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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

文言侵害

令和2(ワ)25892  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年11月29日  東京地方裁判所

電子たばこの特許について、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。

イ 本件明細書には、「本発明の物品は、カートリッジの嵌合端部と嵌合す る受容端部を有する制御ハウジングも含むことができる。したがって、制 御ハウジングとカートリッジ本体は、機能可能\に連結されるものとして特 徴づけることができる。このような受容端部は特に、カートリッジの嵌合 端部を受容する開口端部を有するチャンバーを含んでよい。・・・特有の 実施形態では、カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングの受容端部と嵌 合させると(カートリッジの嵌合端部を制御ハウジングのチャンバーの中 まで所定の距離だけスライドさせるなどすると)、吸引可能な物質媒体と\n電気加熱部材が整列して、吸引可能な物質媒体の少なくとも一部分を加熱\nできるようになる。」(【0008】)、「カートリッジ本体305は、 制御ハウジング200の受容チャンバー210と嵌合する嵌合端部310 と、」(【0040】)との記載がある。また、図4、図7、図9等には、 吸引可能な物質を消費者の方に運ぶように構\成された反対側の吸い口端と、 外面および内面を有する壁とを有する実質的に筒状のカートリッジの嵌合 端部310が示されるとともに、電気加熱部材に電力を供給する電気エネ ルギー源を含む制御ハウジングの端部として、中央部の円筒状の突出部を 取り囲むように、円筒形のカートリッジの外壁の外径よりやや大きい内径 を有する円筒形の受容チャンバー壁があり、カートリッジを受容チャンバ ーに挿入することで、カートリッジの外壁であり嵌合端部の外側が、受容 チャンバーの外壁の内側に、ほとんど隙間なく接する状態が示されている。 すなわち、本件明細書には、カートリッジの嵌合端部と制御ハウジング の嵌合端部(受容端部)が嵌合すると記載され、その実施形態として、カ ートリッジが制御ハウジングの受容チャンバーに挿入されることで、相補 形状を有するといえる、円筒形の外壁という形状を有するカートリッジの 嵌合端部と、円筒形の受容チャンバー壁という形状を有する制御ハウジン グの嵌合端部(受容端部)とが、カートリッジの外壁の外側の嵌合端部が 受容チャンバーの外壁の内側に接することで、ほとんど隙間なく配置され るという状態ではまり合っていることが示されているといえる。これは、 上記の「嵌合」についての一般的な意義に沿ったものである。他方、本件 明細書には、制御ハウジングの「受容端部」あるいは「受容チャンバー」 については、【0008】、【0040】以外に、本件明細書の【001 2】、【0018】、【0027】、【0059】、【0061】、【0 102】等にも記載があるが、カートリッジの嵌合端部の端面に接触又は 近接するのみで、それを制御ハウジングの「受容端部」とする記載はない し、上記アの一般的な意義と異なる意味で「嵌合」が使われていることを 示唆する記載もない。
ウ 本件発明は、前記1 のような技術的意義を有するところ、制御ハウジ ングとカートリッジの関係として、想定し得る様々な構成のうち、構\成要 件Dにおいて「前記制御ハウジングは、前記カートリッジに機能可能\に連 結されている嵌合端部を有する」として、それぞれの嵌合端部が「嵌合」 するものであることを明確に定めている。そして、そのような構成の下で、\n制御ハウジングとカートリッジが「機能可能\に連結され」、また、「吸引 可能な物質媒体と電気加熱部材が整列して、吸引可能\な物質媒体の少なく とも一部分を加熱できるように」なることがあるとしている。 本件発明においては、制御ハウジングとカートリッジの関係が上記のと おり定められているところ、「嵌合」の語句の一般的な意義(前記ア) や本件明細書の記載(前記イ)もその一般的な意義を前提としていると 解されることからも、「前記カートリッジに機能可能\に連結されている 嵌合端部」とは、その嵌合端部自体が一定の形状を有するとともに、ハ ウジングの嵌合端部も一定の形状を有し、それら両嵌合端部の形状が、 相補形状であり、それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくは まり合うものをいうと解される。
(3) 被告製品の構成dについて\n
ア 被告製品の構成dは、「加熱式デバイスは、加熱式タバコスティックを\n受け入れるエンドキャップと、エンドキャップの底面に形成されたスリッ トを貫通してエンドキャップ内まで延びるヒータブレードのベース部上に 形成された導電トラックに電力を供給するバッテリーを含むメインボディ と、を有する加熱式喫煙デバイスであって、使用者はエンドキャップの底 面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であり、該挿入によっ\nてヒータブレードのベース部が加熱式タバコスティックに挿入され、加熱 式喫煙デバイスのスイッチが入れられると、タバコロッドを加熱するため に、ヒータブレードの導電トラックがバッテリーと通電し、」である。 そして、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり得るのは加熱式タバコ\nスティックであり、当該加熱式タバコスティックの篏合端部に当たり得る のは、加熱式タバコスティックの吸い口とは反対の先端部である。
イ 原告らは、エンドキャップに加熱式タバコスティックがぴったりとはま るから、エンドキャップの底面と、加熱式タバコスティックの先端面は、 ほぼ同径の円形であり、「形状が合った物」であり、「エンドキャップの 底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入可能であ」ることは「は\nめ合わせる」ことである旨主張する。 しかしながら、加熱式タバコスティックの先端面の形状とエンドキャッ プの底面の形状自体はほぼ同径の円形であるとしても、エンドキャップ の底面に達するまで加熱式タバコスティックを挿入した状態は、加熱式 タバコスティックの先端面がエンドキャップの底面に突き当たって接し た状態になっているのみである。加熱式タバコスティックの先端面とエ ンドキャップの底面のそれぞれの形状は、相補形状ではなく、それぞれ の形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものであるとはい えない。
なお、制御ハウジングは、構成要件Dの文言上、「前記電技加熱部材に\n電力を供給する電気エネルギー源を含(む)」(構成要件D)ものであ\nるところ、被告製品における制御ハウジングはメインボディであるから、 エンドキャップそれ単独では、制御ハウジングに当たることはない。 ウ 原告らは、ヒータブレードのベース部が「篏合端部」に当たるとも主張 する。
しかしながら、前記のとおり、構成要件Dの「カートリッジ」に当たり\n得るのは加熱式タバコスティックであり、当該加熱式タバコスティックの 篏合端部に当たり得るのは、円筒状の形状を有する加熱式タバコスティッ クの吸い口とは反対の先端部であるが、当該先端部は、原告らが「篏合端 部」と主張するヒータブレードのベース部の形状と、相補形状ではなく、 それぞれの形状によって、互いにほとんど隙間なくはまり合うものである とはいえない、なお、このことは、ヒータブレードのベース部とエンドキャップ底面と を合わせた構成を考えても同様である。\n
エ 以上によれば、被告製品の構成dのヒータブレードのベース部とエンド\nキャップ底面は、いずれも構成要件Dの「篏合端部」に当たらず、その他、\nこれに該当する部分はないといえる。 そうすると、被告製品は、構成要件Dを充足する部分を有せず、その余\nを判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。

◆判決本文

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平成25(ワ)7478  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟__全文__ 平成28年10月14日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。東京地裁(40部)は、半導体基板の製造方法について、「第二の割り溝」を有しないとして、文言侵害は否定しましたが、均等と認めました。

また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について, 手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ 等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする\nことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに\nとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ の形成の方法は特に限定されていない。 そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客 観的に見て不十分であるという事情は認められない。\n
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明 細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法, その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思 想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物\n半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層 側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部 分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝, すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置 関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか, また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特 徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し, サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資 する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ, サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。 そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板 を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結 晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端 に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの\nで割れやすくなることが認められる。 そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術 的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。\nしたがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない というべきである。
エ 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて, 対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直 に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり, そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない 旨主張する。
そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙\n14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】 に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ レイク面が略垂直である旨の記載がある。 しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ 【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域 のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって, 切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生 しないと認めることはできない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ る。

◆判決本文

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平成28(ワ)25436  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和2年9月24日  東京地方裁判所

 随分前の事件ですが、漏れていたのでアップします。争点はたくさんあります。裁判所は、均等の主張を認め、差止と約10億円の損害賠償を認めました。判決文は別紙を入れると400頁ありますので、目次付きです。

前記(2)ウのとおり,本件明細書2記載の従来技術と比較して,本件発明2 における従来技術に見られない特有の技術的思想(課題解決原理)とは,従来,グ ルタミン酸生産に及ぼす影響について知られていなかったコリネ型細菌のyggB 遺伝子に着目し,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子 を用いてメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変する ことによって,グルタミン酸の生産能力を上げるための,新規な技術を提供するこ\nとにあったというべきである。また,前記(2)エで検討したとおり,本件明細書2に おける従来技術の記載が客観的に見て不十分であるとは認められない。\n
(ウ) 前記(3)アのとおり,19型変異使用構成は,本件発明2−5に含まれる,\n本件特許2の請求項1又は4を引用する請求項6のうち(e)の変異型yggB遺 伝子が導入されたコリネ型細菌を使用する構成であり,前記(イ)の本件発明2にお ける特有の技術的思想ないし課題解決原理に照らせば,19型変異使用構成の本質\n的部分は,「コリネ型細菌由来のyggB遺伝子に,コリネバクテリウム・グルタ ミカム由来のyggB遺伝子におけるA100T変異に相当する変異を導入し,当 該変異型yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変し,ビオチンが過剰量存在す る条件下においてもグルタミン酸の生産能力を上げる点」にあると認められる。\n
(エ) 被告は,出願経過,本件優先日2当時の技術水準,19型変異使用構成の効\n果から,19型変異使用構成の本質的部分の認定に当たっては,特許請求の範囲の\n記載の上位概念化をすべきでなく,特許請求の範囲に記載された「変異後のygg B遺伝子の配列である配列番号22という特定のアミノ酸配列におけるA100T 変異」に限定して認定されるべきであると主張する。
しかしながら,前記(2)ア及びイの本件明細書2の記載内容によれば,本件発明2 は,特定の配列のyggB遺伝子を有するコリネ型細菌にのみ存在する課題を対象 とするものではなく,また,その解決原理としても,グルタミン酸生産能力を上げ\nるために,C末端側変異や膜貫通領域の変異といった変異型yggB遺伝子を用い てメカノセンシティブチャネルの一種であるYggBタンパク質を改変するという 新規な技術を導入するというものであったから,本件発明2の請求項1や請求項4 において変異を導入する前のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙され,請求項6 において変異後のyggB遺伝子のアミノ酸配列が列挙されていることを考慮して も,本件発明2及びそれに含まれる19型変異使用構成の本質的部分を認定するに\n当たっては,yggB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体 の変異前の具体的配列,あるいは,A100T変異に相当する変異を導入した後の yggB遺伝子の具体的配列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当で ある。これは,被告が指摘するように,本件特許2の出願当初の請求項1にはyg gB遺伝子が由来するコリネ型細菌の菌種や変異前後のyggB遺伝子のアミノ酸 配列が特定されていなかったところ,補正によって,現在の請求項1のようにyg gB遺伝子のアミノ酸配列の配列番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブ レビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに 由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定されるようになったこと(【0 033】,乙80〜84),請求項1に記載された配列番号6,62,68,84 及び85のアミノ酸配列が相互に相同性が高いこと(乙85)を考慮しても同様で ある。また,被告は,出願経過に関連して,本件特許2の再訂正後の請求項の記載 も考慮すべきとも主張するが,当該訂正の内容は,少なくとも訂正前の本件発明2 の本質的部分の認定には影響しないというべきである。 そのほか,本件優先日2当時の技術水準や19型変異使用構成の効果についての\n被告の主張が採用できないことは,前記(2)エ及び(3)イのとおりであり,これらを 理由として,19型変異使用構成の本質的部分を特許請求の範囲に記載された変異\n前後のyggB遺伝子の具体的配列に限定すべきともいえないから,この点の被告 の主張も,前記(ウ)の判断を左右するものではない。
イ 相違点1について
前記ア(エ)のとおり,19型変異使用構成の本質的部分については,yggB遺伝\n子が由来するコリネ型細菌の菌種,yggB遺伝子全体の変異前の具体的配列,あ るいは,A100T変異に相当する変異を導入した後のyggB遺伝子の具体的配 列は,その本質的部分ではないものと認めるのが相当であることに加え,以下の(ア) 及び(イ)の点を考慮すれば,相違点1に係る違い,すなわち,導入されている変異型 yggB遺伝子が由来する細菌の種類の違い及びそれによるyggB遺伝子の具体 的な配列の違いは,19型変異使用構成の本質的部分とはいえない。\n
・・・
(エ) これらの点からすれば,相違点3に係る違い,すなわち相違点2に係るA9 8T変異に加えて,被告製法4の菌株ではV241I変異が導入されているという 点は,本件明細書2で開示された本件発明2の課題解決原理である膜貫通領域の変 異ないしC末端側変異と関連しない部位の1つのアミノ酸に保存的置換を加えるも のであり,A98T変異に加えることで課題解決に影響するものではないから,1 9型変異使用構成の本質的な部分における相違点ではない。\nオ したがって,19型変異使用構成と被告製法4との相違点1ないし3は,い\nずれも,特許発明の本質的部分ではないから,(12)及び(13)の菌株を使用する被告製法 4は均等の第1要件を充足すると認められる。

◆判決本文

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令和4(ワ)15678 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年8月30日  東京地方裁判所

技術的範囲に属するものの、無効理由あり(新規性違反)として、権利行使不能と判断されました。この特許は、本件裁判の被告より、「技術的範囲に属さない旨」の判定請求があり、判定では技術的範囲に属すると判断されていました。判定には直リンクができないので、特許5595570とリンクしておきます。

(1) 「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く」の意義について
構成要件Bの「4枚の略矩形状壁面の内、相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁が相互に折畳み可能\に順次連続して連結されるとともに、」との記載から、本件発明の折り畳み式テントには、「4枚 の略矩形状壁面」が設けられていること、その内の「相隣る2枚の略矩形状 壁面」において「互いに対応する側縁」が存在すること、この「互いに対応 する側縁」を「除く」「他の側縁」が存在し、この「他の側縁」が「相互に 折り畳み可能に順次連続して連結され」ていることが理解できる。
また、構成要件Cの「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁は、着脱可能\な接合手段を介して接合されることにより、前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成され、」との記載からは、構\成要件B の「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「着脱可能な接合手段」を備えていること、この「接合手段を介して接合されることによ\nり」、「前記4枚の略矩形状壁面でもって筒状周壁部が構成される」ことが理解できる。また、このような解釈は、本件明細書の、「また、この筒状周壁\n部1における正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bには、接合・分 離が可能な面ファスナーのような接合手段23が設けられている。図7に図示されるように、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとは前記接\n合手段23により、一体に接合され、または分離される。前記分離された接 合手段23によって、図8に示されるように、両壁面開口部24が構成される。」(【0022】)との記載及び「筒状周壁部1では、図7に図示されるよ\nうに、4枚の壁面2、3、4、5の各両側縁2a、2b、3a、3b、4a、 4b、5a、5bの内、側縁3aと4b、4aと5b、5aと2bとを相互 に折畳み可能に連結し、側縁2aと3bとを後述する接合手段23で接合することで筒状周壁部1が構\成されている」(【0021】)との記載とも整合する。 そして、構成要件Bの「除く」の通常の語義は、「加えない。除外する。別にする。」(広辞苑第七版)であると認められる。\n加えて、上記「除く」は、その直前の「他の側縁」に限定を付す趣旨で あると理解するのが自然であることを踏まえると、構成要件Bは、「4枚の略矩形状壁面」が有する「側縁」から、「着脱可能\な接合手段を介して接合される」ことになる「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」を 除外又は別にした「他の側縁」が、「相互に折り畳み可能に順次連続して連結される」ことを規定するものであると解するのが相当である。\n
(2) 被告各製品が構成要件Bを充足するか否かについて
前記(1)のとおり、構成要件Bの、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」とは、構\成要件Cにおいて規定された、「着脱可能な接合手段\nを介して接合される」「側縁」であると解するのが相当である。 前提事実(3)イのとおり、被告各製品には、第1板状体10ないし第4板 状体40の4枚の板状体が形成されているところ、本件において、各板状体 が構成要件Bの「略矩形状壁面」に該当する。 また、前提事実(3)イのとおり、被告各製品の第1板状体10と第4板状 体40は、その対向部15a及び45bが、着脱可能な接合部60を介して接合されるから、対向部15a及び45bは、構\成要件Bにおいて除外又は別にするとされ、かつ、構成要件Cにおいて「着脱可能\な接合手段を介して 接合され」ると規定される、「前記相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応 する側縁」に該当する。 そうすると、構成要件Bにおいて、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁を除く他の側縁」は、被告製品の第1板状体10と第4板状体\n40の対向部15a及び45bを除外した他の側縁、すなわち、第1板状体 10の左右の側縁を構成する対向部15b、第2板状体20の左右の側縁を構\成する対向部25a及び25b、第3板状体30の左右の側縁を構成する\n対向部35a及び35b、第4板状体40の左右の側縁を構成する45aがこれに該当するものと解される。\n そして、証拠(甲6、乙1)によれば、これらの側縁は、相互に折り畳み 可能に順次連続して連結される構\成を有していると認められ、構成要件Bの「他の側縁が相互に折り畳み可能\に順次連続して連結される」に該当する。
(3) 被告の主張について
被告は、「除く」の「別にする」との語義に着目して、「別にする」もの と「別にされない」ものとでは、異なる性質・構成を有していることに照らすと、構\成要件Bは、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が、「相互に折り畳み可能」ではなく、「順次連続して」おらず、「連結され」てもいないことを規定するものと解すべきであり、被告各製品は、互いに対\n応する側縁が相互に折り畳み可能に順次連続して連結されるから、構\成要件 Bを充足しない旨主張する。
しかし、仮に、「除く」を「別にする」との意味であると解釈したとして も、「別」とは、「1)わけること。…2)異なること。そのものではないこと」 (広辞苑第七版)の意味を有するにすぎないから、別にされた「相隣る2枚 の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」とが、一部でも同じ 性質・構成を有していてはならないということにはならない。そして、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の構\成は、構成要件Cによ\nり要件が付加されているのであるから、これにより、「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」と「他の側縁」は、異なる構成を有しているといえる。\n
・・・
(ア) 構成要件Bについて
a 前記2(1)で説示したとおり、構成要件Bは、「着脱可能\な接合手 段を介して接合される」ことにより、「前記4枚の略矩形状壁面でも って筒状周壁部」を構成する「側縁」を除外した「他の側縁」が、「相互に折畳み可能\に」「順次連続して」「連結」されることを規定している。 そして、乙2発明においては、エンドパネルとサイドパネルの着脱 部となる側縁は、ジッパーや紐等の取付手段を介して取り付けられ (乙2c)ていることから、構成要件Bの「他の側縁」に相当する側縁は、上記「エンドパネルとサイドパネルの着脱部となる側縁」を除\n外した側縁(乙2c)であるところ、乙2発明においては、この側縁 が、相互に折畳み可能に順次連続して連結されている(乙2b)。したがって、乙2発明と本件発明は、構\成要件Bの構成の点におい\nて一致するものと認められる。
b これに対し、原告は、本件発明の「着脱可能な接合手段を介して接合される」「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」が一\n組のみであるのに対し、乙2発明では、テントを容易に折り畳めたり することができるよう、対向する2枚のエンドパネルが2枚とも取外 し可能な構\成又は2枚とも一端がサイドパネルにヒンジ結合された構成のみが開示されているから、本件発明と乙2発明は、構\成要件Bの点で一致しないと主張する。しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応する側縁」の組数を限定する記載はない上、本 件明細書において、【0022】及び図8には「相隣る2枚の略矩形 状壁面の互いに対応する側縁」が一組である構成についての記載があるものの、これは一実施例にすぎず、そのような構\成に限定する旨の記載は存在しないから、「相隣る2枚の略矩形状壁面の互いに対応す る側縁」が、一組に限定されると解釈することはできない。 また、原告は、本件発明に係る折り畳み式テントは、災害時に体育 館等の避難所に設置されて利用されることを想定していることなどか ら、設置の利便性や強度を考慮し、あえて一組のみを分離可能としたと主張する。しかし、本件明細書には、原告の主張する課題や作用効果について\nの記載はない。以上によれば、原告の主張はいずれも採用することができない。
(イ) 構成要件Eについて
a 本件発明は、「前記接合手段を介して接合される側縁を有する2枚 の略矩形状壁面により開閉自在な両壁面開口部が設けられたことを特 徴とする」との構成(構\成要件E)を有しており、乙2発明は、「前 記手段を介して取り付けられる側縁を有する2枚の略矩形状のサイド パネル及びエンドパネルにより開閉自在な両壁面開口部が設けられた ことを特徴とする」との構成(乙2e)を有している。そして、本件特許の特許請求の範囲の記載において、「接合手段」\nにつき特段の限定は付されていないことから、壁面と壁面を接合する 手段であれば足りると解されるところ、前記(1)ア(オ)のとおり、乙2 文献においては、乙2発明の「取付手段」は、ジッパーが好ましい手 段であるが、単純な紐や布などの他の取付手段を使用してもよいとさ れており、それらはいずれも壁面と壁面を接合する手段であるといえ る。したがって、本件発明と乙2発明は、構成要件Eの構\成の点で一致 するものと認められる。
b 原告は、本件明細書の【0014】や【0028】には、壁面の開 放部分にテントのフレーム等が存在しないために、車椅子等がテント 内外に出入する際にフレームやファスナー等の変形・破れ・土砂の付 着等を阻止できる旨が記載されており、これらの記載に照らすと、構成要件Eの「開閉自在な両壁面開口部」は、壁面の開放部分にフレー\nムやファスナー等が存在しない構成であると解されると主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の記載において、4枚の略矩形 状壁面と床面との間の連結手段の有無を含め、「開閉自在な両壁面開 口部」が、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成に限定される旨の記載はない。\n また、本件明細書の【0014】は、本件発明の効果に関する記載 であり、同【0028】は、本件発明の実施例の効果に関する記載で あって、本件発明の両壁面開口部の構成を限定するものとは認められないから、構\成要件Eの文言を原告主張のとおり限定解釈する根拠とはならない。
また、仮に、構成要件Eが、底面にフレームやファスナー等が存在しない構\成に限定されるとしても、乙2文献には、ファスナーを紐に変更することも可能である旨が記載されているから(前記(1)ア(オ))、 乙2発明は、底面にフレームやファスナー等が存在しない構成を含むものであるといえる。よって、原告の主張は理由がない。\n
c 原告は、本件明細書の【0022】及び図8の記載を考慮すると、 構成要件Eは、壁面開口部に設けられている接合手段を外すことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外方に向か\nって開放することができるという構成を示したものであると主張する。 しかし、本件明細書には、本件発明の実施例について「壁面2、3、 4、5の側縁上下端部は、…三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉 塞面19でもってこの上下の空隙部は閉塞されるようになっている。 なお、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の左側縁3bとの上下端部を 塞ぐ二等辺三角形状の分割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、 三角形の頂角を通る中心線を境に2分割される。左右に分割された分 割上閉塞面20a、分割下閉塞面19aは、前記接合手段23と同様 な上閉塞面接合手段22、下閉塞面接合手段21によって、接合また は分離可能に接合される。」(【0023】)との記載があるところ、この記載に照らすと、同実施例は、正壁面2の右側縁2aと右壁面3の\n左側縁3bに設けられた接合手段に加え、上閉塞面接合手段22、下 閉塞面接合手段21を外すことによって初めて、壁面を外方に向かっ て解放することができる構成を有しているといえる。したがって、上記【0022】及び図8の実施例の記載を根拠として、構\成要件Eが、両壁面開口部について、壁面開口部に設けられている接合手段を外す ことのみにより、接合手段が設けられているいずれか一方の壁面を外 方に向かって開放することができるという構成を規定していると解釈することはできない。\n また、上記【0023】の記載によれば、「壁面2、3、4、5」 と、「三角形に近い形状の上閉塞面20、下閉塞面19」は別部材で あることは明らかであるから、構成要件Eが、接合手段について、「2枚の略矩形状壁面」のみに設けられていることにより、「両壁面\n開口部」が「開閉自在」となることを規定したと解釈することもでき ない。 以上によれば、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 小括
その他、原告が種々主張するところを検討しても、前記(1)の結論を左右 するものとはいえず、本件発明は、乙2発明と同一の構成を有しているから、新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの\nと認められ、原告は被告に対してその権利を行使することができない(特許 法104条の3第1項、123条1項2項、29条1項)。

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令和4(ワ)2049 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年7月6日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟で、技術的範囲に属さないとして非侵害と判断されました。

(ウ) 小括
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件発明 1 の「底部」 は、「包装容器」の筒状部分が開口部と共に有するものであり、「容器」として機能\nする筒状の構造部分の底に当たる部分であって、筒状の包装容器の下側を塞いでい\nる部分を指すものと理解される。また、「底面片」は、このような「底部」を形成す るものであり、包装容器を容器として形成した状態において、筒状の包装容器の下 側を塞ぐ部材を意味するものと理解される。さらに、「自立片」は、このような「底 面片」と同一面に連なるものであり、かつ、載置面に沿って前記奥行の方向に突出 し、包装容器を前記載置面に自立させる機能を有するものということになる。\n
イ 被告製品の構成要件充足性\n
(ア) 被告製品においては、背面片が片(A)側に折られて筒状に形成される(構成 e1、e’-1)。その際、背面片の下端に連ねられた六角片(構成 d-3、d’-3)は、筒状部 分下端から内側に折り込まれ、この折り込まれた六角片は、筒状部分内部に収めら れる内容物の下部に位置し、筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止してい る(構成 e-2、e’-2)。このため、被告製品の六角片は、本件発明 1 の「底部を形成 する底面片」に相当するものといえる。
(イ) 被告製品の舌状片は、片(A)の下端に連ねられた部材であり(構成 d-4、d’-4)、 筒状部分の下端(六角片の接続箇所の反対側)から内側に折り込まれ(構成 e-3、e’- 3)、容器として形成した状態において、六角片と共に、略弧状に湾曲した状態とな り、片(A)に連なって、載置面に沿って背面側に突出し、載置面に置くと、舌状片に よって、被告製品は、載置面に背面方向に斜めに自立する(同 b、b’)。このため、 被告製品の舌状片は、本件発明 1 の「自立片」に相当するものといえる。 他方、筒状部分の下端から内側に折り込まれた六角片と舌状片とは接触しておら ず、両者の間には隙間がある(同 e-4、e’-4)。このことと、被告製品の筒状部分の下端から内容物が落下するのを防止する機能を果たしているのは六角片であることを\n併せ考えると、舌状片は、筒状部分の下側を塞いでいるとはいえず、「底部を形成す る底面片」に相当するものとはいえない。
(ウ) 六角片と舌状片とは、六角片は背面片の下端に連ねられているのに対し、舌 状片は片(A)の下端に連ねられており、同一面に連なるものとはいえない。 したがって、被告製品は、「底部を形成する底面片と同一面に連なる自立片」(構\n成要件 B)を充足しないから、本件発明 1 の技術的範囲に属しない。

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令和2(ワ)27972  特許権侵害損害賠償等請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月22日  東京地方裁判所

 特許権侵害訴訟において、本件発明は、「拡散レンズにおいてそのような各レンズ部を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を有する」とし、被告製品は、かかるレンズ部を把握できないとして、技術的範囲に属しないと判断されました。

本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成要件1D、1E\n等)について
本件各発明の特許請求の範囲には、「前記拡散レンズを複数のレンズ部か ら形成し、各レンズ部を、各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並 設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成するとともに、 光の経路と交差する所定の面上に並ぶように配置し、前記各レンズ部を、互 いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異 なるように形成したことを特徴とする」(構成要件1D〜F)と記載されて\nいる。
これらによれば、本件各発明の照明装置の拡散レンズは、複数のレンズ部 から形成されていて、各レンズ部の各LEDの並設方向への曲率半径と、各 LEDの並設方向と直行する方向への曲率半径を比較することができるので あり、また、各レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なると いうというのであるから、本件発明のレンズ部は、拡散レンズにおいて、そ こに形成されているという複数のレンズ部のそれぞれのレンズ部について、 その位置、形状が特定された上で、それぞれのレンズ部(各レンズ部)につ いてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向 への曲率半径を把握することができるものであると理解するのが自然なもの である。
・・・
これら本件明細書の記載をみても、本件各発明の実施形態として記載され ているものは、本件発明の拡散レンズにあるという複数のレンズ部(各レン ズ部)のそれぞれのレンズ部について、その位置、形状を特定した上で、そ れらのレンズ部についてのLEDの並設方向への曲率半径及びLEDの並設 方向と直交する方向への曲率半径を把握することができるものであるといえ る。それぞれのレンズ部については、一方向に異なる曲率を有する複合曲面 を有するものも含まれるものの、その場合でも、そのレンズ部が特定された 上で、そのレンズ部に求められる機能を考慮し、そのレンズ部についてある\n方向において曲率半径(RY)を有するものとしている。そして、本件明細 書において、それぞれのレンズ部の位置、形状等が特定されないことを前提 とする記載はない。
このような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件各発明の 拡散レンズは、それぞれについてその位置、形状が特定される複数のレンズ 部を有するものであり、そのそれぞれのレンズ部についてのLEDの並設方 向への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握す ることができるものであるといえる。そして、特許請求の範囲及び本件明細 書の記載からも、本件各発明は、拡散レンズにおいてそのような各レンズ部 を有する発明について、前記1(2)のような効果を奏するという技術的意義を 有するものと認められる。
(2) 各被告製品において使用されているLSD(もっとも、各被告製品に実際 に使用されている各LSDの種類や具体的構成は明らかではない(前記2(2)、 (4))。)について検討する。各被告製品におけるLSDは、拡散レンズの機能を有するフィルム表\面の 構造体である数十\μm程度の微細な凹凸が、シームレスかつランダムに、す なわち継ぎ目なく不規則に配置されたものであり、かつ、凹凸の部分の個々 の大きさや形状を規定して作成されているものではなく、統計的に評価して フィルム全体として入射光を所定の角度で拡散する性能を有するように設計\nされているものである(同(1)〜(3))。
すなわち、各被告製品におけるLSDは、フィルムの表面に微細な凹凸の\n構造体を有し、それらが凸レンズと凹レンズがシームレスかつランダムに配\n置されたマイクロレンズアレイとして機能し、それぞれの微細な凹凸の構\造 体によって光がランダムに広げられるが、それらが重なり合うことによって、 統計的に評価して、フィルム表面全体が所定の性能\を有する拡散レンズとし ての機能を有するものである。そして、各被告製品におけるLSDがこのよ\nうなものであるところ、そこにおいて、前記(1)のとおりの本件各発明におけ るそれぞれの「レンズ部」を把握することは困難なものといえる。そして、 原告は、各被告製品について、その断面図の例を示すところ、その各例にお いても、別紙原告の示す例のとおり、LSDの表面は境目なく不規則に様々\nな形状の凹凸が連続しており、本件各発明におけるそれぞれの「レンズ部」 を把握することができない。 原告は、原告の示す各例において、LSDの表面の部分的に突出した複数\nの部分等はそれぞれレンズとして作用するから、それぞれが1つの「レンズ 部」であり、「複数のレンズ部」を備えることを主張する。しかし、前記(1) のとおり、本件各発明の「レンズ部」は、それぞれのレンズ部の位置、形状 が特定されるものであって、本件各発明は拡散レンズにそのような「レンズ 部」を有するものにより前記1(2)のような効果を奏するといえるものである ところ、原告の示す各例においても、上記のようなそれぞれのレンズ部(各 レンズ部)について、その位置、形状を具体的に特定するものではない(前 記第2の2(1)(原告の主張)イ、別紙原告の主張する凸部の例)。
以上によれば、各被告製品に使用されているLSDの形状によれば、各被 告製品において、本件各発明の「複数のレンズ部」、「各レンズ部」(構成\n要件1D、1E等)にいうそれぞれの「レンズ部」の範囲を特定することが できないものであって、各被告製品は本件各発明にいう「各レンズ部」を有 するということはできず、それぞれのレンズ部についてのLEDの並設方向 への曲率半径及びLEDの並設方向と直交する方向への曲率半径を把握する ことができず、各被告製品は、本件各発明の曲率半径についての構成(構\成 要件1E、1F)を充足するともいえない。

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令和2(ワ)13626  特許権侵害差止請求事件  特許権  民事訴訟 令和5年2月17日  東京地方裁判所

 特許権侵害事件について、明細書の記載および異議申立における主張に基づき、被告製品は技術的範囲に属しないと判断されました。\n

原告は、1) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には、浄化され たスクラバー流体を更に処理することなく、海に放出することを要する との記載はない、2) 本件訂正により、本件特許の【請求項1】の従属項 である【請求項10】を訂正するに当たり、浄化されたスクラバー流体 の品質が所定レベルより低い場合、浄化されたスクラバー流体を分離機 入口に戻す構成を維持しているから、本件発明は、分離機での浄化処理\n後、環境への放出前に、更に浄化処理を行う態様を予定している、3) 本 件明細書の「ディスクスタック遠心分離機をスクラバー流体に適用する ことによって、汚染物質相の大部分が濃縮形態で取り除かれ得る」 (【0014】)との記載によれば、ディスクスタック遠心分離機によ っても分離し得ない汚染物質相が残存し得る以上、補助的にフィルタ等 による分離を行うことは排除されないと主張する。
しかし、上記1)については、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細 書において、浄化されたスクラバー流体を更に処理することなく、海に 放出することを要することを明示した記載は見当たらないものの、前記 (ア)のとおり、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに 原告の本件異議申立事件における主張、さらには、本件明細書には、\n「ディスクスタック遠心分離機」により「浄化されたスクラバー流体」 を更に浄化するための装置を設けることを示唆する記載が見当たらない ことは、いずれも、「浄化されたスクラバー流体を前記第一の分離機出 口から環境に放出するための手段」(構成要件F)とは、「分離機」に\nより「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられた 浄化設備により浄化処理されることなく、船の外側に放出されるなどす るものをいうとの理解をもたらすものであるから、その点を明示する記 載が存在しないからといって、前記(ア)の解釈が左右されるものではない。
上記2)については、前記(ア)bのとおり、本件明細書の記載(【000 8】、【0009】及び【0014】)によれば、本件発明に係る浄化 設備について、「スクラバー流体」の浄化能力を向上させ、また、点検\n修理の必要性を最小とするために、「ディスクスタック遠心分離機」を 使用し、この「分離機」の動作により、「浄化されたスクラバー流体」 が規制を満たすことになり、環境への影響を最小にして環境に解放する ことができ、他の処理をするための設備を設ける必要がなく、機器の点 検修理や交換の必要性を最小にすることができるものであると理解する ことができる。そうすると、本件発明は、「分離機」の動作によって上 記の作用効果を実現するものであるから、「浄化されたスクラバー流体」 を再び「分離機」入口に戻すことを排除するものではないが、「分離機」 により「浄化されたスクラバー流体」が、「分離機」とは別に設けられ た浄化設備により浄化処理されて、船の外側に放出されるなどすること を予定したものではないというべきである。したがって、本件訂正後の\n【請求項10】の記載をもって、本件発明が、「分離機」での浄化処理 後、環境への放出前に、別に設けられた浄化設備により更に浄化処理を 行う態様を予定しているということはできない。\n
上記3)については、本件明細書の記載からは、「ディスクスタック遠 心分離機をスクラバー流体に適用することによって、汚染物質相の大部 分が濃縮形態で取り除かれ」(【0014】)た「浄化されたスクラバ ー流体」について、「汚染物質相」が残存するため規制を満たさず、環 境に放出することができないとは直ちには読み取れない。そうすると、 本件明細書の【0014】の記載をもって、「分離機」により「浄化さ れたスクラバー流体」を補助的にフィルタ等により浄化処理することが 示唆されているということはできない。 したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
イ 小括
以上のとおり、被告製品1(主位的主張)及び被告製品2は、構成要件\nFを充足しないから、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の技術 的範囲に属するとは認められない。

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令和4(ネ)10071  損害賠償請求控訴事件  特許権  民事訴訟 令和5年1月30日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 特許侵害事件です。1審(東京地裁29部)は、圧力風以外も用いて移送をするイ号は、「圧力風の作用のみによって、・・茶枝葉(A)を・・所定の位置まで移送する」という発明特定事項について、「圧力風の作用のみによって」を満たさないとして、技術的範囲に属しないと判断しました。控訴審では均等侵害も主張しましたが、否定されました。

控訴人は、仮に本件発明7の構成要件Aの「圧力風の作用のみによって」\nの構成は、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移\n送が「圧力風」の「作用」だけで実現されることをいい、「圧力風」の「作 用」以外の作用が加わって上記移送が実現されるものは、「圧力風の作用の みによって」を備えるとは認められないと解した場合には、被告各製品にお いては、「圧力風」の「作用」にブラシの回転作用が加わることによって茶 枝葉が移送ダクト内に送り込まれている点で、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるとはいえず、本件発明7と相違することとなるとしても、被\n告各製品は、均等の第1要件ないし第5要件を充足するから、本件発明7の 特許請求の範囲(請求項7)に記載された構成と均等なものとして、本件発\n明7の技術的範囲に属する旨主張する。
そこで、まず、均等論の第1要件について検討するに、本件発明7の特 許請求の範囲(請求項7)の記載及び前記1(2)認定の本件明細書の開示事 項を総合すれば、従来の茶葉の摘採を行う摘採機は、「刈刃前方側に茶葉移 送のための分岐ノズル付き送風管を配し、分岐ノズルからの送風によって、 刈刃から収容部まで茶葉を移送するのが一般的であり、その移送路は、刈刃 のほぼ後方に延びる水平移送部と、その後に収容部の上部に臨むように接続 された上昇移送部を具えていたが、このような移送形態(送風形態)では、 水平移送部を要する分、移送装置、ひいては摘採機の前後長が長くなり、摘 採機の取り回し性を低下させてしまうという問題があったことから、本件発 明7は、上記問題を解決し、水平移送部を設けることなく、刈取直後、即、 茶葉を上昇移送できるようにし、摘採機の前後寸法の短縮化を図り、摘採機 をコンパクトに構成できるようにした茶枝葉の移送装置を開発することを課\n題とし、この課題を解決するための手段として、水平移送部を設けることな く、刈刃の後方から移送ダクト内に背面風を送り込む吹出口が設けられ、こ の吹出口から移送ダクト内に背面風を送り込むことによって、刈取後の茶枝 葉を刈刃から所定の位置まで移送する構成を採用し、具体的には、刈刃後方\nからの背面風によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この移送ダクト 内に流す圧力風の作用のみにより、負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶 枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部な ど適宜の部位に移送する構成とし、これにより刈り取り直後、水平移送部を\n設けることなく、そのまま茶枝葉を上昇移送することができ、前後長の短縮 化が図れ、コンパクトな茶刈機が実現できるという効果を奏することに技術 的意義があり、水平移送部を設けることなく、刈刃の後方側から送風される 「圧力風の作用のみ」によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この負 圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後 は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するようにした ことが、本件発明7の本質的部分であるものと認められる。
しかるところ、前記2(2)で説示したとおり、被告各製品においては、 「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に 「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実 現されているといえるから、被告各製品は、「圧力風の作用のみによって」 の構成を備えるものとは認められない。\nしたがって、被告各製品は、本件発明7の本質的部分を備えているもの と認めることはできず、本件相違部分は、本件発明7の本質的部分でないと いうことはできないから、均等論の第1要件を充足しない。

◆判決本文

1審は、こちら

◆令和2(ワ)17423

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令和1(ワ)14320 特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年10月7日  東京地方裁判所

 特許侵害訴訟です。文言侵害が否定され、また、均等侵害も第1要件(本質的特徴)を具備しないとして否定されました。

前記(1)で検討したところによると、本件発明1の技術的意義は、固定プレ ートの孔自体が、橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側 面側という2箇所で支持する方向に突起を向かせて固定することができる構\n成となっているため、高度な医学的判断を要せずに、確実に軟骨下骨を背側 面側及び手掌側面側という2箇所で支持することを可能にすることにあると\n認められる。
そうすると、本件発明1の構成のうち、本質的部分であるといえるのは、\n橈骨遠位端骨折に対して、軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所 で支持する方向に突起を向かせて固定することができる孔が設置されている ことを定めた構成要件1E、1J及び1Kであると解するのが相当である。\nそして、これまで検討したところによると、被告製品4は構成要件1J及\nび1Kを充足せず、これらの本件発明1の構成と異なる部分は、本件発明1\nの本質的部分ではないとはいえないから、第1要件を充足せず、均等侵害は 成立しない。
(3)原告の主張の検討
原告は、本件報告書(甲26)によれば、被告製品4は、ガイドブロック を用いて被告製品4の孔にロッキングスクリューを固定すれば、一組の平行 ピンを用いた従来の平板固定によっては達成できなかった遠位橈骨の軟骨下 骨及びその遠位側の関節表面の位置の安定化という課題を解決することがで\nきるから、本件発明1と技術的思想を共通にしているといえ、孔の軸線が遠 位橈骨内で交差するか遠位橈骨外で交差するかは本件発明の本質的部分では ないと主張する。
しかし、本件報告書の検証結果の信用性を肯定することができないことは 前記4(2)のとおりであるし、その信用性を肯定できたとしても、前記(1)の とおり、遠位橈骨の骨折を固定するための骨プレートであり、ネジを固定す るための固定プレートを貫通する複数のネジ孔が、固定プレート頭部の遠位 側と近位側の2列に概ね平行に並んで設置されている固定プレートは、先行 技術として存在していたのであるから、従来プレートが一組の貫通孔のみを 設けていたことを前提に、二組の貫通孔を設けていることが本質的特徴であ ると評価することはできない。 また、本件発明1は固定プレートの発明であるから、固定プレート自体の 構成、すなわち、固定プレートに設置された孔の構\成を比較すべきであり、 被告製品4にガイドブロックを用いることを前提に、被告製品4が軟骨下骨 を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支持する方向にロッキングスクリ ューを向かせることができるかどうかという観点から比較することは相当で はない。
さらに、孔の軸線が遠位橈骨内で交差しないのであれば、孔に突起を挿入 しても、突起が当然に軟骨下骨を背側面側及び手掌側面側という2箇所で支 持することはなく、遠位橈骨の軟骨下骨及びその遠位側の関節表面の位置の\n安定化という課題を解決することはできないから、孔の軸線が遠位橈骨内で 交差する方向に突起を向かせる構成となっていることは、本件発明1の本質\n的特徴であるといえ、そのような孔の構成を有していない被告製品4に均等\n侵害が成立することはない。

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令和3(ワ)4920 特許権侵害行為差止等請求事件  特許権  民事訴訟 令和4年12月22日  大阪地方裁判所

 技術的範囲に属すると認定されたものの、特許権者自らが販売していたとして、新規性違反の無効理由有りと判断されました。

ア 前記(1)アによれば、リベラル社は、平成30年7月5日時点において、別 件特許(「活量調質水溶液及び活量調質媒体の製造方法」)により、水酸化物イ オン活量調質水溶液を製造し、これを希釈して、旧ATWのほか「ATW−1、 ATW−001」を製造していたことが認められるところ、前記(1)イのとおり、 被告は、当初、リベラル社から購入した旧ATWをそのままボトルに詰め、又は、 ラベルを貼り替える方法により、旧被告製品や無限七星FISHを製造し、販売\nしていたのであるから、これらの製品は、前記水溶液を希釈したものであると認 められる。一方、前記(1)エ及びオのとおり、被告は、原告の本件特許出願の後か らは、リベラル社から購入した本件特許に規定される組成を有する現ATWを1 0倍希釈して被告製品や無限七星FISHを製造、販売するようになったところ、 本件代理店契約においては、現ATWを含めたATW水溶液は、別件特許の製造 方法による旨の合意がなされている。 また、原告が代表取締役を務めるATW社は、別件訴訟において、旧ATWと\n現ATWは、いずれもアミノ基という原子団を含んだ水溶液で、現ATWを10 倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した準備書面を提出しているところ、リ ベラル社が発行した請求書では、現ATWの1リットル当たりの単価は旧ATW の同単価の10倍になっていること、本件代理店契約においてATW水溶液の品 質として標準仕様と10倍濃縮仕様がある旨の記載があることのほか、原告も、 本件訴訟において、現ATWは旧ATWの10倍の濃度である旨を主張している (原告準備書面(4)第2の2(3)イ)。これらの事実関係に照らすと、旧ATW及び現ATWは、一貫して、同様の製造方法により製造された、アミノ基を含む成分が水溶、濃縮された水酸化物イオン活量調質水溶液を希釈したものであり、本件特許に規定される組成を有する現ATWを10倍希釈したものが旧ATWであると認められる。
イ また、証拠(乙2、18、24、25、33、36、37)及び弁論の全 趣旨によれば、次の事実が認められる。 すなわち、被告が平成30年11月10日にリベラル社に対して発注し同月1 2日に納品された旧ATWのボトル20本のうち、開封せずに保管していたもの (以下「保管ボトル」という。)について、被告がそのうち1本を開封し、10 0ml分(以下「分析対象物」という。)を小分けにして、愛媛大学のP2名誉 教授に提供した。同教授は、令和3年9月30日、分析対象物について、乙18 分析をした結果、分析対象物の含有成分はポリアリルアミンであることが判明し た。また、被告は、保管ボトルのうち1本(被告が「無限七星FISH」のラベ ルを貼付したもの)を、株式会社東ソ\ー分析センターに提供し、前記センターは、 同年10月19日、保管ボトルの内容物について乙24分析をした結果、その重 量平均分子量は、4.5×10⁴であった。
ウ 前記(1)イ及びウのとおり、無限七星FISHは、鮮魚の鮮度を保持する機 能があり、魚の鮮度保持を主な用途として販売されており、また、証拠(乙19)\n及び弁論の全趣旨によれば、リベラル社が被告に販売した旧ATWの成分表記に\nは「重合アミン、水」との記載があったことが認められる。
エ 前記ア〜ウの事実関係に照らすと、現ATWが10倍に希釈化された旧A TWと同一成分である無限七星FISHに係る引用発明は、ポリアリルアミン又 はその塩を機能成分として含有し、水、ポリアリルアミンの総含有量が95重量%\n以上である水であって(a’)、ポリアリルアミンの重量平均分子量が500〜 50000であって(b’)、魚介類の鮮度保持の機能を有する(c’)、機能\ 水(d’)という構成を有するものと認められるから、被告製品のみならず、旧\n被告製品や無限七星FISHも本件発明の各構成要件を充足するものと認められ\nる。したがって、引用発明は、本件発明の各構成要件を充足する。\n
(3) 公然実施について
特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者 が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記(1)イのとおり、 被告は、本件特許の優先日前の平成30年10月から、無限七星FISHを製造 及び販売して、引用発明を実施した。
(4) 原告の主張について
ア 原告は、旧ATWは、別件特許に基づく方法により製造されているのに対 し、現ATWは、ポリアリルアミンを使用して製造されているから、両者の成分 は異なる旨を主張する。 しかし、両者の成分の違いを明らかにする証拠はなく、前記(1)オ及びキのとお り、被告は、本件代理店契約において、リベラル社及びATW社との間で、AT W水溶液の仕様は、別件特許の製造方法によることを合意したことや、ATW社 が、別件訴訟において、旧ATWと現ATWは、いずれもアミノ基という原子団 を含んだ水溶液で、現ATWを10倍薄めたものが旧ATWである旨を記載した 準備書面を提出したのであるから、旧ATWと現ATWの製造方法が異なる旨や 両者の成分が異なる旨の原告の主張は直ちに採用することはできず、その他、原 告の主張事実を裏付ける証拠はない。
イ また、原告は、乙18分析及び乙24分析は、いずれも、測定対象の水溶 液がどの時期に製造、販売され、どういう形で試験に供されたのか全く不明であ ることを指摘し、さらに、乙18分析の内容については、1)乙18のFig.1の スペクトルの面積比を理由に高分子化合物の繰り返し構造をCH₂−CH−CH₂ と推定することが困難なこと、2)3ppm付近のシグナルの変化を理由に当該シ グナルがアミン(CH₂−NH₂)であると推定できる根拠が不明であること、3) Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なることといった疑問点があるから、 いずれも信用性がない旨を主張する。
しかし、前記(1)認定の事実からすれば、乙18にいう「2018年10月に販 売が始まった初代無限七星」とは、旧ATWと成分を同じくする旧被告製品又は 無限七星FISHであると理解できるし、乙24は保管ボトルのうち1本を分析 した結果であることが明らかであり、これに反する証拠はない。そして、乙18 分析は、核磁気共鳴分光法及び質量分析法により、分析対象物の含有成分がポリ アリルアミンであることを推定した上で、それを踏まえて、分析対象物と市販の ポリアリルアミンの水溶液について核磁気共鳴分光法のスペクトルを比較して、 分析対象物の含有成分がポリアリルアミンであると結論づけているところ、原告 の主張1)について、原告主張のように、ポリマーのNMRはピーク(スペクトル) がブロードになりやすく、面積比を算出する切断箇所の設定によって面積比の値 が異なり得ることから、Fig.1のスペクトルの面積比「1.00:0.55: 0.80」が完全に「2:1:2」に一致しなくとも、同一環境の水素の数の比 を「2:1:2」とみなし、CH₂−CH−CH₂の部分構造が考えられるとする\nことは不合理ではない。また、原告の主張2)について、3ppm近辺のCH₂に対 応するシグナルの位置は、隣に窒素原子が繋がっていることを示唆するところ、 トリフルオロ酢酸を加えると、2.7〜3.3ppmのシグナルが3.0ppm のシグナルに変化したというのであるから、分析対象物にトリフルオロ酢酸によ り塩を形成するアミン(CH₂−NH₂)が存在すると考えて矛盾はないというべ きである。さらに、原告の主張3)については、確かに、Fig.1とFig.4a) のスペクトルは一致していないが、一方で、トリフルオロ酢酸塩のスペクトルで あるFig.2a)とFig.4b)は、ほぼ一致している(乙18、25)。こ の点について、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、ポリアリルアミンは、 共存物の影響でアミン部位が塩の状態になっている場合、スペクトルのピーク位 置の出現がシフトする可能性があり、ポリアリルアミンの塩の形成状況によって\nスペクトルの形状が変化し、複雑になるものと認められ、一方で、強い酸である トリフルオロ酢酸を加えて、全てのアミノ基をアンモニウムに変換し、均一な状 況にすることにより、一定の分析結果を得ることができたものと認められるから、 Fig.1とFig.4a)のスペクトルが異なるからといって、乙18分析の信 用性に疑義を生じさせることにはならない。

◆判決本文

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