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AI特許の取り方と活用

 

弁理士 古谷栄男
Hideo Furutani, Patent Attorney



AI特許とは?


ここでは、AIに関する特許をAI特許と呼びます。AI特許には、2つの種類があります。一つは、AI自体の技術に関するものです。学習処理の内容や、ニューラルネットワークの形成方法等に関するものです。
もう一つは、AIをシステムの中に組み込み、AIによる推論を利用して目的を達成するものなどです。AIを特定の分野に応用したものということができます。たとえば、AIによって動画中から人物を抽出し、建物に出入りする人の数を計数するシステムなどがこれにあたります。

AI自体の技術に関する特許はもちろん重要ですが、ビジネスにおいて利用価値が高いのは後者のAIを応用した特許だと思われます。そこで、以下では、AIを応用した特許について、その取得と活用について解説いたします。

なお、発明届出書の書き方については、発明届出書の書き方(AI応用発明)を参照してください。





AI特許取得の要件


一般に、特許を取得するためには、概ね以下の4つの要件を満足しなければなりません。

i)発明であること
ii)新規性があること
iii)進歩性があること
iv)発明を適切に記載して出願すること(記載要件)
これらの要件のうち一つでも欠いている場合には、特許を取得することはできません。

AI発明に関しては、ソフトウエア関連発明の一種と考えてよいので、要件i)〜iii)までは、ソフトウエア特許の基礎を参照してください。

要件iv)については、AI特許の出願において特に問題となる可能性がありますので、以下に説明しておきます。

(1)記載要件

通常のソフトウエア発明であれば、入力データをどのように処理して出力データが得られるかの論理(アルゴリズム)を出願書類(明細書)において説明する必要がある。この説明が不十分であると、発明が開示されていないとして出願が拒絶され、特許を取得することはできなくなります。この説明が不十分であったからとして、出願後に追加して完全な物とすることは認められないのが原則となっています。このため、出願の時点で、上記のアルゴリズムを十分に説明しておく必要があります。

しかし、AI発明においては、多数の学習データに基づく学習モデルの形成と、与えられた入力データを学習済モデルに与えて結果としての出力データを得るという流れで説明するしかなく、入力データに対してなぜそのような出力データが得られるのかという論理的なアルゴリズム(学習モデル内部の推論論理)は説明できません。このため、いままでの審査の考え方をそのまま適用すると、全てのAI発明は、説明が不十分であるとして拒絶されてしまうことになります。

この点につき特許庁はAI関連技術に関する事例についてにおいて、その扱いを示しています。大雑把にまとめますと、入力データと出力データとの間に、論理的な関係が推測できるものであれば、説明が十分であるとしているようです。

たとえば、野菜を栽培した人物の顔画像と、当該野菜の糖度とを教師データとして学習モデルを生成し、この学習済みモデルに、野菜を栽培した人物のが顔画像を入力して、当該野菜の糖度を推定するというAIシステムは、特許が取得できません(新規性、進歩性を判断するまでに門前払いとなります)。野菜を栽培した人物の顔画像と、その野菜の糖度との間に相関関係が存在することが認められないからです。これについて、どうしても特許取得が必要であれば、両者に相関関係があることを推認させるデータなどが必要となります。

一方、自動車の運転者の画像と、当該運転者の即応性(直ちにハンドル操作ができる状態にあるかどうか)に基づいて学習モデルを形成し、当該学習済みモデルに対し、運転者の画像を与えて、当該運転者の即応性を推定し、所定以下の即応性しかなければアラームを出力するというものであれば、特許を取得できる可能性があります(もちろん新規性、進歩性が必要です)。運転者の現在の状況(会話をしている、ハンドルから手を離している、ハンドルをしっかり握っているなど)と、即応性との間には相関関係があると推定されるからです。

注意点

以上のように、AI発明について特許出願をする時には、入力データと出力データとの相関関係が推認できるかどうかが問題となりますので注意が必要です。また、データによってこの相関関係を証明する場合(出願時に証明しておく必要があります)には、提出したデータの範囲内でしか権利が認められない可能性もありますので、注意が必要です。

一方、入力データと出力データとの相関関係が強固に推認される場合(つまり、そんなことは当たり前であると判断される場合)には、上記の記載要件の問題はクリアできますが、進歩性が無いといわれてしまう可能性が出てきます。このあたりの判断は、実務経験に基づく判断が必要ですので弁理士に相談してください。




AI特許の活用


AI特許の活用方法について説明します。

参入障壁としての特許

特許を取得することで、その製品やサービスについて、他社の参入を防ぐことができます。ユーザに評価されるポイントとなる部分について特許を取得できれば、類似製品や類似サービスが他社から出てきたとしても、差別化を図って利益率を維持することができます。

特に、AIを利用したサービスや製品はいままでのジャンルを超えるものも多く、そのような場合、特許によって、市場開拓のための投資に見合うだけの優位性を確保することも重要です。



特許性が低い場合の参入障壁

進歩性の要件を満たすかどうかが微妙で、出願しても特許が取れるかどうか分からない場合にどうするか、悩む方も多いようです。この場合、出願による牽制を用いるという方法があります。出願中であることをアナウンスすることで、他社が同じ内容のサービスの実施や製品の製造販売を自発的に中止することを期待するものです。他社の立場からすると、将来御社が5分5分の確率で特許を取得する可能性があるとなれば、実施を躊躇する可能性が高いからです。特許が取れるまでの間は、基本的に自由に実施できますが、御社が特許を取った瞬間に、在庫も含めて商品を出荷販売できなくなります。特に、他社がBtoBのビジネスで、企業相手に納入をしていた場合、それを購入して製造販売をしている企業も特許権侵害となり、顧客にも迷惑がかかりかねませんので、慎重にならざるを得ないからです。

このような方針にて出願をする場合には、出願審査請求(審査に着して欲しい旨の申し出)を、ぎりぎりの3年まで待つことが好ましいでしょう。早く審査結果が出て、特許が取れた場合はいいですが、取れなかった場合には、上記の牽制効果がなくなってしまうからです。



資金調達のため

AI関連のビジネスにおいては、大規模なシステムが必要なものもありますが、比較的小規模に開始できる場合もあります。スタートアップ企業がAIを用いて独自性を出し、資金調達を行うとする場合には、特許出願をしておいた方が良いでしょう。小規模に開始できるようなシステムでは、アイディアが勝負であり、特許による保護がなければ、財政的・人的資源の豊富な競争者が参入する可能性があるからです。特許出願を行うことで、投資家を安心させることができます。

スタートアップの資金調達と特許にまとめましたように、特許出願をしているスタートアップの方が、そうでないスタートアップよりも多くの資金を調達できているという現状があります。

NOTES


(C)2020 Hideo FURUTANI / furutani@furutani.jp

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