既に新聞報道がなされていますが、判決がアップされました。漫画村に対する損害賠償について、東京地裁は、約17億円の損害賠償を認めました。
(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行
為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま
た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は
独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の
額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ\nーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売\n上高は観念できない。
もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1〜3 の各「販売価額(税込)」
欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電
子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実
(2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、これらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ
ゆる端末のキャッシュは除く。))することなく、いわゆるストリーミング形式によ
り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、
広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ\nイトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は\n採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒
体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み
ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい
え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス\nしさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。\nこれは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された
本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで
きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい\nて、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権
の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)の算定
にあたっては、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売
価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす
ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。
(イ) 被告の主張について
被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ
スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を
基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作
品目録 3 の番号 174〜221)については、この主張が妥当する余地はない。
また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子
会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ
って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める
に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対
象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結
するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定
すると考えることには合理性がある。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ
ス総数は 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 分程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する
のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー\nが 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい
ては、合計 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。
また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ
るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、74回を下回ら
ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し
て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。
確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について
は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調
査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点
を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月〜平成 30 年 4 月の間におけ
る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記
1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し
得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ
れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前
記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万とされている(前記 1(4)イ)。被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇
張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る\n数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、\n本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと
はうかがわれない。したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1〜3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと
おり、「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧
数 74回を乗じた金額と認めるのが相当である。
このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 90万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関\n係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 690円
・原告集英社につき 3902 万 098円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
(3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 057万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 016万 5469 円
なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主
張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること
はないから、この点に関して判断する必要はない。
◆判決本文
各動画からキャプチャした静止画をブログ上に投稿した行為について、1審は、著作権侵害として約240万円の損害賠償を認めました。知財高裁は、「上記の額をそのまま採用することが相当とはいえない」として、約190万と認定しました。
控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件
静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというも\nのである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャ
プチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア(ア)のとおりのNHKエ
ンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、こ
れらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止\n画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行で
まとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十\n数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするもの\nであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとお
りの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなる
と、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、そ
の枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達
した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になる
というのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件
各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るN
HKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によ
ると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とさ
れ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、
1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠(甲7の1ないし8、甲8の1ないし
8)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚
(話数♯054は59枚、♯044は45枚、♯043は54枚、♯042は29
枚、♯041は57枚、♯040は73枚、♯039は38枚、♯037は7枚)
であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724
万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(甲12によりNHKエンター
プライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相
違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との
相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費
用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をその
まま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場
合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法11
4条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被
控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを
150万円と認めるのが相当である。
◆判決本文
1審はこちらです。
◆令和3年(ワ)24148