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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

特段の効果

令和2(行ケ)10038  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年9月28日  知的財産高等裁判所

 薬について、動機付け無しとした審決が取り消されました。顕著な効果も記載が無い、実験成績証明書の参酌をしたとしても、顕著な効果とはいえないと判断されました。

 前示のとおり,本件訂正発明の構成は容易想到であるが,これに対し,\n被告は,前記第3の5(2)イのとおり,本件訂正発明は,本件3条件を全て 満たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本 件条件(4)の服薬歴がある患者に投与すると,本件条件(4)の服薬歴 のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果(以下「効 果2)」という。)を奏し,これらの効果は,当業者が予測をすることができ\nなかった顕著な効果を奏するものである旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。
b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を 指すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満 たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本 件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対 する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。 そして,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位週 1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年1月15日 付け被告第1準備書面33頁における再解析の数値による。)について, それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また,椎 体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1人 の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。
c 被告は,効果1)を明らかにするものとして,別紙4の実験成績証明 書(甲79)を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPT Hの骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よ りも高いということを理解することができず,また,これを推認する こともできない以上,効果1)は対外的に開示されていないものである から,上記実験成績証明書を採用して,効果1)を認めることは相当で ない。 仮に,上記実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は 一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部の グループとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が 明らかになっているとはいえない。また,上記実験成績証明書には, 本件条件(1)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいず れかを満たさない患者とされる「非3条件充足患者」につき,「非3条 件充足患者においてもPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の 発生が抑制されたが,3条件充足患者においては,PTH投与群では コントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」旨が記載 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につ いては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制 されたものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら 有意差がなかったとの結論も症例数が少ないことによるものと推認さ れることからすると,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑 制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程 度より優れていると結論付けることはできない。そうすると,上記実 験成績証明書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTH の骨折抑制効果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 d 以上によれば,いずれにしても効果1)を認めることはできないから, その他の点について判断するまでもなく,効果1)を予測することので\nきない顕著な効果という余地はない。
(イ) 効果2)について
前記ア(ウ)のとおり,効果2)は本件明細書からうかがうことのできな い効果である。
被告は,骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本件3薬剤のいずれか1剤のみの 場合における新規椎体骨折発生数が記載された甲86証明書により本件 訂正発明の顕著な効果が裏付けられると主張する。仮に,上記実験成績 証明書を参酌するにしても,甲86証明書は,本件3薬剤それぞれにつ いて,服薬歴のある患者につき被験薬(PTH)を投与された場合と対 照薬(プラセボ)を投与された場合との骨密度変化率や新規椎体骨折発 生数を対比しているにすぎず,本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患 者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で,被験薬を投与された場合の 骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから,プラ セボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示され ていない。しかも,各薬剤についての評価例数があまりにも僅少で,そ のようなデータから算出される骨折相対リスク減少率は,骨折例数が1 件増減するだけで大きくその値を変えることは明らかであり,骨折相対 リスク減少率を対比してその効果を論じることも相当ではない。

◆判決本文

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令和2(行ケ)10132  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和3年8月31日  知的財産高等裁判所

 無効理由無しとした審決について、裁判所は予測できない効果ではないとして、これを取り消しました。\n

 発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の\n特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が\n予測することのできなかったものか否か,当該構\成から当業者が予測する\nことのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点か ら検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも,当該発 明の構成のみから予\測できない顕著な効果が認められるか否かを判断す ることは困難であるから,当該発明の構成に近い構\成を有するものとして 選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同 種の効果を参酌することは許されると解される。 前示のとおり,本件発明の構成は容易想到であるが,これに対し,被告\nは,前記第3の3(2)イのとおり,本件発明は,本件3条件を全て満たす患 者に対する顕著な骨折抑制効果(以下「効果1)」という。),2)本件条件(4) を満たす患者に対する副作用発現率と血清カルシウムに関する安全性が 腎機能が正常である患者に対する安全性と同等であるという効果(以下\n「効果2)」という。)及び3)BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リス クが得られるとの効果(以下「効果3)」という。)を奏し,これらの効果は, 当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものである\n旨主張する。 以下,これらの効果について検討する。
(ア) 効果1)について
a 前記イ(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折 の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予\n防することであり,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり, 骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから, 当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,\n甲7文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(B MD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄\n10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄\n与することが記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させ たことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏して いることは,当業者において容易に理解できる。 b 効果1)の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ ラセボの骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すも のであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件を全て満たす患 者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3条 件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨 折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち,効果1)を確認するためには,高リスク患者に対する骨折 抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があ るが,前記1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位 週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リス ク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体 以外の部位の骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群におけ る発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにと どまる(【0086】ないし【0096】,【表6】ないし【表\11】)。
ここで,低リスク患者の新規椎体骨折についていえば,100単位 週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年2月15 日付け被告第1準備書面32頁における再解析の数値による。)につい て,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというものであり,また, 椎体以外の部位の骨折は,上記5単位週1回投与群について,ただ1 人の骨折例数があったというものであって,有意差がなかったことが, 症例数が不足していることによることを否定できない。このように, 低リスク患者において,100単位週1回投与群の新規椎体骨折及び 椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生 率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数 を基に導かれたことからすると,高リスク患者における骨折発生の抑 制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の程度と比較して, 前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。 したがって,実施例 1 をみても,高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高 いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他 の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低 リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理 解することはできず,ましてや,200単位週1回投与群に関し,高 リスク患者における骨折発生抑制が,低リスク患者における骨折発生 抑制よりも優れていると結論付けることはできない。 以上によれば,効果1)は,本件明細書の記載に基づかないものとい うべきである。

◆判決本文

当事者が同じ分割出願についての関連事件です。審決取り消しです。

◆令和2(行ケ)10056

こちらは審決維持です。

◆令和2(行ケ)10004

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