H16. 8.31 東京高裁 平成15(ネ)899 商標権 民事訴訟事件

平成15年(ネ)第899号商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成14年(ワ)第4835号)
口頭弁論終結日 平成16年7月6日
                   判決
    控訴人            理想科学工業株式会社
    同訴訟代理人弁護士         玉利誠一
    同                         小池豊
    同                         櫻井彰人
    被控訴人           株式会社拓研コーポレーション
                       (以下「被控訴人拓研」という。)
    被控訴人           コロナ技研工業株式会社

                          (以下「被控訴人コロナ」という。)
    被控訴人ら訴訟代理人弁護士  島田康男
    同補佐人弁理士             渡邊喜平
                   主文
         1 原判決を次のとおり変更する。
         2 被控訴人らは,別紙目録1ないし3記載の標章が付されたインクボトルを用いて孔版印刷用インクを販売してはならない。
         3 被控訴人らは,別紙目録1ないし3記載の標章を付したインクボトルを廃棄せよ。
         4 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して2188万2000円及び内金1048万8000円に対する平成14年3月1日から,内金1139万4000円に対する平成16年4月1日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

         5 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
         6 訴訟費用は第1,2審を通じこれを6分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
                   事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
   (1) 原判決を取り消す。
   (2) 主文2,3項と同旨
   (3) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して3282万3000円及び内金1573万2000円に対する平成14年3月1日から,内金1709万1000円に対する平成16年4月1日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
   (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 2 被控訴人ら
   (1) 本件控訴を棄却する。
   (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
    控訴人の製造販売に係る孔版印刷機(商品名「リソグラフ」,以下「控訴人印刷機」という。)は,孔版印刷用インクが充填されたインクボトルを機器の該当部分に嵌め込んで使用するものであり,インクボトルには,別紙目録1ないし3記載の控訴人の登録商標が付されている。被控訴人らは,インク使用済みのインクボトル(空容器)に,被控訴人コロナが製造する孔版印刷用インク(以下「被控訴人インク」という。)を充填して,控訴人印刷機の利用者に対して販売している。控訴人は,被控訴人らの上記行為が,控訴人の有する商標権の侵害に当たる旨主張して,被控訴人らに対し,@その販売する被控訴人インクのインクボトルに控訴人の上記登録商標に係る標章を使用することの差止め,A同標章を付したインクボトルの廃棄,B不法行為に基づく損害金5000万円及びこれに対する不法行為後である平成14年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求めた。

    原判決は,控訴人の本訴請求をいずれも棄却したのに対し,控訴人が,その変更を求めて本件控訴を提起した。
    なお,控訴人は,当審において,上記@の請求について,控訴人の上記登録商標に係る標章が付されたインクボトルを用いた孔版印刷用インクの販売の差止めを求める旨,控訴の趣旨を訂正し,また,上記Bの請求について,損害金3282万3000円及び内金1573万2000円に対する不法行為後である平成14年3月1日から,内金1709万1000円に対する不法行為後である平成16年4月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の連帯支払を求める限度に請求を減縮した。
 2 当事者間に争いのない事実
    原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」2に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,以下,上記「第2 事案の概要」2(2)記載の商標権を併せて「本件商標権」といい,その登録商標を併せて「本件登録商標」という。)。

 3 争点及びこれに関する当事者の主張
   (1) 争点1(本件商標権侵害の成否)
      原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の4(1)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決13頁9行目の「社会の発展」を「社会の構築」と改める。)。
   (2) 争点2(損害の有無及び額)
   【控訴人の主張】
     ア 被控訴人らは,その本店所在地や代表者を共通にしており(実質的には,被控訴人拓研は被控訴人コロナの販売部門といえる。),一体となって上記(1)記載の方法による販売を行っている。したがって,被控訴人ら両名の行為は,共同不法行為の関係に立つ。
     イ 被控訴人らが提出した乙30,31によれば,被控訴人インクについての平成14年8月29日から平成16年3月25日までの販売数量は7215本である(甲40)から,月平均販売量は約380本となるので,平成12年4月から平成16年3月末日までの販売量は,1万8235本となる(平成14年2月末日まで8740本,その後平成16年3月末日まで9495本)。そして,被控訴人らは,被控訴人インクを1本当たり2400円で販売し,その製造原価は1本当たり600円であるから,1本当たりの利益額は1800円を下らない。したがって,被控訴人らの利益は,3282万3000円を下らない(平成14年2月末日まで1573万2000円,その後平成16年3月末日まで1709万1000円)。

        したがって,商標法38条2項に基づき,被控訴人らの行為によって控訴人の被った損害額は,被控訴人らの利益と同額の3282万3000円と推定される。
     ウ 被控訴人らの主張イ(ア)のうち,被控訴人らが被控訴人インクを1本当たり2000円で販売していることは,争わない。
        また,被控訴人らの主張イ(イ)のうち,経費として認められる額は,1本当たり548円にすぎない。すなわち,Aインク代のうち300円,B充填・清掃費のうち40円,C荷造り費48円,D運送賃160円についてのみ認める。
   【被控訴人らの主張】
     ア 被控訴人拓研が実質的に被控訴人コロナの販売部門であることは認め,被控訴人ら両名の行為が共同不法行為の関係に立つことは争う。
     イ 控訴人の被った損害額は争う。なお,乙30,31に記載された被控訴人インクについての平成14年8月29日から平成16年3月25日までの販売数量が7215本であることは,認める。

       (ア) 被控訴人コロナが代理店に対して被控訴人インクの詰替えを行う価格は,1本当たり2000円である。もっとも,代理店に対しては,事業促進のため,1本当たり100円のマージンを約束する場合が大半であるから,代理店経由の場合は,実質的な価格は,1900円である。
       (イ) 一方,被控訴人インクの詰替え事業開始時における経費は,1本当たり2077.6円であった。すなわち,@受入容器分類作業費100円,Aインク代880円,B充填・清掃費570円,C荷造り費48円,D運送賃160円,E宣伝広告費・諸経費159.8円,F一般管理費159.8円である。なお,E及びFは,@ないしCの合計額の各1割として計算した。また,A及びBに対応する作業(インク製造,清掃,充填)は,外部に委託している。

       (ウ) その後も,被控訴人インクの売上は伸びず,赤字の状態が続いている。インク詰替え事業の開始から現在まで,利益が発生した月はない。たとえば,平成16年4月の被控訴人インクの売上は,89万円(466本)であり,経費は119万0047円である。
     ウ 本件では,以下のとおり,控訴人に損害が発生していないし,仮に,損害が発生していたとしても,被控訴人らの行為との間に相当因果関係が存在しない。
        すなわち,顧客は,自己の有する孔版印刷機について,適宜インクを選択して購入する自由を有しており,純正インクの購入を強制されることはない以上,控訴人には,純正インクの販売による得べかりし利益というものが存在しないから,被控訴人らの本件商標権侵害行為により損害は発生していない。
        また,控訴人は,インクの充填されたインク容器を販売しているのに対し,被控訴人らは,インクの詰替えサービスを行っているものであり,両者の販売活動は同種同質のものといえないから,被控訴人らの上記販売活動により,控訴人に損害は発生していない。

        さらに,顧客は,自己の有する孔版印刷機に適合するインクを購入するにすぎず,インク容器に本件登録商標が付されているからインクを購入するわけではないから,被控訴人らの本件商標権侵害行為と控訴人が受けた損害との間には相当因果関係がないというべきである。
        なお,本件差止請求又は損害賠償請求を認めることは,実質上,顧客に対し純正インクの購入を強制することに帰するから,上記権利の行使は権利の濫用に該当し,許されるべきではない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(本件商標権侵害の成否)について
   (1) 当事者間に争いのない事実に証拠(甲7〜13,16〜21,23,25,28〜33,37,38,41〜44,乙6〜10,12の1〜3,13の1〜6,14,19,20,21の1〜3,22〜27,29〜36〔後記認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

     ア 控訴人印刷機におけるインクボトル
        控訴人印刷機は,通常,控訴人の製造販売に係る,孔版印刷用インクの充填されたインクボトルを機器の該当部分に嵌め込んで使用するものであり,内容物たるインクを使用し切った場合には,インクボトルごと新品に交換するものとされている。インクボトルは,対応する印刷機の該当部分に嵌合するために特徴的な形状となっており,対応する印刷機のみに使用できるようになっていると共に,本件登録商標が表示されている。
     イ 被控訴人らの販売態様
       (ア) 被控訴人らは,控訴人印刷機用の,控訴人の製造販売に係るインクボトルに,被控訴人コロナが製造した被控訴人インクを充填して販売している。
          被控訴人らの販売態様には,控訴人印刷機の利用者から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,同形のインクボトル(引渡しを受けた当該インクボトルに限らない。)に被控訴人インクを充填して販売する場合(控訴人主張の販売態様@)と,顧客が空のインクボトルを提供することを前提としない場合(控訴人主張の販売態様A)とがある。

          また,被控訴人らの販売態様には,被控訴人コロナ及び被控訴人拓研両名が関与する場合と,被控訴人コロナ及びその地域特約店(以下,単に「地域特約店」という。)が関与する場合がある。なお,被控訴人拓研は,実質的には被控訴人コロナの販売部門である。被控訴人コロナは,被控訴人拓研や,多数の地域特約店を通じて,官公庁,学校,金融機関等,約1500に上る顧客(販売先)と取引をしている(甲30)。
       (イ) 被控訴人らの具体的な販売態様は,次のとおりである。
          顧客は,「孔版インク詰替えサービス依頼票」等と題する注文書(乙13の1〜6,25)に,孔版印刷機のメーカー・機種,インクボトルの種類・本数,顧客の名称・所在地等を記入した上,これを被控訴人拓研ないし地域特約店にファクシミリで送信したり,あるいは被控訴人らの開設するホームページ(甲32)にアクセスするなどして,被控訴人拓研ないし地域特約店を通じて被控訴人コロナに対し,孔版印刷用インクの詰替えの申込みをする。

          被控訴人拓研ないし地域特約店は,顧客が空インクボトルを所有している場合には,これを回収して被控訴人コロナに送付するとともに,同被控訴人にインクの詰替えを依頼し,また,顧客が空インクボトルを所有していない場合には,空インクボトルを回収することなしに,被控訴人コロナに顧客からの空インクボトルを利用したインクの購入希望を伝える。
          被控訴人コロナは,回収済みの空インクボトルを洗浄した後,被控訴人インクを充填し,キャップを取り付けて完成品とした上でこれを保管しているので,被控訴人拓研ないし地域特約店から伝達された空インクボトルへのインク詰替えないし空インクボトルを利用したインク購入の希望に応じて,被控訴人インクの充填された保管中のインクボトルを,被控訴人拓研ないし地域特約店に対して送付する。被控訴人拓研ないし地域特約店は,被控訴人コロナから送付された上記インクボトルを顧客に納品する。なお,顧客から空インクボトルが回収された場合,被控訴人コロナから被控訴人拓研ないし地域特約店を通じて顧客に納品されるインクボトルは,顧客の有する印刷機に対応できるように,回収されたインクボトルと同一の形式のものであることは当然であるが,回収されたインクボトルそのものが返還されるとは限らない。

          上記空インクボトルへのインク詰替えないし空インクボトルを利用したインク購入は,インクボトル10本以上について行われているが,新規の顧客の中には,初回から10本の詰替えを注文することをためらう者もいるため,被控訴人らにおいては,「お試し」と称して,空インクボトル2本に被控訴人インクを充填して販売することも行っている。
     ウ 打ち消し表示の不存在
        被控訴人らが上記被控訴人インクの販売の際に使用するパンフレット(甲9,10,19,乙6ないし10)には,控訴人印刷機やこれに対応したインクカートリッジの名称(「リソグラフ」や「GR」,「FR」等)がそのまま記載されており,顧客への見積書(甲21),顧客からの注文書(乙13の1〜6,25),顧客への預り書(乙14)にも,同様の名称が使用されている。これに反して,上記パンフレットには,「被控訴人インクが控訴人と無関係に製造されたものである」旨のいわゆる打ち消し表示は明記されていない(なお,「純正インクを使用しないと保守サービスが受けられない?…インクサービスを利用したことで保守サービスが受けられなくなる事は,一般的にはあり得ないことです。」(甲19),「純正インクを使用する条件で保守契約をされる事は,不公正取引となり独禁法に抵触することになります…保守契約の見直しをされてからインク詰替えサービスをご利用下さい。」(乙6)といった曖昧な表記では,打ち消し表示としては不十分であるといわざるを得ない。)。むしろ,上記パンフレットには,「…弊社では,各メーカー純正トナーカートリッジ,インクカートリッジをはじめ,さまざまなOAサプライ製品とDNAディスポプレフィルターの開発と製造にたずさわってきた四半世紀の経験を活かし孔版印刷機用サプライインクの“インク詰替えサービス”を致しております。」(甲9,10,乙6)というように,被控訴人インクが控訴人製造の純正インクであるかの如き誤解を招くおそれのある記載がある。
        同様に,被控訴人コロナから被控訴人拓研ないし地域特約店を通じて顧客に納品される,被控訴人インクの充填されたインクボトルにおいても,本件登録商標が付されたままであるばかりでなく,「インクボトルに充填された被控訴人インクが控訴人と無関係に製造されたものである」旨のいわゆる打ち消し表示は一切記載されていない。
        このように,被控訴人らの上記被控訴人インクの販売に際していわゆる打ち消し表示がされていないこと等に起因して,被控訴人らの顧客(販売先)である官公庁,学校等において,実際にインクを使用する者のみならず(甲33),購買担当者も(甲41,42),被控訴人コロナが控訴人と無関係に製造した被控訴人インクが使用されていることについて,正確な理解をしていない事例がある。

     エ 再譲渡の可能性
        孔版印刷用インクについては,顧客が購入後に,再譲渡が行われる場合がある。たとえば,被控訴人らが顧客とする株式会社ジェイアール東日本商事(甲30)は,JR東日本グループにおける物品購入等を集中して行う会社であり,同社が購入した被控訴人インクは,同グループ各社に再譲渡された上で使用される(甲31)。同様に,別会社により物品購入等を集中して行うことは,被控訴人らが顧客とする金融機関等においても一般的である(甲33,38)。また,孔版印刷用インクには,インターネットオークションを中心とした取引市場が存在する(甲37)。さらに,孔版印刷機やそのドラムの中古品市場が存在し,そこでは,孔版印刷用インクが孔版印刷機やそのドラムと共に再譲渡されている(甲37)。
   (2) なお,被控訴人らは,自らの被控訴人インクの販売態様について,「被控訴人コロナは,顧客の要望に対応すべく,容器の管理に万全を期しており,いわゆる1対1管理方式をとっている。」旨主張し,乙19,23には,これに沿う陳述記載がある。すなわち,乙19(被控訴人ら代表者の陳述書)には,被控訴人らが,顧客から提出された空インクボトルに,被控訴人インクの充填ごとに,独自のロット番号を印字し,同ロット番号からは,インクの種類と充填日時がわかる旨,また,甲8の写真2のインクボトルの端部分が空白になっているが,顧客によってはこの部分に自己の名称を記入している場合もあるし,被控訴人らが顧客名を記入する場合もあり,このようにして,被控訴人らは,顧客から提出されたインクボトルが当該顧客に対して返還されるように管理している旨の陳述記載がある。また,乙23(被控訴人コロナのインク詰替業務担当者であるXの陳述書)には,顧客から送付された空インクボトルに記名がないと,どの顧客のインクボトルかわからなくなってしまうので,顧客に空インクボトルへの記名を依頼しており,記名がない場合には,被控訴人コロナが記名する場合もある旨の陳述記載がある。

      しかしながら,以下の諸事情によれば,被控訴人らが,顧客から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,これに被控訴人インクを充填した上,当該インクボトルを当該顧客に返還するといういわゆる1対1管理方式を採用しているとは到底認められず,前記認定のとおり,顧客から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,同形のインクボトル(引渡しを受けた当該インクボトルに限らない。)に被控訴人インクを充填して販売する態様(控訴人主張の販売態様@)の行為や,顧客から空インクボトルの提供を受けることなしに,自ら保管中の空インクボトルに充填された被控訴人インクを販売する態様(控訴人主張の販売態様A)の行為を行っていることは明らかである。
     ア すなわち,多数の地域特約店等を経由して多数の空インクボトルを回収する際に,空インクボトルに顧客名を直接記名するというような,手間がかかりかつ不確実な方法が,すべての空インクボトルについてもれなく行われているとは到底考え難いことである。現に,証拠(甲8)によれば,被控訴人インクが充填されたインクボトルについて,顧客名の記名が行われていないものがあることが認められる(乙19における被控訴人ら代表者の前記陳述記載も,このことを自認している。)。

        顧客から持ち込まれた空インクボトルを当該顧客に返還するためには,すべての空インクボトルを顧客ごとに管理する必要があることはいうまでもないところ,上記事情は,顧客から持ち込まれた空インクボトルを当該顧客に返還するための1対1の管理がされていないことを示すものである。
        そもそも,被控訴人インクを販売するためには,顧客が持ち込んだ空インクボトルと同形のものが顧客に返還されれば十分であるから,それ以上に(商標権侵害が問題とされる以前から)1対1の管理を行うというようなことは,経済的に見て不合理なことといわざるを得ない。
     イ また,被控訴人らが開設していたホームページ(甲32)には,「RECYCLE BANK」と題して,「無料回収依頼フォーム インク・トナーカートリッジ無料回収いたします! こちらからご依頼ください。」,「お客様Aは空の容器をリサイクルバンクへ預けて,必要なときにリサイクル済みのカートリッジを購入することができます。通常は,こちらのスタイルが一般的です。」,「お客様Bはインクの在庫がたくさんあるなど,とりあえず空容器の回収のみを希望される方です。預けたカートリッジは,リサイクルバンクの共有財産として登録し大切に保管させていただきます。※引取り運賃無料です。こちらからお申し込みください。」,「お客様Cは,リサイクルされたものが必要だが,空容器が無いお客様です。この場合は共有財産のなかから,即納させていただきます。空容器が集まり次第,リサイクルバンクへ空容器を預けてください。※ただし,リサイクルバンクの空容器の保有状況により,A・Bのお客様のためにお断りする場合があります。ご了承下さい。」との記載がある。

        また,被控訴人拓研作成の「インク詰替えサービスのお試しのご案内」(甲19)には,「お客様でご使用済みの空容器を無料回収しております。ご協力下さい」との記載があり,同じく「”孔版インク詰替えサービス代”のお見積書」(甲21)には,「インク詰替えサービスをご利用の如何にかかわらず空容器の無料回収致します」との記載がある。
        さらに,被控訴人ら作成の「インク詰替えサービスの評価アンケート」(乙12の1ないし3,乙21の1)には,「利用できないが空容器回収を希望…」,「空容器の回収を依頼したい」等の回答欄がある。
        これらの記載は,被控訴人らが,顧客から空インクボトルの提供を受けることを前提としない販売態様(控訴人主張の販売態様A)をも行っていることを示すものである。

       (なお,これらの記載につき,被控訴人ら代表者の陳述書(乙22)では,上記文書(甲19)の記載は,空インクボトルを顧客に代わって廃棄することを申し出ることをきっかけにインク詰替えサービスの売り込みを図ることを目的として記載したものとされ,また,被控訴人コロナのインク詰替業務担当者であるXの陳述書(乙23)では,上記ホームページの存在を知らなかったとされているが,いずれの説明も不自然きわまりない内容というべきであり,到底採用することはできない。)
     ウ 現に,証拠(甲16,18,20,乙20,22)によれば,被控訴人拓研が,公文教育研究会に対し,空インクボトルを回収することなしに,被控訴人インクを充填済みのインクボトル1本を,サンプルとして無償で引き渡したことが認められ,被控訴人らが,顧客から空インクボトルの提供を受けることを前提としない販売態様(控訴人主張の販売態様A)を行っている実例も明らかとなっている。

     エ さらに,証拠(甲8,乙19,23〔後記認定に反する部分は除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人らが被控訴人インクを充填したインクボトルには,6桁のロット番号が印字されているところ,ロット番号はインクの充填日及びインクの種類を表すものであり,具体的には,ロット番号の最初の桁が「年」を,次の2桁が「月」を,次の2桁が「日」を,最後の1桁がインクの種類を表す(たとえば,ロット番号「402131」は,2004年2月13日,インクの種類1を表す。)ことが認められる。
       (なお,被控訴人らは,原審において,明確にロット番号が充填日を示すものであると主張した上,これに沿う内容の乙19(被控訴人ら代表者の陳述書)も提出しながら,控訴人がそのことを前提とする主張をするや,当審において,突如,ロット番号は被控訴人インクの製造日を示すものである旨主張を変更したものであり,上記主張変更がされた合理的な理由も何ら述べていないから,上記主張の変更は不自然なものであるといわざるを得ない。また,証拠(甲44,乙30,31)によれば,平成14年8月29日から平成16年3月25日までに出荷された被控訴人インク充填済みボトルのうち,同一のロット番号のものは,少ない場合で1本,多い場合で248本であり,本数が一定していないところ,インクの製造は当然一定量の単位で計画的に行われるはずである(被控訴人ら自身も,このことを認めている〔被控訴人第3準備書面9頁〕)から,そうすると,ロット番号は,インクの製造日ではなく,インクの充填日を意味するものであることが明らかである。)

        しかるに,証拠(甲25,乙21の2)及び弁論の全趣旨によれば,たとえば,安田生命保険相互会社(柏支社)に対する被控訴人インクの販売については,控訴人により販売された30本を上回る空インクボトル34本につきインクの詰替えが行われているばかりか,回収された空インクボトルについても回収日以前に被控訴人インクの充填が行われていることが認められる。また,証拠(甲43,乙29〜31)によれば,平成13年1月4日から平成16年3月25日までに出荷された被控訴人インク充填済みボトルの取引のうち,充填日(ロットナンバー)が受日よりも前になっているものが1331件に上ること,及び充填日(ロットナンバー)から出荷日までが30日以上のものが241件あり,90日以上のものが34件あることが認められる。
        1対1の管理を行っていれば,インクの充填が空インクボトルの回収より前になることはあり得ないから,回収日以前に被控訴人インクの充填が行われていることは,被控訴人らが1対1の管理を行っていないことを示す事実である。また,控訴人により販売されたインクボトル数を上回る本数につきインクの詰替えが行われていることは,被控訴人らが顧客から空インクボトルの提供を受けることを前提としない販売態様(控訴人主張の販売態様A)の販売を行っていることを推認させる事実である(上記事例に関し,被控訴人らは何ら合理的な説明をしていない。)。さらに,仮に,被控訴人らの主張するように,被控訴人らが,顧客から空インクボトルの提供を受けることを前提としない販売態様(控訴人主張の販売態様A)の販売を行っておらず,全取引において,顧客から空インクボトルを預かって4日後にインクボトルを返還しているとすると,被控訴人らが手元に保管中のインクボトルは,4日間の取引に対応する本数分のみになるべきであるところ,そうであれば,上記のように,充填日から出荷日まで30日以上,90日以上といった長期間が経過しているインクボトルが多数存在することの説明が不可能となるから,そうすると,このことは,被控訴人らが,顧客から空インクボトルの提供を受けることを前提としない販売態様(控訴人主張の販売態様A)の販売を行っていることを示す事実である。
   (3) 被控訴人らが,本件登録商標が付された空インクボトルに被控訴人インクを充填して販売する行為を行っていることは,当事者間に争いがないところ,かかる行為が形式的には「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡(す)行為」(商標法2条3項2号)に該当することは明らかである。しかしながら,商標の本質は,自他商品の出所を識別するための標識として機能することにあると解されるから,被控訴人らの行為が,本件登録商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するというためには,当該商標が商品の取引において出所識別機能を果たしていることが必要となるというべきである。そこで,以下,この観点から検討する。

      上記認定事実によれば,@被控訴人らは,顧客から使用済みの空インクボトルの引渡しを受けて,同形のインクボトル(引渡しを受けた当該インクボトルに限らない。)に被控訴人インクを充填して販売する態様の行為のみならず,顧客が空インクボトルを提供することを前提とせず,空インクボトルに充填された被控訴人インクを販売する態様の行為をも行っており,A被控訴人コロナは,同拓研及び多数の地域特約店を通じて,約1500もの顧客(販売先)と取引をしており,その取引規模は,個人的な小規模取引のようなものとは全く異なる大規模なものであり,B被控訴人らが被控訴人インクの販売の際に使用するパンフレット,注文書等には,控訴人印刷機やこれに対応したインクカートリッジの名称がそのまま使用されている反面,上記パンフレットには,「被控訴人インクが控訴人と無関係に製造されたものである」旨のいわゆる打ち消し表示もされておらず,むしろ被控訴人インクが控訴人の純正インクであるかの如き誤解を招く記載もあり,C被控訴人らが顧客に納品する,被控訴人インクの充填されたインクボトルにも,本件登録商標が付されたままであり,いわゆる打ち消し表示もされておらず,D被控訴人らの顧客において,実際にインクを使用する者のみならず,購買担当者も,被控訴人インクが控訴人とは無関係に製造されたものである点について正確な理解をしていない事例があり,E孔版印刷用インクについては,購入後に再譲渡されることも一般に行われている,というのである。
      これらの事情によれば,被控訴人らの被控訴人インクの販売行為が,市場における取引者,需要者の間に,「本件登録商標が付されたインクボトルに充填されたインクが控訴人を出所とするものである」との誤認混同のおそれを生じさせていることは明らかであるから,本件登録商標は,商品(インク)の取引において出所識別機能を果たしているものであって,被控訴人らの行為は,実質的にも本件登録商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するものというべきである。

   (4) これに対し,被控訴人らは,「顧客は,空インクボトルに充填されているインクは控訴人のインクではなく被控訴人インクであると認識している。つまり,空インクボトルは顧客所有のものであり,被控訴人らは単にその容器に被控訴人インクを充填して販売するにすぎない。したがって,顧客が持参する空インクボトルに本件登録商標が付されていても,被控訴人らの行為は商標の「使用」に該当せず,本件商標権の侵害に当たらない。」旨主張する。
      しかしながら,被控訴人らが,顧客から空インクボトルの提供を受けることなしに,被控訴人インクを充填したインクボトルを販売する態様(控訴人主張の販売態様A)の行為をも行っていることは,前記認定のとおりであるから,被控訴人らの上記主張はその前提を欠き,理由がない。
      また,被控訴人らが,顧客から使用済みのインクボトルの引渡しを受けて,同形のインクボトルに被控訴人インクを充填して販売する態様(控訴人主張の販売態様@)の行為においても,前記認定のとおり,被控訴人らのパンフレット等には,控訴人印刷機等の名称がそのまま使用され,打ち消し表示もされておらず,むしろ被控訴人インクが控訴人の純正インクであるかの如き誤解を招く記載もあること,被控訴人らが納品する,被控訴人インクの充填されたインクボトルにも,本件登録商標が付されたままであり,打ち消し表示もされていないこと,これらに起因して,被控訴人らの顧客(販売先)において,実際にインクを使用する者のみならず,購買担当者も,被控訴人インクが控訴人とは無関係に製造されたものである点について正確な理解をしていない事例があること等が認められるのであるから,顧客から空インクボトルの提供があっても,それ故に,顧客が「インクボトルに充填されているインクが控訴人と無関係に製造された被控訴人インクである」ことを正確に認識することができるとはいえない。

      したがって,被控訴人らの上記主張は理由がない。
 2 争点2(損害の有無及び額)について
   (1) 被控訴人らがその本店所在地や代表者を共通にしていることは,弁論の全趣旨から明らかであり,被控訴人拓研が実質的に被控訴人コロナの販売部門であることは,当事者間に争いがないから,これらの事実によれば,被控訴人らは,一体となって,前記1認定の商標権侵害行為(共同不法行為)を行っていると認められる。
   (2) 被控訴人インクについての平成14年8月29日から平成16年3月25日までの販売数量(乙30,31に記載された販売数量)が7215本であることは,当事者間に争いがない。上記販売数量を上記期間の月数で除すると,月平均販売量は少なくとも約380本となる。
      証拠(乙29)によれば,被控訴人らが平成13年1月4日には既に被控訴人インクを販売していることが明らかである。また,証拠(甲9)によれば,被控訴人らは,平成12年12月8日時点で,既に約2万本のインクボトル(本件登録商標が付された,控訴人の製造販売に係るものを含む。)に充填された被控訴人インクを販売済みであることが認められるから,上記月平均販売量も考慮すれば,被控訴人らは,遅くとも,平成12年4月初めには,本件登録商標が付された空インクボトルに充填した被控訴人インクの販売を開始していたものと認められる。

      そうすると,被控訴人らが,平成12年4月初めから平成16年3月末日まで(48か月)の間に,本件登録商標が付された空インクボトルに充填して販売した被控訴人インクの販売量は,控訴人主張の1万8235本(平成12年4月初めから平成14年2月末日まで(23か月)8740本,平成14年3月初めから平成16年3月末日まで(25か月)9495本)を下らないと認められる。
   (3) 被控訴人らが,被控訴人インクを1本当たり2000円で販売していることは,当事者間に争いがない。
      なお,被控訴人らは,「代理店に対しては,事業促進のため,1本当たり100円のマージンを約束する場合が大半であるから,代理店経由の場合は,実質的な価格は1900円である。」旨主張する。しかしながら,上記主張に係る事実を認めるに足りる的確な証拠はない(乙37及び42には,平成16年4月に販売した被控訴人インクのうち,単価が2000円のものが46本,1900円のものが420本である旨の陳述記載があるが,これを裏付ける客観的証拠(伝票,売上台帳等)はないし,本件損害賠償請求の対象となっている期間において,これと同一の状況であったことを認めるに足りる証拠もない。)。また,仮に,被控訴人らが代理店に手数料(マージン)を支払っているとしても,それは,被控訴人インクの販売価格とは別個の問題であって,そのことにより販売価格の認定が左右されるわけではない。したがって,被控訴人らの上記主張は理由がない。

   (4)ア 商標法38条2項における「侵害者が侵害行為から受けている利益」を算定するに当たっては,侵害品の売上高から,侵害行為のために要した費用(侵害行為と相当因果関係が認められる費用)のみを差し引くべきである。そして,上記費用のうちには,被控訴人ら内部の事情に係るものであって,商標権者側にとっては,文書提出命令の申立て(商標法39条,特許法105条)をするなどしても立証が極めて困難であるものも含まれるところ,商標権者の損害額の立証の困難性を緩和するために特に商標法38条2項の推定規定が設けられた趣旨に鑑みれば,侵害者側が上記費用の主張立証責任を負うものと解するのが相当である。以下,この観点から検討する。
     イ 被控訴人らは,「被控訴人インク詰替え事業開始時の経費は,1本当たり2077.6円(@受入容器分類作業費100円,Aインク代880円,B充填・清掃費570円,C荷造り費48円,D運送賃160円,E宣伝広告費・諸経費159.8円,F一般管理費159.8円の合計。なお,E及びFは,@ないしCの合計額の各1割として計算した。)である。上記インク詰替え事業の開始から現在まで,利益が発生した月はない。」旨主張する。

       (ア) 上記のうち,C荷造り費48円,D運送賃160円については,当事者間に争いがない。
       (イ) A,Bについて,被控訴人らは,「これらに対応する作業(インク製造,清掃,充填)は,外部に委託しており,その委託費用としてA,Bの費用が発生している。」旨主張する。しかしながら,被控訴人らは,従前,被控訴人が被控訴人インクを製造している旨,及び被控訴人工場において,空インクボトルに被控訴人インクを充填する旨主張しており(例えば,被控訴人第3準備書面7頁14行目,8頁6行目,被控訴人第8準備書面4頁5行目),本件訴訟の開始から,被控訴人インクの製造,充填等を外部に委託している旨の主張は一切していなかったところ,弁論終結日である平成16年7月6日の当審第7回口頭弁論期日(被控訴人第10準備書面)において初めて,上記主張を行ったものである。また,証拠(甲40,45)によれば,被控訴人インクの1本あたりの原材料費は,高くても約300円程度であることが認められるから,インク代880円(上記A)という金額は,原料費からみて高額にすぎ,不自然な金額といわざるを得ない。さらに,被控訴人らは,上記主張を裏付ける証拠として,乙40等を提出するが,これらの証拠は,上記主張の裏付けとして不十分なものといわざるを得ない(乙40は,平成16年4月分の請求書であるところ,本件損害賠償請求の対象となっている期間において,これと同一の状況であったことを認めるに足りる証拠はない。また,乙40には,同月分の請求明細として,控訴人用インク466本のほかに,「リコー・デュプロ用1000cc」199本,「リコー・デュプロ用600cc」103本との記載があるところ,被控訴人らが同月の売上明細として提出した乙38に記載された本数を合計すると,控訴人用インクは466本となり一致するものの,控訴人用インク以外のもののうち,1000ccは151本,600ccは149本となり,乙38と40の記載は整合しない(甲46)から,乙40の信用性には疑問が残るといわざるを得ない。)。これらの事情によれば,被控訴人らの上記主張は採用できず,A,Bは認められない。

       (ウ) @,E,Fについては,これらを認めるに足りる的確な証拠はない。なお,乙37,42には,平成16年4月分の被控訴人インクの販売に関する経費として,受入容器分類作業費15万5436円,お客様サービス費18万4246円,管理費8万6000円を要した(これらの金額は,当該作業に当たった従業員の給与に,当該作業時間の職務時間に占める割合を乗じて算出した。)旨の陳述記載がある。しかしながら,当該作業に当たった従業員の氏名も明らかにされていないばかりか,当該作業時間の職務時間に占める割合を裏付ける客観的証拠もない。また,その陳述記載の内容自体,不自然と思われる点がある(たとえば,受入容器分類作業には,従業員2名が職務時間の約3割程度を費やしたとされるが,同月分の控訴人用受入容器は466本にすぎないとされるのであるから,その程度の本数の容器の分類に,このような多くの時間が必要であるとは考え難い。)。したがって,上記陳述記載は採用できない。
     ウ 上記のとおり,荷造り費48円,運送賃160円については,当事者間に争いがない。また,証拠(甲40,45)によれば,被控訴人インク1本あたりの原材料費は,約300円程度であることが認められる。さらに,受入容器の分類・清掃,インクの充填等の作業が侵害行為のために必要であることは明らかである。加えて,前記認定のとおり,侵害行為についてパンフレット,ホームページ等による宣伝広告が現に行われている。これらの費用を合計した,被控訴人インク1本あたりの販売行為(侵害行為)のために要した全費用は,民訴法248条の趣旨も考慮し,800円と認める。なお,一般管理費については,その性質上,侵害行為がなくても必要であった可能性があるところ,本件において一般管理費が侵害行為のために必要であったことを認めるに足りる証拠はないから,経費として計上することはできない。
   (5) 以上のとおり,被控訴人らが,平成12年4月初めから平成16年3月末日までに,本件登録商標が付された空インクボトルに充填して販売した被控訴人インクの販売量は,少なくとも1万8235本(平成12年4月初めから平成14年2月末日までに8740本,平成14年3月初めから平成16年3月末日までに9495本)であるところ,被控訴人インク1本当たりの利益は1200円(2000円−800円)であるから,上記販売行為による被控訴人らの平成12年4月初めから平成16年3月末日までの利益の額は,2188万2000円(平成12年4月初めから平成14年2月末日までに1048万8000円,平成14年3月初めから平成16年3月末日までに1139万4000円)となる。
   (6) これに対し,被控訴人らは,「顧客は,適宜インクを選択して購入する自由を有しており,純正インクの購入を強制されることがない以上,控訴人には,純正インクの販売による得べかりし利益というものは存在しない。」,「顧客は,自己の有する孔版印刷機に適合するインクを購入するにすぎず,インク容器に本件登録商標が付されているからインクを購入するわけではない。」旨主張する。しかしながら,前記のとおり,被控訴人らは,本件登録商標を使用して,市場における取引者,需要者の間に,「本件登録商標が付された空インクボトルに充填されたインクが控訴人を出所とするものである」との誤認混同のおそれを生じさせた上,被控訴人インクを販売しているのであるから,被控訴人らのかかる販売行為は,控訴人が自ら製造するインクの販売による得べかりし利益を侵害するものというべきであるし,また,上記主張のように「顧客は,インク容器に本件登録商標が付されているからインクを購入するわけではない。」ということはできない(なお,当裁判所の和解期日において,裁判所側から被控訴人らに対し効果的な打ち消し表示をした上での被控訴人インクの販売継続案を提示したところ,被控訴人らは過大の費用を要するなどと称してこれを拒否したが,これは被控訴人ら自身が本件登録商標が有する出所識別機能を利用した被控訴人インクの販売につき多大のメリットがあることを認めていることの根拠である。)。
      また,被控訴人らは,「控訴人は,インクの充填されたインク容器を販売しているのに対し,被控訴人らは,インクの詰替えサービスを行っているものであり,両者の販売活動は同種同質のものといえないから,被控訴人らの販売活動により,控訴人に損害は発生していない。」旨主張する。しかしながら,控訴人は,インクが充填されたインクボトルを製造販売しているのに対し,被控訴人らは,控訴人の製造販売に係る空インクボトルに被控訴人インクを充填して販売しているのであるから,両者の行為は,インクボトルの販売の有無という点では異なるものの,本件損害賠償請求の対象であるインクの販売という観点においては共通するものというべきである。

      なお,被控訴人ら主張の権利濫用の点については,本件損害賠償請求等が認められたからといって,本件商標権を侵害しない態様での被控訴人インク等の販売までもが全面的に禁止される筋合いでもないから,顧客に対し純正インクの購入を強制することにはならないというべきである。
      したがって,被控訴人らの上記主張はいずれも理由がない。
 3 結論
    以上によれば,控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は,@控訴人の登録商標に係る標章が付されたインクボトルを用いた孔版印刷用インクの販売の差止め,A同標章を付したインクボトルの廃棄,B不法行為に基づく損害金2188万2000円及び内金1048万8000円に対する不法行為後である平成14年3月1日から,内金1139万4000円に対する不法行為後である平成16年4月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求める限度で理由がある。よって,控訴人らの本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。


           東京高等裁判所知的財産第1部

                       裁判長裁判官          北  山  元  章

                            裁判官      青  柳     馨

                            裁判官      沖  中  康  人