品はその販売当初から本願商標
の形状が用いられていたと認められる。
しかし、本件商品について、原告カタログに掲載されていることは認め
られるものの、本件商品のみを扱った広告宣伝がされたとは認めるに足り
る証拠はない。
また、本件商品は箱に入った状態で販売されており(前記(2)ウ)、店舗に
おいて本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。箱には、原告の
社名を示す「KING JIM」の文字や、「TEPRA」、「PRO」等、
「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター用テープカートリッジで
あることが分かる文字の記載、テープの幅や色等を示す記載等がされてい
る。原告のウェブサイトで本件商品を紹介する画面には、箱から出された
本件商品が表示されており、本願商標の形状が示されているが、「KING\nJIM」、「TEPRA」、「PRO」等の文字が記載されたシールの貼られ\nた状態の写真であり、箱も表示されている上、ウェブサイト上の記載とし\nても「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンターであることが示され
ている(甲102〜104)。原告カタログも、箱から出されてシールの貼\nられた状態の本件商品とともに、箱が表示されている(前記(2)ウ)。
そして、本件商品は、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプリンター
用のテープカートリッジであり、「『テプラ』PRO」シリーズのラベルプ
リンターを所持する者が、新たなテープカートリッジが必要となった場合
に購入する商品であるといえ、需要者は、「『テプラ』PRO」シリーズの
ラベルプリンター用テープカートリッジであること及びテープの色、幅等
の情報を基に、本件商品の中から特定の商品を購入すると考えられるので
あり、これらの情報は、本件商品の箱やインターネット上の記載において
表示されている。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された\n説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。
ウ 本件調査の結果は、本願商標の形状が明らかな写真を示した上で回答さ
せたところ、自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び
商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ
(TEPRA)」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答によ
る質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼった。
また、本件調査では、設問の中で、回答の理由を聴取し、その理由から
明らかにいい加減な回答(ノイズ)をしたと判別できる調査対象者を除い
た集計も行ったが、ノイズを除くと、上記写真に撮影された商品を販売す
る企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.
0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、ノイズを除くと、上
記写真から「テプラ(TEPRA)」の商品名を選択した者は回答者全体の
35.8%にすぎないという結果となった。
エ 上記アからウまでの事情を総合すれば、本件商品が販売開始から約30
年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願
商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということ
はできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至った
と認めることはできず、この判断を覆すに足りる事情は認められない。
◆判決本文