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商品形態の模倣−オーブントースター用網焼きプレート事件−
 

The Case Regarding the Grill Plate for Compact Oven
Copying of Product Design Under the Unfair Competition Prevention Law
大阪地方裁判所 平成10年9月17日判決
平成7年(ワ)第2090号商品形態模倣行為差止等請求事件
平成8年(ワ)第13075号損害賠償請求事件


Hideo Furutani, Patent Attoney



抄録


本件事件は、オーブントースター用網焼プレートにつき、被告製品が原告製品の形態を模倣したものであるとし、被告らの行為が不正競争2条1項3号にいう不正競争に該当するとして、損害賠償の請求が認められたものである。

判決は、模倣の客観的要件につき、原告製品と被告製品には、相違点が存在するが、この相違点が被告製品において特に費用をかけて商品の機能上あるいは外観上意義のある改変が行われたものとも解しがたいから、両製品の実質的同一性を失わせるには至らない程度のものと認めるのが相当である、と判断した。

さらに、主観的要件につき、トレイや網の形状、模様等において具体的形態の選択肢があり得ると考えられるのに、被告らはあえて先行品である原告製品の形態と実質的に同一な形態を被告製品の形態として採用したものであるから、被告製品は原告製品の模倣であるというべきであると、判断している。



目次

  1.事件の概要
   1.1事実
   1.2争点

  2.判旨
   2.1被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものかについて
   2.2Y1Y2が損害賠償責任を負うとした場合に、Xに対して支払うべき金銭の額について

  3.研究
   3.1不正競争防止法2条1項3号の趣旨
   3.2商品の形態
   3.3商品の形態の模倣
   3.4独自開発の主張

  4.まとめ





1.事件の概要


1.1事実

X(原告)は、平成5年9月以降、オーブントースター用網焼きプレート(下図参照、以下「原告製品」という)を製造し、販売している。Y1(被告)は、オーブントースター用網焼きプレート(下図イ号物件およびロ号物件参照、以下「被告製品」という)を製造し、これをY2(被告)に納入し、Y2は、平成6年8月から販売している。

Xは、被告製品の形態は原告製品の形態を模倣したものであるから、Y1が被告製品を製造してY2に納入し、Y2がこれを販売することは、不正競争防止法2条1項3号にいう「不正競争」に当たるとして、不正競争防止法4条ないし民法709条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

1.2争点

本件の争点は、以下の2点である。
(1)被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものか。
(2)Y1Y2が損害賠償責任を負うとした場合に、Xに対して支払うべき金銭の額。

1.3争点に関する当事者の主張(被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものかについて)

(1)
被告Y1Y2は、次のように主張した。
@不正競争防止法2条1項3号の模倣はいわゆるデッドコピーに限定されるべきである。
A原告製品のトレイの縁は、内側が外周より一段低く段差が設けられているのに対して、被告製品は縁が平坦になっている。原告製品は、網の横柵の一が網の縦長のほぼ3等分する位置にあるのに対して、被告製品では縦長の両端に寄っている。かかる相違点のある被告製品が原告製品のデッドコピーでないことは明らかである。
B原告製品の形態の特徴であるi)トレイの各部にアールを付けた矩形状の形状、ii)網をトレイ内に載置し、網とトレイがフッ素樹脂加工によるシルバー調の色彩であること、ii)網の縦柵、横柵、縦柵のうちの2本を曲折して脚部を構成している形状のうち、i)ii)の特徴は、同種の商品が通常有する形態であって、保護の対象となる形態から除外されるものである。

これに対し、原告Xは、次のように主張した。
@不正競争防止法2条1項3号にいう模倣の客観的要件としての形態の実質的同一性とは、寸法が若干短いとか、細部がやや異なるとか、色調がわずかに異なるとかいう多少の相違はあっても、全体を観察してその両者の特徴が全く同一であることをいうのであり、この要件は脱法的な模倣を許さない程度に同一性の範囲を広げたものである。
A被告製品は、フッ素樹脂加工をしたトレイと網とが一体となった商品であるから、この点で、全体を観察すると原告製品と特徴が全く同一であることは明らかである。被告が主張する、被告製品と原告製品との差異は極めて容易に設定できるものであるし、かかる相違により、かえって、被告製品の性能は原告製品より劣ってしまっている。
B原告製品の成功を見て、同業他社が後追い商品を販売するようになったが、これら後追い商品では、それぞれ、網の有無、トレイ底面などに原告製品とは異なる特徴がみられる。また、網の形状が原告製品のように長方形ではなく、正方形も格子状の商品も販売されている。このように、網の有無・形状、トレイの底面に施す溝や突起の形状には多数のバリエーションが考えられるのであって、原告製品の形態が同種製品が通常有する形態とはいえない。

(2)
また、Y1Y2は、次のように主張した。
被告製品は、次のように、従前から製造販売してきた商品を参考に被告らが独自に製造販売したものである。
@Y1は、昭和63年8月以前から「シルバーストーン加工浅型天プラバット(小)フタ兼用タイプ(H−8200)」を製造販売している。右商品は、天プラバットだけでなく、オーブン用焼き皿にも適している旨をラベルに表示しており、トレイと網とをオーブントースターの付属品と別個の商品として扱ってきた。
AH−8200製品の網にはフッ素樹脂加工は施されていなかったが、網にフッ素樹脂加工をすることは、焼き網に広く採用されていたもので、被告製品は、従前から製造販売していた天プラバット用の網にフッ素樹脂加工することを採用したにすぎない。

これに対し、Xは、次のように主張した。
次の点から、被告H−8200製品をもって原告製品の先行商品ということはできない。@被告H−8200製品には、「オーブン用の焼き網にも適している」とのラベルが貼付されていたと主張するが、原告製品は、オーブンとは大きさ、用途、一般家庭への普及割合が格段に違うオーブントースター用の商品である。被告H−8200製品は、サイズが大きいため、ほとんどのオーブントースタで使うことはできない。
A被告H−8200製品は、バットのみであって、網を含まない。網は別製品である。
B被告H−8200製品は、本来天ぷら用バットに用いられる製品であって、原告製品のように初めからオーブントースターに用いることを意図した製品ではない。被告H−8200製品は、たまたまオーブン用の焼き皿にも用いることができるというにすぎない。

(3)
さらに、Y1Y2は、次のように主張した。
原告製品には、意匠権が成立する余地はなく、実用新案件が付与されることも考え難いし、また、不正競争防止法2条1項1号の形態の商品表示性、周知性も存在せず、著名な商品表示形態でもない。Xは、オーブントースターの付属品であったものを独立した商品として売り出したという先行アイディアをもって、他の同種商品の販売を禁止することを求めているのである。しかし、原告製品の形態そのものは、既存の形態である以上、それまで独立した商品として売り出した物がなかったという理由でこれを保護すべき理由はない。

これに対し、Xは次のように主張した。
不正競争防止法2条1項3号において、形態の模倣が不正競争行為とされているのは、先行者が資金、労力を投下して商品化し、市場に提供した成果を、模倣者が自らの資金、労力を投下することなく模倣して、競争上不公正な有利性を得る点にある。よって、本号の客体となる商品の形態には、特許法にいうような高度性や、進歩性、新規性も関係なく、意匠法でいう創作性も不要である。



2.判旨


2.1被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものかについて

原告製品の形態のうち、トレイが角部にアールがついた矩形形状であることは、横長形状のオーブントースターの付属品であるトレイの形状として従前からあった形状であり、右形状は同種商品が通常有する形態である。また、原告製品は、オーブントースター用網焼きプレートであるから、トレイに網を載置すること自体は、従来見られなかった構成であるとしても、同種の商品が通常有する形態である。さらに、フッ素樹脂加工自体は、フッ素樹脂加工が耐熱性に優れていることから施される機能に関するもので、製品の形態とは直接には関係のないことである。

原告製品は、角部にアールがついた矩形形状のトレイ内に網が載置してあり、トレイも網も鉄にフッ素樹脂加工を施してシルバー状の色調になっているという基本的形態を前提として、トレイは、2段になった縁を設けるとともに、底面に縁に沿った溝を形成し、網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された9本の横柵と、横方向に縦柵のほぼ3等分の位置に付設された2本の横柵と、左右の最外側の横柵を口の開いたU字状に曲折して設けられた4つの脚部とからなること、にその形態上の特徴がある。

上記の観点から原告製品と被告製品とを対比すると、基本的な形態が同一であるばかりでなく、上記形態上の特徴部分において酷似しており、両者は、実質的にほぼ同一の形態である。原告製品と被告製品には、いくつかの相違点が存在するが、いずれも共通点と対比すると微細な差にすぎず、この相違点が被告製品において特に費用をかけて商品の機能上あるいは外観上意義のある改変が行われたものとも解しがたいから、両製品の実質的同一性を失わせるには至らない。

原告製品は、販売を開始するや消費者に受け入れられ、ヒット商品になったことが認められ、Y2が、原告製品に遅れて被告製品を開発するに際して、開発担当者において市場で原告製品を見ていることがうかがわれる。原告製品と同種の「オーブントースター用網焼プレート」については、他社製品を見ても、同種の商品が通常有することになる基本的な形態を前提としつつも、トレイや網の形状、模様等において様々な具体的形態の選択肢があり得ると考えられるのに、Y1Y2は、あえて先行品である原告製品の形態と実質的に同一な形態を被告製品の形態として採用したものであるから、被告製品は原告製品の模倣である。

Y1Y2が、原告製品の販売開始前から製造販売してきた被告H−8200製品についてみると、これ自体、原告製品のように、加熱調理そのものに使用することを前提としているものではない。同製品のラベルに「オーブン用の焼き皿にも適している」旨の記載はあるが、これは当該商品の本来予定している以外の用途があることを示したものにすぎず、市販のオーブントースター一般に使用されることを予定したものとはいえないし、「天ぷらバット用アミ」も組み合わせてオーブントースター用に使うことまで予定されていたとは考えられない。したがって、被告H−8200製品は、原告製品や被告製品とは別個の種類の商品であるというべきであり、同製品についてのY1Y2の主張は採用できない。

被告製品は、原告製品の模倣であり、被告製品を販売することは不正競争防止法2条1項3号にいう「不正競争」に当たり、Y1Y2は、右不正競争行為をするについて少なくとも過失があるというべきであるから、Xに対して、次の損害賠償義務を負う。

2.2Y1Y2が損害賠償責任を負うとした場合に、Xに対して支払うべき金銭の額について

不正競争防止法5条1項にいう「利益」を算定するに当たっても、特段の主張・立証のない限り、売上額から、売上原価の他営業活動に伴う経費を控除するのが相当である。被告製品の売価が390円又は400円に相応する原価および経費の合計は、原告製品のそれである271.87円を上回らないものと認めるのが相当である。よって、1186万5601円が不正競争防止法5条1項に基づきY1Y2が得た利益としてXが被った損害と推定される。



3.研究


不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなどの行為を「不正競争行為」の一類型として定義している。かかる行為によって、営業上の利益を侵害された者、あるいは侵害されるおそれがある者は、行為者に対する差止請求を行うことができる(3条)。また、営業上の利益を侵害された者は、故意または過失のある侵害者に対し、侵害により生じた損害の賠償を請求することができる(4条)。
 本件は、@2条1項3号にいう「不正競争行為」の要件として、被告製品の形態が原告製品の形態を模倣したものか、A被告Y1Y2が損害賠償責任を負うとした場合に、原告Xに対して支払うべき金銭の額の2点について争われたものである。以下では、@被告製品の形態は原告製品の形態を模倣したものか、について考察を行う。

3.1不正競争防止法2条1項3号の趣旨

まず、不正競争防止法2条1項3号が規定された趣旨について考察する。他人が商品化のために資金・労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為は、競業上、不正な行為として位置づけられる必要がある。本号は、このような観点から、商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為(いわゆるデッドコピー)を不正競争と位置づけたものである*1

デッドコピーによる模倣者は、商品化のための労力、時間、費用が節約でき、商品開発者よりも競争上有利となる。したがって、デッドコピー行為を禁止することにより、商品開発に対するインセンティブを保障したものである。かかる観点、ならびに意匠法、特許法などとは別に、不正競争防止法において本号が設けられていることに鑑みると、規制の対象は、商品形態のデッドコピーに限定すべきであり、商品形態に表された創作的な成果までを保護するものとすべきでない*2

3.2商品の形態

上記の趣旨に鑑みると、本号に規定する「商品の形態」とは、商品の具体的な形態をいうものであって、アイディアや抽象的な特徴は当たらないとするのが妥当である*3。形態に表れた美的創作は意匠法や著作権法によって、形態に表れた技術的創作は特許法や実用新案法によって保護されるものだからである。

本号は、商品化の労力、費用を費やした商品開発者が、商品化のための労力、費用を節約できる模倣者よりも競争上不当に不利になる点を踏まえ、商品化の成果を、「商品形態」を通じて、不正な競争から保護するものである。したがって、創作保護法である意匠法や著作権法においては、保護の要件として、当該形態の創作的価値が求められる*4のに対し、本号における「商品形態」においては創作的価値があるか否かは問われない。

また、同種の商品が通常有する形態は、これを利用したからといって特定の形態の模倣とはいえず、また、そうでなくとも技術的理由などに起因する必然的な形態(マストフィット)については、これを独占させることが妥当でないことから、本号の適用を除外している*5。本件判決では、「原告製品の形態のうち、トレイが各部にアールが着いた矩形形状であることは、横長形状のオーブントースターの付属品であるトレイの形状として従前からあった形状であり、原告製品が横長形状のオーブントースター一般に使用されることを目的としたプレートである以上、右形状は同種商品が通常有する形態であるということができる。」としており正当である。

さらに判決は、「また、原告製品は、オーブントースター用網焼きプレートであるから、トレイに網を載置すること自体は、従来見られなかった構成であるとしても、同種の商品(ないし同一の機能及び効用を有する商品)が通常有する形態であるといわざるを得ない。」と続けている。かかる特徴を本号の適用から除外すべきという点では賛し得るが、トレイに網を載置するというな抽象的な構成を、あえて形態ととらえる必要があったかどうかは疑問である。このような抽象的な構成は、通常有する形態であると否とに拘わらず、本号にいう「商品の形態」には該当しないとする方が自然であろう。

3.3商品の形態の模倣

「商品の形態の模倣」とは、他人の商品の形態を盗用し、これと実質的に同一の形態を有する商品を意図的に作り出すことをいう。「形態の模倣」であるといえるためには、形態が実質的に同一であるという客観的要件、他人の商品の形態を知ってこれに依拠して自己の商品の形態を決定したという主観的要件が満たされなければならない*6
(1)形態が実質的に同一であること(客観的要件)
形態が実質的に同一であるとは、形態が同一であること又は酷似していることをいう。模倣された形態の創作的価値が問われない代わりに、形態が実質的に同一であるか否かの判断においても、創作的な観点からの同一性という広がりは考慮されるべきでない*7

模倣商品の形態が先行商品の形態と同一である場合には、問題は生じないが、実際の場面においては、模倣商品において何らかの形態上の改変が加えられている場合が多い。どの程度の改変までを、実質的な同一の範囲とするのかが問題となる。ここで考慮すべきは、模倣者の方が、商品開発者よりも商品化のための労力、費用を節約できてしまうという点が、商品形態の模倣を不正な競争として扱う理由であるということである。したがって、模倣商品における形態上の相違が、相応の労力、費用をかけてなされたであろうと言える程度に形態上意義のある改変に基づくと考えられる場合には、実質的に同一の形態であるとはいえない。これに対し、模倣商品における形態上の相違がわずかなものであり、相応の労力、費用をかけた形態上意義のある改変に基づくと考えられない場合には、実質的に同一の形態であるとすべきである。

本件判決においても、「(原告商品と被告商品の)相違点が被告製品において特に費用をかけて商品の機能上あるいは外観上意義のある改変が行われたものとも解しがたいから、両製品の実質的同一性を失わせるには至らない程度のものと認めるのが相当である。」として、実質的に同一であるという判断を下している。なお、東京高裁平成10年2月26日判決「ドラゴンキーホルダー事件(2審)」において、裁判所は、「改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、すでに存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえない」としている*8。また、東京地裁平成11年6月29日判決「腕時計事件」において、裁判所は「被告が相違点として主張する点は、針や竜頭の形状、文字盤の色、数字の字体、日付表示の有無等、いずれも改変の内容及び程度がわずかなものであって、当該改変を加えるにつき着想が困難であるとはいえないし、これらの改変によって相応の形態的特徴がもたらされていると認めることはできず」として、形態が実質的に同一であると判断している。本件判決もこれら判決も、概ね上記に示した判断基準に基づくと考えてよいであろう。

形態の同一性を判断するに当たっては、両製品を対比して酷似しているかどうかを判断すべきであり、需要者における混同を基準とすべきでない*9。本号は、需要者の混同を問題とするものでないからである*10。したがって、直接対比観察を行うべきであり、離隔的観察による判断をすべきではない*11。本件判決においても、対比的な観察が行われている。

形態の同一性を判断する方法としては、他の判決と同じように、本判決においても、原告製品の形態と被告製品の形態の特徴を認定し、その異同に基づいて判断を行っている。具体的には、
「@角部にアールを付けたほぼ同じ大きさ、縦横の比率で同じ幅の縁を有する矩形状のトレイ内に、網を載置してあり、トレイの底面には縁に沿った溝が形成されており、
A網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された9本の縦柵と、横方向に付設された2本の横柵と、左右の最外側の縦柵を口の開いたU字状に曲折して設けられた4つの脚部とからなり、
Bトレイは灰色とされ、トレイと網は何れも鉄にフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の Cオーブントースター用網焼きプレートという点で一致し、
D原告製品では、トレイの内側が外周よりも一段低くなっているのに対して、被告製品では、トレイの縁が平坦である、
E原告製品では、網を構成する2本の横柵が縦長にほぼ3等分の位置に付設されているのに対して、被告製品では、それぞれの端から、6分の1の位置に付設されている、 F原告製品では、縦柵に設けられた脚部の位置が横柵と端部の中間部であるのに対し、被告製品では、横柵よりやや中央よりであり、
G原告製品では、トレイ内に載置された網が黒色であるのに対して、被告製品では灰色である。
という相違がある。」
としている。

その上で、前述の同種製品が通常有する形態を考慮して、「原告製品の形態は、角部にアールがついた矩形形状のトレイに網が載置してあり、トレイも網も鉄にフッ素樹脂加工を施してシルバー状の色調になっているという基本的形態を前提として、トレイは2段になった縁を設けるとともに、底面に縁に沿った溝を形成し、網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された9本の横柵と、横方向に縦柵のほぼ3等分の位置に付設された2本の横柵と、左右の最外側の縦柵を口の開いたU字状に曲折して設けられた4つの脚部とからなること、にその形態上の特徴があるというべきである。」としている。そして、「基本的な形態が同一であるばかりでなく、右の形態上の特徴において酷似しており、両者は実質的にほぼ同一の形態であるということができる。」と判断した。
 特徴の異なる点だけに注目するのではなく、あくまでも形態全体として、同一性があるかどうかを判断すべきであり、この点、判決は妥当である。

(2)他人の商品の形態を知ってこれに依拠して自己の商品の形態を決定したこと(主観的要件)
このような主観的要件を、直接的に立証することは困難であるから、模倣者の先行商品へのアクセスあるいはその可能性や、客観的に形態が酷似していること(上記客観的要件)によって模倣の意図を推定してよいと考えられる*12。本件判決においても、「Y1が原告製品に遅れて被告製品を開発するに際して、開発担当者において市場で原告製品を見ていることがうかがわれる。」としたうえで、「トレイや網の形状、模様等においてさまざまな具体的形態の選択肢があり得ると考えられるのに、被告らはあえて先行品である原告製品の形態と実質的に同一な形態を被告製品の形態として採用したものであるから、被告製品は原告製品の模倣である」と判断している。裁判所は、大阪地裁平成10年11月25日判決「タオルセット事件」においても、「他に選択する余地があり得るにもかかわらず形態も取り合わせも実質的に同一の商品を販売したことからすると、被告は、被告商品を製作するに当たり、原告製品を主観的に模倣したものと推認される」とし、前記「腕時計事件」においても、「原告ら商品が販売される前にこれと同様の形態的特徴を有する腕時計が存在していたことをうかがわせる証拠はなく、しかも、被告商品及び原告ら商品の基本的な形態が同一又は極めて類似していることからみて、被告商品は対応する原告ら商品を基にしてその形態に若干の改変を加えて作り出されたと認められる」として、同様の判断をしている。

本件事件においては、原告Xが、原告Xや被告Y1Y2以外の者の製品の形態を示すことにより、被告Y1Y2において具体的形態の選択肢があり得たこと(つまり模倣であること)を示し、裁判所がこれを採用している。

3.4独自開発の主張

形態が酷似していたとしても、先行者と関係なく、労力、費用を費やして商品を開発したものである場合には、本号の適用はない。したがって、模倣の意図の推定に対しては、独自開発であることを反証することとなる。本件においても、被告Y1Y2は、被告製品が、被告H−8200製品を参考にして独自に開発されたものである旨を主張している。これに対し、判決は、被告H−8200製品の本来予定されている用途は、原告製品や被告製品と異なるのであり、被告H−8200製品は原告製品や被告製品とは別個の種類の商品であるというべきであるとして、被告Y1Y2の主張を退けている。

いずれにしても、商品開発の際には、その過程を立証できるような資料を準備しておくことが好ましい*13



4.まとめ


2条1項3号の「商品の形態の模倣」について、本件判決もそうであるように、客観的要件として、対比観察によって形態の実質的同一性を判断し、主観的要件として、先行商品の形態を知り、実質的に同一の形態を有する商品を作り出す認識があったかどうかを判断するという考え方は、判例においてほぼ定着したと見ることができよう。

ただし、前記ドラゴンキーホルダー1審と2審のように、同じく上記の考え方を採用しつつも、判断の異なる判決もあり、対比観察において、どの程度の具体的な形態を特徴として認定するかによって、その判断が異なることとなる。かかる点については、判決例の蓄積を待たねばならないであろう。

以上



注釈


*1渡辺哲也他「逐条解説不正競争防止法」38頁本文へ戻る

*2田村善之「不正競争法概説」208頁本文へ戻る

*3東京地裁平成9年6月27日判決「ミニチュアリュック事件」本文へ戻る

*4意匠法1条、3条、著作権法2条1項1号本文へ戻る

*5前掲田村218頁本文へ戻る

*6東京地裁平成8年12月25日判決「ドラゴンソード事件(1審)」において、裁判所は、「不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、すでに存在する他人の商品をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、行為の客体の面において、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に形態が同一であるか実質的に同一と言える程度に酷似しており、かつ、行為者の認識において、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか、実質的に同一と言える程度に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要」するとしている。本文へ戻る

*7これに対し、意匠権における意匠の類似範囲は、意匠の創作の同一性を考慮したものと考えることができる。本文へ戻る

*8なお、この事件の第1審で、裁判所は、「相違点が当該商品全体からすると微細であり、商品全体として観察すれば、両者の形態が実質的に同一と認められる場合には、競争のあり方として不当なことは、両者の形態が完全に同一である場合とかわりがなく」とし、被告商品の形態は実質的に同一であると判断した。なお、「ドラゴンキーホルダー事件(1審)」「ドラゴンキーホルダー事件(2審)」の解説は、川瀬幹夫「不正競争防止法2条1項3号他人の商品形態の模倣について」が詳しい。本文へ戻る

*9「ピアス穴保護具事件」本文へ戻る

*10 2条1項1号の類似判断においては、需要者の混同を基準とする。本文へ戻る

*11山本庸幸「不正競争防止法入門」57頁本文へ戻る

*12前掲山本56頁本文へ戻る

*13松村信夫「不正競争争訟の上手な対処法」280頁は、必要に応じて社外のデザイナー等を参加させたり、あるいは社外の者に、デザイン開発の業務委託をしたりして、商品開発過程を客観化・透明化することも検討されてよい、としている。本文へ戻る


NOTES


この論文は、「知財管理」1999年10月号に掲載したものの転載です。
この資料は、下記の著作権表示をしていただければ、複製して配布していただいて結構です(商業的用途を除く)。
(C)1999 Hideo Furutani / furutani@furutani.co.jp




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