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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

意匠その他

令和5(行ケ)10113  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和6年2月19日  知的財産高等裁判所

物品「鞄」について、無効理由有りとした審決が維持されました。

1 原告は、本件南京錠は本件登録意匠の要旨ではなく、意匠の要部を構成しな\nい旨主張する。
しかし、本件登録意匠は、別紙意匠公報のとおり、本件南京錠を付したもの として登録されているのであるから、他人の業務に係る物品と混同を生ずるお それ(意匠法5条2号)があるか否かについて、登録された意匠の形状等のう ち、特に他人の周知・著名な商標に類似する部分が問題となることは当然であ り、この点は、意匠同士の類否(同法3条1項3号)等の判断に当たって考慮 される意匠の「要部」であるか否かとは別問題であるから、原告の主張は失当 である。なお、本件において、添付図面等の南京錠又は南京錠の正面の態様を削除す る補正をすることは、添付図面等の要旨を変更するものに当たると解される。
2 原告は、審査段階で意匠法5条2号の拒絶理由を指摘されていない旨主張す るが、そのような事情は、本件登録意匠が同号に当たるか否かの実体判断を左 右するものでないことはもとより、無効審判手続の違法を根拠づけるものでも ない。
3 原告は、正面が無地の南京錠を付したかばんを販売しているとして、本件南 京錠を付したかばんを販売していない旨主張するが、仮にそのような事実が認 められるとしても、本件登録意匠が被告の業務に係る物品であるハンドバッグ 等と混同を生ずる意匠であるかの判断において考慮すべき取引の実情に当たる ものではない。

◆判決本文

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令和5(行ケ)10072  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月14日  知的財産高等裁判所

ハーグ条約に基づく国際意匠出願について、拒絶査定がなされ、期間徒過後に審判請求をしました。出願人は米国在住の在外者です。

前記第2の1の事実によれば、本願は、日本国を指定締約国とする国際出願 であって、令和3年1月22日、本件国際登録について、ジュネーブ改正協定10 条(3)(a)の規定による公表がされた(乙3の1・2)ことにより、意匠法60条の6第1項の規定により、本件国際登録の日である令和元年9月9日にされた意匠登\n録出願とみなされる(なお、原告は在外者であるから、意匠法68条2項において 準用する特許法8条1項の規定により、出願に係る補正書や意見書の提出その他の 手続を行う場合には、意匠管理人を選任して行う必要があったことになる。)。
(2) ジュネーブ改正協定12条(1)本文によれば、指定締約国の官庁は、国際登録 の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のた めの条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一 部又は全部の効果を拒絶することができる。国際登録の効果を拒絶する場合、指定 締約国の官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報し、国際事務局 は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する(12条(1)、(2)(a)、(3)(a))。 同条(2)の「拒絶」は、拒絶の最終決定を意味するものではないと解されており、指 定締約国の官庁に要求されているのは、保護拒絶の原因となり得る理由を表示することだけである(乙5)。そして、拒絶の通報の対象となった名義人は、拒絶を通報\nした官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたならば与えら れたであろう救済手段を与えられ、救済手段は、少なくとも拒絶の再審査若しくは 見直し又は拒絶に対する不服の申立ての可能\性から成るものとされている(12条 (3)(b))。指定締約国を日本とした場合、拒絶の通報は、国際登録の公表日から12か月以内にされることになる(乙4、5)。\n
ジュネーブ改正協定上、このような「拒絶の通報」をすること及びこれに対する 指定締約国の国内法令に基づく救済手段を与えるべきことを超えて、指定締約国に おける最終的な拒絶査定の告知方法や不服申立ての手続等(これらの事項は、ジュネーブ改正協定12条(1)ただし書の「国際出願の形式若しくは記載事項に関する 要件」には該当しないと解される。)について定めた規定は見当たらない。したがっ て、これらの点については、ジュネーブ改正協定上、指定締約国の国内法に委ねら れていることになる。前記のとおり、日本の意匠法によれば、本願は、日本の意匠 法に基づく意匠登録出願とみなされるのであるから、これに対する最終的な拒絶査 定の通知方法や不服申立て手続等も意匠法によるべきものと解される。
(3) しかるところ、本件において、特許庁は、本願について、令和3年10月2 2日に国際事務局に対し、「III) 拒絶の理由」の標題を付して具体的な拒絶の理由を 明らかにした本件拒絶の通報を発送しており(甲9)、国際事務局は、同年11月5 日、WIPOのウェブサイトにおいて、本件拒絶の通報を掲載した(乙3)。本件拒 絶の通報には、「国際登録の名義人は、この通報を発送した日から3か月以内に、「III)拒絶の理由」について、意見書を提出することができます。審査官は意見書の内容 を考慮し、保護を付与するかどうかについて決定いたします。なお、日本国内に住 所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない者は、日本国内に住所又は居所 を有する代理人によらなければ、日本国特許庁に対して手続をすることはできませ ん。」旨の英文の記載があり、本件拒絶の通報に付された注意書(Appendix)にもこ れと同旨の記載のほか、関連する意匠法の条文の英訳も記載されていた(甲9)。
(4) しかし、原告は、本件拒絶の通報後に意見書を提出せず、特許庁は、令和4 年4月5日付けで本件拒絶査定をした(甲10)。原告は、在外者であり、意匠管理 人を選任していなかったことから、特許庁は、意匠法68条5項において準用する 特許法192条2項の規定により、本件拒絶査定の謄本を、令和4年4月8日、航 空扱いとした書留郵便により発送した(甲10、乙6、7)。この結果、同条3項の 規定により、当該謄本は、発送の時に送達があったものとみなされた。当該書留郵 便は、同月10日には米国の国際交換局に到着していたが、同年9月21日までの 間、同局に保管され、原告に配達されたのは同月26日であった(甲1、2)。
(5) 意匠法上、拒絶査定に対する不服審判請求は、その査定の謄本の送達があっ た日から3月以内にしなければならない(意匠法46条1項)。本件拒絶査定の謄本 は、令和4年4月8日に原告に送達されたものとみなされたから、原告は、その日 から3か月以内に不服審判請求をすべきであったところ、本件審判請求期間が経過 した後である同年11月18日に本件審判請求をしたものである。
2 以下、本件審判請求期間内に原告が本件審判請求をすることができなかった ことについて、意匠法46条2項の「その責めに帰することができない理由」があ ったかどうかについて検討する。
(1) 原告は、本件拒絶査定の謄本を原告が現実に受領した令和4年9月26日に 本件拒絶査定がされているのを知ったのであり、本件審判請求期間の経過後に本件 審判請求をすることになった原因は郵便の配送遅延にあるから、原告の責めに帰す ることができない理由があると主張する。
しかし、そもそも意匠法68条5項において準用する特許法192条3項の規定 によれば、法律上、原告は現実に受領していなくても本件拒絶査定の謄本の発送の 時である令和4年4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされるのであるか ら、意匠法46条2項の原告の責めに帰することができない理由の有無は、原告が 同日に当該謄本の送達を受けたことを前提にした上で検討されるべき問題である。 原告が現実に当該謄本を受領した日が本件審判請求期間後であったことや、その理 由が郵便の配送遅延にあったこと(ただし、当該謄本に係る書留郵便が同年4月に 米国交換局に到着した後、同年9月まで原告に配達されなかった理由は、証拠上明 らかではない。)があったとしても、これらの事情が存在することをもって直ちに原 告に「その責めに帰することができない理由」があると解することはできない。な ぜなら、これらの事情は、みなし送達を定めた法の前記規定の想定範囲外の事態で あるとは考えられない上、仮に、在外者の場合にこれらの事情のみをもって「その 責めに帰することができない理由」になると解したときは、拒絶査定の謄本が現実 に審判請求期間内に配達されなかったときは、同項所定の期間内(当該理由がなく なった日から2か月以内で、同条1項の期間の経過後6か月以内)であれば、常に 拒絶査定不服審判を請求することを認めるのと実質的に同じ結果になるからである。 このような解釈は、拒絶査定の謄本等の書類の発送の時に送達を受けたものとみな し、法律関係の安定を図る法の趣旨に反するものであるから、採用することができ ない。同条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、通常の注意力を 有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認め られる事由により審判請求期間内に請求することができなかった場合をいうのであ り、原告が令和4年4月8日に法律上、本件拒絶査定の謄本の送達を受けたことを 前提としたとき、本件審査請求期間の末日である同年7月8日までに原告が通常期 待される注意を尽くしてもなお本件審判請求をすることが困難であったことを示す ような客観的な事情は見当たらない。したがって、原告の責めに帰することができ ない理由の存在を認めることはできない。 それのみならず本件においては、前記1のとおり、本件国際登録の公表から12か月以内に拒絶の通報がされる可能\性があることは、ジュネーブ改正協定により国際出願を行った以上、原告又はその代理人において当然知り得たはずである。また、 少なくともWIPOのウェブサイトには本件拒絶の通報が掲載されていたから、原 告は、同ウェブサイトを確認することにより、本件拒絶の通報がされていることを 知り、日本国の意匠法に従って拒絶査定が行われるであろうことを容易に予測することができたはずである。それにもかかわらず、原告は、これらの点に注意を払う\nことなく、本件審判請求期間内に本件審判請求をしなかったのであるから、原告が、 意匠登録出願人として、通常の注意力を有する当事者に通常期待される注意を尽く していたと認めることはできない。
(2) 原告は、意匠法46条2項の文言から、法定の期間内(同条1項の期間内) に審判請求をする機会が与えられるに至った経緯については問われていないことが 明らかであると主張する(取消事由1)。原告の主張する「法定の期間内に審判請求 をする機会が与えられるに至った経緯」の意味は、必ずしも明らかではないが、同 条1項によれば、原告は本件拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に不 服審判を請求することができ、同法68条5項において準用する特許法192条3 項の規定によれば、法律上、原告は本件拒絶査定の謄本の発送の時である令和4年 4月8日に当該謄本の送達を受けたものとみなされる。したがって、本件における 意匠法46条2項の「前項に規定する期間」は、その日から3か月以内の期間であ る。しかるところ、同項の解釈上、当該期間中に原告が本件拒絶査定を受けたとい う事実を知らなかったというだけで同項の「その責めに帰することができない理由」 に該当すると解することはできない一方、当該理由の存否の判断に当たり、原告が 本件拒絶査定のされたことを知ることができる事実的状況にあったことを考慮する ことは、何ら同項の文言及びその趣旨に反するものではない。そして、これらの点 を考慮した上で本件審判請求期間を徒過したことにつき原告の責めに帰することが できない理由の存在が認められないことは、前記(1)のとおりであるから、原告の主 張は採用することができない。
なお、原告代表者の宣誓供述書(甲1)によると、原告は、令和3年10月頃に、知的財産ポートフォリオの管理を、A氏の法律事務所からScheefに移管した\nが、その際、A氏が、本願について、数年先の更新期限まで更なるアクションをす る必要がない旨の引継ぎをしており、このことが、原告又はScheefをして、 本件拒絶査定を受ける可能性があることを認識しなかった原因であることがうかがえる。しかしながら、前記1のとおり、本願については、国際公表\後に特許庁がその登録を拒絶する可能性があり、このことはジュネーブ改正協定の規定上明らかであったのであるから、上記引継ぎ内容は誤りであったというべきである。A氏及び\nScheefには、知的財産の管理者として意匠の国際登録に係る手続に精通すべ きところ、これを怠っていたために上記誤りに気が付かなかったという過失がある。 また、日本国内の手続において、在外者に意匠管理人がいない場合には、書留郵便 等により拒絶査定の謄本が送達され、発送の時に送達があったものとみなされるこ とは、意匠法の規定上明らかであるから(意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項、3項)、A氏及びScheefは、現実に本件拒絶査定の謄本を受 領するよりも前に、送達の効力が生じることを認識し、それに備えるべきであった ところ、これを怠ったという過失もある。そして、原告は、自らの経営判断により、 A氏及びScheefに対し、本願に係る管理を委任していたのであるから、A氏 及びScheefの過失があったことは、本件において原告の責めに帰することが できない理由の存在は認められない旨の前記判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告は、本件審決の判断について、意匠法68条5項において準用する特許 法192条2項の規定に基づいて拒絶査定の謄本が書留郵便等により在外者に発送 された場合には意匠法46条2項の適用は認められないと述べているのに等しく、 法的根拠を欠くとも主張する(取消事由2)。しかし、拒絶査定の謄本が書留郵便等 により在外者に発送された場合には、みなし送達により原告が現実に謄本を受領し ていなくても発送日から同条1項に定める法定の期間が開始することになるだけで、 この場合に同条2項の適用が排除されるわけではない。当該法定の期間内に拒絶査 定不服審判請求をすることができないような客観的な事情があるときなど、なお期 間の徒過につき審判請求人の責めに帰することができない理由が存在することはあ り得る。すなわち、同法68条5項において準用する特許法192条2項の規定に 基づく拒絶査定の謄本の発送がされた場合に、意匠法46条2項を適用して不変期 間の例外が認められる余地がなくなるなどということはできない。したがって、原 告の主張は採用することができない。

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令和5(行ケ)10071  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月25日  知的財産高等裁判所

 創作者が公表した意匠にて、新規性喪失の例外をうけました。特許庁は、証明書に記載された意匠と引用意匠とは同一ではないとして、新規性無しと判断しました。出願人は、スタッズの個数及び配置態様などの違いは微差と主張しましたが、知財高裁は審決を維持しました。\n

(2) 意匠法4条2項は、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同法 3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠に関し、その該当するに至った日か ら1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条1項及び2項の 規定の適用については、同条1項1号又は2号に該当するに至らなかったものとみ なすとして、新規性喪失の例外を認めている。 このような新規性喪失の例外の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書 面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、意匠法3条1項1号又は2 号に該当するに至った意匠が同法4条2項の適用を受けることができる意匠である ことを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなけ ればならない(同条3項)。 したがって、原告が引用意匠について意匠法4条2項の適用を受けるためには、 原告が引用意匠について同条3項所定の証明書を提出していることがその前提とな る。
(3) この点、原告は、本件証明書に記載されている証明書記載意匠と引用意匠は 実質同一の意匠であると主張し、原告が特許庁長官に本件証明書を提出したことに より、引用意匠に係る公開行為は先の証明書記載意匠の公開に基づいてされたもの と認めるべきである旨を主張する。 そこで検討すると、証明書記載意匠は、甲1(別紙第3の添付画像1及び2)の とおりであり、これによると、その形状等は、全体としてマチのある略直方体の収 納部と、その収納部の上辺左右両側からアーチ状に持ち手を架橋し、収納部及び持 ち手はいずれも黒色の色彩が施されているものであり、収納部の正面上辺及び左右 辺の三辺を波状に形成し、上辺及び左右辺の山部が左右上角部のものを含めて各辺 三つずつあり、左右上角部には上辺及び左右辺の山部が合わさったように正面視左 右斜め上方向に突出した略半長円形状の山部、左右辺中央部には円弧状の山部、左 右下角部には下辺が直線状の略円弧状の山部と、計七つの山部を形成してなるもの であり、収納部上辺からやや離れた位置から左右辺に沿って直線状に上から下へ略 小円形状のスタッズを並べてなり、上から一つ目と二つ目の間の間隔よりも上から 二つ目と三つ目の間隔の方を長くして三つずつ配し、各スタッズは上から一つ目の スタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部上方寄りの位置、 上から二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置、上 から三つ目のスタッズが左右下角部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置に設けて なるものであると認められる。
他方、引用意匠は、甲2(別紙第2の2枚目及び3枚目)のとおりであって、上 記認定の証明書記載意匠と対比すると、両意匠の形状等についての相違点は、本件 審決が認定した前記第2の3(5)イのとおり、証明書記載意匠は、正面側のスタッズ を左右寄りに縦一列縦1列に、三つずつ設け、上から一つ目から二つ目よりも二つ 目から三つ目の間隔をやや長く配し、本体部及び把持部は黒色であるのに対し、引 用意匠は、正面側のスタッズを左右寄りに縦一列ほぼ等間隔に四つずつ設け、本体 部はアイボリーで把持部は茶色で、留め付け側に環状金具を配したものであり、両 意匠は、把持部の環状金具の有無、正面側のスタッズの個数及び配置態様並びに把 持部及び本体部の色彩が相違するものである。 そして、証明書記載意匠と引用意匠とは、以下の(4)において判断するとおり、少 なくとも正面視において、正面側のスタッズの個数及び配置態様の点で相違点を有 し、かかる相違点は、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十\分 理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえないから、同一の意匠と はいえない。
(4) 原告は、両意匠の共通点の形状が特徴的なものであって、需要者に強い印象 を与えているため、正面側のスタッズの個数及び配置態様の相違点の印象は共通点 に比べて薄いものにならざるを得ないから、需要者は、スタッズがバッグの正面側 の態様に関わるものであっても、両意匠の相違点からスタッズの個数や配置を明確 に認識するよりも、両意匠からいずれも大雑把な「複数個のスタッズが並んでいる」 程度の印象を持つと考えるのが自然であり、両意匠の相違点から需要者が受ける印 象は異なるものではないから、両意匠は実質同一といえるものであって、同一の意 匠である旨を主張する。 しかしながら、意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の 新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているもので あって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起 因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、 証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。もっと も、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合 にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担 も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能\nに照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認めら\nれる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められる と判断するのが相当である。
しかるところ、両意匠の相違点であるスタッズについては、スタッズを設けるこ と自体は、バッグという物品の性質上、ありふれたものであるといえるものの(甲 4〜11)、スタッズの数や配置態様は一様ではなく、その数や配置態様によっては 美観に影響を及ぼすものであるところ、両意匠の相違点であるスタッズの態様につ いては、十分肉眼で看取可能\であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素と\nして機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」\n三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる\n上、両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係にお いて、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置 されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位 置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッ ズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部 との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山 部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、両意 匠の共通点である収納部の正面視の左右辺の山部との関係性からも、それぞれ異な る美観を有するものといえる。
そうすると、両意匠の相違点である正面側のスタッズの個数及び配置態様の点は、 物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点といえることから、証明書に記載さ れた意匠と引用意匠の相違点が物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であ\nると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえない。\nしたがって、上記判断に反する原告の主張は採用できない。
(5) 以上によると、引用意匠が本件証明書に記載されている証明書記載意匠と同 一の意匠であるとは認められず、したがって、引用意匠の公開行為(甲2)は先の 証明書記載意匠の公開に基づいてされたものと認めることはできない。 そうすると、引用意匠については、意匠法4条3項所定の証明書が提出されてい ないことに帰するから、原告は引用意匠について同条2項の適用を受けることはで きない。 よって、本件審決が引用意匠について意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用 を認めなかった点に誤りがあるとは認められない。
2 以上によると、引用意匠は、本願出願前に公開された意匠であり、第2の3 (3)の本件審決の判断のとおり、本願意匠は、その引用意匠に類似するものであるか ら(なお、この点について原告は争っていない。)、本願意匠は意匠法3条1項3号 に掲げる意匠に該当するものであるとの本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。 したがって、原告の主張する取消事由には理由がない。

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令和5(行ケ)10066  審決取消請求事件  意匠権  行政訴訟 令和5年12月21日  知的財産高等裁判所

瓦の意匠について、知財高裁(4部)は、無効理由無しとした審決を取り消しました。 本件審決は、別紙「本件審決が認定した形状等の共通点と相違点」の2に記載のとおり、本件登録意匠と引用意匠の構成態様の相違点1〜8を認定するので、これらが両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。\n

ア 瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様について(相違点1、2、6、7関係)\n
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮 径段差部の溝の有無及び右側端部の角度)、同7(1)女瓦の上端寄りの 凸部の形状、2)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取 できない構成態様に関するものである。そこで、本件登録意匠の意匠に係る物品である瓦における、このような相違点の位置づけ、類否判断へ\nの影響の程度について、検討しておく。 そもそも瓦は、本来的に屋根等を葺くための建築部材であって、施工 を前提としない瓦単体のコレクターといった需要者を想定するのは現実 的でない。瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的 な需要者であり、そうした需要者の求める美観が施工後の外観に係るも のであることは多言を要しない。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売 業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最 終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視されるものと考 えられる。そうすると、瓦を葺いた施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまると\nいうべきである。
被告は、瓦の需要者である建築業者等は葺き上がった状態で見えなく なる部分についても瓦の重要な機能につながる形状に注意を払い形状全体に目を通して選定する旨主張する。しかし、意匠の類否は基本的に\n「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきも のであり、機能と造形は両立し得るものではあるが、機能\のみに着眼し た被告の主張をそのまま採用することはできない。 よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、 6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるとい うべきである。なお、相違点6、7に関しては、本葺一体瓦において採 用される公知の形状のバリエーションの範囲内の違いにすぎないもので あるから(前記1(3)ア〜ウ)、この点においても、当該相違点が類否判 断に及ぼす影響は限定的なものと解される。
・・・
ウ 男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態等について(相違点3、5 関係)
(ア)本件審決は、本件登録意匠と引用意匠の各対応図面ごとに相違点を認 定しているため、立体形状として認識・把握すれば同じ特徴を、各方 向視ごとに別々に表現するような形式になっており分かりにくいので、相違点3、5に含まれる男瓦の形状及び本件コの字模様の細部の形態\nに係る相違点を整理・再構成すると、下記1)〜3)のとおりとなる(な お、本件審決は、相違点3、5として、下記1)〜3)以外の要素にも言 及している部分があるが、本件登録意匠と引用意匠のそれぞれの図面 における角度の違いや作図方法の違いによる見え方の違いにすぎない ものであり、実質的な相違点ということはできない。)。 1) 本件登録意匠の男瓦は上方に向かって逆ハの字状に広がる円筒形であるのに対し、引用意匠の男瓦は少なくとも真上から見る幅が均一の円筒形である。2) 本件登録意匠においては、引用意匠と比べて、本件コの字模様の両側部の幅が若干広く、本件長方形模様の幅は若干狭い。3) 本件登録意匠の本件コの字模様の部分は本件長方形部分と面一であるが、引用意匠の本件コの字模様はわずかに段差状に隆起している。
(イ)上記相違点1)〜3)は、いずれも、本件登録意匠及び引用意匠の構成態様のうち、看者の注意を強く引く部分である男瓦の連なりの形状及び\n模様に関するもの(上記(3))であるから、その相違点が、両意匠の類 否判断に一定の影響を及ぼすことは否定できない。 しかし、相違点1)は、本葺一体瓦において採用される公知の形態のバ リエーションの範囲内の違いにすぎないし(前記1(3)エ)、相違点2)、 3)は、従前の意匠には見られなかった新規な創作部分である本件コの 字模様に係る共通点を備えた上での、当該模様の些末な違いにすぎな い。もちろん、新規な形態を創作した先行意匠を下敷きとして踏襲し つつも、それにプラスして需要者の注意を一層強く引くような新しい 美観を取り入れたという評価ができれば、当該新しい美観に係る印象 が共通点に係る印象を覆し、類否判断にも相対的に強い影響を及ぼす ということもあり得るところであるが、相違点2)、3)が、両意匠の共 通点である本件コの字模様の持つ強い訴求力を覆すほどの新しい美観 を生じさせるものとは到底認められない。
よって、上記相違点1)〜3)は、類否判断に一定の影響を及ぼすもので はあるが、本件コの字模様に係る共通点4と比較して、意匠の類否判 断に及ぼす影響は相対的に小さいものと解すべきである。

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