H17. 3.24 東京高裁 平成16(行ケ)440 特許権 行政訴訟事件

平成16年(行ケ)第440号 特許取消決定取消請求事件(平成17年3月10日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告    株式会社デンソー
       訴訟代理人弁理士   碓氷裕彦
       同          加藤大登
             同          伊藤高順
       被      告   特許庁長官 小川洋
       指定代理人      岡本昌直
       同          橋本康重
             同          岡田孝博
             同          伊藤三男
          主           文

          原告の請求を棄却する。
          訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
    特許庁が異議2003−71741号事件について平成16年8月12日にした決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
    原告は,名称を「受液器付熱交換器」とする特許第3365368号発明(平成14年11月1日設定登録,以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)に係る特許権者であり,その特許出願(特願平11−261133号,以下「本願」という。)は,平成3年4月26日にした特許出願(特願平3−96962号,優先権主張日平成2年10月4日・日本,以下「原出願」という。)の一部を,平成11年9月14日に分割して新たな特許出願としたものである。

    本件特許につき特許異議の申立てがされ,同申立ては,異議2003−71741号事件として特許庁に係属した。特許庁は,同事件につき審理した結果,平成16年8月12日に「特許第3365368号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年9月6日,原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
    圧縮機によって圧縮された冷媒を凝縮する凝縮部と,この凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部と,前記凝縮部と前記過冷却部との間に配され,前記凝縮部を通過した冷媒を気液分離するとともに冷媒を貯留する受液器とを備える受液器付熱交換器であって,
    前記凝縮部は,略水平方向に複数平行配置される偏平状の凝縮部チューブと,この凝縮部チューブに熱的に結合し,凝縮部チューブ内を流れる冷媒と空気との熱交換を促進させる凝縮部フィンとを備え,

    前記過冷却部は,略水平方向に複数平行配置される偏平状の過冷却部チューブと,この過冷却部チューブに熱的に結合し,過冷却部チューブ内を流れる冷媒と空気との熱交換を促進させる過冷却部フィンとを備え,
    上下方向に伸びる筒形形状をなし,前記複数の凝縮部チューブおよび前記複数の過冷却チューブの一端が内部に挿入される第1タンクと,
    上下方向に伸びる筒形形状をなし,前記第1タンクと平行に配され,前記複数の凝縮部チューブおよび前記複数の過冷却チューブの他端が内部に挿入される第2タンクと,
    前記第1タンク内で,前記複数の凝縮部チューブのうち,最も前記過冷却部チューブ側の前記凝縮部チューブの一端と,前記複数の過冷却部チューブのうち,最も前記凝縮部チューブ側の前記過冷却部チューブの一端との間に介在し,前記第1タンクの内部空間を凝縮部空間と過冷却部空間とに区画する第1の仕切板と,

    前記第2タンク内で,前記複数の凝縮部チューブのうち,最も前記過冷却部チューブ側の前記凝縮部チューブの一端と,前記複数の過冷却部チューブのうち,最も前記凝縮部チューブ側の前記過冷却部チューブの一端との間に介在し,前記第2タンクの内部空間を凝縮部空間と過冷却部空間とに区画する第2の仕切板とを有し,
    かつ,前記受液器は前記第2タンクの側方に,前記第2タンクと略平行に上下方向に伸びるよう平行配置され,前記第2タンク内の前記凝縮部空間の冷媒を前記受液器内部に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記凝縮部空間側に開口する入口側流路と,前記受液器内部の液冷媒を第2タンク内の前記過冷却部空間に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記過冷却部空間側に開口する出口側流路とを有するジョイント部を備えている

   ことを特徴とする受液器付熱交換器。
 3 決定の理由
     決定は,別添決定謄本写しのとおり,本件発明は,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲5,以下「原出願の当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内でないものを含むものとなっているから,本願は,原出願の一部を適法に分割したものとは認められず,現実の出願日である平成11年9月14日に出願されたものというべきであると判断した上,本件発明は,本願の現実の出願日前に頒布された刊行物である特開平4−227436号に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,取り消されるべきであるとした。

第3 原告主張の決定取消事由
 1 決定は,本願に係る分割出願の適法性に関する判断を誤った(取消事由)ものであり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
 2 取消事由(分割出願の適法性に関する判断の誤り)
 (1) 決定は,本願に係る分割出願の適法性について,「特願平3−96962号(注,原出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面(注,原出願の当初明細書)には,『冷媒の全量が流入するモジュレータ』という構成は記載されていないにとどまらず,該明細書又は図面に記載された発明は,冷媒の全量が流入するモジュレータでは大型化するため,冷媒の一部のみをモジュレータに流入させることによりモジュレータを小型化したことを特徴とする発明であり,『冷媒の全量が流入するモジュレータ』という構成を積極的に排除するものであることが認められる。しかし,本件発明においては,モジュレータに対応する機器である受液器について,冷媒の全量が流入する受液器を含んだものとなっている。そうすると,本件発明は,特願平3−96962号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むものである。よって,本件発明の出願は,適法に分割されたものとは認められず,現実の出願日である,平成11年9月14日に出願されたものというべきである」(決定謄本2頁最終段落〜3頁第4段落)と判断したが,誤りである。

 (2) 本件発明は,凝縮部と過冷却部を有し,凝縮部と過冷却部との間に受液器が配される熱交換器に関するものであり,受液器付熱交換器をコンパクトなものとすることを目的とするものである。
      従来,凝縮部と過冷却部の間には,導入配管と導出配管を介して凝縮部及び過冷却部と連通する受液器が設けられていたが,導入配管及び導出配管を介して凝縮部と受液器,受液器と過冷却部とを接続するに当たって配管の取りまわしのためのスペースが必要となるという問題があり,特に,自動車用空調装置に用いる熱交換器の場合,熱交換器はエンジンルームといった限られた空間内に配されるため,導入配管及び導出配管を取りまわすためのスペースを十分に確保することができないという問題点があった。
      これに対し,本件発明に係る受液器付熱交換器は,上記第2の2記載のとおり,第2タンクの内部空間を凝縮部空間と過冷却部空間とに区画する第2の仕切板を設け,第2タンク内の凝縮部空間から受液器内部へと冷媒を導く入口側流路,及び受液器内部の液冷媒を第2タンク内の過冷却部空間へと冷媒を導く出口側流路とを有するジョイント部を備えることを特徴とするものであり,当該構成を採用することによって,凝縮器と過冷却器とを一体化することができ,第2タンク内の凝縮部空間と受液器との間及び受液器と第2タンク内の過冷却部空間との間を近接させることができ,熱交換器と受液器とを合わせた空間を全体として小さくすることができるという作用効果を奏する。

 (3) 本願に係る分割出願の適法性は,@本件発明の構成要件が,原出願の当初明細書(甲5)に記載されていること,A本件発明は原出願に係る発明とは異なる発明であること,という二つの要件が満たされているか否かによって判断されるべきである。
      まず,上記@の分割要件について見ると,原出願の当初明細書には,従来技術及び課題として,「従来のものでは冷凍サイクルを循環する冷媒の全量が一旦レシーバ401に流入することになるため・・・レシーバ401の体格を必然的に大型化せざるを得なかった」(段落【0003】)という課題が第1に掲げられているが,課題はこれだけではなく,第2に,「熱交換器400より導入配管403,導出配管404の双方を取り出す必要があるため,冷媒配管の設置が困難となるのみならず・・・自動車への搭載性が悪くなるという欠点があった」(段落【0005】)との課題も記載されており,この第2の課題については,原出願の当初明細書の図44のものを従来技術として見た場合の課題,すなわち,スーパークール部405を備える熱交換器400における配管の取りまわしに着目した課題が提示されているものとみることができる。

      そして,原出願においては,上記第1の課題に対応する構成として,請求項1において,「冷凍サイクルを循環する冷媒のうち一部のみが流入可能な空間を有するモジュレータ」という構成を規定する一方,上記第2の課題に対応する構成については,「凝縮器および過冷却器は,熱交換機として一体的に形成され,前記モジュレータは前記凝縮器と前記過冷却器との接続部により分岐していること」(請求項4)という構成及び「モジュレータはチューブの一方側に配設されたタンク内に形成されていること」(請求項9)という構成が規定され,また,原出願の当初明細書には,上記第2の課題を解決する実施例として,熱交換器のタンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する例(段落【0047】及び【0054】並びに図34参照)が記載されている。
      さらに,上記構成による効果について,原出願の当初明細書では,上記第1の課題に対応させて,「凝縮器で凝縮した冷媒をその全量ではなく一部のみモジュレータへ流入できるような構造としたため・・・モジュレータを小型化することができる」(段落【0062】)ことが挙げられているが,それだけにとどまらず,モジュレータの上流側に配される凝縮部とモジュレータの下流側に配される過冷却部とを一体化した熱交換機とすることができ,自動車用空調装置として用いた場合の搭載性を向上させることができること(段落【0064】参照)についても,第2の課題に対応する効果として記載されているのである。
      以上のように,原出願の当初明細書には,主として,「モジュレータに冷媒の一部を流入させる」発明について記載されてはいるものの,決して,それのみが記載されているわけではなく,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する」という発明も記載されていることは明らかである。したがって,本件発明は,原出願の当初明細書に記載されていたものと認められ,本願は,上記@の分割要件を満たすものというべきである。

      他方,前者の「モジュレータに冷媒の一部を流入させる」発明は,モジュレータへの冷媒の流入量を一部とすることによってモジュレータの小型化を達成する発明であるのに対して,本件発明は,熱交換器のタンク内に仕切板を設けて凝縮部と過冷却部とを形成し,ジョイント部を介してタンクにモジュレータを接続することによって,凝縮器と過冷却器とを一体化した熱交換器として熱交換器自体の小型化を図るとともに,モジュレータと熱交換器とを接続する配管の取りまわしを不要とすることによって,自動車への搭載性を向上させるものである。すなわち,両者は異なる課題に対して異なる解決手段を提供する異なる発明であるから,本願は,上記Aの分割要件をも満たしている。
 (4) これに対し,決定は,上記(1)のとおり,原出願の当初明細書(甲5)には,「冷媒の全量が流入するモジュレータ」という構成は記載されていないにとどまらず,原出願の当初明細書に記載された発明は,「冷媒の全量が流入するモジュレータ」という構成を積極的に排除するものであるなどとして,本件発明は,原出願の当初明細書に記載された事項の範囲内でないものを含むと判断した。

      しかしながら,上記のとおり,本件発明の構造上の特徴は,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクと受液器とを接続する」ことにあり,これにより,本件発明の課題であるところの「熱交換器及び受液器の総合的なスペースの低減」が達成されるのである。原出願の当初明細書で従来技術の第2の課題として記載された,自動車への搭載性が悪いという問題は,熱交換器と受液器との接続を導入配管及び導出配管を介して行う構造に起因するものであり,受液器に流入する冷媒の量によるものではない。換言すれば,本件発明において,受液器に流入する冷媒の量は,冷凍サイクルを循環する冷媒の一部であることを基本とするが,仮に,全量が流入するとしても,熱交換器自体の小型化及び配管の取りまわしを不要とするといった効果を奏することは可能なのである。
      確かに,原出願の当初明細書においては,本件発明の実施例に相当するものとして,図26〜28及び図34に示す例が挙げられているところ,それらの例は,いずれも,モジュレータに冷媒の一部が流入するものであって,実施例のレベルでも,本件発明は,冷媒の一部が流入することを前提とするかのように記載されてはいる。しかしながら,本件発明の上記作用効果に照らせば,「冷媒の一部が受液器に流入する」という構成が,本件発明における必須要件でないことは明らかといわざるを得ず,そのため,本願では,「冷媒の一部が受液器に流入する」との構成を,特許請求の範囲において規定しないこととしたものである。
 (5) また,被告は,原出願の当初明細書(甲5)の段落【0047】及び【0054】並びに図34記載の「ジョイント部150」は「冷媒の一部のみをモジュレータに流入させるジョイント部」として記載されているにすぎず,第2の課題に対応する発明の構成要件として記載されているわけではない旨主張する。確かに,原出願の当初明細書の段落【0047】には,ジョイント部150が図示された図27は,「モジュレータ100の分岐状態を示した」ものであると記載されている。しかしながら,同段落には,上記の点に加えて,「モジュレータ100はその下方部がジョイント部150によりタンク481の下方と連通し・・・またジョイント150内にはモジュレータ100内の流入管120と連通する孔153とモジュレータ100の下方部に直接連通する孔154とが形成されている」との記載があり,「ジョイント部」が,「分岐部」としての機能と,配管などを介さずにタンクとモジュレータとを連通させる機能の二つの機能を有する点が記載されているから,原出願明細書には,第2の課題と「ジョイント部」とが発明の課題とそれを解決する手段として,関連性があるものとして記載されていないとの被告の上記主張は誤りである。
      さらに,被告は,原出願の当初明細書の段落【0064】に記載された「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした場合には,凝縮器と過冷却器とを一体の熱交換器で形成することができ,例えば自動車用空調装置として用いた場合にはその搭載性が優れたものとなる」という効果は,「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした」場合,すなわち,「冷媒の一部がモジュレータに流入する」場合における効果を意味する旨主張する。しかしながら,原出願の当初明細書において,原出願に係る発明の効果について記載された同段落の記載は,段落【0063】の「モジュレータを凝縮器と過冷却器との間より分岐させ」た熱交換器ではあるが,凝縮器と過冷却器とが一体に形成されていない熱交換器,例えば,原出願明細書の図10及び11に図示されるような,別体のモジュレータと凝縮器,過冷却器とを接続した熱交換器と比較して,特に「モジュレータを熱交換器の途中に配し,凝縮器と過冷却器とが一体に形成された」熱交換器が,その「搭載性を優れたものとすることができる」という効果を奏する旨を記載したものであって,「冷媒の一部がモジュレータに流入する」熱交換器であると,「搭載性を優れたものとすることができる」という効果を奏する旨記載したものではない。
 (6) なお,仮に,決定のように,本願に係る分割出願の要件として,本件発明が「冷媒の一部が流入する」ことを要件とするものでなければならないと考えるとすれば,本願に係る発明は,原出願に係る発明と同一発明でなければならないこととなり,分割出願を認めた特許法の理念に反する結果になりかねない。
      決定の判断及び被告の主張を突き詰めると,仮に,本件発明の課題,構成及び作用効果自体は原出願の当初明細書に記載されていたとしても,本件発明は,別発明である原出願に係る発明の課題に反する,又は原出願の効果を奏さないものであるから,分割出願の要件を満たさないとされることになる。しかしながら,本願に係る分割出願の適法性は,原出願に係る発明の課題や効果を離れて,飽くまで,本件発明の課題,構成及び作用効果が原出願の当初明細書に開示されていたか否かによって判断されるべきものであり,そうした観点から見れば,本願に係る分割出願が分割要件を満たすものであることは,上記のとおりである。

 (7) ところで,東京高裁平成15年5月22日判決(同庁平成14年(行ケ)第138号事件,甲9,以下「前訴判決」という。)は,原出願に係る補正の適法性に関し,原出願の当初明細書(甲5)では,モジュレータに冷媒の全量が流入するものは積極的に除外されていたのに対し,補正後の発明においては,モジュレータに冷媒の全量が流入するものが除外されていないことを理由として,原出願に係る補正は,明細書の要旨を変更するものに該当する旨判断した。
      確かに,原出願の当初明細書には,モジュレータに冷媒の全量が流入することを否定し,モジュレータに冷媒の一部のみを流入可能とする旨の開示があることは否めない。しかしながら,原出願の当初明細書には,当該開示のみならず,モジュレータに冷媒が気液界面の下方から流入し,下方より流出することについても開示されているところ,原出願に係る補正は,「モジュレータの体格を小型化する」という課題を解決する手段である,原出願の当初明細書に記載された発明について,「モジュレータに冷媒の一部を流入させる」発明という理解のみをするのではなく,「モジュレータに冷媒が気液界面の下方から流入し,下方より流出する」という,これとは異なる発明が開示されていることを認識し,多面的に発明を理解することによってされたものである。

      例えば,モジュレータの必要容積を必要最小限に抑えることができ,モジュレータを小型化することができるという効果は,確かに,一面では,原出願の当初明細書の発明の効果の項に記載されるように,凝縮器で凝縮した冷媒をその全量ではなく一部のみモジュレータへ流入できるような構造とすることによって達成されるといい得るが,他方において,当該効果は,モジュレータへ流入する冷媒流れを気液界面の下方からとし,また気液界面の下方より冷媒を流出する構造とすることによっても奏せられるものである。そして,冷媒流れを気液界面の下方とすることによってモジュレータの必要容積を最小限に抑えるとの技術的思想は,原出願の当初明細書の開示から,当業者が明確に理解し得る事項なのである。
      以上によれば,原出願に係る補正の適法性に関する前訴判決の判断は誤りであり,しかも,前訴判決は,その後に訂正審判が確定したことに伴い,最高裁において破棄されたものであるから,本件において参考にされるべきものではない。

第4 被告の反論
 1 決定の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(分割出願の適法性に関する判断の誤り)について
 (1) 原出願の当初明細書(甲5)の記載によれば,原出願の当初明細書には,冷媒の全量が流入するモジュレータでは大型化するため,冷媒の一部のみを流入させることによりモジュレータを小型化したことを特徴とする発明のみが記載されており,原出願の当初明細書に記載されている発明は,「冷媒の全量が流入するモジュレータ」という構成を積極的に排除するものであったことが認められる。
 (2) これに対し,原告は,原出願の当初明細書には,「熱交換器400より導入配管403,導出配管404の双方を取り出す必要があるため,冷媒配管の設置が困難となるのみならず・・・自動車への搭載性が悪くなるという欠点があった」(段落【0005】)という第2の課題も記載されており,当該課題に着目すれば,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する」という発明も記載されていることは明らかである旨主張する。

      しかしながら,原告が上記第2の課題に対応する構成として挙げる,原出願の当初明細書の特許請求の範囲の請求項4及び請求項9に記載された発明は,「ジョイント部」を必須構成とする発明ではない上,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクと受液器とを接続する」ことや,それに対応する構成要件も含まれていない。また,そもそも,上記各請求項は,いずれも,「冷媒の一部を貯留し,内部に気液界面を形成する閉空間を有するモジュレータ」を必須の構成とする請求項3の従属項であるから,「冷媒の全量が流入するモジュレータ」を構成要件とする発明でもない。
      他方,原告が上記第2の課題に対応する実施例として挙げる,段落【0047】及び【0054】並びに図34記載のものは,「ジョイント部150」を有しているものの,この「ジョイント部150」は,分岐部としてのジョイント部,すなわち,「冷媒の一部のみをモジュレータに流入させるジョイント部」として記載されているのであって,上記第2の課題に対応する発明の構成要件として記載されているわけではない。

      そうすると,原出願の当初明細書には,原告主張に係る「第2の課題」と「ジョイント部」とが,発明の課題とそれを解決するための手段として,関連性があるものとして認識,記載されていないと見るほかはないから,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する」という発明が原出願の当初明細書に記載されているということはできず,原告の上記主張は失当である。
      さらに,原告は,第2の課題に対応する効果が記載されているとして,原出願の当初明細書の段落【0064】を援用するが,そこに記載された「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした場合には,凝縮器と過冷却器とを一体の熱交換機で形成することができ,例えば自動車用空調装置として用いた場合にはその搭載性が優れたものとなる」との効果は,「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした」場合,すなわち,「冷媒の一部がモジュレータに流入する」場合に生じる効果を意味することが明らかである。したがって,原告のいう第2の課題に対応する効果は,第1の課題に対するものと独立に奏されるのではなく,「冷媒の一部がモジュレータに流入する」という第1の課題に対する構成を前提としたものであると判断せざるを得ないものである。

 (3) 以上のとおり,原出願の当初明細書には,本件発明を構成する「凝縮部チューブ」,「凝縮部フィン」など,個々の構成要素は記載されているとはいい得るものの,「冷媒の全量が流入する受液器」を含む,技術的思想としての本件発明が原出願の当初明細書に記載されているということはできない。
      他方,本件発明は,上記第2の2のとおり,「前記第2タンク内の前記凝縮部空間の冷媒を前記受液器内部に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記過冷却部空間側に開口する入口側流路と,前記受液器内部の液冷媒を第2タンク内の前記過冷却部空間に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記過冷却部空間側に開口する出口側流路とを有するジョイント部を備えている」ものであって,モジュレータに対応する機器である受液器につき,「冷媒の一部が流入する」との限定が加えられていないことから,冷媒の全量が流入する受液器を含むものであることが明らかである。

      そうすると,本件発明は,原出願の当初明細書に記載されていたものとは認められないから,本願に係る分割出願は,分割出願の要件を満たさないものであるというほかはなく,決定に原告主張の誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(分割出願の適法性に関する判断の誤り)について
 (1) 決定は,本願に係る分割出願の適法性について,「特願平3−96962号(注,原出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面(注,原出願の当初明細書)には,『冷媒の全量が流入するモジュレータ』という構成は記載されていないにとどまらず,該明細書又は図面に記載された発明は,冷媒の全量が流入するモジュレータでは大型化するため,冷媒の一部のみをモジュレータに流入させることによりモジュレータを小型化したことを特徴とする発明であり,『冷媒の全量が流入するモジュレータ』という構成を積極的に排除するものであることが認められる。しかし,本件発明においては,モジュレータに対応する機器である受液器について,冷媒の全量が流入する受液器を含んだものとなっている。そうすると,本件発明は,特願平3−96962号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むものである。よって,本件発明の出願は,適法に分割されたものとは認められず,現実の出願日である,平成11年9月14日に出願されたものというべきである」(決定謄本2頁最終段落〜3頁第4段落)と判断した。

      これに対し,原告は,原出願の当初明細書には,主として,「モジュレータに冷媒の一部を流入させる」発明について記載されてはいるものの,それのみが記載されているわけではなく,特許請求の範囲の請求項4及び9,段落【0005】,【0047】,【0054】及び【0064】並びに図34等の記載によれば,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する」という発明も記載されていることが明らかであるから,本件発明は,原出願の当初明細書に記載されていたものと認められるとして,本願に係る分割出願の適法性を否定した決定の上記判断は誤りである旨主張する。
 (2) そこで,原出願の当初明細書(甲5)の記載内容について検討すると,原出願の当初明細書には,以下のとおりの記載がある。

     ア 「【従来の技術】従来の冷凍装置では,第7図に示すように凝縮器400の下流にレシーバ401を配置していた。・・・しかしながら,この従来のものでは冷凍サイクルを循環する冷媒の全量が一旦レシーバ401に流入することになるため,レシーバ401内には常に多量の冷媒が流入し,かつ多量の冷媒が導出する構造となり,レシーバ401の体格を必然的に大型化せざるを得なかった。また従来の技術として,第44図に示すように凝縮器400の途中よりレシーバ401を分岐したものも知られている。これは,コンデンサ部402で凝縮した冷媒を一旦レシーバ401に溜め,ここで気液分離したのち液冷媒のみスーパークール部405へ導出するようにしたものである。この第44図図示でのレシーバ401も,上述の第7図図示例と同様冷凍サイクルを循環する冷媒の全量がレシーバ内に流入し,かつその全量が導出配管404よりスーパークール部405へ導出されるものとなっているため,レシーバ401の体格は必然的に大型化さぜるを得なかった。さらに,熱交換器400より導入配管403,導出配管404の双方を取り出す必要があるため,冷媒配管の設置が困難となるのみならず,冷媒配管403,404やレシーバ401のために,自動車への搭載性が悪くなるという欠点があった。」(段落【0002】〜【0005】)
     イ 「【発明が解決しようとする課題】本発明は上記点に鑑みて案出されたもので,冷凍サイクル中に封入された冷媒のうち余剰冷媒を溜めておく手段として,従来のレシーバ401に変わり,体格を小型化したモジュレータを用いることを目的とする。併せて,本願発明は冷凍サイクルに用いられ,余剰冷媒の貯留に最適な構造をしたモジュレータを提供することを目的とする。(注,句点追加)また本願発明は,モジュレータを用いた冷凍装置で,モジュレータの冷媒流れ下流側に配置された過冷却器により良好なスーパークールが得られ,もって冷凍装置全体の冷凍能力を向上させることを目的とする。さらに本願発明は,モジュレータを用いることで過冷却が取れるようにした冷凍装置において,凝縮器と過冷却器およびモジュレータの構造を簡便ならしめることを目的とする。」(段落【0006】〜【0008】)

     ウ 「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,本発明では冷凍装置の凝縮器の途中ないし減圧手段の上流の箇所に冷媒配管より上方に分岐したモジュレータを用いるという構成を採用する。すなわち本発明では,上下方向に延びる閉空間よりなり,その下方部分で冷媒配管に接続するモジュレータを用いる。また本発明では,モジュレータを冷媒の冷却を行う熱交換器の途中より分岐配置し,熱交換器のうちこのモジュレータ上流の部位を凝縮器とし,モジュレータ下方の部位を過冷却器とする構成を採用する。」(段落【0009】,【0010】)
     エ 「【作用】本発明の冷凍装置では,上記構成採用の結果,冷凍装置を循環する冷媒がその全量がモジュレータに流入するということはない。すなわち,冷凍装置の余剰冷媒のみがモジュレータ内に溜められ,余剰冷媒量の変動に応じて,モジュレータ内より冷媒が冷凍装置を循環するのに供給されたり,逆に冷凍装置を循環する冷媒の余剰分がモジュレータに供給されたりする。いずれにせよ,循環冷媒の全量が流入,流出するのではないので,モジュレータは余剰冷媒を収納できる程度の大きさとすればよい。併せて,本発明ではモジュレータを凝縮器の下流かつ,過冷却器の上流に配置することで良好な過冷却を達成することができる。すなわち,モジュレータ内には余剰冷媒を収納することより気液界面が形成され,モジュレータより下流側には液冷媒を供給できることになる。その結果,単にモジュレータを分岐接続させるのみで良好な過冷却作用を達成でき,エンタルピ差の上昇に伴い冷凍装置の冷却能力向上が図れる。特に凝縮器と過冷却器とを単一の熱交換器で形成する場合には,モジュレータは熱交換器途中より分岐させるのみでよく,またモジュレータはその体格が過大にならないことと相まって,凝縮器,および過冷却器をコンパクトに形成することができる。」(段落【0011】〜【0013】)
     オ 「【発明の効果】以上説明したように,本発明の冷凍装置では凝縮器で凝縮した冷媒をその全量ではなく一部のみモジュレータへ流入できるような構造としたため,モジュレータの必要容積を充填余裕量と変動余裕量の必要最小限に抑えることができ,モジュレータを小型化することができる。そのため,本発明の冷凍装置においては,例えば自動車用空調装置として用いられたときにその搭載性を大幅に向上することができる。さらに本発明の冷凍装置では,モジュレータを凝縮器と過冷却器との間より分岐させることで,適切な過冷却を得ることができ,冷凍装置の冷房能力を向上することができる。特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした場合には,凝縮器と過冷却器とを一体の熱交換機で形成することができ,例えば自動車用空調装置として用いた場合にはその搭載性が優れたものとなる。さらに本発明の冷凍装置では,そのモジュレータの構造に種々の検討を加え,凝縮器通過後の冷媒の気冷媒成分が良好にモジュレータ内に供給できるようにしたため,モジュレータ設置に伴う過冷却効果が確実に発揮できる。」(段落【0062】〜【0065】)

      以上の各記載及び実施例の記載を総合すれば,原出願の当初明細書には,第1に,モジュレータへの冷媒の流路構成に関する発明ないし技術的思想として,冷媒の一部のみを流入させることによりモジュレータを小型化すること(以下「本件第1の発明」という。)が,第2に,本件第1の発明を実現するための具体的手段であるモジュレータの構造に関する発明ないし技術的思想として,冷凍装置の凝縮器の途中ないし減圧手段の上流の箇所に冷媒配管より上方に分岐したモジュレータ,すなわち,上下方向に延びる閉空間よりなり,その下方部分で冷媒配管に接続するモジュレータとすること(以下「本件第2の発明」という。)が,第3に,上記モジュレータの設置位置に関する発明ないし技術的思想として,モジュレータを冷媒の冷却を行う熱交換器の途中より分岐配置し,熱交換器のうちこのモジュレータ上流の部位を凝縮器とし,モジュレータ下方の部位を過冷却器とすること(以下「本件第3の発明」という。)が記載されているものと認められる。しかしながら,本件第2の発明及び本件第3の発明は,いずれも本件第1の発明をその技術的思想の前提としていることが明らかであるから,本件第1の発明の特徴である「冷媒の一部のみを流入させる」という構成を前提としない発明は,原出願の当初明細書には開示されていないものと認めるのが相当である。
 (3) これに対し,原告は,原出願の当初明細書(甲5)の特許請求の範囲の請求項4及び9,段落【0005】,【0047】,【0054】及び【0064】並びに図34等の記載によれば,「タンク内部に仕切板を配し,流入通路及び流出通路が形成されたジョイント部を介して凝縮器のタンクとモジュレータとを接続する」という発明(以下「ジョイント部発明」という。)も記載されていることが明らかである旨主張する。原告の主張は,要するに,段落【0005】のうち,「熱交換器400より導入配管403,導出配管404の双方を取り出す必要があるため,冷媒配管の設置が困難となるのみならず・・・自動車への搭載性が悪くなるという欠点があった」との記載は,スーパークール部405を備える熱交換器400(図44)における「配管の取りまわし」に関する課題を提示するものであるということができ,また,その点のみに着目して,図26〜28及びそれに関する段落【0047】の記載並びに図34及びそれに関する段落【0054】の記載を見れば,「冷媒の一部のみを流入させる」という本件第1の発明の構成を離れて,物理的に「配管の取りまわし」を改善することのみを目的とするジョイント部発明を看取することができるし,同様の観点から見れば,効果に関する段落【0064】の「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした場合には,凝縮器と過冷却器とを一体の熱交換機で形成することができ,例えば自動車用空調装置として用いた場合にはその搭載性が優れたものとなる」との記載も,ジョイント部発明に係る効果を記載したものと理解し得る,というものであると解される。
      しかしながら,そもそも,原出願の当初明細書中,原告主張に係る「ジョイント部」の構成について開示しているのは,図26〜28及びそれに関する段落【0046】及び【0047】の記載並びに図34及びそれに関する段落【0054】の記載のみであると認められ,原告がジョイント部発明に係る課題を記載したものであると主張する段落【0005】はもとより,その効果を記載したものであるとする段落【0064】にも,「ジョイント部」又はそれを示唆する表現は見当たらない。加えて,図26〜28及び図34に示された例が,いずれも,モジュレータに冷媒の一部のみが流入する例であることは,原告の自認するとおりである上,当該図面の説明である段落【0046】,【0047】及び【0054】の記載を見ても,本件第1の発明並びにそれを前提とする本件第2の発明及び第3の発明の具体的な実施例について記載したものであることは明らかであるから,当該記載に接した当業者は,そこに記載された「ジョイント部」についても,「分岐」によって,冷媒の一部のみが流入するものであって,冷媒の全部が流入するものではないと当然に理解するというほかはない。

      さらに,段落【0064】の記載について見ても,それが「特にモジュレータを熱交換器途中より分岐させるようにした場合」の効果に関する記載であって,「分岐」すなわち「冷媒の一部のみを流入させる」という本件第1の発明の構成を前提とするものであることは,その記載自体から明らかというほかはない。この点について,原告は,同段落の記載は,段落【0063】の「モジュレータを凝縮器と過冷却器との間より分岐させ」た熱交換器ではあるが,凝縮器と過冷却器とが一体に形成されていない熱交換器と比較して,特に「モジュレータを熱交換器の途中に配し,凝縮器と過冷却器とが一体に形成された」熱交換器が,その「搭載性を優れたものとすることができる」という効果を奏する旨を記載したものである旨主張するが,段落【0064】の記載を文理に従って理解すれば,「熱交換器途中より分岐させる」ことが,凝縮器と過冷却器とを「一体に形成」するための前提とされていることは明らかであるから,原告主張の点は,上記の判断を左右するものではない。
      以上によれば,「冷媒の一部のみを流入させる」という本件第1の発明の構成を離れた,独立の技術的思想としてのジョイント部発明は,原出願の当初明細書には記載されていないし,また,原出願の当初明細書に記載された事項から自明な事項であるということもできないというべきであるから,原告の上記主張を採用する余地はない。
 (4) 以上を前提に,本願に係る分割出願の適法性について判断すると,本件発明の要旨は,上記第2の2のとおりであり,その受液器(原出願の当初明細書における「モジュレータ」に相当)への冷媒の流路構成については,「前記第2タンク内の前記凝縮部空間の冷媒を前記受液器内部に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記凝縮部空間側に開口する入口側流路と,前記受液器内部の液冷媒を第2タンク内の前記過冷却部空間に導くための前記第2タンク側開口部が,前記第2の仕切板の前記過冷却部空間側に開口する出口側流路とを有するジョイント部」を備えるものとされているから,本件発明では,「冷媒の一部のみを受液器に流入させる」という技術的思想は必ずしも前提とされておらず,冷媒の全部が受液器に流入する構成を含むものとなっていることが明らかである。

      他方,原出願の当初明細書(甲5)に,本件第1の発明の特徴である「冷媒の一部のみを流入させる」という構成を前提としない発明が開示されていないことは上記(2)及び(3)のとおりであるから,本件発明は,原出願の当初明細書に開示された発明ではないといわざるを得ず,そうとすれば,本願に係る分割出願は,特許法44条1項所定の分割出願の要件を満たさないものというべきである。
 (5) なお,原告は,仮に,決定のように,本願に係る分割出願の要件として,本件発明が「冷媒の一部が流入する」ことを要件とするものでなければならないと考えるとすれば,本願に係る発明は,原出願に係る発明と同一発明でなければならないこととなり,分割出願を認めた特許法の理念に反する結果になりかねないとし,本願に係る分割出願の適法性は,原出願に係る発明の課題や効果を離れて,飽くまで,本件発明の課題,構成及び作用効果が原出願の当初明細書に開示されていたか否かによって判断されるべきものである旨主張する。しかしながら,本件発明が,原出願の当初明細書に開示されていないことは,上記(2)及び(3)において判示したとおりであるから,原告の上記主張は失当である。

 (6) 以上によれば,本願に係る分割出願の適法性を否定した決定の上記(1)の判断は,上記(2)〜(4)の判示と同旨をいうものとして是認することができ,原告の取消事由の主張は理由がない。
      付言すると,決定は,上記(1)のとおり,本願に係る分割出願の適法性を否定する理由付けとして,「本件発明は,特願平3−96962号の願書に最初に添付した明細書又は図面(注,原出願の当初明細書)に記載した事項の範囲内でないものを含むものである」(3頁第3段落)と説示するが,上記第2の1のとおり,原出願の出願日は平成3年4月26日であるから,本願に係る分割出願の適法性を判断するに当たり,当該分割出願に係る明細書が平成5年法律第26号による改正後の特許法17条2項ないし平成6年法律第116号による改正後の特許法17条の2第3項に規定する補正要件を具備しているか否か,すなわち,当該明細書が,原出願の「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でないものを含むか否かを問う必要がないことはいうまでもない。そうすると,決定の上記説示は,表現にいささか適切を欠く点はあるが,要するに,本件発明が原出願の当初明細書に記載された発明でないことをいう趣旨であると解するのが相当である。

 2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
    よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。


         東京高等裁判所知的財産第2部

           裁判長裁判官        篠  原  勝  美

                          裁判官      古  城  春  実

                 裁判官        早  田  尚  貴