H16. 7.15 大阪地裁 平成15(ワ)11512 不正競争 民事訴訟事件

平成15年(ワ)第11512号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年5月24日
          判         決
     原      告    日立マクセル株式会社
     訴訟代理人弁護士    高橋元弘
     同           横山経通
     同           松井秀樹
     被      告    有限会社マックスウィルコーポレーション
          主         文
 1 被告は、原告に対し、533万0827円及びこれに対する平成15年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の各負担とする。
 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
          事実及び理由
第1 請求
   被告は、原告に対し、1億0800万円及びこれに対する平成15年11月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、原告が、自己が使用する商品等表示が著名ないし周知であり、被告がこれと類似する商号、営業表示及びドメイン名を使用していたと主張し、被告のこれらの行為が不正競争防止法2条1項2号ないし1号及び12号の不正競争行為に該当するとして、損害賠償を請求した事案である。
 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)

  (1) 当事者
    原告は、昭和25年に日東電気工業の一部門として発足し、昭和35年9月3日に日東電気工業から独立し、「マクセル電気工業株式会社」の商号で設立登記され、昭和39年1月1日に現商号に変更された株式会社であり、カセットテープ、ビデオテープ、CD、MD、DVD等の記録媒体及び乾電池の製造販売等を業としている。
    被告は、平成11年3月16日に「有限会社マクセルコーポレーション」の商号で設立され、平成15年8月26日に現商号に変更され、同年9月2日にその登記がされた有限会社であり、飲食店(ただし、風俗営業である。)の経営等を業としている(甲9)。
  (2) 原告の商品等表示
   ア 原告は、その前身である日東電気工業マクセル部門が昭和25年に設立されて以来、「マクセル」、「MAXELL」及び「maxell」の表示(これらをまとめて以下「原告商品等表示」という。)を原告の商品等表示として、自らの商号中に使用する他、その製品であるコンピュータテープ、放送用ビデオテープ、CD−R、CD−ROM、DVD−R、DVD−R/RAM、DVD−ROM、MOディスク、フロッピーディスク、メモリカード、ICカード、RFIDシステム、プリンタ用光沢紙、ラベルカード、MD、オーディオテープ、ビデオテープ、リチウムイオン電池、ポリマーリチウムイオン電池、小型二次電池、リチウム一次電池、各種ボタン電池、アルカリ乾電池、マンガン乾電池、小型電気機器、電鋳・精密製品などに付して販売し、又、テレビCM、ネオン塔、新聞雑誌広告、パンフレット等に付して使用している。

     なお、原告商品等表示は、創業時の製品である乾電池の商品表示である、「Maximum Capacity Dry Cell」の最初と最後の3字ずつを用いた造語である。
     また、原告の32社に上る子会社の多くも、原告商品等表示のうち「マクセル」ないし「maxell」を商品等表示として使用している。
     さらに、原告は、原告商品等表示は、商標登録第1079986号「maxell」(昭和45年1月8日出願、昭和49年8月1日登録)をはじめ、多数の商標登録を受けており、平成7年以降、上記登録商標を基本登録商標として、31の防護標章登録も受けている(甲6)。また、財団法人日本国際知的財産保護協会発行が平成10年に発行した「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN 日本有名商標集」や、特許庁の電子図書館における「日本国周知・著名商標検索」でも、「maxell」が原告の商標として掲載、登録されている(甲7、8)。

   イ 原告の昭和45年度ないし平成13年度の売上高は別紙売上一覧表記載のとおりである。
     磁気テープについて、昭和63年の国内における原告のシェアは、第2位の22パーセントであった(甲16の2)。
     また、乾電池について、昭和63年の国内における原告のシェアは、マンガン乾電池では第3位の10.1%、アルカリ・マンガン乾電池では第5位の9.0%、酸化銀電池では第1位の31.8%であった(甲16の2)。
     また、フロッピーディスクについて、平成6年度の国内における原告のシェアは第1位の31.0%、平成7年度の国内における原告のシェアは第1位の30.5%であった(甲16の3)。
   ウ 原告は、別紙広告宣伝費一覧表(ただし、昭和45年以降について記載したものである。)記載の広告宣伝費を用いて、広告塔、新聞雑誌広告、駅貼りポスター等において、原告商品等表示を用いた広告宣伝を行った。テレビコマーシャルは昭和49年から開始し、A出演のコマーシャルやB出演のコマーシャルが、原告商品等表示とともに全国に放映された。

     また、原告に関する新聞記事は、全国紙、地方紙、業界紙に数多く掲載され、それらの記事において、原告は「マクセル」と表示されることが多かった。
  (3) 被告の行為
   ア 被告は、「有限会社マクセルコーポレーション」の商号(以下「被告旧商号」という。)を平成11年3月16日から平成15年8月26日まで使用した。
   イ 被告は、「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXeLL」及び「MaXeLL CORPORATION」の各営業表示(これらをまとめて以下「被告営業表示」という。)を、被告が開設したインターネット上のウェブサイトにおいて使用したことがある。
   ウ 被告は、「maxellgrp.com」(以下「被告ドメイン名」という。)というドメイン名を使用し、ウェブサイトを開設して、その経営する飲食店の宣伝を行ったことがある。

 2 争点
  (1) 不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否
   〔原告の主張〕
   ア 前記「前提となる事実」(2)の各事実によれば、原告商品等表示は、遅くとも原告がテレビコマーシャルを開始した後である昭和50年ころには、原告及びその関連会社を表すものとして著名となり、少なくとも周知となっていたものである。
   イ 被告旧商号である「有限会社マクセルコーポレーション」並びに被告営業表示である「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXeLL」及び「MaXeLL CORPORATION」において、その要部は「マクセル」、「maxell」ないし「MaXeLL」であるというべきであり、いずれも原告商品等表示と類似する。

   ウ 原告商品等表示と上記被告旧商号及び被告営業表示の類似性、原告の営業区域の広範性、原告商品等表示の著名性と顧客吸引力、原告及び原告の関連会社の複合企業としての広範な事業範囲等を考慮すると、取引者又は需要者において、原告と被告が同一の営業主体であるとか、両者間に親会社、子会社の関係あるいは系列会社関係などの緊密な営業上の関係が存在するものと誤信し、混同を生じて、原告の営業上の利益が害されるというべきである。
   エ したがって、被告による被告旧商号及び被告営業表示の使用は、不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為にあたる。
   〔被告の主張〕
   ア 原告商品等表示が著名であること、これらに顧客吸引力があること、原告商号と被告の営業表示等がそれ自体として類似することは、強く争わない。

   イ 被告は、その営業場所である店舗において、被告旧商号及び被告営業表示を使用していない。被告は「maxell」等を商標として使用したことはない。
   ウ 女性の接待を伴う飲食店を経営する会社である被告が、全く競業関係にない工業製品の製造販売をする会社である原告と類似する商号を付けることによって、特段の利益を得るものではなく、被告旧商号や被告営業表示を使用することにより、原告の関連会社と思われたこともない。
     原告商品等表示は、工業製品の商標として有名であり、風俗営業とは全く結びつかないから、被告の商号が原告の商品名と同じであることを理由にして被告の店舗に来るものは皆無に等しく、同様に、原告の商品を購入する者が、同名の商号を有する風俗営業の会社があることにより影響を受けることも考えられず、一般需要者が原告について誤った企業イメージを持つことも考えられない。

   エ したがって、原告主張にかかる被告の行為は不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為にはあたらない。
  (2) 不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為の成否
   〔原告の主張〕
   ア 上記(1)原告の主張アと同じ
   イ 被告ドメイン名である「maxellgrp.com」のうち、「com」の部分は多くのドメイン名に共通するものであり、「grp」は一般にグループを示すために用いられる略号であるから、被告ドメイン名の要部は「maxell」であるというべきであり、原告商品等表示と類似する。
   ウ 「maxell」とは、前記「前提となる事実」(2)アのとおりの造語であることに加え、被告が、被告ドメイン名を使用して開設したインターネット上のウェブサイト上で、著名ないし周知な原告商品等表示と類似する被告旧商号及び被告営業表示を用いていることに照らせば、被告が、原告商品等表示の顧客吸引力にフリーライドして、不正の利益を得る目的ないし原告に損害を与える目的があったことは明らかである。

   エ したがって、被告による被告ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為にあたる。
   〔被告の主張〕
   ア 上記(1)被告の主張アないしウと同じ
   イ 被告は、不正の利益を得る目的も他人に損害を与える目的も有していなかった。
   ウ したがって、原告主張にかかる被告の行為は不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為にはあたらない。
  (3) 損害
   〔原告の主張〕
   ア 不正競争防止法5条3項は、営業上の利益を侵害されたものに、最低限損害の填補を法定するものであり、推定規定ではなく、みなし規定である。
     ここで、原告が原告商品等表示の使用を許諾する場合の使用料は、売上額の3パーセントを下らない。
     被告の平成12年8月以降の売上額は、少なくとも年間11億円を下らず、平成12年8月から平成15年7月までの売上額は合計33億円を下らない。

     したがって、原告が被告の不正競争行為によって通常受けるべき金銭の額は、9900万円を下らない。
   イ 被告が「maxellgrp.com」という被告ドメイン名を使用してインターネット上のウェブサイトを開設し、「マクセル」、「マクセルグループ」、「maxell」、「maxellcorporation」、「MaXell」及び「MaXell CORPORATION」の各被告営業表示を表示し、同ウェブサイト上において、風俗店の広告宣伝をするなど原告の信用を毀損する内容の表示をしていたものであり、このような被告の行為によって、原告は、一般需要者に誤った企業イメージを持たれ、原告商品等表示の一般需要者に与える印象を害された。
     上記のような営業上の信用毀損による損害額は1970万5401円を下らない(なお、不正競争防止法5条4項参照)。

   ウ 原告が本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用は900万円を下らない。
   〔被告の主張〕
    原告の主張は否認ないし争う。
    仮に、原告が主張するように通常の使用許諾料の請求ができるとしても、総売上の3パーセントという原告の主張には根拠がなく、近時の銀行普通預金の利息を上回ることはない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否)について
  (1) 前記「前提となる事実」(2)の各事実によれば、原告商品等表示は、遅くとも、昭和50年ころには、原告及びその関連会社の営業ないし商品を表すものとして著名となっていたと認められる。
  (2) 被告旧商号である「有限会社マクセルコーポレーション」について、このうち「有限会社」は会社の種別についての表示であり、「コーポレーション」は「会社」を意味する英語として、しばしば会社名に付加されて用いられる文字列であるから、被告旧商号の要部は、「マクセル」であるというべきである。

    被告営業表示のうち、「マクセルグループ」について、このうち「グループ」は「集団」を意味する英語として、しばしば集団名に付加して用いられる文字列であるから、上記被告営業表示の要部は、「マクセル」であるというべきである。
    被告営業表示のうち、「maxellcorporation」について、このうち「corporation」は「会社」を意味する英語として、しばしば会社名に付加して用いられる文字列であるから、上記被告営業表示の要部は、「maxell」であるというべきである。
    被告営業表示のうち、「MaXeLL CORPORATION」についても、上記と同様に、上記被告営業表示の要部は、「MaXeLL」であるというべきである。
    したがって、被告旧商号及び被告営業表示の要部は、「マクセル」、「maxell」ないし「MaXeLL」であるというべきである。

  (3) 原告商品等表示と被告旧商号及び被告営業表示を対比するに、上記(2)のとおり、被告旧商号及び被告営業表示の要部は、「マクセル」、「maxell」ないし「MaXeLL」であるというべきところ、このうち「マクセル」及び「maxell」は原告商品等表示のうちの「マクセル」及び「maxell」とそれぞれ同一であり、「MaXeLL」は原告商品等表示の「maxell」ないし「MAXELL」の2文字目及び4文字目を小文字で、その余を大文字で表記したものであるから、これらと類似するということができる。
    したがって、被告旧商号及び被告営業表示は、いずれも原告商品等表示と同一又は類似するといえる。
  (4) 以上のとおり、被告は、既に著名となっていた原告商品等表示と同一又は類似する商号及び標章である、被告旧商号及び被告営業表示を使用したのであるから、この被告の行為は不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当するものである。

  (5) なお、被告は、被告旧商号及び被告営業表示を使用しても、一般需要者において原告と混同することはない旨主張するが、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為が成立するためには、混同は要件とされていないから、上記認定を左右するものとはならない。
    また、被告は、営業場所である店舗において、被告旧商号及び被告営業表示を使用していない等と主張するが、店舗等の営業場所に限らず、商号としての使用や、インターネット上のウェブサイトにおける営業表示についても、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為が成立することは同号の文言上明らかであるから、これも上記認定を左右しない。
 2 争点(2)(不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為の成否)について
  (1) 原告商品等表示が、遅くとも、昭和50年ころには、原告及びその関連会社の営業ないし商品を表すものとして著名となっていたと認められることは、前記1(1)のとおりである。

  (2) 被告ドメイン名である「maxellgrp.com」のうち、「com」は一般(汎用)トップレベルドメインネームであり、その属性を示すものに過ぎず、「.」は区切りを示す符号に過ぎず、「grp」は「グループ」の英字表記である「group」の母音を省略した略表記としてしばしば付加的に用いられる文字列であるから、上記被告ドメイン名の要部は「maxell」であるというべきである。
  (3) 原告商品等表示と被告ドメイン名を対比するに、上記(2)のとおり、被告ドメイン名の要部は、「maxell」であるというべきところ、これは原告商品等表示のうち「maxell」と同一である。
    したがって、被告ドメイン名は、原告商品等表示と類似するといえる。
  (4) 不正競争防止法2条1項12号の「不正の利益を得る目的」について検討するに、上記「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的をいうと解すべきである。

    ところで、原告商品等表示が、遅くとも、昭和50年ころには、原告及びその関連会社の営業ないし商品を表すものとして著名となっていたと認められることは、上記(1)のとおりであり、これと類似する被告旧商号や被告営業表示の被告による使用が不正競争行為にあたるというべきことは、前記1で判示したとおりである。
    以上述べたところに照らせば、既に著名となっている原告商品等表示と類似する被告ドメイン名を使用してウェブサイトを開設して、その経営する飲食店の宣伝を行う行為は、著名な原告商品等表示が獲得していた良いイメージを利用して利益を上げる目的があったものと推認することができる。
    したがって、被告には、不正競争防止法2条1項12号にいう「不正の利益を得る目的」があったものというべきである。

  (5) 以上のとおり、被告は、既に著名となっていた原告商品等表示と類似するドメイン名を用いて、ウェブサイトを開設し、その経営する飲食店の宣伝を行ったのであるから、この被告の行為は不正競争防止法2条1項12号の不正競争行為に該当するものである。
 3 争点(3)(損害)について
  (1) 不正競争防止法5条3項に基づく主張について
   ア 不正競争防止法5条3項は、同法2条1項2号あるいは12号の「不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」と規定する。この規定は、不正競争行為の被害者がその損害賠償を請求するに際して、救済の実効性を確保するために、損害の最低額を擬制して、被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であると解するのが相当である。ただし、上記規定は損害の発生まで擬制するものではないから、侵害者において、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証すれば、損害賠償の責任を免れることができるものと解される。

     この点、被告は、原告と被告が全く競合関係になく、両者が混同されるおそれはなく、一般需要者において原告について誤った企業イメージを持たれることもないと主張する。
     しかしながら、前記1(1)で認定したとおり、原告商品等表示は原告の商品等表示として著名となっていたものであるから、風俗店を営む被告においてこれと同一ないし類似した商号、営業表示ないしドメイン名を使用したことにより、原告は、それまでに構築してきた原告商品等表示に付帯する名声や良いイメージを不当に利用され、さらに一般需要者の原告商品等表示に対する印象を悪化ないし希釈化されるという損害を被ったことは優に認めることができる。
     そこで、以下、不正競争防止法5条3項に基づき認められる損害額を検討する。
   イ 最初に、被告が被告旧商号、被告営業表示及び被告ドメイン名をそれぞれ使用していた時期について検討する。

    (ア) 被告が被告旧商号を使用した期間が、平成11年3月16日から平成15年8月26日までであることは、前記「前提となる事実」(3)アのとおり当事者間に争いがない。
    (イ) 被告が被告営業表示及び被告ドメイン名を使用した期間について、これを明確に示す証拠は、本件全証拠中には存在しない。
      しかし、甲第10号証の2、第19号証の2ないし6によれば、被告が被告ドメイン名を使用して開設していたインターネット上のウェブサイトのページには、「Copyright(C) 2002 maxellcorporation All Rights Reserved」との表示がされていたことが認められ、また、甲第20号証の1ないし8によれば、インターネット上の風俗店のウェブサイトを紹介するウェブサイトにおいて、被告が被告ドメイン名を使用して開設していたウェブサイトが紹介され、これへのリンクが設定されたのは、平成15年2月下旬から3月上旬にかけてのことであると認められる。

      以上の事実によれば、被告が、被告ドメイン名を使用してインターネット上にウェブサイトを開設し、そこで被告営業表示の使用を開始したのは、平成14年の末ころであったと推認することはできるものの、これ以上に特定することはできず、また平成14年中の特定の時点で、被告が被告ドメイン名を使用してインターネット上にウェブサイトを開設し、そこで被告営業表示を使用していたことを認めるに足りる証拠もないから、損害の計算にあたっては、使用期間の始期は平成15年1月1日と認めるのが相当であり、これより以前に遡ることはできない。
      また、被告が被告営業表示及び被告ドメイン名を使用した期間の終期については、甲第10号証の1ないし4によれば、平成15年10月24日以降であることが認められる。

   ウ 次に、使用料損害額を計算するために、損害額について原告が主張する期間のうち、上記の認定期間における被告の売上額について検討する。
     乙第2、第3号証によれば、平成13年8月1日から平成14年7月31日までの1年間における被告の売上高は、2億6114万3985円、平成14年8月1日から平成15年7月31日までの1年間における被告の売上高は、1億7675万3827円であったことが認められる。
     ここで、原告が損害額について主張する期間は、平成12年8月から平成15年7月までであるから、被告旧商号については同期間(3年間)について、被告営業表示及び被告ドメイン名についてはこのうち平成15年1月から同年7月まで(7か月間)についての被告の売上高を算定することとなる。

     上記で認定したところによれば、被告の平成13年8月1日から平成15年7月31日までの2年間の売上は、上記各金額を合計した4億3789万7812円となるから、これを元にすれば、平成12年8月1日から平成15年7月31日までの被告の売上については、これを2で除して3を乗じることによって推計するのが合理的であり、これによれば、同期間の被告の売上は、6億5684万6718円であると認められる。
     また、同様に、被告の平成14年8月1日から平成15年7月31日までの1年間の売上は、1億7675万3827円であるから、これを元にすれば、平成15年1月1日から平成15年7月31日までの被告の売上については、これを12で除して7を乗じることによって推計するのが合理的であり、これによれば、同期間の被告の売上は、1億0310万6399円であると認められる。

   エ 続いて、被告による被告旧商号、被告営業表示及び被告ドメイン名の使用について、原告が受けるべき使用料の率について検討する。
    (ア) 被告による被告旧商号の使用については、本件の全証拠によっても、被告において、これを宣伝広告に用いたり、その経営する店舗の名称に付したり、店舗に表示したりしたことまでは認められない。したがって、被告による被告旧商号の使用の場面は、ごく限られたものというべきであり、このような事情を考慮すれば、被告による被告旧商号の使用について原告が受けるべき使用料の率は、その使用期間における被告の売上の0.5パーセントと認めるのが相当である。
    (イ) 被告による被告営業表示の使用については、被告は、これを被告ドメイン名を使用して開設したインターネット上のウェブサイトで使用したことは認めるが、その他の場面、とりわけ被告が経営する店舗においては使用していないと主張し、原告も、これがインターネット上のウェブサイト以外で使用されたことまでは主張しない。そして、本件の全証拠によっても、被告が、被告営業表示を、被告ドメイン名を使用して開設したインターネット上のウェブサイト以外で使用したことはうかがわれない。このような事情を考慮すれば、被告による被告営業表示の使用について原告が受けるべき使用料の率は、その使用期間における被告の売上の1パーセントと認めるのが相当である。

    (ウ) 被告による被告ドメイン名の使用については、被告が、これを使用してインターネット上にウェブサイトを開設し、その経営する飲食店の宣伝を行ったことは前記「前提となる事実」(3)ウのとおりであり、甲第10号証の2によれば、被告は被告ドメイン名をそのメールアドレスにも使用していたことが認められる。このような事情を考慮すれば、被告による被告ドメイン名の使用について原告が受けるべき使用料の率は、その使用期間における被告の売上の0.5パーセントと認めるのが相当である。
   オ 以上を前提として、不正競争防止法5条3項に基づき原告が請求することができる損害額を計算する。
    (ア) 被告旧商号の使用について
      6億5684万6718円×0.5パーセント=328万4233円
    (イ) 被告営業表示の使用について

      1億0310万6399円×1パーセント  =103万1063円
    (ウ) 被告ドメイン名の使用について
      1億0310万6399円×0.5パーセント= 51万5531円
    (エ) 合計                   483万0827円
  (2) 信用毀損の損害の主張について
    原告は、不正競争防止法5条3項に基づく主張の他に、原告の信用が毀損されたことによる損害を主張する。そして、確かに、同法同条4項は、同条3項に規定する金額を超える損害賠償請求を妨げないと規定する。
    しかしながら、上記(1)で判示し、また原告も主張するとおり、同法同条3項は、不正競争行為により営業上の利益を害された者の救済の実効性を確保するために、損害の最低額を擬制するものであるから、これにより計算される損害額の性質は、使用料そのものではなく、各種の損害を包含した額であると解するのが相当であり、不正競争行為により一般に生じる信用損害についての損害額も、通常はこれに含まれるものと解するべきである。

    したがって、信用毀損の損害について、同法同条同項の金額を超える損害賠償を請求するためには、これを請求する者において、同項の金額を超える損害を被ったことを主張立証しなければならない。
    これを本件についてみるに、原告が主張する信用毀損の内容は、一般に著名ないし周知な商品等表示にかかる不正競争行為においていわれる「汚染」と同趣旨のものと解されるところ、本件に現れた全証拠によっても、これによって、同法同条同項の金額を超える損害を被ったことを認めるには足りない。
    したがって、上記(1)で認定した金額を超えて、原告が信用毀損による損害を被ったと認めることはできない。
  (3) 弁護士費用について
    原告が被った損害額のうち、弁護士費用相当分としては、本件事案の難易、請求額、上記認容額、その他諸般の事情を勘案し、50万円をもって相当と認める。

  (4) 総計
    以上を合計すると、被告の不正競争行為によって原告が被った損害は、533万0827円となる。
 4 結論
   以上のとおりであるから、原告の請求は、主文掲記の限度で理由がある。
   よって、主文のとおり判決する。


      大阪地方裁判所第26民事部

           裁判長裁判官      山  田  知  司

              裁判官      中  平     健
  
              裁判官      守  山  修  生


(別紙)
         



(別紙)