H16. 5.19 東京高裁 平成15(行ケ)388 実用新案権 行政訴訟事件

平成15年(行ケ)第388号 審決取消請求事件(平成16年4月28日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告   SMC株式会社
                  (旧商号)エスエムシー株式会社
       訴訟代理人弁護士   清永利亮
       同          宮寺利幸
       同    弁理士   千葉剛宏
       被      告   豊和工業株式会社
       訴訟代理人弁護士   吉武賢次

       同          宮嶋学
             同    弁理士   永井浩之
             同          鈴木清弘
             同復代理人弁理士   前島旭
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が平成8年審判第17661号事件について平成15年7月23日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
    被告は,名称を「圧流体シリンダ」とする実用新案登録第2035182号考案(昭和60年11月6日出願,平成4年12月10日出願公告,平成6年10月6日設定登録,以下,この実用新案登録を「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。

    原告は,平成8年10月17日,本件実用新案登録を無効にすることについて審判の請求をし,平成8年審判第17661号事件(以下「本件審判事件」という。)として特許庁に係属したところ,特許庁は,同事件について審理した上,平成10年4月7日,「登録第2035182号実用新案の登録を無効とする。」との審決(以下「1次審決」という。)をした。
    被告は,1次審決に対する審決取消訴訟(当庁平成10年(行ケ)第141号)を提起するとともに,平成10年6月10日,本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書(ただし,出願公告に係る実用新案公報〔甲31,以下「本件公報」という。〕に記載のもの。以下「公告明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載等の訂正をする審判(以下「本件訂正審判」という。)の請求をし,平成10年審判第39041号事件として特許庁に係属したところ,特許庁は,平成11年3月9日,公告明細書を同請求のとおり訂正することを認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,その確定を受け,上記審決取消訴訟において,同年6月24日,1次審決を取り消す旨の判決(以下「1次判決」という。)がされ,これが確定した。

    1次判決に基づき,本件審判事件について再度の審理が行われた結果,平成13年1月9日,「登録第2035182号実用新案の登録を無効とする。」との審決(以下「2次審決」という。)がされ,これに対し,被告が再度の審決取消訴訟(当庁平成13年(行ケ)第78号)を提起したところ,平成14年5月9日,2次審決を取り消す旨の判決(以下「2次判決」という。)がされ,同年10月25日,上告不受理の決定により2次判決が確定した。
    2次判決に基づき,本件審判事件について3度目の審理が行われた結果,平成15年7月23日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)がされ,その謄本は,同年8月2日,原告に送達された。
 2 本件訂正審決による訂正(以下「本件訂正」という。)後の実用新案登録請求の範囲1項に係る考案の要旨

   バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にべースを一体に突設し,そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し,その案内レールには,前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。
   (下線が訂正部分。以下,上記考案を「本件考案」といい,その構成を,本件審決の表現に従い,A「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて」,B「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にべースを一体に突設し,そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し」,C「その案内レールには,前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え」,D「これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた」,E「ことを特徴とする圧流体シリンダ」と分節して,それぞれ「構成要件A」〜「構成要件E」という。)

 3 本件審決の理由
   本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人(原告)の主張する無効理由,すなわち,@本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正は,公告明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,また,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものであるから,特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則4条2項(以下「附則4条2項」という。)により読み替えるものとされる同法による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)39条1項ただし書若しくは2項に適合せず,本件実用新案登録は,附則4条2項により読み替えるものとされる旧実用新案法37条1項2の2号に該当する(主張2の(1)),A本件考案は,特開昭62−88866号公報(甲27,以下「甲27公報」という。)に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明(以下「甲27発明」という。)と同一であり,かつ,本件考案と甲27発明の発明者又は出願人が同一であるとはいえず,特段の事情があるとも認められないから,旧実用新案法3条の2に違反してされたものであり,同法37条1項1号に該当する(主張4),B本件考案は,特開昭60−172711号公報(甲1,以下「甲1公報」といい,その考案を「甲1考案」という。),欧州公開特許公報第0157892A1号(甲4,1985年〔昭和60年〕10月16日公開,1984年4月10日出願,以下「甲4公報」といい,その考案を「甲4考案」という。)及びドイツ連邦共和国公開特許公報DE2908605A1号(甲13,1980年〔昭和55年〕9月11日公開,1979年3月5日出願,以下「甲13公報」といい,その考案を「甲13考案」という。)に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり,実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから,附則4条2項により読み替えるものとされる旧実用新案法39条3項に適合せず,本件実用新案登録は,同法37条1項2の2号に該当する(主張3の(2))との主張に対し,@本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正は,公告明細書に記載されていたと解すべきであるから,上記訂正は適法である,A本件考案は,甲27発明と同一であるということはできないから,旧実用新案法3条の2に違反しない,B甲1考案及び甲4考案は,本件考案の構成要件B及びCを具備せず,甲1考案に甲4考案ないし甲13考案の技術的思想を適用して本件考案を想到する合理性がなく,その適用を妨げる特段の事情があるから,本件考案が甲1考案,甲4考案及び甲13考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえないとして,請求人の上記主張及び証拠方法によっては,本件実用新案登録を無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   本件審決は,本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正について訂正要件の判断を誤り(取消事由1),本件考案と甲27発明との同一性の判断を誤り(取消事由2),甲4考案を誤認した結果,本件考案の甲1考案,甲4考案及び甲13考案に基づく容易想到性を誤って否定し(取消事由3),原告の主張及び証拠方法によっては,本件実用新案登録を無効とすることはできないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。

 1 取消事由1(訂正要件についての判断の誤り)
   (1) 本件訂正に係る訂正事項(あ)は,公告明細書の実用新案登録請求の範囲1項記載の「両側の側壁の一方のみに,ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け,」(本件公報〔甲31〕1欄7行目〜9行目)を「両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し,」と訂正するものであるところ,本件審決は,「該棒状の案内レールは,訂正前の明細書及び図面(注,公告明細書)に記載されていたと解すべきである。・・・以上のとおり,訂正事項(あ)は,訂正審決の認定のとおり適法なものである」(審決謄本35頁第3段落〜36頁第2段落)と判断しているが,誤りである。

   (2) 本件審決は,「案内レールが棒状のものであることは,本件公報第3欄第26〜30行に『・・・該ベース11上には,断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ,』と記載されていることや第1図,第2図の記載から明白である」(審決謄本35頁第2段落)と判断している。確かに,本件公報の第2図には,ベース11上に断面形状台形状をなす案内レールが図示されているが,「棒状」について記載又は図示されている箇所はなく,この「棒状」の点は,公告明細書に全く開示されていないにもかかわらず,本件訂正において新たに挿入された文言である。「棒状」の文言の意味は,断面形状台形状以外の形状をも含む極めて広範囲な解釈の余地を残すものであるから,公告明細書の記載又は図面から直接的かつ一義的に導き出される事項ではなく,新規事項の追加に当たる。特許庁の特許・実用新案審査基準(甲30)では,補正に対する新規事項の基準は,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項である場合,又はそれから当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項である場合を除き,当該補正は許されない」とされ,訂正に対する新規事項の基準も同様である。なお,補正(訂正)が許される範囲を,従来の「当初明細書等の記載から直接的かつ一義的に導き出せる事項」から「当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項」に改めた改訂後の特許・実用新案審査基準は,平成15年10月22日以降に審査される平成6年1月1日以降の出願について適用されるものであり,本件の場合にはその適用はない。このように,本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正は,公告明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから,旧実用新案法39条1項ただし書に適合しない。
   (3) また,本件審決は,「本件公報第3欄第39〜42行に『尚案内レール10と案内子13との構成は上記に限定されるものでなく,市販のスライディングユニット等より適宜に選択使用することも可である。』と記載されていることからみて,本件考案において,棒状の案内レール10は案内子13を案内する機能を有するものであれば足り,その断面形状が台形状であることに拘らないことが自明のことであることからみても,該棒状の案内レールは,訂正前の明細書及び図面に記載されていたと解すべきである」(審決謄本35頁第3段落)と判断している。しかしながら,本件公報に上記のとおり「市販のスライディングユニット等より適宜に選択使用することも可である」と記載されているからといって,「案内レール」と「案内子」の形状を特定することにはならず,かえって,実用新案登録請求の範囲を不明確にすることになるから,訂正要件を満たさないことは明らかである。被告は,本件訂正に係る訂正事項(あ)には,「ベース」や「棒状」に関する訂正事項が含まれており,訂正事項(あ)が,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは,2次判決でも判示されているから,「棒状」を含む訂正事項(あ)が訂正要件を満たすとした本件審決の判断は,取消判決の拘束力に従った正当なものであると主張するが,2次判決が「棒状」の意味については判断していない以上,「棒状」が新規事項の追加に当たらないことについて何ら拘束力を有するものではない。
 2 取消事由2(本件考案と甲27発明との同一性の判断の誤り)
  (1) 本件審決は,甲27公報には,「a 異形管1の側壁に軸方向に縦スリット3を有し,該縦スリット3より異形管1内のウォーム7に螺合したウォームナット11に連設された伝動部材16の先端が突出し,該スリット3は弾性カバーベルト24にて密封されるようになっている機械式直線駆動装置において,b 異形管1の縦スリット3を挟んだ両側の側壁には,その両側の側壁から下方に延びる側壁の下方部に設けた縦案内6,6に締付け棒33,33を有する台座部31を係合して一体的に設け,その台座部31の上にウォーム7の軸芯と平行な棒状の案内棒34を一体に設け,もって異形管1の縦スリット3を挟んだ両側のうち一方の側のみに案内棒34を設けるものであり,c その案内棒34には,前記縦スリット3の幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,d これらの案内面に案内される案内面を有するスライダ35を前記伝動部材16に設けたe 機械式直線駆動装置」(審決謄本55頁第2段落)の発明が記載されており,本件考案と対比すると,構成要件Bに関して,両者は,「B”バレルのスリットを挟んだ両側のうち一方の側のみに,駆動部分の軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に設け」(同頁最終段落)の点で一致し,本件考案においては,構成要件Bであるのに対し,甲27発明においては,「b バレルのスリットを挟んだ両側の側壁には,その両側の側壁から下方に延びる側壁の下方部に設けた縦案内6,6に締付け棒33,33を有するベースを係合して一体に設け,そのベースの上にウオーム7の軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に設け,もってバレルのスリットを挟んだ両側のうち一方の側のみに案内レールを設けるものであり」(同56頁第2段落)である点で相違すると認定した上,「甲第27号証記載の発明(注,甲27発明)は,本件考案の構成要件A,Bを具備しないばかりでなく,本件考案の構成要件A,Bを示唆するものともいえない。・・・してみると,本件考案は,・・・甲第27号証記載の発明と同一であるということができない」(同57頁下から第2段落〜58頁第3段落)と判断している。しかしながら,甲27公報には,本件考案の構成要件Bが開示されており,本件考案との相違点である構成要件A及びEは,周知技術であるから,「課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)」(特許・実用新案審査基準)に該当し,本件考案と甲27発明とは実質的に同一というべきであり,本件審決は,甲27発明を誤認し,周知技術を看過し,本件考案の特徴事項を誤って判断したものである。
  (2) 甲27公報の第2図には,本件考案のバレルに対応する異形管1の一方の側壁,すなわち,異形管1の右側の側壁の下方部に縦案内6及び締付け棒33を介してベースに対応する台座部31が一体に右側へと突設され,このベースに対応する台座部31の上に,駆動部分の軸芯と平行に棒状の案内レールに対応する案内棒34が一体に突設されている構造が図示されている。しかも,この案内レールに対応する案内棒34には,バレルに対応する異形管1のスリット3の幅方向の両外側に上記軸芯と平行な案内面をそれぞれ備えた構成が示されている。「一体」とは,「一つのからだ」(広辞苑)のことであり,この意味からすれば,甲27公報の締付棒33を介して係合される異形管1と台座部31の一体化もまた「一つのからだ」として構成されているということができる。なお,「一体に突設し」の意味について,被告は,「一つのからだ」のように突設することと主張しているが,そうとすれば,甲27公報の「異形管1」と「台座部31」もまた「一つのからだ」のように突設した関係にある。同様に,本件考案の「ベース」に対し「案内レール」を一体に突設する関係も,甲27公報の台座部31と案内棒34の一体的関係に対応していることは明らかである。したがって,甲27公報の第2図には,本件考案の構成要件Bで特定される構成が開示されているというべきである。本件考案の要旨は構成要件Bであり,一方,本件審決は,本件考案の構成要件A,C,D及びEが,甲1公報,特開昭60−234106号公報(甲2),甲4公報及び甲13公報によって周知であると判断しているから,本件考案は,その要旨である構成要件Bに対して周知技術である構成要件A,C,D及びEを結合させたにすぎない。結局のところ,駆動媒体が圧流体であるか,機械式であるかによって,対象発明が異なるというに帰する本件審決は,本件考案に係る技術的思想をその実体まで深く検討して本件考案の要旨を的確に判断することを怠ったものであり,ひいては旧実用新案法3条の2の立法趣旨にも反している。

  (3) また,甲27発明は,本件審決も認定するように,本件考案の構成要件C及びDを有し,甲27公報は,本件考案との関係で構成要件B,C及びDを開示するから,本件考案との相違点は,構成要件A及びEのみである。甲27公報は,本件審決が認定するように,機械式直線駆動装置を開示しており,駆動部分としてウォームとそれに螺合するウォームナットを用いて往復動作する構造を採用しているのに対し,本件考案は,圧力流体を用いてピストンを駆動する点において相違する。しかしながら,甲27公報の機械式直線駆動装置と本件考案の圧流体シリンダとは,往復動駆動装置という上位概念で共通すること,ウォームに螺合したウォームナットと本件考案で用いるピストンとが駆動部分という上位概念で共通する構成であることも,本件審決が認めるところである。本件考案の構成要件Aと甲27発明の構成要件aとは,本件考案の駆動部分としての遊動ピストンと,甲27発明のウォーム及びそれに螺合するウォームナットからなる駆動部分の構成を除けば,全く同一であり,本件考案の構成要件Aは,甲1公報,甲4公報,特公昭51−28793号公報(甲24),特開昭59−137608号公報(甲25)及び特開昭58−50302号公報(甲26)に開示されている周知の構造である。圧流体によって往復動作する遊動ピストンに換えてウォームとウォームナットを用いる構成は,甲4公報に開示されている。したがって,本件考案の圧流体シリンダと甲27発明の機械式直線駆動装置との間では,駆動部分について差異があるものの,その駆動部分は互いに置換可能な技術である。
  (4) 本件審決は,甲27発明と本件考案とは,「その目的,構成及び作用効果を異にしている。・・・技術分野を全く異にし,・・・解決すべき課題も共通でないことが明らかである」(審決謄本57頁第1段落)とするが,技術分野に関しては,直線的に往復動する駆動装置である点で共通であるとした認定と矛盾し,圧流体シリンダの前提条件をなす本件考案の構成要件Aが周知技術である点を看過したことに起因する誤りがある。また,本件考案が解決しようとする問題点,目的及び作用効果は,本件訂正前の本件考案のそれと同じであるところ,本件訂正前の本件考案については,甲4考案及び甲1考案に基づく容易想到性が肯定されている。バレルが押し広げられることによりスリットが広がるおそれのあることが本件考案の解決すべき課題であるとすれば,周知技術としての圧流体を用いるロッドレスシリンダ共通の課題であり,この課題自体,甲1考案及び甲4考案に基づく容易想到性を理由に本件実用新案登録を無効と判断した1次審決によって明らかなように,既に解決された課題である。したがって,解決すべき課題が共通でないとして,本件考案の特徴である構成要件Bを開示する甲27公報の記載内容を排斥した本件審決の判断は,失当というほかはない。
 3 取消事由3(本件考案の容易想到性の判断の誤り)
  (1) 本件審決は,本件考案と甲1考案とは,本件考案の構成要件B及びCで相違し(審決謄本39頁第1段落〜第2段落),本件考案と甲4考案とは,本件考案の構成要件B及びCに対し,甲4考案が,「b.バレルのスリットを挟んだ両側の側壁に,ピストンの軸芯と平行な案内レールを直接設け,c.その案内レールには,前記軸芯と平行な案内面を夫々備える」(同43頁第2段落)点で相違すると認定した上,甲1考案に甲4考案ないし甲13考案の技術的思想を適用して本件考案を想到する合理性がなく,その適用を妨げる特段の事情があるとして,本件考案の甲1考案,甲4考案及び甲13考案に基づく容易想到性を否定したが(同47頁〜49頁の(3)の項),誤りである。

  (2) 本件審決は,甲4考案を誤認するものである。すなわち,本件考案の構成要件Bに関し,本件審決は,「甲第4号証(注,甲4公報)には,上記外部案内システムについて,軸芯と平行に整列するとあるのみであって,その具体的構成の記載がなく,むしろ,スライダはボールブッシュ等において両側の側壁に設けることを示しているとも解し得ること,少なくとも,筒状部材の圧力が高まることに対して片持ちでその変位による影響を回避する点について,甲第4号証に何らの記載もなく,かえって,特許請求の範囲には明確にスリットの両側に案内レールを設置すると記載されていることに照らせば,可動要素45aなどからなる外部案内システムについてもスリットの両側に設置することを前提としていると理解するのが合理的である。また,前記実施例を示す第2図は,第1図及び第3図と同様,その一部を省略した図面であると考えられることから,案内要素170を省略した場合に外部案内システム45若しくは可動要素45aが筒状部材の一方のみに設置される構成を示しているとはいえない」(同44頁下から第2段落)と判断している。確かに,甲4公報の請求の範囲1項には,「平行案内部の案内レールが縦方向スリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」(訳文10頁)との記載はあるが,この特定は下部案内レール又は上部案内レールを意味するものであって,二つの案内レールを有することを意味しているのではなく,甲4公報には,両側の側壁にスライダが設けられる旨の積極的な記載もない。本件無効審判の平成9年11月13日の口頭審理において,請求人(原告)及び被請求人(被告)は,「移動要素45aは荷重受け要素11に結合しているか,あるいは移動要素45aは,案内要素170に結合している」と一致して陳述し,その旨口頭審理調書(甲20)に記載されている。また,甲4公報には,「さらに外部案内システムは45で示唆する形態だけでなく,筒状部材1に直接構成できる。その配置は,筒状部材に固定的に配置するレール要素に外部案内システムを取り付けることもできる」(訳文9頁最終段落)との記載があるところ,上記レール要素は,甲4公報の第1図及び第2図によれば,案内レール及びそれより下方に設けられている案内レールに対応する。このように,案内レールを下方に配置し,かつ,これに外部案内要素を装着してもよいことが,甲4公報に示されており,甲4公報の外部案内システムは,第2図から明らかなとおり,その左側にあって筒状部材に単一の形態で突設形成されているから,レール要素はベースとしての機能を達成し,このレール要素に単一の外部案内システム,すなわち,棒状の案内レールを一体に突設することが示唆されている。したがって,甲4公報には,本件考案の構成要件Bの中,「下方に延びる側壁の下方部にべースを一体に突設し」の構成が開示されているというべきである。
  (3) 本件考案の要旨とされる構成要件Bの構成中,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,」の構成は,上記のとおり,1次審決において,本件訂正前の本件考案につき,甲4考案及び甲1考案に基づく容易想到性が肯定されており,また,甲4公報の第2図の筒状部材の縦方向スリットの左側に破線で示される外部案内要素45及び可動要素45aから明らかなとおり,甲4公報に示されているということができる。そうすると,本件考案は,甲1公報,甲4考案及び甲13考案を併せ考えれば,当業者がきわめて容易に想到することができたものというべきである。

第4 被告の反論
   本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(訂正要件についての判断の誤り)について
   (1) 本件訂正に係る訂正事項(あ)には,「ベース」や「棒状」に関する訂正事項が含まれており,2次判決は,「訂正事項(あ)は,明細書又は図面に記載された範囲内の事項でないとすることはできない」として,2次審決を取り消したものであって,同判決は,訂正事項(あ)の判断につき拘束力を有するから,「棒状」を含む訂正事項(あ)が訂正要件を満たすとした本件審決の判断は,取消判決の拘束力に従った正当なものであり,原告の主張は失当である。
   (2) 仮に,2次判決が訂正事項の「棒状」の判断につき拘束力を有しないとしても,上記「棒状」に関する訂正事項が,公告明細書に記載された範囲内の事項であることは明らかである。すなわち,本件実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲1項に,「・・・所謂ロッドレスシリンダにおいて,スリット穿設位置のいずれか一方側のバレルの側壁に該バレルと一体に,ピストンの軸芯と平行に案内レールを設け,ドライバーに設けた案内子の案内面を上記案内レールの案内面によって案内することにより,ドライバーに正確な直線移動を行なわせるようにした圧流体シリンダ」と,考案の詳細な説明に,「第1図及び第2図において11は,バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで,該ベース11上には,断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ,該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。13は,連結板14を介してドライバー3に固着された案内子で,案内子13の下面には,上記案内レール10に遊合する台形状の案内溝15が設けられ,その案内面16にはベアリング等の転動部材17が嵌合されており,該転動部材17は上記案内面12に転動自在に接触し,これによってドライバー3は,片持状態で案内レール10に保持される。尚案内レール10と案内子13との構成は上記に限定されるものでなく,市販のスライデングユニット等より適宜に選択使用することも可である」と記載され,第1図及び第2図には,「両外側に案内面12を有する棒状の案内レール10」が図示されている。当初明細書の実用新案登録請求の範囲1項の上記記載部分は,平成4年5月27日付け手続補正書により,公告明細書の記載のとおり,「・・・所謂ロッドレスシリンダにおいて,バレルのスリットを挾んだ両側の側壁の一方のみに,ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け,その案内レールには,前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ」と補正されたが,考案の詳細な説明の上記記載部分及び図面の上記図示は,公告明細書においても変更はない。

   (3) 「棒状」の用語の意味は,「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの称」(広辞苑第五版)であるから,公告明細書又は図面に記載されている案内レールが「棒状」の案内レールであることは明白であり,そうである以上,本件訂正に係る「棒状」に関する訂正事項が,「当初明細書(公告明細書)又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項」ないし「当業者にとって自明な事項」であることも明らかである。また,「棒状」に関する訂正事項が公告明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることは,本件訂正の経緯からも裏付けられる。すなわち,1次審決により,本件考案が,甲1考案及び甲4考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとされたことから,被告は,審決取消訴訟を提起した上,本件訂正審判の請求をし,訂正前考案の「案内レール」を「棒状の案内レール」に訂正するなどして本件考案の要旨を明りょうにし,甲1考案及び甲4考案との相違を明確にしたところ,本件訂正審決において,案内レールが棒状のものであることは,公告明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとして,本件訂正が認められたものである。
 2 取消事由2(本件考案と甲27発明との同一性の判断の誤り)について
  (1) 甲27発明は,本件考案が課題としている圧流体作動のスリット式ロッドレスシリンダに関する発明でなく,機械式直線駆動装置に関する発明であって,従来の機械式直線駆動装置の欠点を解消するために,「ウォームナットが回転自在かつ軸方向移動不能に伝動部材に支承され,また伝動部材に連接された動力源が,伝動部材に配属されたギヤを介してウォームナットと連結される」(甲27公報の3頁左上欄第3段落)との構成にしたものであり,本件考案とは技術分野,課題及び構成を異にするから,本件考案と同一とはいえない。また,甲27発明は,甲27公報に,「異形管1は台座部31の上に据付けられている。台座部31は止ねじ32によってベッドに螺着され,角柱状断面形状の締付け棒33を有する。締付け棒33は異形管1の縦案内6に係合し,異形管1を固定する」(5頁左下欄第2段落)と記載され,第2図に,「異形管1が台座部31の幅方向中間部上面に締付け棒33を用いて据付けられているもの」が図示されているように,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部にべースを一体に突設するものでないこと,一方のみの側壁の下方部に一体に突設したベースの上に案内レールを突設するものでないこと,以上の二点において本件考案の構成要件Bと一致しない。本件考案の構成要件Bの意義は,2次判決(乙7)の判示するとおり,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部にべ−スを一体に突設し,その一方のみの側壁の下方部に突設したベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設すること」を意味しているのに対し,甲27発明は,縦案内と締付け棒を用いてベースをバレルと一体化しているものであっても,台座部31がバレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に一体に突設されているものではないから,両者は構成を異にしているというべきである。
  (2) 原告は,圧流体によって往復動作する遊動ピストンに換えてウォームとウォームナットを用いる構成は,甲4公報に開示されているから,本件考案の圧流体シリンダと甲27発明の機械式直線駆動装置との間では,駆動部分について差異があるものの,その駆動部分は互いに置換可能な技術であると主張する。しかしながら,甲4公報に圧流体作動ピストンと電動機作動ウォーム・ウォームホィールが互いに置換可能な技術であることが示されているとしても,甲27発明は,ウォームナット等を備えた機械式直線駆動装置であることを前提としている発明であるから,甲27発明のウォーム,ウォームナット,電動機に換えて本件考案の圧流体作動シリンダに置換することは,当業者が予想しないことであり,その駆動部分が互いに置換可能な技術であるとはいえない。また,甲1公報及び甲4公報に本件考案の構成要件A,D及びEが開示され,甲13公報に本件考案の構成要件A,C,D及びEが開示されていても,本件考案の構成要件A,C,D及びEが周知の構造であるとはいえない。

 3 取消事由3(本件考案の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 甲4考案の請求の範囲1項には,「荷重伝達要素は筒状部材を部分的に囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され,平行案内部の案内レールが縦方向スリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」(訳文10頁)と記載され,また,外部案内システム45を設ける実施態様に対応する請求の範囲18項には,「筒状部材(1)に・・・外部案内システムを配置し,・・・を特徴とする上記請求項のいずれか1項に記載の装置」(同12頁)と記載され,請求の範囲1項を引用し,縦方向スリットの両側の筒状部材側壁に案内レールがそれぞれ設けられている構成を必須の構成要件としている。さらに,甲4公報には,発明の課題として,「動力伝達部材または案内部材の不均一なまたは過剰な負荷によって動力を受容する部分に不均一な応力が発生するのを防止すること」と記載され,その課題を解決するための必須の構成として,「筒状部材のスリットを挟んだ両側の側壁に設置する少なくとも二本の案内レールで案内要素を案内すること」と記載され,第1図及び第3図の実施例に,筒状部材のスリットを挟んだ両側の側壁に設置する二本の案内レールで案内要素を案内するものが図示され,第2図の実施例に,筒状部材のスリットを挟んだ両側の側壁に設置する二本の案内レールで案内要素を案内するものが図示されており,両側の側壁に案内レールを設けることが積極的に開示されている。なお,原告引用の本件無効審判の口頭審理の調書(甲20)のうち,原告が指摘する箇所は,甲4公報の記載についてではなく,甲2公報の記載についての説明箇所であり,同調書には,甲4公報の翻訳文の記載について,「被請求人(注,被告)は,外部案内システム45が設置された場合は,スライダー46と案内要素170は省略できるが,外部案内システム45を前記省略した部分に設置することを意味すると陳述」と記載されている。
  (2) 甲4公報の第2図に破線で示される外部案内要素45及び可動要素45aは,縦方向スリットの両側の側壁に設けた二本の案内レールで案内されるスライダ46と案内要素170を備えた装置に記載され,しかも,「可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する」と記載されていることから明らかなとおり,甲4公報の第2図には,原告が主張するように,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみにピストンの軸芯と平行な案内レールを一体に突設した構成が示されている」とはいえない。

第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(訂正要件についての判断の誤り)について
   (1) 原告は,本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正は,公告明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,新規事項の追加に当たるから,旧実用新案法39条1項ただし書に適合しない旨主張する。
     本件考案は,昭和60年に出願され,平成4年に出願公告された実用新案登録出願に係り,平成6年に実用新案権の設定登録がされた後,平成10年に本件訂正審判の請求がされたものであるから,その訂正事項が旧実用新案法39条1項ただし書に適合するか否かの判断は,本件公報の公告明細書の記載及び図面を基準にして判断すべきところ,本件公報(甲31)の公告明細書の実用新案登録請求の範囲1項には,「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け,その案内レールには,前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ」と,考案の詳細な説明の実施例の欄には,「第1図及び第2図において11は,バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで,該ベース11上には,断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ,該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。13は,連結板14を介してドライバー3に固着された案内子で,案内子13の下面には,上記案内レール10に遊合する台形状の案内溝15が設けられ,その案内面16にはベアリング等の転動(注,「転道」とあるのは,誤記と認める。以下同じ。)部材17が嵌合されており,該転動部材17は上記案内面12に転動自在に接触し,これによってドライバー3は,片持状態で案内レール10に保持される。尚案内レール10と案内子13との構成は上記に限定されるものでなく,市販のスライデングユニット等より適宜に選択使用することも可である」(2頁3欄26行目〜42行目)と記載されている。

     公告明細書の上記記載によれば,案内レールは,バレルの略全長にわたって突設したベース上に,ピストンの軸芯と平行に取付けられる断面形状台形状をなすものであり,両側の斜面に案内面を備えて案内子を案内することにより,ドライバーを介してピストンを軸芯と平行に移動させるものであって,バレルの略全長にわたる細長いものであると認められ,また,本件公報の第1図(側面図)には,案内レール10がベース11上にバレルの略全長にわたって細長く取り付けられている構造が,第2図(断面図)には,案内レール10,16の断面形状が台形状をなしている構造がそれぞれ図示されている。公告明細書の実用新案登録請求の範囲1項には,案内レールの形状について特に規定されておらず,上記の考案の詳細な説明の記載及び図面の図示によれば,案内レールは,その形状が断面形状台形状に限定されないことも示唆されている。一般に,「棒状」の語は「棒のような形」を,「棒」の語は「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの称」(広辞苑第五版)を指すから,公告明細書の記載及び図面に接する当業者は,本件考案に係る上記の比較的細長い案内レールは「棒状」のものを意味し,そのことが公告明細書等に記載されているのと同然であると理解するものと認めるのが相当である。したがって,上記訂正事項(あ)における「棒状の案内レール」とする訂正は,公告明細書に記載された事項の範囲内のものであるというべきである。
   (2) この点について,原告は,特許庁の特許・実用新案審査基準(甲30)を根拠として,本件公報には,案内レールが棒状であることについての記載及び図示はなく,「棒状」は,断面形状台形状以外の形状をも含むから,公告明細書の記載又は図面から直接的かつ一義的に導き出されるものとはいえず,新規事項の追加に当たる旨主張する。しかしながら,特許庁の上記審査基準は,もとより法規性を有するわけではなく,当審の判断を拘束するものでもないが,念のため,付言すると,原告主張の特許・実用新案審査基準は,明細書等の補正(訂正)に関する過度の硬直的な運用を改め,基幹的な発明の適切な保護に資するため,平成15年10月22日付けで,補正(訂正)が許される範囲を,従来の「当初明細書等の記載から直接的かつ一義的に導き出せる事項」から「当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項」に改め,同日以降に審査される平成6年1月1日以降の出願に適用されることとされたものである(甲51)。本件において,公告明細書の記載及び図面に接する当業者は,本件考案に係る案内レールは「棒状」のものを意味し,そのことが公告明細書等に記載されているのと同然であると理解するものと認められることは,上記のとおりであるから,上記改訂後の特許・実用新案審査基準によるとしても,本件訂正に係る訂正事項(あ)のうち,「棒状の案内レール」とする訂正は,「当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項」として,訂正が認められるべきものである。なお,原告は,改訂後の上記審査基準は,平成6年1月1日以降の出願に適用されるから,本件には適用されないと主張するが,特許ないし実用新案登録後の訂正においては,訂正の時期が平成6年1月1日以降であれば,それ以前の出願に対しても新規事項の追加は禁止されるから,改訂後の上記審査基準も同様に適用されることは当然である。
   (3) そうすると,被告主張の2次判決の拘束力について検討するまでもなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(本件考案と甲27発明との同一性の判断の誤り)について

  (1) 原告は,甲27発明には本件考案の構成要件Bが開示されており,本件考案との相違点である構成要件A及びEは周知技術であるから,「課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)」(特許・実用新案審査基準)に該当し,本件考案と甲27発明とは実質同一であると主張する。
    原告が,甲27公報には本件考案の構成要件Bが開示されていると主張する根拠は,その第2図の図示であると認められるから,第2図を甲27公報の明細書の記載と対比して検討すると,甲27公報には,特許請求の範囲1項に,「縦スリットを有し,末端側が軸受フランジで閉鎖された形状安定な異形管の中にウォームが支承され,ウォームナットによって管の長手方向に駆動される伝動部材が上記の縦スリットを貫いて異形管から外へ突出し,この長手方向直線運動を発生する動力源が配属されて成るウォームギヤに沿って,被駆動伝動部材の限られた直線運動を発生するための機械式直線駆動装置」(1頁左下欄)と,発明の詳細な説明に,「異形管1は台座部31の上に据付けられている。台座部31は止ねじ32によってベッドに螺着され,角柱状断面形状の締付け棒33を有する。締付け棒33は異形管1の縦案内6に係合し,異形管1を固定する。場合によっては組立式の台座部31に案内棒34が,異形管1の軸線と平行に整列されて,固定される」(5頁左下欄第2段落)と記載されている。上記の記載を第2図と対比すると,第2図には,異形管は,その下方両側の縦案内が締付け棒に係合・固定されることによって台座部の上に据付けられており,異形管の縦スリットを挟んだ両側の側壁のうち,右側の側壁に延設された部分の台座部の上方に異形管の軸線と平行に整列された案内棒が固定されることが開示されているものと認められる。そこで,甲27公報の第2図に開示されている上記構造と,本件考案の構成要件Bとを対比すると,甲27発明の「異形管」,「縦スリット」,「台座部」及び「案内棒」は,本件考案の「バレル」,「スリット」,「ベース」及び「案内レール」にそれぞれ相当するから,両者は,「バレルのスリットを挟んだ側壁の下方部にベースを設け,側壁の一方の側のベースのみに,バレルの軸芯と平行な棒状の案内レールを設け」たものである点で一致しているが,本件考案では,バレルの側壁の一方のみの下方部にベースを一体に突設し,そのベースの上に案内レールを一体に突設しているのに対し,甲27発明では,バレルは,両側壁における縦案内と締付け棒との係合によってベースに固定され,そのベースの上に案内レールを固定するものであるから,ベースはバレルの両側壁を越えて設けられる点で相違していることが明らかである。

  (2) ところで,本件訂正審判の審判請求書(乙20)に照らすと,本件訂正では,本件公報(甲31)に記載されていた,「尚上記実施例において案内レール10は,バレル1Aの側壁9に突設したベース11上に取付けられているが,バレル1Aとは別個に設けたベース11に案内レール10を取付け,適宜の取付具によってバレル1Aに一体的に取付けてもよい。」(2頁4欄19行目〜23行目)の記載を削除すると共に,実用新案登録請求の範囲1項の,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け,」を「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し,」と訂正したものである。そうすると,本件考案における,「バレルの一方の側壁のみにベースを一体に突設し,そのベースの上に案内レールを一体に突設し」とは,案内レールの設置位置を,バレルの一方の側壁に一体に突設したベース上に取付ける実施例に限定したものと解されるのであり,バレルとは別個に設けたベースに案内レールを取付け,適宜の取付具によってバレルに一体的に取り付けた甲27発明の構成を含まないものといわざるを得ない。
  (3) 原告は,「一体」とは「一つのからだ」のことであり,この意味からすれば,甲27発明の締付棒を介して係合される異形管と台座部の一体化もまた「一つのからだ」として構成されているということができると主張する。しかしながら,上記のように,本件公報では,バレルの側壁にベースを突設することと,バレルとは別個に設けたベースを取付具によって一体的にすることとは区別して記載されており,本件考案の構成要件Bでは,「ベースを一体に突設し」と記載されているのであるから,「一体に突設」と「締付棒を介して係合される異形管と台座部の一体化」とは異なるものと解するのが相当である。また,本件考案が,バレルの側壁の一方のみの下方部にベースを一体に突設しているのに対し,甲27発明では,ベースはバレルの両側壁を越えて設けられているから,いずれにしても,甲27発明が本件考案の構成要件Bを具備しているということはできない。

  (4) また,原告は,甲27発明と本件考案との相違点は,構成要件A及びEのみであるが,機械式直線駆動装置と圧流体シリンダとは往復動駆動装置という上位概念で共通し,互いに置換可能な技術であり,本件考案の構成要件Aは周知の構造であるから,「課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合」(特許・実用新案審査基準)に相当すると主張する。
    しかしながら,本件訂正後の明細書(甲19)によれば,本件考案は,圧流体シリンダの有する,「圧流体の供給によってスリット4が広がることにより,稜角部300に設けたガイドレールのゲージもともに広がり,摺動抵抗が大となって円滑な作動が行ない得ない虞れがある」(2頁下から第2段落)という課題を解決するための考案であるのに対し,甲27公報によれば,「本発明(注,甲27発明)の目的は,上述(注,従来例)の直線駆動装置と比較して拡張された使用範囲を長所とし,しかもそれによって場所の必要が大幅に増加せず,又は被駆動部分の位置ぎめ又は運動の精度が阻害されない機械式直線駆動装置を提供することである」(3頁左上欄第2段落)というものである。したがって,本件考案と甲27発明とは,課題が共通するものとはいえないから,原告の主張する課題解決のための具体化手段が何を指すのか明らかではないが,仮に,ピストン(伝動部材)を移動させること自体を課題とみなし,機械式駆動装置を圧流体によるピストン移動装置に置換することは上記微差に相当するというものであるとしても,移動機構を圧流体シリンダに置換したときには,圧流体の供給によってスリットが広がり,摺動抵抗が大となることを防止して円滑な作動が行い得るという,機械式駆動装置にはない新たな効果を奏することになるから,本件考案との相違点が課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものということはできない。
  (5) 以上のとおり,甲27発明は,本件考案の構成要件Bを具備しておらず,また,両者の相違点が構成要件A及びEのみであるとしても,甲27発明が本件考案と実質的に同一ということはできないから,その余の点について検討するまでもなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。
 3 取消事由3(本件考案の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 原告の取消事由3の主張は,要するに,甲4考案は本件考案の構成要件Bを具備するから,これを否定した本件審決は甲4考案を誤認しているというものであり,その根拠とするところは,@甲4公報の請求の範囲1項の「平行案内部の案内レールが縦方向スリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」との記載は,二つの案内レールを有することを意味しておらず,甲4公報には,両側の側壁にスライダが設けられる旨の積極的な開示もないこと,A本件無効審判の口頭審理において,請求人(原告)及び被請求人(被告)が,「移動要素45aは荷重受け要素11に結合しているか,あるいは移動要素45aは,案内要素170に結合している」と一致して陳述していること,B甲4公報の記載と第1図及び第2図の図示によれば,案内レールを下方に配置し,かつ,これに外部案内要素を装着してもよいことが示されており,外部案内システムは筒状部材に単一の形態で突設形成されているから,ベースとしての機能を有するレール要素に単一の外部案内システム,すなわち,棒状の案内レールを一体に突設することが示唆されていること,C1次審決は,本件訂正前の本件考案の構成要件Bの構成につき,甲4考案及び甲1考案に基づく容易想到性を肯定しており,また,甲4公報の第2図には,筒状部材の縦方向スリットの左側に破線で示される外部案内要素及び可動要素が示されていること,以上の4点(以下,それぞれ「根拠@」〜「根拠C」という。)である。
  (2) まず,根拠@についてみると,甲4公報の請求の範囲1項には,「荷重伝達要素は筒状部材を部分的に囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され,平行案内部の案内レールが縦方向スリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」(訳文10頁)と記載されており,この記載によれば,荷重伝達要素は,筒状部材の両側の外面に直接設置された二本の案内レール上を,つる状の案内要素により案内されることは明らかであり,筒状部材の両側の外面に設置された二本の案内レールが,必須の構成要件として記載されているものと認められる。また,第1図〜第3図の実施形態について,甲4公報には,「第1図の実施形態では,中心面12の上側にあって縦方向スリット10の両側に延びる二つの案内レール16でつる状の案内要素17が縦方向に移動可能に支承され,この案内要素は,荷重受け要素を形成するピストン4と,限定的に可動に支承部18で接続される」(同6頁第5段落),「第2図の直線伝動装置の実施形態は第1図のそれと,案内要素170が少し異なって形成されることだけである。・・・第2図の実施形態では,基本的にU字状のつる170の形態で形成した案内要素が円板形状の支承要素220を有し,この支承要素は荷重伝達要素11の部分23に設置し対応して形成する支承カップ24に形状適合に嵌入される」(同8頁第1段落〜第2段落),「直線伝動装置の第3図に示す実施形態は,基本要素において第1図のそれに対応する」(同8頁下から第2段落)と記載されている。これらの記載からすると,甲4考案は,筒状部材1の外面に,各一対ずつ配置した案内レールを設置し,第1図及び第3図の実施形態では,二つの案内レールでつる状の案内要素が移動可能に支承され,第2図の実施形態では,二つの案内レールでU字状のつるの形態で形成した案内要素が移動可能に支承されているものと認められる。したがって,甲4公報には,筒状部材の両側の側壁に二つの案内レールを設け,つる状の案内要素が移動可能に支承される構成が積極的に開示されているというべきである。

  (3) 根拠Aについては,原告主張の口頭審理調書(甲20)の記載は,それ自体,何ら当審の判断を左右するものではないばかりでなく,原告の指摘する箇所は,「(2)甲第2号証の第7頁左欄5行から13行にかけての記載(注,甲2発明の実施例に関する記載)の解釈」についての請求人(原告)及び被請求人(被告)の陳述であるから,甲4公報の解釈の根拠となるものではない。
  (4) 根拠B及びCは,以下のとおり,いずれも理由がない。
    まず,原告の指摘する甲4公報の記載は,「さらに外部案内システムは45で示唆する形態だけでなく,筒状部材1に直接構成できる。その配置は,筒状部材に固定的に配置するレール要素に外部案内システムを取り付けることもできる」(訳文9頁最終段落)というものであるが,この記載自体からは,外部案内システムをどのような形態で,どのように配置するかが不明であるといわざるを得ない。そこで,外部案内システムについて,甲4公報に開示されている他の記載についてみると,上記記載の直前の箇所に,「代替する実施形態では筒状部材2に外部案内システムを配置し,シリンダ穴2の軸13に平行に整列することもできる。それら外部案内システムは,例えば第2図の45では補強板の代わりに設置でき,その際ボールブッシュのようなスライダなどの方法で形成できる,45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。その場合,45の外部案内システムが要素46,170の課題を引き受けるので,スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である」(同頁第3段落〜第4段落)と記載され,請求の範囲18項には,「筒状部材(1)にシリンダ軸(13)に平行に整列した外部案内システムを配置し,この案内システムが荷重伝達要素(11)または案内要素(17,170)と場合により限定的に可動接続して案内される要素(45a)を有することを特徴とする上記請求項のいずれか1項に記載の装置」(同12頁最終段落)と記載されている。また,上記の「それら外部案内システムは,例えば第2図の45では補強板の代わりに設置でき」るとの記載中,補強板に関しては,甲4公報に,「案内ヨーク170に対面する面上で縦方向スリット10近傍の筒状部材2に,例えば補強板45をかぶせ,この補強板は筒状部材1がきわめて長いとき筒状部材のたわみを防止する」(同8頁第4段落)と記載されており,これによれば,補強板は,筒状部材のたわみを防止するために,スリット近傍の両側にあるものと解される。

    また,原告は,甲4公報の第2図には,筒状部材の縦方向スリットの左側に破線で示される外部案内要素45及び可動要素45aが示されていると主張するが,甲4公報の,「第2図は,第1図の直線伝動装置を変形した実施形態で,一部を破断して示す同様の図である」(同5頁下から第3段落)との記載のほか,第2図においては左側の案内要素170が省略されていることにかんがみると,図示は省略されているものの,右側にも補強板45及び可動要素45aが存在するものと認められる。したがって,外部案内システムも二つの補強板の代わりに設置するものと認められ,原告の主張は採用することができない。
    上記「45の外部案内システムが要素46,170の課題を引き受けるので,スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である」との記載も,要素46,170は筒状部材の両側に設置されるものであるから,それを引き受ける外部案内システムも両側に設置されるものと解される。さらに,請求の範囲2項〜17項は,すべて請求の範囲1項を引用するものであるから,請求の範囲18項も,請求の範囲1項を引用するものであるところ,請求の範囲1項では,筒状部材の両側の外面に設置された二本の案内レールがつる状の案内要素を案内するものであることは上記のとおりである。そうすると,請求の範囲18項において,外部案内システムを配置した場合であっても,筒状部材の両側の外面には二本の案内レールが設置され,つる状の案内要素を案内するものであると解される。

    以上のとおり,甲4考案においては,外部案内システムを配置した実施形態であっても,筒状部材の両側の外面に設置された二本の案内レールがつる状の案内要素を案内するものであり,案内要素を省略した場合においても,可動要素を荷重伝達要素と可動に接続する必要があるから,外部案内システムは,筒状部材のスリット近傍の両側にあるものと認められる。そうすると,原告の指摘する甲4公報の記載においても,特に,筒状部材の一方の側壁に配置したレール要素のみに外部案内システムを取り付けるとの記載がない以上,筒状部材の側壁の両側に配置したレール要素に外部案内システムを取り付けることを開示しているものと解するのが相当であり,このような漠然とした開示内容をもって,甲4考案が本件考案の構成要件Bを具備するものということはできない。また,甲4公報が,筒状部材の一方の側壁に配置したレール要素のみに外部案内システムを取り付けることを開示しているとしても,レール要素(案内レール)をベースということはできないから,本件考案のように,一方のみの側壁の下方部にベースを一体に突設した構成を開示していないことは明らかであり,いずれにしても,本件考案の構成要件Bとは異なるものといわざるを得ない。
       なお,原告は,1次審決において,本件訂正前の本件考案につき,甲4考案及び甲1考案に基づく容易想到性が肯定されているとも主張するが,1次審決は確定審決でないし,その内容が当審の判断を左右するものでもないことは明らかである。
  (5) したがって,原告の主張する根拠@〜Cはいずれも採用することができず,原告の取消事由3の主張は理由がない。
 4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。


     東京高等裁判所知的財産第2部

         裁判長裁判官     篠  原  勝  美

                   裁判官     岡  本     岳

                   裁判官     早  田  尚  貴