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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

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令和3(ネ)10058  損害賠償等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 遠隔監視システムについて、均等侵害が第1要件を満たさないと判断した1審の判断が維持されました。

なお,事案に鑑み,念のため,被告製品の均等論の第1要件の充足につい て判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事 項を総合すれば,本件発明1は,従来の遠隔監視システムでは,施設の侵入 者があったり,施設において異常が発生した場合に,当該施設の所有者や管 理責任者が一次的に当該侵入や異常発生を知ることができず,また,警備会 社からの二次的な通報により上記所有者や責任者が侵入や異常発生を知るこ とは可能であるが,これらの者が外出している場合等には警備会社が通報を\nすることができないといった課題があり,こうした課題を解決するために, 構成要件1Bないし1Gの構\成を採用し,施設の監視対象領域を監視する監 視装置からのメッセージと監視装置によって得られた画像の情報が当該施設 の所有者や管理責任者に対応する顧客の携帯端末に通知又は伝達されること により,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握することが できるとともに,監視装置から受理された画像の略中央部分の画像からなる コンテンツを携帯端末に伝達することにより,表示装置が小さい携帯端末で\nも顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,さらに,カメラ\nの「パンニング」を含む携帯端末からの遠隔操作命令により「パンニング」 に従った領域を特定し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを備 え,顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるよう にしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部からの侵入や異常の発 生を知り,その内容を確認することができるという効果を奏するようにした ことに技術的意義があるものと認められる(【0004】ないし【0007】)。 このような技術的意義に鑑みると,本件発明1の本質的部分は,1)何れの 場所においても顧客が携帯し得るものとして,監視装置からの異常検出によ って監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」 とし,2)「携帯端末」に伝達する画像は,略中央部分の画像領域から構成さ\nれ,3)携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し,その領 域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより,4)表示装置が小\nさい携帯端末でも,顧客により十分に認識可能\な画像を表示することができ,\nさらに,携帯端末からの遠隔操作命令により,顧客が参照したい領域を特定 して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。 すなわち,単にセンサの情報伝達の宛先を警備会社の中央コンピュータから 施設の所有者等の携帯端末に切り替えたことのみに重きがあるわけではなく, 何れの場所においても顧客にとって携帯が容易で,操作等が迅速かつ簡便で あるためには表示装置が小さい端末とならざるを得ない面があるところ,そ\nうであっても,外部からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認するこ とが十分に可能\な構成を有することが本件発明1の本質的部分であるという\nべきである。なお,本件発明2及び3は本件発明1(請求項1)の従属項で あり,また,本件発明5は,本件発明1の遠隔監視方法の発明を監視制御サ ーバに関する発明としたものであるから,これらの発明の本質的部分もこれ に同様である。
これに対し,被告製品は,監視装置からの異常検出によって監視装置によ り撮影された画像データを伝達する端末は,携帯電話のような表示装置が小\nさい端末ではなく,また,端末からの遠隔操作命令により受理された画像の うち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠 隔操作命令を受理し,その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含ま ないため,顧客が何れの場所においても施設の異常等を適切に把握すること ができ,表示装置が小さい「携帯端末」でも顧客は十\分に認識可能な画像を\n表示することができ,顧客が参照したい領域を特定して「携帯端末」に提示\nすることができるようにしたことにより,施設の所有者や管理責任者が外部 からの侵入や異常の発生を知り,その内容を確認することができるという本 件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。 したがって,被告製品は, 本件各発明の本質的部分を備えているものと認 めることはできず,被告製品の相違部分は,本件各発明の本質的部分でない ということはできないから,均等論の第1要件を充足しない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件各発 明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。\n

◆判決本文
1審はこちらです。

◆令和1(ワ)21597

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令和3(ワ)2526  発信者情報開示請求事件 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 発信者情報開示の前提として、著作権侵害が争点となりました。動画のテロップ全体からの翻案であると判断されました。

 本件テロップと本件記事の各内容を比較すると,本件記事には本件テロップと完全に一致する表現が多数含まれる。他方,相違する部分は,句読点の有無や助詞の違い,文言の一部省略等の僅かな相違のほか,例えば,次のような相違部分が存在する。これらの相違部分は,表\現の手法等に若干の違いが見られるものの,内容的には,本件テロップの表現を若干修正したり,要約又は省略したり,前後の表\現を入れ替えるなどしているにとどまり,実質的にほぼ同一の内容を表現したものといえる。\n
1) 本件テロップ:「ドイツ出身のヴァレンティンさんは幼い頃からずっと動物 を大切に思ってきました。」
本件記事:「この感動のストーリーは2人の人間から始まります。その1人がヴァ レンティンさん。ヴァレンティンさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切 に思ってきました。」
2) 本件テロップ:「2人はボツワナで自然保護プロジェクトを立ち上げました。 野生動物の保護を目的とするプロジェクトです。」
本件記事:「2人はボツワナで野生動物の保護を目的とする自然保護プロジェクト を立ち上げました。」
3) 本件テロップ:「メスのライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」
本件記事:「そのメスの幼いライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」
4) 本件テロップ:「けれどシルガにとって,人間に慣れてしまう事は危険な事で す。」
本件記事:「しかし,人間に慣れてしまってはいけません。」
5) 本件テロップ:「そう決めた2人は決して他の人間をシルガと交流させたりし ませんでした。」
本件記事:「他の人間とは交流させませんでした。」
6) 本件テロップ:「2人は本当にシルガの為を思い,幸せを願っていたのです。」
本件記事:「2人はシルガの幸せ,野生に戻る事を1番に考えていました。」
7) 本件テロップ:「ヴァレンティンさんとミッケルさんは,シルガの世話をする だけでなく狩りの仕方も教えます。」
本件記事:「2人は世話だけでなく,狩りの仕方も教えます。」
8) 本件テロップ:「何度も何度も練習を重ね,ようやくシルガが獲物を狩る事が 出来るようになった頃,2人は複雑な気持ちに襲われはじめていました。」
本件記事:「狩りの練習を何度も練習を重ね,ようやくシルガは獲物を狩る事が出 来る様になった頃,2人は複雑な気持ちになりました。」
9) 本件テロップ:「そしてシルガは予想を上回る反応を示します。」
本件記事:「そこで予想を超える事に。」
10) 本件テロップ:「ずっとヴァレンティンさんに会えずに寂しく思っていた事が, その表情から伝わります。」
本件記事:「ずっとヴァレンティンさんに会えず,さみしかった事が分かります。」
(2) 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製 することをいうところ(著作権法2条1項15号),著作物の複製とは,既存の著作 物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表\現することなく,その表現上の本質\n的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解される。また,\n翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表\現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表\現上の本質的な特徴 を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最 高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻 4号837頁参照)。
本件記事は,記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲5)や,上記のとお り,本件テロップと完全に一致する表現を多数含み,相違する部分も,句読点の有無等の僅かな形式的な相違のほか,本件テロップの表\現の僅かな修正,要約,前後の入れ替え等にとどまり,実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると,本件テロップに依拠したものと認められると共に,著作物である本件テロッ\nプの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。\n

◆判決本文

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令和3(ネ)10007  特許権侵害差止請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年11月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では方法クレームについても、物クレームと同じく「連通可能な室」として、構\成要件を具備しないと判断されました。これに対して、知財高裁は方法クレームについては「室」の意義について「連通可能な」という要件がないものも含むとして、方法クレームの侵害と判断しました。

「室」という語は,一般的には,「へや」すなわち「物を入れる所」などを 意味する語であるところ(甲27),構成要件1A及び2Aの文言のほか,前記2(2)の本件各訂正発明の概要及び前記(1)の本件各訂正発明の課題を踏まえると,構成要件1A及び2Aの「複数の室を有する輸液容器」の要件は,複数の輸液を混合\nするのに用いられる従来技術であるそのような輸液容器を用いる輸液製剤であるこ とを示すことによって,本件訂正発明1及び2の対象となる範囲を明らかにするも のである。本件各訂正発明の課題は,そのような輸液容器を用いて,あらかじめ微 量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤で,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を\n提供することにあるから,本件各訂正発明における「室」の意義の解釈に当たって は,上記の一般的な意義のほか,輸液容器における「室」の意義も考慮するのが相 当である。
そこで検討すると,本件特許の出願当時には,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた空間を「室」と呼んだ上で(乙31),その「室」の中に 収納される,薬剤を収容する構成部材を「容器」と呼んだり(甲25,乙17),その「室」の外側に付加して空間を構\成する部材を「被覆部材」と呼んだり(乙16),その「室」に連通される「ポート部材」が薬剤を収容し得る機能を備えるものとしたり(乙12),その「室」を分割したものを「区画室」と呼んだり(乙5)すると\nいった例があった。本件特許の出願後も,上記基礎となる一連の部材によって構成される「室」の中に収納される,薬液を収容する構\成部材を「容器」や「袋」などと呼ぶ例が複数みられるが(甲14,15,乙19),そのように,輸液等を収容す るという機能を有する部分を指す語として「室」以外の語が加えられている中においても,「室」という語は,基本的に,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,輸液を他の輸液と分離して収容しておくために仕切られた相対的に大きな空間を指すものとして用いられ,「容器」や「袋」の\n付加の有無にかかわらず,そのような「室」が複数あるものが「複室輸液容器」な どと呼ばれていたことがうかがわれる(なお,上記のうち,甲15は,大きな「隔 室」の中に「内袋」があり,その「内袋」が更に複数の「薬剤収容室」で構成されているというものであり,「室」の中に「室」があるという点では,やや珍しいもの\nともみられるが,各「隔室」と各「薬剤収容室」は,あくまでそれぞれ一連の部材 によって構成されている。)。そして,上記のような「室」の理解は,本件明細書の記載とも整合的である。\n
(イ) 上記(ア)の点を踏まえると,構成要件1A及び2Aにいう「室」についても,輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間であって,\n輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間をい うものと解するのが相当である。
イ 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」について\n
もっとも,本件訂正発明1の構成要件1A及び本件訂正発明2の構\成要件2Aに おいては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可 能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。そうすると,上記特定により,「室」が「連通可能\な」ものであることが明確にされているというべきであるから,構成要件1A及び2Aにおける「室」については,「外部からの押圧によって連通可能\な」ものであることを要するものである。
ウ 被控訴人製品について
(ア) 「室」について
a 先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)ア及び弁論の全趣旨 によると,被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及\nび小室Vの外側を構成する一連の部材によって構\成される空間であるといえる。
b もっとも,小室Tに関しては,外側の樹脂フィルムによって構成される空間が,上記のとおり輸液容器全体の構\成の中で基礎となる一連の部材によって構成さ\nれる空間である一方で,連通時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,小室Tの外側の樹脂フィルムに\nよって構成される空間に輸液が直接触れることがない。そのため,小室Tの外側の樹脂フィルムによって構\成される空間が,前記の「室」の理解のうち,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大きな空間に当たるかどう かが問題となり得る。 しかし,輸液容器全体の構成を踏まえると,被控訴人製品における小室Tは,外側の樹脂フィルムによって構\成される空間の中に,内側の樹脂フィルムによって構\n成される空間(本件袋)を内包するという二重の構造になっているにすぎず,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための空間としての構\成において,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間に機能の優劣等があるとはみられない。この点,小室Tと中室との間の接着部について,内側の樹脂フィルムの接着を剥離した\n場合のみならず,外側の樹脂フィルムの接着のみを剥離した場合であっても小室T の外側のフィルムの内側の空間に中室に収容された輸液が流入してこれが本件袋の 外面に直接触れることとなり,中室内の輸液と本件袋の中の液との分離の態様に少 なからず差異が生じるのであり,輸液同士の混合という点では専ら小室Tの内側の 樹脂フィルムの接着部分が意味を持つとしても,隣接する中室内の輸液からの分離 という観点からは,外側の樹脂フィルムにも重要な意義があることは明らかである。 そして,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)は,被控訴人製品に係る輸液容器において基礎となる一連の部材とは別の部材により構\成され,上記基礎となる一連の部材に構成を追加する部分である(このことは,小室Vの内側の樹脂フィルムによって構\成される空間と対比しても,明らかである。)。以上の諸点を踏まえると,小室Tについても,被控訴人製品に係る輸液容器の構成の中で基礎となる一連の部材である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)をもって,「室」に当たるとみるのが相当である。
c ところで,被控訴人製品の小室Tの外側の樹脂フィルムによって区画される 空間のように,輸液容器全体の構成の中で基礎となる一連の部材によって構\成され る空間が,輸液を他の輸液と分離して収容しておくための仕切られた相対的に大き な空間であるといえるか疑問があり得るような場合に,本件各訂正発明の「室」を どのように理解すべきかについて,本件訂正発明1及び2に係る請求項の文言上は, 必ずしも明らかであるといえないから,そのような場合における「室」の理解につ いて,本件明細書の内容を踏まえた検討も行うと,本件明細書の段落【0024】 は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよ いし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様 の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよい し,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発 明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否か を決定する不可欠の要素ではないと解される。 それゆえ,前記bのような理解は,本件明細書における「室」の理解にも沿うも のであるといえる。
d 以上に対し,被控訴人らは,被控訴人製品において,小室Tの外側の樹脂フ ィルムによって構成される空間(本件小室T)は存在しないと主張するが,2枚の樹脂フィルムの間に空間が構\成されている(その空間中には,2枚の内側の樹脂フィルムの間の空間(本件袋)が包摂されている。)こと自体は,明らかであり,被控 訴人らの主張は採用することができない。
(イ) 「連通可能」について
a 前記(ア)のとおり,「室」については理解すべきものであるとしても,前記イ のとおり,構成要件1A及び2Aにおいては,「室」が「連通可能\」であることが要 件とされているところ,前記(ア)bで既に指摘したとおり,小室Tに関しては,連通 時にも,内側の樹脂フィルムによって構成される空間(本件袋)にのみ輸液が通じることとされており,「室」である外側の樹脂フィルムによって構\成される空間(本件小室T)に輸液が通じることはない。 そうすると,結局,被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構\成要件1A及び2Aを充足しないというべきである。
b これに対し,控訴人は,本件小室Tに収納された本件袋に輸液が通じること は,本件小室Tに輸液が通じることといえる旨を主張する。この点,前記(ア)dのと おり,本件小室Tという空間が本件袋という空間を包摂していることは確かに認め られるが,そのことと,本件袋との連通をもって本件小室Tとの連通と評価し得る かは,別の問題である。本件訂正発明1及び2に係る請求項1及び2が「室」と「容 器」を明確に分けていることや,前記ア(ア)で指摘した「室」と「容器」についての 技術的な関係のほか,本件明細書の段落【0020】の「微量金属元素収容容器は, それを収納している室と連通可能であることが望ましい。」という記載は,容器の連通が室の連通とは異なるものとみる見方に沿うものであることからすると,控訴人\nの上記主張を採用することはできない。
(3) 争点(4)について
構成要件10A及び11Aの「複室輸液製剤」にいう「室」についても,前記(2) アと同様に解するのが相当である。 そして,構成要件1A及び2Aと異なり,構\成要件10A及び11Aについては, 「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,先に引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(7)イ及び弁論 の全趣旨により,被控訴人方法は,構成要件10A及び11Aを充足するというべきである。\n
4 争点(2)(構成要件10C及び11Cに係る点に限る。)について
前記3(2)及び(3)で指摘した点を踏まえ,先に引用した原判決の「事実及び理由」 中の第2の1(7)イ及び弁論の全趣旨によると,被控訴人方法においては,「含硫ア ミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収 容している室」である中室とは「別室」である小室Tの外側の樹脂フィルムによっ て構成される「室」(本件小室T)に,構\成要件10C又は11Cで特定された微 量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器である,小室Tの内側の樹 脂フィルムによって構成される本件袋が収納されていると認められる。したがって,被控訴人方法は,構\成要件10C及び11Cを充足する。

◆判決本文

1審は、構成要件1C、10Cを具備しないので、技術的範囲に属しないと判断していました。

◆平成30(ワ)29802
以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨 認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又は不十\分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤 に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく 保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。\nしかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏 症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の\n原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填 し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金 属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという 技術的課題が生じていた。
本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと\nは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい\nることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい う効果を奏するようにしたものであるというべきである。 そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな\nく,同室と連通可能な他の室に収納するという構\成を採用したところにある ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に\nついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する\n溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構\成が採用されたものということができる。すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構\成要 件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその\n一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構\造を備えていることを要すると解するのが相当であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。 この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通 可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ\nれていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0 024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元 素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする 記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構\成の ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また, 後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している 室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたものにすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構\造となっていない構成\nのものまで含まれることを意味したものと解することはできない。 したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他, 本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見 当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると, 及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を 覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し ないと認められる。 そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の 空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと, 同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。\nしたがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認められない。\n

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令和3(ネ)10047  損害賠償請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 自ら作詞作曲した楽曲を含めてライブハウスでの演奏利用許諾の申込みをJASRACにしましたが、そのライブハウスが著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由に拒否されました。裁判所は、著作権等管理事業法16条の「正当な理由」に当たると判断し、請求を棄却した1審判断を維持しました。

(ア) 控訴人X1は,被控訴人は形式的な権利者にすぎないから,利用申\n込みを拒否するに当たり,実質的な権利者である委託者や受益者の意思 を確認すべき義務があり,本件利用申込み1の対象楽曲には控訴人X1\nの作詞及び作曲に係る本件3曲が含まれていたから,通常の委託者であ れば許諾を望むと考えられるにもかかわらず,控訴人X1及びブラステ ィーの意思の確認を怠った旨主張する。
しかし,まず,引用する原判決の第2の2(6)エ(補正後のもの)のと おり,被控訴人は,本件著作権契約によりその権限を得たブラスティー から本件3曲の楽曲の著作権の信託譲渡を受けており,形式的にも実質 的にも本件3曲の著作権者であることから,被控訴人が「形式的な権利 者」であるとする控訴人X1の上記主張はそもそも当を得ない。 また,この点を措くとしても,被控訴人は,著作者等から委託を受け て多数の楽曲の著作権等を集中的に管理しており,委託者もこうした管 理の実態を前提として楽曲の委託をしているから,利用者からの申込み\nを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者 の利害や実情にとどまらず,著作権等に関する適正な管理と管理団体業 務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演 奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反す\nるか否かの観点から判断されるべきことは前記アで説示したとおりであ る。そして,本件においては,通常の委託者の合理的意思に照らし,同 申込みを拒絶することについて「正当な理由」があると認められること\nは,前記イで説示したとおりであり,その結論は,本件利用申込み1に\n本件3曲が含まれているか否かによって左右されるものではないから, 受託者である被控訴人が本件3曲に関して委託者兼受益者であるブラス ティーの意向を確認すべき義務があったとはいえず,まして本件3曲に 関する本件約款上の受益者でもない控訴人X1の意向を確認すべき義務 があったとは到底いえない。
(イ) 控訴人X1は,本件利用申込み1は別件訴訟を有利にするためにA\nらの呼びかけに応じたものではなく,Aらとも親しい関係にはないし, 本件店舗は控訴人X1がライブ演奏を行う1つの店にすぎず,平成28 年4月6日に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏した際は1曲140円 を供託した上で演奏しており,著作権侵害に加担していないなどと主張 する。 しかし,前示のとおり,本件利用申込み1は,著作権の管理に係る被\n控訴人の方針や別件一審判決を不服とし,ライブ演奏の予約済みの出演\n者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に利用申\n込みをするようホームページで公表された後にされたものであり,また,\n控訴人X1は,本件店舗に21回の出演歴があり,別件一審判決直後も 無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していたこと等を踏まえると,控訴人 X1の主観的意図はともかく,外形的,客観的に見れば,同申込みは,\n無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を使用してきた本件店舗の 運営に賛同し,支援するものと受け止められてもやむを得ないものであ る。なお,本件全証拠を精査しても,平成28年4月6日に開催された 本件店舗のライブ演奏に当たって,控訴人X1が被控訴人管理楽曲の演 奏使用料を供託したとの事実を認めることはできない(本件店舗の経営 者らに被控訴人管理楽曲の使用料を手渡したとしても,それが供託に当 たるものではないことはいうまでもない。)。
エ また,控訴人X1は,当審においてそれぞれ以下のとおり主張するが, いずれも理由がない(なお,前記イ及びウと重複する部分は説示しない。)。
(ア) 控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(ア)のとおり,被控訴人は,係争 中の店舗における演奏を予定する第三者からの演奏利用許諾の申\込み については一切受け付けない方針の下,本件利用申込み1について「正\n当な理由」の審査を行うことなく,本件店舗が使用料未清算であるとい った理由のみで拒否したものであり,こうした拒否は,使用料を徴収す るための私的制裁措置であって独占禁止法19条で禁止される優越的 地位の濫用に当たる旨主張する。
確かに,被控訴人は,被控訴人管理楽曲の利用許諾を得ることなく営 業の一環として演奏した店舗との間では,その店舗が過去の楽曲の使用 料を清算しなければ,新たに被控訴人管理楽曲に係る演奏の利用許諾を しないこととしており,また,その店舗において無許諾の利用があり, 楽曲の使用料の清算が未了であれば,第三者からその店舗における被控 訴人管理楽曲の利用の申込みがあっても,その楽曲の利用がその店舗の\n営業の一環として行われるものである限り,利用の許諾をしない取扱い をしている(前記認定事実1(4)イ)が,楽曲の演奏の利用許諾の申込み\nについて拒否したことに「正当な理由」があるか否かは,演奏利用許諾 の申込みの時点における事情を踏まえた事後的な法律判断というべきで\nあり,演奏利用許諾の申込みを拒否した際に示した理由に拘束されるも\nのではない。そして,本件においては,上記申込みの時点でAらと被控\n訴人間には著作権侵害等に係る裁判が係属しており,被控訴人は,平成 22年9月24日以降,職員を本件店舗のライブに客として派遣し,ラ イブ名,演奏曲目や演奏時間等の実態調査等をしており,また,本件店 舗のホームページ等を調査することを通じて,控訴人X1の本件店舗の 出演歴や本件申込みがされた経緯等を把握していたことが認められるの\nであり(前記認定事実1(2),(3)ア,イ,(4)ア),このような事情を踏 まえると,本件利用申込み拒否1に「正当な理由」があることは,現に\n拒否時に示された理由等にかかわらず,揺らぎ得ない。そして,本件利 用申込み拒否1に「正当な理由」がある以上,それが私的制裁措置であ\nって優越的地位の濫用に当たるなどという控訴人X1の上記主張も当を 得ないというほかない。
なお,控訴人X1は,前記第2の4(1)ア(イ)のとおり,被控訴人が控 訴人X1による本件利用申込み1を拒否した当時,別件訴訟の判決は確\n定していなかったにもかかわらず,被控訴人は,本件店舗の経営者らが 被控訴人管理楽曲の使用料相当額を清算していないものと決めつけて控 訴人X1による被控訴人管理楽曲の演奏利用許諾の申込みを拒否してお\nり,こうした被控訴人による拒否は優越的地位の濫用であり,本件約款 における受託者としての忠実義務にも反するとも主張する。しかし,債 権者は,事実的,法律的根拠があれば,判決の確定を待つことなく,債 務者との間の権利義務関係があることを前提とした措置を執ることはで きる(判決の確定により債権が存在しないことが明らかとなったときは, その措置により生じた損害を賠償すべきことは無論である。)ところ, 被控訴人による措置が事実的,法律的根拠を明らかに欠いているといっ た事情は見当たらない(後に別件訴訟はAらの敗訴で確定している。)。 したがって,被控訴人が講じた措置は優越的地位の濫用に当たらず,受 益者との関係で忠実義務に反するものでもない。
(イ) また,控訴人X1は,前記第2の4(1)イのとおり,控訴人X1が被 控訴人管理楽曲の利用料の支払を申し出て音楽著作物の演奏利用許諾を\n求めているのであるから,受託者である被控訴人がこれを拒否すること は信託法上の忠実義務に反する旨主張する。
しかし,前記アで説示したとおり,被控訴人が多数の委託者からの委 託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く 楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲の集中管理を前 提とした委託をしている以上,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関 する適正な管理と管理団体としての業務全般の信頼の維持という観点を 軽視することは相当でない。そして,本件利用申込み1がされた経緯や\n時期等を踏まえると,控訴人X1が使用料の支払を申し出て被控訴人管\n理楽曲の演奏利用の許諾を求めたとしても,これに許諾を与えることは, 本件店舗の運営姿勢を是認し,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に 支障を生じさせることにつながりかねないものであるといわざるを得ず, 通常の委託者の合理的意思に反するものであって,被控訴人の管理団体 としての業務の信頼を損ねかねないものである(なお,本件のような状 況下においては,支払がされる確実性についての信頼関係も希薄になら ざるを得ないと解される。)。控訴人X1の上記主張は,個別の委託者 兼受益者の実情を重視して本件利用申込み1を拒否することが特定の楽\n曲の委託者兼受益者の信託法上の忠実義務に反するというものであって, 被控訴人による多数の楽曲に係る著作権等の集中管理の実態を見ないも のというほかなく,当を得ない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10048  著作権侵害行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年10月27日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 講義レジュメについて、著作物性なしとした1審判断を維持しました。

 著作権法は,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであっ\nて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号) をいい,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有 形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると, 著作物の複製(同法21条)とは,当該著作物に依拠して,その創作的表\n現を有形的に再製する行為をいうものと解される。 また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ, その表現上の本質的な特徴である創作的表\現の同一性を維持しつつ,具体 的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表\ 現することにより,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感\n得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。 そうすると,被告レジュメが原告ワークブックに係る著作物を複製又は 翻案したものに当たるというためには,原告ワークブックと被告レジュメ との間で表現が共通し,その表\現が創作性のある表現であること,すなわ\nち,創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。\n一方で,原告ワークブックと被告レジュメにおいて,アイデアなど表現そ\nれ自体ではない部分が共通するにすぎない場合や共通する表現がありふ\nれた表現である場合には,被告レジュメが原告ワークブックを複製又は翻\n案したものに当たらないと解される。
イ 控訴人会社は,原告ワークブックと被告レジュメは,全体の構成が実質\n的に同一であり,しかも,原判決別紙2レジュメ対比表及び原判決別紙5\n原告ワークブックに関する主張対比表の「原告らの主張」欄記載のとおり,\n具体的な記述部分における同一性を有する表現は創作性のある表\現であ るから,被告レジュメは原告ワークブックを複製又は翻案したものに当た る旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 原告記述部分1ないし24及び被告記述部分1ないし24に係る複 製又は翻案について
a 原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5のとおり,原告ワ\nークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,それぞれ, 会議において,会議での約束事として,そのまま「やってみる」こ と(番号1),「携帯」電話を切っておくこと(番号2),「問題」 を見つけたら,「問題を指摘する」のではなく,「解決策を提示す る」こと(番号3),「わかりません」という回答はしないこと(番 号4),「発言」は,「短く」,「簡潔に」,「直接的な表現で」\n行うこと(番号5)を内容とする記述である点で共通する。 しかしながら,原告記述部分1は「まずは本書の手順どおりその ままやってみる。」であるのに対し,被告記述部分1は「とりあえず 身を預けてやってみる。」,原告記述部分3は「問題を見つけたら問 題を指摘するのではなく,解決できる人に解決策を提示する(自分 自身かもしれない)。」であるのに対し,被告記述部分3は「問題を 発見したとき,解決策を提示する。問題を指摘するだけは無し」,原 告記述部分4は「このワークブックが質問してくる質問に「わかり ません」という回答はなし。」であるのに対し,被告記述部分4は「侍 会議中,「わかりません」「ありません」という答えは無しでやっ てみる」,原告記述部分5は「発言は3Sにやる。(スリーエス:Short 短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的な表現で)」であるのに対し, 被告記述部分5は「発言は短く,簡潔に,直接的な表現でやる。」で あり,具体的記述における表現は異なり,共通性は認められない。\nそうすると,被告記述部分1ないし5と原告記述部分1ないし5 は,会議の約束事を説明した記述であるという点において共通して いるものの,その共通する部分は,会議における約束事をどのよう に取り決めるかというアイデアであって,表現それ自体ではない。\n
(b) 控訴人会社は,1)原告記述部分1ないし5及び被告記述部分1な いし5について,会議における約束事の表現の仕方にはいくつかの\n選択肢がある中で,一見当たり前と思われるような内容も約束事と してあらかじめ記載するという表現形式をとっている点で同一性\nを有しており,その同一性を有する部分は創作的な表現である,2) また,会議における約束事は多数あり,どの約束事を選択するか, その組合せ,約束事の表現の仕方については,その選択の幅は広く,\nアイデアの表現方法がただ1つしか存在しない場合,あるいは,1\nつでなくとも相当程度に限定されている場合には該当しないので あるから,原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の同 一性を有する部分はアイデアそのものではない旨主張する。
しかしながら,会議の冒頭で約束事を決めることや,当たり前の ことをあえてワークブックないしレジュメに記載するということ 自体は,アイデアにすぎないから,仮に,そうしたアイデアそのも のに個性の表れが認められるとしても,そのことをもって直ちに創\n作的表現部分に共通性があるとはいえない。また,アイデアの表\現 方法がただ1つしか存在しない場合,あるいは,1つでなくとも相 当程度に限定されている場合かどうかは,具体的表現を前提にその\n表現に創作性があるかどうかの考慮要素になり得るとしても,前記\n(a)認定の原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の共 通する部分がそもそも表現であるか,アイデアであるかの判断を左\n右するものではない。 したがって,控訴人会社の上記主張は,採用することができない。
(c)また,控訴人会社は,1)原告記述部分1ないし5と被告記述部分 1ないし5の5つの約束事が同一であり,約束事の1つ1つは短い 表現であるが,約束事は一体として意味を成すものであることから,\n原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5の表現を一体\nとしてみた場合には,相当程度の文章になるのであって,短い表現\nではない,2)これらの5つの約束事を全て記載した他の書籍やウェ ブページは見当たらず,約束事の1つ目に,手順どおりそのまま「や ってみる」という表現を選択していることには作成者の創意工夫が\n表れているなど,これらの5つの約束事の配置や文字列には作成者\nの創意工夫が表れており,ありふれた表\現とはいえないから,創作 的表現が共通する旨主張する。\nしかしながら,前記(a)認定のとおり,原告記述部分1ないし5と 被告記述部分1ないし5は,具体的記述における表現の共通性は認\nめられない。
また,原告記述部分1中の「まずは・・・そのままやってみる。」との 表現部分は,ウェブページ(乙16)において「素直にそのままや\nる」との記載が,書籍(乙20)において「おやくそく」,「まず はやってみよう」との記載が,それぞれ存在していること,会議中 の「発言」に関するものとして,原告記述部分5中の「発言は3S にやる。(スリーエス:Short 短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的 な表現で)」との表現部分は,ウェブページ(乙15)において「会\n議での発言は「3S」(Short=短く,Simple=簡潔で, Straight=直接的に)のルールでおこないましょう。」と の記載が存在することに照らすと,上記各表現部分は,いずれもあ\nりふれた表現であり,創作性があるとはいえない。\nしたがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(d)以上によれば,被告記述部分1ないし5が原告記述部分1ないし 5と共通する部分は,表現それ自体ではないから,被告記述部分1\nないし5は,原告記述部分1ないし5を複製又は翻案したものに当 たるものと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成31(ワ)4521

原告・被告物件などはこちら

◆資料1

◆資料2

◆資料3

◆資料44

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令和2(ワ)3474  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月19日  大阪地方裁判所

 一部については消滅時効により消滅し、102条2項における覆滅は2割と認定され、約70万円の損害賠償が認められました。

ア 本件発明1〜3の効果
本件発明の効果は,センサ保持具の回動を保持するための機械的な連結構造がコンパクトになること(【0014】),接続器を引掛型配線器具に掛着する作業に際して引掛型配線器具の掛着面を視認しやすく,作業が容易になると共に,作業の安全性も向上すること(【0016】),本体カバーを天井面に密着させることが可能になり,美観に優れた取付状態が得られること(【0017】)である。 要するに,本件発明の作用効果は,1)センサの回動構造のコンパクト化,2)引掛型配線器具の掛着面の視認性の向上,3)本体カバーの天井面への密着にあるといえる。
イ 本件発明の貢献の程度等について
本件発明は,センサを用いてランプを自動的に点灯・消灯する天井取付タイプの照明器具に係る発明であるから,主として屋内のトイレ灯などとして使用されることが想定される。そして,本件発明の実施品である照明器具の需要者は,新築建物に照明器具を設置する総合住宅メーカー等の業者と既存の照明器具を交換しようとする個人が想定されるところ,前記の効果1)〜3)は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。 もっとも,本件発明の効果1)については,センサを回動させることが前提となっているところ,屋内のトイレ灯等を想定すると,一度センサの検知範囲を確認して照明器具を設置してしまえば,後にセンサを回動させて検知範囲を変更する必要が生じることはそれほどないものと考えられるから,センサが取付後も回動可能であることの顧客誘引力は低いものと解される。また,本件発明の効果2)及び3)は,接続器等を引掛型配線器具に掛着した後,別体に形成された本体カバー及びセードを後付けすることによる効果であるため,本件発明によるのでなければ実現し得ない効果ではなく,例えば,周知技術1によっても実現することができる。そうすると,効果2)及び3)については,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視できるものではない。 さらに,被告は,そのカタログ(乙14)において,被告製品1の特徴として,人感センサ付,クイック点灯,引掛シーリング取付式,本体可動式,点灯照度調節機能付,点灯保持時間調節機能\付などを挙げているものの,掛着面の視認性や本体カバーが後付けであることについては触れていない。 以上によれば,本件発明は,センサの回動構造がコンパクトであるという効果(効果1))によりこれを実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえるものの,その程度は限られているというべきである。また,効果2)及び3)に関しては,本件発明は,本体カバーが後付けであり,外観上の体裁が同程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 効果1)について
本件発明の効果1)は,センサが回動可能であることを前提として,構\造をコンパクトにするものであるが,センサを回動可能としたのは照明器具本体(本体カバー,セード等)により検知範囲が制約されることに対処したものであるから,本体がコンパクトであることによってセンサの検知範囲に制約がなく,センサを回動させる必要がない製品も,本件発明の効果1)と同様の効果を奏しているものといえ,被告製品の競合品に該当するといえる。
証拠(乙11の1〜6,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付シーリングライト製品のうち,乙11の1の型番 LBC56975,乙11の4の型番 OL 013 180,OL 013 120,乙11の5の型番 IG20026C,乙11の6の型番 LE-3837 については,センサ保持具が大きく,本体がコンパクトではないが,その余のセンサ付シーリングライト製品は,いずれも被告製品と同等以下のコンパクトな形状を有しているものと認められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏するものといえる。
(イ) 効果2)について
本件発明の効果2)は,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることを前提とするが,照明器具が一般的な引掛型配線器具に掛着する形式であるか,電気設備工事を要するものであるかは,照明器具を交換しようとする個人の需要者にとっては大きな違いである。また,総合住宅メーカー等の事業者においても,引掛型配線器具を設置するか否かや施工の際の視認性は相応に商品選択に影響があると考えられる。そうすると,各被告製品の競合品といえる前提として,引掛型配線器具に掛着する照明器具であることが必要である。 証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28の被告指摘に係る製品は,いずれも引掛型配線器具に掛着する照明器具であり,被告製品と同等程度には掛着面が視認しやすく,効果2)と同様の効果を奏するものといえる。
(ウ) 効果3)について
証拠(乙20の1〜3,乙21の1〜5,乙22の1〜7,乙23の1〜3,乙24の1,2,乙25〜28)によれば,原告及び被告以外のセンサ付引掛シーリングライト製品のうち,乙21の1〜5の型番 IG20042C(以下「乙21製品」という。),乙23の1の型番 TGS-6119(以下「乙23の1製品」という。),乙23の2の型番 TZGS-6099(以下「乙23の2製品」という。),乙24の1の型番 SCL9NMS-HL(以下「乙24製品」という。),乙28の型番 TN-CLLS-L(以下「乙28製品」という。また,以上を併せて,「乙21製品等」という。)は,いずれも,本体カバーが天井面に密着した外観を有しており,効果3)を奏するものといえる。
(エ) その他
原告は,ランプ交換ができない LED 内蔵型照明器具は,ランプ交換を望む顧客の需要を満たすことができないので,競合品に当たらないと主張する。しかしながら,そのような需要者が存在するのか明らかではなく,そもそも,ランプ交換が可能であるか否かは本件発明の作用効果とは無関係である。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。\n
(オ) 以上より,乙21製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有する製品として,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものとみるのが相当である。 また,証拠(乙21の1,乙22の1,乙23の1,2,乙24の1,乙28)によれば,乙21製品等の販売開始時期は,乙21製品が平成16年4月,乙23の1製品が平成20年6月,乙23の2製品が平成22年2月,乙24製品が平成29年10月,乙28製品が平成28年7月であることが認められる。原告は,乙21製品について,平成16年〜平成20年のカタログに掲載された製品であり,平成21年9月1日に生産を終了したと主張するが,一般的にカタログに掲載された製品は特段回収等がされない限り数年程度は流通していると考えられ,被告製品の競合品に当たらないとはいえない。
もっとも,原告製品,各被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトの市場におけるシェアは明らかではなく,原告において,平成27年当時の住宅用照明のうち直付け型の居室外用の照明器具市場における原告のシェアが●(省略)●%であったことを自認するにとどまる。被告は,照明器具市場全体の売上のシェアや住宅用照明市場におけるシェア,LED シーリングライト市場におけるシェアを主張するが,原告製品,被告製品及び乙21製品等のセンサ付引掛シーリングライトは,そのごく一部であって,他の多数の照明器具が含まれるシェアから被告製品の競合品のシェアを推認することは困難である。 これらの事情を総合的に考慮すると,センサ付引掛シーリングライトの市場において原告製品及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2項に基づく損害額の推定に係る覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,その程度は限定的と考えるのが相当である。
エ 推定覆滅の程度 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件においては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるにとどまるとすべきである。
・・・
ア 証拠(乙10の1〜3)によれば,平成22年10月21日から同年11月5日にかけて,大手家電量販店チェーンの3店舗において,原告製品と被告製品3及び4が隣り合った状態で陳列され販売されたことが認められる。 一般に店舗において商品の陳列場所等は商品の売上に影響を及ぼす重要な要素であって,原告においても,営業担当者等を通じて,当然に自社製品や競合他社製品が家電量販店においてどのように陳列・販売されているかを逐次把握していたものと考えられるから,遅くとも平成22年11月5日には,原告において,被告製品3及び4の存在を知ったものと認められる。 そして,原告製品と各被告製品は同種の用途の競合品であって,大手家電量販店チェーンにおいては概ね統一的な商品陳列を行っているものと考えられることからすれば,各被告製品は,家電量販店において基本的に原告製品と隣接して陳列されていたと考えられ,被告製品3及び4以外の各被告製品についても,その販売開始から間もなく,原告は,各被告製品の存在を知ったものと認められる。
イ 本件発明は,前記のとおり,効果1)〜3)を奏するものであり,これらの効果は外観上明らかであって,各被告製品の外観から,各被告製品が本件特許権の侵害品であることの疑いを持つことは十分に可能\である。 原告は,本件発明の構成要件 A〜D は,内部構造に係るものであるから,被告製品の外観からは判明しないと主張するが,被告製品の外観からして本体カバーに被覆された接続器やセンサ保持具が存在することは明らかであり,センサ保持具が天井面と略平行な面内で回動可能\に構成されていることは推測することができる。そして,証拠(乙10の1〜3)によれば,家電量販店の陳列棚において,天井を模した造作があり,引掛型配線器具が設けられ,各被告製品を現実に組み立て,取り付けることができるようになっていたものと認められ,原告において,各被告製品の取付状態を確認することもできたものと考えられる。また,証拠(甲5の1〜3,甲7,乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,各被告製品を毎年発行する被告のカタログに掲載すると共に,各被告製品の仕様や構\造を記載した「施工・取扱説明書」をインターネット上等で公開していたことが認められ,カタログには引掛シーリングに取り付けるタイプであること,人感センサがあり,本体可動式であること等が記載され,施工・取扱説明書には,購入者又は工事店が各被告製品を取り付けることができるよう,各部を分解した構造図とセンサの可動範囲等が記載されているのであるから,被告はこれらの情報を秘匿せず,一般に公開していたのであって,原告は,各被告製品の存在を知り,その外観から本件特許権侵害の疑いを持った時点で,各被告製品の構\造等を容易に検討することができたといえる。
ウ 原告は,遅くとも平成22年11月5日までに被告製品3及び4の発売を知り,その余の各被告製品についても,発売後まもなくその事実を知ったものと認められ,各被告製品の構造等を知ることもできたのであるから,製品が競合する関係にある原告としては,その時点で,損害賠償請求をすることが可能\な程度に,損害及び加害者を知ったと認めるのが相当である。

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令和3(行ケ)10061  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年11月4日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判事件です。商標権者の使用について立証責任は権利者にありますが、特定技術を用いて製造されたか否かの立証までは、被告の防御の準備の機会を著しく損なうとして、使用義務を果たしていると知財高裁2部は、審決の判断を維持しました。

ア 原告は,本件商標の使用が特定乳化技術を用いて製造した化粧品ではない化 粧品についてのものであることまで被告が主張立証しなければならないと主張する が,既に判示したとおり,同主張を採用することはできない。
イ 原告は,その主張の根拠として商標法50条2項を挙げるところ,同項は, 「その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をし ていることを被請求人が証明しない限り」と定めるが,上記のうち「その請求に係 る指定商品又は指定役務」という文言から,直ちに,本件商標の使用が特定乳化技 術を用いて製造した化粧品ではない化粧品についてのものであることまで被告が主 張立証しなければならないとはいえない。
商標法50条が定める取消審判請求の審理の対象となる指定商品の範囲は,設定 登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人において取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決めら\nれるものではあるが,審判請求書の「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・ 範囲を画し,取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範 囲を決定づけるという意味のほか,被請求人における防御の要否の判断・防御の準 備の機会を保障するという意味でも重要なものというべきである。
しかるに,本件のように,要証期間における本件商標の指定商品のうち関連部分が第3類「化粧品」であったにもかかわらず,専ら審判請求人において,本件商標の登録の日の後に認知されてきたものとみられる一方で要証期間を通じて周知のものであるとも認めら れない商品の製造方法である特定乳化技術に基づいて,本件審判請求と対の審判請 求とに取消審判請求を分けた上で,被告に対し,対の審判請求においては化粧品が 特定乳化技術に基づいて製造したものであることも含めた本件商標の使用の主張立 証を求め,本件審判請求においては特定乳化技術を用いて製造した化粧品でないこ とをも含めた本件商標の使用の主張立証を求めることは,被告の防御の準備の機会 を著しく損なうものであって,前記のとおり,被請求人において,審判請求に係る 指定商品又は指定役務の「いずれかについて」の登録商標の使用を証明すれば足り ると定める商標法50条2項が,上記のような要請まで含むものとは解されないと ころである。
特に,本件のように,製造方法に係る特定を審判請求人が任意に付し た場合に,商標権者において,自らの商品の製造方法を開示して立証しない限り, 商標登録の取消しを免れないとみることは,商標権者に過度の負担を課すものであ って不合理であることが明らかであり,そのような立証を求めるに帰する原告の主 張は,信義誠実の原則に照らしても採用することができない。

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令和3(行ケ)10006  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月26日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が維持されました。阻害要因についても無しと判断されました。

 ア 前記1(3)によれば,引用文献2技術事項は,物質に特有な高吸収X線を 利用することにより,荷物や人体内に隠匿した麻薬,あるいは爆薬や象牙 などの禁制品の有無を検査できるものであるから,人体用だけでなく,荷 物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるとい える。そうすると,食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明 1の技術分野と,医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分 野は,X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるとい える。 また,引用発明1においては,判定部24において「各ライン走査ごと のデータ中の最大画素濃度のデータを所定の閾値と比較してX線吸収率 が大きい金属異物等の混入の有無が検出濃度レベルと閾値との比較によ り判定される」(M)ものであり,ワークWのX線画像の検出濃度レベルと 所定の閾値とを比較することにより,金属異物等の混入が有る場合の濃度 レベルと混入が無い場合の濃度レベルとを判定する必要があるから,ワー クWのX線画像における金属異物等の混入の有無の濃度レベルの間の差 異を明確にしなければならず,X線画像において目的とする物体を透過し たX線の検出出力と前記目的とする物体以外の部分を透過したX線の検 出出力との間に明確な差異を有するX線画像を生成するという課題を有 している。一方,引用文献2においては,従来のX線撮影装置では「目的 とする臓器などを明瞭に表示するようにしたコントラストの高いX線像\nを得ることが難しい」(【0002】)という課題を有し,また,異なる波長 の単色X線を用いて得られたX線像の差分から目的とする部分を際立た せて表示する方法を用いる場合,「異なる時刻に撮影したX線像の差分を\n取ると,位置がずれてしまい明瞭な動脈像を生成することができない」 (【0004】)という課題を有しているところ,引用文献2技術事項によ り「それぞれピクセルへの入射X線量をカウントしカウント値の差分を取 ると,軟部組織や骨に吸収されたX線が相殺され血管部分のみに差が現れ て冠状動脈のコントラストの大きな鮮明な映像を得ることができる」(【0 021】)としている。コントラストが大きなX線画像は,物体を透過した X線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力 との間に明確な差異を有するものであるから,引用発明1と引用文献2技 術事項とは課題を共通するといえる。 さらに,引用発明1と引用文献2技術事項は,いずれも被測定物の中の 外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し,当該 X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ,加え\nて,引用文献2には,「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1 次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され,被測定 物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており,引用発明1の X線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは,X線画像を 被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。 以上のように,引用発明1と引用文献2技術事項との間に,技術分野, 解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると,引\n用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあ るといえる。
イ 前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,原告は,引用発明1のX線検査装置 は異物の有無を低コストで検査する分野の装置であり,簡易な検査作業の 実現を目的とするのに対し,引用文献2技術事項のX線検査装置は,コス トを度外視して検査する分野の装置であり,被曝防止を目的とするもので あるから,当業者は,異物検出の精度向上のためにわざわざ引用発明1に 引用文献2技術事項とを組み合わせたりする動機付けない旨主張する。 まず,引用文献2には,「撮影は1度で済み」(【0010】),「エネルギ ーを変えて検査するときにも1度の撮影で済むので検査時間が短縮する 利点がある。」(【0022】)との記載があるが,それは副次的なものにす ぎず,引用文献2技術事項の課題は,複雑で高価な装置を用いずにコント ラストの高いX線像を得ることである(【0003】ないし【0007】, 【0010】,【0022】,【0024】)。したがって,引用文献2技術事 項のX線検査装置は,コストを度外視して検査する分野の装置であると認 めることはそもそも相当でない。また,引用発明1が,コンベア搬送路上 のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であること からして,引用発明1が製品製造現場用の装置であり,引用文献2の記載 上は,引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定 しているとしても,コストをどの程度かけるかということと技術分野とは 直結しないところ,製品の性質,製造現場の規模,製品の販路等も度外視 して,製品製造現場用の装置であれば,おしなべて性能の低い製品で足り,\n当業者は性能の向上には意を払わず,医療検査装置用の技術には関知しな\nいなどとは当然にいえることではなく,そのようにいえる証拠は提出され ていない。
異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいう\nべきところであり,前記アのとおり,引用発明1の異物検査装置に,技術 分野,課題・解決手段,作用・機能,効果とも密接に関連ないし共通する\n引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。
ウ 前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,原告は,1つの「設定時X線画像」 を基準とする引用発明1に,複数個の画像を基準とし,その基礎とする技 術的思想を異にする引用文献2技術事項を適用することには阻害要因が ある旨主張する。 ここで,「設定時X線画像」とは,実検査前にサンプルを使用した検査に おいて得られたX線画像データとして設定情報記憶部23に保持された 初期設定データの1つであり(引用文献1の【0052】ないし【005 5】),当該品種に設定された各種パラメータや検出条件及び判定条件にお ける検査における代表画像とされ(【0042】),実検査時に実検査時のX\n線画像Wiと共に表示器26に表\示され,実検査中に両者を照合すること により,検査の条件に実検査品が適合したものか否かを判定することや (【0046】,【0059】ないし【0061】),品種選択操作を視覚的に 容易に把握することに役立てるものである(【0062】,【0063】)。 したがって,検査の目的に合わせたX線画像を得られるならば「設定時 X線画像」も同時に得られる関係にあるところ,引用文献2技術事項によ ると複数のX線画像を生成することができ得るが,特に感度のよいエネル ギー領域を選択して目的部位の像を鮮明化したり,異なるX線エネルギー 領域における出力信号の差分に基づいて画像化するなどして,最適な条件 で選んだ画像を1つ生成できることも明らかである。そして,当業者が, 異物検査の目的に応じて最適な画像を選択してそれを代表画像とするこ\nとができないとする理由もない。 そうすると,引用発明1のX線画像を得る手段として引用文献2技術事 項を適用することには,阻害要因はない。
エ 前記第3の1(1)イ(イ)bのとおり,原告は,低コストでの簡便・容易化 を目指す引用発明1に,高精度で複雑・高度な引用文献2技術事項を適用 することには,甲1発明の目的から乖離・矛盾するから阻害要因がある旨 主張する。 しかしながら,前記イにて説示したとおり,技術分野としての観点から 見た場合に,あたかもX線検査装置が低コストでの簡便・容易化を目指す 装置の分野の技術と複雑・高精度で複雑・高度な装置の分野の技術に二極 化していて,両者の技術が相容れないとは認められない。その上,引用文 献2技術事項の課題は,前記イのとおり,複雑で高価な装置を用いずにコ ントラストの高いX線像を得ることであり,前記アのように,被測定物を 1次元走査して測定するような簡易な方法も示唆されている。また,引用 文献2に禁制品の有無を検査することもできるとの示唆があるからとい って,引用文献2技術事項が空港や税関等で用いる検査装置のみに用いら れる技術ととらえることは,同技術の正しい理解とはいい難い。 したがって,原告の上記主張は前提を欠くものであって,採用すること ができない。
オ 以上のとおり,引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせる動機付 けがあり,阻害要因があることもうかがわれないところ,引用発明1にお いて,引用文献2技術事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の発明特 定事項を得ることが容易であることは,本件決定が引用する取消理由通知 書が説示するとおりであり,誤りは認められない。

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令和3(ワ)2322 著作権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 プロレスラーの衣装に関する著作権侵害事件です。黙示の許諾があったと判断されました。この種の業務についても、きちんと契約が必要ということですね。

 事案に鑑み,まず,争点1−4について検討する。
(1)ア 前記前提事実によれば,原告X1は,令和元年7月6日,プロレスラーと してのデビューに当たって必要となるコスチュームの制作について被告か ら相談を受け,衣装制作会社及びデザイナーを紹介するとともに,被告から 送信を受けた本件デザイン画のデータについて,「アイドルらしくて,いい よ。」,「コスチューム代,俺が出そうか?」,「絶対にクオリティは下げ ないで。」などのコメントをしているとの事実が認められる。これによれば, 原告X1は,本件コスチュームの制作に積極的に協力し,その代金の負担ま で申し出ているのであり,完成したデザイン画及びそれに基づいて制作され\nる本件コスチュームの著作権の使用について特段の制限や条件を付したこ とをうかがわせる事実は存在しない。
イ 同様に,原告X1は,令和元年8月8日,被告から,完成した本件コスチ ュームを着用した写真の送付を受けたが,これ対して特段の異議を述べるこ とはなく,被告のデビュー後も,被告とLINEを通じてやり取りを行って いるが,その際に,本件デザイン画や本件コスチュームの使用について特段 の異議を述べたとの事実も認められない。
ウ このように,原告X1は,被告が令和元年8月10日にプロレスラーとし てデビューすることを認識した上で,本件デザイン画や同デザイン画をベー スとしてコスチュームを制作することを認識し,同日の前に実際に制作され たコスチュームのデザインを確認していながら,その使用についてデビュー の前後を通じ何ら異議を述べていないのであるから,仮に原告会社が本件デ ザイン画及び本件コスチュームの著作権を有するとしても,被告に対してそ の使用を許諾していたものというべきである。
(2)ア これに対し,原告会社は,本件デザイン画につき,著作権法30条の3に いう「検討の過程における利用」において必要と認められる限度で使用する ことは承諾していたが,当該限度を超えて,本件デザイン画と同一又は類似 のコスチュームを使用することは承諾していなかった旨主張する。 しかし,原告X1は,被告が完成した本件デザイン画を使用して本件コス チュームを制作し,これを着用して活動することを認識した上で,同デザイ ン画の使用に関して何らの制限や条件を付していなかったと認められるこ とは前記判示のとおりである。 したがって,「検討の過程における利用」のみを許諾していたとの原告会 社の主張は採用し得ない。
イ 原告会社は,原告X1が令和元年8月8日に本件コスチュームの写真を確 認した際に異議を述べなかったのは,2日後に被告のデビューが控えていた ためである旨主張する。 しかし,原告X1は,令和元年8月8日より以前の段階から,本件デザイ ン画に基づいて本件コスチュームを制作していることを認識していたと認 められ,デビュー後の被告とのやりとりにおいても,本件デザイン画及び本 件コスチュームの使用について何ら異議を述べていないのであるから,原告 X1が本件コスチュームの写真を確認したのが被告のデビューの2日前で あったとしても,同事実は,原告会社が本件デザイン画及び本件コスチュー ムの使用について承諾していたとの結論を左右しない。 したがって,原告会社の上記主張は採用し得ない。

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平成29(ワ)1390 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  大阪地方裁判所

 パナソニックの知財信託会社による侵害訴訟です。技術的範囲に属しないと判断されました。対象特許は7件です。多くは29条1項2号(公然実施)による権利公使不能です。事件番号が平成29・・なので、提訴から判決まで4年かかったことになります。委託者および受託者が原告となっています。

 本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲の記載によれば,同発明に係るランプ は,「基板を保持する金属製の基台」(構成要件 1-1F’)をその構成要素の1つと\nして備えるところ,「前記基台は,前記長尺状の底部と,前記底部の短手方向の一 方の端部に設けられた第1壁部と,前記底部の短手方向の他方の端部に設けられた 第2壁部とを有し」(構成要件 1-1I’),「前記第1壁部及び前記第2壁部は,前 記底部の前記基板側に衝立状に形成されて」(構成要件 1-1J’)いることが特定さ れている。 これによれば,基台の底部の短手方向の両端部にそれぞれ設けられた第1壁部と 第2壁部は,底部に対し基板側に形成されるものであり,その形状ないし状態が 「衝立状」であることが示されている。もっとも,いかなる形状等をもって「衝立 状」とするかについては記載がなく,その意味が一義的に明らかとはいえない。
イ 本件明細書1の記載等
「第1壁部」及び「第2壁部」について,本件明細書1【0055】には,第1基 台 50 が,長尺状の底部(底板部)と,底部における第1基台 50 の短手方向(基板 11 の幅方向)の両端部に形成された第1壁部 51 及び第2壁部 52 とを有すること, これらの壁部は,第1基台 50 を構成する金属板を折り曲げ加工することによって\n衝立状に形成されていることが記載されている。また,同段落には,同明細書図 3B と合わせ,LED モジュール の基板 11 は第1壁部 51 と第2壁部 52 とによっ て挟持されており,LED モジュール は,第1壁部 51 と第2壁部 52 とによって 基板 11 の短手方向の動きが規制された状態で第1基台 50 に配置されることも記載 されている。本件訂正における本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J'の追加は,こ の記載等を含む本件明細書1の記載による開示に基づいて行われたものである(甲 83)。 さらに,広辞苑(乙291)においては,「衝立」とは「衝立障子の略」であり, 「衝立障子」とは「屏障具の一。一枚の襖障子または板障子に台をとりつけ,移動 便ならしめたもの。・・・玄関・座敷などに立てて隔てとする。」と説明されている。 加えて,「衝立障子」は,一般に,それが設置される面に対して略直立するものと 把握される。他方,「状」とは,物事の形,姿,有り様,様子を意味し,「○○状」 とは,ある物事の形等を「○○」に例える際に用いられる表現である。\n以上の本件明細書1の記載等を踏まえると,第1壁部及び第2壁部は,基台の底 部の基板側に衝立状に形成されることにより基板11を挟持し,短手方向の動きが 規制する機能を果たすものであるところ,その形状等は上記意味での「衝立障子」\nに例えられるものである必要があることが理解できる。
ウ 小括
以上より,本件訂正発明1−1に係る特許請求の範囲及び本件明細書1の記載等 並びに「衝立」の一般的な意味等に鑑みると,第1壁部及び第2壁部が「衝立状」 に形成されるとは,これらの壁部が基台の底部の基板側に,同底部に対して略直立 した形状に形成されていることを意味するものと解される。これに反する原告の主 張は採用できない。
(2) 被告製品1〜5,7〜10及び12の構成要件充足性
被告製品1〜5,7〜10及び12の断面図は,別添「被告製品断面図」のとお りである。 このうち,被告製品4及び5については,第1壁部及び第2壁部に相当すると見 られる部位は,基台の底部から基板側に形成された基台の一部が内側に向けて鋭角 に傾斜した形状に形成されており,底部に対して略直立した形状とはいえない。 次に,被告製品1〜3,7〜10及び12については,第1壁部及び第2壁部に 相当すると見られる部位には,基台の底部から基板側に略直立といってよい形状に 延出している部分もあるものの,これと一体のものとして,基板とほぼ同じ高さで 基台の底部に平行に形成された部分もあるため,全体としては「コの字」又は「T 字」と表現すべき形状に形成されているものというべきであって,底部に対して略\n直立した形状に形成されているとはいえない。 したがって,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,第1壁部及び第 2壁部に相当すると見られる部位が底部の基板側に「衝立状」に形成されておらず, 本件訂正発明1−1の構成要件 1-1J’を充足しない。
(3) 小括
以上により,被告製品1〜5,7〜10及び12は,いずれも,本件訂正発明1 −1の技術的範囲に属しない。
4 充足論のまとめ
本件発明1−1,1−3,1−16及び1−17及び並びに本件訂正発明1−1 7につき,対象となる各被告製品が各発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に\n属することは,前記(第1の5)のとおりである。 また,本件発明1−14並びに本件訂正発明1−18及び1−20については, 前記2のとおり,被告製品1〜5,7〜16は,対応する各発明の構成要件を充足\nし,その技術的範囲に属すると認められる。 他方,本件訂正発明1−1については,被告製品1〜5,7〜10及び12は, いずれもその構成要件 1-1J'を充足せず,その技術的範囲に属しない。したがって, 本件訂正発明1−1については,その余の点を論ずるまでもなく,訂正の再抗弁は 認められない。
5 403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10) 事案に鑑み,まず,403W 製品に基づく先使用権の成否(争点10)について検 討する。
(1) 403W 製品の先使用について
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) 被告は,平成24年4月23日頃,韓国で製造された 403W 製品480セッ トを輸入した(乙143,315)。
(イ) 被告は,同月25日,ミツワ電機株式会社関西支社に対し,403W 製品24 台を含む商品の見積書を作成,送付し,同月26日,同社関西特機営業所から受注 して,同月28日,これを井づつやに納品した(乙167,168)。 その後,井づつやに納品された上記 403W 製品24台は,同所のエントランスロ ビー等において使用されていたところ,被告は,平成30年7月23日までに,井 づつやからこれを入手した。この被告 403W 製品には,製造ロット番号として 「120416」が表示されているところ,これは,当該製品の製造年月日が平成24\n年4月16日であることを意味する。(乙166,弁論の全趣旨)
(ウ) 被告は,本件チラシ(平成24年1月発行)に,平成24年3月初旬発売予\n定の商品として 403W 製品を掲載した(乙138)。また,被告は,本件カタログ (同年2月発行)にも 403W 製品を掲載したところ,他の掲載商品には発売予定時\n期を明記したものが見られるが,403W 製品にはそのような記載はない(乙35)。
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,被告は,遅くとも本件優先日である 平成24年4月25日以前に,403W 発明の実施である事業をしていたことが認め られる。
(2) 403W 発明の構成等\n
ア 403W 発明の構成のうち,上記第2「10」(被告の主張)(3)における構成 1- 3a10〜c及び e並びに 1-14a10〜f及び hについては,原告 PIPM も明ら かには争わないから,これを認める。 上記構成 1-3a10〜c及び eは,本件発明1−1の構成要件 1-1A〜C 及び E, 本件発明1−3の構成要件 1-3A〜C 及び E,本件発明1−16の構成要件 1-16A〜 C 及び F,本件発明1−17の構成要件 1-17A〜C 及び E 並びに本件訂正発明1− 17の構成要件 1-17B’〜D’にそれぞれ相当するものといえる。また,構成 1-14a10 〜f及び hは,本件発明1−14の構成要件 1-14A〜E,G 及び本件訂正発明 1−18の構成要件 1-18B’〜F’,I’にそれぞれ相当するものといえる。 さらに,403W 製品は,直管形 LED ユニットであり,樹脂(ポリカーボネート) 製カバー(筐体)の長手方向の両端に口金が設けられているところ,その一方には 電源内蔵ユニット用専用口金を備え,この口金のみが,電源内蔵用専用ソケット\n(給電側)を通じて交流電力を受けるものである(乙35,299)。そうすると, 403W 発明は,本件発明1−16の構成要件 1-16E 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17E’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18G’,H’に相当する構成を\n備えていることが認められる。 加えて,403W 製品は,既存の器具本体をそのまま残し,専用ソケット及び直管形\nLED ユニットをリニューアルして照明装置として使用する製品シリーズに含まれる製 品である(乙35)。したがって,ランプである 403W 製品に係る発明(403W 発明) は,そのランプが取り付けられた照明装置に係る発明に含まれるといえる。このため, 403W 発明は,本件発明1−17の構成要件 1-17F,本件訂正発明1−17の構成要\n件 1-17A’及び G’並びに本件訂正発明1−18の構成要件 1-18A’及び K’に相当する構成を備えていることが認められる。\n
イ 403W 製品の輝度均斉度等
(ア) 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
a LED モジュールの寿命は,製造業者等が指定する条件下で点灯したとき, LED モジュールが点灯しなくなるまでの総点灯時間,又は全光束が点灯初期に測 定した値の70%に下がるまでの総点灯時間のいずれか短い時間とされているとこ ろ,高光束 LED を1万時間連続通電してその光出力の変化を調査した実験データ によれば,1チップ方式の白色 LED の寿命(光出力が70%になる時間)は4万 5000時間と推定されるとの実験データがある。なお,原告パナソニックのカタ\nログ(乙34)には,直管形 LED ランプについて,4万時間経過後の光束維持率 が95%であることが示されている。 また,LED を連続的に点灯し続けると,LED チップを封止する樹脂(以下 「LED 樹脂部」という。)が黄変し,光量の低下を招くことがある。さらに,LED 照明は,使用する場所の環境温度が高くなるほど劣化が加速されると共に,使用環 境下に硫化ガス等の発生要因がある場合,LED 樹脂部及び接合部にダメージを与 えることなどによっても,劣化が加速する場合がある。 (以上につき,上記のほか,甲37〜39)
b 被告 403W 製品は,平成24年4月28日の井づつやへの納品後,被告が平 成30年7月に入手するまで,6年以上の間継続的に使用されていたものと見られ るところ,その LED 素子の中央部分はやや黄変しており(乙217,218), カタログに記載された初期値を100%とした場合の被告 403W 製品の全光束(全 ての方向に放出する光束の総和)は89.0%,光効率は92.6%に減少してい る(乙216)。もっとも,被告 403W 製品の LED1個あたりの配光データは, 新品の LED の配光データが概ね120度(ランバーシアン配光の場合)であるの に対し,114度及び115度である(乙214,215の3,215の4)。 また,403W 製品のカバーと 402W 製品のカバーは,共通の部材(ポリカーボネ ート)を使用した同じ仕様のものであると認められるところ(乙35,298,2 99,315),被告 403W 製品と未使用の 402W 製品について,それぞれカバー を交換して全光束及び y/x 値を測定した結果,いずれも交換せずに測定した結果と の差は,1%以下(全光束)及び0.01(y/x 値)であった(乙316〜318, 弁論の全趣旨)。
(イ) 以上の事情を踏まえると,被告 403W 製品の LED 素子は,6年以上使用を 継続されているものであり,LED 樹脂部の黄変及び全光束や光効率の減少は生じ ているものの,その配光特性は,初期値(ランバーシアン配光)と大きく異ならず, 著しい経時変化は見られないものといってよい。403W 製品の光拡散性を有するカ バー部分についても,被告 403W 製品には,上記継続使用期間にもかかわらず,全 光束や y/x 値の測定値に影響を与えるような劣化等が生じているとはいえない。 そうすると,被告 403W 製品について,被告が平成30年7月23日に測定した y 値=15.7mm,x 値=11.7mm,y=1.34x との測定結果(乙166)及び令和2年1 月29日に測定した y 値=15.6mm,x 値=11.7mm,y=1.33x との測定結果(乙29 7)は,いずれも 403W 製品の初期値とほぼ同等のものと見るのが相当である。
(ウ) そうすると,403W 発明は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合 う前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y=15.7mm,x=11.7mm であり,y=1.34x」との構成すなわち構\成 1-3d及び 1-14g10)を有するといえる。 したがって,403w 発明は,本件発明1−1の構成要件 1-1D,本件発明1−3の 構成要件 1-3D,本件発明1−14の構成要件 1-14F,本件発明1−16の構成要\n素 1-16D 及び本件発明1−17の構成要件 1-17D 並びに本件訂正発明1−17の 構成要件 1-17F’及び本件訂正発明1−18の構成要件 1-18J’に相当する構成を有し\nていると認められる。
ウ 以上より,403W 発明は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1 −18の構成要件を充足する構\成を備えたものであり,これらの各発明と同一性が 認められる。
エ 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告 403W 製品について,長時間の使用による経年変化,LED 素子の樹脂やせや黄変,使用環境の影響等により,被告測定時点での被告 403W 製 品の y/x 値等が初期値のものと同等とはいえない旨を主張する。 しかし,上記のとおり,被告 403W 製品については,長時間の使用による経年変 化等により,LED 素子の中央部に黄変が見られ,また,カタログ値と比較して全 光束や光効率が10%程度減少しているという事実は認められるものの,それ以上 に,LED 素子の劣化(凹み)をはじめ,配光特性に影響を及ぼし得るような LED 素子の劣化等を裏付ける具体的な事情は見当たらず,カバー部材についても,y/x 値等に影響を与えるような劣化が生じているといった事実の存在を具体的にうかが わせる事情は見当たらない。本件交換実験の結果に関しても,上記のとおり,交換 に係る製品が共通の部材を使用した同じ仕様のものであると認められることに鑑み ると,原告 PIPM が指摘する事情を考慮しても,その結果の信用性を直ちに疑うべ きものとまではいえない。 その他原告 PIPM が縷々指摘する事情を踏まえても,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
(3) 先使用権の範囲
上記(1)及び(2)によれば,被告は,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及 び1−18の内容を知らないで自らこれらに含まれる 403W 発明をし,本件優先日 の際に,日本国内において,その発明の実施である事業をしている者と認められる。 したがって,被告は,403W 発明及び上記事業の範囲内において,本件各発明1並 びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る特許権について,通常実施権を有す る。 また,403W 製品は,x 値及び y 値の関係性を特定する技術的思想が明示的ない し具体的にうかがわれるものではないものの,実際にはその x 値及び y 値の関係性 により,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17及び1−18に係る構成要件に\n相当する構成を有し,その作用効果を生じさせている。加えて,403W 発明につき, 照明器具としての機能を維持したまま,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17\n及び1−18の特定する x 値及び y 値の関係性を充たす数値範囲に設計変更するこ とは可能と思われる。このため,被告製品1〜5及び7〜16は,いずれも,\n403W 発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式であるにとどまる ものといえる。 そうすると,被告による被告製品1〜5及び7〜16の製造販売は,被告の上記 通常実施権の及ぶ範囲内に含まれる。
(4) 小括
以上のとおり,被告は,403W 発明に基づく上記通常実施権により,業として被 告製品1〜5及び7〜16を製造販売し得ることから,その余の点につき論ずるま でもなく,原告 PIPM は,被告に対し,本件各発明1並びに本件訂正発明1−17 及び1−18に係る本件特許権1を行使し得ない。
6 無効理由9(クラーテ製品2)の公然実施による新規性欠如)の有無(争点12)
(1) 公然実施の有無
ア 証拠(以下に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。
(ア) リコーは,平成23年7月7日,直管形 LED ランプである「クラーテ P シ リーズ40形」を同月末発売予定である旨をプレスリリースした。また,同社は,\n平成24年1月現在の製品を掲載したカタログ「<クラーテ>P シリーズ」(乙1 71の1)にクラーテ製品2)を掲載しているところ,同カタログ掲載の仕様は,上 記プレスリリースに係る製品の仕様と概ね同一である。さらに,同社は,遅くとも 同月には,クラーテ製品2)を含むシリーズ製品を販売していた。(上記のほか,乙 170,172,173,368)
(イ) 被告は,令和元年9月12日終了のオークションにより,クラーテ製品2)1 4本(被告クラーテ製品2))を入手したところ,これらの被告クラーテ製品2)には, いずれも,製造ロット番号として「1203」が表示されている。これは,当該製品\nの製造年月が平成24年3月であることを意味する。(乙172,174,186, 288)
イ 上記各認定事実を総合的に考慮すれば,クラーテ製品2)は,遅くとも平成2 4年1月頃には,リコーから販売されたことによりその構造が解析可能\な状態に至 ったものと認められる。 これに対し,原告 PIPM は,クラーテ製品2)の上市時期が明らかでないこと,仮 に被告クラーテ製品2)の製造日が平成24年3月であっても,製品製造後すぐ出回 るとは考えがたいことなどを主張する。 しかし,上記のとおり,リコーがクラーテ製品2)を平成24年1月には販売して いたことが認められるのであって,それから約3か月が経過した本件優先日時点で は,クラーテ製品2)が実際に市場に出回っていたものと見るのが合理的かつ相当で ある。したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
ウ 小括
以上より,クラーテ発明2)は,本件優先日より前に日本国内において公然実施を された発明といえる。
(2) クラーテ発明2)の構成等\n
ア クラーテ発明2)が構成 1-20a’12〜f’12 及び h’12 を有すること,これらの構\n成がそれぞれ本件訂正発明1−20の構成要件 1-20A’〜F’及び H’に相当すること については,原告は明らかに争わないことから,これを認める。なお,本件訂正発 明1−20の構成要件 1-20D’の「「基台の上に実装された」の意義について, LED チップが実装された容器が基板を介して間接的に実装された構成を含むこと\nは上記2のとおりである。 イ 被告クラーテ製品2)14本の構成 1-20g’12 に係るパラメータ(y/x)の被告 測定値は,1.208〜1.278 であった(乙289)。また,関連無効審判における検 証手続の結果によれば,被告クラーテ製品2)は,x 値は 8.6mm,y 値は 10.39mm であり,y≒1.208x であった(乙346,365,弁論の全趣旨)。 そうすると,クラーテ発明2)は,「前記複数の LED チップの各々の光が前記ラン プの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅を y(mm)とし,隣り合う 前記 LED チップの発光中心間隔を x(mm)とすると,y≒1.208x の関係である」(構\n成 1-20g’12)の構成を有するものと認められる。この構\成は,本件訂正発明1−20 の構成要件 1-20G’に相当する。
(3) したがって,本件訂正発明1−20は,本件優先日より前に日本国内におい て公然実施をされた発明であるクラーテ製品2)に係る発明と同一の発明であるから, 法29条1項2号に違反し,無効にされるべきものと認められる。すなわち,本件 訂正発明1−20に係る本件訂正によっては無効理由が解消されないことから,本 件訂正発明1−20に係る訂正の再抗弁は認められない。
(4) 原告 PIPM の主張について
原告 PIPM は,被告測定値のばらつきや経年変化等の事情を指摘して,被告測定 値が初期値と等しいとはいえない旨を主張する。 この点,被告クラーテ製品2)については,オークションの出品者による説明とし て,中古品であること,商品の状態として「やや傷や汚れ」があること,使用期間 が2年弱であること,電気工事業者による取り外し作業の際に「ざっくりと中性洗 剤で管だけ拭きあげた状態」で丁寧な梱包により発送すること,「RICOH ロゴマ ークあたり」が黒ずんで見えるものの,LED は使用が進んでも黒ずむことはない ため元々の仕様であることなどが記載されている(乙288)。 もっとも,クラーテ製品2)は,光束が70%まで低下するまでの定格寿命が4万 時間とされている(乙170の3,171の1)。このため,被告クラーテ製品2) につき,仮に25%に相当する1万時間使用された事実があったとしても,配光特 性に影響を与えるとは必ずしもいえず,現に,被告クラーテ製品2)のうち2本の配 光特性はいずれも117度である(乙320)。口金ピンやランプマーク側の管端 部の黒ずみについても,その存在から直ちに他の部位にも同様の黒ずみが存在し, 配光特性に影響を与えるとは必ずしも推認し得ないことから,同様である。また, クラーテ製品2)については,光触媒の膜が剥がれて本来の効果が得られなくなる場 合があるとして,製品の表面を強く擦らないようにとの注意喚起がされているもの\nの(乙170の3),「ざっくりと中性洗剤で」「拭き上げ」るといった態様がこ れに含まれるとは考えられない。むしろ,LED ランプの手入れ方法としてこのよ うな方法が奨励されているとも見られる(乙35)。さらに,被告クラーテ製品1) (乙169,214,215によれば,未使用品と認められる。)と被告クラーテ 製品2)のカバー部材を交換した測定によっても,両者の半値幅等に有意な差異はな い(乙370)。 これらの事情等を踏まえると,被告クラーテ製品2)につき,経年変化等によりパ ラメータの値に変化が生じているとは考えられず,上記(2)での認定に係る被告ク ラーテ製品2)の被告測定値及び関連無効審判の検証手続における測定値は,初期値 と概ね等しいものと見られる。 したがって,この点に関する原告 PIPM の主張は採用できない。
7 まとめ
以上のとおり,本件各発明1(並びに本件訂正発明1−17及び1−18)に係 る本件特許権1に基づく原告 PIPM の請求については,被告に 403W 発明に基づく 先使用権が成立することにより,原告 PIPM は,被告に対し,本件特許権1を行使 し得ない。他方,本件訂正発明1−1に係る訂正の再抗弁は,被告製品1〜5,7 〜16がその技術的範囲に属さないことにより,また,本件訂正発明1−20に係 る訂正の再抗弁は,クラーテ発明2)の公然実施を理由とする新規性欠如の無効理由 があり,本件訂正によって無効理由が解消されないことにより,いずれも再抗弁の 成立が認められない。 以上より,その余の点について論ずるまでもなく,被告による本件特許権1の侵 害は認められないから,原告 PIPM の本件特許権1の侵害に基づく請求は,いずれ も理由がない。

◆添付1

◆添付2

◆添付3

◆添付4

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令和2(ワ)26567    著作権  民事訴訟 令和3年8月18日  東京地方裁判所

 取説について著作物性なしと判断されました。不存在確認訴訟なので被告が著作権者です。なお、被告は答弁書すら提出していません。説明書の一部は下記です。
「この水虫(白癬)爪専用クリアーネイル&ヤスリセットは100年以上の歴史を誇るDrスコール社が科学的に研究を重ねて作られた独自技術の集大成です。解決法として従来製品よりも簡単に優しく治療できます。
水虫(白癬)菌の発育を妨げ菌の発生を防ぎます。
水虫(白癬)菌の成長と始発を予防し清潔な爪に貢献をします。」\n

 被告説明文の「ア」部分は,本件商品がドクターショール社の製品であるこ とや,本件製品が従来製品よりも簡単かつ優しく治療できること,水虫菌の発 生・発育を防止することなどを記載するものである。このような製品の出所, 特性や効能については,その性質上,消費者が過大な期待を抱くことのないよ\nうに,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に説明することが求められてお り,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,表\現の選択肢は限られたもの となると考えられる。このため,上記「ア」部分の記載に創作性があるとは認 められない。
(2) 被告説明文の「イ〜エ」部分は,本件商品が適合する症状や,本件商品の使 用方法,爪白癬(爪水虫)が生じる原因について記載したものである。これら についても,利用者が誤った場面や方法で本件商品を使用すること等を避ける ために,前記ア同様,その性質上,客観的な事実をできる限り正確かつ明確に 説明することが求められており,思想又は感情を創作的に表現する幅は狭く,\n表現の選択肢は限られたものとなると考えられる。このため,上記「イ〜エ」\n部分の記載についても創作性があるとは認められない。

◆判決本文

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令和3(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件で、1審は4億4000万円の損害賠償を認めましたが、原告が控訴しました。知財高裁は約7億円の損害賠償を認めました。

ア 特許法102条3項による損害額として,侵害品の売上高を基準とし, そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定する場合,実施に対し受 けるべき金銭の料率の算定に当たっては,1)当該特許発明の実際の実施 許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界におけ る実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわ ち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特 許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,
4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。以下,順に 検討する。
1) 当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明 らかでない場合には業界における実施料の相場等 本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示 す証拠はない。
・・・
本件訴訟において,本件特許権の技術分野については実際の実施許 諾契約の実施料率を示す証拠はない。 本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」) の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3〜 4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5〜6%未満の例 や実施料率2〜3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1〜 2%未満は3件(18.8%)とされており,また,他の調査結果や データベースには,実施料率3%又は6%の例や実施料率5〜8%又 は3%の例もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野でも, 実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実 施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。 なお,一審被告は,前記第2の3 本件訴訟の 事案と本件ライセンス契約はいずれも圧縮機を販売するための特許権 の実施許諾を対象とするものであって,実施許諾の対象は同じと評価 すべきであるから,本件ライセンス契約を重視すべきであると主張す るが,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●このようなライセンス契約の事例を他の事例より 特に重視すべき理由があるとはいえず,圧縮機分野の実施料率の一例 としてみるのが相当である。
また,一審被告は,甲19ないし21に掲げられた事例は,いず れも,一審被告や一審原告とは何ら関係がない一般的なものであって, 具体的な点において,本件と共通性や類似性はないとか,本件特許権 は,圧縮機の分野に係る日本の特許権1件であるから,特許法102 条3項の実施に対し受けるべき料率を検討するに当たっては,日本の 特許権1件の非独占的な実施許諾による料率と対比すべきであるとこ ろ,甲20は日本の特許権に関するものではなく,また,独占的実施 許諾の事例であるなどと主張するが,実施料率を定める事例として, 具体的な点において完全に合致する事例がなければ,同分野の他の事 例(他の国の特許権に関するものを含む。)を参酌することは当然で あるし,甲20で独占的とされるのは製造のみであり,販売について ライセンシーが独占権を得ていることはうかがわれない。したがって, 一審被告の主張は採用できない。
2) 本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性\n
本件優先日前である平成9年3月25日に発行された書籍「カーエ アコン」(甲11)には,ピストン式圧縮機の斜板形のものでロータ リバルブを使用したものは記載されておらず,113頁の図6.5で 吸入弁(リードバルブ)が図示されている。 従来技術であるリードバルブ方式は,シリンダ室と吸入室の圧力 差が必要であること,流路断面積が小さいこと,弁による吸入抵抗が 発生するという難点があることから,シャフトの回転によって冷媒を 提供するロータリバルブ方式が提案されてはいたものの(乙18,2 2,23,28,30等),回転軸の外周面と軸孔の内周面のクリア ランスによって,吐出行程時の圧縮室から冷媒が漏れるという問題が あったこと,クリアランス管理が非常に難しいこと(本件明細書【0 004】)から実用化には至っていなかったのであり,本件訂正発明 において,ロータリバルブを備えた回転軸に伝達される圧縮反力を利 用して,吐出行程にあるシリンダボアに連通する吸入通路の入口に向 けてロータリバルブを付勢させて,体積効率を向上させていること (本件明細書【0015】),クリアランスに関する厳密な管理が不 要となること(本件明細書【0043】)は,コスト面も含め,ロー タリバルブ方式を実用化するのに寄与したものと認められ,一審原告 が,本件優先日後に,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を販売 していることは争いがない。
もっとも,実用化当初の一審原告の製品(10SR15C)は, 本件訂正前の構成であるから,ロータリバルブが円筒状でなく凹部や\n溝が設けられており,本件訂正発明そのものの実施品ではないと考え られる。しかし,同製品も,圧縮反力で冷媒漏れを防止するという本 件訂正発明の技術思想を利用するものであり,この点については本件 訂正の前後で変更はない。 そうすると,本件訂正発明はロータリバルブ方式のピストン式圧 縮機の実用化に寄与したものというべきで,相応の顧客吸引力がある ということができる。
一審被告は,被告各製品の販売先であるマツダに対し,設計変更 品を継続して販売しているが,●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●少なくとも,侵害時(平成24年12月から平成 29年6月)の大部分において,本件訂正発明の効果を奏する代替 技術はなかったということになる。
3) 当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害 の態様
本件訂正発明がロータリバルブ方式を実用化するのに貢献したこ とは前記2)のとおりである。 一方,どの程度の体積効率の向上がもたらされるかは具体的数値 をもっては明らかではなく,本件訂正発明の作用効果についての顧客 吸引力等は一定程度限定される。 被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されている。 乙62によれば,被告各製品に該当する部品番号に相当するコン プレッサー(クラッチ部分及び圧縮機部分)の販売価格は468.1 5ドル,クラッチ部分のみの販売価格は231.82ドルとする事例 があることが認められるが,これはアフターマーケット(商品販売後 の需要に対する正規ディーラーではない業者の市場)における販売価 格であり,直ちに一審被告とJCSないしマツダとの間の被告各製品 の取引にあてはめることはできない。また,一審被告は,被告各製品 と別にクラッチを販売しているものではない。 しかし,クラッチ部分と圧縮機部分は観念的には区別することが でき,特許法102条3項の適用に当たっては,被告各製品の売上高 は,クラッチ部分を含むものであるという事情も考慮する必要がある。 一審被告は,前記第2の3 被告各製品は,本 件訂正発明とは無関係に,厳密なクリアランス管理により,冷媒漏 れ防止の効果を達成していると主張する。 一審被告のいう被告各製品における「厳密なクリアランス管理」 は,シャフトとシャフト用孔を極めて高精度に仕上げ,クリアラン スを30μmに設定する構造を採用し,ラジアル軸受は,斜板取付\nけ部とスラスト軸受を除く全領域でシャフトを支持する軸受とし, さらに,軸受がシリンダブロックの外側に突き出る長い構造を採用\nすることによって,シャフトの動きを伴うことなく,冷媒が吸入通 路の入口から漏出するのを防止するというものである(引用に係る 原判決12頁5行目ないし13行目)。
しかし,一審被告の主張のとおり厳密なクリアランス管理により冷 媒漏れを防止しているというのであれば,乙3報告書(被告製品1 〔クリアランスが30μm〕と,クリアランスを50μm,70μm, 90μm,110μmに変更した圧縮機の体積効率を比較したもの) において,クリアランスが30μmである被告製品1よりも50μm のものの方が体積効率は落ちることになるはずであるが,30μmと 50μmとで体積効率はほとんど変わらなかったとされているのであ るから,一審被告の主張は十分な裏付けを欠くものというべきである。\nまた,仮に,被告各製品が,一審被告主張の厳密なクリアランスを 採用し,その構成が冷媒漏れの防止に対する効果を奏することがある\nとしても,一方で,被告各製品は,原判決別紙イ号物件説明書及びロ 号物件説明書記載のとおりの構造を有しており,ピストン60に作用\nした圧縮反力Fが斜板やスラスト荷重吸収機能が付与されたフロント\n側スラスト軸受70に伝達され,このスラスト荷重吸収により斜板5 1の動きを許容することで斜板51の径中心部を中心としてシャフト 50を傾かせようと作用し,これによって,シャフト50(回転弁) は,吐出行程中のシリンダボア22に連通するフロント側通路23の 入口に向けて付勢され,この際シャフト50が変位しているのであっ て,この本件訂正発明の構成要件C,Fを充足する構\成によっても, 冷媒漏れが防止されるものといえることは,原判決が第4の3で説示 するとおりであるから,本件訂正発明とは無関係に冷媒漏れを防止し ているという一審被告の主張は採用できない。
4) 特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
一審原告は,ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機を製造・販 売しており,一審被告は,平成24年12月以降,ロータリバルブ 方式のピストン式圧縮機である被告各製品を輸入・販売しているの であるから,両者は競合関係にある。一審被告は,前記第2の3⑵ のとおり,被告各製品が組み込まれていたマツダ製の自動車 においては,圧縮機について,「被告親会社→一審被告→JCS→ マツダの商流」という系列関係が確立しているとして競業関係を否 定するが,ここでは,特許権者と侵害者の間の料率を定める上で競 業関係が問題とされているのであるから,一審原告がマツダに直接 販売することができるかどうかの問題ではなく,一審被告の主張は 採用できない。 ロータリバルブ方式のピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり, 相互に実施許諾を行っていない閉ざされた市場傾向にある(弁論の 全趣旨)。
イ 以上の検討を踏まえると,圧縮機の分野では,実施料率を3%から 4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当 程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を 有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり, 相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作 用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の 売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮すれ ば,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実 施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。 なお,一審被告は,第2の3 本件訂正発明の作用 効果や侵害の成否等について,前件侵害訴訟における知財高裁判決や本件 無効審決,ソウル高等法院等,判断主体によって判断が分かれていること\nを理由に,本件訂正発明の価値が低いと主張するが,事前の実施許諾契約 の料率については特許権が無効となる可能性等も考慮して算定されるのと\n異なり,特許法102条3項の損害は,特許権が有効であり,特許権侵害 があることを前提に算定されるものであるから,別個の手続の状況を考慮 に入れるのは相当でない。

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)28541

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令和3(ネ)10029  特許侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月13日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 知財高裁は、1審の「技術的範囲に属する、推定覆滅率2割」を維持し、約7300万円の損害賠償を認めました。1審判決が出たのが2021年3月なので早いですね。また、方法発明について、共同直接侵害の成立を認めています。

 足場が不要になることが本件発明の唯一の効果であるとはいえないことは,上記2のとおりである。また,同業他社の製品(乙60の各枝番)の施工方法は,証拠上は必ずしも明らかではなく,本件発明及び被告方法のように,倹鈍式によるガラス板の嵌め込み,ガラス板及び目地枠を摺動させることによる取付け,係止爪と被係止爪との係止,といった工程を可能にするものか否かは定かでない。また,控訴人が引用する裁判例は,本件とは事案を異にし,本件における損害額の算定において参考となるものではない。そうすると,控訴人の当審における上記主張は,原判決を引用して説示したとおり推定覆滅率2割を相当とするとの判断を左右するものではなく,採用することができない。\n

◆判決本文

原審はこちらです。

◆平成29(ワ)10716
以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について
証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について
証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について
証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他
原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。 これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。 そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと おりとなる。
・・・
したがって,原告の損害額は合計5481万9267円となり(内訳は以下のと おり),原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,同額の損害賠 償請求権を有する。

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令和3(ネ)10036  著作権等の侵害に基づく削除等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年9月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原告はイラストと文章をTwitterに投稿しました。被告の行為は原告著作物の公衆送信権、翻案権侵害と訴えました。知財高裁は1審判断を維持しました。

 既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア, 事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表\現上の創作性がない部 分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当 たらないことは引用する原判決が説示するとおりである。
本件についてみると,被告イラストは,原告文章と同じく,原作である「O NE PIECE」に登場するキャラクターの設定に依拠して,身長差のあ る同性の2人が,壁に掴まりながら特定の体位で性交渉を行うという描写に おいて,原告文章と同一性を有するにとどまるものであり,こうした描写自 体は,アイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分である。\nそうすると,原告文章を全体として見た場合に一定の創作性が認められる余 地があるとしても,前述のとおり,被告イラストは,原告文章のうちアイデ アないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分において同一性を有\nするにすぎないのであるから,原告文章の翻案に当たるものでないことは明 らかというべきである。 控訴人は,原告文章の創作性につき前記第2の3(1)のとおり指摘し,被告 イラストは,これらの創作部分が全て描写されているので,原告文章の翻案 に当たる旨主張するが,控訴人の指摘する部分は,いずれも,アイデアない し表現上の創作性のない部分であるにすぎないし(「ONE PIECE」 に登場するキャラクターの設定については,当然のことながら創作性を認め ることができない。),その具体的な表現ぶりも,性表\現として平凡かつあ りふれたものであり,そもそも被告イラストが当該表現部分に依拠して作成\nされたと特定することもできないものといわざるを得ない。 したがって,控訴人の主張は失当というほかない。
(2) 被告文章が原告イラストの翻案に当たるとの点について
被告文章は,原作である「ONE PIECE」に登場するキャラクター の設定に依拠して,原作に登場する2人の人物が性交渉後に,身長の低く若 い人物(ルフィ)が失禁したと勘違いし,動揺をしている描写設定において, 原告イラストと同一性を有するに止まり,こうした描写設定は,同性間の性 交渉を描写するに当たってのアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創\n作性があるとはいえない部分である。そうすると,原告イラストを全体とし て見た場合に一定の創作性が認められる余地があるとしても,前述のとおり, 被告文章は,原告イラストのうちアイデアないし着想にすぎないか,表現上\nの創作性がない部分において同一性を有するにすぎないのであるから,原告 イラストの翻案に当たるものでないことは明らかというべきである。 控訴人は,前記第2の3(2)のとおり,被告文章は,原告イラストの最後の コマの「ルフィ」のセリフを受けて,あたかも連歌のように,直前の状況や 内容を参看し,その背景や情趣,心境を踏まえて,そのポエジーを受け継い で記載されたものである旨主張するが,独自の見解というほかないものであ り,控訴人主張のセリフ自体に表現上の創作性を認めることはできないし,\nましてやそのセリフから連歌性やポエジーの存在を認め,被告文章が原告イ ラストに依拠した翻案に当たるなどと認めることは到底できない。  

◆判決本文

原審はこちら

◆令和1(ワ)30833
以下のように判断されています。
まず,原告文章と被告イラストについては,原告文章が言語の著作物で あるのに対し,被告イラストは基本的には美術の著作物であって,表現の\n形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(身長差の ある設定の2人の登場人物が,一般的には困難と思われている体位で性行 為を行っている点,性器の状態,及び登場人物の一方が壁につかまろうと しているという点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして, 上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告文章の性質・内容に照らし, 内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自体でない部分であるという\nべきである。また,仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても,本\n件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個\n性の表れとして著作物性を肯定することを基礎付けるに足りるものは見当\nたらず,原告文章の性質・内容に照らせば,上記設定を前提とする限り, これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり,表\現上の創 作性がない部分であるといわざるを得ない。
イ 次に,原告イラストと被告文章については,原告イラストが基本的には 美術の著作物であるのに対し,被告文章は言語の著作物であって,表現の\n形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(2人いる 登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況で,他方の登場人物に 対する言動・働きかけに及んでいる点)につき同一性を有するにとどまる といえる。しかして,これについても,上記説示が同様に当てはまるもの である。すなわち,上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告イラス トの性質・内容に照らし,内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自\n体でない部分であるというべきである。また,仮に表現自体と捉えられる\n部分があったとしても,本件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅が\nあると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定できることを基\n礎付けるに足りるものは見当たらず,原告イラストの性質・内容に照らせ ば,上記設定を前提とする限り,これを表現したものとしては平凡かつあ\nりふれたものであり,表現上の創作性がない部分であるといわざるを得な\nい。
ウ 以上によれば,被告イラストは原告文章を翻案したものには当たらず, また,被告文章は原告イラストを翻案したものには当たらないというべき である。

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令和2(行ケ)10103 特許権 行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が、引用文献の認定誤りを理由として、動機付けがないとして取り消されました。引用文献における「演色性」は本件とは意味が異なるという認定です。

ア 甲1発明の課題の認定について
(ア) 黄色の発色
甲1には,「イエロー系」,「イエローとライトイエローの違いが分かり づらいです。」(4頁の上から5枚目の写真の上下)と記載されていると ころ,この記載からは,甲1製品において,「イエロー」と「ライトイエ ロー」の色の相違が判別し難いという問題があることは認められる。し かし,上記の記載の前提として,「イエロー」は,色票等ではなくペンラ イトの「ライトイエロー」との比較がされているにとどまる上(上記写 真),色の相対的な判別の問題と,一般的に各色の基準とされている色(色 票の該当色)にどれだけ近い色を出しているかという発色の問題は異な るから,「イエロー」と「ライトイエロー」の色の相違が判別し難いとい う上記の問題は,「イエロー」が一般的に黄色の基準とされている色にど れだけ近い色を出しているかという発色の問題とは異なる。 本件審決は,「それら『イエロー』及び『ライトイエロー』の各発色に ついて検討するに,p.4-写真には,写真中央に位置する4本のペンライ トの他に,その左側に2本(『亜美・真美』及び『小鳥』),右側に2本(『ル ミスティック』及び『大電光改』)の計4本の他のペンライトが色比較の ために配置されているところ,上記写真中央の4本(甲1発明)の『イ エロー』の発色は,上記他の4本のペンライトの黄色の発色とは異なり, むしろ p.4-6 写真((摘示(1q))示されるオレンジ系の色に近い発色 となっている。」(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ア) 〔本件 審決47頁〕)と述べ,甲1の写真を根拠として,甲1製品の「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題があるという認定をしている。本件審決 が,甲1サイトのアドレスにアクセスの上,ディスプレイ上に表示され\nた写真(画像)に基づいて上記認定をしたのか,又は用紙に印刷された 写真に基づいて上記認定をしたのかは,本件審決の記載からは直ちには 明らかでないが,仮に,前者であるとした場合,ディスプレイに表示さ\nれる色の発色は,ディスプレイ自体の性能や調整に依存するものである\nし,また,後者であるとした場合でも,紙に印刷される色の発色は,紙 の品質やプリンタの性能や調整に依存するものであり,さらにいえば,\n写真を撮影したカメラの性能や調整によっても発色は相違するものであ\nるから,いずれにしても,実際の甲1製品の発色とディスプレイ上の表\n示又は印刷されたものの発色は,必ずしも同じとは限らない。また,甲 1製品と対比された他社のペンライトが,甲1製品よりも,一般的に黄 色の基準とされている色に近いことを裏付ける客観的な証拠はない。そ のため,甲1の写真に基づいて,「イエロー」が一般的に黄色の基準とさ れている色にどれだけ近い色を出しているかを判断することはできず, 甲1の写真を根拠に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題がある と認定することはできない。
その他の甲1の記載によっても,甲1に,「イエロー」とされる黄色の 発色自体に問題が内在しているという課題が示されていると認めること はできない。 そうすると,「イエロー」と「ライトイエロー」の各発色の色の違いを 明確に識別することができないという問題は,「イエロー」とされる黄色 の発色自体に問題が内在しているということもできるとする本件審決の 判断(前記(3)ア(ア))は誤りである。
(イ) 演色性
本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は,発色のバ ランスを崩れないようにすることや,全体が綺麗に光るようにすること (前記(3)ア(イ)),多くの色彩の選択肢を提供すること(前記(3)(ウ)。 本件審決は,第6,2,2−1(2)(2−1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で, 甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する。)であり, 甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明 された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味 での「演色性」(前記(3)イ(イ))とは異なる。
イ 甲2に記載された技術事項の認定
前記(3)イ(イ)のとおり,甲2に記載された技術事項として認定された「演 色性」は,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという, 一般的な意味での「演色性」であるものと認められる。
ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及び\nその「発光色」の容易想到性
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。 さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n
なお,本件発明1は,黄色LEDを追加した上で,白色LEDとそれ以 外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して発光色を得,黄色 LEDとそれ以外の1つ又は2つのLEDから発せられる光が混合して 発光色を得るとの構成をとることによって,電圧が低下した状態において\nも発色のバランスを保つことができるもの(本件特許の明細書の段落【0 007】,【0009】,【0010】,【0013】〜【0017】,【002 1】,【0033】,【0034】)であり,このような発明の効果は,甲1発 明及び甲2に記載された技術事項から予測できるものとはいえないから,\nこの点からしても,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用すること によって本件発明1を容易に想到することができたとは認められない。

◆判決本文

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令和3(行ケ)10036  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 知財高裁は、30類に「菓子」について、商標「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」が非類似(11号)と判断し、無効理由無しとした審決を維持しました。

ア 国語辞典の記載
本件商標と引用商標(スイートパーティー)は,「スイーツ」という部分 と「スイート」という部分が異なる。 国語辞典には,「スイーツ」という語については,「【sweets】甘いもの。 ケーキ・菓子など。」を意味するものと記載されている(広辞苑第7版,乙 2)。 他方,「スイート」という語については,「【sweet】1)甘いこと,甘口。 2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」を意味するものと記載され, 「スイート」という語を用いた語として,「−・コーン【〜corn】トウモロ コシの一品種。糖分を多く含む。−・スポット【〜spot】ゴルフのクラブ・ フェースやテニスのラケットなどの,球を最も効果的に打つことができる 点。−・ハート【〜heart】恋人(特に女性)。愛人。−・ピー【〜pea】マ メ科の蔓性観賞用一年草。シチリア島原産で,江戸時代末に渡来。葉はエ ンドウに似,先端は巻ひげとなる。桃色・白色・紫色・斑などの蝶形花を つけ,花後に莢を生じる。園芸品種が多い。ジャコウエンドウ。ジャコウ レンリソウ。−・ホーム【〜home】(特に新婚の)楽しい家庭。愛の巣。−・ ポテト【〜potato】1)サツマイモのこと。2)サツマイモで作った洋風菓子。 サツマイモを蒸して裏漉しし,砂糖・卵黄・バターなどを加えて練り,オ ーブンで焼く。」が挙げられている(広辞苑第7版,乙2)。 上記の国語辞典の記載によれば,「スイーツ」と「スイート」は別の語と して一般的に認識されており,また,「スイート」という語は,「1)甘いこ と,甘口。」の他に,「2)甘美なこと。快いこと。気持ちよいさま。」などの 意味を有し,「スイートハート」,「スイートホーム」など,「甘いこと」以 外の,「愛しい」,「楽しい」の意味で用いられる例があることが一般的に認 識されているものと認められる。
イ 実際の使用例
(ア) 「スイーツ」という語の使用例
インターネット上で検索結果の多い「スイーツ」という語を含む用語 の例として「人気スイーツ」があり(検索結果:約 2,060,000 件,乙1 2),「絶対おすすめ!人気スイーツベスト 20!」,「人気スイーツをお取 り寄せ」のように使用されている(乙13,14)。また,「スイーツレ シピ」という用語(検索結果:約 1,780,000 件,乙15)は,「お手軽ス イーツレシピをご紹介」,「『本格チョコ』のスイーツレシピ特集」のよう に使用されている(乙16,17)。「スイーツ食べ放題」(検索結果:約 1,440,000 件,乙18)という用語は,「種類以上のスイーツ食べ放 題!」,「平日限定スイーツ食べ放題プラン」のように使用されている(乙 19,20)。これらの用語において,「スイーツ」という語は,「ケーキ・ 菓子など」の意味で使用されている。
(イ) 「スイート」という語の使用例
「スイート」という語が食料品との関係で使用される例としては,「ス イートワイン」,「スイートチョコレート」,「スイートチリソース」など\nがあり(乙21〜乙23),「スイート」という語は「甘い,甘口」の意 味で使用されている。
(ウ) 「スイーツ」という語と「スイート」という語が同一作成者のウェ ブページで使い分けられている例
・・・
(エ) 「スイーツパーティー」という語の使用例
・・・
(キ) 以上によれば,実際の使用例において,「スイーツ」という語と「ス イート」という語は,それらが他の語と結びつく場合も含めて区別して 使用されており,「スイーツ」という語は,「甘いもの,ケーキ・菓子な ど」の意味で使用され,他方,「スイート」という語は,「甘い,甘口」 の他,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意味で用いられているも のと認められる。そして,「スイーツパーティー」という語は,スイーツ (甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それらを食べるパーティ ーの意味で用いられている。
ウ そうすると,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を二段書きにし たものであるから,「スイーツ」(甘いもの,ケーキ・菓子など)という名 詞が強調された上で,その全体から,「スイーツパーティー」という語とし て認識され,スイーツ(甘いもの,ケーキ,菓子など)が提供され,それ らを食べるパーティーという観念を生じるものと認められる。 他方,引用商標は,「スイートパーティー」又は「SWEET PART Y」という語として認識され形容詞である「スイート」「SWEET」が必 然的に名詞の「パーティー」を修飾する関係にあるから「スイート」なパ ーティーを意味し,「スイート」という語の意味のうち,パーティーを修飾 する場合に当てはまる意味は,「甘美な,快い,愛しい,楽しい」という意 味であるから,「甘美な,快い,愛しい,楽しいパーティー」という観念を 生じるものと認められる。
・・・・
(5) 類否の判断
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観上明確に区別できるものであ ること,本件商標と引用商標は観念において明確な差異があること,本件商 標と引用商標とは称呼において類似しているものの,その類似性の程度は高 くないことを考慮すると,本件商標と引用商標は,外観,観念,称呼等によ って取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察する場合に は,同一又は類似の商品に使用された場合に,その商品の出所につき誤認混 同を生ずるおそれはないものと認められる。 したがって,本件商標を引用商標の類似商標と解することはできないとい うべきである。
3 原告の主張の検討
(1)ア 原告は,「スイーツパーティー」という語が一般的になればなるほど「ス イートパーティー」,「SWEET PARTY」は,「スイーツパーティー」 と同じような,「甘いものを対象としたパーティー」という類似する観念で 捉えられ,観念としても非常に近い,紛らわしいものとして認識されるお それは十分に生じる旨主張する(前記第3,2(3)イ(ア))。 しかし,前記2(3)のとおり,「スイーツ」という語と「スイート」という 語は,区別して観念されており,それらが他の語と結びつく場合も含めて 区別して使用されているから,「スイーツパーティー」という語が一般的に なっても,「スイートパーティー」,「SWEET PARTY」から類似す る観念が生ずるとはいえず,原告の上記主張は,採用することができない。
イ(ア) 原告は,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが混同 を生じるか否かが問題であって,「スイーツ」という語と「スイート」と いう語の違いを強調して商標の類否を判断することは重大な誤りである 旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,前記のとおり,本件商標は,「スイーツ」と「パーティー」を 二段書きにしたものであり,しかも名詞と名詞が結合した商標であるか ら,上段の「スイーツ」を分離して観察することが可能であること,「ス\nイーツ」,「スイート」及び「パーティー」はそれぞれ独立した意味のあ る単語であって,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」は, 「パーティー」の部分において共通し,「スイーツ」,「スイート」は,「パ ーティー」という語を修飾して,どのようなパーティーであるかを示す 部分であるから,「スイーツパーティー」と「スイートパーティー」とが 混同を生じるか否かを明らかにする上で,「スイーツ」という語と「スイ ート」という語の観念等の違いの有無を検討することは必要である。
(イ) また,原告は,「スイート」という語が「すてきな」,「楽しい」,「か わいらしい」といった意味で使用されている例は乙27以外にない旨, 食品,とりわけ菓子について「スイート」という語が用いられた場合, 味覚を表す「甘い」という意味以外の理解をし,わざわざ「甘美な」,「快\nい」という意味を認識する者はいない旨主張する(前記第3,2(3)イ(イ))。 しかし,「スイート」という語が,甘美な,愛しい,楽しいという意味 で使用された例は,乙27(前記2(3)イ(カ))の他,乙8(前記2(3)イ(ウ) d),乙24,乙26(前記2(3)イ(エ)a),乙65(前記2(3)イ(オ))に ある。また,食品,とりわけ菓子について用いられる場合でも,「スイー ト」という語により修飾される語が味覚を生ずるものでない場合は,「ス イート」という語は,甘美な,愛しい,楽しいの意味で使用されるもの と推認され,前記2(3)イ(ウ)dのとおり,菓子について,「スイートなビ ジュアルが本命チョコにお勧め!」(乙8〔2頁〕)として,「スイート」 という語が,甘美な,愛しい,楽しいの意味で用いられている例もある。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)ア 原告は,本件商標及び引用商標の指定商品の需要者は,幼児,老人を含 む大衆であり,本件商標と引用商標のカタカナ表記(外観)及び称呼は,\n同行音の近似音とされる「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけで あり,本件商標を英語表記して引用商標の英語表\記と比較しても,「S」一 文字の有無が相違するだけであるから,需要者の通常の注意力を基準とす ると,本件商標と引用商標は相紛らわしく,混同のおそれがあると主張す る(前記第3,2(4)ア)。
しかし,「スイート」,「パーティー」という語は,子供を含めて一般に広 く知られた平易な語であると認められ(弁論の全趣旨),「スイーツ」,「ス イーツパーティー」という語も,子供を対象とするゲーム,玩具,絵本に ついて用いられていることからすれば(乙62〜乙64),広く知られた平 易な語であると認められるから,難解で聞き慣れない語の中の一字(一音) が相違する場合と異なり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において, 「ツ」と「ト」の一字(一音)が相違するだけであっても,その区別は可 能であるものと認められる。そして,本件商標と引用商標とで観念が明確\nに異なることは,前記2(3)ウのとおりである。したがって,需要者を考慮 しても,本件商標と引用商標は混同のおそれがあるとは認められず,原告 の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,菓子等を製造販売する訴外会社の申し入れにより商標使用許諾\n契約を締結し,訴外会社から指摘されて本件無効審判を請求したことから, 本件商標と引用商標とが相紛らわしいことは,菓子等の製造販売業者にお いて認識されていたと主張する(前記第3,2(4)イ)。 しかし,原告と訴外会社との一契約をもって,菓子等の製造業者すべて における認識を判断することは相当ではなく,また,原告が訴外会社と商 標使用許諾契約を締結するに至った経緯や訴外会社の意図は明らかでない から,菓子等の製造販売業者において,一般に,引用商標と「スイーツパ ーティー」という商品名が商標として類似していると認識していたと認め るに足りないというべきである。

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決に対して、知財高裁は一致点の認定誤りを理由として審決を取り消しました。

(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比
ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再 水和間隔を提供するために」,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように 構成される」ものである。\n
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るも のであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池 スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃 料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態 とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解され る。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」 が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を\n増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境 動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃 料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい\nるところである。 そして,「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的の ために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと 解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため に」,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負 の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そ して,その意味内容を踏まえると,「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に, MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの 乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解され る。 そして,「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のため に,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解され る。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御 回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAに おける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかと いった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり\n得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停 止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は,「空気流動を調節す る」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上 で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について,「所定条件 で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」,気体流動を調節するよ うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤\nりがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が,「水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点に おいて,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが, 短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないもの である。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節す る」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への 燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気 的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0 010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記 載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認 められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。 さらに,原告は,「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張 するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明 の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それ らの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因 について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが 増加することは明らかであると主張する。 しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が 小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行 っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点, 被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に 含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付 ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本 願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同 様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベ ルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で 認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本 願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ
ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認 定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点)
「燃料電池システムであって,
第1の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,
前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と,
前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と,
を備える,前記燃料電池システム。」
(相違点1)
所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料 電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2)
気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は, 気体は燃料ガスである点。
(相違点3)
第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発 明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4)
燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを 増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下 現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審 決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について
(1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短 絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,\n以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vよ り低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えるこ とで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動 作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。 他方で,甲3には,「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復 させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】)。\nこのように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,\n【0009】,【0023】,【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に 照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0 001】。【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。)に係るものとみられる ことからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を\n示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃 料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。 イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したと の引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的 に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべ きである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととす る動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の 動作条件について,「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが, そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る 状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させ ることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても, 上記判断は左右されない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的 としたものであることを考慮すると,「気体流動を調節する」ことについて,引用発 明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本 願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得た ということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆が あるとは認められない。 上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づ\nいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想 到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。

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令和3(行ケ)10071  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年10月14日  知的財産高等裁判所

 無効審判の審決取消訴訟です。争点は、商標「pum’s」がpumaと類似(11号)または混同するか(15号)です。指定商品は18類「折り畳み式傘,晴雨兼用傘,ビーチパラソル,日傘」及び第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴」です。知財高裁は類似・混同しないとした審決を維持しました。\n

(1) 本件商標と引用商標の類否判断について
ア 外観
(ア) 本件商標は,「pum’s」の文字を太字の斜体の書体で表し,末尾\nの「s」の文字の下端を語頭の「p」の文字の下部まで横一直線に延伸 し,下線のように表されて構\成されている。原告は,本件商標の1文字 目と4文字目は,大文字「P」「S」と認識されると主張するが,1文 字目の左側の縦棒が下に突き出しているのは小文字であるからなのは明 らかであり,4文字目も上端が他の小文字と同じ高さに位置しているか ら,大文字とは認識されない。また,原告は,本件商標の2文字目は, 右側の縦棒がないため,大文字「U」と捉えられると主張するが,2文 字目は他の小文字と同じ大きさであって,直ちに採用できない。 一方,引用商標は,「PUmA」の文字を縦線を太く垂直に,横線を 細く描く書体で表し,各文字は,小文字である「m」も含めて,同じ高\nさで構成されている。\n両者は,語頭を含めた「pum(PUm)」の文字を共通にするが, 末尾において本件商標が小文字の「s」であるのに引用商標が大文字の 「A」であるという文字の相違,アポストロフィの有無,下線のように 表されたものの有無,書体が斜体であるか否か及び文字の横線が細いか\n否かといった点において明らかに異なり,外観においては,相紛れるお それはない。
(イ) 原告は,第3の1(1)ア(ア)cのとおり,るる主張するが,前記(ア)で 認定したとおり,本件商標と引用商標の外観上の相違は明白であり,仮 に,原告が主張する個別の点につき一定の類似が認められるとしても, そのことから,外観において相紛れるおそれがあるということはできな い。 なお,念のために判断すれば,上記c(a)については,引用商標は文字 の横線が細いことが明確であるのに対し,本件商標では縦線と横線の太 さの違いは子細に見なければ看取できず,逆に,本件商標では角部の丸 みは明確であるが,引用商標では明らかでないし,同(b)については,本 件商標が斜体であるのに対し,引用商標は各文字が垂直かつ同じ高さで, 長方形の範囲に収まって全体として整然とした印象を与えるものであっ て,両者の印象が異なることは明らかであるし,同(c)については,いず れにしても本件商標における「s」の文字の下端の延伸された部分が引 用商標との相違点として着目されないということにはならないし,同? については,相違する最後の「A」と「S」の文字が相似た文字に看取 される場合があるとは認め難いし,同(e)については,特段の意味内容を 想起させない「pum」の欧文字部分が本件商標の要部であるとは到底 いえず,原告の各主張は個別にみても採用し得ない。 そうすると,本件商標と引用商標の外観は大きく異なるものであって, 前記1の引用商標の周知著名性を勘案しても,両者の外観が類似すると の原告の主張は採用できない。
イ 称呼
(ア) 本件商標からは「パムズ」,「パムス」,「プムズ」又は「プムス」 の称呼が生じるのに対し,引用商標からは「プーマ」又は「ピューマ」 の称呼が生じ,語頭の「pu」ないし「PU」を「プ」と読んだ場合に 音を共通にする場合があるとしても,いずれも3音という短い音数にお いては,2音目及び3音目における音の相違,特に,3音目の「ズ」な いし「ス」(本件商標)と「マ」(引用商標)の相違は大きいものであ って,相紛れるおそれはない。
(イ) 原告は,前記第3の1(1)ア(イ)のとおり,本件審決が,本件商標の要 部である「PUm」の欧文字部分から生ずる「プム」の称呼と引用商標 から生ずる称呼とを対比していないと主張するが,本件商標における 「pum」の欧文字部分が要部であるという主張が到底採用できないこ とは前記アのとおりである上,仮に同部分を本件商標の要部とし,これ を「プム」と称呼し,引用商標を「プーマ」と称呼したとしても,短音 と長音の違い,「ム」と「マ」の違いは,短い標章の中では大きな差異 として認識されるものというべきである。
ウ 観念
本件商標が造語であることから,特定の観念を生じないのに対し,引用 商標が周知著名であることから,「原告のブランド」との観念を生じ,両 者は明確に区別することができ,相紛れるおそれがない。
エ その他
原告は,前記第3の1(1)ア(エ)のとおり,本件商標と引用商標の需要者 である一般消費者は,衣類や靴等に商標をワンポイントマークとして小さ く表示された場合,些細な相違点に気付かないことも多いと主張する。\nしかし,商標が小さく表示された場合をことさら取り上げることの当否\nは措くとしても,そもそも本件商標と引用商標は全体的な印象においても 明らかに異なることは前記アのとおりであり,小さく表示された場合でも,\nその相違は明白であるから,原告の主張は採用できない。 また,原告は,前記第3の1(1)ア(オ)のとおり,本件消費者調査の結果を 理由に,本件商標と引用商標の類似性を主張する。 しかし,本件消費者調査は,本件商標の登録査定時よりも後に実施され たものであること,本件商標について助成想起(本件商標の指定商品〔ス ポーツ関連用品〕の出所標識という前提〔ヒント〕を与えて自由回答形式 で聴取するもの)による質問について原告を連想した15%という数値は 大きいとはいえない上,スポーツ関連用品というヒントを与えられれば, 多少とも本件商標と共通点のあるブランドを想起しようと努めると考え られることを考慮すると,この数値すらそのまま受け取ることはできない こと,本件商標と引用商標を並べた場合に両商標が類似するという回答も, このような限界のある質問の後にされたものであることを考慮すれば,本 件商標と引用商標の類似性を裏付ける資料とはいえない。したがって,こ の点に係る原告の主張も採用し得ない。
(2) 小括
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれに おいても相紛れるおそれがなく,類似しないものと認められる。 そうすると,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品が引用商標7, 8及び10の指定商品中に含まれているとしても,本件商標は,商標法4条 1項11号に該当せず,本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)につい て
(1) 混同のおそれについて
「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程\n度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他\n人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並 びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該 商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準 として,総合的に判断すべきである。 これを本件につき検討するに,前記2において判断したとおり,本件商標 と引用商標とは,引用商標の周知著名性を勘案しても,外観,称呼及び観念 のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であって,その類似 性は極めて低いというべきであるから,本件商標の指定商品には「運動用特 殊衣服,運動用特殊靴」が含まれており,原告の業務に係る商品との間の関 連性や,取引者や需要者の共通性が高く,また,そのような商品はいずれも 注意力が高いとはいえない一般消費者も需要者とするものであることを考慮 しても,本件商標に接する取引者及び需要者が,原告又は引用商標を連想又 は想起することはないというべきである。これに反する原告の主張は,前記 2において判断したのと同様の理由によりいずれも採用し得ない。そうする と,本件商標は,これをその指定商品に使用をしても,その取引者及び需要 者をして,当該商品が原告の商品に係るものであると誤信させるおそれがあ るものとはいえない。

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令和3(ネ)10040  差止請求権不存在確認請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年10月14日  知的財産高等裁判所  大阪地方裁判所

 CS関連発明について、均等侵害を認めた大阪地裁の判断を知財高裁も支持しました。

 控訴人は,前記第2の3(2)エ(ア)のとおり,本件特許の出願過程の経 緯から客観的,外形的に見るならば,物又は方法の発明として特許出願 している被控訴人が,その補正として「逐次又は一斉に表示」という構\ 成を削除したのであるから,画像選択手段を含むコンピューターにより 出力されるという構成においても「逐次又は一斉に表\示」という構成を\n意識的に除外したと主張する。
しかし,当該出願経過によれば,被控訴人は,明確性要件違反の拒絶 理由(甲8)に対し,本件補正により,コンピューターを構成に含む学\n習用具と記載し,また,被控訴人が甲第10号証と併せて提出した意見 書(甲9)3頁の「(4)記載不備の拒絶への対処」では「作業の主体を 「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除致しました。」としている のであり,他の部分も削除したことを外形的に示す説明はない。 また,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」との構成を付\n加した点について,客観的には,組画を構成する複数の画のうち任意の\n1つの画像データ(ユニット画)を選択すること(例えば第一の関連画 のみを選択すること)が意識的に除外されているとはいい得るとしても, 二以上の組画の画像データを選択することが意識的に除外されたとは いえない。また,「逐次」の文言が用いられている本件明細書【0037】, 【0038】及び【0052】 において,「逐次」及び「一斉」の両方 が用いられているのは特定の組画を構成するユニット画について記載\nしている【0038】に「特定の組画を構成するユニット画は,全て一\n斉に表示してもよいが,前述のように逐次表\示するほうが,学習効果が 増して好ましい。」とあるのみであるから,本件補正前の「それぞれの前 記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対\n象を記憶する」との記載は,特定の組画を構成するユニット画を逐次又\nは一斉に表示することを指していると解するべきであり,「逐次又は一\n斉に表示」という構\成を削除したからといって,複数の組画を選択する 構成を除外する意図であったと認めることはできない。\n
さらに,被控訴人が,上記意見書で進歩性に関して主張したところは, 本件発明が,1)対応する語句が存在する原画の形態を,その形態に対応 する語句と結びつけて記憶することを目的すること,2)関連画の輪郭が, 原画に類似等しており,一定の意味内容を有することから,学習対象者 が,意味内容と原画との関連付けにより,記憶することに苦痛を感じる ことなく楽しみを感じながら,原画を記憶することができること,3)関 連画及び原画に対応する語句の音声データを再生し,関連画及び原画の 表示は対応する語句の再生と同期して行うこと,4)原画又は原画に対応 する語句を思い出すことを目的とするため,関連画の表示及び関連画に\n対応する語句の再生を行った後に,原画の表示及び原画に対応する語句\nの再生を行うこと,5)第一の関連画,第二の関連画,及び原画の順に表\n示し,しかも,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を, 対応する語句の再生と同期して表示することにより,4通りのルートに\nよって原画及び対応する語句を思い出すことができることを挙げるもの であるが(甲9),これらの特徴は,複数の組画を選択する構成と矛盾す\nるものではなく,これを意識的に除外する旨を表示したものとはいえな\nい。
(イ) 控訴人は,前記第2の3(2)エ(イ)のとおり,被控訴人が補正において, 構成要件B2の画像選択手段の構\成を加えた点について,複数の組画を 選択する構成を除外しない意図であるならば「一又は複数の組画」や単\nに「組画」等といった記載にすることは極めて容易であり,本件特許の 出願経過を客観的,外形的に見るならば,「一の組画の画像データを選択 する画像選択手段」を付加したことは,複数の組画を選択する構成を意\n識的に除外したことになると主張する。 しかし,仮に,他により容易な記載方法があったとしても,出願人が, 補正時に,これを特許請求の範囲に記載しなかったからといって,それ だけでは,第三者に,対象製品等が特許請求の範囲から除外されるとの 信頼を生じさせるとはいえない。客観的にみて,「一の組画の画像データ を選択する」との記載が,組画を構成する画が維持された状態で選択す\nる限りにおいては,二以上の組画の画像データを選択することを意識的 に除外するものとまでは認められないことは,前記(ア)のとおりである。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆大阪地判 平成31年(ワ)第3273号)

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令和3(行ケ)10032    商標権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 「ヒルドプレミアム」に対して、先願「ヒルドイド」の商標権者が無効審判を請求しました(4条1項11号、15号)。審決は無効理由無しと判断し、知財高裁も同様の判断をしました。「ヒルドイド」は、医薬品として周知著名だとしても、化粧品としてはそこまではいえないというものです。

 上記事実(ア)ないし(エ)によれば,本件商標の登録出願当時,原告使用商標 は,処方薬としての原告薬剤を表示する商標として,処方薬の需要者であ\nる皮膚科の医師等の医療関係者の間において,広く知られていたものと認 められる。これに対し,化粧品としての用途が,雑誌記事に取り上げられ るなどして一般に知られるようになったのは,証拠上は平成26年以降で ある上(事実(オ)),その紹介記事の内容(別紙2)をみても,「知る人ぞ 知る」という取り上げ方をされており,その時点において既に周知著名で あったとはいえない。そして,これらの記事においては原告薬剤は処方薬 であることへの注意喚起がなされていること(事実(オ)),原告が医師等に 対して美容目的での処方をしないように啓発していること(事実(カ))も踏 まえると,本件商標の登録出願(平成30年1月29日)の時点において, 化粧品の需要者である一般消費者の間で,原告使用商標が周知著名であっ たとまではいえない。
また,事実(キ)ないし(ケ)のとおり,これらの記事が出た後に,複数の事業 者からヘパリン類似物質含有商品が相次いで販売された事実,その広報宣 伝において原告薬剤を引き合いに出すものや,名称に「ヒル」又は「ヒル ド」を含むものが多くみられる事実は,化粧品の分野におけるヘパリン類 似物質含有商品という市場自体が,原告薬剤の美容目的への流用という事 態によって成立したという経緯を反映するものではあるが(例えば甲26 の1(2018(平成30)年12月6日付け「日経doors」記事)の 「『ヒルドイド』で知られる医療用保湿剤の成分,ヘパリン類似物質を配 合した市販薬とコスメが,18年秋に相次いで登場した。背景には,化粧 品代わりに求める女性が増え,健康保険財政を圧迫するまでになったとい う事情がある。」との記載),そのような経緯があるからといって,医療 用医薬品である原告薬剤の名称としての原告使用商標が,化粧品の分野に おいて周知著名性を獲得していたことになるものではない。
なお,本件アンケートにおいてヒルドイドの「認知度」が5割ないし6 割にのぼっていた(事実(コ))としても,これらの「認知度」は,皮膚の乾 燥に起因すると考えられるトラブルを抱えて何らかの皮膚薬を最近になっ て使用していた者の間でのものであるから(事実(コ)のa),原告薬剤が処 方薬の分野で5割以上の高い市場占有率を得ていること(事実(ウ))に照ら して,本件アンケートにおける「認知度」が高くなることはある程度必然 的であり,化粧品の分野における一般消費者の間での周知著名性を明らか にするものではない。
ウ 原告の主張について
原告は,上記アの各事実に基づき,原告使用商標が化粧品の分野におい ても本件商標の登録出願当時に周知著名性を獲得していた旨主張するが, これらの事実を前提としても周知著名性を認定するに足りないことは,上 記イで説示したとおりであるから,原告の主張は採用することができない。 また,原告は,ヘパリン類似物質を含有する一般用医薬品「ヒルマイル ド」につき,原告薬剤を想起している需要者が多数いること(別紙4)や, 「あのヒルドイドが店頭で新発売!」といううたい文句で販売されている ことからも,原告使用商標が広く知られている実態を見て取れる旨主張す るが,そもそも「ヒルマイルド」は被告の販売する商品ではないばかりか, 「ヒルマイルド」は「ヒル」の文字の後に「イ」の文字を含み,「ド」の 文字で終始する点において,原告使用商標との類似性は本件商標よりも更 に高いから需要者に原告薬剤を想起させたとも考えられるところであるし, 「あのヒルドイドが店頭で新発売」という文言は,医療用医薬品であって 店頭では販売されない原告薬剤の代わりとなる商品が発売されたという趣 旨に理解されるから,原告の主張は,上記イの判断を左右しない。

◆判決本文

関連事件です。こちらは医薬品について周知著名と認定されています。

◆令和3(行ケ)10028

◆令和3(行ケ)10029

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令和2(行ケ)10103 特許権  行政訴訟 令和3年10月6日  知的財産高等裁判所

 内在する課題が共通するとして進歩性無しとした審決が、課題の認定が誤っているとして審決を取り消しました。

 ウ 相違点1に係る本件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」の容易想到性\n
前記(2)のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が 完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1 発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到すること が容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採 用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。
本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付け があり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容 易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」 とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記(3) ア(ア)),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があ ると認定した(前記(3)ア(イ),(ウ))。
しかし,前記ア(ア)のとおり,甲1発 明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課 題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発 明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2−1(2)(2 −1)ア(ウ)〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の 課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項とし て認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場 合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア (イ))。
そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用 する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,ま た,甲2に記載された技術事項の内容(前記(1)),甲1発明と甲2に記載さ れた技術事項の技術分野相互の関係(前記(2))を考慮すると,甲1発明に は,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そ のため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがある とは認められない。 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本 件審決の判断(前記(3)ウ(ア))は誤りである。 本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲 10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到するこ とができた(前記(3)ウ(ア))という判断を前提として,甲1発明に甲2に記 載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用し,本件発明1の構成\nのうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容易に想到するこ とができた(本件審決第6,2,2−1(2)(2−1)イ(ア)〔本件審決48 〜50頁〕)と判断するところ,その前提とする判断が誤っているから,本 件発明1の構成のうちの「黄色発光ダイオード」及びその「発光色」を容\n易に想到することができたという判断も誤りである。
エ 黄色発光ダイオードの単独発光色及び混合発光色の容易想到性
前記ウのとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項との間には課題 の共通性がなく,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付 けがあるとは認められないが,念のため,仮にそのような動機付けがある として,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することにより,黄 色発光ダイオードが単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及 び前記黄色発光ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオード から発せられる光が混合することにより得られる発光色という,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかについて検討\nする。
甲2には,前記(1)認定のとおり,カード型LED照明光源10に実装さ れるLEDを,相関色温度が低い光色用又は相関色温度が高い光色用や青, 赤,緑,黄など個別の光色を有するものとすることができること(段落【0 080】)が記載されているが,当該事項に係る実施の形態1に関連する段 落【0076】ないし【0080】の記載全体をみても,青,赤,緑,黄 など個別の光色のうちからいずれか1色の単色LEDのみを搭載したLE D光源により青,赤,緑,黄などいずれかの個別の光色を発光するという 意味なのか,複数色のLED光源を搭載して青,赤,緑,黄などの個別の 光色となるように制御するという意味なのか必ずしも判然としない。段落 【0080】に続いて,段落【0081】の前半において「更に,多発光 色(2種以上の光色)のLEDをカード型LED照明光源10に実装する ことにより,・・・この場合,2種の光色を用いた2波長タイプのときには」 との記載が続くことに照らせば,段落【0080】の上記記載は,前者の 意味,すなわち,1種の光色を用いた1波長タイプを意味し,黄色の単色 LEDを搭載したLED光源により黄色の光色を有するという意味と解す ることはできる。しかし,本件発明1は,赤色発光ダイオード,緑色発光 ダイオード,青色発光ダイオード,黄色発光ダイオード及び白色発光ダイ オードを備え,複数得られる特定の発光色として,少なくとも,黄色発光 ダイオードから単独で発せられる光により得られる発光色の他に,黄色発 光ダイオードから発せられる光とそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオー ドから発せられる光とを混合して得られる発光色が得られなければならな いところ(相違点1),前者の意味であるとすれば,上記の混合して得られ る発光色が容易想到であるとはいえない。他方,仮に後者の意味だとして も,甲2には,複数色のLED光源に黄色のLEDを含んでいるとの直接 的な記載はないから,黄色以外のLED光源によって黄色の光色を得てい る可能性も否定できず,黄色のLEDの単独発光が容易想到であるとはい\nえない。
さらに,前記(1)イで認定したとおり,甲2には,3種の光色を用いた3 波長タイプの場合は青と青緑(緑)と赤発光の組合せ,4種の光色を用い た4波長タイプの場合は青と青緑(緑)と黄(橙)と赤発光の組合せが望 ましく,特に4波長タイプのときには平均演色評価数が90を超える高演 色な光源を実現できること(段落【0081】)が記載されており,演色性 を向上させるためにRGBY(赤,緑,青,黄)4種類のLEDを用いる ことが記載されているが,これらの記載は,一般的な意味での演色性の向 上に関するものであるから,これらの記載からは,RGBY4種類のLE Dを用いた照明装置において,黄色のLEDを単独発光させることが客観 的かつ具体的に把握できるものとは認められない。 また,甲2には,RGBWY(赤,緑,青,白,黄)の5種類のLED を用いることが,段落【0065】や【0189】に記載されているが, 具体的な記載としては電源に関する説明があるのみで,これらの記載から は,RGBWYの5種類のLEDを用いた照明装置において,黄色LED を単独で発光させることやその他の色と混ぜて発光色を制御することは, 客観的かつ具体的に把握することはできない。 そうすると,仮に甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機 付けがあり,甲2に記載された技術事項を甲1発明において採用し,甲1 発明において黄色発光ダイオードを備えたとしても,黄色発光ダイオード が単独で発光することにより得られる黄色の発光色,及び,前記黄色発光 ダイオードとそれ以外の1つ又は2つの発光ダイオードから発せられる 光が混合することにより得られる発光色という,相違点1に係る本件発明 1の構成を容易に想到することができたとは認められない。\n

◆判決本文

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令和2(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年10月7日  知的財産高等裁判所

 引用文献の認定誤りを理由として、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」にお いて,「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の\n【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示 されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0 022】)。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【002 3】)。 この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソ\ースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえ ない。 そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされ た場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では, 燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソ\ード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載され\nている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。\n
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流 を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に 電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の 整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側 からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。\n
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソ\ード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】,【0005】, 【0008】及び【0009】の記載や,【図4】(上記各段落の記載内容に照らし, 引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に 対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮 断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。)を 踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖 電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流\nが反対方向に流れることを否定するものとは解されない。 したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず, 乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成する ことに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被 告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。 なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料におい て,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表\記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえな い。

◆判決本文

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令和1(ワ)11874    商標権  民事訴訟 令和3年6月23日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。商標権侵害事件です。38条3項のライセンス相当額が0.15%と判断されました。総額では1億円を超えています。判決文中では2項侵害の主張はされていません。

ア 証拠(乙112,113)によれば,平成22年10月1日から平成3 1年4月30日までの期間における本件各店舗の総売上高は,652億5 439万2382円であると認められる。
イ 使用料率について
(ア) 商標法38条3項による損害は,原則として,侵害に係る役務の売上 高を基準とし,これに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきで あり,実施に対し受けるべき料率は,1)実際の実施許諾契約における実 施料率や,業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,2)当該商標 権の顧客吸引力,3)当該商標を使用した場合の売上げ及び利益への貢献 や侵害の態様,4)商標権者と侵害者との競業関係や商標権者の営業方針 等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきであ る(知財高裁特別部平成30年(ネ)第10063号・令和元年6月7日 判決(最高裁HP)参照)。
(イ) 被告らは,パチンコホールの売上げを計上する場合,貸玉の対価をも って売上高とするグロス方式と,貸玉の対価から客に提供した景品原価 を控除した金額をもって売上高とするネット方式があるところ,パチン コ店について商標法38条3項の損害額を算定するに当たっては,ネッ ト方式により貸玉の対価から景品原価を控除した金額を基に計算するべ きであると主張する。 しかし,本件において,損害を算定する基準となる売上高は,当該役 務によって得られる収入,すなわち,貸玉の対価と解するのが自然であ り,店舗運営に係る諸費用のうち景品原価のみを控除した額を売上げと みなすべき合理的な理由はない。被告らが主張するような,パチンコ業 界における利益率は使用料率の算定において考慮すれば足りるというべ きである。
(ウ) そこで,原告各商標についての相当な使用料率について以下検討する。
a 本件においては,原告が実際に原告各商標の使用を許諾したことを うかがわせる証拠はなく,業界における実施料の一般的な相場等も明 らかではない。
b 原告各商標は,上記(1)イで摘示した事情,すなわち,パチンコ業界 における店舗数ランキング,「ベガスベガス」という名称の需要者へ の訴求力,原告の店舗情報に関するウェブサイトへのアクセス状況, 原告の会員数などを考慮すると,相応の顧客吸引力を有するものと認 められる。
他方で,全日本遊技事業協同組合連合会が実施したアンケート結果 (乙40・15頁)によると,パチンコホールを選ぶ上でのポイント として需要者が重視するのは,1)遊戯機種,2)アクセスの容易さ,3) 出玉感,4)ホールの雰囲気,5)店員の接客態度などであり,店舗の名 称が売上げ又は利益に貢献する程度は限定的であるというべきである。
c さらに,原告と被告らはその事業分野で競合しているが,営業地域 をみると,原告の店舗は,北海道,東北地方及び関東地方が中心であ り,本件各店舗の所在する広島県及び山口県においては店舗展開及び 営業活動をしていない。他方,被告らは,原告各商標の出願前から本 件各店舗を同地域に出店し,地元の需要者に対して,新聞の折込みチ ラシ(乙55,56,78,85〜87,90,91,96,97), 新聞紙面広告(乙53,54,77),テレビCM(乙57,59〜 66,86〜88,91〜93,97〜101)などによる宣伝広告 活動を継続してきたものと認められ,被告らによるかかる営業活動が その売上げに貢献する割合は大きかったと推察される。
d 本件各店舗の月当たりの営業利益をみると,売上高の概ね●(省略) ●前後で推移しているものと認められ(乙112,113),売上高 に対する営業利益の比率は必ずしも高くないことからすると,通常想 定される使用料率は上記の割合より相当程度低くなると考えられるが, 本件においては,さらに,店舗の名称が売上げに貢献する程度は限定 的であり,原告と被告らは本件各店舗の所在地で競合していないこと, 被告の営業努力の寄与が大きいなどの事情が認められる。
e 以上の事情も含め,本件に現れた事情を総合考慮すると,原告各商 標に関する使用料率は0.15%であると認めるのが相当である。

◆判決本文

関連事件です。不使用であるとした審決の取消請求事件です。

◆平成29(行ケ)10126

◆令和2(行ケ)10091

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令和3(行ケ)10029  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月21日  知的財産高等裁判所

 商標 「HIRUDOMILD」について、引用商標1「Hirudoid」及び引用商標2「ヒルドイド」から無効か否かが争われました。審決は非類似、出所混同無し(11,15号違反無し)と判断しましたが、知財高裁は、「HIRUDO」の文字のみを抽出できるとして、審決を取り消しました。

 ア 本件商標は,「HIRUDOMILD」の10文字の標準文字で表してなるものであり,「ヒルドマイルド」の称呼が生じるものである。\nところで,本件商標が10文字からなるものでその一部のみを観察することも想 定可能な程度の長さを有していること,その構\成中の「MILD」の文字部分は, 前記1(5)のとおり,「物事の程度や人の性質・態度などが穏やかなさま。」「刺激の 少ないさま。」などを意味する英単語として広く知られ,また,会話中においても日 常的に使用されており,ひとまとまりの語句として強く認識され得るものであるこ とからすると,本件商標は,「HIRUDO」の構成部分と「MILD」の構\成部分 からなる結合商標であるとみることができる。 そして,「HIRUDO」の構成部分は,我が国において周知されているものではないから一種の造語と理解され,同構\成部分に対応する和名の「ヒルド」は,前記1(1)のとおり長期間にわたって原告商品の他には薬剤の名称には使用されておら ず,薬剤の名称としてありふれたものではないことからしても,需要者に対し,商 品の出所識別標識として強い印象を与えるといえる。これに対し,「MILD」の構成部分は,前記1(5)のとおり,薬剤の分野においては,薬の効果や刺激が弱いこと を意味するものとして理解され,その和名である「マイルド」は薬のブランド名等 とともに商品名に用いられることが相当程度にあるから,指定商品である薬剤との 関係において,自他識別機能は極めて弱いというべきであり,「MILD」の構\成部 分から出所識別標識としての称呼,観念が生じるとはいえない。 そうすると,本件商標については,「HIRUDO」の文字のみを抽出し,この部 分だけを引用商標と比較して類否を判断することも許されるというべきである。
イ したがって,本件商標については,「HIRUDOMILD」の外観及び「ヒ ルドマイルド」の称呼のほか,「HIRUDO」の外観及び「ヒルド」の称呼が生じ るものとして引用商標と比較することが相当である。なお,「HIRUDO」は特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,本件商標からは特定の観念を生じな いというべきである。もっとも,上記1(5)からすれば,「HIRUDOMILD」 が薬剤に使用された場合には,「薬効又は刺激が弱い『HIRUDO』」という観念 が生じ得ると認めるのが相当である。
(2) 引用商標について
ア 引用商標1は,「Hirudoid」の8文字のアルファベットからなるもの であり,「ヒルドイド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定 の意味合いを有しない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
イ 引用商標2は,「ヒルドイド」の5文字の片仮名からなるもので,「ヒルドイ ド」の称呼を生じる。辞書等に採録された既成語ではなく,特定の意味合いを有し ない一種の造語と理解され,特定の観念を生じない。
4 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否について検討する。
(1) 本件商標の指定商品は「薬剤」であり,引用商標1の指定商品は「薬剤(蚊 取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。)」を 含むものであって,その指定商品は同一又は類似である。
(2)ア 本件商標は,その10文字中,7文字目の「M」,9文字目の「L」を除 く「HIRUDO(Hirudo)」「I(i)」「D(d)」の8文字が,引用商標1と大文字と小文字の差はあるものの共通し,その並び順も同じである。次に,称呼 についてみると,本件商標と引用商標1は,「ヒルド」「イ」「ド」の5つの構成音が共通し,その並び順も同じであり,本件商標の方が引用商標1よりも「マ」と「ル」\nの2音多いものの,印象の強い語頭の3音と語尾の1音が同じである。そして,前 記3(1)のとおり,本件商標は,薬剤に使用された場合,「薬効又は刺激が弱いHI RUDO」を連想させるものである。 イ 本件商標の「HIRUDO」の構成部分と引用商標1を比較すると,大文字と小文字の差はあるものの,その6文字全てが引用商標1の冒頭6文字と共通し,\nその3つの構成音全てと引用商標1の語頭の3つの構\成音が共通する。「HIRU DO」及び引用商標1はいずれも特定の意味を有しない造語であり,それ自体から 特定の観念は生じない。
(3) 原告商品は医療用医薬品であるものの,その需要者は医療関係者に限られる ものではなく,その最終需要者は患者である上に,前記1(2)のように,記事やオン ラインショップ等で,市販品であるヘパリン類似物質含有製剤について「『ヒルドイ ド』で知られる医療用保湿剤の成分」を配合している旨の説明がされるほどに「ヒ ルドイド」が市販品である保湿剤の購入者に知られていたと推認されることからし ても,原告使用商標が表示された原告商品の需要者には,医師等医療関係者のみならず患者も含まれるというべきである。本件商標の付された商品は存在しないもの\nの,仮に被告が主張するように医療用医薬品のみに使用されるものであったとして も上記需要者の認定を左右しない。 その上で,取引の実情について検討するに,前記1(1)及び(2)のとおり,引用商 標1を表示した原告商品が60年以上にわたり販売されていること,原告が原告商品について一定の宣伝活動を継続していること,平成29年度には原告商品が医療\n用医薬品の年間売上げで19位となるなど非常に高い売上げを有していること,平 成26年度から平成30年度までの間のヘパリン類似物質含有製剤又は血液凝固阻 止剤の分野における原告商品の売上占有率は,徐々に減少しているものの全期間を 通じて金額にして7割,数量にしても5割を超えていたこと,平成29年頃には, アンチエイジングの効果がある又は肌荒れ・乾燥に効果のある保湿クリームとして 女性誌等でも取り上げられ,美容目的で処方を受ける例があることが疑われるなど として問題視されるまでになっていたこと,原告が適正な処方をするよう注意喚起 した後に,原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部 外品)が複数販売されるようになり,製造者や販売店が,「ヒルドイドで有名な『ヘ パリン類似物質』を配合」などと説明するなどしていたこと及び令和3年2月から 同年3月に実施されたアンケートによると乾燥肌等に対する皮膚薬を使用又は1年 以内に使用した者の44%が「ヒルドイド」を保湿剤であると認識していたことか らすると,平成29年頃までには,需要者の相当割合の者が,「ヒルドイド」という 造語及びこれに対応する欧文字の「Hirudoid」から,「ヘパリン類似物質を 配合した保湿剤」である原告商品を想起するものと認められ,長期間をかけて形成 されたこの状況は,本件商標の出願日及び本件査定日においても継続していたもの と認めるのが相当である。 また,昭和51年から平成11年まで販売されていた「ヒルドシン」を除けば, 語頭に「ヒルド」や「HIRUDO(Hirudo)」が付された薬剤は原告商品の みであったこと,原告が原告商品について適正な処方をするよう注意喚起した後に, 原告商品と同じヘパリン類似物質を配合した市販品(医薬品又は医薬部外品)が複 数販売されるようになり,そのうち医薬部外品の一つは語頭に「ヒルド」を用いて おり,一部の購入者が原告商品の市販品であると誤解して購入するなどしていたこ と等に照らすと,本件商標の出願日及び本件査定日時点において,需要者の間では, 「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は,「ヒルドイド」及び「H IRUDOID」を意味する単語として認識されており,「ヒルド」に対応する欧文 字の「Hirudo」は「Hirudoid」を意味するものと認識されていたと 認めるのが相当であるから,「HIRUDO」と引用商標1は,いずれも「ヘパリン 類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ,観 念を共通とするものと認められる。
(4) 被告の主張について
被告は,「○○」と「○○MILD」の両方が商標登録されている例が複数ある旨 指摘するが,これらの登録例は,同一権利者による商標出願に係るものか,指定商 品が異なるか,「○○」の部分が「PRECIOUS」など特定の意味を有する単語 であるなどしていて,本件とは事案が異なる(乙1)。また,「ウフェナ」の文字を 標準文字で表してなる商標が,「ウフェナマイルド」の文字と「UFENAMILD」の文字を上下二段に表\してなる構成の引用商標と類似しないと判断した審決例(乙\n2)があるが,当該引用商標の構成が本件商標及び本件の引用商標とは異なる上,同審決においては取引の実情が考慮されていないなど本件とは事案が異なるもので\nある。 次に,被告は,語頭に「ヒルド」を付す名称の薬剤は原告商品のみではない旨主 張するが,「ヒルド」を語頭に付した名称の商品が原告商品の他に複数販売されてい る状況が長期間にわたり継続するなどして「HIRUDO」の構成部分の出所識別機能\が失われたとまで認めるべき事情はないから,これらの商品の存在は,本件商標と引用商標1の類否の判断に影響しない。
(5) 上記を総合すると,本件商標と引用商標1は,指定商品が同一で,外観,観 念,称呼に共通している部分があり,同一又は類似の商品に使用された場合に,商 品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというほかないから,両商標は類似 すると認めるのが相当である。

◆判決本文
関連事件です。商標がカタカナ表記です。

◆令和3(行ケ)10028
関連事件です。

◆令和3(行ケ)10032

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令和2(ワ)8061  商標権侵害差止請求  商標権  民事訴訟 令和3年9月27日  大阪地方裁判所

 被告はメルカリの販売サイトにて「♯シャルマントサック」のハッシュタグを使用して、ハンドメイド品の巾着袋を販売していました。 大阪地裁は、「♯シャルマントサック」は商標的使用として、差し止めを認めました。

 被告は,被告標章1につき,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であるこ とを認識することができる態様により使用されていない,すなわち商標的使用がさ れていない旨を主張する。 しかし,前記のとおり,オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリに おける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検 索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であ ることを示す記号として理解される。このため,被告サイトにおける被告標章1の 表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマン\nトサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供する ことにより,被告サイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の 販売を促進する目的で行われるものといえる。このことは,メルカリにおけるハッ シュタグの利用につき,「より広範囲なメルカリユーザーへ検索ヒットさせること ができる」,「ハッシュタグ機能をメルカリ上で使うと使わないでは,商品閲覧数\nや売り上げに大きく差が出ます」などとされていること(いずれも甲7)からもう かがわれる。
また,被告サイトにおける被告標章1の表示は,メルカリ利用者が検索等を通じ\nて被告サイトの閲覧に至った段階で,当該利用者に認識されるものである。そうす ると,当該利用者にとって,被告標章1の表示は,それが表\示される被告サイト中 に「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所 在することを認識することとなる。これには,「被告サイトに掲載されている商品 が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当 然に含まれ得る。
他方,被告サイトにおいては,掲載商品がハンドメイド品であることが示されて いる。また,被告標章1が同じくハッシュタグによりタグ付けされた「ドットバッ グ」等の文字列と並列的に上下に並べられ,かつ,一連のハッシュタグ付き表示の\n末尾に「好きの方にも・・・」などと付されて表示されている。これらの表\示は,掲載 商品が被告自ら製造するものであること,「シャルマントサック」,「ドットバッ グ」等のタグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに 関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。しかし, これらの表示は,それ自体として被告標章1の表\示により生じ得る「被告サイトに 掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名である」 との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。 これらの事情を踏まえると,被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者に\nとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見\nられる。すなわち,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であ ることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているも のと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

◆判決本文

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令和1(ワ)5444  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年9月28日  大阪地方裁判所

 知財高裁特別部で判断された「二酸化炭素含有粘性組成物事件」の原告は、侵害事件で勝訴しましたが、被告会社が破産したため、実質経営者である取締役に対して訴訟をしました。裁判所は、被告らに監視・監督義務があるとして1億円を超える損害賠償を認めました。

 法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場\n合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に 対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑 罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。 したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の 特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行 を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うと いうことができる。 他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効につい て厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許 庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判 断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。 このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといっ て,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施 行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵 害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続する ことが当然に許容されることにもならない。 自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役と\nしては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎 重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公 権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に 有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではない が,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきで あり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべ きこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべき こととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。
具体的には,1)非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を 停止し,あるいは製品の構造,構\成等を変更する,2)相手方との間で,非侵害又は 無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継 続する,3)暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ ば,その間の補償が得られるようにする,4)実施行為を継続しつつ,損害賠償相当 額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補 償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつか の方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経 営判断が適切であったかを検討すべきことになる。
・・・
(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに 対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日に これに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法に より計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債 務の弁済はなされていない。 被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目 的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の 申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。\n破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破 産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債 権の総額は1億6969万3683円とされた。
・・・
ウ 判断
前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを 総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならな い,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったと\nいうことはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケ ミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品 の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。 前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判 断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場 合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求め られ,前記(1)の1)ないし4)で述べたような方法をとることで,特許権侵害に及 び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるに\nも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販 売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品 の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償 相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケ ミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,\n被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産 手続開始の申立てを行ったものである。\n
以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特 段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取 締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事 情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。
(3) 被告P2の悪意重過失について
ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等\nの有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表\n取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。 被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず, 本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機 会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見 し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役として の善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。
イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな 紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易 であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公 権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,\n被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能\であったと解され る。 被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止で きなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務 に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったと いうことを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての 義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。
以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適 切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。
(4) 被告P3の悪意重過失について
ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1, 2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数 社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的で あったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受 け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売で きると聞いた。 被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額 であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することに した。
(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭 酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。 被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年1 1月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネ\nオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。
(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許 の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,ま た,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。 被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなか ったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各 特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山 特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから 心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告 と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告P3 は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。 被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領 した。
(エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告P1に説明を求めたと ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の 特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判 費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担する と言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本 件発明2−1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の 写しの交付を受けた。 被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告 製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先する\nことはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。 その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける 機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。
(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証 開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問 を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販 売を止めた。
(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223 万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告にお いて供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に 対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガス パックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立し た。
イ 判断
前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件 各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭 酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理 士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に 当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有して いて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権\nが優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をした というのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説 明に依拠してその判断を行ったことになる。 しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠\nがなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記 (2)で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵\n害を否定する理由とはなり得ない。
被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製 造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記 (1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権\n侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定 する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害\nし損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断 をすべき注意義務があったということができる。 この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品 14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の1)ないし4)で検 討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告 製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせた のであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なく とも重過失によると認めるのが相当である。
(5) 被告P4の悪意過失について
会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有\n無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締\n役の業務執行の監督を行うべきものである。 前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについ て被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であ った被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定 したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠は\nなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワール が被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告 P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべき であり,その過失の程度は重大というべきである。
4 原告の損害額(争点4)について
(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額
ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額
(ア) 証拠(甲45〜49,51〜57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製 品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推 移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認め られる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億08 29万1485円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護 士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミア の行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害 額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。 また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているか ら,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01 29万1485円であると認められる。
(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条 2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7 895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した 700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基 づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。 しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受け た損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告が ネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるか ら,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる 損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は異なるとし て,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。
イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額
(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドス キンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自\nら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワー ルの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。 そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を 差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223 万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11 月30日までの期間の利益額は896万8027円である。 証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任し て訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある 弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,ク リアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推 定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。 また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから, 現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万626 5円であると認められる。
(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項 を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記 アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害 を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。 被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としてお り,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする 推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の 責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損 害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害 の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。
(2) 損害の発生について
被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売 しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワール の行為によって原告は損害を被っていないと主張する。 しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品 とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難である とか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があっ たとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったと しても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる 等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはな らない。
(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について
ア 被告P1について
前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお, ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当 該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネ オケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告 P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
イ 被告P2について
前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して 監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たると ころ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記(1)アの損害が被告P1 の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害 に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因 果関係があると認められる。
ウ 被告P3について
前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権 の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売 するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定 をしたものであり,この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるとこ ろ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損 害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。
エ 被告P4について
前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任 して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前 記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重 過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損 害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリ アノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関 係があると認められる。 そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間 にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得 た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を 控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,こ の全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認め られる。

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令和3(行ケ)10046  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月29日  知的財産高等裁判所

 不使用取消審判の審決取消訴訟事件です。知財高裁は、指定商品に使用していたとした審決を維持しました。

 本件商標は,「Nクール」の文字を標準文字で表してなるものである。\n次に,本件使用商標は,別紙1のとおり,「Nクール(R)ベストII」の緑色 の文字を表してなるものである。そして,本件使用商標の構\成中の「ベス ト」の文字部分は,本件使用商品(「メッシュベスト」)との関係では, 商品の種類を表すものであり,「(R)」の文字部分は登録商標を意味する記 号及び「II」の文字部分はローマ数字の2を表するものであって,いずれ\nも自他商品識別標識としての機能を有するものと認められないから,本件\n使用商標の要部は,「Nクール」の文字部分であると認めるのが相当である。 そこで,本件商標と本件使用商標の要部の「Nクール」の文字部分を対 比すると,外観は異なるが,構成文字が共通であり,「エヌクール」とい\nう同一の称呼が生じることからすると,本件使用商標は,全体として本件 商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
ウ 以上によれば,被告は,要証期間内の令和2年1月23日から同年4月 2日までの間,日本国内において,本件使用商品に関する広告(本件カタ ログデータ)に本件商標と社会通念上同一の商標である本件使用商標を付 して電磁的方法により提供したものと認められるから,かかる被告の行為 は,本件商標の使用(商標法2条3項8号)に該当するものと認められる。
2 本件使用商品の本件商標の指定商品該当性について
(1) 本件使用商品が本件審判の請求に係る指定商品である第25類「ベスト」 に該当するかについて検討する。
ア(ア) 本件商標の登録出願時(登録出願日平成28年6月20日)に施行 されていた商標法施行令別表(以下「政令別表\」という。)には,第25 類の名称として「被服及び履物」が挙げられている。 また,本件商標の登録出願時に施行されていた商標法施行規則別表(平\n成28年経済産業省令第109号による改正前のもの。以下「省令別表」\nという。)には,第25類に属する商品として「一 被服」を掲げ,その 細分類として定められた「(一) 洋服」から「(十一) ナイトキャップ 帽子」までに商品が例示列挙されているが,「ベスト」については掲げら れていない。
(イ) 次に,本件商標の登録出願時に用いられていた国際分類(第10− 2016版)を構成する類別表\(以下「国際分類類別表」という。)の第\n25類の「注釈」(Explanatory Note)には,「この類 には,特に,次の商品は含まない:特殊な用途に供する被服及び履物(商 品のアルファベット順一覧表参照).」と記載されている。一方で,国際\n分類類別表の「商品のアルファベット順一覧表\」には,「ベスト」(「ve sts」,「waistcoats」)は,第25類に属する商品として掲 げられている。
(ウ) 「ベスト」(「vests」,「waistcoats」)とは,一般に, 「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着の一種」を意味するもの と認められる(甲3,4)。
イ 前記ア認定の政令別表第25類の名称,省令別表\に第25類に属するも のとされた商品の内容,国際分類類別表の第25類の「注釈」において示\nされた商品の説明及び国際分類類別表の「商品のアルファベット順一覧表\」 の記載,「ベスト」の用語の意義を総合考慮すると,本件審判の請求に係る 指定商品である第25類「ベスト」とは,省令別表第25類に属する商品\nとして掲げられた「被服」に含まれる「丈が短く,体にぴったりつく,袖 のない胴着の一種」であって,「特殊な用途に供するものではないもの」と 解するのが相当である。
これを本件使用商品についてみるに,証拠(甲7,8,13の2,14 の3,15の3)によれば,本件使用商品は,メッシュ生地で作られた, 丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着であると認められる。 また,前記1(1)ウの認定事実によれば,本件使用商品は,被告が販売す る「空調服」(電動ファンを内蔵した上着)(甲9)の下に着用する「専用 メッシュベスト」であるが,「空調服」自体,その有する機能から暑さ対策\nが必要となる場面で着用されることが想定された商品であり,実際に,業 界を問わず,様々な場面で利用されており(本件カタログデータの2頁に 「建設,建築業界を始め,土木・自動車・流通・運輸・金属・農業など・・・ 業界を問わず,あらゆるシーンで採用されています。」との記載(前記1(1) ウ(イ))がある。),その用途が限定されていないことからすれば,本件使 用商品も,同様にその用途が限定されていないものと認められるから,「特 殊な用途に供するものではないもの」と認められる。 したがって,本件使用商品は,「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない 胴着の一種」であって,「特殊な用途に供するものではないもの」であるか ら,本件商標の指定商品第25類「ベスト」に含まれるものと認められる。
(2) これに対し原告は,1)類似商品・役務審査基準によれば,第25類は,細 分類として「被服」を含み,更にこの「被服」は「洋服,コート,セーター 類,ワイシャツ類」を含み,このうちの「セーター類」には「3 セーター 類 カーディガン,セーター,チョッキ」が含まれるところ,「ベスト」(「v ests and waistcoats)」は,「1 洋服」とは別の「3 セーター類 カーディガン,セーター,チョッキ」の中に分類されており, これに準じるものでなければならないから,洋装ファッションとしての「機 能又は用途」と,それにふさわしい「材料」を有するものでなければならな\nい,2)「メッシュベスト」(本件使用商品)は,保冷剤を保持するための装着 具であり,洋装ファッションとしての「機能又は用途」を有せず,また,単\n純にメッシュ(網)を,保冷剤を保持するように縫製したものにすぎず,保 冷剤を装着せずに使用することは実用性がなく実際上も考えられない特別な 「材料」からなり,保冷具の一部材にすぎないから,洋装ファッションとし てのベストではなく,第25類の一般的な被服に属する「ベスト」(類似群コ ード17A01)の範疇に属する商品であるとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,本件審判の請求に係る指定商品である第2 5類「ベスト」は,省令別表第25類に属する商品として掲げられた「被服」\nに含まれる「丈が短く,体にぴったりつく,袖のない胴着の一種」であって, 「特殊な用途に供するものではないもの」と解すべきであることは,前記(1) イ認定のとおりである。また,省令別表には,第25類に属する商品として\n掲げた「一 被服」の細分類の「(一) 洋服」から「(十一) ナイトキャップ 帽子」までに「ベスト」は掲げられていないが,上記細分類に掲げられた商 品は,第25類に属する商品の例示列挙であるから,第25類「ベスト」は, 上記細分類中の「(三) セーター類 カーディガン セーター チョッキ」 に準じるものでなければならないと解すべき理由はない。また,国際分類類 別表の第25類の「注釈」において示された商品の説明(前記(1)ア(イ))に 照らしても,第25類「ベスト」は,洋装ファッションとしての「機能又は\n用途」とそれにふさわしい「材料」を有するものでなければならないと解す べき合理的な根拠はない。
2)については,本件使用商品は,メッシュ生地で作られた,丈が短く,体 にぴったりつく,袖のない胴着であるが(前記(1)イ),その材料は特殊なもの であるとはいえず,保冷剤を装着することができるという機能を有するとし\nても,そのことによって本件使用商品が保冷具の一部材にすぎないものであ るともいえない。また,上記のとおり,第25類「ベスト」は,洋装ファッシ ョンとしてのベストに限られるものではない。 したがって,原告の上記主張は,理由がない。

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令和3(ネ)10028  損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年9月29日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ゲームの著作物について複製・翻案であるかについて1審は複製・翻案ではないと判断しました。知財高裁(1部)も同様です。

 また,控訴人は,当審において,原判決は,全体として一つのゲーム を一画面一画面に分断し,分断した画面ごとに共通する部分(アイコン 等の配置等)について,個別に創作性を判断し,その結果として,共通 する部分全体の創作性を否定したものであり,一連の流れのあるゲーム の著作権侵害を判断しているのではなく,画面の著作権侵害を判断して いるにすぎないから,このような原判決の判断手法によると,他社のゲ ームをデッドコピーしても,キャラクターやアイコンのデザイン等を多 少変更さえしてしまえば,著作権侵害を免れることになり,不合理であ るとして,被告ゲームは原告ゲームを複製又は翻案したものに当たらな いとした原判決の判断手法は誤りである旨主張する。 しかしながら,原告ゲーム全体と被告ゲーム全体の共通部分が創作的 表現といえるか否かを判断する際に,その構\成要素を分析し,それぞれ について表現といえるか否か,表\現上の創作性を有するか否かを検討す ることは,有益かつ必要なことであり,その上で,ゲーム全体又は侵害 が主張されている部分全体について表現といえるか否か,表\現上の創作 性を有するか否かを判断することは,合理的な判断手法であると解され る。 そして,前記(イ)のとおり,原判決は,被告ゲームと原告ゲームの共 通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現にお\nいて相違し,デッドコピーであるとは評価できないから,被告ゲーム全 体が,原告ゲーム全体を複製又は翻案したものに当たるということはで きないと判断したものであり,その判断手法に誤りはない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(2) 原判決42頁6行目の「原告は,」を「ア 控訴人は,」と改め,同43頁 20行目から44頁20行目までを次のとおり改める。
「 イ ところで,著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させ\nて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせ たものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プロ\nグラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するた めには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に 表現され,その作成者の個性が表\れていることが必要であると解され る。すなわち,プログラムの具体的記述において,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選 択の幅があり,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表\れ ていることが必要であると解される。 これを原告ソースコードについてみるに,前記ア認定のとおり,原\n告ソースコードは,原告ゲームの473個のLuaファイルのうちの\n1個である「MissionMainPage.lua」であり,原告 ソースコードに係るプログラムは,「任務(ミッション)」に係る画面\n(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)の切 り替えに関する処理及び表示内容の更新処理を行うプログラムである。\nそして,原告ソースコードの記述は,原判決別紙「ソ\ースコード対比 表」の「原告ソ\ースコード」欄記載のとおりであり,個々の記述の意味 は,同表の「裁判所の認定」欄記載のとおりである。\n原告ソースコードの記述は,いずれも単純な作業を行うfunct\nion(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等) が複数記述されたものであり,ソースコードによって記述される機能\ が上記のとおりローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び 出し等の単純な作業を行うことである以上,表現の選択の幅は狭く,\nその具体的記述の表現も,定型的なものであり,ありふれたものであ\nると言わざるを得ない。 また,個々の記述の順序や組合せについても,ゲームの機能に対応\nさせたにすぎないものであり,ありふれたものである。 そうすると,原告ソースコードの具体的記述に控訴人の思想又は感\n情が創作的に表現され,控訴人の個性が表\れていると認めることはで きないから,原告ソースコードに係るプログラムは,プログラムの著\n作物に該当するものと認めることはできない。 したがって,被告ソースコードの大部分が原告ソ\ースコードと共通 しているとしても,原告ソースコードに係るプログラムの著作物性は\n認められないから,被告ソースコードの制作は,原告ソ\ースコードに 係るプログラム著作権(複製権又は翻案権)の侵害に当たらない。
(4) 編集著作権の侵害について 控訴人は,当審において,1)原告ゲームは,素材である個々の画面(8 4画面)の選択,その画面遷移等の配列,素材である各画面内における アイコン,ボタン,キャラクター等の選択又は配列に作成者の個性が発 揮されているから,素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著 作物である,2)原告ソースコードも,個々のソ\ースコードの書き方,各 ソースコードの順序,変数の名称等の素材を選択して組み合わせたこと\nに作成者の個性が発揮されているから,素材の選択又は配列によって創 作性を有する編集著作物である,3)被告ゲームは,編集著作物である原 告ゲーム(原告ソースコードを含む。)を複製又は翻案して制作されたも\nのであるから,被告ゲームの制作及び配信行為は,原告ゲームについて 控訴人が有する編集著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)の侵害に 当たる旨主張する。 しかしながら,控訴人の上記主張は,原告ゲーム又は原告ソースコー\nドにおける個々の素材の選択又は配列にいかなる創作的表現がされてい\nるのか,その創作的表現が被告ゲーム又は被告ソ\ースコードにおいてど のように利用されているのかについて具体的に主張するものではないか ら,その主張自体理由がない。

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令和2(ワ)14629  意匠権侵害差止等請求事  意匠権  民事訴訟 令和3年9月7日  東京地方裁判所

 意匠権侵害事件です。東京地裁46部は、両者は類似していないとして請求を棄却しました。

 ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様において共通し,また,具体的構\ 成態様のうち,共通点1から5において共通する。 このうち,本件意匠の基本的構成態様は,需要者の注意を引くべき形状等\nとはいえず,類否判断に当たって,それが共通することを大きく取り扱うこ とは相当ではない。 具体的構成態様の共通点のうち,共通点1及び2は,需要者の注意を引く\nべき形状等に係るものであり,これらが共通することは,類否判断に影響を 与える。もっとも,渦流生成部において,捕捉部を中心とする等角度位置に 配置された複数の斜面体を設ける構成を有する公知意匠があり(前記\n),この点を特に大きく取り扱うことは相当とはいえない。 共通点3から4は,フランジ部の形状等であり,需要者が注意を引くべき 部分の形状等ではなく,また,フランジ部においてその形状等が占める割合 も大きくなく,類否判断に与える影響は小さいといえる。
イ 本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,差異点1から6において異なる。\n差異点1から4は,渦流生成部の形状であり,注意を引くべき形状等に関 するものである。そして,本件意匠においては,渦流生成部を形成する4個 の斜面体が,段差構造によって境界を形成するものであり,渦流生成部を形\n成する斜面体が,段差構造によって境界を形成し,斜面体を区切る構\造体が ないという形状等が,注意を引くべき形状等に含まれるといえるところ,差 異点1は,その形状等に係るものである。本件意匠が上記の形状等であるの に対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰 部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰\n部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチ ャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上から だけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別 紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・ 被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部\nは平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構\造であることを認識 するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突 出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰 部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また, 本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部 が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。こ れに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自 体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより 斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという 印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の 類否判断に大きく影響を与える。 差異点2(斜面体の個数)及び3(斜面体の形状)も,需要者の注意を引 くと考えられる渦流生成部の形状に係る差異であり,類否判断に影響を与え るといえる。もっとも,本件意匠と被告意匠において,斜面体の形状は,い ずれも最も長い曲線が内側に湾曲する3つの線で囲まれるものであり,その 形状の差は大きなものとはいえない。そして,本件意匠と被告意匠では,こ のような形状の斜面体がいずれも捕捉部を中心として等角度位置に配置さ れていて,斜面体の形状に大きな差がないことからも,その個数が6個であ っても4個であっても,数個の斜面体で構成されているとの印象を与える側\n面があり,個数の差が美感に与える影響は必ずしも大きなものであるとはい えない。差異点4(捕捉部の形状)は,需要者の注意を引くと考えられる捕 捉部の形状に係る差異であり,本件意匠の捕捉部には整流体がないのに対し, 被告意匠には,本件意匠にはない整流体があり,それが膨出していることか らも,類否判断に一定の影響を与えるといえる。 差異点4から6は,いずれも,需要者の注意を引くとはいえない,フラン ジ部における差異であり,その差異も大きくなく,類否判断に与える影響は 大きくないといえる。
ウ 以上によれば,本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で共通し,具体的\n構成態様においても,注意を引くべき形状等に係る共通点1及び2において\n共通する。もっとも,本件意匠の基本的構成態様は,注意を引くべき形状等\nとはいえず,また,具体的構成態様の共通点も類否判断に与える影響を特に\n大きく取り扱うことは相当ではない。 他方,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様の差異のうち,差異点1は,\n本件意匠において特に注意を引くべき形状等に関する差異であり,被告意匠 には本件意匠には見られない堰部があるのであり,前記のとおり,それが類 否判断に与える影響は大きい。また,差異点4も類否判断に一定の影響を及 ぼす。 これらからすると,本件意匠と被告意匠の差異点から受ける印象は,本件 意匠と被告意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものであるといえる。よ って,被告意匠は,本件意匠に類似していないというべきである。
(7) 原告は,本件意匠も被告意匠も,堰部の有無にかかわらず,内側に向かう渦 の流れという美感が共通するので,堰部の有無は美感判断に影響をしないと主 張する。既に説示したとおり,内側に向かう渦の流れという美感自体は,公知 意匠にも共通するありふれた意匠であり(公知意匠1から4),この点を共通 にすることを類否判断で大きく扱うことは相当ではない。 また,原告は,公知意匠1から4のヘアキャッチャーに係る意匠はいずれも, 正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出していたところ,本件 意匠も被告意匠もこれがなく,全体的に平面的な美感を共通にしていると主張 する。上記公知意匠における渦流壁は,フランジ部よりも上部に張り出し,ま た,平面視において占める面積は大きく,被告意匠の堰部は,公知意匠の渦流 壁に比べれば,その存在感は大きくない。しかし,渦流生成部を区分けする構\n造体がフランジ部よりも上部に張り出していない意匠自体は公知であったと いえる上(公知意匠5),本件意匠は渦流壁,堰部に相当する部位を全く有して いないのに対し,被告意匠は堰部を有しているのであって,堰部の存在の有無 自体が類否判断に大きな影響を与えるというべきである。原告の指摘は前記判 断を覆すに足りるものではない。

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令和2(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年9月28日  知的財産高等裁判所

 薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。

 前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て 満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本 件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴 のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効 果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を 指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満 たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本 件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対 する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。 そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週 1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日 付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について, それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎 体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人 の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明 書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ りも高いということを理解することができず,また,これを推認する こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で ない。 仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は 一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が 明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には, 本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条 件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の 発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制 されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら 有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑 制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程 度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実 験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから, その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの 場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件 訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績 証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対 照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発 生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患 者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の 骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1 件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対 リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。

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令和1(ワ)23407  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月10日  東京地方裁判所

 漏れていたのでアップします。「調整」の文言を解釈して、被告製品1,2は技術的範囲に属しないと判断されました。

 本件発明の技術的意義や本件発明における調整手段の位置付けについて みると,従来の吊張り装置としては,略円弧状の天井部に沿って設けら れたウインチワイヤーと吊り上げワイヤーとを連結する連結体が,天頂 部との距離に応じてウインチワイヤーに沿って移動するよう構成されて\nいる装置が考えられたが,複数の停止体の設置等の調整作業を天井側で 行わなければならず費用がかかり煩雑である等の問題点があった(段落 【0006】【0008】)ところ,本件発明は,略円弧状の屋内の天 井部に沿ってウインチワイヤーを設け,吊り上げワイヤーを一端側でウ インチワイヤーに連結しその他端側に吊張体を設けるなどの構成をとる\nとともに,天頂部,又は天頂部に最も近接している基準となる吊り上げ ワイヤーのウインチワイヤーとの取付位置と,任意の吊り上げワイヤー のウインチワイヤーとの取付位置との「高さ方向の距離に対応した長さ」 (構成要件C),すなわち,取付位置の高さの差の長さ(以下「本件差\n分」という。)に基づく吊り上げワイヤー等の長さの変更,すなわち調 整を,ネット等の吊張体若しくは吊り上げワイヤーの下端(床面)側又 はその両方に調整手段を設け,あらかじめ行うことにより,上記問題点 を解決するものである(段落【0010】【0025】【0026】 【0045】。前記1(2))。
また,「調整」とは,「1)調子の悪いものに手を加えてととのえること。 2)ある基準に合わせてととのえること。過不足なくすること。3)釣り合 いのとれた状態にすること。折り合いをつけること。」(大辞林第4版) などとされる。 上記のとおりの本件発明の技術的意義,調整手段の意義や,「調整」の 一般的意味からすると,本件発明に係る吊張り装置において吊張体を過 不足なく適切に吊り張りするためには,本件差分が認識された上で,本 件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあら かじめ変更する必要があり,本件発明の「調整手段」は,そのためのも のであって,本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー 等の長さをあらかじめ変更する構成であり,その調整を行うことにより,\n吊張体を過不足なく適切に吊り張りするための手段であると理解するこ とができる。 本件明細書の具体的な実施例についてみても,ネット吊張り装置におい て,天頂部の吊り上げワイヤー(9b)の取付位置と,他の吊り上げワ イヤー(9a)の取付位置との「距離に対応した長さ」であるL1等の長 さ(L)が認識された上で,一対の筒状体(15)を吊り上げワイヤー に挿通し,その一対(2個)の筒状体の間の距離を「距離に対応した長 さ」(L 本件差分)とすることによって,調整を行う調整手段が記載 されており(段落【0036】【0037】【図1】【図4】【図5】 等)ここでは,ネット体を過不足なく適切に吊り張りするため,吊り上 げワイヤーに挿通する一対の筒状体が設けられ,その筒状体の間の距離 を認識された差(L 本件差分)と同じにすることができることが記載 されており,本件差分(L)を基準としてこれに合うように筒状体の間 の距離の長さをあらかじめ変更する構成が調整手段として記載されてい\nる。以上のとおり,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を\n過不足なく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準として これに合うように長さをあらかじめ変更するための手段であると解され る。
なお,吊張体の吊張り装置は,複数の部材を組み合わせて構成され,そ\nこには当然に連結部材や係止部材が含まれ,それらの連結部材や係止部 材において,何らかの長さの変更を行うことができる場合もあり得る。 しかし,本件発明の「調整手段」等の技術的意義は,上記のとおりのも のであり,吊張り装置に何らかの長さ変更を行う構成があったとしても,\n本件差分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあ らかじめ変更するための手段であると認められないものは,本件発明の 「調整手段」とはいえないと解される。仮に,本件発明において,単に 長さを変更する手段のみをもって調整手段に該当すると解するとすれば, 吊張体の施工やメンテナンスに際して吊り上げワイヤー等の長さを変更 するに当たり,他の手段によって,本件差分を基準としてこれに合うよ うにしなければならないことになるが,そのような作業を床面側のみで 行うことが可能であることは本件明細書の記載等によっても明らかでは\nなく,このような構成によっては本件発明の課題を解決することができ\nない。ここで,本件明細書には,吊り上げワイヤーにネット体への係止 体を設けることで,又は,ネット体に吊り上げワイヤーの係止体を設け ることで,吊り上げワイヤーの長さの調整を行うこともできることが記 載されている(段落【0058】)。これまで述べてきたところから, そのような係止体が,認識された本件差分を基準としてこれに合うよう に吊り上げワイヤー等の長さをあらかじめ変更するための手段といえる 場合には,本件発明の「調整手段」といえ,上記記載はその趣旨のもの と理解することができる。それに対し,そのような手段とはいえず,通 常の係止体としての構成,機能\を超える構成,機能\等を有しないものは, これまで述べたところに照らせば,本件発明と関係なく用いられている 係止体であり,本件発明の「調整手段」が有する効果を奏するものでは なく,本件発明の「調整手段」に該当するとは認められない。 他方,被告らは,本件発明の「調整手段」が筒状体など本件明細書に記 載された具体的な実施例に限られる趣旨の主張もするが,本件発明の技 術的範囲が上記の範囲に限定される理由はなく,前記のとおり,本件差 分を基準としてこれに合うように吊り上げワイヤー等の長さをあらかじ め変更する構成を備えたものであれば,本件発明の「調整手段」といえ\nる。
・・・・
(3) 被告製品1が本件発明の技術的範囲に属するかについて
原告は,被告製品1において,各吊り上げワイヤーと各バトンを連結する シャックル,リングキャッチ,チェーン(以下,これらを「本件連結材」と いう。)が本件発明の調整手段であると主張する。 ここで,本件発明の「調整手段」(構成要件C)とは,吊張体を過不足な\nく適切に吊り張りするため,認識された本件差分を基準としてこれに合うよ うに長さをあらかじめ変更するための手段である(前記(1)イ)。 本件連結材は,ワイヤーとバトンを連結する際に通常用いられる連結材と 認められるところ,それは,単に連結のために通常用いられる複数の構成部\n品から成っているものにすぎず,認識された本件差分を基準としてこれに合 うように長さをあらかじめ変更する構成を有するものであるとは認められず,\nそのような調整作業をするための手段とはいえない。 また,被告製品1において,もともと各吊り上げワイヤーのウインチワイ ヤーへの連結位置から連結材の下端までの長さはほぼ同程度であり(前記(2) イ),天頂部に最も近接した吊り上げワイヤーが取り付けられたバトンが床 面に到達した状態においては,他の各吊り上げワイヤーはたわんだ状態とな るのであって(同エ),本件連結材によって吊り上げワイヤー等の長さの変 更は行っていない(同ウ)。本件連結材による長さの変更が想定されている ことを認めるに足りる証拠もなく,本件連結材は,そもそも長さの変更を行 うための手段ではないともいえる。 したがって,被告製品1の連結材は,構成要件Cの調整手段には該当しな\nい。 以上から,被告製品1は,構成要件Cを充足せず,本件発明の技術的範囲\nに属しない。

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令和3(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年9月15日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が取り消されました。商標権者は、訴訟にて使用の事実を示す新証拠を提出しました。

 これに対し被告は,1)本件各写真(甲28)の撮影日が2018年11月 14日であることについては,客観的な裏付けがなく,撮影日が同日である ことは疑わしい,2)発行名義を桂ヶ丘開発とする「精算書控」及び「御精算書」 (甲46の1ないし9)は,本件審判段階では提出されず,本件訴訟に至って 初めて提出されたものであること,桂ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会\n社であり,発行名義を桂ヶ丘開発とする精算書をいつでも作成できること,令 和3年6月20日に本件ゴルフ場のクラブハウス内の物販コーナーで「福米」 を表示した米が販売された際に発行された「御精算書」(乙1)には,「福米」\nの文字の記載がなく,甲46の1ないし9記載の発行日付当時に実際に発行さ れていた精算書に「福米」の文字が表示されていたものとは,にわかに信用し\n難いことに照らすと,甲46の1ないし9の証明力は低い,3)桂ヶ丘開発が本 件ゴルフ場の利用者に対して福米2018を販売したとの原告の主張は,原 告が本件審判段階で本件ゴルフ場のクラブハウス内で一般客に対して自ら商 品「米」の販売を行ったと主張していたこと及びその立証のために提出され た桂ヶ丘開発の取締役会議事録(甲45)の記載と矛盾する旨主張する。 しかしながら,1)については,本件各写真(甲28の2枚の写真)の画像デ ータ(甲56)の「プロパティ」の「詳細」の「撮影日時」欄にそれぞれ「2 018/11/14 13:24」(甲28の「下」の写真に係る画像データ) 及び「2018/11/14 13:25」(甲28の「上」の写真に係る画 像データ)と表示されていること,本件各写真に写された本件価格表\には「期 間限定」,「福米2018」及び「2018年11月末日までの限定価格。」と の表示があり,その表\示内容は,本件各写真の撮影日時が「2018/11 /14 13:24」及び「2018/11/14 13:25」であるこ とと矛盾しないことに照らすと,本件各写真の撮影日は2018年11月1 4日であると認められる。被告が1)について指摘する原告提出の他の写真(甲 15,29ないし31)に日付が入っていない点,本件ゴルフ場のクラブハウ スのフロント付近で日常的に販売されている商品を写真撮影する理由も考え難 い点,同日以外の日に他の客の少ない時間にフロント前に商品を陳列し,写真 撮影することは容易であるとの点は,上記認定を覆すものではない。
次に,2)については,甲46の1ないし3,5ないし7は,桂ヶ丘開発が 運営する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義の「精算書控」,甲46の8は, 甲46の3の「精算書控」に対応する「桂ヶ丘カントリークラブ」作成名義 の「御精算書」であり,それぞれ利用者の氏名,「お客様番号」,発行日時, 「精算金額」のほか,「精算項目」欄にプレーフィ,利用税等とともに,「福 米(5kg)」,「数量」欄に「1」又は「2」,「単価」欄に「2,200」, 「金額」欄に「2,200」又は「4,400」との記載があり,その体裁に 特段不自然な点は認められないから,甲46の1ないし3,5ないし8の記載 内容は信用できるものといえる。この点に関し被告が提出する「桂ヶ丘カント リークラブ」作成名義の「御精算書」(乙1)には,「2021年6月20日 1 3:29」,「精算項目」欄に「〈軽〉新米(2kg)」,「数量」欄に「1」,「単 価」欄に「800」,「金額」欄に「800」と記載され,「福米」の記載はな いことが認められる。しかし,乙1は,要証期間経過後の令和3年6月20 日に単価800円で販売された「新米(2kg)」の精算書であり,甲46の 1ないし3,5ないし8に係る「福米」とは販売時期が異なること,本件各 写真に撮影された本件価格表に表\示された「福米2018」の「2kg」の 販売価格「700円」と単価が異なることに照らすと,乙1に係る「新米(2 kg)」は,甲46の1ないし3,5ないし8に係る「福米」と異なる商品で あると認められるから,乙1に「福米」の記載がないことは,甲46の1な いし3,5ないし8の記載内容の信用性を揺るがすものではない。また,原告 は,本件審決において本件審判段階で主張した本件商標の使用の事実が認め られなかったため,本件訴訟において,本件商標の使用の事実を改めて整理 して主張し,その立証のため,甲46の1ないし9を新たに提出したものであ るから,甲46の1ないし9が本件審判段階では提出されなかったことや桂 ヶ丘開発は原告が代表取締役を務める会社であることは,甲46の1ないし3,\n5ないし8の信用性を左右する事情には当たらない。 さらに,3)については,本件審決は,原告による「桂ヶ丘カントリークラ ブ」(本件ゴルフ場)のクラブハウス内の物販コーナーにおける「米」の販売 に係る本件商標の使用の主張について,平成30年10月1日に開催された 桂ヶ丘開発の取締役会議事録(審判乙34・本訴甲45)には,「第1号議案 として,本件商標権者が個人事業主として生産している米(福米2018) を桂ケ丘カントリークラブのロビー内の物販コーナーで販売することについ て承認された旨の記載があるが,当該米についての販売期間の記載はない。」 (審決書13頁36行〜14頁1行)として,上記主張は認められない旨判 断した。原告は,本件審決の上記判断を踏まえて,本件訴訟において,上記 物販コーナーにおける「米」の販売に係る本件商標の使用の主体を,原告か ら原告が代表取締役を務める桂ヶ丘開発に構\成し直して,桂ヶ丘開発が本件 ゴルフ場の利用者に対して本件ステッカーが米袋に貼付された福米2018\nを販売したとの主張をするに至ったものと認められるから,原告の主張の変 遷が不自然であるということはできないし,上記取締役会議事録の記載と矛 盾するということもできない。

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令和2(ワ)3247等  損害賠償請求  特許権  民事訴訟 令和3年9月6日  大阪地方裁判所

 原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償を求めましたが、被告は提訴自体が不法行為は裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして、反訴請求しました。裁判所は被告の主張を認め、50万円の損害賠償を認めました。

 (1) 前提事実,争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 次の事実が認められる。 ア 被告は,原告退職後の平成22年9月から漏水探査等を目的とする事業を行 うようになったところ,平成23年頃実施の門川町上水道漏水調査委託業務の入札 に参加し,これを落札した。これについて,原告は,その後,門川町に対し,被告の 指名競争入札参加申請書及び被告が納品した漏水調査結果報告書等を求めて公文書\n公開請求を行った(甲15,16)。
イ 被告は,平成26年10月1日,原告から,平成23年4月26日付け「情 報窃盗に関する記述」と題する部分及び平成25年9月26日付け「情報窃盗及び 機密保持違反に関する刑事告訴に至る記述」と題する部分からなる書面(乙7)を 受領した。同書面のうち,前者の部分には,被告が,原告が「業務を通じ考案した 「エアー加圧工法」を実用新案特許出願中 平成2年6月 その工法さえも盗み出 した」との旨や,書類(結果報告書及び作業計画書等)の無断使用による著作権侵 害,原告の固定客や取引先の横取り等による原告の被害額が推定1500万円以上 に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載されている。後者の部分には,前者の 部分と同趣旨の記載のほか,「虚偽申請による不当なる資格取得」との記載があり,\n原告の被害額が推定3000万円以上に上ること,被告を刑事告訴する旨等が記載 されている。
ウ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,平成27年4月1日付け「質問書」 (乙9)を送付した。同書面には,同協会発行の有資格者認定名簿における被告の 記載に関する質問等が記載されている。
エ 原告は,同月6日,被告に対し,「「漏水調査技術者認定証等」に関する件」 と題する書面(乙8の1)を送付した。同書面には,被告につき,「不正に全国漏 水調査協会の民間資格者として,再登録を行っています。」,「貴殿が行った行為 は,「業務上横領」や「詐欺」に匹敵する許し難い行為だと思います。」,「まず貴\n殿が,「弊社の技術」を盗む目的を持って入社し弊社が長年の研究や試行錯誤の上 で開発した「エア加圧工法」と言う独自工法を盗み」などと記載されていると共に, 「期日までに,何らかのご連絡,若しくは,「漏水調査技術者証の返還」が,無き 場合は,「刑事告訴」及び「法的手段」を取りますので,ご了承下さい。」とも記載 されている。
オ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,同年5月6日付け「勧告書」(甲3 2,乙10)を送付した。同書面は,上記「質問書」に対する回答が得られていな いとして送付されたものであり,ここには,有資格者の調査技師の欄に被告が記載 されているが,その記載内容は虚偽である旨の指摘等が記載されている。また,同 書面(乙10)の余白には,「この書面を提出した事で,彼は責任を取り自から会 長職を辞職した!!」との原告代表者の手書きによる記載がある。\n
カ 原告は,同年6月11日,被告に対し,同日付け「通知書」(甲29,乙11 の1)を送付した。同書面には,「その盗んだ技術の中身には,長年研究開発した 「エア加圧工法」が含まれており,弊社が開発した技術を無断で利用して,平然と 営業利益を上げています。」などとして,原告の損害金総額1億円の支払を求める 旨等が記載されている。 これに対し,被告は,同年9月14日,原告に対し,同日付け「回答書」(甲9, 31,乙12の1)を送付した(同月15日に原告に到達。乙12の2)。同書面に は,「調査内容の「エア加圧工法」は他社企業でも行われている工法で,特許侵害 等の法を犯す工法ではありません」などと記載されていると共に,1億円の支払請 求については,内容が事実に反していることなどから応じられない旨が記載されて いる。
キ 被告は,平成31年2月7日頃,原告から,平成30年2月7日付け「最後 通告書」(乙13の1。なお,同書面の作成日付は,書面全体の記載の趣旨から, 「平成31年」の誤記と思われる。)を受領した(乙13の2)。同書面には,「貴 殿は,…私文書偽造詐欺行為を平然と行って置きながら,…全国漏水調査協会に私\n文書偽造の行為にあたる事を長年繰り返し申請をして,不正に漏水調査士の資格を\n取得しています。」,「弊社の「報告書書式や漏水調査カルテ書式等」を退職時に 何らかの形で持ち出しましたね。」,「「工具は持ち出して居ない」とは思います が,どの様な方法でエアを注入していますか?」,「漏水調査工法のエア加圧工法 は,弊社が開発したものです。…弊社は,昨年5月11日付で,エア加圧工法で, 「特許権」を取得しています。このままだと仕事を失う事になりますよ。速やかに, なんらかの行動を起して下さい。」,「弊社が取得した「エア加圧工法」は,…何人 たりとも勝手に利用して,使用が出来ないのです。それを犯して使用する場合は, 「知的財産権の侵害行為」となり,そこには,処罰の対象になります。…独自の工 法を考えださない限りは,特許権侵害行為になり,この仕事は,出来ません。」な どと記載されていると共に,改めて,総額1億円の技術使用料の支払を求める旨等 が記載されている。 なお,同書面には,被告の使用する工法が原告の「特許権」の侵害にあたると原 告が考える理由等に関する記載はない。
ク 原告は,本件の証拠として提出した令和2年8月22日付け「上申書(5)認否 事項についての反論」(甲21)において,「裁判を提訴するまで,被告の行って居 る工法につては,知る由は無かった。」としている。
ケ 原告は,全国漏水調査協会会長に宛て,本訴の提起後である令和2年9月1 1日付けで,同協会の漏水調査技術資格認定者名簿における被告の記載に関して質 問をし,同月28日付けで回答を得たものの,これを不十分として,同年10月1\n日付け「公開質問書」(甲32)を送付して再度質問をし,同月16日付けで回答 を得た。
(2) 法的紛争の当事者が紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として 正当な行為であり,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴 訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもので ある上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知 り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当 である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・ 民集42巻1号1頁参照)。 前記(1)認定のとおり,原告は,被告が原告を退職して独立開業した後,本訴の提 起に至るまでの間,被告が門川町の業務を落札したことを契機に,被告の事業活動 を問題視するようになり,被告の使用する工法が原告の「エア加圧工法」を無断で 使用するものであるなどとして,刑事告訴の可能性にも言及するなどしつつ,被告\nに対して直接非難する趣旨を含む書面を送付した。他方で,原告は,漏水調査協会 に対しても,有資格者名簿に被告が記載されていることにつき,質問の形式を取り ながら,これを問題視していることをうかがわせる内容の書面を送付した(しかも, 原告は,本訴提起後も改めてこのような行為に及んでいる。)。さらに,本件特許 権の設定登録後には,「エア加圧工法」につき特許権を取得したとの前提ではある ものの,被告の行為は特許権侵害にあたるとして,技術使用料の支払を重ねて求め たものである。 こうした経過を経て本件の本訴が提起されたことを踏まえると,本訴の提起も, 被告がその事業上実施する工法を原告が問題視して行った一連の行動の一環として 行われたものと理解される。
他方,原告と被告との一連のやり取りにおいて,原告は,被告から「特許侵害等 の法を犯す工法ではありません」などと反論されたこともあるにもかかわらず,被 告の使用する工法等が原告の特許権を侵害するものと考える理由に言及したことは なく,また,被告が使用する漏水探査方法の具体的内容やこれに使用する装置につ いて質問等をしたのも,平成30年2月7日付け「最後通告書」におけるものが初 めてである。加えて,本件における原告の主張立証活動,就中,原告自身が「裁判 を提訴するまで,被告の行って居る工法につては,知る由は無かった。」とし,実 際,被告が主張する被告装置の構成等を前提として主張立証を行っていることに鑑\nみると,原告は,本訴の提起に先立ち,被告の使用する漏水探査方法やこれに使用 する装置に関する調査等を自ら積極的には必ずしも行っていなかったことがうかが われる。 このような本訴の提起に至る経緯や訴訟の経過等に加え,前記のとおり,被告装 置につき本件各発明の技術的範囲に属さないことに照らすと,原告は,本訴で主張 する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることにつき,少なく とも通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,被告による事業展開を妨げる ことすなわち営業を妨害することを目的として,敢えて本訴を提起したものと見る のが相当である。 そうすると,原告による本訴の提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くものと認められるから,被告に対する不法行為を構成する。これに反す\nる原告の主張は採用できない。

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令和1(ワ)11673  差止請求等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年9月3日  東京地方裁判所

 女性用下着の形状について、周知著名商品等表示ではないと判断されましたが、不競法2条1項3号の形態模倣であるとして、約2億円の損害賠償が認められました。

 原告は,原告商品は形態1)ないし7)を組み合わせたものであり,原告 商品全体の形態と同一又は類似の商品は見当たらないから,他の同種商 品と識別し得る特徴を有すると主張する。 しかし,原告商品の販売が開始された当時,原告商品が備える形態1) ないし7)の全てを備えるブラジャー又はナイトブラが販売されていたこ とを認めるに足りる証拠はないものの,前記(1)ウ(ア)のとおり,形態1) ないし7)のうちの3つ又は4つを備える商品AないしGが存在していた。 そうすると,原告商品の販売開始時点では,既に,原告商品の形態に似 通った商品が複数販売されていたということができる。しかも,前記(ア) のとおり,原告商品の形態1)ないし7)は,いずれも他の商品とは異なる 顕著な特徴とは認められないから,当該商品には認められないが原告商 品には認められる形態上の特徴により,需要者であるブラジャー又はナ イトブラの購入に関心がある一般消費者が出所の違いを識別することが できるとはいえない。そして,形態1)ないし7)を組み合わせることによ り上記需要者の注意を特に惹くことになる事情も見当たらないことから すると,形態1)ないし7)を組み合わせた原告商品の形態が他の同種の商 品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 周知性について
前記(1)イ(ア)のとおり,原告商品は平成28年9月12日に販売が開始 されたところ,原告商品の形態につき周知性が確立したと原告が主張する 平成29年12月までに約1年4か月,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月まででも約2年1か月しか経過していない。そして,前記 (1)ウ(ア)のとおり,原告商品の販売が開始される前から,原告商品が備え る形態1)ないし7)のうち複数を有するブラジャー又はナイトブラが販売さ れており,原告商品の形態が原告によって長期間独占的に利用されたとは 認められない。
・・・
商品の形態を比較した場合,問題とされている商品の形態に他 人の商品の形態と相違する部分があるとしても,当該相違部分についての 改変の内容・程度,改変の着想の難易,改変が商品全体の形態に与える効 果等を総合的に判断した上で,その相違がわずかな改変に基づくものであ って,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な 相違にとどまると評価されるときには,当該商品は他人の商品と実質的に 同一の形態というべきである。
イ 被告商品1について
(ア) 前記(1)アのとおり,被告商品1は,原告商品が備える形態1)ないし7) を全て備え,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,全体的なデザイ ンはほぼ同一であるといえる。 被告商品1と原告商品の間には相違点1)が認められるが,別紙2原告 商品目録記載の写真のとおり,原告商品のカップ部の中央に付けられた リボンはごく小さな装飾にすぎず,そのようなリボンを取り外すという 改変については,その程度はわずかであり,着想することが困難である とはいえず,商品全体の形態に与える効果もほとんどないといえる。 また,被告商品1と原告商品の間には相違点2)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載1の写真のとおり,左右の前身頃を構成する3枚の\n生地のうち最下部にある生地が被告商品全体に占める面積はそれほど大 きいものではなく,他の部分の布地と同系色であってレース生地の存在 が際立つものではない上,別紙3比較写真目録記載の写真のとおり,原 告商品と被告商品1とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成は同一といってよいことからすると,相違点2)は,需 要者であるブラジャー又はナイトブラの購入に関心がある一般消費者に 対し,原告商品よりもレース生地が比較的多いという印象を与えるにと どまるから,被告商品1の上記部分をレース生地とすることが商品全体 の形態に与える効果は小さいといえる。さらに,前記1(2)イのとおり, ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふれた形態であり,上記 部分を無地の生地からレース生地に置き換える着想が困難であるともい えない。
そうすると,相違点1)及び2)は,いずれもわずかな改変に基づくもの であり,商品の全体的形態に与える変化は乏しく,商品全体から見て些 細な相違にとどまるといえるから,被告商品1は原告商品と実質的に同 一の形態であると認めるのが相当である。 (イ) 前記(ア)のとおり,被告商品1と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)アのとおり,被告商品1の販売が開始された平 成30年10月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開 始されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品1を独自 に開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被 告は原告商品の形態に依拠して被告商品1を作り出したと推認するのが 相当である。
(ウ) 以上によれば,被告商品1は,原告商品の「商品の形態」を「模倣し た商品」であると認められる。
・・・
また,被告商品2と原告商品の間には相違点5)が認められるが,別紙 1被告商品目録記載2の写真のとおり,被告商品2も,被告商品1と同 様,レース生地の色合いが他の部分の布地と同系色であって,レース生 地の存在が際立つものではなく,被告商品2では,被告商品1よりレー ス生地が多く用いられているものの,そのレース生地が肩紐部や背部と いった比較的注目することが多くないと考えられる部分に用いられてお り,一方で,同写真と別紙2原告商品目録記載の写真を見比べると,原 告商品と被告商品2とで,ナイトブラとしての機能を成り立たせるパー\nツの形状及び構成はほぼ同一であるといえることからすると,この改変\nが商品全体の形態に与える効果は大きくないというべきである。さらに, 前記1(2)イのとおり,ブラジャーにレース生地を用いること自体ありふ れた形態であり,被告商品2の相違点5)に係る部分を無地の生地からレ ース生地に置き換える着想が困難であるとはいえない。 被告商品2と原告商品の間には相違点6)が認められるが,ホックが4 段階であるか3段階であるかの違いにすぎず,ホックを連結する段階数 を増やすという改変を着想することは容易であり,そのような改変が商 品全体の形態に与える効果は小さいといえる。 そうすると,相違点3)ないし6)は,いずれもわずかな改変に基づくも のであり,商品の全体的形態に与える変化は大きくなく,商品全体から 見て些細な相違にとどまるといえるから,被告商品2は原告商品と実質 的に同一の形態であると認めるのが相当である。
(イ) 前記(ア)のとおり,被告商品2と原告商品は実質的に同一の形態であり, 前記前提事実(2)及び(3)イのとおり,被告商品2の販売が開始された平 成31年2月頃に先立つ平成28年9月12日に原告商品の販売が開始 されているところ,本件全証拠によっても,被告が被告商品2を独自に 開発したことをうかがわせる事情は認められないことからすると,被告 は原告商品の形態に依拠して被告商品2を作り出したと推認するのが相 当である。
・・・
不競法5条2項の侵害者が侵害行為により受けた利益の額は,侵害者の侵 害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製 造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額で あると解するのが相当である。 辞任前の被告訴訟代理人が作成した一覧表(甲54)によれば,被告が被\n告商品1を販売したことにより,1億5794万円の売上げがあり,商品原 価として2650万円,カード決済料金として552万7900円及び送料 原価として2650万円を要したこと,被告が被告商品2を販売したことに より,1億4254万5320円の売上げがあり,商品原価として2873 万7640円,カード決済料金として498万9086円及び送料原価とし て2391万7000円を要したことが認められる。
そして,弁論の全趣旨 によれば,上記の商品原価,カード決済料金及び送料原価は,いずれも被告 各商品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認められる。 他方で,上記一覧表(甲54)には,被告商品1につき広告費として73\n20万5070円,人件費420万円及び販売システム費用789万700 0円,被告商品2につき広告費として7063万0834円,人件費630 万円及び販売システム費用712万7266円を要したかのような記載があ る。しかし,被告が上記広告費を支出してどのような内容の広告をしたのか, それが被告各商品に係るものであったかは,証拠上明らかではないし,上記 人件費及び販売システム費用がいかなる目的で支出されたかも証拠上明らか でないから,これらの費用は,被告各商品の製造販売に直接関連して追加的 に必要となった経費とは認められない。
したがって,被告が被告商品1を販売したことによる利益の額は9941 万2100円(=1億5794万円−2650万円−552万7900円− 2650万円)であると,被告商品2を販売したことによる利益の額は84 90万1594円(=1億4254万5320円−2873万7640円− 498万9086円−2391万7000円)であると,それぞれ認められ る。
(2) 本件訴訟に現れた全ての事情を勘案すると,本件訴訟の弁護士費用相当の 損害額は,被告商品1につき994万1210円,被告商品2につき849 万0159円と認めるのが相当である。
(3) したがって,被告が被告各商品を販売したことにより原告が被った損害額 は,合計2億0274万5063円である。

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令和2(行ケ)10044  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 進歩性無しとした審決が取り消されました。論点は「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」との動機付けがあるか否かです。

 原告は,相違点2に関し,本件審決が,1)刊行物5の記載及び脂質の大量 の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用 量」でω−6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考 えられないから,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点 2に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されてい\nるに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行 物5発明において,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用 量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業 者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張する ので,以下において判断する。
ア(ア) 刊行物5(甲24)には,1)「従来の技術」として「最近の日本人の 食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え, 脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の 種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増 加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これ らの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究 が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバラン\nスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω−6脂肪酸であ るアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリ エンなどが過剰になり,ω−3脂肪酸によって産出される3型のプロス タグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前 記(1)エ),2)「発明が解決しようとする課題」として,「ω−6脂肪酸の 過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイ コトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血 栓症を誘発する。しかしω−3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制した り,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(・・・),癌細胞の転移能を低\n下させる(・・・)ことが報告されている。・・・気をつけなければならないの は,ω−3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω−3脂肪酸とω−6 脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す るためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助 剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆に ω−3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω −3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は, ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述 の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適\n正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ), 3)「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成 をω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調 整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂 肪酸組成は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5にな るように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰 になり,この範囲よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰になってしま い,いずれの場合もω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランスが崩 れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),4)「発明の効果」 として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω−3,ω−6脂肪 酸の比率を適正比率である1:1〜1:5に保つように調製された食品 を提供することができるので,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバランス 良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸 癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)と の記載がある。
これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂 肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心 臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂 取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不\n飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在 の日本人の食事はω−6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω−6 脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω−3脂肪酸などを高濃度に濃 縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を 過度に摂取した場合,逆にω−3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新た な疾病の原因となるため,ω−3,ω−6脂肪酸の適正な比率での摂取 が必要であることから,「本発明」は,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸をバ ランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待\nされるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供する ことを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成を ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との比が1:1〜1:5になるように調整 した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω−3脂肪酸と\nω−6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循 環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待される\nことについての開示があることが認められる。また,前記(1)の刊行物5 の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω−3脂肪 酸,ω−6脂肪酸が適正比率(1:1〜1:5)の範囲を基準として, 「この範囲よりも小さいときは,ω−3脂肪酸が過剰になり,この範囲 よりも大きいときはω−6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前 記(1)カ)に照らすと,ω−3脂肪酸とω−6脂肪酸との摂取バランス(比 率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多\nい状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係\nでは,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。 以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活 は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の 摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も 変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して, こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は, それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和\n脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載が あることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加した こと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆す るものではないと理解するのが自然である。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取 量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」 は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や 示唆はない。
(イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」 自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量 は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと 考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40 g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし, それが技術常識であることを前提に「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということは できない。本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常 識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω−6脂肪酸の用量は, 40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めるこ とはできない。 そうすると,刊行物5発明が「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構\成)を有することは認め られないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当 たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は,1日又 は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく, また,「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であ ることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した 当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採\n用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構\n成とすることを容易に想到することができたものと認められない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
ウ これに対し被告は,1)刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当た り40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識している ことの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前 提に,ω−6脂肪酸とω−3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思 想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部で あるω−6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として 取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには 強い動機付けがある,2)しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリ ンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たり ω−6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし 得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2 に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張\nする。
しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の 日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に 増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾 病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが 増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との 記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題 であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量 を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω−6脂肪酸の用量」は, 1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆は ない。 加えて,本件においては,他に「ω−6脂肪酸の用量は,40g以下」 とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2 に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めるこ\nとはできないから,被告の上記主張は採用することができない。

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令和2(ワ)4332  特許権侵害行為差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年8月20日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件で無効理由無し、技術的範囲に属するとの判断がなされました。被告らは共同関係にないと主張しましたが認められませんでした。

上記認定事実のとおり,被告ジョウズ及び被告アンカーは,いずれもAn kerグループに属する法人であり,被告ジョウズの設立時の代表者と被告\nアンカーの代表者は同一である上,被告ジョウズの令和元年9月時点での従\n業員数は2名であり,そのうちの1名であるZは令和元年5月に被告アンカ ーから被告ジョウズに移籍しているとの事実が認められる。また,被告ジョ ウズの本店所在地のオフィスの利用契約上の地位は被告アンカーから譲り受 けたものであるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があるということ ができる。
また,被告ジョウズは被告製品1及び2の販売に関する記者発表が行われ\nる約4か月前に設立されているが,その人的態勢は,代表者であるYのほか\n従業員が2名にすぎず,その2名についても,令和元年9月1日から同月3 0日までの1人当たりの勤務日数及び勤務時間は通常の事業活動をしている とは考え難いほど短い。また,被告ジョウズのオフィスはシェアオフィスで あり,平成30年10月時点において,同オフィスの入居するビル1階の受 付には被告ジョウズの表示はなかったことなどによれば,被告ジョウズが被\n告製品に関する実質的な事業活動を行っていたとは考え難い。 さらに,上記のとおり,楽天における被告製品の販売サイトにおける商品 の返送先住所は被告アンカーの所在地と同じビルであると認められるところ, 被告ジョウズが被告アンカーに対して返品された商品の取扱いを委託すると ともに,マーケティング業務などを委託していたことについては当事者間に 争いがない。被告らは,被告アンカーが受託したのは上記業務に限定される と主張するが,マーケティング業務も行いながら,商品については返品取扱 い業務のみを取り扱っていたとは考え難く,上記の被告ジョウズの物的・人 的態勢も考慮すると,被告アンカーは被告製品の販売等に関する業務を被告 ジョウズと共同して行っていたと推認することが相当である。
加えて,被告製品1及び2の記者発表に関する記事等には,「Anker\nグループが技術的にサポートしたことから,アンカー・ジャパンのY社長が ジョウズ・ジャパンの代表取締役を兼任する」などと記載されていること,\n被告製品3の記者発表は当時まだ被告アンカーの在籍していたZが行ってい\nること,被告商品に関するウェブページには,同製品がAnkerグループ ないし中国アンカー社のサポートを受けて作られたものである旨の説明がさ れていること,Ankerグループのオフィシャルストアの海外のウェブサ イトにおいて被告製品が「Anker Jouz 20」などとして販売さ れていることなどの事実によれば,被告製品に関する事業には,被告アンカ ーを含むAnkerグループや中国アンカー社が関与していることがうかが われる。 以上を総合すると,被告アンカーが被告ジョウズと共同して被告製品の販 売等をしていたと認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張について
ア これに対し,被告らは,被告製品に関する業務の委託先の一つにすぎず, 被告製品の返品及びマーケティング業務等の委託を受けていただけであ り,業務委託の対価も固定額であり,被告製品の販売実績によって金額が 左右されるものではないと主張する。
しかし,被告らからは,被告アンカーから被告ジョウズに宛てた業務委 託料の請求書や担当者名等が黒塗りされた請求書や電子メール等が提出 されているにとどまり,被告ジョウズと被告アンカーとの間の業務委託契 約書,被告製品に関する費用や利益の帰属を示す客観的な証拠,被告アン カーが行っていた業務の実態やこれに関与した者の氏名や具体的な役割 等を客観的かつ具体的に明らかにする証拠は提出されていない。 前記判示のとおり,被告ジョウズと被告アンカーの人的・物的関係や被 告ジョウズの実態などを考慮すると,被告アンカーは被告ジョウズから一 部の業務を受託していたにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を 同被告と共同して行っていたと推認することが相当であり,これを覆すに 足りる的確な証拠は存在しない。したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,被告ジョウズと被告アンカーには資本関係がなく,取扱製品 も異なる上,代表取締役自らが営業等を行っている会社は多数存在し,商\n品開発において他社と協力することも通常の事業活動にすぎないので,被 告らに相互に相手方の役割等を認識し,これを利用する意思はなかったと 主張する。
しかし,両社はいずれもAnkerグループに属する法人であり,被告 ジョウズの設立時の代表者と被告アンカーの代表\者は同一である上,被告 ジョウズは本店所在地のオフィスの利用契約上の地位を被告アンカーか ら譲り受けるなど,両社には密接な人的及び物的な関係があることは前記 判示のとおりである。また,被告ジョウズの実態などを考慮すると,被告 アンカーが返品処理業務やマーケティングなど一部の業務を受託してい たにとどまらず,被告製品の販売等に関する業務を被告ジョウズと共同し て行っていたと評価し得ることも上記のとおりである。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。
(4) 以上によれば,被告アンカーは,被告ジョウズと共同して,被告製品の販 売,輸入及び販売の申出をしてきたと認められる。\n

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関連事件です。

◆令和1(行ケ)10174

下記はアップされていません。 令和1年(ワ)20075特許権侵害差止請求事件

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令和2(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月31日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発 明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同 種の効果を参酌することは許されると解される。 前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患 者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4) を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が 腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は, 当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。 b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患 者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条 件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位 週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15 日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また, 椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1 人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高 リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生 抑制よりも優れていると結論付けることはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。

◆判決本文

当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。

◆令和2(行ケ)10056

こちらは審決維持です。

◆令和2(行ケ)10004

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平成28(行ケ)10257  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成29年10月19日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。補正は新規事項であるとした審決が維持されました。

原告は,本件発明特定事項の機能Aは,当業者によって,本件明細書の\n段落【0117】,段落【0118】,段落【0120】及び段落【0143】な どの記載を総合することにより導かれると主張する。
しかし,段落【0117】は,ウェブサーバから画像データファイル をダウンロードすることについての記載ではなく,ウェブページを閲覧する場合 についての記載であり,同段落の「ページ画像」とは,ウェブページをブラウザで 表示した画像であって,画像データをデータファイルとしてダウンロードする場合\nに関する記載ということはできない。 また,同段落には,閲覧しているウェブページがLCDパネル15Aの画面水平 解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用する場合に,中央演算回路1_10A1 が,その固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を生成し,VRA M1_10Cに書き込むとともに,グラフィックコントローラ1_10Bが,LCD パネル15Aの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータを切 り出してLCDドライバ15Bに送信することが記載されているが,「その結果と して,LCDパネル15Aにおいてページ画像がスクロール表示される。」のであ\nり,LCDドライバ15Bに送信される信号は,画像の一部分に対応するビットマ ップデータの信号であるから,この場合には,本来解像度がディスプレイパネルの 画面解像度より大きい画像から,ディスプレイパネルの画面解像度と同じ画像への 解像度の変更が行われているということはできない。 次に,段落【0118】に記載されている事項は,携帯電話機1がテレビ番組の 視聴用に使用される場合のグラフィックコントローラ1_10BやVRAM1_10 C等の機能であり,携帯電話機1により表\示される「画像」は,テレビ受信用アン テナ112Aで受信した「テレビ番組の画像」であるから,画像データをデータフ ァイルとしてダウンロードする場合とは異なるというべきである。 そして,段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されてい るような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記\n載はない上,段落【0143】の記載は前記のとおりであって,画像データファイ ルの解像度を変更することなく表示することが記載されているから,段落【014\n3】の記載に接した当業者が,その記載を段落【0117】,段落【0118】の記 載と関連付けて,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードして画像を 表示する場合に画像ファイルの解像度を変更することが記載されていると理解する\nとは考えられない。
(イ) 段落【0120】には,「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画 信号をデータファイルに変換して保存したり,該保存したデータファイルを読み出 して必要な処理を行う」,「画像データファイル及び/又は音声データファイルは, ウェブサイトにアクセスし,・・・受信・変換されたデジタル信号を,バス19経由で 中央演算回路1_10A1が受信し,必要な変換を行ってフラッシュメモリ14A に書き込むことによっても保存することができる。」との記載があるが,段落【01 20】には,受信した「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号」を携帯電 話1においてデータファイルに変換して保存したり,それを読み出して再生する ことが記載されているにすぎず,この記載と前記のような内容の段落【0143】 の記載を併せて見たとしても,当業者が,ウェブサーバから本来解像度が携帯電話 機のディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データファイルをダウンロー ドして画像を表示する場合に,VRAMからディスプレイパネルの画面解像度と同\nじ解像度を有する画像のビットマップデータを読み出し,読み出したビットマップ データを伝達するデジタル表示信号を生成し,これをディスプレイ制御手段に送信\nする機能を想起するとは考えられない。\n
(ウ) そうすると,原告の主張する本件明細書の各記載を総合しても,訂 正事項7に係る「前記ウェブサーバから「本来解像度がディスプレイパネルの画面 解像度より大きい画像データファイル」をダウンロードして画像を表示する場合\nに,前記VRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有す る画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出されたビットマップデータ を伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表\示信号を前記ディスプレイ 制御手段に送信する機能」が導かれるとは認められず,本件明細書には他に同機能\ の実現についての記載又は示唆は存在しない。

◆判決本文

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平成25(行ケ)10346  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成26年10月9日  知的財産高等裁判所

 漏れていたので追加します。明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして、審決が取り消されました。\n

 本件特許明細書には,【0041】に,中立線 を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は 0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくな るように構成する態様,及び,このような構\成により,M1をMnより大きく することができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中 立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例〜第4実施例 の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動で の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成\nされていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に\n対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波 モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載さ れている。 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,\nそれぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立し た技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち, 「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmよ り小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成され た場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の 容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高 調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載 されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全て においても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技 術的事項であるということもできない。 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総 合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項 を導入するものというべきである。

◆判決本文

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令和1(ワ)30991 特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日 東京地方裁判所

 漏れていたので追加します。特許侵害事件において、明細書の別の部分に記載されている構成を、複数組み合わせた発明特定事項を追加する補正が新規事項であるとして権利行使不能\と判断されました。
なお、原告の査証命令申立てについては却下されました。\n 

 前記(2)に説示したとおり,前記第2の1(4)アの出願当初の請求項1及び 2の記載からすれば,本件特許に係る特許出願当初の請求項1及び2の記載 は,HFO−1234yfに対する「追加の化合物」を多数列挙し,あるい は当該「追加の化合物」に「約1重量パーセント未満」という限定を付すに とどまり,上記のとおり多数列挙された化合物の中から,特定の化合物の組 合せ(HFO−1234yfに,HFO−1243zfとHFC−245c bとを組み合わせること)を具体的に記載するものではなかったというべき である。
しかして,上記(3)の当初明細書の各記載について見ても,特許出願の当 初の請求項1と同一の内容が記載され(【0004】),新たな低地球温暖化 係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yf等を調製する際に,H FO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−12 33xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副生成物が特定 の「追加の化合物」として少量存在することが記載されており(【0003】, 【0016】,【0019】,【0022】),具体的には,HFO−1234y fを作製するプロセスにおいて,有用な組成物(原料)がHCFC−243 db,HCFO−1233xfおよび/またはHCFC−244bbである ことが記載され(【0005】),HCFC−243db,HCFO−123 3xf及びHCFC−244bbに追加的に含まれ得る化合物が多数列挙さ れてはいる(【0006】ないし【0008】)ものの,そのような記載にと どまっているものである。
そして他方,当初明細書においては,そもそもHFO−1234yfに対 する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO −1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは 何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO−1234 yf,HFO−1243zf,HFC−245cbは,それぞれ個別に記載 されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているもの ではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載され ているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合\n物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と 「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さ らに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように, 表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,\nその中から特にHFO−1243zfだけを選び出し,HFC−245cb 及びHFO−1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた 構成とすることについては,当業者においてそのような構\成を導き出す動機 付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認 められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時 までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足 りる証拠はない。)。
これらに照らせば,当業者によって,当初明細書,特許請求の範囲又は図 面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項としては,低地球 温暖化係数(GWP)の化合物であるHFO−1234yfを調製する際に, HFO−1234yf又はその原料(HCFC−243db,HCFO−1 233xf,及びHCFC−244bb)に含まれる不純物や副反応物が特 定の「追加の化合物」として少量存在する,という点にとどまるものという ほかなく,その開示は,発明というよりはいわば発見に等しいような性質の ものとみざるを得ないものである。そして,当初明細書等の記載から導かれ る技術的事項が,このような性質のものにすぎない場合において,多数の化 合物が列記されている中から特定の3種類の化合物の組合せに限定した構成\nに補正(本件補正)することは,前記のとおり,そのような特定の組合せを 導き出す技術的意義を理解するに足りる記載が当初明細書等に一切見当たら ないことに鑑み,当初明細書等とは異質の新たな技術的事項を導入するもの と評価せざるを得ない。したがって,本件補正は,当初明細書等の記載から 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したもので あるというほかない。
以上によれば,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしたものということはできず, 特許法17条の2第3項の補正要件に違反してされたものというほかなく, 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ(特許法 123条1項1号),同法104条の3第1項により,特許権者たる原告は, 被告に対しその権利を行使することができないこととなる。
・・・
原告は,令和2年10月19日,原告主張製品のうち,被告から原告に対 し販売された最終製品以外のものに含まれるHFO−1234yf,HFO −1243zf,HFC−245cb及びHFO1234zeの含有量を立 証すべき事項として,査証命令の申立てをした(当庁令和2年(モ)第267 4号)。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされ るべきものと認められるのであって,原告主張製品であれ,被告主張製品で あれ,対象製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かを問わず,原告は被 告に対し,本件特許権を行使することができないものである。そうすると, 当裁判所としては,本件訴訟において,原告の請求に理由があるかを判断す るために,上記の立証すべき事項たる事実を判断する必要がないものといわ ざるを得ず,ひいては,同事実を判断するため,上記査証命令申立てにより\n得られる証拠を取り調べることが必要であるとも認められない。 以上によれば,上記査証命令の申立ては,必要でない証拠の収集を求める\nものであり,その必要性を欠くものというべきであるから,原告の上記査証 命令申立ては,これを却下することとする。\n

◆判決本文

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令和2(行ケ)10126  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月30日  知的財産高等裁判所

 音商標「マツモトキヨシ」について、商標法4条1項8号に該当するとした拒絶審決が取り消されました。

 本願商標の商標法4条1項8号該当性について
原告は,1)本願商標の出願当時,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」\nという言語的要素からなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラ ッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」又は企業名としての株式会社 マツモトキヨシ,株式会社マツモトキヨシホールディングス(原告)であっ て,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名であるとはいえないから,本願 商標を構成する「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,「マツ\nモトキヨシ」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものではない, 2)したがって,本願商標は,「他人の氏名」を含む商標であるとはいえない から,本願商標が商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断は誤 りである旨主張するので,以下において判断する。
(1)商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称 等を含む商標は,その承諾を得ているものを除き,商標登録を受けること ができないと規定した趣旨は,人は,自らの承諾なしに,その氏名,名称 等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある ものと解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日 第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ) 第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号59 5頁参照)。 このような同号の趣旨に照らせば,音商標を構成する音が,一般に人の\n氏名を指し示すものとして認識される場合には,当該音商標は,「他人の 氏名」を含む商標として,その承諾を得ているものを除き,同号により商 標登録を受けることができないと解される。 また,同号は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同\n一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在すると\nしても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した 者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと\n認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識 されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む 商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(2)ア これを本願商標についてみるに,前記2の認定事実によれば,1)株式 会社マツモトキヨシが昭和62年にドラッグストア「マツモトキヨシ」 の店舗展開を開始した後,平成29年1月30日に本願の出願がされる までの約30年以上にわたり,株式会社マツモトキヨシ,原告及び原告 のグループ会社が,「マツモトキヨシ」の表示をドラッグストアの店名\n又は自己の企業名として継続して使用したこと,2)同年3月31日現在 で,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店舗数は,全国45都道府県 で1555店舗,原告のグループ会社のメンバーズカード(ポイントカ ード)の会員数は約2440万人に達しており,また,「マツモトキヨ シ」のブランドは,インターブランド社による2016年度及び201 7年度のブランド価値評価ランキングでドラッグストアとして日本で ナンバーワンブランドの評価を獲得したこと,3)平成8年から開始され たドラッグストア「マツモトキヨシ」のテレビコマーシャルでは,女性 又は男性の声の音色,複数の声の斉唱で本願商標と同一又は類似の音を フレーズに含むコマーシャルソングが相当数使用され,テレビコマーシ\nャルが放映された以降においても,本願商標と同一又は類似の音がドラ ッグストア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用されて いたことが認められる。 これらの認定事実によれば,本願商標に関する取引の実情として,「マ ツモトキヨシ」の表示は,本願商標の出願当時(出願日平成29年1月\n30日),ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名や株式会社マツモ トキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものとして全国的に著名 であったこと,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む本願商標と 同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグストア「マツモ トキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く\n知られていたことが認められる。
イ 前記アの取引の実情の下においては,本願商標の登録出願当時(出願 日平成29年1月30日),本願商標に接した者が,本願商標の構成中\nの「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に 連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」, 企業名としての株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社 であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本 潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想起するものと認められない から,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものと はいえない。 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含 む商標に当たるものと認めることはできないというべきである。
(3)ア これに対し被告は,1)ウェブサイト(乙4ないし7)には,原告とは 他人の「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の氏名表示のひとつと\nして,「マツモトキヨシ」の片仮名が表記されており,かつ,これらの\n者は,現存していると推認できること,各地域のハローページ(乙8な いし19)には,「マツモトキヨシ」と読まれる人の氏名として,原告 とは他人の「松本清」,「松本潔」等が掲載されており,かつ,これら の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで存在している者で あると推認できること,氏名を片仮名表記することは,各種の商取引に\nおいて,社会一般に行われていること(乙20ないし28)からすると, 本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音は,\n「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」 等の人の氏名を容易に連想,想起させるものであり,「マツモトキヨシ」 と読まれる人の氏名として客観的に把握されるものである,2)原告の提 出に係るテレビコマーシャルに関する証拠からは,当該テレビコマーシ ャルの規模が明らかでなく,平成19年以降の放映も確認できないから, 当該テレビコマーシャルが本願商標の音を聞いた者の認識に与える影 響は限定的であること,当該テレビコマーシャルを視聴した者は,視覚 的要素とともに「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を聴取,把 握し,記憶するものといえるので,当該テレビコマーシャルは,本願商 標に接した者が,「マツモトキヨシ」の言語的要素からなる音を,マツ モトを姓とし,キヨシを名とする人の氏名であると認識することなく, 店舗名又は企業名としてのみ認識することの根拠たり得ないこと,原告 の挙げるブランド価値ランキングは,本願商標の音を聞いた者の認識を 直接反映したものとはいい難く,このほか,「マツモトキヨシ」という 言語的要素からなる音がドラッグストアの店名又は企業名としてのみ 認識されることを裏付ける証拠はないことからすると,1)のとおり,上 記言語的要素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」, 「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名として客観的に把握されること を否定することはできないとして,本願商標は,商標法4条1項8号の 「他人の氏名」を含む商標に当たる旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,「マツモトキヨシ」の表\n示は,本願商標の出願当時,ドラッグストア「マツモトキヨシ」の店名 や株式会社マツモトキヨシ,原告又は原告のグループ会社を示すものと して全国的に著名であり,「マツモトキヨシ」という言語的要素を含む 本願商標と同一又は類似の音は,テレビコマーシャル及びドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内において使用された結果,ド ラッグストア「マツモトキヨシ」の広告宣伝(CMソングのフレーズ)\nとして広く知られていたという取引の実情を踏まえると,本願商標に接 した者が,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要素か\nらなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラッグストアの店 名としての「マツモトキヨシ」,企業名としての株式会社マツモトキヨ シ又は原告のグループ企業であって,普通は,「マツモトキヨシ」と読 まれる「松本清」,「松本潔」,「松本清司」等の人の氏名を連想,想 起するものと認められない。
また,甲43によれば,上記テレビコマーシャルの規模は首都圏を中心 にドラッグストア「マツモトキヨシ」の出店のある全国の地域に及んでい たことが認められる上,上記テレビコマーシャルの放映後も,上記テレビ コマーシャルで使用された本願商標と同一又は類似の音がドラッグスト ア「マツモトキヨシ」の各小売店の店舗内で使用されていたものと認めら れるから,当該テレビコマーシャルが本願商標を聞いた者の認識に与える 影響が限定的であるということはできないし,上記テレビコマーシャルが 視覚的要素を伴うことも,上記認定を左右するものではない。 さらに,前記(1)で説示したとおり,同号は,出願人の商標登録を受 ける利益と他人の氏名,名称等に係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定 であり,当該音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識されない場合 にまで,他人の氏名に係る人格的利益を常に優先させることを規定したも のと解することはできないことに鑑みると,本願商標に接した者が,「マツ モトキヨシ」の言語的要素からなる音をドラッグストアの店名又は企業名 としてのみ認識することがない以上は,本願商標が同号の「他人の氏名」 を含む商標に該当するとの解釈は妥当とはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 次に,被告は,本願商標の構成中の「マツモトキヨシ」という言語的要\n素からなる音が,「マツモトキヨシ」と読まれる「松本清」,「松本潔」,「松 本清司」等の人の氏名として客観的に把握され,本願商標は「他人の氏名」 を含む商標である以上,商標法4条1項8号の趣旨に照らせば,上記言語 的要素からなる音が,原告又は株式会社マツモトキヨシが経営するドラッ グストアを指し示すものとして一定程度知られていることや,特定の者の 略称として一定の著名性を有することは,本願商標の同号該当性を左右す るものではない旨主張する。 しかしながら,前記アで説示したとおり,本願商標は「他人の氏名」を 含む商標であるとはいえないから,被告の上記主張は,その前提を欠くも のであり,採用することができない。

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令和3(行ケ)10031  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年8月19日  知的財産高等裁判所

 本件商標 HIRUDOSOFT(標準文字)について、先行商標「Hirudoid」、商標「ヒルドイド」に対して、類似または混同が生ずるかが争われました(4条1項11号、同15号違反)。知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を維持しました。

前記2(1)のとおり,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼にお いて明らかに相違するものであるから,引用商標と同一又は類似である原 告使用商標も,本件商標とは非類似の商標であるといえる。
もっとも,本件商標が原告商標と非類似の商標であっても,その商品の 出所について混同を生じるおそれがある商標については,商標法4条1項 15号に規定する商標に当たる余地もあり得るので,以下,念のためこの 点についても検討する。
イ 前記2(1)アのとおり,本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品につ いては,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外 品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。 そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は 「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであっ て,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく, また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語 頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる 証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において 普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又 医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的 若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ようにその商品の出所について混同を生じる恐れがあるものと認めるこ とはできない。 なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品にも使用されることもあり 得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原 告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所 について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかで ある。

◆判決本文

こちらは関連事件です。「ヒルドソフト」(標準文字)と仮名表\示となった商標です。

◆令和3(行ケ)10030

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令和2(行ケ)10115 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月24日  知的財産高等裁判所

 阻害要因ありとして、進歩性なしとした審決を取り消しました。

 甲1には,請求項1に「任意の形状の中央ハンドル」との記載があり,発 明の詳細な説明中に,ユーザが握る中央ハンドルは「球,あるいは他のあら ゆる任意の形状とすることが可能である。」と記載があることから,長尺状の\nハンドルを排除するものではないと理解することはできる。しかし,「球,あ るいは他のあらゆる任意の形状とすることが可能である。」との記載ぶりか\nらすれば,まずは「球」が念頭に置かれていると理解するのが自然であり, しかも甲1の添付図(FIG.1,FIG.2)は,いずれも器具の正面図 であり,実施例を表すとされているが,そこに描かれたハンドルの形状や全\n体のバランスに照らして,球状のハンドルが開示されているとしか理解でき ないものである。 また,甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握 り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を\n皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転するこ とにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集め て皮膚に沿って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿っ た動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうし た2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70〜100度を なす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸 で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさ せるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提 となる。
ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球 を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方 向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺\n状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハン\nドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張 る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうし た操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のよ うに,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相\n違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハ\nンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示がある\nといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付け があるとはいえない。 また,甲1においては,「マッサージする面に適合させるために,より大き な直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能である」形態も\n開示されており,FIG.2には,小さい直径の球(2)を2つ,大きな直径球
(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された図が開示されている。 このような実施例において,ハンドル(1)を球状から長尺状とすると,前記の とおり,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを 傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当て\nて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより, 球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿 って動き,引っ張る代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによ って皮膚が引き伸ばされるとの作用効果を生じるところ,例えば,大きい球 (3)を皮膚に当てることを想定し,長尺状のハンドルを中心軸に前傾させて構\n成させると,小さい球(2)を皮膚に当てるときには,ハンドルを進行方向に対 して傾けて小さい球(2)の球を引っ張ることができなくなる。したがって,こ うした点からすると,甲1のハンドル(1)を長尺状のものとすることには,む しろ阻害要因があるといえる。
(2) これに対し,被告は,1)甲1のFIG.1の正面図は,ハンドルが円形で 図示されているが,ハンドルが円柱状(長尺状)の形状であるとしても整合 する,2)同FIG.2においては,4つの球をハンドルに取り付けて,皮膚 が吸引される使用方法が記載されており,こうした使用方法を前提とすると, ハンドルが長尺状であればローラ(球)と接触することなくハンドルを握る ことができるから,ハンドルの形状は,球体と理解するよりも長尺状(円柱 状)のハンドルと理解するのが自然である旨主張する。 しかし,正面図であるFIG.1やFIG.2において図示されている円 形が球状ではなく円柱状(長尺状)の形状を示すものと理解することが困難 なことは,前記(1)において判示したところから明らかである。また,4つの 球をハンドルに取り付けて使用する形態であっても,FIG.2の実施例の 記載によると,使用されるのは2つの球であり,ハンドルを把持する際には 軸を避けて指でハンドルを把持すれば足り,ハンドルを長尺状(円柱状)の ハンドルと解するのが自然であるともいえず,かえって,上記のとおりハン ドルを長尺状とすることについては阻害要因があるというべきである。そう すると,甲1の実施例(FIG.1,FIG.2)には球状のものしか開示 されていないと認められ,被告の上記主張は採用し得ない。 また,被告は,甲1において,ハンドル(1)は,握って引っ張るものである という使用方法が明記され,ハンドルの形状としてあらゆる任意の形状とす ることができると記載されているのであるから,当然ながら握りやすい長尺 状の形状が想定された形状であり,甲1発明のハンドルは,握って傾けなが ら引っ張るものであるから,ハンドルの先端部に球を設けることは当業者で あれば容易に想到するものであるから,本件審決の判断に誤りはない旨主張 する。
しかし,たとえハンドルを球に限らず任意の形状とすることは可能である\nとしても,甲1発明の球状のハンドルを長尺状のものとした場合における操 作性の問題があることから,球状の実施形態しか開示されていない甲1発明 の中央ハンドルを長尺状のものとする動機付けがあるとはいえないことは前 記(1)のとおりであり,一般的に長尺状のハンドルが握りやすいものであると いえたとしても,そのことは結論を左右し得ない。また,小さい球(2)を2つ, 大きい球(3)を2つそれぞれハンドル(1)に軸によって固定された場合に,ハン ドル(1)を長尺状とすると,甲1発明の作用効果との関係でその操作に支障が 生じることから,甲1発明のハンドル(1)を長尺状のものとすることにはむし ろ阻害要因があることも前記(1)のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) そうすると,甲1発明のハンドルが長尺状のハンドルを排除するものでは ないとして,当業者が長尺状のハンドルを容易に想起し得るものとはいえな いし,ましてや,長尺状のハンドルが甲1に記載されたに等しい事項である と認めることはできないから,甲1発明のハンドルには長尺状のものが含ま れ,長尺状のハンドルが甲1の1に記載されたに等しい事項であることを前 提として,相違点1については,ハンドルを長尺状のものとした場合には, 一対の回転可能な球を先端部に配置することは甲1発明,又は甲1発明及び\n周知技術1に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものであり,また, 相違点3については実質的な相違点にならないとした本件審決の判断は誤り というほかない。

◆判決本文

こちらは審決の判断維持ですが無効理由なしとの審決が維持されています。 原告・被告が入れ替わってます

◆令和2(行ケ)10045

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 図形と文字の結合商標について、同じ文字構成の先願既登録商標が存在するして、拒絶された審決の取消訴訟で、知財高裁は審決の判断を維持しました。本件商標は、カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と,その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分で構\成されてました。指定役務は「洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類・・・,寝巻き類・下着・水泳着・水泳帽の小売など・・・」のファッション分野の小売りなどです。先行登録商標は、「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務が「帽子の小売等・・・」ですが、小売りサービスとしては同じ35K02の類似群コードが付与されています。

ア 本願商標
(ア) 本願商標は,カンガルーをモチーフとしたと思われる図形部分と, その下に「KANGOL」と横書きされた欧文字部分からなる。
(イ) 上記の図形は,その形状からすれば,カンガルーをモチーフとした 図形であると認識され得るものといえるが,やや抽象化された図形であ ることからすれば,同図形部分から特定の称呼や観念が生じるものとま ではいえない。また,上記の欧文字は,一般的な辞書等に掲載されてい る語ではなく,特段の図案化もされていないことからすれば,同欧文字 部分から特定の観念が生じるものとはいえない。 そうすると,上記の図形部分及び欧文字部分には観念上のつながりが あるとはいえないところ,本願商標全体の構成からすると,同各部分は,\n視覚上分離して看取されるものであって,分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,それぞれが要部として認識されるものといえる。
(ウ) そして,上記の欧文字部分についてみるに,同部分からは「KAN GOL」の欧文字に相応して「カンゴール」の称呼が生じるが,特定の 観念は生じないといえる。
イ 引用商標
引用商標は,「KANGOL」の欧文字を標準文字で表したものであると\nころ,本願商標の欧文字部分と同様に,引用商標からは「カンゴール」の 称呼が生じるが,特定の観念は生じないといえる。
ウ 類否判断 上記ア及びイを基に,本願商標の要部である「KANGOL」の欧文字 部分と引用商標とを比較すると,両者は,観念を比較することはできない ものの,欧文字のつづりが同じである上,本願商標の欧文字部分について 特段の図案化はされていないから,外観が極めて類似するものといえる。 また,両者からはいずれも「カンゴール」の称呼が生じるから,両者は称 呼を共通にするものといえる。 以上の事情を総合して全体的に考察すれば,本願商標の要部である「K ANGOL」の欧文字部分及び引用商標については,これらが同一又は類 似の商品又は役務に使用された場合には,その商品又は役務の出所につき 誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
・・・・
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。

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令和2(行ケ)10057  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月8日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。

 前記(1)のとおり,相違点2は,相違点21)及び相違点23)により構成さ\nれるべきものである。本件審決は,相違点21)は容易に想到できるとして おり(当裁判所としてもその結論を是認できる。),原告は,相違点23)の 容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点23)の容易想到性
(ア) 相違点23)は,「『フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込みが生じないように』,下降スイッチが押し状態であって もフレームをいったん停止させ,『ブザーを鳴らして警報』すること」で ある。
原告は,前記第3の2(1)イ(イ)のとおり,「フレームと床との間に,介 護者又は患者の足が存在しても,挟み込みが生じないように」との点が 用途による限定を付すものであり発明の構成とはならないから,相違点\nを構成することもない旨主張するが,上記特定事項は,フレームが停止\nする高さを何に基づいて決定するかを特定するものであるから,発明を 構成する部分であり,その主張は失当である。したがって,本件訂正発\n明1が用途発明になることもない。 そうすると,同(2)イ(ア)の被告の主張につき判断するまでもなく,原 告の上記主張はいずれにせよ採用することができない。 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり,甲1発明における下方中間位置は患 者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり,同最 下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであ るところ,下方中間位置から最下位置に153mm下降できるという ことは,少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れてい なければならないから,下方中間位置でのメインフレーム12の床か らの高さは153mmよりは高いことになる。 ここで,甲2技術事項に係る別紙3の記載によると,足が届く範囲 の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば,足を挟み込 む危険がないものと理解される。 そうすると,甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム1 2の床からの高さは,本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在 しても,挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【002 1】)であるといえ,また,甲1発明の最下位置は「床に近接して配置 される」ものであり(甲1[0011],FIG−4),足が挟み込まれ る高さであることは明らかであるから,最下位置に向けて下降する下 方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると,足を挟み込んでし まうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。 そして,甲1には,「磁石112のホール効果センサ118に隣接し た配置までの移動は,下方中間位置でのベッド10の位置付けに相当 し,磁石112のホール効果センサ116に隣接した配置までの移動 は,上方中間位置でのベッド10の位置付けに相当する。」([0036]) との記載があり,そして,甲1発明の管部110は,軸受部材108 に摺動接触して支持された状態でねじ式リニアアクチュータ98のね じ120に対して直線移動で駆動できるよう構成されており,磁石1\n12は,水平移動に当たり必ずホール効果センサ118及び116に 隣接した位置を通るから,甲1発明のベッドは,必ずフレームが下降 する際に上方中間位置及び下方中間位置で自動的に下降を停止するベ ッドである。
b ここで,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に,\n人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよう下降を停止させるこ とは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる (甲4の【請求項1】,【0003】,甲21の【請求項1】,【0003】, 【0005】参照)。 そして,昇降機能を有するベッドにおいて,フレームと床との間に\n人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業 者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる(甲4の 【0014】,【0010】,甲21の【0014】,【0010】参照)。 c そうすると,上記aのように,介護者又は患者の足が存在しても, 足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降 は停止するが,それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が 挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合,昇降機能を有\nするベッドにおいて,人体の侵入を防止し,人体が挟み込まれないよ うにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い,その下降を停止す る高さを「前記フレームと床との間に,介護者又は患者の足が存在し ても,挟み込みが生じないよう」な意図で設定し,この際,警告音で フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技 術に従い,警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難な ことではないといえる。
(ウ) 被告の主張について
被告は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,足を挟んでしまうことの防 止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しか しながら,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2 002−125807号公報」(甲21)においては,各【発明の詳細な 説明】の中に,子供が入り込むことの防止に係る記載がされているとこ ろ,各請求項1には,それぞれ「床部下への人体の侵入を監視して,人 体の侵入ありとした際に」又は「人体が存在する旨の検知信号により」 と記載されているのであり,子供が入り込むことのみに限定されるもの と解すべき事情も見当たらないことに照らしても,これらの発明の技術 的思想としては,人体が挟み込まれるのを防止するということが抽出で きるのであり,人体の対象には介護者又は患者も含まれるから,当業者 であれば,甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止すると の課題の記載や示唆がなくとも,甲1発明のベッドを介護者又は患者の 足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易と いうほかない。したがって,上記主張は,採用することができない。 さらに,被告は,同(エ)のとおり,「ブザーを鳴らして警報」すること は容易想到ではない旨主張するが,上記(イ)cのとおり,昇降機能を有\nするベッドにおいてフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警 告音で周囲に異常を知らせることは周知技術であるところ,人体の挟み 込みの防止のために警報音を鳴らすということの目的は,人体の挟み込 みの防止のためにフレームの下降を停止して実際に挟み込みを防止する こととは異なり,人体が挟み込まれる前の所定の段階であらかじめ操作 者を含む周囲の者に注意確認を促すことにある(警報音を鳴らすものの フレームの下降を人体の接触を感知するまで停止しないという選択もあ り得るから,警報音を鳴らすこととフレームの下降停止とは独立に置換 可能な独立の技術的事項である。)。したがって,フレームと床との間に\n人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは,人体の挟み込みの 防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接 の関係を有するものではない。そうすると,警告音を発する場面を,異 物を検出した段階とするのか,あるいは,フレームがそれより下降すれ ば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは,設計的事項にすぎ ず,「特開2002−125808号公報」(甲4)及び「特開2002 −125807号公報」(甲21)に記載の発明から認められる周知技術 と甲1発明とは,むしろ警報音を鳴らす局面,対象又は目的を共通とす るといえる。したがって,下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止 する甲1発明において,上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停 止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるとい え,上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が 甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。。 そのほか,被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも のではない。
(エ) まとめ
以上によれば,相違点21)に加えて,相違点23)についても容易に想 到できるというべきであるから,本件審決の相違点2の容易想到性判断 には,誤りがある。

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平成30(ワ)21900  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  東京地方裁判所

東京地裁29部は、102条2項侵害について、貢献の程度および競合品の存在による覆滅を被告の利益約5600万円のうち10%の損害額を認定しました。

(1) 推定される損害額
ア 前記前提事実(5)のとおり,被告は,本件特許権の登録日である平成29 年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品合計●省略 ●個を販売し,これにより●省略●円の売上げがあり,少なくとも●省略 ●円の経費を要した。 したがって,法102条2項の利益の額は,5652万1465円(消 費税込み)と認めるのが相当である。 イ 被告は,被告による被告各製品の販売がなかったならば原告が利益を得 られたであろうという事情は存在しないので,法102条2項の適用はな いと主張する。
しかし,証拠(甲12,35ないし38,乙17,33,107,10 8)及び弁論の全趣旨によれば,1) 電動ファン付きウエアの市場において, 平成29年当時,原告グループ(原告,株式会社空調服等。以下同じ。) は約30%,被告グループ(被告,株式会社サンエス等。以下同じ。)は 約40%,平成30年当時,原告グループは約33%,被告グループは約 33%,令和元年当時,原告グループは約40%,被告グループは約2 0%,令和2年当時,原告グループは約35%,被告グループは約20% の各シェアを占めていたこと,2) 原告は,首後部からの空気の排出口の大 きさを調整することができるように,空調服の販売を開始した当初は調整 紐型空調服を製造販売し,その後,2段階調整型空調服を製造販売してい るが,本件各発明を実施する空調服は製造販売していないことが認められ る。 上記認定事実によれば,原告グループは電動ファン付きウエアの市場に おいて大きなシェアを占め,原告は,首後部からの空気の排出口の大きさ を調整するために,調整紐型空調服又は2段階調整型空調服を販売してい たものと認められる。他方で,被告各製品のように複数段階で調整できる 空調服が多数販売され,他の電動ファン付きウエアの市場とは異なる独自 の市場を形成していたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告製品は被告各製品の競合品であると認めるのが相当で あるから,被告が被告各製品を販売して本件特許権を侵害しなければ,原 告は原告製品をさらに販売して利益を得られたであろうという事情が認め られる。 したがって,本件には法102条2項が適用されるので,被告の上記主 張は採用することができない。
ウ 被告は,商品の運用及び管理を●省略●に委託しており,平均すると商 品1点当たり●省略●円の経費を要したから,売上げから合計●省略●円 (●省略●円×●省略●個)を控除すべきであると主張する。 法102条2項の利益の額とは,侵害者の売上高から,侵害者において 侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ,証拠(乙62)及 び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成28年6月21日以降,●省略● に対し,被告の物流センターにおける衣料用繊維製品等の入出荷業務その 他これに付随する業務全般を,製品の点数にかかわらず一律の月額委託料 (平成29年8月1日以降は●省略●円)を支払うことを約して委託した ことが認められる。 そうすると,●省略●に対する委託料は,被告が被告各製品を製造販売 することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と は認められないから,前記アの被告各製品の売上げからこれを控除するの は相当でない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 推定の覆滅事由
ア 本件各発明が被告各製品の部分のみに実施されていること
(ア) 前記1(2)のとおり,空調服は,送風手段を用いて外部から服内に空気 を取り込み,当該空気が服内を流通し,その間に人体から出た汗を蒸発 させ,気化熱により体表面の温度を下げようとするものであるところ,\n本件発明1は,空調服の襟後部又はその周辺に二つの調整ベルトを設け, 一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうち いずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成 される開口部を広げたり,狭めたりすることを可能にし,より適切な空\n調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものである。 しかし,本件特許の出願当時,既に,空調服の襟後部の内表面に一組\nの調整紐を設け,これらを結ぶことによって上記開口部の大きさを調整 する技術があったところ(本件明細書【0004】),本件発明1は, 一組の調整紐を任意の長さに結ぶことが難しく,上記開口部の大きさを 求める冷却効果に応じた適正なものにすることが困難であったことを解 決しようとしたものであり(同【0006】及び【0009】),上記 開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に 位置付けられるものである。そして,本件発明1は,主として,従来技 術における調整紐を「取付部」を有する「調整ベルト」に置き換えたも のであるが,前記5(2)のとおり,本件特許の出願当時,ボタン及びボタ ンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することが できる周知慣用の技術が存在したものである。 以上からすると,従来技術と比較したときの本件発明1の技術的意義 は,必ずしも大きいものではなかったといわざるを得ない。 なお,本件発明2は,本件発明1の空気排出口調整機構を備える空調\n服の服本体の発明であって,本件発明2につき本件発明1とは異なる独 自の技術的意義は認められない。
(イ) 従来技術に係る調整紐型空調服において,送風手段を作動させたとき の襟後部と首後部との間に形成される開口部の形状は,電動ファンの風 力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベ ルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響を受けると考えられる ところ,この点については,本件発明1を実施した空調服であっても異 なるところはない。そして,上記従来技術又は本件発明1に係る空気排 出口調整機構が,上記の諸要素と比較して,上記開口部の形状決定にど\nの程度の影響を与えるのか,ひいては当該空調服の冷却性能にどの程度\nの作用効果があるのかを確定するに足りる証拠はない。 また,調整紐型空調服の場合,結び目付近に調整紐の先端部分が集ま り,空気排出の障害となることが指摘されるが(本件明細書【000 8】),紐という形状から考えて障害の程度がさほど大きいものとはい えず,本件発明1により特に有意な作用効果が得られるとはいえない。 さらに,従来技術に係る調整紐型空調服においても,一定の技量があ れば調整紐を任意の長さに結ぶことは可能であり,本件発明はこの点に\nついて特段の技量を要しないこととしたところに発明の作用効果がある といえるものの,実際に空調服を使用するに際し,上記の調整紐の長さ につき,どれほどの頻度で,どの程度細かく調整することが必要とされ ていたのかは明らかではない。 そうすると,本件発明1は,容易に襟後部と首後部との間に空気排出 口を形成し,これを調整することができるものの,従来技術に比して大 きな作用効果があるものとは認められない。
(ウ) 証拠(乙34,35)及び弁論の全趣旨によれば,顧客が空調服を選 択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバ ッテリーの性能に着目することが多いと認められ,空調服の襟後部と人\n体の首後部との間の空気排出口を調整する機構の有無が特に着目された\nことを認めるに足りる証拠はない。 また,被告各製品のうちの本件各発明を実施する部分は,ボタン,ボ タンホール,ゴムベルト及び布ベルトで構成され,その製造がさほど困\n難であったとは認められず,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば, 被告各製品に上記部分を設けるのに要する費用は1着当たり41ないし 42円であり,被告各製品の販売価格の1ないし2%にすぎなかったと 認められる。 さらに,証拠(甲3,乙57ないし59)及び弁論の全趣旨によれば, 平成29年から令和元年までの被告の商品のパンフレット及びウェブサ イトにおいて,空調服の構造を紹介するページに,本件発明1に係るゴ\nムベルト及び布ベルトが取り付けられた部分の写真が掲載され,その機 能を紹介する記載があるが,同写真は,ファンの写真よりは小さく,フ\nァンの取り付け位置及び着脱方法並びにバッテリーの各写真と同程度の 大きさであったこと,個々の空調服を紹介するページに,空調服が備え る機能として,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット,袖口の複\n数のボタン,保冷剤用ポケット等の各写真と並んで,上記部分の写真が 掲載されていることが認められる。 そうすると,被告各製品が備える機能のうち本件発明1を実施した部\n分が占める割合は小さかったといえ,また,同部分の顧客誘引力が特に 高かったとはいえない。
(エ) 以上によれば,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のう ち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権 を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわ ざるを得ないから,この事情に基づき,法102条2項により推定され る損害額の80%について推定の覆滅を認めるのが相当である。
イ 市場における競合品の存在
(ア) 前記(1)イのとおり,平成29年から令和元年までの電動ファン付きウ エアの市場において,原告グループのシェアは約30ないし40%,被 告グループのシェアは約20ないし40%であり,原告は,襟後部と首 後部との間に形成される開口部の大きさを調整することができるように, 2段階調整型空調服を製造販売している。 また,前記ア(ウ)のとおり,被告は,その商品のパンフレット等におい て,ペンを差すポケット,バッテリー用ポケット等の機能と並んで本件\n発明1に係る部分を紹介しており,購入者が本件発明1が実施された部 分のみに着目して被告各製品を選択したとはいい難い。 一方で,証拠(乙39ないし45)及び弁論の全趣旨によれば,原告 及び被告以外の業者も,首後部からの空気の排出をより効率的に行うた めの機能を備えた空調服や,その他種々の機能\を備えた空調服を販売し ていることが認められる。 そうすると,空調服のうちの特定のものだけが被告各製品の競合品と なるとは認められず,競合品に係るシェアは上記の原告,被告及びその 他の競業他社のシェアのとおりと認めるのが相当であり,これを踏まえ ると,被告が被告各製品を販売することがなかったとしてもその購入者 の全てが原告製品を購入したとはいえないから,この事情に基づき,法 102条2項により推定される損害額の50%について推定の覆滅を認 めるのが相当である。
(イ) 被告は,被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購 入しようとしていた顧客は,本件各発明の技術的範囲に属しない被告の 代替製品を購入するはずであるから,被告各製品の販売と原告の損害と の間には因果関係は認められず,仮に法102条2項が適用されるとし ても,この点は推定の覆滅事由になると主張する。 しかし,被告が被告各製品を製造販売しなかったとして,被告が他に いかなる空調服を製造販売したかは証拠上明らかではないから,被告の 上記主張は採用することができない。
ウ 被告の営業努力
被告は,独自のブランドである「空調風神服」の名称で被告各製品を販 売しており,「空調風神服」には強い出所識別力があるから,被告各製品 の販売には上記ブランドによる力が貢献していると主張する。 しかし,前記(1)イのとおり,遅くとも平成29年以降,電動ファン付き ウエアの市場において,原告グループのシェアと被告グループのシェアは 拮抗し,むしろ原告グループのシェアの方が伸びていることからすると, 原告製品の顧客吸引力と比較して「空調風神服」の名称に特に強い顧客吸 引力があるとは認められないというべきであり,他にこれを認めるに足り る証拠はない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ その他
被告は,1) 原告製品は本件発明1を実施しておらず,被告が被告各製品 を販売したことにより原告が損害を受けることはない,2) 原告製品はイン ターネットショッピングサイトにおいて酷評されていると主張する。 しかし,上記1)について,前記(1)イのとおり,原告は,電動ファン付き ウエアの市場において,被告各製品の競合品を製造販売していたから,原 告製品において本件各特許が実施されていなかったからといって,被告が 被告各製品を製造販売したことにより,原告が損害を被ったことを否定す ることはできない。 また,上記2)について,原告(原告グループ)が電動ファン付きウエア の市場において相当程度のシェアを占めていることは前記(1)イのとおりで あり,インターネットショッピングサイトにおけるごく一部の評価(乙4 6)をもって,被告各製品が販売されなかったとしても原告製品が売れる ことはなかったということはできない。 したがって,被告の上記各主張はいずれも採用することができない。 (3) 小括 ア 以上によれば,本件各発明の被告各製品の売上げに対する貢献の程度に より80%(前記(1)ア),電動ファン付きウエアの市場に競合品が存在す ることにより50%(前記(1)イ)の推定の覆滅を認めるべきであるから, 被告による本件特許権の侵害により,原告が被った逸失利益に係る損害額 は,565万2147円(5652万1465円×(1−0.8)×(1 −0.5))と認められる。 イ 被告の上記不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は6 0万円と認めるのが相当である。
ウ よって,原告が被った損害額は合計625万2147円である。

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令和2(行ケ)10033  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所

 無効審判では無効理由無しとされた請求項の一部(請求項7、10)について、知財高裁(3部)は、進歩性違反の無効理由ありとしてこれを取り消しました。

(3) 相違点10−2の容易想到性
ア 本件発明7のステップ(b)について
(ア) 相違点10−2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構\n成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を 水性流体に添加するものである。
(イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において, アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱 ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接 触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件 優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は 水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4 75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表\1〕,13〔571頁の右欄〕,1 4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性 流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化 合物が除去されることも,周知であったと認められる。
(ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物 を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る 点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水 洗の処理と異なるところはないというべきである。
イ 甲2文献における開示
(ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の 前に前処理してもよいと記載されている(【0057】)。
(イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸 気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知 であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や 水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性 の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者 は当然に動機付けられるものといえる。
ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か
(ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易\nに分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。\n
(イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科 学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等 の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相 との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状\n態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然 に動機付けられるものといえる。
エ 容易想到性
(ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件 優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水 蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の 不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に, 水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容\n易に想到することが可能であったといえる。\n
(イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検\n討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22 の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。 さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量% であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の\n水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の 遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから, 上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の 範囲内となることも明らかである。
(ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件 発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも\nのといえる。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例 として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明 7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか\nら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す\nる。 しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工 程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る 旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に 行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等 を行うことを動機付けられるものといえる。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含 まれるから,相違点10−2に係る本件発明7の構成には至らない旨主\n張する。 しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2 発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前 記の結論を左右するものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ (b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水 相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの ではない旨主張する。 しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本 の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相 と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩 化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム 処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認 められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し, 本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当 たらない。 そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる ものではないというべきである。 したがって,被告の主張は,採用することができない。
(エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する\n旨主張する。
しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b) に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム\n処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加 する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成\nが塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい\nえるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認\nめられない。

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令和2(ワ)9992  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月24日  大阪地方裁判所

 時計の文字盤のデザインについて著作物性が否定されました。

 1 本件原画の著作物性(争点1)について
(1)前記(第2の2(1))のとおり,本件原画は,一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり,それ自体の鑑賞を目的としたものではなく,現に,原告は,本件原画に基づき商品化された原告製品を量産して販売している。すなわち,本件原画は,実用に供する目的で制作されたものであり,いわゆる応用美術に当たる。
( 2 )「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい,このうち「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)。他方,応用美術のうち,美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては,明文の規定はない。しかし,「著作物」の上記定義によれば,「美術の著作物」は,実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。すなわち,実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。そうである以上,当該部分は美術の著作物として保護されるべきである。他方で,実用目的の応用美術のうち,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできないから,美術の著作物として保護されないと解される。\n
(3)本件原画について
ア 本件原画は,別紙写真目録記載のとおりであるところ,本件形態1及び2の観点を踏まえると,これには,以下のとおりの形態の時計が表現されているものと認められる。\n
(ア)長針,短針,秒針の三種の針を有する壁掛け型アナログ時計であり,各針はいずれも白色である。各針は,いずれも黒色の円盤状部の中心にその回転軸を固定されている。
(イ)上記円盤状部の頂部上部に数字の「12」を配置し,これを起点として,上記円盤状部の外周に沿って右回りに,黒色太字ゴシック体様の算用数字「1」〜「11」を概ね均一の大きさで順に円環状に配置している。これらの数字のうち,「1」,「2」,「5」,「6」,「7」,「11」及び「12」は,上記円盤状部に接着している。また,「6」及び「7」を除く数字は,隣接する別の数字のいずれか又は両者と接着している。
(ウ)前記数字のうち「12」を構成する「2」の頂部から「1」〜「8」を経て「9」の下部まで,円環状に配置された各数字の外周側に,これらに沿うと共にそれぞれの数字に接着する形で,黒色の円弧状の枠が配置されている。
イ 本件原画のうち,本件形態1に係る部分(前記ア(ア))について,時計の針が本体の色彩との関係で視認しやすいこと自体は,針の位置により時間を表示するアナログ時計の実用目的に必要な構\成といえる。配色に係るデザイン性(本体の黒色と針の白色のコントラスト)も,このような構成を実現するために採用されているものといえるのであって,当該構\成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
ウ 本件形態2に係る部分(前記ア(イ),(ウ))については,まず,アナログ時計において,「1」〜「12」の各数字及びこれを「12」を頂部として配置して右回りに円環状に配置することは,時間の表示という実用目的に必要な構\成といえる。また,これらの数字により形成された円環の内側にある円盤状部及び外側に形成された円弧状の枠は,円環状に配置された数字と互いに接着することにより,全体として時計本体を構成し,その形状を維持している部分と見られるから,これらも実用目的に必要な構\成といえる。使用されている数字のフォントや円盤状部の大きさの点も,数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現という時計としての実用目的に必要な構成である。さらに,数字の字体そのものは,何ら特徴的なものではない。\n
他方,各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」〜「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいこと(乙3)にも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。\n
そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。エしたがって,本件原画は,実用目的に必要な構\成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。

◆判決本文

◆原告の文字盤の写真

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令和2(行ケ)10134  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 コンピュータ関連発明について、知財高裁(2部)は、相違点の認定誤りを理由に、拒絶審決を取り消しました。判決文は、長いです(97ページ)。

 本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備える方法ということができ,同構成は,構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】〜【0018】,【0072】〜【0079】,【0116】〜【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】〜【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構\成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能\の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構\成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構\成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構\成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構\成に相当するものになるとはいえない。よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
5 相違点2に係る構成の容易想到性について\n
(1)本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構\成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構\成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能\であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。 よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能\「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。\n
6 相違点3に係る構成の容易想到性について\n
(1)本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構\成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構\成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能\を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。7相違点4に係る構成の容易想到性について(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表\す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構\成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構\成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。よって,相違点4に係る構\成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。(2)ア原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予\め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構\成F2には相当しないと主張する。
しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表\示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構\成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。イ原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構\成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。\n
8まとめ
以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。

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令和3(行ケ)10026  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 文字「S」を図形化し文字「SANKO」と結合させた商標について、先願商標「SANCO」と類似するとして拒絶審決がなされました。知財高裁も同様に類似すると判断しました。

結合商標の類否判断の方法について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるといえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) この点について,原告は,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することは,「商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」や,「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合」などの場合に限られるべきであると主張する。しかし,原告が挙げる上記の場合以外にも,「各構\成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合」には,分離して観察することが許されると解するのが相当である。原告が引用する最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁も,このことを否定するものとは解されない。
(3) そして,以上の(2)で述べた事情などを総合的に考慮して,結合商標の一部を分離,抽出して商標の類否を判断することが許されるかどうかを判断することが相当であると解される。
2本願商標について
(1)本願商標は,朱色の半楕円と同色縞模様の半楕円を斜めに接するように組み合わせてなる図形を配した本願図形部分と,その右にやや図案化された「SANKO」の欧文字を本願図形部分と同様の朱色で横書きした本願文字部分からなるところ,図形と文字という構成要素の性質の違いや,本願図形部分の上部が本願文字部分の上部よりも少なからず上にはみ出す形となっていることのほか,本願文字部分については容易に「サンコ」又は「サンコー」という称呼を有する部分として理解されることからすると,本願図形部分と本願文字部分とは,外観上,明確に分離して看取されるものであるといえる。そうすると,本願図形部分及び本願文字部分について,それらの部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。
(2) 上記のとおり容易に特定の称呼を有する部分として理解される本願文字部分は,本願商標の構成の大きな部分(7割以上)を占めている。そして,「SANKO」の文字は,辞書等に載録のない語であるから,特定の観念を生じないものである。そうすると,本願文字部分は,需要者の印象に残りやすく,強い印象を与えるということができる。
(3) これに対し,本願図形部分については,その形状に照らし,称呼を有しない図形であるのか,一定の文字を図案化したものであるのか,一見して直ちに明確なものであるとはいい難いが,商標において,企業等の名称の文字の一部が図案化される例は少なからずあると解されることや,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分は,「S」を図案化したものであると理解することも可能であるといえ,その場合には本願図形部分から「エス」の称呼が生じ得る。もっとも,本願文字部分の冒頭の文字が「S」であることからすると,本願図形部分が「S」を図案化したものと理解される場合においては,本願文字部分の冒頭の「S」を取り出して特に図案化して配置したものにすぎず,本願文字部分と独立した意味を有するものではないとの理解がされることも多いものとみることができる。\n
(4)上記(1)〜(3)からすると,本願商標については,本願文字部分のみによって商標の類否を判断することも許されるということができる。したがって,本願商標は,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼が生じ,特定の観念を生じないものである。
3 引用商標1,2及び4について
(1) 証拠(乙3,5,6)によると,引用商標1,2及び4について,本件審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア),(イ)及び(エ)のとおりに認められる。
(2)引用商標1は,やや図案化された「SANCO」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字に相応して,「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。
(3)引用商標2及び4は,水色の雫を重ねたような図形を配し,その下にやや図案化された「SANCO」の欧文字を青色で横書きしてなるところ,引用商標2及び4を構成する図形部分と,「SANCO」の文字部分は,視覚上,明確に分離して看取されるものであり,それらが常に一体となって特定の観念を生じるものともいえないから,文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能\を果たすものといえる。したがって,引用商標2及び4は,その構成文字に相応して「サンコー」又は「サンコ」の称呼を生じる。「SANCO」の文字は,辞書等に載録のない語であり,特定の観念を生じない。4本願商標と引用商標1,2及び4の類否引用商標1,2及び4の「SANCO」の欧文字は,本願文字部分である「SANKO」と,外観の全体的な印象において近似するものであるといえる。そうすると,本願商標と引用商標1,2及び4は,文字部分の比較において,観念を比較できないとしても,その外観は近似し,いずれも「サンコー」又は「サンーコ」の称呼を共通にするものであるから,これらを総合的に勘案すると,両商標は互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
5 以上のとおり,本願商標は,引用商標1,2及び4と類似する商標であるところ,本願商標が引用商標1,2及び4の指定役務と同一又は類似する役務について使用をするものであることについては,当事者間に争いがない。よって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は認められない。

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令和2(行ケ)10151等  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月29日  知的財産高等裁判所

 不使用であるとした審決が取り消されました。

1 取引に係る認定事実
(1) 証拠(甲6の2,甲12の2,甲20,23,24)によると,1)原告が,愛知県在住の特定人(以下「A」という。)から,令和2年1月10日,PayPalで1万7940円の支払を受けたこと及び2)同支払を原告に連絡するPayPalからのメールには,同支払金額について,「エクス:バイアージュ6個(送料無料)」,「¥17,940JPY」が,数量「1」であるとの記載があることが認められる。また,証拠(甲13の2)によると,3)問い合わせ番号「6271−4993−2452」のレターパックプラスについて,令和2年1月12日に福岡県で引受けがされ,同月13日に愛知県の届け先に届けられたことが認められる。さらに,証拠(甲7の2,甲28の3)及び弁論の全趣旨によると,4)原告が「6271−4993−2452」と記載されたレターパックプラスの追跡番号シールを所持しており,同シールは,本件納品書写し(甲7の2)と同一内容の納品書の控え(甲28の3)の裏面に貼付されていることが認められる。\n
(2) 本件チラシ(甲4)には,「送料無料」,「美容クリーム(エクスバイアージュ)¥2,990」との記載がある。また,原告が提出する別のチラシ(甲3)には,「特別販売(2,990円&送料無料)」,「感謝を込めて【1個2,990円&送料無料】の特別販売続行中」との記載がある。なお,同チラシには,「EX:biargue(エクスバイアージュ)」について「40,000円(税込)」との記載もある。さらに,本件サイト(甲5)には,「EX:biargue」との表示がされたクリームの瓶の写真及び本件使用商標1−2の表\\示(別紙3の2)の右側に,「特別販売キャンペーン」,「1個(送料無料)2,990円」,「6個(送料無料)17,940円」などの記載がある。以上の各チラシ及び本件サイトの各記載は,上記(1)2)の事実と整合するもので,上記(1)2)の事実と合わせると,上記(1)1)のAからの支払が,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個の代金の支 払であることを推認させるものである。
(3)ア本件納品書写し(甲7の2)及びこれと同一内容で上記(1)4)のとおり裏にレターパックプラスの追跡番号シールが貼付された納品書の控え(甲28の3)の記載内容をみると,「今回の商品配送詳細【無料】」,「【商品名】日本郵便・レターパックプラス(対面でのお受取)」,「【追跡番号(商品番号)】627149932452」との記載のほか,「商品」として「美容クリーム」,「単価」として「¥2,990」,「個数」として「6」,「計」として「¥17,940」,「備考」として「送料無料」の記載があり,宛名欄にはAの氏名の記載がある。そして,本件納品書写し及び上記納品書の控えには,上部に,「DOLGES」の文字の下に「D」及び「S」を重ねるように組み合わせて円で囲んだ図形を配置した商標(以下「本件使用商標1−3」という。)が表\\示され,右下部に本件使用商標2−2が表示されている。\n
イ上記アの事実に,上記(1)1)〜4)の事実及び上記(2)のとおり推認される事実を併せ考慮すると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件チラシに記載された「美容クリーム(エクスバイアージュ)」(本件使用商品1)6個を発送し,それが同月13日に愛知県在住のAに届けられたという事実が推認され,この推認を覆す事情は認められない。
(4) 原告の本人尋問における供述及び陳述書(甲25)の記載(以下,併せて「原告供述等」という。)によると,原告が,上記(1)1)の令和2年1月10日のAからの支払を受けて,本件使用商品1(6個)に,本件納品書の写し(甲7の2)の原本及び本件チラシ(甲4)を同封したレターパックプラスを発送し,それが同月13日にAに届けられたという取引(以下「本件取引」という。)の事実が認められる。原告供述等は,上記(1)〜(3)で指摘した各事実と整合しており,本件取引について述べる部分について,その信用性を否定すべき事情は見受けられない。2本件商標1及び2の使用について(1)ア本件チラシ(甲4)には,本件使用商標1−1を紙製の外装箱に表示し\nた美容クリームである本件使用商品1の写真(別紙3の1)が掲載されているとともに,本件使用商標2−1を容器側面に表示した美容ミストである本件使用商品2の写真が掲載されている。本件チラシは,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)。
イ本件納品書写し(甲7の2)には,前記1(3)アのとおり,本件使用商標1−3が表示されている。本件納品書写しの原本は,原告が作成したものである(原告供述等,弁論の全趣旨)ウ本件使用商標1−1及び1−3は,本件商標1と,本件使用商標2−1は,本件商標2と,それぞれ社会通念上同一であると認められる。\n
(2) 上記(1)の事実及び前記1(4)のとおり認められる本件取引の事実からすると,本件商標1及び2の商標権者である原告が,要証期間内である令和2年1月10日から同月13日までの間に,本件商標1の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品1について,本件商標1の使用(商標法2条3項2号[商品の包装に標章を付したものの譲渡],8号[広告に標章を付して頒布])をするとともに,本件商標2の指定商品のうち「化粧品」に含まれる本件使用商品2について,本件商標2の使用(同項8号[広告に標章を付して頒布])をしたものと認められる。

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令和3(行ケ)10003  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月19日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(1部)は、Webサイト上の使用について、使用証明が要証期間内のものかが不明として、使用ありとして審決を取り消しました。

 被告は,平成28年頃,本件サービスの有料会員のみが閲覧可能な本件ウェ\nブサイトの本件トップページ(甲15)に本件使用商標が表示された本件バナ\nーを,本件バナーのリンク先の「美少女図鑑 作品一覧」の見出しがある本件 ウェブページ(甲17)に本件バナーの画像をそれぞれアップロードして,本 件バナー及びその画像を掲載したこと,ファンプラス社が,令和2年4月1月 以降,本件トップページ及び本件ウェブページにそれぞれ本件バナー及びその 画像を継続的に掲載したことにより,被告又はファンプラス社が要証期間内に 本件使用商標を使用した旨を主張するので,以下において判断する。
(1) 甲15は,本件トップページを印刷した書証であり,甲15には,「Fの ぶらり商店街」の見出しの下に,別紙記載の本件バナーを含む複数のバナー が表示されている。また,甲17は,本件ウェブページを印刷した書証であ\nり,甲17には,「美少女図鑑 作品一覧」の見出しの下に,本件バナーの 画像が表示され,その画像の下には,複数の電子写真集のサムネイルが表\示 されている。本件バナーには,別紙記載のとおり,女性を被写体とする3枚 の写真(本件写真1ないし3)を背景に,白く縁取りされたピンク色の書体 の「美少女図鑑」の文字からなる本件使用商標が表示されている。\nそして,証拠(甲15,17,32)及び弁論の全趣旨によれば,本件ト ップページに表示された本件バナーのリンク先が本件ウェブページであるこ\nと,本件ウェブページに表示された各サムネイルの横には,例えば,「女子\n校生 先輩は僕のいいなり A 2018−09−01」,「女子校生 純 白 B 2018−09−01」等の記載があることが認められる。 しかしながら,甲15及び17は,いずれも要証期間経過後の本件審判請 求後に印刷されたものであるから,甲15及び17が存在するからといって, 要証期間(平成29年6月18日から令和2年6月17日までの間)に,本 件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及びその画像が表示され\nていたものと直ちに認めることはできない。 また,本件バナーのアップロード時のログ等の電子記録は提出されておら ず,平成28年頃,本件トップページ及び本件ウェブページに本件バナー及 びその画像がアップロードされて掲載されたことを客観的に裏付ける証拠は 存在しない。
もっとも,甲17には,本件ウェブページに表示された各サムネイルに係\nる「2018−09−01」等の日付の記載があるが,これらの日付は,当 該サムネイルに係る電子写真集の販売開始日等を示したものとうかがわれ, また,本件バナーのアップロード時期とサムネイルのアップロード時期が当 然に同じ時期になるものとはいえないから,これらの日付から,本件バナー が平成28年頃にアップロードされたものと認めることはできない。
(2)次に,C作成の令和3年4月14日付け陳述書(乙3)中には,1)Cが代 表取締役を務める友ミュージック社は,およそ5,6年前に,被告の依頼を\n受け,本件ウェブサイトの会員限定ページに本件バナーをアップロードした, 2)同ページの本件バナーとリンクさせる形で,美少女図鑑のコンテンツ用ペ ージをアップロードした,3)その後,本件バナーはアップロード時と同じ状 態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで本件バナーに変 更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,上記記載部分は,本件使用 商標を表示する本件トップページ及び本件ウェブページをアップロードした\n時期が「2015年3月25日」であることを証明する旨のC作成の令和2 年9月23日付け証明書(甲20)の記載部分と齟齬するものであるから, 措信することができない。
また,G(以下「G」という。)作成の令和3年6月11日付け陳述書(乙 8)には,1)Gは,被告に在籍していた,今から5,6年前,被告が保有す るコンテンツ(乙5ないし7)から女性3名の写真と本件使用商標を使用し て,本件バナーを作成し,友ミュージック社に依頼して,本件ウェブサイト の有料会員のみが閲覧できる本件トップページに本件バナーを掲載し,本件 バナーのリンク先において,年齢の若い女性を被写体とするコンテンツを一 覧化した本件ウェブページを作成した,2)本件バナーに表示された女性3名\nの写真は,直近1,2年前に出版された,女子高生シリーズの中で比較的新 しい3冊の写真集から選んだものである,3)その後,本件バナーはアップロ ード時と同じ状態で会員限定ページに掲載され続けており,現在に至るまで 本件バナーに変更を加えていない旨の記載部分がある。 しかし,上記記載部分によっても,本件バナーのアップロードの時期は, およそ5,6年前とあいまいであるのみならず,本件バナーの背景の本件写 真1ないし3は,Cが挙げる乙5ないし7(電子写真集1ないし3)記載の 写真と異なる構図の写真であるから,乙5ないし7は,本件バナーのアップ\nロードが平成28年頃にされたことを直ちに裏付けるものでないことからす ると,上記記載部分は措信することができない。 したがって,乙3及び8から,本件トップページ及び本件ウェブページに それぞれ本件バナー及びその画像が掲載されたことを認めることはできない。 他に本件使用商標が表示された本件バナー及びその画像が要証期間内に\n本件トップページ及び本件ウェブページに掲載されていたことを認めるに足 りる証拠はない。

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令和2(ネ)10044 特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年6月28日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁3部は、非接触式ICカードは本件発明の「記憶媒体」には非該当、また、無効主張は、時期に後れた攻撃防御でないとして、被告の敗訴部分を一部取り消しました。

(2) 非侵害論主張5)について
ア 自白の成否及び時機に後れた攻撃防御方法該当性
一審原告は,非侵害論主張5)は,原審の答弁書記載の認否によって成立 した自白の撤回に当たり,また,時機に後れた主張でもあるから,許され ない旨主張する。 たしかに,一審被告は,原審答弁書における構成要件1A等の認否に際\nし,被告給油装置の電子マネー媒体が本件発明の「記憶媒体」に当たると の対比を明確に争っていたわけではないが,従前から,被告給油装置が本 件発明の技術的思想を具現化したものでないことを主張しており,非侵害 論主張5)は,これを,使用される決済手段の差異(プリペイドカードと非 接触式ICカード)という観点から論じたものであるといえるから,一審 被告が充足論全体について単純に認めるとの認否をしていない以上,自白 を撤回して新たな主張をしているとはいえないし,この主張を時機に後れ たものとして扱うのも相当ではない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
イ 非接触式ICカードの「記憶媒体」該当性
本件明細書において,本件発明の「記憶媒体」の具体的態様としては, 磁気プリペイドカード(【0033】)のほか,「金額データを記憶する ためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」(【0070】)や 「カード以外の形態のもの,例えば,ディスク状のものやテープ状のもの や板状のもの」(【0071】)も開示されている。このように,本件発 明の「記憶媒体」は必ずしも磁気プリペイドカードには限定されない。 しかしながら,本件発明の技術的意義が上記1のとおりであることに照 らして,「媒体預かり」と「後引落し」との組合せによる決済を想定でき る記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本 件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことになら\nないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明 の「記憶媒体」には当たらない。 かかる見地にたって検討するに,被告給油装置で用いられる電子マネー 媒体は非接触式ICカードであるから,その性質上,これを用いた決済等 に当たっては,顧客がこれを必要に応じて瞬間的にR/Wにかざすことが あるだけで,基本的には常に顧客によって保持されることが予定されてい\nるといえる。そのため,電子マネー媒体に対応したセルフ式GSの給油装 置を開発するに当たって,物としての電子マネー媒体を給油装置が「預か る」構成は想定し難く,電子マネー媒体に対応する給油装置を開発しよう\nとする当業者が本件従来技術を採用することは,それが「媒体預かり」を 必須の構成とする以上,不可能\である。 そうすると,被告給油装置において用いられている電子マネー媒体は, 本件発明が解決の対象としている本件3課題を有するものではなく,した がって,本件発明による解決手段の対象ともならないのであるから,本件 発明にいう「記憶媒体」には当たらないというべきである。むしろ,電子 マネー媒体を用いる被告給油装置は,現金決済を行う給油装置において, 顧客が所持金の中から一定額の現金を窓口の係員に手渡すか又は給油装置 の現金受入口に投入し,その金額の範囲内で給油を行い,残額(釣銭)が あればそれを受け取る,という決済手順(これは乙4公報の【0002】 に従来技術として紹介されており,周知技術であったといえる。)をベー スにした上,これに電子マネー媒体の特質に応じた変更を加えた決済手順 としたものにすぎず,本件発明の技術的思想とは無関係に成立した技術で あるというべきである。一審被告の非侵害論主張5)は,このことを,被告 給油装置の電子マネー媒体は本件発明の「記憶媒体」に含まれないという 形で論じるものと解され,理由がある。
ウ 一審原告の主張について
(ア) 一審原告は,本件発明の「記憶媒体」は,構成要件1C及び1Fの動\n作に適した「記憶媒体」であれば足りる旨主張する。 しかしながら,発明とは課題解決の手段としての技術的思想なのであ るから,発明の構成として特許請求の範囲に記載された文言の意義を解\n釈するに当たっては,発明の解決すべき課題及び発明の奏する作用効果 に関する明細書の記載を参酌し,当該構成によって当該作用効果を奏し\n当該課題を解決し得るとされているものは何かという観点から検討すべ きである。しかるに,一審原告の上記主張は,かかる観点からの検討を せず,形式的な文言をとらえるにすぎないものであって,失当である。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 一審原告は,本件明細書の【0070】に「記憶媒体」として「金額 データを記憶するためのICメモリが内蔵された電子マネーカード」を 例示する記載があり,非接触式ICカードもこれに含まれる旨主張する。 しかしながら,上記記載は,【0033】の「プリペイドカード71 は,磁気カードからなり」等の記載を受けて,カードの記憶素子が磁性 材ではなくICメモリであっても良い旨を示すにとどまり,そのカード が非接触で動作することを示す記載ではない。また,上記記載において, ICメモリは「金額データを記憶するための」ものであって,非接触式 ICカードのように演算・通信の機能を有することは開示も示唆もされ\nていないから,上記記載を根拠に非接触式ICカードが本件発明の「記 憶媒体」に当たるとはいえない。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 一審原告は,非接触式ICカードが券売機に取り込まれて使用され得 ることは周知であり,本件明細書には設定器内部にカードを取り込んだ ままとしない記憶媒体を用い得ることが示されているから,非接触式I Cカードが本件発明の「記憶媒体」に当たらないとはいえない旨主張す る。 しかしながら,前掲前提事実のとおり,被告給油装置において電子マ ネー媒体を使用する際には,電子マネー媒体(非接触式ICカード)は R/Wにかざされるだけであって装置に「取り込まれ」ることはない。 非接触式ICカード一般に一審原告主張のような使用態様はあり得るも のの,被告給油装置ではそのような使用態様によらずに非接触式ICカ ードが「電子マネー媒体」として用いられているので,被告給油装置に おける「電子マネー媒体」の技術的意義は,本件発明における「記憶媒 体」のそれとは異なる。 したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。
(3) 充足論についての小括
以上によれば,一審被告の非侵害論主張4)及び5)は理由があるから,その 余の非侵害論主張の成否について判断するまでもなく,被告給油装置及び被 告プログラムは本件特許を侵害しない。
4 争点4(無効論)について
念のため,仮に,本件発明1の「先引落し」金額は顧客が指定する場合を含 み(上記3(1)イ(イ)参照),また,非接触式ICカードも本件特許の「記憶媒 体」に含まれる(上記3(2)イ参照)とした前提で,無効論につき検討する。 なお,本件において,無効論は,本件発明1及び本件発明3(本件訂正後の もの)について検討すれば足りる。このことは,上記「第3」4の冒頭に説示 したとおりである。
(1) 「時機に後れた攻撃防御方法」該当性について
無効主張A,B,Dは,原審における侵害論の心証開示後に主張されたも のであり,そのため,原審においては時機に後れたものとして取り扱われた わけであるが,既に充足論に関する項で指摘したとおり,構成要件1C1充\n足性(非侵害論主張4))及び構成要件1A,1C,1F3,1F4充足性\n(非侵害論主張5))に関する原審の主張整理には,本来は,争いがあるもの として扱うべき論点を争いのないものとして扱ったという不備があったとい わざるを得ない。そして,無効論に関する主張の要否や主張の時期等は,充 足論における主張立証の推移と切り離して考えることができないのであるか ら,充足論について,本来更に主張立証が尽くされるべきであったと考えら れる本件においては,無効主張が原審による心証開示後にされたという一事 をもって,時機に後れたものと評価するのは相当ではない。 また,上記無効事由に関する当審における無効主張は,控訴後速やかに行 われたといえる。 以上によると,一審被告による上記無効主張は,原審及び当審の手続を全 体的に見た観点からも,また,当審における手続に着目した観点からも,時 機に後れたものと評価することはできない。 したがって,いずれの無効主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下 すべきものではない。
・・・
ウ 相違点の容易想到性
上記の表において一致点とされていない本件発明1の構\成は,相違点と なる。 しかしながら,いずれの構成も,セルフ式GSの給油装置において,審\n判甲B1装置の現金による支払を,電子マネー媒体による支払に置き換え る際には,当然に備わる構成である。すなわち,上記の各相違点をまとめ\nると,本件発明1においては装置がR/Wを備えること,電子マネーの金 額データはR/Wにより電子的に書き換えられること,の2点となるが, いずれの構成も,現金の場合は貨幣という有体物に化体されている金銭的\n価値を,電子的情報という無体物に化体させたことによって必然的に生じ る帰結である。 また,現金による支払を電子マネー媒体による支払に置き換えること自 体は,電子「マネー」という名称自体からも容易に着想することができる し,例えば乙16の12(電子商取引推進協議会「モバイルECに関わる 決済標準モデルの研究中間報告書」平成13年3月発行)には,非接触式 ICカードが「電子マネー」として利用されること,FeliCa内蔵の携帯電 話は「電子財布」になること等が記載されており,これらの記載は,現金 による支払いを電子マネー媒体に置き換えることを動機付ける。 そうすると,当業者にとって,上記各相違点にかかる本件発明1の構成\nに想到することは,通常の創作能力の発揮にすぎず,容易であったといえ\nる。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成29(ワ)29228

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令和3(行ケ)10013  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年7月20日  知的財産高等裁判所

 不使用取消を請求しましたが、棄却されました。知財高裁も同様に「動画である本件動画における商標の使用は,商標的使用とはいえないと判断をしました。

 事案の性質に鑑み,まず本件商標の使用の有無の点から検討,判断する。 商標法は,50条において,「日本国内」において「商標権者,専用使用権 者又は通常使用権者」のいずれかが「不使用取消審判請求に係る指定役務」 のいずれかについての登録商標の「使用」をしていることを商標権者が証明 しない限り,当該指定役務について当該商標の登録が取り消されると定め, また,2条において,商標とは「業として」使用するものであり,その「使 用」とは,同条3項各号に列記されているのものに限ることを定めている。 したがって,本件において,商標権者である原告は,本件サービス又は本 件チャンネルにおける本件商標の使用が,日本国内において原告又はリンガ フランカ社によって,本件指定役務について,業務に係る標章として同条3 項各号に列記されている態様で行われていることを立証することを要する。
(2)本件サービスにおける本件商標の使用について
ア 前記1(8)のとおり,本件サービスに係る会員認証ページ(甲8)には, 本件商標と同一の商標が表示されており,また,同(1)ウ及び(3)のとおり, 本件サービスは日本国内における日本人も対象としていることが明らか であるから,本件商標は,日本国内において使用されているといえる。 しかしながら,上記ページは,要証期間経過後で本件審判請求がされた 後の平成31年4月16日に印刷されたものにすぎず,要証期間に同ペー ジに本件商標が表示されていたことを直ちに明らかにするものではない\nし,自己のウェブサイトの表示を変えることは容易であるから,この証拠\nだけから要証期間に本件商標が表示されていたことを推認できるもので\nもない。 したがって,要証期間に本件サービスで本件商標が使用されていること を認めるに足りる証拠はないというべきである。
イ 仮に,要証期間に本件サービスに係る会員認証ページに本件商標が表示\nされていたとしても,本件商標は本件指定役務の範囲に含まれる役務につ いて使用されているとはいえない。 すなわち,本件指定役務のうち,「語学に関する知識の教授」,「国際文化 に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」は,人に対す る教育又は知能を開発するための役務であるが,本件サービスは,会員が\nSNSを利用して会員同士で情報発信,情報交換をするものであり,その 際に使用できる言葉をグロービッシュの基本単語1500語又はその派 生語に限定したというにすぎず,実態としては個人間の交流の場を提供し ているだけのサービスである。したがって,本件サービスが主体的に知識 の教授や教育研修を行っているとはいえず,本件サービスを利用すること でグロービッシュについての能力が向上することがあるとしても,それは,\n単なる副次的な作用,効果にすぎない。 そうすると,本件サービスの提供は,「語学に関する知識の教授」,「国際 文化に関する知識の教授」又は「教育研修のための施設の提供」のいずれ にも該当しないというべきである。
ウ したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件サービスに おいて,要証期間に上記各指定役務について本件商標の使用がされていた とは認められない。
(3) 本件チャンネルにおける本件商標の使用について
ア 前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)には,その冒頭に本件商標と同 一の商標が使用されており,また,本件サービスやグロービッシュ・ラー ニング・センターの案内を内容とするなど日本国内における日本人を対象 としていることが明らかであるから,当該商標は日本国内において使用さ れているといえる。 また,前記1(4)のとおり,本件動画1)ないし4)の投稿日は要証期間開始 前の平成25年3月9日から同年7月9日にかけてであるところ,要証期 間経過後である令和2年10月9日時点においても本件動画1)ないし4) を視聴することが可能であり,同日時点の本件動画1)の視聴回数が750 回,本件動画2)の視聴回数が1125回,本件動画3)の視聴回数が431 回,本件動画4)の視聴回数が437回となっているから(甲10),要証期 間に本件動画1)ないし4)が視聴され得る状態であったことは十分に推認\nすることができる。したがって,要証期間に本件商標が本件チャンネルに おいて使用されたことが認められる(なお,被告は,要証期間に本件チャ ンネルが閉鎖されていた可能性を否定することはできない旨主張するが,\n閉鎖されていたことを疑うに足りる事情は見当たらない。)。
イ しかしながら,本件サービスの提供は,前記(2)イで判示したとおり,「語 学に関する知識の教授」又は「国際文化に関する知識の教授」,さらには「語 学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」のいずれの役務にも当 たらないというべきであるから,本件動画1)ないし4)が本件サービスの案 内を内容とするとしても,それが上記各指定役務に関する「広告」(商標法 2条3項8号)に該当する余地はない。 また,本件動画1)及び2)は,専らグロービッシュそのものの紹介を内容 とするものと把握される動画であって,具体的な役務との関連性が明確に されているとはいえず,この点からも「役務に関する広告」(商標法2条3 項8号)とはいい難いものである。したがって,本件動画1)及び2)におけ る本件商標の使用が,商標法2条3項所定の「使用」に該当するとは認め られない。 さらに,本件動画3)は,専らリンガフランカ社の前記1(1)ウ2)のサービ スの紹介を,本件動画4)は,専ら前記1(1)ウ3)のサービスの紹介を内容と するとものとそれぞれ把握される動画であるところ,前記1(6)及び(7)のと おり,リンガフランカ社は,要証期間前の平成25年9月30日には上記 両サービスを終了させており,原告は,同サービスの運営を引き継いでい ないから,本件動画3)及び4)を「役務に関する広告」(商標法2条3項8号) と捉えるとしても,その内容は,事業として行われていない実態のサービ スに関するものにすぎない。そうすると,本件動画3)及び本件動画4)は, 業として行われている役務について使用されているものではないから,そ こに本件商標が表示されているとしても,その本件商標の使用を商標とし\nての使用と解することはできない。
ウ 以上によれば,本件チャンネルで公開されている動画である本件動画1) ないし4)における本件商標の使用は,いずれにしても商標法2条3項所定 の「使用」とはいえない,あるいは商標的使用とはいえないことになる。
(4) 小括
以上の次第で,本件商標が,要証期間中,本件指定役務のうち,「語学に関 する知識の教授」,「国際文化に関する知識の教授」,「教育研修のための施設 の提供」又は「語学教育に携わる教師の育成のための教育又は研修」の役務 について使用されていたと認めることはできず,また,原告は,本件指定役 務のうち,上記役務を除く役務について要証期間に本件商標が使用されてい る点について具体的に主張立証をしておらず,本件証拠からもその使用をう かがうことはできない。 したがって,要証期間に本件商標が本件指定役務について使用された旨の 立証はないというべきであるから,本件商標の使用者に係る点について判断 するまでもなく,いずれにしても本件審決の判断に誤りはない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10147  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年6月29日  知的財産高等裁判所

 ゲームプログラムの発明について新規事項であるとした審決が維持されました。なお本件発明は第4世代の分割出願です。

 これらによると,「アイテムボックス」は,アイテムを収納するものとしてゲーム 分野で慣用されている語であるとはいえるものの,「アイテムボックス」という記載 をもって,アイテムボックスに収納できるアイテムの数に所定の上限が設けられて いるか否か,アイテムボックスが必ずすべてのアイテムを収納するものであるか否 か,といった特定の仕様が一義的に決まるものではない。 当初明細書に記載の「アイテムボックス」の解釈に当たっては,当初明細書に記 載の「アイテムボックス」が収納上限を設けているという仕様を有していることを 前提としているものといえ,甲12〜14の記載は,当初明細書等に記載の「アイ テムボックス」が収納上限を設けているという前提に対して何らの影響を与えるも のとはいえない。
ウ 原告は,本願発明1は「アイテムボックスに特定アイテムの収納上限が 設けられ」ることを特定しているわけではないから,「アイテムボックスに特定アイ テムの収納上限が設けられている」ことが当初明細書に記載されているか否かは, 本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である旨主張する。 しかし,当初明細書において唯一アイテムボックスに関して記載されている段落 【0051】における「アイテムボックス」に関する記載からは,当該「アイテム ボックス」に収納上限が設けられているものであることが読み取れるのみであるか ら,「アイテムボックス」に特定アイテムを収納するとした場合には,特定アイテム の収納上限が設けられることになるとの解釈が,新たな技術的事項を導入するもの であるか否かを判断する際に考慮すべき事項である。 なお,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書に記 載された事項から導き出される全ての技術的事項との関係から,新たな技術的事項 が導入されたものであるか否かであるから,本願発明1において「アイテムボック スに特定アイテムの収納上限が設けられ」ることを特定しているか否かは,新たな 技術的事項を導入するものであるか否かの判断に影響するものではない。
エ 原告は,令和2年4月1日付け意見書(甲8)と当初明細書等の記載が 整合するか否かは,本件補正が新規事項の追加に該当するか否かとは無関係である 旨主張する。 しかし,原告は,同意見書(甲8)において,当初明細書に記載の「アイテムボ ックス」には収納上限が設けられているということを前提とした主張をしているた め,同意見書の主張と,当初明細書との記載とが整合しているか否かは,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かを判断する際に検討すべき事項であって,無 関係というべきではない。
(3) 「特定のアイテム」について
ア 当初明細書の段落【0051】には,「・・・具体的には,ユーザは,付 与される様々な種類の不要なアイテムを,1つの特定のアイテムに変換して所持す ることができるため,・・・」として,「付与される様々な種類の不要なアイテム」 を「1つの」「特定アイテム」に変換して所持することが記載されているところ,「1 つの」特定のアイテムが,「1個の」特定のアイテムのことを意味するのか,「1種 類の」特定のアイテムのことを意味するのかは当初明細書には記載されていない。 しかし,当初明細書の【図3】において,レアリティが「R」のカードが3個の 「特定のアイテム」に変換され,レアリティが「N」のカードが2個の「特定のア イテム」に変換されることが看取でき,すべてのカードが「『1個の』特定のアイテ ム」に変換されるものではないことを踏まえると,当初明細書の段落【0051】 に記載の「1つの」特定のアイテムは,「1種類の」特定のアイテムのことを意味す ると解することができる。 本件審決は,「1つの」特定のアイテムについて,直接的に言及していないものの, 「特定のアイテム」が「1種類」であることを当然の前提とした上で,判断してい る。
イ 当初明細書には,「特定のアイテム」が「上限なくユーザが所持可能とす\nることができる」ものであることが記載されているとともに,当初明細書には「特 定のアイテム」を上限なくユーザが所持可能とするという構\成をとることによって, ユーザは,付与される様々な種類の不要なアイテムを,一つの特定のアイテムに変 換して所持することができるため,不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができることが記載されている。 これらの記載によると,本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定 のアイテムに変換する」ことの技術的意義は,不要なアイテムを,上限なくユーザ が所持可能とすることができる「特定のアイテム」に変換することによって,収納\nすることができるアイテムの数に上限が設けられている「ユーザのアイテムボック ス」が満杯になることを防ぐことであると理解される。
ウ 上記イのような「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換 する」ことの技術的意義に照らすと,当初明細書等に記載の「アイテムボックス」 は,収納上限が設けられているものであるのに対し,当初明細書に記載の「特定の アイテム」は,「上限なくユーザが所持可能とすることができる」ものであるから,\n「アイテムボックス」に収納される「アイテム」と,「特定のアイテム」とでは,所 持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの性質が異なるといえる。\nまた,当初明細書には,「特定のアイテム」が「他アイテム」とは異なる種類のアイ テムであることが説明されている。 当初明細書の記載に接した当業者は,そこに記載された収納上限が設けられてい る「アイテムボックス」に,上限なくユーザが所持可能とするようにされた「特定\nのアイテム」が収納されると認識することはなく,上限なくユーザが所持可能とす\nるようにされた「特定のアイテム」は,収納上限のある「アイテムボックス」とは 別に管理するものであると認識するというべきである。 また,「特定のアイテム」と,「ユーザに付与される」「他のアイテム」とは異なる 種類のアイテムであることが説明されており,「特定のアイテム」とユーザに付与さ れるアイテムとでは,所持可能な数に上限があるかないかという点で,アイテムの\n性質が異なるものと理解されることからしても,「ユーザ」に付与される「他のアイ テム」がアイテムボックスに収納されるものであるからといって,「特定のアイテム」 がアイテムボックスに収納されるものであると当然に理解するものとはいえない。 以上によると,当初明細書の記載は,上限なくユーザが所持可能とすることがで\nきる「特定のアイテム」を収納上限のある「アイテムボックス」に所持する(アイ テムボックスに収納する)ことを排除していると評価できる。
エ 原告が主張するように,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイ テムボックス」に収納されるものであると解した場合には,当初明細書の段落【0 051】にのみ記載されているところの「アイテムボックス」には収納上限が設け られているのであるから,不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換したとして も,(複数個の)1種類の「特定のアイテム」が不要なアイテムとして変換されたア イテムの代わりにアイテムボックスに収納されることとなる以上,(複数個の)「特 定のアイテム」によりアイテムボックスが占有されることになるのであるから,ア イテムボックスが満杯になることを防ぐことができなくなってしまうこととなり, 不要なアイテムを「特定のアイテム」に変換することにより,ユーザのアイテムボ ックスが満杯になることを防ぐという「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイ テムに変換する」ことの技術的意義を損なうものといえる。
オ 原告は,アイテムの所持とアイテムボックスへの収納とが関連すると主 張する。 しかし,上記(2)の「アイテムボックス」に関する前提や上記イの本願発明におけ る「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義 を踏まえると,当初明細書の段落【0051】の記載は,ユーザに付与された不要 なアイテムを特定のアイテムに変換して,変換した特定のアイテムをアイテムボッ クスに入れることなく上限なしに所持できるようにすることにより,ユーザのアイ テムボックスが満杯になることを防ぐという,原因と結果の関係を示しているとい うべきである。 本件審決は,「1つの特定のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによ りユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」ことを,当初明 細書の記載を踏まえて,両者を関連付けた上で判断を行っているから,「1つの特定 のアイテムを所持できる」ことと「不要なアイテムによりユーザのアイテムボック スが満杯になるのを防ぐことができる」ことを別個独立したものとして捉えている との原告の主張は誤りである。
カ 原告は,当初明細書の段落【0052】は,段落【0051】の記載に 加え,更に「上限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」という構\成を付 加的に採用してもよいこと,その付加的な構成によって「特定アイテムを貯蓄する\n事が可能となり,ユーザの好きなタイミングで特定アイテムを使用する事ができる」\nという効果があることを述べたにすぎないから,新たな発明特定事項が当初明細書 に明確に記載されているか否かは,段落【0052】の記載に左右されるものでは ない旨主張する。
しかし,新規事項の追加の判断は,補正により追加された事項が,当初明細書の 全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技 術的事項を導入するものであるか否かである以上,本件審決において,当初明細書 の段落【0051】だけでなく,段落【0052】を含めた当初明細書のすべての 記載を総合的に判断して,「アイテムボックス」及び「特定のアイテム」,並びに, 本願発明における「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」こ との技術的意義を解釈して,新規事項の追加の判断を行ったことに,誤りはない。 なお,本件審決は,本願発明において,「特定のアイテム」が「アイテムボックス」 に収納されるものであると解した場合には,不要なアイテムを「特定のアイテム」 に変換することにより,ユーザのアイテムボックスが満杯になることを防ぐという 「ユーザに付与されたアイテムを特定のアイテムに変換する」ことの技術的意義を 損なうものであると判断しており,当該判断においては,「特定のアイテム」が「上 限なくユーザが特定のアイテムを所持可能とする」ものであるか否かに関係なく,\n「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事項が新規事項 であると判断している。
(4) 以上のとおり,当初明細書には,「特定のアイテム」が「アイテムボック ス」に収納されることが記載されているとはいえず,また,当初明細書の記載から, 「特定のアイテム」が「アイテムボックス」に収納されることが自明であったとも いえないから,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」に対応付けて記憶する事 項を追加する補正が,当業者によって当初明細書の全ての記載を総合することによ り導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであると した本件審決の判断に誤りはない。

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平成31(ワ)11130  商標権侵害差止請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月17日  東京地方裁判所

 東京地裁46部は、富富富」という標章,「ふふふ」という読み仮名を付した「富富富」という標章は、登録商標「ふふふ」と非類似として、侵害を否定しました。

 被告標章2と本件商標を比較すると,これらは外観において明らかに異 なる。他方,被告標章2と本件商標は,「フフフ」の称呼を共通にする場 合がある。もっとも,被告標章2は特定の観念を生じないのに対し,本件 商標は軽く笑う声等の観念を生じ,これらは観念において異なる。
そうすると,被告標章2と本件商標は,称呼において類似する場合があ るとしても,外観,観念において相違しており,その出所について誤認混 同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず,同一又は類似の 商品等に使用された場合に,商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれ があるとは認められない。
したがって,被告標章2は本件商標と同一又は類似のものではない。 なお,「富富富」は,被告富山県によって育成された本件米の品種名で あり(前記1(1),(6)),被告富山県は,特に,平成30年秋頃以降,本 件米について積極的に広告,宣伝しており(同(5)),「富富富」が米の 品種名であることは相当程度知られていたと認められる。被告標章2は, この品種名を普通に用いられる方法で表示したものである。\n

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◆令和2(行ケ)10014

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平成29(ワ)36506 損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月19日  東京地方裁判所

 LINEのフリフリ機能の特許権侵害について、約1400万円の損害賠償か認められました。広告収入については因果関係無しとして認められず、有料スタンプの売り上げのみでした。

 原告は,被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償を請求していると ころ,同項は,「特許権者・・・は,故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を, 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定してい るから,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに, 実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,かかる実施に対し受けるべき料率は,1)当該特許発明の実際の実施許 諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の 相場等も考慮に入れつつ,2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内 容や重要性,他のものによる代替可能性,3)当該特許発明を当該製品に用いた場 合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,4)特許権者と侵害者との競業関係や 特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定め るべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日大合 議判決参照)。
本件においては,被告アプリが無償で配信されており,被告アプリのユーザが 友だち登録をし,友だち等との間で被告システム等によるメッセージの送受信等 のサービスを享受すること自体により被告に売上げは発生しない(甲73)から, 「侵害品の売上高」をどのように確定すべきかがまず問題となり,次いで,実施 に対し受けるべき料率(相当実施料率)の算定が問題となる。 そこで,それぞれにつき,以下,検討する。
(1) 売上高について
ア 当事者の主張
原告は,被告の事業のうち,本件特許権侵害の対象となる事業は,コア事 業中の「アカウント広告」と「コミュニケーション」の売上げであり,本件 特許登録日である平成29年9月15日から被告が「ふるふる」の提供を終 了した日の前の日である令和2年5月10日までの間(以下「本件損害算定 期間」という。)の売上高(アカウント広告につき合計1519億5800 万円,コミュニケーションにつき767億2800万円)に基づいて損害額 を算定すべきであると主張する。 一方,被告は,主に被告アプリ上でアカウントを有する企業等からの売上 げであるアカウント広告の売上げは損害賠償額算定の対象とならず,仮に, コミュニケーションの売上げが損害賠償額算定の対象となり得るとしても, 対象となるのは本件機能と関係のある部分に限られると主張する。\n
イ 認定事実
そこで検討するに,前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると, 以下の事実を認めることができる。
・・・
(ウ) 企業等のアカウントとの間の「ふるふる」による友だち登録(被告シス テム等図面【図38】,甲61) LINE@等のサービスを導入している企業等が住所の位置情報をあ らかじめ登録している場合,一般ユーザが被告アプリの友だち追加画面で 「ふるふる」を選択して手元のスマートフォンを振ると,半径1km圏内 の上記企業等も友だち登録の候補として表示され,同ユーザが同企業等に\nつき友だち追加処理をすると,同企業等が同ユーザの友だちとして追加登 録される。
ウ 「ふるふる」以外の友だち登録及び海外企業への輸出に係る売上げ等につ いて
原告は,損害賠償の対象は,「ふるふる」による友だち登録及びこれによ り友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等 の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべき であると主張する。 (ア) しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して「ふるふる」による友だ ち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張を していたのであり(前記前提事実(5),被告システム等図面【図2】〜【図 4】,【図34】〜【図44】),その余の友だち登録手段による友だち 登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象 とされていないので,損害賠償の対象となるのは,「ふるふる」による友 だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきで ある。
(イ) また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきとの点については,被 告から海外企業への実施品の輸出に係る売上高を対象とする趣旨と考え られるが,原告が侵害論において対象としていた被告の実施行為は,被告 システムの使用と,被告アプリの生産,譲渡及び譲渡の申出にとどまって\nおり,仮に被告システム等が輸出されているとしても,当該被告システム 等に本件機能が搭載されているかどうかといった点も本件の証拠上明ら\nかではないから,この点の原告の主張も採用し難い。
エ 損害賠償の対象となる売上高の範囲について そこで,前記イ(ア)〜(ウ)で認定した事実に基づき,本件において損害賠償 の対象となる売上高の範囲につき検討する。
(ア) アカウント広告の売上げについて
アカウント広告の売上げは,企業等からの売上げに関するものであると ころ,一般ユーザは,かかる企業等との間でも「ふるふる」による友だち 登録をなし得るものの,この場合は,企業等が住所の位置情報をあらかじ め登録している必要があり,また,その際,企業等はスマートフォンを操 作するとは考え難いから,そもそも,この場合に,「近くにいるユーザ同 士がスマートフォン(2)を操作して友だち登録することによりコンピュ ータ(14)を利用してコミュニケーションによる交流」(構成a等)を\n具備するとは認め難く,他にこの場合の被告システム等が本件各発明の技 術的範囲に属するという的確な主張立証はない。 また,前記イ(ア)aに記載されたアカウント広告を構成する各売上げの\n内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件 機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるとい\nうべきである。 そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象となら ないと解するのが相当である。
・・・
b 前記aで認定した売上高は,「ふるふる」以外の友だち登録に関する 分も含まれているところ,被告の侵害行為は,「ふるふる」による友だ ち登録に関するものであるから,被告の侵害行為と相当因果関係にある 売上高は,上記売上高に,本件損害算定期間中の「ふるふる」による友 だち登録割合を乗じて算出するのが相当である。そして,前記イ(イ)の とおり,同割合は,●(省略)●であるから,被告の侵害行為と相当因果 関係にある売上高は,●(省略)●となる。 ●(省略)●
(ウ) 以上のとおり,被告の侵害行為と相当因果関係にある売上高は,●(省 略)●となる。
・・・
(2) 相当実施料率について
ア 本件各発明の実施許諾契約における実施料率やその相場等
原告は,原告代表者から専用実施権の設定を受けているが,その設定契約\nの詳細は本件の証拠上明らかでなく,また,原告が他人に本件各発明の実施 を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そこで,相場等につきみるに,証拠(甲157〜159,乙82)によれ ば,電子計算機に係るロイヤルティ(件数719件)は,平均値が33.2%, 最頻値が50.0%,中央値が40.0%とされている一方,「技術分類 コ ンピュータテクノロジー」,「対象となる製品・技術例 計算;係数,チェ ック装置等」におけるロイヤルティ料率の相場は,1%未満,1〜2%未満, 2〜3%未満,3〜4%未満がいずれも16.7%であり,4〜5%未満が 25.0%であるとされている。 しかし,本件においては,被告アプリは無償で配信され,被告アプリのユ ーザが「ふるふる」を使用して友だち登録をし,その後の交流を行うといっ た行為自体による被告の売上げは発生しないという特殊性があることから すれば,上記の相場等を重視することはできない。
イ 本件各発明の価値や代替可能性等\n
本件各発明は,前記1(2)に記載のとおり,初対面の人物同士が出会った 後互いにコンタクトを取ることができるようにする際に,極力個人情報を明 かすことなくコンタクトが取れるようにするためのコンピュータシステム 及びプログラムに関する発明であって,相手方に互いの個人情報を通知する ことなく後々コンタクトを取ることができ,かつ,相手方以外の他人がその 相手方に成りすましてコンタクトしてくる不都合をも防止できる理想的な 連絡可能状態を構\築する手段を提供することを目的として,現実世界で出会 ったユーザ同士がユーザ端末を操作し,コンピュータを利用して交流を行う に当たり,コンピュータ(サーバ)が各ユーザ端末の位置情報を取得し,該 位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索 されたことを必要条件として,該検索されたユーザ端末を新たな交流先とし て交流先のリストに追加して表示させ,ユーザが表\示された複数の交流先の 内からコミュニケーションを取りたい相手を選択指定し,指定された相手と の間でメッセージを送受信できるようにするという手段を採用することで, 互いにコミュニケーションによる交流に同意したユーザ同士が連絡先の個 人情報を知らせ合うことなく交流できるという効果が得られるようにした ことを特徴とする発明である。 このような発明には一定のニーズが存在するものと考えられるから,本件 各発明には相応の価値があるものと認められる。 もっとも,前提事実(6)のとおり,本件特許に関する無効審判請求におい て,特許庁は,本件特許が進歩性を欠く旨の職権審理結果通知をしていると ころ,このことは,実際に本件特許が無効となるか否かはともかく,類似の 技術が存在することを示すものということができる。
ウ 本件各発明の被告の売上げや利益への貢献等
証拠(甲41・3丁)によれば,「ふるふる」を利用する場合の最大の特 長は,複数人と一度に友だちになれることであり,サークルや部活,仕事の チーム,パーティーなど,複数の人が集まる場で活躍しそうであるとされて いることが認められ,これらの事実に加え,前記(1)イ(イ)記載の事実関係に よると,既に友人等であるユーザ同士が友だち登録する方法が多く,実際に もそのようなユーザ同士により友だち登録がされることが多いことがうか がわれることからすると,被告システム等においては「ふるふる」による友 だち登録がされる場合であっても,それ以前に相互の個人情報を交換してい る場合も少なくないものと考えられる。
●(省略)●
被告による企業努力が大きく貢献しているとうかがわれるとこ ろである。 そうすると,被告システム等に係る売上げや利益についての本件各発明の 貢献の度合いは,かなり限定的なものであると認められる。 エ 以上の諸事情,とりわけ,本件各発明には相応の価値があると認められる ものの,これと類似の技術が存在することがうかがわれることや,被告シス テム等に係る売上げや利益についての本件各発明の貢献の程度は限定的な ものであることなどを総合的に考慮すると,本件における相当実施料率は● (省略)●と認めるのが相当である。

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令和3(行ケ)10010 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月30日  知的財産高等裁判所

 商標「パールアパタイト」を商品1類「化学品」、3類「化粧品,せっけん類・・・」に使用することが、品質誤認(商4条1項16号違反)に該当するかが争われました。知財高裁は、該当しないとした審決の判断を維持しました。

ア 「パールアパタイト」の語が,一般の辞書等に掲載されていることを認 めるに足りる証拠はない。 一方で,本件商標を構成する「パール」の文字部分は,「真珠」の意味\nを有するものと認められる(甲3,11,12)。
イ 原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていた旨主張するので,以下において判断 する。
(ア) 証拠(甲23ないし205(枝番のあるものは枝番を含む。特に断 りのない限り,以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。
a 株式会社サンギ(以下「サンギ」という。)は,平成5年2月,歯 を白くする美白効果のある歯磨き剤として,「薬用ハイドロキシアパ タイト」を含有する「アパガードM」を発売した。 「アパガードM」は,1995年(平成7年)に放映を開始した「芸 能人は歯が命」のキャッチコピーのテレビCMの効果等によって,ヒ\nット商品となり,1996年(平成8年)には,年間売上げが140 億円を記録した。 「アパガードM」の発売後,同年中には,歯磨き業界大手の他の事 業者(サンスター,ライオン)も,美白効果のある歯磨き剤として, 「ハイドロキシアパタイト」又は「フルオロアパタイト」を配合する 歯磨き剤を製造,販売するようになった(甲146ないし155)。 また,「アパガードM」は,FRIDAY,プレジデント,WED GE等の雑誌(甲175ないし181)において,「薬用ハイドロキ シアパタイト」配合のヒット商品として,取り上げられた。 このほか,「アパガードM」及びその後発品に関する記事が,平成 17年6月14日付けの読売新聞(甲160),平成21年9月14 日付け及び平成22年5月3日付けの日経流通新聞(甲169,17 0),同年6月5日付けの朝日新聞(甲171)や,週刊東洋経済, 日経ヘルス等の雑誌(甲182,183等)に掲載された。
b 「ハイドロキシアパタイト」の語の意義に関し,平成21年7月2 7日付けの朝日新聞(甲27)に,「ハイドロキシアパタイト」は, 「骨や歯,貝殻などの成分。人体への害が少なく,なじみやすいこと から,人工骨や人工歯根などの医用材料に使われている。」,平成2 2年5月29日付けの加藤歯科医院のウェブサイト(甲29)に,「ハ イドロキシアパタイトとはリン酸カルシウムでできた歯や骨を構成す\nる成分のことで,エナメル質は97%,象牙質の70%がハイドロキ シアパタイトで構成されています。」などと掲載された。\nまた,香粧品科学研究開発専門誌フレグランスジャーナル2008 年(平成20年)6月号(甲204)に,「ハイドロキシアパタイト (Ca10(PO4)6(OH) 2)は,リン酸カルシウムの一種であり,歯牙 や骨といった硬組織の主成分であって,化学合成品においても生体に 対する安全性の高い化合物である。・・・工業的には,・・・広範囲な用途に 利用されている。化学合成したハイドロキシアパタイトがそのような 用途に利用されるのは,生体硬組織と直接結合するといった高い生体 親和性やタンパク質,核酸および配糖体との吸着特性を有するためで ある。」(20頁右欄)などと掲載された。 さらに,日本化粧品工業連合会作成の医薬部外品の成分表示名称リ\nストにおいて,「成分名 ヒドロキシアパタイト」,「別名 ハイド ロキシアパタイト」,「本品は,主としてヒドロキシアパタイト(・・・)」 と記載されている(甲139,140)。
c 「アパタイト」の語の意義に関し,材料開発・応用専門誌「ニュー セラミックス」1990年(平成2年)7月号(甲59)に,「アパ タイトはアパタイト構造(六方晶系・・・)をもつ結晶群の総称であるか,\n単にアパタイトといった場合は最も代表的なリン酸カルシウムを意味\nすることが多い。水酸アパタイト(以下,単にアパタイトと略称する。) といえば,Ca10(PO4)6(OH)2 であり,生体アパタイトのモデル物 質である。フッ素アパタイトはCa10(PO4)6(PO4)F2 となる。」 (96頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2000 年6月第38号」(甲135)に,「アパタイトはM10(ZO4)6X2 の組 成を持つ結晶鉱物の総称であり,次の各元素が単独あるいは複数M, ZO4,Xの位置に入る。M:Ca,Ba,Sr,Mg,Na・・・,ZO4: PO4,AsO4・・・,X:F,OH,Cl・・・このようにアパタイト構造に\nは多くの種類の元素が入り得るために,さまざまな固溶体が生成する。」 (8頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2010年 2月第67号」(甲138)に,「アパタイトはカルシウムヒドロキ シアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2 :Hap)に代表される塩基性\n金属リン酸塩の一種である。」(22頁左欄)などと掲載されている。
d 応用化学,環境化学,触媒化学,生化学等の各種化学分野の文献等 において,「アパタイト」を含む用語が,ハイドロキシアパタイト(ヒ ドロキシアパタイト)のほかに,フッ化アパタイト二酸化チタン光触 媒(甲35),可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタンハーフメタ ル(甲39),水酸アパタイト(甲47,58,64,71,111), フッ素アパタイト(甲50),ハロゲン固溶アパタイト(甲53), Pb2+〜Ag+交換水酸アパタイト(甲56),フッ素アパタイト結 晶(甲60),チタンアパタイト(甲86),カルシウムヒドロキシ アパタイト粒子(甲88)などと使用されている。
(イ) 前記(ア)の認定事実によれば,1)歯を白くする美白効果のある歯磨 き剤として広告宣伝された,「薬用ハイドロキシアパタイト」を含有す る「アパガードM」がヒット商品となり,新聞,雑誌等で取り上げられた 結果,「薬用ハイドロキシアパタイト」又は「ハイドロキシアパタイト」 の語は,一般消費者の間でも,歯や骨を構成する成分であることはある\n程度知られるようになったこと,2)「ハイドロキシアパタイト」は,Ca 10(PO4)6(OH)2 の化学式で表される,リン酸カルシウムの一種である\nこと,3)「アパタイト」は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称 であり,M,Z及びXには複数の種類の元素が入り得るため,特定の化 合物を指すものではなく,「ハイドロキシアパタイト」は,アパタイトの 一種(Mがカルシウム(Ca),Zがリン(P),Xが水酸基(OH)の もの)ではあるが,アパタイトそのものを意味するものではないことが 認められる。 加えて,「アパタイト」の文字は,その称呼から,英単語「appet ite」(「本能的欲望,(特に)食欲」)(甲17)又は「apati\nte」(「燐灰石。ハイドロキシアパタイト」)(甲16)に通じるもの である。
以上の認定事実に照らすと,前記(ア)の冒頭掲記の証拠(甲23ない し205)から,「アパタイト」の語が,本件商標の登録査定時におい て,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイド ロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されていたものと認めることはで きず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって,「アパタイト」 は,M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって,具体的な特定 の物質を表するものではなく,このことからしても「アパタイト」が特\n定の意味合いを理解させるものとはいえない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
ウ 前記ア及びイによれば,本件商標は,「真珠」の意味を有する「パール」 の文字と,特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」 の文字とからなる結合商標であり,その構成全体から,特定の意味合いを\n認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するもの\nと認めることはできない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
エ これに対し原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の 語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイ ドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を\n意味する語として,一般的に広く認識されており,「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったことを考 慮すると,「パール」と「アパタイト」とが結合した「パールアパタイト」 の語から構成される本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキ\nシアパタイト)」という物質(化学物質)を想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するとい う商品の品質を表示する旨主張する。\nしかしながら,前記イで説示したとおり,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語\nとして,一般的に広く認識されていたものと認めることはできない。 また,「パールアパタイト」の語は,一般の辞書等に掲載されていない 造語であって,具体的な特定の商品を示すことを認めるに足りる証拠はな いのみならず,「パールアパタイト」の語から,「真珠」そのものと「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」とを成分に含有する具体的な商品 を一般に想起することを認めるに足りる証拠はない。

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平成31(ワ)8117  損害賠償等請求(商標権侵害)事件  商標権  民事訴訟 令和3年6月28日  東京地方裁判所

 「日本酒」に商標「夢」の使用が、商標権侵害としてラベルの廃棄および、売上げの2%の損害賠償が認められました。特許法105条の3(裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づく、相当な損害額の認定)の適用は不要と判断されています。

(1) 法38条2項に基づく請求について
原告は,原告商標を自ら使用していないものの,市島酒造社らに対して原 告商標の通常使用権を許諾し,市島酒造社らが原告商標を継続して使用して いるから,法38条2項に基づく請求が認められると主張する。 この点,前記2(1)ア(ア)のとおり,原告は,原告商標を自ら使用したこと はないところ,商標権者が当該商標を使用していることは,法38条2項を 適用するための要件とはいえず,商標権者において,侵害者による商標権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合 には,同項の適用が認められると解すべきである。 しかし,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,日本酒を生産等する市島酒造 社らに対して原告商標の通常使用権を許諾したにすぎず,自らは日本酒の生 産等を行っていないから,被告が被告各標章を付した被告商品を販売するこ とがなかったならば,原告が日本酒の販売等によって利益を得たであろうと は直ちには認められない。また,本件全証拠によっても,被告による被告商 品の販売が,原告が上記許諾の対価として受ける原告商標を付する商品の容 器に貼付するラベルその他の関連印刷物の注文に影響を与えるといった事情\nは認められず,他に,被告による商標権侵害行為がなければ,原告が利益を 得たであろうという事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告に法38条2項に基づく請求は認められない。
(2) 法38条3項に基づく請求について
ア 法38条3項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし, そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。 そして,実施に対し受けるべき料率については,当該商標の実際の実施 許諾契約における実施料率,業界における実施料の相場,当該商標を当該 製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様等訴訟に現れた 諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
イ 前記5のとおり,被告は,平成31年4月19日以降,被告標章1が印 刷されたラベルを瓶に貼付せず,被告標章2が印刷されていない外箱に入\nれた被告商品を販売するようになったから,原告が被告に対して原告商標 権侵害に基づく損害賠償を請求することができるのは,被告が設立された 平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間のものと認める のが相当である。 そして,証拠(甲21,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,被告は, 上記期間に,被告商品のうち,720ml瓶入りのものを1万5456本, 1800ml瓶入りのものを2171本,それぞれ販売し,これにより, 2783万0092円と905万7659円の各売上げ(合計3688万 7751円)があったと認められる。
ウ 以上を前提に,まず,原告がこれまでに原告商標の通常使用権を許諾し たことにより得られた利益について検討する。
(ア) 前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,市島酒造社らに対して原告商標の 通常使用権を許諾し,その対価として,市島酒造社らから原告商標を付 する商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物を受注する契約を\n締結していた。 上記受注による原告の利益には,原告が印刷を受注したことそのもの による利益も含まれているといえるから,原告商標の使用の対価に相当 する金額は,上記受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきである。
(イ) 証拠(甲24ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事業全 体における平成29年から令和元年までの平均の粗利率は約27.5% であり,原告の市島酒造社からの受注に係る平均の粗利率は約45. 7%,原告の大関社からの受注に係る平均の粗利率は約47.8%であ ると認められる。 そうすると,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合は,市島酒 造社らからの受注に係る代金額の算定方法や販売費及び一般管理費の取 扱い等について更に厳密な検討をする余地はあるものの,原告の市島酒 造社らからの受注に係る平均の粗利率から原告の事業全体における平均 の粗利率を控除することによって,約18.2%ないし20.3%と一 応計算することができる。
(ウ) 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額につい\nては,以下のとおり認定することができる。 被告商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の発注額の単価\nについて,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば,1) 720ml瓶入 りのもの1本当たりの単価の合計は99.5円(本件ラベル:5円,商 品名等ラベル:18円,本件瓶の背面のラベル:2.5円,本件外箱: 74円),2) 1800ml瓶入りのもの1本当たりの単価の合計は36 1.5円(本件ラベル:5円,商品名等ラベル:45円,本件瓶の背面 のラベル:21.5円,本件外箱:290円)と認められる。
前記イのとおり,原告が被告に対して損害賠償を請求することができ る平成20年5月21日から平成31年4月18日までの間に販売され た被告商品のうち720ml瓶入りのものは1万5456本,1800 ml瓶入りのものは2171本であるから,被告商品の容器に貼付する\nラベルその他の関連印刷物の発注額は,720ml瓶入りのものについ て153万7872円(99.5円×1万5456本),1800ml 瓶入りのものについて78万4817円(361.5円×2171本) と認められ,合計で232万2689円となる。
(エ) 前記(イ)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額の割合が受注 額の約18.2%ないし20.3%であるとすると,被告商品における 原告商標の使用の対価に相当する金額は,42万2729円(232万 2689円×0.182)ないし47万1506円(232万2689 円×0.203)と一応計算することができる。 そして,この金額は,平成20年5月21日から平成31年4月18 日までの間の被告商品の売上げの合計3688万7751円の約1.1 5%ないし1.28%に相当する。
エ 次に,原告商標を被告商品に用いた場合の売上げ等への貢献について検 討する。
原告商標は,「夢」の標準文字からなり,これ自体は,比較的頻繁に目 にする文字であるから,本来的に高い顧客吸引力があるとまではいえない。 また,前記前提事実(3)のとおり,被告商品の商品名は「夢とまぼろしの物 語」であり,被告各標章はこの商品名の一部を切り出したものであること, 本件瓶の正面には本件ラベルよりも大きい商品名等ラベルが貼付され,本\n件外箱の正面には特徴的な武者の絵が大きく描かれていることからすると, 被告各標章が独自に有する顧客吸引力は限定的というべきであり,被告商 品の売上げに対する貢献もそこまで大きなものであったとは認め難い。
オ 以上の諸事情に加え,前記ウのとおり,原告が原告商標の通常使用権を 許諾したことにより得られた利益の実績を基に,被告商品について計算し た原告商標の使用の対価に相当する金額の割合や,広告業等における商標 権のロイヤルティ料率の相場は概ね3ないし6%であり,1%未満の例も あると認められること(甲23)を考慮すると,原告商標の使用に対し受 けるべき金銭の額に相当する額は,被告商品の売上げの2%に相当する額 と認めるのが相当である。
したがって,原告の損害は,73万7755円(3688万7751円 ×0.02)と認められる。
カ 原告は,市島酒造社らから原告商標のラベルその他の印刷物を受注して おり,これによる利益が原告商標のライセンス料に相当するところ,原告 にはこの受注により1社当たり年232万2514円の売上げがあり,原 告における粗利率25%を乗ずると,年58万0628円がライセンス料 相当額となり,被告は原告商標権を11年間にわたり侵害したので,ライ センス料相当額の損害は638万円となると主張する。 しかし,前記ウ(ア)のとおり,原告商標の使用の対価に相当する金額は, 市島酒造社らからの受注による利益の額から,原告が印刷を受注したこと そのものによる利益の額を控除した額と考えるべきであるから,原告にお ける粗利率をそのまま採用することは相当ではない。 また,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,原告商標の通常使用権を許諾 する対価として,原告商標を付する商品の容器に貼付するラベルその他の\n関連印刷物を受注する旨の契約を締結していたところ,このような契約内 容からすると,原告の受注額は原告商標を付する商品の数量に比例するこ とになり,その数量は市島酒造社らと被告とでは異なるものと考えられる から,市島酒造社らからの平均の受注額は直ちに被告に当てはまるもので はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 さらに,原告は,原告商標のライセンス料率は,少なくとも5%と認め るべきであるとも主張するが,前記イないしオで説示したとおり,上記ラ イセンス料率は2%と認めるのが相当であるから,同主張も採用すること ができない。
キ なお,前記2(1)ア(ウ),(エ)のとおり,原告は,旧原告商標権を侵害する 標章を使用した酒造会社との間で,年150万円以上の印刷物の受注又は 300万円の損害賠償金の支払を合意している。 しかし,いかなる標章が付された日本酒が,どのくらいの期間に,何本 販売され,どのくらいの売上げがあったのかなど,上記酒造会社が旧原告 商標権を侵害した態様が明らかではないから,本件と比較することは困難 である。 また,上記合意は,原告商標に関するものではない上,比較的古いもの であり,原告商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定す るに当たっては,原告商標に関する直近の許諾契約である原告と市島酒造 社らとの間の契約(前記2(1)ア(オ))を参考にするのが相当である。 したがって,原告が上記の合意をしていたことは,前記オの認定判断を 左右するものではない。
(3) 小括
以上のとおり,原告は,被告による原告商標権の侵害により,原告商標の 使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額として,73万7755円の損 害を被ったと認められる(法38条3項)。 また,原告が本件訴訟を遂行するのに要した弁護士費用相当額の損害は, 本件に現れた一切の事情を考慮すると,10万円と認めるのが相当である。 したがって,原告は,被告に対し,83万7755円の損害賠償を請求す ることができる。 なお,原告は,法39条,特許法105条の3に基づき相当な損害額を認 定すべきであると主張するが,本件においては,原告に生じた損害額は上記 のとおり算定することができるので,「損害額を立証するために必要な事実 を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」に該当せず,同 主張についての判断は要しない。

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令和2(行ケ)10136  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 意匠法における創作容易性の判断について、意匠の類似範囲が狭い分野においては,形状のわずかな相違であっても,その中に少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠上の要素」があれば,非類似の意匠となり,しかも創作非容易と認められるべきと主張しましたが認められませんでした。

 意匠法3条1項3号における類否の判断は,出願された意 匠と類似する意匠とが,出願意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき一 般需要者に対して出願意匠と類似の美感を生じさせるかどうかを基準として なされるべきであるのに対し,同法3条2項は,物品との関係を離れた抽象 的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若し くは色彩又はこれらの結合(公然知られた形態)を基準として,それからそ の意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に創作 することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記公然知 られた形態を基準として,当業者の立場から見た意匠の着想の新しさないし 独創性を問題とするから(平成10年法律第51号による改正前の法3条2 項につき,最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号3 08頁,最高裁昭和50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号 287頁参照),意匠の類似性と創作容易性とは判断主体や判断手法を全く 異にしている。 したがって,原告の上記主張は,両者の違いを無視した独自の見解といわ ざるを得ないものであって,採用することができない。
(2) 原告は,本願分野の登録意匠について自ら作成した別掲4を用いるなどし て,原告の挙げる7要素のうち少なくとも一つの「意匠が非類似になる意匠 上の要素」があれば,形状のわずかな相違であっても創作非容易と認められ るべき旨主張する。 しかしながら,まず,別掲4の多数の登録意匠のうち,出願人及び登録日 を同じくする複数の意匠は,互いに部分意匠や関連意匠の関係にある可能性\nが高く,その場合は形状の差異がわずかであっても登録されているのは当然 のことにすぎないから,原告の分析は,その前提に問題があるといわざるを 得ない。 そして,既に述べたとおり,本願意匠は,引用意匠1の凹陥の数と位置を 引用意匠2のそれに置き換えたのにすぎず,何ら意匠としての着想の新しさ や独創性を認めることはできないのであるから,原告のいう登録済意匠の存 在を考慮したとしても,本願意匠は創作容易であるとの結論が左右されるも のではない。

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令和2(行ケ)10148  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年6月16日  知的財産高等裁判所

 本件商標:カンガルーの図形と文字「KANGOL」の結合商標で、指定役務が「織物及び寝具類、洋服の小売・・・など」です。 引用商標は「KANGOL」の文字を標準文字で表し,指定役務を第35類「帽子の小売・・など」です。知財高裁は、類似役務であるとした審決を維持しました。原告とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされていることも理由にならないと判断されています。\n

 ア 役務の内容及び取扱商品等
(ア) 本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも小売等役務であるから, 商品の品揃え,陳列,接客サービス等といった役務の提供の手段や,小 売又は卸売といった役務の提供の目的が共通するものといえる。 (イ) また,本願指定役務及び引用指定役務は,本願指定役務が主に織物, 衣服,身の回り品等を取扱商品とするのに対し,引用指定役務は帽子を 取扱商品とする点において異なるものの,いずれの取扱商品も衣類を中 心とするファッション商品であるといえるから,この範囲において取扱 商品が共通するものといえる。
(ウ) さらに,本願指定役務及び引用指定役務は,いずれも衣類を中心と するファッション商品を取り扱う卸売業者又は小売業者が提供する役 務であるから,役務を提供する業種が共通するものといえる。 イ 役務の提供の場所 次の各事情によれば,本願指定役務及び引用指定役務は,それぞれの取 扱商品が,同一事業者の通信販売ウェブサイトにおいて,同一の事業者が 提供する一連の商品の一環として,あるいは同一のカテゴリーに属する一 連の商品の一環として販売されるなどしている実情があることが認めら れる。
(ア) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「NIKE」 ブランドの取扱商品として,パーカー,ティーシャツ,靴,バッグ等が, 帽子と共に掲載されている(乙1)。
・・・
(コ) 「ZOZOTOWN」の通信販売ウェブサイトにおいて,「mari mekko」ブランドの取扱商品として,クッション,靴下,ティーシ ャツ,エプロン,バッグ,財布,タオル等が,帽子と共に掲載されてい る(乙10)。
ウ 需要者の範囲
上記ア及びイで検討したとおり,本願指定役務及び引用指定役務は,い ずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである 上,これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどし ている実情があることからすれば,いずれも一般需要者を広く対象とする ものといえる。また,上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば,特定のブ ランドが付された両役務の取扱商品を,同一の小売業者から購入する需要 者は少なくないと考えられる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務は,需要者 の範囲が一致するものといえる。
エ 類否判断
上記アないしウで検討したところによれば,本願指定役務及び引用指定 役務は,具体的な取扱商品は異なるものの,いずれも衣類を中心とするフ ァッション商品を取扱商品とする点において共通するほか,役務を提供す る手段,目的及び業種が共通するものといえる。また,両役務は,役務を 提供する場所が共通する場合があるほか,需要者の範囲が一致するものと いえる。 これらの事情を考慮すると,本願指定役務及び引用指定役務については, これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,同一営業主の提 供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえ る。
(3) 小括 以上によれば,本願指定役務と引用指定役務は,役務が類似するものと認 められる。
3 原告の主張について
(1) 原告は,原告とカンゴール社との間で本件契約が締結され,その後,原告 とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされてきたこと を,現実的かつ具体的な取引の実情として重視すべきである旨主張する。 しかしながら,本件契約それ自体は,原告とカンゴール社との間における 個別の合意にすぎないから,同契約を締結した事実や,同契約に基づいて原 告が本願商標を継続的に使用している事実は,商標の類否判断において考慮 し得る一般的,恒常的な取引の実情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同 49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443 頁参照)には当たらないというべきである。 また,原告が提出する証拠(甲30ないし49)は,原告が,本願商標を 用いて衣類等を提供してきたことを裏付けるものであるとはいえても,帽 子(及びそれに係る役務)とそれ以外の衣類(及びそれに係る役務)とで, 原告が主張するような棲み分けがされ,それが需要者に認識されているこ とを認めるに足りるものではなく,むしろ,原告が,本願商標を用いて帽子 を販売している例さえ存在することが認められる。 したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,原告とカンゴール社との間においては,カンゴール社が所有す る複数の登録商標につき,帽子類以外の指定商品に係る商標権が原告に分 割移転された例等がある旨主張するが,たとえそうであるとしても,このよ うな個別的な事情によって商標法4条1項11号の適用が排除されるもの ではないと解するのが相当である。

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令和1(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和2年11月5日  知的財産高等裁判所

 見過ごしていましたのでアップします。米国仮出願から実施形態を変更して優先権出願をしました。無効審判が請求され、審決は新たな技術的事項の導入ではないとして優先権を認めました。知財高裁(3部)は、結論は同じですが、パリ条約4条Fの規定により優先権が認められると判断しました。
本件発明の器具は下記に動画があります。 https://www.youtube.com/watch?v=RTerQy8M-BI

 ・・・この点に関する原告の主張を正確に記載すると,本件発明は,1)ピンが 複数の溝を有する構成を含むこと,2)ピンバーとベースが一体成型になって いる構成を含むこと,3)ピンバーをベースの溝ではなく,ベース上の凸部に 嵌め込む方式の構成を含むこと,4)ピンに,溝ではなく,ピンを貫く間隙を 有する構成を含むこと,の4点において,本件米国仮出願にはない構\成を含 むからパリ優先権が否定され,その結果,甲1動画との関係で新規性,進歩 性を欠き,無効であるというものである。
しかしながら,本件発明が,その請求項の文言に照らし,原告が新たな構\n成であると主張する1)ないし4)の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮\n出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであると\nころ(この点は,原告も否定していないものと考えられる。),この構成は,\n1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,1)ないし4)の構成が\n補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような 場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優 先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由とし\nて,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすること はできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパ\nリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許 を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に 含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該\n構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必\n要があるというべきである。このように解することがパリ条約4条Fの文言 に沿うばかりではなく,このように解しないと,例えば,特許権者がAとい う構成の発明について外国出願をし,その後,その構\成を含む発明Bが公知 となった後に,わが国において,パリ優先権を主張し,構成Aと,前記外国\n出願には含まれないが,発明Bに対して新規性,進歩性が認められる構成C\nを合わせた構成A+Cという発明について特許出願をした場合,当該発明は,\n構成Aの部分は,発明Bよりも外国出願が先行しており,優先権も主張され\nており,かつ,構成Cは,発明Bに対し新規性,進歩性が認められるにも関\nわらず,前記外国出願に含まれない構成Cを含んでいることのみを理由とし\nて構成Aについての優先権までが否定され,特許出願が拒絶されるという結\n論にならざるを得ないが,そのような結論は,パリ条約4条Fが到底容認す るものではないと考えられるからである。
なお,1)ないし4)も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性,進歩性は,それぞれの構\成について,別個に問題とする必要がある。この観点から検討すると,甲1によれば,甲1動画に係るツールは,前記 3)の構成を有していることが認められる。そして,本件発明の請求項は,「\nベース上にサポートされた複数のピン」と定めているのみであって,前記3) の構成を含むことは明らかであるから,この点において,本件発明は,甲1\n動画との関係で新規性を欠くものといわなければならない。したがって,パ リ優先権が認められるかどうかを判断するため,さらに,構成3)が,本件米 国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断する必要がある。\n
これに対し,甲1動画に係るツールは,前記1),2),4)の構成を含むものとは認めら\nれないから,新規性が問題となる余地はなく,また,これらの構成が,甲1\n動画に係る発明に対して進歩性を欠くことを認めるに足りる主張立証はない。 そうであるとすると,これらの構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成で あるかどうかを判断するまでもなく,原告の主張は失当というべきである。
(3) そこでさらに,構成3)が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかど\nうかについて判断するに,たしかに,米国仮出願書類には,ベースに設けた 溝にピンバーを嵌め込む態様しか記載されていないが,これは実施例の記載 にすぎないし,米国仮出願書類全体を検討しても,ベースにピンバーを固定 する態様を,この実施例に係る構成に限定する旨が記載されていると理解す\nることはできない。そして,ベースに凹部を設け,その凹部にピンバーを嵌 め込む態様の構成(米国仮出願書類の実施例の記載)と,ベースに凸部を設\nけ,この凸部にピンバーを嵌め込む態様の構成(3)の構成)とは,まさに裏\n腹の関係にあるものであって,一方を想起すれば他方も当然に想起するのが 技術常識であるといえるから,たとえ明示的な記載がないとしても,ベース に凹部を設ける構成が記載されている以上,ベースに凸部を設ける構\成も, その記載の想定の内に含まれているというべきである。 そうすると,3)に係る構成が,本件米国仮出願に含まれない構\成であると はいえないから,この点に関する原告の主張も失当ということになる。

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令和2(ワ)25127 「オーサグラフ世界地図」の共同著作権確認請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年6月4日  東京地方裁判所

 共同著作者である確認訴訟について、裁判所は訴えの利益無しとして、訴えを却下しました。

 確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,すなわち,現に,原告の有する 権利又は法的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため,被告に対し て確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される。したがって,そ れが許されるためには,仮に原告の権利又は法的地位に危険又は不安が存在す るとしても,その危険又は不安が被告に起因し,かつ,対象となる権利又は法 的地位について確認判決をすることでその危険又は不安が解消されなければな らないというべきである。
しかし,本件においては,Bによる講義の内容が「オーサグラフ世界地図は Bが発明したものである」というものとなったこと,上記講義と同内容の論文 が学術論文誌に掲載されたこと,本件ウェブサイト内に本件地図とともに本件 地図はBが発明したものである旨の説明文が掲載されたことについて,それら が被告に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。また,被告は, 本件地図に係る著作権又は著作者人格権が自らにあるとは主張しておらず,今 後,被告がこのような主張をすることをうかがわせる事情も認められない。そ うすると,原告の有する権利又は法的地位に存在する危険又は不安が被告に起 因するものであるとはいえない。
さらに,被告が,自らは本件地図の作成に関与しておらず,本件地図に関し て原告及びBのいずれかにいかなる権利が帰属するかを判断し得ないとも主張 していることに照らせば,そのような被告に対して確認判決を得ることにより, 原告の有する権利又は法的地位への危険又は不安を取り除くことができるとは 考え難い。そして,前記前提事実(3)のとおり,原告は,別件訴訟において,B に対し,本件地図と同じくオーサグラフ図法により作成された別件各地図が原 告及びBを発明者とする共同著作物であることの確認を求め(本件と同様に, 原告及びBが別件各地図に係る著作権及び著作者人格権を有することの確認を 求めるものと解される。),これに対して,Bは,別件各地図はBが単独で作 成したものであると主張して争っているが,原告と被告との間で本件地図に係 る著作権及び著作者人格権の帰属を確定したところで,原告とBとの間におい て別件各地図に係る著作権及び著作者人格権の帰属を確定することはできない。 このことは,Bが被告の設置する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准 教授であり(前記前提事実(1)イ),被告とBは雇用関係にあると認められるこ とを考慮しても変わりはない。さらに,前記前提事実(2)のとおり,本件ウェブ サイトはBが管理運営しており,被告が本件ウェブサイトの内容を変更するこ とができるとは認められないから,被告に対して確認判決を得たとしても,本 件ウェブサイト内において,本件地図につき当該判決に従った取扱いがされる ことが期待できるとはいえない。そうすると,本件において原告の権利又は法 的地位について確認判決をすることにより,原告の権利又は法的地位に存在す る危険又は不安が解消されるとは認められないというべきである。 そのほかに,原告と被告との間で,本件地図に係る原告の権利又は法的地位 に危険又は不安が存在し,これを除去するために被告に対して確認判決を得る ことが必要かつ適切であることをうかがわせる事情は認められない。 したがって,原告と被告との間で原告及びBが本件地図に係る著作権及び著 作者人格権を有することを確認することについては即時確定の利益が認められ ないから,本件においては確認の利益が認められない。

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令和2(ネ)10048  職務発明対価等請求控訴事件,同附帯控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 競馬ゲーム発明のうち、出願しなかった部分について、ノウハウに基づく報奨金(特35条)を求めました。知財高裁は1審と同じく否定しました。

 当裁判所も,原審と同様に,本件ノウハウに係る控訴人の被控訴人に対する 対価請求権が存するということはできないと判断する。 その理由は,次のとおりである。
(1) 本件ノウハウは,特許登録がされていない職務発明として主張されてい るものであるところ,特許性を有する発明でなければ,これを実施すること によって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に 基づく相当の対価を請求することはできないと解される。 そこで,以下,控訴人が主張する内容に基づき,本件ノウハウが特許性を 有する発明といえるか否かについて検討する。
(2) 原審及び当審における控訴人の主張によれば,控訴人が主張する本件ノ ウハウの特徴は,次のとおり理解することができる。
ア 完全確率抽選方式の下で,何らの工夫もせずに予想ゲームと馬主ゲーム\nとを組み合わせた競馬ゲームを設計すると,馬主ゲームにおいて購入する 馬の能力値によって馬ごとのメダル獲得の期待値に不公平が生じるため,\nプレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入するようになり,馬主ゲームの\nゲーム性が損なわれてしまう。他方で,各馬の能力値を同一にすることに\nよってこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損\nなわれてしまう。このように,上記のような競馬ゲームの設計においては, 馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さを解消して 公平性を確保しつつ,現実の競馬同様のゲーム性を持たせる工夫をする必 要があるという課題があった。
イ 本件ノウハウは,上記の課題を解決するために,1)プレイヤー馬につい て,能力値とは別に,一定の割合でメダル数と相互に換算される活力値と\n呼ばれる指標を導入した上で,2)馬主ゲームにおいて,レースに出走する ために消費する活力値(以下「消費活力値」という。)とレース結果に応じ て増加する活力値(以下「増加活力値」という。)の期待値とを等しくする ことにより,馬主ゲームにおける馬ごとのメダル獲得の期待値の不公平さ が生じないようにするものである。 また,消費活力値及び増加活力値の算出においては,3)同じレースに複 数のプレイヤー馬が出走する場合もあるところ,プレイヤー馬の能力値が\n当初は未確定であることから,各プレイヤー馬の増加活力値,消費活力値 及び能力値について,一旦暫定値を用いて計算し,必要に応じて数値を再\n調整する計算方法が採られている。 さらに,4)活力値は,メダルとして目に見える賞金や出走料とは異なり, プレイヤーに認識されない形で増減され,次回以降の競馬ゲームに影響を 与えるように導入されており,これにより,ゲーム性が醸成されている。 (以下,上記1)ないし4)の点を,順に「特徴1)」などという。) (3) 以下,控訴人が主張する本件ノウハウが特許性を有する発明といえるか 否かにつき,特徴1)ないし4)を基に検討する。
ア 特徴1)について
(ア) 予想ゲームのみの競馬ゲームを設計する場合であれば,各馬の能\力 値を定めた上で,能力値に応じた適切なオッズを定めることにより,公\n平性及びゲーム性を確保することができるといえるが,これにゲーム内 容が全く異なる馬主ゲームを組み合わせて新たな競馬ゲームを設計し ようとするのであれば,能力値とは別の指標を導入する必要が生じるこ\nとは,いわば必然のことであるといえる。
(イ) また,上記(2)アによれば,完全確率抽選方式の下で予想ゲームと馬\n主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計する場合,馬主ゲームで購 入する馬の能力値に差があることが原因となって馬ごとのメダル獲得\nの期待値に不公平さが生じることにより,馬主ゲームのゲーム性が損な わる事態が生じ得るが,他方で,馬の能力値の差をなくすことによって\nこの問題を解消しようとすると,今度は予想ゲームのゲーム性が損なわ\nれてしまうというのであるから,これらの問題を解決するためには,能\n力値を調整するのみでは足りず,能力値とは別の指標を導入する必要が\nあることは明らかである。
(ウ) 以上によれば,特徴1)における活力値の導入は,完全確率抽選方式 の下で予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを設計す\nる場合において,必然的に必要となる指標を導入したものにすぎないと いうべきである。
・・・・
オ 小括
以上検討したところによれば,本件ノウハウにおける活力値の導入につ いては,必然的に導入すべき指標を用いたものにすぎないというべきであ る上,活力値を用いた期待値の算出等についても,課題解決のために当然 に採られ得る手段であるか,又は通常よく採られる方法を超えるものでは ないというべきである。
(4) なお,控訴人は,本件ノウハウにおいては,ペイアウト率90%のメイン ゲームと同100%のサブゲームとが組み合わされ,ゲームセンターと顧客 との間の利害のバランスがとられている点が画期的であるとも主張する。 しかしながら,ペイアウト率をいくらに設定するかという問題は,それ自 体としては,技術の問題ではなく,取極めの問題にすぎないから,控訴人主 張の点は,本件ノウハウの特許性を根拠付ける事情には当たらない。
(5) 以上検討したところによれば,本件ノウハウは,特許性を有する発明であ るとは認められず,これを実施することによって被控訴人に独占の利益が生 じたということはできないから,本件ノウハウが控訴人によって職務発明と して開発され,被告製品2において実施されたものであったとしても,控訴 人は,被控訴人に対し,本件ノウハウにつき,特許法35条3項に基づく相 当の対価を請求することはできない。

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令和2(ワ)27196 損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の著作権侵害について、損害賠償額として約40万円が認められました。なお、1.5倍の主張については根拠無しと判断されています。

 前記アないしウの事情を踏まえて,著作権法114条3項の損害額を検 討すると,前記ア及びイのとおり,本件料金表における使用料を一応の参\n考としつつ,一般紙と機関紙としての性質の違いに加え,原告における有 償での使用許諾の実績や使用料規定の存在が認められないことからは,聖 教新聞の記事や写真等の使用については本件料金表よりも低額の使用料が\n想定され,他方で,前記ウのとおり,本件掲載行為については使用料の増 額要素があることも考慮すれば,前記1の自動公衆送信権侵害についての 著作権法114条3項の損害額は,それぞれ以下のとおり認定するのが相 当であり,その合計額は32万円と認められる。
・・・
 原告は,被告による著作権侵害の態様が悪質であるとして,著作権法114条3項の損害を算定にするに当たっては,本件料金表における使用料相当額のさらに1.5倍した額を基準とすべきであると主張する。\nしかし,前記エの損害額の認定は,原告に有償での使用許諾実績等がないこと,本件料金表の金額,本件各画像の使用点数や使用期間,被告による本件各画像の掲載態様等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮した上で,著作権法114条3項を適用したものであるところ,この認定を超えて,本件料金表\における使用料を1.5倍した額を基準とすべき合理的な理由は見当たらない。

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平成30(ワ)38504  特許権侵害差止等請求事件 令和3年3月30日  東京地方裁判所

 薬の特許について、明細書に記載されていたが酸付加塩の具体的態様がクレームアップされていなかったことは均等の第5要件の「特段の事情」に該当すると判断されました。

 これらの記載によれば,本件発明の目的は,各種の痒みを伴う疾患にお ける痒みの治療のために止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体 作動薬を有効成分とする止痒剤を提供することにあるところ,本件明細書 には,まさしくその有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本 件発明に記載された本件化合物のほかに,その薬理学的に許容される酸付 加塩が挙げられることが,「オピオイドκ受容体作動性化合物またはその 薬理学的に許容される酸付加塩」というように明記されているほか,同化 合物に対する薬理学的に好ましい酸付加塩の具体的態様(塩酸塩,硫酸塩, 硝酸塩等)も明示的に記載されている。
そうすると,出願人たる原告は,本件明細書の記載に照らし,本件特許出 願時に,その有効成分となるオピオイドκ受容体作動薬として,本件化合物 を有効成分とする構成のほかに,その薬理学的に許容される酸付加塩を有効\n成分とする構成につき容易に想到することができたものと認められ,それに\nもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというべきである。 そして,本件発明につき,出願人たる原告の主観的意図いかんにかかわらず, 第三者たる当業者の立場から客観的にその内容を把握できる徴表である本件\n明細書においては,本件化合物の薬理学的に許容される酸付加塩という構成\nは,まさしく,各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療のために止痒作用 が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬を有効成分とする止痒剤を提 供するという本件発明の目的を達成する構成として,当該目的と関連する文\n脈において,特許請求の範囲に記載された本件化合物と並んで,明示的,具 体的に記載されているものである。
これらによれば,出願人たる原告は,本件特許出願時に,本件化合物の薬 理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする構成を容易に想到することが\nできたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったものである といえ,しかも,客観的,外形的にみて,上記構成が本件発明に記載された\n構成(本件化合物を有効成分とする構\成)を代替すると認識しながらあえて 特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるものというべき\nである。
そうすると,本件発明については,本件化合物の酸付加塩であるナルフラ フィン塩酸塩を有効成分とする被告ら製剤が,本件特許出願の手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの,被告ら製剤と 本件発明に記載された構成(本件化合物を有効成分とする構\成)とが均等な ものといえない特段の事情が存するというべきである。

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令和3(行ケ)10022  商標登録維持決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 「X」型十字の図形商標の侵害について、1審は約1300万円の支払いを命じましたが、知財高裁は約200万に減額しました。理由は「被告商品の限界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認め」というものです。判決分の最後に当事者の商標があります。\n

 一審原告の商品と被告商品との価格差及び限界利益額の差,需要者 層の相違,販売態様の相違について 一審被告は,1)被告商品の価格は,一審原告の商品の価格の約2倍 から4倍であり,一審原告の商品と被告商品とでは大きな価格差があ り,安価のスニーカーを求める一審原告の需要者と高級志向のスニー カーを求める被告商品の需要者とでは,需要者層が異なること,一審 原告の商品はインターネット上で販売されるのに対し,被告商品は高 級デパートの店頭で販売され,販売態様においても差があることに照 らすと,被告商品が販売されなかったとしても,被告商品の需要者が, 安価で大衆向けの一審原告の商品を購入することはあり得ないこと, 2)仮に一審被告による被告商品の販売に係る限界利益率を一審原告が 訴状で主張していた販売価格の10パーセントとすると,一審原告の 商品の1足当たりの限界利益は300円となるのに対し,被告商品の 1足当たりの限界利益は,560円から1155円となり,限界利益 の額に差があることから,これらの事情は本件推定を覆す事情に該当 する旨主張する。
(ア) そこで検討するに,証拠(甲68ないし77,183ないし18 6)及び弁論の全趣旨によれば,一審原告は,自社の商品を,主に 靴の量販店やインターネット上の通信販売サイトを通じて販売し, その小売価格は2000円から6000円程度の商品が中心であ り,一審原告が対象期間中に原告各商標と類似する商標を付したス ニーカーを販売した際の販売価格は1足当たり3000円程度で あったことが認められる。
一方で,証拠(乙19)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品は 主に百貨店等の店頭で販売されたものであり,原判決別紙3被告商 品販売一覧表記載のとおり,その小売価格は1万5000円から2\n万1000円,被告が百貨店等に販売する際の卸売価格は5600 円から1万1550円であったことが認められる。 上記認定事実によれば,一審原告の商品と被告商品の販売価格は, 1足当たりの小売価格で5倍から7倍程度の差があり,被告商品が 高額であることが認められる。
そして,商標権が,特許権等の他の工業所有権とは異なり,それ 自体に創作的価値があるものではなく,商品又は役務の出所である 事業者の営業上の信用等と結びつくことによってはじめて一定の 価値が生ずるという性質を有するため,商標権が侵害された場合に, 侵害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみ によって得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおい ても,価格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心\n地等も考慮されて購買動機が形成されることに照らすと,一審原告 の商品と被告商品との販売価格の上記違いは,原告各商標と類似す る被告各標章が購買動機の形成に寄与した程度を低く評価すべき 事情に当たるものと認めるのが相当である。 したがって,一審原告の商品と被告商品との販売価格の上記違い は,本件推定を覆す事情に該当するものと認められる。 一方で,一審被告が主張する一審原告の商品と被告商品との1足 当たりの限界利益の額の差については,一般に,需要者が限界利益 の額を認識し得るものではなく,限界利益の額の差が購買動機の形 成に直接影響するものとはいえなから,本件推定を覆す事情に該当 するものと認めることはできない。また,一審被告が主張する一審 原告の商品と被告商品との販売態様の差についても,被告商品がデ パート等でのみ限定販売されていたとする事情は認められないか ら,本件推定を覆す事情に該当するものと認めることはできない。
(イ) これに対し一審原告は,スニーカーなどのファッションアイテ ムにおいては,需要者は,価格帯が多少異なっても気に入ったもの を購入するものであり,例えば,同じブランドでも1500円〜1 万7280円という10倍以上の幅広い価格の商品が販売されて いる例(甲195)があるように,この程度の価格差をもって需要 者層が異なるとはいえないこと,一審原告が被告商品の価格帯であ る1万5000円〜2万1000円のスニーカーを現実には販売 していないとしても,このようなスニーカーを販売する潜在的な能\n力を保有していることからすると,一審原告の商品と被告商品との 販売価格の違いは,本件推定を覆滅すべき事情に該当しない旨主張 する。 しかしながら,一審原告の上記主張は,前記(ア)で説示したとこ ろに照らし,採用することができない。
イ 一審原告が原告各商標を使用しない商品を販売していたことにつ いて
一審被告は,原告が販売していた商品の多くに,原告各商標と同一 又は類似の標章が付されていなかったから,被告商品の販売によって 一審原告の売上げが減少したという関係にないことは,本件推定を覆 す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告による被告商品の輸入販売行為がなかった ならば利益が得られたであろうという事情が一審原告に認められる ことは,前記(1)イ認定のとおりであり,一審原告が原告各商標と類似 する標章が付されていないスニーカーも販売していたことを指摘す るのみでは,本件推定を覆滅すべき事情があるものということはでき ない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
ウ 競合品の存在について
一審被告は,側面に「X」型十字が付された大人用スニーカーは,\n被告商品の他にも市場に多数存在していることは,本件推定を覆す事 情に該当する旨主張する。 しかしながら,乙1によれば,一審被告が他のスニーカーに付され ていると指摘する「X」型十字は,その形状が被告各標章や原告各商\n標とは大きく異なるものであり,このほか,原告各商標と同一又は類 似の標章が付された他社のスニーカーの存在及びそのシェアについて の具体的な主張立証はされていないから,一審被告の上記主張は採用 することができない。
エ 一審被告の営業努力,ブランド力の差等について
一審被告は,被告商品を販売するための営業努力,一審原告と一審 被告とのブランド力の差,原告各商標の訴求力の程度等からすれば, 原告各商標の被告商品の売上げへの寄与は著しく低いから,かかる事 情は本件推定を覆す事情に該当する旨主張する。 しかしながら,一審被告が作成した展示会の資料においてミュニッ ク社商品については「2014年日本デビュー」との記載がされ,一 審被告が広告宣伝活動を行ったこと(前記(2)イ(キ))を考慮しても, 対象期間中の日本国内におけるミュニック社商品に係るブランドの知 名度の程度を裏付ける証拠はない。 他方で,証拠(甲170ないし176,180ないし182)及び 弁論の全趣旨によれば,原告各商標に関する販売,広告宣伝状況につ いては,平成14年頃から原告各商標と類似の標章が付されたスニー カーが,原告が許諾した業者によって販売されており,歌手のBがこ れを着用した雑誌広告が掲載されたこともあったとの事情も認められ, これらの点からすれば,一審被告の主張する上記各点をもって,本件 推定を覆滅すべき事情に該当するものと認めることはできない。 したがって,一審被告の上記主張は,採用することができない。
オ まとめ
以上を前提に検討するに,1)前記ア(ア)認定の本件推定を覆す事情 の内容,2)前記ア(ア)認定のとおり,商標権が侵害された場合に,侵 害者の得た利益が当該商標権に係る登録商標の顧客誘引力のみによっ て得られたものとはいえない場合が多く,スニーカーにおいても,価 格,全体のデザイン,アッパー及びソールの素材,履き心地等も考慮\nされて購買動機が形成されること等を総合考慮すると,被告商品の限 界利益の額に対する原告各商標の寄与割合は,8割と認めるのが相当 であり,上記寄与割合を超える部分については被告商品の限界利益の 額と一審原告の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認め られる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるから,商標法38条 2項に基づく一審原告の損害額は,被告商品の限界利益の額(前記(2) ウ(ウ)の244万5001円)の8割に相当する195万6000円 と認められる。」

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)11462

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令和1(ワ)21993  著作権侵害訴訟事件  著作権  民事訴訟 令和3年4月28日  東京地方裁判所

 公園に設置したタコの滑り台について著作物ではないと判断されました。

 (1) 争点1−1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について
ア 前記前提事実(2)及び(3)によれば,本件原告滑り台は,自治体(兵庫県 赤穂市)から公園に設置する遊具の発注を受けて,小型のタコの滑り台と して製作されたものであり,その形状は,別紙1原告滑り台目録記載のと おり,上部にタコの頭部を模した部分を備え,正面に1本,右側面に2本, 左側面に1本の計4本のタコの足を有するというものである。そして,こ れらのタコの足は,いずれも,子どもたちなどの利用者が滑り降りること ができるスライダーとなっており,また,利用者がスライダーの上部に昇 るための取っ手が取り付けられているなど,遊具である滑り台として通常 有する構造を備えている。そうすると,本件原告滑り台は,利用者が滑り\n台として遊ぶなど,公園に設置され,遊具として用いられることを前提に 製作されたものであると認められる。したがって,本件原告滑り台は,一 般的な芸術作品等と同様の展示等を目的とするものではなく,遊具として の実用に供されることを目的とするものであるというべきである。 そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されてい\nる美的創作物(いわゆる応用美術)が,著作権法2条1項1号の「美術」 「の範囲に属するもの」として著作物性を有するかについては,同法上, 「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれることは明らかであるもの の(著作権法2条2項),それ以外の応用美術に関しては,明文の規定が 存在しない。
この点については,応用美術と同様に実用に供されるという性質を有す る印刷用書体に関し,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を 備えることを要件の一つとして挙げた上で,同法2条1項1号の著作物 に該当し得るとした最高裁判決(最高裁平成10年(受)第332号同 12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)の判示に 照らし,同条2項は,単なる例示規定と解すべきである。 さらに,上記の最高裁判決の判示に加え,同判決が,実用的機能の観点\nから見た美しさがあれば足りるとすると,文化の発展に寄与しようとす る著作権法の目的に反することになる旨説示していることに照らせば, 応用美術のうち,「美術工芸品」以外のものであっても,実用目的を達成 するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対象となり得 る美的特性を備えている部分を把握できるものについては,「美術」「の 範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法 10条1項4号)として,保護され得ると解するのが相当である。 以上を前提に,本件原告滑り台が「美術の著作物」として保護される応 用美術に該当するかを検討する。 イ 原告は,本件原告滑り台が,一品製作品というべきものであり,「美術 工芸品」(著作権法2条2項)に当たるから,「美術の著作物」(同法10 条1項4号)に含まれる旨主張する。 そこで検討するに,著作権法10条1項4号が「美術の著作物」の典型 例として「絵画,版画,彫刻」を掲げていることに照らすと,同法2条 2項の「美術工芸品」とは,同法10条1項4号所定の「絵画,版画, 彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべ きであり,仮に一品製作的な物であったとしても,そのことをもって直 ちに「美術工芸品」に該当するものではないというべきである。
本件においてこれをみると,前記アのとおり,本件原告滑り台は,自治 体の発注に基づき,遊具として製作されたものであり,主として,遊具 として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有す る物品であって,「絵画,版画,彫刻」のように主として鑑賞を目的とす るものであるとまでは認められない。 したがって,本件原告滑り台が「美術工芸品」に該当すると認めること はできず,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても「美術 の著作物」として保護される応用美術であると主張する。そこで,本件原 告滑り台が,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して, 美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるもので あるか否かについて,以下検討する。
(ア) タコの頭部を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 のうちタコの頭部を模した部分の構成は,次のとおりであると認められ\nる。すなわち,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台を正面から 見て,その最も高い箇所のほぼ中央部に存在しており,タコの足を模し たスライダーによって形作られるなだらかな稜線から上に突き出るよう な格好で配置されている。そして,その形状は,本件原告滑り台のうち 最も高い箇所に存在する頭頂部から,正面向かって後方にやや傾いた略 鐘形をなしており,全体として曲線的な印象を与える形状であって,そ うした形状と,上記のような配置等から,当該部位を見た者をして,タ コの頭部を連想させるような外観となっている。さらに,その構造をみ\nると,内部は空洞をなし,頭部に上った利用者が立てるような踊り場様 の床が設置されている。また,正面,左側面及び背面にそれぞれ1か所, 右側面に2か所の開口部を有しており,そのうち正面,右側面及び左側 面の開口部からは後述のタコの足を模したスライダーが延びているほか, 背面の開口部付近には,手でつかんだり,足を掛けたりして上り下りす るための取っ手が8個取り付けられている。 このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されているのであるから,同部分に設置された上記各 開口部は,滑り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不 可欠な構造であって,滑り台としての実用目的に必要な構\成そのもので あるといえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開 口部及びスライダーに移動するために不可欠な構造である上,開口部を\n除く周囲が囲まれた構造であることによって,最も高い箇所にある踊り\n場様の床から利用者が落下することを防止する機能を有するといえるし,\nそれのみならず,周囲が囲まれているという構造を利用して,隠れん坊\nの要領で遊ぶことなどを可能にしているとも考えられる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は,総 じて,滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべき であるから,実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できる ものとは認められない。
(イ) タコの足を模した部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,タコの頭部を模した部分から4本のスライダーが延びており,こ れらはいずれもタコの足を模したものであって,その形状は,直線状か 曲線状かの相違はあるものの,いずれについても,なだらかな斜度をな しつつ,地面に向かって延びているほか,滑らかな板状のすべり面を有 し,かつ,その左右には手すり様の構造物が付されていると認められる。\nこの点,滑り台は,高い箇所から低い箇所に滑り降りる用途の遊具で あるから,スライダーは滑り台にとって不可欠な構成要素であることは\n明らかであるところ,タコの足を模した部分は,いずれもスライダーと して利用者に用いられる部分であるから,滑り台としての機能を果たす\nに当たって欠くことのできない構成部分といえる。\nそうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,遊具 としての利用のために必要不可欠な構成であるというべきであるから,\n実用目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞 の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認め られない。
(ウ) 空洞(トンネル)部分について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 には,正面から見て左右に 1 か所ずつ,スライダーの下部に,通り抜け 可能なトンネル状の空洞が配置されていると認められる。\nこの構成は,滑り台としての機能\には必ずしも直結しないものではあ るが,前記アのとおり,本件原告滑り台は,公園の遊具として製作され, 設置された物であり,その公園内で遊ぶ本件原告滑り台の利用者は,こ れを滑り台として利用するのみならず,上記空洞において,隠れん坊な どの遊びをすることもできると考えられる。 そうすると,本件原告滑り台に設けられた上記各空洞部分は,遊具と しての利用と不可分に結びついた構成部分というべきであるから,実用\n目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(エ) 本件原告滑り台全体の形状等について
別紙1原告滑り台目録記載1(2)の各写真によれば,本件原告滑り台 は,頭部(前記(ア)),足(前記(イ))及び空洞(前記(ウ))等によって形 成されており,その全体を見ると,本件原告滑り台は,見る者をしてタ コの体を模しているとの印象を与えるものであると認められる。また, とりわけ本件原告滑り台の正面からその全体を見ると,空洞のある頭部 を頂点に,左右へ広がる緩やかな2本の足によって均整の取れた三角形 を見て取ることができ,見栄えのよい外観を有するものということがで きる。 この点,本件原告滑り台のようにタコを模した外観を有することは, 滑り台として不可欠の要素であるとまでは認められないが,そのような 外観は,子どもたちなどの本件原告滑り台の利用者に興味や関心を与え たり,親しみやすさを感じさせたりして,遊びたいという気持ちを生じ させ得る,遊具のデザインとしての性質を有することは否定できず,遊 具としての利用と関連性があるといえる。また,本件原告滑り台の正面 が均整の取れた外観を有するとしても,そうした外観は,前記(ア)及び
(イ)でみたとおり,滑り台の遊具としての利用と必要不可欠ないし強く 結びついた頭部及び足の組み合わせにより形成されているものであるか ら,遊具である滑り台としての機能と分離して把握することはできず,\n遊具のデザインとしての性質の域を出るものではないというべきである。 そうすると,本件原告滑り台の外観は,遊具のデザインとしての実用 目的を達成するために必要な機能に係る構\成と分離して,美術鑑賞の対 象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められ ない。
(オ) 以上のとおり,本件原告滑り台は,その構成部分についてみても,\n全体の形状からみても,実用目的を達するために必要な機能に係る構\成 と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把 握できるものとは認められないから,「美術の著作物」として保護され る応用美術とは認められない。
(カ) これに対し,原告は,本件原告滑り台の実用目的は滑り台自体とし ての機能を前提に把握すべきであり,高所に上がるための手段と,滑り\n降りるためのスライダーがあればその機能を果たすことができるので,\n表現の選択の幅は広いとした上で,本件原告滑り台のタコの頭部を模し\nた部分,タコの足を模した部分及び空洞(トンネル)部分は,滑り台の 機能から必然的に創作できるものではなく,滑り台の機能\とは独立して 存在する特徴であって,製作者であるBの個性が表われた部分といえる\nから,そのような部分を有する本件原告滑り台は「美術の著作物」に該 当する応用美術であると主張する。 しかしながら,ある製作物が「美術の著作物」たる応用美術に該当す るか否かに当たって考慮すべき実用目的及び機能は,当該製作物が現に\n実用に供されている具体的な用途を前提として把握すべきであって,製 作物の種類により形式的にその目的及び機能を把握するべきではない。\n原告の主張は,滑り台には様々な形状や用途のものがあるにもかかわら ず,本件原告滑り台が滑り台として製作されたものであるという点を過 度に重視するものであり,子どもたちなどの利用者が本件原告滑り台に おいて具体的にどのような遊び方をするかを捨象している点で相当では ない。
また,原告の上記主張は,本件原告滑り台の表現の選択の幅が広く,\n製作者であるBの個性が表われていることを根拠とするものであるが,\nその点は,著作物性(著作権法2条1項1号)の要件のうち,「思想又 は感情を創作的に表現したもの」との要件に係るものであって,「美術」\n「の範囲に属するもの」との要件に係るものではないというべきである。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 エ 以上によれば,本件原告滑り台は,著作権法10条1項4号の「美術の 著作物」に該当せず,同法2条1項1号所定の著作物としての保護は認め られないというべきである。

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令和2(行ケ)10092 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所

 知財高裁3部は、進歩性無しとした審決を取り消しました。理由は、引用文献の認定誤りです。

 上記(1)の記載によれば,引用技術2の「油性ゲル状」「粘着シート製剤」 は,上記(1)イの従来技術である「架橋アクリル系粘着剤」の組成を調整する ことによって,粘着性を維持しつつ薬剤の溶解性を高めたシートであって, 皮膚への粘着性は,従来技術と同様に,専らアクリル系粘着剤に依存してい ることが認められる。
3 相違点についての審決の判断の当否
上記1(3)のとおり,本願発明の技術的意義に照らすと,本願発明の「オイル ゲル」は,アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル化したオイルの粘着性 によって,皮膚に対して粘着するものである。これに対し,引用技術2の「油 性ゲル状粘着製剤」は,上記2(2)のとおり,アクリル系粘着剤の粘着性によっ て,皮膚に対して粘着するものである。 このように,引用技術2の「油性ゲル状粘着製剤」は,本願発明の「オイル ゲル」とは技術的意義を異にするから,引用発明に引用技術2を適用しても, 相違点に係る本願発明の構成には至らない。\nしたがって,容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。
4 被告の主張について
被告は,「オイルゲル」は有機溶剤を溶媒とするゲルの総称であるとの技術 常識が存在し,本願発明の「オイルゲル」の意義や組成について本件明細書に は記載がないから上記技術常識に沿って解釈すべきであり,上記技術常識によ れば引用技術2の「油性ゲル」は「オイルゲル」に含まれる旨主張する。 たしかに,乙1(特許庁「周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般」1999 年1月29日発行)等によれば,「ゲル」を流体(溶媒)の違いという観点から 「ヒドロゲル」「オイルゲル」「キセロゲル」の3種類に分類することが一般 的に承認されている事実は認められ,また,乙6(権英淑ほか「実効感を発現 するためのスキンケア製剤設計」FRAGRANCE JOURNAL Vol.34 No.1 pp.52-55 (2006))等には,この分類を前提として,アクリル系材料を基剤とした「オイ ルゲル」の粘着剤に言及する記載も見られる。しかしながら,他方,甲7(柴 田雅史「化粧品におけるオイルの固化技術」J.Jpn. Soc. Colour Mater., 85 [8] 339-342 (2012))では,冒頭に「有機溶剤(オイル)を少量の固化剤を用 いて固形もしくは半固形状にしたものは一般に油性ゲルと呼ばれ,・・・・・・メイク アップ化粧品を中心に幅広い製品の基剤として用いられている」と記載されて おり,化粧品の分野において,「オイルゲル」の用語をこのような意味で用い ることも一般的であったと認められるから,「オイルゲル」という用語が,当 然に被告主張のような意味に用いられると断定することはできない。
そうすると,本願発明の「オイルゲル」の技術的意義は,特許請求の範囲の 記載だけからは一義的に明確ではない。そこで,明細書の発明の詳細な説明の うち,従来技術に関する記載及び解決課題に関する記載を参酌し,上記1のと おり,「オイルゲルシート」を「アクリル系粘着剤等の粘着性ではなく,ゲル 化したオイルの粘着性によって,皮膚に対して粘着するシート」と解釈すべき である。

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令和2(ネ)10010 損害賠償等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月31日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 知財高裁(3部)は、1審が認めた本件アカウント1についてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分,原判決主文第2項(2)のうち,本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウントにログインした際のログインに関する情報が送信された年月日及び時刻の開示を命じた部分を取り消しました。

 4 争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1) 被控訴人は,本件アカウント1及び6につき,ツイート1並びに6及び6’ の直前のログイン時IPアドレス等の開示を求めるのに対し,控訴人は,ロ グイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは,侵害情報の発信行為とは全 く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから, 「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書) に該当しないと主張する。
(2) プロバイダ責任制限法4条1項は,開示請求の対象となるべき情報につい て,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し,その具体的な内容を総務省 令(発信者情報省令)に委任しているところ,権利の侵害に「係る」という ように,やや幅をもって規定していることからすれば,権利の侵害そのもの から把握される発信者情報だけでなく,権利の侵害に関連して把握される発 信者情報であり,発信者情報省令により定められているものであれば,開示 請求の対象となると解すべきである。 そして,新発信者情報省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」 と規定し,侵害情報に「係る」というように,やや幅をもって規定している ことからすれば,侵害情報の発信そのもののIPアドレスだけでなく,侵害 情報の発信と密接に関連し,同一人物のものである確度が高い情報のIPア ドレスであれば,開示請求の対象となると解すべきである。 これを本件についてみるに,上記3(2)で述べたとおり,ツイート行為1並 びに6及び6’によって送信されたテキストデータ等は本件写真1及び2に 係る被控訴人の同一性保持権の侵害を発生させた侵害情報と評価することが できる。そして,ツイッターに投稿(ツイート)するためには特定のアカウ ントにログインしなければならず,ツイート1又は6若しくは6’は直前に おける本件アカウント1又は6へのログイン行為によるログイン状態を利用 してされたと合理的に考えられる。これらのことからすれば,ツイート1並 びに6及び6’の直前のログインに係る情報は,侵害情報の送信と密接に関 連する情報であって,同一人物のものである確度が高いから,侵害情報の発 信に関連して把握される発信者情報であると認められ,したがって,被控訴 人は,控訴人に対し,新発信者情報省令5号に基づき,本件アカウント1に ついてツイート1の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの 開示を請求することができ(原判決主文第2項(1)のうちIPアドレスの開示 を認めた部分),本件アカウント6についてツイート6の直前に同アカウン トにログインした際のIPアドレスの開示を請求することができるとともに (原判決主文第2項(2)のうちIPアドレスの開示を認めた部分),ツイート 6’の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレスの開示を請求す ることができる(本判決主文第2項(2))ものと認められる。
他方,新発信者情報省令8号は,「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り 当てられた電気通信設備,第六号の携帯電話端末等からのインターネット接 続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識 別番号(中略)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定 電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」として,開示の対象 となる「侵害情報が送信された年月日及び時刻」は,「侵害情報が送信され た」ときのものであることをと定めている。上記のとおり,ツイート1並び に6及び6’に係るテキストデータ等は侵害情報に当たると解されるところ, ツイート1並びに6及び6’自体とは異なるツイート1並びに6及び6’の 直前のログインに係る送信の年月日及び時刻は,「侵害情報が送信された年 月日及び時刻」という文言に該当するとは認められない。したがって,本件 アカウント1について,ツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及 び時刻の開示を請求することはできず,本件アカウント6について,ツイー ト6の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示,並びにツイート 6’の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を請求することは できない(そのため,原判決主文第2項(1)のうち,本件アカウント1につい てツイート1の直前のログインに係る送信の年月日及び時刻の開示を命じた 部分を取り消し(本判決主文第1項(1)),原判決主文第2項(2)のうち,本件 アカウント6についてツイート6の直前のログインに係る送信の年月日及び 時刻の開示を命じた部分を取り消し(本判決主文第1項(2)),当審における 追加請求のうち,本件アカウント6についてツイート6’の直前のログイン に係る送信の年月日及び時刻の開示を請求する部分を棄却する(本判決主文 第2項(3))。)。
(3) これに対し,控訴人は,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対 して,複数のログイン状態が競合することは頻繁に発生しており,ツイート 行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたもの であるかどうかは明らかではないから,ツイート行為と直前のログイン行為 の関連性は明らかとはいえない旨主張する。 しかしながら,ツイッターのシステム上,一つのアカウントに対して複数 のログイン状態が競合することがあるとの一般的な可能性を考慮しても,ツ\nイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われ たと考えることには合理性があるものと認められ,控訴人の指摘は,ツイー ト行為1並びに6及び6’の直前のログイン時におけるIPアドレスが,侵 害情報の送信と密接に関連する情報であって,同一人物によるものである確 度が高く,侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であるとの上記 認定を左右しない。したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
また,控訴人は,発信者情報の開示は,通信の秘密や表現の自由という重\n大な権利権益に関する問題である以上,ひとたび開示されてしまうと原状回 復は不可能であるという性質を有していることから,開示請求の対象となる\n発信者情報は,訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らし\nて必要最小限度の範囲に予め限定するのが相当であり,ログイン時IPアド\nレス等のような情報を開示の対象に含めるべきではなく,現に,ログイン時 情報を発信者情報として開示することは立法時には必ずしも想定されてい なかったと主張する。 しかし,通信の秘密や表現の自由を保護しつつ,情報の発信により著作権\n法上の権利を侵害された者の救済を図ることも必要であり,プロバイダ責任 制限法及び発信者情報省令の解釈により認められる範囲において発信者情報 を開示することは許容されるべきであるから,控訴人の上記主張を採用する ことはできない。

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令和1(行ケ)12020 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が取り消されました。同じ先行技術について審決は阻害要因あり、裁判所は阻害要因無しとの判断です。

(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について
a 空所134への液体の集約
被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい\nったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構\」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,\n1(2)イ(イ)c(a))。
甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。」(9欄35〜37行),「空所134は,コンプレツサベアリン グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空\n所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構\成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体\nパイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1(2)イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ\nない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構\成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
・・・
。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無 効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。

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令和2(ネ)10062  商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年5月19日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 本件輸入行為は並行輸入の要件を満たしているとした1審判決を維持しました。

 最高裁平成15年判決について
 同判決は,いわゆる真正商品の並行輸入について,それが1)当該商標が外 国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に 付されたものであり(以下「第1要件」という。),2)当該外国における商 標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に 同一人と同視し得るような関係にあることにより,当該商標が我が国の登録 商標と同一の出所を表示するものであって(以下「第2要件」という。),\n3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る 立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品 とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される 場合(以下「第3要件」という。)には,商標権侵害としての実質的違法性 を欠くと判断した。
この判決は,商標権者から商標の使用許諾を受けた上で,当該商標を付し た商品を製造販売した者から,当該事件の被告が商品を輸入したという事案 に関するものであった。これに対し,本件の事案は,商標権者が自ら商品を 製造してこれを販売代理店に売却し,その販売代理店から被控訴人ブライト が商品を輸入したという事案であり,製品が商標権者自らの手によって製造 されていたかどうかという点において,重大な違いがある。このため,後述 のとおり,上記の3要件を事案の違いに応じて変容させる必要がないのかと いう点が問題になり得るものの,基本的には,上記の3要件をベースとして 被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどう かを判断すべきであると解されるので,以下,各要件について判断する。
(3) 第1要件について
ア 上記のとおり,第1要件は,当該商標が当該商標権者等によって適法に 付されたものであるかどうかを問題とするのに止まるから,この要件をそ のまま適用する限り,商標権者が製造した本件商品の輸入が問題になって いる本件においては(控訴人らは,本件商品の全てが,ランピョン社がM ゴルフ社に販売した商品であることは立証されていない旨主張するが,既 に認定したとおり,Mゴルフ社は,かつてはランピョン社の販売代理店で あり,同社から正規の2UNDR商品を購入し,保有していたことが認め られ,また,被控訴人ブライトがMゴルフ社から輸入した商品の点数(2 387点)は,Mゴルフ社が,ランピョン社から購入し,上記輸入直前の 時点において保有していたとしてもおかしくない商品の点数(2448 点)の範囲内であるのに対し,被控訴人ブライトが輸入した商品が,上記 とは他のルートで入手されたものであったことを疑わせるような証拠は全 くないのであるから,本件商品が真正商品であることを否定することはで きないものというべきである。),第1要件が満たされることは明らかで あるし,本件代理店契約の解除や,地域制限条項の存在などといった控訴 人ら主張の事情は,この判断に何ら影響を及ぼすものではないということ になる。そして,これが被控訴人らの主張するところでもある。
イ これに対し,控訴人らは,本件事案においては,第1要件は,単に適法 に商標が付されたことだけではなく,適法に商標が付された商品が,商標 権者の意思に基づいて流通に置かれたことまで要求するものとして理解す べきであると主張する。 たしかに,最高裁平成15年判決の事案は,商標が,商標権者自身では なく,商標権者から使用許諾を受けた者によって付された事案であったた め,使用許諾権者がその権原に基づいて商標を付したのかどうかという意 味において,商標が適法に付されたのかどうかが問題となる余地があった のに対し,本件事案のように,商標権者自身が商品を製造販売している事 案では,この要件が問題になることはほとんど考えられず,果たして,商 標が適法に付されたかどうかのみを単独の要件とする意味があるのかとい う点が問題となり得る。この点や,最高裁平成15年判決以前には,本件 事案のような事案に関し,「商標権者が当該商標を適法に付して流通に置 いたこと」を要件とする見解が有力であり,このように「適法に流通に置 いたこと」を要件とすることは,非正規のルートで入手された商品が並行 輸入された場合を排除するという意味を持ち得るものであることを併せ考 えると,最高裁平成15年判決とは事案が異なる本件においては,商標が 適法に付されたかどうかだけではなく,それが適法に流通に置かれた(あ るいは,商標権者の意思に基づいて流通に置かれた。以下,同じ。)かど うかも問題とする必要があるという見解もあり得るものと考えられる。そ の意味で,控訴人らの主張にはもっともなところがあるといえる。 しかし,仮にそのように考えるとしても,本件において,Mゴルフ社は, ランピョン社から正規に本件商品を購入したのであるから,この時点にお いて,本件商品が「適法に流通に置かれた」ことは明らかである。そして, 本件代理店契約の解除や地域制限条項の存在といった控訴人ら主張の事情 は,上記の判断を左右するに足りるものではないと考えられる。その理由 は,次のとおりである。
ウ すなわち,まず,本件代理店契約解除との関係について検討すると,前 認定のとおり,Mゴルフ社は,上記解除によって本件商品を販売してはな らない義務を負うと解する余地はある。しかし,このような条項があるか らといって,Mゴルフ社が本件商品の処分権限を失うわけではない(本件 代理店契約解除によって,直ちにMゴルフ社の本件商品に対する所有権が 失われるものではないことは控訴人ら自身が自認しているところであるし, ランピョン社が買戻権を行使した事実が存在しないことも既に指摘したと おりである。)。そうであるとすると,Mゴルフ社が,本件代理店契約解 除後に本件商品を売却したとしても,それは,ランピョン社との間で債務 不履行という問題を生じさせるだけで,本件商品が「適法に流通に置かれ た」という評価を覆すまでのものではないというべきである。実質的に見 ても,Mゴルフ社が正規に購入した商品を,本件代理店契約解除後に他に 売却したからといって,直ちに商標の出所表示機能\が害されるとはいえな いのであって,この点からしても,第1要件該当性を否定する理由はない。 この点は,地域制限条項との関係についても同様であり,地域制限条項 は,あくまでも債権的な効力を有するにすぎず,Mゴルフ社による本件商 品の処分権限を奪うものではないのであるから,これに違反した処分がさ れたからといって直ちに,本件商品が「適法に流通に置かれた」という評 価が覆るものではないというべきである。実質的にみても,Mゴルフ社が 正規に購入した商品を制限地域外で販売したからといって直ちに商標の出 所表示機能\が害されるとはいえないのであって,この点からしても,第1 要件該当性を否定する理由はない(なお,最高裁平成15年判決は,地域 制限条項違反を理由の一つとして第1要件該当性を否定しているので,こ の判断との関係についても念のため触れておく。同判決の事案は,商標の 使用許諾契約において地域制限がされていたという事案であったため,使 用権者は,そもそも,制限地域外において商品に商標を付す権限を有して いなかった。このため,制限地域外で商標を付したとしても,それは「適 法に」商標を付したことにならないとの評価を免れなかった。これに対し, 本件事案において,Mゴルフ社の商品処分権限は何ら制約されていないこ とは既に説示したとおりであり,この点において,本件と最高裁平成15 年判決の事案とは事案を異にするというべきである。)。
エ 以上の次第で,第1要件の内容を最高裁平成15年判決の判断どおりと みた場合でも,それに「適法に流通に置かれたこと」との要件を加えたも のとして理解したとしても,いずれにせよ,同要件は満たされているとい うべきである。
(4) 第2要件について
本件においては,控訴人ハリスが我が国における商標権者であると同時に 外国における商標権者でもあるから,本件商品に付された商標と我が国の登 録商標(原告商標)とが同一の出所を表示するものであることは明らかであ\nる。 なお,被控訴人ブライトは,我が国において被告各標章を利用した宣伝広 告活動を行っているが,これは本件商品の輸入後の行為であることからする と,そもそも,かかる事情が第2要件該当性の判断に影響を及ぼすものであ るのかは疑問である。また仮に,これらの事情を考慮に入れる必要があると しても,原告商標と被告各標章が類似のものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであるから,出所表示の同一性に影響を及ぼすもの\nではなく,いずれにせよ第2要件該当性は肯定されるべきである。
(5) 第3要件について
ア 最高裁平成15年判決における第3要件は,「我が国の商標権者が直接 的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当 該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保 証する品質において実質的に差異がないと評価される場合」であることと いうものである。 ところで,最高裁平成15年判決の事案は,商標権者自身ではなく,商 標の使用許諾権者が商品を製造したという事案であった。そこで,商標に 係る商品の品質保証のため,商標権者が,商標使用許諾権者(あるいは, その下請等の立場にあった者)の行為に対して,直接的に又は間接的に品 質管理を行い得る立場にあったかどうかが重要な問題になり得たものであ る。これに対し,本件のように,商標権者自身が商品を製造している場合 には,商品の品質は,商標権者自身が商品を製造したという事実によって 保証されており,後は,その品質が維持されていれば品質保持機能に欠け\nるところはないといえる。そして,本件商品は男性用下着であって,常識 的な期間内で流通している限り,その過程で経年劣化等をきたす恐れはな いし,商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ 等)がそのまま維持されていれば,商品そのものに対する汚損等が生じる おそれもないといえる。 そうであるとすると,少なくとも,本件のように商標権者自身が商品を 製造している事案であって,その商品自体の性質からして,経年劣化のお それ等,品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が\n生じるおそれもないような場合には,商標権者自身が品質管理のために施 した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば,商標権者 による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。
イ そこで,以上の観点から,第3要件が満たされているかどうかを検討す るに,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商 品とが,登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえるこ とは,原判決「事実及び理由」第3,2⑷オ(原判決31頁24行目から 32頁17行目まで)に記載のとおりである。そして,商品のパッケージ 等はそのまま維持されていたものと推認できるから,「我が国の商標権者 が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあること」 との要件も,満たされているものといってよい。
ウ 控訴人らは,地域制限条項は,商品が最終消費者に販売されるまでの間 の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから,同条 項の違反は商標の品質保証機能を害する旨主張するが,販売地域の制限に\n係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上の理由でされるにすぎず,商 品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは 解されないから,上記主張は失当である(なお,最高裁平成15年判決の 事案における地域制限条項は,商品を製造する地域を制限する条項という 意味も持っていたため,どこで商品を製造するかは品質の保持に影響する と解する余地があった。これに対し,本件事案においては,商品自体は商 標権者によって製造済みであり,それをどの地域で販売するかが問題にな るのにすぎないのであるから,両者が全く事情を異にすることは明らかで ある。)。また,本件代理店契約が解除されたという事実も,第3要件の 充足性に影響を及ぼす事情とはいい難い。
エ 控訴人らは,本件商品の包装箱にシールを剥がした跡があることや,広 告に「訳あり/パッケージ汚れ」との記載があることは,商標の品質保証 機能を害する旨主張する。\nしかし,包装箱(パッケージ)の汚れ等の不具合は,商品(男性用下 着)自体の品質とは直接の関係がなく(パッケージの汚れが,単に表面に\nとどまらず,内部にまで影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠は ない。),本件商品の品質が控訴人らの扱う2UNDR商品の品質よりも 実際に劣っていたことをうかがわせる証拠もない。また,「訳あり/パッ ケージ汚れ」との記載は,商品そのものではなく,そのパッケージに汚れ があることを「訳あり」と称しているのにすぎないものと理解できるから, これによって,2UNDR商品そのものの品質に疑念が生じるおそれはな いものといえる。 したがって,この点に関する控訴人らの主張は失当である。
オ さらに,控訴人らは,控訴人ハリスは,正規代理店を経由して日本に輸 入された商品については交換に応じる等の保証をしており,品質について 独自の信用を構築しているところ,本件商品は保証の対象外であり,本件\n商品の購入者は,商品に欠陥があった場合も交換等を受けられないのであ るから,控訴人ハリスの保証を受けられないことは,品質保証機能を害す\nるとも主張する。 しかし,控訴人ハリスが,顧客からの要請に基づいて,商品の交換に応 じることがあるというだけで,独自の品質管理体制が構築されていたとま\nでいうことはできないし,そのほかに,控訴人らが,商品の品質について, 並行輸入を排除するのに足りるような独自の信用を構築していることを認\nめるに足りる証拠はない。 したがって,この点に関する控訴人らの主張も失当である。
(6)まとめ
以上の次第で,本件において,第1要件ないし第3要件は,いずれも満た されているというべきであるから,被控訴人ブライトによる本件商品の輸入 行為は,実質的な違法性を欠くというべきである。
3 並行輸入の違法性阻却と販売行為の態様との関係について
控訴人らは,被控訴人ブライトの輸入行為が違法性を阻却されるとしても, 商標権者が許容しない方法で広告宣伝及び販売をする行為は違法性を阻却され ない旨主張する。 しかしながら,その理由として控訴人らが挙げる事情は,いずれも並行輸入 の違法性阻却の場面で検討ずみのものであって,むしろ,上記2のとおり,商 標の品質保証機能が害されていないことの理由ともなり得るものである。また,\n被控訴人ブライトは,被告各標章を利用して本件商品の宣伝,広告を行ってい るところ,被告各標章の中には,本件商標と完全に同一であるとはいい難いも のも含まれているが,本件商標と類似するものであることは上記1で原判決を 引用して説示したとおりであり,このような標章を使用することによって本件 商標の機能を害しているとまではいえないから,この点も違法性阻却を否定す\nるに足りる事情であるとはいい難い。

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1審はこちら。

◆平成30(ワ)35053

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令和2(ネ)1006 不当利得返還等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審の東京地裁はプログラムの著作権侵害として20万円の支払いを認めました。控訴しましたが棄却されました。

 控訴人は,平成25年9月以降のやり取りにおいて被控訴人学園か ら提案された120万円には著作権に対する対価は含まれていなかった ものであり,控訴人と被控訴人学園との間で本件システムの開発に係る 委託費用は月額約32万円と合意されていたことからすれば,著作権侵 害行為によって生じた控訴人の損失は160万円を下らない旨主張し, また,著作権法114条1項又は同条3項に基づいて算定しても,同損 失は160万円を下らない旨主張する。 (イ) まず,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意に関する主 張について検討するに,仮に,上記やり取りにおける被控訴人学園の提 案が,本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣 旨ではなかったとしても,前記認定事実のとおり,平成24年12月か ら平成25年3月までの本件システムの開発費用は105万円であっ たこと,この支払がされた時点において,本件プログラムは本件システ ムの半分程度を完成させたものであったことに加え,上記提案のほかに 控訴人及び被控訴人学園が本件プログラムの対価について具体的な金 額を協議したと認めるに足りる証拠はないことや,本件における被控訴 人学園による本件プログラムの著作権等侵害行為の態様等,本件に現れ た一切の事情を考慮すると,被控訴人学園による著作権侵害行為につい て,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,控訴 人に損失を及ぼした金額は,20万円と認めるのが相当であり,これを 超える利益及び損失が生じたものと認めるに足りる的確な証拠は存し ない。また,控訴人と被控訴人学園との間において,本件システムの開発に 係る委託費用を月額約32万円とする合意が成立したと認めるに足りる 証拠は存しない。そうすると,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意を根拠 として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(ウ) 次に,著作権法114条に基づく控訴人の主張について検討するに, 同条1項に基づく主張については本件プログラムの譲渡等に係る控訴 人の利益の額につき,同条3項に基づく主張については本件システムと は異なるシステムであるWebClassのライセンス料を基に利用 料相当額を算定することにつき,それぞれ具体的な根拠を欠くというべ きである。 そうすると,著作権法114条1項又は同条3項を根拠として,控訴 人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)36168
被告学園は,前記4の著作権侵害行為につき,本来原告に支払うべき金 銭を支払っていないから,その金銭の額に相当する額の利益を受け,原告 に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで,以下,上記の額(利用料 相当額)がいくらであるのかについて検討する。 原告は,被告学園から,平成24年12月から平成25年3月までの本 件システムの開発費用として,105万円を受け取った(前記1(4))。こ れは,前記3のとおり,著作権の対価ではなく,それまでの労務の対価と して支払われたものであったが,原告が上記の金銭を受け取った時点で, 本件プログラムは,本件システムの半分程度を完成させたにとどまるもの であった(前記1(5))。Cは,同年10月頃,原告に対し,本件システム の残りの開発に係る開発費用として,120万円を支払うことを提案して おり(前記1(14)),当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば, これは,残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて,被 告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価 を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。 以上に加え,上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価 の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと,前記 4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等,本件に現れた一 切の事情を考慮すると,被告学園が前記4の著作権侵害行為について,本 件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,原告に損失を 及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。 イ 原告は,平成25年4月1日から同年10月15日までの本件システム の開発に係る委託費用相当額の損失をも被ったと主張して,被告らに対し 同額の不当利得の返還を請求するので,以下検討する。 前記1(4)ないし(6),(11)ないし(14)の経緯に照らせば,被告らは上記 期間に対応する本件システムの開発の成果物を受領していないし,原告と 被告らとの間において,上記期間に係る本件システムの開発の委託費用の 支払を合意したとも認められない(むしろ原告は,被告学園に対し,Bへ の本件圧縮ファイルの送付以降の開発費用等の支払は不要であると伝えて いる。)。そうすると,被告らにおいて,原告による平成25年4月1日 から同年10月15日までの対応する本件システムの開発に係る利益を受 けたと認めることはできない。 また,前記2,3のとおり,本件プログラムの著作権は原告に帰属して おり,被告らは,本件プログラムの著作権を取得しておらず,本件全証拠 によってもこれを利用する権原を取得したとも認められないから,被告ら は原告の許諾なく本件プログラムを利用することはできない。そうすると, 被告らにおいて,原告に本件プログラムを作成させた対価を支払う必要は ないというべきであり,その支払を免れたことによる利益を受けたとは認 められない。 したがって,原告が被告らに対して委託費用相当額の不当利得返還請求 権を有しているとは認められず,原告の上記主張は理由がない。

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令和2(ワ)2956 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月20日  大阪地方裁判所

 均等侵害も第1要件を満たさないとして特許権侵害とはならないと判断されました。

 本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件訂正明細書の各記載によれば,本件各 発明の本質的部分については,以下のとおりと認められる。 すなわち,従来,硬貨の表面に描かれた模様は,硬貨を製造するプレス機に設置\nされるプレス金型に予め彫り込まれ,硬貨をプレス及び打ち抜きする際,硬貨の表\ 面に金型の凹凸が反転して表現されていたところ,プレス金型に対して硬貨の表\面 に浮き出る部分は,平面彫刻機で彫り込んで行われていた。しかし,平面彫刻機の ように厚み方向のみ切削する切削工具では,切削した部分及び切削を行わなかった 部分は平面仕上げであり,金属の地肌のままの色合いであるため,放電加工機で不 規則かつ微細に地金を削り取りいわゆるナシ地仕上げを行ったり,切削した部分を 細かく研磨して鏡面仕上げを行ったりし,また,立体彫刻機で人物や動物等立体的 な図形を彫り込み,得られた硬貨の表面の凸部に人物等を立体的に表\現して,硬貨 の装飾効果を高めていた。しかし,これらの方法によっても,図形等の部分を除い た硬貨の地模様に対応する部分は,平面仕上げ,鏡面仕上げ,ナシ地仕上げのいず れかであり変化に乏しく,また,メダル遊戯機で使用される硬貨は,コスト等の兼 ね合いがあり,高価な金属の使用が難しく,表面の輝きが鈍いものが多いという課\n題があった。本件各発明は,こうした課題に対し,硬貨の表面の地模様に立体彫り\nによる変化を起こし,硬貨の輝きを増し,硬貨の装飾価値等を高めることを目的と するものである。具体的には,本件発明1は,切削深さを任意に変えられる同時三 軸制御 NC フライス機を,硬貨表面に描かれる人物や動植物等の図形に用いるので\nはなく,金型の表面に対して一定パターンで切削を繰り返すことにより硬貨の地金\n部分に立体的な幾何学的模様からなる新たな地模様を描き出し,硬貨の装飾価値を 高めるものである。本件発明2は,本件発明1と同様の方法で硬貨の地模様を描き 出すことに加え,同じく同時三軸制御 NC フライス機により地模様以外の模様に対 応する部分をV溝状に切削することで,当該模様部分の表面積の増加等により硬貨\nの表面の輝きを増加させ,硬貨の装飾価値等を高めるものである。\n以上を踏まえると,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,少なくとも 「金型の厚み方向へ切削可能な」切削工具「を用い,金型に対して一定のパターン\nで切削深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を移動\nさせ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描き,これを金型表面全体に繰り返\nすことにより繰り返し模様からなる地模様を形成すること」は,従来技術には見ら れない特有の技術的思想を有する本件各発明の特徴的部分すなわち本質的部分であ るといえる。さらに,本件発明2においては,これに加え,上記工具「により硬貨 の表面に浮き出る文字,図形等の模様に対応する部分をV溝状に切削すること」も,\n特徴的部分すなわち本質的部分ということができる。
(3) 前記のとおり,本件各発明における「金型」(構成要件B,C,E及びF)は\nプレス金型を意味し,また,被告製造方法の構成については当事者間に争いがある\nものの,被告製造方法が原金型に関する工程とプレス金型に関する工程という2つ の工程を含むこと,被告機械を用いて原金型の表面に地模様及び地模様以外の模様\nに対応する部分を切削加工により作製することは,当事者間に争いがない。これを 踏まえると,本件各発明においては,プレス金型の厚み方向へ切削可能な切削工具\nを用い,プレス金型に対して一定のパターンで切削深さと,水平面に対するプレス 金型の切削角度と,を変えながらプレス金型表面全体に繰り返すことにより繰り返\nし模様からなる地模様を形成し,本件発明2においては,これに加えて,上記工具 により硬貨の表面に浮き出る地模様以外の模様に対応する部分をV溝上に切削して\nプレス金型を得るのに対し,被告製造方法においては,被告機械を用いて原金型の 表面に地模様及び地模様以外の模様に対応する部分を切削加工により作製し,こう\nして得られた原金型から(特定されない加工方法(被告方法1)又は放電加工(被 告方法2)により)プレス金型を得る点で相違する。そうすると,被告製造方法は, 本件各発明の本質的部分を共通に備えているとはいえない。 したがって,本件各発明と被告製造方法の相違部分は,本件各発明の本質的部分 に当たる。
(4) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件各発明の本質的部分は,金型に対して一定のパター ンで切削の深さと,水平面に対する金型の切削角度と,を変えながら金型表面上を\n移動させ,傾斜面を含む特定のパターンを金型上に描くことと,地模様以外の模様 に対応する部分をV溝状に切削することであり,原金型とプレス金型の2つの金型 を用いるか否かは本件各発明の本質的部分ではないなどと主張する。 しかし,前記のとおり,原金型からプレス金型に対する転写等の工程につき,そ の構成を特定しなくても,本件各発明の作用効果を奏し得るものが行われることが\n当業者にとって技術常識であるとは認められないことをも踏まえると,金型につき 原金型とプレス金型の2つを用いるか否かは,本件各発明の本質的部分に係る相違 部分というべきである。 したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。

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令和2(行ケ)10015 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月17日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決が維持されました。知財高裁は、課題が公知文献に記載されていないだけでなく、解決手段も公知文献から導けないと判断しました。

 イ シリコーン誘発凝集阻害という課題の発見の容易性について 原告は,タンパク質製剤におけるシリコーン誘発凝集は知られており, タンパク質の凝集が多糖類−タンパク質コンジュゲート凝集の原動力であ ることを当業者は理解していたから,公知発明1に6種の肺炎球菌CRM コンジュゲートを追加することによりタンパク質含量が増える13価の肺 炎球菌CRMコンジュゲート製剤でシリコーン誘発凝集が生じることは予\n見可能であった旨主張する。\nしかし,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲25,26,71) は,キャリアタンパク質がCRM又は破傷風毒素(TT)である多糖類− タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性に関連する凝集について記載\nするのみであるから,これらの公知文献からは,多糖類−タンパク質コン ジュゲートのシリコーン誘発凝集が本件優先日当時に課題として当業者に 認識されていたとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 課題の解決手段の適用の容易性について
上記イで述べたとおり,当業者は本件発明の課題を認識できないから, 既にこの点において容易想到性は否定されることになるが,念のため,課 題解決手段適用の容易想到性に関する原告の主張についても検討しておく。
(ア) タンパク質製剤のシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見につき
原告は,当該課題の解決のために,当業者は,タンパク質製剤におけ るシリコーン誘発凝集の解決手段に関する知見を採用し得た旨主張する。 しかしながら,原告がその主張の根拠とする公知文献(甲3,69) には,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集についての記載はあるが, 多糖類−タンパク質コンジュゲートのシリコーン誘発凝集についての記 載はない。他方,多糖類−タンパク質コンジュゲートの構造的不安定性\nや凝集は,タンパク質部分のみでなく多糖類部分の影響も受けることが 知られていたところ(甲25,50),多糖類とタンパク質は構造や性\n質が異なるから,両者の挙動は異なることが当然に予想される。そうす\nると上記公知文献(甲3,69)に記載されたタンパク質医薬品のシリ コーン誘発凝集についての知見が,多糖類−タンパク質コンジュゲート のシリコーン誘発凝集にも直ちに妥当するものとは認められない。また, 上記公知文献は,タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集の問題を解決 する手段として,それぞれ,界面活性剤の添加又はシリコーン含有量の 低減を開示するのみであって,本件発明の構成であるアルミニウム塩の\n添加には触れていないから,公知発明1にタンパク質製剤のシリコーン 誘発凝集の解決手段に関する上記公知文献記載の知見を適用しても,本 件発明の構成には至らない。\nしたがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) アルミニウム塩の発揮する効果に関する知見につき
原告は,凝集体の発生に関連するタンパク質の疎水性表面への吸着は\nアルミニウム粒子で防ぐことができるとの知見(甲81の3,76)が あったから,疎水性界面を示すシリコーンによるワクチンの凝集も,ア ルミニウム塩をアジュバントとすることにより防ぐことができると当業 者は理解したと主張する。
しかし,上記知見においては,容器の疎水性表面へのタンパク質の吸\n着は,液体(製剤)と固体(容器)との界面における容器表面とタンパ\nク質分子との相互作用に関連すると理解されていたのに対し(甲81の 3),タンパク質医薬品のシリコーン誘発凝集は,微量のシリコーンの 存在と空気−液体界面におけるタンパク質の変性や(甲3),タンパク 質結合に関与する分子間相互作用へのシリコーンの影響(甲69)に関 連すると考えられており,シリコーン誘発凝集がタンパク質のシリコー ンへの吸着によって生じると考えられていたとは認められないから,疎 水性表面へのタンパク質の吸着をアルミニウム粒子により阻害する旨の\n上記知見を,直ちに肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝 集の阻害のために適用することは困難であったといえる。 したがって,原告の上記主張は採用できない。
エ 単なる「発見」にすぎないとの予備的主張について\n
原告は,相違点4に係る発明特定事項は,ワクチン製剤のアジュバント としてアルミニウム塩を選択するという周知慣用技術を採用したとき,ア ルミニウム塩が肺炎球菌CRMコンジュゲートワクチン製剤においてはシ リコーン凝集阻害という効果を示すという,公知発明1(7価プレベナー )でも生じていたメカニズムを「発見」したにすぎないから,相違点4を 根拠に本件発明の進歩性を認めることは,自由技術に独占権を与えること になって不当である旨主張する。 しかし,この主張は,本件発明と公知発明1とは実質的には同一である という前記の主張と本質を同じくするものであるといえるところ(すなわ ち,本件発明と公知発明1とは実質的には同一であって,発明の構成にお\nいて違いはないという前提があって初めて,本件発明の独自性は,凝集の メカニズムを「発見」したにすぎないという議論が成り立ち得ることにな るはずである。),この主張を採用することができないことは既に説示し たとおりである。

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平成31(ワ)784  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月26日  大阪地方裁判所

  商標「蛸焼工房」について先使用権を主張しましたが、認められませんでした。権利濫用の主張も認められませんでした。

 「需要者の間に広く認識されている」(商標法32条1項)といえるため には,全国的に知られている必要はないものの,商品又は役務の性質等を踏まえつ つ,取引の実情を考慮して,一定の地理的範囲において広く知られているものとい えることを要すると解される。本件においては,たこ焼きの需要者はたこ焼きを購 入しようとする一般の消費者であると見られること,たこ焼きは,通常,加熱調理 されて温かい状態で食べられる食品であることなどを考慮すると,被告標章が「需 要者の間に広く認識されている」といえるためには,被告店舗が多数存在する愛知 県及びその近隣県の需要者の多くに認識されていることを要するといえる。
(イ) 前記認定事実((1)ア)によれば,被告は,本件商標の登録出願まで15年 以上にわたって被告標章を使用し,店舗を展開してきたものであり,また,被告の 売上,愛知県内の店舗数,各店舗の総来店者数のいずれも,決して少ないとはいえ ない。 しかし,本件商標の登録出願当時における愛知県を除く隣接県の店舗数は,各県 とも数店舗にとどまる(前記(1)ア)。愛知県においても,本件商標の登録出願後 の数ではあるものの愛知県内に500店舗を超えるたこ焼き店が存在すること(前 記(1)ア)に鑑みれば,被告店舗数は,それ自体をもって被告標章が需要者の多く に認識されていることを裏付けるに足りるほど多数であるとまではいえない。しか も,基本的には SC 内,しかも多くは地域密着型の総合スーパーマーケットに出店 し,単独で又は他のファーストフード店その他の飲食店と共に,専門店として1階 に位置し,店舗出入り口付近又はフードコートに配置され,たこ焼き,お好み焼 き,たい焼き,焼きそば,フライドポテト,杵つき団子,ソフトクリーム等を主要\nな取扱商品とするという被告店舗の出店態様等(前記(1)イ)を考慮すると,その 来店客は,基本的にはスーパーマーケットを中心とする SC 内の他店での買い物を 目的とする買い物客のうち,買い物の合間の食事や持ち帰りの軽食として手軽に食 べられる飲食物を購入するために来店する者が多数を占め,被告店舗での購入を主 要な目的として来店する者は必ずしも多くないものと推察される。さらに,被告店 舗において,被告標章は来店客により容易に認識され得る態様で表示されていると\nいえるものの,こうした来店客が被告標章に払う注意の程度は必ずしも高くないと 思われる。
また,上記出店態様等に鑑みると,出店先の SC がその商圏内で配布する広告宣 伝用の折込チラシ等に被告店舗の広告も掲載される例が多いことが推察され,現に その例も認められるものの(前記(1)ウ(オ)),そのような折込チラシの性質上,被 告の店舗に関する広告は,SC 内に出店する専門店の1つとして掲載されるにとど まり,その掲載スペースも大きくはないものと推察される(乙23添付の資料3及 び4では,被告店舗に割り当てられているスペースは全体の 1/16 程度である。)。 求人広告においても被告標章が表示されていることが認められるものの,これに触\nれる者は求職中の者に自ずと限定されることに鑑みると,これをもって需要者に広 く認識されていることを裏付ける事情としては必ずしも考慮し得ない。広告宣伝費 としての支出額(前記(1)ウ(ア))も,売上及び店舗数を踏まえると,被告と同じ業 種ないし業態の事業者に比して顕著な額を投下していることが明らかとまではいい 難い。
本件商標の登録出願までに被告店舗がマスコミ等に取り上げられた状況(前記 (1)ウ(イ)〜(エ))を見ても,その回数はむしろ少なく,かつ,その影響が及ぶ範囲も 限定的である。他方,上記時期に限らず,その後も含めた被告のウェブサイトの総 閲覧者数,口コミサイトや第三者のブログ等での掲載状況(前記(1)ウ(カ),エ(ア)) を見ても,その掲載数等が多いとはいえない。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告標章は,本件商標の登録出願の際,被 告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,愛知県及びその隣接県の需要\n者の多くに認識されていた,すなわち「需要者の間に広く認識されて」いたとは認 められない。これに反する被告の主張は採用できない。
・・・
被告は,本件訴訟における原告の本件商標権の行使につき,原告は,被告 に対し損害賠償請求をするという不当な目的で本件商標の登録出願を行い,本件訴 訟を提起したものであるから,原告の被告に対する本件商標権の行使は権利濫用に 当たると主張する。 確かに,本件商標の登録出願は,被告が売上額及び店舗数とも大きく伸ばした段 階でされたものであり(前記1(1)ア),また,被告による被告標章の使用を理由 として本件商標の登録出願に関する早期審査を求めながら,その商標登録後被告に 対する最初の警告書送付まで1年半近くの期間を要した(前記(1)エ,オ)といっ た経緯は認められる。
しかし,前記(1)ア〜ウのとおり,原告は,「たこ焼工房」に「43」,「Sea & Sun」等を結合させた標章をその屋号として主に使用しているところ,「たこ焼工 房」と組み合わせる表示が複数存在することに鑑みると,原告としては,「たこ焼\n工房」の表示それ自体も自己を示すものとして使用しているものとうかがわれる。\nまた,原告は,「たこ焼工房/Sea & Sun/ シーアンドサン」の商標につき登録 出願し,商標登録を得ている。原告によるこうした営業表示の使用状況等を踏まえ\nると,原告が,既に商標登録を受けた商標「たこ焼工房/Sea & Sun/シーアンド サン」の一部である「たこ焼工房」につき商標権として権利化を図ったこと自体を 不当ということはできない。このことは,原告が被告ないし被告標章の存在等を知 って本件商標権を取得したといった事情があったとしても異ならない。さらに,本 件商標の登録から最初の警告書送付までの期間,更には本件訴訟提起までの期間の 点も,原告が賠償請求し得る損害額をより多額とする意図を有していたと認めるべ き具体的な事情はない。 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,本件における原告の被告に対する 本件商標権の行使をもって権利の濫用というべき事情があるとはいえない。

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平成30(ワ)8708  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月13日  大阪地方裁判所

本件発明の「せぎり部」には該当しないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。

 本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,「支持面」について規定するもので\nあり,その文言によれば,1)支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部 の端部にあり,2)支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹 状の曲面からなり,3)当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するた め,4)支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。 前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平 面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接 部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋に より受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないため に小石,砂利,土等が堆積しにくくなり,側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し, かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成 されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態 が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係 にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当 接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられ ていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せ ぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存すること になる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間 が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件 発明のせぎり部にはあたらないというべきである。

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令和2(行ケ)10102等  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月20日  知的財産高等裁判所

 10日ほど前に、新聞を賑わしたユニクロのセルフレジの特許についての無効審判事件です。知財高裁は特許無効とした審決を、引用文献の認定誤りがあるとして、取り消しました。

 ウ また,甲1の「読取り/書込みデバイス102」は単独で機能するもの\nである。
 (ア) 甲1発明は,RFIDタグの読取り/書込みを行うデバイスと,この デバイスを利用する会計端末に関するものである(甲1の訳文3頁4行〜6行)が, 一般に,RFID読取りデバイスにより情報が読み取られる対象物には,液体を含 む物や水分量が多い物もあるが,そうでない物もある。こうした液体を含む物や水 分量が多い物を取り扱わない店舗も多々あるが,甲1発明の発明者は,スーパーマ ーケットのように,液体を含む物や水分量が多い物も販売する店舗に着目し,その ような店舗においては,「FR 2 966 954 A1号」として公開されてい る特許公開公報(乙30)の図に示された装置では,効率的な読取りを実施するこ とができないと考えており(甲1の訳文3頁10行〜26行),甲1発明は,「液体 を含む物や水分量の多い物についてもRFIDタグが効率的に読みとれること」, 「対象物のタイプにかかわらず,RFIDタグが効率的に読みとれること」を目的 とするものであることを,当業者は理解する。
そして,当業者は,甲1の具体的構成(甲1の訳文3頁35行〜47行)により,\n「本発明によるデバイスによって,載置キャビティ内において,端末の近傍に置か れた製品,特に端末に隣接する棚に置かれた製品に貼付されたRFIDタグが通電\nされ,したがって読み取られるリスクを伴わずに,読取り/書込み動作を実施する のに使用される電波の出力を増加させることが可能になり,またしたがって,キャ\nビティ内に載置されたタグを,液体を含む対象物に貼付されたタグであっても,よ\nり良好に読み取ることが可能になる。」という効果を有すること(甲1の訳文4頁1\n4〜19行)を理解する。
甲1の具体的構成と,乙30に記載されているRFID読取りデバイスの相違は,\n1)「前記挿入アパーチャの周りに配置され,前記挿入アパーチャから上方に延在し, 前記載置キャビティと外部との間の電波を減衰することができる,防壁と呼ばれる 少なくとも1つの壁」(「防壁」)と,2)「前記少なくとも1つの防壁を通して前記挿 入アパーチャにアクセスするための,アクセス開口部と呼ばれる少なくとも1つの 開口部」(「アクセス開口部」)のみである。 2)の「アクセス開口部」は,1)の「防壁」がある場合に,載置キャビティに物を 入れるため(「防壁を通して前記挿入アパーチャにアクセスするため」)の開口部で あるから,防壁があれば必然的に存在することになるものであり,水分を含む物で も情報が効率的に読み取れることとは関係しない。甲1の具体的構成が,乙30に\n係る発明と異なり,水分を含む物でも情報が効率的に読み取れるのは,「防壁」があ るからであると当業者は理解する。 したがって,当業者は,水分を含まない物や対象物が軽い物を読み取るのであれ ば,電波を低量にするから,「防壁」のない装置で十分であると理解する。\nそして,甲1では,「防壁」のないものとして,「読取り/書込みモジュール20 0」が,[図2]に示され,甲1の訳文10頁1〜19行に具体的な構成が記載され\nており,当業者は,「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」を備えるもの ではなく,よりシンプルな構成であるが,読取装置に必要な要素をすべて備えるも\nのであり,水分を含まない対象物については,問題なく動作することを理解する。 このように,甲1には[図1]に示されている読取装置と,[図2]に示されてい る読取装置の二つが開示されており,[図1]の読取装置は,水分を含む物も含まな い物も,効率よく読み取ることができるものであり,[図2]の読取装置は,水分を 含まない物に使用することができると,当業者は理解する。 甲1発明2のように,読取装置を独立した発明として把握する公知文献,公知技 術は枚挙に暇がない(甲2,乙28〜37)。
(イ) 原告らは,水分を含まない物を読み取るものとして,甲1発明2を単 体で利用することについては甲1に何ら記載がないと主張している。 しかし,被告は,読取対象物が水分の少ない場合については従来技術と同様に甲 1発明2が単体の読取装置として機能することを説明しているのであるから,これ\nに対する反論となっていない。当業者が甲1文献の記載を読めば,読取対象物が水 分の少ない物を取り扱う店舗においては,水分の多い物を読み取るために創作され た甲1発明1全体を実施するのは無駄であり,従来技術に近い甲1発明2を実施す べきであると考えるのが当然である。 また,原告らは,電波の出力を下げると金属に貼られたタグも読み取りできなく\nなると主張する。 しかし,そのような事実があるかは不明であるし,仮にそうであるとしても,読 取対象物が金属製でない場合は,従来技術と同様に,甲1発明2が単体の読取装置 として機能し,使用可能\である。本件明細書には,電波強度や金属に貼られたタグ\nを読み取る点について記載がなく,本件発明が金属に貼られたタグが読めるものと\nは解釈できないから,甲1発明2と対比できるものではない。
エ 原告らは,防壁及びアクセス開口部は,甲1に記載される目的を達成す るために必須の構成であると主張する。\nしかし,上記ウのとおり,甲1の[図2]の読取装置は,水分を含まない物につ いては読取装置として十分に使用することができると,当業者は理解する。本件審\n決は,甲1に記載されたこれらの発明のうち,水分を含まない物に使用することが できる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから,誤りはな い。
オ 原告らは,甲1の実施例に重量計が使われていることを指摘するが,読 取対象物が水分の少ない場合については,重量計が存在しても,従来技術と同様に, 甲1発明2が単体の読取装置として機能することに変わりはない。\n

◆判決本文

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平成31(ワ)2675  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年5月18日  東京地方裁判所

 吹矢に関する特許侵害の損害認定について、101条1項、2項に基づき約3600万円の請求が認められました。

 以上によれば,被告製品は,そのほとんどが吹矢協会と関係がある需要 者により購入されたと認めることが相当である。そして,被告製品は,吹 矢協会の関係者において吹矢協会の公認用具であることを理由として購 入された割合が相当に高いと認められる。原告の製造販売する吹矢用具は 令和2年12月1日以降は吹矢協会の公認用具でなかったから上記の理 由で購入された被告製品の需要の全てが原告の製造販売する吹矢の矢に 向かうとは認められない。他方,原告の製造する吹矢の矢については,吹 矢協会の公認がなくとも購入するとする者もいたことがうかがわれ,被告 製品の需要が全く原告の製造販売する吹矢用具に向かわないとはいえな い。
被告は,原告の吹矢用具が吹矢協会の公認用具でないことを理由として 令和2年12月1日以降の被告の売上げについての推定覆滅を主張する ところ,上記事情に照らせば,同日以降の利益については,65%の割合 で損害額の推定が覆滅すると認めるのが相当である。

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令和1(行ケ)10108  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年5月13日  知的財産高等裁判所

 無効審判において訂正しましたが。新規事項である、実質上の拡張等に該当するとして訂正が認められませんでした。知財高裁は、新規事項については開示ありと認定したものの、実質上の拡張等については該当するとして審決が維持されました。

 上記の本件明細書の記載等からすると,本件明細書には,図4で示 された24のコントロールチャネルエレメントについて,最高レベルの 集合レベル1ではそれぞれが1つのコントロールチャネル(24個)を 形成し,比較的低いレベルである集合レベル2では2つのコントロール チャネルエレメントが1つのコントロールチャネル(12個)に,集合 レベル4では4つのコントロールチャネルエレメントが1つのコント ロールチャネル(6個)に,集合レベル8では8つのコントロールチャ ネルエレメントが1つのコントロールチャネル(3個)に,それぞれま とめられた上で,スケジュールに使用可能なコントロールチャネル候補 は,集合レベル1は4つ,集合レベル2は4つ,集合レベル4は4つ,\n集合レベル8は3つに制限され,この制限によってデコーディング試行 の数は15に低減されること,このような制限をツリー構造に課すこと により,図4の例では,集合レベル1では4つのコントロールチャネル\nを,集合レベル2では2つのコントロールチャネルを,集合レベル4で は2つのコントロールチャネルを,集合レベル8では1つのコントロー ルチャネルをスケジュールすることができることが開示されている。 また,本件明細書の上記記載に加えて,図4を総合すると,スケジュ ールに使用可能なコントロールチャネル候補の制限をツリー構\ 造によ って課される割合は,図4の実施例では,最高レベルの集合レベル1で は,24個のコントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合6分の 1),比較的低いレベルの集合レベル2では12個のコントロールチャ ネルを4つの候補に(候補の割合3分の1),集合レベル4では6個のコ ントロールチャネルを4つの候補に(候補の割合3分の2)それぞれ制 限し,集合レベル8の3個のコントロールチャネルを制限しない(候補 の割合1分の1)ことが開示されているに等しい事項といえる。
そうすると,本件明細書及び図面には,ユーザイクイップメントに対 するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の各レベルにおける割合に着目し,最高レベルよりも低い2,4,8の各レベル\nにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合は,最高レベルにおける,ユーザイ\nクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに対する\nアロケーションを含むスケジュールをすることが開示され,又は開示さ れているに等しい事項であるということができる。また,【0025】の 記載からすると,最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネ ルは,ツリー構造の前記最高レベルよりも低いレベルにあるノードによって表\されていることが開示されていることから,この開示事項に上記 事項と合わせると,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロール チャネル候補の割合がより大きくされることも開示され,又は開示され ているに等しい事項であるといえる。
したがって,訂正事項2に係る技術的事項及び訂正事項3に係る技術 的事項は,いずれも本件明細書の記載及び図面の全ての記載を総合する ことにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を 導入するものであるとはいえないから,訂正事項2及び3は,新規事項 の追加に当たるものとはいえない。
イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
願書に添付した特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決が確定したとき は,訂正の効果は出願時まで遡及する(特許法128条)ところ,特許請 求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲が定められる特許権の 効力は第三者に及ぶものであることに鑑みれば,同法126条6項の「実 質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」であるかは,訂正の前 後の特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきであり,こうした 解釈によって,特許請求の範囲の記載の訂正によって第三者に不測の不利 益を与えることを防止することができる。以下,これを前提にして判断す る。
(ア) 本件訂正前の請求項1は,「前記アロケーションは,最高レベルのコ ントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行され, 前記最高レベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の最高レベルにあるツリー構\造のノードによって表 され,それにより,比較的低いレベ\nルのコントロールチャネルのアロケーションが可能となり,比較的低いレベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の比較的低いレベルにあ るツリー構造のノードによって表\ される,方法」との発明特定事項を含 むものであり,この発明特定事項からは,ツリー構造のノードによって表\されるコントロールチャネルのアロケーションは,最高レベルにある コントロールチャネルのアロケーションを制限することによって実行さ れ,それにより比較的低いレベルのコントロールチャネルのアロケーシ ョンが可能となることと理解される。 
これに対し,本件訂正後の請求項1は,訂正事項1ないし3によって, 「ユーザイクイップメントに対するアロケーションは,前記最高レベル における,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,前記最高レ\nベルのコントロールチャネルは,ツリー構造の前記最高レベルにあるツ リー構\造のノードによって表 され,それにより,前記最高レベルよりも\n低い各レベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルに おける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\な コントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップ メントに対するアロケーションを実行することが可能となり,前記最高レベルよりも低い各レベルのコントロールチャネルは,ツリー構\造の前 記最高レベルよりも低いレベルにあるツリー構造のノードによって表\ さ れ,ツリー構造における,より低いレベルほど,ユーザイクイップメン トに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割 合がより大きくされる,方法」との発明特定事項を含むものであり,こ の発明特定事項からは,ユーザイクイップメントに対するアロケーショ ンは,最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ ョンに使用可能なコントロールチャネル候補を部分的に制限して実行され,それにより,最高レベルよりも低い各レベルのユーザイクイップメ\nントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を最高レベルにおけるユーザイクイップメントに対するアロケーシ\nョンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合より大きくして,ユーザイクイップメントに対するアロケーションを実行することを可能\と し,かつ,ツリー構造におけるより低いレベルほどユーザイクイップメ ントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の 割合がより大きくされる方法が含まれるものと理解することができる。 このように,訂正後の請求項1は,訂正前の請求項にはない,「ユーザ イクイップメントに対するアロケーションに使用可能なコントロールチ ャネル候補」という概念を追加した上で,「前記最高レベルよりも低い各\nレベルにおける,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使 用可能なコントロールチャネル候補の割合を,前記最高レベルにおける, ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合よりも大きくして,ユーザイクイップメントに 対するアロケーションを実行する」,「ツリー構造における,より低いレ ベルほど,ユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\ なコントロールチャネル候補の割合がより大きくされる」との事項を追 加し,これによって,訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的 低い各レベルのアロケーションについては特に規定するところがなかっ た,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーションに使用可能\なコントロールチャネル候補の割合 を大きくすることが発明特定事項に含まれることになったといえる。 そうすると,訂正事項1ないし3は,特許請求の範囲を実質上変更す るものであるから,特許法126条5項に適合するものとはいえない。
(イ) これに対し,原告は,前記第3の1(1)ア(イ)及びイ(イ)のとおり,1) 訂正事項2及び3は,新たな技術的事項を導入するものではなく,2)訂 正事項2は,訂正前は,無条件で比較的低いレベルのコントロールチャ ネルのアロケーションを可能としていたのを,訂正後は,使用可能\ なコ ントロールチャネル候補の割合に関する条件付きでアロケーションを実 行することを可能とするものであるから,本件訂正は,特許請求の範囲 の減縮に該当する旨主張する。\n
しかし,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものであるかに ついては,特許請求の範囲の記載を基準として判断されるべきことは前 記のとおりであるところ,発明の詳細な説明に記載された事項からどの 事項を発明特定事項とし,上位概念とするかについては,出願者がその 技術的意義に鑑みて適宜選択して特許請求の範囲とするものであって, 明細書に記載された事項及び図面から導き出される技術的事項との関係 において,新たな技術的事項を導入するものではないからといって,訂 正の前後で特許請求の範囲の記載が実質的に同一の発明特定事項を有す るものとはいえない。
そして,前記(ア)のとおり,請求項1は,訂正事項2及び3によって, 訂正前の方法では,ツリー構造で表\ される比較的低い各レベルのアロケ ーションについては特に規定するところがなかった,ツリー構造で示されるより低いレベルほどユーザイクイップメントに対するアロケーショ\nンに使用可能なコントロールチャネル候補の割合を大きくするとの事項が発明特定事項に含まれることになったものであり,こうした発明特定\n事項は,「統合されたコントロールチャネルに対するツリー検索が系統的 に低減される」という課題((【0004】)を解決する発明の構成そのも のに関する事項であるから,単に条件付けをしたのにすぎないとはいえ\nず,特許請求の範囲の減縮に該当するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。

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平成30(ワ)16422等  商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月23日  東京地方裁判所

 登録商標「舞豚」があり、このアルファベット表記「maiton」の使用は商標権侵害と判断されました。本件は、「舞豚」はブランド豚肉で、使用許諾契約終了後の標章の使用という特殊事情があります。損害論では38条2項による算定は地理的に離れているということで否定されましたが、飲食物の提供の通常のライセンス料の約2倍の8%が認められました。

 ア 商標法38条2項は,商標権者は,故意又は過失により自己の商標権を 侵害した者に対してその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場 合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,そ の利益の額は,商標権者が受けた損害の額と推定すると規定しているとこ ろ,同項が損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定である ことに照らせば,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったな らば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,商標法38 条2項の適用が認められると解すべきである。
イ 本件において,被告は,本件商標1と類似する被告各使用標章を本件商 標1と同一の指定役務である飲食物の提供に使用している。しかしながら, 原告が本件商標1を用いて経営する原告店舗は長崎県島原市に所在してい るところ,しゃぶしゃぶ料理の提供という原告の業務に係る顧客は,飲食 店の一般的な顧客の範囲からすると,同市及びその周辺に在住の者である と推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はな い。他方,被告が経営していた本件店舗は東京都台東区に所在しており, 本件店舗の業務に係る顧客は,東京都内及びその周辺に在住の者であると 推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。 原告店舗における事業との関係で被告による商標権侵害行為がなければ原 告が利益を得られたといえるためには,それらが競合関係にある必要があ ると解されるところ,原告店舗及び本件店舗の事業の性質から,原告店舗 に対する需要者と本件店舗に対する需要者とは重ならず,原告店舗と本件 店舗が競合関係にあるとは認められない。
ウ 原告は,本件に商標法38条2項が適用されると主張するに当たり,オ ンラインショップや東京都中央区所在のアンテナショップ(以下,これら を併せて「原告オンラインショップ等」という。)において,本件各商標 を付して本件豚肉等を販売しているところ,被告が本件店舗において被告 各標章を使用して飲食物を提供しなければ,豚肉舞豚を食べたいという顧 客の需要は,原告オンラインショップ等に向かうというべきであり,これ により原告は利益を得られたなどと主張する。 ここで,被告による商標権侵害行為がなければ,原告オンラインショッ プ等において原告が利益を得られたというためには,少なくとも本件店舗 における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係にある といえる必要があるとするのが相当である。そして,原告オンラインショ ップ等においては,本件豚肉等が販売されているのに対し,本件店舗では 豚肉のしゃぶしゃぶ料理が提供されており,これらの事業の形態は大きく 異なる。また,顧客についてみても,本件店舗においては,店舗において 豚肉舞豚を用いたしゃぶしゃぶ料理の提供を受けたいという顧客が主であ るのに対し,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等を購入し 自宅で食べたいという顧客が主である。本件店舗における業務と原告オン ラインショップ等における業務にはこのような相違があるところ,本件に おいて,店舗において豚肉舞豚を用いた料理を食べたいと考える顧客の需 要が原告オンラインショップ等に向かうことを裏付ける的確な証拠はない。 そうすると,本件店舗と原告オンラインショップ等とでは,類型的に事業 の形態が相違しており,本件でその顧客等が重なる事情も認められず,本 件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係 にあるとはいえないと認めるのが相当である。原告の上記主張を採用する ことはできない。
なお,原告は,被告が本件店舗を閉店したと主張する平成30年8月を 基準に,閉店後の平成30年9月から平成31年2月までとその前年同期 (平成29年9月から平成30年2月まで)の原告オンラインショップ等 の売上げを比較し,本件店舗閉店後の前者の売上げが閉店前年同期の後者 の売上げから約125%増額しており,被告による商標権侵害行為により 原告は得られる利益を逸していたなどと主張する。しかしながら,証拠 (甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,原告オンラインショッピン グ等の平成30年9月から平成31年2月までの売上げが974万074 3円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ964万6895円,それ以外の 売上げ9万3848円)であり,平成29年9月から平成30年2月まで の売上げが776万8833円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ757 万6000円,それ以外の売上げ19万2833円)であることが認めら れ,本件店舗の閉店前と閉店後の同時期の売上げを比較すると,本件店舗 の閉店後の期間の売上げが増加しているとはいえるものの,それはふるさ と納税による売上げが増加したことに伴うものといえる。そして,ふるさ と納税制度を利用して商品を購入する動機は,ふるさとへの貢献や返礼品 を受領することなど多種多様であることに鑑みれば,上記の売上額の増加 をもって,原告の主張を裏付けるものということはできず,他に原告の上 記主張を認めるに足りる証拠もない。
エ 以上によれば,原告の業務と被告各使用標章の使用に係る被告の業務と の間で市場における競合関係があるとはいえず,被告による商標権侵害行 為がなかったならば,原告が利益を得られたであろうと認めることはでき ない。したがって,原告の本件商標権1の侵害による損害額の算定に当た って,商標法38条2項を適用する前提を欠き,同項の適用は認められな い。
(2)商標法38条3項の損害額について
ア 本件店舗は,「舞豚」というブランドの豚肉のしゃぶしゃぶ料理を提供 することを特徴とする飲食店であるところ,被告は,被告各使用標章を本 件店舗の名称,店舗の外観や料理のメニュー表などに広く用いていたこと(前記前提事実(3)アイ)からすれば,商標法38条3項による損害額の算 定に当たっては,本件店舗の売上げに対して,本件商標1の使用に対し受 けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。
イ 次に,本件商標1の使用に対し受けるべき金銭の料率について検討する。 証拠(甲36)によれば,株式会社帝国データバンク作成の「知的財産 の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書」におい て,「商標権に関する分類別ロイヤルティ料率の平均値」について全体 (205件)では2.6%であり,「商標の分類」が「第43類 飲食物 の提供及び宿泊施設の提供」については3件の例があり,最大値5.5%, 最小値1.5%,平均値3.8%であるとの記載が認められ,飲食物の提 供についての商標権のロイヤルティ料率は,全体の平均値より相当程度高 いといえる。 また,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,豚肉舞豚は平成7年1 0月19日の第39回長崎県種豚共進会において農林水産大臣賞を受賞し たこと(甲37),本件店舗の開店時に長崎新聞には「島原産ブランド豚 提供「舞豚」」という見出しの記事が,島原新聞には「「舞豚」が東京進出」 という見出しの記事がそれぞれ掲載されたこと(乙4)が認められる。こ れらの事実に照らせば,豚肉舞豚に対して一定の評価が与えられていたこ とがうかがえる。 そして,本件店舗は,豚肉舞豚をしゃぶしゃぶ料理として提供すること を大きな特徴とする店舗であるところ,被告は,店舗の名称や看板,メニ ュー表等に被告各使用標章を使用していた。他方,本件店舗には,他に顧客を特に引き付けるような標章等が使用されていたともいえない。そうす\nると,被告は,一定の評価が与えられていた豚肉舞豚と同じ呼称等を有す る被告各使用標章を,店舗の名称も含めて積極的に活用して本件店舗を営 業していたといえ,被告各使用標章の使用は被告の売上げにも貢献するも のであったといえる。
これらの事情に加えて,被告は,本件各商標の使用許諾契約が被告によ る信頼関係を破壊する行為により解除された後も,被告各使用標章の使用 を継続していたなど本件訴訟に現れた一切の事情を併せて考えれば,商標 権を侵害した者に対して事後的に定められるべき商標の使用に対し受ける べき料率は,8%と認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,被告による商標権侵害について,商標法38条3項によ り算定される損害額は,本件店舗の売上高(平成29年12月から平成3 0年8月)1189万7246円(争いのない事実)に8%を乗じた金額 である95万1779円となる。
(3) 損害不発生の抗弁について
被告は,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,商標法38条3項 は適用されないと主張する。 しかし,被告は,店舗の名称や看板,メニュー表等に被告各使用標章を使用した一方,本件店舗において他に強く顧客を誘引する標章等が使用されて\nいたものではない。被告各使用標章の使用が被告の売上げに貢献していたと いえることは前記(2)のとおりであるから,被告が被告各使用標章を使用した ことにより原告に使用料相当額の損害が生じないとは認められない。被告の 損害不発生の抗弁についての主張は理由がない。

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平成30(ワ)38486  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月24日  東京地方裁判所

コンピュータプログラムの著作権侵害として約6600万円の損害賠償が認められました。著作権侵害による損害額は,本件プログラムが違法に複製されたパソコンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認定されています。\n

イ 被告会社による著作権侵害について
本件プログラムをパソコンにインストールすることは,本件プログラムを\n有形的に再製するものとして,本件プログラムの複製に該当するところ(著 作権法2条1項15号),前記1(1)ないし(3)によれば,本件平成20年契約 においては,平成20年9月の一時期を除き,パソコン1台分についてのみ\n本件プログラムのインストールすることが許諾されていたと認められるから, 前記アのとおり,被告会社において,本件平成20年契約の締結当初から本 件旧プログラムをインストールしていた1台に加え,平成26年3月以降, 合計10台のパソコンに本件旧プログラムをインストールしたことは,本件\n旧プログラムの著作権(複製権)の侵害に該当する。なお,被告会社は,平 成20年の契約の内容として,1つのライセンスの契約で,インストールす るパソコン台数を問わずに本件プログラムが使用できるとの合意が成立して\nいたと主張するが,前記2(3)イのとおり,当該主張は採用することができな い。 また,被告会社は,自ら複製権侵害行為を行っているから,上記10台に 複製された本件旧プログラムについて,その使用する権原を取得した時に著 作権侵害の事実について知っていたものと認められ,これを使用する行為は, 著作権法113条2項により,本件旧プログラムの著作権を侵害する行為と みなされる。
(2) 争点2−2(著作権侵害による損害額)について
ア 前記(1)の著作権侵害の態様と,本件平成20年契約においてライセンス 数に応じた本件旧プログラムの複製,すなわちライセンス数に応じた台数 のパソコンへのインストールが許諾されていたことからすれば,前記(1)の 著作権侵害による損害額は,本件旧プログラムが違法に複製されたパソコ\nンごとに,その使用期間に応じたライセンス料相当額と認めるのが相当で ある。 本件旧プログラムの平成30年3月までの使用期間は,平成26年3月 にインストールされた2台につき各49か月,平成28年9月にインスト ールされた1台につき19か月,同年10月にインストールされた5台に つき各18か月,平成29年12月にインストールされた1台につき4か 月,平成30年1月にインストールされた1台につき3か月の累計214 か月となる。 そして,このうち,平成26年3月分については,当時の消費税率に基 づいた1台当たり月額4万4100円(4万2000円×1.05)とし て,平成26年4月分ないし平成30年3月分については,当時の消費税 率に基づいた1台当たり月額4万5360円(4万2000円×1.08) として,それぞれ算定すると,次のとおり,損害額合計は970万452 0円と認められる。
4万4100円×2か月+4万5360円×212か月=970万4520円
イ(ア) 原告は,著作権侵害の不法行為に基づく損害額の算定に当たっても, 債務不履行に基づく場合と同様に,本件プログラムが複製されたパソコ\nンの台数ではなく,本件プログラムを使用した医師会数を基準としてラ イセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記1(4)のとおり,被告会社は,本件旧プログラムを 使用するに当たり,医師会ごとにバックアップデータを作成し,作業し たい医師会に合わせて,その都度使用するバックアップデータを切り替 えることにより,本件旧プログラムをインストールした1台のパソコン\nで複数の医師会に係る作業を行っていたところ,このような被告会社の 行為が本件旧プログラムを有形的に再製するもの,すなわち複製とは認 められないし,違法な複製がされたことを前提とする著作権法113条 2項のみなし侵害に該当するともいえない。 そうすると,前記(1)の著作権侵害行為と相当因果関係のある損害とし て,医師会数を基準としたライセンス料相当額の損害が発生したとは認 められないから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 被告らは,原告のホームページに記載された料金表(乙7)に基づい\nて,前記アのライセンス料相当額を算定すべきと主張する。 しかしながら,前記2(4)イで検討したとおり,本件平成20年契約に おけるライセンス料相当額を算定にするに当たって,原告のホームペー ジに記載された通常の料金表(乙7)が適用されるとは認められないから, 同料金表に基づいて算定するのは相当ではなく,被告らの上記主張は採\n用することができない。

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平成30(ワ)19441  損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月28日  東京地方裁判所

 被告製品には当該構成要件が存在するとはいえないとして、技術的範囲外と認定されました。\n

 本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気\nが導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その\n空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機 構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという\nものである(前記(1))。 原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ バー穴が「排出部」であると主張する。 原告は,原告実験1−1から1−3,2−1から2−3,3−1,3 −2,3−3(前記(2)オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1−1,1−2, 2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1−1,2−1,3−1, 被告実験1−1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1− 2,1−3,2−2,2−3,3−2,3−3,被告実験1−2が小型 ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃 焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。 ここで以下の(ウ)ないし(オ)のとおり本件に提出された証拠によって は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう, 側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された 空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1−3(前 記(2)オ(ウ) において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察 できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には, 作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受 けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動 部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側 のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証 拠はない。 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記(2)ア(イ) そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被\n告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同\nイ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影 響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも, ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に 上昇しており(同オ ,(ア)(イ))帰化冷却はガス容器を用いた燃焼の最 終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の 一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却 に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
以上のとおりの原告実験1−3における側面開口付近の空気の流れ, 被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影\n響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器, ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部, ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認 めるに足りない。

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令和2(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 薬品の特許について、公知文献の記載は技術的な裏付けがない仮説にすぎないとして、進歩性違反なしとした審決を維持しました。

(ア) ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に関する本件優先日当時 の知見について
前記ア(ウ),(エ),(カ),(ケ)の各記載からすると,本件優先日当時までに,Co wanらは,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間には関連性が あることを提唱していたものと認められる。 しかし,これらの証拠によっても,本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシ ン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実 証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに, 甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割に ついては,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルー ミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。 加えて,前記ア(ア)のとおり,昭和35年に発表された甲25では,そもそもラッ\nトのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何 も知られていないとされており,前記ア(キ)のとおり,平成4年に発表された甲27\nでも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があ\nるとの指摘がされており,前記(2)ア(オ)のとおり,平成7年に発表された甲9にお\nいても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compo und48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング 中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどと されており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘 発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの 見解を有していたと認められる。 そして,前記(2)ア(オ)のとおり,甲9は,Compound48/80やサブス タンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤とし てボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボン ベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていた ものであるとは,本件における証拠上認められない。 以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの 提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる。
(イ) オピオイドκ受容体作動性化合物とボンベシン誘発グルーミング・引 っ掻き行動との関係について
前記ア(イ)〜(カ),(ケ),(コ)の記載を総合すると,本件優先日当時までに,ベンゾモ ルファン,エチルケタゾシン,チフルアドム,U−50488,エナドリンといっ たオピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行 動を減弱すること,他方で,同じオピオイドκ受容体作動性化合物であっても,S KF10047,ナロルフィン,ICI204448といったものは,ボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないこと,さらに,オピオイドμ受容体 作動性化合物であるフェナゾシン,オピオイドκ受容体作動作用を有することにつ いて報告がされていない化合物(乙6〜11)であるメトジラジン,トリメプラジ ン,クロルプロマジン,ジアゼパムのようなものであっても,ボンベシン誘発グル ーミング行動が減弱されることが,Cowanらによって明らかにされていたとい える。
また,前記ア(エ),(カ)の記載及び弁論の全趣旨を総合すると,上記のボンベシン 誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するオピオイドκ受容体作動性化合物の基 本構造は,それぞれ異なっており,エチルケタゾシンはベンゾモルファン骨格,チ\nフルアドムはベンゾジアゼピン骨格,U−50488及びエナドリンはアリールア セトアミド構造をそれぞれ有しており,甲1発明の化合物Aとはそれぞれ化学構\造 (骨格)を異にするものであった。そして,前記ア(ク)のとおり,化学構造の僅かな\n違いは,薬理学的特性に重大な影響を及ぼし得るものである。 以上からすると,本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベ シン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって\n提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き 行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からな い状態であったと認められる上,上記(ア)のとおり,ボンベシンが誘発するグルーミ ング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地 が大いに残されている状況であったと認められる。
(ウ) 上記(ア),(イ)を踏まえて判断するに,前記ア(イ)〜(カ),(ケ)のとおり, 本件優先日当時,Cowanらは,1)ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動 が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,2)オピ オイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミ ング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。 しかし,上記1)の点については,上記(ア)のとおり,技術的裏付けの乏しい一つの 仮説にすぎないものであった。 上記2)の点についても,上記(イ)のとおり,本件優先日当時において研究の余地が 大いに残されていた。 そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピ オイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲\n1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできな いというべきである。
(エ) 小括
以上からすると,当業者が,甲1発明に甲2〜9,12などから認定できる一連 のボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物 に関する知見を適用し,本件発明1を想到することが容易であったということはで きないというべきであり,取消事由1は理由がない。
ウ 原告の主張について
原告は,これまで認定判断してきたところに加え,1)本件審決は,技術常識が存 在しないことから直ちに動機付けを否定してしまっており,公知文献から認められ る仮説や推論からの動機付けについて検討しておらず,裁判例に照らしても誤りで ある,2)甲63によると,ダイノルフィンAと同じオピオイドκ作動作用を持つ化 合物は,痒みや痛みを抑制することが容易に予測でき,甲1の化合物Aを使用して\n止痒剤としての効果を奏するかを確認してみようという動機付けも肯定できると主 張する。 しかし,上記1)について,仮説や推論であっても,それらが動機付けを基礎付け るものとなる場合があるといえるが,本件においては,Cowanらの研究に基づ いて,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることが動機付けられるとは認めら れないことは,前記イで認定判断したとおりであり,原告が指摘する各裁判例もこ の判断を左右するものとはいえず,原告の上記1)の主張は採用することができない。 上記2)について,本件明細書には,前記1(1)イのとおり,甲63にダイノルフィ ンと共に挙げられているエンドルフィン,エンケファリン(前記ア(サ))が,痒みを 惹起することが記載されている上,前記ア(サ)のとおり,甲63が,痒みと痛みの関 係は明確ではなく,研究を更に行わなければならないと結論付けているところから すると,甲63の記載が,ダイノルフィン,エンドルフィン,エンケファリン等の 内因性オピオイドが,止痒剤の用途を有することを示唆するものであるとは認めら れず,甲63の記載から,当業者が,甲1の化合物Aについて,止痒剤としての効 果を奏するかを確認することを動機付けられるとは認められない。 そして,その他,原告が主張するところを考慮しても,前記イの認定判断は左右 されないというべきである。

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令和2(行ケ)10030  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反ありとした審決が取り消されました。理由は、先行技術甲1に接した当業者は,甲1の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないので、甲1に本件周知技術を適用する動機付けがないというものです。\n

 原告は,本件審決は,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥 没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具 と接続管とで挟持取付けること」(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術 にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の「縁部 2」の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥\n没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取 付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者\nが容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用 する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので, 以下において判断する。
ア 甲1発明は,「浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する 方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には, 排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水 ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を 保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン 5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へ ネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており, 排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が 挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させ たりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽 の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面 コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排 水装置」(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線に おける断面図であること(前記2(2)イ(イ)),甲1の「ここでは,唯一の図 面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示さ れた一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は, 貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排 水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有してい る。・・・排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペ ット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。」 (前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開 口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。 そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲 しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上\n部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキ ン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り 付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持 取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。 また,甲1の記載事項全体(図面を含む。)をみても,縁部2が排水カップ 6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの\n強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載 もない。
イ 次に,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に 内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管と で挟持取付けること」(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ とは,前記(1)イのとおりである。 他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部 に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構\n成の作用等について述べた記載はない。 また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内 向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図\n面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ る構成よりも優れていることを示唆する記載はない。\n
ウ 前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構\n成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識 するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用す\nる動機付けがあるものと認めることはできない。 したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明に おいて,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到すること\nができたものと認めることはできない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,1)本件発明の「内向きフランジ部」は,円筒状陥没部の底部か ら縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付ける ものである必要があり,かつ,それで足りるところ,甲1発明の縁部2は, 断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも 延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口 部を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで 挟持取付けられるものである点において,本件発明の「内向きフランジ部」 と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,2)本件明細書の【0013】 の記載に照らすと,本件発明の「内向きフランジ部」は,「円筒状陥没部」 の底部に位置することで排水口金具が「水槽の底部1」に露出しない状態 で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明 の縁部2も,「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部 1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点にお いて,本件発明の「内向きフランジ部」と機能及び作用が共通するとして,\n甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能\ 及び作用が共通しているから,本件発明の「内向きフランジ部」と実質的 に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。 しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の「内向き フランジ部」に関し,「水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状 陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管と で挟持取付けられて排水口部を形成」されること,「その円筒状陥没部内 を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径である」 ことの記載はあるが,本件発明の「内向きフランジ部」の形状や構造を\n規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の「内向 きフランジ部」の用語を定義する記載はない。 一般に,「フランジ」とは,「管を他の管または機械部分と結合する際 に用いる鍔型の部品。」(広辞苑第七版)を意味することからすると,本 件発明の「内向きフランジ部」とは,円筒状陥没部において内側に向け て形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合 の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。 しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向か って形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて 形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の「内向きフランジ 部」に相当するものと認めることはできない。 このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点におい て,本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり,その作\n用にも差異があるといえるから,本件発明の「円筒状陥没部の底部に形 成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて」 いる構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで\n挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることは\nできない。
(イ) したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は, 理由がない。
イ また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部 の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と 接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知で あったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性 等を考慮し,甲1発明の「縁部2」に本件周知技術を適用することによっ て,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することがで\nきた旨主張する。 しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用する ことができない。

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令和2(ネ)10060 商標権侵害差止等請求控訴事件  商標権  民事訴訟 令和3年4月21日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 ビクトリノックスの黒字に白十字を二重の外枠で囲った登録商標についての、商標権侵害訴訟です。侵害被疑者は赤十\字が登録できない(商標法4条)ので、十字部分は要部ではないと争いましたが、知財高裁は侵害とした東京地裁の判決を維持しました。\n

(1) 十字部分の色彩等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,標章において色彩が類否に大きく影響すること,十字部分を有\nする標章は特に十字部分の色彩が類否に大きく影響することを前提として,\n被控訴人商標と控訴人標章1,3は外観,称呼,観念が異なり,類似しない と主張するが,控訴人の主張を採用することはできない。以下,詳述する。
ア 標章において色彩が類否に大きく影響するという控訴人の主張について 控訴人は,例えば,国旗において色彩が重要な要素であるように,標章 は,同一の文字や図形の結合等であっても,色彩の相違によって印象が異 なるものであり,現に,商標法70条1項は,色彩を登録商標と同一にす れば登録商標と同一の商標となる場合であっても,色彩が異なれば登録商 標に類似しない商標があることを前提としており,このことは,色彩以外 が同一であり色彩だけが異なっている商標が非類似になることを示して いるとし,そのため,商標の類否判断に色彩が大きく影響すると主張する。 しかし,国旗において色彩が重要な要素であるとしても,国旗の例が直 ちに商標に当てはまるものではない。また,標章において,文字や図形は 色彩に劣らず重要な要素であり,商標法70条1項が,色彩を登録商標と 同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの を,登録商標に類似の商標にとどまるとするのではなく,登録商標に含ま れるとしていることからすれば,文字や図形が同一であって色彩のみが異 なる商標は,登録商標と同一の商標と認められる場合が多いといえる。そ のため,控訴人の上記条項の理解は不適切であり,同条項に基づき,標章 において色彩のみが類否に大きく影響するということはできない。なお, 色彩が識別性等の観点から大きな意味を有しており,色彩のみが異なるこ とにより全く違う商標となってしまうような例外的な場合について商標 法70条1項が適用されないとする余地があるとしても,上記の認定は左 右されない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 十字部分を有する標章は特に十\字部分の色彩が類否に大きく影響すると いう控訴人の主張について 控訴人は,商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標\nについて商標登録を受けることができないと定めており,赤十字の標章及\nび名称等の使用の制限に関する法律1条は,白地に赤十字の標章若しくは\n赤十字の名称又はこれらに類似する記章若しくは名称をみだりに用いる\nことを禁じていること,緑と白で構成された十\字の標章は,安全標識とし て定められていることから,十字部分を有する標章においては特に十\字部 分の色彩が類否に大きく影響すると主張する。 しかし,赤十字の標章や安全標識について上記の事実があるとしても,\n赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ,十\字部分を含む商標の登 録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十\字部分の色彩 が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な 構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十\字部分を有す る標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということ\nはできず,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウ 被控訴人商標と控訴人標章1,3の類否について 控訴人は,被控訴人商標と控訴人標章1,3は,外観,称呼,観念が異 なり,類似しないと主張する。 しかし,原判決の説示するとおり(原判決9頁6行目ないし10頁10 行目),被控訴人商標と控訴人標章1は,外観が類似しており,いずれも 「ジュウジ」「クロス」などの同一の称呼及び「十字」「クロス」などの\n同一の観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標と控訴人標章 1は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両者は類似する と認められる。また,原判決の説示するとおり(原判決11頁5行目ない し12頁14行目),被控訴人商標と控訴人標章3は,外観が類似してお り,同一の称呼及び観念が生じ,取引の実情を踏まえると,被控訴人商標 と控訴人標章3は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり,両 者は類似すると認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。
(2) 十字以外の部分等に基づく類否の主張について\n
控訴人は,商標法4条1項1号が,国旗と同一又は類似の商標は商標登録 を受けることができないと定めていることからすると,被控訴人商標が登録 されているのは,スイス国旗と類似していないからであり,そうであるとす ると,被控訴人商標のうち,スイス国旗と似ている十字部分は要部ではなく,\n円弧からなるループ状図形が要部であるとした上で,被控訴人商標の円弧か らなるループ状図形の外周と控訴人各標章の正方形部分の外周は,形状,色 彩,観念が異なるとし,被控訴人商標の指定商品と同一又は類似の商品に使 用された控訴人各標章が外観,観念等によって取引者,需要者に与える印象, 記憶,連想等は,被控訴人商標とは全く異なるものであるから,被控訴人商 標と控訴人各標章は類似しないと主張する。 しかしながら,被控訴人商標が登録されているのは,スイス国旗と類似し ていないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち, 十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の\n比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。商標の類否は, 外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を 総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきもの であるところ,被控訴人商標と控訴人各標章は,いずれも十字部分と外周部\n分からなり,十字部分は被控訴人商標及び控訴人各標章の中心にあって目立\nつ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標\nと控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。そのため,十字\n部分以外の周囲の部分の比較により被控訴人商標と控訴人各標章は非類似で あるとする控訴人の上記主張を採用することはできない。

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1審は東京地裁ですがなぜかアップされていません。 こちらは同商標権に対する不使用審決取消訴訟です。審決は不使用と認定しましたが、知財高裁はこれを取り消しています。

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令和2(行ケ)10125 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月27日  知的財産高等裁判所

 商標「六本木通り特許事務所」が識別力無しとした審決が維持されました。

 本願商標は,「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなり,指定役務を第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」と\nするものである。 本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は,昭和59年(1984年)に,起点を東京都千代田区霞が関2丁目,終点を渋谷区渋谷2丁目とする道\n路に東京都が設定した通称名を意味する語である(乙1)。また,本願商標 の構成中の「特許事務所」の文字は,弁理士等が業務を行う事務所を意味する語であり(弁理士法76条1項参照),弁理士は,特許,実用新案,意匠,\n商標等に関する特許庁における手続等の代理又はこれらの手続に係る事項に 関する鑑定その他の事務を行うこと等をする者であり(弁理士法4条参照), 事務を行う者が所在する事務所があたかも事務を行う主体と呼ばれることは 慣用の表現であるから,「特許事務所」は,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称と認識されるものである。\nそうすると,本願商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と, 特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文 字とを結合したものと認識,理解されるものである。
(2) 本願商標の指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の 代理」は,「特許に関する手続の代理」の範囲を「スタートアップ」に係る ものに限定したものであり,語義からして「特許に関する手続の代理」に含 まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。\nまた,本願商標の構成中の「六本木通り」は,本件審決時である令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれてい\nる道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると 理解される。
そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願 商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」と の文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の 文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これ を「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手 続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。 以上からすると,「六本木通り特許事務所」との文字は,六本木通りに近 接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明し ているにすぎず,本願商標の指定役務の需要者において,他人の同種役務と 識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって,その 構成自体からして,本願商標の指定役務に使用されるときには,自他役務の出所識別機能\を有しないものと認められる。 したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当するものというべき であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の指定役務の分野において「〇〇通り□□事務所」の 文字が広く採択,使用されているとの本件審決の認定は誤りである,ある いは本願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」 という名称の法律事務所が多数あるとしても,「〇〇通り法律事務所」と の名称に自他役務の出所識別機能がないと根拠付けることはできない旨主張する。\n
確かに,これらの主張については,当裁判所としても首肯し得る面もあ る。しかしながら,そもそも本願商標の指定役務の分野において「〇〇通 り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの事実の有無や,本 願商標の指定役務を取り扱う法律事務所や「〇〇通り法律事務所」という 名称の法律事務所が多数あるとの事実の有無等が,本願商標の自他役務の 出所識別機能の有無の判断に当たって必要な前提事実となるものではないから,これらの点に関する本件審決の認定に誤りがあるとしても,その\n認定の誤りが結論を左右するものではなく,本願商標に自他役務の出所識 別機能を認めることができないことについては,前記⑵において認定判断 したとおりである。したがって,原告の上記主張は,結論を左右しない点に関する誤りを主張するにすぎず,採用し得ない。
イ 原告は,「〇〇通り□□事務所」の語は,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた意味だけを有するものではないから,本願商標も,その\n全体において造語として需要者に印象付けられる旨主張する。 一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通\n称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続 の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれ とは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何 人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っている ことを何ら具体的に主張立証していないから,原告の上記主張は,その前 提を欠くものというべきであって,採用することができない。
ウ 原告は,本願商標は,新規で意外性のある造語である旨主張する。 しかしながら,商標の構成についていえば,「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構\成をとる商標は多数の例が認められ(乙7ないし 51),法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得 る事務所であるから(弁護士法74条1項,3条2項参照),「法律事務 所」を「特許事務所」と言い換えて「○○通り」と「特許事務所」との組 合せとしたとしても,格別,新規なものとは認識し得ないといえ,その構成に意外性もない。また,前記のとおり,本願商標の構\成中の「六本木 通り」の文字は,35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている 道路の通称名であり,本願商標の構成中の「特許事務所」は,本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから,この両語の組\n合せから新規な意外性を生じるということもできない。

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平成30(ワ)5041  損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 損害賠償不存在確認訴訟です。 国際裁判管轄の有無、訴えの準拠法、確認の利益の有無、など争点はたくさんです。民訴法3条の9の特別の事情があると認めるとして,訴えは却下されました。

   被告の主たる事務所は日本国内にあることから,本件各請求に係る訴えのい ずれについても,日本の裁判所が管轄権を有する(民訴法3条の2第3項)。 もっとも,その場合でも,事案の性質,応訴による被告の負担の程度,証拠の所 在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間 の衡平を害し,又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があ ると認めるときは,裁判所は,その訴えの全部又は一部を却下することができる (同法3条の9)。そこで,本件各請求に係る訴えにおいて,それぞれ,上記「特 別の事情」があると認められるかについて,以下検討する。
(ア) 前記イ(ア)のとおり,請求1−1は,別件米国訴訟と同一の訴訟物に関するも のである。 また,本件において,本件各装置が本件米国特許に係る発明の実施品であること, 本件各装置が参加人から SKC 等に販売されたこと及び原告が本件各装置を使用し て本件各製品を製造したことについては,当事者間に争いはない。本件での主要な 争点は,本件許諾契約により参加人が許諾された本件実施権の範囲,すなわち,参 加人の販売先に関する制限の存否といった本件許諾契約の解釈である。他方,別件 米国訴訟においても,その経過(前記イ(イ))から,消尽及び黙示のライセンスの抗 弁は主要な争点として位置付けられ,本件許諾契約の解釈につき,日本法の専門家 の各意見書及び関係者の供述書並びにそれを踏まえた主張の提出,陪審公判での証 人尋問といった形で,原告等と被告とが主張立証を重ね,陪審及び加州裁判所の判 断の対象となっている。その意味で,本件と別件米国訴訟とは,争点を共通にする ものといえる。 しかも,別件米国訴訟の提起は平成22年7月であり,本件の訴え提起までの約 8年間,こうした主張立証が行われ,その結果として,別件評決及び加州裁判所の 別件米国判決に至ったものである。なお,この間,原告が日本において請求1−1 に係る訴えのような訴訟を提起することを妨げる具体的事情があったことはうかが われない。
これらの事情を総合的に考慮すると,別件米国訴訟につき加州裁判所の別件米国 判決がされるまでは,原告は,日本において請求1−1に係る訴えのような訴訟を 提起する考えはなく,別件米国判決を受けたことを契機に,その結論を覆すべく請 求1−1に係る訴えを提起したものと理解される(別件米国判決の基礎となった証 拠方法の重大な瑕疵等を度々指摘する原告の主張からも,原告のこのような意図が うかがわれる。)。他方,請求1−1に係る本件の訴えに応訴すべきものとした場 合,被告は,時期を異にして別件米国訴訟と共通する主張立証活動を重ねて強いら れることとなるのみならず,別件米国判決の結論を本件において覆そうとする以上, 原告は別件米国訴訟では行わなかった主張立証を追加的に行う蓋然性が高いと見ら れるところ,これに対する対応を強いられることで,被告にとっては,更なる応訴 の負担を新たに生じる蓋然性も高いといえる。 そうすると,本件許諾契約はいずれも日本法人である被告と参加人との間で締結 されたものであり,関連する証拠も,多くは日本語で作成されていること又は日本 語を解する者である蓋然性が高く,その所在も多くは日本国内にあると見られるこ とを考慮しても,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び裁判 をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民訴法3条の9)があると認め られる。
(イ) これに対し,原告は,日本の裁判所で審理をすることが必要かつ適切である こと,別件米国訴訟の重複・蒸し返しに当たらないこと,別件米国判決は日本にお いて承認されないことなどを指摘して,特別の事情があるとはいえない旨主張する。 しかし,請求1−1に係る訴えに関する限り,日本の裁判所で審理をすることが 必要かつ適切であるとは必ずしもいえないこと,別件米国訴訟の蒸し返しに当たる と見られることは,上記のとおりである。別件関連訴訟が係属しているといっても, 請求1−1に係る訴えとは当事者及び訴訟物を異にする別の事件である以上,その 主張立証の負担をもって本件における主張立証の負担を無視ないし軽視し得ること にはならない。
また,別件米国判決が日本において承認されないとする根拠として,原告は,別 件米国判決が重大な瑕疵のある証拠に依拠するものであることを指摘する。しかし, そのような誤りは本来的には米国の訴訟手続を通じて是正されるべきものであると ころ,かえって,別件米国判決は,CAFC においても承認され,確定している。こ のことと,再審事由(民訴法338条)に該当するような具体的な事情もないこと に鑑みると,日本法に照らしても,原告の上記指摘は別件評決及び別件米国判決の 依拠する証拠評価に対する不満をいうにすぎず,これをもって外国の確定判決の効 力が認められる要件である「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は 善良の風俗に反しないこと」(民訴法118条3号)を欠くとはいえない。 さらに,原告は,別件米国判決が承認された場合に,別件関連訴訟につき参加人 の被告に対する損害賠償請求等の判決が確定すると両者に矛盾が生じることなどを 指摘して,その点からも別件米国判決は承認されるべきものではないとする。しか し,別件関連訴訟が原告の主張するとおりに帰結するか否かは,請求1−1に係る 訴えの提起の時点では不明というほかない。この点を措くとしても,別件関連訴訟 は,本件とも別件米国訴訟とも当事者及び訴訟物を異にするものであるから,その 判決の効力は原告と被告との関係に及ぶものではない。 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。
(ウ) 以上のとおり,請求1−1に係る訴えについては,日本の裁判所が審理及び 裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情があると認められるから,こ れに係る訴えを却下することとする。

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令和2(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 三つのハート形を一筆書き風に表した図形の下に欧文字「SMS」と記載した商標について、別の図形の下部に欧文字「SMS」と記載した商標と類似するとして、無効とされた審決が維持されました。本件と引用商標は判決文の末尾にあります。\n

 前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標の類否判断においては,それぞれ, 「SMS」の文字部分を抽出し,これらを対比することになり,称呼は同一となる。 また,本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」からは,特定の観念を生 じない。そして,各「SMS」の文字の外観については,本件商標と引用商標とでは,書体が異なるが,特段書体に特徴があるとはいえないから,この差異によって,両文 字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。また,本件商標の色彩は黒色である のに対し,引用商標3の色彩は青色を基調にして白色が混入している点で差異があ るが,このような差異は些細な差異であるから,この差異によって,両文字の外観 に異なる印象が生じるとはいえない。したがって,本件商標の「SMS」と引用商 標の各「SMS」とでは,外観も類似しているといえる。
・・・・
原告は,本件商標全体と引用商標全体を対比して,それらの類否判断をす べきであると主張するが,前記2〜4のとおり,本件商標及び引用商標は,いずれ も,外観上,「SMS」の文字部分と他の部分は明確に区別され,これらを分離して 観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認めら れないから,本件商標及び引用商標から「SMS」の文字部分を抽出して,類否判 断をすることは相当であり,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。 また,甲26のアンケートは,「SMSという言葉を聞いたことがありますか?」, 「SMSとは何か知っていますか?」,「いつごろからSMSについて知っています か?」の三つの質問について,それぞれ「ある,ない」,「知っている,知らない」, 「 年ごろから」との回答を求めるというアンケートであることが認められるとこ ろ,上記の質問内容からすると,同アンケートにおいて,SMSを知っているとの 回答があったとしても,その回答者が,「SMS」がどのような意味を有するものと 認識していたかは明らかではないから,同アンケートから,「SMS」が「ショート メッセージサービス」の略語を意味することが一般的に認識されていたと認めるこ とはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,商標の登録例を考慮すると,本件図形部分は,十分な出所識別力\nを有し,また,本件商標も十分な出所識別力を有すると主張する。\nしかし,本件図形部分や本件商標が十分な出所識別力を有することから直ちに,\n他の商標との類否判断において,本件文字部分を抽出することができないことには ならないから,原告の上記主張は理由がない。
(4) 原告は,「SMS」の文字を含む商標が商標登録された事例を挙げて,「S MS」の文字を含む商標の他の商標との類否判断においては,「SMS」の文字 と他の文字又は図形は一体不可分に判断されるべきであるなどと主張する。 しかし,前記1のとおり,商標の類否判断は,外観,観念,称呼等によって取引 者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,かつ,具体的な取引状況に基づ いて行うものであり,事案ごとの具体的な事実に基づく判断となるものであって, 「SMS」の文字を含む他の商標についての特許庁における類否判断の結果によっ て,本件訴訟における本件商標と引用商標の類否判断が左右されることはない。

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平成31(ワ)2597等  著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月26日  東京地方裁判所

 おみくじについての著作権侵害について、114条1項に基づく損害賠償が認定されました。販売不可事情による減額もなしです。

 原告は,本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており (甲10,乙7の1,2,弁論の全趣旨),その販売価格は1枚当たり120 円である(甲11の1,2)。そのおみくじについて,印刷,用紙及び折り畳 みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であ って(甲12),その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追 加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認めら れるから,原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの 利益額は70円を下回ることはないと認められる。
・・・
以上によれば,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,以下の計 算式のとおり,572万8590円となる。
(計算式)
70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)(被告の譲渡数量)=572万8590円
原告は,著作権侵害について,予備的に著作権法114条2項に基づく額\nを主張するが,原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1 項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから,予備的な\n主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認めら れない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
本件文書1において,その内容が真逆になるような内容の改変がされるこ とは,おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえる\nことに加え,その他,本件にあらわれた の著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5 0万円をもって相当であると認める。

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平成30(ワ)5948  損害賠償請求事件  著作権 令和3年1月21日  大阪地方裁判所

 舟券購入のプログラムについて著作物性、翻案かが争われました。裁判所はこれを認め、約1.4億円の損害額を認めました。ただ請求が一部請求したため1400万の損害賠償額です。

 プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,そ\nの指令の表現の組合せ,その表\現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があ り,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表\現上の創 作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年\n(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)。
イ そこで検討するに,前記1(5)で認定したところによれば,原告プログラム は,市販のプログラム開発支援ソフトウェアである Microsoft Visual Studio を使用 して Microsoft Visual Basic 言語で記述されているから,ソースコードを個別の行\nについてみれば,標準的な構文やありふれた指令の表\現が多用されており,独創的 な関数等は用いられていない。 しかしながら,前記(5)イについては,一定の画面表示を得るために複数の記述\n方法が考えられるところ,一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ,独自のメ ソッドを作成して独自の構\成で記述しており,同ウ及びエについては,一定の処理 方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが,やはり,一定の結果を得るため にどのように指令を組み合せ,どの範囲で構造体を設定し,配列・構\造化するかに は様々な選択肢が考えられるところ,その具体的な記述は,一定の意図のもとに特 定の指令を組み合わせ,多数の構造体を設定し,配列・構\造化した独自のものにな っている。
また,同オについては,HTML データから一定の情報を抽出する指令の記述は 選択の幅があるところ,メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認 められ,同カについても,人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をする ことを想定して作成されている投票サイトのサーバーに,人間の操作を介さずに必 要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複\n数考えられるところ,複数の方式を適宜使い分けて記述し,一連の舟券購入動作を 構成していることが認められる。\nそうすると,前記イないしカのソースコードには表\現上の創作性があるといえ, これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも,表\現上の創作性が認め られるというべきである。
ウ 被告ら(被告エーワンを除く。以下同じ。)は,原告プログラムの機能は,\n原告プログラムを利用せずに競艇公式ウェブサイト等により実行できると主張する が,競艇公式ウェブサイト等で人間の動作として情報を得たり舟券の購入をしたり することと,原告プログラムにより情報を得たり自動的に舟券を購入したりするこ とは異なるから,原告プログラムに創作性がないとする理由にはならない。 また,被告らは,原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイト で公知であると主張するが,プログラムに入力される変数であるレース情報等のデ ータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく,失当である。 さらに,被告らは,原告プログラムのうち自動運転機能の部分は,既存のソ\ース コードを単純作業により組み合わせたものであり,「Boat Advisor」等の類似のソ\nフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら,前記のとおり,原告プログ ラムは,独自の指令の組合せ,構造体等の設定,構\成によって記述されており,あ りふれたものとはいえず,証拠(乙2)をみても,「Boat Advisor」はレース予\n想,データ分析を主たる機能とするソ\フトウェアであり,原告プログラムのように 舟券を自動購入するものであるとは認められず,原告プログラムがありふれたソー\nスコードによって構成されているものとはいえない。\n原告プログラムに著作物性がないとの被告らの主張は,採用できない。
(2) 争点2(被告プログラムは,原告プログラムを複製又は翻案したものか) について
ア 前記1(3)で認定したところによれば,被告プログラムは,被告P4がP7 より入手した原告プログラムについて,被告P3において逆コンパイルを行うと共 に難読化を解除し,期待値と称する機能を追加した以外は,逆コンパイルによって\n得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから,少なくともそ\nのまま利用した部分において,被告プログラムは,原告プログラムを複製したもの ということができる。
イ また,前記1(6)で認定したところによれば,被告プログラムは,少なくと も,原告プログラムの BoatRaceCom.DLL 及び Kcommon.DLL を複製して作成され たことが明らかである。 さらに,被告プログラムは,原告プログラムと画面表示やモジュール名がほぼ同\nじであること,マニュアルに記載された機能が原告プログラムとほぼ同一であるこ\nとも,上記アの結論と合致する。
ウ 被告らは,被告プログラムは,被告プログラム独自のアルゴリズムで算出さ れた期待値(人気指数)に基づく予想をユーザーに提供するものであって,その部\n分に創作性があり,原告プログラムとは全く異なるものであると主張する。 被告らが主張する期待値の機能については,本件の証拠によっても判然とはしな\nいが,仮に,より勝率が高くなることが期待される買目を計算して推奨し,舟券を 自動購入する機能を追加した点で,被告プログラムは原告プログラムと異なる旨を\nいう趣旨であるとしても,原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化,発\n展させたものと理解し得るものであると共に,既に認定したとおり,被告プログラ ムは,期待値の機能を追加した以外の部分については,原告プログラムを複製した\nものをそのまま利用しているとされるのであり,全体として,被告プログラムは, 原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから,少なくとも翻案に あたることは明らかというべきであり,被告プログラムの作成は,原告プログラム についての原告らの著作権を侵害するものである。 なお,被告らは,被告プログラムに「買目切捨」や「保険買目」など,原告プロ グラムにはない機能があると主張するが,被告P3において,期待値の機能\以外は 原告プログラムと異なる機能はないと供述していること,前記のとおり,マニュア\nルや画面が同じであること,原告プログラムにも同一の機能があることから,当該\n主張は上記結論を左右するものではない。
・・・
前記1の(2)ないし(4)によれば,P7は1本20万円を原告らに支払って取 得した原告ソフトウェアを1本50万円から80万円で約30本販売したこと,被\n告P5は,被告エーワンの名義で,被告ソフトウェア約70本を1本60万円から\n100万円で販売し,その中に,平成28年5月2日のP8に対する100万円の 売買が含まれること,以上の事実が認められる。なお,被告ガルヒが被告ソフトウ\nェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは前記1の (4)で認定したとおりであるが,これに対応する140本の被告ソフトウェアが販\n売されたと認めるに足りる証拠はない。
イ 以上によれば,被告らは,被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し,う\nち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し,その余は少なくと も1本60万円で販売したと認めるのが相当であり,ここから控除すべき経費等の 主張はないから,被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は,少なくと\nも4240万円であると認められる。 そうすると,著作権法114条2項により,原告らの受けた損害額は4240万 円,著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。 また,損害のうち100万円(各50万円)は,平成28年5月2日に被告ソフ\nトウェアが販売されたことによるものであり,被告エーワンを含む被告らは,同日 から遅滞の責を負う。その余については販売時期が不明であり,前記のとおり,被 告ソフトウェアが3から4か月間販売されていたことからすれば,遅くとも同年9\n月2日までには,その余の損害すべてに係る侵害行為が行われたと認められるか ら,原告らのその余の損害について,被告らは,同日から遅滞の責を負うものと認 められる。

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平成30(ワ)37847  共同著作権に基づく利得分配請求等事件 令和3年1月21日  東京地方裁判所

 共同著作者であるかが争われました。創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしたものとまで認められないと判断されました。

 2人以上の者が共同して創作した著作物であって,その各人の寄与を分離 して個別的に利用することができないものを共同著作物というところ(著作 権法2条1項12号),共同著作者に当たるというためには,当該著作物の制 作に際し,創作と評価されるに足りる程度の精神的活動をしている必要があ るというべきである。 そこで,原告において本件各作品の制作に際し,かかる創作的関与が認め られるか否かにつき見るに,上記1(1)イ及びウで認定したとおり,原告は, 本件各作品の制作を企図した被告Aから,制作への協力を依頼され,台詞を 読み上げる声優の候補者を数人紹介し,被告Aが制作したシナリオや指示に 沿う形で,効果音の収録や編集の作業を担当したにとどまっているものであ り,これらの原告の関与の性質・内容に照らせば,ボイスドラマであるとい う本件各作品の性質に照らしてもなお,原告が,本件各作品の制作に際し, 創作行為を行ったものとみることは困難というほかない。そうすると,本件 各作品の制作に際するこれらの関与について,原告が,創作と評価されるに 足りる程度の精神的活動をしたものとまで認めるに足りないというべきであ り,原告が本件各作品の共同著作者に当たるものとは認められない。
(2) これに対し,原告は,本件各作品の制作に際し,1)声優を選択した点,2) セリフや表現方法につきアドバイスをした点,3)効果音を選択・収録した点, 4)全体の長さを一定時間内におさめるよう編集した点において,創作的に関 与した旨を主張する。 しかしながら,1)の点については,上記のとおり声優の候補者を紹介した にとどまるものであり,2)の点については,その具体的内容は判然としない が,いずれにしてもアドバイスをしたにとどまるものであり,3)及び4)の点 については,具体的な作業を担当したとしても,上記のとおり,被告Aが制 作したシナリオや指示に沿う形で作業を行い,被告Aのチェックを受けてい たものである。これらからすれば,たとえ原告において上記1)ないし4)の点 において尽力した旨の認識であったとしても,そのいずれも,原告の創作的 な精神活動がなされたことを具体的に基礎付けるものとまでは言い難い。そ うすると,原告の上記主張は,原告の創作的関与を否定した上記認定を左右 するものではなく,同主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10110 決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所

 加圧トレーニングに関する発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

 これに対して,原告は,前記第3の1(1)のとおり,甲1に引用された実 施例と本件発明3の実施例は,全く同一であり,自然締付け力を付与され ていない状態とする効果を生じさせるための新たな構成要素が付加されて\nいるわけでもないし,仮に,本件優先日当時,自然締付け力を皆無にする 施術が広く実施されていなかったとしても,加圧力の範囲は,身体に対す る負担や得られる効果を勘案しつつ適宜決定し得る程度の事項である旨主 張する。 原告の主張は,本件明細書と甲1の明細書を対比すれば,本件明細書の 図1ないし図7が甲1の明細書の図1ないし図7と同一であること,すな わち,本件発明3と甲1−3発明でそれぞれ用いられる緊締具,加除圧制 御装置及び加除圧制御システムが同一であることを指摘するものと解さ れるが,そうであるとしても,甲1−3発明には,加圧工程と除圧工程を 交互に繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに 緊締具が所定の部位に与える締付け力について,特定部分を締付ける加圧 力を付与しない状態,すなわち,自然締付け力による加圧力も付与しない 状態に制御することについての記載も示唆もないことは前記(1)のとおり である。
また,甲1−3発明は,四肢の所定の部位の締付け力の上げ下げを行い ながら,その所定の部位よりも下流側に流れる血流を阻害し,それによっ て筋肉に疲労を生じさせ,筋肉の効率的な増強を図ることを目的とするも のである(【0003】,【0004】,【0009】,【0010】)から,甲 1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に繰り返す圧力調整手段 を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締具が所定の部位に与え る締付け力について,自然締付け力による加圧力も付与しない状態にして 血流を阻害しないようにする構成とする動機付けがあるとはいえない。\nなお,原告は,甲2発明は,筋肉トレーニングの方法を応用することに よって動脈硬化,つまり,血管のメタボリック症候群状態を改善すること を目的としており,血管を強化する方法の1つを示している旨主張してい るところ,上記主張の趣旨は明らかではないが,要するに,甲2発明にお いて筋肉トレーニング方法を応用することで血管強化も実現できること が示されている以上,本件発明3と同じ緊締具,加除圧制御装置及び加除 圧制御システムが用いられている甲1−3発明において,血管強化も実現 するために,除圧工程により加圧動作によって付与された加圧力が完全に 除去された状態において特定部分を締め付ける加圧力が付与されていな い構成にすることは,設計的事項であると主張するものと解される。\nしかし,甲2の発明の詳細な説明には,「メタボリック症候群は,・・・動 脈硬化,心筋梗塞,或いは脳卒中を起こしやすい状態である」(【0005】) との記載があるのみで,メタボリック症候群が動脈硬化の状態にあると記 載されているわけではなく,また,「加圧トレーニング方法は,四肢の少な くとも1つで流れる血流を阻害することによりその効果を生じさせるも のである・・・加圧トレーニング方法を,メタボリック症候群の治療に用い ようとした場合には,・・一般的には中高年であるメタボリック症候群の患 者は血管の強度,柔軟性が低下していることが多いため,四肢の付根付近 の締付けを行うことにより四肢に与える圧力の制御に最大限の注意が必 要である」(【0007】),「加圧トレーニングは,・・・四肢の付根付近の所 定の部位を締付けて加圧することにより,四肢に血流の阻害を生じさせ, それにより運動したのと同様の効果を生じさせるものである。・・・しかし ながら,メタボリック症候群の患者のような,血管の強度,柔軟性が低下 している者の四肢を締付ける場合には,動脈まで閉じさせるような大きな 圧力を与えることは適切ではない。他方,静脈をある程度閉じさせるよう な圧力で締付けを行わなければ,メタボリック症候群の患者の治療を十分\nには行うことができない。そこで,本願発明における治療システムでは, 四肢の付け根付近の締付けを本格的に行う通常処理に先立って前処理を 行い,その前処理で,四肢の付根付近を締付ける際に与える適切な圧力と しての最大脈波圧を特定することとしている。・・・本願発明の治療システ ムは,メタボリック症候群の患者を含む血管の弱い者の治療に適したもの となる。」(【0009】)との記載がある。そうすると,甲2発明は,加圧 トレーニング方法の機序を応用した,血管の弱いメタボリック症候群の患 者に対する治療装置等に関する発明であって,血管強化方法に関するもの ではないというべきであるから,甲2に血管強化方法が開示されていると の原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,その他の点につき判断 するまでもなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,甲6には,ベルト(あるいはカフ)を外すことにより締 付け力を皆無にする方法が記載されているところ,本件発明3においては, 「自然締付け力」を皆無にするための付加的な構成要素は示されておらず,\n具体的な方法すら示されていないから,ベルトを単に緩める,あるいは外 すという方法もその「自然締付け力」を皆無にする方法として本件発明3 に包含されている旨主張する。 上記主張の趣旨は明らかではないが,甲6に記載されたベルトを外すこ とにより締め付け力を皆無にするという技術事項を,自然締め付け力によ る加圧力を付与しない方法として甲1−3発明に適用すれば,本件発明3 の相違点2の構成に容易に想到するというものと解される。\n しかし,そもそも甲1に接した当業者が,加圧工程と除圧工程を交互に 繰り返す圧力調整手段を制御する制御手段の「下ピーク」のときに,緊締 具が所定の部位に与える締付け力について,自然締付け力による加圧力も 付与しない状態として血流を阻害しない状態とする構成にする動機付け\nがあるとはいえないことは前記アのとおりである。 また,甲6には,1)「(バラコンバンドの効能)・・・2.血管内を清掃し 血管にも弾力がでる。バンドを強く締めると,そこで血流が止まる。心臓 からは絶え間なく血液は送られてくる。血液は,バンドの所で滞留し,血 量はその部で倍加される。バンドをはずすと,血は倍の速力で血管内を流 れる。その時血管壁を掃除し,動脈硬化を治し,血管そのものも弾力がで る。」(74頁7行目〜75頁5行目),2)「足裏指巻き ●まず親指と第2 指の間を通してかかとにひっかけ,次に第2指と第3指を通して,またか かとへ巻き,指の間を通した余りで足の甲をこの停止部分にバンドを巻く。 一つでも関節を越したほうがよく効くので,手の場合なら肘の下の二つの 腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつ めに巻いて我慢できなくなったらはずそう。すると,ダムの水門を開いた ように,血液がどっと流れ込み,これまで充分にいきわたっていなかった ところまで勢いよく入り込む。」(120頁上段8行目〜121頁2行目) との記載があるが,これらは,血流を一時的に止めた後にバンドを外した 場合の効果が記載されているに止まる。したがって,これらの記載に基づ き,緊締具を付けたままの状態で,「ガス袋120へ空気を送って締付け部 位を加圧する上ピークと,ガス袋120へ送った空気を抜いて締付け部位 への加圧を行わない下ピークと,を繰り返す加除圧方法」を採用する甲1 −3発明に,下ピークにする度に緊締具(甲6でいえば「バンド」)を外し, 上ピークにする前にこれを付け直すような変更を施すことは想定できず, この点からも,甲1−3発明に甲6に記載された事項を適用する動機付け はない。

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令和1(行ケ)10140 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月16日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

ア 本件発明1の「利用者データベース」について
(ア) 前記第2の2の特許請求の範囲の記載のとおり,構成要件1Bの「利\n用者データベース」は,管理コンピュータ側に備えられるものであり, 「監視端末側に対して付与されたIPアドレスを含む監視端末情報」が, 「利用者ID」に「対応付けられて登録」されているものと規定されて いる。 また,管理コンピュータ側は,「利用者の電話番号,ID番号,アド レスデータ,パスワード,さらには暗号などの認証データの内少なくと も一つからなる利用者IDである特定情報」を入手し(構成要件1Di),\n「この入手した特定情報が,前記利用者データベースに予め登録された\n監視端末情報に対応するか否かの検索を行」い(構成要件1Dii),「前 記特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合,…この抽出された 監視端末情報に基づいて監視端末側の制御部に働きかけていく」(構成\n要件1Diii)と規定されている。 そうすると,特許請求の範囲の記載からは,「利用者データベース」 は,記憶媒体の種類や構成等の限定は付されていないものの,入手する\n特定情報から,あらかじめ登録された監視端末情報を検索することがで き,入手した特定情報に対応する監視端末情報が存在する場合に当該監 視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度に,IPアドレス を含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて登録されている」 ものと理解することが相当である。
(イ) そこで,次に,本件明細書の記載をみると,前記1のとおり,本件発 明の実施例において,「利用者データベース」は,磁気ディスクや光磁 気ディスクからなる記憶装置35に記憶され,利用者の電話番号,ID 番号,アドレスデータ,パスワード,暗号,指紋等を基にした利用者を 識別可能な符号である利用者IDに,該利用者の暗証番号並びに該利用\n者が監視したい場所に設置されている監視端末に付与されているIPア ドレスを対応付けているものであり(【0020】,【0021】,【図 5】),利用者の認証の際に参照されるとともに,利用者がアクセス可 能な監視端末のグローバルIPアドレスを検索抽出するために参照され\nるものとされている(【0026】,【0029】,【0030】,【図 7】)。 本件明細書の記載によっても,「利用者データベース」は,利用者を 識別できる情報(「利用者ID」)に,当該利用者が監視したい場所に 設置されている監視端末に付与されたグローバルIPアドレス(「監視 端末情報」)が検索できる程度に対応付けられることを要するものと理 解される(なお,実施例における記憶媒体の種類は単なる例示であるこ とが明らかであるから,やはり,本件発明1において,「利用者データ ベース」の記憶媒体の種類や構成等に限定が付されたものと理解するこ\nとはできない。)。
(ウ) 以上からすると,本件発明1の「利用者データべース」は,利用者を 識別できる情報に監視端末側に付与されたIPアドレス等の情報が,検 索できる程度に対応付けられて登録されていることを要するものの,そ れで足り,記憶媒体の種類や構成等が具体的に限定されているものでは\nないと解されるが,利用者を識別できる情報とIPアドレスが関連性な く記憶され,両者がシステム動作中に単にあい続いて利用されているだ けの関連性しか有しない場合には,前記(ア)において説示した意味合い において,当該監視端末情報に含まれるIPアドレスを抽出し得る程度 に,IPアドレスを含む監視端末情報が利用者IDに「対応付けられて 登録されている」ものということはできないから,「利用者データベー ス」が構成されているとはいえないと解するのが相当である。\n

◆判決本文

こちらは原告被告の同じ関連事件です。

◆令和1(行ケ)10141

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令和2(行ケ)10073  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月24日  知的財産高等裁判所

 CS関連発明について進歩性違反なしとした審決が維持されました。

(1) 一致点及び相違点
上記1及び2によれば,本件各発明と甲1発明との一致点及び相違点は, 本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)であると認められる(なお, 以下において,「医療情報取得情報」とは,患者の医療情報を取得するため に,端末装置から取得され,又は情報処理装置の記憶部にあらかじめ記憶さ れた情報をいう。)。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,甲1発明の「ベッドサイド端末識別子」は患者名を取得するた めの識別情報であり,本件発明1の「第1識別情報」に相当するから,相 違点1−1は存在しない旨主張する。 しかしながら,本件明細書1及び甲1公報の記載内容からすれば,本件 発明1の「第1識別情報」は,患者ごとに付された患者ID等であるのに 対し,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」は,ベッドサ イド端末ごとに付されたIPアドレス等であり,両者が識別する対象は異 なるというべきである。また,甲1電子カルテサーバの「ベッドサイド端 末識別子」は,患者IDと関連付けられて記憶されることによって初めて 患者を識別する情報として用いることが可能となるにすぎないものであ\nり,それのみによって直接に患者が識別されるものではない。 これらの事情を考慮すると,本件発明1の「第1識別情報」と甲1電子 カルテサーバの「ベッドサイド端末識別子」とは,異なる概念であるとい うべきであるから,相違点1−1を認定することができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ なお,原告が主張する相違点は,上記相違点1−2と実質的に同じ内容 である(原告が指摘するとおり,相違点1−2の第2段落及び第3段落は, 第1段落に伴って形式的に生じる相違点にすぎない。)。

◆判決本文

こちらは関連発明です。

◆令和2(行ケ)10074

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令和2(行ケ)10064  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月22日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。争点は相違点が設計事項か否かです。

 前記のとおり,相違点1は,切削ローラの路面に対する高さを調節する ための機構に関するものであるところ,相違点2は,切削ローラの移動方\n向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフ レームとの支持構造に関するものであり,また,相違点3は,切削ローラ\nに一体化された切削ローラ駆動ユニットの可動方向を踏まえた同ユニッ トの支持構造に関するものである。\nそうすると,これらは相互に密接に関連するものといえるから,相違点 1ないし3の容易想到性については,併せて判断するのが相当である。
イ そこで検討するに,上記2(1)のとおり,検甲1発明においては,切削ロ ーラ及び切削ローラと一体化した駆動部がハウジング部に支持され,ハウ ジング部は,上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状 ガイド及び4本の連結棒を介してフレーム部に支持されているところ,切 削ローラの路面に対する高さの調節に関しては,切削ローラを油圧シリン ダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる構\成が採られている。 これに対し,本件発明1においては,上記1(3)のとおり,切削ローラ及 び切削ローラハウジングが上下方向及び進行方向に機械フレームに強固 に支持されているところ,切削ローラの路面に対する高さの調節に関して は,切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる構成が採ら\nれている。
そして,本件優先日時点において,これらの方法以外に,自走式道路切 削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったこ とをうかがわせる証拠は存しないから,当業者としては,上記2つの方法 のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると,これらの方法 のいずれを採るかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないという べきである(なお,切削ローラを上下させるために,油圧シリンダ等によ り切削ローラそのものを垂直方向に移動させることは誰しも思いつくと ころであるといえるし,また,上記3(1)ないし(3)によれば,甲6文献な いし甲8文献には,いずれも,自走式道路切削機における切削ローラの路 面に対する高さを調節する方法として,車体の上下動を用いる構成を採る\nことが記載されていることからすれば,本件優先日当時の自走式道路切削 機の技術分野において,同構成は,周知の技術であったといえる。したが\nって,これらの2つの方法のうちいずれかを採用することには技術的創意 を要するから設計事項には当たらないなどといった議論は成り立たな い。)。 これらの事情を考慮すると,検甲1発明において,相違点1に係る本件 発明1の構成を採ることは,容易に想到し得るものであったといえる。\n
ウ また,検甲1発明において,切削ローラの路面に対する高さを調節する 方法として,上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて,車体\nの上下動を用いる構成を採る場合には,ハウジング部を垂直方向に移動さ\nせるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ,同油圧シリ\nンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に,敢えて新たな別 の部材を設置する必要はない。そうすると,当業者としては,棒状ガイド をフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術\n的発想であるといえる。
そして,上記のように,検甲1発明において,棒状ガイドをフレーム部 で直接支持するような構造を採る場合には,切削ローラ及びハウジング部\nは,横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって, 敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるように する必要はない。そうすると,当業者としては,切削ローラ,ハウジング 部及び切削ローラと一体化した駆動部を,垂直方向及び進行方向に移動し ないように,垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し,進行方 向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構\造を採ろうとするのが 自然な技術的発想であるといえる。
エ 以上によれば,検甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成\nを採った場合には,必然的に,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を\n採ることとなるというべきである。 したがって,検甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の 構成を採ることは,相違点1と同様に,容易に想到し得るものであったと\nいえる。

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令和2(行ケ)10130  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月20日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項の追加、および実施可能要件違反であるとした審決が維持されました。

 本件補正によって,当初明細書等の段落【0002】,【0008】及び【0 010】に追加された事項並びに図3〜8には,本願発明の原理に関する事項が記 載されているところ(甲9),これらの事項は,当初明細書等には記載されておらず (甲4,16),また,自明な事項ということもできないから,新規事項を追加する ものといえる。 したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された範囲内においてするものと はいえず,特許法17条の2第3項に違反するものである。
(2) 原告は,本件補正は,先行技術文献に記載された内容を「発明の詳細な説 明」の【背景技術】の欄に追加する補正であると主張する。 しかし,本件補正は,「高周波超伝導電磁エンジンは,磁石となるループと超伝導 磁石を重ね合わせたものである。二つの磁石は離れないように固定する。その二つ の磁石の中の一つは,常伝導の磁石である。但し,この常伝導の磁石は一回巻きで 芯が無く,高周波数かつ低電圧の脈流を流す。脈流の周波数は,その波長がループ の一周の長さと一致する程度の高周波数とする。もう一つの磁石は,超伝導磁石で あり,超伝導状態となるので永久電流が流れる。磁石と磁石を重ねたので,磁石と 磁石の間には,図3で上下方向の矢印で表した反発力もしくは吸引力(どちらも磁\n力)が生じる。しかし,この特殊な構造ゆえに生じる打消しの力により,図4のよ\nうに,超伝導磁石に働く反発力もしくは吸引力は打ち消される。従って,常伝導磁 石に働く反発力もしくは吸引力のみが残り,これを推進力として利用する」,「図8 のように,脈流の周波数は,その波長がループの一周の長さと一致する程度の高周 波数としているので,高周波超伝導電磁エンジンの超伝導磁石には,各瞬間におい て,脈流により生じるローレンツ力がゼロの部分がある。これにより,電磁力の偏 りが生じる。よって,この電磁力の偏りのために,運動量秩序に従った動きを電子 対はすることができない。ローレンツ力の力積は電子対の重心運動を動かすことが できないので,重心運動の運動量に変化せずに,各超電子の散乱を通じて,最終的 には熱エネルギーとして外部に放出される。超伝導磁石の超電流を構成する電子対\nの重心運動が生じないので,超伝導磁石に働く電磁力(ローレンツ力)は磁力となら ず,超伝導磁石の磁力は打ち消された形となる。その結果,常伝導のループに働く 電磁力,即,磁力だけが残り,これを直線的運動エネルギーとして利用できる。」と の記載及び図4,8(以下「本件追加部分」という。)を加えるものであるところ, 本件追加部分は,特許文献1の記載の一部及び甲2文献の記載の一部から成るもの である。当初明細書等には,特許文献1及び甲2文献が先行技術文献として記載さ れているものの,それのどの部分を引用するかは記載されておらず,上記各文献を 見ても,それから直ちに本件追加部分を把握できないことからすると,本件補正は, 新規事項を追加するものということができる。
(3) 原告は,本願発明の原理は,甲2文献に記載されているところ,甲2文献は 出版されてから年数が経過しているため,上記原理は技術常識となっていると主張 する。 しかし,本願発明の原理が甲2文献に記載されており,甲2文献が出版されてか ら相当の年数が経過していたとしても,それだけで,本願発明の原理が技術常識と なっていたと認めることはできない。
(4) したがって,本件補正が,特許法17条の2第3項に違反するとした本件 審決の判断に誤りはない。
3 実施可能要件違反について\n
(1) 本願発明は,磁気シールドで半分程度を覆った「超伝導磁石」に対して固 定された位置にあるループに直流電流を流して,同ループに電磁力を発生させ,「超 伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに発生する電 磁力を推進力,制動力,浮力として利用するというものであるところ,当初明細書 等には,「超伝導磁石」の永久電流に働く電磁力を無効とすることにより,ループに 発生する電磁力を推進力,制動力,浮力として利用する原理についての説明が記載 されておらず,また,このような原理が技術常識であるということもできない。 なお,本件補正によって追加された事項では,上記の原理について説明されてい るが,磁石となるループと超伝導磁石を固定した場合,仮に,超伝導磁石に働く磁 力が常伝導ループに働く磁力より小さいとしても,互いに固定された超伝導磁石と ループ間の力は,作用・反作用の法則によって釣り合うことになり,結局,本願発 明の装置を動かす力は発生しないと考えるのが自然であるから,本件補正後の明細 書及び図面を前提としても,本願発明の原理について,当業者が理解し実施できる 程度に裏付けがされているとはいえない。この点について,原告は,作用・反作用 の法則が保障するのは,超伝導磁石に働く電磁力と常伝導ループに働く電磁力が釣 り合うことまでであり,発生した電磁力がそのまま磁力となって,釣り合うことま では保障しないと主張するが,上記のとおり,作用・反作用の法則により,超伝導 磁石に働く力と常伝導ループに働く力は釣り合うと解されるから,原告の上記主張 は理由がない。 また,原告は,本願発明の原理を利用して製造されたストレンジクラフトが存在 すると主張して,その証拠として写真集「ストレンジクラフトの写真」(甲3)を提 出するところ,甲3には,飛行する物体を撮影した写真が掲載されているものの, 同物体が,本願発明の原理を利用したものであると認めるに足りる証拠はないから, 原告の上記主張は理由がない。

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令和2(行ケ)10032  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 引用文献1との一致点の認定が誤っているとして、進歩性無しとした審決が取り消されました。

 これに対し,被告は,前記第3の1(2)ア(ア)のとおり,甲1発明におい ては,撮像装置を光軸まわりに回転させる方向が「ロール方向」の傾きで あることは技術常識であるから,表示部の回転した角度である「天地方向\nの向き」,すなわち「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方向の 傾き」であると主張する。 しかし,「画像撮像装置1000が,右に30度傾いた状態である場合の, 報知画像600Aを示す図」である図13の「矢印512」は,「天地方向 の情報を示す」(【0112】)ものであるところ,「天地方向算出手段22 2は,傾斜測定部250が算出した重力加速度の方向と大きさに基づいて」 天地方向を判定し(【0079】,【0087】,【0088】,【0107】), 「傾斜測定部250」は,直交する2軸の重力加速度センサーが,【007 2】の式(3)で求められる,「方向D303と水平面P302とが成す角度」 (【0069】)であるθの値を算出し,平面P302の傾斜度を測定する (【0073】,【0074】)ものである。そして,前記(1)ア(イ)のとおり, こうした直交する2軸の重力加速度センサーと水平面との角度がなす傾 斜度により判定される角度は,光軸が水平面と平行である場合を除き,撮 像装置を光軸まわりに回転させる方向の傾きの角度とは異なるから,「矢 印512」で示される「天地方向の情報を示す矢印の角度」が「ロール方 向の傾き」であるということはできない。
イ また,被告は,前記第3の1(2)ア(イ)のとおり,甲1発明は,第1傾斜 度及び第2傾斜度の両方に基づいて画像撮像装置の前後方向の傾き,すな わち,ピッチ方向の傾きを検出するものといえる旨主張する。
確かに,甲1には,1)天地方向算出手段222は,第1傾斜度及び第2 傾斜度のいずれかが所定値A(例えば,30〜60の範囲の値)以上であ るか否かを判定(ステップS120)し(【0105】),所定値A以上であ れば,天地方向算出手段222が,傾斜測定部250が測定した第1傾斜 度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置1000の天地方向の算出を 行い(【0107】),制御部が画像撮像装置1000の天地方向の算出結果 に基づく情報を表示した報知画像を生成し,表\示部150に表示する(【0\n108】),2)ステップS120において,所定値A未満であれば,天地方 向算出手段222が傾斜測定部250が測定した第1傾斜度及び第2傾 斜度に基づいて,画像撮像装置1000の天地方向の算出を行う(【011 8】)ところ,図14のように画像撮像装置1000が水平面に対して平行 である場合,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が測定した第 1傾斜度及び第2傾斜度に基づいて画像撮像装置の天地方向の判定はで きない(【0119】)が,画像撮像装置が図14の状態になる前に必ず第 1傾斜度及び第2傾斜度のいずれかが所定値A以上(ステップS120に おいてYESの場合)の状態にあり,天地方向が判定できる状態にあって (【0121】),傾斜度及び天地方向が記憶(ステップS126)する処理 が行われており(【0122】),こうした場合,天地方向算出手段222は, 記憶されている傾斜度データ及び天地方向のデータの少なくとも一方に 基づいて画像撮像装置1000の天地方向の判定を行い(【0123】),こ の算出結果に基づく情報を報知した報知画像を表示部150に表\示させ る(【0124】),3)【図16】は,画像撮像装置1000が水平面P30 2に対し平行である場合の報知画像を示す図である(【0126】)ことが それぞれ開示されている。
しかし,天地方向算出手段222は,傾斜測定部250が算出した重力 加速度の方向を大きさに基づいて天地方向を判定し(【0079】,【008 7】,【0088】,【0107】),画像撮像装置に内蔵された2軸の重力加 速度センサーである傾斜測定部250は,【0072】の式(3)により求め られる重力加速度センサーと水平面とが成す角度θ(D301,303と 同じ軸上にある重力加速度センサーと水平面P302とが成す角度)の値 を算出することによって傾斜度を測定するものであるから,甲1で測定さ れる第1傾斜度及び第2傾斜度は,撮像装置の水平軸が水平面と平行であ る場合を除き,撮像装置を水平軸周りの傾き度合いであるピッチ方向の傾 きを算出するものではないことは前記(1)イ(イ)のとおりである。また,【図16】について,画像撮像装置の水平軸が水平面と平行であることを前提として,画像撮像装置を水平軸周りに前後に回転(変位)させて画像撮像装置が水平面P302に平行になった状態であると仮定したとしても,上記の開示事項からは,「画像撮像装置が水平面に対し平行である場合」かどうかの判定に際し,第1傾斜度及び第2傾斜度が用いられる ことは読み取ることができるものの,ピッチ方向の傾きを検出し,判定に 用いることを開示しているとはいえない。

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平成30(ワ)3461  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟

 分包紙ロールのロールを販売する行為は間接侵害に該当すると判断されました。実施料率は立証がなく被告が自白した3%が認定されました。

 ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は, 被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の 技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10 1条1号の間接侵害に当たるというべきである。 この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受 けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は,原 告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主 張する(消尽の法理)。 これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体 化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の 成立を主張する。
イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利 用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製 品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製 品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総 合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判 決・民集61巻8号2989頁参照)。 本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙 から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨 によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告 製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が\n原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局 や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合\nを除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ り方であると解される。 また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使 用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。 そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化 製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保 されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は, 上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製 品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる 被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た るというべきである。
・・・・
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7 0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販 売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進 に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で 仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。 しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進 から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実 は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の 金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被 告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。 以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被 告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ る。 本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被 告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に 開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及 び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損 害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,\n被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有 していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等 に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴 えの変更申立書(2)(同年11月13日付け)に の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日 進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,\n被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。 他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認 することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担 した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと について,被告らを責めるべき事情は存しない。 以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで, 被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し, 被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し, 弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円, 被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
(3) 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤 分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装 置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み 紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を 作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原 告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの であることは前記3(1)ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と して被告製品を購入していたものと考えられる。 原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場 にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製 品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ とは,特許法102条2項に基づく前記(1)の推定を覆滅するものではない。

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平成30(ワ)36690  特許権侵害損害賠償請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月15日  東京地方裁判所

 実施料率0.01%の980万円の不当利得があると認定されました。損害賠償は時効と判断されて、不当利得の返還を求めました。判決に目次があり、目次だけでほぼ3ページあります。

(1) 消滅時効の成否
前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7 月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23 年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日 頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等とし て,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し, 平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は, 別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月 2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程\n度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権に ついては,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認 められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し, 平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成した ものと認められる。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,1)実際の実施許諾契約における実施料 率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することがで きる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また, 業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率 〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。こ のような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場 等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許 諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する 標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位 での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,その うち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセン ス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成2 2年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規 格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当 たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5 「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出 した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライ センス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロ スライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば, クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられ るから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,ク ロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。\n(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,2)本件発明が被告各製品に とって代替不可能なものとは認められず,3)本件発明を実施することに よる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,4)原 告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での 実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針 としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約 の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発 明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0. 01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売 状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実 施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。

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別件訴訟はこちらです(請求棄却)。

◆平成24年(ワ)237

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令和2(行ケ)10063  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 存続期間延長登録拒絶査定にかかる審決取消訴訟で、裁判所は、延長を認めなかった審決を取り消しました。

 前記(1)で認定した事実関係をもとにして,本件発明の実施に本件処分を受ける ことが必要であったかどうかについて検討する。 ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要で あったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的 とするものであるから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか どうかは,このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らし て判断されるべきであり,その場合における本件処分の内容の認定についても,こ のような観点から実質的に判断されるべきであって,本件承認書の「有効成分」の 記載内容のみから形式的に判断すべきではない。このように解することは,最高裁 平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻 7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
イ 前記(1)エで認定した事実からすると,医薬品について,良好な物性と安 定性の観点からフリー体に酸等が付加されて,フリー体とは異なる化合物(付加塩) が医薬品とされる場合があること,そのような医薬品が人体に取り込まれたときに は,付加塩からフリー体が解離し,フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること,ナ ルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり,ナルフラフィ ンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは,本件医薬品の 製造販売の承認申請がされた平成28年3月31日までに,当業者に広く知られて\nいたものと認められる。
ウ 上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1) クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的た る効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,\nそのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
エ 前記(1)ア〜ウのとおり,本件承認書には,「有効成分」として「ナルフ ラフィン塩酸塩」と記載されており,本件添付文書にも「有効成分に関する理化学 的知見」として,「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され,その構造式や性状などが\n記載されているが,これは,賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から,実際に 医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく 記載であると解される。これに対し,本件添付文書の「有効成分・含量(1錠中)」 の欄に,「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」 と記載されており,本件インタビューフォームには,和名は「ナルフラフィン塩酸 塩」と記載されているものの,洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナル フラフィン」が併記されているし,「有効成分(活性成分)の含量」として カプ セル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2. 32μg)含有 OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィ ンとして2.32μg)含有」と記載されている。そして,前記(1)アのとおり,本 件承認書における●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●同じ く,前記(1)イ,ウのとおり,本件添付文書や本件インタビューフォームにおける, 本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩 酸塩ではなく,ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。
オ 以上のことを考え併せると,本件処分の対象となった本件医薬品の有効 成分は,本件承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するので はなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成\n分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合され ている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当 である。 したがって,「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し,「ナ ルフラフィン」は,本件医薬品の有効成分ではないと認定して,本件発明の実施に 本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断 は誤りであり,取消事由1は理由がある。
(3) 被告の主張について
被告は,原告が本件延長登録出願に当たって,本件医薬品の「有効成分」を「ナ ルフラフィン塩酸塩」と主張していたことや原告が作成した書類(甲83,88, 90)で有効成分をナルフラフィン塩酸塩としていたと主張する。 しかし,本件延長登録出願の経緯は,前記(1)ケ認定のとおりであって,この経緯 に照らして,原告が取消事由1の主張をすることや裁判所が同取消事由1に理由が あると判断することを妨げられる理由はなく,前記(2)の上記判断を左右するもの ではない。また,被告が主張する文書(甲83,88,90)は,本件医薬品の製 造販売の承認申請に向けて作成された文書であるところ、本件医薬品の有効成分は,\n本件医薬品の承認審査の経緯や内容等を踏まえると,実質的にはナルフラフィン塩 酸塩とナルフラフィンの双方と解するのが妥当であるから、本件承認書(甲4,9 6,148)の記載が前記(2)の認定判断を左右しないことと同様に,上記の文書も、 前記(2)の認定判断を左右するものではない。

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平成31(ワ)2034  損害賠償請求事件  その他  民事訴訟 令和3年1月8日  東京地方裁判所

 被告会社は原告に事業譲渡をしました。原告は競業避止義務違反を理由に事業の中止を求めました。裁判所はこれを認めました。争点は問題の事業が譲渡対象であったか否かでした。

(1) 本件事業譲渡の対象について
本件事業譲渡の対象について,原告は,関東地方に所在する食品加工業者 及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンス の事業等が包括的に含まれると主張するのに対し,被告は,本件事業譲渡の 対象は,旧関東事業部の行っていた食品用機械のメンテナンス及び付属部品, 資材の販売等の事業に限られると主張するので,以下,検討する。 ア 本件事業譲渡契約書第1条には,被告は原告に「関東事業部」を譲渡す る旨の記載があるところ,前記前提事実(第2の1(1)),証拠(甲11, 12)及び弁論の全趣旨によれば,1)被告は,平成23年11月,海外メ ーカー製の食品用機械の輸入及び販売事業等を行うことを目的として,関 東産機事業部を被告所沢事務所内に立ち上げたこと,2)その後,関東産機 事業部の責任者であるAが平成27年に被告を退社したことから,被告所 沢事務所内に同事業部の担当者が不在になり,関東産機事業部が行ってい た事業は,原告代表者を含む旧関東事業部の従業員等が引き継いで行うよ\nうになったこと,3)平成28年から平成29年頃にかけての被告の受注予\n定表は「札幌」と「関東」とで別々に作成されており,関東地方の受注予\ 定表には関東産機事業部と旧関東事業部の区別なく,受注案件の進捗状況\n等が記載されていること,の各事実が認められる。 上記各事実によれば,本件事業譲渡当時,関東産機事業部の活動は事実 上休止状態にあり,被告の関東地方における事業やその営業は,そのほと んどを旧関東事業部が行っていたものと認められ,本件事業譲渡契約書第 1条の「関東事業部」とは,同契約締結当時に旧関東事業部が行っていた 事業,すなわち,被告の関東地方における食品加工業者及び食品工場向け の食品用機械の開発,製造,加工,販売又はメンテナンスの事業を包括的 に含むものと解するのが相当である。
イ また,前記前提事実(第2の1(2))のとおり,本件事業譲渡契約書には, 関東産機事業部に残される資産や契約等についての記載は存在せず,かえ って,同契約書第2条は,被告は,原告に対し,建物付属設備,機械装置, 器具備品等の全てを含む資産,旧関東事業部の敷地及び建物(工場・事務 所)の物品の全てに関する契約,並びに旧関東事業部の行う事業に関する 営業上の秘密,ノウハウ,顧客情報等を含む必要又は有益な全ての情報を 譲渡すると規定されている。 被告は,原告に譲渡した事業には関東産機事業部の事業は含まれないと 主張するが,本件事業譲渡契約書の草案を作成したのが被告であることに ついては当事者間に争いないところ,仮に被告の主張するように関東産機 事業部を事業譲渡の対象としないのであれば,本件事業譲渡契約書におい て旧関東事業部に譲渡する食品用機械や資材等の資産,契約,顧客等と被 告の関東産機事業部に残す資産,契約,顧客等とが区別して規定されてし かるべきであるが,本件事業譲渡契約書においては,関東産機事業部に一 部の資産,契約,顧客情報等を残すことを前提とする記載は存在しない。 そうすると,本件事業譲渡契約書第2条の規定は,被告が,原告に対し, 被告の関東における食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発, 製造,加工,販売又はメンテナンスの事業等に関する資産,顧客情報を包 括的に譲渡する趣旨であると解するのが相当である。
ウ さらに,平成28年10月21日に開催された役員会議の議事録(乙1 2)には,本件事業譲渡に関し,被告代表者が「(関東事業部の)事業譲\n渡を考えています。・・・関東事業部の資産価値1,000万円,営業権1,000万円 くらい。Xさんが関東事業部の頭でもあるため,Xさんが関東事業部を買 う形が望ましい。」と発言した旨の記載があると認められるが,同議事録 には,関東産機事業部の事業を譲渡対象としないことやその資産価値につ いての記載は存在しない。 このことに照らしても,本件事業譲渡契約の対象には,被告の関東にお ける食品加工業者及び食品工場向けの食品用機械の開発,製造,加工,販 売又はメンテナンスの事業等が包括的に含まれると解するのが相当であ る。

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令和2(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年4月14日  知的財産高等裁判所

 商標「ざんまい」が「すしざんまい」と混同するかが争われました。指定商品・役務は「すし」「すしを主とする飲食物の提供」です。審決・判決とも「すしざんまい」は著名、混同する」と判断しました。

 本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書 してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。 「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の 意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標 の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざん\nまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認 識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示する ものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用にお\nいては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用す ることが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざ\nんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使 用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」 に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと 認めるのが相当である。
(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された 「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すし ざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり, このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より\nも大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」 の左下に位置し,縦書きのように記載されている。 そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,\n外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほ ど不可分的に結合しているものとはいえない。 そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用 商標1の構\成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対 し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支 配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるもの と認めるのが相当である。 しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分 及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「ス シザンマイ」の称呼が生じる。 また,前記2(2)ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざ\nんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く 認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示す るものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である 「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する 「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんま い」の観念を生じるものと認めるのが相当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観 及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に 使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生 じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及 び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店 を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通 するものと認められる。
イ 以上のとおり,1)「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及 び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店\nの名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務 に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であ ったこと(前記2(2)ア),2)本件商標と引用商標1の要部である「すしざ んまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「す しざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の 観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),3)本件商標の指定商品であ る「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」 は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2(1)ア),販売の対象とな る商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通する ことを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用すると きは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表\示による商品化事業 を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのよ うに,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。 したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法 4条1項15号に該当するものと認められる。 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について
原告は,1)引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」 にいう「すし」と本件商標の指定商品「すし」とは,握り寿司等3種類を除 き,「すし」の内容が一致せず,需要者が異なる,2)「すし」の販売にいう「す し」は,弁当と同じような用途であるのに対し,「すしを主とする飲食物の提 供」にいう「すし」の提供は,すし職人と会話を楽しむといった別の要素が あり,極めて人間的であり,しかも,魚の鮮度が勝負であり,鮮度が比較的 短時間で落ちる商品を鮮度の良い状態で提供していること,回転ずしや着席 スタイルのすし店等でも,テイクアウトは行われているが,全体のごく一部 であり,特に着席スタイルのすし店は鮮度にこだわり,テイクアウトは拒否 されるのは周知の事実であることからすると,「すし」と「すしを主とする飲 食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有する とはいえない,3)原告の業態は,宅配寿司であり,ウェブサイト又は電話に よる注文を受けてから寿司を盛り,スピーディな配達をするというものであ るのに対し,被告の業態は,カウンター方式及び個室方式をとり,会食・接 待・結納などにも利用できる料亭をイメージした落ち着いた雰囲気の個室を 用意しており,テイクアウトはあくまで「お持ち帰り」としての利用であり, 原告の業態と被告の業態が相違するなどとして,本件商標の登録出願時及び 登録査定時において,本件商標をその指定商品「すし」に使用した場合,こ れに接する需要者が引用商標を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの ように,その出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本 件商標が商標法4条1項15号に該当するものとはいえない旨主張する。 しかしながら,1)については,前記2(1)イで説示したとおり,本件商標の 指定商品「すし」と引用商標1及び2の指定役務「すしを主とする飲食物の 提供」とは,需要者が異なるものと認めることはできない。 2)については,「すしを主とする飲食物の提供」の提供の場所を原告が主張 するような着席スタイルのすし店に限定すべき合理性はない。 3)については,原告が主張する原告の業態と被告の業態の相違は,本件商 標をその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が,当該商 品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を 営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,\nその出所について混同を生ずるおそれがあるとの前記(1)の判断を左右するも のではない。

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◆令和2(行ケ)10108

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令和1(行ケ)10159  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年4月15日  知的財産高等裁判所

 審決は、複数のカメラの一方の表示を回転させることは、周知として進歩性なしと判断しました。これに対して、知財高裁は、主引例にはそのような課題が存在しないとして、動機付けなしとして審決を取り消しました。

 前記2(1)イのとおり,引用発明は,医師等が観察して診断を行う診断用 画像モニタ装置と離れて,操作者が被検者に対してX線装置のコリメータ やTVカメラの調整等を行う際の被検者及び操作者のX線被爆を避ける ために,X線曝射しない状態でコリメータやカメラの操作ができ,簡単か つ安価で操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものである。\nそして,引用文献1は,こうした課題を解決するために,医師等が観察 する診断用画像モニタ装置とは別に,1対の平行コリメータ位置マーカ2 4,24や円形コリメータ位置マーカ25,カメラ画像正立位置マーカ2 6の画像を,制御ユニット18の制御の下で,X線照射停止直前に撮像さ れ画像メモリ19に格納されたX線透視像を画像と重ねて操作用液晶デ ィスプレイ装置21に表示し,マーカ24,25,26上を指などで触れてドラッグすると,その位置情報が制御ユニット18に取り込まれて演算\nされて新たな表示位置が求められ,その位置へ各マーカが動いていくような表\示がされ,この入力情報に応じて制御ユニット18が指令をコリメータ12及びTVカメラ15へ出し,コリメータ12の遮蔽板の位置や方向 が変更され,TVカメラ15の回転角度が調整され,現実に動いた位置・ 方向の情報が制御ユニット18に返され,これに応じて制御ユニット18 が平行コリメータ位置マーカ24,24又は円形コリメータ位置マーカ2 5の表示位置を固定するとともに,表\示されたX線透視像23及びカメラ 画像正立位置マーカ26を回転させる(【0018】,【0019】)という 構成を開示している。このように,引用発明は,あくまで,医師等が観察して診断を行う診断用画像モニタ装置とは別に,X線被爆を避けるために,X線曝射しない状\n態で操作ができ,画像を操作者の手元で表示することができるX線映像装置を提供することを目的とするものであって,こうした技術的意義を有す\nる引用発明において,引用文献1には,操作者が医師等の術者が被検者を 見る方向と異なる方向から被検者を見ることにより,操作者が被検者を見 る方向と操作用画像表示装置に表\示される患部の方向とが一致しないと いう課題(課題B2)があるといった記載や示唆は一切ない。
イ この点につき,被告は,前記第3の2(1)のとおり,当業者であれば,課 題B2の存在を理解し,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置に おいて,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者 を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題(乙3,4)を参 照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプ レイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致 させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機 づけがある旨主張する。
しかし,当業者であれば,課題B2の存在を当然に理解するという点に ついては,これを裏付けるに足りる証拠の提出はなく,むしろ,原告が主 張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者 は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示 に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたもので あるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観 点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上 げたことに意義があるとの評価も十分に可能\である。
また,乙3には,「本発明の手術用顕微鏡システムでは,前記画像表示手段を複数備え,少なくとも一つの画像表\示手段で表示される画像の向きが\n変更可能であることが望ましい。このような構\成では,術者と助手とが向 き合って手術する時のように,撮像部分を異なる方向から見る場合におい ても,それぞれの見る方向に応じて画像の向きを変えることにより,撮像 部分を見るのと同じ向きの画像を表示することが可能\となり,より手際の よい手術が行えるようになる。」(【0007】),「本発明の手術用顕微鏡シ ステムは,・・・前記画像処理装置は,各電気光学撮像手段からの撮像信号に 基づいて,基準画像信号を生成して,基準画像を前記画像表示手段に表\示 させる基準画像生成部と,前記各撮像信号に基づいて,基準画像と上下ま たは左右が反転した反転画像信号を生成して,前記画像表示手段に表\示さ せる反転画像生成部とを備えることを特徴とする。」(【0008】)との記 載があるように,術者とそれを補助する術者が向き合って手術をするとき のように撮像部分を異なる方向から見る場合でも,画像表示手段で表\示さ れる画像の向きをそれぞれの見る方向に応じて変更する構成により,撮像部分を見るのと同じ向きの画像を表\示することが可能となり,より手際の\nよい手術が行えるようになるとの課題が示されているにとどまり,術者と X線撮影装置の操作者についてそのような課題があると開示するもので はない。
さらに,乙4には,「本実施例の装置の動作について,図を参照して説明 する。まず,図1において術者Aは第1モニタ4を見て,術者Bは第2モ ニタ7を見て手技を行っている。ここで術者Bは内視鏡2に対向している ので,内視鏡2の原画像をそのまま第2のモニタ7に表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまう。このため,画像処理装置8にて,第2モニ\nタ7の画面のみを上下左右反転させた倒立像を映し出す。」(【0022】), 「本実施例では,第2モニタ7を倒立像にすることで,術者Bが上下左右 逆の感覚で手技を行うことがないので,スムーズに手技を行うことができ る。また,第1モニタ4及び第2モニタ7のいずれでも倒立像にできるの で,内視鏡2の向きや術者の位置が変わっても,容易に対応できる。」(【0 025】)との記載があるように,術者Aと術者Bがそれぞれ異なるモニタ を見て手技を行う場合において,術者Bが見ている第2のモニタ7に内視 鏡2の原画像を見てそのまま表示すると,上下左右が逆の感覚で見えてしまうという課題が示されているにとどまり,術者とX線撮影装置の操作者\nについてそのような課題があると開示するものではない。
そうすると,上記の乙3,4の各文献に記載された課題は,あくまで術 者と助手又は術者と術者がそれぞれ異なるモニタを見ることによって生 じる課題を指摘するにとどまり,術者とは異なる操作者が操作を行うとい う引用発明の場合において,操作者の便宜のために,操作者が見る患部の 向きの方向と,操作者が見る操作用液晶ディスプレイの患部の向きとを一 致させるという課題を示唆するものとはいえないから,当業者がこのよう な課題を当然に把握するともいえない。
(2) また,仮に,引用発明について,前記課題B2の存在を認識し,異なる方 向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の 向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を 把握して,操作用液晶ディスプレイ装置21に表示されるX線画像のみを回転させるという相違点の構\成とする動機づけがあると仮定しても,前記2(2) のとおり,技術事項2’は,HMDを装着し操作者を兼ねた術者が見るHM Dの画像表示部に表\示されるX線画像と実際の患者の患部の位置把握を容易 にするために,上記術者の床面上の位置情報に基づいて上記X線画像の回転 処理を行うものであるから,回転処理がされるX線画像はHMDの画像表示部であり(引用文献2の【0014】,【0020】,図14等),また,画像\n回転処理の基になる位置情報は,床面に設けられた感圧センサによるもので ある(引用文献2の【0022】)。
こうした技術事項2’の構成は,キャビネット43に設置された診断用画像モニタ17は術者である医師が使用し,台車41に設けられた操作用液晶\nディスプレイ装置21は撮像装置のセッティング等のために操作者が状況に 応じて自由に移動し,また台車41に様々な立ち位置を取ることができる引 用発明の具体的な構成と大きく異なるものであるから,引用発明と引用文献2に記載されたX線装置は同一の技術分野に属し,X線画像を表\示する装置を有する点で共通するとしても,HMDに表示されるX線画像の回転処理が行われるという技術事項のみを抽出して引用発明に適用する動機づけがある\nとはいえない。 さらに,技術事項2’は,操作者を兼ねた術者が装着したHMDに表示されるX線透視像を床面の位置情報に基づいて回転させるという構\成を有するものであるから,こうした構成を無視して,表\示されたX線画像のみを回転させるという技術事項のみを適用し,本願発明の相違点の構成に想到するとはいえない。\n
(3) 以上によれば,本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線 画像のうち,前記表示部に表\示されるX線画像のみを回転させる画像回転機 構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構\自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表\示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構\成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

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平成30(ワ)3789  不正競争行為差止等請求事件  不正競争  民事訴訟 令和3年2月9日  東京地方裁判所

 不競法違反の損害額として覆滅97%の約1800万円の損害が認定されました。

ア 被告商品の売上高について
前記期間の被告商品の売上金額は,11億0573万1572円(消費 税相当額抜き)であった(乙34,弁論の全趣旨)。 もっとも,このうち2251万6179円は未収であり(乙35),結 局,被告商品が販売されて被告が利益を受けたものとはいえないから, 上記売上金額から控除すべきである。また,被告は被告商品の売上げに 係る消費税を納税しなければならないから,税抜金額を売上金額とする。 以上から,前記期間の被告商品の売上高は,別紙損害額の売上高欄記載 のとおり,10億8321万5393円であったと認められる。
・・・
エ 被告が受けた利益の額について
以上から,被告が前記期間に被告商品の販売により受けた利益の額は, 別紙損害額の限界利益欄記載のとおり,合計6億1192万6912円 となる。
(3) 推定覆滅事由について
ア 不正競争防止法5条2項による推定は,侵害者による侵害行為がなかっ たとしても侵害者が受けた利益を被侵害者が受けたとはいえない事情が 認められる場合には,覆滅されると解される。
イ 掲記の証拠によれば,次の各事実が認められる。 被告は,被告商品について,電子商取引サイト等において,本件品質 誤認表示によるオリゴ糖の純度に係る特徴のほか,オリゴ糖が1種類で\nはなく,複数の種類のオリゴ糖を配合していることを強調し,また,被 告商品の原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことな どの特徴をも大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心 であるなどと広告宣伝していた。さらに,「実感力」などの言葉を使っ て,584人のアンケート結果によれば,「『毎日すっきり!』実感で きました!」というモニターが76.1%であるなど,多くの者が何ら かの形で便通の効果を実感しているとして,「満足率97.2%」であ るという記載をするなどしていた。(甲10〜16)
被告は,被告商品の購入者に対して,商品を使用した感想,被告の客 対応,他社との違い等を自由に記載する欄を設けたアンケートの葉書を 交付していたところ,それらを記載して被告に返送した回答者928人 のうち,被告商品が「オリゴ糖100%」であることについて言及した ものは6人であった。回答者には,多くの者が便通が改善したことを述 べていた。(乙41,42) オリゴ糖類食品は,オリゴ糖などを組み合わせ,配合することによっ て製造されており,主力製造業者及びその販売する商品としては,原告 商品及び被告商品のほか,塩水港精糖の「オリゴのおかげ」,加藤美蜂 園本舗の「北海道てんさいオリゴ」,日本オリゴの「日本オリゴのフラ クトオリゴ糖」,株式会社明治フードマテリアの「メイオリゴ」,Hプ ラスBライフサイエンスの「オリゴワン」,伊藤忠製糖の「クルルのお いしいオリゴ糖オリゴDEクッキング」,井藤漢方製薬の「乳酸菌オリ ゴ糖」,梅屋ハネーの「梅屋イソマルトオリゴ糖」,正栄の「スッキリ\nオリゴ糖」,ユウキ製薬の「活き活きオリゴ糖」,オリヒロの「オリゴ 糖シロップ」,ビオネの「ビオネ・ビートオリゴ」,日本甜菜製糖の 「ラフィノース100」などがある。これらのオリゴ糖類食品市場にお ける平成25年度から平成28年度及び平成30年度の原告商品の占有 率は,22.8%から26.9%であり,平均約24.4%であった。 上記のオリゴ糖類食品には,その内容や形態,販売態様において様々 なものがあり,例えば,塩水港精糖の販売する「オリゴのおかげ」は, 個包装された顆粒状のもの,シロップ形態のものなどがあり,加藤美蜂 園本舗の販売する「北海道てんさいオリゴ」は天然の甘味料であること をうたった商品であるが,同社は他にシロップ形態の商品も販売してお り,株式会社明治フードマテリアの販売する「メイオリゴ」には,液体, 粉末,顆粒等の各形態が存在する。もっとも,いずれについても,需要 者である一般消費者が,日常の食生活の中で健康に有用な効果作用を発 揮するオリゴ糖を簡便に摂取できる点に商品の意義が認められており, 需要者は,これらの多数の各商品の中から,各商品の上記の点以外の様 々な特徴を勘案して選択,購入しているといえる。 (本項につき,甲34,41,乙54,59,61(なお,乙59の5 によれば,平成29年度の原告商品の市場占有率42.3%であるとさ れているが,その前後の年度の市場占有率と大きな差があること,平成 29年度の市場規模が47億4000万円である一方,同年前後の原告 商品の売上高は概ね年9億7000万円から10億9000万円程度で あること等に照らすと,上記の同年度の市場占有率を直ちに信用するこ とはできない。))
ウ 被告は,被告商品について,本件品質誤認表示によるオリゴ糖の純度に\n係る特徴のほか,複数の種類のオリゴ糖を配合していること,被告商品の 原材料が全て動植物に由来するものであり添加物がないことなどの特徴を も大きく取り上げ,妊婦や乳幼児等が摂取しても安全,安心であるなど, 被告商品の魅力を掲げて広告宣伝していた。そして,被告商品の購入者が 自由に記載したアンケート結果によっても,オリゴ糖の純度に特に着目し て被告商品を購入した需要者が多かったことが直ちに認められるものとま ではいえない(前記イ )。また,オリゴ糖類食品には様々な形態のもの が存在し,原告商品と被告商品が似た形態であるのに対し,これらと異な る形態のものが多数あるのであるが,形態にかかわらず,これらの商品は, 基本的に需要者である一般消費者が,オリゴ糖を簡便に摂取できる点に商 品の意義が認められている。そうすると,需要者は,多数の各商品の中か ら,各商品の様々な特徴を勘案して選択,購入することもあるといえ原告 商品以外のオリゴ糖類商品も原告商品及び被告商品と市場において競合す るといえるものである。このようなオリゴ糖類食品市場における原告商品 )。
そして,本件では品質を誤認させるような表示が問題となっていて,被\n告商品の出所を原告と誤認するおそれが問題となっているわけではない ところ,被告商品を販売するウェブサイトには,被告が強く関与するも の(前記第2の1(2)ケ)に加えて,アマゾン,楽天,ヤフーなどが運営 するサイトもあり,これらにおいて原告商品について触れられていると は認められない(甲10,15,32)。 さらに,被告は,平成28年11月までは自社の電子商取引サイト等も 含めて本件品質誤認表示をしていたが,同月以降,自社の電子商取引サイ\nトからはその表示を削除し,平成30年2月には,アフィリエーターらに\n対し,「オリゴ糖100%使用」等の表示をしないように求めた(前記1\n(2)エ)。
これらを考慮すると,被告の本件品質誤認表示による被告商品の販売数\n量の増加と,他のオリゴ糖類食品の販売数量の低下,さらには,原告商 品の販売数量の低下との間には,それほど強い相関関係が成り立つとは いえず,上記の各事情を総合考慮すれば,被告の本件品質誤認表示がな\nかったとしても被告が受けた利益を原告が受けたとはいえない事情が相 当程度認められ,被告が受けた利益の額の97%について,原告が受け た損害の額であるとの推定が覆滅されるとするのが相当である。 以上から,上記推定覆滅後の額は,別紙損害額の推定覆滅後の金額欄記 載のとおり,1835万7803円となる。

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令和2(行ケ)10035 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月29日  知的財産高等裁判所

 パチンコ機について進歩性無しとした審決が取り消されました。

 原告は,本件審決が,相違点1ないし3について,「再変動」(本願発明の 「単位演出」に相当。)の契機となる前回の「変動(再変動)」に基づく仮停 止について,初回の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再 変動)においてチャンス目Bが仮停止するというように,仮停止させるチャ ンス目を,段階的に大当り信頼度が高いものとしていく引用発明において, 「再変動」の契機となる,前回の「変動(再変動)」に基づく所定のチャンス 目により仮停止させることを節目として,引用文献2に記載の技術である, 遊技図柄の確変図柄の割合を変化させるという演出である「図柄群変化演出」 を適用することにより,所定のチャンス目が仮停止した後の「再変動」にお いて,当該「図柄群変化演出」により遊技図柄の確変図柄の割合が変化した 後の遊技図柄を用いた変動を実行するとともに,当該「図柄群変化演出」に おいて,遊技の興趣を向上させるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化 させる態様として,上記周知技術の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄 に変更することにより,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とすること\nは,当業者が容易になし得たものである旨判断したが,引用発明から出発し て,相違点1ないし3に係る本願発明の構成に想到することは,当業者にと\nって容易であったということはできない旨主張するので,以下において判断 する。
ア(ア) 引用文献1には,所定の入賞領域(始動入賞口)に遊技媒体が入賞す る(始動条件が成立する)と識別情報を可変表示(「変動」)可能\な可変 表示装置が設けられ,識別情報の可変表\示の表示結果が特定表\示結果(大 当り図柄)となった場合に遊技者にとって有利な特定遊技状態(大当り 遊技状態)に制御可能に構\成された従来の遊技機において,可変表示が\n実行されるより前に複数回の可変表示に渡って予\告演出を実行し,連続 した予告演出の態様の組合せにより,表\示結果を予告するものも提案さ\nれているが,遊技に有利状態となる可能性が低い予\告演出が実行された 場合には,遊技者が落胆してしまい,遊技の興趣が低下してしまうおそ れがあったという問題があったため,「本発明」の課題は,上記実情に鑑 み,遊技の興趣を向上させた遊技機を提供することを目的とすることに ある旨の開示がある(【0002】,【0003】,【0005】,【0006】)。
(イ) 次に,引用発明の遊技機は,1)「特図ゲームの第1開始条件と第2開 始条件のいずれか一方が1回成立したことに対応して,飾り図柄の可変 表示が開始されてから可変表\示結果となる確定飾り図柄が導出表示さ\nれるまでに,「左」,「中」,「右」の飾り図柄表示エリア5L,5C,5R\nにおける全部にて飾り図柄を一旦仮停止表示させた後,全部の飾り図柄\n表示エリア5L,5C,5Rにて飾り図柄を再び変動させる擬似連の可\n変表示演出であって,擬似連の可変表\示演出(「再変動」)は1回の変動 において最大3回まで実行可能になっていて,再変動の回数が多ければ\n多いほど,大当り信頼度が高くなるように変動パターンが決定され,決 定された変動パターンなどに基づいて演出制御パターンとしての特図 変動時演出制御パターンをセットし,演出制御パターンに含まれる,演 出装置における演出動作の制御内容を示し,演出制御の実行を指定する 表示制御データ#1〜表\示制御データ#n(nは任意の整数)の内容に 従って,画像表示装置5の制御を進行させる演出制御用CPU120と\nを備え」(構成b),2)「可変表示結果が「リーチハズレ」,「大当り」の\nいずれであるかによって擬似連予告演出が実行される割合,擬似連予\告 パターンの決定割合が異なり,具体的には,可変表示結果が「大当り」\nである場合には,「リーチハズレ」である場合よりも,擬似連予告演出が\n実行される割合が高くなっていて,チャンス目Aが停止する擬似連予告\nパターンYP1−1の擬似連予告演出が実行された場合よりも,チャン\nス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出が 実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合である大\n当り信頼度が高くなっていて,チャンス目の種別により大当り信頼度が 異なるものとされ,4回の変動及び再変動(擬似連3回の変動パターン) に渡って実行される擬似連予告演出の擬似連予\告パターンとして,初回 の変動においてチャンス目Aが仮停止し,2回目の変動(再変動)にお いてチャンス目Bが仮停止し,3回目の変動(再変動)において,背景 画像が特殊な背景画像に変化し,4回目の変動(再変動)においては継 続して特殊な背景画像において変動が実行される擬似連予告パターン\nを設けることで,大当り信頼度が段階的にステップアップしていくよう な演出を行」い(構成c),3)「所定の通常大当り組合せとなる確定飾り 図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了後\nには,時短制御が行われる一方,所定の確変大当り組合せとなる確定飾 り図柄が停止表示されると,通常開放大当り状態に制御され,その終了\n後には,時短制御とともに確変制御が行われ,確変制御が行われると, 各回の特図ゲームにおいて可変表示結果が「大当り」となる確率は,通\n常状態に比べて高くなり,確変制御は,大当り遊技状態の終了後に可変 表示結果が「大当り」となって再び大当り遊技状態に制御されるという\n条件が成立したときに終了する」(構成e)との構\成を有している。 引用発明は,構成cのとおり,疑似連予\告演出で仮停止するチャンス 目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告演出の回数と背景画像\nの変化とからなる擬似連予告パターンを設けることによって,大当り信\n頼度が段階的にステップアップしていくような演出を行う構成のもの\nであることが認められる。
そして,引用文献1には,チャンス目に関し,「チャンス目Aは,図2 1(A)に示すように,左図柄と中図柄が同じ数字であり,右図柄のみ が1つずれた数字の組合せとなっている。また,先読み予告パターンS\nYP1−2に基づく停止図柄予告では,連続演出用のチャンス目として,\n図21(B)に示すチャンス目CB1〜CB6(チャンス目B)のいず れかが停止する。チャンス目Bは,図21(B)に示すように,並び数 字の組合せとなっている。この実施の形態では,後述するように,チャ ンス目Aが停止する停止図柄予告が実行された場合よりも,チャンス目\nBが停止する停止図柄予告が実行された場合の方が,大当りとなる可能\ 性(大当り信頼度)が高くなっている。このようにすることで,停止図 柄予告が実行されるときに,いずれのチャンス目が停止したかに遊技者\nを注目させることができ,遊技の興趣が向上する。」(【0247】),「ま た,図35(B)に示す決定割合では,チャンス目Aが停止する擬似連 予告パターンYP1−1の擬似連予\告演出が実行された場合よりも,チ ャンス目Bが停止する擬似連予告パターンYP1−2の擬似連予\告演出 が実行された場合の方が,可変表示結果が「大当り」となる割合(大当\nり信頼度)が高くなっている。このように,チャンス目の種別により大 当り信頼度が異なるので,遊技者が停止図柄に注目するようになり,遊 技の興趣が向上する。」(【0370】)との記載がある。上記記載から, 「チャンス目」(チャンス目A及びB)は,「飾り図柄」を構成する個々\nの数字ではなく,「数字の組合せ」であり,「数字の組合せ」に着目して 可変表示結果が「大当り」となる割合(大当り信頼度)に差を設けてい\nることを理解できる。
・・・
イ(ア) 引用文献2には,1)複数種類の遊技図柄を変動表示装置において変\n動表示させることで変動表\示遊技を行う従来の遊技機においては,「リー チ状態」が発生した場合,例えば,遊技者の大当たり状態の発生に対す る期待感を高めて,遊技の興趣を盛り上げるために,最後に停止状態と なる変動表示部における遊技図柄の変動表\示速度を変化させたり,変動 表示部に表\示される遊技図柄の背景領域を利用してキャラクタ等による 演出表示を行ったりするのが一般的であるが,既に在り来たりのもので\nあり,それらの演出表示だけでは遊技者は遊技の興趣を得難くなってお\nり,また,未だ変動表示中の変動表\示部において変動表示される遊技図\n柄の中で特定の組合せ態様を成立し得ない遊技図柄の数を減少させて, 特定の組合せ態様が成立し易いような状態を演出表示することにより,\n遊技者の大当たり状態の発生に対する期待感を高めている遊技機もある が,遊技図柄の数を減少させた状態で行われる変動表示の速度が高速で\nあると,遊技者が遊技図柄の数が減少していることを把握できないまま 遊技を終了してしまうおそれがあるため,変動表示の速度を低速にする\nのが一般的であるが,その場合には,遊技自体にスピード感がなくなり, 変化に乏しい面白みのないものとなり,遊技の興趣を得難いという問題 点があったことから,遊技者の遊技に対する興趣を高める上で斬新な変 動表示を行う遊技機が求められており,2)「本発明」の課題は,上記実 情に鑑み,遊技者の遊技に対する興趣を高めることが可能な遊技機を提\n供することを目的とすることにある旨の開示がある(【0002】ないし 【0004】)。
・・・
ウ 以上を前提に検討するに,前記ア及びイの認定事実によれば,引用発明と 引用文献2に記載の技術は,遊技の興趣の向上という課題が共通し,1回の 変動中に複数段階で演出態様を変化させるという共通の機能を有している\nものと認められるが,一方で,引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技 の興趣の向上のために着目する観点が相違すること(前記イ(イ)),引用発 明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基本要素部」と「第一属性および 第二属性のいずれが設定されているかを示す属性要素部」の二つの要素部 を有する「識別図柄」であるとはいえず,引用発明の「飾り図柄」のうち の「確変図柄」は,本願発明の「第一属性が設定された識別図柄」に相当 するものではなく,引用発明の「飾り図柄」のうちの「非確変図柄」は, 本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」に相当するものではないこ と(前記(3)イ)に鑑みると,引用文献1及び2に接した当業者が,数字の 組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似連予告\n演出の回数と背景画像の変化に着目し,この観点から,大当り信頼度が段 階的にステップアップしていくような演出を行う引用発明において,遊技 の興趣の向上のために,「一連の遊技図柄」に含まれる確変図柄の割合の大 きさに着目する引用文献2に記載の技術を適用して遊技図柄の確変図柄の 割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認めることはできな\nいし,引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用する動 機付けがあるものと認めることもできない。
また,仮に引用発明に引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用 しようとした場合に,引用発明において相違点1ないし3に係る本願発明 の各構成をそれぞれどのように備えることになるのかを具体的に想到す\nることは,当業者にとって容易であるということはできない。 そうすると,本件審決の相違点1ないし3の容易想到性に関する前記判 断のうち,「当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上させるた めに,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,上記周知技術 の態様を採用して,非確変図柄を確変図柄に変更することにより,相違点 1ないし3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た」\nとの部分は,論理付けが不十分であって,採用することができないから,\n本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断には誤りがある。
エ これに対し被告は,1)引用発明と引用文献2に記載の技術は,遊技者に 段階的に有利となる期待感を高めることで興趣を向上させるという点で 課題が共通し,1回の変動中に複数段階に演出態様を変化させるという点 で作用・機能も共通すること,2)擬似連変動を行うパチンコ機において, 図柄や画像の段階的な変化を仮停止後の再変動を契機に行うことは,広く 一般に周知の技術であること,3)引用文献2の【0074】の「前記一連 の遊技図柄に含まれる確変図柄の割合を変更させることが可能であれば\n如何なる方法であっても良い。」との記載は,引用文献2に記載の技術にお いて,「図柄群変化演出」により遊技図柄(識別図柄)の確変図柄の割合を 変化させる方法について,実施例に例示した形態以外の他の周知の態様に 置換することを許容していることを示唆するものであり,当該他の周知の 方法の具体例として,本件周知技術である「通常図柄を確変図柄扱いにし ていく図柄変化演出」が存在することに鑑みると,引用文献1及び2に接 した当業者は,引用発明における「1回の変動」における「擬似連」とし てその各「仮停止」した後の「再変動」において,「図柄群変化演出」によ り遊技図柄の確変図柄の割合が変化した後の遊技図柄を用いた変動を実 行する構成とし,当該「図柄群変化演出」において,遊技の興趣を向上さ\nせるために,遊技図柄の確変図柄の割合を変化させる態様として,本件周 知技術の態様(「変化前に表示装置において変動表\示されていた識別図柄 群には含まれていなかった新規の識別図柄となるように設定された図柄 群変化演出を,変化前の非確変図柄を消して替わりに新たな確変図柄を出 現させること」)を適用して,相違点1ないし3に係る本願発明の構成とす\nることを容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら,前記ウで説示したとおり,引用発明と引用文献2に記載の 技術は,遊技の興趣の向上のために着目する観点が,引用発明においては, 数字の組合せからなるチャンス目の種別(チャンス目A又はB)及び疑似 連予告演出の回数と背景画像の変化であるのに対し,引用文献2に記載の\n技術は,「一連の遊技図柄」に含まれる「確変図柄の割合」の大きさである点 において相違すること,引用発明の「飾り図柄」は,「基本的態様を示す基 本要素部」と「第一属性および第二属性のいずれが設定されているかを示 す属性要素部」の二つの要素部を有する「識別図柄」であるとはいえず, 引用発明の「飾り図柄」のうちの「確変図柄」は,本願発明の「第一属性 が設定された識別図柄」に相当するものではなく,引用発明の「飾り図柄」 のうちの「非確変図柄」は,本願発明の「第二属性が設定された識別図柄」 に相当するものではないことに照らすと,上記1)及び2)の点を考慮しても, 引用文献1及び2に接した当業者が,引用発明において,遊技の興趣の向 上のために,引用文献2に記載の技術及び本件周知技術を適用して遊技図柄 の確変図柄の割合を変化させる構成とする動機付けがあるものと認める\nことはできない。

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令和2(行ケ)10133  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 商標「Ujicha」が識別力無しとした審決が維持されました。3条2項も否定されました。出願人は、漢字「宇治茶」を地域団体商標登録している京都府茶協同組合です。

 ア 原告は,漢字表記の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶」\nという意味を持つほか,本件地域団体商標の存在により,商品に付された 場合,原告の業務に係る商品であることを示す出所識別機能を有すると主\n張する。 しかし,商標法7条の2は,地域名と商品名からなる商標は自他識別力 を有しないため,原則として同法3条1項3号又は6号に該当すると解さ れることから,一定の要件を備えた場合に,「第3条の規定(同条第1項 1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず,」地域団体商標の商 標登録を受けることができるとしているものであり,地域団体商標の登録 を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別 機能を有する)ことになるわけではないことは明らかである。\n
イ 原告は,欧文字表記の「Ujicha」は商品の産地等を「普通に用い\nられる方法で表示するもの」でないと主張する。\n しかし,前記のとおり,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品 又は関連する商品に関して,「UJICHA」,「Ujicha」,「U ji cha」,「UJI−CHA」,「Uji」,「“Uji”」,「U JI」といった文字が包装に使用されていることが認められるし,さらに, 国際化の進展による外国人需要者の増加や,我が国におけるローマ字の普 及状況も考慮すれば,欧文字表記は,取引者において一般的に使用する範\n囲に属するものであって「普通に用いられる方法」に当たるというべきで あるから,原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとすれば,同法26 条1項2号により,本件地域団体商標に係る商標権の効力(同法37条1 号に規定する排他権)は,「Ujicha」の商標に及ばないこととなり, 地域団体商標制度を設けた趣旨が没却されると主張する。 しかし,地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に当該商標が 同法3条1項3号に該当しないことになるわけではないことは前記アのと おりであるし,本件地域団体商標に係る効力がそれとは異なる「Ujic ha」の商標に及ばないからといって,地域団体商標制度を設けた趣旨が 没却されるとは到底いえないから,原告の主張は採用することができない。
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員(甲 4)である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使 用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。 イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶, ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1), 甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」 の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下 に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶や ほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているもの と推認される。 そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や\n記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一 であると認めることはできない。 よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項に\nいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に, 煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地 直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで 「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示 す記載はない(甲5,6)。 このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる\n産地表示や品質表\示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表\ 示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所\n識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶 について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上 げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地 域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付し た指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合 員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。 他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外の ウェブサイトにおいて,「UJICHA」(乙7,8,12,13),「U jicha」(乙14),「Uji cha」(乙9),「UJI−CH A」(乙10,11)といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表\示した 商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1の とおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入 れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合 員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条\n2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標 の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表\示 や品質表示として表\示しているのかが明らかとはいえない態様のもので ある。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間, 販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園 による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付 ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は\n明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「U jicha」,「Uji cha」,「UJI−CHA」といった「宇治 茶」の欧文字表記を包装に表\示した商品を販売しているという実情があ る。
これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をさ\nれた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的\nに認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備し ないというべきことは明らかである。

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令和2(行ケ)10085 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所

 特許庁審査官は、PCTの国際手続きでおこなった補充の扱いについて、欠落部分を含まないようにする手段(施行規則38条の2の2第4項)をしなかったため、出願日が繰りさげて、自己公表よりあとの出願として拒絶査定としました。これについて取消を求めましたが認められませんでした。具体的には、PCT出願のあとに、米国で補充手続きをしましたが、その間に発明者による公表行為がありました。

 前記第2の4のとおり,平成24年10月1日より前の国際特許出願 である本願には,特許協力条約の「引用による補充」に関する規定は適用されない から,本願について「引用による補充」によって本件欠落部分を含んだ出願の出願 日が本願の国際出願日である平成23年8月25日になることはなく,本件欠落部 分を受理官庁に提出した同年9月29日となるが,本件欠落部分を含まない場合に は,本願の出願日が同年8月25日となる。 そして,本願に本件欠落部分を含まないようにする手段として施行規則38条の 2の2第4項の手続が定められているのであるから,同手続によることなく本件欠 落部分を含まないようにすることはできないものと解される。 前記1のとおり,原告は,施行規則38条の2の2第1項に基づいて本件通知を 受けたにもかかわらず,本件指定期間内に本件欠落部分が本願に含まれないものと する旨の同条4項の請求をしなかったのであるから,本願の出願日が平成23年9 月29日となることは明らかである。
イ 前記1のとおり,本願発明と同一の発明である引用発明が掲載された本 件学術誌が,本願の出願日の前の平成23年9月11日に公開されたのであるから, 本願発明には,新規性が認められない。
(2) 原告は,1)出願日が発明の公知日よりも後になることを知らずに,論文発 表等により発明を公知にしてしまった場合は,錯誤に陥って発明を公知にしてしまったのであるから,改正前特許法30条2項の「意に反して」に該当する,2)改正 前特許法30条2項の「意に反して」とは,権利者が発明を公開した後に,権利者 の意に反して出願日が繰り下がり,当該発明が遡及的に出願日よりも前の公知発明 となってしまった場合も含むとして,本願においては,同項が適用されるべきであ ると主張する。 しかし,本件において,原告は,引用発明が掲載された本件学術誌が公開された ことを認識していたことは明らかである。原告は,当初の出願後に「引用による補 充」を求めた行為によって出願日が繰り下がることを認識し得たのであり,また, 改正前特許法30条4項に規定する手続を,特許法184条の14に規定する期間 内に行うことも可能であったといえる。したがって,本件においては,改正前特許法30条2項の「意に反して」には当たらず,同項は適用されないというべきである。\nこの点について,原告は,出願日が繰り下がることがあることを知らなかったと 主張するが,それは日本の特許法についての知識が乏しかったということにすぎず, 上記判断を左右するものではない。
(3) 原告は,本件通知によって出願日が繰り下がる認定がされた日は平成25 年9月24日であり,この時点では既に「国内処理基準時」から30日が経過して いるから,原告が改正前特許法30条4項に規定する手続を行うことは不可能であると主張する。\nしかし,原告は,米国特許商標庁に対し,平成23年9月29日に,本件欠落部 分につき「引用により補充」を求める書面を提出しているのであるから,この時点 で,将来,施行規則38条の2の2第4項の請求をしない限り,本願の国際出願日 が平成23年9月29日となり,本件論文が本願の国際出願日前に公開されたこと になることを認識し得たものである。したがって,原告は,国内処理基準時(特許 法184条の4第6項)から30日以内(特許法184条の14,特許法施行規則 38条の6の3)に,改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明で あることを証明する書面を特許庁長官に提出することができたものということがで きる。 よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上より,取消事由1は認められない。
3 取消事由2(本願の出願日の認定の誤り)について
(1) 前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は,平成23年9月29日であ る。
(2) 原告は,特許庁長官に提出した翻訳文には,本件欠落部分が含まれていな かったから,本願の明細書には本件欠落部分が含まれていないとみなされ,また, 特許法184条の6第2項により,本件翻訳文は,願書に添付して提出した明細書 とみなされるから,本件欠落部分は本願の明細書の範囲外となっていると主張する。 しかし,前記2(1)アのとおり,本願の国際出願日は平成23年9月29日であり, このことは,特許法184条の4第1項に基づき指定官庁である特許庁長官に提出 した本件翻訳文に本件欠陥部分の翻訳が含まれていたか否かや,本件翻訳文が特許 法36条2項の明細書とみなされ(特許法184条の6第2項),外国語特許出願に 係る明細書等について補正できる範囲は,翻訳文の範囲に限定されている(特許法 184条の12第2項)ことで影響を受けるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,本件通知には,本願について「引用による補充」がなかったとする 場合には,本件指定期間内に条約規則に基づく請求書に所定の事項を記載して提出 するとともに,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提 出してほしいことが記載されているが,本件通知の発送よりも前に,手続補正によ り削除すべき本件欠落部分が明細書に存在しないことになるから,本件通知に応答 して,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出するこ とは不可能であり,「引用による補充」がされる前の明細書の全文を手続補正書により提出することを求める本件通知は法律に基づいた処分ではなく,重大かつ明白な瑕疵があると主張する。\nしかし,本件通知の文書に上記の記載があるからといって,本願の国際出願日の 認定が左右される理由はない。
(4) 原告は,翻訳文からあえて膨大な量の本件欠落部分を除いているのである から,本件翻訳文の提出をしたことにより,本件欠落部分が本願に含まれないもの とする旨の請求をする意思を持っていることが客観的に明らかであるところ,原告 は,本件翻訳文の提出により,本願に「引用による補充」がなかったとする黙示的 な意思表示をしており,同意思表\示は,施行規則38条の2の2第4項の請求に当 たるから,本件通知には重大かつ明白な瑕疵があるとともに,本件通知に対する応 答があったとみなされるべきであると主張する。 しかし,施行規則38条の2の2第4項は,特許庁長官が,認定された国際出願 日を通知する際に指定した期間内に,条約規則20.5(c)の規定によりその国際特 許出願に含まれることとなった明細書等が当該国際特許出願に含まれないものとす る旨の請求をすることができる旨を規定しており,本件通知前にした本件翻訳文の 提出行為が,上記の請求に当たらないことは明らかである。このことは,本件欠落 部分の分量が70頁であり,一方,本願の当初の明細書の分量が22頁であること によって左右されるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。

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令和2(行ケ)10127  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月25日  知的財産高等裁判所

 商標の不使用が争われた事件で、指定商品「工楽松右衛門の創製した帆布」に使用したのかが争われました。知財高裁は指定商品の意義を検討した上、使用に該当すると判断した審決を維持しました。

(ア) 本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義につい て,まず検討する。
前記(1)エで認定した各文献の記載によると,播州高砂の船頭であった工樂松右 衛門は,江戸時代後期の天明年間に,従来使われていた刺し帆より耐久性や強度な どに優れる織り帆を発明し,それが「松右衛門帆」として全国に伝播し,明治時代 頃まで帆船の帆などとして広く利用されていたものと認められる。 もっとも,前記(1)エの各文献の記載にあるとおり,現代において帆船が用いられ なくなったことに伴い,「松右衛門帆」は急速に姿を消していったものと認められ, B論文(甲7)の表にあるとおり,現代においては,残存する「松右衛門帆」も限\nられたものとなっていたと認められる。そして,前記(1)エの各文献等の記載や前記 (1)ウ(ア)のとおり,被告による「松右衛門帆」の復元に当たって,D教授が改めて 調査を行っていることも考え併せると,被告が,平成22年頃から「松右衛門帆」 を復元したとする本件布地を用いた商品の製造販売を始めるまでの間,「松右衛門 帆」が,具体的にどのようなものであるのかについて,B教授のような一部の専門 家以外の者には,その詳細は不明なものとなっていて,本件指定商品の取引者,需 要者たる一般人が,容易に調査できる範囲の資料から得られる「松右衛門帆」につ いての情報は,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されていた「太い綿糸で織られた幅広 の厚手の帆布」程度のものになっていたと認められる。 このような状況において,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授の協力を 得て,神戸大学海事博物館に所蔵されていた,原告らの実父で,帆船について研究 をしていたCによって寄贈された「松右ヱ門帆」という資料名の布の調査に基づい て,1)現在,一般に流通している帆布と異なり,2本の単糸を引き揃えにしている 点や2)緯糸が経糸より3倍太くなっていて,極端に太い点などの特徴を有する布地 (本件布地)による,かばん等の商品の製造販売を始めた。 そして,前記(1)ウ(ウ)認定の被告や御影屋による広告宣伝活動や同エ(イ)f以降 及び同(ウ)の第三者による文献等の記載から分かるとおり,平成22年頃以降から 要証期間中にかけて,被告や御影屋が「松右衛門帆」を復元したとする本件布地を 用いた商品の製造販売を開始して広告宣伝活動を行うことで,「松右衛門帆」とは, 被告が復元した上記1),2)のような特徴を持つ本件布地を指すものであるという認 識が,取引者,需要者の間に広まっていたものと認められる。
そうすると,遅くとも,本件商標を付した本件かばん2が,一般消費者に販売さ れ,平成30年2月5日に納品された時点で,本件指定商品の取引者,需要者は, 「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,本件布地のよう な「太い木綿糸を用い,太さの違う経糸と緯糸を2本引き揃えて織った厚く丈夫な 布地」(前記(1)ウ(ア))であると認識していたものと認められる。
(イ) 原告らは,1)本件指定商品中の「工楽松右衛門の創製した帆布」とは,
「天明年間に播州高砂に実在した船頭である工樂松右衛門がはじめてつくりだした 帆布」を意味しており,「松右衛門帆」は,「工楽松右衛門の創製した帆布」の上位 概念であるから,「松右衛門帆」から「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を解釈・ 認定するのは誤りである,2)布の耳部(両端)1寸ほどについては縦糸1本横糸2 本で織り,それ以外の部分については縦糸2本横糸2本で織っている(特徴1)),幅 の長さは2尺5寸(約75センチ)ほどのものである(特徴2))という二つの特徴 を備えないと,「工楽松右衛門の創製した帆布」とはいえない,3)神戸大学海事博物 館所蔵の帆布はその出自が不明である上,耳部が失われているから,「工楽松右衛門 の創製した帆布」とはいえない,4)工樂松右衛門が創製した当時の「松右衛門帆」 に使われていた糸は2.2番手相当であり(甲68),神戸大学海事博物館に所蔵さ れていた帆布や本件布地とは糸の太さが異なるし,織布の密度も異なる上,本件布 地の織り方は他の織り方においても認められる構造である,5)本件指定商品の意義 は,登録事項に基づき客観的に認定判断されるべきであり,商標権者である被告自 身の広告宣伝によって定まるとするのは不当であるなどと主張する。
a 上記1)について
前記(1)エの文献の記載を見るに,各辞典(甲46〜48)では,「工楽松右衛門 の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じものとして扱っており,また,各文献(甲 3〜7)においても,「この松右衛門が開発した,いわゆる『松右衛門帆』」(甲4),「松右衛門帆は,高砂在住の松右衛門帆が天明(1785)に創製した」(甲7)な どと,各辞典と同様に「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」を同じも のとして扱っているから,「工楽松右衛門の創製した帆布」と「松右衛門帆」は同じ ものであると認められ,原告らが主張するように両者が異なるものであるとは認め られず,上記(ア)の認定判断は左右されない。
b 上記2)について
前記(1)エ(イ)a,dのとおり,甲3には「工楽家に現存する帆」として幅3尺の ものが存在する旨の記載がある上,B論文(甲7)の表の中にも,幅が2尺5寸と\nは大きく異なる1尺9寸5分のものが記載されているし,同論文には,「現在の工業 製品と違って,織り幅を規格化していたかどうか疑問で,また,織り手によって多 少差があったのではないだろうか。」と記載されている。そして,前記(1)エ(イ)a, eのとおり,「松右衛門帆」は,人伝いに各地に伝播していったもので,中には地方 において見様見真似で織ったものも存在していた(甲3,4)とされている。そう すると,「松右衛門帆」とされるものの幅やその他の性状といったものについては, 「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から既に相当にバラつきがあっ たものと推認できるところである。 また,前記(1)ウ(イ)で認定したように,被告の商品のかばん類に耳部が用いられ ておらず,裁断されるなどして,織り上げられた時点とは幅も異なるものとなって いることからすると,布地の耳部は,一般的に布地から製品を作る際に必ずしも使 用されるものではなく,また,布地の幅も,それぞれの製品に応じて裁断されるな どして異なったものとなると認められるところ,前記(1)エ(イ)d,e のとおり,「松 右衛門帆」は,船の帆として利用されただけでなく,前垂れや覆い,敷物などの他 の用途にも利用されていた(甲4,7)のであるから,そのような中で,「松右衛門 帆」が,幅二尺五寸以外の大きさに加工されたり,耳部がない形で利用されたりす ることもあったものと推認できる。 さらに,現代において,帆船の減少に伴い,「松右衛門帆」の意義が不明確なもの となっていたのは,上記(ア)で認定したとおりである。
以上からすると,「松右衛門帆」が船の帆として使用されていた当時から,特徴1), 2)が,「松右衛門帆」の特徴として広く認識されていたとは認められないし,まして, 「松右衛門帆」の意義が一旦不明確となった以降で,かつ,前記(1)エ(イ)aのとお り,一般に帆布が船の帆に限られず幅広く様々な製品で使われるようになった本件 査定日や要証期間の時点において,特徴1),2)が,「工楽松右衛門の創製した帆布」 の特徴として,本件指定商品の取引者,需要者に認識されていたとは認められず, 原告らの上記主張は,上記(ア)の認定判断を左右するものではない。 なお,原告らは,被告も,耳部が「松右衛門帆」の特徴であるとして宣伝してい る(甲9)から,特徴1)が「松右衛門帆」の特徴である旨主張するが,甲9にも記 載されているように,被告や御影屋が製造販売するかばんには,耳部は使われてい ないのであるから,原告らの上記主張は採用できない。
c 上記3)について
前記(1)ウ(ア)のとおり,神戸大学海事博物館所蔵の帆布は,帆船の研究をしてい た原告らの実父によって寄贈され,同博物館で「松右ヱ門帆」として保管されてき たものであるから,前記(1)ウ(イ)のとおり同帆布の調査に基づいて復元された本件 布地が「松右衛門帆」とはいえないということはできない。原告らが主張する耳部 に関する特徴1)が,現代において,「松右衛門帆」の特徴として,本件指定商品の取 引者,需要者に認識されていたとはいえないことは,上記bで認定判断したとおり であり,原告らの主張はその前提を欠いている。
d 上記4)について 上記bのとおり,「松右衛門帆」が船の帆として使われていた当時から,その規格 にはバラつきがあったものと認められるところ,神戸大学海事博物館に所蔵されて いた「松右ヱ門帆」は,上記cのとおりのものであって,これとは異なる「松右衛 門帆」が存在するからといって,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門 帆」が「松右衛門帆」であることを否定することはできない。 また,神戸大学海事博物館に所蔵されていた「松右ヱ門帆」や本件布地の織り方 が他にも認められる構造のものであったとしても,それが「松右衛門帆」であるこ\nとを否定することにはならない。
e 上記5)について
上記(ア)で認定判断したように,現代において「松右衛門帆」の意義が不確かなも のとなっていたところ,被告や御影屋による広告宣伝活動の結果として,要証期間 までの間にその意義が再度認識されるようになってきているのであり,取引の実情 として,「松右衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義を認定す るに当たり,被告や御影屋の広告宣伝活動の結果を考慮に入れることは何ら不当で はないし,上記(ア)で認定判断した事実経過からすると,第三者の地位を著しく不安 定にするということはない。 また,前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,神戸大学海事博物館において「松右 ヱ門帆」として所蔵されていた,帆船の研究家である原告らの実父が寄贈した帆布 を調査し,これを復元することを試みて,本件布地を完成させている上,本件布地 の特徴が,前記(1)エ(ア)の各辞典に記載されている「松右衛門帆」の特徴と合致す るのみならず,同(イ)の文献に記載されている「松右衛門帆」の特徴とも耳部以外の 点で概ね合致するものであることからすると,被告や御影屋が,本件布地を「松右 衛門帆」,すなわち,「工楽松右衛門の創製した帆布」として販売することは,本件 指定商品の品質について誤認を生じさせて公益を害するものとはいえず,本件にお いて,被告や御影屋の広告宣伝の結果を考慮に入れることは,このような観点から も相当なものといえる。 したがって,原告らの上記5)の主張は採用することができない。
f 小括 以上から,原告らの上記1)〜5)の主張はいずれも採用することができないし,そ の他原告らが主張するところも,いずれも上記(ア)の認定判断を左右するものでは ない。
イ 本件かばんが,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」である のかについて
前記アで認定した本件指定商品における「工楽松右衛門の創製した帆布」の意義 に基づいて,本件かばん2が,「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」に 該当するかについて検討する。 前記(1)ウ(ア),(イ)のとおり,被告は,D教授が神戸大学海事博物館において「松 右ヱ門帆」として所蔵されていた帆布についてした調査に基づき復元した本件布地 を使用して,本件かばん2を製作したところ,本件布地は,太い木綿糸を用いて, 2本の単糸を引き揃えにして平織りにし,かつ,緯糸の太さが,経糸より約3倍太 くなっていた厚手の帆布なのであるから,本件布地は,取引者,需要者が観念し得 る「工楽松右衛門の創製した帆布」としての要件を満たすものであったといえる。 したがって,本件布地を使用した本件かばん2は,「工楽松右衛門の創製した帆布 を用いたかばん類」に該当するものであったと認めるのが相当である。 以上のとおり,本件商標の通常使用権者である御影屋は,要証期間内である平成 30年2月頃に本件商標を付した「工楽松右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」 に該当する本件かばん2を一般消費者に販売していたのであるから,本件商標は, 要証期間中に,日本国内において,通常使用権者により,本件指定商品中,「工楽松 右衛門の創製した帆布を用いたかばん類」について使用されていた(商標法2条3 項1,2号)ということができる。

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令和2(行ケ)10084  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 空調服について、使用による顕著性(3条2項)が認められました。審決は識別力無し&使用による顕著性(3条2項)なしでした。 ア 原告らは,原告各社が生み出した「空調服」の文字構成には強い独創性\nがあり,かつ,「空調」という語と「服」という親和性の乏しい語とを結合させて 意味付けることは困難であること,「空調服」の語は,漢字3文字から構成される\n短い用語で,一連一体の語として発音され,切れ目がなく,ひとまとまりの造語と して需要者,取引者に認識されてきたことから,「空調」と「服」とを分離して検 討することはできないと主張する。
しかし,「空調」という語と「服」という語の親和性の程度が本来的には高いと いい難いことを考慮しても,「空調服」の語が特定の意味合いを有すると理解でき ることは,上記(1)のとおりである。また,上記(1)で指摘した,「服」が末尾に来 る一般的な名詞の例に照らしても,漢字3文字から構成される短い用語であること\n等から,「空調」の語と「服」の語を分離できないということはできない。そして, 「空調服」という文字構成を原告各社が生み出したという事情は,「空調服」とい\nう語を分離して解釈できるか否かを左右するものではない。 イ 原告らは,「空調服」を「空調」と「服」とに分離して解釈したとして も,「空調」の意味からすると,「空調服」が通気機能を備えた作業服の品質を表\ すものとはいえないと主張するが,「空調」の語の意義を考慮すると,「通気機能\nを備えることにより,空気の温度等を調節する機能を有する服」を認識させるもの\nと解されることは,上記(1)のとおりである。電気機械器具品質表示規程の定めは,\nこの認定を左右するものではない。
ウ 原告らは,「空調服」の語の一般的な使用例について,1)原告各社等以 外のEFウェアのメーカーによっては一切使用されておらず,「EFウェア」等の 語が定着していること,2)ネット通販サイトにおける「空調服」の使用例について は,EFウェアにおける原告商品の認知度の高さゆえに「空調服」の表記が用いら\nれたものにすぎず,同表記が原告商品以外の商品の自他商品識別表\示として用いら れているわけではないこと,3)EFウェアの取引のごく一部に係るものにすぎない ネット通販サイトにおける記載(誤用例)をもって需要者,取引者の認識を判断す ることはできないこと,4)当該「空調服」が原告商品を指しているものが含まれて いること,5)「日本経済新聞」などのメディアについては,順次,「空調服」が原 告各社の商標であることについての訂正がされていること,6)特許出願明細書や実 用新案登録出願の明細書については,出願人がファン付き作業服の需要者や取引者 であるとは限らず,需要者,取引者の認識を表すとはいえないことなどを主張する。\nしかし,他に「EFウェア」等の語が存在することから直ちに,「空調服」の語 が「EFウェア」等の語とは異なる意義を有するということはできないし,作業服 メーカーによる用語法をもって直ちに本願指定商品の需要者の認識を表すものとい\nうことはできない。また,他に原告らが主張する事情は,商標法3条2項に該当す るかどうかについて考慮することができる事情とはいえても,上記(1)の認定判断 を左右するものとはいえない。
3 商標法3条2項該当性について
(1) 特別顕著性について
ア 原告商品「空調服」は,原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が\n開発したもので,原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当 時,「空調服」のほかにEFウェアは存在せず,「空調服」は,極めて独自性の強 いものであった(前記1(2)イ)。そして,ファンが衣服に取り付けられているとい う「空調服」は,平成17年当時,他に例のない形態で,これを目にした者に強い 印象を与えるものであったと解される。 また,前記2(1)で指摘したように,本願商標「空調服」の語の意味内容を,本来 の字義から直ちに理解することには一定の困難があり,上記のように,EFウェア という商品分野がいまだ存在しなかった当時においては,「空調服」という語の構\n成も,強い独自性を有していたということができる。 そうすると,「空調服」という商品やその「空調服」という名称は,強い訴求力 を有していたといえる。
イ 上記アの事情に加えて,EFウェアという商品分野において,平成27 年頃まで約10年間は,原告各社等によって市場は独占されていたこと(前記1(3) ア)及び前記1(2)イ〜カで認定した諸事情,特に,「空調服」が原告らの商品を指 すものとして,全国紙を含む新聞や雑誌で多数回にわたって取り上げられたこと, 全国放送の番組を含むテレビ番組でも多数回にわたって同様に取り上げられたこと, 建設会社等の企業に導入されたことなどを踏まえると,平成27年頃までには,「空 調服」は,「通気機能を備えた作業服・ワイシャツ・ブルゾン」という商品分野に\nおいて,原告らの商品として,需要者,取引者に全国的に広く知られるに至ってい たものと認めるのが相当である。
ウ その後,平成27年頃から他社がEFウェアの市場に参入するようにな り(前記1(3)ア),新聞記事やネットショッピングサイト等においてEFウェアを 示す語として「空調服」の語が用いられること(前記1(5)ア(イ))もあったが,原 告商品「空調服」が上記のとおり広く知られていたために同種の商品を「空調服」 と呼ぶ例が生じたと認められる。そして,1)前記1(3)ア〜クで認定した諸事情,特 に,平成28年以降においても,「空調服」が原告商品を指すものとして,又はE Fウェアの元祖が原告空調服の「空調服」であるとして,全国紙を含む新聞や雑誌 で多数回にわたり取り上げられ,また,全国放送を含むテレビ番組等においても同 様に取り上げられ,原告空調服による広告もいろいろな形態で行われ,企業におけ る「空調服」の導入例も拡大してきたことなどの事情,2)「空調服」以外にEFウ ェアを指す一般的な用語が用いられていること(前記1(5)ア(ア)),3)EFウェア の他のメーカーにおいては,「空調服」とは異なる商品名やブランド名で販売活動 を行っていること(前記1(5)イ),4)多くの他業者の参入があっても,なお,平成 30年及び令和元年(平成31年)の時点において,原告各社等による「空調服」 はEFウェアの3分の1程度のシェアを占めていること(前記1(4)イ)を考慮する と,「空調服」は,原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく,その認\n知度を高めていったものと認めることができる。
エ したがって,本件審決時である令和2年4月30日の時点において,本 願商標「空調服」は,使用をされた結果,本願指定商品の需要者,取引者が,原告 各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから,商標法 3条2項に該当するというべきである。

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令和2(行ケ)10043  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月30日  知的財産高等裁判所

 特許取消審決が取り消されました。争点は動機付けです。裁判所は課題および上限値が知られていたとはいえないと判断しました。 

 引用発明c−1は,粒子径分布が好適範囲に管理されていても,平均粒 子径から大きく逸脱する粗大粒子が存在する場合には,表示品位の低下や,光学フ\nィルムに欠点が生じる(段落[0005])ため,好適な粒子径を逸脱する粗大な 粒子の含有量が低レベルに低減された微粒子,及び,このような微粒子の製造方法, 並びにこの微粒子を含む樹脂組成物を提供するものであり(段落[0006]), 湿式分級と乾式分級とを組み合わせた方法により処理することで,粒径の好適範囲 から逸脱する粗大粒子や微小粒子を一層効率よく低減するものである(段落〔00 09〕)。
本件発明は,前記(1)アのとおり,架橋アクリル酸系樹脂粒子の揮発分が塗膜表\n面にムラなどを生じさせる結果,塗膜表面の傷付き性能\の低下が生じてしまうこと を解決することを課題としているところ,甲2−3には,このような本件発明の課 題は現れていない。
また,前記(2)によると,合成樹脂粒子の製造については,水分量を低減させ, 残存モノマーを低減させることにより,その品質を向上させることが知られていた ことは認められるが,前記(2)の各証拠から,本件発明のように,粒子中の揮発分 が表面ムラの発生や,塗膜表\面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明 細書の段落【0005】)という課題や,この課題を解決するために,加熱減量を 減ずるという構成を採用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたと認\nめることはできないし,まして,本件発明の「加熱減量のす.5%」が当業 者に知られていたと認めることはできない。
そして,他に,上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められない から,甲2−3によって,相違点c−1を容易に想到することができたと認めるこ とはできず,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 被告は,合成樹脂粒子の技術分野において,粒子の残存モノマー,水分などの揮 発分が存在することに起因して,何らかの問題が発生する場合に,当該揮発分の量 を一定量以下に低減化させることは,一般的な共通課題であるから,本件発明1は, 引用発明c−1から容易想到であると主張するが,被告の上記主張を採用すること ができる証拠がないことは,既に説示したところから明らかである。
(4) 以上によると,本件発明1が,当業者が容易に発明をすることができたも のであるとする本件決定の判断に誤りがある。
そして,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものでないから, 本件発明4,8も,当業者が容易に発明をすることができたものではないし,さら に,本件発明9及び本件発明10も,当業者が容易に発明をすることができたもの ではない。

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平成31(ワ)3273  差止請求権不存在確認請求事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月25日  大阪地方裁判所

 CS関連発明について大阪地裁26部は均等侵害を認めました。問題となった構成は「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」です。この構\成は審査段階で補正で追加されたものです。私の記憶ではCS関連発明でかつ補正した要件について均等を認めたのは初事例と思います。

 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分\nを削除しつつ,組画の表示を構\成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構\成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の\nは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない\nなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手\n段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す\nる関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当\n初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段\nが第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,\nその表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方\n法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外\nしているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表\示する構成を一般的\nに除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する\n画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ\nの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの\n(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を 選択する構成を意識的に除外する旨を表\示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。

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令和2(ネ)10022  音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年3月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 やっと判決文がアップされました。音楽教室における演奏について、1審は生徒の演奏も先生の演奏も著作権侵害と判断しましたが、知財高裁は前者は公衆への演奏ではないと判断しました。2小節以内の演奏について演奏権が及ぶのか、演奏権の消尽、録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由、権利濫用については音楽教室側の主張は認められませんでした。 双方が上告受理申立をしているとのことです。

 (ウ) 本件について
 前記(ア)及び(イ)によると,演奏権の行使となるのは,演奏者が,1) 面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して,又は,面前にいる 個人的な結合関係のある多数の者に対して,2)演奏が行われる外形的・ 客観的な状況に照らして演奏者に上記1)の者に演奏を聞かせる目的意思 があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。 本件使用態様1ないし4のとおり,控訴人らの音楽教室で行われた演 奏は,教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室 か,生徒の居宅であるから,演奏を聞かせる相手方の範囲として想定さ れるのは,ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生 徒のみである。すなわち,本件においては,一つの教室における演奏行 為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じ なければならない。 オ 以下,前記の基本的考え方を前提に,教師による演奏行為及び生徒によ る演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」 行われたものに当たるかについて検討する。
(2) 教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3(1)アのとおり,控訴人らは,音楽を教授す る契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結 した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇 用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを 実施している。 そうすると,音楽教室における教師の演奏行為の本質は,音楽教室事業 者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行とし て,生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担 する義務の履行として,生徒に聞かせるために行われるものと解するのが 相当である。
・・・
(ウ) これに対して,控訴人らは,前記第2の5(1)ア(ア)のとおり,教師 がレッスンで演奏(録音物の再生を含む。)するかどうか,どのような演 奏をどの程度するかについて教師の裁量に任されているから,控訴人ら は教師の演奏を管理・支配していないし,音楽教室における教師の楽曲 の演奏は,未完成又は不完全な演奏であり,また,1回1回全て異なる ものであるから,音楽教室事業者が管理・支配できるものではない旨主 張する。 しかしながら,教師は,控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づ き,その義務の履行として演奏技術等を生徒に教授するのであって,履 行方法に選択肢を有するとしても,履行しない自由を有してはおらず, その履行に当たって一定の裁量があるとしても,本件受講契約において 控訴人らが生徒に対し負担する義務を履行するために必要なレッスンを 行う義務を負うこと自体には何ら変わりはないのであるから,教師がレ ッスンの進行について裁量を有することは,教師がした演奏の主体が控 訴人らであるとする前記判断を左右するものではない。
また,教師が未完成又は不完全な形で毎回異なるように演奏するのは, その技量が不足するためではなく,生徒への演奏技術等の教授のために 敢えてしていることであって,まさしく控訴人らとの間の雇用契約又は 準委任契約に基づく義務の履行に適ったことをしているにほかならない。 したがって,演奏内容の完成度若しくは完全度又は再現性は,教師が, 控訴人らとの雇用契約又は準委任契約に基づく義務の具体的履行方法と してどのような演奏手法を用いたかということを意味するにすぎず,教 師のした演奏の主体が控訴人らであるとする前記判断を左右するもので はない。 そのほかに控訴人らが教師の演奏行為に係る演奏主体について主張す る点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないものである から,前記判断を左右し得ない。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 前記(1)エ(ア)のとおり,演奏権の行使に当たるか否かの判断は,演 奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は 相手方の数において決せられるところ,この演奏者とは,著作権者の保 護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域 に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると,演奏権の行使に ついて責任を負うべき立場の者,すなわち演奏の主体にほかならない。 そうすると,前記ウ(イ)のとおり,音楽教室における演奏の主体は,教 師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり,教師の演奏行為に ついて教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく,生徒 に聞かせるために演奏していることは明らかであるから,実際の演奏者 である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏 されたものであるといえるかは,規範的観点から演奏の主体とされた音 楽教室事業者からみて,その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に 当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ) そこで検討するに,引用に係る原判決の第2の3(1)アによると,生 徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音\n楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては, 生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒 が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な 結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生 徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介し て関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約か ら個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者と の関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相 当である。
したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は, その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」にな るというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教 室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講 契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の 者というべきである。
・・・・
オ 小活
以上によれば,教師による演奏については,その行為の本質に照らし, 本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり, 不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し,「聞かせることを目的」 として行われるものというべきである。
(3) 生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について 引用に係る原判決の第2の3(1)ア及び前記(2)アに照らせば,控訴人らは, 音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受 講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目 的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行 うレッスンを実施している。 そうすると,音楽教室における生徒の演奏行為の本質は,本件受講契約 に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため,教師に聞かせようとし て行われるものと解するのが相当である。なお,個別具体の受講契約にお いては,充実した設備環境や,音楽教室事業者が提供する楽器等の下で演 奏することがその内容に含まれることもあり得るが,これらは音楽及び演 奏技術等の教授を受けるために必須のものとはいえず,個別の取決めに基 づく副次的な準備行為や環境整備にすぎないというべきであるから,音楽 教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を 受けることにあるというべきである。 また,音楽教室においては,生徒の演奏は,教師の指導を仰ぐために専 ら教師に向けてされているのであり,他の生徒に向けてされているとはい えないから,当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏し ているのではないというべきであるし,自らに「聞かせる目的」のものと もいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば,ことさら 音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は,生徒の演奏技術の向上の ために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要がある とし,書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが, 自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性,有用性と,誰に「聞かせ る目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず,採用し 得ない。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 前述したところによれば,生徒は,控訴人らとの間で締結した本件 受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレ ッスンに参加しているのであるから,教授を受ける権利を有し,これに 対して受講料を支払う義務はあるが,所定水準以上の演奏を行う義務や 演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負 ってはおらず,その演奏は,専ら,自らの演奏技術等の向上を目的とし て自らのために行うものであるし,また,生徒の任意かつ自主的な姿勢 に任されているものであって,音楽教室事業者である控訴人らが,任意 の促しを超えて,その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。 確かに,生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中か ら選定され,当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって 被告管理楽曲が演奏されることとなり,また,生徒の演奏は,本件使用 態様4の場合を除けば,控訴人らが設営した教室で行われ,教室には, 通常は,控訴人らの費用負担の下に設置されて,控訴人らが占有管理す るピアノ,エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに,音響設備,録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら,前記アにおい\nて判示したとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教 師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであり,控 訴人らによる楽曲の選定,楽器,設備等の提供,設置は,個別の取決め に基づく副次的な準備行為,環境整備にすぎず,教師が控訴人らの管理 支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても,控訴人らの顧客 たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく,いわ んや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。 このことは,現に音楽教室における生徒の演奏が,本件使用態様4の場 合のように,生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。以上によれば,生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意か\nつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法につ いて一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受ける ための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏 とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒で あるというべきである。
(イ) これに対して,被控訴人は,引用に係る原判決の第3の2〔被告の 主張〕(1)エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5(2)ア(ウ)のとおり,音楽教 室における生徒の演奏は,1)控訴人らとの間で締結した本件受講契約に おけるレッスンの一環としてされるものであり,レッスンの受講と無関 係に演奏するものではないこと,2)教師の指導の下,教育効果の観点か ら必要と考えられる場合にその限度でされること,3)本件受講契約によ って特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定 された音楽著作物を,教師の指導・指示の下で演奏することを原則とす るものであること,4)控訴人らが費用を負担して設営した教室において, 控訴人らの管理下にある音響設備,録音物の再生装置等,録音物,楽器 等を利用してされるものであること,5)音楽教室事業が音楽著作物を利 用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと,本件受講契約に基づき支払う受講料の中に,音楽著作物の利用の対\n価部分が含まれていることに照らせば,生徒の演奏についても音楽教室 事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ,演 奏の主体は控訴人らである旨主張する。
しかしながら,上記1)ないし4)において控訴人が主張する事情から直 ちに,生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価する ことができないことは,前記説示から明らかである。なお,被控訴人は, 前記第2の5(2)ア(イ)のとおり,カラオケ店における客の歌唱の場合と 同一視すべきである旨主張するが,その法的位置付けについてはさてお くにしても,カラオケ店における客の歌唱においては,同店によるカラ オケ室の設営やカラオケ設備の設置は,一般的な歌唱のための単なる準 備行為や環境整備にとどまらず,カラオケ歌唱という行為の本質からみ て,これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないもの であるから,本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。 さらに,上記5)において被控訴人が主張する事情については,レッス ンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契 約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足り る証拠はないし,また,いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し 利益を得ているのは,専らその教授方法や内容によるものであるという べきであり,生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得て いるとはいい難い。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ) そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について 主張する点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないもの であるから,前記判断を左右し得ない。
エ 小括
以上のとおり,音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるか ら,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控 訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利 得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特 定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行わ れるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするも のとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。 なお,念のために付言すると,仮に,音楽教室における生徒の演奏の主 体は音楽事業者であると仮定しても,この場合には,前記アのとおり,音 楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導 を受けることにある以上,演奏行為の相手方は教師ということになり,演 奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを 目的として演奏することになるから,「公衆に直接(中略)聞かせる目的」 で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教 師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また,他の生徒 や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記 アで説示したとおりであり,同じく事業者を演奏の主体としつつも,他の 同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)に おける歌唱等とは,この点において大きく異なる。)。

◆判決本文

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◆平成29(ワ)20502等

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平成30(ワ)60 不当利得返還請求事件  その他  民事訴訟 令和3年3月11日  大阪地方裁判所

 特許を譲り受けたのに特許料を不能とした特許権者に対して、無効となった期間に対応する実施権料の不当利得返還請求が認められました。\n

(1) 以上より,被告が特許料不納付により本件特許権5〜8を消滅させたこと は,本件許諾契約上の特許維持義務(本件許諾契約書8条2項)の不履行に当た る。したがって,本件許諾契約は,原告の解除の意思表示(前記第2の1(10))に より解除されたこととなるから,被告は,原告に対し,原状回復義務(民法545 条)として,本件許諾契約に基づき原告が支払った実施料の返還義務及び利息支払 義務を負う。
(2) 本件許諾契約書において,実施料の額は本件プラントの処理能力に基づき算\n定されており(5条1項。前記第2の1(4)),本件各特許権の実施料を個別に算 定し,これを合算した額をもって実施料とするといった定め方はされていない。本 件各特許権の存続期間終了に応じて実施料を減額するといった規定も存在しない。 また,本件仕様書において,本件プラントにおいて本件各発明が実施される設備な いし方法及びそこで実施される発明を特定しているわけでもない。 これらの事情に鑑みると,本件許諾契約は,本件プラントの建設,操業及びリサ イクル品の製造,販売等において,本件各発明に係る技術のどれがどのように使用 されるかを具体的に特定して実施料を算定したものではなく,本件各特許権を一体 的なものとして取り扱い,本件許諾契約書記載のとおり,本件プラントの処理能力\nに基づき実施料を算定したものと理解される。 そうすると,本件許諾契約は,出願日の最も遅い本件特許権8(出願日平成10 年4月11日)の存続期間が終了する平成30年4月11日までは,契約として意 義を有していた可能性が高く,同契約に基づく本件実施料は,平成18年4月1日\n〜平成30年4月11日の期間中,本件各特許権のいずれかの通常実施権を許諾さ れることの対価として一体的に定められたものと見られる。 もっとも,本件各特許権のうち最もその消滅が遅かったのは本件特許権6(平成 23年7月6日)であり,それまでは,原告は,本件許諾契約に基づく通常実施権 者としての地位を享受していた。このため,本件許諾契約の解除により,原告も, その間に享受した利益を返還すべき地位にある。 そこで,本件実施料として支払われた1億5750万円から,原告が実際に通常 実施権者としての地位を享受していた期間に相当する部分を控除すると,8857 万1347円となる。
\157,500,000-(\157,500,000*1923 日/4394 日)=\88,571,347
(日数は実日数,小数点以下切捨て)
(3) 被告の主張について
被告は,本件実施料はそもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料では ない,本件許諾契約の目的は本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点 で既に達成されている,本件プラントにおいて本件各特許権が実施されていないこ とから,被告が本件特許5〜8を消滅させたことによって原告に損害が発生してお らず,債務不履行となるべき事実自体がないなどと主張する。 しかし,本件許諾契約に至る経緯等(前記1(1))に鑑みれば,本件実施料が実 質的に本件各特許権の実施に係る許諾料でないと見るべき事情はない。また,本件 許諾契約は,本件プラントの操業を埼玉ヤマゼンが担うことを前提としたものであ ることから(前記第2の1(2),第3の1(1)ケ,(2)),その目的が本件プラントの 本稼働開始により既に達成されたと見ることもできない。 さらに,そもそも,本件では本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状 回復請求がされているのであって,損害賠償請求はされていないことから,損害の 発生の有無は問題とならない。その点は措くとしても,本件プラントにおける本件 各発明の実施の有無は必ずしも判然とせず(前記1(5)),また,本件許諾契約に より原告が認められるのは通常実施権にとどまるものの,本件許諾契約には,JRT が原告以外の者にも本件各発明の実施を許諾する場合は,事前に原告との協議を要 することが定められていること(本件許諾契約書3条。前記第2の1(4)ア)など に鑑みると,なお本件特許権5〜8が権利として維持されることには意味があった ものといえる。しかも,前記(2)のとおり,本件許諾契約においては,本件実施料 を定めるに当たり本件各特許権は個別にではなく一体的に取り扱われていることか ら,本件特許権1〜4が本件譲渡契約の時点で既に消滅していたことは,原状回復 が認められる範囲を定めるに当たり考慮すべき事情とはいえない。その他被告が 縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。

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令和2(ネ)10051  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月9日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかが争われました。東京地裁(40部)は平成11年最判の判断が本件にも該当するとして、特69条が適用されると判断しました。知財高裁(2部)も同様の判断をしました。

 (1)控訴人は,新薬の製造販売承認を得るための必要な試験は,平成11年最 判の射程外であるところ,特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するかにつ いては特許権者の利益と第三者の利益を綿密に検討する必要があり,本件治験は, 同項の「試験又は研究」に該当しないと主張する。 しかし,新薬の製造販売承認を得るために必要な本件治験が,特許法69条1項 の「試験又は研究」に該当することは,原判決「事実及び理由」の第4の1(2)のと おりである。 控訴人は,新薬の製造販売承認のためにする試験と後発薬の製造販売承認のため の試験の内容が異なる旨主張するが,平成11年最判の趣旨が本件治験についても 該当することは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(2)のとおりであって,この ことは,製造販売承認のための試験の内容によって左右されるとは解されない。
(2) 控訴人は,特許権者ではない第三者が特許権の存続期間中に新薬の製造 販売承認を得た場合,当該第三者は,特許権の存続期間満了までは,当該新薬を製 造販売することができないから,その間,当該新薬の再審査期間中に製造販売でき ないという空白期間が生じると主張するが,実地医療での使用における安全性情報 の調査は,特許期間満了後に開始すればよいのであり,実地医療での使用における 安全性情報等の調査という目的が十分に果たされないというものではない。\n
(3) 控訴人は,特許権者でない第三者が特許発明について新薬としての治験 を行うことに特許権の効力が及ばないとすると,この第三者が特許権者に先行して 製造販売承認を得ることも可能になり,特許権者は,特許権の存続期間中であるに\nもかかわらず,事実上自らの特許発明に係る実施品について治験を実施することす らできなくなることとなるから,特許出願をするメリットがなくなり,発明の公開 というデメリットばかりが大きいことになるため,薬剤の発明者は,特許出願をた めらうことになり,医薬品産業の発達を著しく阻害することになり,特許法の目的 に反すると主張する。
しかし,特許法は,当該特許権の存続期間中に特許発明を独占的に実施し,それ により利益を得る機会を確保しているものであるが,特許権者が現実に利益を得る ことまでをも保障するものではないから,第三者が特許権者に先行して製造販売承 認を得たり,特許権者が,事実上,自らの特許発明の実施品について治験を実施す ることが難しくなることがあるとしても,これが特許法の趣旨に反すると認めるこ とはできず,控訴人の上記主張は,本件治験が特許法69条1項の試験に該当する との判断を左右するものではない。
(4) 控訴人は,再生医療等製品のうち特にバイオ医薬品については,通常の医 薬品とは異なる規制や制約があるのであり,その開発には,長期の開発期間を要す ることから,製造承認販売を得て販売されるタイミングが当該特許権の存続期間満 了間近とならざるを得ず,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨\n床試験)を実施することを許容すると,特許権者の不利益は甚大なものとなる旨主 張する。 しかし,この点についての控訴人の主張を採用することができないことは,原判 決の「事実及び理由」の第4の1(3)ウのとおりである。 また,控訴人は,特許権の存続期間中に第三者が承認申請のための治験(臨床試\n験)を実施することを許容すると,革新的な医薬品の研究開発に悪影響を与えると か国内外において製薬業界に大きな混乱を与えると主張するが,控訴人の陳述書(甲 32)のみで,そのような事情を認めることはできず,他に,そのような事情を認 めるに足りる証拠はない。
(5) 控訴人は,新薬の承認申請のための治験を特許権の存続期間中に何らラ\nイセンスもなく実施可能ということにすると,諸外国の取扱いに反する旨主張する。\nしかし,我が国と諸外国では,法制度を異にしているから,我が国において諸外 国と同様の取扱いをしなければならないとはいえない。また,欧州においては,証 拠(甲41)及び弁論の全趣旨によると,欧州各国の中で,それぞれの国内法にお いて,医薬品の承認を得るための手続が特許権侵害とならないとする,いわゆるB olar条項の適用の範囲を定めており,フランス,イタリア,スペイン及び英国 は,同条項の適用を,後発医薬品の承認を得るための試験に限定していないことが 認められる。 控訴人は,Amgen が米国及び欧州で Massachusetts General Hospital の特許(本 件特許に対応する米国特許と欧州特許)についてライセンス契約を締結した上で TVEC の臨床試験を実施していることを主張するが,新薬に係る治験が特許権侵害に 該当しないとされていたとしても,新薬に係る治験を行うために特許権者とライセ ンス契約を締結することはあり得ることであるから,控訴人の上記主張から諸外国 の制度に関する認定をすることはできない。 控訴人は,陳述書(甲32)において,後発薬と異なり,新薬に係る治験につい ては,当該新薬に係る特許が存在している場合に,当該特許の所有者からライセン スを受けることなく当該治験を実施することが当該特許の侵害に該当するという考 え方が定着していると記載するが,諸外国の制度に関する上記認定によると,控訴 人の陳述書の上記記載を採用することはできない。 上記のとおり,新薬に係る治験が特許権侵害とならないとする国が複数存在する ことからすると,そうでない制度を有する国があるとしても,我が国において,本 件治験が特許法69条1項の「試験又は研究」に該当すると判断することが,諸外 国の制度と異なるものであるとはいえない。
(6) 控訴人は,本件治験は本件特許権の存続期間満了「前」の販売を目的とし たものであると主張する。 しかし,本件治験は,本件特許権の存続期間中の製造販売を目的としたものであ るといえないことは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(3)イのとおりであって, 被控訴人が,本件特許権の存続期間満了日より前に T-VEC の承認を得られる可能性\nがあるかどうかやそのような可能性がある時点で本件治験を開始したかどうかによ\nって,この判断が左右されることはない。 控訴人は,原判決が判示する論理が認められるとすると,特許権の存続期間中に 行われるすべての治験について特許権の存続期間中の製造販売を目的としていると 認定されることはおよそないこととなるから,平成11年最判が目的要件を提示し た趣旨を完全に逸脱していると主張するが,原判決の判示する論理によったからと いって,特許権の存続期間中に行われるすべての治験について特許権の存続期間中 の製造販売を目的としていると認定されることはおよそないこととなるとはいえな いことが明らかである。

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◆平成31(ワ)1409

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令和3(行ケ)10118  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 「SMS」+図形商標から、「SMS」を分離観察できるかが、争われました。知財高裁(2部)は分離可能とした審決を維持しました。判決文の最後に本件および引用商標が掲載されています。\n

 (1) 本件商標は,別紙1のとおりであり(甲1),三つのハート形の図形を横に 重なるように並べた本件図形部分と,その下に配置された横書きにした「SMS」 のありふれた書体の欧文字(本件文字部分)とからなる商標である。 本件図形部分は,ハートの形を縁取った線を横に二つ描き,その二つのハートの 形の内側の二つの半円部分を用いて,中央部分に三つ目のハートの形を描いたもの で,一筆書きによって描くことができるようになっている。 本件図形部分及び本件文字部分のいずれにも色彩はなく,本件図形部分の高さは, 本件文字部分の高さの3倍弱であり,本件図形部分の横幅は,本件文字部分の横幅 の2倍弱である。
(2) 本件商標の上記(1)の外観からすると,本件商標においては,本件図形部分 と本件文字部分とを明確に区別することができ,それらの各部分を分離して観察す ることが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められな いから,本件商標から,本件文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して商 標の類否を判断することができるというべきである。 そして,本件文字部分からは,「エスエムエス」との称呼が生じるが,「SMS」 の語は,「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19),他に一般的な辞書に 掲載されている例があるとも認められないから,造語であると認められ,特定の観 念は生じないというべきである。
3 引用商標1及び2について
(1) 引用商標1及び2は,別紙2,3のとおりであり(甲2,3),オレンジ色 の小さな円をL字型に並べた形状と,同様の黄色のL字型の形状とを組み合わせた 正方形を45度傾けた形状の図形部分(引用1及び引用2図形部分)と,その右側 に配置された,横書きにした「SMS」の欧文字と横書きにした「Best ma tching Best value」の欧文字を上下二段に配置した部分(引用 1及び引用2文字部分)からなる商標である。 引用1及び引用2図形部分の高さは,「SMS」の文字部分の高さの2倍程度であ り,引用1及び引用2図形部分の横幅は,「SMS」の文字部分の横幅の6割程度で ある。また,「Best matching Best value」の文字部分は, 「SMS」の文字部分と同じ横幅で,「SMS」の文字部分に比較して,極めて小さ く書かれている。
(2) 引用商標1及び2の上記(1)の外観からすると,引用商標1及び2において は,引用1及び引用2図形部分と引用1及び引用2文字部分とを明確に区別するこ とができる。また,引用1及び引用2文字部分については,「SMS」の文字部分と, 「Best matching Best value」の文字部分は2段に分か れていて,大きさも顕著に異なるのであるから,両者を明確に区別することができ る。 したがって,引用商標1及び2において,「SMS」の文字部分が他の部分と分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは 認められないから,「SMS」の文字部分を抽出し,同部分を他人の商標と比較して 商標の類否を判断することができるというべきである。 そして,前記2(2)のとおり,「SMS」の文字部分からは,「エスエムエス」との 称呼が生じるが,特定の観念は生じないというべきである。
・・・・
原告は,「SMS」とは,携帯電話でのメッセージ送受信サービスである 「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の 略語であり,本件審決がされた令和2年の時点で,「ショートメッセージサービス」 の略語としての「SMS」は,通信分野に限らず,一般に周知されていると主張し, その証拠として,甲25,26を提出する。 甲25によると,「SMS」が「ショートメッセージサービス」の略語であること を説明したウェブサイトが存在することが認められるが,前記2(2)のとおり,「S MS」の語が一般的な辞書に掲載されている例があるとは認められないことからす ると,上記ウェブサイトの存在から,「SMS」が「ショートメッセージサービス」 の略語を意味することが一般的に認識されていたということはできないというべき である。

◆判決本文

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令和1(ネ)1735 著作権に基づく差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月14日  大阪高等裁判所

 電話ボックスを金魚鉢にみたてた現代アートについて、1審は著作物性は認めましたが、 複製ではないと判断しました。控訴審は、「受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され,その受話部から気泡が発生している」点について、著作物性を認めて、翻案権侵害と認定しました。

同一性又は類似性について
ア 共通点
原告作品と被告作品の共通点は次のとおり(以下「共通点1)」などと いう。)である。
1) 公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガ ラス)に水が入れられ(ただし,後記イ6)を参照),水中に主に赤色の 金魚が50匹から150匹程度,泳いでいる。
2) 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で 固定され,その受話部から気泡が発生している。
・・・・
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知 させるに足りるものを有形的に再製すること(著作権法2条1項15号) をいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上\nの本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更\n等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これ\nに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること\nのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁昭和53年9月7日 第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁,最高裁平成13年6月2 8日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 依拠については後記(3)において検討することとし,ここではそれ以外 の要件について検討する。 共通点1)及び2)は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重な\nる。なお,被告作品は,平成26年2月22日に展示を開始した当初は, アクリルガラスのうちの1面に,縦長の蝶番を模した部材を貼り付けて\nいた(相違点6))。しかし,前記のとおり,この蝶番は目立つものでは なく,公衆電話を利用する者にとっても,鑑賞者にとっても,注意をひ かれる部位とはいえないから,この点の相違が,共通点1)として表れて\nいる原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。
一方,他の相違点はいずれも,原告作品のうち表現上の創作性のない\n部分に関係する。原告作品も被告作品も,本物の公衆電話ボックスを模 したものであり,いずれにおいても,公衆電話機の機種と色,屋根の色 (相違点1)〜3))は,本物の公衆電話ボックスにおいても見られるもの である。公衆電話機の下の棚(相違点4))は,公衆電話を利用する者に しても鑑賞者にしても,注意を向ける部位ではなく,水の量(相違点5)) についても同様であることは前記のとおりである。すなわち,これらの 相違点はいずれもありふれた表現であるか,鑑賞者が注意を向けない表\ 現にすぎないというべきである。 そうすると,被告作品は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分\nの全てを有形的に再製しているといえる一方で,それ以外の部位や細部 の具体的な表現において相違があるものの,被告作品が新たに思想又は\n感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。そして,後記(3)のと おり,被告作品は,原告作品に依拠していると認めるべきであり,被告 作品は原告作品を複製したものということができる。 仮に,公衆電話機の種類と色,屋根の色(相違点1)〜3))の選択に創 作性を認めることができ,被告作品が,原告作品と別の著作物というこ とができるとしても,被告作品は,上記相違点1)から3)について変更を 加えながらも,後記(3)のとおり原告作品に依拠し,かつ,上記共通点1) 及び2)に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,原告作品にお\nける表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,原告作品\nを翻案したものということができる。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30年(ワ)466

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令和2(ネ)10052  特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月17日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 「オプジーボ」について、原告Xは発明者であるとの確認を求める訴訟にて、知財高裁も、1審と同じく、「発明者ではない」と判断しました。原告Xは研究室にいた研究者と小野薬品です。

控訴人は,1)抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」な いし「着想」は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的 思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的 となるがん細胞を用いて抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1 分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証し た点にあること,2)控訴人は,抗PD−L1抗体の作製に貢献し,指導 教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を 構成する個々の実験系を構\\築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い, 特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示 を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程 度は大きいこと,3)控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著 者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具 体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であると いうべきである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。
ア 1)について
控訴人は,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相 互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」 ないし「着想」が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月 3日及び平成15年2月6日),公知であったことについて,JEM論 文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌 研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根 拠として挙げる。 しかしながら,JEM論文(甲66)は,「新しいB7ファミリーメ ンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の 負の制御を導く」ことに関する論文であり,JEM論文中には,「ヒト 卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD−L1は,いくつ かの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応 答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したP\nD−L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験デー タやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記 記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD−L1を使 用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。\n
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願 人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年 (平成13年)3月1日を国際公開日とする国際出願((PCT/US /23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明\n細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61の「PD−1を 介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して, 免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を 治療することを特徴とする・・・1の具体例において,該症状は,腫瘍・・・ からなる群より選択される。」(段落【0009】)との記載から直ちに 抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害 することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見」を導出するこ とはできない。 したがって,控訴人の1)の主張のうち,抗PD−L1抗体がPD− 1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の 賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用するこ とはできない。 そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD− 1,PD−L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成 物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD−L1抗体がPD−1分子とP\nD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもた らすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であ るというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化 することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前 記(1)),控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前 記(2)オで説示したとおりである。
・・・・
エ まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自ら の研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと 認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえない が,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術 的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることは できないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認める ことはできない。 したがって,控訴人の前記主張は理由がない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)27378

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令和2(ネ)10035  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月8日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1審では約3000万円の損害賠償が認定されました。1審被告が控訴しましたが、控訴棄却されました。ハンドル部分の構造に関する特許ですが、102条2項における寄与率減額なしです。

 本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,前記2(1)ア(イ)のとおり,二 股の美容器において,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部 を覆うハンドルカバーで構成することにより,ハンドルが上下又は左右に分\n割された従来の構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとと\nもに,美容器の組み立て作業性が向上するようにしたというものである。そ して,本件発明に係る美容器は,美容器のハンドルを持ち,ローラを肌に押 し当ててこれを使用するから,本件発明の技術的思想(課題解決原理)によ って達成されるハンドルの成形精度や強度の維持は,美容器を使用する需要 者一般が関心を有する美容器の基本構造に関するものであり,二股美容器の\n使用やマッサージの施行に影響する事項であって,美容器全体に貢献してい るものと認められる。本件発明が需要者の商品選択に特段寄与しないとする 根拠はなく,被告各製品の販売に対する本件発明の寄与が限定的であるとす る根拠もない。したがって,本件において,本件発明の寄与率を考慮して推 定を覆滅すべき理由はない。
控訴人は,被告各製品は特許第5840320号の技術的範囲には属しな いが,同特許に係る発明の効果を有しており,そのような効果のあることが 被告各製品購入の主な動機になっていることは,本件における損害額算定に 当たっての推定覆滅事由として考慮されなければならないと主張する(前記 第2の5(4)ア(イ))。しかし,被告各製品が特許第5840320号に係る 発明の効果を有しているかどうかは明らかでなく,また,そのような効果の 存在が被告各製品購入の主な動機になっていることを認めるに足りる証拠は ない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成29(ワ)32839


当事者が同じ関連侵害訴訟および審決取消訴訟です。

◆平成31(ネ)10001等

◆平成30(行ケ)10049

◆平成30(行ケ)10048

◆平成29(ネ)10086

◆平成28(ワ)4356

◆平成30(行ケ)10013

◆平成29(行ケ)10201

◆平成29(行ケ)10095

◆平成28(ワ)6400

◆平成31(行ケ)10032

当事者が同じ審決取消訴訟はこちらです。

◆令和1(行ケ)10090

◆令和1(行ケ)10066

◆平成31(行ケ)10057

◆平成30(行ケ)10160

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令和2(行ケ)10075  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年3月11日  知的財産高等裁判所

 進歩性違反有りとした異議決定が動機付け無しとして取り消されました。

 甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す るものであると認められる(甲1の段落【0001】,甲3の段落【0017】)。 しかし,甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な 加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ, また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じること を防ぐことを課題とするものである(甲1の段落【0003】,【0004】)のに対 し,甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収\n縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における 機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした 後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものと するとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【00 07】,【0008】)である。 そして,上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21) と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(2 2)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィ ルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収 縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱 収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したもので ある。 これらのことからすると,甲1発明と甲3に記載された発明は,課題においても その解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用する ことが動機付けられているとは認められない。
イ これに対し,被告は,甲1発明と甲3記載事項は,熱収縮という作用, 機能が共通する旨主張するが,熱収縮は,通常,弁当包装体が持つ基本的な作用,\n機能の一つにすぎないことを考慮すると,被告の上記主張は,実質的に技術分野の\n共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく,動機付けの根拠とし ては不十分である。\nまた,被告は,甲1発明と甲3記載事項とでは,ポリエステルフィルムを用いて いる点が共通する旨主張するが,包装体用の熱収縮性フィルムを,ポリエステルと することは,本件特許の出願前の周知技術(甲1の段落【0010】,甲3の【請求 項7】,段落【0003】,甲6〔特開2008−280371号公報〕の段落【0 001】)であると認められ,ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5) からすると,材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは,甲1発 明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載事項で示される熱収縮性フィルム を適用することに動機付けがあるということはできない。
ウ 以上によると,甲1発明において,熱収縮性フィルムとして,甲3記載 事項で示される熱収縮性フィルムを適用する動機付けがあると認めることはできな い。 したがって,甲1発明及び甲3記載事項に基づいて,相違点2に係る本件発明2 の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。\n

◆判決本文

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令和2(ネ)1492    意匠権  民事訴訟 令和3年2月18日  大阪高等裁判所

 意匠法39条2項の推定覆滅の割合は9割、実施料率3%とすべきと主張しましたが、控訴審も1審と同様に、覆滅割合を7割実施料率5%と判断しました。

 ア 推定覆滅の割合について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決43頁 14行目から51頁13行目まで)け,本件においては,意匠法39条2 項による損害額の推定は,7割の限度で覆滅されるというべきである。 控訴人は,控訴人の製品が被控訴人の製品より安価であることを理由 に,覆滅の割合を9割とすべきであると主張する。しかし,証拠(乙1 9)によれば,ここで控訴人が比較しているのは,外付け型 HDD につい ての控訴人の製品全体の平均単価と被控訴人の製品全体の平均単価で あって,原告製品の価格と被告製品の価格がどれだけ違うのかは明らか でない。被告製品が一般に原告製品より安価であるといえるとしても, 前記の7割という推定覆滅の程度は,このことをも考慮の対象とした上 でのものである。したがって,控訴人の主張を採用することはできない。
イ 実施料率について
前記引用に係る原判決において説示されているとおり(原判決52頁 5行目から53頁21行目まで),本件においては,意匠法39条3項 を適用して損害額を認定するに当たり(同条2項による損害額の推定が 覆滅される部分について同条3項を適用する場合を含む。),被控訴人 が本件意匠の実施に対し受けるべき料率(実施料率)は,5%を下らな いというべきである。 控訴人は,アンケート調査結果(乙45)を根拠として,本件におけ る実施料率は3%程度とすべきであると主張する。このアンケート調査 結果には,特許権のみの場合のロイヤルティ料率と特許権と意匠権を組 み合わせた場合のロイヤルティ料率が示されており,前者は,平均値が 約3.5%,中央値が約3.3%であり,後者は,平均値が約3.1%,中 央値が約2.9%であるから,確かに控訴人の指摘するとおり,後者の数 字の方が若干低くなっている。しかし,このアンケート調査の回答数は 必ずしも多くなく,特許権と意匠権を組み合わせた場合のロイヤルティ 料率についての回答数は全部で25にすぎないし,意匠権のみの場合の ロイヤルティ料率についての調査結果は存在しない。また,特許権,意 匠権それぞれ単独でロイヤルティ料率を設定する場合と,これを組み合 わせてロイヤルティ料率を設定する場合を比較すると,単純に,単独の 場合の料率を足したものが組み合わせた場合の料率になるとは考え難く, むしろ,組み合わせた場合の料率は,単独の場合の料率を足したものよ り低くなるのが一般的ではないかと考えられる。したがって,このアン ケート調査結果は,本件における実施料率を認定するに当たっては,あ くまでも参考資料の一つにとどまるといわざるを得ない。これに加え, 本件意匠自体の価値,被告製品の需要者がデザイン性を考慮する程度, 原告製品と被告製品とが競合品の関係にあることといった事情を総合的 に考慮すれば,本件における実施料率は5%を下らないというべきであ り,控訴人の主張を採用することはできない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)6029

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平成29(ワ)10716  特許権侵害差止等請求事件  特許権 令和3年2月18日  大阪地方裁判所

 特許法102条2項による損害認定について、2割の覆滅が認められました。 消費税については、侵害時の税率で計算すると判断されました。

 消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する ことに留意する。・・・(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財 産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達 5-2-5)とされているこ とに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金 を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察 される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるために は,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があ るというべきであるから,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。 適用されるべき消費税率について,原告は,損害賠償支払時点の税率(10%) によるべきと主張する。
しかし,上記のとおり,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金に対する消費 税が課せられるのは,損害賠償金の実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認めら れることによる。ここで,資産の譲渡等に相当する行為と見られるのは,特許権侵 害行為である。また,消費税基本通達 9-1-21 では,「工業所有権等又はノウハウを 他の者に使用させたことにより支払いを受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡 等の時期は,その額が確定した日とする。」とされている。これらのことに鑑みる と,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金は,特許権侵害行為時に直ちに損害 が発生して金額が確定するものであるから,資産の譲渡等の時期は,特許権侵害行 為時であると解される。 そうすると,本件においては,第1期間〜第4期間のいずれにおいても,本件特 許権侵害行為時の消費税率8%が適用されることとなる。
・・・・
本件明細書の記載によれば,本件発明の効果は,前記4(1)のとおりである。要 するに,本件発明の効果は,1)外観上の体裁の良さ及び室内側への風雨の進入防止 並びに2)取付強度の高さ及び風圧に対する耐久性の良さと,3)取付作業時に足場等 が不要となることによる施工コストの低減にあるといえる。もっとも,上記効果の うち1)及び2)は,手摺本体取付け後の効果であるため,取付方法に係る発明である 本件発明によるのでなければ実現し得ない効果とは必ずしもいえない。
イ 本件発明の貢献の程度等について
(ア) 本件発明は,手摺の取付方法に係る発明である。手摺を選択するのは,最終 的にはこれを取り付ける建築物の施主であるものの,手摺の取付方法そのものが施 主の関心を惹くとは考え難い。その意味で,本件発明に係る手摺の取付方法を実施 することは,製品選択の直接の動機となるとはいえない。 しかし,本件発明の効果1)〜3)は,いずれも建築物に取り付けるべき手摺製品の 選択の動機となり得る事情ということはできる。
(イ) もっとも,前記アのとおり,効果1)及び2)は,いずれも手摺本体取付け後の 効果であるため,取付方法に係る発明である本件発明によるのでなければ実現し得 ない効果とは必ずしもいえない。例えば,本件特許出願後に公開されたものである ものの,特開 2009-2283号公報(乙16。平成21年10月8日公開)には,手 摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数のガラス板等のパネルが取り付けら れ,パネル間にはパネル支持枠(アルミニウム系金属で構成されるものであり\n(【0012】),アルミ製目地枠に相当する。)を用い,パネルの上下左右全ての側 部が支持固定される手摺の構成が開示されている。そうすると,効果1)及び2)につ いては,本件発明の実施による貢献の程度の評価に当たっては,必ずしも重視し得 るものではない。
(ウ) 他方,効果3)については,最終的な需要者(ないしこれに対して建築物に取 り付けるべき手摺を提案する手摺取付業者や建築物の開発業者等)にとって,顧客 誘引力を生じ得るものといってよく,本件発明の貢献の程度を評価するに当たって はこれを考慮に入れるべきである。 もっとも,複数階層の建築物の建築現場においては,手摺取付工事のための足場 は不要であっても,別工程のために足場の設置が必要となることは,当然あり得る (乙50〜54参照)。このため,このような場合は,結局は足場等設置に要する コストが発生し,施工コスト低減の効果がないか,あるとしても,設置期間短縮等 による限られた効果しか生じないものと合理的に推察される。 他方,このような事情は主として建築物の新築時や大規模修繕時のものであり, それ以外のメンテナンス時には,足場等を不要とすることによる施工コストの低減 という効果が発揮されることは考えられる。現に,乙42製品のカタログ(乙4 2)には,「パネルは室内側から取り付けられ,メンテナンス性に優れていま す。」と記載されている。また,原告製品のカタログ(甲15)においても,「ガ ラス嵌め込み工事における,外部足場が不要になります。」との記載があり,これ もメンテナンス性における優位性を指摘するものと理解される。ただし,建築物の 新築時及び大規模修繕時に比較すると,それ以外の機会にメンテナンスを実際に要 する例は,規模的にかなり少ないと推察される。 さらに,被告は,そのウェブサイト(甲3の1)において,被告製品の特徴とし て,ガラスの連続した意匠となること,4辺支持とすることでガラス厚を薄く設計 できるとともに,手すりの高耐風圧仕様となること,ガラスの縦枠への掛かり寸法 をガラス厚とし,安心な製品仕様としていることを挙げるものの,足場を組む必要 がないこと(その結果として施工費が安価になること)については触れていない。 加えて,本件発明に係る手摺取付方法によれば,ガラス取付業者においてガラス 板と目地枠を取り付けることができるとしても,それがどの程度施工コストの低減 に貢献する効果を有しているのかは明らかではない。
(エ) 以上によれば,本件発明は,施工コスト低減という効果(3))によりこれを 実施する製品の販売等に貢献するものであって,相応の顧客誘引力を有するといえ るものの,その程度は限られているというべきである。また,効果1)及び2)に関し ては,本件発明は,手摺本体の取付け完了後の外観上の体裁及び取付強度の点で同 程度の他の製品に対する優位をもたらすほどの貢献をするものとはいえない。
ウ 競合品について
(ア) 外観上の体裁の良さ等(1))について 証拠(乙27,29〜31,39,42。各枝番を含む。以下同じ。)によれ ば,乙27製品等は,いずれも,手摺本体の室外側長手方向略全域に連続して複数 のガラス板が取り付けられ,ガラス板間にはアルミ製目地枠を用いているものと認 められる。これにより,これらの製品は,本件発明の効果1)と同様の効果を奏する ものといえる。
(イ) 取付強度の高さ等(2))について 証拠(乙27,29〜31,39,42)によれば,乙27製品等は,いずれ も,ガラス板間の目地材としてアルミ製目地枠(縦枠,竪枠)を用い,ガラス取付 枠とアルミ製目地枠とでガラス板の上下左右を係合保持しているものと認められる (乙31製品については,「2辺支持タイプ」との記載もあるが(甲18),「4 辺支持」との記載のある「ガラスタイプ」もある(乙31)。)。これにより,こ れらの製品は,本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分の取付方法ゆえに取付強度と耐久性に難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる取付強度及び耐久性の問題点が具体的 にどの程度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件明細書によれば,取付 強度及び耐久性に係る本件発明の効果は,「ガラス板の上下端縁のみが上下枠に係 合保持され,隣合うガラス板間には従来のゴム系の目地材を充填するのに比較し て」(【0013】)の強度に関するものに過ぎない。このほか,原告製品(証拠(甲 14,15)及び弁論の全趣旨より,本件発明に係る取付方法により取り付けられ るものと認められる。)と同様に,これらの製品の施工例として高層マンション等 の複数階層を有する建築物が示されていること(乙30,31,42)に鑑みて も,乙30製品,乙31製品及び乙42製品は,少なくとも,原告製品と競合し得 る程度には本件発明の効果2)と同様の効果を奏するものと見られる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ) 施工コストの低減(3))について 証拠(乙37〜42)によれば,乙27製品等は,いずれも,ガラス板とアルミ 製目地枠を室内側から取り付けることが可能であり,ガラス板とアルミ製目地枠を\n室外側に取り付ける作業のために足場を組む必要はないものと認められる。これに より,これらの製品は,本件発明の効果3)と同様の効果を奏するものといえる。 これに対し,原告は,乙30製品,乙31製品及び乙42製品につき,アルミ製 目地枠ないし手摺笠木部分が回転式であるがゆえに製造コストに難点がある旨を指 摘する。しかし,上記取付方法ゆえに生じる製造コストの問題点が具体的にどの程 度のものであるかは明らかでない。そもそも,本件発明の効果の1つである施工コ ストの低減は,足場等を設ける必要がないことによって実現されるものであって, アルミ製目地枠の取付方法が回転式であること(乙30製品,乙31製品)や手摺 笠木部分の取付方法が回転式であること(乙42製品)による製造コストとは無関 係である。 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ) その他 原告は,乙27製品及び乙29製品につき,本件特許権を侵害する製品である可 能性が高い旨を指摘する。しかし,原告も可能\性を指摘するにとどまるし,これら の製品が本件特許権を侵害することを認めるに足りる証拠もないことから,本件に おいては,この点は考慮に含めないこととする。
(オ) 以上より,乙27製品等は,いずれも,本件発明の効果と同様の効果を有す る製品として,原告製品及び被告製品と市場において競合するものと見るのが相当 である。 もっとも,原告は,原告製品を遅くとも平成24年3月までには販売していると 認められる(甲14,15,弁論の全趣旨)。他方,証拠(乙55)及び弁論の全 趣旨によれば,乙27製品等の販売開始時期は,乙31製品が平成24年,乙27 製品が平成26年,乙30製品が平成27年,乙29製品が平成28年3月,乙3 9製品が平成29年10月であることが認められる。 また,原告製品,被告製品及び乙27製品等の各売上額やアルミ製目地枠のフラ ットレール製品市場におけるシェアは,いずれも証拠上明らかでない。
これらの事情を総合的に考慮すると,アルミ製手摺製品の市場において原告製品 及び被告製品に対する複数の競合品が存在することに鑑みれば,特許法102条2 項に基づく損害額の推定覆滅事由としてこれを考慮すべきではあるものの,被告に よる主張立証の程度に鑑みれば,その程度は相当に限られると見るべきである。
エ 推定覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すれば,被告製品の売上に対する本件発明の貢献の程 度は限られるものの,他方で,競合品の存在による推定覆滅の程度も相当に限定的 であり,他に推定を覆滅すべき具体的な事情も見当たらないことから,本件におい ては,2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものとするのが相当である。これに 反する原告及び被告の各主張は,いずれも採用できない。

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令和2(行ケ)10042  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 訂正が明細書等に記載した事項の範囲内ではないとした審決が維持されました。

 (ア) 原告は,本件明細書の段落【0111】の記載及び【図8】を指摘し, 本件決定が,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書に記載された 「回転中心C3とは反対側」とは別意であると判断したことは誤りであり,訂正1 イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第 1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうものと解釈すべきであると主 張する。 しかし,本件明細書の段落【0111】における「回転中心C3」は,「伝達軸8 2」の中心として特定されており(本件明細書の段落【0016】,【0056】), クランクシャフトの軸方向から見たときの径の大きさによって定義される「第3部 材」とは異なる概念であるから,「回転中心C3とは反対側」との記載を根拠として, 「前記第3部材とは反対側」の語をもって,第3部材の回転中心とは反対側と同義 ということができないことは,明らかである。 この点,原告は,訂正1イ及び訂正2イについて,誤記であることが明らかであ るとも主張するが,上記の点及び前記イで指摘した諸点に照らし,採用できない。
(イ) 原告は,本件明細書等には,上記「第3部材とは反対側」を「第3部 材の全体とは反対側」と解釈することの記載又は示唆はないと主張するが,前記イ で判示したところに照らし,原告の上記主張は採用できない。 また,原告は,そのように解釈した場合,【図8】の図示内容を始めとする本件明 細書等に記載された内容と整合しないことになるとも主張するが,そのような事情 があるからといって,前記イの判断が左右されるものでもない。
(ウ) 原告は,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部 材とは反対側」からは,その技術的意義が一義的に明確にできないから,本件明細 書等を参酌して,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3 部材とは反対側」は,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうもの と解釈すべきであると主張する。 しかし,前記イのとおり,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意 義(意味内容)自体は,一義的に明確であって,前記イのように解することができ るというべきである。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであ るかどうか
ア 上記(1)のとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対し て前記第3部材とは反対側」は,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部 材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側 をいうものと解すべきところ,そのような構成は,本件明細書には,「基板」を図示\nしている【図8】,【図9】及び【図11】を含め,全く記載されていない。 そして,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を上記のとおり解する と,訂正1イ及び訂正2イは,第3部材について,第1線分に重ならないという構\n成に限定するものとなるが,そのように限定する技術的意義については,本件明細 書等には記載がない。他方で,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を 上記のとおり解すると,訂正1イ及び訂正2イは,同時に,本件訂正前の請求項1 及び9では,第1部材〜第3部材の各定義に照らし,モータか第1伝達歯車のいず れかという限度にまでしか特定されていなかった「第3部材」について,モータで はない(すなわち第1伝達歯車である)という限定を加える結果をもたらすもので あるが,それは,応用例に係る本件明細書の段落【0157】及び【図15】で, 「第3部材」と解される「クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も 小さい部材」が「モータ60」とされていることと相容れないものである(なお, 上記段落及び図では,そもそも請求項1及び9における「第1線分」すなわち第1 部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ線分が「線分S1」ではなく「線分 S3」 と記載されており,上記「第1線分」の定義との関係自体も必ずしも明らか でない。)。 そして,その他,本件明細書に,第1線分によって区切られる領域の片側に第3 部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対 側における基板の位置について記載されていないにもかかわらず,訂正1イ及び訂 正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたというべき事情は認 められない。 そうすると,訂正1イ及び訂正2イは,いずれも,本件明細書等に記載した事項 の範囲内においてしたものということはできない。
イ(ア) 仮に,原告の主張するとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記 第1線分に対して前記第3部材とは反対側」について,第1線分に対して「第3部 材の回転中心」とは反対側をいうものであると解したとしても,以下のとおり,訂 正1イ及び訂正2イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたもの ということはできない。
a 本件明細書の段落【0111】,【0113】及び【0118】の記 載並びに【図8】,【図9】及び【図11】によると,本件明細書には,訂正1イ及 び訂正2イに含まれる「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合 に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重な る領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重 なる領域を有する,駆動ユニット」の構成のうち,第1部材が被駆動歯車,第2部\n材がモータ,第3部材が第1伝達歯車である場合の実施例が記載されていると認め られる。 しかし,本件訂正後の請求項1及び9においては,基板の構成について,上記の\n特定がされているのみであるので,被告が主張する五つの態様のもの(前記第4の 1(2)イ(イ),(ウ)。以下,併せて「被告主張の別態様」という。)も含まれることに なるが,これらは本件明細書等には記載されていない。
b また,前記1(2)オのとおり,本件明細書には,「基板」の位置を上 記のとおり特定したこと,殊に,基板が被駆動歯車及びモータと重なる領域が第1 線分に対して「第3部材とは反対側」の領域であることについて,本件発明の課題 との関係でいかなる技術的意義を有するかの記載はなく,それを認めるに足りる技 術常識があるとも認められない。したがって,訂正1イ及び訂正2イの上記構成が\nいかなる技術的意義を有するかは不明というほかない。
c そうすると,本件訂正後の請求項1及び9は,その技術的意義が明 らかでない,本件明細書等に記載のない被告主張の別態様を含むこととなるところ, 被告主張の別態様中には,本件明細書に記載された上記aの実施例と比較して「基 板」の技術的意義が共通するものと直ちにみ難いものが含まれているといえるから, このような訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということ はできない。

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令和2(行ケ)10058  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月25日  知的財産高等裁判所

 周知技術から、特許の出願時には,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたとして、進歩性違反無しとした審決が取り消されました。

ア 周知技術について (ア) 昭和53年に出願され,昭和54年に公開された実用新案登録願(甲 64)には,前記4(3)のとおり,小児用手術台は,患者の身長の長短によって,長 すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行うのに不便であったこと,この ことから,医師が適切な診療処置を行うためには,手術台の長さを,患者の身長に 応じたものにする必要があったこと,そのために,小児用手術台の患者受板部を, 中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,\n小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組み合わせ連結して手術台を形成 することが記載されていると認められる。
・・・
(ウ) 前記4(5)のとおり,昭和53年〜昭和55年に,日本において,小児 外科用手術台であるMOC−1800が販売されていたが,そのカタログ(甲76) によると,前記4(5)のとおり,同手術台は,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕 板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができ,その組合せにより,様々な長 さのテーブルトップを形成することができることが認められ,また,同カタログに は,「全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べる」,「21種類 の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択してください。」 などの記載がある。この事実からすると,患者の身長に応じて,長さの異なるテー ブルトップを備える手術台の需要があったこと,この需要に対応するために,主枠 の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を組み合わせて,様々 な長さのテーブルトップを形成できる手術台が販売されていたことが認められる。
・・・
(オ) 以上の事実からすると,本件特許の出願時には,手術台のテーブルトッ プは,患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,医療機関において,テ ーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと,その要望に応えるた めに,各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて,適宜の長さのテーブルトッ プとする手術台が販売されており,また,小児外科においては,長さが可変の手術 台が一定程度普及していたことが認められる。
・・・
前記5(3)イのとおり,製品1発明3)においては,患者の頭部側から順に,1)背板, 座板,足板の組合せ,2)背板(短),座板,背板の組合せ,3)背板(短),座板,足 板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとし,また,4)各種頭板, 背板,座板,足板の組合せ,5)各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,6)各種 頭板,背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトッ プとすることが可能であり,上記1)の組合せを上記2)の組合せに変更することや上 記2)の組合せを上記3)の組合せに変更すること,上記4)の組合せを上記5)の組合せ に変更することや上記5)の組合せを上記6)の組合せに変更することも可能であると\nころ,甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記 載もなく,かえって,前記3のとおり,甲2には,「マッケ手術台システム1120 は,モジュール方式でデザインされ」(2頁),「広く世界的に採用されている非常に フレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
そして,前記イのとおり,製品1において,患者の背が高い場合には,足側の背 板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると,前記アのとお り,手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており, その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われて いることを知る当業者は,製品1発明3)において,患者の身長に対応させるために 各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易 に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と 共に使用されると主張する。 しかし,甲5の20頁には,背板(短)に頭板「1002.62」と取り付けら れた写真が載っているが,同頁の表題は「眼科,ENT,一般外科,麻酔科」と表\ 記されていることから,背板(短)は,必ずしも,特定の用途のために頭板と共に 使用されるとは認められない。 また,患者の頭側に頭板を取り付けた背板(短)を配置した場合,前記5(3)イの とおり,足側は背板又は足板を配置することが可能であり,足側の背板を足板に交\n換すれば,テーブルトップの全長も変わるから,被告の主張を前提としても,使用 者の体格に対応して,床板を支えるフレームを交換したことになる。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,製品1の具体的な構成は,それぞれが独立した構\成であり,そ れらの構成を組み合わせることにより相違点を解消することはできないと主張する。\nしかし,製品1発明3)の構成は,前記5(2)のとおりであるところ,同構成は,背\n板,座板及び足板の各コンポーネント並びに背板(短)及び各種頭板のアクセサリ ーを含めて,一つの製品である製品1から認定できる技術的構成であるから,一つ\nの発明の構成である。そして,前記イの実施態様も製品1の実施態様であるから,\nこれを考え併せて,製品1発明3)から本件発明を容易に想到することができるとい うべきである。
(ウ) 被告は,原告の主張は,「設計事項」という名目の下,甲61以下の証 拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できる\nという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除さ れるべきものであると主張するが,前記アの周知技術を本件発明の進歩性を判断す るに当たっての当事者の技術水準を示すものとして考慮することはできるのであり, 前記ウの判断はそのような趣旨で考慮したものであるから,本件訴訟の審理範囲外 ではない。
(3) 以上より,取消事由2は理由がある。
7 そうすると,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の主張し た無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取 り消されるべきである。

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令和2(ネ)10045 特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年3月4日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 原審と同様に、104条の3の無効理由(新規事項、サポート要件違反)があるので、権利行使不能と判断されました\n

(ア) 図105ドットパターンにおいては,情報ドットは,四隅を格子ドッ トで囲まれた領域の中心からずれた位置に置かれるところ,本件補正1 1)部分に当たる構成要件B1の情報ドットは,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点の中心」からずれた位置に置かれる。\n図105には,水平又は垂直の格子線の中間に各格子線と平行な線が引 かれているが,当初明細書1に,「格子状に配置されたドットで構成されている。」(【0185】),「格子ブロックの四隅(格子線の交点\n(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている」(【0186】), 「4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106(a) 参照)」(【0197】)と記載されているとおり,格子ドットは等間 隔に配置されたドットにより構成された水平ラインと垂直ラインの交点であり,格子線は格子ドットを結ぶラインであるから,図105に示さ\nれた各格子線の中間に引かれた線は格子ドットで囲まれた領域の中心を 示すために参考として引かれた補助線にすぎず,格子線とは認められな い(図106(a)のように,格子ドット同士を対角線で結べば,その 交点は「格子線の交点」となるが,その線は構成要件B1に規定する「縦横方向」のラインではない。)。\n そうすると,「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格 子点の中心」を基点として情報ドットが位置付けられることを構成要件とする本件補正11)部分は,図105のドットパターンとは似て非なる ものであり,そもそも図105ドットパターンに基づく補正であるとは 認められない。
(イ) 図5ドットパターンにおいては, 情報を表現するドットは,格子ドットから上下左右の格子線上にずらした位置に配置されるところ,構\成要件B1の情報ドットは「格子点の中心から等距離で45°ずつずらし た方向のうちいずれかの方向」に配置されるものであるから,本件補正 11)部分は,図5ドットパターンに基づく補正であるとは認められない。
(ウ) そのほか,当初明細書1に本件補正11)部分に対応する記載は認め られないから,本件補正前発明1の本件補正11)部分に対応する部分と 構成要件B1とを対比するまでもなく,本件補正11)部分は新たな技術 的事項を導入するものというべきである。
・・・・
(ア) 本件発明3の特許請求の範囲の記載(分説後のもの)は,次のとおり である(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(5)ウ参照)。
A3 等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,
B3 前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから 等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3 前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ 内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
D3 前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置 からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している E3 ことを特徴とするドットパターン。
(イ) 構成要件B3の「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」と,\n構成要件C3の「前記垂直方向に配置されたドット」と,構\成要件D3 の「前記垂直方向に配置されたドット」とは同じものを指すと解される から,この一つの「垂直方向に配置されたドット」は,垂直方向に「等 間隔」に配置される一方で(構成要件B3),「本来の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味するとされており,その「ず\nらし方」について特に限定はされていない。同一方向に等間隔に配置さ れながらその位置がずれているのは文言上整合していないが,これを合 理的に解釈するならば,「等間隔」はこの一つの「垂直方向に配置され たドット」以外のドットに係り,この一つの「垂直方向に配置されたド ット」は他のドットと異なり「等間隔」に配置されなくてもよいもので あり,そのずらされる方向,距離とも何ら限定はないと解するほかない。 また,本件発明3は,「ずらし方によって前記ドットパターンの向き を意味している」(構成要件D3)としているから,「ずらし方」,すなわち,本来の位置からずらされた別の位置に配置された一つの「垂直\n方向に配置されたドット」が当該位置に配置されていることが認識され, 本来の位置とその実際の位置との間の位置関係に基づいてドットパター ンの向きが意味されることを規定していると解釈すべきものである。
イ 図105ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図103ないし106のほか,次の記載がある。
「【0239】 また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更す ることにより,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせる ことができる。つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキー ドットKDとして機能するものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことにより8パターンのキードットを定義でき\nる。
【0240】 ここで,ドットパターン部をC−MOS等の撮像手段で撮像した場合, 当該撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,こ のときもし撮像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動され た位置,すなわち撮影軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にあ る場合には,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係から 撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カメラの角度)がわかることにな る。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を撮影しても角度という 別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,同じ位置の同 じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができる。
【0241】 いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置でき ることになる。
【0242】 この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例で ある。図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャ ナ部1105でこのミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転 させることでドットパターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を 得ることできるため,8通りの音声内容を出力させることができる。」 (図74,76及び78については本判決への添付を省略する。)
(イ) 上記(ア)の記載は,構成要件D3との関係においては,確かに,格子ドットとキードットとの位置関係によってドットパターンの向きを意味\nすることを記載するものといえる。 しかしながら,構成要件C3との関係について見れば,本件発明3は,「格子点からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」との構\成を有するところ,前記2(1)ウのとおり(引用に係る原判決の「事実及び 理由」第3の1(補正後のもの)のとおり,当初明細書1と本件明細書 3の関連部分の記載はいずれも同じである。),図105ドットパター ンにおいては,情報ドットを四隅を格子ドットで囲まれた領域の中心か らずらすことによってデータ内容を定義するものであって,格子ドット からのずらし方によってデータ内容を定義するものではない(構成要件C3は格子点を垂直ラインと水平ラインの交点と定義しているから,構成要件 C3が図105ドットパターンに基づくものと仮定する余地はな い。)。 そうすると,本件発明3は,図105ドットパターンに関する記載に 係るものとはいえない。
ウ 図5ドットパターンとの関係について
(ア) 本件明細書3には,図2,5ないし8のほか,次の記載がある。 「【0069】 ・・・図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図である。
【0070】 上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理ア ルゴリズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズム により,カメラ602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補 正するので,ドットパターン601の画像データを取り込むときに正確 に認識することができる。
【0071】 このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605 により構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定する。このラインが正しいラインでないときは別のライ\nンを抽出する。
【0072】 次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを 基準としてそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水 平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識する。\n
【0073】 最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再 生する。」 (イ) また,引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の4(2)(補正後のも の)とおり,図5及び図7では,左端の垂直ラインに配置されたドット の一つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ライ ンに沿って左側に配置され,「x,y座標フラグ」とされていることが 示され,図6及び図8では,左端の垂直ラインに配置されたドットの一 つが他の同一の垂直ラインに配置されたドットとは異なり水平ラインに 沿って右側に配置され,「一般コードフラグ」とされていることが示さ れている。
(ウ) 本件発明3は,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ド ット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意 味している」(構成要件D3)ことを特徴とするドットパターンであるところ,図5ドットパターンに関し,本件明細書3には,前記(ア)のとお り,「垂直ラインは,水平ラインを構成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識す\nる。」(【0072】)との記載がある。しかしながら,これは,垂直 ライン上の特定位置(本来の位置)にドットがないことによってドット パターンの上下方向を認識するとの意味の記載であって,「ドット本来 の位置からのずらし方」によってドットパターンの向きを意味する記載 とはいえない。 また,前記(イ)のとおり,図5ないし8には,他のドットから形成され る垂直ラインから左右にずれたドットが示され,それらドットが「x, y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」との意味を有するフラグ であることが記載されている。しかしながら,引用に係る原判決の「事 実及び理由」第3の4(2)(補正後のもの)によれば,「x,y座標フラ グ」(図5及び7)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはXY平面上の特定の座標値を示し,「一般コードフラグ」(図6\n及び8)がある場合には,情報を表現する部分のドットパターンはある特定のコード(番号)を示すものと認められる。そうすると,「x,y\n座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」とされたドットは,情報を 表現する部分のドットパターンのデータ内容の定義方法を示すというデータ内容を定義するドットの一つにすぎず,フラグとしてその位置を認\n識され,ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によって ドットパターンのデータの内容を定義しているが,ドットパターンの向 きを意味しているものではない。そして,そのほか,図5ないし8には, ドットパターンの向きを意味するドットは記載されていないし,データ の内容を定義しているドットがドットパターンの向きを意味するドット を兼ねるとの記載もない。
さらに,「垂直方向に配置されたドット」の一つにつき,その本来の 位置からのずらし方によってドットパターンの向きを意味することを特 徴とする本件発明3の実施形態について,上記ドットがどのような方向, 距離において配置されるのかについては,本件明細書3にはその記載は ない。 以上によると,図5ドットパターンは,「ずらし方によって前記ドッ トパターンの向きを意味している」(構成要件D3)との構\成を有しな い。 そうすると,本件発明3は,図5ドットパターンに関する記載に係る ものともいえない。
エ 控訴人は,1)図5ないし8において,「x,y座標フラグ」又は「一 般コードフラグ」はドットパターンの向きを意味するドットと兼用され ている,2)本件明細書3の段落【0239】ないし【0241】,【図 105】,【図106】の(d)の記載を参酌すれば,キードットにデータ 内容を定義する機能とドットパターンの向き(角度)を意味するという機能\を持たせ得ることが示されている,3)本件明細書の段落【0230】 の記載から,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」もキード ットと同様の機能が備わると理解できる,4)本件明細書3の【0072】 では格子ドットを非回転対称の配置にして上下方向も認識できるように しているし,本件明細書3の図5ないし8には「x,y座標フラグ」又 は「一般コードフラグ」が本来の位置からずれることで本来の位置と実 際に配置されたドットの位置関係に基づいてドットパターンの向きが表現されている,5)「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」 がキードットと同一の機能を有するものであることは当業者にとって自明である旨を主張する。\n
しかしながら,前記ウで認定したとおり,図5ないし8においては, ドットの本来の位置と実際に配置された位置との関係によってドットパ ターンの向きを認識することについては何ら説明されておらず,控訴人 主張のドットの兼用を認めるに足りる根拠は見当たらないないから,上 記1)の主張は採用することができない。 また,【0239】ないし【0241】,【図105】,【図106】 の(d)の記載は,図105ドットパターンに関する記載であり,図105 ドットパターンと図5ドットパターンを組み合わせることは新規事項の 追加となることは前記2にて判断したとおりであるから,そのような組 み合わせをしたのであれば,それ自体からしてサポート要件を欠くこと になり,上記2)の主張は失当である。
次に,図105ドットパターンに関する記載である段落【0230】 (引用に係る原判決の「事実及び理由」第3の2の【0230】III)部分 参照)には「本発明におけるドットパターンの仕様について図103〜 図106を用いて説明する。」との記載があるだけであり,これにより 「x,y座標フラグ」あるいは「一般コードフラグ」が図105ドット パターンのキードットと同様の機能が備わると理解することはできないから,上記3)の主張は採用することができない。 さらに,控訴人の上記4)及び5)の主張については,確かに,ドットパ ターンの方向を意味するドット又はドット群を設けてこれらを非回転対 称の配置にすればドットパターンの向きを認識できることは明らかであ り,また,図5ないし8に記載された「x,y座標フラグ」又は「一般 コードフラグ」は非回転対称の位置に配置されているとはいえるから, これをドットパターンの向きを意味するドットとして兼用することも可 能である。しかしながら,本件明細書3は,そのような構\成としたもの と理解すべき記載となっておらず,「本来の位置からのずらし方」とし てどのような選択に従い本件発明3を構成したのかがそもそも記載されているとはいえないことは,前記ウで示したとおりである。したがって,\n上記4)及び5)の主張も採用することができない。
オ 以上のとおり,技術常識を踏まえても,当業者において,本件発明3 が本件明細書3の発明の詳細な説明に記載したものと理解することはで きないというべきであるから,本件発明3に係る本件特許3は,特許法 36条6項1号に違反し,特許無効審判により無効とされるべきもので ある。

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原審はこちら。

◆平成30(ワ)10126

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令和2(行ケ)10088  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 文字商標「ホームズくん」が、「ホームズ君」を含む図形商標と類似するとして拒絶されました。知財高裁は審決を維持しました。

 原告は,1)原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,2) 原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,3)不動産業界の取引 の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには 原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。こ の主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じる と主張しているものと解される。 しかしながら,証拠(甲34〜39,41)によれば,原告が,原告キャ ラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラク ターやその愛称である「ホームズくん」がそれなりの知名度を有するに至っ ていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類 似した標章,「ホームズ君」という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活 動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20〜323) 等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において, 「ホームズくん」といえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと\n取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成 立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告が「 ホームズくん」という愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一 定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい 本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮する ことが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高 裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消 訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 引用商標1の外観・観念・称呼について
(1) 引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,「ホームズ君」部分, 「耐震フォーラム」部分,引用図形部分から成る結合商標である。 ア 引用商標1は,外観上,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分 及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているもの\nではない。そして,「ホームズ君」部分及び「耐震フォーラム」部分と引 用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異な っており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,「 ホームズ君」部分と「耐震フォーラム」部分とは,色彩が青色で統一され ており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になって いて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背 景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異な\nるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。 また,「ホームズ君」部分,「耐震フォーラム」部分,引用図形部分の 三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだ けの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,「ホー ムズ君」部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解 することも可能であるが,そうであるとしても,「ホームズ君」部分を要\n部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおり である。)。 したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取\n引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないか ら,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。
イ そして,「ホームズ君」の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務 の出所識別標識としての機能を十\分に果たし得るものであるといえること, 「ホームズ君」部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ, 十分に認識可能\な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果た\nし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事 情に照らしてみると,「ホームズ君」部分を,引用商標1の要部として抽 出することは十分に可能\であるということができる。 他方「耐震フォーラム」部分を構成する「耐震」及び「フォーラム」は\nいずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合 した「耐震フォーラム」の語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論 会を指称するためしばしば使用されていること(乙9〜19(各種の専門 新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば「不動産に関す るセミナーの企画・運営」に用いられた場合には,「耐震フォーラム」部 分は,「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識さ せるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえな い。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が 家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にある「ホームズ君」 部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を 生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,「ホームズ君」 のイメージを視覚的に描き出したものであって,「ホームズ君」部分を補 完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を\n果たすとまで見ることはできない。 以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出した「ホームズ君 」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。

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令和2(行ケ)10104  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年2月22日  知的財産高等裁判所

 商標「旬/JAPAN SHUN」について、先行商標「市場365/旬/SYUN RAKU ZEN」と類似するかが争われました。審決、知財高裁とも、分離解釈可能として類似すると判断しました。\n

 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された 場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か によって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称 呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべ く,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その 具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行 ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁, 最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5 1巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構\成部 分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分 的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,\nこの部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許さ れないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に\n対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や, それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには, 商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判\n断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同 38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成 3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5 009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷 判決・裁判集民事228号561頁参照)。 以下,上記の判断枠組みに沿って,本願商標及び引用商標の類否について検 討する。
2 原告の主張1(分離観察の可否)について
(1) 本願商標について
ア 商標の構成\n
(ア) 本願商標は,黒色の長方形図形を背景として,左側から順に,本願 漢字部分及び本願欧文字部分が配置された結合商標であり,両部分は, ほぼ同じ高さで横一列に,重なり合うことなく配置されている。
(イ) 本願漢字部分は,「旬」の漢字1文字からなる。この文字は,赤色の 毛筆体で描かれており,本願欧文字部分の各文字の4倍程度の大きさで ある。また,本願漢字部分は,やや図案化されているものの,その程度 は低いといえる。
(ウ) 本願欧文字部分は,同じ幅で上下2段に配置された「JAPAN」 及び「SHuN」の欧文字からなり,これらの文字は,いずれも白色の 毛筆体で描かれている。また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分 の1程度の幅を占めている。
イ 分離観察の可否
(ア) 本願漢字部分は,漢字1文字が赤色で大きく描かれているのに対し, 本願欧文字部分は,上下2段に配置された複数の欧文字が白色で描かれ ており,両部分の文字の大きさや色彩,文字種,構成等は,明らかに異\nなるといえる。また,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,ほぼ同じ高 さで横一列に配置されてはいるものの,重なり合うことなく配置されて いる。そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,それぞれが独 立したものであるとの印象を与え,視覚上分離して認識されるものとい える。 また,本願欧文字部分は,本願商標のうち2分の1程度の幅を占めて おり,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,本願漢字部分 は,その色彩や大きさからすれば,相応に目立つ態様で表示されている\nといえるから,本願商標に接した者は,本願欧文字部分のみならず,本 願漢字部分にも注意を引かれるものといえる。なお,黒色の背景部分は, 視覚上,特段の印象を与えるようなものではない。
(イ) また,本願漢字部分は,平易な漢字である「旬」の文字を表したも\nのであるから,同部分からは,「シュン」との称呼が生じるとともに,日 常用語として「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」等 (乙2)を意味する「旬」の観念が生じるものといえる。 他方で,本願欧文字部分は,上下2段に配置された「JAPAN」及 び「SHuN」の欧文字からなるものであるところ,平易な英語である 「JAPAN」の文字からは,「ジャパン」との称呼が生じるとともに, 「日本」の観念が生じるが,「SHuN」の文字は,外国語の成語である とは認められず,特定の意味合いを表す語であるとも認められないから,\n同文字からは,いわゆるローマ字読みによって「シュン」との称呼が生 じ得るとはいえるものの,特定の観念は生じないというべきである。そ うすると,本願欧文字部分からは,特定の観念が生じるものではないと いうべきである。
以上のとおり,本願漢字部分は,本願欧文字部分との間において,「S HuN」の文字部分と称呼が共通し得るのみであり,これ以外の部分と は,称呼の面からみても,観念の面からみても,共通するところはない から,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,統一性のある称呼又は観念 によって結び付けられているものではないというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願漢字部分及び本 願欧文字部分は,それぞれが独立したものであるとの印象を与え,視覚 上分離して認識されるものといえる上,称呼又は観念上の関連性がある ものとはいえない。 そうすると,本願漢字部分及び本願欧文字部分は,本願漢字部分のみ を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的 に結合しているものとは認められない。そして,前記のとおり,本願漢 字部分は,相応に目立つ態様で表示されているといえることからすれば,\n本件においては,本願商標から本願漢字部分を抽出し,同部分のみを他 人の商標と比較して類否を判断することが許されるというべきである。

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令和2(行ケ)10049  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所

 機械系の発明について、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」というクレームの文言が実施可能要件を満たすのかが争われました。地裁高裁3部は、実施可能要件を具備していないとした審決を取り消しました。

 本件審決は,前記2(1)イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。
(2) 判断の誤りの有無とその理由
ア しかし,本件審決の前記(1)の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。
イ(ア) 前記2(3)イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2(3)イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実\n現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要\nする力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2(3)イ(ウ〔本) 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 検討することが必要となる。
この点に関し,原告は,【図2】に記載された各支点の基本的な位置関 係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エ\nプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14) の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点15 2の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第 1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾し た状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250N から0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水 平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化 する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められ る。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を\n最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場 合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から6 0°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したこと が認められる。そして,前記4(2)イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これ らの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が 感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうする と,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能\である ことが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認され るが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2(3)イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,\nエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め\nられる。
(イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」(別紙図2の青色で記載された構造)は,【図2】\nの作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから,「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能\であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。
しかし,【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業\n機の一例であるところ(【0016】),本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能\であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定\nめを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 の支点の位置は,【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり,【図2】も,\n本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ\nうに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら,【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構\成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ\nプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能\であることが示されていれば,本件発明の構成要件\nGは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上\n記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。」と記載されているが,本件発明の構成が特許請求の範囲により特\n定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b 被告は,「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。
しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに\nついて,本件訂正後の請求項1には,「ガススプリング」と記載されて いるのみであり,「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には,「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。」と記載されており,本件発明\nのガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると,「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり,「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能\であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能\であると認めら れる。そして,「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能\であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。
c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能\であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された\n例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは,【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能\であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。

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令和2(ネ)10050  特許権侵害行為差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月24日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 CS関連発明について1審は技術的範囲に属する、無効理由無しと判断されていました。控訴審でも同様です。なお、控訴審における乙18に基づく無効主張は1審において主張できたとして、却下されました。乙18が実質あまり強くないのか、気になります。

 なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例 とする無効の抗弁を新たに主張した。
しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当た るかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討す べきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3 月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付され たこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令 和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張 立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたこと が認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手 続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を 主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そう であるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新た な無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張を する予定である旨を告知すること)が可能\\\であったし,そうすべきものであ ったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また, 時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そ して,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって 変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理す ることになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御 方法であるとして却下したものである。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成31(ワ)22

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令和2(ネ)10053  意匠権侵害行為差止請求控訴事件  意匠権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 タッチパネル式の自販機について、1審と同じく、被告意匠は本件意匠(部分意匠)に類似しないと判断されました。判決文の最後に両者の意匠、公知意匠が示されています。

 本件意匠の具体的構成態様は前記(2)のとおりであるところ,タッチパネ ルの縦横比や後傾角度をどのように構成するかによっては,ありふれた範\n囲内の差しか生じないのであり,また,ディスプレイの枠を等幅に構成す\nるのはありふれた手法であるから,具体的構成態様1)及び3)が美感に与え る影響は微弱である。したがって,前記(4)イの共通点に係る具体的構成態\n様1)及び2)並びに前記(5)イの差異点が類否判断に与える影響はほとんど ない。
ウ また,本件意匠の基本的構成態様に関して,次のような公知意匠がある。\n 公知意匠A(意匠に係る物品「クレジットカードのポイント照会による 商品券販売」)は,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成さ れた基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディ スプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部 について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり, ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状であるものと認め られる。
また,公知意匠B(意匠に係る物品「無人発券機」)は,傾斜面から下 方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐 体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上 端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させた ディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケーシング が縦長略長方形状であるものと認められる。 さらに,公知意匠C(意匠に係る物品「金融自動化機器」)は,筐体上 部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上端部から突出 しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を後方に傾斜 させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収容するケ ーシングが右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であるものと認め られる。
これらによると,本件意匠登録出願前に,自動精算機又はそれに類似す る物品の分野において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ 部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であ り,ディスプレイを収容するケーシングが縦長略直方形状である意匠が知 られていたものといえるし,より一般的に考えても,自動精算機又はそれ に類似する物品のディスプレイ部において利用者が見やすくタッチしや すい形状を得るためには,本件意匠のような基本的構成態様とすることが\n社会通念上も極めて自然かつ合理性を有するものと考えられる。
そうすると,本件意匠の基本的構成態様は,新規な創作部分ではなく,\n自動精算機又はこれに類似する物品に係る需要者にとり,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえず,需要者は,筐体の上端部から一定程度突出 し上方を後方に傾斜させたディスプレイ部であること自体に注意を惹か れるのではなく,これを前提に,更なる細部の構成から生じる美感にこそ\n着目するものといえるから,本件意匠の基本的構成態様が美感に与える影\n響は微弱である。したがって,共通点に係る基本的構成態様が類否判断に\n与える影響はほとんどないし,また,タッチパネル部を本体正面上部の右 側に設けるか左側に設けるかによっては,ありふれた範囲内の差しか生じ ないから,前記(5)アの差異点も類否判断に与える影響はほとんどない。
エ 以上からすると,本件意匠については,前記(2)イの具体的構成態様2), 4)及び5)が需要者の注意を惹きやすい部分となるから,前記(4)イの共通点 に係る具体的構成態様3)並びに前記(5)ウ及びエの各差異点が類否判断に 与える影響が大きい。
そこで検討するに,本件意匠と被告意匠とは傾斜面部を有する点におい て共通するといっても,下側部分も含めて,被告意匠の傾斜面部の幅,あ るいはこれにその下側縁と接する周側面の幅を合わせた合計幅は極めて わずかな広さしかないのに対し,本件意匠は,傾斜面部の上側及び左右側 部分の幅(傾斜面部の上側部分の外縁上側から傾斜面部の下側部分の外縁 下側までの直線長さを仮に50cmとすると,0.75cm前後となる。) に対する傾斜面部の下側部分の幅(上記の仮定によれば,3cm前後とな る。)に極端に差を設けることによって,下側部分が顕著に目立つように 設定されており,しかも,傾斜面部の下側部分に本体側から正面側に向け た高さを確保することにより,タッチパネル部が本体の正面から前方に突 出する態様を構成させているというべきである。そして,需要者は,様々\nな離れた位置から自動精算機を確認し,これに接近していくものであり, 正面視のみならず,斜視,側面視から生じる美感がより重要であるといえ るところ,本件意匠の傾斜面部の下側部分の目立たつように突出させられ た構成は需要者に大きく着目されるといえ,この構\成態様により,本件意 匠はディスプレイ部全体が浮き出すような視覚的効果を生じさせている と認められる。他方,被告意匠は,傾斜面部と周側面がわずかな幅にすぎ ず(上記の仮定によれば,合計しても1.2cm前後にすぎない。),ディ スプレイ部がただ単に本体と一体化しているような視覚的効果しか生じ ないと認められる。したがって,差異点から生じる印象は,共通点から受 ける印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠とは,たとえディス プレイ部の位置等に共通する部分があるとしても,全体として,異なった 美感を有するものと評価できるのであり,類似しないものというべきであ る。

◆判決本文

1審はこちら。

◆令和元年(ワ)第16017号

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令和1(ネ)10078  特許権侵害差止等請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年2月16日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許権侵害について、東京地裁(40部)は新規性違反(発明1,3)および進歩性違反(発明2,4)の無効主張を認めました。知財高裁も同じ判断です。

 イ A邸工事が「公然」実施されたものではないとの主張について 控訴人は,A邸は塀や草木に囲まれており,容易に外部からA邸をのぞ き見ることはできないこと,山に囲まれており,近隣の住民もわずかであ ること,作業が屋根上で行われるものであり,外部から容易にその作業の 内容を確認することができないことから,A邸工事は,公然と行われたも のとはいえないと主張する。 しかし,被控訴人のために発明の内容を秘密にする義務を負わない不特 定の者によって技術的に理解されるか,そのおそれのある状況で実施され たのであれば,工事は公然と行われたと評価するのが相当であるところ, 本件においては,まず,A邸の屋根からストーブの煙突が突出している側 (煙突の正面側)の隣地は,本件工事の当時には駐車場であり(乙14の 10),同駐車場には10台を優に超える駐車スペースがあり,敷地もA邸 より高いことが認められるのであって(乙24の2),同駐車場からは煙突 についても十分視認が可能\であるし,当該工事が第三者から視認されるこ と等を拒むような態様で行われていたことはうかがえない。
また,乙12の資料4は,前記ア(イ)認定のとおり平成19年7月2日 に被告から住友林業に提出されたものであるところ,同図面にはインナー フラッシングが明記されており,これが,住友林業からニシカネにファッ クスで転送されている(乙32)。そして,前記ア(イ)において認定したと おり,住友林業の下請業者であるニシカネがA邸の煙突について不燃材の 装着を行うことになっていたが,その時点では,煙突の屋内からの引き出 し及び立ち上げ部分はまだ設置されておらず,住友林業又はニシカネにお いて煙突の屋根貫通部の構造を認識することは十\分可能であったといえ\nるところ,A邸工事の施工方法及び防水構造は,引用に係る原判決の「事\n実及び理由」第4の2(3)ア及びイ(ア)記載のとおりであって,いずれも複 雑なものではなく,当業者であれば,乙12の資料4や,II)期工事時の煙 突の屋根貫通部の構造から,これらの発明を技術的に理解できるものと認\nめられる。
以上によれば,A邸工事は,本件特許出願前に,被控訴人のために発明 の内容を秘密にする義務を負わない不特定の者(少なくとも上記住友林業 やニシカネ等の下請業者等)によって技術的に理解されるか,そのおそれ のある状況で実施されたもので,公然実施された発明に当たるというべき であるから,控訴人の主張は採用できない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)9909

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令和2(行ケ)10011  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月17日  知的財産高等裁判所

 引用文献の開示認定に誤りありとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。

 上記記載から,隔壁の遠位部に備えたスリットは,隔壁の遠位部を通る イントロデューサ針の位置決めをし,その挿入を簡単にするために設けら れたものであることを理解できる。 さらに,図1,23,25ないし27から,延長チューブの遠位端が, カテーテル・アダプタの近位端と遠位端との間で,かつ,隔壁の遠位部の 遠位端よりも更に遠位側に開口した中空部分に接続していることを看取 できるから,引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセン ブリにおいては,患者への流体の注入及び患者の循環系からの流体の除去 は,延長チューブを通じてカテーテル・アダプタの上記中空部分を介して 行うものであることを理解できる。 ウ 以上によれば,引用文献1記載の隔壁は,針の保管及び使用中に針の周 りにシールを提供し,針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセ ンブリ内に設けられたものであって,隔壁の遠位部に備えたスリットは, そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたも のであるから,隔壁の遠位部は,流体の「該流入及び流出を可能とするよ\nうに開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない。\nそうすると,引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は,本願発明の「前記 第2弁部材は,二方弁であり,流体が,前記カテーテルハブの前記内室を 通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように\n開口可能であ」るとの構\成(本件構成)に相当するものといえず,引用文\n献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは,本件構成を\n有しない点で本願発明と相違するから,この点において,本件審決には, 一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
(2) これに対し被告は,1)引用文献1には,カテーテル及びイントロデューサ 針アセンブリについて,従来より,流体を患者に注入することができるとと もに,患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べら\nれていること(【0002】),2)流体の患者への注入及び患者の循環系からの 流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された,「二方弁」として機能\nする「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例 えば,甲3,乙6)からすれば,当業者は,引用文献1記載のカテーテル及 びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相当す\nると当然把握するから,本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張 する。
ア 1)について
引用文献1の【0002】には,「医療では,このようなカテーテル及び ントロデューサ針アセンブリは,患者の脈管系内に適切にカテーテルを配 置するのに使用される。定位置になると,静脈(すなわち,「IV」)カテ ーテルなどのカテーテルを使用して,生理食塩水,医療化合物,及び/ま たは栄養組成(完全非経口栄養,すなわち「TPN」を含む)を含む流体 をこのような治療を必要とする患者に注入することができる。カテーテル は加えて,循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視を 可能にする。」との記載がある。\n上記記載から,カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリのカテー テルは,「循環系からの流体の除去,及び患者の脈管系内の状態の監視」を 可能にすることを理解できるが,上記記載は,隔壁の遠位部又はその遠位\n部に設けられたスリットが流体の「流入及び流出を可能とするように開口\n可能」な構\成であることを示唆するものとはいえない。
イ 2)について
乙6(国際公開第2008/052791号)には,バルブ組立体の具 体的構造として,側部のポートに沿って配置され,ポートを閉じる弁であ\nって,ポート内の加圧された流体の作用により開口可能となる第1バルブ\n要素(チューブ要素5),流体が遠位方向又は近位方向のいずれかに流れる ことを可能にする二方向バルブとして形成されるスロット6aを備えたバ\nルブディスク6(原文4枚目7行〜5枚目3行(訳文5枚目),原文5枚目 17行〜20行(訳文6枚目),図1,2等)の記載がある。 引用文献3(甲3・訳文乙5)には,1)スリットを有する隔壁と隔壁作動 体とを含み,使用中は,隔壁作動体が隔壁のスリットを通って前進し,隔 壁を通る流体経路を形成する血液制御バルブと,カテーテルアセンブリ内 の流体がサイドポートから漏れることを防止できるポートバルブ(【000 2】,【0003】),2)「カテーテルアダプタは,隔壁作動体と隔壁とを含 む血液制御バルブを収容する。隔壁は,管腔の一部を封止する。1つ以上 のスリットが隔壁を貫通して延在することで,隔壁を通る選択的なアクセ スを提供できる。よって,ポートバルブは,ポートを介してカテーテルア ダプタの内部管腔に対する一方向の選択的なアクセスを提供し得る。」(【0 005】)との記載がある。 上記記載から,カテーテル組立体において,流体の患者への注入及び患 者の循環系からの流体の除去は,カテーテルハブの中空部に配置された「二 方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が,\n本願優先日当時,一般に知られていたことが認められる。 一方で,上記記載から,カテーテルハブの中空部に配置された「スリッ トを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはで\nきないから,上記技術が一般に知られていたことを踏まえても,前記⑴ウ の認定を左右するものではなく,当業者は,引用文献1記載のカテーテル 及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は,本件構成に相\n当すると当然把握するものと認めることはできない。

◆判決本文

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令和2(ネ)10036  特許権侵害損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月18日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 JR東海に対するCS関連発明の侵害事件です。1審では第1要件、第2要件を満たさないとして、均等侵害は否定されました。知財高裁(2部)も同じ判断です。

(1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の 範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず,「最善の実施 例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。
ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には,「ホストコンピュータが,前記 券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前 記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席 のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該作成手段 によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって\n記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」\nと「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶さ\nせることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」 が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のあ る実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には,「ホストコンピュータが,前記券 情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情 報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理 地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計 された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される 指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表\示情報を作成する作成手段と,該 作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段\nによって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,\n「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手\n段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善 の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはでき ない。
イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」 の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には,【従来の技術】として,「従 来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座 席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等\nを,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,\n指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定 席利用状況監視装置(特公H5−47880号公報)が発明されている。」との記載 があり,段落【0004】において,「券情報」及び「発券情報」を地上の管理セン ターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負 担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】と して,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに 基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理セン\nターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通 信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にす るなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指 摘されており,段落【0006】には,【課題を解決するための手段】として「本発 明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取 られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力 して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表\示情報を作成して,作成された前 記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設\n置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示\n情報を入力して表示してするように構\成したことを主要な特徴とする。」と記載さ れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上 記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つ\nの表示情報となる上記座席表\示情報にすることで半減され,これによって通信回線 の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。」と記載され,段落【0008】 〜【0019】に,【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」(「座席表\n示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載 されていることが認められる。さらに,段落【0020】に,【発明の効果】として, 「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両\n表示情報から1つの表\示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,こ\nれによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され, 通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコ ストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。」と記載されている\nことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管 理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機 で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場 合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍に するなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピ ュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情 報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席\n表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管\n理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席 の利用状況を表示するという構\成を採用したものであって,この点に,本件各発明 の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」 は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。
・・・
また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」,「改札通過情報」 が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」,「券情報」に,被告システム1の 「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が,「地上の管理センター」に該当す ることを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるも\nのであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は, 控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が, 上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構\成を備えるということには ならない。
原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構\n成要件1−B及び1−C並びに本件発明2の構成要件2−B及び2−Cの文言を充\n足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B及び1−C並び\nに本件発明2の構成要件2―\A,2−B及び2−Cの文言を充足しないから,被告 各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
(4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システ ム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から 一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に\n備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表\示するという構\n成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴 人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示 するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1 は,均等の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成30(ワ)31428

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令和2(ネ)597  著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和3年1月21日  大阪高等裁判所

 1審は請求棄却でしたが、大阪高裁は、別のレシピブックを作成することについて黙示の許諾はなかったとして、著作権侵害と判断しました。一部の写真については著作物性が否定されています。

 原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約 においては,契約書は作成されておらず,成果物の著作権の帰属や利用 に関する明示的な合意は存在しない。また,原告レシピブック1の発注 から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
控訴人代表者は,同種の夏用レシピブックにつき,次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか,レシピ\nブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快 諾しており,追加料金を生じるとは限らないなどと供述している(控訴 人代表者本人)。また,控訴人は,播磨喜水の依頼を受けて,シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピ\nカードを制作するなど,一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用い ることもあったことが認められる(甲43〜50,控訴人代表者本人)。このように,レシピブック等に掲載した写真や情報が,レシピブック\n以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありう ると解されていたことが窺われるものの,新たな制作物において使用す る場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く,控訴 人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨,内容等から, 控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者 の合理的意思を解釈する必要がある。
原告レシピブック1は,播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組 み合わせて紹介することによって,宣伝広告,販売促進に役立て,さら にはブランドイメージの向上を図るものとして,播磨喜水が制作を依頼 し,控訴人が制作したものと解される。そして,播磨喜水の事業遂行に おいて,原告レシピブック1の内容と整合する範囲で,その成果物の一 部をそのまま使用する場合については,播磨喜水のブランドイメージの 形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として,播 磨喜水はもちろん,控訴人も想定していたとみるのが合理的である。 しかし,被告制作物1は,原告制作物1(成果物である原告レシピ ブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017 SUMMER」と 明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり,そ の制作目的は同じとはいえない。 また,控訴人のデザイナーであるP2は,被告制作物1を発見し,平 成29年6月6日,P1に対し,LINEを通じて抗議をしており(甲 19:「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが,この 件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容),控 訴人は,本件提訴後,これが被控訴人による最初の著作権侵害であると 主張し,控訴人代表者もその旨供述している(甲39,控訴人代表\者本 人21頁)。 これに対し,当時,被控訴人代表者のP1は,控訴人から原告制作物1の使用について,許諾があったという反論をしておらず,むしろ,播\n磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度,ブランディング名目で常に 事前相談を求められることについて,不満を有していたことが認められ る(甲19,乙34)。
以上によると,前述したとおり,播磨喜水において,その事業活動の 一環として,控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に 従って,そのまま別の機会に利用する場合はともかく,成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を,事前の許諾を得ずにこれを異な\nる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
被控訴人による被告制作物1の制作は,控訴人の利用許諾を得ずに原 告制作物1をそのまま,制作目的の異なる制作物(原判決別紙被告制作 物目録記載2のチラシ)の背景に印刷し,これを複製するものであって, 原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
・・・・
原告制作物5−2の著作物性については,いずれも,3種類の商品(播 磨喜水の白,黒,赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり,その撮影 方法は,商品を紹介する写真としてありふれた表現である。
・・・・
(イ) 損害額について
証拠(甲7の8,甲44の1〜44の5,甲45の1,甲50)及び 弁論の全趣旨によれば,原告制作物1を含む原告レシピブック1(12 頁から成り,5種類の料理写真及びそのレシピ情報,表紙写真,及びその料理写真,商品写真,商品の値段その他の情報,通信販売案内等を掲\n載するもの)の制作に係るオリジナルレシピブランディング料及び撮 影・スタイリング・フードコーディネイト料が100万円であったこと, 控訴人においては,同種のレシピブックに掲載した料理の1つのレシピ 情報と写真を1枚のレシピカードとして基づいてレシピカードを制作す る費用が1枚2万5000円とされていたことが認められ,控訴人は, レシピカードの上記制作費用が複製の使用料であると主張する。 これらを踏まえ,原告制作物1(写真1枚)に対する使用料としては, 2万5000円と認めるのが相当である。 また,事案の内容,認容額その他諸般の事情を考慮し,控訴人が負担 した弁護士費用のうち2500円につき,本件による損害として相当と 認める。
(ウ) 以上によれば,原告制作物1に係る著作権侵害による損害賠償請求は, 2万7500円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で理由があるが, その余は理由がない。

◆判決本文
原審はこちら。

◆平成29(ワ)12572


◆原告および被告作品

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平成31(行ケ)10041  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月4日  知的財産高等裁判所

 審決は進歩性違反無しとして無効請求を棄却しました。知財高裁も同じ判断です。

 本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが 100〜2000μmであり,50個〜400個/cm2の密度で存在し,開 口面積が直径280〜1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点 6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通\n孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内 などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その 貫通孔は上記の第1表面側から第2表\面側への液体の透過を許容して,創傷 部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと 認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷 接触表面は疎水性を有する。」(【0028】), 「 次に,液体の移動について 述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得\nるように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体 透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形 成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層 を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち 抜けば良い。」(【0029】),「 次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独 又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの 量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促 進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収 層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,\n傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料 を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸 収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解\nすることが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する 樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ\nれてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷 被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保 持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の 吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか し,甲7の創傷被覆材は,「 第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲 出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯 留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保 持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると, 凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間 に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫 通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通 孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果\nたすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機 能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に\n関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から\n滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を\n適用する動機付けもない。

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令和2(行ケ)10001  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年2月8日  知的財産高等裁判所

 異議申立で進歩性無しとして取り消されましたが、知財高裁は動機付け無しとしてこれを取り消しました。

 (ア) 相違点1は,引用例1発明の共重合体が,本件発明とは異なり,d 成分を構成モノマーとして含まないというものであるところ,上記(1) ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第1成分(a成分)及び第2成分(b 成分)又はそのいずれか(特に第1成分)と共重合させる第3成分とし て,「架橋性の官能基(エポキシ基,水酸基,アミド基及びN−メチロー\nルアミド基の少なくとも1種)を有するもの」が挙げられている。 そこで,引用例1発明における第3成分として,エポキシ基を有する モノマー(c成分)及び水酸基を有するモノマー(d成分)の2種を併 用することを,当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
  (イ) まず,上記(1)ア(ア),(イ)a及びdのとおり,引用例1発明は,可 塑化ポリ塩化ビニルシート上に積層して使用するのに好適な接着剤組成 物に関する発明であり,共重合体中のカルボキシル基の10%以上をア ルカリ金属と反応(中和)させることにより,耐ガソリン性及び耐油性\nを向上させることを目的とするものである。 そうすると,化粧シートの粘着剤層に用いる粘着剤組成物用の化合物 の発明である本件発明と引用例1発明とでは,技術分野や発明が解決し ようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引用例 1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付けが乏し いというべきである。
 (ウ) また,上記(1)ア(イ)bのとおり,甲7文献には,第3成分として選 択し得る4種のモノマーの例示として8つのモノマーが挙げられてい るほか,4種のモノマーの1種のみ又は2種以上を併用して第1成分と 共重合させることができる旨が記載されている。そうすると,引用例1 発明における第3成分は,上記の各モノマーのうち1種のみを選択する 場合のほか,2種ないし4種のモノマーを併用する場合もあり得るとい うことになるから,その組合せは,異なる官能基に属するモノマーを併\n用する場合に限ったとしても,被告が主張する6通りにとどまるもので はない。
そして,証拠(甲7)によれば,甲7文献には,エポキシ基を有する モノマー(c成分)と水酸基を有するモノマー(d成分)を組み合わせ た合成例は記載されておらず,また,d成分を構成モノマーとして含む\nことによる効果等に関する具体的な記載もされていないものと認められ る。そうすると,甲7文献には,引用例1発明の技術思想として,複数 の組合せの中からエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有するモノ マーの2種を選択すべきである旨や,水酸基を有するモノマーを選択す ることによって特定の効果が得られる旨が開示されているものとはいえ ない。 これらの事情を併せ考慮すると,甲7文献に接した当業者が,引用例 1発明の第3成分として,複数の組合せの中から敢えてエポキシ基を有 するモノマー及び水酸基を有するモノマーの2種を選択する理由に乏し いというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解 決しようとする課題が必ずしも一致するものではないから,もともと引 用例1発明に本件発明の課題を解決するための改良を加える動機付け が乏しいことに加え,甲7文献の記載内容からすると当業者が複数の組 合せの中から敢えてエポキシ基を有するモノマー及び水酸基を有する モノマーの2種を選択する理由に乏しいことからすれば,甲7文献に接 した当業者において,相違点1に係る本件発明の構成に至る動機付けが\nあったということはできない。 したがって,引用例1発明において,構成モノマーとしてd成分を含\nませることを,本件出願時における当業者が容易に想到し得たというこ とはできない。
・・・
(3) 相違点2の容易想到性 上記(2)のとおり,相違点1について容易想到であるということはできな いが,事案に鑑み,相違点2の容易想到性についても検討する。
ア 検討
(ア) 相違点2は,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ\nーの全量を100質量%としたときのb成分の配合量b及びc成分の配 合量cの値が,本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦ c≦0.45)」であるのに対し,引用例1発明の共重合体においてはc が0.5,b+40cが26.8であるというものである。 そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明 における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否 か否かについて検討する。
(イ) まず,上記(2)ア(イ)のとおり,本件発明と引用例1発明とでは技術 分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない というべきである。
(ウ) また,上記(1)ア(イ)fのとおり,引用例1発明の実施例には,引用 例1発明における第3成分を,N−メチロールアクリルアミドからアク リルアミドに量比を変えることなく置き換えた場合に,ピール(g/2 cm)が「1025FA」から「675AF」になり(なお,「ピール」 とは,剥離に要する力をいう(甲7)。),凝集力が「ずれ0.6mm」か ら「ずれ16mm」になった例が示されている(表−8の実施例6,7)。\nこのことからすれば,架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド\n基及びN−メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝 集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点 で等価であるとはいえないというべきである(なお,表−8の実施例7\nにおける凝集力の数値(「ずれ16mm」)については,他の実施例にお ける数値と比較すると,「ずれ1.6mm」の誤記である可能性もあると\nいえるが,誤記であったとしても,実施例6とは3倍弱の違いが生じて いるのであるから,結論を左右しない。)。 そうすると,当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置 き換えたり,水酸基を有するモノマー(d成分)を導入した分だけグリ シジルメタクリレート(c成分)の配合量を減少させて第3成分全体の 配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことで あるなどということはできない。
(エ) さらに,上記(1)ア(ア)によれば,引用例1発明においては,第3成 分(グリシジルメタクリレートはこれに当たる。)を第1成分及び第2成 分の合計量100重量部に対して0.5〜15重量部とするとされてい るから,第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの 第3成分の配合量は,0.5〜13.0質量%となる(0.5/(10 0+0.5)×100〜15/(100+15)×100)。 そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配 合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするた めには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量% を下回る量まで減少させる必要があるところ,甲7文献の記載をみても, このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。

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令和2(ネ)10003  特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 1億円の損害賠償を求めましたが、1審は無効理由あり(29-2および進歩性)として請求棄却しました。特許権者は訂正をしさらに控訴しました。知財高裁(3部)は、被告製品は本件訂正発明の「アクセス制御手段」を充足しないと判断して、控訴を棄却しました。

  特許請求の範囲の記載によれば,本件訂正発明の「アクセス制御手段」は, 携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用を制限し,保護することを希望 する被保護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段であって, RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別できる識別情報を 受け取って,該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録してある識別\n情報との比較を行う比較手段で,前記アクセス要求を許可するという比較結 果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過す るまでは前記被保護情報へのアクセスを許可するものである。
一方,被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,上記1のとおり,画面 ロックを解除し,または画面ロックを継続する手段であって,背面にかざさ れたICカードの固有IDを受信し,その固有IDを用いて,当該ICカー ドが登録済ICカードであるか否かの比較を行う比較手段で,画面ロックを 解除するという比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定さ れた場合)は,画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しな い限り,画面を介して操作することができるものである。
ここで,被告製品の「背面にかざされたICカードの固有ID」が,本件 訂正発明の「RFIDインターフェースを有するRバッジを一意に識別でき る識別情報」に相当することに争いはないから,被告製品の「画面ロック解 除制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に係る構成要件を充\n足するというためには,1)被告製品の「画面ロックを解除し,または画面ロ ックを継続する手段」が,本件訂正発明の「携帯電話の所有者が第三者によ る閲覧や使用を制限し,保護することを希望する被保護情報(以下,単に 「被保護情報」という。)に対するアクセス要求を許可または禁止する手 段」に当たるとともに,2)被告製品において「画面ロックを解除するという 比較結果が得られた場合(登録済ICカードであると判定された場合)は, 画面ロックが解除された後,無操作状態が一定期間継続しない限り,画面を 介して操作することができる」ことが,本件訂正発明の「アクセス要求を許 可するという比較結果が得られた場合は,前記アクセス要求が許可されてか ら所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可する」こと に当たることを要するといえる。
(2) そこで,上記1)及び2)の2点に分けて,被告製品の「画面ロック解除制御 手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するか否かについて 検討する。
ア 上記1)の点につき
(ア) 証拠(甲4など)によれば,被告製品の「画面ロック機能」とは,ス\nマートフォンの画面をロックすることによって画面を介した操作が行え ないようにするためのものであり,画面ロックの解除とは,スマートフ ォンの操作(画面を介した操作)が可能な状態にするためのものであっ\nて,これらは被保護情報へのアクセスを許可するとか禁止するといった ことそのものを意味するわけではないし,それと同視すべき事柄である ということもできない。このことは,画面を介した操作が可能となった\nからといって,常に被保護情報へのアクセスが行われるわけではなく, 公開された地図の検索等,被保護情報には当たらない情報へのアクセス に終始する場合もあり得ることや,逆に,被保護情報そのものにパスワ ードが付されている場合等を想定すると,画面ロックを解除したからと いって直ちに当該被保護情報にアクセスできるようになるわけではない ことなどからも明らかである。 もちろん,被保護情報そのものにパスワード等が付されていない場合 には,画面ロックを解除した後,ユーザが画面を介して所定の操作を行 うことにより,スマートフォンに格納された被保護情報へのアクセスが 可能になるし,壁紙として,第三者に見られたくない写真を設定してい\nるような状況の下では,画面ロックの解除と同時に,被保護情報へのア クセスが起こり得ることとなる。しかしながら,これらは,画面が開か れたことそのものや,それによって画面を介した操作が可能になったこ\nとに付随して生じた結果というべきものであって,画面ロックやその解 除の直接の目的や効果といえるものではない(なお,1)の構成における\n違いが,2)の構成における違いにも反映していると考えられることにつ\nいては,後述のイ参照。)。
(イ) また,証拠(乙2)によれば,被告製品は,「画面ロック」状態にお いても,画面を介した操作によらないアクセス要求(例えば,自動改札 機の通過のために乗車券の情報にアクセスすること,電話着信があった ときに発信者の名前を画面に表示するために電話帳の情報にアクセスす\nること等)に対しては,アクセスを禁止していないことが認められ,こ の場合には,画面ロックの解除を経ないで被保護情報へのアクセスが可 能になることとなる。このことも,画面ロックやその解除が,被保護情\n報へのアクセスの禁止や許可そのものではないことを裏付ける一事情と いうべきである。なお,控訴人は,上記の例は,被告製品の構成を認定\nするための対象にはなっていない事例であるから考慮すべきではないと いう趣旨の主張をするが,画面ロックやその解除の意義を認定するため の事情として考慮することには何ら妨げはないものというべきである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)に検討したところによれば,被告製品の「画面ロックを 解除し,または画面ロックを継続する手段」が,本件訂正発明の「被保 護情報に対するアクセス要求を許可または禁止する手段」に当たるとい うことはできない。
イ 上記2)の点につき
本件訂正発明の「アクセス制御手段」の「前記アクセス要求が許可され てから所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す る」構成は,その記載のみからは,所定期間が経過した後の状態が明らか\nでない。しかしながら,本件明細書の【0009】に,本件訂正発明の目 的は,「個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該 情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護システムを 提供することにある。」と記載されていることや,【0039】に,「タ イマを設けて一定のタイムラグを許容することで,ICアセンブリ130 とICアセンブリ140とを実際に使用するときの距離が比較的長い場合 であっても,通信可能距離の短い通信方式を採用することが可能\にな る。」と記載されていることからすると,上記の構成の意義は,所定時間\nに限ってアクセスを許容する構成を付加することで,第三者による被保護\n情報の不正使用を確実に防止しつつ,Rバッジと携帯電話とが離間してい ても,自動改札機等による被保護情報に対するアクセス要求を適切に処理 できるようにしたことにあると解される。そうすると,所定時間経過後に は,被保護情報の保護のために,再度アクセスを禁止することが必須とさ れているというべきであり,「前記アクセス要求が許可され」たときを起 点とし,それから所定の時間が経過した後は,たとえ被保護情報へのアク セスが継続している最中であっても,被保護情報へのアクセスは禁止され ることになるものと解される。
これに対し,被告製品の構成は,前述のとおり,「画面ロックを解除す\nるという比較結果が得られた場合は,画面ロックが解除された後,無操作 状態が一定期間継続しない限り,画面を介して操作をすることができる」 というものである。その一定期間の起点は,画面ロックが解除された後, 何の操作もしないという例外的な場合には,画面ロックが解除されたとき となるが,何らかの操作がされる多くの場合には,その操作が終了したと きとなるのであって,常にアクセス許可がされたときが一定期間の起点と なる本件訂正発明とは異なる。また,本件訂正発明においては,アクセス 許可がされた後,一定期間が経過すれば,被保護情報へのアクセスが継続 してDいたとしてもアクセスが禁止されることになるのに対し,被告製品に おいては,画面を介した操作が継続している限り,一定期間がカウントさ れることはなく,したがって,画面がロックされることはあり得ないので あり,この点においても違いが存するものというべきである。 そして,両者にこのような違いが生じているのは,本件訂正発明におい ては,アクセス許可が被保護情報へのアクセスという意味を有するため, 被保護情報の保護という観点から時間制限が設けられているのに対し,被 告製品の画面ロック解除は,単に,画面を介した操作を可能にするという\n意味しか持たないため,被保護情報の保護という観点から時間制限をする 必要はなく,無駄な電力消費を防ぐという観点から時間制限が設けられて いるのにすぎないからであり,両者の時間制限が持つ技術的意義が全く異 なるからであると解される(このように本件訂正発明におけるアクセス許 可と被告製品における画面ロック解除が持つ技術的意義に違いがあること は,被告製品が1)の構成要件をも充足しないことをも裏付けるものである\nといえる。)。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,被告製品の「画面ロック解除 制御手段」が,本件訂正発明の「アクセス制御手段」に該当するとはいえ ない。
(3) 控訴人は,本件訂正発明の「アクセス」とは,携帯電話の正当なユーザと して被保護情報を閲覧・利用・更新することを意味しており,被告製品にお いては,画面ロック状態では,正当なユーザであることを確認できていない ため,被保護情報(電子マネー,電話帳,写真などのデータ)の閲覧・使 用・更新は禁止されているとして,被告製品が,本件訂正発明の構成要件を\n充足する旨主張する。 しかしながら,被告製品の画面ロック状態においては,被保護情報の閲 覧・利用・更新に制限があるとはいえ,それが全面的に禁止されているもの ではなく(上記(2)ア(イ)),画面ロック状態の解除後においても,それだけで 被保護情報へのアクセスが全面的に可能になるものでもない(上記・・・(2)ア(ア))。 被告製品の「画面ロック解除制御手段」は,まさに文字どおり,画面ロック 解除を制御しているにとどまり,被保護情報へのアクセスの制御との関連は 限定的なものにとどまる。

◆判決本文

1審はこちらです。

◆平成30(ワ)39914

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令和2(行ケ)10007  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月25日  知的財産高等裁判所

 無効審判請求に対して訂正請求がなされ、特許庁は無効理由なしと判断しました。知財高裁はかかる審決を維持しました。

 上記の甲11,甲22,甲24,甲25の記載によれば,これらの文 献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するよ うな深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面 にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害 になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケー ス跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技 術事項が記載されていたことが認められる。
(ウ) そこで,甲14発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという 甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相 違点d(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流 し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝 を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定 がない点。)に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかが\n問題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲14の補助側板は,耕耘具 により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分 の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐも のであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術 事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散 によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防 ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づく ものであり,したがって,甲14の補助側板に,甲11,甲22,甲2 4,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由が あるものと認められる。そうすると,甲14発明に甲11,甲22,甲 24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点dに係る本件発明 1の構成を容易に想到することはできなかったものと認められる。\nウ(ア) 原告は,本件審決は,補助側板の「新たな取付位置」を設定してい るが(判断1)),「新たな取付位置」は不要であると主張する(前記第3 の1(4)イ)。
しかし,前記イ(ア)のとおり,甲14の補助側板は,どのような耕耘 深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位 置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業す るものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接 する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであるから,チェーンケー ス跡の溝を埋め戻すための開口部を設置するためには,耕耘深さに応じ て補助側板の取付位置を設定する必要があり,本件審決の上記判断(判 断1))に誤りがあるとは認められない。

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平成30(ワ)11672  商標権侵害差止等請求事件  商標権  民事訴訟 令和3年1月12日  大阪地方裁判所

 被告標章「リシュ活」が商標「Re 就活」の侵害となるかが争われました。大阪地裁(21部)は、称呼から類似すると判断しました。ドメインの差止も認められました。

 前記のとおり,本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており, カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみ が共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから, 外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。 また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が 同一又は類似ということはできない。 しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他 の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合, 同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが 異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセン トがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほ ど,印象が異なるものとは認め難い。
(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前 記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用 に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払\nうものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異 なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が 多数ある中で(乙17,33),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる 広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考 えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求 人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。 しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務 も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠 (乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情 報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に 会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる 意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録す ることに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録し ていることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事 前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の 名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。 そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であるこ と,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ, インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法として は,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記では\nなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサ イトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるように\nしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よ りも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものという べきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要 者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異 よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の 点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のと おり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において, 被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と 被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認めら れる。
(ウ) 被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェ ブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると 主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商\n標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が 低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約 に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接するこ とにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,証拠(乙3,36 の1,2)によれば,被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登 録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」など と記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載は なく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスク ロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役 務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係 る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認\nめられない。

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令和1(行ケ)10144  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 「地熱発電促進方法」について、新規性なしとした拒絶審決が維持されました。出願人はドクター中松氏です。特許庁への出願時は代理人がついてましたが、拒絶査定以降は代理人なしです。

 本件クレーム1は下記です。
 我国地熱エネルギ活用の地熱発電を促進するため,地熱発電発電反対を抑止 する目的のため,第一に地熱発電用の井戸を掘らないこと,第二に既存のd温泉 の源泉からのお湯で発電すること,第三に発電により源泉の温度を下げ,第四 に入浴に適する温度に下げた温泉を温泉業者に提供し,第五に温泉業者の源泉 低温化のコストを不用にしてメリットを与えるという五つの組み合わせの方法 により温泉業界の地熱発電反対を抑止し,地熱発電を促進し,我国地熱エネル ギ活用を増大し得ることを特徴とする我国地熱発電促進方法。
 引用発明は下記です。
 地熱発電の普及が実現されるため,源泉の権利者への不具合を生じさせず 熱水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くするため,温泉利用設 備30用の源泉を吸い上げる機構に熱水蒸気発電装置1を接続するだけで,\n自らが使用する電力をまかなうことができ,発電に使用した熱水を,本来の 温泉水としても利用でき,温泉利用設備30の所有者にとっても利益になり, 源泉の権利者への不具合を生じさせず温泉利用設備30の所有者にとって熱 水蒸気発電装置1を設置するモチベーションを高くし,熱水蒸気発電装置1 の普及を進みやすくする,地熱発電の普及が実現される方法。

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令和2(行ケ)10065 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「モンスターストライク」(標準文字)について、先行商標「MONSTER」(標準文字)、および「MONSTER ENERGY」(標準文字)から、無効主張をしました。審決・知財高裁とも無効理由なし(15号、7号)と判断しました。

 原告は,本件商標の登録出願時及び登録査定時までに,原告使用商標1が付された,別紙4の「モンスターエナジー」及び「モンスターエナジーアブソリュートリーゼロ」,原告使用商標4が付された「モンスターカオス」の3商品(原告商品)を発\n売したこと,原告から独占販売権を得たアサヒ飲料は,原告商品について 「モンスターエナジー」ブランドとニュースリリースで紹介していたこと, 原告商品は好調な売上げを記録し,本件商標の登録出願時までに先に我が 国においてエナジードリンクとして認知を得ていたレッドブルに次いで2 位の認知度を獲得したこと,原告及びアサヒ飲料は,新商品の発売,イベン ト等の開催に合わせて原告使用商標を付し,「モンスターエナジー」又は 「MONSTER ENERGY」の名称を付した賞品が当たる様々なキ ャンペーン活動を行ったほか,著名なアスリートを支援して,原告使用商 標が付された競技用スーツを着たアスリートが原告使用商標を付した競技 道具や車両で競技する姿を見てもらい,また,これらの動画をソーシャルメディアにアップするなどしたほか,イベントのスポンサーとなり,会場\n内に原告使用商標を付したブースを設けて,原告使用商標を付したスタッ フ等が来場者に原告使用商標を付した「モンスターエナジー」ドリンクを 無償で配布し,原告使用商標を付した車両を展示し,原告使用商標を付し た車両等を走行させるなどすることを通じて,キャンペーンの応募者,視 聴者や来場者に原告使用商標の浸透を図ったことが認められ,原告使用商 標は,原告商品を愛飲し,また,原告が支援する特定のアスリートに関心を 持ち,あるいは原告がスポンサーとなったイベント会場等に来場した一定 の需用者層には知られていたということはできる。
しかしながら,そもそも上記の認識の対象となったのは,あくまで原告 使用商標である。原告は,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を 表示するものとして需要者の間で広く認識されていた旨主張するが,原告及び原告から我が国において独占販売権を得たアサヒ飲料が本件商標の登\n録出願時及び登録査定時までに販売した「エナジードリンク」に付した商 標,エナジードリンクの販売のための広告及び販売促進活動において使用 した商標は,いずれも原告使用商標であり,少なくとも,「MONSTER」 の標準文字からなる引用商標1のみをその業務において使用したと認める に足りる証拠はない。また,前記認定事実によれば,原告(モンスターエナ ジージャパン合同会社)及びアサヒ飲料は,「MONSTER」あるいはそ の音訳「モンスター」ではなく,原告使用商標と「モンスターエナジー」又 は「MONSTER ENERGY」の名称を用いて,新商品の発売,販売 のための広告及び販売促進活動等を行っているのであり(なお,モンスタ ーエナジージャパン合同会社のウェブページには,一部「モンスターガー ル」,「モンスターファミリー」といった表記も見られるが,「モンスターエナジー ガール」,「モンスターエナジー ファミリー」の略称であると 容易に理解されるものでもあるし,いずれにしても「モンスター」ないし 「MONSTER」の文字を用いてこれらの活動を行ってきたとは認めら れない。),この点からも,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」 が本件商標の登録出願時及び登録査定時には,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたといえないことが裏付\nけられる。したがって,この点に関する原告の主張は採用し得ない。 また,前記認定事実(1(4))によれば,エナジードリンクの主要な需要 者層は,30代から50代の男性が中心であり,10代から20代の男女 にも広がりつつあるが,1)エナジードリンクが何か分からないと回答した 人が16.1%,57.0%の人がエナジードリンクを購入して飲んだこと がないと回答し,2)エナジードリンクは,「飲んでいる人と飲んでいない人 と飲んでいない者の二極分化」しており,月に1日以上飲んでいる人で6 割を占め,「好調なエナジードリンクを支えているのは強烈なロイヤルカ スタマーに依るもの」と分析され,3)「61.9%がエナジードリンクの飲 用経験があり,5人に1人は「それを月に1回以上」飲用していることが分 かった」との調査結果があるように,エナジードリンクは,通常の清涼飲料 水のような幅広い需要者層が購入するものではないから,原告商品が,エ ナジードリンクとしてレッドブルに次いで2位の認知度を獲得し,当初の 目標を超える売上げを記録しているとしても,限られた需要者層が繰り返 し愛飲していることがうかがわれる。したがって,原告使用商標は,無効請 求商品の需要者である一般消費者に周知著名であったということはできな い。
以上によれば,「MONSTER」及びその音訳「モンスター」は,上記 のいずれの点においても周知著名性を認めることはできないし,原告使用 商標も,一般消費者に周知著名であったと認めることはできない。
・・・・
原告は,前記第3の2(1)のとおり,本件商標と引用商標の類似性の程度は高 く,本件商標に接した取引者及び需要者が原告及びその「MONSTER」ブラ ンドを直ちに想起,連想することは明らかであり,本件商標の使用は,原告が 「MONSTER」ブランドについて獲得した信用力,顧客吸引力にフリーラ イドするものといわざるを得ず,その経済的な価値を低下させるものであると して,本件商標は,公正な取引秩序の維持を目指す商標法の目的,国際信義の精 神に反するものであり,社会一般の道徳観念に反するものであるから,本件商 標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,商標法4条1項7 号に該当する旨主張する。
しかし,1)本件商標と原告使用商標は,外観,称呼及び観念のいずれにおいて も類似するものではないこと,2)原告使用商標はいずれも一般消費者に周知著 名とはいい難いこと,3)無効請求商品に本件商標が使用されたとしても,需要 者において,本件商標から原告使用商標を連想し,原告の業務に係る商品,原告 と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると,そ の商品の出所の混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないことは, 前記2のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものというほ かない。

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令和2(行ケ)10062  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月21日  知的財産高等裁判所

 商標「久保田メソッド(AKANON)」が、商標「久保田メソ\ッド」を含む結合商標から無効(4条1項11号違反)との審決が維持されました。

 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,「久保田メソッド(AKANON)」\nの文字を標準文字で表してなるところ,その構\成中前半部の「久保田メソッ\nド」の文字部分中,「久保田」については,ありふれた姓氏である久保田が まず想起され,「メソッド」が「方法,方式」の意味を有する英語「met\nhod」の片仮名表記であることはよく知られたことであるから,「久保田\nメソッド」の文字部分からは,「(ありふれた姓氏である)久保田という者\nによる方法,方式」といった意味合いを想起させる。また,構成中後半部の\n「(AKANON)」中の欧文字部分の「AKANON」は,辞書等に載録 されていない造語と認められ,ローマ字読みで「アカノン」と称呼されるも のの,これに類する語は想起されず,特定の観念を生じさせないものであり, 「久保田メソッド」の語と括弧内の「AKANON」の語との間に観念上の\n結び付きはない。また,文法上,「( )」(括弧)は,他の部分と区別し その中に他の部分の補充,注釈等を記入するための記号であり,通常,括弧 外の文字が主として,括弧内の文字が従として扱われることに照らせば,本 願商標が,「久保田メソッド」と括弧内の「AKANON」の語とに分離さ\nれて観察され,「久保田メソッド」が主として認識されることは明らかであ\nる。これに加えて,「久保田メソッド」が日本語表\記で先に配置されていて より目立ち,構成文字全体から生ずる「クボタメソ\ッドアカノン」の称呼が やや冗長であって,本件商標は「クボタメソッド」と略して称呼され得るこ\nと,「久保田メソッド」が明確な意味を有するのに対し,「AKANON」\nは造語であって特定の意味を有するものではないことから一般人にはなじみ にくいことも併せて考慮すると,本件商標中,「久保田メソッド」の部分が\n役務の出所識別標識として支配的な印象を与えていることは否定し難いとい うべきである。
そうすると,本件商標の構成中,その前半部に位置する「久保田メソ\ッド」 の部分は独立して自他役務の出所識別機能を果たし得るものと認められ,こ\nの部分を要部として抽出でき,本件商標は,その要部である「久保田メソッ\nド」の文字部分に相応して,「クボタメソッド」の称呼を生じ,「(ありふ\nれた姓氏である)久保田という者による方法,方式」といった観念を生ずる ものである。
・・・・
(3) 対比
本件商標と引用商標とをそれぞれ対比すると,本件商標の要部である「久 保田メソッド」の文字部分と引用商標1の要部である「久保田メソ\ード」及 び「KUBOTA METHOD」並びに引用商標2の要部である「クボタ メソッド」の文字部分とは,表\記方法が異なるのみであり,当該文字部分か ら生じる「クボタメソッド」又は「クボタメソ\ード」との称呼が共通し,又 は聞き誤りのおそれがあり,「(ありふれた姓氏である)久保田(クボタ) という者による方法,方式」の観念をいずれも共通にするものであるから, 本件商標と引用商標とは,互いに相紛れるおそれのある類似の商標であると 認められる。
そうすると,本件商標と引用商標1が本件商標の指定役務中,引用商標1 の指定役務とも類似する「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の教授, 電子出版物の提供」に使用された場合には,その役務の出所について混同が 生ずるおそれがあり,本件商標と引用商標2が本件商標の指定役務中,引用 商標2の指定役務とも類似する「乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は 開催」に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同が生じるお それがあるから,本件商標は,「乳幼児のための技芸・スポーツ又は知識の 教授,乳幼児のためのセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供」 (本件指定役務)ついて,商標法4条1項11号に該当する。
2 原告の主張について
原告は,1)姓氏と方法,方式を意味する「メソッド」又は「メソ\ード」の文 字とを結び付けた商標は「役務の質」を表示するものであるから,「久保田」\nが「(ありふれた姓氏である)久保田」を示すものであろうと幼児教育の分野 における「A」を示すものであろうと,本件商標中の「久保田メソッド」の文\n字部分は,その指定役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を\n有しない,2)同様に引用商標1中の「久保田メソード」及び「KUBOTA M ETHOD」並びに引用商標2中の「クボタメソッド」の部分も,それら指定\n役務との関係において独立して自他役務の出所識別機能を有しない,3)本件商 標も,引用商標1及び引用商標2も,全体が不可分一体のものであるから要部 抽出はできない,仮に要部抽出をするとしても,要部は「久保田メソッド」,\n「久保田メソード」,「KUBOTA METHOD」又は「クボタメソッド」\nのいずれの文字部分でもない,4)そうすると,上記各部分を要部として抽出し て商標を対比し,本件商標と引用商標とが類似すると判断した本件審決の判断 は誤りである旨主張する。
しかしながら,姓氏と「メソッド」とを結び付けた商標が「ある者が発案し\nた方法,方式」の意味をも含む場合があるとしても,当該商標が「ある者によ る(実施される)方法,方式」の意味をも有すること自体は否定し難いから, 当該商標を直ちに「役務の質」のみを表示する商標であるなどということはで\nきない。そして,姓氏又は名称と「メソッド」の文字を繋げた構\成を有する相 当数の商標登録例が現に認められていること(甲97)からも明らかなとおり, たとえありふれた姓氏であるとしても,姓氏と「メソッド」とを結合した商標\nは,その構成から直ちに出所識別機能\を有さない商標といえるものでもない。 そして,本件において,「久保田メソッド」が,その姓氏を有する発案者及び\nその関係者以外の者にも広く用いられるなどした結果,需要者,取引者に,特 定の幼児教育方法としての役務の質を表示するものとのみ認識されるようにな\nっており,特定の役務の出所先を表示するものではないことをうかがわせる証\n拠もない。
したがって,「久保田メソッド」に自他役務の出所識別機能\がないとはいえ ないから,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,その余の点について 論じるまでもなく採用することができないものである。 なお,原告は,Aが自らの育児法を幼児教育現場の指導者の間で積極的に採 用させ,これを幼児教育の現場において広く実践させているから,「久保田メ ソッド」の商標的使用を制限することは不当であり,「久保田メソ\ッド」は独 占適応性に乏しい商標であるなど,るる主張する。しかしながら,その主張を 裏付けるに足りる証拠は提出されていない上,そもそも仮に,「久保田メソッ\nド」がAの考案に係る久保田メソッドの名称であるとすれば,原告に本件商標\nの商標権者の地位を保有させ,その名称の独占を認めることは,かえって不当 というべきであるから,いずれにせよ,上記主張を採用する余地はない。

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令和2(行ケ)10095 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月26日  知的財産高等裁判所

 商標法50条にて登録を取り消された審決取消訴訟です。知財高裁は、不使用とした審決を維持しました。指定商品は新聞で、使用していたのは電子新聞でした。

ア 原告は,新聞や書籍といった情報伝達媒体に属する商品において,取 引の対象となっているのは,その物理的な性状である紙ではなく,実質的には,そ の内容(コンテンツ)であり,この種の商品の流通とは,情報の流通のことを指し, インターネットを通じて流通できるため,新聞等は紙である必要性はなくなったし, 電子版も含まなければならないから,「紙媒体」に限定した本件審決の判断には誤り がある旨主張する。
商標法における商品に,電子情報財等の無体物が含まれることを否定するもので はないが,たとえ,新聞や書籍などの情報伝達媒体に属する商品が,原告がいうと ころの「その内容(コンテンツ)」に価値を見いだして購入する需要者がいるとして も,いわゆる収集家の如く,紙媒体としての新聞や書籍について,「その内容(コン テンツ)」以外の点に価値を見いだす需要者も存在する。また,インターネットが普 及し,「内容(コンテンツ)」がインターネットを通じて流通することが可能であるとしても,これにより紙媒体としての「新聞」の存在自体が完全に否定されるもの\nではないし,実際に,紙媒体としての「新聞」は依然として流通している。そうす ると,紙媒体としての「新聞」の流通とは,紙媒体としての「新聞」という物品そ のものの流通として捉えられるべきものである。
イ 原告は,本件アンケート(甲28)の結果をもとに,本件商標が指定商 品である「新聞」に実質的に使用されていると主張する。 しかし,本件アンケート調査は,その対象者がどのような条件・方法により抽出 されたものであり,どのような方法によりインターネットを通じて実施されたもの であるかは明らかでなく,本件アンケート調査によって得られた結果が,「電子版の 新聞及び本件ウェブサイトを一般購読者がどのように捉えているか」を示すものと して参酌することはできない。
また,本件アンケートは,ウェブサイト上におけるアーカイブの提供が,「電子化 された新聞の内容を提供(供覧)する役務」に該当するものであるか否かに関する ものであるから,これによって得られた結果を,本件商標が指定商品である紙媒体 である新聞に使用されているか否かを検討するに当たり,参酌することはできない。 さらに,本件アンケートの回答について,原告は,「どちらとも言えない,わから ない」という回答を,「新聞かもしれない,と消極的に感じている」と恣意的に認定 しているから,本件アンケート調査が,「需要者の約75%が本件ウェブサイトを 『新聞』と認識している。」ことを示すものでもない。

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令和2(行ケ)10066  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所

 知財高裁(2部)は,進歩性なしとした審決について,請求項2,3については動機付けがないとして,取り消しました。

 本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる\nように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521, 第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53 4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回\n転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ, 甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸 21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲\n2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を\n本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。\n
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定 した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を 更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該 接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設 置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収 容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ 4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に 対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収 容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第 1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4 3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術\n的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2 13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構\成すること, 第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装\n置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223 に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており, この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら\nの部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5 3)は,機能的に連動しており,一体的に構\成されているといえる。また,甲1発 明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一 体となってストッパ機構を構\成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸 点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック 531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,\n第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該\n第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位 置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が 回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能\となるように制限すること,第1 位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備 えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,\nこれらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522, 支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動\nしており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自\n動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている\nといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を 備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転 可能に支持できる構\成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持\n片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す\nる動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接 して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21 3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認\nめられ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構\と選択的回転規 制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発\n明に適用しようする動機付けもないというべきである。 したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構\成とすることが 甲1文献により動機付けられているということはできない。

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令和2(ネ)10047  特許実費等請求控訴事件  その他  民事訴訟 令和3年1月14日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 独占的権利(特許または専用実施権)については,特許の取得費用についても支払うとの契約があり,その一部について非独占的権利への変更通知をした場合に,その取得費用について支払う必要があるのかが争われました。知財高裁は1審と同じく,支払い義務ありと判断しました。

「(1)ア 特許実費の支払義務を負う対象となる権利の範囲について,本件契約 書5条1項は,「専用実施権又は独占的通常実施権を有している本件特許権等」と 規定していることから,控訴人は,専用実施権の設定登録がされた特許権について のみ,それらの特許実費を負担することになるのかが問題となる。
(ア) 出願中の特許について
本件契約書1条1号は,「本件特許権等」について,出願中の特許も含まれるも のと定義していること,本件契約書5条1項は,「当該特許権又は出願中の特許に 係る出願,登録及び維持に要する実費(以下「特許実費」という。)を負担する」 と規定していること,本件契約書5条2項は「2条3項に基づく非独占的通常実施 権への変更通知をしたときは,当該変更通知がなされた対象特許権及び/又は出願 中の特許については,前項の費用負担義務を免れるものとし」と規定していること からすると,本件契約書5条1項により控訴人が負担することになる特許実費には, 出願中の特許についての特許実費も含まれることは明らかである。 そして,出願中の特許については,専用実施権の設定や独占的通常実施権の許諾 はできないから,それが特許権の設定登録がされた後に本件契約上専用実施権や独 占的通常実施権の対象となるのであれば,特許実費の支払義務を負う対象となると いうべきである。なお,出願中の特許については,仮専用実施権の設定や仮通常実 施権の許諾をすることができる(特許法34条の2,34条の3)が,本件契約書 には,仮専用実施権の設定や独占的仮通常実施権の許諾がされたものに限り,控訴 人がその特許実費を負担する旨の規定はないから,控訴人がその特許実費を支払う 義務がある出願中の特許がこれらのものに限られると解することはできない。 したがって,出願中の特許についても,本件契約書2条3項に基づく非独占的通 常実施権への変更がされていないものであれば,控訴人がその特許実費を支払う義 務があるというべきである。
(イ) 特許権の設定登録がされた特許権について
本件契約書2条1項,2項は,本件特許権等につき,当初は,専用実施権の設定 合意をするが,本件契約締結日から3年経過したときに,その専用実施権が独占的 通常実施権に変更される旨規定しており,本件契約においては,専用実施権の設定 合意がされ,その設定登録がされていなくても,その専用実施権は,3年経過後に 独占的通常実施権に変更されるものとされているのであるから,本件特許権等のう ち特許権の設定登録がされた特許権については,「専用実施権又は独占的通常実施 権を有している本件特許権等」とは,本件契約書2条1項により専用実施権の設定 の合意がされた特許権及び本件契約書2条2項により同専用実施権が独占的通常実 施権に変更された特許権を意味し,控訴人は,そのような特許権であり,本件契約 書2条3項に基づく非独占的通常実施権への変更をしていないものであれば,専用 実施権の設定登録がされているかどうかにかかわらず,それらの特許実費を支払う 義務があるというべきである。
イ 次に,本件契約書1条1号において,「本件特許権等」が「本件製品を 技術的範囲に含む」ものと定義されていることから,その意味が問題となる。 本件契約書1条3号は,「本件製品」について,「(1)圧電型加速度センサ(L字 タイプ),(2)触覚センサ(薄型力覚センサ),(3)トルクセンサ,(4)マイクロ発電 機,及び(5)MEMSミラーを意味する。」と定めており,そこに控訴人が製造,販 売するあるいは製造,販売する予定の製品といった限定はないから,本件契約上,\n「本件製品」とは,これらの技術分野の製品一般を意味するものである。 したがって,「本件製品を技術的範囲に含む」とは,これらの技術分野を技術的 範囲に含むことを意味し,「本件特許権等」は,これらの技術分野に関する特許権 又は出願中の特許を意味すると解するのが相当である。
ウ そして,本件契約についての以上の解釈は,前記1(2)で認定した本件 契約締結に至る経緯,前記1(3)で認定した本件契約締結後の当事者のやり取りの 状況等及び前記1(5)アで認定した控訴人による本件契約に基づく特許実費の支払 状況とも矛盾なく整合するものであって,これ以外の解釈をすることはできない。
(2) 以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,本件製品(圧電型加速度セ ンサ(L字タイプ),触覚センサ(薄型力覚センサ),トルクセンサ,マイクロ発電 機,及びMEMSミラーの技術分野)に関する出願中の特許,専用実施権の設定の 合意がされた特許権及び同特許権から独占的通常実施権の許諾のある特許権に変更 された特許権のうち,上記の専用実施権又は独占的通常実施権が非独占的通常実施 権に変更されていないものについての特許実費を支払う義務を負うが,前記1(7) アのとおり,平成29年度第2半期における上記範囲の特許実費は,4512万6 043円である。

◆判決本文

1審はこちら。

◆平成31(ワ)3197
被告は,本件変更通知以降は,被告が本件特許権等につき何らの専用実施権を 有しないことが明確となった以上,それ以降に発生した本件変更通知後特許実費につ いては,本件契約上,被告が負担すべきものと解釈されるべきではないし,仮にその ように解釈されたとしても,本件変更通知後特許実費の発生原因となった原告による 特許出願等が被告にとって必要性がなく,また,早期に行われる必要もないものであ ったことも踏まえると,原告の本件変更通知後特許実費の請求は権利の濫用に該当す る旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件契約上,原,被告間に本件特許権等について の専用実施権の設定合意が存在する間は,被告が本件特許権等の特許実費を負担すべ きであると解されるところ,前記1(6)のとおり,本件変更通知によって上記の合意 が解消されるのは平成30年3月31日である上に,本件変更通知の対象には本件特 許権等に含まれる出願中の特許は含まれておらず,前記(1)アの本件特許権等の文言の解釈を前提とすると,本件変更通知の対象とされたのは本件契約の対象となる本件特 許権等のうちの一部にとどまることとなるから,本件変更通知により被告が本件特許 権等につき何らの専用実施権を有しないことが明確になったともいえない。 また,証拠(甲2,43)及び弁論の全趣旨によれば,原告の請求に係る平成29 年度第2半期における特許実費のうち,原告において平成29年11月10日以前に 特許事務所に対して出願等の依頼をしたにもかかわらず,特許事務所からの実際の請 求が平成30年2月23日以降にされたにすぎないものも相当額含まれていること が認められるし,また,これに当たらないものに関し,原告において,同日以降に殊 更同年3月31日までに特許出願等の特許実費を発生させる行為をしたと認めるに 足りる証拠もないこと,本件契約上,被告における実施の必要性がないこと等を理由 として被告において特許実費の負担を免れることができる旨の定めも存在しないこ とに照らすと,原告の本件変更通知後特許実費の請求が権利の濫用に該当するともい えない。
エ 被告は,過去に原告の有する本件製品に関する特許権及び出願中の特許を対象 としてその特許実費全額を支払っていた点について,後に精算することを前提に仮払 したにすぎない旨主張する。 しかしながら,本件契約書上,支払対象とならない特許実費に関する仮払やその精 算に関する定めは存在しない上に,証拠(甲6〜15,24〜28)及び弁論の全趣 旨によれば,被告が,原告の特許実費の請求に応じてその支払をするに当たり,仮払 であることや後に精算する必要があることを示すことなく支払をしたことが認めら れるほか,前記1(7)カのとおり,Bは,過去の特許実費の支払につき,仮払という説 明ではなく,支払当時将来的に独占的な実施権を得られるであろうとの期待から自発 的に支払ったなどと説明していたのであって,他に被告が原告に対して仮払であるこ とや精算の必要性があることを支払の際に示していたことをうかがわせる証拠もな いことに照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

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令和2(行ケ)10101  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月19日  知的財産高等裁判所

 商標「庵治石工衆」は,地域団体商標「庵治石」と出所混同する(15号)とした審決が維持されました。

 前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから 我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工 芸品となっていることが認められる。 一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採\n掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭 和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行 ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設 定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石(R)登録証」や「庵治石(R)プ レート」を発行したり,「庵治石(R)」のシールを付したりして,ブランドの 維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡 大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相 当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから, 経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載 され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。 これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件 審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品 に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者 又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,\n相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
(2) 原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町 産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に\nおいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称 であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及\nび出所表示機能\を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字 で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性\nを有することはない旨を主張する。 しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花 崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種 同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示 すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も ない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
(1) 検討
前記2(1)のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町 産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字 部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。 そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分\nは,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」 程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構\成中の「庵 治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると, いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり, また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願 商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市 庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・ 牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし 地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商 標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性 は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商 標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指 定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引 者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定 役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知 識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役 務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに 接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ\nる「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用 商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密\nな営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す\nる関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤 認を生じさせるおそれがあるものというべきである。 そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
(2)原告の主張について
原告は,1)取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地 域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引\n者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを 細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又 は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ れはない,2)仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務 識別機能及び出所表\示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな\nい部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると 認識させるものでない旨主張する。 しかしながら,上記1)の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」 及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部 とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記2)の主張の 前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原 告の上記主張は,採用することができない。

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令和2(行ケ)10047  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和3年1月20日  知的財産高等裁判所

 商標「KOREKARADA」(標準文字)が「ココカラダ」(標準文字)とは非類似,(11号)出所混同生じない(15号)とした審決が維持されました。

 以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において明らかに 相違することに照らすならば,本件商標から「今からだ」ほどの意味合い を連想,想起させ,引用商標から「ここ(この時点)からだ」ほどの意味 合いを連想,想起させる点で観念において類似する面があることを勘案し ても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリメント」に使用 したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれがあるものと認め ることはできないから,本件商標は,引用商標に類似する商標であるとい うことはできない。 したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものとは認 められない。
エ これに対し,原告は,本件商標と引用商標は,外観は相違するが,称呼 が類似し,観念が同一であること,引用商標は,原告の業務に係る商品を 表示するものとして,需要者であるスポーツ愛好家の間に広く認識されて\nいるという取引の実情があることをも考慮して全体的に考察すれば,本件 商標と引用商標が本件商標の指定商品「サプリメント」に使用された場合f には,その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるから,本件 商標と引用商標は全体として類似している旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。 また,前記ウ認定のとおり,本件商標と引用商標は,外観及び称呼にお いて明らかに相違することに照らすならば,観念において類似する面があ ることを勘案しても,本件商標と引用商標を本件商標の指定商品「サプリ メント」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じるおそれが あるものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
・・・・
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(1) 本件商標の商標法4条1項15号該当性について
原告は,1)引用商標は,「ここからだ」,「まだまだ諦めない」という意味 も含有した造語であり,独創性があること,2)引用商標は,本件商標の登録 出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとし\nて,需要者であるスポーツ愛好家の間に周知であったこと,3)本件商標と引 用商標は,少なくとも称呼や観念において類似する面があること,4)引用商 標を付した原告の商品と本件商標を付した被告の商品は,商品の用途や目的, 成分,用法,販売方法等において共通し,同一又は密接な関連性を有するも のであり,需要者が共通すること,5)本件商標を付した被告の商品のパッケ ージは,原告の商品のパッケージと比べて,形状,図柄,キャッチコピーな どその外観において類似点が多く,広報プロモーション活動の方法も似通っ ていること,6)本件商標の指定商品「サプリメント」は,スポーツ愛好家が 日常的に摂取する性質の商品であり,その需要者が特別の専門的知識経験を 有する者ではないから,これを購入するに際して払われる注意力は,さほど 高いものではないことを総合的に考慮すると,本件商標を上記指定商品に使 用したときは,その商品が原告の商品と誤認混同する可能性があり,本件商\n標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標 法4条1項15号に該当するから,これを否定した本件審決の判断は誤りで ある旨主張する。
しかしながら,前記1(1)認定のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願 時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして,\n需要者の間に広く認識されていたものとは認められず,また,前記1(2)ウ認 定のとおり,本件商標と引用商標は,観念において類似する面があるといえ るものの,外観及び称呼において明らかに相違する。 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件商標をその指 定商品「サプリメント」について使用したときに,これに接する需要者がそ の商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるお それがあるものと認めることはできない。

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令和2(行ケ)10050 審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 めずらしい商51条の取消訴訟(登録商標の類似範囲の使用による混同)です。被告は商標「農口」を有する商標権者で、原告は商標「農口尚彦研究所」を有しています。被告は標準文字の商標を書体を草書体に変更して日本酒のラベルに使用していました。知財高裁は不成立の審決維持です。
原告は被告の下で杜氏として2年働き、その後、袂を分かったんですね。原告の目的は、被告の商標の使用禁止なのでしょう。51条で取り消しができれば、混同するとしてやめさせるつもりだったのかもしれませんね。

 原告は,「農口尚彦研究所」の日本酒は,日本酒評価サイトである「S AKETIME」の石川の日本酒ランキング2020において,第1位を 獲得したこと,ANAの国際線ファーストクラスにおいて,2018年(平 成30年)から継続して「農口尚彦研究所」の日本酒が提供されているこ と,このほか,様々な著名雑誌や全国放送のテレビ等においても,原告の みでなく,「農口尚彦研究所」も,北陸を代表する酒蔵として紹介されて\nいることなどからすると,原告自身の名はもちろん,原告の手による「農 口尚彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販売する「農口尚彦研究所」の 名称も,需要者の間で広く認識されており,引用商標は,本件審決時にお いて,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,周知又は\n著名であったといえるから,これを否定した本件審決の認定は誤りである 旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 引用商標は,別紙2に示すとおり,「農口尚彦研究所」の文字を縦 書きの楷書体で書してなるものである。 商品「日本酒」は,嗜好品であり,その需要者は,一般消費者である から,引用商標が周知であるというためには,需要者である一般消費者 の間で,引用商標が原告の業務に係る「日本酒」を表示するものとして\n広く認識されている必要がある。
(イ) そこで検討するに,前記アの認定事実によれば,原告が杜氏を務め る株式会社農口尚彦研究所は,平成29年12月頃から,引用商標を付 した日本酒(「農口尚彦研究所」の日本酒)を継続して販売し,本件審 決時(審決日令和2年3月27日)までの販売期間は約1年5か月であ ることが認められる。一方で,引用商標を付した日本酒の販売数量,売 上金額,市場占有率等についての立証はなく,引用商標を付した日本酒 の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 次に,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等には,原告について, 「酒造りの神様・X杜氏の復活!」,「酒造りの神,Xの酒が復活!」, 「日本酒の神様,ふたたび始動!」,「「酒造りの神様」「伝説の杜氏」 と称されるX氏」などと掲載され,原告が平成29年から酒蔵「農口尚 彦研究所」で杜氏として酒造りを再開したことが紹介されていること, 引用商標を付した日本酒が,2018年(平成30年)から,ANAの 国際線ファーストクラスの機内で提供される「日本酒セレクション」に 採用されていること,令和2年にもANAのウェブサイトで人気の銘柄 として紹介されていることが認められる。 もっとも,上記雑誌,新聞,ウェブサイト等においては,「農口尚彦 研究所」は,原告が杜氏を務める酒蔵として紹介されており,上記AN Aのウェブサイトを除き,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口 尚彦研究所」が用いられることを明確に示す記載はない。また,日本酒 が掲載された写真についても,当該写真から「農口尚彦研究所」と表示\nされていることを判読することは困難である。 加えて,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等における原告の紹 介記事等によれば,原告の氏名である「X」は,日本酒の銘柄等に関心 の高い日本酒愛好家の間では知名度が高かったものといえるが,嗜好や こだわり等も様々な一般消費者の間において,広く知られていたとまで 認めることはできない。 以上によれば,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等の掲載状況 から,本件審決時において,酒蔵「農口尚彦研究所」及び「農口尚彦研 究所」の日本酒は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好家の間では, 相当程度認識されていたものと認められるものの,一般消費者の間で広 く認識されていたものと認めることはできず,ましてや,引用商標が原 告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,広く認識されて\nいたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はな い。
(エ) 以上によれば,引用商標は,本件審決時において,原告の業務に係 る商品「日本酒」を表示するものとして,需要者の間で広く認識されて\nいたものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること ができない。

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令和2(ワ)2403 著作権侵害差止等請求事件  著作権  民事訴訟 令和2年12月23日  東京地方裁判所

 写真の著作物の複製・公衆送信があったとして、約30万円の損害賠償が認められました。損害の算定根拠は、「fotoQuote」というサイトにおける料金表です。\n

 本件写真は,原告が,天候の良好な平成23年3月2日の日中に,インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し,日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ,同寺院の正面を斜め上方から,同寺院の主要な建物を 中心に据え,その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認め られる。 そうすると,本件写真は,原告が撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影 場所等の条件を選択し,被写体の選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,\nシャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,原告の個性が表現され\nたものということができる。したがって,本件写真は原告の思想又は感情を創 作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し,本件写真を創\n作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので,本件写真に係る著作権 及び著作者人格権を有する。
・・・
前記2(3),3のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である 被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,本件画像の掲載 期間は,約5年に及ぶ。また,証拠(甲6ないし8)によれば,原告は,自 身の写真のライセンスに当たっては,通常,「fotoQuote」の料金 表(甲7)を使用していること,同料金表\によれば,世界市場のウェブ広告 にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用さ せる内容のライセンス料は,地域をアジアに限定しても,1989米ドルを 下らないこと,令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における 米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さ らに,証拠(甲3の1)によれば,本件画像は,400×300ピクセルの 大きさで使用されていたことが認められる。そうすると,本件写真を営利目 的で使用する場合,原告は,21万1032円でその利用を許諾することと していたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 以上に加え,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件写真に係る原告 の著作権(複製権,自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相 当する額(著作権法114条3項)は,21万1032円と認めるのが相当 である。 また,上記の諸事情に鑑みれば,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏 名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料\nは5万円,弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当であ る。
(2) これに対し,被告は,原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」 の料金表は,あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用\nされるものであり,被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものである から,これを算定根拠とすることはできないと主張する。 しかし,前記2(3)のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社で ある被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,被告が本件 画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから,被告の上記主 張は前提を欠く。

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令和2(行ケ)10086  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 令和2年12月23日  知的財産高等裁判所

 商標「AZURE」は,「AZULE」と類似するとした拒絶査定不服審判の審決取消訴訟です。争点は、「AZURE」から「アズレ」という称呼が生ずるか否かです。知財高裁は、審決と同様に、生ずるので類似すると判断しました。

(1) 本願商標は,「AZURE」の欧文字を表してなる。「azure」は,\n「空色,青空」の意味を有し,「アジュア」と発音される英単語として辞書 (乙2。ジーニアス英和辞典 第5版,2014年12月25日発行。)に掲 載されているが,中学生向け(乙2ないし6)や高校生向け(乙7)の学習書 で覚えておくべき単語として挙げられていないことはもちろん,TOEIC の制作機関が提供するボキャブラリーブック(乙8。国際的なビジネスの場 で一般的に使われる語彙を集めている。)でも取り扱われておらず,我が国に おいてその意味が広く一般に知られている語とは認められず,また,本願商 標の指定商品・指定役務の分野において,特定の意味合いを有する語として 知られているとの事情も見いだせない。そうすると,需要者から,一種の造語 として看取されることもあるものといえる。 それ自体あまり知られていない欧文字からなる商標は,一般的には,我が 国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の読み方に倣って称呼 されるとみるのが自然であるから,本願商標は,英語風の読み方に倣って「ア ジュア」の称呼を生ずるほか,ローマ字風の読み方に倣って「アズレ」の称呼 をも生ずると認めるのが相当である。
(2) 原告は,本願商標は,「pure」,「cure」,「secure」等 の語尾に「ure」を有する英単語と同様に,英語として自然な文字の並びで あることに加え,広く知られているマイクロソフト社のクラウドプラットフ\nォーム「Microsoft Azure」に使用されているように,我が国 において認知されている語といえるため,英語の読み方に倣って称呼される とみるのが自然であると主張する。 しかし,前記(1)で判断したところに照らせば,「azure」は,「pu re」,「cure」,「secure」等の英単語のように一般に知られて いるとは認められない。そして,マイクロソフト社のクラウドプラットフォ\nーム「Microsoft Azure」については,一般のビジネスにおい て幅広く使われていると認めるに足りる証拠はない上,「Azure」の称呼 も,「アジュア」のほか「アズレ」とされる場合,「アズール」とされる場合 もあり(乙9ないし14,26),大手企業が上記クラウドプラットフォーム を採用する場合に「アズール」と呼んでいる場合もある(乙10,11)。 また,イギリスの自動車のブランド「AZURE」も「アズール」と称呼さ れ(乙15ないし19),ステッドマン医学大辞典第5版(乙21,2002 年2月20日)では一群の異染性塩基性青色メチルチオニン又はフェノチア ジン色素を示す用語「azure」を「アズール」と称呼し,南山堂医学大辞 典第20版(乙22,2015年4月1日)は,「アズール」の語を,英語a zureに由来し,アズール顆粒やギムザ染色を示すものとして挙げている。 したがって,引用商標から「アジュア」の称呼のみが生じるとはいえず,原 告の主張は採用できない。

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