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ビジネスモデル特許の流れ
Examples of Business Method Patents in Japan and the United States
 

弁理士 古谷栄男
Hideo Furutani, Patent Attorney



はじめに


ビジネスモデル特許について、事件や話題になったものを、事例として紹介する。なお、米国やヨーロッパにおいては、ビジネス方法特許(Business Method Patents)と呼ばれており、日本においても、弁理士などの専門家の間ではそのように呼ばれてきた。しかし、日本においては、一般の報道によって、ビジネスモデル特許という呼び方が定着してきた。そこで、本稿においても、ビジネスモデル特許という表現を用いることにした。

なお、本稿の改訂情報はこちらに掲載している。



ビジネスモデル特許が話題となっている理由


インターネットの発展に対応して、この種の特許が対象とするビジネスの市場が急拡大していることから、ここ数年、大きな注目を集めている。しかし、ビジネスモデル特許は、80年代の前半から出願されていた(当時、ビジネスモデル特許とは呼ばれていなかったが)。

80年代から出願され特許が取得されていたにもかかわらず、90年後半になって急速に注目を浴びたのは、次の2つの要因があるように思える。一つは、プロパテント政策の中で、ソフトウエア関連発明に対する保護の強化が図られている点、もう一つは、インターネットの普及により、ネット上でのビジネスアイディアの事業化の可能性が高くなったことである。つまり、アイディアが事業化に直結するとともに、そのアイディアが特許によって強力に保護されるという状況が、今のビジネスモデル特許の隆盛をもたらしていると考えられる。



取り上げた事例


本稿は、少しさかのぼって、日米欧のビジネスモデル特許と呼べそうなものを、リストアップし、特許の概要、事件(ニュース)の概要、主たるクレーム、関連文献・サイトをまとめてみた。多くの出願がなされ、多くの特許が成立しているため、これら全ての情報を収集し解析することは行わなかった。ここでは、以下の2条件を同時に満たすものをリストアップした。

@発明の内容がビジネスモデル(ビジネス方法)に関連していること
A裁判事件、異議申立事件、審判事件となったこと、または、各種ニュース(法律系だけでなく、経済系ニュースを含む)にて取り上げられたこと

事件となったものだけでなく、ニュースにて報道されただけのものもリストアップしたのは、これにより、企業(特に米国企業)がビジネスモデル特許の取得を積極的にプレス発表している最近の状況をよくとらえられると考えたからである。

また、ニュースにて報じられた概要も併せて記したが、ニュースの内容は、権利者のプレスリリースを基礎とする場合が多く、クレームの記述に比べて、権利内容が大きく報道されるケースも見受けられる点に注意が必要である(それこそが、企業戦略だという観点もあろう)。

なお、ビジネスモデル特許の保護という観点から見れば、発明内容が直接的にビジネスモデルに関係していなくとも、ビジネスモデル特許の権利解釈や審査運用において大きな影響を与えた審決、判決も重要である。たとえば、米国の最高裁Benson判決、CCPAのFreeman判決、Walter判決、最高裁のDiehr判決などは、ビジネスモデル特許を含むソフトウエア特許の保護の流れを知る上で外すことはできないであろう。同様に、日本特許庁やヨーロッパ特許庁の審決(特に技術的貢献の解釈についての審決)も取り上げるべきであるが、今回はリストアップしていない。時間が許せば、これらを含めて、整理をしたい。

また、ビジネスモデル特許の基礎的事項については、「ビジネスモデル特許の基礎」を参照のこと。

ここでは、ビジネスモデル特許を、時間的に次の3つに分けて、時間順に取り上げた。

@黎明期(80年代)

いくつかの権利が成立しているが、ビジネス関係の特許という観点から、特許関係者の間でもそれほど大きく取り上げられることが無い。

A認知期(98年頃まで)
いくつか話題になる特許も表れているが、多くの企業がビネスモデル特許を企業戦略ツールとして用いてはいなかった。

B浸透期(98年以降)
定着してきたプロパテント政策に、インターネットの爆発的広がりによる市場参入機会の到来によって、ビジネスモデル特許が企業の戦略ツールとして浸透し始めている。プライスラインドットコムの成功や、state street bank事件判決も大きく影響している。

以下の例からわかるように、黎明期・認知期においては、弁理士などの特許専門家の間で、ビジネスモデルが特許の対象となるのか否かについて話題として取り上げられてきた。state street bank事件以降の浸透期では、企業の戦略ツールとして、その積極的な活用が取り上げられるケースが多いように思われる。



話題となったビジネスモデル特許


@黎明期

(1)証券取引の現金管理システムの特許(特許出願1980年、事件1983年)

(2)株式のオンライン取引の特許(特許出願1985年、事件1986年)

A認知期

(3)スイング預金の特許(特許出願1983年、事件1992年)

(4)カーマーカ特許(特許出願1986年、事件1993年)

(5)ソフトウエアのオンライン配信特許-FREENY特許-(特許出願1983年、事件1995年)

(6)シティバンクの電子マネー特許(特許出願1992年、事件1995年)

(7)モンデックス・マネーの特許(特許出願1991年、話題1996年)

(7-2)ソフトウエアの超流通システム特許(特許出願1984年、話題1996年)

B浸透期

(8)オープンマーケット社の電子商取引関連3特許(特許出願1993年、話題1998年)

(9)投資信託の管理システムの特許 −ハブ・アンド・スポーク特許− (特許出願1991年、事件1998年)

(10)ネットデリバリー社の情報配信特許(特許出願1995年、話題1998年)

(11)ネット上の買物客にインセンティブを与える景品企画の特許(特許出願1995年、話題1998年)

(12)消費者の”注目”を売買するビジネス方法の特許 -Attention Brokerage特許-(特許出願1995年、話題1998年)

(13)逆オークションの仲介システムに関する特許(プライスライン特許)(特許出願1996年、話題1998年)

(13-2)インターネット上での割引クーポンの特許(特許出願1995年、話題1998年)

(14)長距離電話の課金方法の特許(ATT対エクセル事件)(特許出願1992年、事件1999年)

(15)地図上の広告方法の特許(マピオン特許)(特許出願1995年、話題1999年)

(16)ユーザや表示回数によりダイナミックに内容を変える広告方法(特許出願1996年、話題1999年)

(17)AMAZON.COMの1クリック特許(特許出願1997年、事件1999年)

(18)eCal社のウエブによるスケジュール管理サービスの特許(特許出願1998年、話題1999年)

(19)ユニバーサル・ショッピングカート特許(出願1997年、事件1999年)


(19-2)顧客情報収集システムの特許(出願1998年、事件1999年)

(20)インタラクティブにオプションなどを選択してシステムを形成する方法の特許(出願1996年、事件1999年)

(21)Amazon.comの商品紹介システムの特許(出願1997年、話題2000年)

(22)planet U のクーポン配布システムの特許(出願1996年、事件2000年)

(23)住友銀行の仮想口座特許(出願1998年、事件2000年)

(24)インターネット時限利用課金の特許(出願1996年、事件2000年)

(25)音楽サンプル試聴の特許(出願1996年、事件2000年)

(26)条件付購入申込管理システムの特許(CPO特許)(特許出願1997年、事件2000年)

(27)JAL対ANA事件(事件2004年)

(28)東京都民銀行 対 東京三菱UFJ銀行事件(事件2007年)


Cその他の資料

(a)〜(d)その他

D日本国特許庁公表資料

・「ビジネス方法の特許」について
99年8月ごろより特許庁が公表したビジネスモデル特許に関する情報が集約されている。

・特技懇209号(2000.2)
審査第5部の吉田 耕一審査官による、ビジネスモデル特許についての論説が掲載されている。

・電子商取引・金融ビジネスのパテントマップ(特許庁ホームページ'2000.9)
電子商取引、金融ビジネスに関し、特許庁が作成したパテントマップ。日米の比較を行いつつ、分析している。重要な資料である。

E米国特許庁公表資料

・Patent Business Method
米国特許庁によるビジネスモデル特許に関する情報が集約されている。ビジネスモデル特許の審査の方向性を示したBUSINESS METHODS PATENT INITIATIVE: AN ACTION PLANや、ビジネスモデル特許の歴史と審査の変遷を示したWhite Paper: Automated Financial or Management Data Processing Methodsや、ビジネスモデル特許についての非自明性の判断基準などが示されている。

Fその他の公表資料

・ビジネス方法の特許性
2001年AIPPIのメルボルン世界会議で取り上げられたテーマ「ビジネス方法の特許性」について、各国グループが提出した報告が公表されている。また、そのサマリーもあわせて公表されている。会議当日の議論内容については、こちらを参照のこと。



NOTES


この資料は、'99夏〜'99年末にかけて行った講演の配付資料に、最新情報を加えて、加筆訂正したものです。この資料は、下記の著作権表示をしていただければ、複製して配布していただいて結構です(商業的用途を除く)。(C)2000-2002 Hideo FURUTANI /


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