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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

類似

令和2(ワ)14629  意匠権侵害差止等請求事  意匠権  民事訴訟 令和3年9月7日  東京地方裁判所

 意匠権侵害事件です。東京地裁46部は、両者は類似していないとして請求を棄却しました。

 ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様において共通し,また,具体的構\ 成態様のうち,共通点1から5において共通する。 このうち,本件意匠の基本的構成態様は,需要者の注意を引くべき形状等\nとはいえず,類否判断に当たって,それが共通することを大きく取り扱うこ とは相当ではない。 具体的構成態様の共通点のうち,共通点1及び2は,需要者の注意を引く\nべき形状等に係るものであり,これらが共通することは,類否判断に影響を 与える。もっとも,渦流生成部において,捕捉部を中心とする等角度位置に 配置された複数の斜面体を設ける構成を有する公知意匠があり(前記\n),この点を特に大きく取り扱うことは相当とはいえない。 共通点3から4は,フランジ部の形状等であり,需要者が注意を引くべき 部分の形状等ではなく,また,フランジ部においてその形状等が占める割合 も大きくなく,類否判断に与える影響は小さいといえる。
イ 本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,差異点1から6において異なる。\n差異点1から4は,渦流生成部の形状であり,注意を引くべき形状等に関 するものである。そして,本件意匠においては,渦流生成部を形成する4個 の斜面体が,段差構造によって境界を形成するものであり,渦流生成部を形\n成する斜面体が,段差構造によって境界を形成し,斜面体を区切る構\造体が ないという形状等が,注意を引くべき形状等に含まれるといえるところ,差 異点1は,その形状等に係るものである。本件意匠が上記の形状等であるの に対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰 部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰\n部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチ ャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上から だけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別 紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・ 被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部\nは平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構\造であることを認識 するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突 出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰 部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また, 本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部 が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。こ れに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自 体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより 斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという 印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の 類否判断に大きく影響を与える。 差異点2(斜面体の個数)及び3(斜面体の形状)も,需要者の注意を引 くと考えられる渦流生成部の形状に係る差異であり,類否判断に影響を与え るといえる。もっとも,本件意匠と被告意匠において,斜面体の形状は,い ずれも最も長い曲線が内側に湾曲する3つの線で囲まれるものであり,その 形状の差は大きなものとはいえない。そして,本件意匠と被告意匠では,こ のような形状の斜面体がいずれも捕捉部を中心として等角度位置に配置さ れていて,斜面体の形状に大きな差がないことからも,その個数が6個であ っても4個であっても,数個の斜面体で構成されているとの印象を与える側\n面があり,個数の差が美感に与える影響は必ずしも大きなものであるとはい えない。差異点4(捕捉部の形状)は,需要者の注意を引くと考えられる捕 捉部の形状に係る差異であり,本件意匠の捕捉部には整流体がないのに対し, 被告意匠には,本件意匠にはない整流体があり,それが膨出していることか らも,類否判断に一定の影響を与えるといえる。 差異点4から6は,いずれも,需要者の注意を引くとはいえない,フラン ジ部における差異であり,その差異も大きくなく,類否判断に与える影響は 大きくないといえる。
ウ 以上によれば,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で共通し,具体的\n構成態様においても,注意を引くべき形状等に係る共通点1及び2において\n共通する。もっとも,本件意匠の基本的構成態様は,注意を引くべき形状等\nとはいえず,また,具体的構成態様の共通点も類否判断に与える影響を特に\n大きく取り扱うことは相当ではない。 他方,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様の差異のうち,差異点1は,\n本件意匠において特に注意を引くべき形状等に関する差異であり,被告意匠 には本件意匠には見られない堰部があるのであり,前記のとおり,それが類 否判断に与える影響は大きい。また,差異点4も類否判断に一定の影響を及 ぼす。 これらからすると,本件意匠と被告意匠の差異点から受ける印象は,本件 意匠と被告意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものであるといえる。よ って,被告意匠は,本件意匠に類似していないというべきである。
(7) 原告は,本件意匠も被告意匠も,堰部の有無にかかわらず,内側に向かう渦 の流れという美感が共通するので,堰部の有無は美感判断に影響をしないと主 張する。既に説示したとおり,内側に向かう渦の流れという美感自体は,公知 意匠にも共通するありふれた意匠であり(公知意匠1から4),この点を共通 にすることを類否判断で大きく扱うことは相当ではない。 また,原告は,公知意匠1から4のヘアキャッチャーに係る意匠はいずれも, 正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出していたところ,本件 意匠も被告意匠もこれがなく,全体的に平面的な美感を共通にしていると主張 する。上記公知意匠における渦流壁は,フランジ部よりも上部に張り出し,ま た,平面視において占める面積は大きく,被告意匠の堰部は,公知意匠の渦流 壁に比べれば,その存在感は大きくない。しかし,渦流生成部を区分けする構\n造体がフランジ部よりも上部に張り出していない意匠自体は公知であったと いえる上(公知意匠5),本件意匠は渦流壁,堰部に相当する部位を全く有して いないのに対し,被告意匠は堰部を有しているのであって,堰部の存在の有無 自体が類否判断に大きな影響を与えるというべきである。原告の指摘は前記判 断を覆すに足りるものではない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10053  意匠権侵害行為差止請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。

 本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による 商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部 について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり, ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐 体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上 端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング が縦長略長方形状であるものと認められる。 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上 部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出 しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜 させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ 部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出 し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右 側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2), 4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点 に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に 与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側 部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁 下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。) に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突 出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり, 正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意 匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受 ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった 美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ る。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)第16017号

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