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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

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令和5(行ケ)10066  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。 本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n

ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮 径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの 凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取 できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。 そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工 を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実 的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的 な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売 業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最 終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考 えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し た被告の主張をそのまま採用することはできない。 よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、 6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採 用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判 断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5 関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認 定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方 向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言 及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面 における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。 1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類 否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。 しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、 3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの 字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい 美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象 が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共 通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観 を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判 断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。

◆判決本文

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