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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新たな技術的事項の導入

平成25(行ケ)10206 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年02月26日 知的財産高等裁判所

 特許庁は、訂正された事項が新規事項でないと判断しましたが、裁判所はこれを否定しました。
 本件訂正は,訂正前の「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー」なる事項を訂正し,訂正後の「前記本体ハウジングの開口部を覆い前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製で縦長形状のカバー」とするもので,減縮を目的として,カバーの構成をより具体的に特定したものと認められる。そして,上記訂正後の記載を見れば,「熱膨張率が異なる」とは,本体ハウジングに対してカバーの「熱膨張率が大きい」場合と「熱膨張率が小さい」場合が含まれることになることは,文言上明らかである。イ そこで,本体ハウジングに対して,「熱膨張率が大きい」カバーと「熱膨張率が小さい」カバーの双方が,本件明細書等に記載した範囲のものといえるか否かについて検討する。本件明細書等には,前記(1)アのとおり,「上記従来の回転角検出装置では,ホールIC52を固定するステータコア10をモールド成形した樹脂製のカバー9は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー1に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー9は,スロットルボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」(段落【0004】),「以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構\\20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」(段落【0026】)との記載があり,樹脂製のカバーが金属製のスロットルボディーに比べて「熱膨張率が大きい」ことは明確に記載されていると認められる。一方,樹脂製のカバーが(金属製の)スロットルボディーに比べて「熱膨張率が小さい」ことは明示的に記載されておらず,これを示唆する記載もない。また,本件発明は,前記(1)で認定説示したように,従来の回転角検出装置においては,ホールICを固定するステータコアをモールド成形した樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製のスロットルボディーに比べて熱膨張率が大きく,また,縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きく,しかも,ホールICの磁気検出方向とカバーの長手方向が平行になっていたため,カバーの熱変形によって,磁気検出ギャップ部のギャップやステータコアと磁石とのギャップが変化して,回転角の検出精度が低下するという欠点があったことから,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えて,回転角の検出精度を向上することを目的としている。すなわち,本件発明は,樹脂製のカバーが金属製のスロットルボディー(本体ハウジング)に比べて熱膨張率が大きいことを前提とする課題を解決しようとするものであって,樹脂製のカバーがスロットルボディー(本体ハウジング)に比べて熱膨張率が小さいことは想定していない。そして,本件明細書等に記載されたスロットルバルブの回転角検出装置は,自動車のスロットルバルブの回転角検出装置において,エンジンルームからスロットルバルブに到達する熱により,本体ハウジングに相当の熱量が加わることを前提としていることはその構造上自明であるから,そのような熱量の加わる本体ハウジングにカバーよりも熱膨張率の大きい材質を用いることは技術的に想定し難い。なお,段落【0039】に「スロットルバルブの回転角検出装置以外の回転角検出装置に適用しても良い。」との記載があるところ,その実施例や具体的な構\\成が示されているものでなく,これは,回転角の被検出物がスロットルバルブに限定されないものである旨を記載したものにすぎない。スロットルバルブ以外の被検出物を想定したとしても,前記に述べた本件発明の課題及びその解決原理に照らせば,樹脂製のカバーの側が縦長形状で長手方向に膨張することを前提としているのであって,本体ハウジングの側の熱膨張率が,樹脂製のカバーよりも大きいという例は,スロットルバルブの回転角検出装置以外の装置においても,想定されていないというべきである。そうすると,樹脂製のカバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さいことは,出願の当初から想定されていたものということはできず,本件訂正により導かれる技術的事項が本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認めることはできない。
ウ 被告の主張について
被告は,本件発明1において,「熱膨張率」の限定がなかったのを,訂正によって熱膨張率の限定を加えた減縮訂正であるから,「カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率よりも小さい」は,本件訂正によって新たに含まれることになったのではなく,本件訂正前から含まれていた事項であると主張する。しかし,前記のとおり,本件訂正が減縮を目的とするものであることはそのとおりであるとしても,新規事項の追加に当たるか否かは,本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるか否かによって決せられる,次元の異なる問題であって,上記主張は採用できない。また,被告は,樹脂製カバーの熱膨張率が本体ハウジングの熱膨張率より大きい例は,熱変形が生じる典型的な事例であって,熱膨張率が小さい例も含まれる旨主張する。本件明細書の段落【0001】,【発明の属する技術分野】においては,自動車の電子スロットルシステムにおけるスロットルバルブの回転軸の回転角検出装置である旨の記載はないが,これ以外の具体的な装置に関する記載や示唆もない。そして,本件発明は,上記イにおいて述べたとおり,スロットルバルブの回転角検出装置以外に用いられるとしても,本体ハウジングが樹脂製カバーよりも熱膨張率が大きい場合は想定されていないと解され,本体ハウジングに比べて樹脂製カバーの熱膨張率が大きい例が,単なる典型例であって,熱膨張率が本体ハウジングより小さい例も含むものであると解することはできない(なお,被告の主張を前提とすると,本件訂正は,スロットルバルブ以外の具体的な被検出物を明らかにすることもないままに,本体ハウジングと樹脂製のカバーの熱膨張率が同一という特定の場合のみを除外するために,特許請求の範囲の「減縮」が行われたことになり,不自然な訂正というほかない。)。よって,被告の上記主張は採用できない。
(3) 審決の判断について
審決は,本件明細書等には,熱膨張率に関して,カバーの熱膨張率が,本体ハウジングの熱膨張率より大きい場合のみが記載されており,小さい場合は記載されているとはいえないことを前提とした上で,本件訂正による「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との事項は,実質的には,「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」との事項にほかならないとして,本件訂正は新規事項の追加に当たらないと判断した。しかし,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」との文言からすれば,通常,カバーが本体ハウジングより,熱膨張率が大きい場合と小さい場合の両方を含むと明確に理解することができ(現に,本訴において,特許権者である被告は,その両方を含む旨を主張している。),明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ特定できないような事情はないのに,「前記本体ハウジングとは熱膨張率が異なる樹脂製のカバー」の意義を「前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製のカバー」に限定的に解釈することは相当ではない。したがって,上記のように訂正発明1の技術的内容を限定的に理解した上で,新規事項の追加に当たらないとした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成25(行ケ)10174

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
 >> 新たな技術的事項の導入

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平成25(行ケ)10201 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成26年02月24日 知的財産高等裁判所

 新規事項であるとした無効審決の取り消しを求めましたが、裁判所は特許庁の判断を維持しました。
 以上を前提に,本件補正により新たな技術的事項が導入されるか否かについて検討するに,前記(1)のとおり,本件補正によると,育苗ポットの側面の全周に段差部が形成されたものや,一つの側壁の全幅に渡って段差部が形成されたものまでが「段差部」に含まれることとなる(技術事項A)が,この場合,段差部において差込み口が形成されている領域と差込み口が形成されていない領域とが区別できなくなり,差込み口の位置を側壁の外面から把握できない結果となる。上記のとおり,差込み口のある側壁部分と他の側壁部分とを区別させる第1凹部の構成は,側壁の外面から差込み口を容易に把握できるという本件発明の技術課題の解決手段として設けられたものであることからすれば,本件補正により第1凹部を設けない場合には,当初発明の技術課題を解決することにはならないから,技術事項Aは,新たに導入した技術的事項に該当するというべきである。
(3) 原告らの主張について
原告らは,第1凹部を,差込み口を設ける部位(段差部(横壁A))と,根巻き防止機能を果たす部位(縦壁B,C)とに,分解して解釈することができるところ,段落【0082】の「第1凹部7には,苗Nの根を底壁3側に導く機能\を持たせず,差込み口9を設けるための部位としての機能だけを持たせるようにしても良い。」との記載から,「横壁Aを,縦壁B,Cを伴わずに形成すること」は,当業者であれば自明であると主張する。確かに,当初明細書の段落【0049】,【0028】,【0029】,【0050】〜【0051】の記載からすれば,「第1凹部7」は,底壁3側に向かって帯状に延びることで,苗の根を底壁側に導き,苗の根が根巻き状態となるのを防止する機能\を有するものと認められ,段落【0082】にあるとおり,この根巻き防止機能を持たせず,差込み口9を設けるための部位としての機能\だけを持たせるようにすることができ,第1凹部は帯状でなくとも,例えば,えくぼ的に窪む構成とし,左右の縦壁が底壁3まで到達しないものであってもよいことが示唆されているといえる。しかし,上記根巻き防止機能\が本件発明7の必須の効果でないとしても,上記(2)で述べたように,側壁の一部が他の側壁の外面よりも収納空間5側に窪むことで,育苗ポットに収納された培土に埋もれて開口面から把握できない差込み口の位置を,側壁の外面から把握することができるという本件発明7の本来的効果からすれば,育苗ポットの側面の全周に段差部が形成されたものや一つの側壁の全幅に渡って段差部が形成されたものまでを含むような構成(技術事項A)は除外されているというべきである。この点,原告らは,側壁を平面視多角形状に形成し,差込み口を,その多角形状に形成された側壁の1の面における周方向の略中央部に形成するとの構\成を備えているから,「育苗ポットの全周に段差部が形成されたもの」であっても,差込み口の水平方向の位置を外部から把握できると主張する。しかし,第1凹部の目印機能については,前記のとおり,側壁の外面から容易に差込み口を認識させるというものであり,略中央に配置することで差込み口を認識できるというのは,当該位置についての別途の情報伝達や経験的認識を前提とするものであり,視覚的に側壁の「外部から容易に」差込み口を把握することとは異なる解決原理に基づく構\成である。また,本件補正によれば,差込み口を有しない部分に「段差」を設けることもでき,その場合には,「段差」が目印機能を有しないことは明らかである。加えて,段落【0085】には,「育苗ポット1の形状や大きさは,かかるものに限定されるものではなく,形状は円筒状や多角形状のものであっても良く」と記載されていることからすれば,当初明細書等の中に,多角形の1の面の略中央に差込み口を配置させる図面等の記載があるとしても,そのような差込み口の配置は,上記の目印機能\を果たすことを意図して設けられたものでないことが明らかである。したがって,原告らの上記主張は採用できない。
3 請求項7に係る本件訂正について
以上のとおり,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではないから,平成20年法律第16号改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。そして,訂正発明7は,前記のとおり,本件発明7に「前記段差部は,少なくともその差込み口が開口されている部分に形成されている」との構成を付加するものであるが,この構\成は,本件発明7の「その段差部の前記開口面を臨む部分に開口され,…表示板を差込む差込み口を有し,」にも実質的に記載されている事項であり,上記の技術事項Aをそのまま残すものであるから,本件訂正によって上記補正の瑕疵がなくなるものではない。したがって,訂正発明7は,平成20年法律第16号改正前の特許法17条の2第3項の規定に違反してなされたものであり,特許法123条1項1号に該当し無効にすべきものである。\n

◆判決本文
 

関連カテゴリー
 >> 補正・訂正
 >> 新規事項
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