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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

肖像権等

平成31(ネ)10033  パブリシティ権侵害等差止等・著作権侵害差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟 令和2年2月20日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

 バブリシティー権に基づく請求として、1審が認定した額(100万円)が争われました。知財高裁3部は、原審の判断を維持しました。

 (1)原判決を引用して認定した事実経過によれば,本件事案には,次のような 事情がある。
(2) 両当事者は,平成9年から平成25年までの間,本件ブランドを用いた日 本での婦人服販売事業のための契約関係にあり,本件ブランドの知名度の向 上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告X\nの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は,上記事業に おける本件ブランドの宣伝広告の目的のために,一審原告側から提供された 素材である。そして,その提供に当たっては,当時の両当事者は協力関係に あったという背景から,使用の目的,態様及び期間等について,文書等によ る明確な取極めはなされていなかった。 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契 約関係が解消された時点において,これらの素材は,被告ウェブサイト上及 び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは,\n一審原告側においても了知していた可能性が高いし,仮に了知していなかっ\nたとしても,被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りう る状態にあった。
契約関係の解消後も,一審被告は,日本国内のJS商標を既に譲り受けて いた以上,本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様 で継続することが可能であり,そのことは一審原告側も了知していた。また,\n乙7の終了合意書が締結された平成14年以降,同事業における商品のデザ インや宣伝広告の手法等について,一審原告側は具体的に関与する権利を失 っていたから,本件解除によりすべての契約関係が解消されたからといって, 一審被告が被告ウェブサイトを改修するなどして宣伝広告の内容を改めるべ き事業上の必然性はなかった。そうすると,契約関係の解消後も,被告各表\n示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを,一審被告は予定し\nており,一審原告側も,これを予想していたか少なくとも予\想し得たといえ る。
また,JS商標は一審原告Xの氏名と同一であるから,JS商標及び各商 標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一 審被告の事業活動は,その需要者層に,一審原告X個人がこれに関与してい るとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このよう な状況は,契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
(3) このように,本件事案は,長期間にわたり契約関係にあった当事者が,必 ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり,それが原因となってパブ リシティ侵害行為,著作権侵害行為及び不正競争行為(いずれも法的性質と しては不法行為)として損害賠償等が請求されている,というものである。 そうすると,権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても,契約関係 にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり,契約関係 にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。 (4) そして,当裁判所は,上記(3)のような観点に立った上で,原審の判断は是 認し得ると考え,原判決を引用して上記1のとおり判断するものである。
3 両当事者の当審における主張に対する判断
・・・
ア パブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害について
原判決の認定した100万円という損害額につき,一審原告会社は高額 に過ぎる旨主張し,一審被告は低額に過ぎる旨主張する。 そこで検討するに,本件においては,以下のような事情を考慮する必要 があると考えられる。すなわち,
(ア) 本件証拠中,例えば甲28には,一審原告Xについて,「世界12ヶ 国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一 方で,「日本は世界最大のマーケット」という記載もある(前者につい ては甲27,後者については甲27,29,30にも同旨の記載があ る。)。 そして,後掲各証拠(いずれも枝番含む)によれば,「世界12ヶ国 に進出」というその実態は,一審原告Xの生地である米国ニューヨーク 市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有している(乙1\n0)ほかは,米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり (甲134),ネットショップに商品が掲載されたり(甲117〜12 1,133)しているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイト には,店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが (甲122),その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多 い上(乙39ないし45),取扱いがある場合でもデパートの店内に本 件ブランドを冠した売場を確保してはいない(乙11,48)。そして, 一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えている\nこと等を示す証拠は見当たらない。 なお,一審原告Xの日本国外での活動に関する証拠(甲2〜7,10 1〜116)はいずれもウェブサイトへの掲載であるところ,ウェブサ イトは,紙媒体と異なり,掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。\nまた,一審原告Xが出展したファッションショー(甲103〜109, 111〜115)は,いわば「地元」であるニューヨーク市でのもので ある上に,出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者\n本人尋問)。
(イ) 一審原告Xの世界的な名声については上記(ア)のとおり一定の留保を付 けざるを得ないのに比して,日本国内での名声(特に被告商品の需要者 層におけるもの)は,それなりに高いと認められる。 もっとも,本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Xが日本 の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し, それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビ ジネスに深く関わってきたことからすれば,日本における一審原告Xの 名声には,各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多 分にある。一審原告Xの日本国内での名声を示すものとして一審原告側 から提出されている証拠(甲8〜10,27〜34,83,84,16 2,214〜470等)も,各ライセンシーによる上記と同様のマーケ ティングに影響されたものである可能性がある(例えば,外見上は出版\n社が編集したムックである甲8にも,Editorial cooperatorとして,複 数名の一審被告の関係者が関与している(5頁)。) そして,各ライセンシーがそのマーケティングに当たり,一貫して, 一審原告Xを被告表示2〜4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物\nとして需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明ら かであるから,一審原告Xが「世界的に有名な」ファッションデザイナ ーであるとの名声が日本において形成されるについては,各ライセンシ ーの寄与,中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きか ったと認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の事情によれば,一審原告Xの肖像等が顧客誘引力を有 し同人にはパブリシティ権が認められるとしても,それらは,いわゆる 超一流のファッションデザイナー(例えばB,C,Dにつき甲44,5 4,56)のものと同列ではないし,パブリシティ権の形成に当たって 一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきで ある。
(エ) 一審原告らは,一審原告Xのパブリシティ権の価値が高く,その侵害 による損害が大きい旨の主張を裏付けるため,過去の裁判例及び文献の 記載を多数援用する(甲85,131,166〜169,194〜20 0,473等)。しかしながら,過去においてパブリシティ権の価値が 検討された事案の多くは,きわめて知名度が高い権利者(その多くは, 知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人,運動選手等であ\nる。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を,その知名度の形成に寄 与していない他者が利用した事案であるから,これらの事案を通じて形 成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判 所の判断は,本件にそのまま適用できるものではない。もっとも,一審 原告Xの我が国における認知度は,それなりに高いことからすると,そ の形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても,パブリシ ティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当で はないというべきである。 上記(ア)〜(エ)で検討した点を踏まえると,一審原告Xのパブリシティ侵害 によって生じた使用料相当損害の額は,原判決が説示するとおり,100 万円と評価するのが相当であって,これに反する一審原告会社及び一審被 告の主張は,いずれも採用することができない。

◆判決本文

原審はこちら。

◆平成28(ワ)26612等

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