宅配ボックスと中食配送システムについて、組み合わせの動機付けありと認定し、拒絶審決が維持されました。裁判所は、利用者宛ての荷物について,システムから利用者に対しメール通知を行う点で共通の技術分野に属すると言及しました。
(2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。
好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が
可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために
(【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが
荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供
者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食
を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管
理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された
内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上
記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し,
中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ
た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー
に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が
中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知
する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】〜【006
6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス
から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ
が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ
して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配
送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合
には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る
中食配送システムというものである。
したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ
ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利
用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する
ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム
において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上
させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便
性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ
たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者
自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく
荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001
9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増
加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター
ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ
ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配
送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当
である。
そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引
用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい
て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対
し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて
いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入
力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引
用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係
るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一
切存しないと主張する。
しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としているわけではないし(甲2の【0016】〜【0019】),配送対象の荷物が高価
であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通
性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共
通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要
因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に
おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構成して相違
点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。
◆判決本文