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スタートアップの資金調達と特許

 

弁理士 古谷栄男
Hideo Furutani, Patent Attorney



概要


 スタートアップ企業における資金調達(出資・融資・ファクタリング・助成金など)が、盛んに行われてます。フォー・スタートアップス社によりますと、2020年1月〜9月におけるスタートアップ企業の資金調達額ランキングでは、上位20社は、いずれも20億を超える資金を調達しています。詳しくは、同社発表の国内スタートアップ資金調達ランキング(2020年1-9月)を参照してください。また、同社が公開しているSTARTUP DBには、スタートアップ企業の資金調達の状況が多数示されています。

 この資料では、上記のSTARTUP DBに示された情報に基づいて、特許出願がスタートアップ企業の資金調達額に影響しているかどうかを探っています。あくまで、推論ですので気楽に楽しみながら読んでみてください。






調査方法


 上記STARTUP DBに示された企業からピックアップした企業について、同DBから資金調達額を得て、当該企業が行った特許出願を特許DB(特許庁のJPlatPatを用いました)にて検索しました。特許出願は、出願から1年6月経過しないとJPlatPatに掲載されませんので、出願をしているにもかかわらず、出願無しと判定されている可能性がある点ご注意ください。
 STARTUP DBからのピックアップは、「AI関連企業」「人事関連企業」「スポーツ関連企業」「製造業」「通信業」として分類されているスタートアップ企業から資金調達額が示されているものを選択しました(2020年8月当時のSTARTUP DBを用いています)。

注)なお、上記以外に分類されている企業も多数ありますが、「通信業」についての検索を行っている時点で、STARTUP DBの公開方法が変更されたため、この時点での集計結果を示しています。




特許出願と資金調達額との関係


 調査対象としたスタートアップ企業(のうち資金調達ができた企業)の総数は、291社でした。そのうち、特許出願を行っている企業は159社、行っていない企業は132社です。半数以上の企業が特許出願を行っていました。

 これら企業の資金調達額の合計は4790億円であり、そのうち、特許出願を行っている企業の資金調達額は3180億円、行っていない企業の資金調達額は1610億円でした。下のグラフにあるように、出願有企業は企業数で見ると55%の占有率であるのに対し、資金調達額では66%の占有率があります。1社あたりの資金調達額でみると、出願有企業は20億円、出願無企業は12.2億円となりました。出願有企業の方が、平均して8億円ほど多くの資金を調達できています。





 このように、特許出願をしている企業の方が多くの額の資金調達を得られているという結果が出ました。特許出願をしていること自体が資金調達において有利に働いたのか、あるいは、特許出願をするというようなマインドを持つ企業であるから有利であったのか、その点は明確ではありませんが、特許出願に対する意識は資金調達において重要な要素の一つであると思われます。

 次に、上記のように特許出願の有無によって資金調達額が変わるのであれば、資金調達における特許出願1件あたりの価値がいくらぐらいであるかを計算してみました。

 前述のように、1社あたりの資金調達額は、出願有企業で20億円、出願無企業で12.2億円でした。すなわち、出願を行っている企業は、1社あたりで7.8億円多く資金を調達しています。また、出願有企業の1社あたりの平均特許出願件数は12.2件でした。したがって、資金調達額の増加は、出願1件あたり、7.8億/12.2件=6393万円となります。

 このように、資金調達において、特許出願は1件で6400万円ほどの価値があるといえます。

 同様の検討を、スタートアップ企業の属する分野別に算出すると、以下のようになりました。

・AI関連企業 5.4億円/8.7件=6201万円(1社あたり調達増額/1社平均出願件数)
・人事分野企業 11.7億円/2.8件=4億2143万円
・スポーツ関連企業 11.7億円/13.1件=8931万円
・製造業 12.8億円/23.2件=5517万円
・通信関連企業 2.3億円/10.1件=2277万円

 分野別に見ても、概ね各分野において、特許出願は1件あたり6000万円前後の資金調達の増額をもたらすという結果が出ました。人事分野のスターアップ企業では、特許出願1件あたり4億を超える資金調達の増額が示されています。推測ですが、これは積極的に特許出願を行わない業界(事業内容の本質に起因して発明がなされにくい業界)においてこそ、特許出願をしていることの価値が相対的に高くなるのだと思われます。

 以上、全体的な傾向として、特許出願をしておくことがスタートアップ企業の資金調達においてメリットが大きいといえそうです。なお、上記はかなりラフな調査となっていますので、特定の分野に偏よらず全分野について検討すること、資金調達の時期と特許出願の時期の前後関係を検討すること(資金調達後の特許出願は省く)、PCTなど国際特許出願との関係を考察すること等、時間をみて追加調査を行って報告をいたします。
以上

(参考)元データをアップしておきますので、興味のある方はご覧になってください(ラフにまとめたものですので、間違いはご容赦ください)。スタートアップ企業の資金調達と特許の元データ。なお、元データ中、社名の*印は他のジャンルにおいて重複して登場している企業であることを示しています。

スタートアップの知財支援のご案内(古谷国際特許事務所)

NOTES


(C)2021 Hideo FURUTANI / furutani@furutani.jp

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