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中古ゲームソフト判例からみる
デジタル著作物の保護に関する考察

Case study of secondhanded softawre
 

弁理士 松下正
Tadashi Matsushita, Patent Attorney



抄録


中古ゲームソフトの販売に関して、平成11年中に、東京地裁と大阪地裁で異なる判断がなされた。前者では、ゲームソフトは著作権法上の映画の著作物に該当せず、中古ゲームソフトの販売は適法であると判断された。一方、後者では、ゲームソフトは著作権法上の映画の著作物に該当するので頒布権で保護され、さらに、かかる頒布権は消尽しないので、中古ゲームソフトの販売は違法であると判断された。本稿では、両事件について解説するとともに、デジタル著作物の保護について言及する。



目次


  1.はじめに

  2.両事件における各争点の概略
   2.1 争点1
   2.2 争点2
   2.3 争点3

  3.両事件に関係する従来の判決
   3.1 映画の著作物について
   3.2 配給以外の頒布について

  4.各争点における著作権者および中古品販売業者の主張
   4.1 争点1「映画の著作物か否か」について
   4.2 争点2「頒布権が認められるか」について
   4.3 争点3「第一頒布で消尽するか」について

  5. 裁判所の判断
   5.1 東京事件
   5.2 大阪事件

  6.異なる結論となった要因について

  7.デジタル著作物の保護について



1.はじめに


中古ゲームソフトの販売に関して、東京地裁と大阪地裁で異なる判断がなされた。前者は、中古品販売業者であるX1が、ゲームソフトハウスであるY1に対して、中古ゲームソフトの販売差し止め請求権不存在の確認を求めたものであり(以下東京事件という)(注1)、後者は、ゲームソフトメーカーであるX2、X3、X4、X5、X6、およびX7が、中古ゲームソフトを販売しているY2およびY3に対し、販売の差し止め及び廃棄を求めたものである(以下大阪事件という)(注2)。

両事件で若干主張の仕方に違いはあるが、中核的な争点はいずれの事件も同じで、争点1:本件ゲームソフトは、著作権法2条3項(以下条項を示す場合は、すべて著作権法)の「映画の著作物」に該当するか否か、争点2:本件ゲームソフトは、26条1項の頒布権が認められるか否か、争点3:本件ゲームソフトに頒布権が認められるとした場合、当該頒布権は本件ゲームソフトが消費者に1度販売されたことにより消尽するのか否か、が争われた。なお、争点3は、争点1および争点2が肯定されることが前提となる。

東京事件では、本件ゲームソフトは著作権法上の映画の著作物に該当しないので中古ゲームソフトの販売は適法であると判断された。これに対して、大阪事件では、本件ゲームソフトは、著作権法上の映画の著作物に該当するので頒布権で保護され、かかる頒布権は消尽しないので、中古ゲームソフトの販売は違法であると判断された。

以下では、このようにほぼ同じ争点について、異なる判断がなされた理由について検討すべく、両判決の検討を行う。また、中古ゲームソフトの取り扱い、さらに、デジタル著作物の保護について言及する。



2.両事件における各争点の概略


2.1 争点1

著作権法は映画の著作物についての明確な定義を設けておらず、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物も含む」とだけ規定している(著作権法2条3項)。

争点1としては、ゲームにおけるインタラクティブ性が、上記規定における「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されている」および「物に固定されている」という各要件を具備するか否かが争われた。

2.2 争点2

著作権法は、条文上は映画の著作物であれば例外なく頒布権を認めている(26条)。争点2としては、もともとかかる頒布権は劇場用映画の配給という取引形態を保護することを目的としたものであり、劇場用映画以外の映画の著作物について頒布権は認められないのではないかが争われた。

2.3 争点3

著作権法は、頒布権について、消費者に一度販売されたこと(以下第一譲渡行為という)により消尽するという規定は存在しない(26条)。争点3としては、もともとかかる頒布権が劇場用映画の配給という取引形態を保護することを目的としたものであり、劇場用映画以外の映画の著作物について頒布権が認められるとしても、第一譲渡行為により消尽するのではないかが争われた。



3.両事件に関係する従来の判決


両判決を説明する前に、前記争点1〜3に関連する判例(下級審)について簡単に説明する。

3.1 映画の著作物について

ゲームソフトを映画の著作物として保護した例としてパックマン第一事件(注3)がある。この事件は、パックマンというゲームソフトが無断複製されたビデオゲーム機を過失により知らないで購入し、顧客に提供して利益を上げていたことが上映権侵害に該当するか否かが争われた事案である。裁判所は、ビデオゲーム機にインストールされているゲームソフト「パックマン」を映画類似の著作物であると認定し、上映権等があるとして原告勝訴の判断をなした。この事件における1つの争点は、操作者のレバー操作によって表示されるキャラクターの動きが変わるので、「表現がものに固定されている」という映画の著作物の要件(注4)を満たすか否かであった。この点について、裁判所は次のように述べている。「いかなるレバー操作により、いかなる影像の変化が生ずるかもプログラムにより設定されており、したがつて、プレイヤーは絵柄、文字等を新たに描いたりすることは不可能で、単にプログラム中にある絵柄等のデータの抽出順序に有限の変化を与えているにすぎない。そうすると、・・(中略)影像は、ROMの中に電気信号として取り出せる形で収納されることにより固定されている」

しかし、かかる事件は、昭和60年の著作権法の一部改正により、コンピュータプログラムが著作権法で保護される以前の事案であり、プログラムが著作物として保護されるようになってからも先例として意味を持つ判決であるかは疑問視する声もあった。

その後、裁判所は、パックマン第2事件(注5)でも、パックマン第一事件とほとんど同一の理由によって、映画の著作物としての複製権侵害を認めた。したがって、ゲームソフトはプログラムの著作物としての保護、および映画の著作物としての保護と、二重に保護されることが明らかになったといえる。

ただし、これらの事件は複製権侵害があったけれども、違法複製を行った主体が異なり複製行為自体を問題とできなかったという事案である。したがって、今回の東京事件、大阪事件のように適法な複製物が頒布された場合にも、同様の判断がなされるのかが注目された。

3.2 配給以外の頒布について

配給以外の形態による頒布が争われた事例として、一〇一匹ワンチャン並行輸入事件がある(注6)。この事件では、米国において、著作権者の許諾を得て製造販売された映画のビデオカセットを輸入し国内販売することが、我が国における頒布権侵害となるか否かが争われた。裁判所は、映画会社が世界各国において映画の劇場公開時期、ビデオの販売時期等を計画的に定め、映画製作のために費やした多額の資金の回収を図っていることを認めて、劇場用映画のプリントフィルムだけでなく、これを大量に複製し、転々流通することが予定されているビデオカセットについても、映画の著作物であるとして頒布権を認めた。

この事件では、劇場用映画が記録されたビデオカセットを販売した事例であり、東京事件、大阪事件では、劇場用映画ではないゲームソフトについての頒布を問題とするものであった。この点で、同様の判断がなされるのかが注目された。



4.各争点における著作権者および中古品販売業者の主張


東京事件・大阪事件で両者の主張に若干の違いはあるが、基本的な主張はほとんど同じであるので、以下では共通点をまとめて説明する。

4.1  争点1「映画の著作物か否か」について

4.1.1  著作権者側の主張
本件各ゲームソフトは、以下に説明するように、(1)映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、(2)物に固定されている(3)著作物であるので、2条3項にいう映画の著作物に該当する。

(1)について
ゲームの過程が動態的に影像化され、かつこれにシンクロナイズされた音楽が再生されて、視聴覚的鑑賞性を生み出しているものであるから、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されている。

(2)について
CD−ROMに記憶されているプログラムにより、テレビ受像機の画面上に影像が順次表示されるとともに、音声効果を生じさせていくというものであるから、本件各ゲームソフトにおける視聴覚的表現は、CD−ROMという有体物に再生可能な状態で固定されている。

(3)について
最終的な完成物としての視聴覚的表現に向けて様々な分野の担当者として製作に参加した者の、それぞれの個性に応じた精神活動の成果であって、そこには、各人の思想・感情が複合的に集積されている。

4.1.2  中古品販売業者側の主張
「映画の著作物」により表現される「思想又は感情」とは、「一本の映画全体を貫く思想又は感情」をいうのであり、当該著作物全体を貫く思想又は感情を視聴者に伝達しない連続影像は、映画の著作物とはいえない。ゲームソフトは、プレイごとに出現する連続影像が異なるから、既に述べたような思想又は感情を視聴者に伝達できる連続影像を有さず、映画の著作物には当たらない。

映画の著作物の要件である「物に固定されている」とは、ある特定の有体物を媒介とすることによって、特定の表現を再生できる状態をいう。映画の著作物において「物に固定」されるべきものは、著作者の思想又は感情を創作的に表現した連続影像群である。コンピュータゲームに代表されるインタラクティブな表現物では、プレイヤーの操作等によって表示される影像が変化するから、特定の連続影像群を、特定の組み合わせで、特定の順番で映写幕等に映し出すことは事実上不可能である。したがって、ゲームソフトは、「物に固定」されていない。
またゲームソフトについて映画の著作物であると認めた下級審裁判例があるけれども、違法複製等の事案であって、本件とは事案の利益状況に著しい差異があり、本件についての先例的な意味はない。

4.1.3 著作権者側の反論
中古品販売業者側の主張に対して、(1)インタラクティブ性は映画の著作物であることを阻害しない、(2)頒布権は劇場用映画以外についても認める意図の下に制定された、と反論した。

(1)プレイヤーの操作によつて映し出される影像が変化するとしても、いかなる操作によりいかなる影像の変化が生じるかはすべてCD−ROMに収録されたプログラムに設定されているのであるから、表現が物に固定されているとの要件を満たすことに変わりはない。2条3項にいう表現の固定とは、要するに映画的表現が媒体である物に収められて保存され、必要なときに再生できる状態を指すのであって、影像が常に同じ組合せ及び順番で再生されるといった表現内容の固定性をいうわけではない。
(2)立法の動機が劇場用映画の保護にあるとしても、制定当時には転々と譲渡される形態のものをも含める意図の下に「映画の著作物」が定義され、除外規定もないから、その範囲を限定して解釈するのは許されない。

4.2  争点2「頒布権が認められるか」について

4.2.1  著作権者側の主張
26条1項は、特段の限定を付さず、映画の著作物について一般的な形で頒布権を認めている。本件各ゲームソフトが2条3項に規定する映画の著作物に当たる以上、26条1項の頒布権が認められる。

映画の著作物に頒布権が認められた立法の動機は、劇場用映画に限定する意図であったとしても、制定当時には転々と譲渡される形態のものをも含める意図の下に2条3項で「映画の著作物」が定義され、右形態のものを除外する旨を規定することなく映画の著作物に頒布権が認められているのであるから、頒布権が認められる範囲を限定して解釈すべきでない。

4.2.2  中古品販売業者側の主張
著作権法が、映画の著作物に関しては著作権者に無限定な頒布権を認めるかのような規定の仕方(26条、2条1項19号)をしているのは、劇場用映画の特殊性が認められたものである。すなわち、映画製作会社は、興行収益のために、劇場用映画フィルムの配給という形で社会的な取引の実態をおこなっていた。また、劇場用映画フィルムは経済的効用度が高く、一本のフィルムによって多額の収益をあげることができることから、その行き先を指定する権利としての頒布権が認められた。また、ベルヌ条約の履行として頒布権が創設されたという経緯がある。

したがって、劇場用映画のような上映による収益を予定しておらず、複製物が多数製造販売されてそれらが需要者たる公衆へ直接譲渡されることが予定されているものにまで頒布権を認めることは、それが著作物の流通を支配し、市場をコントロールすることをも可能とする強力な権利を認めることとなり、他の著作物の保護範囲と比較して均衡を失する。

4.2.3  大阪事件にみる両者の主張
大阪事件では、さらに、以下の点(1)、(2)、(3)が主張された。

4.2.3.1  著作権者側の主張
(1)頒布権を認めた趣旨
我が国の頒布権は、劇場用映画の配給制度だけが根拠ではなく、多額の製作費を要する映画の著作物については、著作権者がその製作費を回収する機会を保障する点にある。多額の製作費を要する点はゲームソフトも同様である。

(2)劇場用映画との同一性
ゲームソフトは、極めて多数の者が組織的に協力をし合い、その創作活動を集約することによって、総合芸術として一つの作品が完成される。製作に携わる者の役割分担等の状況も、劇場用映画の製作過程とほとんど同様である。その製作に要する期間及び製作費の水準も、劇場用映画と同じである。したがって、ゲームソフトの製作過程等の観点からも、ゲームソフトと劇場用映画を区別する合理的理由を見出すことはできない。

(3)資金回収の機会の確保
ゲームソフトは、デジタル方式によってCD‐ROM等の媒体に固定されており、繰り返し使用された中古品であっても劣化がなく、新商品と同様にゲームを楽しむことができるから、新品と中古品とは市場が競合し、また、中古ゲームソフトの買入と販売の反復行為が貸与類似の効果を生じることから、著作権者は十分な資金回収の機会を奪われている。

4.2.3.2  中古品販売業者側の反論
(1)(2)について
映画の著作物に限って頒布権を認めたのは、映画館等の劇場において多数の公衆が同時に映画を鑑賞するという映画の一般的利用形態及びこれを前提とする映画の流通形態に特殊性を認めたからであって、映画の製作過程に特殊性を認めたからではない。したがって、ゲームソフトの製作過程が劇場用映画と類似するとしても、そのことをもって、頒布権を認める根拠とはならない。

(3)について
ゲームソフトについて、媒体としてのCD‐ROMが劣化しないということはなく、他の著作物と比較して異なることはない。実際には、本件各ゲームソフトについて、著作権者は投下資本の回収を果たして、十分な利益を上げている。

4.3  争点3「第一頒布で消尽するか」について

4.3.1  著作権者側の主張
以下の理由により、映画の著作物に認められる頒布権は、最初の頒布によって消尽するものではなく、二次以降の頒布行為にも効力を及ぼすものと解すべきである。

(1)諸外国において、頒布権が二次以降の頒布に効力を及ぼさないものとするときには、その旨の規定を置くのが一般的であるが、26条1項にはそのような規定がない。

(2)著作物一般についての頒布権の導入と右頒布権についての消尽原則の適用が立法上の検討課題となっているところ、立法当局は、26条1項の頒布権は消尽しないものであるとの認識を表明している。

(3)2条1項19号によると、「頒布」は「貸与」を包摂する概念として規定されている。貸与行為は複製物の最初の譲渡が行われた後に行われることが一般的であるから、貸与権は最初の譲渡によつて消尽しない権利と解される。そして、頒布権は、このように消尽しない貸与権を内包しているのであるから、同様に消尽しない権利と解さないと、合理的関係を保てない。

(4)ベルヌ条約では映画の著作物の頒布権が最初の頒布によって消尽するか否かについては、明らかでなく、WIPO著作権条約では、頒布権が最初の頒布によつて消尽するものとするかどうかは国内法に委ねられている。

4.3.2  中古品販売業者側の主張
仮に、本件各ゲームソフトが「映画の著作物」に当たり26条1項の頒布権が認められるとしても、次に述べる理由により、適法に複製された複製物が適法に譲渡された場合には、頒布権は当該複製物に関する限り消尽し、その後の譲渡等の行為には及ばないものと解すべきである。

(1)ベルヌ条約における映画の著作物の頒布権は、第一頒布のみに及び、いったん頒布された後の再頒布には及ばないとされている。

(2)WIPO著作権条約で認められている一般的頒布権は、国内及びEUなどの域内における第一頒布によって国内や域内での頒布権が消尽することが前提となっている。

(3)諸外国の立法でも頒布権を認めている国では、頒布の意味を限定したり、第一頒布により頒布権は消尽するとの法原理を認めている。

(4)特許権等の工業所有権における権利消尽の原則(注7)は著作権にも適用されるべきである。



4.裁判所の判断


5.1 東京事件

東京事件では、映画の著作物に頒布権が認められた背景に注目し、頒布権が認められるのは配給制度が確立している劇場用映画に限られると判断した。すなわち、裁判所は本件ゲームソフトは映画の著作物ではないので頒布権が認められず、本件中古ゲームソフトの販売は適法であるとした。

5.1.1  争点1、2について
著作権法は、「映画の著作物」(10条1項7号)に関して、明確な定義規定を置いていない。したがって、ゲームソフトが映画の著作物に該当するか否かは、映画の著作物に認められている規定を総合的に考察して判断するしかない。著作権法は映画の著作物のみに頒布権を認めている。これは、劇場用映画における配給制度を用いた著作物の利用という特殊性を考慮したことによるものである。

具体的には、(1)劇場用映画は、オリジナル・フィルムを基にして複製物を映画館にて一度に多数の観客に鑑賞させるという形態で利用されるものであり、個々の複製物が、上映による多額の収益を生み出す。(2)また、他の著作物のように多数の複製物が公衆に直接販売されるのではなく、少数の複製物が専ら映画館に貸し出されることにより、流通させるという配給制度を通じて、興行収益を見越して上映の地域的な範囲・順序や期間などを戦略的に決定することで、投下した資金の回収を行ってきたという社会的な実態が存在した。

著作権法は、このような劇場用映画特有の利用形態に鑑み、複製物の流通全般をコントロールし得る地位を保障することが適当であるとの立法政策的な判断から、映画の著作物のみについて、前記のような内容の頒布権を認めたものというべきである。
 このような劇場用映画の著作物特有の効果から考えると、著作権法上の「映画の著作物」とは、@その著作物が、一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであって、A同一の連続影像が常に再現されるものであることを要する。

これに対して、本件ゲームソフトでは、表示される影像の内容及びその順序はコントローラの操作により決定されるため、同一のゲームソフトを使用しても、コントローラの操作に応じて、表示される影像の内容や順序はプレイごとに異なる。したがって、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表された著作者の思想又は感情の表現が存在せず、また、右表現が物に固定されているということもできないから、著作権法2条3項にいう「映画の著作物」に該当しない。

5.1.2 争点3について
争点3は争点1、2で「頒布権の認められる映画の著作物」に該当することが前提となるので、当然判断されていない。

5.2 大阪事件

大阪事件では、映画の著作物が他の著作物とは異なる頒布権が認められたのは、製作に労力費用がかかる反面、一度視聴されてしまえば視聴者に満足感を与え、同一人が繰り返し視聴することが比較的少ないという特性が考慮されたものとして、このような特質を有する著作物であれば、第一譲渡によって消尽しない頒布権が認められるべきであると判断した。すなわち、中古ゲームソフトは販売は違法であるとした。

5.2.1  争点1について
争点1については、映画の著作物として著作権法上の保護を受けるためには、(1)映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること、(2)物に固定されていること、(3)著作物であることが必要であるとし、以下のように各要件を判断し、「映画の著作物」に該当すると判断した。

(1)について
この要件は、この規定の文言から見て、「映画の効果」としてその視覚的又は視聴覚的側面を捉えたものと解するのが自然である。中古品販売業者側の主張のように、一本の映画全体を貫く思想又は感情まで要求しているという考え方は、表現方法の要件というよりは、後述する「(3)著作物性の要件」に関わる問題である。

本件について(1)を判断すると、全体が連続的な動画画像からなり、影像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽と相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており、一般の劇場用アニメーション映画に準じるような視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されている。

(2)について
固定性要件が課されているのは、生成と同時に消滅していく連続影像を映画の著作物から排除するためのものにすぎず、劇場用映画のように、映画フィルムを再生すれば常に同一の連続影像が再現されるのでなければ、「物に固定されている」とはいえないと解すべきものではない。本件では、CD‐ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであり、そのデータはいずれもCD‐ROM中に記憶されているから、固定性の要件を満たしている。

(3)について
ゲームソフトの著作者は、かかる操作による影像の変化の範囲をあらかじめ織り込んだ上で、ゲームのテーマやストーリーを設定し、様々な視覚的ないし視聴覚的効果を駆使して、統一的な作品としてのゲームを製作している。また、最近、インタラクティブ映画と呼ばれる形式の劇場用映画が試験的にではあるが現れている。かかる映画では、観客の反応に応じて、複数用意された影像が選択されてストーリー展開が変化する。このように、現行著作権法の制定時に観念されていなかった映画を、映画の著作物の概念から除外する合理的な根拠ないし必要性があるとも考えられない。

5.4.1 争点2について
争点2については、(1)条文の規定ぶり、(2)条文制定までの経緯、および(3)頒布権が認められた映画の著作物特有の点を考慮して、ゲームソフトに頒布権が認められると判断した。

(1)について
「頒布」とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」(2条1項19号)と定義するともに、映画の著作物について、著作権者が頒布権を専有する旨を定めており(26条1項)、映画の著作物の中で頒布権を認めるものとそうでないものとの区別をしていない。したがって、争点1で判断したとおり、本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上は、著作権者である原告らは本件各ゲームソフトについて頒布権を有する。

また、昭和59年に貸与権(26条の2*注8)が認められた際に、映画の著作物については頒布権があることから貸与権の規定の適用を除外された。しかし、当時、既に貸ビデオも存在していたから、立法者は、ビデオソフトも映画の著作物に入り、映画の著作物の頒布権によって規制できると考えていたことが明らかである。したがって、現行著作権法は、配給制度によらず、多数の複製物が公衆に販売されるようなものも映画の著作物に含まれることを前提としていると解さざるを得ない。

(2)について
著作権法は、審議の過程で配給制度とは直接の関係がないと考えられる放送用映画についても映画の著作物に含まれることを予定して成立した。

(3)について
配給制度の存在という社会的事実を前提として、映画の著作物のみに頒布権が認められた背景には、映画の著作物は、製作に多大な費用、時間及び労力を要する反面、一度視聴されてしまえば視聴者に満足感を与え、同一人が繰り返し視聴することが比較的少ないという特性が考慮されているものと考えられる。このような性質を有する映画の著作物について、投下資本の回収の多様な機会を与えるために、頒布権を特に認めて、著作権獅るといえる。

確かに、音楽CDは、レンタル業が盛んになってからの方が全体としての売り上げが伸びたということも耳にする。また、中古市場があるから、新品を安心して買うことができるので、悪影響どころか、共存共栄の関係にあるという見解もある。さらに、著作権者は複製物の販売時に利益を得ているので、中古品の販売もコントロールできるというのは行き過ぎという見解もある。しかし、著作権法は昭和59年の一部改正により、貸与権を認めた。これは、一度著作権者が複製物の販売を通じて利益を得ている場合であっても、レンタル業者が、著作物の利用によって利益を得ており、これが著作権者の利益を圧迫するようになってきたという状況が社会的に問題となったので、これをコントロールする権利を著作権者に認めたものはないのだろうか。かかる趣旨の下、何らかの保護を著作権者に与えるべきではないだろうか。

ただ、中古品に何らかの保護を与える場合に考えなければならないことは、著作物の利用という観点である。すなわち、中古品は一切認めないというのは、著作物の利用という観点から好ましくない。そこで、私見としては、著作権者に再販による利益を還元できる制度を構築することを提案する。具体的には、実演家がレコードの二次的利用について使用料を請求できるように、一度販売した複製物については、これに独占権は認められないが、その利益について一定の割合の補償金を請求することができるというものである。これについても、ではその料率はどう考えるのか等、いろいろな問題が残っている(注10)。

なお、平成12年1月1日から、一般の著作物についても第一譲渡をコントロールする譲渡権が認められるようになった。そして、かかる譲渡権規定のきっかけとなったWIPO著作権条約でも、著作権者の保護を厚くする特則を設けることが禁止されているわけではない。いままでの、伝統的な著作権法の歪みがまさに、問題視されているといえる。一刻も早く、立法的解決が必要なのではないだろうか。
以上



注釈


(注1)東京地判平成11年3月16日平成10年(ワ)第22568号

(注2)大阪地判平成11年10月7日平成10年(ワ)第6979号、平成10年(ワ)第9774号

(注3)東京地判昭和59年9月28日・参考文献判例時報1129号120頁

(注4)著作権法2条3項は「この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定する。

(注5)東京地判平成6年1月31日・参考文献判例時報1496号111頁

(注6)東京地判平成6年7月1日・参考文献知裁集26巻2号510頁・判例時報1501号78頁・判例タイムズ854号93頁

(注7)権利者によりいったん適法に取引に置かれた特許製品等については、特許権等はその目的を達成したものとして消尽し、その後の使用、譲渡等に対してその効力が及ばないという考え方が一般的である。

(注8)平成11年の著作権法の一部改正にて、映画の著作物以外の著作物についても、譲渡権が新設された(26条の2)。
(注9)平成11年の著作権法の一部改正にて、26条の2に譲渡権が新設されて、貸与権は26条の3となった。

(注10)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、2000年2月に、中古ゲームソフト売上の中から一定比率で著作権使用料を徴収し原著作者に配分するなどの活動する中古ゲーム・ソフトに関する著作権集中管理組織を設立する準備に入ったと、発表した(ACCSのHP )



NOTES


この資料は、知財管理2000年5月号に掲載したものの転載です
(C)2000 Tadashi Matsushita / matsushita@furutani.co.jp




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