H16. 1.15 大阪地裁 平成14(ワ)1919等 著作権 民事訴訟事件

平成14年(ワ)第1919号 損害賠償請求事件(甲事件)
同年(ワ)第2526号  損害賠償請求事件(乙事件)
同年(ワ)第3437号  著作権侵害差止等請求事件(丙事件)
同年(ワ)第8537号  著作権侵害差止等請求事件(丁事件)
同年(ワ)第10909号  損害賠償請求事件(戊事件)
口頭弁論終結の日 平成15年9月11日
          中 間 判 決
  全事件原告       株式会社SNKプレイモア
  (変更前商号      株式会社プレイモア)
  訴訟代理人弁護士    辰 巳 和 男
  同           高 橋 悦 夫
  同           西 島 佳 男

  同           目 方 研 次
  同           駒 井 慶 太
  同           芦 住 敦 史
  同           妻 鹿 直 人
  全事件被告       アルゼ株式会社(以下「被告アルゼ」という。)
  丁事件被告       日本アミューズメント放送株式会社
                (以下「被告日本アミューズメント放送」という。)
  被告ら訴訟代理人弁護士 露 木 琢 磨
  同           小 倉 秀 夫
  同           高 橋 幸 二

          主     文
 1 被告アルゼが製造し、株式会社メーシー販売(以下「メーシー販売」という。)を通じて販売するパチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録A2のもの)は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄及び筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録A1のもの)を複製したものであり、原告の著作権を侵害する。(甲事件)
 2 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「クレイジーレーサーR」及びそのガイドブックに別紙標章目録1及び2の標章を付して使用することは、原告が有する別紙商標目録記載の商標権を侵害する。(甲事件)
 3 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「爆釣」の液晶画像図柄並びに筐体トップパネル、リールパネル、腰部パネル及びリール帯図柄(以下、これらの筐体の図柄を合わせて「筐体図柄」という。)(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2のもの)は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄及びパチスロ機「爆釣」の筐体図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2のもの)を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害する。(乙事件)

 4 被告アルゼが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」に収納されたゲームで表示されるパチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄及び筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録C8のもの)並びに「隠しムービー」(「リアルムービー」)中の各キャラクター図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄(別紙図柄目録C1ないし6のもの)及び筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録C7のもの)を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害する。(丙事件)
 5 被告アルゼがインターネット上の同被告のサイトに「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」との記事を掲載する行為、及び同被告が販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」の「隠しムービー」(「リアルムービー」)の映像中に別紙標章目録2の標章を表示する行為は、原告が有する別紙商標目録記載の商標権を侵害する。(丙事件)

 6 被告らが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」に収納されたゲームで表示されるパチスロ機「爆釣」の液晶画像及び筐体図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2のもの)は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄(別紙図柄目録D5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1ないし3のもの)及びパチスロ機「爆釣」の筐体図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2のもの)を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害する。(丁事件)
 7 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像及び筐体図柄(別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2のもの)は、原告が著作権を有する同パチスロ機の液晶画像図柄及び筐体図柄(別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2のもの)を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害する。(戊事件)

          事実及び理由
第1 請求
 〔甲事件〕
 1 被告アルゼは、原告に対し、金1億2000万円及びこれに対する平成14年3月20日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 〔乙事件〕
 2 被告アルゼは、原告に対し、金24億円及びこれに対する平成14年3月27日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 〔丙事件〕
 3 被告アルゼは、別紙図柄目録C1ないし7記載の図柄を使用したプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」を複製、翻案、公衆送信及び頒布してはならない。
 4 被告アルゼは、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」の製品在庫及びマスターROMその他の記憶媒体を破棄せよ。

 5 被告アルゼは、家庭用ゲームソフトの画像若しくは包装に別紙標章目録1ないし3記載の標章を付し、同各標章を付した家庭用ゲームソフトを販売し、販売のために展示し、又はそれに関するインターネットに展開するホームページその他の広告に、同各標章を付してはならない。
 6 被告アルゼは、原告に対し、金4億3860万円及びこれに対する平成14年4月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 〔丁事件〕
 7 被告らは、別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2、5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1ないし3記載の各図柄の著作物を使用したプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」を複製、翻案、公衆送信及び頒布してはならない。

 8 被告らは、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」の製品在庫及びマスターROMその他の記憶媒体を破棄せよ。
 9 被告らは、原告に対し、連帯して金2億8380万円及びこれに対する平成14年9月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 〔戊事件〕
 10 被告アルゼは、原告に対し、金24億円及びこれに対する平成14年11月14日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、原告が、破産者株式会社エス・エヌ・ケイ(以下「SNK」という。)の破産管財人からSNKが有していた後記著作権及び商標権を譲り受けたところ、被告アルゼが製造し、その子会社であるメーシー販売を通じて販売するパチスロ機(甲、乙、戊事件)及び被告アルゼ又は被告両名が販売している家庭用ゲームソフト(丙、丁事件)は、原告の著作権(全事件)及び商標権(甲、丙事件)を侵害するものであるとして、次のとおり、著作権及び商標権に基づく差止等と損害賠償を請求した事案である。

 1 各事件の訴訟物
   〔甲事件〕
   (1) 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「クレイジーレーサーR」に使用されている液晶ソフト(液晶画面演出プログラム)の画像図柄及び筐体腰部パネル図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体腰部パネル図柄を複製するものであり、原告の著作権を侵害すること、並びに上記パチスロ機「クレイジーレーサーR」及びそのガイドブックに付されて使用されている標章は原告が商標権を有する登録商標に類似し、商標権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求1項)
   〔乙事件〕
   (2) 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「爆釣」に使用されている液晶ソフトの画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の企画のために開発した液晶ソフトの画像図柄及び同「IRE−GUI」の企画のリメイクとして開発されたパチスロ機「爆釣」の筐体図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求2項)

   〔丙事件〕
   (3) 被告アルゼが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」に隠し機種等として収納されたゲームで表示されるパチスロ機種「クレイジーレーサーR」に使用されている画像図柄及び画面に表示されるパチスロ機の筐体腰部パネル図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体要部パネル図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害するものであることを理由とする上記ソフトウエアの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止め及びその製品在庫等の廃棄請求(上記請求3、4項)
   (4) 被告アルゼがプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」を販売するに際し、ガイドブックでの広告、インターネットのゲーム関連サイトでの広告、同被告のホームページでの広告及び同ソフトウエアの画像に使用されている標章は、原告が商標権を有する登録商標に類似し、原告の有する商標権を侵害することを理由とする標章使用行為の差止請求(上記請求5項)

   (5) 上記(3)の著作権侵害及び上記(4)の商標権侵害を理由とする損害賠償請求(上記請求6項)
   〔丁事件〕
   (6) 被告らが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」に収納されたゲームのパチスロ機種「バクチョウ(爆釣)」に使用されている画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の企画のために作成された液晶ソフトの画像図柄及びパチスロ機「爆釣」の筐体図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする上記ソフトウエアの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止め及びその製品在庫等の廃棄請求(上記請求7、8項)
   (7) 上記(6)の著作権侵害を理由とする損害賠償請求(上記請求9項)
   〔戊事件〕
   (8) 被告アルゼが製造販売するパチスロ機「IRE−GUI」に使用されている画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有する同「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像図柄(SNK製作のゲームソフトのキャラクター「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄を含む。)及び筐体図柄を複製ないし翻案するものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求10項)

 2 前提となる事実(争いのない事実又は後掲証拠によって認定できる事実。なお、書証は、甲事件で提出された甲第1号証を甲A第1号証(又は甲A1)と記載し、以下同様に、乙、丙、戊事件で提出された各甲号証にそれぞれB、C、Dの表示を付して記載する。)
   (1)ア 原告は、遊技機器の開発、製造、販売、賃貸及び輸出入並びに特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の工業所有権及び著作権等の取得、使用許諾及び売買等を業とする株式会社である。
     イ 被告アルゼは、遊戯機器及び遊技機器の試験研究、企画、開発、製造、販売及び売買等を業とし、東京都に本社を置く株式会社である。
     ウ 被告日本アミューズメント放送は、放送事業、放送番組、ビデオソフト等の放送権の取得、買付、輸出入及び販売、放送番組・録音及び録画の制作並びに放送関連技術の開発、指導等を業とする会社であり、被告アルゼの子会社である。

   (2)ア SNKは、電子技術応用ゲーム機のハード及びソフトウエアの研究、開発、販売、賃貸並びに輸出入等を業とする株式会社であった。
     イ SNKは、平成12年9月21日、別紙商標目録記載の商標につき商標登録出願をし、平成13年10月5日に同目録記載のとおり登録を受けた(商標登録第4511097号。以下、この商標を「本件商標」という。)(甲A20の2)。
     ウ SNKは、平成13年4月2日に大阪地方裁判所に民事再生手続の開始を申し立て、再生手続が開始されたが、同裁判所により同年10月1日に再生手続廃止決定がされ、同月30日に破産宣告を受けた。
     エ SNK破産管財人弁護士Lは、平成13年10月30日、同裁判所から許可を得て、原告との間で、「知的財産権譲渡契約書」(甲A10の1。以下「本件譲渡契約書」という。)により、SNK破産財団に属する知的財産権を対価2億1000万円で原告に譲渡する契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した(本件で問題になるパチスロ機の画像及び筐体デザインの著作権が含まれていたか否かは、当事者間に争いがある。)。

     オ 原告は、平成14年2月21日、本件商標の移転登録を受けた(甲A20の2)。
   (3)ア 被告アルゼは、平成13年4月15日ころ、同被告が発行済み株式総数の全部を保有する子会社であるメーシー販売を通じて、液晶搭載型のパチスロ機「クレイジーレーサー」を発売し、そのころから、同機をパチンコ店及びパチスロホールに販売した。
        液晶搭載型パチスロ機(回胴式遊技機)は、出目の当たり確率を制御する主基板と、液晶画面の制御をするサブ基板とがある。また、上記「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像データとして作成されたキャラクター及び乗り物の図柄が別紙図柄目録C1ないし7であり、筐体の図柄デザインのうち、腰部パネル用として作成されたのが、別紙図柄目録A1である。
     イ 被告アルゼは、同年10月ころ、メーシー販売を通じて、液晶搭載型のパチスロ機「クレイジーレーサーR」(上記アの「クレイジーレーサー」を原型としたもの)を発売し、そのころから、同機をパチンコ店及びパチスロホールに販売した。

     パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネルの図柄は別紙図柄目録A2のとおりであり、同パネルには、別紙標章目録1記載の標章が付され、筐体トップパネルには、同目録2記載の標章が付されている。また、被告アルゼが作成し、その販売先に配布された同機のガイドブックの表紙にも、同目録1記載の標章が付されている。
     ウ 被告アルゼは、同年9月ころ、メーシー販売を通じて、液晶搭載型のパチスロ機「爆釣」を発売し、そのころから、同機をパチンコ店及びパチスロホールに販売した。同「爆釣」の筐体図柄として作成されたのが、別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2である。また、同「爆釣」に先立って開発が企画された液晶搭載型パチスロ機「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像データとして作成されたキャラクターを背景と組み合わせた一場面の図柄及びキャラクターの図柄が、別紙図柄目録D5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1ないし3であり、筐体図柄が別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2である。

     エ 平成14年9月ころ、メーシー販売を通じて、液晶搭載型のパチスロ機「IRE−GUI」を発売し、そのころから、同機をパチンコ店及びパチスロホールに販売した。
     オ 被告アルゼは、平成13年12月13日、家庭用ゲーム機プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」を発売し、そのころから、同ソフトウエアを販売した。
     同ソフトウエアには、@ 隠し機種として「クレイジーレーサーR」が収録され、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の動作をシミュレートすることができるようになっており、その際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示される。A 隠し機種「クレイジーレーサーR」は、マニュアルに記載されていない一定の操作をすることによって遊戯可能となるが、その操作をした際、「隠しムービー」(「リアルムービー」ともいう。)が表示される仕様となっている。B また、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体前面の全体図が表示される場面もあり、「隠しムービー」内には、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネル図柄が表示される場面があり、これらには別紙図柄目録C8の図柄が使用されている。C 「隠しムービー」内には、別紙標章目録2の標章が表示される場面がある。

     被告アルゼは、同年10月ころ、パチスロ機「クレイジーレーサーR」のガイドブックを作成し、同機の販売先であるパチンコ店及びパチスロホールに配布したが、その裏表紙には、「プレイステーション2専用ソフト『パチスロ アルゼ王国6』12月発売予定 予価5,800円(税別)」と記載されている。
     同年12月21日ころ、NTT出版株式会社が開設するインターネット上のゲーム情報サイト「eg」に、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現情報!」との記事が掲載された。
     被告アルゼは、平成14年3月14日ころ、インターネット上の被告アルゼのホームページに、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」として、同ソフトウエアに「クレイジーレーサーR」が収録されていること、それが遊戯可能となる前に「隠しムービー」が表示される旨の文章を掲示した。

    カ 被告らは、平成14年8月8日、家庭用ゲーム機プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」を発売し、そのころから、同ソフトウエアを販売した。
      同ソフトウエアには、ゲームとして「バクチョウ」が収録され、パチスロ機「爆釣」の動作をシミュレートすることができるようになっており、その際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示される。また、同ソフトウエアにおいて、パチスロ機「爆釣」の筐体前面の全体図が表示される場面がある。
 3 争点(ただし、損害及び差止め等の必要性以外のもの)
   (1) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の各液晶ソフトの画像図柄並びに同「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の各筐体図柄は著作物といえるか。
   (2) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の各液晶ソフトの画像図柄並びに同「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の各筐体図柄の作成はSNKの職務著作に当たるか。

   (3) 原告は上記各著作物並びにSNK製作のゲームソフトのキャラクター「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄の著作権を破産者SNK破産管財人から有効に譲り受けたか。
   (4) 被告アルゼはSNKから上記各著作権を譲り受け、又は上記各著作権について利用許諾を受けていたか(対抗要件欠缺の主張)。
   (5) 被告アルゼの製品(パチスロ機及びゲームソフト)中に用いられている画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有する画像図柄及び筐体図柄を複製ないし翻案したものか。
   (6) 被告アルゼが本件商標に類似する標章を商標として使用したといえるか。
   (7) 本件商標の登録に無効理由が存在することが明白か。
   (8) 原告の被告アルゼに対する本件商標権の行使は権利濫用等により許されないか。
第3 争点に関する当事者の主張

 1 争点(1)(著作物性)について
  〔原告の主張〕
  (1) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の液晶ソフト(液晶画面演出プログラム)は、ゲーム性のある演出方法で構成されており、サブ制御プログラム、画像データ及び音声データからなるところ、このうち画像データは、その演出に用いられ画面に表示されるキャラクター、舞台背景等の画像であり(データとしてROMに収納されている。)、ゲームソフトの映像と同様のものであって、絵画・美術の著作物に当たる。
      上記各パチスロ機の液晶ソフトの画像図柄の特徴を説明すると、まず、パチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトには、主人公となるキャラクター2名、ライバルとなるキャラクター6名の合計8名のキャラクターが登場し、それぞれスピード狂レーサーという設定で、未来都市その他を舞台に競走するというストーリー設定がされている。そして、別紙図柄目録C1ないし6は、いずれも同液晶ソフトの画像に使用されているキャラクター等の図柄である。そのうち、同1はやまあらしをイメージさせる主人公「アッシ」の図柄、同2はうさぎをイメージさせる主人公「ラビー」の図柄、同3は擬人化したゴリラという特徴で描かれたライバルキャラクター「ゴッチ」(当初名称「ゴラ」)の図柄、同4は擬人化したオウムという特徴で描かれたライバルキャラクター「オムーリオ」(当初名称「オム」)の図柄、同5はライバルキャラクター「Rヘチョー」(当初名称「赤ヘチョー」)の図柄(なお、同液晶ソフトの画像には、このほかに色の異なる「Wヘチョー」、「Gヘチョー」、「Kヘチョー」が登場するが、いずれも擬人化したハイエナの特徴を有する。)、同6は車輪のない未来型のスクーターという特徴を有する主人公「アッシ」の乗り物(マシーン)の図柄である。次に、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶ソフトは、ブラックバス釣りを題材とし、釣り場で起きるいろいろなハプニングを画面上で展開し、演出している。そして、別紙図柄目録D5ないし7は、同液晶ソフトに登場する人物又は動物キャラクターを背景と組み合わせて作成した同液晶ソフトの一場面に用いられている図柄である。また、同目録D8ないし11(枝番号を含む。)は、同液晶ソフトの画像に使用されている人物キャラクターの図柄であり、そのうち、同8の1ないし3は少年の特徴を有する主人公の「アシノ」に関する図柄、同9の1・2は若い女性の特徴を有する「はるな先生」に関する図柄、同10の1・2は小さい女の子の特徴を有する「びわこ」に関する図柄、同11の1ないし3は「アシノ」よりやや年長の少年という特徴で描かれた「カワグチ」に関する図柄である。なお、パチスロ機「爆釣」の液晶ソフトには、同「IRE−GUI」の登場キャラクターと同キャラクターが登場する。

  (2) パチスロ機「クレイジーレーサー」の筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録A1)並びにパチスロ機「IRE−GUI」及び同「爆釣」の各筐体図柄(前者が別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2、後者が別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2)は、それぞれ、各パチスロ機の液晶ソフトの特徴ある登場キャラクター等の絵画とタイプフェイス(字体)等から構成されているが、全体として絵画・美術の著作物に当たる。
    上記の筐体図柄は、キャラクターを中心とする純粋美術と同視できる絵柄を特徴としており、思想又は感情を創作的に表現したものであり、著作物というべきである。
  〔被告らの主張〕
    いずれも不知ないし争う。なお、パチスロ機「クレイジーレーサー」の筐体腰部パネル図柄には、実用品であるパチスロ機の外面装飾という機能を超えた鑑賞性はない。

 2 争点(2)(職務著作)について
  〔原告の主張〕
  (1) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の各液晶画面に表示されるキャラクター等の液晶画像図柄、パチスロ機「クレイジーレーサー」の筐体腰部パネル用図柄並びに同「IRE−GUI」及び「爆釣」の各筐体図柄(以下、これらを総称して「本件各著作物」という。)は、いずれも、SNKの従業員が、SNKの発意に基づき、その業務の中で、SNK名義で公表する予定のものとして作成したものであり、SNKの職務著作として、著作権は原始的にSNKに帰属したものである。
    これを詳論すれば、以下のとおりである。
  (2) 本件各著作物は、SNK従業員が個人として作成したものではなく、まして被告アルゼの指揮命令によって作成したものでもなく、SNKがその従業員を指揮命令して組織的に作成したものである。

    すなわち、SNKは、平成12年2月、被告アルゼから資本参加を受け、同年3月から会社再建の柱としてパチンコ・パチスロ開発事業に取り組むこととなったため、そのころから、被告アルゼ東京本社の一角の提供を受けて、P&P開発部映像制作一課の人員を同地に出張させてパチスロ機の開発業務に携わらせた。そこでは、SNKは、液晶画面を制御するサブ基盤に組み込まれるソフトと、筐体デザインを独自に開発することとなった。また、SNKが開発したパチスロ機の販売もSNKが行うこととされていた。
    SNKとしては、被告アルゼ向けにパチスロ機用液晶ソフトを開発し、その開発実費、販売台数ごとのロイヤリティー(著作権使用許諾料)及びパチスロ機の販売マージンによって会社再建を行う予定であった。
    SNK映像制作一課の従業員は、SNKから給与や出張費用の支払を受け、社員寮もSNKが準備した。

    パチスロ機「クレイジーレーサー」及び同「IRE−GUI」は、いずれも、このような体制の中でSNK従業員が企画し、液晶画像の図柄を作成したものであった。被告アルゼは、その企画内容やキャラクターの図柄についてはSNKに任せていたものであり、実際にも被告アルゼからの指揮命令はなかった。
    また、パチスロ機「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の筐体図柄は、SNK大阪本社の開発本部デザイン制作課において作成した。別紙図柄目録C1ないし6記載の各図柄は、パチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像用図柄、同目録A1記載の図柄は、同機の筐体腰部パネル用図柄である。
    パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の開発状況については、前記映像制作一課のA課長代理から、月報の形で、SNK大阪本社のP&P開発部長に報告していた。

    以上のとおり、本件各著作物は、SNKの従業員が、SNKの発意に基づいて、その業務の中で、SNKの名義で公表する予定のものとして作成したものであるから、SNKの職務著作に当たるというべきである。
  (3) 被告らは、本件各著作物は被告アルゼの職務著作であると主張する。
    しかしながら、著作権法15条にいう「法人等」の外部の別法人に所属する者が組織的に作成した場合には、前記「法人等」の職務著作に当たると解すべきではない。
    また、被告アルゼは、パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の開発開始時に、オリジナルのものという以上の指示をしたことはなく、本件各著作物の作成に当たってテーマを指示したことはないし、抽象的あるいは部分的な助言をしたことはあっても、それを超えてSNK従業員に指揮命令をしたこともなく、キャラクター図柄の作成については何らの関与もしていない。被告アルゼの助言に従って図柄を変更したものについても、具体的にどのように変更するかは、すべてSNK従業員が考案した。これらの事実に照らせば、本件各著作物の作成が被告アルゼの指揮下で行われたということはできない。

    以上のとおりであるから、いずれにしても、本件各著作物が被告アルゼの職務著作に当たるということはできない。
  〔被告らの主張〕
  (1) 本件各著作物は、いずれも、被告アルゼに出向していたSNK従業員が、被告アルゼの発意及び指揮の下で、各パチスロ機を被告アルゼ名義で発売する予定のものとして作成したものであり、被告アルゼの職務著作として、著作権は原始的に被告アルゼに帰属する。
    少なくとも、原告主張の事実関係はないから、本件各著作物の著作権はSNKには帰属しない。
    これを詳論すれば、以下のとおりである。
  (2) SNKは、パチンコ・パチスロメーカーとして再生を図るため、その従業員を被告アルゼに派遣し、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の形で教育を受けさせていたものである。この従業員らは、被告アルゼに教育してもらっているのであるから、その給与等をSNKが負担するのは当然である。また、SNK大阪本社の従業員に筐体のデザインをさせたのも、将来SNKがパチスロ機を制作するために、その従業員を教育するためのものであって、これもOJTの一環であった。

    パチスロ機「クレイジーレーサー」や「IRE−GUI」の開発に着手するよう指示したのは、被告アルゼである。その企画も、パチスロ機「IRE−GUI」については被告アルゼ従業員のアドバイスを受けながらSNK従業員が立てたものであるし、パチスロ機「クレイジーレーサー」に至っては、アルゼ従業員が立てた(Bが企画案を出した。)ものである。そして、その後の開発作業は、被告アルゼの承諾を受けた上で進められた。開発過程でも、日常的に被告アルゼの指示や了解を取り付けながらキャラクターデザインや筐体デザインが進められたのであり、その過程でSNKの役員等の指示や了解を受けたことはなかった。
    上記パチスロ機の開発過程において、これに従事していたSNK従業員を指揮監督していたのは、SNKの映像制作一課のA課長代理ではなく、被告アルゼのC開発本部長であった。SNKのA課長代理は、工期管理等をしていたにすぎず、開発作業について実質的な指揮監督をしていたものではない。開発過程における決定権は、すべて被告アルゼのC開発本部長が有していた。

    SNK従業員による開発作業において、できるだけ、SNK従業員に開発を行わせようとしたことはあったが、それは、将来のSNKの独自開発を目指して、より効果的なトレーニングを行うために、極力、SNK従業員を作業に具体的に従事させようという方針があったからにすぎず、被告アルゼが一切口出しをしなかったいうものではない。
    また、SNK従業員らは、被告アルゼに出向してきたものであり、開発作業も開発担当者以外の出入りが厳しく制限されている被告アルゼの社屋内で、被告アルゼが用意した機材を用いて行われていたことからも、SNK従業員らが被告アルゼの指揮下にあったことは明らかである。
    以上のとおり、本件各著作物は、被告アルゼの発意に基づき、その業務の中で作成されたものである。
  (3) 原告は、開発したパチスロ機をSNK名義で販売する予定であったと主張する。しかし、開発したパチスロ機は、被告アルゼの子会社であるメーシー販売名義で販売することは当初から予定されており、それで何の問題も生じなかったのである。しかも、SNKはパチスロ機の販路を有していなかった。すなわち、本件各著作物は、当初から被告アルゼの名義で公表する予定であり、実際にもそのように公表されたものである。

  (4) 以上の事実に照らせば、本件各著作物は被告アルゼの職務著作に当たるというべきであり、少なくともSNKの職務著作に当たらないことは明らかである。
 3 争点(3)(著作権の譲渡)について
  〔原告の主張〕
    本件譲渡契約は、SNKが有していた知的財産権一切を破産者SNK破産管財人から原告に譲渡する内容であり、同契約につき破産裁判所の許可もされているから、本件各著作物の著作権は、本件譲渡契約により、SNKから原告に譲渡された。
    確かに、本件譲渡契約書の別紙目録には、本件各著作物の著作権は記載されていない。
    しかし、本件譲渡契約は、SNK破産財団に帰属していたすべての知的財産権を一括譲渡するものである。そして、裁判所もその趣旨の下で本件譲渡契約の締結を許可している。

    したがって、原告は、本件譲渡契約によって、本件各著作物の著作権を譲り受けたものである。
    また、SNKは、平成3年以降、業務用ゲーム及び家庭用ゲームソフトとして「餓狼伝説」シリーズ及び「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズを制作、販売しており、これらにはキャラクターとして「テリー・ボガード」及び「不知火舞」が登場し、これらの図柄の著作権はSNKに帰属していたところ、前同様に、これらの図柄の著作権も、本件譲渡契約書の別紙目録に記載されていないものの、原告は、本件譲渡契約によって、これらの著作権も譲り受けた。
    仮に、本件譲渡契約締結についての裁判所の許可が、本件譲渡契約書の別紙目録に記載された権利の譲渡に限定する趣旨のものであったとしても、原告は、本件譲渡契約締結に先立ち、SNK破産管財人から、本件譲渡契約の対象は別紙目録に記載されていないすべての知的財産権にも及ぶ旨の説明を受け、裁判所の許可も得ている旨信頼して契約締結に及んだものであるから、破産法201条にいう善意の第三者に当たるのであって、上記各著作権の譲り受けが無効になるものではない。

  〔被告らの主張〕
    本件譲渡契約の譲渡の目的となる権利は、本件譲渡契約書の文言上、同契約書の別紙目録に記載されたものに限定されるところ、当該目録には、原告が本件で主張する、本件各著作物並びに「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の各図柄の著作権は記載されていない。したがって、原告は本件譲渡契約によってこれらの著作権を譲り受けていない。
    また、本件譲渡契約締結について、SNK破産管財人が裁判所に許可を申請する際に提出した譲渡すべき権利の目録にも、原告が本件で主張する各著作権は記載されていないから、仮にSNK破産管財人と原告との間で、これらの著作権を譲渡する旨の合意があったとしても、これについて裁判所の許可は得られていない。そもそも、裁判所として、破産財団に属する知的財産権の詳細を特定せずに、あらゆる知的財産権を一括譲渡することを許可することはあり得ない。したがって、仮に本件譲渡契約が上記各著作権の譲渡も含むものであったとしても、当該部分は無効というべきであるから、結局原告はこれらの著作権を譲り受けていない。

    原告は、本件譲渡契約書の別紙目録に含まれていない権利を、その締結後に覚書によって譲渡対象に追加するという、裁判所による許可制度からの潜脱的行為をしたものである。他方、SNKの総務部長を経て代表取締役の地位にも就き、SNK内部で重要な役割を担っていたDが、平成14年1月7日に原告の取締役に就任している。さらには、原告自身が、平成15年7月7日付けで商号を「株式会社SNKプレイモア」に変更し、子会社も併せて「SNKグループ」との企業集団名を名乗っており、その中心グループである原告と株式会社SNKネオジオの取締役及び監査役のほぼ全員はSNKの出身者である。これらの事実などからすると、原告とSNKは、内容的にも外形的にも同一であるといわざるを得ない。原告は、SNKを倒産させた上でその積極財産を移転させるために設立された、SNKの株主や債権者に対するダミー会社である。これらの事実に照らしても、原告は破産法201条との関係でいえば悪意であったというべきである。
 4 争点(4)(対抗要件)について
  〔被告らの主張〕
    被告アルゼとSNKの間では、被告アルゼが、本件各著作物並びに「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の各図柄(以下、これらを合わせて「本件各著作物等」という。)を自由に利用してパチスロ機を製造販売することが予定されていた。したがって、被告アルゼは、SNKから本件各著作物等の著作権を譲り受け、あるいは利用許諾を受けていたものである。
    すなわち、前記2の被告らの主張のとおり、SNK従業員によるパチスロ機の開発は、そもそも、被告アルゼに出向したSNK従業員によって、被告アルゼの内部において、その子会社であるメーシー販売から発売される予定で行われたものであり、その過程においても、被告アルゼの指揮監督を受けていたものであるし、被告アルゼが本件各著作物等の著作権を譲り受けたり、使用することが予定されていなければ、液晶ソフトや筐体図柄を開発すること自体があり得ないものであった。そして、本件各著作物等を含んだ液晶ソフトや筐体図柄は、SNK従業員の手によって、被告アルゼの申請課に手渡されたものである。

    なお、被告アルゼは、SNKに対し、本件各著作物等について、直接は、その譲渡対価も利用対価も支払っていない。しかしながら、被告アルゼは、SNKに対し、30億円の運転資金を融資し、50億円の第三者割当増資に応じ、加えてSNKを被告アルゼのパチンコ・パチスロ機の販売総代理店に指定することで、例えば平成13年度で年間187億円以上の手数料収入を得させていたのであって、SNKの存立基盤自体が被告アルゼから供与された経済的利益に依存していた状況にあったのであるから、本件各著作物等の対価は実質的に十分に支払われていたというべきである。
    これらの事情に照らせば、被告アルゼは、SNKから本件各著作物等の著作権を譲り受けていたものであり、少なくとも利用許諾を受けていたことは明らかである。

    一方、原告は上記各著作権を譲り受けたことについて登録を受けていないから、その譲り受けを被告アルゼに対抗することができない。
  〔原告の主張〕
    被告アルゼがSNKから上記各著作権を譲り受け、あるいは利用許諾を受けていたことはない。
    SNKから被告アルゼへの、明示的な著作権譲渡行為や利用許諾行為は存在しない。被告アルゼとSNKとの間で、被告アルゼが、本件各著作物等を自由に利用してパチスロ機を製造販売することは予定されていなかったし、被告アルゼからSNKに対して、著作権についての対価が全く支払われていないことからも、黙示的な著作権譲渡や利用許諾はなかったというべきである。また、本件各著作物の作成に携わったSNK従業員も、SNKの破産管財人も、その著作権はSNKに帰属すると認識していた。

    SNK従業員が本件各著作物が収録された記憶媒体を被告アルゼに引き渡したのも、契約締結権限のないSNK従業員が、財団法人保安電子通信技術協会(以下「保通協」という。)への型式試験申請のために引き渡したものにすぎないし、被告アルゼは利用許諾に対する対価を支払っておらず、そもそも被告アルゼには利用許諾を受ける意思も、対価を支払う意思もなかったのであるから、黙示の利用許諾がなかったことは明らかである。
    しかも、SNKは、パチスロ機「クレイジーレーサー」の発売直後から、SNKの著作権及び商標権の無断利用について告訴する等の権利行使をする旨表明し、被告アルゼに対して抗議していたのであって、利用状態を放置したこともない。
    なお、被告アルゼがSNKを被告アルゼのパチンコ・パチスロ機の販売総代理店に指定したのは、SNKが有していた管理能力、組織力、人材を利用するとともに、決算上赤字会社であったSNKを利用することによって節税しようとしたものにすぎず、そればかりでなく、SNKを販売総代理店に指定した後に、代行店手数料と販売総代理店手数料をいずれも引き下げることによって、被告アルゼ自身が利益を上げたものであるから、もっぱらSNKに対する支援の意味を有していたものではない。

    以上の経過に照らせば、明示的にも黙示的にも、被告アルゼがSNKから上記各著作権を譲り受け、あるいは利用許諾を受けていたことがないのは明らかである。
    したがって、被告アルゼは原告と対抗関係に立つものではない。
 5 争点(5)(複製ないし翻案)について
  〔原告の主張〕
  (1) パチスロ機「クレイジーレーサーR」について(甲事件関係)
    パチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄は、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが作成した液晶画像用図柄と同一であり、複製に当たる。すなわち、登場キャラクターや舞台背景等の演出方法は全く変更されておらず、画像データを含む液晶ソフトの内容は全く変わっていない。
    パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネルの図柄(別紙図柄目録A2)は、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが作成した筐体腰部パネル用図柄(別紙図柄目録A1)の着色を変えたほかは同一であり、複製に当たる。

  (2) パチスロ機「爆釣」について(乙事件関係)
    パチスロ機「爆釣」の液晶画像図柄は、パチスロ機「IRE−GUI」のためにSNK従業員らが作成した液晶画像用図柄(別紙図柄目録D5ないし11〔枝番号を含む。〕はその一部)から、一部(人物キャラクターのうち「かすみ」という女性キャラクターと、ブルーギルという魚をモチーフにした動物キャラクター)が削除され、女性キャラクターの「びわこ」の胸のマークが変更され、リール図柄を用いた図柄が変更されたほかは、変更されていない。すなわち、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像の主要部分である主人公「アシノ」を始めとする「カワグチ」、「はるな先生」、「びわこ」の登場キャラクターの特徴をそのまま備えており、これらの登場キャラクターを用いた演出方法等も全く同じである。したがって、パチスロ機「爆釣」の液晶画像図柄は、パチスロ機「IRE−GUI」のためにSNK従業員らが作成した液晶画像用図柄に依拠して作成され、これに類似するものであり、複製ないし翻案に当たる。

    また、パチスロ機「爆釣」の筐体図柄は、同機のためにSNK従業員らが作成した筐体用図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2)と同一であり、複製に当たる。
  (3) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」について(丙事件関係)
    ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」に収納されているゲーム「クレイジーレーサーR」は、パチスロ機「クレイジーレーサーR」に使用している画像データと全く同じものが使用されているから、(1)で述べたのと同じく、パチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像データの複製である。
    また、同ゲームソフトに収録されている「隠しムービー」は、5分弱のものであり、未来型都市のトンネルのような舞台に、車輪のないバイクのような乗り物に乗ったレーサーが登場し、競走するストーリーが展開されるが、「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像と比べると、レーサーとして登場するキャラクターの顔が動物的ではなく、ほとんど人間に近いものであること、各キャラクターの乗り物の車体の形状が異なるといった相違点があるものの、「クレイジーレーサー」の液晶ソフトのキャラクターとすぐにわかる特徴を備えているなど、「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像に依拠して作成され、実質的に類似することが明らかであり、翻案に当たる。

    さらに、同ゲームソフトの一場面で、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体前面の全体図が画面に表示されるが、その腰部パネルの図柄(別紙図柄目録C8)も、前記のとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」のものの複製である。
  (4) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」について(丁事件関係)
    ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」には、パチスロ機「爆釣」のゲームが収納されているが、その液晶ソフトの画像データは、パチスロ機「爆釣」の画像データをそのまま使用しており、したがって、(2)で述べたのと同じく、パチスロ機「IRE−GUI」のためにSNK従業員らが作成した液晶画像用図柄に依拠して作成され、これに類似するものであり、複製ないし翻案に当たる。
    また、同ゲームソフトの一場面で、パチスロ機「爆釣」の筐体前面の全体図が画面に表示されるが、その図柄は、同機のためにSNK従業員らが作成した筐体用図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2)と同一であり、複製に当たる。

  (5) パチスロ機「IRE−GUI」について(戊事件関係)
    パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、同機のためにSNK従業員らが作成した液晶画像用図柄(別紙図柄目録D5ないし11〔枝番号を含む。〕はその一部)が用いられており、複製に当たる。
    同機の液晶画像図柄中には、SNKの家庭用・業務用ゲームソフト「餓狼伝説」シリーズ及び「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズに登場する著名キャラクターである「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄と特徴が一致するものがあるところ、これらはいずれも「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄と類似するのであるから、これらは翻案に当たる。
    パチスロ機「IRE−GUI」の筐体図柄は、同機のためにSNK従業員らが作成した筐体用図柄(別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2)と同一であり、複製に当たる。

  〔被告らの主張〕
   原告の主張のうち、別紙図柄目録の各図柄が原告主張のものであることは認め、その余は否認ないし争う。
   原告の主張(3)のゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」中の「隠しムービー」は、被告アルゼにおいて新たに作成したものでありパチスロ機「クレイジーレーサー」開発時のキャラクター図柄を元にしてこれに変更を加えたものではなく、実質的にも類似するところはない。
 6 争点(6)(類似商標の使用)について(甲事件、丙事件関係)
  〔原告の主張〕
  (1) 本件商標と別紙標章目録1ないし3記載の標章との類似性について
   ア 別紙標章目録1記載の標章は、「クレイジーレーサー」の文字からなる標章と「R」の文字からなる標章から構成されているが、同各標章は片仮名とローマ字の違いにより区別され、「R」の標章のみでは識別力を有しないため、「クレイジーレーサー」の部分が要部である。

     本件商標の「クレージレーサー」と別紙標章目録1記載の標章の「クレイジーレーサー」部分を比較すると、@ 称呼については、「クレイジーレーサー」には3文字目に「イ」の文字が入っているのに対して「クレージレーサー」にはこれがないこと、「クレイジーレーサー」では2文字目の「レ」が短音、4文字目の「ジ」が長音であるのに対して、「クレージレーサー」ではこれらに対応する2文字目の「レ」が長音、4文字目の「ジ」が短音であるという相違点があるものの、前者については、比較的長い称呼を有し、一方が1音だけ多く、他は同一の場合には、類似するというべきであるし、後者については、長音と短音の差にすぎないものであるから、これらは類似するというべきであり、A 外観については、両者とも横書きのゴシック体の片仮名であり、使われている文字も「イ」の有無を除いて同一であるから、これらは類似するというべきであり、B 観念については、「クレージ」も「クレイジー」も直ちに英語の「crazy」を想起させ、「熱狂的な」という意義を有することは一般人に広く知られており、「レーサー」は「競走者」という意味を持つことは広く知られているから、両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有するのであり、同一の観念を想起させるものとして類似するというべきであるから、称呼、外観及び観念のいずれも類似するというべきである。
   イ 本件商標の「CRAZYRACER」と別紙標章目録2記載の標章を比較すると、@ 称呼については、「クレイジーレーサー」という同じ称呼を生じ、A 外観については、同じローマ字を横書きにしたという限度で類似し、B 観念については、上記アと同様に両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有し、同一の観念を想起させるものとして類似するから、称呼、外観及び観念のいずれも類似する。
   ウ 別紙標章目録3記載の標章は、書く文字の太さと横幅が別紙標章目録1記載の標章と若干相異するものの、その他はこれと同一であるから、上記アと同様の理由で本件商標と類似する。

  (2) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」に係る商標としての使用の有無について(丙事件関係)
   ア 被告アルゼが作成したパチスロ機「クレイジーレーサーR」のガイドブックは、前記第2の2の「前提となる事実」(3)オ記載のとおり、裏表紙に「プレイステーション2専用ソフト『パチスロ アルゼ王国6』12月発売予定 定価5,800円(税別)」という「パチスロ アルゼ王国6」の広告が掲載されており、同ガイドブックはパチスロホールに配布され、一般公衆に頒布されているところ、被告アルゼは、インターネット上のゲーム関連サイト「eg」等で、同ソフトウエアに「クレイジーレーサーR」が隠し機種として収録されている旨の情報を流布させていたから、上記ガイドブックの広告は、同ソフトウエアの宣伝広告を兼ねたものといえる。また、上記ゲームソフトは、上記パチスロ機の液晶ソフトをそのまま移植して製品化されるものであるから、いわば、ゲームソフトはパチスロ機を原材料として製作されるという関係にある。このガイドブックに別紙標章目録1記載の標章を付することは、同ソフトウエアの広告に標章を付することであり、商標としての使用に当たるというべきである。

   イ インターネット上のゲーム情報サイト「eg」の、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現情報!」との記事は、被告アルゼによる広告であるから、別紙標章目録3記載の標章を同ソフトウエアの広告に付したものであり、商標としての使用に当たるというべきである。
     なお、仮に、当該記事を作成したのが同サイトの運営者であるNTT出版株式会社であったとしても、被告アルゼが用意した文書によって記事を作成したものであるから、被告アルゼは、広告の効果を持つことを意図して別紙標章目録3記載の標章を使用した文書を作成し、NTT出版株式会社をして掲載させたのであって、商標としての使用をしたものというべきである。
   ウ 被告アルゼは、インターネット上の被告アルゼの自社サイトに、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」との記事を掲載したが、被告アルゼによる広告であるから、別紙標章目録3記載の標章を同ソフトウエアの広告に付したものであり、商標としての使用に当たるというべきである。

     なお、当該記事は、一般公衆向けの項に記載されているのであるから、同ソフトウエアの購入動機を形成させることは明らかであり、広告に当たる。
   エ 「パチスロ アルゼ王国6」の「隠しムービー」に使用する標章も、一般需要者の目に触れ、商品識別機能を持つものであるから、別紙標章目録2記載の標章を商品である同ソフトウエアに付したものであり、商標としての使用に当たるというべきである。
     なお、同ソフトウエアは、記憶媒体そのものに商品として価値があるわけではなく、プログラム自体に価値があり、商品として他と識別しなければならないのであるから、ソフトウエアの導入部分に表示されるタイトル等に現れる標章も、出所識別機能を持つ。したがって、別紙標章目録2記載の標章を、電子データの形でソフトウエアに組み込み、「隠しムービー」で表示するようにすることも、商品に標章を付すものであって、商標としての使用に当たる。

        なお、被告アルゼは、商標法2条3項2号に該当するというためには、標章が、商品である同ソフトウエアが収録されたDVD−ROM又はその包装に添付、刻印、焼き付けがなされていなければならないと主張する。しかし、現代的にいえば、電子データの形で、DVD−ROMに収納するというのも、一つの刻印、焼き付けの方法である。
  〔被告アルゼの主張〕
  (1) 原告の主張(1)について、「クレージ」が直ちに「crazy」を想起させることは否認ないし争い、「クレージ」と「クレージー」が類似であることは知らない。
  (2) 原告の主張(2)について
   ア パチスロ機「クレイジーレーサーR」のガイドブックに「クレイジーレーサーR」との標章を付することは、ガイドブックの表題として当然であり、ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」の広告に標章を付したことになりようがない。当該ガイドブックには、同ソフトウエアについて「クレイジーレーサー」との文字列が使われた箇所はない。

   イ NTT出版株式会社が開設するゲーム情報提供サイト「eg」の、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現情報!」との記事は、NTT出版株式会社が作成したものであり、被告アルゼが作成し、掲載を依頼したものではない。
   ウ 被告アルゼの自社サイトの、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」との記事は、一般閲覧者も閲覧可能ではあるが、需要者に対して購入を働きかける広告ではなく、既に購入した消費者に対して商品添付の説明書に記載していない情報を提供したものであるから、広告には当たらない。
   エ 商標法2条3項2号に該当するというためには、標章が、商品である同ソフトウエアが収録されたDVD−ROM又はその包装に添付、刻印、焼き付け等がなされていなければならないが、「隠しムービー」には標章が付されているとはいえない。また、「隠しムービー」において標章を表示しても、商品の出所を表示し又はその品質を保証する標章である商標として使用するものではないから、商標としての使用には当たらない。

     商標は、可視的なものでなければならないから、電子データでの収納行為は標章を付することに当たらない。また、ソフトウエアの導入部分にタイトル等が表示される場合についても、これを商標の使用に含めることはできない。さらに、「隠しムービー」中に表示される別紙標章目録2記載の標章は、同ソフトウエアについて商品識別機能を果たす態様で使用されているわけではないから、商標としての使用には該当しない。
 7 争点(7)(本件商標の登録無効理由)について(甲事件、丙事件関係)
  〔被告アルゼの主張〕
   パチスロ機「クレイジーレーサー」は、当初から被告アルゼが製造販売する予定であった。SNKには、自らこれを製造又は販売する予定はなかったし、現に自ら製造も販売もしていない。また、SNKは被告アルゼにライセンスを与えてこれを製造又は販売する予定もなく、現に被告アルゼにライセンスを与えて製造販売させてもいない。その他、SNKが自ら業として生産、証明又は譲渡する商品について、本件商標を使用する予定もなかったし、現に使用したこともない。

   なお、「クレイジーレーサー」という名称は、完成されたパチスロ機全体について使用される標章であるところ、同機の液晶部分及び筐体デザイン部分は、完成されたパチスロ機の一部分にすぎないから、仮にこれらをSNKが独自に開発したものであったとしても、機械全体の一部分を生産するにすぎない企業にとって、機械全体に付される名称は自己の業務に係る商品について使用する標章には当たらない。さらに、パチスロ機「クレイジーレーサー」の一部品にパチスロ機と同一の標章が付されるということはあり得ない。そもそも、SNKには、液晶部分や筐体デザイン部分を生産する予定はなかった。
   したがって、本件商標は、登録出願当時、SNKが自己の業務に係る商品について使用する商標には当たらないものであったのであるから、本件商標の登録は商標法3条1項に違反するものであり、無効理由が存在することが明らかである。このような無効理由が存在することが明らかな本件商標権に基づく権利行使は、権利濫用として許されない。

  (平成15年9月8日付け準備書面による新たな主張)
   SNKが被告アルゼに無断で本件商標の登録を出願したのは、将来SNKと被告アルゼとの関係が悪化した場合に、被告アルゼから金銭的利益を得、あるいはパチスロ機「クレイジーレーサー」の出荷を停止させることにより、被告アルゼに損害を与える目的であったと考えるのが最も合理的である。このような商標登録は、商標法4条1項19号に反してされたものであり、無効である。したがって、本件商標権に基づく権利行使は権利濫用として許されない。
  〔原告の主張〕
  (1) パチスロ機「クレイジーレーサー」はSNKが販売する予定であった。
    また、同機の液晶部分及び筐体腰部パネル部分については、SNKが自ら生産する予定であり、そこには「クレイジーレーサー」の商標を用いることを予定していた。

    なお、商品の製造者と販売者が異なる場合に、製造者が自己の商標をつけようとすることや、製品を複数の会社で開発した場合に、その商品の商標をいずれか一方の会社が登録することがあるところ、商標「クレイジーレーサー」は、SNKが考案した商標であり、当該パチスロ機は自らが主導で開発したパチスロ機であるという認識の下で、商標登録をしたものであるから、何ら不合理な点はない。
  (2) さらに、SNKは、業務用及び家庭用ゲームソフト並びにゲーム機の開発にかけては多大な実績のある会社であったところ、将来自社でパチスロ機を開発し、製造販売する予定であったし、本件商標を含む図柄は、家庭用又は業務用のゲームソフトに応用しても使用可能なものであって、SNKとしては、本件商標を将来これらに使用する意思があった。

  (3) また、「自己の業務」というためには、通常は商標を自ら使用する意思が必要であるが、商標ブローカー的業者の登録を阻止するという商標登録制度の趣旨に照らせば、同一企業グループ内の親子会社間や子会社同士の間で商標を使用させる場合にも、自己の業務への使用と同視すべきである。
    パチスロ機「クレイジーレーサー」は、SNKが販売する予定であったが、仮にこれが当初からメーシー販売が販売する予定であったとしても、SNKとメーシー販売は共に被告アルゼを親会社とする企業グループに属していたのであるから、本件商標の登録においても「自己の業務」に使用する意思があったのと同視することができる。
  (4) 以上のとおり、いずれにしても、本件商標はその登録出願時に、SNKが自己の業務に係る商品について使用をする予定であったものであるから、被告アルゼが主張する無効理由は存在しない。

  (5) 被告アルゼの平成15年9月8日付け準備書面による新たな主張は争う。
 8 争点(8)(本件商標権行使と権利濫用等)について(甲事件、丙事件関係)
  〔被告アルゼの主張〕
   「クレイジーレーサー」及び「CRAZY RACER」という名称は、いずれもメーシー販売の名義で製造・販売することが予定されていたパチスロ機の名称として考案されたものであり、SNKが本件商標の登録出願をした時点では、既にその開発作業が相当進んでいた。その主基盤部分や筐体部分の開発は、被告アルゼの従業員が担当しており、液晶部分のプログラムについても被告アルゼが開発したもののコードを相当程度流用していたし、パチスロ機の製作販売実施等に必要な各種の特許権等は被告アルゼが有していたのであるから、パチスロ機「クレイジーレーサー」をSNKが独自に製造販売し、又は他社にライセンスを供与して製造販売させることは事実上不可能であった。すなわち、本件商標の登録出願時点では、「クレイジーレーサー」及び「CRAZY RACER」という名称は、いずれもメーシー販売の名義で販売することを予定していたパチスロ機に使用されることが決まっていた。

   ところで、被告アルゼがメーシー販売から販売するパチスロ機の場合、発売予定を公表し、各種メディアがそれを報ずることで、周知性を獲得するために、商標登録によらずとも不正競争防止法により排他的支配を及ぼすことが可能であった。そのため、被告アルゼにおいては、商標登録を急いで行わない傾向があった。
   SNKは、メーシー販売の名義で販売することが予定されていたパチスロ機の名称が「クレイジーレーサー」及び「CRAZY RACER」であることを知り、被告アルゼに無断で本件商標の登録出願を行ったものである。
   このような経過に照らせば、被告アルゼがメーシー販売の名義で製造・販売することを予定していたパチスロ機の名称を被告アルゼに無断で商標登録し、後になって商標権を侵害されたと主張することは、権利の濫用というべきである。

  (平成15年9月8日付け準備書面による新たな主張)
  (1) 権利濫用
   ア 原告は、被告アルゼが多額の広告・宣伝費を投じて広く認識されるに至った「クレイジーレーサー」の標章を自己の利益のために用いようとし、たまたまSNKが所有し、全く用いられていなかった本件商標を譲り受け、これにより被告アルゼによる「クレイジーレーサー」の標章の使用を禁圧し、損害金を請求しようとしているものであるが、このような行為は権利濫用であって許されない。
   イ SNKも原告も、「クレイジーレーサー」という商標を全く使用しておらず、いずれの信用も化体されていないから、「クレイジーレーサー」やこれに類する標章が第三者によって使用されても、両者の信用が損なわれることはない。これに対して、「クレイジーレーサー」という標章には、被告アルゼないしメーシー販売の信用が化体されており、これを使用できないとなると、被告アルゼないしメーシー販売が被る不利益は極めて大きい。このように、両者の利益を比較考量し、権利行使を許すことが著しく不当である場合には、権利濫用というべきであるから、原告の権利行使は許されない。

  (2) 商標権行使の制限
    仮に、被告アルゼないしメーシー販売が製造販売するパチスロ機「クレイジーレーサー」の商品名「クレイジーレーサー」に関して、SNKが商標登録を行うことを被告アルゼが承認していたとしても、SNKによる本件商標の登録出願は、被告アルゼないしメーシー販売が「クレイジーレーサー」という標章を使用してパチスロ機を製造販売していくことを前提とするものであったから、SNK及びSNKから本件商標権を承継した原告が、被告アルゼないしメーシー販売に対して、商標の使用を禁止する等、商標権の主張をすることはできない。
  〔原告の主張〕
   否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
 1 事実経過の認定
   各争点に対する判断の前提として、パチスロ機「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の開発経過や、これに関する被告アルゼとSNKの間の交渉がどのようなものであったかについて検討する。

  (1) 前記第2の2の「前提となる事実」と証拠(証人A、同E、後掲各証拠)及び弁論の全趣旨を総合すれば、上記パチスロ機の開発経過について、以下の各事実を認めることができる。
   ア SNKは、平成11年末までには業績が悪化し、財政状態も悪化したため、被告アルゼに支援を求めた。
     被告アルゼは、SNKに対し、運転資金として、平成12年1月ころ、10億円を貸し付け、さらに同年4月ころ、2回にわたって計20億円を貸し付ける支援を行った(乙2、3)。
     また、被告アルゼは、平成12年2月ころ、約50億円のSNKの第三者割当増資に応じ、これによって、SNKの発行済み株式総数の50.88パーセントを保有することとなった。
     このころから、SNKは、被告アルゼ代表取締役Mを自らの取締役会長に迎え、自社の事業活動のみならず、その人事等についても、事前に被告アルゼの承認を経ることが必要とされるようになった(甲A56の1ないし3、57の1・2、乙4の1ないし5)。

   イ SNKは、平成12年3月ころ、被告アルゼの傘下で、それまで経験のなかったパチンコ及びパチスロの開発を会社再建の柱に据えることとし、P&P開発部を設置し、その下に置かれた映像制作1課がパチスロ機の映像・企画及び制作を担当することとした(甲A31、41、45、58)。
     映像制作1課のSNK従業員は、SNK大阪本社から東京の被告アルゼ本社社屋に派遣され、その一角でパチスロ機の開発に従事した。
     SNK従業員の給与、出張旅費等は、すべてSNKが負担し、SNKにおいて従業員の社宅も用意し、その人事面の管理も、A課長代理を通じてSNK大阪本社が行っていた(甲A42)。
     また、被告アルゼ社屋で勤務するSNK従業員は、「SNKパチスロ制作チーム」等と呼ばれ、その作成する企画書等の文書や、被告アルゼが作成する文書でも、「SNK」との表示が付されることが多かった(甲A3、4、5の1ないし11、甲A46、甲B3の1ないし7、乙9の2の1・2、乙11、33の1・2)。

   ウ パチスロ機のうち、液晶搭載型のものには、リール(回胴)の出目の当たり確率を制御するプログラムが登載された主基盤と、液晶画面を制御するプログラムが登載されたサブ基盤が内蔵され、パチスロ機は、これらに加えて筐体やリール、パネルなどから構成される。
   エ SNK映像制作1課所属のSNK従業員は、液晶搭載型パチスロ機の開発に従事することとなり、上記のうちサブ基盤部分の企画、映像制作を担当し、主基盤部分の開発は被告アルゼの従業員が担当することとなった。また、パチスロ機の筐体等の図柄デザインは、SNK大阪本社で勤務していたSNKデザイン制作室所属の従業員が作成を担当することとなった。
     被告アルゼとしては、開発されたパチスロ機を、発行済み株式の全部を保有する子会社であるメーシー販売から販売する予定であった(甲A5の4ないし10、乙11)。

   オ 映像制作1課所属のSNK従業員は、最初に、それまでSNKが制作、販売していたゲームソフトシリーズである「サムライスピリッツ」を題材とした液晶搭載型パチスロ機を開発することとなった。
   カ パチスロ機「サムライスピリッツ」に続いて、SNK映像制作1課のSNK従業員は、2D映像を用いた演出をする液晶搭載型パチスロ機を開発するチーム(2Dチーム)と3D映像を用いた演出をする液晶搭載型パチスロ機を開発するチーム(3Dチーム)に分かれ、それぞれ従来のSNKのキャラクター等を離れてパチスロ機を開発することとなった。
     このうち3Dチームは、「CRAZY RACER(クレイジーレーサー)」と題する企画を立案し、平成12年5月ころから、被告アルゼのC開発本部長の了承を得て、映像制作等を開始した。このパチスロ機のタイトルは、その後、正式に「CRAZY RACER(クレイジーレーサー)」と決定された(甲A3、4、46)。

     また、平成12年8月ころから、SNKデザイン制作室のSNK従業員は、筐体デザインの制作を開始した(甲A4)。
     「クレイジーレーサー」の液晶画面制御プログラムは、平成13年1月11日までに制作を終了し、SNK従業員は、そのころ、これを被告アルゼに引き渡した(甲A4、45)。
     また、「クレイジーレーサー」の筐体図柄デザインは、平成13年1月11日までに制作を終了し、SNK従業員は、そのころ、これを被告アルゼに引き渡した(甲A4)。
   キ 前記カの2Dチームは、釣りをテーマにした企画を立案し、平成12年5月ころから、被告アルゼのC開発本部長の了承を得て、映像制作等を開始した。このパチスロ機のタイトルは、その後、「IRE−GUI」と決定された(甲B3の1、乙15、19)。

     また、同年11月ころから、SNKデザイン制作室のSNK従業員は、筐体デザインの制作を開始した(甲B3の1、甲D9の2、乙15、19)。
     パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、「
SNK2001」との文字列や、登場人物の服にSNKが商標権を有していたネオジオポケットのマークが入れられた(甲D15、25、26の1ないし3)。
     「
SNK2001」との文字列を入れたのは、SNK映像制作1課のA課長代理の指示によるものであった。
     なお、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、被告アルゼの従業員が、別のパチスロ機に用いるために作成したキャラクターの図柄を1種類流用して用いられている。
     「IRE−GUI」の液晶画面制御プログラムは、平成13年2月22日までに制作を終了し、SNK従業員は、そのころ、これを被告アルゼに引き渡した(甲A45、甲B3の4、乙10の1ないし3)。

     また、「IRE−GUI」の筐体図柄デザインは、平成13年2月22日までに制作を終了し、SNK従業員は、そのころ、これを被告アルゼに引き渡した(甲B3の4)。
   ク パチスロ機「IRE−GUI」は、前述のとおり開発を終了したが、被告アルゼは、この発売を保留し、「IRE−GUI」に新たな機能を付加し、デザインを一部作り直して新たなパチスロ機を制作することとした。そのため、平成13年2月末ころから、「IRE−GUI」の開発に携わっていたSNK従業員は、その新たなパチスロ機の開発作業に従事した。このパチスロ機のタイトルは、その後、「爆釣」と決定された(甲B3の4ないし7)。
     また、同年4月ころから、SNKデザイン制作室のSNK従業員は、筐体デザインの制作を開始した(甲B3の6)。

     ところが、被告アルゼは、同年3月末ころ、SNK映像制作1課所属のSNK従業員のうち、希望者を被告アルゼに移籍させ、SNKは、被告アルゼに移籍しなかったSNK従業員を被告アルゼから引き揚げさせた。これ以降、SNK従業員が、「爆釣」のサブ基盤部分の映像制作に携わることはなくなった。
     しかし、「爆釣」の筐体デザインは、その後もSNKデザイン制作室のSNK従業員が制作を続け、平成13年5月24日までに制作を終了し、SNK従業員は、同日、これをSNK名義の納品書と共に被告アルゼに引き渡した(甲B3の7、甲B9)。
   ケ 上記各パチスロ機の開発手順は、概ね以下のとおりである。(甲A3、4、5の1ないし11、甲A7、42、45、46、64、65、甲B3の1ないし7、甲B4、10の1・2、甲B13、甲D9の2、甲D10の1ないし9、乙9の1、2の1・2、乙11、15、19、21の1ないし10、乙25の1ないし4、乙33の1・2)

    (ア) SNK映像制作1課所属の企画担当のSNK従業員が、企画を立案する。その過程において、周囲の席にいた被告アルゼ従業員らに助言を求めたり、助言を受けたりすることもある。
      完成した企画を、被告アルゼのC開発本部長に提出し、その承認が得られれば、これ以降の開発作業が始められる。
    (イ) C本部長の承認を得た企画に基づき、SNK映像制作1課の企画担当者が中心となって、SNK映像制作1課のデザイナーと打合せを行い、SNK映像制作1課のデザイナーが液晶画像用のデザイン(液晶画像図柄)を作成する。作成されたデザインを元に、SNK従業員が画像用データを作成し、さらにこれを組み込んだ液晶画面制御プログラム(サブ基盤用プログラム)を作成する。
      被告アルゼ社屋内での開発は、入退室が厳しく管理された部屋で、被告アルゼが用意した機材を用いて行われる。

      また、SNK映像制作1課の企画担当者は、SNK大阪本社のデザイン制作室のデザイナーと打合せを行い、SNK大阪本社デザイン制作室のデザイナーが筐体等のデザインを作成する。
      パチスロ機の主基盤用プログラムは、企画に基づいて、被告アルゼ従業員が作成する。
    (ウ) パチスロ機のサブ基盤部分の開発進行状況は、被告アルゼ側が主催し、SNK従業員も参加して毎週開催される会議で、被告アルゼ従業員が開発作業をしていたパチスロ機に関する開発進行状況と共に報告されていた。
      また、SNK従業員が開発に携わっていたパチスロ機の開発進行状況は、SNK映像制作1課のA課長代理から、月報の形でSNK大阪本社に報告されていた。その中では、SNK映像制作1課の従業員が開発した成果の被告アルゼの担当部署への移転について、「商品引き渡し」という表現が用いられていた。

    (エ) 以上の開発過程で、C開発本部長や、被告アルゼの従業員が、SNK従業員に対して助言をしたり、商品としてのパチスロ機として完成させるために必要な修正や、被告アルゼの仕様に合わせるための修正を指示したことは数多くあった。
      しかしながら、企画、液晶画像用デザイン及び筐体等のデザインは、すべてSNK従業員が行い、必要な修正もSNK従業員が行った。
      また、開発過程の途中で全体の意思決定が必要となった場合には、被告アルゼのC開発本部長がその決定を行った。
    (オ) 完成間近になったパチスロ機は、被告アルゼ代表者にプレゼンテーションを行い、被告アルゼ代表者の意見を基に必要な修正を施して完成に至る。
      完成したパチスロ機のプログラムは、被告アルゼを通して保通協に型式試験申請を行い、当該試験の合格を得てから販売される。

  (2) 前記(1)エについて、原告は、当初は、開発されたパチスロ機は、SNKから販売する予定であったと主張し、これに沿う証拠として、証人Aの証言がある。
    しかし、同証言においても、そのように聞いたことがあるというにとどまり、誰から聞いたかなどはよく憶えていないというのであるし、客観的な裏付けもないものであるから、これを直ちに信用することはできない。
    かえって、甲A第5号証の4ないし10によれば、SNK従業員が関与して開発中のパチスロ機「クレイジーレーサー」の筐体腰部パネルのデザインとして、当初からメーシー販売を示す「MACY」の文字が書き入れられていることが認められるから、これに照らせば、前記(1)エのとおり、開発されたパチスロ機は、メーシー販売から販売する予定であったと認めるのが相当である。

  (3) 前記(1)カ及びケ(ア)について、被告らは、パチスロ機「クレイジーレーサー」の企画は、被告アルゼ従業員が立てたものであると主張し、これに沿う証拠として、被告アルゼ従業員であるBの陳述書(乙28)が提出されている。
    しかしながら、前記乙28の当該供述部分には客観的な裏付けがないことに加え、被告らは、当初はパチスロ機「クレイジーレーサー」の企画をSNK従業員が立案したものであることを認めていたにもかかわらず、双方が主要な事実主張を終え、さらに証人2名の尋問を終えて、侵害論についての審理を終える予定とした第12回口頭弁論期日を指定した後になって、初めて被告らが当該主張立証をしたものであることに照らすと、当該供述部分は信用することができない。
    したがって、上記証拠は、前記(1)カ及びケ(ア)の認定を覆すに足りない。

  (4) 前記(1)ケ(ア)及び(エ)について、原告は、パチスロ機の開発過程において、被告アルゼ側から助言等はあったものの、ごくわずかなものであったと主張し、これに沿う証拠として、証人Aの証言、甲A第45号証(Aの陳述書)、第65号証(Fの陳述書)が存在する。
    しかしながら、SNKはそれまでパチスロ機の開発経験を有していなかったのであるから、図柄の基本部分はともかく、企画や各種図柄の細部については、被告アルゼ側の助言等なくして、被告アルゼの開発した主基盤と組み合わせてパチスロ機に用いるものとして十分な完成度を有するものができあがるとは容易に考えがたく、乙第9号証の1、2の1・2、第21号証の1ないし10からも、被告アルゼ側が、SNK従業員の作業に対し、商品としてのパチスロ機として完成させるために必要な修正や、被告アルゼの仕様に合わせるための修正を指示していたことが認められるから、原告の上記主張及び上記証拠のうち、前記の認定に反する部分は採用することができない。

    また、この点について、被告らは、パチスロ機の開発過程において、被告アルゼ側がSNK従業員を指揮監督していたと主張する。しかしながら、本件の全証拠によっても、前記(1)ケ(ア)及び(エ)で認定した程度を超えて、被告アルゼ側がSNK従業員を日常的に指揮していたと認定するに足りない。証人Eの証言、乙第15号証(Eの陳述書)、第16号証(Gの陳述書)、第17号証(Hの陳述書)、第19号証(Iの陳述書)には、被告アルゼ側がSNK従業員を指揮監督していた旨の供述も存在するが、その具体的態様を検討すれば、前記で認定したC開発本部長による承認や決定を別にすれば、いずれも助言や商品としてのパチスロ機として完成させ、あるいは被告アルゼの仕様に合わせるための必要な修正の指示の範囲にとどまるものであって、指揮監督とまでいえるようなものはない。よって、被告らの上記主張は採用することができない。
  (5) 後掲各証拠と弁論の全趣旨によれば、上記パチスロ機の開発経過に関する被告アルゼとSNKの間の交渉について、以下の各事実を認めることができる。
   ア 平成12年12月ころ、SNKは、業績回復の見通しとして、「SNK業態変更に伴う逸失利益回復対策(案)」と題する書面を作成し、被告アルゼに提出した。そこでは、下記の「サムライスピリッツ」に続くパチスロ機2機種の開発費として各2000万円、売上に対するロイヤリティーとして1台当たり2万円を3万5000台分見込んで7億円の収入が得られることを予定していた(甲A21の1)。
   イ 平成13年1月末ころ、SNKは、被告アルゼに対し、パチスロ機の開発について、被告アルゼが、液晶部及び筐体部の開発をSNKに委託し、開発の過程で取得した著作権等は両者の共有とする等の内容の開発委託基本契約と、被告アルゼがSNKに対し、基本開発委託費を1機種当たり2000万円、販売ロイヤリティーを1台当たり2万円とするなどとした開発委託個別契約の案を提出し、契約締結を求めた。その際、SNKが被告アルゼに提出する書類の日付は、被告アルゼの指示で平成12年3月30日とされた(甲A23、58)。

   ウ SNKの民事再生手続開始申立後の平成13年4月17日、被告アルゼは、SNKに対し、パチスロ機の開発について、被告アルゼが、液晶部及び筐体部の開発をSNKに委託し、開発の過程で取得した著作権等は両者の共有とする等の内容の開発委託基本契約と、パチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」について、いずれも開発委託費として販売ロイヤリティーを1台当たり5000円、著作権等の使用許諾料を1台当たり500円とするなどとした開発個別委託契約、著作権等使用許諾契約等の契約書を提示し、契約締結を求めた。このうち、開発委託基本契約の締結年は、平成12年とされていた(甲A24の1ないし5)。
   エ 平成13年7月10日、被告アルゼの代理人弁護士は、SNKの代理人弁護士に対し、両者間の他の問題を含めた問題解決の一環として、当時既に販売がされていたパチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」の著作権、対価等について協議と合意書の締結を申し入れた(甲A25、59)。

     しかし、同月11日、被告アルゼ代理人は、SNK代理人に対し、前記申入れのうち、パチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」の著作権については、SNKは被告アルゼに対して主張せず、被告アルゼがSNKに対して対価の支払義務のないことを認めるという条件とする旨補充、訂正した提案を申し入れた(甲A60)。
   オ 平成13年7月13日ころ、SNK代理人は、被告アルゼ代理人に対し、上記申入れの回答として、「覚書(案)」を提示した。そこでは、パチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」については、別途協議して定めるロイヤリティー及び著作権使用許諾料を支払うこととされていた(甲A61の1、2)。
   カ しかしながら、パチスロ機の開発の対価や著作権使用の対価については、結局何らの合意もされず、支払もされないまま、平成13年10月のSNKの再生手続廃止決定及び破産宣告に至った(争いがない)。

  (6)ア 前記(5)アについて、被告らは、甲A第21号証の1の書類について、被告アルゼは与り知らないものであると主張する。
     しかし、甲A第21号証の1には、「管理本部長」、「12.12.−1」、「J」と記された丸印が押捺されており、これが被告らにおいても被告アルゼの内部文書であることを認めている乙第25号証の4に押捺されている「管理本部長」、「12.6.27」、「J」と記された丸印と同一の体裁のものであることに照らせば、甲A第21号証の1の書類も、平成12年12月1日に被告アルゼのJ管理本部長に提出され、その際に、SNK側の控えに同人の丸印の押捺を受けたものと認めることができるから、被告らの上記主張は採用することができない。
   イ 前記(5)ウについて、被告らは、そのような事実の存在を否認し、仮にあったとしても被告アルゼの機関決定に基づくものではないと主張する。

     しかしながら、前記(5)ウの事実認定に供した甲A第24号証の1ないし5は、その上端の送信元ファクシミリ機により付加された信号による印字部分から、平成13年4月17日の同一の機会に送信されたものであることを認めることができ、さらに甲A第24号証の1の体裁及び文面から、SNKの東京社屋に勤務していた経営企画室所属のSNK従業員から、SNK大阪本社のK専務に宛てて送信されたものであることが認められる。そして、甲A第24号証の1の文面を検討すれば、そこには、「標記の件、アルゼ経営企画室より下記の契約書につき、SNKの押印を要求されております。」、「社内の稟議書に関しましては、こちらで作成の上、回議いたしますが、同時並行にて代理人弁護士への内容確認をしたいと思います。」、「本件に関しましては、社長又は専務の方から代理人の方へお話いただいた方が良いかと思いましたので、取り急ぎ契約書を送付いたします。」と記載されているところ、これらの記載に疑問を差し挟むような事情も見当たらないから、これらの記載に照らせば、甲A第24号証の2ないし5は、被告アルゼの作成にかかるものであると認めることができ、前記(5)ウのとおり、被告アルゼはこれらの契約の締結をSNKに求めたものと認定するのが相当である。
     加えて、このような契約が締結されれば、被告アルゼに対しても重大な影響が及ぶものであるから、その機関決定を経ずに被告アルゼの従業員がその独断で締結を求めるといったことはにわかに想定しがたく、このような被告らの主張を裏付ける証拠も存在しないから、被告らの上記主張は採用することができない。
   ウ さらに、前記(5)エについて、被告らは、その当時、SNK側が、刑事告訴をほのめかし、脅迫めいた対応をとってきたために、被告アルゼ代理人において、事態の収束を図るべく、株式の売買の一環として俎上に上げていたものにすぎないと主張する。
     しかし、被告らの当該主張を裏付ける証拠は存在しないから、上記主張は採用できない。

  (7) 以下、前記(1)及び(5)で認定した事実を前提として、本件の各争点について判断する。
 2 争点(1)(著作物性)について
   本件各著作物は、いずれも当初からパチスロ機に用いることを目的として作成されたものであることは当事者間に争いがなく、これを反面から見れば、それ自体の鑑賞を目的として作成されたものではないということができる。
   しかしながら、上記各著作物は、いずれも一応独立した図柄であるから、量産品の図面や金型等とは異なって、それ自体を鑑賞の対象とすることもできるものである。
   このような、それ自体を鑑賞の対象とすることができる図柄については、これが平均的一般人の審美観を満足させる程度に美的創作性を有するものであれば、著作権法にいう美術の著作物に当たるものと解するのが相当である。

   これを本件各著作物についてみるに、甲A第7号証、第8号証の1ないし10、第9号証、甲B第4号証、第5号証の1・2、第6号証、第7号証の1ないし4、第8号証の1・2、第15ないし第17号証、第18号証の1・2と弁論の全趣旨によれば、本件各著作物は、第3の1で原告が主張するような特徴で描かれた液晶ソフトの画像に登場する人物ないし動物キャラクターやそれらを背景と組み合わせて作成された図柄や筐体のデザインとして作成された図柄であり、いずれも、その形状、構図等に作成者の思想感情が表現されており、平均的一般人の審美観を満足させる程度の美的創作性を有するものと認めることができる。
   よって、本件各著作物は、いずれも美術の著作物として、著作権の対象となるものというべきである。
 3 争点(2)(職務著作)について

  (1) 前記1(1)及び(5)で認定した事実関係を前提として、パチスロ機「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の開発態様を、いかなるものであったと評価すべきか検討する。
   ア 前記1で認定した事実によれば、次の諸点を指摘することができる。
     液晶搭載型パチスロ機は、主基盤、サブ基盤、筐体、リール、パネル等から構成されるところ、これらの開発は、企画を中心とした調整や、規制や機材の限界から来る調整は必要としても、それぞれ独立して行うことが可能であったし、上記各パチスロ機の開発においても、実際にも相互に調整をとりつつも、独立して行われていたといえる。
     そして、企画は被告アルゼ社屋内で勤務するSNK従業員が立て、これに基づいて被告アルゼ社屋内で勤務するSNK従業員が液晶画面図柄の作成やそのデータ化、サブ基盤プログラムの作成を行い、またSNK大阪本社で勤務するSNK従業員が筐体図柄等を作成した。これらSNKの従業員の給与等は、すべてSNKが負担し、出勤状況や休暇等の勤務面もSNKが管理していた。

     この間、パチスロ機開発の進行状況は、毎月SNK大阪本社に報告されていた。
     被告アルゼ内部でも、SNK従業員らは「SNKパチスロ制作チーム」等と呼称されており、企画書等の文書でもその表記が用いられたり、「SNK」との表記が付されることが多かった。また、SNK大阪本社に対する報告では、開発成果を「商品」と呼び、これを被告アルゼに「引き渡」すとの表現が用いられ、SNK大阪本社のデザイン制作室から被告アルゼへの筐体図柄等の提出時には、SNK名義の納品書が作成された。
     そして、「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、「
SNK」との文字列や、登場人物の服にSNKが商標権を有していたネオジオポケットのマークが入れられた。
   イ 以上の諸事情に照らせば、上記各パチスロ機の開発態様としては、被告アルゼの開発に、SNK従業員が参加して、被告アルゼの指揮下で作業を行っていたというものではなく、被告アルゼとSNKが担当箇所を分担し、共同で開発を行っていたもので、SNKが企画及びサブ基盤部分と筐体等の開発を、被告アルゼが主基盤部分の開発、全体の統括・調整及び発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売を通じた販売を、それぞれ担当していたと評価するのが相当である。

     なお、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側が決定権を持つ場面があったことは認められるが、被告アルゼが全体を統括し、被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売から販売する前提での共同開発とすれば、むしろ当然のことというべきである。
     また、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側の助言や修正の指示があったことは認められるが、上記各パチスロ機は、被告アルゼが開発する主基盤と合わせて制作され、被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社から販売することが前提の開発であり、しかもそれまでSNKはパチスロ機開発の経験に乏しかったのであるから、被告アルゼが全体の統括・調整を担当する共同開発と認めることと矛盾するものではなく、被告アルゼ側の助言や修正指示への具体的対処も、すべてSNK従業員において行ったものであるから、被告アルゼ側の助言や修正指示も、全体統括・調整の域を出るものとは認めがたい。

     さらに、開発作業は、被告アルゼの社屋の、入退室が厳重に管理された部屋で、被告アルゼ側が準備した機材等を用いて行われているが、パチスロ機開発に営業上の秘密が伴うこと(証人E)に照らせば、これも上記開発のような共同開発であることと矛盾するものではない。
     しかも、被告アルゼ自身が、平成13年4月に至って、SNKに対して、パチスロ機の液晶部及び筐体部の開発を委託する旨の開発委託基本契約の締結を求めていることは、被告アルゼの認識においても、上記パチスロ機の開発が被告アルゼとSNKとの共同開発であったことを物語るものというべきである。
     被告らは、被告アルゼ社屋内で勤務していたSNK従業員は、SNKから被告アルゼに出向して被告アルゼの指揮管理下にあったものと主張するが、前記のとおり、SNKがその給与等を負担し、勤務面を管理し、その活動の報告を月報として受けていたことに照らせば、SNKや被告アルゼの作成した文書に「出向」又は「派遣」といった文言があるにしても、その実態として被告アルゼの指揮管理下にあったものとはいえない。

     なお、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、被告アルゼの従業員が作成したキャラクター図柄も1種類用いられているが、これは、証人Eの証言によれば、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄の開発に被告アルゼの従業員が参加したというものではなく、別のパチスロ機に用いるために作成したキャラクターの図柄を流用して、顧客の注目を引こうとして、ほんの一部入れたものにすぎないと認められるから、上記の開発態様の認定を左右するものではない。
   ウ 以上のとおりであるから、上記パチスロ機の開発は、態様としては被告アルゼとSNKが、開発部分を分担して行った共同開発であったというべきである。
     そして、液晶画像図柄や筐体図柄等は、主基盤等の開発と独立して作成され、これらの作成に当たったのはSNK従業員であったことは、前述のとおりである。

  (2) そして、前記1(5)で認定したとおり、SNKは、平成12年12月ころ及び平成13年1月ころに、被告アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを前提とした文書を提出していることに照らせば、SNKは、被告アルゼに対し、著作権使用許諾料を含めた開発委託費の支払を期待していたことを推認することができ、SNKとして、そこから収益を得るためにパチスロ機の共同開発に参加していたものと認めることができるから、SNKは、これをSNK自身の事業として行っていたものであるということができる。
    これらの事情に照らせば、本件著作物の作成は、SNKの従業員が、SNKの発意に基づき、SNKの職務の中で行ったものと認めるのが相当である。
  (3) 次に、SNK従業員が本件各著作物を作成する際に、SNKは自己の名義でこれらを公表する予定であったか否かについて検討する。

    (1)のとおり、上記パチスロ機は被告アルゼとSNKの共同開発なのであるから、公表時にSNKの名義を入れて公表することは十分にあり得ることである。
    実際に、上記パチスロ機に先立って開発されたパチスロ機「サムライスピリッツ」では、そこで用いたキャラクターが従前からSNKが販売していたゲームで用いていたキャラクターであったという事情があるとはいえ、SNKの名義も入れた形式で販売されたことが認められる(証人E、乙15、弁論の全趣旨)。
    そして、パチスロ機「IRE−GUI」では、液晶画像中に「
SNK2001」と表示して、SNKの名義を明示して公表しているし、液晶画像の人物の服にSNKが商標権を有していたネオジオポケットのマークも表示されている。
    これらの事情に照らせば、本件各著作物の作成時に、SNKは自己の名義をもってこれらを公表する予定であったと認めることができる。

  (4) 以上のとおりであるから、本件各著作物はいずれも著作権法15条にいうSNKの職務著作に該当するというべきであり、その著作権は原始的にSNKに帰属したものということができる。
 4 争点(3)(著作権の譲渡)について
  (1) 本件譲渡契約書(甲A10の1)について検討するに、その第1条は、「甲〔SNK破産管財人L〕は別紙目録に掲げる知的財産権(以下『本件知的財産権』という。)を乙〔原告〕に譲渡する。」と記載され、同契約書の別紙目録には表が添付されている。そして、当該表には、本件各著作権等はいずれも記載されていない。
    しかし、上記の本件譲渡契約書別紙目録添付の表を更に詳しく検討すると、ここには登録され、あるいは登録を出願している知的財産権しか記載されておらず、一方、登録されておらず、登録の申請もされていない著作権については全く記載されていないことが認められる。

    ところで、本件譲渡契約は、SNK破産管財人による破産財団の換価の一環として行われたものであることはSNK破産管財人の裁判所に対する本件譲渡契約締結の許可申請書及び裁判所の許可決定書正本(甲A11)の記載から明らかであるが、破産財団の換価という観点からみれば、知的財産権を登録され、あるいは登録を出願しているものと、そうでないものとに分割して譲渡するのは、特段の事情がない限り利点に乏しく、本件で提出された全証拠によっても、そのような特段の事情は見当たらない。しかも、SNKはゲームソフトの開発、製造、販売等を業としており、本件譲渡契約書別紙目録添付の表にも、ゲームソフトに関連する商標権が含まれているところ(甲A10の1、2)、ゲームソフト中に用いられる著作物の著作権を商標権と分離して破産財団に留保することは、商標権の換価方法としても、著作権の換価方法としても不合理であるという他はない。
    そして、著作権は、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権と異なり、創作によって発生し、登録は権利行使の要件でもなく、登録を受けることはむしろ例外に属する。
    また、SNK破産管財人は、SNKの再生手続廃止決定に続く管理命令に基づく管財人の当時、SNKの知的財産権の一括譲渡を数社に打診し、その中で最高価の申し出をした原告との間で本件譲渡契約を締結したという経緯があるが(甲A11)、上記打診の書面(甲A28)には、「知的財産権の一括譲渡先を探して」おり、その検討を求める旨記載されている。
    これらの事実関係に照らせば、本件譲渡契約の解釈としては、未登録の著作権については、その特定が未登録であるが故に煩瑣であったために、表に記載しなかったものの、これについても同時に譲渡する趣旨であったものと解するのが相当であり、SNK破産管財人と原告との間の覚書(甲A10の2、3、甲D27の3)もこれを裏付けるものというべきである。

  (2) 次に、本件譲渡契約締結にかかる裁判所の許可について検討する。
    SNK破産管財人が裁判所に提出した本件譲渡契約締結の許可申請書(甲A11)には、「許可を求める事項」として「株式会社プレイモア(原告)との間で、別紙知的財産権譲渡契約を締結し、金2億1000万円で知的財産権を一括譲渡すること」と記載され、別紙として本件譲渡契約書と同一の書面が付されている。
    しかし、前述のとおり、SNK破産財団に属する知的財産権の換価に当たって、未登録の著作権を留保し、その余の知的財産権のみを譲渡する理由に乏しいこと、許可申請書に、破産財団に属する知的財産を一括譲渡する旨記載されていることに照らせば、裁判所としても、別表に記載されていない未登録の著作権を含め、SNK破産財団に属する知的財産権を一括して譲渡するという趣旨で本件譲渡契約の締結を許可したものと認めるのが相当である。

  (3) この点、被告らは、破産財団に属する知的財産権について、破産管財人がその詳細を特定せずに一括譲渡することや、裁判所がこれを許可することはあり得ないと主張する。
    しかしながら、権利が多数に及ぶ場合には、詳細にわたる特定をしなくとも、一定の方法によって譲渡の対象となる権利が特定できれば、これをもって譲渡の対象とすることは十分に可能であるし、その際には具体的な権利の一々にまで破産管財人や裁判所の認識が及んでいる必要もないことは当然である。また、多数の権利の詳細な特定と価値査定をする場合には、それ自体に相当程度の時間と費用を要するところ、破産財団の早期換価の要請から、これを省いて一括譲渡の方法を選択することも、破産管財人及び裁判所として合理的な場合もあると解される。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。

    なお、被告らは、原告が本件譲渡契約によって破産管財人に支払った対価に比べて、本件における原告の被告らへの金銭請求の額があまりにも過大であるとも主張する。
    この主張が意味するところは必ずしも明らかではない。しかし、破産財団に属する知的財産権の換価に当たっては、当該知的財産権を譲り受けた者は、その実施や権利行使に相当程度の時間と費用を要し、時として権利行使が不可能になったり困難を伴ったりするなどの各種の危険も負担するのであるから、相当程度の低額による換価をすることは不合理ではないし、本件譲渡契約のように早期の換価を行う場合には尚更である。したがって、被告らの上記主張は採用の限りでない。
  (4) なお、SNKが、「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄の著作権がSNKに帰属していたことは、甲D第20、第21号証、第22号証の1ないし3、第23号証の1ないし4、第24号証の1ないし5によって認めることができる。

  (5) 以上のとおり、本件譲渡契約の対象には本件各著作物等を含む未登録の著作権も含まれており、その趣旨で裁判所も締結を許可したものと認められるから、原告は、本件各著作物等の著作権を有効に譲り受けたものというべきである。
 5 争点(4)(対抗要件)について
  (1) 被告らは、被告アルゼがSNKから本件各著作物等の著作権を譲り受け、あるいは利用許諾を受けていたものである旨主張するので、検討する。
    前記1(5)のとおり、SNKが、平成12年12月ころ及び平成13年1月ころに、被告アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを前提とした文書を提出していること、被告アルゼは、平成13年4月に、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを内容とした契約書案を提示していること、同年7月に、被告アルゼ代理人が、SNK代理人に対し、パチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」の著作権、対価等について協議を申し入れ、これに対してSNK代理人が、被告アルゼ代理人に対し、被告アルゼがSNKに対して著作権使用許諾料を支払うことを内容とする覚書案を提示していること、結局、SNKと被告アルゼとの間で何の合意も支払もされていないことが認められるところである。

    これらの事実に照らせば、SNKは、被告アルゼに対し、一貫して著作権使用許諾料を含めた開発委託費の支払を期待し、その取り決めをするように求め、被告アルゼも、遅くとも平成13年4月には、その取り決めをしていないことを問題として認識するようになっていたことを推認することができる。
    そして、本件全証拠によっても、本件訴訟に至るまで、被告アルゼ自身がパチスロ機「クレイジーレーサー」等のパチスロ機に使用されている図柄の著作権について、SNKから譲渡を受けたり、利用許諾を受けているとの認識をしていたことを窺わせる事情は認められない。
    以上の各事実によれば、SNKは、本件各著作物等の著作権について、将来的に、被告アルゼから受ける対価と引き換えに、被告アルゼに対して譲渡し、あるいは利用を許諾する予定であったものの、結局はその合意に至らなかったと推認できる。したがって、被告アルゼは、本件各著作物等の著作権について、SNKから、譲渡又は利用許諾を受けたとは認められない。

  (2) これに対し、被告らは、本件各著作物等を被告アルゼが使用することが予定されていなければ、液晶ソフトや筐体図柄の開発はあり得なかったなどと主張する。
    確かに、被告らが主張するとおり、本件著作物は被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売から販売されるパチスロ機に用いられるという前提で作成されたものである。しかし、そうであるからといって、本件著作物の作成時に、著作権者であるSNKから被告アルゼへの著作権の譲渡や利用許諾が当然になされたと解する理由にはならない。かえって、被告ら主張の事情の下で、当然に譲渡や利用許諾がなされたものと解するならば、その対価について両者の合意が形成されなくても、被告アルゼは本件著作物を利用することができるということになるが、それでは、SNKが著作権を有することの意義が失われかねず、不合理である。この点についての被告らの主張は、採用することができない。

  (3) なお、被告らは、被告アルゼがSNKに対し多大な経済的利益を供与し、SNKの存立基盤自体がこれに依存していたから、本件各著作物等の対価は、間接的ながら十分に支払われていた旨主張する。
    しかしながら、仮に、被告らの主張を前提としても、被告アルゼによるSNKへの経済的利益供与と本件各著作物等の利用とを対価関係に立たせるとの合意は、明示的にも黙示的にも存在していたとは認められない。また、SNKの存立基盤が被告アルゼに供与された経済的利益に依存していたとしても、SNKの発行済み全株式を所有していたわけではなく、発行済み株式総数の50.88パーセントを所有していたにすぎない被告アルゼが、SNKの事業の成果を無償で利用することができる理由にはなり得ない。
    そもそも、前記1(1)、(5)で認定したとおり、SNKは、平成12年から平成13年当時は再建の途上にあり、被告アルゼに対しても30億円の負債を有し、再建のために、被告アルゼから受けるパチスロ機「クレイジーレーサー」や「IRE−GUI」の開発費や販売ロイヤリティーを期待していたのであるから、SNKが被告アルゼに対して、本件各著作物等を無償で使用させたり、被告らが主張するような被告アルゼからの経済的利益をもってその対価とする意思がなかったことは明らかである。

  (4) 以上のとおりであるから、被告らが主張するような、本件各著作物等の著作権についてのSNKから被告アルゼに対する譲渡や利用許諾があったとは認めることはできない。
    したがって、被告アルゼと原告が対抗関係に立つという被告らの主張は理由がない。
 6 争点(5)(複製ないし翻案)について
  (1) パチスロ機「クレイジーレーサーR」について
    パチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄は、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一であることは当事者間に争いがないから、同図柄を複製したものと認められる。また、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネルの図柄(別紙図柄目録A2)は、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが作成した図柄(別紙図柄目録A1)の着色を変えた以外は同一であることも当事者間に争いがないから、やはり同図柄を複製したものと認められる。

  (2) パチスロ機「爆釣」について
    証人Aの証言及び甲A第45号証によれば、パチスロ機「爆釣」の液晶画像図柄には、パチスロ機「IRE−GUI」のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一のものや、一部を変更したものが用いられており、一部変更した内容は原告主張の程度にとどまり、「IRE−GUI」の登場キャラクターのほとんどがそのまま使用されていることが認められるから、同図柄を複製ないし翻案したものと認められる。また、甲A第65号証、甲B第19号証によれば、パチスロ機「爆釣」の筐体図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2)は、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一であることが認められるから、同図柄を複製したものと認められる。
  (3) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」について

   ア ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」には、隠し機種として「クレイジーレーサーR」が収録され、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の動作をシミュレートすることができるようになっており、その際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示され、また、「クレイジーレーサーR」の筐体前面の全体図が表示されて、筐体腰部パネル図柄(別紙図柄目録C8)が現れる場面もある(前記第2の2の「前提となる事実」(3)オ)。弁論の全趣旨によれば、上記ソフトウエア中の画像データはパチスロ機「クレイジーレーサーR」の画像データがそのまま使用されているものと認められるから、前記(1)で述べたところに照らして、同ソフトウエアの画像図柄は「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像図柄を複製したものであるというべきであり、また、筐体腰部パネル図柄は「クレイジーレーサー」のそれを複製したものというべきである。
   イ 「パチスロ アルゼ王国6」中の「隠しムービー」について
    甲A第8号証の1ないし10、第9、第14号証、甲C第24号証の1ないし5によれば、「隠しムービー」において表示される人物等キャラクターの画像図柄は、パチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄と比較すると、主人公に相当するキャラクターの顔が動物的ではなく、ほとんど人間に近いものであること、各キャラクターの図柄が、パチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄では特徴点が相当に強調されているのに対し、「隠しムービー」の図柄ではさほどの強調がされていないこと、乗り物の車体の形状が異なるといった相違点があることが認められる。
     しかし、上記証拠によれば、登場する人物等キャラクターのうち、1名はひさしのある帽子をかぶり、耳当てを付け、1名はショートヘアーで頭頂部付近からうさぎのような長く突き出た耳を持ち、1名は首輪を付け、腕に炎の模様のある擬人化されたゴリラ様であり、1名は頭頂部に長く伸びた羽を持ち、大きな嘴に眼鏡をかけ、羽が手のようになったオウム様であり、1名はハイエナ様であるというように、各キャラクターの特徴が一致していることが認められ、これに加えて、「隠しムービー」自体が、「パチスロ アルゼ王国6」の中で、もっぱら「クレイジーレーサーR」の導入画像として用いられ、そこにパチスロ機「クレイジーレーサーR」のキャラクターと関係のないキャラクターの画像を表示しても意味がないことを考慮すれば、「隠しムービー」において表示される人物等キャラクターの画像は、パチスロ機「クレイジーレーサーR」のキャラクターを示すものとして、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄に依拠して、その本質的な特徴を感得できるようにして作成されたものと認めることができる。また、「隠しムービー」内には、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネル図柄が表示される場面があるが、これも、前記(1)で述べたところに照らして、「クレイジーレーサー」の筐体腰部パネル図柄を複製したものというべきである。
     したがって、これらも、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが作成した図柄を複製ないし翻案したものと認められる。
  (4) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」について
    ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」には、ゲームとして「バクチョウ」が収録され、パチスロ機「爆釣」の動作をシミュレートすることができるようになっており、その際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示され、また、同ソフトウエアにおいて、同機の筐体前面の全体図が表示される場面がある(前記第2の2の「前提となる事実」(3)カ)。弁論の全趣旨によれば、上記ソフトウエア中の画像データはパチスロ機「爆釣」の画像データがそのまま使用されているものと認められるから、前記(2)で述べたところに照らして、同ソフトウエアの画像図柄はパチスロ機「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像図柄を複製ないし翻案したものであるというべきであり、また、筐体図柄は「爆釣」のそれを複製したものというべきである。

  (5) パチスロ機「IRE−GUI」について
    証人Aの証言及び甲第45号証によれば、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄(別紙図柄目録D5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1ないし3)には、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一のものが用いられていることが認められるから、同図柄を複製したものと認められる。また、証人Eの証言及び甲D第16号証の1、2、第17号証の1、2、第18、第19号証、第21号証、第22号証の1ないし3、第23号証の1ないし4、第24号証の1ないし5によれば、同機の液晶画面図柄には、「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄が、キャラクターとしての特徴を感得できる態様で改変して用いられており、翻案したものと認められる。さらに、甲A第65号証、甲B第4号証、甲D第33号証によれば、同機の筐体図柄(別紙図柄目録E1ないし3、4の1・2)は、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一であることが認められるから、同図柄を複製したものと認められる。

 7 争点(6)(類似商標の使用)について
  (1) 本件商標と別紙標章目録1ないし3記載の標章との類似性について
   ア 別紙標章目録1記載の標章は、「クレイジーレーサー」の文字からなる標章と「R」の文字からなる標章から構成されているところ、同各標章は片仮名とローマ字の違いにより両部分に区別され、「R」の標章のみでは識別力を有しないから、「クレイジーレーサー」の部分が要部であるというべきである。本件商標の「クレージレーサー」と「クレイジーレーサー」を比較すれば、以下のとおり、称呼、外観、観念とも類似するというべきである。
     すなわち、@ 称呼については、「クレイジーレーサー」には3文字目に「イ」の文字が入っているのに対して「クレージレーサー」にはこれがないこと、「クレイジーレーサー」には2文字目の「レ」が短音、4文字目の「ジ」が長音であるのに対して、「クレージレーサー」ではこれらに対応する2文字目の「レ」が長音、4文字目の「ジ」が短音であるという相違点がある。しかし、前者については、比較的長い称呼を有し、一方が1音だけ多く、他は同一の場合に該当する上、「レー」と「レイ」では実際の音も大きく離れたものではないから、類似するというべきである。後者については、長音と短音の差にすぎないものであるし、2文字目の「レ」については、「クレイジーレーサー」ではその次に「イ」が続き、上記のとおり「レー」と「レイ」では実際の音も大きく離れたものではないから、これらも類似するというべきである。A 外観については、両者とも横書きのゴシック体の片仮名であり、使われている文字も「イ」の有無を除いて同一であるから、これらは類似するというべきである。B 観念については、「クレージ」も「クレイジー」も容易に英語の「crazy」を想起させ、「熱狂的な」などの意義を有することは一般人に広く知られており、「レーサー」は「競走者」という意味を持つことは広く知られているから、両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有するのであり、同一の観念を想起させるものとして類似するというべきである。
     以上のとおり、本件商標の「クレージレーサー」と別紙標章目録1記載の標章は、類似するというべきである。
   イ 本件商標の「CRAZYRACER」と別紙標章目録2記載の標章を比較すると、@ 称呼については、いずれも「クレイジーレーサー」という同じ称呼を生じ、A 外観については、同じローマ字を横書きにしたという限度で類似し、B 観念については、前記アBと同様に、両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有し、同一の観念を想起させるものとして類似する。したがって、これらも類似するというべきである。

   ウ 別紙標章目録3記載の標章は、書く文字の太さと横幅が別紙標章目録1記載の標章と若干相異するものの、その他はこれと同一であるから、前記アと同様の理由で本件商標の「クレージレーサー」と類似するというべきである。
  (2) 「パチスロ アルゼ王国6」にかかる商標としての使用の有無について
   ア ガイドブックでの使用について
     前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、被告アルゼが作成したパチスロ機「クレイジーレーサーR」のガイドブックには、その裏表紙に「パチスロ アルゼ王国6」の広告が掲載されており、また、同ソフトウエアには「クレイジーレーサーR」が収録されている。しかし、同ガイドブックの配布時にその情報が流布されていたとしても、同ガイドブック自体は、ゲームソフト中のゲームの「クレイジーレーサーR」に関するものではなく、パチスロ機の「クレイジーレーサーR」に関するものであるから、直ちに同ソフトウエアの広告を兼ねたものとなる理由にはならない。パチスロ機「クレイジーレーサーR」のガイドブックに「クレイジーレーサーR」との標章を付することは、被告アルゼ主張のとおり当然であり、他に当該ガイドブックが同ソフトウエアの広告としての性質を有することや、これに別紙標章目録1記載の標章を付すことが同ソフトウエアの広告に標章を付すことに当たることを認めるに足りる事情はない。

     したがって、この点についての原告の主張は、採用することができない。
   イ ゲーム情報サイト「eg」の記事掲載について
     前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、インターネット上のゲーム情報サイト「eg」に、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現情報!」との記事が掲載されたものであるが、同記事の掲載は、NTT出版株式会社が開設するインターネットのサイトになされたものであり、同記事の掲載行為の主体は同会社であるというべきところ、本件全証拠によっても、被告アルゼが関与したことを認めるに足りない。
     したがって、この点についての原告の主張も、採用することができない。
   ウ 被告アルゼの自社サイトの記事について
     前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、被告アルゼは、インターネット上の自社のホームページに、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」として、ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」に「クレイジーレーサーR」が収録されていること、それが遊戯可能となる前に「隠しムービー」が表示される旨の文書を掲示したものである。そして、上記記事は、一般の閲覧者が閲覧することが可能な状態で掲載されていることに照らせば、被告アルゼが主張するような既に購入した消費者に対する商品添付の説明書に記載していない情報の提供にとどまらず、この記事によって「パチスロ アルゼ王国6」の購入を検討し、決定する消費者もいることが考えられるから、同ソフトウエアの広告に該当するものと認められる。

     したがって、同記事に別紙標章目録3記載の標章を付することは、本件商標に類似する標章を広告に付して使用することに当たるというべきである。
   エ 「隠しムービー」での使用について
     前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」の「隠しムービー」内には、別紙標章目録2の標章が表示される場面がある。
     これについて、被告アルゼは、「隠しムービー」には標章が付されているとはいえず、また、「隠しムービー」中に表示される上記標章は同ソフトウエアについて商品識別機能を果たす態様で使用されていないから商標としての使用に該当しないと主張する。
     そこで検討するに、ソフトウエアは、一般に、その記憶媒体のいかんにかかわらず、プログラム自体が商品の本質をなすという特質を有するものである。そして、ソフトウエアを実行した場合にその導入部で表示される標章は、需要者に認識され、出所識別機能を果たすものであるから、商標として使用されているというべきであり、これをプログラムに組み込むことも、商品に標章を付することに当たるというべきものである。

     本件についてみると、「パチスロ アルゼ王国6」の「隠しムービー」で表示される標章も、上記の趣旨に照らして商標として使用され、同ソフトウエアに付されていると認めることができる。
     したがって、同ソフトウエアの「隠しムービー」で別紙標章目録2記載の標章が表示されるように同ソフトウエアに組み込むことは、本件商標に類似する標章を商品に付して使用することに当たるというべきである。
 8 争点(7)(本件商標の登録無効理由)について
  (1) 前記1(1)のとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」は、当初からメーシー販売から販売する予定であったことが認められる。
    しかしながら、前記3のとおり、SNKは、同機のサブ基盤のプログラム開発及び筐体腰部パネルのデザインを、自らの事業として行っていたこと、同機の販売の際に、開発者の名義として自社の名義を表示することも予定していたことが認められる。そうすると、同機はSNKにとっても、自己の業務に係る商品であるということができる。

    しかも、本件商標の登録出願当時、SNKは被告アルゼの子会社であり、メーシー販売らと共に被告アルゼの企業グループに属していたところ、一般に、親子会社のような企業グループ間では、必ずしも商標権者自身が当該商標を使用しなくとも、同じグループの他の企業が当該商標を使用するのであれば、商標法にいう商標を自己の業務に係る商品について使用するとの要件を欠くものではないというべきである。
    以上のとおりであるから、いずれにしても、本件商標について、登録出願当時、SNKが自己の業務にかかる商品について使用する予定がなかったとまで認めることはできない。
    したがって、本件商標の登録に被告アルゼが主張するような無効理由が存在することが明らかであるとはいえない。
  (2) 被告アルゼは、第12回口頭弁論期日に陳述した平成15年9月8日付け準備書面において、本件商標の登録無効理由に関し、争点(7)の被告アルゼの主張欄後段記載のような主張を新たに行った。

    ところで、本件の訴訟経過をみると、甲ないし戊事件は、平成14年2月28日から同年10月28日にかけて提訴され、順次併合して審理を進めてきたものであるが、平成15年3月13日の第9回口頭弁論期日において、次回口頭弁論期日において双方の主要な主張が揃うとの前提で双方当事者に人証の申請を促し、同年4月25日の第10回口頭弁論期日において、それまでに当事者双方から提出された主張と書証を基に、人証として証人2名を採用し、同年7月17日の第11回口頭弁論期日において証人2名を尋問した上、第12回口頭弁論期日として同年9月11日を指定して、同期日で侵害論についての審理を終結する予定としていた。すなわち、同年7月17日の第11回口頭弁論期日以降においては、補充的な主張や相手方当事者の主張に対する反論はともかく、新たな主張を追加するということはないという前提で審理を進めていたものである。
    しかるに、被告アルゼは、同年9月8日付け被告ら準備書面において、原告からの商標権侵害を理由とする請求に対し、それまで提出していなかった抗弁を新たに記載し、これを同月11日の第12回口頭弁論期日で陳述した。
    被告アルゼが提出した上記新たな主張は、その内容からすると、被告アルゼにおいて新たに知り得た事実に基づくものとは認められず、また、上記の訴訟経過に照らすと、遅くとも第10回口頭弁論期日までに提出することができ、かつ、提出すべきものであったというべきであり、その提出が第12回口頭弁論期日に至ったのは、被告アルゼの故意又は重大な過失によるものというべきである。
    そして、上記主張の当否について審理をするならば、原告においてこれに反論する必要が生じ、その主張内容によっては双方当事者において事実立証のために証拠を提出する必要が生じると解されるから、第12回口頭弁論期日において侵害論についての審理を終結することができなくなり、侵害論の審理のためにさらに期日を要し、ひいては訴訟の完結を遅延させることとなると認められる。

    以上のとおり、被告アルゼが第12回口頭弁論期日において提出した上記新たな主張は、被告アルゼの故意又は重大な過失により時機に後れて提出されたものであり、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められるものであるから、民事訴訟法157条1項を適用して職権で却下することとする。
 9 争点(8)(本件商標権行使と権利濫用等)について
  (1) 前記のとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」は、当初からメーシー販売から販売する予定であったことが認められる。
    しかしながら、これも前記1(1)で認定したとおり、同機の液晶ソフトの演出を含めた企画は、SNK従業員によって立案され、その演出の主要部分をなす液晶画像図柄も、SNK従業員によって作成されたものであることが認められるところ、パチスロ機のタイトルである「クレイジーレーサー」も、この企画の当初から仮タイトルとして付されていたものであり、演出や液晶画像図柄と容易に切り離し得る性質のものではない。

    そして、前記3で認定したとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」の企画立案や液晶部分のプラグラムの作成がSNKの事業として行われたものであり、液晶画像図柄や筐体腰部パネル図柄の著作権も原始的にSNKに帰属することが認められることに鑑みれば、そのタイトルをSNKにおいて商標登録することも、その商標権を被告アルゼに対して行使することも、これを権利濫用ということはできない。
    したがって、この点についての被告アルゼの主張は理由がない。
  (2) 被告アルゼは、第12回口頭弁論期日に陳述した平成15年9月8日付け準備書面において、本件商標権行使が権利濫用であること及び権利行使が制限されることに関し、争点(8)の被告アルゼの主張欄後段記載のような主張を新たに行った。しかし、この新主張についても、前記8(2)で述べたことがそのまま当てはまるから、被告アルゼの故意又は重大な過失により時機に後れて提出されたものであり、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められるものであるから、民事訴訟法157条1項を適用して職権で却下することとする。

 10 結論
   以上のとおりであるから、甲事件ないし戊事件において、被告アルゼ又は被告らは、主文掲記の限度で、原告の有する著作権及び商標権を侵害するものである。してみれば、今後、上記判断を前提として、損害額及び差止め等の必要性について審理をする必要がある。
   よって、主文のとおり中間判決する。


      大阪地方裁判所第21民事部

          裁判長裁判官   小  松  一  雄


             裁判官   田  中  秀  幸


             裁判官   守  山  修  生



(別紙)
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