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ソフトウエア審査運用指針の改正と特許出願
(C)1997.5.27 弁理士 古谷栄男
1997年5月に開催された「ソフトウエア・マルチメディアの特許・著作権」
に関するセミナー資料の一部分です


1.はじめに

 特許庁は、1997年4月1日、ソフトウエア関連発明についての審査基準を改正し、審査運用指針とした。今回の改正では、媒体特許を認め、ソフトウエアに対する保護を強化した。以下、今回の改正に伴う、実務上の影響について解説を行う。

2.実務上の影響

2.1媒体クレームの導入

2.1.1プログラム記録媒体クレーム

 今回の改正により、プログラムを記録した記録媒体が保護対象として認められるようになった。従来は、装置あるいは方法としてしか権利の請求が認められていなかった。たとえば、ワープロの発明であれば、ワープロ装置またはワードプロセシング方法として権利を取得することができた。

 侵害品が、ワープロ装置として販売されたり、ワードプロセシング方法を使用するものである場合には、特許権侵害として追求することができた。しかし、侵害品がワープロソフト(パッケージソフト)として販売された場合、ワープロ装置そのものが販売されるわけではないため、直接的な侵害としてこれを追求することはできなかった。かかる場合に、当該ワープロソフトを記録したFD等が、特許対象となっているワープロ装置の生産(ここでは、コンピュータにインストール行為を指すものとする)にのみ用いられるものであることを立証すれば、間接侵害として追求可能である(特許法101条)。しかし、この「のみ」であることの立証が困難である場合が生じるであろうと予想されてきた*1。つまり、侵害としての追求に困難が伴うことが予想された。

 今回の改正により、プログラムを記録した記録媒体が保護対象となったので、上記の問題は解決された。つまり、上記の例でいえば、ワープロプログラムを記録した記録媒体として特許を取得しておけば、ワープロソフトの侵害品に対しても直接侵害として権利行使を行うことができる。したがって、FD、CD−ROM、ROM等の記録媒体単体での取引が予想されるものについては、記録媒体のクレームを記載して、これについて特許を取得するべきである。

 ただし、プログラム媒体特許も万能ではない。たとえば、サーバからオンラインダウンロードによるソフトウエアの販売においては、記録媒体が取引対象となっていないので、上記と同様には考えることができない。ただし、サーバを運営するものが「販売の申出」を行っていると見て侵害とし、サーバの差し止めを行うことは可能であろう。また、この場合、サーバが国外にある場合の取り扱いは簡単でない。これについては、商標の事件であるが、米国のPlaymen事件が参考となる。この事件では、外国からの配信行為につき、外国のサーバを停止することはできないが、国内から当該サーバへのアクセスを禁止する措置をとるよう判決が下された。

 また、OSとアプリケーションとの関係も問題となる。たとえば、「A機能、B機能、C機能を実現するプログラムを記録した記録媒体」として特許を取得したとする。侵害品がA機能、B機能をもったアプリケーションプログラムである場合、侵害となるであろうか。一般的には、C機能を備えていないので、非侵害といえるであろう。しかし、このC機能がOSによって実現されるとしたらどうであろうか。結果的には、ユーザのマシン上で侵害品が構成されるのである。この場合、アプリケーションプログラムを生産・販売した事業者を追求するには、間接侵害の理論を持ち出さねばならない。

2.1.2構造を有するデータを記録した記録媒体

 今回の改正において、プログラムを記録した記録媒体だけでなく、構造を有するデータを記録した記録媒体も特許対象として認められるようになった。たとえば、新たなデータ圧縮の方法を発明した場合、圧縮後のデータ構造が特殊な構造になっていれば、構造を有するデータを記録した記録媒体として特許取得しておくべきである。

 もちろん、圧縮の方法が斬新であるから、圧縮プログラムを記録した記録媒体について特許を取得できるのは当然である。しかし、このようなプログラム媒体だけしか特許を取得しなかった場合、侵害者が圧縮プログラムを用いて画像データを圧縮し、当該圧縮後の画像データを光ディスク等に記録して販売しているようなケースでは、侵害として追求が困難である。このような場合、侵害者は社内においてのみ圧縮プログラムを用いているため、その立証が困難だからである。

 そこで、構造を有するデータを記録した記録媒体(データ記録媒体)として特許を取得しておけば、上記のような場合においても、販売された光ディスクに基づいて、侵害としての追求を容易に行うことができる。したがって、データ記録媒体についてのクレームも可能な限り設けておくべきである。

 なお、上記圧縮の例のように、何らかの処理を行った後のデータ構造に特徴がある場合の他、何らかの処理(たとえば検索)を行うために適した特徴的なデータ構造を有する場合も考えられる。

2.2記録媒体について

 記録媒体の意義については、合理的に解釈されるべきものである。コンピュータを動作させるためのFD、CD−ROM、ハードディスク等は、この概念に含まれるであろう。ただし、プログラムの印刷された雑誌等は、形式的に記録媒体に当たるとしても、ここにいう記録媒体に該当しない。

 なお、記録媒体にどのようなものを含むのかは、明細書中において定義しておくことが好ましい。

 また、米国の審査官トレーニングマニュアルにおいては、「データを実体化した搬送波」という表現にて特許可能である旨が記載されている。

2.3明細書の記載における留意事項

2.3.1プログラム記録媒体

 プログラム記録媒体をクレームするのであれば、プログラムの処理内容(機能)をフローチャートにより説明することが好ましい。この場合、当該プログラムの処理内容のみを示すフローチャートを記載するべきであろう。なお、当該プログラム以外の処理がある場合には、別のフローチャートとして記載すればよい。

 クレームの末尾は、「記録媒体」とする。審査の実務においては、「記録媒体に記録したプログラム」という表現は認められていない。

 前述のように、記録媒体を例示して示しておくことが好ましい。また、図面中に、当該記録媒体を描いておくことが好ましい。

2.3.2データ記録媒体

 データ記録媒体をクレームする場合においても、その前提となるプログラムの処理については、上記と同じようにフローチャートを用いて説明しておく。さらに、データ構造を図示して説明しておく。特に、当該構造と処理(圧縮処理や検索処理)との関係を明確にしておく必要がある。

 クレームの末尾は、「記録媒体」とする。審査の実務においては、「記録媒体に記録したデータ」という表現は認められていない。

 前述のように、記録媒体を例示して示しておくことが好ましい。また、図面中に、当該記録媒体を描いておくことが好ましい。

2.3.3発明の成立性に関して

 ゲームソフト、会計ソフト等の場合で、コンピュータを用いたことによって、発明としての成立性を得る場合には、どのようにコンピュータを用いたのかを明示しておく。たとえば、どのようなファイルを形成したのか、各ファイルの有機的関係はどうなっているのか等を明示する。

2.4媒体特許の適用時期

 媒体特許は、出願日が1997年4月1日以降の出願について認められる。この適用日は、分割出願・変更出願の場合には、原出願日によって判断される。

 また、国内優先を主張した出願については、現実の出願日を持って上記の適用の有無を判断する。したがって、1996年4月1日より後の出願であれば、国内優先を主張して媒体クレームを追加することにより、媒体特許の取得が可能となる。なお、1997年3月31日以前の出願において、媒体クレームを記載している場合には、同じ内容にて国内優先の主張を行った出願をしなければ、媒体特許を得ることはできないので注意が必要である。

以上

特許法によるソフトウエア保護の現状と課題も参照のこと
*1たとえば、当該FDにワープロソフトだけでなく、表計算ソフトも記録されていた場合、そのFDはワープロ装置の生産に「のみ」用いるとは言い難くなる。また、販売されているソフトウエアが、特許の機能だけでなく他の機能をも有する場合に、同様の問題を生じうるという指摘もある。本文へ戻る

 


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