今回は、商標登録を受けたのに、使用形態が登録時とずれていたため、登録が取り消された事例を取り上げます。

 商標法には、不使用取消審判という制度があります。これは、登録はされているが使用されていない場合、登録を取り消すことで、これを使いたい人が使えるようにしようという制度です(商標法50条)。
 商標権者は、このような取消をさけるためには、登録された商標を使用する必要があります。登録された商標を使用といっても、完全同一である必要はありません。たとえば、ゴシック体で登録して明朝体で使用したり、アルファベットの大文字APPLEで登録して、これを全て小文字appleで使用したりします。この程度の変形であれば、社会通念上、同一であると扱われます。つまり、この程度の変形での使用であれば登録が取り消されることはありません。

ところで、商標の中には、アルファベットとその読みのカタカナの2段で構成された商標(二段併記と呼ばれています)です。たとえば、「ELATE」は「エラート」とも「エラテ」とも読めます。このような場合に、もし、「エラート」と読ませたければ、希望する読みを併記して、登録を受けます。

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このような二段併記の商標について登録を受けても、実際には、アルファベットだけを、使用してしまうことがあります。これは、商標権者としては、このアルファベット表記で「エラート」と読むと認識しているからです。
 では、このようなアルファベットだけの使用でも、登録商標を使っていると取り扱ってもらえるのでしょうか?、これは、商品・サービスの需要者・取引者がどう認識するかによって変わります。称呼(読み)、観念(意味)が同一である場合には問題ありませんが、それ以外については厳しいです。そもそも、二段併記で登録するのは、多くの場合、上記のような読みが固定化されないためでしょうから、その場合には、一方のみの使用では、登録が取り消されてしまうこととなります。

 ◆ブロマガ事件では、「BlogMaga」が「ブロマガ」としか読めないのかが争われました。 登録されていたのは、BlogMagaとブロマガの二段併記の商標で、使用していたのは、カタカナ表記のみでした。

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商標権者は、gを発音しない例がある、BlogMagaは、いまや、ブロマガと発音すると認識されているなど、主張しましたが、特許庁は、登録商標と同一ではないと判断しました。

知財高裁も「上段の「ブロマガ」部分からは,「ブロマガ」という称呼が生じる。また,下段の「BlogMaga」部分は,「Maga」が大文字の「M」で始まること,「dog」,「frog」のような「og」の語尾を持つ一般的な英語で「g」の発音を省略することはないこと,「Blog」は ウェブログの省略語として浸透している「ブログ」を想起させることから, 全体として「ブログマガ」という称呼が生じるものと認められる。そうすると,本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じるとい える。また,「ブロマガ」及び「BlogMaga」はいずれも造語であり, 特段の観念を生じるとは認め難く,本件商標からは特段の観念を生じない。イ 他方,本件使用商標は「ブロマガ」の文字のみからなるものであるから, 本件商標とは使用する文字の一部が共通するものの,外観,観念及び称呼 のいずれについても同一とはいえない。」と特許庁と同様の判断をしました。

二段併記の商標については、登録時はまだしも、CIなどの見直しで、使用形態が変更され、一方のみの使用に変わってしまうことがあります。もし、二段併記で登録を受けた場合、登録商標を使っているといいえるのかについて、検討しておく必要があるといえます。



 著作権法には『舞踊の著作物』が著作物の一例として明記されています(著10条1項3号)。ダンスの振付も、振付者の個性が表れていれば、著作物として保護されるわけです。たとえば日舞やパレエの振付はなどは、創作性が認められれば、著作物として保護されます。

 ◆Shall we ダンス事件では、社交ダンスの振り付けについて、「・・・の部分の振り付けは,単純な動きや基本ステップ及びアレンジを加えた基本ステップから構成され,・・・の振り付けの流れもありふれたものであることからすると,全体としてみても,この振り付けには社交ダンスの振り付けとしての独創性が認められるほどの顕著な特徴があるとはいえないというべきである。 」と創作性が否定されました。
 その意味では、フラダンスの場合も同じです。ひとつひとつの動きは決められているのを、どう、組み合わせるのかが、勝負なので、選択の余地無しとして、著作物とならないと判断されそうです。

 しかし、今回、◆フラダンス事件では、大阪地裁は一部について、著作物性ありとして、以下のように著作権侵害を認めました。
 「まず,1)の動作についてみると,原告は,右回りに回転しながら両腕を下ろし胸の前で交差させることで,暗い夜が続き,暗く寒くなっていることを表していると主張する。この点,甲25の他の振付け及び乙12の他の振付けはいずれも,手の動きについては本件振付け6と同様の動きをしているものの,その際にターンするものはない。ターンは通常のステップの一種ではある(乙5のスピンターン)が,「夜」や「寒い」といった静的な歌詞からターンすることはが通常想定されない上,両腕を降ろしながらターンすることによって体全体の躍動感を高めていることから,なお有意な差異があるというべきである。・・・2)の動作について見ると,原告は,聴衆と反対(後ろ)に向かって歩いていくことで彼が孤独であることを表し,両腕を下ろすことで抱きしめる者がおらず一人で寒い夜を過ごしていることを表\していると主張する。そして,この動作は,ここでの歌詞から想定されるものでない上,これと同様の動作を行っている類例は認められないから,本件振付け6独自のものであると認められる。」

個性とは何か?を考えさせられる事件ですね。

◆時計修理規約事件では、「疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点(例えば,腐食や損壊の場合に保証できないことがあることを重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言4と同7,浸水の場合には有償修理となることを重ねて規定した箇所が見られる原告規約文言5の1の部分と同54,修理に当たっては時計の誤差を日差±15秒以内を基準とするが,±15秒以内にならない場合もあり,その場合も責任を負わないことについて重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言17と同44など)において,原告の個性が表れていると認められ,その限りで特徴的な表\現がされているというべき」 と判断されてます。

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