知財みちしるべロゴマーク
知財みちしるべトップページへ

更新メール
購読申し込み
購読中止

知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

本件発明

平成24(行ケ)10082 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月25日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反なしとした審決が、本件発明の認定誤りを理由に取り消されました。
 審決は,前記第2,3(5)のとおり,本件発明と甲1発明との相違点3として,本件発明では,「流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され(る)」のに対して,甲1発明は,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点を認定している。本件発明の「外部に排出」の意義について検討する。本件発明に係る特許請求の範囲には,「前記反射部材支持部の空間から気体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され,」と記載されている。同構\成中の「流体排出手段」とは,気体を「反射部材支持部の空間」の外部へ排出するための手段を指す。そうすると,本件発明の「前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され」とは,「流体排出経路を通過した気体が,反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味し,「外部に排出」とは,「反射部材支持部の空間の外部へ排出されること」を意味することは,特許請求の範囲の文言上明らかであって,それ以外の格別の限定はない。本件明細書の記載にも,同様に,「外部に排出」とは,反射部材支持部の空間の外部へ排出されることが示されている。他方,甲1発明においても,鏡面12を有する金属円板と鏡ケース13とにより形成された密閉空間内から,当該空間内に接続された流体管14とは別体の流体管により圧力水が排出されている。本件発明と甲1発明とは,いずれも「外部に排出」されており,相違点3に係る相違はない。したがって,「本件発明は,『流体排出経路を通過した気体は流体排出手段より外部に排出され』るのに対して,甲1発明において,流体排出経路を通過した流体は流体管14とは別体の流体管より外部に排出されていない点」を相違点とした審決の認定は,誤りがある。この点,被告は,「外部」との語は,本件訂正に係るものであり,甲1発明では圧力水が循環するのに対して,本件発明では気体が循環することなく排出される点において相違するものであるから,「外部に排出」の意義について,密閉空間に属するか否かにおける相違点があるにもかかわらず,この点を前提とすることなく,単に,「反射部材支持部の空間外」を全て「外部」であると解釈することは誤りであると主張する。しかし,被告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,採用の限りでない。以上のとおりであり,本件発明の「『外部に排出』という記載が特定する技術的事項は,密閉構造とされた空間を取り巻く周囲の空間に排出されることであるといえる」との解釈を前提として,この点を甲1発明との相違点3とした審決の認定は誤りである。そして,審決は相違点3が容易想到でないとして結論を導くものであるから,審決は,相違点3から本件発明の進歩性を肯定する限りにおいて誤りがあるというべきである。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明

▲ go to TOP

平成24(行ケ)10091 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年12月12日 知的財産高等裁判所

 進歩性判断における発明の要旨認定について、詳細な説明を参酌すべきと主張しましたが、認められませんでした。
 原告は,本件発明の「画像演出パターン」は,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するものであるのに対し,引用発明の「図柄表示パターン」は,単に数字,文字又は文章を用いてゲームのガイダンスや賞球数等の各種数値を表\示するものであり,両者は表示内容や表\示目的及び作用効果が明確に異なるから,引用発明の「図柄表示パターン」が本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,本件発明にいう「画像演出パターン」が,ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表\示装置に表示するものであるとの記載はない。また,本件明細書においても,「画像演出パターン」が,上記のような表\示をするものであるとの定義はされていない。さらに,「人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示する」という作用効果は,特許請求の範囲に記載されたいずれの構成からも導き出せるものでもない。原告の主張は,単に実施例(【0046】【0048】)の作用効果を主張しているにすぎず,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。そして,「画像演出パターン」との用語が,文字や文章を用いた画像表\示を排除したものであるとは認められないから,引用発明の「図柄表示パターン」が,本件発明の「画像演出パターン」に相当するとした本件審決に誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
イ 原告は,特許法70条2項の趣旨に基づいて,本件発明の「画像演出パターン」の内容及び意義を本件明細書の記載に基づいて解釈すると,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈されるべきである旨主張する。しかしながら,特許法70条2項は,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり,特許請求の範囲に記載された用語については,明細書や図面の記載を考慮して解釈するという規定であって,特許発明の特許要件たる進歩性の有無を審理し判断する前提として,当該特許発明に係る特許請求の範囲に記載された発明の要旨を認定する場面に適用されるべき規定ではない。原告が挙げた前掲知財高裁判決も,同様に特許発明の技術的範囲の解釈について判示したものであり,特許発明の要旨認定について判示したものではない。なお,特許発明の要旨の認定については,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,本件発明の特許請求の範囲に記載された「画像演出パターン」との用語が,それ自体では意味が全く不明で,本件明細書の対応する記載に置き換えなければ当該発明が特定できないというものではないし,その他,本件発明の特許請求の範囲の記載に照らしても,上記特段の事情があるものとは認められない。したがって,原告の主張は失当であり,本件発明の「画像演出パターン」について,原告が主張するように,「ボーナス当選時やハズレ時等において,人物等のキャラクタにより喜怒哀楽を表示装置に表\示するもの」と解釈すべき理由はない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明

▲ go to TOP

平成23(行ケ)10253 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年09月13日 知的財産高等裁判所

 本件発明の要旨認定が異なるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。。裁判所は、用語「りん光」を詳細な説明を参酌して認定しました。
 本願明細書の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりであり,その「リン光ドーパント材料」の「リン光」については,「黄燐を空気中に放置し暗所で見るときに認められる青白い微光」等の意味があり(甲9),一義的に定まらないから,その技術的意義は,本願明細書の発明の詳細な説明を参照して認定されるべきである。そして,上記(1) 認定の事実によれば,本願明細書の段落【0016】に「用語“リン光”は有機分子三重項励起状態からの発光を称し」(上記(1)ア )と記載されることから,本願発明の「リン光」とは,有機分子の三重項励起状態のエネルギーから直接発光する現象を指すものと理解され,この解釈は,当該技術分野における一般的な用法(同ウ)に沿うものである。この点,被告は,段落【0014】の記載(同ア)を根拠に,段落【0016】の記載は定義ではない旨主張する。しかし,段落【0014】の「実施態様」とは,「本発明の実施態様は当該図面に関して説明される。」と記載されることから,図面に記載された態様を意味するにすぎず,段落【0016】の「リン光」の説明までも実施態様であって説明的な例であると述べる趣旨とは解されず,被告の上記主張は失当である。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> リパーゼ認定

▲ go to TOP

平成23(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年08月08日 知的財産高等裁判所

 本件発明の事実認定が誤りであるとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができると判断した。イ しかしながら,そもそも,特許請求の範囲には,「2つの半導体スイッチ」と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明にも,2つの半導体スイッチ(トランジスタ)がある場合の実施例が記載されており,それを超える数の半導体スイッチがある場合についての記載はない。したがって,本願発明は,保護回路が2つの半導体スイッチを有しているのであって,保護回路が2つ以上の半導体スイッチを有していることを前提とする解釈1は,保護回路が2つのみの半導体スイッチを有していることを前提とする解釈2と別個に判断する必要がなく,あえて解釈1に基づく判断をした本件審決の認定判断は,その点において,誤りである。
 ウ 仮に,本願発明について,保護回路が半導体スイッチを2つ以上有していると解釈したとしても,その場合の相違点3の判断については,以下のとおり,誤りがある。(ア) 本願発明は,前記1のとおり,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に誘導される逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負荷が極めて迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロード・ダンプ電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。すなわち,本願発明の「過電圧保護」は,発電機として動作するのに必要な励磁回路の電流を遮断することによって,発電機の出力電圧を下げる作用を奏するものと解すべきである。これに対し,引用発明は,前記2のとおり,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものである。(イ) 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができたと判断した。そして,被告は,引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的であって,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的としておらず,過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処することが技術常識であると主張する。しかしながら,引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にしても発電電圧が発生するため,一方向にのみ電流を流す構\成では高速回転時や低負荷時に発電電圧が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護するものであるから,被告の上記主張は理由がない。そして,仮に引用発明に被告のいう技術常識を適用し,界磁巻線(又は半導体スイッチ)に並列にダイオードを接続して,界磁巻線に発生する過電圧を急速に低減させて,界磁巻線に流れる電流を遮断するように構成しても,永久磁石によって生じる磁界により発電機出力が発生するから,発電機の出力電圧の過電圧を低減させることはできず,本願発明にいう「過電圧保護」にはならない。エ よって,解釈1に基づく本件審決の判断は,誤りである。
(2) 解釈2に基づく判断について
ア 本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構成(解釈1)と2つのみ有している構\成(解釈2)の2つの解釈があり得るとし,解釈2の場合の相違点3(本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチを有し,第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオードが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点)は,容易に想到することができると判断した。そして,被告は,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続することで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2個として周知技術(乙1〜3)のように第1,2のダイオードから構\成されるフィードバック回路とすることは当業者が容易に考えられたことである旨主張する。イ しかしながら,引用発明の「4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回路」を「2つの半導体スイッチを有する回路」に変更すると,増磁電流と減磁電流を流すために用いられるH型ブリッジ回路とした引用発明の基本構成が変更され,減磁電流を流すことができなくなり,引用発明の課題を解決することができなくなるから,仮に被告主張の周知技術があったとしても,このような変更には阻害要因がある。そして,4つのスイッチング素子を用いる引用発明に対して,スイッチング素子の数を変更することなく周知例2に記載された周知技術を適用すると,4つのスイッチング素子に4つのダイオードが逆方向に並列接続される構\成になり,解釈2に係る本願発明(保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しているもの)の構成とならないことは明らかである。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> 阻害要因

▲ go to TOP

平成23(行ケ)10266 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年06月28日 知的財産高等裁判所

進歩性なしとした審決が本件発明の認定誤りを理由に、取り消されました。
 上記によれば,本願発明は,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信されるとともに,カウントダウンタイムアウトタイマーにより,第1のメッセージが到達しない場合に,待ち状態を中断して無制限に待ち状態となることが防止されるのであって,第2のメッセージの送信の可否は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって決定されるものではない。すなわち,本願発明は,カウントダウンタイムアウトタイマーによって,第2のメッセージが第1のメッセージと衝突を起こすことがなくなるまで即時の送信が許可されないようにされているものではない。
 他方,引用例の上記記載によれば,引用発明は,ファクシミリ信号をファクシミリ装置から受信して,応答信号を前記ファクシミリ装置に送出する送信規制制御手段を備え,送信規制制御手段は,ファクシミリ信号が再送される場合,ファクシミリ信号が再送されるまでの待機時間から伝送装置の処理遅延時間,ディジタル回線の伝送遅延時間及び応答信号の信号長を除いた値の所定の時間期間である場合にだけ,応答信号をファクシミリ装置に送信し,所定の時間期間後にファクシミリ信号が送信される場合には,ファクシミリ信号の送信後に再び送出許可を与えることにより,伝送装置の処理遅延やディジタル回線の伝送遅延があっても,ファクシミリ信号と応答信号とを衝突させないようにしたものと認められる。また,引用例においては,第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信が禁止されるものと認められるものの,第1のメッセージが到達しない場合の待ち状態の解消のための本願発明の構成については,記載も示唆もない。以上によれば,ある時間期間において信号の送信を制限するに当たり,該時間期間において起動し満了するタイマーを設定し,該タイマーの動作中には信号の送信を制限し,該タイマー満了後に信号の伝送を許可する手段を用いることが,当該技術分野において常套手段であり,引用発明において第1のメッセージが送信されるまで第2のメッセージの即時の送信を禁止することに替えて,上記常套手段を適用したとしても,本願発明のように,カウントダウン衝突タイマーが満了していない場合にだけ,第2のメッセージが通信装置に送信され,カウントダウン衝突タイマーが満了し,第1のメッセージが繰り返される場合に,カウントダウンタイムアウトタイマーをタイムアウト期間に設定し,それにより,予\期されている繰り返しメッセージが到達しない場合に,無制限に待ち状態となることを防止することについて,容易に想到することができたとはいえない。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明

▲ go to TOP

平成23(行ケ)10336 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年04月26日 知的財産高等裁判所

 本件発明を詳細な説明を参酌して判断し、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 まず,本願発明に係る「多重スイッチルータ」の意義について検討する。本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,多重スイッチルータに関して,i)「前記ケーシングの各面に設けられた複数の入出力用信号伝達素子を・・・該ケーシング内の前記入出力インターフェースに接続し,」,ii)「前記入出力用信号伝達素子による他のコンピュータからの信号の取り込み,吐き出しを信号選択及びバイパス機能を有する」,iii)「前記ケーシングの各面に配設されたコードレス型の複数の入出力用信号伝達素子間にバイパスを形成できるように(する)」ことが記載されているが,多重スイッチルータの意義は,必ずしも一義的に明確ではない部分がある。そこで,本願明細書の記載を併せて参照することとする。本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,多数のコンピュータをクラスタ接続して集合型超コンピュータを構成するに当たり,コードにより各コンピュータ間を接続するとコンピュータの集合体積が大きくなること,膨大な量のコードを収納するスペースが必要となること,各コンピュータの結合作業が煩雑となることなどの問題があったことから,これらの問題を解決するべく,集合型コンピュータを構\成する各コンピュータの入出力インターフェース等のコンピュータ構成要素を多面形状のケーシングに内蔵し,入出力インターフェースに結合されたコードレス型の信号伝達素子をケーシングの各面に配設し,さらに,他のコンピュータからの信号の取り込み及び吐き出しを「信号選択」及び「バイパス機能\」を有する多重スイッチルータを通じて行うようにしたものであることが認められる。そして,本願明細書の段落【0007】,【0014】,【0015】,【0016】によれば,i)上記「信号選択」機能とは,他のコンピュータからのデータのうち自コンピュータが取り込むべきデータを選択的に取り込むために信号を選択する機能\と,形成されたバイパスを含む信号伝送経路を選択するために信号を選択する機能とを総称したものであり,ii)上記「バイパス機能」とは,入出力用端子間に,入出力インターフェースに取り込まれることなくデータを伝送するためのバイパスを形成するものと認められる。さらに,本願明細書の段落【0015】によれば,「周波数,時間,符号を使ってデータ伝送経路の選択を行う」ことの例示として,各ポートに設定された周波数帯域に応じて互いに分離できるようにされた複数の信号が伝送される例が示されており,これらの記載は,いずれも「多重スイッチルータ」が周波数等を用いた弁別により互いに分離できる状態で複数の信号を伝送することを前提としたものと解される。そうすると,本願発明における「多重スイッチルータ」は,i)データの導通と遮断を行う開閉ゲートとして作動し,ポートごとの周波数帯域を所定の値に設定することによってポートを閉じてデータの取り込みや吐き出しを阻止し,ii)各コンピュータが周波数,時間,符号を使ってデータの伝送経路を選択する際,特別の信号伝送経路制御装置を用意することなく,ポート間にバイパスを形成し,iii))バイパスが形成された場合には,当該コンピュータの入出力インターフェースに取り込まずにポートからポートへとデータを伝送する機能を有するものであること,また,「多重」とは,互いに分離できるように複数の信号を物理的に1つの伝送路により伝送することを意味するものといえる。以上によれば,本願発明に係る「多重スイッチルータ」とは,データの導通や遮断を行うスイッチとして作動し,かつ,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されるルータを意味するものであって,互いに分離できる状態で複数の信号が伝送されないルータはこれに含まれないものと解される。\n

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明

▲ go to TOP

平成23(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年02月28日 知的財産高等裁判所

 進歩性違反無しとした審決が取り消されました。最後に差し戻し後の審判における認定手法について、付言がなされています。
 以上の記載によれば,甲1(甲6−2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能\を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6−2)において,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。
・・・
5 付言
 当裁判所は,審決には,上記2ないし4において判断した他,次の点に問題があると解する。すなわち,一般に,審決が,「本件訂正発明が甲1に記載された発明に基づいて容易に想到することができたか否か」を審理の対象とする場合,i)引用例(甲1)から,引用発明(甲1に記載された発明)の内容の認定をし,ii)本件訂正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で,iii)これらに基づいて,本件訂正発明の相違点に係る構成について,他の先行技術等を適用することによって,本件訂正発明1に到達することが容易であったか否か等を判断することが不可欠である。特に,本件においては,引用例の記載事項のいかなる部分を取捨・選択して,引用発明(甲1に記載された発明)を認定するかの過程は,引用発明として認定した結果が,本件訂正発明と引用発明との相違点の有無,技術的内容を大きく左右するという意味において,極めて重要といえる。しかし,本件において,審決では,引用発明の内容についての認定をすることなく(甲1の記載を掲げるのみである。),また本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定をすることなく(相違点が何であるか,相違点が1個に限るのか複数あるのか等),甲1の文献の記載のみを掲げて,本件訂正発明1の容易想到性の有無の判断をしている。当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあるとして,審決を取り消すべきものと判断したが,差し戻した後に再開される審判過程において,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言する。

◆判決本文

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明
 >> 引用文献

▲ go to TOP

平成21(行ケ)10284 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成24年01月27日 知的財産高等裁判所

 プロダクトバイプロセス特許について、無効理由なしとした審決が維持されました。主文の前に「当裁判所は特許法180条の2の規定に基づき特許庁長官の意見を聴いた上,次のとおり判決する」と記載されています。
 特許無効審判請求における発明の要旨の認定方法
(ア) 本件訴訟において審理の対象とされているのは,特許庁が平成21年8月25日付けでなした本件審決の当否であり,一方,本件審決がその審理の対象としているのは,原告が平成20年3月27日でなした本件特許についての特許無効審判請求である。ところで,上記特許無効審判請求は,特許法123条に基づく請求であるが,その第1項本文は「特許が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において,2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と定め,また,その対象となる特許権については特許法66条が,その第1項において「特許権は,設定の登録により発生する」とし,その第3項において「前項の登録があったときは,次に掲げる事項を特許公報に掲載しなければならない。」とした上,特許権者の氏名・発明者の氏名・願書に添付した明細書及び特許請求の範囲・図面等が特許公報の記載対象となるとしている。そうすると,特許権の設定登録後になされる手続である特許無効審判請求において,特許庁がその審理の対象として把握すべき請求項の具体的内容(発明の要旨)は,特許公報に記載された請求項(特許請求の範囲)によりなされるべきものであり,そこには「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されている(特許法36条5項)ほか,「特許を受けようとする発明が明確である」(明確性要件,36条6項2号)とともにその「記載が簡潔である」(36条6項3号)必要があることになる。特許法における上記の規定,特に,特許公報の公示機能を考慮すると,無効審判事由の有無の前提となる発明の要旨の認定においては,特許請求の範囲の記載の全てが基準になるのが原則であるというべきである。
したがって,本件のように「物の発明」に係る「特許請求の範囲」にその物の製造方法が記載されている場合,当該発明の要旨の認定は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構\造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合の発明の要旨の認定は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。
ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもあるが,前述の観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能\又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになる。
そして,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。この場合,特許無効審判手続を主宰する審判官としては,発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構\造又は特性により特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在すると認めることができたときは真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うが,全証拠によるも上記事情があると認めるに足りないときは,これを上記にいう不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。
(イ) そこで,以上の見地に立って本件についてみると,証拠(甲1,6)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の優先日(平成12年〔2000年〕10月5日)当時,本件訂正発明1に開示されているプラバスタチンナトリウム自体は,当業者にとって公知の物質であり,また,プラバスタチンラクトン及びエピプラバは,プラバスタチンナトリウムに含まれる不純物であることが認められる。したがって,特許請求の範囲請求項1の記載における「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,不純物であるプラバスタチンラクトン及びエピプラバが公知の物質であるプラバスタチンナトリウムに含まれる量を数値限定したにすぎないものであるから,その記載自体によって物質的に特定されていると認められる。そうすると,特許請求の範囲請求項1に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」という「物」は,その当該物の特定のために,その製造方法を記載する必要がないものである。したがって,本件訂正前発明1は物の発明に係る特許請求の範囲の記載中に発明の対象となる物の製造方法が付加して記載されているものの,当該発明の対象となる物を,製造方法によることなく,その構\造や特性により直接的に特定することが出願時において不可能,困難であるとの事情が存在するとは認められないから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定は,特許公報に記載された特許請求の範囲に基づいてその記載どおりに行われるべきであり,その内容は,以下のとおりのものとなる。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウム単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」そして,特許請求の範囲はその後の本件訂正により変更されているので,検討の前提となる請求項1(本件訂正発明1)の内容は,次のとおりのものである。「次の段階:a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そしてe)プラバスタチンナトリウムを単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」\n

◆判決本文

◆関連の侵害訴訟です。平成22(ネ)10043平成24年01月27日知財高裁

関連カテゴリー
 >> 新規性・進歩性
 >> 要旨認定
 >> 本件発明

▲ go to TOP